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(第92号から95号) (PDF形式, 2.72MB)
No.
92
名古屋市衛生研究所
2012/6
結核菌の VNTR 法による検査
■ はじめに
が か か り 検 査 終 了 に 1 ~ 2 か 月 必 要 で し た が、
VNTR 検査では、結核菌を培養する必要がなく、
り か ん
名古 屋市の結核 罹患率(人口10万人あたりの
新登録患者数)は、平成15年の 37.0 から平成19
1 週間以内に結果が出るようになりました。
年は 30.6 と減少しましたが、平成20年は 31.0 と増
加しており、全国平均を大幅に上回る水準にあり
■ VNTR法の原理
ます(全国の結核罹患率は 19.4)。都市別比較に
おいても、大阪市が最も高く(平成20年で 50.6)、
ト(TR;縦列反復)配列」や「ミニサテライト挿
名古屋市は平成16年には 36.1 と神戸市と並んで
いましたが、平成20年には神戸市は 27.2 と減少し
結核菌染色体遺伝子上には、「タンデムリピー
入部位」と呼ばれる領域があります。この領域で
は、50~100 bp(bp は DNA の長さの単位)の短
い配列(ミニサテライト)が何個か並んでいます。
ミニサテライト挿入部位のうち、多くの箇所ではミ
て、名古屋市が単独で 2 位となっています。
結核患者が発生した時には、感染源の追究や感
ニサテライトの挿入数が菌株ごとに異なっています。
染経路の解明などの疫学調査が実施されますが、
このミニサテライト挿入数の違いを型別として表し
て、菌株の種類等を知る方法が、VNTR 法です。
同時に分子疫学調査として、個々の患者から分離
された結核菌の遺伝子レベルでの解析を行い、そ
の異同、近似性を判別することによって、結核菌
(原理と操作については、次ページの図を参照)
でんぱ
の伝播経路や拡散性を究明する必要があります。
■ VNTR法の操作
結核菌では、分子疫学調査として、IS 6110 - RFLP
1) 菌株から結核菌 DNA を抽出します(菌株は死
検査が長く用いられてきましたが、近年、結核菌
の遺伝子中に存在する反復配列の数を菌株同士で
比較して、タイプ(型別)に分類する、VNTR
菌でも構いません)。
2) ミニサテライト挿入部位にそれぞれプライマー
を設定して、PCR で増幅します。
(Variable Numbers of Tandem Repeats)法が
3) 増幅により得られた PCR 産物の長さを、電気
利用されるようになってきました。
泳動法によって測定します。(下の写真)
VNTR 法は、データを数値として表すので、デ
ジタル情報として管理でき、施設
4) PCR 産物の長さから、各ミニサテライト挿入
部位にいくつミニサテライトが挿
間でのデータ比較や長期間に及
ぶ継続的なデータ蓄積が容易で
入されているか計算します(挿入
部位ごとに換算表を作っておくと
あるという利点を持ちます。画像
便利です)。
データによる RFLP 検査とは異な
5) 各ミニサテライト挿入部位の
り、結核患者の移動に伴う広範囲
な伝播なども追跡でき高度なトレ
挿入数を表に並べて、VNTR 型別
とします。(次ページの表)
ー サ ビ リ テ ィ を 実 現 でき ま す 。 ま
た、RFLP 検査では菌量が多く必
要であるため、培養に長い時間
(Marker)
(Marker)
VNTR 法における
PCR 産物の電気泳動像
- 1 -
■ VNTR解析法の経緯
このようにして得られたVNTR
型別のデータを用いて、解析を
行います。
VNTR 領域は結核菌染色体遺伝子上に多数存在
領域数で網羅することは、基本的には困難です。
■ 名古屋市における取り組み
しており、VNTR 解析ではそれらのうち複数組み
合わせて型別を判定することによって信頼度の高
現在、当研究所では、市内で起こった集団発生
事例およびハイリスク層から分離された菌株と、
い情報が提供できます。したがって、VNTR 解析
東名古屋病院にて培養検査を実施した患者から分
離された菌株について、VNTR 型別解析を実施し
の大きな利点である、多施設間のデータ比較を実
現するためには、「どの領域を解析対象として組
み合わせるか」をあらかじめ決めておくことが必
ています。前者は、保健所の依頼により集団感染
の科学的根拠を得ること、後者は、市内の結核患
須です。
現在、国際標準法として最も使用されているも
者の基礎データの収集を目的として行っています。
双方とも基本的には、JATA( 12 ) - VNTR に 3 領域を
のは、Supply らによって提案された、15 ないし
24 領域の組み合わせによる、 ( MIRU ) - VNTR です。
加えた型別解析を行っています。
名古屋市では、12 領域より多い 15 領域の測定
しかし日本は東アジアに位置し、結核分離菌全体
の 80% が北京株を占めます。北京株の解析に、
国際標準法である (MIRU)- VNTR を適用した場合、
を行っていますが、これは、JATA ( 12 ) のセットで
は RFLP 分析に比べて若干分析能が劣るため、3
領域を加えることによって RFLP 検査と同等の分離
能を得るためです。この 15 領域については、絶
VNTR 領域における変異が少なく、型別分離能に
は限界があることがわかってきました。そこで我
対的なものではなく、今後、分析法の進歩ととも
に変わる可能性はあります。
が国では、国際標準セットとは異なる VNTR 領域
を用いることによって、有用な遺伝子型別法として
■ おわりに
確立する試みが進められてきました。現在は
Japan Anti - Tuberculosis Association ( JATA )
( 12 ) - VNTR が国内標準法として提唱されています。
今後、この VNTR 法を利用した結核菌の型別法
これは、北京株において変異の大きい 12 の領域
が全国に普及し、型別結果の共有化ができれば、
感染性の高い結核菌や治療の困難な結核菌を初
が選ばれており、同組み合わせに基づいた精度管
理、および各自治体の地 方衛生研究所への技術
期に把握するとともに、異なる自治体間でのデー
タの比較ができるため、広域的な結核菌の感染動
展開が進められている段階です。
向をも把握することが可能になります。また、精
