...

2 - 経済産業省

by user

on
Category: Documents
81

views

Report

Comments

Transcript

2 - 経済産業省
www.pwc.com
資源エネルギー庁
電力・ガス事業部御中
平成26年度国際エネルギー使用合理化
等対策事業(諸外国における熱供給事業
制度に関する調査)報告書
2015/02
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
PPP・インフラ部門
Strictly Private and Confidential
目次
Section 1: 調査概要
Section 2: 各国取り纏め
1. 調査目的
2. 主留意事項
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
12.
PwC
英国
ドイツ共和国
デンマーク王国
フランス共和国
アメリカ合衆国
大韓民国
スウェーデン王国
フィンランド共和国
ノルウェー王国
オーストリア共和国
イタリア共和国
EU
2
Section 1: 調査概要
1.調査目的
2.主留意事項
PwC
3
1. 調査目的
1-1: 熱供給システム改革の目的
1-2: 本調査の目的
PwC
4
Section 1 (調査目的)
1-1: 熱供給システム改革の目的
事業環境の変化を鑑みつつ、需要家保護を念頭に置いたシステム改革が現在求められている。
図表1-1: 事業環境変化による熱供給システムの遷移・イメージ図
これまでの熱供給事業法の
背景と内容
自然独占性を有し、日常生活および
事業活動上欠くことのできないサー
ビスであるとの背景の理解から厳格
な事業規制を課すものとされた。



PwC
事業参入:一定基準に適合する
事業者のみ許可
料金などの供給条件:供給規定
の定めを認可
事業の休廃止:許可制
熱供給システム改革の
2大目的
事業環境の変化
技術革新などによる需要者
ニーズの多様化から、需要
家自ら熱需要を賄うケースが
増加 し、熱供給サービス の
サービスを選択できるように
なってきた。
新たなエネルギー基本計画や電力・
ガスシステム改革を進展に鑑み、以
下の2点を目的として熱供給システ
ム改革を進める。


需要家の選択肢や事業機会の
拡大
需要家利益の保護
5
Section 1 (調査目的)
1-2: 本調査の目的
それぞれの国における熱供給の仕組みができた背景を体系的に理解しつつ、将来の我が国の事業規制の考え
方の基礎となる情報を構築することを目指す。
•
•
各国の熱供給事業制度の背景および事業状況を鑑み、熱供給事業を大きく3類型(下図)に分けて定義でき、それぞれの類型に
て政策的な課題や振興策を構築している。
本調査での重要なポイントは、①政府による法的枠組みの構築、②事業者に対する規制の範囲(参入・退出や価格決定方法
等)、③需要者保護における特徴の整理である。
図表1-2: 熱供給事業の3類型
I. Market Driven Regulation
(市場に任せる枠組み)
II. Social Regulation
(公的部門による制度運用の枠組み)
対象国
• 今回の主要国では、ドイツが代表的な事例と
して挙げられるが、英国、フランス、米国も、
この類型に属するものと考えられる。
• フィンランド、スェーデンも同様に市場に任せ
る仕組みとなっているが、気候要因などから
も、これら2カ国は、上記の3カ国と比較して、
熱供給の普及は非常に高くなっている。
法的な枠組み、事業者への規制
• 国からの関与は小さく、多くの場合、国レベ
ルでの熱供給に関する法的な枠組みは存在
せず、スウェーデンのように枠組みは存在し
ても、規制や価格を規定するものではない。
需要者保護
• 熱供給は比較的競争力があるか、もしくは多
様な代替手段が存在する。
• 一部、市場監視や紛争処理の制度が存在す
る、もしくはこれから構築する方向で考えら
れている。
対象国
• 今回の調査対象国には含まれていないが、
ロシア、ベラルーシ、中国などが代表的な例
として挙げられる。
• 近年では、中国がデンマークの熱供給事業
の発展を範にして、同事業の発展を目指して
いるが、政府の強い後押しで新しい仕組み
が構築されている。
法的な枠組み
• 基本的に公的セクターによる管理体制となっ
ている。
• 価格は、政府によって設定され、通常多くの
細かい規定が設けられている。例えばロシア
では、熱供給の価格を規定する複雑な仕組
みがあるとのこと。ただし、効率化へのインセ
ンティブは少なく、政府の関与に頼り、採算
性が低く、新しい投資が進まないことから、
東欧、ロシアでは、財政的に困窮するシステ
ムが多くなっている。
PwC
III. Economical Regulation
(価格やインセンティブなどの経済的な
手法を活用した枠組み)
対象国
• 今回の調査対象国の中では、デンマークが、
本類型の代表的な国と考えられる。また、韓
国もデンマークと同様の発展形態をとってい
る。
法的な枠組み
• デンマークでは、熱供給システム全体、価格
設定に関する政府の関与が大きい。
• 韓国でも、熱供給事業を推進する為、基本
構造:政府などによる価格規制など、国レベ
ルでの法的な枠組みが整備されている。
需要者保護
• 価格監視、紛争処理などについても、詳細に
仕組みが構築されており、民間参入を促す
ため、消費者による適正なコストを踏まえた
価格の設定が必要となるが、デンマークも韓
国も適正な価格形成のための考え方を構築
している。
出典: ERRA (2011)等を基にPwC作成
6
2. 主留意事項
2-1:
2-2:
2-3:
2-4:
PwC
熱供給事業全般に対する考え方
料金及び供給条件の設定
需要家保護の仕組み
ネットワーク規制
7
Section 1 (主留意事項)
2-1: 熱供給事業全般に対する考え方
欧州における熱供給事業は、自由化された電力ガス市場とともに競争にさらされており、自由な競争状況下で
の事業実施を目指している。
1. 自然独占制に着目した規制の見直しの方向性
• 日本の従来の仕組みは、一定の基準に適合する事業者のみが事業の実施を許可されるという内容だった。
• 近年の需要家ニーズの多様化、熱供給サービス以外のサービスの選択肢拡大の動きがある。
2. 他の電源を含めた市場競争に委ねられている欧米の熱供給事業
• 現在、国内で進められている電力システム改革と同様に、EU全体では、電力・ガス事業の自由化が浸透して
おり、ドイツ、英国、フランス等では、ガスのみならず電気(特にヒートポンプ)等の代替手段が存在し、熱供給
が必ずしも唯一のサービスとはなっていない。そのような状況の中、EUは、2004年コジェネレーション指令以
降の省エネ指令によって、EU地域全体の省エネや気候変動問題に対処するという立場から、省エネルギー
政策の一環として、熱供給システムの導入を促す事例は多い。
• なお、デンマーク等の一部の国では、中央政府が、国として熱供給事業を推進するという立場から、熱供給
に関する価格規制などに関する熱供給事業の枠組みを制定しているが、このように国全体で熱供給事業に
ついて規定する枠組みを持っている国の事例は少ない。
• これらの国に共通して言えることは、政府は、国による熱供給事業を規制する枠組みの導入を目指しておら
ず、基本的には、政府による規制による管理より自由な競争下での事業運営を志向する考えにある。
• ただし、EU全体の省エネルギー政策における熱供給占める重要性から、熱供給事業推進のための振興策
(投資の促進など)と需要家による省エネ意識を高めるための施策は、幅広く実施しており、EUは、加盟各国
に対しても、同様の促進策と需要家保護に取り組むことを求めている。
PwC
8
Section 1 (主留意事項)
2-2:料金及び供給条件の設定に関する考え方(1/1)
多くの場合、料金設定は市場に委ねられているが、熱供給が、消費者にとって分かりにくい価格体系となってい
るとの見方から、消費者に対する透明性の確保が課題となっている。
1. 市場に委ねられている熱供給事業の料金設定
• 多くの国では、熱供給事業に関する料金規制は、確認されていない。熱供給が存在する多くの国では、規制
のない熱供給の価格動向を注視しなければならないとの問題意識は示されてはいるが、それらを厳格に管
理するという方向とはなっていない。(例外は次頁のデンマーク参照)
• その背景として、様々な熱源と競合する形である熱供給は、代替手段の燃料価格が大きく変化する可能性
があり、需要家は、それらを比較しながら最適な熱源の選択を行う中、料金規制とそれにかかる運用は、多く
の障害とコストを伴うことも理由として考えられる。
• ドイツでは、熱供給事業は自然独占事業ではないかとの観点から、連邦カルテル庁が、熱供給事業の価格
調査を行っている。調査の結果、実勢価格は、特段懸念されるべきものはないが、今後とも価格の調査は続
けるとされている。
2. 需要家保護と省エネ意識の向上を目指す契約の透明性
• ドイツ、英国、フランスなど多くの国では、電力やガスの場合、国毎に統一的な料金体系があり、需要家にも
わかりやすい原則が消費者からも受け入れられている。そのような中、熱供給の料金については、消費者に
とっては、わかりにくいものとの課題があるとされ、我が国における需要家の問題意識と同様であると考えら
れる。
• EUでは、省エネルギー政策を推進するために需要家の省エネ意識を高めるという立場と需要家保護の両方
の観点から、熱供給サービスの提供に関する透明性を高めることを推進しており、現在も、様々な取り組み
がなされている。
• 需要家保護の観点から、熱供給事業に関する情報について透明性を確保することと、価格を決定する契約
内容の透明性を改善する動きがみられ、電力、ガスとともに、熱供給もEU指令の対象となっており、様々な
国で、EU指令に沿った改革が進められている。(スウェーデン熱供給協会の事例を参照)
PwC
9
Section 1 (主留意事項)
2-2:料金及び供給条件の設定に関する考え方(2/2)
デンマークでは、適正価格という原理を導入し、価格の規制が存在するものの、その適用が難しく、それにともな
うコストも大きい。
3. 厳格な規制が適用されるデンマーク
• 適正価格(True Cost)とは、利潤を追求しないという同国の熱供給事業の考え方に由来するものである。政
府は、国全体のエネルギー事業の柱である熱供給事業が適確に運営されているか、また、需要家保護という
立場からも、同国における熱供給事業が正しく運営されているかを判断する根幹となる考え方の一つである。
• 熱供給を行う事業者、輸送を行う事業者、そしてネットワーク事業者というように、熱供給事業者にも、様々な
事業形態がある中、True Costという同じ概念の適用を続けているが、それを判断すること、また、違反してい
ると判断した場合、煩雑な手続きが予想される仲裁、訴訟、紛争の手続き、そして、関連する行政コストが大
きな課題となる。
• また、近年の熱供給源の多様化、海外からの事業者の参入などが進む中、すべての事業者に共通する統一
的な適正価格の適用は困難な事例も多くあり、このようにコスト面から適正価格を考える手法より、市場の他
の価格と比較して、適正化という考えに委ねるべきではないかとの考えもあるとのことである。
PwC
10
Section 1 (主留意事項)
2-3:需要家保護の仕組み(1/2)
透明性の確保、苦情処理体制、供給能力の確保義務が需要家保護で重要な要素になるが、欧米韓では、保護
の仕組みは様々である。
1. 需要家保護の考え方
• 熱供給事業を行う事業者側より情報や交渉力が不足する需要家が利益を害することがないよう、システム改
革では留意しなければならないが、以下の点が需要者保護規制の在り方を考える際に重要になる。
 透明性の確保(料金を含む供給条件について説明義務、契約条件時の書面の交付義務)
 紛争処理体制(需要家からの苦情などに応ずる義務・仕組み)
 安定供給ガバナンス(供給能力の確保義務)
2. 各国事情により異なる需要家保護の仕組み
• 欧米韓の実例を見た場合、積極的に熱供給事業に関する需要家保護の制度を構築している国と、熱供給独
自の制度はなく、事業者および事業者団体などによる実態的な運用や他の電力・ガスの仕組みでの需要家
保護の仕組みに委ねている国がある。
• そのような中、英国では、中央政府が、熱供給事業の推進を目指す中、国による価格規制などの導入につい
ては否定的であるものの、需要家保護という観点では、事業者団体、消費者団体および政府を巻き込んだ積
極的な枠組み作りを目指している。
• 米国の熱供給事業については、連邦レベルではなく、州政府のエネルギー事業全般を管理する公営事業委
員会(Public Services Commission: PSC)が規制/管理を行っており、その中に熱供給が含まれているか否
かは、州により異なる。
• EUは個々の国の制度構築に委ねるとしながらも、 EU指令を通じて、 「顧客の消費を反映した競争力のある
価格で、かつ透明性のある形で提供されること」を求めており、電力・ガス事業のスマート化と相まって、域内
各国の熱供給事業の需要家保護策のスタンダード化が進められる可能性もある。
PwC
11
Section 1 (主留意事項)
2-3:需要家保護の仕組み(2/2)
透明性の確保、苦情処理体制、供給能力の確保義務が需要家保護で重要な要素になるが、欧米韓では、保護
の仕組みは様々である。
3. 需要家保護の仕組みが整備されている国
•
•
•
デンマークおよびスウェーデンでは、中央政府によって、熱供給事業に特化した需要家保護の仕組みが整備されており、熱供
給料金のガバナンス、市場監視および紛争処理の仕組みが制定されている。
韓国も、これらの国と類似の需要家保護の体制(価格上限の設定、市場監視および紛争処理体制)が整っており、政府による
関与が確立されている。
ドイツでは、政府による関与はなく、ドイツ熱供給協会(AGFW)における事業者と需要者間の契約のルールフォーマット等を活
用している。
4. 他のエネルギー事業の仕組みを活用している国
•
英国、フランスでは、国としての、熱供給に特化した需要家保護の規定はないものの、電力、ガスなど他のエネルギー事業で活
用されている需要者保護の仕組みが使われている例もある。
•
それらの国での熱供給事業の契約形態を見た場合、最終需要家は、熱供給事業者と直接契約を行なわず、建物のオーナー、
家主が契約主体となる例も多い。その場合、最終需要家である個別の家庭などへの情報提供や契約内容の透明性が必要と
の問題意識もある。
アメリカにおける熱供給は、他のエネルギー事業と同様に、公営事業委員会(PSC)が管理を行っているが、熱供給が対象に
入っているか否かは州毎により異なる。
•
5. EUによる規定の各国における導入の動き
•
•
EUでは、2006年エネルギーサービス指令、2012年省エネルギー指令に従い、加盟各国による省エネ推進と最終需要者の保
護を目的とした枠組みの導入が進められている。
現在、EUでは、電力、ガスの需要家への情報提供のスマート化が進んでいるが、今後、EUでは、消費者保護という観点に加
え、省エネ促進という立場で、熱供給の需要家に対する情報提供が進められると考えられる。
PwC
12
Section 1 (主留意事項)
2-4: ネットワーク中立性の確保(1/2)
アンバンドリング/託送という議論はなく、引き続き、地域毎での一体的運用が続くと考えられるが、統一的な技
術基準は未整備な状況である。
1. 電力・ガス事業とは異なる熱供給事業
•
電力やガスシステムと比べると、熱供給システムは、導管接続の複雑さおよび熱供給の有効な距離について根本的な違いが
あると考えられている。
2. 欧州における統一的な技術基準が未整備
•
ドイツの事業者団体であるAGFWによれば、多くの熱供給システムの場合、狭い地域毎に発展したという背景があることから、
欧州連合域内はもとより、欧州の多くの国でも、熱供給の統一的な技術基準が未整備であるとのことである。
•
これらは、熱供給事業の普及/発展の大きな障害であると認識されており、多くの場合、各国の熱供給事業者協会は、その統
一的な技術基準の制定を目的として設立されて団体であり、欧州地域全体でも、熱事業者の団体Euroheatが、それらの基準
の統一化を目指して活動している。
•
そのような中、デンマークは、EUにおける熱供給事業のリーダーとして、各国から信頼を寄せられており、ロンドンなどの熱供
給事業でも、技術的もしくは都市計画の側面からも、多方面で協力が進められている。また、アジアでは、中国が積極的に、コ
ペンハーゲンを中心としたデンマークの熱供給事業の導入を目指しており、緊密な関係が実現している。
3. 託送の事例はない
•
熱源を持つ熱事業者からネットワーク間で温水の卸事業を行う事例(デンマーク)、ネットワークを保有する会社が熱源を買い
取る事例(スウェーデン)や、熱源、パイプライン、最終需要家へ繋ぐネットワークのシステム毎で、主に資金調達の観点から所
有者が異なるという事例(フランス、英国)はあるものの、託送の事例は見られない。
•
このような背景から、規制緩和、自由化が進む欧州の電力やガスと異なり、熱供給事業におけるアンバンドリングの議論はなく、
多くの国では、引き続き、現在のように地域毎に一体的に運用されている熱供給事業が続くとの考えられている。
PwC
13
Section 1 (主留意事項)
2-4: ネットワーク中立性の確保(2/2)
二重投資により需要者利益が損なわれるリスクは低い。
4. 事業者にとってリスクの大きい二重投資
•
熱供給事業の性格上、初期投資が大きく、同地域で異なる事業者が二重投資を行うことで得られる経済的な
便益は著しく低いとの見方から、二重投資による需要家利益が損なわれるリスクは極めて低い。
•
そのため、欧州において、二重投資に係る特段の事例は見受けられず、事業者団体も、そのような懸念はあ
まり大きくないとの見解であった。
•
但し、フランスでは、大手ガス事業者が既存の熱供給インフラが設置されている地域に大規模なガス供給
ネットワークを整備し、熱供給事業者の既存の顧客を奪ったとの事例はあったとのこと、より広い競合相手と
の競争にさらされていると考えられる。
PwC
14
Section 2: 各国取り纏め
1. 英国
2. ドイツ共和国
3. デンマーク王国
4. フランス共和国
5. アメリカ合衆国
6. 大韓民国
7. スウェーデン王国
8. フィンランド共和国
9. ノルウェー王国
10. オーストリア共和国
11. イタリア共和国
12. EU
PwC
15
1. 英国
1-0:
1-1:
1-2:
1-3:
1-4:
1-5:
1-6:
1-7:
PwC
英国全体概要
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給における主要関係者
熱供給にかかる事業規制
熱供給にかかる関連枠組み
熱料金・供給条件
市場監視主体
紛争処理体制
卸供給に関するルール
安定供給の確保策
需要家に対する導管接続義務
その他振興・支援策
ロンドンにおける地域熱供給
スキーム
1-14: 参考資料
1-8:
1-9:
1-10:
1-11:
1-12:
1-13:
16
Section 2 (英国)
1-0: 英国全体概要(1/2)
1.
