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エントロピーから環境問題を見る――物質循環と スカベンジャー

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エントロピーから環境問題を見る――物質循環と スカベンジャー
http://csspcat8.ses.usp.ac.jp/ses/kyouin/shakei/ide/gei.html
地球環境特論
井手慎司
大する).人間の活動もまた,発エネルギー(熱)活
動.→地球は一歩,一歩,熱地獄(熱死)への道を
たどっている.
・化石燃料を燃やすことは「時間どろぼう」(「モモ」
ミヒャエル・エンデ作)
3.エントロピーから環境問題を見る――物質循環と
スカベンジャー
「生きる」=「食って」「出して」「増える」こと
物質の循環(炭素サイクル)
・糖からお酒.酵母にとっての迷惑(吟醸香),漬け物
B

A 
C
Energy
のうまみ( CH3CH(OH)COOH ).ビールやシャンペ
ンの泡.お酒からお酢.お酢からメタン.
食べ物
成長・増殖(同化) 排泄(異化)
(資源)
(人口増)
(汚染)
(エネルギー) ・生命とは,太陽光がもたらすネゲントロピーに依っ
てはじめてその生存が可能となっている存在.
・排泄物は「毒」だ.
・微生物にとって,死滅には大きく二つのシナリオが
・生命と環境との基本的相互作用(食べる-排泄する)
ある.食べ物が枯渇したときと,自らの排泄物(汚
「従属栄養」(⇔「独立栄養」)
物)に埋没したとき.
・生命は「原始のスープ」1から誕生した.
・共 生 ( symbiosis ) の 意 味 .「 ス カ ベ ン ジ ャ ー
・生体内でも起こっているのは純然たる化学反応.
Scavenger」の存在によって自然界における物質の持
・「同化 assimilation」と「異化 dissimilation」.
続的,かつ完結した「循環」が可能となる.→循環
が崩れたとき,大量絶滅が.循環の時間的,空間的
エントロピーは増大する
範囲.太陽が循環を回す.
・「熱力学の第2法則」(「熱」現象の不可逆性の法則)
・スモーキーマウンテンの子どもたち.
→化学→自然界の生命体と環境との相互作用がどう
いう方向に進むかを規定する.
女性のお化粧(お化粧とは文字通り「化け学」)
・「エントロピー増大の原理」
・「すっぴん→化粧」と「化粧→すっぴん」の進みや
[ A(成長・増殖)][C(排泄物)]
すさ.「秩序」の構築と崩壊.
 log
・反応の方向性を説明する熱力学の第二法則.
[B(食べ物)]
・自発的変化方向は,状況によって異なる.
([] は,内部の物質の濃度)
・すべての状況を「エントロピーが増大する方向へ向
かっている」という一言で片づける.
上式に関して,反応は必ず式全体がプラスになる方向
反応物
生成物
に(自発的に)進行する.
(1)「食べ物」濃度が「同化」された物質(生命体の成
長・増殖分)濃度や「異化」された物質(排泄物)濃
度より高ければ高いほど,生命は良好に成長・増殖を
行い,生きるためのエネルギーを獲得することができ
る.
(2)逆に,「同化」された物質(生命体の成長増殖分)
濃度や「異化」された物質(排泄物)濃度が「食べ物」
濃度がより高ければ,微生物は他からのエネルギー供
給がない限り,成長・増殖,生命維持のためのエネル
ギーを獲得することが難しい.
「エントロピー入門」杉本大一郎,中公新書
人間の活動
資源 (B)  人口増 ( A)  汚染 (C)  Energy
「資源」量が「人口増」や「汚染」にくらべて十分で
あるときは,人間活動は円滑(自発的)に進む.しか
し,「資源」が枯渇したり,「人口」が多くなりすぎた
り,「汚染」が深刻になりすぎると,外部からのエネル
ギー補給がないかぎり,活動が円滑に進まない.後者
が現在の地球(環境)の姿.「資源」
「人口」
「汚染」に
「エネルギー」を加えた四者の関係を考えることが環
境問題の基本.
エネルギー問題
・生命の対環境の活動の基本は,発エネルギー(エネ
ルギー獲得のための)反応(エントロピーは常に増
1
「原始のスープ primitive soup/primordial soup」J.B.S.
