...

Intel ISEF 2010 ハイライト

by user

on
Category: Documents
14

views

Report

Comments

Transcript

Intel ISEF 2010 ハイライト
主催: Society for Science & the Public
参加者のプロフィール
2010 年のファイナリストたちが取り組んでいる課題
Intel ISEF 2010 の参加者は、17 の科学技術分野で競い合い、高い評価を受けている審査員の前で独自の研究を発表
しました。彼らは、エネルギー、交通、環境科学、薬学、健康科学、化学、および行動社会科学のような分野において、科
学の原理に対する理解だけでなく、思考力と創造性を披露しました。
Intel ISEF 2010 のイノベーターを何人か紹介します。
Hoi Ming Chu (中国)
Chu は、バイオ燃料であるセルロース系エタノールを、廃棄されたおがくずを使って製造できないか研
究しました。
Gary Kurek (カナダ)
Kurek は、身体の不自由な人がもっと自律的に行動できるように、複数の機能を持つ車いすを開
発しました。
Asil Shaar と Nour Alarda (パレスチナ)
Shaar と Alarda は、目の不自由な人向けにレーザーの杖を改良しました。
Chaimaa Makoudi (米国)
Makoudi は、太陽エネルギーを生産するときの太陽電池の効率を決定するために、量子ドットのサ
イズが太陽電池に及ぼす影響を調査しました。
Mikkel Madsen (デンマーク)
Madsen は、嚢胞性線維症の患者を悩ませている最も致死性の高いバクテリアに関する実験を行
いました。
Dylan Cooper Dalrymple (米国)
Dylan Cooper Dalrymple は、ロボット工学に使用する 3 次元のセンサーを安い費用で作ることを
重点的に研究しました。
Hoi Ming Chu (中国、香港)
Hoi Ming Chu は、世界中の工場で、毎日、大量のおがくずが廃棄されていることに注目し、この捨てられているおがくずを何
か (環境に優しいエネルギーなど) に有効利用できないだろうかと考え始めました。Chu は、おがくずにセルロースが含まれて
いることに着目し、環境に優しいバイオ燃料であるエタノールに変換できるのではないかと、仮説を立てました。さらに、ほかの
バイオ燃料と違って、おがくずは食べられません。つまり、世界の食料供給および食料価格には何の影響も及ぼさないので
す。
研究において、Chu は、木製品から生じるさまざまな廃棄物をセルロース系エタノールに変換する、最も効果の高い方法を
決定するために、一連の実験を行いました。実験の結果により、セルロース系エタノールは、実現可能で、クリーンで、再生
可能なエネルギーであることが裏付けられました。
Gary Kurek (カナダ、アルバータ州ボニービル)
Gary Kurek の祖父母とおばが、健康上の問題から、介助なしでは歩けないことがありました。このとき、Gary Kurek は、現
代の移動手段において利用できる選択肢は限られているのだということを実感し、失望しました。Kurek が注目したのは、基
本的な車いすは、本質的に、1970 年台からあまり変わっていないということでした。このため、Kurek は、身体の不自由な人
が単独で移動しやすくなるように、複数の機能を持つ移動時の補助器具を作りました。この補助器具が対象としているの
は、最も重い障害を持つ 2 つのグループです。つまり進行性の衰弱および下肢部の麻痺に悩まされている患者です。
具体的には、歩行器と電動車いすの機能を兼ね備える装置と、リクライニング可能で、縁石を乗り越えることができ、立った
ままの姿勢が維持できる、軽量の手動 / 電動車いすを Kurek は開発しました。
Asil Shaar と Nour Alarda
(パレスチナ、ヨルダン川西岸地区、ナブルス)
Asil Shaar と Nour Alarda は、地元ナブルスの坂道や戦争で荒廃した路上で、目の不自由な人たちが障害物をよけなが
ら慎重に進み、自分たちの住む難民キャンプに何とかたどり着こうとしているのを目にしました。Asil Shaar と Nour Alarda
は、何かしようと決心し、障害物を検知できる杖を目の不自由な人向けに作りました。
この杖を作る過程は簡単ではありませんでした。特にたいへんだったのは、センサーや回路などの電子部品をヨルダン川西岸
地区で調達することでした。Asil Shaar と Nour Alarda の決意は固く、ラマラへ何度も足を運びました。ラマラに行くには、45
分程かかり、軍の検問所を 2 か所通過しなければなりませんでしたが、Asil Shaar と Nour Alarda は、杖を作るという仕事
を成し遂げるために、ラマラに行ってその部品を探す必要があったのです。
従来からある 「レーザーの杖」 には、地面の段差や穴を検知できないという欠陥がありました。これとは対照的に、Asil
Shaar と Nour Alarda は、障害物と急な傾斜の両方を検知できるように、前向きと下向きの 2 つの赤外線センサーを松材