熱供給市場とその構造
 公的施設、商業施設から住宅にも広がる熱供給システム: 英国では、2014年10月時点で、約2,000の
熱供給ネットワークがあると言われおり、約20万世帯、約1,700の商業施設・公的ビルに熱供給を行って
いる。
 大規模ネットワークの上位50の大規模ネットワークは、都市市街地か大学のキャンパスに設置され、市
街地や商工業地区中心に熱需要は広がっているが、熱供給により供給されているのは、いまだ全需要
の1~2%とみられている。
 長期戦略(The Future of Heating)の策定: 2012年に国家熱戦略にあたる「The Future of Heating:
Meeting the Challenge)」がエネルギー・気候変動省(DECC)から発表され、2050年までに50%の建
物に熱供給システムを導入することを目的としている。
2.
熱供給事業規制の枠組み
 電力市場との垣根: 英国では熱供給事業に対する規制は存在しないが、事実上地域独占となってい
る。自由化された電力市場の下、現在、料金設定に関する基本規制はないものの、EUの省エネ指令に
沿った、最終需要者の保護の視点に立ったルール作りが進められている。
 整備が進められている消費者保護スキーム: 国もしくは地方自治体による熱供給に関する紛争処理
体制は無いため、現在は、独立熱消費者保護スキーム(Independent Heat Customer Protection
Scheme: IHCPS)では、消費者が無償で利用ができる仲裁制度が検討されている。(詳細は「1-5」参
照)
PwC
17
Section 2 (英国)
1-0: 英国全体概要(2/2)
地方自治体
政府機関
【(例):ロンドン市】
Heat Planの作成
【エネルギー・気候変動省(DECC)】
【熱振興のための熱ネットワーク供
給ユニット(HNDU)】
エネルギー政策全般、熱供給政策策定
熱需要マップ(National Heat Map)作成
政
策
提
言
オブザーバー参加
団体、独立組織
【分散エネルギー協会
(ADE)(旧CHP協会)】
官民連携の促進
独立組織
【独立熱消費者保護スキー
ム(IHCPS)】市場監視・紛争
処理
参加
企業
EON、Veolia
London Thames
Gateway Heat Network
【熱事業者協会(ukDEA)】
地方自治体のネットワーク
強化
PwC
18
Section 2 (英国)
1-1: 熱供給の背景
英国では、過去、エネルギー安全保障という関連から熱供給が導入されたが、現在では気候変動・CO2削減へ
の対応策としてその利用が推進されている。
1. 熱供給産業の成長は安価なガス・電気に抑圧されている
• 第二次世界大戦後、自治体が所有している貸家及び高層物件において熱供給事業は開始された。
• 熱供給成長の兆しが現れ始めた1960年代には、北海油田が発掘され、政府はガス供給ネットワークを都市
地域に開発し、また政府は原子力発電産業に助成金を払うことで、国民は安価なガス及び電気につながった。
つまり、市街地における安価なガス・電気の幅広い普及により、熱供給産業の成長は停滞したと言える。
2. 規制緩和が進んでいる電力、ガス市場と比較して、法整備が進んでいなかった熱供給
• 1980-90年代を通じ、英国はEUで初めて、国営のエネルギー事業独占企業体を民営化を進め、電力市場で
は発送電分離などの政策を導入することにより、エネルギー業界における競争を促進したが、同じエネル
ギー市場にありながら、熱供給市場は、その影響を受けず、法的な枠組みなどは整備されていない。
3. 気候変動対策・CO2削減への対応
• 熱供給から発生するCO2は英国全体の排出量の47%を占めている。
• 英国の中央政府は、2012年3月に、イングランドの計画の方針を示すNational Planning Policy Framework
(NPPF)を公表した。NPPFでは、都市計画の中で、再エネ導入やCO2削減の視点を盛り込むように促されて
おり、またその実現のための一つの手段として、熱児湯給事業が位置づけられている。
• ロンドンでの再開発事業においても、CO2削減に資する熱供給ネットワークの導入が取り上げられている。
4. 室内平均気温は凡そ18℃、平均外気温は8.8℃
• 英国の気候はその日、その場所によって異なる。原則、英国の東・南側は西・北側と比べ、湿度が低く、気温
が温かく、風が弱い傾向がある。また、英国全土の屋内平均気温は上昇傾向にあり、凡そ18℃である。
PwC
19
Section 2 (英国)
1-2: 熱供給の現状
市街地中心に、熱供給需要は高まっており、近年では、熱供給事業促進のための国家戦略や消費者保護ス
キームも作られた。
• 2014年10月時点で、約2,000の熱供給ネットワークがあると言わ
れおり、約20万世帯、約1,700の商業施設・公的ビルに熱供給を
行っている。
図表1-1: イングランドにおける熱マップ
• 大規模ネットワークの上位50の大規模ネットワークは、都市市街
地か大学のキャンパスに設置されている。
• 図1のとおり、市街地や商工業地区中心に熱需要は広がっている。
• 国内熱需要の1-2%は熱供給により供給されている。
• 但し、熱供給は国内熱需要の約20%を供給するだけのポテンシャ
ルがあると考えられている。
(マンチェスター)
図表1-2: 英国における熱供給概要
接続割合(床面積)
建物の4%
供給割合
(国内熱需要における熱供給の割合)
1-2%(2009)
平均気温
気温:~8.8℃(室温:18℃)
セクター別
熱需要割合
家庭:54%、産業:30%、
商業及び公共:16%
ガス:70%、電気:21%、
石油:7%、固形燃料:2%
熱源割合
熱供給面積
(ロンドン)
3,775,000 m2
出所:Euroheat and Power (2013)
PwC
(バーミンガム)
出所:エネルギー・気候変動省のヒートマップ (2014)
20
Section 2 (英国)
1-3: 熱供給における主要関係者
1. エネルギー・気候変動省(Department of Energy and Climate Change: DECC)
• 英国の地域熱供給を含むエネルギー問題を管轄するエネルギー・気候変動省(DECC)は、2012年に国家
熱戦略にあたる「The Future of Heating: Meeting the Challenge」を発表している。(詳細は「1-4」参照)
• 翌2013年には、地方自治体における熱ネットワーク構築支援を目的に、「熱振興のための熱ネットワーク供
給ユニット(Heat Network Development Unit: HNDC)」を設立し、熱供給システム導入にかかる技術アドバ
イスの提供、及び助成金の交付を行っている。
2. 分散エネルギー 協会(Association for Decentralised Energy: ADE)
• ADEは、CHP (Combined Heat and Power)、地域冷暖房システム、需要家目線でのエネルギーサービスの
促進支援、官と民の連携促進を行う民間業界団体である。ADEの活躍は政府に高く評価され、助成金等を
国から受給している。
• 元々CHP協会(CHP Association)という団体名であったが、2014年1月12日にADEに改名されている。
• メンバー企業は、様々なセクターから約90社にのぼる。
• 公認建設設備技術者協会(Chartered Institutions of Building Services: CIBSE)と共同で、熱ネットワーク
分野における実施規則(Heat Networks: Code of Practice for the UK)を作成している。
• 前述のIHCPSの事務局の役割を担っている。
3. 熱事業者協会(UK District Energy Association: ukDEA)
• 地域熱供給に関する団体であり、主に地方自治体の協会であるが、民間企業も参加している。
• 協会を通じ、参加組織間での情報共有、ネットワーク強化、地域熱事業の普及促進を目指している。
PwC
21
Section 2 (英国)
1-4: 熱供給にかかる事業規制
熱供給に係る実質的な法的枠組みはない。また、市場成長に国レベルでの規制は必要ないと英国政府は考え
ており、市場に実務・運用を任している。
1. 熱供給に対する国レベルでの法的枠組みは無い
• 熱供給市場は規制されておらず、電力やガスと比較して、産業の弱さがあることは国としても理解しており、
それを改善したいと思っている。
• 但し、政府は今後も市場に関与しない方針であり、実務・運用は、業界内で行うべきという考えである。
PwC
22
Section 2 (英国)
1-5: 熱供給にかかる関連枠組み(1/8)
英国政府は、低炭素化を進めるべく熱供給事業の拡大を推進しており、2012年に、気候変動対策に沿った国家
熱戦略(The Future of Heating)を作成した。
1. 2050年に向けた国家熱戦略
• エネルギー・気候変動省(DECC)は、温暖化ガスの80%削減を目指す2050
年に向けた気候変動対策の一つとして、熱供給における低炭素技術の導入
促進のため、 2012年に国家熱戦略にあたる「熱の将来(The Future of
Heating: Meeting the Challenge)」を発表した。2013年には更新版が発表
されている。
• 同戦略では、(1)産業熱、(2)ネットワーク化された熱、(3)建物における冷
暖房、(4)グリッド・インフラという4つの観点の分析を踏まえている。
• 2050年までに50%の建物に熱供給システムを導入することを目的としている
が、政府が熱業界に対して公的な規制を設けることは、業界の成長を阻害す
るおそれがあるとして、あくまで民間セクター主導の成長を目指すことを記し
ている。
“does not want to stop the growth of the sector through introducing
unnecessary regulation” (エネルギー・気候変動省 (2013, p.58)、 The
Future of Heating: Meeting the Challenge).