このように、VNTR の国際標準の型別と、地域
度の高いデータベースが完成すれば、 結核菌の
に密着する型別には、異なる領域を設定する必要
性があり、両者の領域を一つのセットの限られた
感染拡大を防ぐための対策に貢献することができ
るようになります。
(微生物部 小川 保)
(ミニサテライト)
↓
A
B
C
領域1
菌株 A
領域2
領域4
領域3
A
A:1-2-3-1
菌株 B
B
B:2-3-2-3
菌株 C
C
C:3-4-1-2
↑
(プライマー)
(a)DNAのミニサテライト
挿入部位の領域を
PCRで増幅する。
(b)電気泳動法で測定
(個数が少ないほど
下へ動く)、ミニサテ
ライト数を算出する。
図
表
領域
菌
株番号
V0420
V0960
V1955
12003
12006
12007
12008
12009
12010
4
2
2
1
4
2
3
3
3
3
3
3
4
1
2
3
3
2
VNTR 分析法の原理と操作
縦列反復配列(TR)シートの一例
V2074 V2163b V2372
3
2
3
3
3
2
6
2
1
7
3
5
(c)各領域について(a)、(b)を行い、
(d)各領域のミニ
それぞれのミニサテライト数を算出する。
サテライト数を並
べ、VNTR型別の
データを得る。
3
2
4
3
3
2
V2996
V3155
V3192
V3336
V4052
V4156
V2165
7
5
5
7
7
4
4
4
2
4
4
4
5
3
2
5
2
3
7
7
6
7
4
5
9
4
8
9
3
6
3
3
3
5
4
3
4
2
2
4
4
4
- 2 -
V1982 V2163a
8
5
2
9
10
2
8
2
1
8
>20
5
食品中の放射性セシウムの 新基準値が施行されました
福島第一原発事故直後の平成23年 3 月17日に、厚生労働省は食品中の放射性物質に関する暫定規制値を設
定しました(衛研だより No.88 記事参照)。これに対し、消費者から不安の声も上がったことから、“暫定規
制値に適合している食品の安全は確保されているが、より一層の安全と安心を確保する観点”から、より厳し
い基準値が設定され、平成24年 4 月に施行されました。(表)
新基準値のポイントは以下の 3 点に要約されます。
① 対象核種は放射性セシウム / ② 食品区分は 4 つ / ③ 米、牛肉および大豆に経過措置が設定された
① について… 暫定規制値で対象となっていた放射性ヨウ素(ヨウ素 - 131)は、半減期が 8 日と短く、現在
では検出例も報告されていないことから除かれました。半減期が 1 年以上の他の放射性核種(ストロンチウム
- 90、プルトニウム、ルテニウム - 106)は、測定に時間がかかるため、放射性セシウムのみを対象とし、放射
性核種全体で許容される被ばく線量を超えないように基準値が設定されました。
② について… 「飲料水」、「牛乳」および「乳児用食品」は「一般食品」より厳しい基準値が設定されま
した。摂取量が大きいこと(飲料水)、小児は放射線
に対する感受性が成人より高いこと(牛乳および乳児
表
用食 品 ) などが そ の理 由 です。 な お、 “ 乳飲料”は
「牛乳」の区分に含めるが“乳酸菌飲料”は「一般食
放射性セシウムの新基準値
基準値
食 品 群
品」の区分に入るなど、どの区分に入るのか注意が必
要な食品があります。
(ベクレル/kg)
飲料水
10
(飲用茶を含む)
③ について… 米と大豆は 1 年 1 作の農作物であり、
平成24年産が流通するまでの期間は暫定規制値が適用
牛乳
50
(牛乳,低脂肪乳,
加工乳および乳飲料)
されます。牛肉は、4 月以前に と畜された冷凍牛肉の
在庫がなくなるまでの期間などが考慮されて、経過措
乳児用食品
置が置かれました。また、その他の加工食品について
50
(乳児用調製粉乳,乳幼児向け
飲料,ベビーフードなど)
も、平成24年 3 月31日までに製造された食品は、その
賞味期限まで暫定規制値が適用されます。(図)
(食品部 宮崎仁志)
一般食品
10月
100
平成25年 1 月
加工食品
賞味期限まで暫定規制値
(平成24年3月31日までに製造されたもの)
米・牛肉
暫定規制値
新基準値
米・牛肉の加工食品
賞味期限まで暫定規制値
(平成24年9月30日までに製造されたもの)
大豆
暫定規制値
大豆の加工食品
新基準値
賞味期限まで暫定規制値
(平成24年12月31日までに製造されたもの)
図
暫定規制値の経過措置期間
- 3 -
平成23年度 JICAマイコトキシン検査技術コース
独立行政法人国際協力機構(JICA)兵庫センター主催のマイコトキシン検査技術コースが、本年も 2 月 1 日
から 4 月20日まで開催されました。今回は、アルゼンチン、スリランカから各 2 名、モンゴル、ミャンマーから
各 1 名の計 6 名の研修生が来日し、当研究所では 3 月 7 日から 3 月23日まで研修を行いました。
マイコトキシン(カビが産生するヒトや動物の健康に影響を与える化合物の総称)には、強い毒性を有してい
るものがあり、汚染食品の長期間摂取は発ガンや肝障害などを引き起こすため、世界的に問題となっていま
す。このような背景からマイコトキシン検査技術コースは開催されており、こ
のコースを通じて研修生たちは、マイコトキシンを産生するカビの同定法やマ
イコトキシン検査法を習得していきます。今年は研修時以外にも、当研究所の
職員たちと交流が活発に行われ、お互いに決して忘れることのない思い出が
できたのではないかと思います。
(食品部 谷口 賢)
中部大学 学生研修
3 月 7 日から 3 月23日にかけて、中部大学 応用生物学部 食品栄養科学科所属の学生 3 名が、マイコトキシ
ン検査技術習得のために来所しました。上記の JICA 研修中であったため、JICA 研修員に混ざり実習を行って
もらいました。研修当初は、研修員との会話や英語を用いた講義・実習に戸惑っていましたが、徐々に慣れた
様子で楽しく研修を行ってもらえたようでした。本研修で学んだことが今後の研究の一助となれば幸いです。
(食品部
◆ 編集・発行
名古屋市衛生研究所
〒467-8615
TEL 052-841-1511 / FAX 052-841-1514
谷口
賢)
名古屋市瑞穂区萩山町 1-11
「衛研だより」は、古紙パルプを含む再生紙を使用しています。
名古屋市衛生研究所の横を流れる 山崎川の夜桜
- 4 -
No.