ホールデンの命名による.
図
6
地球上の炭素,窒素,硫黄サイクル
http://csspcat8.ses.usp.ac.jp/ses/kyouin/shakei/ide/gei.html
・「人類による自然の支配」→「アニミズムの否定」
=「もののけ姫2」の構図(「シシ神の山」対「タタ
ラ3場」)
4.環境史:「もののけ姫」から「風の谷のナウシカ」
まで
21 世紀はリスク社会 Risk Society に――
リスクとペリル(「リスク」の定義)
"hazard": 危険性を生じさせるモノ(原因).物理的
(physical),道徳的(moral),士気的(morale)に
分類される
"risk" : 事故発生の可能性
"peril" : 火災,爆発,風水災,等
"loss" : 損失
リン・ホワイト Jr.は,「『旧約聖書-創世記4』が人間
2
「もののけ姫」を観て(01/05/98)
遅れ馳せながら「もののけ姫」を観てきました(子供のお
供で,「アンパンマン」といっしょに).うーん,ウワサ通り
のすばらしい作品ですね.感動しました.
特に,
「シシ神の山」に象徴される「自然」への対局として,
「タタラ場(製鉄場)」をもってきた舞台設定は,秀逸としか
言いようがありません.人類による森林破壊を加速し,決定
的としたのが「鉄」の出現であることは,多くの研究者が認
めているところであります.人間が「鉄」を手に入れたとき,
人と自然との「睦(むつみ)の時代」はおわりました.その
時から自然に対する人類の容赦のない搾取の歴史が始まった
のです.
「風の谷のナウシカ」が人類の未来,すなわち自然を破壊し
尽くした人類の究極の姿(エピローグ)を描いた作品だった
とすれば,この「もののけ姫」は,その始まり(プロローグ)
を物語ったものだと言えます.
「風の谷のナウシカ」によって
人類に警鐘を鳴らした宮崎駿が「……ではなぜ,人類は自然
からの逆襲(腐海『ふかい』からの瘴気や王蟲『おうむ』
)に
おびえなければならなくなったのか,その始まりは」という
自問への応えとして創りあげた作品が「もののけ姫」ではな
いのでしょうか.
私には「風の谷のナウシカ」という未来篇から始まった宮
崎駿版の「火の鳥」が,
「もののけ姫」という室町篇(「もの
のけ姫」の時代設定は室町時代だそうです)によって完結を
みた,そんな気がしてならないのです.手塚治虫の「火の鳥」
に宮崎駿の世界をダブらせて見るのは私だけでしょうか.
……
「アシタカは好きだ.でも人間を許すことはできない」(解決
がつかないままにアシタカに刺さったトゲ――宮崎駿)
「そ
れでもイイ.サンは森で私はタタラ場で暮らそう.共に生き
よう」
hazard risk
 peril ( loss)
「障害」を発見し「ペリル」の発生を予見したとき,
人はハザードのペリル化をおそれて(リスク認知),そ
れを回避しようとする.このとき行動戦略の基本とな
るのが「リスク"risk"」の最小化である.ここで,
risk   loss i  p i ( p i  probability for event i )
リスクとは負の期待値.ただし,式中の「確率」は,
リスクを最小にしようとする行為のうちで,つまり意
志決定の過程においこそ意味を持つ.例えば,発ガン
性物質の基準値:
「体重 60 kg の成人が 1 日 2 L の水を
70 年間,飲み続けたとしても,ガンになる人が 10 万
人に 1 人増える」.
「リスク」問題(母集団全体にとって確率統計的にリ
スクを推定できる問題)vs.「不確実性」問題(母集団
全体をとってみても,蓋然性がはっきりしないような
問題)例えば,地球温暖化.