•
•
同戦略は、2014年にも継続して実施されており、英国全土で進められている
熱供給システムの実現可能性調査(FS)等の振興策(「1-12」)についても述
べられている。
なお、EUでは、電力、ガス市場におけるエネルギーサービス指令下で、エネ
ルギーユーティリティーのサービス向上、省エネ促進を行っているが、これを
踏まえ、英国においても最終需要家ヘの情報提供が重要であることが謳わ
れている。
PwC
23
Section 2 (英国)
1-5: 熱供給にかかる関連枠組み(2/8)
熱供給事業の長期戦略の下、消費者保護を目指す枠組み(IHCPS)作りが行われているが、これを英国におけ
る熱供給事業のスタンダードと位置づけていくことを目指している。
2. 独立熱消費者保護スキーム(IHCPS)
2-1. 背景
• 前述の国家熱戦略では、需要家の省エネ意識の向上と熱供給への信頼
性を確保するためには、熱供給が需要家にとって魅力的な選択肢となる
ことが必要だとされた。このため、英国政府は、熱供給事業が競合する他
のユーティリティーと同等レベルの需要家保護策を、業界が主導するかた
ちで、消費者団体と共に作り上げることが必要と提言されている。
The Government announced that it would “seek to endorse an
industry-led consumer protection scheme for heat network
users…suitable for all heat network operators…developed in
consultation with consumer groups” with protection that is at least
“as good as that offered by the alternatives” and offers “protection of
vulnerable customers, similar to the terms used in the utility sector”
( エネルギー・気候変動省 (2013, p.38 and p.58) 、 The Future of
Heating: Meeting the Challenges)
•
上記のような背景から、熱供給事業者が中心となり、消費者団体と協力し
て、2012年に熱の需要者の保護の共通基準(Common Standard)の構
築を目指す独立熱消費者保護スキーム(Independent Heat Customer
Protection Scheme: IHCPS)案が提案された。
PwC
24
Section 2 (英国)
1-5: 熱供給にかかる関連枠組み(3/8)
熱供給事業の長期戦略の下、消費者保護を目指す枠組み(IHCPS)作りが行われているが、これを英国におけ
る熱供給事業のスタンダードと位置づけていくことを目指している。
2-2. 概要
• 独立熱消費者保護スキーム(IHCPS)は、国の規制下にある
電力、ガス、水道等の消費者保護に関するガイドライン、消
費者団体からの提案、現在の熱供給事業におけるベストプラ
クティスを参考にして策定されたものである。
• 英国における熱供給事業の基準作りとサービスの向上を目
指し、消費者が無料で利用できる仲裁制度の構築(「1-8」参
照)などの取組がパッケージとして盛り込まれている。
• 本スキームは、業界と消費者団体主体のスキームを政府が
支援するという仕組みとなっており、これを制度として位置づ
ける場合は、地方条例(Bye-Laws)によって規定することとさ
れている。
• なお、本スキームは、2012年に最初の骨子が発表された。そ
の後、熱供給事業に関係するエネルギー業界関係者や消費
者グループ等との関係者協議のフィードバックを反映させた
上で、改善案が2014年5月に発表されている。
• 2015年をめどに、本スキームの運用開始を目指されている。
• 右表の内容は、本スキームに参加するにあたって、熱供給事
業者が整備すべきルール(熱供給に係る契約書に記載すべ
き事項)を示したものである。
PwC
 熱供給消費者の義務
 脆弱な消費者の保護熱供給者の義務熱供給
消費者へのサービスと緊急措置の報告接続
および撤退の手続き
 熱供給メーター
 熱供給接続機器
 熱供給請求および変更時の計算方法
 熱供給支払い手続きおよび滞納時の監理
 サービスプロセスの停止と再開
 苦情処理手続及び独立苦情処理
 プライバシーの保護及びデータの保護
25
Section 2 (英国)
1-5: 熱供給にかかる関連枠組み(4/8)
図表1-3: IHCPS(独立熱消費者保護スキーム)完成後の英国における想定消費者保護体制図
仲裁制度
(Independent Complaint Handling Mechanism)
2015年までに設立(想定)
(紛争時の仲介)
紛争仲裁に関す
る仲裁者の選任
料金支払い
家庭
需要者
熱供給
事業者
(産業界は含まない)
熱供給
Heat Supply
Agreement
(苦情処理手続
も契約上明記)
委員選任
エネルギー・
気候変動省
(DECC)
分散エネルギー
協会 (ADE)
PwC
独立熱消費者保護ス
キーム・ステアリングコ
ミッティー
(第三者機関)
ガイドラインの
制定・運用
(料金設定、事
後規律等)
26
Section 2 (英国)
1-5: 熱供給にかかる関連枠組み(5/8)
熱供給事業の長期戦略の下、消費者保護を目指す枠組み(IHCPS)作りが行われているが、これを英国におけ
る熱供給事業のスタンダードと位置づけていくことを目指している。
2-3. IHCPSへの参加と認証へのステップ
• IHCPSでは、熱供給事業者の同スキームへの登録までのステップを提案している。
• 熱供給システムの契約が、同スキームの基準を満たしているおり、事業者がIHCPSの規定を順守することを
誓約することにより、同スキームから認定されたとの認証を受けることができる。
• IHCPSへの参加は任意であるものの、政府からの補助金、熱供給計画の策定や設備の許認可の条件とな
ることも想定されていることから、実質的には本スキームへの登録が推奨される枠組みとなる方向性にある。
図表1-4: 独立熱消費者保護スキーム認証までのプロセス
PwC
図表1-3: 独立熱消費者保護スキーム(2014b)
27
Section 2 (英国)
1-5: 熱供給にかかる関連枠組み(6/8)
熱供給事業の長期戦略の下、消費者保護を目指す枠組み(IHCPS)作りが行われているが、これを英国におけ
る熱供給事業のスタンダードと位置づけていくことを目指している。
2-4. 運営委員会
• IHCPS運営委員会が、同スキームを管理・運営している。運営委員会メンバーは下図のとおりである。
• 民間業界団体である分散エネルギー協会(Association for Decentralised Energy: ADE)が事務局の役割
を担っている。
図表1-5:IHCPS運営委員会メンバー
Barratt Homes
(ディベロッパー)
SSE
(電力・ガス会社)
熱事業者協会
(ukDEA: 1.3参照)
Brookfield Utilities
(ユーティリティのプロバイダー)
GLA
(独立政府機関 *2)
分散エネルギー協会
(ADE: 1.3参照)
Consumer Futures
(独立政府機関 *1)
Home Builders Federation
(住宅建設者連盟)
スコットランド政府
(オブザーバー)
E.ON
(電力・ガス会社)
The Greater Manchester Combined
Authority (独立政府機関 *3)
エネルギー・気候変動省
(DECC: オブザーバー)
Ener-G Switch 2
(熱供給のプロバイダー)
Urban Life
*1: 全英消費者議会(New National Consumers Council)のoperating name
*2: 農林業、食品加工、貝類採取、食品加工、包装などの分野で働く労働者の監視機関
*3: マンチェスター都市圏にて、経済開発、地域再開発、交通施策の調整行う合同行政機関
PwC
28
Section 2 (英国)
1-5: 熱供給にかかる関連枠組み(7/8)
熱供給事業の拡大が望まれており、実質的な規制とは別に、事業促進や消費者保護を目指す様々な枠組み
(長期戦略、マニュアル等)マニュアル作りが行われている。
3. 熱ネットワークにおける実施規則 (Heat Networks: Code of Practice for the UK)
•
•
•
•
費用対効果、温暖化ガスの削減、エネルギー供給の安定化、費用対効果を通じた高標準化された地域熱供
給サービスをめざし、熱ネットワーク分野における実施規則(Heat Networks: Code of Practice for the UK)
が作成中であり、2014年時点のドラフトはウェブにて公開中である。
分散エネルギー協会(ADE:当時はCHP協会)と公認建設設備技術者協会(Chartered Institutions of
Building Services: CIBSE)が共同で、作成を行っている。(分散エネルギー協会の説明は、「1-3」を参照)
熱供給事業者に向けた本実施細則には、基本的な地域熱供給事業の考え方や技術的なアプローチについ
て、規定されることになる。目次案は次のとおりである。
Part 1:
•
Part 2:
I.
イントロダクション
1.
概要
II.
スコープ
2.
実現可能性
III. 法制度
3.
設計
IV. ネットワークへの適用
4.
建設・取り付け
5.
試運転
6.
O&M
7.
顧客の期待と義務
PwC
29
Section 2 (英国)
1-5: 熱供給にかかる関連枠組み(8/8)
熱供給事業の拡大が望まれており、実質的な規制とは別に、事業促進や消費者保護を目指す様々な枠組み
(長期戦略、マニュアル等)マニュアル作りが行われている。
4. ロンドン市における地域熱供給マニュアル
• (熱供給事業が特に普及している)ロンドンにおいて、熱供給事業の開発、同サービス提供にかかるガイダン
スの提供を目的に、2013年に作成されている。
• 規制・制度として公式なものではないが、事業開発・実施において、その他技術マニュアルや各地方自治体
の基準における補助的なガイダンスという位置づけである。
• 目次は次のとおりである。
 イントロダクション
 ロンドンにおける熱供給
 熱供給事業における設計の原則
 熱供給基準
 熱供給事業の設計
 契約の基準と監理
 熱供給に係る料金
 ディベロッパーのための計画ガイダンス
 ロンドンにおける地域エネルギーの革新と将来
PwC
30
Section 2 (英国)
1-6: 熱料金・供給条件(1/3)
熱料金設定に関する法規制は無く、料金設定は各熱供給事業者の裁量に委ねられているが、消費者に対する
価格情報の提供のためにも、現在策定されている独立熱消費者保護スキーム(IHCPS)において透明性の枠
組み強化をすすめている。
1. 現在、料金設定に関する基本規制はなく、今後も規制導入の方針はない
• 現状、料金の基本設定に関する法制度は存在せず、現在は熱供給事業者による「業界慣行」に従った熱供
給契約(Heat Supply Agreement)が締結されている。
• 料金設定については、熱供給事業者と消費者間にて価格が決定される。
•
DECCは、消費者の省エネ意識の向上を促すとともに、競合する他のエネルギー・ユーティリティーの透明性
の高い価格情報や契約内容と同レベルのサービスを提供する為、熱供給料金や契約内容に関する透明性
の枠組みを強化する必要があると考えている。
•
上記契約内容と共に、EUのエネルギーサービス指令上の熱供給のメーターおよび料金請求のルールに従
い、最終消費者の料金情報や熱使用情報へのアクセスを確保することなどが検討されている。電力、ガスで
は、システム改革後、スマートメータの導入が進んでいるが、熱供給事業では、ビル・オーナーとの契約が多
いことからも、必ずしも最終需要家にメーターが設置されていない例も多く、そうした最終需要家の保護の観
点からも、メーター情報へのアクセス確保は重要な課題となっている。
•
なお、熱料金の決定方法の透明性を高めるべく、ガスなどとの物価スライド制(Indexation)についても、業界
で検討するべきと考えられている。このため、業界サイドは、そうした価格決定手法について説明・検討できる
ようにデータを集めているところである 。
PwC
31
Section 2 (英国)
1-6: 熱料金・供給条件(2/3)
熱料金設定に関する法規制は無く、料金設定は各熱供給事業者の裁量に委ねられているが、消費者に対する
価格情報の提供のためにも、現在策定されている独立熱消費者保護スキーム(IHCPS)において透明性の枠
組み強化をすすめている。
2. IHCPSにおける料金に関する規定 (Billing and Payment)
• 熱供給の長期計画の基本方針としては、本事業では、エネルギー事情の変化が激しいことや英国内の熱供給
を巡る環境が地域によって大きく異なる中、以下の基本ルールを順守することを求めている。
 価格の透明性:初期投資を賄う固定費部分と熱消費を賄う変動費部分からなるが、変動費が需要家
の熱の消費量を反映していることを明示
 市場価格の適用:熱供給価格は、公表されているデータに基づいて設定
 消費量に関する情報の提供:過去12カ月の消費量と料金情報提供
•
•
•
本スキームの規定は、価格規制としての役割ではなく、需要家保護の一環としての契約条件の透明性の確
保が目的である。
熱供給の料金制度で基本とされる固定部分と変動部分を含む価格体系に関するルール作りにおいては、競
合する電力・ガスの規制価格における事例を参考とし、市場の教訓を反映しつつ決めていく必要があると関
係者の間では認識されている。
事業者が料金設定を行う上で満たすべき指針として、(1)メーターの付いていない場合の料金設定、 (2)メー
タがある場合の料金設定、(3)熱料金が記載されている。(次頁参照)
PwC
32
Section 2 (英国)
1-6: 熱料金・供給条件(3/3)
Billing for Unmetered Properties
• Registered Sites must however provide a clear and understandable explanation of how a heat customers’ heat bill has been derived.
Billing Based on Actual Consumption
• A heat bill must cover an agreed period and must be sent out promptly following the end of this period. Billing information must be made
available at least quarterly where billing is based on actual consumption.
• As a minimum Registered Sites must include the following in the heat bill:
Heat energy supply charges (including unit price, variable charges, fixed charges and VAT)
• The amount of heat energy consumed in the last 12 months, expressed in kWh
• The total charges made over 12 months
• Comparisons of the heat customers current energy consumption with consumption for the same period in the previous year
• Registered Sites must ensure that as a minimum the fixed charges and VAT is the same for all heat customers whether on a prepayment
or standard meter. Registered Sites may vary the unit price of heat energy supplied to a heat customer connected to a prepayment meter.
Heat Charge Calculations
• Registered Sites must ensure that a heat customer’s heat bill and/or annual statement specify all heat charges. These are likely to
include:
• Variable charges
• The amount of heat used based on meter reading at the specified property and the unit price of that heat
• Fixed charges (such as standing charge)
• VAT
• A Registered Site must clearly set out how the charges have been calculated.
Paying the Heat Bill
1. Registered Sites are required to communicate to heat customers in a clear and understandable way how to pay their heat bill. The
Scheme sets out requirements for both credit customers and pre-payment customers. The Scheme also contains clauses related to
refunds, back billing and non-payment.
