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(3.考察~参考・有識者ヒアリングの結果)(PDF形式 3490

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(3.考察~参考・有識者ヒアリングの結果)(PDF形式 3490
3.考
察
3.考察
(1)目撃数、目撃位置
既往資料と、今回のヒアリングにおける推定の群れ数及び個体数を比較すると以下のようになる。
市町村名
村上市
関川村
胎内市
新発田市
阿賀野市
阿賀町
合計
既往資料(平成17年度)
群れ数
個体数
14~18群
700~900頭
(旧荒川町除く)
(旧荒川町除く)
1~2群
50~100頭
(荒川以南)
(荒川以南)
4~8群
14~16群
1群
200~400頭
700~800頭
50頭
(新発田市近隣地域)
(新発田市近隣地域)
12~15群
600~750頭
(阿賀野川以北)
(阿賀野川以北)
46~60群
2,300~3,000頭
ヒアリング(平成21年度)
群れ数
個体数
14~22群
840頭前後
10群
500頭
6群
16群
2群
500頭
800頭前後
130~150頭
未推定
未推定
48~56群
2,770~2,790頭
(阿賀町除く)
(阿賀町除く)
統計の取り方が一様でなく、また一部データの欠落もあり単純比較はできないが、各市町村では群れ数、
個体数とも全般に横這いか増加傾向にあるものと考えられる。仮に阿賀町の既往資料の数値をそのままヒア
リングの数値に加算すると、全体合計は最小で60群3,370頭、最大で71群3,540頭となる(「新潟県下越地域
ニホンザル保護管理計画」では50~64群、2,500~3,200頭と推定している)。
ヒアリング調査によれば、村上市では平成21年度に78集落で目撃され、関川村では近年、荒川以北等で
新たに目撃例が報告されている。また阿賀野市では平成21年度には平成19年度に比して出没集落、目撃回
数が増えており、阿賀町でもニホンザルが出没する集落、目撃回数が経年的に増加している。
以上のことから、ニホンザルは下越地域においては増加傾向にあるものと推察される。また目撃される集落
が増えていることは、人の生活環境や耕作地への進入がさらに進んでいるものと考えられる。
図3-1に今回のヒアリング調査で得られたニホンザルの出没集落の分布を示す。
ニホンザルの個体数は、ここ近年、総じて増加傾向にあると推察される。
46
図3-1 下越地域のニホンザル出没集落の分布
47
(2)農林被害状況
既往資料と、今回のヒアリングにおける下越地域全体の農林被害の状況を比較すると以下のようになる。
区分
既往資料
ヒアリング
年度
平成15年度
平成16年度
平成17年度
平成19年度
平成20年度
平成21年度
被害面積
342ha
140ha
111ha
124ha
155ha
-
被害金額
71,770千円
85,170千円
46,200千円
40,647千円
41,532千円
-
主な被害作物(被害の目立つもの)
※水稲、芋類(バレイショ等)、果樹(カ
キ、クリ等)、野菜(ネギ、ダイコン等)※
野菜(ダイコン、アスパラガス等)、芋類
(バレイショ等)、果樹(ブドウ、カキ等)、
水稲、豆類(大豆)
※平成17年度既往資料(平成13年度アンケート結果)による
既往資料では被害面積と被害金額は経年的に減少している。一方、ヒアリングによる数値は被害面積と被
害金額がいずれも増加している。
次に、ヒアリングによる各市町村の直近(但しデータが出揃っている平成20年度データ)の農林被害状況は
以下の通りとなった。
市町村名
村上市
関川村
胎内市
新発田市
阿賀野市
阿賀町
被害面積
64ha
25ha
52ha
5.48ha
5ha
3.71ha
被害金額
11,015千円
11,490千円
2,000千円
8,458千円
2,000千円
6,569千円
1ha当り被害金額
172千円
460千円
38千円
1,543千円
400千円
1,771千円
被害金額の大きい作物順
芋類、野菜、豆類
芋類、野菜、水稲及び果樹
水稲、豆類、野菜
野菜、水稲、芋類