危機管理とリスク管理の違い(玄倉川キャンパー事故
'99)
「風の谷のナウシカ」――ユーラシア大陸の西のはずれに発
生した産業文明は,数百年のうちに全世界に広まり,巨大産
業社会を形成するに至った.大地の富をうばいとり大気をけ
がし生命体をも意のままに造り変える巨大産業文明は,1000
年後に絶頂期に達し,やがて急激な衰退をむかえることにな
った.「火の 7 日間」と呼ばれる戦争によって都市群は有毒
物質をまき散らして崩壊し,複雑高度化した技術体系は失わ
れ,地表のほとんどは不毛の地と化したのである.その後産
業文明は再建されることなく,永いたそがれの時代を人類は
生きることになった(原作前書きより)
:原作のナウシカは月
刊誌アニメージュに連載された(1982 年 2 月号-1994 年 3
月号),宮崎監督唯一の長編漫画.そのテーマは,1)腐海・
王蟲(自然)と人間の対立――腐海を恐れ,憎しみの対象と
する人類.しかし腐海はすべての生命のために,かつて人類
が汚染してしまった自然を浄化するための存在であった,2)
腐海の真相(すべてはプログラムされていた)――その腐海
を造りだしたのは,かつての人類であった.地球浄化再生の
ための生命体システムとして……,3)人類は瘴気を憎みな
がらも,その環境に適応し,清浄な空気にあこがれながらも,
もはやきれいな環境の中では生きられなくなっていた,4)
それらすべてを乗り越え,新たな人類の歴史を切り開こうと
するナウシカ.
3 足で踏んで空気を送る「ふいご」
.タタラ製鉄は砂鉄(チタ
ン磁鉄鉱)に木炭(還元剤)を加え,タタラによって 1200℃
に熱した炉で炭素含有率 0.9-1.8%の玉鋼をつくりだす日本
独特のもの.
4 そこで神が言われた,
「われわれは人をわれわれの像(かた
ち)の通り,われわれに似るように造ろう.彼らに海の魚と,
「リスク(事故発生の可能性)」と「ペリル(事故)」
との違いの曖昧さ
例:わが国の交通事故死亡者数 10,679 名('98).個人の
リストと社会全体としてのペリル.時間単位による違
い.世代毎の人口増加(減少)率 = 99.775%で,人類
(60 億)は 1 万世代(約 30 万年)後に,たった一匹
に.
あきらめの歴史(ハザードを所与として)
いったんペリル化してしまった事態に対して人は……
人間の歴史は一面「あきらめ」の歴史であった.
・狩猟採取生活(約一万年前世界総人口四百万人)→
人口圧(ブッシュマン)→定住農耕社会への移行(農
業革命)
・「農業革命」前後における「森」の位置づけの変容:
森林破壊:狩猟採取時代の「アニミズム」→「じゃ
まモノ」
・森とともに消滅したクレタ島,イースター島文明(花
粉分析より)地中海は死の海(かつてギリシアは森
の国だった)/フルボ酸鉄
・ギルガメッシュ王と森の神フンババとの戦い.レバ
ノンスギを手に入れるための森の神殺し(ギルガメ
ッシュ叙事詩)「環境考古学のすすめ」
7
http://csspcat8.ses.usp.ac.jp/ses/kyouin/shakei/ide/gei.html
に,自然に対する支配権を賦与し,異教としての『ア
ニミズム』を否定したことによって,自然の開発が促
進され,種々の環境問題の萌芽をみることとなった.
現在の地球環境問題の歴史的根元は,この『ユダヤ-
キリスト教的世界観』にある」と唱えた.
代へ責任を転嫁している)にすぎない.偽物の解決策
は「弱者を切り捨てる」.
フリッツ・ハーバーとトーマス・ミッジリーJr.
化学物質の脅威におびえつづけること……それはわた
したちが物質の豊かさを追求することを選んだとき,
同時に甘受しなければならない宿命でもあった.19 世
紀末期から 20 世紀の初頭にかけてその時はおとずれ
た.その時,人類にとってのターニングポイントに登
場した二人の人物,フリッツ・ハーバーとトーマス・
ミッジリーJr..この二人の象徴としての化学者に焦点
をあてて,わたしたちが選んでしまった運命の意味を
もう一度,考えてみよう.
「アニミズム」を駆逐したのは「合理性」という名の
進歩主義であった.宗教教義もまた,時代とともに移
ろう,人々の価値観を写し出す鏡のようなもの.
・青銅器5から鉄器6へ(紀元前 1200 年ごろヒッタイト)
・薪から石炭へ(17 世紀イギリス――化石燃料使用の
始まり――人類が「時間」を盗みはじめた.)(森の
復讐:森を破壊した 17 世紀のヨーロッパ社会を襲っ
たペスト.クマネズミの大繁殖.