PwC
33
Section 2 (英国)
1-7: 市場監視主体
国レベルでは、熱市場の規制・監視はなされていないが、熱料金に対する一定程度の規制・監視が必要だと、
業界団体である分散エネルギー協会(ADE)は考えている。
1. 監視主体は存在しない
• 英国では熱市場は規制されていないため、基本的に市場監視主体は存在しない。
• 英国政府も、今後も引き続き熱市場を規制することは想定していない。
2. 熱料金に関する一定のルール規制の必要性
• 消費者が熱を使用し続ける上で、熱料金に対する規制や行政による監視は一定の安心感をもたらすという
効果がある。このため、将来的には熱料金に関して業界が遵守すべき何らかのルールを設ける必要がある
とADEは考えている。
• 熱料金に関するルールの必要性は以下三つの特徴に基づき考えられている。



PwC
熱市場は、行政によって監視されていないため、品質と価格が釣り合わない場合がある。
ガス及び電力市場は、ガス電力規制庁(Ofgem)によって監視されているため、品質と価格が釣り合っ
ている。
消費者は、熱の需要家から、ガス又は電気の需要家に切り替えることが可能である。すなわち、熱供給
事業者との熱供給契約を破棄し、ガス又は電気による個別熱源・個別空調の利用へと切り替えること
が可能である。
34
Section 2 (英国)
1-8: 紛争処理体制
現在、熱供給に関する紛争処理の制度は無いため、消費者が直接供給事業者に連絡を取り、解決をしている。
今後、独立熱消費者保護スキーム(IHCPS)では、消費者が無償で利用ができる仲裁制度が規定されている。
1. 紛争処理にかかる枠組み
• 紛争処理に係る枠組みは現時点で整備されておらず、各消費者が直接供給者に連絡を取ることになる。
2. 検討中の苦情・紛争処理体制
• IHPSCでは、消費者との契約関係で、紛争処理に関する手順案が次の通り記載されている。
 熱供給事業者は、消費者との間で締結する熱供給契約(Heat Supply Agreement)において、苦情処理
及び紛争処理手続きに関する条項を入れること。
 苦情を受けた事業者は、苦情の具体的な事案及びその解決状況について運営員会に報告する義務を
負うこと。
 消費者が他の苦情処理に関する第3者機関もしくは裁判所に対し苦情を申したてる権利を確保すること。
 上記手順を取っても苦情が解決されない場合を想定して、消費者が費用負担することなく利用可能なオ
ンブズマンのような紛争仲裁制度(Independent Complaint Handling Mechanism)の設立が、同案の
中で促されている。
 本制度に基づき仲裁が行われる場合、同運営委員会は第3者の有識者を仲裁者に選任し、選任を受け
た者が仲裁を行うことになる。
PwC
35
Section 2 (英国)
1-9: 卸供給に関するルール
国レベルの卸供給に関するルール・規制は存在しない。但し、再生可能エネルギー源が推奨されている。
1. 国レベルでの規制はない
• 熱供給事業者が第3者から熱の卸供給を受ける際のルール・規制は存在しない。
2. 再生可能エネルギー源が推奨
• DECCは、2011年より、再生可能エネルギーを基に熱を生み出す施設に報奨金を提供する再生可能熱イン
センティブスキーム(RHI) を導入している。RHIの対象熱源は、廃棄物燃料、ヒートポンプ、地熱、太陽熱、バ
イオガス、バイオメタンである。
• RHIでは、再生可能熱に対して熱量及び活用技術に基づいた固定収入額を提供しているが、プラントの規模
によりレートは異なる。
PwC
36
Section 2 (英国)
1-10: 安定供給の確保策(1/2)
国レベルでの供給能力の確保に関する規定は存在していないが、①地方自治体レベルでの供給水準ガイドライ
ンや、②独立熱消費者保護スキーム(IHCPS)下のサービス継続に関する規定により、安定供給が担保されて
いる。
1. 地方自治体レベルでは熱供給計画の実効性を精査
• 自治体に熱供給事業の計画を立案する際、熱マッピング、エネルギーマスタープラン、実現可能性調査(FS)、
詳細計画をそれぞれ項目を精査し、それらの事業性が確保できることを判断した後、様々な資金などのサ
ポートが提供されることになる。
Heat Network Development Stage
•
Heat Mapping, Energy Master Planning: Area-wide exploration, identification and prioritisation of heat network
project opportunities
•
Feasibility Studies, Detailed Project Development:Project specific - An increasingly detailed investigation of the
technical feasibility, design, financial modelling, business modelling, customer contractual arrangements and
delivery approach, leading to investment grade project proposal(s)
(出典: エネルギー・気候変動省、 2014)
2. ロンドンにはガイドラインが整備されている
• 熱供給事業者が多いロンドンにおいては、熱供給者と消費者の間に締結する熱供給契約にかかるガイドライ
ンが整備されている。
• 同ガイドラインには、供給水準(Standards of Service)を明記するように示されている。供給水準の項目には、
熱供給にかかる温度、稼働停止及びその告知プロセス、実施基準、業務報告の方法、契約不順守の際の罰
則が記載されている。(Greater London Authority, 2013, p.54)
PwC
37
Section 2 (英国)
1-10: 安定供給の確保策(2/2)
国レベルでの供給能力の確保に関する規定は存在していないが、①地方自治体レベルでの供給水準ガイドライ
ンや、②独立熱消費者保護スキーム(IHCPS)下のサービス継続に関する規定により、安定供給が担保されて
いる。
3. IHCPSにおける規定 (Evidence of Continuity of Service Arrangements)
•
同スキームに登録されるためには、事業の継続に関する技術的および財政的な施策が採られていることが
求められている。したがって、熱供給システムをIHCPSに登録するためには、以下の情報を提出することが
求められる。(独立熱消費者保護保護スキーム、2014a、 p.18))




PwC
サービス停止の際のコンテンジェンシープランの策定
サービス供給能力確保のためのメンテナンスプランの策定
熱供給事業者の倒産などの際の対策および対応のプロセス
そのような事象が発生した際の契約上の規定
38
Section 2 (英国)
1-11: 需要家に対する導管接続義務
国レベルでは需要家に対する熱導管への接続義務は定められていない。熱導管への接続義務を導入するか否
か、当該義務を導入する場合における条件等の判断は自治体に委ねている。
1. 需要家に対する導管への接続に対する義務化はない
• 英国政府は、需要家に対する導管の接続を義務化していない。
• 英国政府が策定した全国計画政策枠組み(National Planning Policy Framework: NPPF)にて、導管の接
続義務を含むエネルギー等の計画策定は各自治体に委任しているため、自治体が導管接続を義務化してい
る場合がある。(次頁参照)
2. 自治体が導管への接続義務を導入している例は存在する
• ロンドン都心には13の自治体があり、その内の3自治体が、需要家に対し、導管への接続を義務化している。
• 下表の通り、義務の対象となる範囲は各自治体により異なる。
図表1-6: 地方自治体による導管接続義務の例
(以下の範囲内に所在する需要家は、地域熱供給を受けねばならないこととなっている。)
自治体管理地域
地域導管接続義務の適用範囲(新規・既設ネットワークから)
カムデン
500m以内全て(1km以内検討)
グリニッジ
プラント周辺では敷地外までの導管整備
サザク
50m~200m
出典: 一般社団法人熱供給事業協会の協会誌Vol. 86を基に作成
PwC
39
Section 2 (英国)
1-11: 需要家に対する導管接続義務(参考)
National Planning Policy Framework (NPPF) Planning Practice Guidance
97. To help increase the use and supply of renewable and low carbon energy, local planning authorities should recognise
the responsibility on all communities to contribute to energy generation from renewable or low carbon sources. They
should: have a positive strategy to promote energy from renewable and low carbon sources; design their policies to
maximise renewable and low carbon energy development while ensuring that adverse impacts are addressed
satisfactorily, including cumulative landscape and visual impacts; consider identifying suitable areas for renewable
and low carbon energy sources, and supporting infrastructure, where this would help secure the development of such
sources; support community-led initiatives for renewable and low carbon energy, including developments outside such
areas being taken forward through neighbourhood planning; and identify opportunities where development can draw
its energy supply from decentralised, renewable or low carbon energy supply systems and for co-locating potential
heat customers and suppliers.
203. Local planning authorities should consider whether otherwise unacceptable development could be made acceptable
through the use of conditions or planning obligations. Planning obligations should only be used where it is not possible
to address unacceptable impacts through a planning condition.
204. Planning obligations should only be sought where they meet all of the following tests:
•
necessary to make the development acceptable in planning terms;
•
directly related to the development; and
•
fairly and reasonably related in scale and kind to the development.
205. Where obligations are being sought or revised, local planning authorities should take account of changes in market
conditions over time and, wherever appropriate, be sufficiently flexible to prevent planned development being stalled.
206. Planning conditions should only be imposed where they are necessary, relevant to planning and to the development to
be permitted, enforceable, precise and reasonable in all other respects.
PwC
40
Section 2 (英国)
1-12: その他振興・支援策(1/2)
エネルギー・気候変動省(DECC)下の熱振興のための熱ネットワーク供給ユニット(HNDU)は、英国内の91の
自治体で熱供給にかかる実現可能性調査(FS)を実施しており、同システムの拡大を目指している。
1. 将来の熱供給ネットワークに関するFS資金
の提供
• DECCは、熱供給ネットワークが、同国に
おける低炭素エネルギーの中心的な役割
を果たすとの見方から、2013年にHNDUを
設立したが、地方自治体と共に同国内の
熱供給ポテンシャルに関する調査を積極
的に進めている。
•
それらの調査は、コマーシャルおよびテク
ニカルな観点からの熱供給システムの開
発を検討するものであり、2015年1月現在、
91の地方自治体で、122の実現可能性調
査(FS)が実施されている。FS資金は、こ
れまで約£7百万投入され、2015年には
£10百万に増加する予定である。
PwC
41
Section 2 (英国)
1-12: その他振興・支援策(2/2)
振興策は主にCHPを対象としたもので、直接的に熱供給に対するものは少ない。
1. 再生可能熱インセンティブ(Renewable Heat Incentive: RHI)
• 2011年より、世界初の再生可能エネルギーを基に熱を生み出す施設に報奨金を提供する再生可能熱インセ
ンティブスキーム(RHI) が導入されている。
• RHIの対象熱源は、廃棄物燃料、ヒートポンプ、地熱、太陽熱、バイオガス、バイオメタンである。
2. 炭素税(Carbon Price Support: CPS)
• 2013年に、政府は化石燃料を素に発生される電気に対して炭素税の最低価格(Carbon Price Support:
CPS)を設定した。なお、容量が2MW以下のCHPプラントは全てCPSの対象外となる。
3. 拡張減価償却策(Enhanced Capital Allowance: ECA)
• 省エネ設備を購入する際に、事業者は購入費用を課税対象利益に計上することが可能である。
• ECA構想によると良質なCHPプラントは、「省エネ設備及び機械」に分類され、資本控除対象となる。
4. 再生可能エネルギー購入制度(Renewable Obligation Certificates: RO)
• 再生可能エネルギー(バイオガス、バイオマス、廃棄物固形燃料)を熱源とするCHPプラントは容量に比例し
た補助金を受け取ることが出来る。
PwC
42
Section 2 (英国)
1-13: ロンドンにおける地域熱供給スキーム (1/5)
1.ロンドンにおけるエネルギー分権化(熱供給スキーム)は以下に分類される
ロンドン市は、熱供給事業における官民連携のモデルについて、以下の3つのタイプに分類している
• タイプ1は、ほとんど、あるいは全く地域熱供給のネットワークを活用しない。
• タイプ2は、主に一つ以上のサイト及び一つ以上のエンドユーザーを対象とする。
• タイプ3は、複数の熱生産者を広範囲に熱供給用パイプで接続したものである。
• タイプ別の関係を図解化したものが、右図表(↔は接続を示す)。
図表1-7: 各タイプの相関図
タイプ3
タイプ2
タイプ1
タイプ1
タイプ1
タイプ1
タイプ2
出典:Mayor of London(2009)
PwC
43
Section 2 (英国)
1-13: ロンドンにおける地域熱供給スキーム (2/5)
2. 各タイプ別のスキームには適したストラクチャーがある
図表1-8: 略語説明
Southwark MUSCO
(1)
タ
イ
プ
1
&
タ
イ
プ
2
EsCo
Customer
• 単一企業による供給・インフラ整備・エネルギー販売
South East London combined heat and power
(2)
GenCo
TransCo
DisCo
HeatCo
DisCo
GenCo
HeatCo
エネルギー生産・インフラ整備・消費
者への販売を担う単一エンティティ
Generation
Company (GenCo)
生産用設備の提供及び熱電販売を
行う。分権化エネルギーインフラ設備
付近に位置する商業企業である可能
性が高い
Transmission
Company
(TransCo)
エネルギー伝達導管等を所有し、当
該導管は地元パイプネットワークに