-
芋類及び野菜、豆類、雑穀
被害面積では村上市が最も多く、被害金額では関川村が最も高い。また1haあたりの金額に着眼すると、
阿賀町、新発田市で高くなっている。参考として同じく20年度の被害量と被害金額を以下に比較すると、被害
量は関川村がかなり多くなっているが、被害量1kgあたりで見ると村上市が最も高くなっている。
市町村名
村上市
関川村
胎内市
新発田市
阿賀野市
阿賀町
被害量
28,415kg
84,115kg
-kg
31,400kg
-kg
33,045kg
被害金額
11,015千円
11,490千円
2,000千円
8,458千円
2,000千円
6,569千円
1kg当り被害金額
0.39千円
0.14千円
-千円
0.27千円
-千円
0.20千円
被害金額の大きい作物順
芋類、野菜、豆類
芋類、野菜、水稲及び果樹
水稲、豆類、野菜
野菜、水稲、芋類
-
芋類及び野菜、豆類、雑穀
農林被害については、経年的なデータ比較が難しいが、被害面積や被害額は横這いもしくはやや増加傾
向にあると推察される。
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(3)被害防除の状況
各市町村ともに年々様々な防除対策を取り入れてきている。しかし、平成19年度と20年度の農業被害の数
値を見る限りでは、それらの効果をうかがい知るほどの変化が見出されない。防除対策は概して、出没の通報
→出動→現場にて追い払い、という対処療法的なパターンが多いと考えられる。ここで今一度、主な防除対
策と課題・問題点を整理してみる。
対策
銃器による捕獲(駆除)
課題・問題点
・ハンター数の減少やハンターの高齢化。
・通報を受けて出動するとタイムラグが発生して無駄足になることがある。
・群れの構成や行動、捕獲対象個体の群れ内部の階級(リーダーか否か
等)や雌雄を理解して捕獲しないと、群れの分散や新規の群れの進出に
つながる可能性がある。
・花火や爆音器など音によるイン ・設置型を除けば、出没の度に現場に出向く必要があり、回数が多くなる
パクト
とかなりの負担となる。
・モデルガンや空気銃等の非殺 ・通報を受けて出動するとタイムラグが発生して無駄足になることがある。
傷的なインパクト
・危害が特に及ばないと認識すると、慣れにより効果がなくなってしまう。
電気柵やサルネット
・維持管理やコスト面での負担が大きい。
・効果が限定的。
テレメトリー利用の追い払いや捕 ・タイムラグが少なくなるが、巡回をするなど能動的にサル出没情報を収
獲
集する必要がある。専属的な人員が必要となる。
モンキードッグ
・特別な訓練が必要であり、利用しようとする地域住民への周知と理解が
必要となる。
・追い払いに比較的時間がかかる。
ウルフピー
・効果の程度や範囲、持続性等がまだ不明確。
サル被害を受けている住民にしてみれば、感情にも押されて目前のサルを駆除することが最も有効だと思
い込んでしまう。ゆえに何か細工をするよりも、捕獲・駆除してほしいという声が多くなる。しかし被害が減って
いない現実がある。まずはニホンザルの生態的特性や防除に対する考え方を、継続的に啓発・周知していく
ことが重要である。地域住民にニホンザルについての基本的な知識を持ってもらい、またできるだけ正確な情
報の提供に努めてもらい、各主体で役割分担しつつ連携を図り、有効な防除を実施していく必要がある。
近年様々な防除対策が導入されつつあるが、一時的局所的効果はあるものの全体的な被害減にはつな
がっていない状況にある。各主体が今後取り組むべき方向は‥
・地域住民:基本的な知識の習得、被害等の正確な情報提供、生息環境管理の実施など
・行政:普及啓発活動の促進、情報の蓄積と分析、的確な助言や指導、支援体制整備や補助など
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(4)ニホンザルの捕獲状況
下越地域の平成19年度~21年度のニホンザル捕獲数は、563頭→712頭→658頭+α(胎内市と新発田市
一部)と推移している。各年度における各市町村の捕獲数の割合や捕獲数の推移は以下の通りである。
村上市
関川村
胎内市
新発田市