の杖に組み込むように設計しました。
Chaimaa Makoudi (米国ニューヨーク州レビットタウン)
Chaimaa Makoudi は、ナノテクノロジーには太陽エネルギー産業に革命を起こす力があると確信し、量子ドット (QD) を利
用した、より効率の良い太陽電池の開発に着手しました。Makoudi の説明によると、この開発のコンセプトは、1 つの光子
が、バルク状半導体材料においては 1 つの電子を励起できる一方で、QD においては複数の電子を励起できるという理論
にあります。この理論を検証するために、Makoudi は、二酸化チタン太陽電池に使われている化学染料を QD やほかの有
機染料に替えました。次に、実験を行い、多重測定によりエネルギー出力とエネルギー効率を測定しました。
実験の結果、粒径サイズがほかよりも小さい QD が、太陽電池としての全体的な性能が優れていることが明らかになりまし
た。このことは、ナノ結晶のサイズが小さいほど太陽電池のエネルギー出力は高くなるということを示しています。結果として、
Makoudi の主張したいことは、QD を利用すると、より多くの電気を作り出すことができ、現在使われている太陽光パネルに
比べてコスト的にも割安になるということです。
Mikkel Madsen (デンマーク、ビールム)
嚢胞性線維症患者は極めて肺細菌感染にかかりやすく、嚢胞性線維症患者に見られる最も一般的な病原体は、緑膿
菌です。このことを受けて、Mikkel Madsen は、嚢胞性線維症患者の保有する緑膿菌について研究することを決心しまし
た。この研究により、この種の細菌が嚢胞性線維症患者に対して、これほど強い毒性を持つ理由をより良く理解したい、ま
た、その過程で、緑膿菌に対抗して生命を救う方法を見つけたいと考えたのです。
具体的には、Madsen は、慢性肺感染症にかかっている嚢胞性線維症患者から、さまざまな感染段階の緑膿菌 25 株を
採取し、2 つのうち 1 つの優性遺伝子型の代謝を検査しました。この結果、緑膿菌には、肺内の環境に適応するときに炭
素源や窒素源を使う力を失うという、はっきりとした傾向があることが明らかになりました。この検査から得られたデータは、将
来の研究にとって貴重です。
Dylan Cooper Dalrymple (米国フロリダ州ペンサコーラ)
ロボット工学の分野では、ロボットを趣味とする人たちが、大金を使わずに、ある物体の周囲 360 度の視界を 3 次元の画
像として作る方法を長い間探し求めてきました。この目標を達成するために、Dylan Dalrymple は、2 台のカメラだけを使っ
て、3 次元の環境を分析して合成することができるのではないかという仮説を立てました。この仮説によると、カメラは 2 台し
か使わないものの、両眼視差方式を用いて写し出した画像を処理することによって、3 次元の画像を作ることができるので
はないかということです。つまり、人が 3 次元の動画を解釈するのと本質的には同じ方法で、画像を処理すれば良いのでは
ないか、という仮説です。
その目的に向かって、Dalrymple は、ハードウェア、ソフトウェア、および一連の複雑なアルゴリズムを使って、生物学的影響
を受けた双眼のカメラセンサーの作成に取り組みました。最終的には、わずかな費用で作成した試作品が、最高級の 3 次
元ビジョン製品と同じ結果をもたらすだろうと Dalrymple は信じています。
イベントの様子
カリフォルニア州サンノゼで Intel ISEF 開催
2010 年 5 月、世界で最も前途有望な 1,600 人以上の若き科学者や数学者がカリフォルニア州サンノゼに集まり、高校
生を対象とした世界最大の科学の大会であり、Society for Science & the Public のプログラムの 1 つである Intel
International Science and Engineering Fair (Intel ISEF) で、競争を繰り広げました。彼らは、2010 年の Intel ISEF コンテ
ストに出場する資格を獲得すべく、各地域の大会を勝ち抜いた 59 の国や地域を代表する若きイノベーターたちです。
サンノゼでの 1 週間の滞在中ずっと、生徒たちは、最先端の研究や発明を披露し、400 万ドル以上の賞金の獲得を競い
ました。優勝者には、新設のゴードン・ムーア賞として 75,000 ドルが授与され、また、2 名の準優勝者には、インテル青年科
学賞として 50,000 ドルずつが授与されます。
参加者たちは、世界中から訪れている、同じ志を持つ参加者同士で親交を深めたり、ノーベル賞受賞者や自分たちの研
究分野で著名な専門家たちと交流したりする機会もありました。また、Intel ISEF の年度バッジの交換、生徒同士の交流
会、市内観光、受賞に輝いたドキュメンタリーのマイコン大作戦の上映など、楽しくて良い刺激になるイベントにも参加しまし
た。
生徒たちが奮闘した 1 週間の写真を紹介します。
受賞者
2010 年度 Intel ISEF の優秀賞受賞者たち
2010 年 5月14日、Amy Cindy Chyao がゴードン・ムーア賞と大学奨学金 75,000 ドルを獲得し、Intel International