93
名古屋市衛生研究所
2012/9
衛生研究所の行政評価(外部評価)
■ はじめに
「見直し」、「継続」の 4 区分により判定します。
1 件あたりの評価時間は、約 2 時間です。
名古 屋市衛生研究所は、平成24年度行政評価
の外部評価(新聞報道では「事業仕分け」と言っ
ています)の対象事業となり、7 月27日 ( 金 ) ~29
日 (日 ) の 3 日間の日程のうち、29日 (日 ) に市民判
《市民判定員の 選出方法》 住民基本台帳から
無作為抽出で、20歳以上の4,000名に案内を送付
し、そのうち参加を希望する方から、性別、年代
定員の評価を受けました。そこで以下、行政評価
の概要について報告します。
を考慮し、抽選により選出しました。
■ 衛生研究所に係る論点
■ 行政評価の流れと目的
論点は、次の 2 点です。
行政評価の流れを、下の図に示します。
( 1 ) 体系化:最初に、名古屋市の約1,600の全
① 検査業務の考え方について
これまでも見直しを行ってきたが、更なる
事業につき、市の総合計画である「中期戦略ビジ
見直しや、民間委託化を進めることで組織体
制の簡素化・効率化を検討する必要があるの
ョン」の45の施策に基づき体系化を行いました。
( 2 ) 内部評価:そのうち約160の事業(手段)
ではないか。
につき、施策(目標)に対する有効性・達成度・
② 研究業務の市民への説明について
効率 性などの観点 から、 行政 内部での点 検・評
研究結果が行政課題にどのように反映され
たかがわかりにくいため、市民に対してわか
価を行いました。
( 3 ) 外部評価:さらにその中の14事業について、
公開市民参加による外部評価を行い、市民の事業
への理解を深め、市政へ参加する機会としました。
同時に市民の意見を、事業の方向性を決める上で
りやすく説明する必要があるのではないか。
この 2 点に対する所管局の考え方は、以下のと
おりです。
① 検査業務の考え方について
衛生研究所で行っている検査の 7 割は、行
の参考とし、行政資源(財源・人材)の有効活用
を図ることとしています。
政処分・指導の科学的根拠となる検査であり、
今後も行政が責任を持って実施する。3 割は、
■ 外部評価の方法
検査の特殊性や件数などから民間では実施し
ていないため、衛生研究所で行う必要がある。
対象事業について、コーディネーター(大学教
授)の進行により、5 名の有識者(大学教員、企
今後は民間での実施状況を見ながら、見直し
や民間委託化を検討する。
業経営者等)が議論を行い、それをもとに市民
判定員 20名が、「廃止・撤退」、「民営化」、
(1)体系化
(2)内部評価
(3)外部評価
本市の全事業を「名古屋市
中期戦略ビジョン」の施策
のもとに体系化
市内部による、施策への貢
献度の観点を取り入れた点
検・評価
公開市民参加による外部評
価
- 1 -
外部評価対象事業一覧より
平成24年度
予算額
衛生研究所
101,108 千円
衛生研究所分
中期戦略ビジョンの中で
選定する際の主な視点
民間活力の積極的な導入
及び施策実現の効果
最も関連する施策
健康で衛生的な暮らしを守ります
② 研究業務の市民への説明について
調査 研究 業務 の目的 は、「試験 検査の精
廃止という点からも、早く新・衛生研究所を作
るべきだと思う。
度向上・迅速化・費用削減」、「新たな感染
症など健康危機に対する備え」、「研究員の
・生活・健康という生きる上で重要な役割を担っ
ている衛生研究所は、もう少し人員を増やす。
技術の維持・向上」であり、その成果は、市
民の健康で衛生的な暮らしを守るために活用
設備予算の拡大も場合によっては必要ではな
いか。
されている。
今後は、積極的に、市民へわかりやすく研
② 市民へのPRに係る意見
・食の安全、命の安全は人間存続の問題。衛生
究成果等の情報発信をし、市民向けの講座や
体験学習等を充実する。
問題を無視する事は絶対に考えられない。広
く衛生研究所の存在をPRし、一般市民(一般
社会)からのニーズに答えるべき。
■ 判定結果
・是非、市民の衛生、保健意識を向上させるよ
うれ
対象となった14事業(事業費は 約49億5,112万
うな講座などを実施してもらえると嬉しい。
円)の判定は、「見直し」8 件、「継続」5 件で
した。「廃止・撤退」、「民営化」はありません
■ 最後に
でした。
衛生研究所の判定は、「継続」でした。市民判
市民判定員の意見の 一つに、「私達の生活に
かかわる仕事をしているという事がよくわかった
定員19名の判定結果の内訳は、「継続」14名、
「見直し」4名、「廃止・撤退」1名、「民営化」
が、今までこのような施設がある事を知らなかっ
た。」というものがありました。今回の外部評価
0 でした。
は、マスコミにも取り上げられ市民の皆さんに衛
生研究所を理解してもらうよい機会になったので
■ 衛生研究所に係る主な意見
市民判定員の意見は、大きく分けて 2 つでした。
建て替えや事業の拡充等に係るものと、市民への
PRに係るものです。
はないかと思います。あわせて、市民の皆さんが
理解しやすいPRの方法を検討していかなければ
ならないと感じました。
また、「市民の健康安全の任務をしっかりでき
① 建て替えや事業の拡充等に係る意見
るようにしてほしいと思う。」という意見もあり、
・市民の安全について考えれば、 必要に応じて
健康危機管理の拠点としての役割の重大さを改め
予算、人員の増が必要と思う。
・耐震性不足、老朽化の点と生活衛生センター
て認識しました。
(事務長
朝日良共)
衛生研究所調査研究協議会 開催される
平成24年度衛生研究所調査研究協議会が 8 月 7 日 (火 ) 、衛生研究所会議室において開催されました。この
協議会は、学識経験者(大学教授) 3 名と健康福祉局関係職員 9 名の計12名の委員で構成されています。
経常調査研究(衛生研究所が自主的に実施)、要望調査研究(局からの要望によるもの)および特定調査
研究(国やその他の事業体との依頼・応募研究)について、それぞれ担当部長から説明があり、各研究成果
についての審議が行われました。
各委員からは、研究テーマは柔軟に対応できるように選定すること、市民にとって重要な研究が多く、調査
研究結果の外部への周知方法を検討すること、また予算を増強しつつ、更に充実した研究に努めること等の意
見を頂きました。
- 2 -
環境衛生監視員新規研修 実施
今年度から新たに環境衛生監視員になった保健所等の職員 6 名の新規研修が、7 月
31日 ( 火 ) に衛生研究所で行われました。微生物部の担当者が細菌試験について解説
し、生活環境部の各担当者が、室内空気試験、家庭用品試験、衛生動物試験および
飲料水試験について、それぞれ解説しました。
毎年、名古屋女子大学 家政学部 食物栄養学科の 3 年生が、当研究所の施設見
学に訪れています。今年も 7月10日 (火 ) に84名が来訪しました。
まず事務係から研究所の概要の説明があり、続いて
疫学情報部と微生物部細菌室の担当者が、それぞれの
業務内容などについて説明を行いました。
その後、グループに分かれて、微生物部ウイルス室、
食品部、生活環境部(家庭用品室、水質室および衛生動物室)を見学し、各部の
担当者が説明を行いました。
豊岡小学校3年生の施設見学
衛生研究所では、市民の施設見学を積極的に受け入れていますが、その