阿賀野市
阿賀町
0.7%
25.4%
H19年度
0%
14.0%
12.6%
20%
27.0%
40%
20.2%
60%
80%
100%
0.8%
26.4%
H20年度
0%
17.6%
20%
13.6%
27.8%
40%
60%
31.3%
0%
18.1%
20%
80%
100%
1.8%
0.0%
H21年度
13.8%
16.6%
40%
60%
32.2%
80%
100%
図3-2 平成19年度~21年度の市町村毎のニホンザル捕獲数割合
平成19年度
平成20年度
平成21年度
250
200
捕
獲
150
頭
数
100
50
0
村上市
関川村
胎内市
新発田市
阿賀野市
阿賀町
図3-3 平成19年度~21年度の市町村毎のニホンザル捕獲頭数
平成21年度はデータが揃っていないため(胎内市なし、新発田市一部なし)不確定要素があるが、全般に
村上市や新発田市で捕獲数が多く、阿賀町では平成21年度は前年度に比して2倍以上になっている。ニホ
ンザルの個体数の増加傾向に伴い、捕獲数も増える傾向にあるといえる。捕獲数が増えているにも関わらず
個体数が減少傾向を示さないのは、捕獲が個体数の調整に有効に働いていないことが示唆される。
捕獲(駆除)が生息個体数の減に結びついておらず、個体数管理としては有効に機能していない。
50
(5)群れの数や遊動域(テレメトリー調査等から推定されること)
①新発田市
・各群れの遊動域は集落の後背地(JR羽越線の東側の山地や加治川を取り囲む山地)の山裾伝いに概ね連
続しており、隣りの群れと重なる場合もある(「テレメトリー調査の状況・図2-1-8」参照)。
・1群の平均的な個体数は50頭前後
・市の南西部に分布する「荒川」群れは、隣接の阿賀野市へも遊動域が広がっている。
新発田市では群れの数や個体数、遊動域が経年的に補足されており、年度毎に増減の変動が見られる
が、平成21年度は東赤谷方面の「飯豊」群れの個体数が把握されていないことから、群れ数に変化がな
ければ来年度以降に生息個体数は増える可能性がある。
②阿賀野市
・現在、遊動域が南西方面(大室)へ拡大しつつある。新しい場所へ移動する際は、その移動経路の途中にサ
ルが残るケースが見受けられる。
・国道も横断して移動している。またゴルフ場(笹神五頭ゴルフクラブ)にも100頭全後の群れが出没している。
阿賀野市では群れの遊動域が拡大しつつあるようで、今後群れの分散による新たな群れの形成や農林
被害が発生する可能性がうかがわれる。
51
(6)今後の課題等について
新潟県下越地域ニホンザル保護管理計画は、各市町村で徐々に取組が始まっている。今後この運用がで
きるだけ効果的になされるように、また保護管理計画が未策定の町村については、策定に向けてこれから何
をすべきか以下に整理する。
①群れ数や個体数の実態把握について
市町村
村上市
関川村
胎内市
新発田市
阿賀野市
阿賀町
課題や方向性
・今年度確認されたサルの群れの遊動域を調査し、群れの分布を推定する。
・推定された群れ毎にテレメトリー調査を実施し、群れの遊動域を把握する。
・経年的にモニタリングを行い、群れと個体数の変化を把握する。
・捕獲(駆除)を実施した場合は、捕獲場所と捕獲数、性別等の記録をとる。
・防除対策の種類、実施場所、効果等を把握する。
・群れ数や個体数、遊動域等を調査し、基礎的なデータを作成する。
・推定された群れ毎にテレメトリー調査を実施し、群れの遊動域等を把握する。
・経年的にモニタリングを行い、群れと個体数の変化を把握する。
・捕獲(駆除)を実施した場合は、捕獲場所と捕獲数、性別等の記録をとる。
・防除対策の種類、実施場所、効果等を把握する。
・従来のテレメトリー調査を継続し、群れの遊動域や個体数の把握に努める。
・捕獲(駆除)を実施した場合は、捕獲場所と捕獲数、性別等の記録をとる。
・防除対策の種類、実施場所、効果等を把握する。
・現在実施しているテレメトリー調査に必要に応じてテレメータ装着個体を追加して、群れの遊
動域等を把握する。
・経年的にモニタリングを行い、群れと個体数の変化を把握する。
・捕獲(駆除)を実施した場合は、捕獲場所と捕獲数、性別等の記録をとる。