接続している。
Distribution
Company (DisCo)
地元パイプネットワークを所有・運用
し、GenCoよりエネルギーを獲得し、
消費者に販売する(HeatCoの仲介を
必 要 と し な い ) 。 ま た 、 TransCo と
DisCoが単一のエンティティの場合も
ある。
Heat
company
(HeatCo)
熱を購入しエンドユーザーに販売す
る。HeatCoは一般消費者を代表す
る公共セクター団体、あるいは商業
企業の場合もある。
Customer
• 単一企業による供給・インフラ整備、そして当該企業は仲介を通
してエネルギーをエンドユーザーに販売
King’s Cross Central Development
(3)
Energy
services
Company (EsCo)
Customer
• 2種類の役割があり、一つはエネルギーの供給及び販売を担
い、もう片方がインフラ整備に注力する
London Thames Gateway Heat Network
タ
イ
プ
3
(4)
GenCo
TransCo
DisCo
Customer
Customer
(Large)
HeatCo
出典: Mayor of London, Powering Ahead
Customer
• 別々の企業がエネルギー生産とエネルギー伝達を担い、複数の
供給主体がいる
PwC
※:赤い点線は、単一企業が複数の機能を持っていることを示す。
44
Section 2 (英国)
1-13: ロンドンにおける地域熱供給スキーム (3/5)
3. タイプ1- 単一サイト(概要)
• タイプ1スキームは、ほとんど、あるいは全く地域熱供給のネットワー
クを活用しない。
• 当該スキームの商業的実用性は、小規模地域熱供給が要求する少
額インフラ投資並びにCHP発電による小売電力輸入の相殺、の二点
により裏打ちされている。
• タイプ1スキームは、これまでは主に公共セクター主体での開発が進
められていたが、近年は主要開発計画の一部として頻繁に注目を浴
びている。
• ロンドン市長によると、市長は、2007年から紹介された都市計画の
一環でCHP導入(タイプ1)を100件以上承認していた。なお、既存建
造物を対象とした計画は、経済的実用性が見込めるプロジェクトのみ
を承認していた。
図表1-9: 概要(タイプ1)
名称
単一サイトスキーム
対象
-3,000居住
エネルギー量
0.3-3MWe + 同等の熱
建設費用
1,000万ポンド
採算年数
-5年
4. クランストン団地の再生 (具体計画例)
• クランストン計画は、長さ1kmの熱供給導管及び天然ガスを使用したCHP施設を設
備から構成される分権化されたエネルギーネットワークに、500以上の住居が接続す
ることを目的とする。
• 対象となる団地地域は、Shoreditch内に位置する、Cranston・Wenlock・Thaxtedの
3団地である。
• 資 金 に 関 し て は 、 現 在 は ロ ン ド ン 自 治 区 の ハ ッ ク ニ ー ( London Borough of
Hackney)とCESP(Community Energy Saving Programme)より、650万ポンドの
資金援助を受ける予定である。また、LDA(London Development Agency)による実
現可能性調査が実施され、本計画はLDAの支援も受けている。
• WenlockとThaxtedにて使用されている老朽化された灯油式給湯機はガスを使用し
たCHPエンジンに更新される計画である。
• 計画上、CO2排出量は1,200トン削減される見込みである。
図表1-10: 地図(Shoreditch)
Shoreditch
出典: Google Maps
PwC
45
Section 2 (英国)
1-13: ロンドンにおける地域熱供給スキーム (4/5)
5. タイプ2 - マルチサイト・混合スキーム(概要)
• タイプ2スキームは、タイプ1と比較して、かなり大規模になり、一つ以
上のサイト及び一つ以上のエンドユーザーを対象とする。
• タイプ2の経済的利点は、需要の規模と多様性及び低コスト燃料によ
る、効率的な運用と効率的な発熱・発電である。
• マルチサイト・混合スキームは、既存単一スキームが互いに接続する
ことで開発可能で、更に、原則的には単一サイトの合体は経済的に
も良い。
• ビジネス面においても、熱電併給施設による電気を小売価格で販売
できるメリットがある。
図表1-11: 概要(タイプ2)
名称
マルチサイト・混合スキーム
対象
3,000-20,000住居
エネルギー量
3-40 MWe + 同等の熱
建設費用
-1億ポンド
採算年数
6~10年
6. サウスワークにおける複数ユーティリティ企業(具体計画例)
• 本計画は9,700以上の住居と38,000平方メートルの商業スペース(都市再生地
域のElephant and Castle・Aylesbury団地も含む)を対象とし、電気・熱・湯・水・
コミュニケーションのインフラを提供する目的がある。
• Dalkia(英国エネルギー会社)率いるコンソーシアムにより、電・熱・冷・湯をトライ
ジェネレーション式で生産する予定である。コンソーシアムは、本計画の費用を
私的財源で補い、計画の設計・建設・管理を行う。
• サウスワークはエネルギー施設用の土地を提供し、対価として契約条件に基づく
返済額を要求する。
• 既存する単一サイトを繋げることにより確保可能な早期の収益及び電気の販売
による収益源が魅力だとコンソーシアムは感じる。
図表1-12: 地図(Southwark)
Southwark
出典: Google Maps
PwC
46
Section 2 (英国)
1-13: ロンドンにおける地域熱供給スキーム (5/5)
7. タイプ3 - 地域全体を対象とした熱供給スキーム(概要)
図表1-13: 概要(タイプ3)
• タイプ3スキームは、40年以上の期間(technical life)並びに複数の熱
生産者(例:発電所、産業廃棄物・エネルギーを使用する発電所)を広
名称
範囲に熱供給用パイプで接続したものである。
• 当該スキームを実施するには広範囲に大規模熱生産者が存在する必
対象
要があり、更に互いに熱導管に接続することで熱供給の効率化が実
現しなくてはならないため、タイプ3の実施機会は限定的となっている。 エネルギー量
• 限定的ではあるが、現在のロンドンには、低価格・低炭素排出施設が
複数顕在であり、現在よりも広く、相互接続したネットワークを構築す
建設費用
るには打ってつけであるとロンドン市長は訴えかけている。
• 長期的には、大規模なネットワークはマルチサイト(タイプ2)の相互接
採算年数
続により開発可能で、結果的には、少数の大規模エネルギー生産所
の発達による効率化を図る。
8. ロンドンテムズゲートウェイ熱ネットワーク(具体計画例)
• LDAと地方自治体に率いられ、ヨーロッパ最大級の都市再生特別区
域にて炭素排出の軽減を目的とした地域熱供給ネットワークの構築を
目的とする。
• 本計画は1.5億ポンドほどの規模があり、想定では、200以上の建設
業務、及び50以上の運営管理業務による雇用も創出する。また計画
上は、約67kmの熱供給導管を使用し、エンドユーザーは12万世帯と
その他建物が誘致圏域となり、結果的に年間10万トンのCO2 を40年
間削減すると見込まれている。
• ストラクチャー上、既存の民間熱生産者が熱を熱供給会社に販売し、
熱供給会社は仲介会社を通して一般消費者に販売する予定である。
• 資金は公共セクターより6,000万ポンドと民間投資9,000万ポンドが想
定されている。
PwC
地域全体を対象とした
熱供給スキーム
10万以上の公共・
民間商業施設
不明
1億ポンド以上
10-15年
図表1-14: 地図(テムズ地域)
ロンドン中心
出典: Arup
47
Section 2 (英国)
1-14: 参考資料
背景/概要
• Euroheat and Power (2013), Country by Country Survey – United Kingdom
• Poyry (2009), The Potential and Costs of District Heating Networks – A report to the Department of En
ergy & Climate Change
• エネルギー・気候変動省 (n.d.)、 Policies, https://www.gov.uk/government/policies?departments%5B%
5D=department-of-energy-climate-change (2014/12/26アクセス)
• エネルギー・気候変動省(2015)、Delivering UK Energy Investment: Networks
• 気象庁(2013)、 Annual 2013, http://www.metoffice.gov.uk/climate/uk/summaries/2013/annual (2014/1
2/26アクセス)
• 貿易投資庁(2009)、 Energy Billing and Metering – Changing Customer Behaviour
主要関係者のHP
• エネルギー・気候変動省、 https://www.gov.uk/government/organisations/department-of-energy-climatechange
• 熱事業者協会、http://www.ukdea.org.uk/
• 分散エネルギー協会、http://www.theade.co.uk/
PwC
48
Section 2 (英国)
1-14: 参考資料
関連枠組み
• エネルギー・気候変動省(2013)、The Future of Heating: Meeting the Challenge
• 独立熱消費者保護スキーム(2014a)、 Independent Heat Customer Protection Scheme – Revised
Proposals and Consultation Feedback
• 独立熱消費者保護スキーム(2014b)、 Independent Heat Customer Protection Scheme : Presentation t
o Scottish Heat Networks, http://www.heatandthecity.org.uk/__data/assets/pdf_file/0006/166749/Aime
e_Betts-Charalambous_-_Independent_Heat_Customer_Protection_Scheme.pdf
(2014/12/26アクセス)
熱料金・供給条件
• Greater London Authority (2013), District Heating Manual for London
• エネルギー・気候変動省(2013)、The Future of Heating: Meeting the Challenge
• エネルギー・気候変動省(2014)、The metering and billing of district heating, district cooling, and comm
unal heating and hot water systems
市場監視主体
• Euroheat & Power, Ecoheat4eu – Overview of legislative framework (United Kingdom), http://ecoheat4.
eu/en/Country-by-country-db/United-Kingdom/Overview-of-DHC-Legislative-Framework/
(2014/12/1アクセス)
卸供給に関するルール
• Office of the Deputy Prime Minister (2013), Planning Policy Statement 22: Renewable Energy
• Department of Energy & Climate Change (2011), Renewable Heat Incentive, https://www.gov.uk/gover
nment/uploads/system/uploads/attachment_data/file/48041/1387-renewable-heat-incentive.pdf
(2014/12/1アクセス)
PwC
49
Section 2 (英国)
1-14: 参考資料
安定供給の確保義務
• Greater London Authority (2013), District Heating Manual for London
• Office of the Deputy Prime Minister (2012), National Planning Policy Framework
• エネルギー・気候変動省(2014), Heat Networks Delivery Unit , http://www.covenant-capacity.eu/fileadm
in/uploads/en/Events/PPT_RESCUE/Bath_Workshop/8-230714_Vanguards_Cooling_HNDU.pdf#pag
e=1&zoom=auto,-271,540 (2015/2/26アクセス)
導管接続義務
• Office of the Deputy Prime Minister (2012), National Planning Policy Framework
• 一般社団法人熱供給事業協会 (2013)、協会誌Vol. 86、ロンドンの開発事業と連動した地域熱供給
ロンドンにおける地域熱供給スキーム
• Arup (n.d.), http://www.arup.com/Projects/London_Thames_Gateway_Heat_Network.aspx
(2014/12/26アクセス)
•
Arup (2014), Re-thinking district heating – Removing the barriers for successful projects
(現地訪問にて受領)
•
Mayor of London (2009), Powering ahead – Delivering low carbon energy for London, http://www.lond
on.gov.uk/sites/default/files/archives/mayor-publications-2009-docs-powering-ahead141009.pdf
(2014/12/26アクセス)
PwC
50
2. ドイツ共和国
2-0:
2-1:
2-2:
2-3:
2-4:
2-5:
2-6:
2-7:
PwC
ドイツ全体概要
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給の主要関係者
熱供給の事業規制
熱料金・供給条件
紛争処理体制
市場監視主体
2-8: ネットワークの中立性確保に
関する議論
2-9: 安定供給の確保策
2-10: 需要家に対する導管接続義務
2-11: 卸供給に関するルール
2-12: 個別熱源禁止
2-13: 道路占有ルール
2-14: その他の主な振興・支援策
2-15: 参考資料
51
Section 2 (ドイツ共和国)
2-0: ドイツ全体概要(1/2)
1.
熱供給市場とその構造
 地域差があるドイツでの熱供給システム普及率: 2011年のドイツ全土での熱需要(住居用及び産業用
の総需要)は、4,682,000TJであり、この需要に対する熱供給を熱源別に見た場合、地域熱供給が占め
るシェアは13.1%である。地域間でシェアに差がある点が特徴であり、社会主義圏だった東部(31%)と
西部(8%)と地域間で差がある。地域熱供給の供給量は、断熱策の導入に伴い特定の熱需要に対する
供給は減少傾向にある。但し、都市部の熱供給業者が導管ネットワークの地方部への延伸を通じ、供給
量を拡大させており、全体では緩やかなペースながらも成長を続けることが見込まれる。
 垂直統合されているシステム: 熱供給システムは、それぞれ限定的な地域に対する温水や蒸気の形態
で熱供給を行う閉鎖的なシステムであり、 垂直統合された独占的な事業形態となる。なお、シュタットベ
ルケ(電力会社)では、電気・ガスのアンバンドル規制に伴い、ネットワーク子会社が熱導管ネットワーク
を保守・管理している場合がある。この場合、組織としては別の組織であるものの、企業グループ全体で
見る場合には、実態として垂直統合された事業形態になる。
2.
熱供給事業規制の枠組み
 熱供給事業を規制する参入規制や料金規制は存在しない: ドイツでは、参入規制、料金規制等の事業
規制は存在しないが、熱供給事業者と一般家庭需要者との間の契約ルールを規定する「地域冷暖房一
般規則(AVBF FernwarmeV)」は存在する。
 契約などに関する一般規則が重要な役割を果たす: 契約の相手先が家庭などの需要家である場合を
対象とする同規則では、料金説明等に関するルール、書面での契約締結義務、消費者からの料金に係
る苦情処理などが規定されている。
 需要家に対する熱導管への接続義務(需要家が、ネットワーク事業者と接続し、熱供給を受入れなけれ
ばならない義務)、化石燃料の利用などに関する規制を導入するかどうかにつき判断する権限は各地方
自治体にある。それらの運用も、それぞれの自治体に任されている。