中で注目を集めている見学があります。瑞穂区内にある豊岡小学校 3 年生に
よる見学です。今年で 7 回目を迎え、7 月 2 日 ( 月 ) に55名の児童が訪れまし
た。人数が多いので、2 組に分けて行いましたが、盛況のうちに終えること
ができました。ふだん接することのない場所での経験であり、子どもたちに
も良い思い出ができたようです。
後日、児童の皆さんから、お礼のたよりを文集にしていただきました。
ここにそのうちの数点の内容をご紹介します。
● 菌は体の中に入ると、おなかが いたくなったりするのは 知っていましたが、菌で薬を作ることができる
ということを知って ビックリしました。
● あぶない水とあぶない水をあわせたら、ただの しお水になると分かりました。
● 一番心に のこったのは、水の色が かわる実けんでした。とう明な水が ピンク色に かわった時 びっくり
しました。いっしゅんで かわったからです。
● 虫を どあっぷしてみた ハチのはりをみれて、すごくびっくりしました。
● ふくのじっけんや 油がしを光にあてるとわるくなるということを おしえていただきありがとうございます。
―
お忙しい中、何度も足を運んでくださった担任の鳥居先生、ありがとうございました。
(事務係長
- 3 -
野沢光雄)
衛研 TOPICS
寺田食品部長
日本薬学会東海支部功労賞を受賞
平成24年度日本薬学会東海支部総会が 7 月 7 日に静岡県立大学で開催され、寺田久屋 食品部長が
功労賞を受賞しました。
日本薬学会東海支部は東海 4 県(愛知、岐阜、三重、静岡)の薬系大学、病院、衛生行政および
製薬会社に属する薬学会員で構成され、各所属の代表幹事が中心となって運営されています。寺田
部長は、平成15年度から平成22年度までの 8 年間にわたり衛生行政代表幹事を務め、その間に学術
奨励賞選考会委員、監事等として活躍しました。今回、長年の貢献が認められ、功労賞受賞にいた
りました。
第33回地方衛生研究所全国協議会 東海・北陸支部総会 開催
- 支部長表彰に 鈴木昌子 主任研究員 -
第33回支部総会が 6 月15日、アイリス愛知にて開催され、東海・北陸 6 県 2 市の研究所長はじめ11
名が出席して、事業報告および各研究所からの提案議題が討議されました。そして研究業績が極めて
顕著であった 2 名に対し支部長表彰が行われ、当研究所生活環境部から 鈴木昌子 主任研究員が栄え
ある賞を受けました。
鈴木主任研究員は、1988年 4 月に当研究所に入所以来、水質調査や食品用器具・容器包装中の有
害物質の分析など環境衛生および食品衛生分野の調査・研究業務に携わってきました。食品用器具
・容器包装の分野では、厚生労働省の研究事業にも参加して分析法の開発等に尽力し、高い評価を
受けてきました。今後のさらなる成果が期待されています。これら一連の日常業務および研究業績
が評価され、今回の受賞にいたりました。
親子体験教室
大事な栄養素 ~ 油と上手に付きあおう!
7 月27日 (金 ) 午後 1 時~ 4 時、衛生研究所 2 階共同実験室
において、名古屋市内の小学 5 ~ 6 年生とその保護者 4 家族
10名を対象として、親子体験教室を開催しました。今年の担
当である食品部では、新しい試みとして、「油」をテーマに
した内容を企画しました。食べ物に使われている油が悪くな
るとはどういうことかを知っていただき、食品に関する理解
を深めてもらうことを目的にしました。
まず、食品部で行っている、油に関する仕事についての説
明や、これまでに市民から持ち込まれた油の苦情事例、油
の法規制などについての話をし、実際に悪くなった油の臭
か
いを嗅ぐなどの体験をしてもらいました。
次に、「油の酸化」を調べる実験を行いました。ポテトチップスから抽出した油を使って、油の酸化を「試
験紙」と「機器分析」の 2 つの方法で調べてもらいました。「機器分析」の実験では、分光光度計を用いた
本格的な測定をすることで、このような研究機関でしかできない体験をしてもらえたと思います。どの参加者
も熱心に実験をし、真剣にメモを取るなどの姿が見られました。このような体験教室をきっかけに、子どもが
科学に興味を持ってくれればうれしく思います。
◆ 編集・発行
(食品部
名古屋市衛生研究所
〒467-8615
TEL 052-841-1511 / FAX 052-841-1514
小野田 絢)
名古屋市瑞穂区萩山町 1-11
「衛研だより」は、古紙パルプを含む再生紙を使用しています。
- 4 -
No.
94
名古屋市衛生研究所
2012/12
新しい食中毒 ~ クドアによる食中毒 ~
■ はじめに
ここ数年、食後数時間程度で一過性の嘔吐、下
食から発症までの時間が短く(2~10時間、平均
5 時間程度)、症状は一過性であることから、毒素
痢を呈する、比較的軽症な有症事例が全国的に報
によるものではないかと考えられましたが、マリン
告されていました。それらの事例の共通食として
生鮮魚介類、特にヒラメの生食が多く、関与が疑
トキシン、レクチンなど様々な既知の毒素は検出さ
れませんでした。そこで新しい毒素「ヒラメトキシ
われていました。しかし、患者検体や食品残品か
ら原因物質が検出されない、あるいは検出されて
ン」の存在が疑われました。しかしながらヒラメト
キシンの存在を突き止めることはできずにいました。
も症状と合致しないことから、原因不明事例とし
て処理されていました。
その後、喫食残品のヒラメと市場流通ヒラメ、
それぞれから抽出した DNA を網羅的に読み取り、
2008年から厚生労働省による全国調査および原
因の検討・予防策についての研究が実施され、そ
比較するメタゲノミック解析を行いました。すると、
喫食残品のヒラメだけに粘液胞子虫の DNA が多
の成果をもとに2011年 4 月に、ヒラメの喫食が関
く含まれていることがわかりました。その DNA 配
与している原因不明有症事例は、寄生虫の一種で
列を詳しく解析したところ、クドア属の新しい種で
ある Kudoa septempunctata (以下「クドア」と
称し、他のクドア属との比較などでは K. septemp
あることがわかりました。こうして K. septempun
ctata は発見され、2010年10月に兼松らによって
unctataと呼びます)の関与が強く示唆されるとの
提言がなされました。2011年 6 月17日、厚生労働
省からの通知により、クドアが新たに食中毒の原
因として取り扱われることとなりました。それに伴
って、厚労省は 7 月11日にクドアの検査法を暫定
法として各自治体宛に通知し、クドア検査の態勢
が整いました。
論文報告されました。
ク
ド
ア
セ プ テ ン プ ン ク タ ー タ
■ クドアの形態と生活環
クドアは、ミクソゾア門に属する 粘液胞子 虫類
の一種です。粘液胞子虫類は世界中で2000種類
以上報告されていて、分子系統学的にはクラゲや
イソギンンチャクなどの刺胞動物に近縁であること
はちゅう
がわかっています。粘液胞子虫は、爬虫類や両生
類に寄生するものもいますが、そのほとんどが魚
■ K. septempunctata 発見の経緯
K. septempunctata は、この原因不明有症事例
を究明する過程で発見された新種のクドア属です。
どのような経緯で発見に至ったのでしょうか?