Science and Engineering Fair (Intel ISEF) で最優秀賞に輝きました。Kevin Michael Ellis と Yale Wang Fan は、インテル
青年科学賞と 50,000 ドルの大学奨学金を獲得しました。
このほかにも、500 人を超える Intel ISEF 参加者が革新的な研究によって奨学金と賞金を獲得しました。この中には、17
人の 「Best of Category」(部門最高賞) 受賞者も含まれており、5,000 ドルが贈呈されました。また、受賞者の学校とそれ
らの学校が参加した Intel ISEF 関連フェアに 1,000 ドルの補助金が贈られました。
Amy Cindy Chyao (米国テキサス州リチャードソン)
ゴードン・ムーア賞
Amy Chyao は、光線力学療法をガン患者に提供するという、将来有望な新しい手法を開発しまし
た。
Kevin Michael Ellis (米国ワシントン州バンクーバー)
インテル青年科学賞
Kevin Ellis は、並列マイクロプロセッサー上で動作するようにコンピューターのプログラムを書き換え
る、自動並列化ツールを設計しました。
Yale Wang Fan (米国オレゴン州ビーバートン)
インテル青年科学賞
Yale Fan は、量子計算で 「NP 完全」 問題を解決できる可能性があることを実証しました。
Amy Cindy Chyao (米国テキサス州リチャードソン)
ゴードン・ムーア賞受賞者
自分の化学の研究発表に 「光、量子ドット、アクション ! 」 というタイトルを付けた、テキサス州プラーノのウィリアムズ高校 3
年生の Amy Chyao は、新しいガン治療法である光線力学療法 (PDT) に使用するための、新しい感光剤を開発しまし
た。PDT では、ガンを死滅させる薬を活性化するために光エネルギーを使っています。臨床試験では、S-ニトロソシステイン
官能基化 PbS 量子ドット二酸化チタン ナノチューブから構成される、Chyao の開発した感光剤は、PDT に必要な過程で
ある一重項酸素生成の方法として、実現可能だということが分かりました。
さらに、Chyao の取った手法は、現在の PDT 方式が抱える障害を克服しました。具体的には、15 歳の Chyao が、紫外
線の代わりに近赤外線を使って同じ効果を達成することに成功したのです。これにより、健康な組織を損傷するのを防ぐこと
ができるのです。
Chyao の研究は、ガン治療の改善に大きな影響を与えるかもしれません。
Kevin Michael Ellis (米国ワシントン州バンクーバー)
インテル青年科学賞受賞者
並列プログラミングは、高性能のコンピューターを実現し、顧客のハードウェアの性能を向上させ続けるためにも必要です。並
列プログラミングを発展させるために、オレゴン州ポートランドのカトリン・ゲイブル高校 3 年生の Kevin Ellis は、動作時のコ
ンピューター・プログラムを自動的に解析する方法を開発し、実行しました。この解析の結果、プログラムは、複数のマイクロ
プロセッサーに作業を分割することでより速く実行できるように、自動的に書き換えられました。
Kevin の開発した Dyn という自動並列化ツールは、新しい動的解析を使っています。これにより、プログラムをプロファイルす
るだけではなく、データ依存性の解析、データのプライベート化、および制御フローの解析を実行しています。この解析から得
られるデータは、存在しない場所に並列コードを生成するために使われます。つまり、非並列コードは、今や並列プロセッサー
上で動作することが可能になり、さらに、動作速度もより速くなるのです。
Dyn は、科学計算ライブラリーとアプリケーションを背景にテストされ、手動での並列化に匹敵する (一時的には、手動での
並列化よりも高速なこともあった) 高速化を実現しました。
Yale Wan
Wang Fan (米国オレゴン州ビーバートン)
インテル青年科学賞受賞者
そう遠くない未来に、高度な量子計算の方法によって、古典的な計算アルゴリズムにかかっていた時間と空間を飛躍的に節
約できるかもしれません。
オレゴン州ポートランドのカトリン・ゲイブル高校 3 年生の Yale Wang Fan は、研究の中で, 従来の計算では解決が困難
困難
な、「NP完全」 (NPC) 問題を解決するのに量子計算がどれほど有効かを披露しました。Fan の研究によって、断熱的量
子進化のモデルが大きく改良され、MIT の Farhiおよびその他が提起する最適化問題を、解決する方法が提示されまし
た。最近の理論的研究'は、NP 完全問題のランダム集合についての単一線形断熱進化の性能だけを対象としてきました
が、Fan は、NP 完全問題のランダムなハードインスタンスに非線形の断熱経路を適用することでアルゴリズムの時間計算
ズムの時間計算
量を大幅に減らせる、ということを数値で示すことができました。このことが意味するのは、非線形の断熱量子アルゴリズムは,
上記のようなランダム集合に関する従来のアルゴリズムの性能を上回る可能性があるということです。
Fan の研究は、理論物理学、数学、およびコンピューター サイエンスを基盤に、量子計算の先進機能に関する新たな見識
をもたらしてくれます。
Fly UP