)
・新しい「水道文明」
フリッツ・ハーバー「空気からパンを作った」男
塩水の電気分解(食塩電
解)による苛性ソーダ製造
技術が工業化されたのは
1890 年のドイツにおいて
(ドイツにおおい岩塩鉱
の利用として考案された).
(食塩電解法は,「ソルベ
ー法」を駆逐する.)しか
し当時,副産物としての塩
素の使い道は殺菌剤かサ
ラシ粉くらいしかなかっ
た.このことが第一次世界
大戦における毒ガス兵器 9
(塩素,フォスゲン,マス PRITZ HABER (1868-1934)
タードガス)としての使用
につながっていく.塩素大
量消費社会.
飲料水をつくる過程で塩素消毒によってトリハロメタ
ン7などの有機ハロゲン化合物(TOX)が発生.欧米で
は 1974 年から,日本では 80-90 年代前半にかけて問題
化……「塩素処理信仰」の崩壊.オゾン処理への注目.
→沈静化.人々のリスク感の崩壊か?
技術開発によって,そのリスクをかなり低減できるこ
....
とが「わかった」(活性炭とオゾン処理を組み合わせた
高度上水処理によって).家庭用の簡易浄水器の普及.
今や,飲料水はペットボトルで買ってくる「新・水道」
時代.(例:淀川流域最下流から取水の S 市)
トリハロメタン騒動8の根源は?――水道原水の汚染.
例えば現在,騒がれている「環境ホルモン」の問題に
ついても,同様の結果をむかえる可能性がある.「環境
ホルモン」問題の核心は? 「あきらめ」の対処方法?
→問題の真の解決ではなく,問題の先送り(未来の世
これら毒ガス兵器の開発に指導的役割を果たしたのが
ドイツの化学者フリッツ・ハーバー.窒素と水素から
アンモニアを合成するハーバー法の創始者としても名
高い.
天(そら)の鳥と,家畜と,すべての地の獣と,すべての地
の上を這うものとを支配させよう」と.
(創造 イ祭司資料の
創造記 一ノ二六,「旧約聖書 創世記」関根正雄訳,岩波文庫)
5 青銅は銅とスズの合金.
例えば 10 円玉.銅の融点が 1083℃
に対して青銅は 700℃.更に青銅のほうが銅より硬度が高い.
6 鉄は人類が利用している全金属の 90%を占める.当時は隕
鉄から製鉄していた.鉄の融点は 1535℃.
2Fe2O3+3C → 4Fe+3CO2
製鉄には還元剤(C)が必要.
純鉄
錬鉄
鋼
銑鉄
Fe
N 2  3H 2 
2NH 3
ハーバーは,1913 年にハーバー法の工業化に成功,今
日のアンモニア合成工業の先駆をなした(この功績に
より 18 年ノーベル化学賞を授与).この技術によって,
大量の窒素肥料(硫安)が世界中で使用されるように
なる(「空気からパンを作った」男.しかしこのことが
自然の窒素サイクルを狂わし,湖沼や閉鎖性水域の富
栄養化の遠因ともなっていく).さらに合成されたアン
モニアからは硝酸,硝酸から火薬がつくられ,第一次
世界大戦中のドイツ軍を支えることになる.
炭素含有率(%)
0
0-0.03
0.03-2
2 以上
ハーバーはチリ硝石の枯渇から人類を救うためにアン
モニア合成法を開発した.そして祖国ドイツのために
毒ガスを開発した.このため彼は大戦後,戦犯リスト
に名を連ね,一時,スイスに亡命している.
7
トリハロメタンとは,水道水中の発ガン物質(かつ変異原
性物質)とされる微量の有機化合物である.が,ここでいう
トリハロメタンとは,厳密には,有機ハロゲン化合物(TOX)
と呼ばれるべき物質だ.水道水原水中の安定有機成分(アン
モニア性窒素やフミン質,有機溶媒など)が,殺菌用の塩素
として反応することによって生成される.
8 例えば,ペルー政府は 1991 年,水道水中のトリハロメタ
ンの生成を恐れて飲料水の塩素処理をやめてしまったが,そ
の結果コレラの流行を招き,約七千人もの死者を出してしま
った.