まず、全国的な疫学的調査で、ヒラメの生食を
共通食とする事例が多いことがわかり、ヒラメに
着目して調査が行われました。ヒラメの生食によ
る有症事例を収集して、患者検体、食品残品の細
菌学的、ウイルス学的検査を行いましたが、それ
らに共通した病原体は検出されませんでした。喫
- 1 -
類の寄生虫です。クドア属は、多細胞動物で、内
きよくのう
部にコイル状の極糸のある、極 嚢という構造を持
つ胞子を形成します。クドア属は極嚢と胞子原形
質を含む胞子殻から成り、約10μmの大きさです。
極嚢の数は種によって異なり、 K. septempunctata
は 6 ~ 7 個の極嚢を持っています(次ページの写
真)。この特徴から、 septempunctata( 7 つの点
という意味)と名前が付けられました。
K. septempunctata 以外には、4 つの極嚢を持
つ筋肉寄生クドアが知られています。 K. amamiens
is や K. thyrsites 、 K. lateolabracis がその代表と
内に侵入することにより腸管細胞に 10μm 以上の
大きな穴をあけて、その腸管細胞の障害が食中毒
して 挙 げ ら れ ま す 。 こ れ ら の ク ドア 属 は 、 シスト
(胞子の集合体;白い 2 ~ 3 mm の粒状)が肉眼
用症状である下痢等の症状を引き起こします。こ
のことは、サックリングマウス(乳のみマウス)に
で確認できたり、ジェリーミート(筋肉融解現象)
胞子を飲ますと下痢症状を呈すること、ヒト培養腸
の原因となったりして魚の商品価値を落とすこと
管細胞に胞子を接種すると細胞の透過性が亢進し
から、水産業界では問題視されてきましたが、食
中毒の報告はなく公衆衛生学的には無害と考えら
下痢と同様の状態を示すことで証明されました。
サックリングマウス、培養腸管細胞ともに予後は良
れてきました。これらの肉眼で寄生がわかるクド
ア属と異なり、 K. septempunctata は、肉眼では
好で短時間のうちに回復します。
ヒトの腸管細胞に侵入した原形質は、細胞内で
見つけることができない仮性シストを形成します。
K. septempunctata の詳しい生活環(成長~生
分解されてしまい、ヒトの消化管では定着・増殖
は起きません。ヒトが本来の宿主ではない上、ヒ
殖等の周期)は明らかになっていませんが、他の
クドア属と同様に、魚類と、ミミズやゴカイなどの
環形動物を、交互に宿主とするのではないかと考
ラメが生息する海水と、ヒトの細胞内の浸透圧と
の違いなどもあって、ヒトの腸管内では長い時間
生息できないのではないかと考えられています。
えられています。すでにわかっている他の粘液胞
したがって食中毒症状は一過性を呈するわけです。
子虫は、魚体内から粘液胞子虫胞子が水中に放出
なお、スンクス(ジャコウネズミ属の小型動
されると、環形動物に食べられ、その体内で有性
生殖が行われ放線胞子虫に変態して、再び水中に
物)に胞子を飲ませると一過性の嘔吐を引き起こ
すことがわかっていますが、その発症機序は明ら
放出されます。水中を浮遊している放線胞子虫は、
先端に原形質を有していて、魚と接触すると皮膚
かになっていません。
感染により魚体内に原形質が侵入し、粘液胞子虫
のステージが始まると考えられています。 K. septe
■ 検査について
mpunctata においても、ヒラメから放出された胞
子が次のヒラメに直接感染することはないと考え
られているのです。
標的としたリアルタイム PCR 法と顕微鏡検査が通
知 さ れま した。 その 後、 通知さ れ たリアルタイム
2011年 7 月に、クドア検査法として 18SrDNA を
PCR 法では特異性に乏しく、ヒラメに寄生する他
のクドア属にも交差することがわかったため、改
■ ヒトへの病原性
ヒトがクドアに感染する場合、感染ヒラメを生で
良が行われて、2012年 6 月に新たなリアルタイム
PCR 法が発表されました。しかし、18SrDNA コピ
喫食し、胃を通過し腸に達します。腸に達した粘液
ー数と実際の胞子数との相関が明らかではないこ
胞子は、極糸を放出し、胞子中に 2 個存在する原
形質が腸管細胞内に侵入します。ここまでの経過
とから、最終的な判断には、顕微鏡観察による 6
~ 7 極嚢のクドア胞子の確認が必要になります。
時間はおよそ 2 ~ 3 時間程度です。原形質が細胞
ここで触れておきたいのは、ヒラメに感染して
(上面)
(やや上面)
(斜め上)
(ほぼ側面)
K. septempunctata の顕微鏡写真
- 2 -
いけす
いるクドア数は、同一養殖生簀のヒラメであって
も、つまり同一ロットであっても個体間でかなりば
食中毒と判断されました。
らつきがあることです。すなわち、高濃度のクド
ア感染ヒラメと同一ロットのヒラメすべてが同様に
■ クドア食中毒の対策
感染しているわけではありません。ヒラメが関与
することです。クドアの失活方法ですが、中心温
する食中毒の検査を実施する場合には、喫食残品
度 75℃ で 5 分の加熱、-80℃ で 2 時間もしくは-
のヒラメを検査することが重要です。同一ロットの
ヒラメがあるからといってそれを検査しても、実際
20℃で 4 時間以上保存することで病原性を失うこ
とが明らかになっています。ヒラメを生食するにあ
に患者が喫食したヒラメのクドア含有量とは全く異
なる可能性があります。また、宴会など複数のヒ
たって、冷凍処理はヒラメの商品価値を落とすた
め、残念ながら予防法としては現実的ではありま
ラメが提供された大規模な食中毒の場合、提供さ
れたヒラメ全てがクドアに感染しているわけではな
せん。
クドアによる食中毒の多くは養殖ヒラメによるも
いので、ヒラメのオッズ比( 2 つの群の起こりや
すさを比較する統計学的尺度)が低く出る傾向が
あり、解析には注意が必要になります。
のですが、天然ヒラメによる事例も報告されてい
ます。天然物であっても、クドアに汚染された海
域で水揚げされたヒラメには寄生している可能性
対策としては、クドア属を含まないヒラメを供給
があります。
■ 食中毒事例の発生状況
前述したように、クドアは環形動物を介して魚に
クドアによる食中毒は、2011年は通知が出され
た 6 月以降33件、2012年は10月末までで25件が
感染し、魚から魚へ直接寄生することはできない
と考えられています。環形動物が生息しない生簀
報告されています。この食中毒の発生には季節性
がみられ、夏季に急増しています。ところが、ヒ
などの環境では、養殖場内で感染が広がることは
ありません。したがって汚染エリアからは稚魚を導
ラメの取扱量自体は夏季に減少する傾向にありま
す。原因ははっきりわかっていませんが、海水温
入しない、導入時検査・検疫を実施するなどの対
策を取る必要があります。また、養殖に使用する
の上昇と何らかの関連があるのではないかと考え
られています。
海水を、清浄な海水を使用することで防止が可能
になるほか、水温を下げるとクドアの寄生数が減
名古屋市内においても、厚労省の通知から約 2
少するとの報告もあります。現在、国内産のヒラ