・防除対策の種類、実施場所、効果等を把握する。
・群れ数や個体数、遊動域等を調査し、基礎的なデータを作成する。
・推定された群れ毎にテレメトリー調査を実施し、群れの遊動域等を把握する。
・経年的にモニタリングを行い、群れと個体数の変化を把握する。
・捕獲(駆除)を実施した場合は、捕獲場所と捕獲数、性別等の記録をとる。
・防除対策の種類、実施場所、効果等を把握する。
新潟県下越地域ニホンザル保護管理計画で示されている「ニホンザル出没等報告票」を積極的に活用する
等して、群れや個体数の把握といった基礎的情報は必ず作成する。
②農林業被害の実態把握について
市町村
村上市
関川村
胎内市
新発田市
阿賀野市
阿賀町
課題や方向性
・今年度把握された被害者に対して、引き続き作物被害の実態調査を行う。
・実際に被害を受けた集落を回り、現場を確認しながら被害作物、面積等の情報を収集する。
可能な限り実被害の数値の把握に努める。
52
③防除対策のあり方について
〈銃器による捕獲等〉
被害の通報を受けてから出動し、捕獲(追い払い)、サルの逃避、再出現、という循環が繰り返され、サルも
「深追いはされない」という認識があるものと考えられる。被害の大きな集落を優先的に選定し、対象とする群
れを絞り込んで捕獲・追い払いを集中的に行い、群れ全体に銃のよる圧力(狩猟圧)で人里への恐怖心を植
え付けていく必要がある。
〈花火や爆音器等音による、模擬弾による威嚇〉
水田で鳥避けに利用されている爆音器を見ていると、爆音の音や時間間隔が一定で、すぐ側では大きな
音がして鳥は寄り付かないようだが、少し離れたところでは音が鳴っても鳥が逃げないのを見受けることがある。
メリハリがなく且つ単調なリズムの刺激では、おそらく動物は慣れてしまうと考えられる。「驚かす」ということは
予測がつきにくい程効果がある。従って設置型の爆音器は、音の質や間隔、設置場所等の改善や工夫も一
考である。花火はうまく狙い撃ちすれば、効果は薄れないと思われる。以下、奈良県果樹振興センターが開
発したロケット花火の発射機(名称「仁志君」)を示す。
花火発射機:島根県鳥獣被害対策室HPより
模擬弾(いわゆるBB弾等)も、命中させることができ、また花火と併用すれば効果はあると思われる。これも
銃器と同様に散発的に行うのではなく、執拗に実施し居心地の悪さをつくりあげていくことが必要である。模
擬弾は環境に配慮して生分解性プラスチック弾を用いるのが望ましい。
53
〈電気柵・サルネット〉
電気柵はコストと維持管理がかかるが有効な対策である。以下に島根県鳥獣被害対策室で紹介している
電気柵を示す。コストは設置距離400mで1mあたり2,000円程度。草刈りをこまめに行い、漏電して電圧が下
がらないようにすることが重要である。
電気柵:島根県鳥獣被害対策室HPより
電気を使わない柵については、例えば畑を金網で丸ごと覆う、スイカ等の果実のみを覆うなどが行われて
いるが、前者は手間がかかりまた網から手が届けば被害を受ける可能性もあるし、後者は大きな作物に極め
て限定的にしか設置できない。
畑を丸ごと金網で覆う
果実のみを覆う
奈良県果実振興センターHPより
簡単にかつ効果的に設置できる柵として、以下に、奈良県果樹振興センターが提案している「自分で作れ
る猿害防止柵・猿落君」を示す。これは村上市でも個人的に実施されているようである。
弾力のあるグラスファイバー製の支柱にテグス網を張った柵で、サルが登ると支柱が曲がって落ちる仕掛け
である。安価である(約700円/m)、脚立なしで比較的手軽に設置できる、イノシシ等にも対応できるメリットがあ
るという。サルの飛び込みを防ぐため、周囲の樹木から5m以上空けて設置することがポイントである。
54
サルネット猿落君:島根県鳥獣被害対策室HPより
〈定期的巡回による追い払いと捕獲〉
定期的な巡回は、サルへの人為圧や住民の安心感の上では効果的であるが、巡回員(捕獲或いは威嚇が
きちんとできる人材)の確保等や予算面の問題がある。定期的巡回が手当できる市町村はこれを実施し、継
続してサルへの圧力をかけ続けることかが望ましい。ただ、サルの学習能力を踏まえた上での工夫(巡回が定
期的過ぎると日時を覚えられる等)は必要となる。