 なお、連邦レベルの法制度としては、CHP法、再生可能エネルギー熱利用法などの振興策が中心であ
る。
PwC
52
Section 2 (ドイツ共和国)
2-0: ドイツ全体概要 (2/2)
政府機関
地方自治体
【連邦経済エネルギー省(BMWi)】
熱供給振興策の策定
【連邦カルテル庁(Bundeskartellamat)】
市場監視
許
認
可
出
資
補
助
金
【裁判所】 消費者と企業間の紛争処理
政策提言
独立機関/団体
【ドイツ熱供給協会(AGFW)】
熱供給事業者による業界団体。
業界自主ルールの策定、政策提
言等
契
約
に
係
る
苦
情
申
立
消費者
PwC
企業
熱供給契約
53
Section 2 (ドイツ共和国)
2-1: 熱供給の背景
ドイツ政府は2022年までの原発稼働停止政策を掲げる一方で温室効果ガス削減目標は堅持しており、エネル
ギー効率化促進の観点から、地域熱供給システムへの期待は高い。
1. 原発稼働停止政策の影響
•
日本の福島での原発事故を受け、ドイツ政府は全原発の稼働を2022年までに順次停止させる脱原
発政策を決定。
•
他方、温室効果ガス削減目標は堅持(2050年までに1990年比で95%削減)していることから、エネル
ギー使用の効率化及び再生可能エネルギーの使用推進を更に加速させる必要が有る。
•
地域熱供給システムは、上記エネルギー使用の効率化を加速させる主要な手段として、その機能を
果たすことが期待される。
2. 地域熱供給システム普及に関する目標
•
ドイツ政府は2020年までに、電力の25%をCHPプラントにて供給する目標を掲げている。(2010年は
同13%。)
•
地域熱供給システム普及に向けた具体的な数値目標は無いものの、CHPプラントで地域熱供給シス
テムに対し供給される熱量が増えることから、地域熱供給システム普及を後押しすることが期待され
る。
PwC
54
Section 2 (ドイツ共和国)
2-2: 熱供給の現状
地域熱供給のシェアは13.1%(2011年)であり、市場は今後も緩やかなペースでの拡大が見込まれる。
1. 地域差のある市場シェア
•
2011年のドイツ全土での熱需要(住居用産業用、
運輸用全ての最終総需要)は、4,682,000TJあり、
この需要に対する熱供給を熱源別に見た場合、地
域熱供給が占めるシェアは13.1%である。
•
旧社会主義国であった東ドイツで元来普及が進ん
でいたことを背景とし東部と西部で市場シェアに差
が出ている。東部で31%、西部で8%と地域間で差
がある。
2. 緩やかに成長する市場
•
地域熱供給の供給量は2009年から2011年にか
けて微減しているが、これは建物の断熱性能の向
上や老朽建築物の更新等に伴うもの。都市部では
熱供給業者が導管ネットワークを地方部への延伸
し、供給量を拡大させており、全体では市場は緩
やかなペースながらも成長を続けることが見込ま
れる。
図表2-1:ドイツ全土の熱の最終総需要に対する供給熱源別割合
出所:Euroheat and Power (2013)
図表2-2:地域熱供給事業者による消費者向け売上(熱量ベース)
3. 再生熱による熱供給
•
熱供給の90%以上は再生熱 (Recycled Heat:
CHPプラント、廃熱回収プラント等からの回収熱)
による供給である。
PwC
出所:Euroheat and Power (2013) 55
Section 2 (ドイツ共和国)
2-3: 熱供給の主要関係者
1. 連邦経済エネルギー省 (BMWi)
• 熱供給振興策を含む、エネルギー政策全般を所掌している。
• 例として、CHP法 (KWKModG)に基づく振興策を実施している。(詳細は2-14「その他の主な支援・振興策」
参照)
• 地域冷暖房一般規則(AVBF FernwarmeV)も所管している。
2. ドイツ連邦カルテル庁 (Bundeskartellamat)
• 市場の独占・寡占的慣行の監視・抑止機関として、熱供給事業に関する市場状況の調査・モニタリングを行う。
• 2012年には、熱供給事業の経済性・価格形成調査を実施している。
3. ドイツ熱供給協会 (AGFW)
•
•
熱供給事業者の業界団体として、過去40年間業界統一ルールの策定及び政策提言活動に携わってきた。
加盟事業者数は約500社あり、この加盟事業者だけでドイツの熱供給システムによる熱供給量の95%をカ
バーしている。
PwC
56
Section 2 (ドイツ共和国)
2-4: 熱供給の事業規制
参入規制や料金規制は存在しないが、熱供給事業者と一般家庭需要家との間の契約において大きな枠割を果
たすルールとして、地域冷暖房一般規則(AVB FernwärmeV)が存在する。
1.参入規制や料金規制は存在しない
•
ドイツには、参入規制、料金規制は存在しない。
•
但 し 、 熱 供 給 事 業 者 と 一 般 家 庭 需 要 家 と の 間 で の 取 引 に つ い て は 、 一 定 の 規 律 で あ る 地 域 冷 暖 房 一 般規 則 ( AVB
FernwärmeV)が存在する。(産業界の需要家との関係には未適用。)
2. 地域冷暖房一般規則 (AVB FernwärmeV)
•
本規則は連邦経済エネルギー省(MMWi)が制定しているものであり、熱供給事業者が一般家庭需要家に対して提供するサー
ビスに関し、標準的な契約条件が定められている。
•
熱供給事業者は、需要家による明示的な同意が無い限り、この規則に反する条件で取引をしてはならない。(第1条)
•
規則の主な内容次は通りである。
 書面契約義務(第2条)
 新規需要家の求めに応じて、標準的な契約内容を示す義務(価格算定ルール、価格表を含む)(第2条)
 やむを得ず供給を途絶する場合等における需要家への通知義務(第5条)
 料金算定のベースとなるメーターの認証(第18条)(メーターは熱供給事業者の負担により設置される)
 熱供給事業者は、月毎、又は、1年を超えない範囲で定期的に料金を徴収するが、需要家が望む場合は、月払い、四半期
払い、半年払いに応じる必要あり(第24条)
 熱の使用料情報を含め、料金の妥当性について説明する義務(第24条)
 請求書様式はわかりやすくしなければならない(第26条)
 供給契約は10年を超えてはならない(第32条)
 料金を支払わない需要家に対し、2週間供給を停止することが可能(第33条)
PwC
57
Section 2 (ドイツ共和国)
2-5: 熱料金・供給条件(1/2)
料金規制は存在しないが、一般家庭需要家との契約に関しては、地域冷暖房一般規則(AVB FernwärmeV)に
より規律されている。
1. 地域冷暖房一般規則(AVB FernwärmeV)による基本設定
•
料金規制は存在しないものの、熱供給事業者と一般家庭需要者との間の契約を規定する「地域冷暖房一般規則(AVB
FernwärmeV)」が存在する。(産業界の需要者には不適用)
2. 熱供給事業者による料金設定は概ね適切(連邦カルテル庁による監視あり)
•
AVB FernwärmeVには、料金水準そのものに係る規律は存在しない。ドイツ地域暖房協会(AGFW)によると、料金の設定主
体は、資本形態を問わず、熱供給事業者になる(ドイツにおける熱供給の事業主体は、地方自治体や民間事業者)。
•
ドイツ連邦カルテル庁(Bundeskartellamt)が74の熱供給事業者に対し調査を実施した調査(2012)によると、事業者が不当に
価格形成を行った事例はごく少数であることから、熱供給事業者の料金設定は概ね適切であるとされているが、熱供給事業の
市場独占性に着目し、引き続き料金に対する調査・監視を行うとしている。(詳細は「2-7」を参照)
•
なお、地方自治体が熱供給事業者の公有地占有にかかる承認を行う際に、地方自治体は、申請を行った熱供給事業者が設
定する熱料金の適切性を確認を行うことになっている。
3. 需要家に対する料金説明等に関するルール
•
熱供給事業者は料金の算定基準・妥当性について需要者への説明責任を負っている。(AVB FernwärmeV、第24条)
•
一般家庭との契約締結時には、書面での契約締結が義務付けられている。(AVB FernwärmeV、第2条)
•
なお、AGFWでは、業界の自主基準として契約標準条項を策定・公開しており、同項目にも、料金設定に係るルールが含まれ
ている。(契約のひな型は会員のみ閲覧可能である。)
4.消費者からの料金に係る苦情処理
•
消費者は、熱供給事業者との契約に基づき、当該事業者に対していつでも料金に係る苦情を申し立てることが可能である。
•
消費者は請求に明らかな間違いがある場合、若しくは誤った請求書発行後2年以内の支払について、支払を拒否することがで
きる。(AVB FernwärmeV、第30条)
PwC
58
Section 2 (ドイツ共和国)
2-5: 熱料金・供給条件(2/2)
図表2-3:AVB FernwärmeVが示す熱供給事業者と一般家庭需要者の関係図
管轄の裁判所
苦情申し
立て
家庭
需要者
(産業界は
含まない)
道路占用に関する
許認可
(熱料金の適切性
も審査)
熱供給事業者が定め
る料金
地方自治体
(公有地占
有の場合)
熱供給
事業者
熱供給
道路占用
等の申請
地域冷暖房一般規則
(AVB FernwärmeV)
PwC
59
Section 2 (ドイツ共和国)
2-6: 紛争処理体制
消費者と熱供給事業者との間の紛争処理は、裁判所を介して行われる。また、消費者が熱供給事業者に対して
反訴を行うことが、 地域冷暖房一般規則(AVB FernwärmeV) において認められている。
1. 地域冷暖房一般規則(AVB FernwärmeV)に基づく紛争処理体制
• 消費者と熱供給事業者間において、料金に係る紛争が当事者間で直接処理ができない場合は、紛争処理は
裁判所によって行われる。
• 紛争処理の過程において、消費者は熱供給事業者に対して反訴(同じ民事訴訟裁判の中で、被告が原告を
相手方として新たに提起する訴え)を行うことができる。
• 消費者による地域熱供給事業者に対する反訴は、熱供給事業者が無条件にて当該反訴に同意し、且つ裁
判所も消費者が反訴を行うことを支持する判断を下す場合に有効である。(AVB FernwärmeV、第31条)
PwC
60
Section 2 (ドイツ共和国)
2-7: 市場監視主体
連邦カルテル庁が熱供給市場の監視を行っている。
1. 透明性の確保の重要性
• 連邦カルテル庁は、地域熱供事業の閉鎖性(限定された地域に対し熱供給を行う、垂直統合型の市場)を指
摘し、2012年に経済性及び価格形成に関する調査を実施した。
• 調査の結果、熱供給対象地域における独占的地位を濫用して、事業者が不当な価格形成を行っている事例
(料金が業界平均を相当程度上回っている事例)がごく少数であったものの確認された。
• この結果を踏まえ、地域熱供給事業者の価格形成について、不定期の検査を行い、不当に高い料金での供
給を行っている事業者に対し是正を求めていく方針を示した。
• なお、連邦カルテル庁としては、熱供給市場の独占性に着目して料金規制を講じることは想定していない。そ
のような規制を講じるよりも、例えば、インターネットで価格情報を公表したり、熱供給契約の期間を短縮する
など、価格形成の透明性を高めるような方策を講じることが、事業者による不当な価格形成の抑止策となる
と考えている。
PwC
61
Section 2 (ドイツ共和国)
2-8: ネットワークの中立性確保に関する議論
連邦カルテル庁は、熱供給においてアンバンドリングを行うことは妥当でないとの結論を示している。
1. 垂直統合されたドイツの事業形態
• ドイツの熱供給システムは、それぞれ限定的な地域に対する温水や蒸気の形態で熱供給を行う閉鎖的なシステムで
あり、 垂直統合された独占的な事業形態となる。(電気・ガス・熱等の提供サービスを行う事業体においては、電気・
ガスのアンバンドル規制に伴い、便宜上、熱導管についても分社されたネットワーク子会社が保守・管理している場合
はある)。
2. アンバンドリングは必ずしもメリットを生み出さない
• ドイツ連邦カルテル庁は、熱供給業者の経済性/価格形成にかかる調査(2012)の中で、熱供給におけるアンバンドリ
ングについても検討している。
• 同調査結果によると、次のような理由から熱供給事業におけるアンバンドリング妥当ではないとの結論に至っている。
 電力やガスと異なり、熱は長距離を輸送することができない。
 熱供給事業は基本的に地域毎の需要に沿った形で「閉鎖的な」システムとして設計されているため、ネットワー
ク管理・運営と、熱の生産と小売を分離することによる競争促進や効率性の向上といった効果は限定的と考えら
れる。同時に、分離する場合、運営・管理コストが増加するとともに、統合されたネットワークによるシナジー効果
も薄れるおそれもある。
 熱供給事業における適正な価格形成を促すためには、異なるネットワークとの競争状態をつくりだすことが望ま
しい。そのためにはアンバンドリングという手法ではなく、インターネットで価格情報を公表したり、熱供給契約の
期間を短縮すること等によって、熱供給価格の透明性を確保することの方が重要。
•
なお、ドイツ熱供給協会(AGFW)も、アンバンドリングによるベネフィットが少なく、アンバンドリングを実施した場合は
熱供給システム自体の運用コストが高騰すると指摘している。そのような議論の中で、会計分離については、コストの
透 明 性 を 高 め る た め の オ プ シ ョ ン と し て 導 入 で き る の で は な い か と の 意 見 も あ る 。 ( WiK (2013), Need for
Regulation of the District Heating Sector)
PwC
62
Section 2 (ドイツ共和国)
2-9: 安定供給の確保策
地域冷暖房一般規則 (AVB FernwärmeV)に供給責任に関する一定のルールが規定されている。
1.地域冷暖房一般規則 (AVB FernwärmeV)に基づく供給責任
• 熱供給事業者は、需要家との契約条件に従い、熱を供給する義務がある。ただし、①契約上に利用時間の制限があ
る場合、②不可抗力によって避けられず供給途絶した方が経済的と予測される場合には適用されない 。(AVB
FernwärmeV、第5条)
• 熱供給のオペレーションを行う上で必要となる供給途絶に関しては、事前通知を行うことが不可能な場合等を除き、
適切なタイミングで需要家に事前に知らせなければならない。また、供給途絶状態は速やかに解消されねばならない。
(AVB FernwärmeV、第5条)
2. 業界による自主基準
• AGFWは業界団体として、自律的に統一的な行動規則(Code of Conduct)を作成している。
• この行動規則では、加盟する熱供給事業者が、熱供給事業を行う上で遵守すべき技術基準が定められている。例え
ば供給熱のメータリング、熱の生成、導管の接続方法、プラントの操業及び安全確保といった項目についての基準が
ある。
3. 事業主体の経営への配慮
• 地域冷暖房一般規則 (AVB FernwärmeV)では、熱供給事業者に対し、その熱供給コストが合理的になるよう、望ま
しい消費形態を需要家に求める場合があり、その求めがあった場合は、需要家は、あらかじめ合意した範囲内で応
ずべきことが定められている。但し、例外として、需要家が再エネ利用を希望する場合が挙げられている。 (AVB
FernwärmeV、第3条)
• 熱供給事業者の経営が傾いた際には、地方自治体が中心となって当該地域のユーティリティ事業者と共に救済した
事例もある。AGFWによれば、現状では、どの事業者も経営の健全性に係る懸念は少ないが、今後のエネルギー政
策の下では、熱供給事業が他のエネルギー源との競争に晒されることで、経営危機に至る事業者の数は増える可能
性が高いと考えられている。
• 連邦政府は、電力やガス同様に熱供給についても市場の自由化を進める立場から、経営危機に陥った事業者の救
済に関与する可能性は低い。但し、熱供給事業の競争力低下を避けるために、振興策実施の観点からの関与は増
える可能性が高い。
PwC
63
Section 2 (ドイツ共和国)
2-10: 需要家に対する導管接続義務(1/3)
需要家に対する導管接続義務は州レベルで具体的な法制化がなされているが、その内容詳細や当該義務の強
制適用をめぐる判断についても州毎で異なる。
1. 導管接続義務の定義
• AGFWによれば、導管接続義務とは、地域熱供給事業者の導管に接続する義務、及び導管から供給される
熱を使用する義務であり、需要側の建物内の熱需要(温水、暖房)を対象としている。
2. 国レベルでの取り扱い
• 再生可能エネルギー熱法(Renewable Energy Heat Act)の第16条によると、地方自治体は、土地法(Land
Law)に基づき、環境保護及び資源保護を目的として地域熱供給の導管接続を義務化できる旨定めている。
Article 16 Compulsory connection and use (Ecoheat4euからの引用)
The municipalities and local authority associations can make use of a provision under Land law authorising them to
establish compulsory connection and use regarding a local or district heating supply grid, also for the purpose of
climate protection and resource conservation.