か月後の2011年 8 月、共通食にヒラメの刺身を含
メに関しては、上記のような対策のもと安全性の
む有症事例が発生しました。潜伏時間は平均 3.2
時間と短く、患者は一過性の下痢・嘔吐を呈して
高いものとなっているそうです。
K. septempunctata は2010年に発見され、まだ
いました。提供されたヒラメの残品についてクドア
明らかになっていないことが多い寄生虫です。現
検査を行ったところ、リアルタイム PCR 法による遺
伝子検査で 5.4×10 9 コピー/g(10 7 コピー/g 以
在行われている調査研究から、有効な予防対策や
効率の良い検出法の開発が進むことが期待されて
上が陽性)、顕微鏡検査で 6.4×105 胞子/g(105
胞子/g 以上が陽性)が検出され、クドアによる
います。
(微生物部
小平彩里)
名古屋大学留学生の見学
11月15日 (木 ) 午後、モンゴル、タイ、ラオス、ミャンマー、カンボジア、カザフスタン、ウズベキスタン、バ
ングラデシュ、ルーマニア、アフガニスタンおよびキルギスの11か国12名(男性 7 名、女性 5 名)の留学生が、
所内見学に訪れました。彼らは、名古屋大学大学院 医学系研究科 修士課程 医科学専攻医療行政コースに参
加している、医師や看護師です。この見学は、学内講義だけでは修得困難な現場における実践活動を、見聞
し体験することで広く医療行政を学ぶことを目的とした、地域保健学の学外実習の一貫となっています。
衛生研究所業務の全体説明と所内案内を生活環境部・中島部長が担当し、各部の具体的な業務内容につい
ては、疫学情報部・秋田部長、微生物部細菌室・籔谷研究員、同部ウイルス室・小平研究員、中村研究員、
食品部・加藤 (由 ) 研究員、生活環境部水質室・大野主任研究員および同部衛生動物室・上手研究員らが詳し
い説明を行いました。
今回、若手研究員 4 人が初めて英語での業務説明を行いました。彼らにとっては、英語の資料作成や英会
話の準備など大変なことだったと思いますが、とても良い経験になったのではないでしょうか。
- 3 -
セアカゴケグモにご注意を!
セアカゴケグモは、本来オーストラリア、東南アジアなどの熱帯、
亜熱帯地域に生息する毒グモです。
メスは 1 cm 程度あり、全体黒色で背中の中央には赤い斑紋がある
ため、いかにもという形態をしていますが、オスは 3 mm 程度で腹部
が細長く、体色も淡いので、一見すると セアカゴケグモ らしからぬ
形態をしております。セアカゴケグモを含むゴケグモ類は、雌雄とも
に腹面に砂時計形の赤い斑紋があるので、この形態を特徴に、他の
クモとは区別することができます。
国内では、平成 7 年に大阪で見つかったのが最初で、その後三重
県などでも発見され定着しています。名古屋市では平成17年に緑区
で発見され、その後は港区を中心に多くの個体が見つかっています。
(写真:名古屋市港区で発見された セアカゴケグモのメス)
また、平成17年には特定外来生物に指定され、飼育、運搬、販売
などの行為が原則禁止されています。
おとなしいクモですが、側溝内部、フェンスの基部、墓石の隙間
などの他に、庭やベランダに置いてあるスリッパやプランターの持
ち手や裏など人工構造物の隙間を好むため、そこに潜んでいた個体
に触れて、かまれてしまうことがあるようです。庭に出て作業する時
などには、軍手を使用するなど十分注意してください。
かまれてしまった場合には、激しい痛み、発汗、吐き気などを引
き起こすことがあります。傷口を水で洗い流して、直ちに病院へ行っ
てください。その際、かまれたクモを殺して持参することで、より適
切な治療につながります。
(生活環境部
上手雄貴)
編集後記
ª
研究員の皆さんが執筆する、衛研だよりの記事は、まさに科学・技術の専門職の仕事ぶりを紹介してい
るものである。これを、できる限り見やすくすべく委員会で編集している。そして、願わくはできる限り多くの
人たちに見ていただきたい。
¨
(編集委員長・副所長 安井広明)
金環日食に始まり、金星日面経過、金星食と珍しい天体現象が多かった2012年。そういえば今年は空を
見上げることが増えたかも?
©
(疫学情報部 牛田寛之)
少し前に『 i Pad 』を購入し、使い始めました。時々、頭がごちゃごちゃになり、パソコンの画面も指で
タッチしてしまって、「? ?」と思っている私です(汗)。
(事務係 小出一枝)
♪ 衛研だより編集委員会の事務局が「編集後記の原稿を書いてください」と私にお願いにきました。私は
「分かりました」と返事をしました。そして、今、書き終わりました。
(微生物部 石井譲治)
§
早いものでもう12月になりました。今年は仕事上でも個人的にも色々あったので、特にあっという間に過
ぎた気がします。良いこともあり、悪いこともあり、思い出深い年になりました。
(食品部 谷口 賢)
いちよう
まばゆ
晩秋の午後、灯りを消した実験室がなぜか明るい。窓の外では研究所の庭の銀杏たちが、陽の光を受け
こがねいろ
眩 いほど黄金色に輝いていた。自然の恵みを感じるひとときでした。 (編集担当・生活環境部 岩間雅彦)
◆ 編集・発行 名古屋市衛生研究所
TEL 052-841-1511 / FAX 052-841-1514
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「衛研だより」は、古紙パルプを含む再生紙を使用しています。
- 4 -
No.
95
名古屋市衛生研究所
2013/3
食品のカビ - カビによる苦情事例 -
■ はじめに
胞子を大量に作り、雨、気流、接触などのさまざ
名古屋市衛生研究所食品部では、市民から保健
所に寄せられた食品に関する苦情や相談への対応
まな要因により周囲に飛散します。飛散した胞子
は発育可能な環境になると発芽・生育し、再び胞
として、検査が必要と判断されたものについて、
その内容に応じた原因究明や情報提供のための検
子を形成するというライフサイクルを繰り返します。
■ カビが生える条件は?
査を行っています。市民から寄せられる食品に関
する苦情内容は、主に「異物混入」(虫や毛など
カビが生育するのに必要なのは、「栄養分」、
「酸素」、「温度」、「水分」です。菓子類、果
の異物が混入している)、「異味・異臭」(味や
実類、ジュースなどの飲料類は、栄養分となる糖
分やでんぷんを多く含むので、カビが生えやすい
臭いがおかしい)、「カビの発生」の 3 つに分け
られます。その中でも「カビの発生」による苦情
は、カビの生育が肉眼的に容易に識別できること
もあり、苦情原因になることも少なくありません。
そ こ で 、 本 稿 で は 食 品 の 苦 情 原 因 と な る 「カ
ビ」について述べるとともに、カビによる苦情事
食品です。
カビが生えるためには空気(酸素)は必要不可
欠です。カビは酸素の多いところによく生えます。
そのため、食品の表面に生育が認められることが
多く、深部には生えにくくなります。しかし、0.1
例についてもご紹介したいと思います。
%でも酸素があれば生育できるカビもあり、液体
■ カビとは?