捕獲についても銃器による他に、トラップも考えられる。以下にトラップの例を示す。
サル捕獲用檻:島根県鳥獣被害対策室HPより
55
〈テレメトリー利用追い払いや自動受信システム〉
テレメトリー利用の追い払いは、通報による出動より早く行動ができ、定期的巡回よりも人員の負担はないと
いうメリットがある。テレメトリー調査に併せて猟友会等に委託する方法もあるが、迅速な行動やコスト面を考え
ると、電波の傍受と追い払いは被害を受けている地域住民が体制をつくって実施することが望ましい。
自動受信システムは誤作動の問題点の他、「新潟県下越地域ニホンザル保護管理計画」で指摘されてい
るように、サルが警報を聞く=人間が来る、という認識を植えなければならず、それを学習させるための人為
圧をかけることには、時間と労力が必要になることは否めない。現状では前者の追い払いを推進することが妥
当と考える。
〈モンキードッグ〉
新発田市で導入され、追い払いに時間がかかる等の課題はあるものの一定の効果はあがっている。
長野県大町市の事例(5ヶ月訓練、訓練費用8割市負担)では、導入2ヶ月後、サルが殆ど出没しなくなり、テ
レメトリー調査でもモンキードッグ導入地域を避けるように遊動域が変化したという。導入ポイントのひとつとし
ては、モンキードッグが活動しやすいように間伐や藪払いといった緩衝帯の整備を併せて行っていることであ
る。ただ、やはりモンキードッグの活動域から少し離れた地区では出没が続いているという。モンキードッグの
導入も、各地区の出没状況に照らし、連携して実施することでより効果的になるものと考えられる。
〈ウルフピー〉
村上市や新発田市では既に導入され一定の効果はあったと推定される。効果の有効範囲や持続性、サル
の慣れ等については今後検証が必要である。新規導入及び継続導入する市町村は、サルの出没状況や耕
作地の場所・面積、作物の種類、実施時期等条件をそろえて比較実験を行うことが重要である。
〈その他〉
家畜による緩衝帯の整備‥山口県や富山県ではウシやヤギを、サルの隠れ場所になり得る放棄耕作地の藪
(森と耕作地との経路となる)へ放牧し、それらを解消させ、森と耕作地との間に緩衝帯となるオープン空間を
設けることでサルの侵入を防ぐ試みが行われている。効果検証はこれからと行うという。
緩衝帯を整備する放牧牛(山口市仁保地区)
放棄耕作地で放牧されるヤギ(魚津市小菅沼)
56
普及啓発活動や体制整備、人材の育成‥地域住民が被害対策に必要な知識を得て、共有し、自主的な行
動が促せるように、講習会の開催、対策マニュアルの作成・頒布等の啓発活動を精力的に行う。また被害地
域の住民とのコミュニケーションは、専門家や大学の研究者よりも被害農家に近い立場の人(JA職員、改良普
及員、市町村農業担当者等)の方が受け入れられやすいため、これらの人への研修等人材の育成を進める
必要がある。
防除対策は対策機材・施設等の維持管理をしっかり行い、捕獲や追い払いは各地区で連携して、時間
をかけて、執拗に実施し、恐怖心や居心地の悪さを認識させることが重要である。地域にあった対策を
見極めるために、防除対策の効果検証は行う必要がある。
④被害集落等の地域住民の取組について
〈農地や集落の再点検〉
生ゴミ捨て場、墓の供え物、作物の長期間放置(畑や果樹)、被害作物の放置、農地周辺の林や藪や廃屋
などサルの移動経路の存在など、農地や自宅の周辺がサルの餌場になっていないか再点検してみる。
移動経路の遮断:島根県鳥獣被害対策室HPより
〈作付けの工夫〉
サルはトウガラシ、オクラ、コンニャク、シソ等には殆ど手を出さないと言われている。これらの作物に切り替
える、あるいは畑の外側(侵入しやすい面)に植えてみることも、一考である。
〈対策への協力と参加〉
できるだけ正確な被害情報や目撃情報の提供に協力する。そのためには調査を依頼する側も、記入しや
すい調査票の作成といった創意工夫も必要となってくる。また行政機関等も相談内容や相談先を積極的にP
Rして、普及啓発活動を促進していくことが重要である。
57
サポート体制のPR:奈良県果実振興センターHPより
集落周辺の生息環境管理としては、農地や集落の餌場としての魅力やメリットを減少させることを心が
