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単一欧州航空交通管理プログラム - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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単一欧州航空交通管理プログラム - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
NEDO海外レポート
【宇宙・航空特集】
NO.1040,
2009.3.11
航空管制
単一欧州航空交通管理プログラム(SESAR1)と航空管制の欧米連携
2009 年 2 月 19 日、欧州社会経済評議会(European Economic and Social Committee
-EESC)の主催で、航空交通分野における欧州統合を推進する政策として規制や実務運用な
どの一本化を図る”Single European Sky”イニシアティブ
2
に関するシンポジウムが開催
され、活発な意見交換が行われた 3。その中で欧州委員会運輸担当委員から、航空交通管
理(Air Traffic Management : ATM)の分野における具体的統合である SESAR の促進が人
的移動と経済活動にもたらす有用性が強調されている 4。本稿では SESAR の概要および
SESAR と米国の次世代航空交通管制システムとの連携について紹介する。
1.
SESAR について
SESAR とは、欧州における航空輸送システムの持続可能な発展を保証するために設計
された、いわば成果追求型プログラムとも言うべきものである。その使命は、2020 年まで
に、空港の発着対応能力を現在の 3 倍に増加させ、安全性を現在の 10 倍に改善し、1 飛行
当たりの環境に与える影響を 1 割削減し 5、さらに航空交通管理に関連する費用を半分に
削減する事である。また、運行遅延を減少させ、有効に活用できる時間を増大させる事で
ある。
SESAR 構想を実現する鍵の一つは、航行者や航空交通管理者が協調して最適な航路を
判定する「実用的トラジェクトリ(飛跡)原則」である。EUROCONTROL(欧州航空航
法安全機構 6)の McMilan 事務総長は、
「今日航空機が管理される方法から見て、SESAR
は、より明確な管理がなされるという意味で、パラダイム変換を意味している。我々は、
今日における航空交通の管理方法を変革する。そこでは、航空路は不要となり、最も効率
的なトラジェクトリのみが残る。すなわち、燃料と時間の節約に他ならない。
」と強調する。
SESAR は、既存の及び新たに開発された技術を駆使したプログラムである。その核心
1
Single European Sky Air Traffic Management Research Program:単一欧州航空交通管理プロ
グラム。
2
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=CES/09/14&format=HTML&aged
=0&language=EN&guiLanguage=en
3 http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=CES/09/14&format=HTML&aged=
0&language=EN&guiLanguage=en(開催告知についてのニュースリリース)
http://www.eesc.europa.eu/activities/press/cp/docs/2009/communique-presse-eesc-020-2009-e
n.doc (開催結果のリリース)を参照。
4
誕生の背景には、米国と同様に欧州の航空輸送需要が 2030 年までに平均して 2.7%の成長を遂げ
ることにより現在の 2 倍の大きさとなり、それとともに、環境への配慮がより必要となった事が
ある。
5
全世界における CO2 排出に占める航空機の割合は 2%である。SESAR を通しての地球環境への
配慮について、2008 年 11 月 18 日付 SESAR 共同事業体プレスリリース
(http://www.sesarju.eu/gallery/content/public/doc/AIRE_PR_EN_18112008.pdf) を参照。
6
欧州連合加盟国(27 ヵ国中 25 ヵ国)を含む欧州 38 ヵ国が加盟。
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は以下の 6 つの特徴にある。
z
運用の予測可能性と精度を飛躍的に向上させる、
「トラジェクトリを主体とする運用」
の概念。
z
天候と通行量の変化といったリアルタイムの状況を考慮に入れた運用計画である、離
着陸滑走ネットワーク運用プラン。
z
航空機を含めて、全関係者に正確な情報を的確なタイミングで十分に共有させる航空
交通管理用イントラネットの導入。
z
空港における地上作業の、全体的な航空交通管理システムへの完全な統合。
z
より高次元な作業への集中を可能とする、航空交通管理担当者やパイロットに対する
機器操作の自動化へのサポート。
z
既存の滑走路を最大限活用しながらより環境に優しい航路を実現させる、空港におけ
るより環境に優しい運用の実現。
SESAR は、「SESAR 共同事業体」という単一組織によって運営されている。共同事業
体の使命は、EU 域内での SESAR についての全ての関係する研究開発を調整し集約する
事を通して、欧州における航空交通管理システムの現代化を確保する事とされている 7。
欧州委員会に代表される欧州連合(EU)および EUROCONTROL は、この共同事業体の共
同創設者である。
EU の側は、SESAR について法的・制度的な枠組を提供する。具体的には、欧州議会と
欧州委員会は SESAR を含む”Single European Sky”(欧州単一空域)イニシアティブを設け
る枠組み規定を制定した。こうした”Single European Sky”に関する立法は、欧州連合全
体として航空交通管理おいての能力を向上させるものとなる。欧州委員会はこのイニシア
ティブを推し進めるに当たって、産業界とは業界団体を通して、労働者・使用者双方の団
体とは、労使と欧州委員会との間に設けられた「ダイアローグ委員会」8 を通して密接に
連携する。また、法令を立案するにあたっては、EASA(European Aviation Safety Agency
−欧州航空安全機関)9 が安全基準について欧州委に助言を提供する。
これに対し EUROCONTROL は、高い安全水準を維持し、費用効率を高め、自然環境
と調和しながら航空交通の増大に十分に対応しうる、一体的かつ欧州一帯に広がる航空交
通管理システムの開発を最大の目的としている総計 38 ヵ国で構成される機関である。
EUROCONTROL は、航空交通管理システムに関する最高水準の技能と経験を提供し、当
7
8
9
2009 年末までに、SESAR 共同事業体は”SESAR Label”という認証制度を立ち上げ、現存もしく
は今後製造される個別機の SESAR への対応を促す事になっている。
この委員会の詳細について、EU の外郭団体である「欧州生活・労働条件改善財団」ウェブサイ
トの以下のページを参照
http://www.eurofound.europa.eu/areas/industrialrelations/dictionary/definitions/europeansoc
ialdialogue.htm
その機能強化も、”Single European Sky”の主眼の一つとなっている。
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該プログラムの運用について調整する。それらの作業は、EU による法令の立案の際にも
活用される。
なお、SESAR 共同事業体への加盟資格は、広く他の公的・私的組織に開かれている。
現在、事業体には EU と EUROCONTROL 以外にも 12 の組織が加盟している 10。
2.