と同じ「真菌類」に分類されます。
中でも生育することができます。
カビの発生しやすい温度は 20~30℃ で、ヒトの
生活環境の適温と一致しています。30℃ 以上では
カビ、酵母、キノコという呼び名は学問的な正式
名称ではなく、外見的な形態から付けられた俗称
生えにくくなりますが、冷蔵庫(4℃)の中でもゆ
っくりと生えることができます。
です。カビは糸状の細胞である菌糸を伸ばして成
長するもので、糸状菌とも呼ばれます。酵母は単
食品中の水分のうち、微生物が使うことのでき
る水分(自由水)の割合を「水分活性」といいま
細胞状で出芽や分裂により増えるもの、キノコは
す。この食品の水分活性の違いによって、発生す
菌糸が集合して子実体を形成するものをいいます。
るカビの種類が異なります。カビは発育可能な水
しかし、真菌類の形態は環境条件や成長段階で
異なるため、外見的な特徴だけで分類すると不都
分活性により、「好湿性カビ」、「中湿性カビ」、
「好乾性カビ」の 3 つのグループに分けられます。
合が生じます。そのため、有性生殖の有無、ライ
フサイクルの違いなどの生物学的特徴により分類
それぞれのグループのカビの、発育可能な最低
水分活性は、順に 0.94~0.99、0.85~0.93、0.65
されています。この分類では、カビは接合菌類、
~0.84 となっており、好乾性カビは微生物の中で
子嚢菌類、担子菌類、不完全菌類に含まれます。
も最も低い水分活性で生育可能です。
カビは主に「菌糸」と「胞子」から成り立って
います。菌糸は丈夫な壁を持ち、分岐しながら先
カビの苦情食品(加工食品)と原因菌には、あ
る程度の相関性が認められています。乾燥食品や
端成長し、集落を形成します。成長するに従い、
菓子類では乾燥した条件を好む Eurotium、
微生物の分類において、カビは、酵母、キノコ
し の う
ユ ー ロ チ ウ ム
- 1 -
ワ
レ
ミ
ア
Wallemia などの好乾性カビ、清涼飲料水などで
ペ ニ シ リ ウ ム
オ ー レ オ バ シ デ ィ ウ ム
ク ラ ド ス ポ リ ウ ム
は Penicillium 、 Aureobasidium、 Cladosporium な
どの中湿性および好湿性カビの発生が多く認めら
れます。
択が重要になります。カビの生えた食品の特性に
より、適した培地を選択します。たとえば、 砂糖
などを多く含む乾燥食品に生えたカビの検査では、
ブドウ糖やショ糖を添加した培地を用いて培養を行
います。培地上に、汚染部位をかき取ったものを
■ 食品衛生におけるカビ
接種し、25℃ で 1~2 週間ほど培養します。培養後、
食品衛生において、カビは、食品の「品質」お
カビの集落の状態や形成された胞子などを顕微鏡
で観察し、形態的特徴を識別できる場合は、カビ
よび「安全性」に影響を及ぼすため問題になりま
す。食品にカビが発生することにより、食品の変
の属までの同定を行っています。
質・変敗を起こし、食品の「品質」が損なわれま
■ カビの苦情事例
す。また、カ ビの中には、ヒトや動物に対して毒
性を示すカビ毒を産出するものがあり、これらは
当研究所に持ち込まれた食品の苦情内容は、平
健康被害をもたらすことから、食品の「安全性」
成23年度は、カビ43%、異物33%、異味・異臭
に関わってきます。
食品の規格基準で、カビに関する項目があるの
17%、有症事例 7 %で、平成24年度は、異物47%、
カビ29%、異味・異臭12%、農薬 6 %、有症事例
は清涼飲料水だけであり、その成分規格は「沈殿
物又 は 固 形 の 異 物 の あ るも ので あっ ては なら な
6 %でした。カビによる苦情は全体の 3~4 割程度
を占めています。
い」となっています。清涼飲料水にカビが発生し
た場合は規格違反となります。その他の食品にカ
以下、これまでに対応した苦情事例の中で、カ
ビが原因であった事例を少し紹介します。
ビが発生した場合は、「不衛生な食品又は添加物
1 ) まんじゅう に 生えたカビ
薄皮まんじゅうの表面に、灰緑色の異物(長さ
の販売等の禁止」を掲げている、食品衛生法第 6
条の違反として対応されます。
数mm)が認められました(写真 1 / 楕円内)。
この部位を顕微鏡で観察したところ、カビの菌糸
■ カビの検査法
と胞子が確認されました(写真 2 )。これを培養
カビによる苦情として持ち込まれた食品を検査
する場合、まず始めに、食品に付着した異物がカ
ビであるかどうかを観察します。食品の汚染部位
した と こ ろ 、 Penicillium 属の カ ビ で あ る こ と が
わかりました(写真 3 )。これは土壌をはじめ
を肉眼または顕微鏡により観察し、カビ汚染であ
自然界に多く存在しているカビで、穀物や果実、
るかどうかを判断します。カビ汚染である場合は、
カビの菌糸や胞子が見られることが多いため、比
冷 凍 食 品 な ど 様 々 な 食 品 か ら 分 離 さ れ ま す。
較的簡単にカビ汚染であることの確認ができます。
Penicillium 属のカビにはカビ毒を産生するものも
あるので、注意が必要です。
しかし、顕微鏡による観察だけではカビの種類
まで特定することは難しいため、次に培養による
2 ) しゃぶしゃぶ たれ中のカビ
しゃぶしゃぶ たれの中に、長さ約 3 cm の黒い
検査を行います。培養による検査では、培地の選
異物が見つかりました(写真 4 )。これを顕微鏡
写真 1
写真 2
写真 3
写真 4
写真 5
写真 6
- 2 -
で観察したところ、カビの菌糸のようなものが確
認されました(写真 5 )。これを培養したところ、
住環境を保つことで、カビによる汚染を最小限に
とどめることはできると思われます。
Cladosporium 属のカビであることがわかりました
(写真 6)。 このカビは大気中に多く分布し、食品
汚染事例が最も多いカビのひとつで、チルドのよ
うな低温環境でも食品に発生することがあります。
食品へのカビ汚染を防止するためには、第一に
加工工程、流通過程などの各段階における細か
な衛生管理が重要ですが、家庭においてもカビの
発生を予防することは大切です。食品を保存する
ときには、湿気の多いところに長時間放置しない
ことや、密閉状態にするなど、カビが発生しにく
■ おわりに
カビの胞子は空気中のどこにでも浮遊している
い状態に保つことで、カビ汚染の予防ができます。
(食品部 小野田 絢)
ため、食品へのカビ汚染を完全になくすことは難
しいです。しかし、日頃からカビが生育しにくい
名古屋市感染症発生動向調査委員会 開催