ける。行政機関も啓発活動がスムーズに進むように、情報のアクセス手段や窓口の整備に努める。
58
参考:有識者ヒアリングの結果
参考:有識者ヒアリングの結果
今後のニホンザルの保護管理等について、有識者にヒアリングを行った。内容等は以下の通り
である。
●ヒアリング対象者
長岡技術科学大学 生物系 助教 山本麻希 氏
●ヒアリング日時
平成 22 年 3 月 9 日 15:00~16:30
●ヒアリング場所
長岡技術科学大学 生物棟
〈ヒアリング内容〉
◆今後取り組むべき事項や対策についての参考事項
・地元住民や市町村の担当者は、普及啓発の場と機会を求めている。サル被害が出た集落で講習
会を開き、集落の人たちにサルに対する知識や対策等の基本的な知識、対策の方向性等の共通認
識を持ってもらうことからスタートする。
・住民の相談を受けたり対策指導をしたりする人材(農業改良普及員等)を育成し、地域住民に対す
る啓発活動を実施し、そしてそこに専門家や猟友会が関わっていくという体制作りが肝要である。
・ある山間の高齢者が多い集落でサルの被害が出ると、耕作を止めてしまうケースが多い。高齢
者集落が単体で防除対策に取り組むのは難しく、その集落での生活をあきらめ、別の地域に移って
しまうこともある。やがてそのような集落が消滅し、中山間地域の荒廃につながっていく。被害
対策には人手が必要であり、長期的な目で見た場合、例えば集落の移転統合を進めることで(小さ
な集落の減少は否めないが)、対策の担い手の確保につなげていくのも一考である。
・県内ではサル対策の成功例がないため、モデル地区を選定し、他の地域もそれに倣うような施
策が必要である。
・行政内で連絡調整をスムーズに行うことや連携(農業部門と環境部門)を構築することが必要であ
る。
・究極のサル対策は、かつての奥山へ追い払うことである。新潟はまだ豊かな山々が残っている
ので、追い払ってしまえば出てこなくなるだろう。
・遊動域以外に、移動ルートもおさえた方が良い。移動ルートを絶って追い払いに活用できるか
らである。移動パターンが分かれば、先回りして追い払いができ、サルに打撃を与えられる。サ
ルは移動経路としてほぼ同じルートを使っている。
・現在も猟師は不足しているし、これから益々不足してくるだろう。猟師人口減の対策も必要で
ある。ライフル(サル駆除に必要)の所持には経験と規制がネックとなり、現在でも打てる人が少な
い。
・理想としては、市町村職員を野生生物専門員として養成し(或いは採用し)、狩猟が自前でできる
といった体制が望ましい。
◆下越地域の状況
・サルの農作物被害については、自給用の作物が多くを占めており、実態に近い数字が殆ど分か
っていない。今回の村上市での被害調査は有意義なものである。
・無計画な駆除(銃器)は群れの分散を助長し、かえって群れ数や個体数が増えてしまう。とにかく
捕獲してテレメトリー調査を行い、行動等を把握することが大事。
・新発田市は猟友会が対策に積極的で、ほぼ毎日テレメトリー調査を行ったりしている。雌雄の
見分けや個体識別、移動経路等行動パターンの把握等知識の蓄積があり、従事者の能力が高い。
また研究者(新潟大学)も入って協力している。
i
・新発田市では現在、裾野を中心にサルが活動している。群れの移動経路等も概ね把握されつつ
あるので、奥山への追い払い対策の実施は十分可能である。
◆その他
・津南町や南魚沼といった県内の他地域でも、サルの人里への出没、農業被害が増え始めている。
サルの出没しない山間地を探す方が難しくなっているほどである。早い内に手を打つべきである。
・南魚沼も最近出没が顕著だが、猟師の話では、サルは、かつては山の上や奥地にいたという。
人里への進出は最近であり、里山の荒廃によるハビタットの変化がサルを始めとする野生動物の
人里進出の大きな要因である。かつての里山は明るく、野生動物が隠れる場所が少なかった。
・電気柵は安価になり、また管理をきちんとすれば長持ちするようになった。
・ウルフピーは結構高価である反面、サルは慣れてすぐ効果がなくなるだろう。
・目視調査では個体数や群れの把握は難しい。長期的に追跡し、ビデオ等を駆使して個体識別を
行っていかなければ難しい。
以上
ii
Fly UP