•
•
同条項の合憲性については不明確ではあるものの、法曹界からは特段の懸念は示されていない状況である。
2014年のマグデブルグ高等裁判所において、合憲性を認める判例も確認されている。
PwC
64
Section 2 (ドイツ共和国)
2-10: 需要家に対する導管接続義務(2/3)
3.州レベルにおける導管接続義務の実施状況
• 2005年にAGFWは熱供給事業者500社に対し導管接続義務の実施状況に係るアンケートを実施 (回答率
70%)
• 大都市では義務化の割合が低く、地方の小規模な都市で割合が高い結果となっている。その理由として、小
規模な都市では需要を確保することが困難であること(熱供給事業の経済性や効率性を確保し、そのメリット
を需要家が享受できるようにするためには、需要家に対して熱供給の利用義務を課す必要性が高い)、大都
市では当該義務の導入が政治的に困難であることが挙げられる。
• また、導管接続義務を導入している場合であっても、その義務が適用されているのは、ネットワークエリア内
のごく一部の需要家に限定されている。
• 導管接続義務の対象需要家からの売上げも、導管接続義務を導入したエリア内の売上全体の12%という結
果。これは、ドイツの熱供給市場全体の1.4%に過ぎない。
図表2-4: 熱市場全体に占める導管接続義務の対象需要家からの売上げの割合
熱市場全体に
占める導管接
続義務の対象
需要家からの
売上シェア
:1.4%
PwC
出所:AGFW (2014)
65
Section 2 (ドイツ共和国)
2-10: 需要家に対する導管接続義務(3/3)
4. 州法での異なる取り扱い
• 現在は16の州で法制化されているが、各州によってその導入目的は異なる。例えば、公衆衛生を目的として
いる場合もあれば、環境保護を目的として挙げている場合もある。
法制化されている16の州:Baden-Wurttemberg, Bavaria, Berlin, Brandenburg, Bremen, Hamburg,
Hesse, Mecklenburg-Vorpommern, Lower Saxony, North-Rhine-Westphalia, Rhineland-Palatinate,
Saarland, Sachsen-Anhalt, Schleswig-Holstein, Thuringia
•
•
実際に建築物の所有者に対し導管接続義務を強制適用するかどうかは、州の判断に委ねられている状況で
あるが、その是非をめぐっては政治的な議論が起きている。
仮に建築物の所有者が導管接続を拒否する場合、軽微な法律違反と見做され、(罰金では無く、)行政手続
き料を支払わされる旨の規制では定められているが、実務上の運用は州の判断に委ねられる。
ニーダーザクセン州の規定例(Municipalicity Constitution act, Section 13)
1. for the land of their area, to prescribe the connection to (mandatory connection)
a. the public water supply, sewage and waste disposal, street cleaning and district heating
b. heating systems with certain energy supply facilities
c. similar facilities serving the public welfare as well as
2. (use requirement) if the municipality considers the urgent public need, it requires the use of
d. in No. 1 mentioned facilities
e. the public burial grounds and burial facilities
f. public slaughterhouses the statute can grant exemptions from the compulsory connection or use
requirement for certain parts of the municipal area and to restrict them to the certain groups of people or
real estates
PwC
66
Section 2 (ドイツ共和国)
2-11: 卸供給に関するルール
地域冷暖房一般規則 (AVB FernwärmeV)には、他社の熱源を受け入れる場合のルールが規定されている。
1. 地域冷暖房一般規則(AVB FernwärmeV)における関連条項
第13条 需要家設備における試運転
(3) 熱供給事業者が、他社の熱源に接続して供給を受ける際、他社の熱源供給設備の試運転に要するコストについては、供給を受ける側とな
る熱供給事業者より回収することができる。コストはランプサム方式(予めコスト総額について当事者間で合意)で算出される。
第14条 需要家設備側のレビュー
(1) 熱供給事業者が他社の熱源に接続して供給を受ける際、この熱源供給元となる事業者は、受入先の同事業者のプラントの熱源受入状況
について試運転前後に確認することができる。
(2) 受入先のプラントの確認の結果、熱源供給元となる事業者のプラントの安全性を脅かすような欠陥が発見された場合には、熱源供給元とな
る事業者は熱源の供給を拒否する権利を有する。
第15条設備の安全確保及び使用変更
(1) 熱源供給元となる事業者側のプラントは、他の顧客や、受入先となる熱供給事業者の設備を損壊させないよう、 操業されなければならな
い。
(2) 熱源供給元となる事業者側のプラント設備の拡張・変更・追加機器の使用に際しては、受入側の熱供給事業者と協議の上決定する。
第16条 熱源供給元となる事業者による立ち入り権限
熱源供給元となる事業者は、受入側の熱供給事業者との間での契約の履行の目的から、正規職員を受入側の熱供給事業者の施設内に立ち
入らせて必要な技術面での検査を行うことができる。
第17条 安全性の確保
(1) 熱源供給元となる事業者側は、受入先の熱供給事業者側の設備への接続及び試運転を行う上で、安全性の確保の観点から、受入先の熱
供給事業者側に対し追加的に遵守すべき技術要件を求める権利を有する。受入先の熱供給事業者側が他の設備に接続する場合は熱源
供給元の事業者の事前同意を求めなければならない。
2. 再生可能エネルギーの受け入れ義務については国内で議論中
•
現在、熱供給業者は再生可能エネルギーを熱源として受入ることを義務付けられてはいないが、本件はエネルギー問題の1つとして国内
で政治的に議論がなされている。
PwC
67
Section 2 (ドイツ共和国)
2-12: 個別熱源禁止
地方自治体は建物所有者に対し、化石燃料の利用を禁止することが可能である。
1. 化石燃料の利用を禁止することが可能
• 需要家が独自に個別の熱源を導入することを禁じることで熱供給の利用を促すという方策ではないが、類似
の効果が期待される施策として、地方自治体は建物の所有者(需要側)に対し、化石燃料の利用を禁止する
ことができるという規律が存在する。 (連邦ビル規則 (Federal Building Code)、Section 9 No. 23)。
The Content of the Legally Binding Land-Use Plan (Section 9)
(1) The legally binding land-use plan may on urban-planning grounds make designations regarding:
No. 23: areas in which, in order to provide protection against harmful environmental impact within
the meaning of the Federal Control of Pollution Act, certain materials which give rise to air pollution
may not be used, or used only within defined limits
PwC
68
Section 2 (ドイツ共和国)
2-13: 道路占有ルール
地域熱供給事業者は、地方自治体より公有地占有権を得る必要が有るが、事業者が地方自治体そのものであ
る、若しくは自治体が出資する場合が多く、手続き運用の恣意性が高い。
1. 公有地占有の承認の手続きが必要
• 熱供給事業者が、公有地を占有する場合には、当該事業者の所在する地方自治体から認可(Rights of
Way)を取得しなければならない。
• 認可の取得に関する政府の規制は無く、地方自治体の裁量に拠って決められる。具体的には、熱供給事業
者と地方自治体間のコンセッション契約の中において公有地占有の認可に係る条項が含まれる場合が多い。
2. 恣意性高い運用
• ドイツでは、地方自治体が地域熱供給事業者の経営権を取得している場合も多く、行政手続き・運用に係る
恣意性が働くという側面がある。
• 地方自治体によっては、自治体自身が事業者から導管を買取る(接収)条項を契約上盛り込んでいる場合も
ある。
PwC
69
Section 2 (ドイツ共和国)
2-14: その他の主な振興・支援策
政府はCHP法(KWKmodG)に基づき、熱供給事業に係る各種振興策を実施している。また、再生可能エネル
ギー熱利用法(EEWarmeG)に基づき、熱源の50%以上を再生可能エネルギーで賄う熱供給事業から熱供給
を受けることを、再生可能エネルギー利用義務達成と見做すことで熱供給の普及を推進している。
1. CHP法 (KWKModG)
• 送電事業者はCHPプラントへの接続が義務付けられており、CHPプラントからの買電については、電力市場
での取引価格にプレミアムを載せた固定買取価格が適用される。(Article 4.(1), (3))
• CHPプラントを有する熱供給事業者の熱導管敷設については、敷設コストの30%(熱導管直径が100mm以
上)若しくは40%(同100mm以下)について政府がコスト負担を行う。(Article 7a(1))
• CHPプラントに併設される熱貯蔵システム導入についても、政府が一定のコスト負担を行う。(Article 5a (1))
• CHP法に基づく政府の支援額は750百万EUR /年を上限とし、このうち150百万EURは熱導管敷設及び熱貯
蔵システム導入に充当される。(Article 7(9), 7a(4))
2. 再生可能エネルギー熱利用法 (EEWarmeG)
• 新規建築物のエネルギー源として、一定程度の再生可能エネルギーの利用を義務付けるもの。
• 熱供給自体は再生可能エネルギーには分類されないが、新規建築物が熱源の50%以上が再生可能エネル
ギーで賄われる熱供給事業から熱供給を受ける場合においては、上記義務を満たしたと見做され、新規建
築物としての再生可能エネルギー導入する義務の遵守は不要とされる。(Article 27 (4)no.1, Annex 2
no.1.(b) )
PwC
70
Section 2 (ドイツ共和国)
2-15: 参考資料
背景/概要
• Euroheat and Power (2013), Euroheat Country Report Germany
事業規制
• Ordinance on General Conditions for the Supply of District Heating (AVBF FernwatmeV) (2004)
市場監視主体
• ドイツ熱供給協会(AGFW)(2014), The Code of Practice- District Heating
ネットワークの中立性確保
• ドイツ連邦カルテル庁 (2012), Final Report Sector District Heating
導管接続義務
• ドイツ熱供給協会(AGFW)(2014), District Heating Rules: Basics Connection and the Use of Obligation
個別熱源禁止
• (Amended) Federal Building Code (1997)
その他の主な振興・支援策
• (Amended) Act on the promotion of renewable energies in the heat sector (EEWarmeG) (2009 )
• (Amended) Combined Heat and Power Act (KWKModG) (2009)
• Topp (2005), German CHP-Modernisation Act –A Summary, Euroheat &Power English Edition III
PwC
71
3. デンマーク王国
3-0:
3-1:
3-2:
3-3:
3-4:
3-5:
3-6:
PwC
デンマーク全体概要
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給にかかる事業規制
熱料金・供給条件
卸契約に関するルール
市場監視主体
紛争処理体制
需要家に対する導管接続義務
個別熱源禁止
熱供給の事業主体の支配権
道路占有ルール
コペンハーゲンにおける
地域熱供給
3-13: 参考資料
3-7:
3-8:
3-9:
3-10:
3-11:
3-12:
72
Section 2 (デンマーク王国)
3-0: デンマーク全体概要(1/2)
1. 熱供給市場とその構造
 国が主導した熱供給事業: デンマークは、エネルギー安全保障の確保のため、80年代以降進められて
きた熱供給事業普及施策により、2011年時点で住宅セクターにおける利用シェア62.5%、全セクターに
おける利用シェア53%に達している。現在では、気候変動対策としても、引き続き促進されている。
 公的主体による熱供給事業が基本: 熱供給事業は公的主体により運営されるのが基本的な考え。約
100の地方自治体が熱供給事業を直接管理・運営している。民間事業者が熱供給事業を営んでいる場
合でも、その株式の凡そ半分は地方自治体が所有している。需要家で構成される協同組合的組織が熱
供給事業を実施しているケースもある。
2. 熱供給事業規制の枠組み
 熱供給法の下、重要な政府の役割: 1979年に制定された熱供給法(The Heat Supply Act)の下、政
府は、地方自治体に「熱供給事業計画」の策定を義務付け、自治体地域毎の実情に合ったシステムを
作り上げることを促した。同国では、エネルギー計画、エネルギー供給法と一体として熱供給システム
が作り上げられている。
 熱供給事業は、熱供給法上、原則非営利運営と位置づけられており、価格の考え方に、商業的な視点
(利潤という観点)は含まれない。
 消費者保護については、連邦から地方自治体まで複数のレベルで対応: 熱供給事業制度としては、
自然独占を認めた上で、規制等を通じて消費者を守らなければならないという考えが基礎になっており、
エネルギー規制当局が中心となって当該規制・制度を運用している。具体的には、料金設定時の規制
や、熱料金やその他供給条件を規制当局に事後報告する仕組みがあり、これらにより熱料金に対する
監視を確保している。また、熱供給事業者と需要家間の契約に関する紛争処理体制も整備されている
など、消費者保護の枠組みが確立されている。
PwC
73
Section 2 (デンマーク王国)
3-0: デンマーク全体概要(2/2)
政府機関
【気候・エネルギー・建設省:Ministry of Climate, Energy and Buildings】
政策決定、エネルギー計画策定
監督
【エネルギー庁( DEA )】
政策策定および規制局
【エネルギー規制局(DERA)】
価格および市場監視
枠組み構築
コペンハーゲン等
地方政府・地方議会
Local Heat Planの策定・実施
一部接続義務
価格報告・監視
規制
企業
非営利団体としての活動
所有
消費者
ビルのオーナーや個人住宅ともに契
約主体となり、地方自治体を通して、
熱共有企業の意思決定にも参加
政策決定
への参加
熱供給および利
益の分配
保護
消費者団体
Energy Supplies
Complaint Board
PwC
74
Section 2 (デンマーク王国)
3-1: 熱供給の背景
デンマーク政府は、70年代のオイルショックを契機として、エネルギー安全保障の確保を目的として熱供給の導
入・普及を促進。近年では、気候変動・CO2削減への対応としても、熱供給の利用が推進されている。
1. 輸入石油エネルギーへの依存
• デンマークは、70年代のオイルショック以前、ほぼ完全に輸入石油エネルギーに依存していた。
• 73年のオイルショックにより同国のエネルギー安全保障の欠如が露呈された。また、石油価格の上昇により
経済危機が生じ、失業者問題や貿易赤字問題などが発生した。
2. エネルギー安全保障への対応
• デンマーク政府はエネルギー安全保障の確保を目的として、主に下記の対応と取った。
 消費エネルギーの削減
 コジェネレーションにおける燃料の石油から石炭およびガスへのシフト
 コジェネレーションで発生する余熱の有効利用
• 上記対応に伴い、自治体が主導するかたちで熱供給・天然ガスのtransmissionネットワーク及びdistribution
ネットワークの整備が行われた。
3. 気候変動・CO2 削減への対応
• 熱供給は、当初70年代のオイルショックの対応策として導入されたが、その後、気候変動・CO2削減への対
応にも有効であるとして促進されている。
PwC
75
Section 2 (デンマーク王国)
3-3: 熱供給にかかる事業規制(1/2)
熱供給法が存在し、同法律に詳細な規定が記載されている。
1. 熱供給法(The Heat Supply Act、1979)
• 熱供給法(The Heat Supply Act)は、最も社会経済的で、環境配慮されたユーティリティである熱供給を促進させ、石
油に依存したエネルギーシステムからの脱却することをめざして、1979年に施行された法律である。熱供給に関連す
る詳細な規定が記載されている。
• 熱供給事業は、熱供給法上、原則非営利運営と位置づけられており、価格の考え方に、商業的な視点(利潤という観
点)は含まれない。
• 同法により、地方自治体に「地域熱供給事業計画」の策定を義務付け、自治体地域毎の実情に合ったシステム構築
を促した。
• 同法では、全ての需要家に熱供給システムもしくは天然ガス供給システムへの接続を義務付けているなど、地域熱
供給事業計画の確実な実施が担保されている。
2. Electricity Supply Act (1976)
• 全発電所が、CHPに転換されなければならないとの制度の確立されており、熱供給を提供できる素地となっている。
3. 改正熱供給法 (1990~2000)
• 熱供給法の制定当初の地方自治体による地域熱供給事業計画の策定は厳格に供給地区(Zone)の制定と熱供給シ
ステムの活用を義務付けるものだったが(次頁参照)、近年の改正法では、その規制が緩和されている。
•
すなわち、制定当初は、地方自治体がエネルギー庁(DEA)より認可を得る“Binding Plan”だったが、2000年以降は、
中央政府の認可を経ずに、地方自治体と熱供給事業者によって地域熱供給事業計画を策定することが可能になった。
PwC
77
Section 2 (デンマーク王国)
3-3: 熱供給にかかる事業規制(2/2)
デンマークにおける熱供給事業は、熱供給法の下、熱供給のための供給地区(Zone)を設定し、そのZoneにお
いては、優先的に熱供給の活用を促している。
4. 熱供給法制定当初の地域熱供給事業計画
• 熱供給法に従い、まず、政府が国家熱供給計画を策定。
• その後、地方自治体に、①熱の需給状況、②地域で調達可
能な熱源、③将来の熱の需給見通しに関するレポートを計画
からなるレポートの作成・提出を要請。
• これらの情報などを基に、政府は、地方自治体が従うべき熱
供給に関するガイドラインやルールを策定。これを受け、地方