第 7 回名古屋市感染症発生動向調査委員会が 1 月31日 ( 木 ) 、衛生研究所会議室において開催されました。
この委員会は、市内全域の感染症発生に関する情報の収集・分析の効果的かつ効率的な運用を図り、本市の
感染症予防対策に資することを目的として設置され、学識経験者、医療機関の代表者、愛知県衛生研究所長、
名古屋市保健所長の代表者および名古屋市衛生研究所長で構成されています。
感染症発生動向調査事業は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく事業
で、各医療機関から保健所に集められた患者情報や病原体情報を正確に把握・分析し、その結果を保健所や医
療機関に提供するとともに、ウェブサイトにより市民にも情報提供し、感染症の発生とまん延を防止しています。
委員会では、平成24年における 1~5 類全数把握感染症・定点把握感染症の発生動向、病原体検出状況お
しん
よび定点医療機関の整備状況が、それぞれの担当部長から説明されました。発生数の増加が顕著な風疹をは
じめ、平成24年に話題となった疾患について、委員から医療現場での経験に基づく貴重な意見を多数いただ
き、活発な議論がなされました。
(疫学情報部
秋田祐枝)
中学生の 職場体験学習・職場訪問
● 12月 7 日 ( 金 ) 、名古屋市立萩山中学校 2 年生 4 名が当研究所を訪れ、食品部にて職場体験学習を行いまし
た。まず、寺田部長より食品部の業務内容についての説明があり、続いて、食品添加物である保存料の検査
を体験してもらいました。
収去検査では、保存料を水蒸気蒸留法によって食品から抽出し、液体クロマトグラフィーにより測定します。
この検査の流れに沿って、オレンジジュースとワインの中に含まれる保存料を調べる実験を行いました。蒸留
装置や測定機器など、学校では見慣れない器具や機器を用いるため、戸惑う様子もありましたが、積極的に
実験に取り組んでいました。最後に、測定機器から得られた値を用いて、実際にどの
程度食品中に保存料が入っていたかを計算してもらいました。実験の内容を理解してい
ないとできない計算ですが、4 名とも難なくこなし、その理解力の高さに驚かされまし
た。今回のような体験学習を通して、ふだん何気なく食べている食品や科学に対する
興味をさらに広げてもらえれば幸いです。
(食品部
谷口
賢)
● 1 月24日 (木 )、名古屋市立鳴子台中学校の 1 年生 5 名(男子 2 名、女子 3 名)が、分散学習(職場訪問)
のため生活環境部を訪れました。衛生研究所の全体業務について簡単にスライドで説明したのち、検査機器と
衛生動物室を見学してもらいました。
衛生動物室では、ゴキブリ等の衛生害虫やセアカゴケグモ等の標本を見てもらいまし
たが、女子生徒たちは顔をしかめながらも熱心に説明を聞いていました。仕事内容等
に対する質問の中で、「リアルタイム PCR とは何ですか」というかなり専門的な質問
があったため、これについては、遺伝子解析を専門に行っている食品部の宮崎主任研
究員にお願いし、分かりやすい説明を行ってもらいました。
1 時間という短時間でしたが、終始礼儀正しく、真剣に説明を聞いてくれたため、衛生研究所の業務に対し
て理解を深めてくれたことと思います。
(生活環境部
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中島正博)
衛研 TOPICS
地方衛生研究所全国協議会東海・北陸支部衛生化学部会 開催
平成24年度東海・北陸支部衛生化学部会を、 2 月 7 日 ( 木 ) 、8 日 ( 金 ) に中区栄のナディアパーク内
にある国際デザインセンターで、当研究所の担当で開催しました。愛知、岐阜、三重、福井、石川、
富山の 6 県と岐阜市、名古屋市の 8 研究所から42名の参加がありました。
7 日の研究発表では、残留農薬、残留動物薬、アレルギー物質、器具・容器、放射能などに関して
き た ん
合計10題の発表がありました。いずれの発表に対しても、学会とは違った忌憚のない意見交換がな
されました。8 日は、放射能および特定薬物に関するフリートーキングの後、静岡県立大学薬学部の
井之上浩一先生による、「LC-MS におけるサロゲートの必要性と海外における食品分析の紹介」と
題する特別講演があり、来年の福井での再会を期して部会を終了しました。
(食品部
寺田久屋)
環境衛生監視員 2 年目研修
「昆虫などの同定・屋内塵性ダニ類の検査」
1 月30日 ( 水 ) 、健康福祉局 環境薬務課主催の環境衛生監視員 2 年目研修の一環として、昆虫・ダニなどに
関する研修を、衛生研究所第 1 共同研究室において、4 名の受講生を迎えて行いました。この研修は、環境衛
生監視員の世代交代期において、的確に助言・指導ができる職員の養成のために平成18年度より行われてい
るもので、今回が 6 回目の実施です。
研修当日は、昆虫の形態、標本作成法など同定に関する講義を行い、その後、
実体顕微鏡を用いて、トコジラミ、セアカゴケグモなどの標本を観察しました。実
体顕微鏡下の昆虫標本を撮影する実習では、デジタルカメラ、スマートフォンな
ど、各自持参のカメラで撮影を行いました。
じん
午後は、屋内塵性ダニ類検査の
実習を行いました。各自が事前に採
取したサンプルを用いて、実体顕微
鏡下でダニを見つけ出してプレパラート標本を作製しました。
昆虫・ダニの実習の後、生活衛生センターの河村昌輝さんか
ら「居住環境とアレルギーについて」、環境薬務課の尾原 瞳さ
んから「名古屋市の施設等における農薬・殺虫剤等薬剤の適正
使用について」、それぞれ説明していただきました。
この研修を機会として、今後も昆虫などに関する経験を蓄積し
ていただきたいと思います。
(生活環境部
横井寛昭)
編集後記
ª
2 年間、「衛研だより」の編集に携わってきましたが、この 3 月で退職です。いくつ(年齢)になっても
勉強は大切だと、つくづく感じています。
(編集委員長・副所長 安井広明)
'91年の創刊から編集委員で、32号から編集を担当してきました。この春に定年ですが、1 年だけ再任用に
なる予定があり、来年度も編集を担当するなら…最終は 99 号 ?!
(編集担当・生活環境部 岩間雅彦)
◆ 編集・発行 名古屋市衛生研究所
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〒467-8615
名古屋市瑞穂区萩山町 1-11
「衛研だより」は、古紙パルプを含む再生紙を使用しています。
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