毒ガスは 1915 年,ベルギーのイープル地方で行われた「第
2 次イープル戦」において,ドイツ軍によってはじめて使用
された.このときの連合国側の死者は 5000 人,負傷者 10000
人に.そして,ハーバーの最初の妻クララは,この毒ガス兵
器の使用に抗議して自らの命を絶つ.
9
8
http://csspcat8.ses.usp.ac.jp/ses/kyouin/shakei/ide/gei.html
その後,戦犯リストからはずれたことで帰国,連合国
側の疑惑から身をかわすために,殺虫剤(もちろん有
機塩素系殺虫剤)を製造する会社を設立,巨万の富を
える.その間も,祖国ドイツを大戦後の国家賠償から
救うために海水から金を抽出する研究に没頭する.
運命にもてあそばれた男
しかしそんなハーバーの晩年を待ちうけていたのはナ
チスによる公職追放であった(1933 年).彼はユダヤ
系ドイツ人だった.このとき彼をふくめて 9 名のノー
ベル賞受賞者がドイツから追放されている.
イギリスに亡命したハーバー,しかし,亡命した同僚
のユダヤ系科学者を暖かく迎えいれたアーネスト・ラ
ザフォード(原子物理学の父,1871-1937)もハーバー
にだけは握手をもとめることはなかった.
1934 年,休暇中のスイス,バーゼルでハーバー永眠,
心臓発作であった.
同じく 70 年代,世界各地で自動車排気ガスによる鉛公
害が問題となる.たとえば日本では,70 年に東京都新
宿区牛込柳町交差点周辺における自動車排出ガスによ
る鉛公害が問題(これが契機)となり,75 年,レギュ
ラーガソリンへの鉛の添加が廃止されている.
しかし彼の運命の皮肉はつづく.第二次大戦中,彼の
同朋ユダヤ人を大量に殺戮していく毒ガス Zyklon B
を製造しつづけたのは,彼のおこした殺虫剤会社であ
った.
「奇蹟の物質」フロン10をつくった男
ジェネラルモータース(GM)社の技師トーマス・ミ
ッジリーJr.(1889-1944)は,1922 年,ガソリンのオク
タン価(アンチノックス性の指数)を高めるための四
エチル鉛の添加を考案する.彼はさらに 28 年には電気
冷蔵庫の冷媒(アンモニアや二酸化硫黄の代替ガス)
としてフロンを開発している.
「新しい問題とは,たまたま何かが失敗した結果から
生じるものではない.技術的成功の結果おこるものな
のである」(「スモール イズ ビューティフル」E.F.シ
ューマッハー).
「地獄への道は善意で敷き詰められている」
"The Road to Hell is paved with good intentions."
ミッジリーについては 30 年,アメリカ化学学会の席上,
フロンガスがいかに無害・無毒であるかを示すために,
フロンガスを吸い込み,ローソクの炎を吹き消して見
せたという逸話が残っている.翌 31 年,ジェネラルモ
ータース社とデュポン社の合弁会社によるフロンの商
業生産(商品名" Freon ")が開始される.
ミッジリーは 1944 年に亡くなっている.彼の最期は,
ハーバーとは対照的に,有鉛ガソリンの考案者として,
またフロンガスの開発者として,アメリカ最大の化学
者(アメリカ化学学会会長)として,栄光のうちにそ
の生涯を終えている.
しかし,それから約 30 年後(1970 年),J.E.ラヴロッ
クによって大気中のフロンがはじめて検出され(ラヴ
ロックはこれを自らが開発した電子捕獲型ガスクロマ
トグラフ検出器(ECD)の性能検証としておこなった),
74 年には,シガン大シセロン博士が成層圏の塩素原子
が強力なオゾン破壊物質である可能性を指摘,続いて,
カリフォルニア大ローランド教授およびモリーナ博士
が,フロンガスが成層圏に達して分解され,塩素原子
を放出,この塩素原子がオゾン層を破壊しているとの
仮説を発表した.→オゾン層保護(ウィーン)条約('85),
モントリオール議定書('87)
,ロンドン改正('90).
「フロン」という言葉は 1937 年,日本で初めてこの物質
の合成に成功した大阪金属工業株式会社(現ダイキン工業株
式会社)の登録商品で完全な和製英語.
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