航空交通管制分野における欧米間の連携
欧州各国は、自らが推進する SESAR と、米国の次世代航空交通管制システム 11 とを統
合させる事が、将来にわたって重要な事となると考えている。そのためのより密接な協力
は、2008 年 9 月 8∼10 日にカナダ・モントリオールにて開催された ICAO (International
Civil Aviation Organization : 国際民間航空機関)主催のフォーラムにおいて呼びかけら
れた。今日これら欧米の 2 つのプログラムが置かれている状況が示しているのは、世界で
最も繁忙な 2 つの航空交通制御システムを、時代に対応したものにする切実な必要性に他
ならない。
ICAO 本部ビル(モントリオール)
(出典:https://icaosec.icao.int/sec/applications/wcffregistration/)
ICAO フォーラムでは、SESAR と米国次世代システムとの間で一方の開発進捗状況を
他方が共有するプロセスを導入する必要性について、合意に至った。また、双方のシステ
ム間の共通性と相違性を認識させ、両者間の協調や相互運用の諸活動が、どれだけ国際社
会に利益をもたらすかについて明らかにし、このプロセスはその他の国々や地域にも開放
されるべきものであるとした。
10
2008 年 12 月 8 日に正式加盟となった。なお、内訳は以下の通りである。
航空航法システム関連企業:DSNA(仏)・DFA(独)・ENAV(伊)・NATS En Route(英)
地上/上空設備メーカー:Frequentis(墺)・Indra(西)・SELEX Sistemi Integrati(伊)
航空機メーカー:Airbus(欧州合弁)・Alenia Aeronautica(伊)
空港:SEAC(欧州における 6 つの大規模空港で構成される予定の連合体)
航空航法及び空港関連団体:AENA(スペイン空港・交通管制公団)・NORACON 社(墺・ノルウ
ェー)
地上・上空設備及び機上設備メーカー:Thales(仏)
11 米国のプログラムについて、その概要や背景的事実を詳述したものとして、「米国での次世代航
空交通管制システムの開発状況」NEDO 海外レポート No.996 号(2007.3.7 発行)を参照。
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「SESAR は、航空交通管理システム(ATM)の現代化に向けての革新的なアプローチです。
それは、欧州における全ての ATM 関係の諸活動に指針と先進性を与えるものであって、
ATM システムの全地球的な相互運用の実現に向かっての道を拓くものであります。」
「SESAR は、ATM システムの世界標準化へ向けた真の座標軸となるように、ICAO の運
用構想に即して開発されます。
」と、欧州委員会の航空交通事務局長 Daniel Calleja 氏は
このフォーラムで発言している。
また、EUROCONTROL の David McMillan 事務総長は、
「今回のフォーラムは、将来
のグローバル航空交通管理システムの開発について、国際社会として結束して成功する一
助となります。」と述べ、さらに、「欧州では、EUROCONTROL・欧州委員会・SESAR
共同事業体の三者全員が、他の欧州域内の航空関係者とともに共通の目標を持っていま
す。
」
「そして、我々は得られた成果が共有可能なものとなるよう、米国と協働しています。」
「航空輸送業はグローバルな産業であり、我々は全世界の地域においてシステムの運用が
確保されるよう、ICAO に呼びかけています。
」と述べている。
さらに、SESAR 共同事業体の事務局長である Patrick Ky 氏は、
「国際協調は SESAR
にとっての最優先事項であります。そして、当該プログラムの開発段階における運営機関
として、SESAR 共同体は、他の地域と協調するためには必要となる全ての措置を、EU 圏
や第三国内における公的・私的資源を結集させることを通して取っています。
」と、強調し
ている。
出典:
http://www.sesarju.eu/gallery/content/public/doc/080910SESARNEXTGENJointPRFor
umFinal.pdf
http://www.sesarju.eu/gallery/content/public/doc/SESAR_Launch_PR_EN%200812200
8.pdf
翻訳:篠田
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建一
編集:NEDO 研究評価広報部
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