自治体は、地域熱供給事業計画を策定するとともに、地方自
治体の中のより細分化された地区ごとに、地区の熱供給計
画(Local Heat Plan)を立てることになる。
5. 80年代には、4種類の供給地区(zone)を設定
• 1980年代に策定された地区ごとの熱供給計画(Local Heat
Plan)は、①熱供給、②ガス供給、③熱供給とガス供給の混
合、④個 別熱源(ネッ トワ ークなし )の 4種 類の供給 地区
(Zone)を設定した。
• 90年代以降は、「石油・石炭から天然ガス・バイオマス利用へ
のシフト」、「通常型の熱供給プラントからCHPへのシフト」と
いう変化を後押しするため、供給地区ごとに活用できる燃料
の選択肢を限定するといった施策も講じられている。
PwC
図表3-3: 熱供給システムの供給地区(Zone)設定
出所:デンマークエネルギー庁 (2014)
78
Section 2 (デンマーク王国)
3-3: 熱供給にかかる事業規制(参考)
6. 熱供給法(Consolidated Act No. 772 of 24 July 2000、THE HEAT SUPPLY ACT
•
熱供給法の目次と各条項の概要は次のとおりである。
条項
概要
1. 目的と定義
 本熱供給事業法の目的および熱供給事業の定義
2. 熱供給計画
 環境エネルギー建設省指導の下、地方自治体が事業者と共に、熱供給計画を策定すること等義務を
規定
3. 収用
 熱供給事業関連施設の設置に関する土地収用等を規定
4. 料金設定
 価格の設定に関する詳細な規定。本熱供給法では、熱供給の価格の算出に含まれる項目を規定する
ものの、個別具体的なの算出方法は環境エネルギー建設省が算定ルールを定めることとなっている。
 上記の他、価格を含めた熱供給条件を環境エネルギー建設省下の規制当局(DERA)に提出すべきと
規定、本熱供給事業法の定めたルールに従っていないとの判断がなされる場合には、規制当局が修
正を求めることができる。
4A. エネルギー規制局
(DERA)の役割
 熱供給施設、料金および事業者に関する調査などの権限を規定
4B. 事業の譲渡、消費者
への権利付与
 熱供給事業者もしくはその株式を売却する場合の経済価値の算出および管轄局による売却などの取
引の承認
5. 監督
 環境・エネルギー・建設大臣に熱供給事業の技術基準や管理・運営に係るルールを策定する権限、地
方自治体にこれらのルールの実施状況等の監督権限があることを規定
6. 苦情処理、エネルギー
供給苦情委員会
 苦情処理の仕組みとそれらの苦情の取り扱いに関するルールの規定
7. 熱供給サービスの提供
に際しての遵守事項
 本熱供給法で扱われる公的サービスとしての熱供給事業の遂行において実施しなければいけない
サービス内容について規定
8. 罰則
 本熱供給法に従わなかった場合のペナルティーを規定
PwC
79
Section 2 (デンマーク王国)
3-4: 熱料金・供給条件(1/2)
熱供給事業は、熱供給法上、原則非営利運営と位置づけられており、熱料金設定時に一定の制限を受ける。
また、事後的に政府当局による熱料金の妥当性の確認を受ける。
1. 熱料金にかかるガバナンスがある
•
気候エネルギー建設省及びその傘下にある規制当局であるエネルギー規制局(Danish Energy Regulatory Authority: DERA)
が熱供給法(Heat Supply Act)に基づき熱料金の規制・監視を行っている。
•
デンマークにおける熱供給事業は地域独占を前提としており、熱供給の公平性を保つためにも原則非営利事業として運営すべき
ることが同法に規定されており、価格に反映できる項目は同法で決められている。(熱供給法、第20条)
1-1. 料金設定時の規制(熱供給法、20条、20条a、20条b)
 気候・エネルギー・建設省は熱供給プラント運営に必要な費用を考慮し、熱供給プラント全体の収入(コスト)の上限を設定する。
これを受けてDERAは年間の収入(コスト)の上限を割り当てる。
 熱供給プラントは割り当てられた収入(コスト)の上限の範囲内で、熱供給料金を設定する。この料金設定に際しては、顧客属性、
地理的条件などに応じて異なる料金を設定することも許容されている。
 なお、再エネ熱やCHP熱の場合は、収入の上限設定に際して一定の利益を計上できる。
1-2. 事後的確認によるガバナンス(熱供給法、21条、22条、23条b)
 熱料金やコスト配分、その他サービス条件に関する情報はDERAに報告されねばならない。
 上記を基にDERAが精査を行った結果、熱料金やコスト配分、その他サービス条件が合理的でない、あるいは規定に沿ったもの
ではないと判断した場合、DERAは熱供給対して料金の改訂等を行うよう交渉する。
 上記交渉により料金の改訂等が行われなかった場合、DERAは熱供給事業者に対して熱料金を改定するよう命じることができる。
 全ての熱供給の価格は、少なくとも年に1度、DERAのインターネットに公表される。また、DERAは定期的に熱供給事業の収支
分析等を行い、公表することとなっている。これらの取組を通じ、料金等の透明性を確保している。
 会計・予算など、料金のモニタリングや収入(コスト)の上限設定に際して必要となる情報もDERAに報告されねばならない。なお、
気候・エネルギー・建設省が会計・予算に関するルールを設定する。
1-3. 業界団体による自主基準(熱供給法、22条a)
 業界団体は、料金やサービス条件等を決める上での標準ガイドラインを作成できる。当該ガイドラインは、DERAの監督を受ける。
PwC
80
Section 2 (デンマーク王国)
3-4: 熱料金・供給条件(2/2)
国による熱供給事業への関与が強いデンマークにおいては、価格設定、消費者保護などの枠組みがしっかりし
ているが、価格設定の妥当性などを判断する問題で悩んでいる側面もある。
2. 消費者への価格は、適正価格(True Cost)であるべき
• 料金規制上、必要なコストのみを含め、利益は含めないという適正価格(True Cost)という概念を導入してい
る。
• 消費者保護が非常に重要であり、その基本が、適正価格の厳格な適用である。地方自治体がその管理を行
うが、地域毎に異なる価格の設定を行うことは可能だが、政治的、社会的な配慮のための熱料金において優
遇価格を適用することは、True Costの考え方を歪めるものとされ、一部の経済的弱者への優遇措置(補助
金)は行わず、熱料金優遇以外の方法で救済措置を講じるとしている。 (熱供給法20条(5)、20a条(6))
• 必要なコストには、固定費(Fixed Cost)と変動費(Variable Cost)がある。小さい会社は、これらの費用を把
握し易いが、国内外の大規模な電力会社等では、直接熱供給施設に関わるコスト以外で、熱供給料金に含
むことができる一般管理費、資金調達の際のコストなどを、どの程度、熱供給施設のコストとして反映できる
かといった課題がある。このため、結果としてTrue Costかどうかの判断がし難くなっており悩ましい状況と
なっている。
• なお、価格は、事前に承認(approve)するものではなく、報告するもの(notified)と位置づけられている。
• 熱供給法に規定されている価格決定の際の構成要素と、熱供給事業者の財政状況に関する情報について
は、熱料金の決定と共に、事業の健全性の判断に重要な項目であることから、年次チェックが行われる。
3. 海外からの投資に伴う弊害(エネルギー庁へのインタビューより)
• 「大企業が市場をコントロールすると、適正価格(True Cost)の理論が適用できない。小型のCHPを買収して
デンマーク熱供給市場に参入したドイツ企業(EON)などは、大都市での投資が高めであるとして、不当と思
われるレベルでコスト計算し、価格を釣り上げたが、エネルギー庁(DEA)などの規制当局は、弁護士などを
十分に用意できず反駁できていない。」
PwC
81
Section 2 (デンマーク王国)
3-4: 熱料金・供給条件(参考)
熱供給法、第4条、料金設定
Article 20. The income brackets defined in Article 20a can, when selling hot water, steam or gas (except natural gas)
to domestic consumers, which are connected to collective heat network, industrial enterprises, and combined heat
and power producers with capacity exceeding 25 MW as well to geothermal plants, also include necessary expenses
for fuel, wages, and other operational costs, research activities, administrative and energy delivery costs as well as
costs related to public service obligations, financing expenses and costs of the previous period, which accrued due to
investments implementing or developing the energy networks, see article 20a, and 20b.
(2) According to the rules established by the Minister of Environment and Energy, income brackets may include
operational depreciations and appropriations for reinvestments and interest rate of invested capital with the
approval of the Energy Regulatory Authority mentioned in Article 21.
(3) The Minister of Environment and Energy may establish rules on distribution of cost between electricity production
and heat production on biomass-fuelled combined heat and power plants.
(4) The Minister of Environment and Energy may establish rules on a maximum price for hot water or steam from
waste incineration plants. The Minister of Environment and Energy may establish rules on distribution of cost
between electricity production and heat production on waste incineration plants.
(5) The collective heat supply plants can establish different prices for separate consumers, groups of consumers and
geographically delimited areas. The Minister of Environment and Energy may establish rules on prices for
connection of buildings to a collective heat supply plant.
(6) Where technically feasible, the consumer shall start to pay for the utilized hot water, steam and gas, except for
natural gas, to the producer according to the meter, despite of whether the customer is the owner or a lessee
PwC
82
Section 2 (デンマーク王国)
3-5: 卸契約に関するルール
卸契約に関する規定の存在は確認できないが、独立した業者間での熱の交換が行われている事例は存在す
る。
1. 卸契約に関するルールの有無
• 卸契約に関する規定の存在は確認できていない。
2. 第3者からの熱源の受入実態
• 独立した熱輸送業者間での熱の交換は行われており、例えば、互いの温水のやり取りを行うことにより、熱
の安定供給を支えている事例(コペンハーゲン)が見られる。この事例においても、熱料金は、熱供給法上の
規律に従い、コストベースで設定されていることが伺えることから、需要家に対する料金であれ、卸供給に係
る料金であれ、熱供給法上の料金規制の考え方が適用されているものと推察される。
As a collaborative heat supply company, VEKS must follow the regulations provided in the Heat Supply Act when
carrying out its business, including the pricing of heating tariffs. This means that VEKS is run according to a nonprofit principle, under which the company’s pricing of heat must allow for income and expenses to balance over a
number of years.
(出所:VEKS社・アニュアルレポート2013)
•
なお、デンマークでは、廃棄物処理施設からの熱の受け入れ、CHP施設からの熱の受け入れに加え、近年
では、広範な再生可能エネルギー施設からの熱の受け入れも積極的に進める方針であり、第3者からの熱
の受け入れ拡大による熱源の多様化は進むものと考えられる。
PwC
83
Section 2 (デンマーク王国)
3-6: 市場監視主体
エネルギー規制局(DERA)が熱供給法を基に市場監視を行っている。同国の熱供給事業制度としては、自然
独占であるということを認めた上で、規制等を通じて消費者を守らなければいけないという考えが基礎になって
いる。
1. エネルギー庁の役割(政策当局)
•
デンマークエネルギー庁(The Danish Energy Authority: DEA)は 、気候エネルギー建設省の傘下の組織。同国の熱供給制
度の枠組みを構築し、熱供給システムの経済性の管理と需要家が適切であることを確保する役割を担っている。
2. 市場監視主体であるエネルギー規制局(DERA)の役割(規制当局)
•
上記のDEAが策定した枠組みの下、DERAが、デンマークの電力・ガス・熱供給市場の規制を行っている。
•
DERAは、気候エネルギー建設省の傘下あり、取締役(Board Member)は同省大臣から任命を受けるが、独立した規制当局
であり同省からの指示等を受けるものではないとされている。
3. デンマークにおける熱供給市場の特性
•
熱供給市場では生産事業者側及び供給事業者側の双方が独占市場としてとらえられており、これらの事業者は非営利企業と
して規制を受けている。
4. DERAによる市場監視の手法及び権限(熱供給法第23条)
•
年に1回、価格及びその他条件に関する公簿を作成する。
•
規制対象にある熱供給プラントの収益と費用の上記公簿の対象となっている1年間の分析を行い、プラントの業績にかかる審
査結果を公表する。
•
価格・割引・その他条件の透明性を確保するために必要な措置を取ることができる。
•
熱供給法に基づいた規制活動を行うために必要なプラントのデータを取得することが認められている。
5. エネルギー庁へのインタビューより
•
「デンマークの熱供給では、地方自治体が主たる主体としての役割を負っている。これら自治体は、熱供給計画を策定し、開発
または法的な枠組みの変更などがあった場合には、それらへの対応の責任を持つ。」
PwC
84
Section 2 (デンマーク王国)
3-7: 紛争処理体制(1/2)
デンマークでは民間による消費者保護組織と公的紛争処理機関の2つの紛争処理体制が構築されている。
1. 2つの紛争処理機関による体制
•
民間消費者保護の団体であるエネルギー供給苦情委員会と、気候・エネルギー・建設省下にある独立審判委員会で
ある異議申立エネルギー委員会の2つの紛争処理機関による体制となっている。
1-1. エネルギー供給苦情委員会(Energy Supplies Complaint Board)
 エネルギー供給苦情処理委員会は民間による消費者保護団体で、2004年11月に設立されたもの。エ
ネルギー消費者と供給者間の契約関係から発生する紛争の処理を行う。
 計測や請求の問題に係る特別苦情(Special Dispute)と価格レベル、サービスの質にかかる苦情
(General Dispute)がある。
 法廷により判決が下された紛争は取り扱わず、同時に法廷で審議中の紛争について法廷は審議を延期
し、 同委員会に移管しなくてはならない。
 同委員会の決定は法的拘束力はなく、同委員会による決定に不服がある場合は法廷に持ち込むことが
できる。
1-2. 異議申立エネルギー委員会(The Energy Board of Appeal) (熱供給法、第26条)
 異議申立エネルギー委員会は気候・エネルギー・建設省下にある独立審判委員会である。
 同委員会は、市町村、気候・エネルギー・建設省、DERAによる決定に対する苦情を処理する。
 市町村、気候・エネルギー・建設省、DERAによる決定に対する苦情は同委員会以外で処理することは
できない。
 接続義務に対して、消費者から行う反対については、同委員会が対応することになる。
PwC
85
Section 2 (デンマーク王国)
3-7: 紛争処理体制(2/2)
エネルギー関連問題の最終審査機関は、異議申立エネルギー委員会(The Energy Board of Appeal)になる。
2. 最終審査機関である異議申立エネルギー委員会(The Energy Board of Appeal)
• エネルギー省の下の独立会議体である異議申立エネルギー委員会は、公的主体による決定に対する審判
を行う組織である。
• 同組織は、公的機関による紛争処理における最終決定機関であり、DERA、DEA、もしくは同国の98 の地方
自治体によって事前に審査されたものとなる。
• なお、この組織は熱供給のみならず、以下のエネルギー分野と法律も対象としている。




PwC
熱供給: 熱供給事業法
電力: Electricity Supply Act, Act on Subsidies for Electricity Production
ガス: Natural Gas Supply Act
CO2: Act on CO2 Quotas, Act on Government Subsidies for the Carbon Dioxide Tax Expenses of
Certain Companies with a High Energy Consumption
86
Section 2 (デンマーク王国)
3-8: 需要家に対する導管接続義務(1/2)
熱供給法に基づき、地方自治体は、新設及び既存の建築物に熱供給もしくは天然ガスのいずれかへの導管接
続義務が課すことができる。その適用に際しては、事前に需要家と協議を行うことが求められ、また、例外適用
の可否についても、それぞれの自治体が判断することとなっている。
1. 需要家に対する導管接続義務
•
熱供給法に基づき、地方自治体は、新築建物又は既設建物の需要家に対し、導管に接続する義務を課すことができる。(熱供
給法、第11-13条)
•
地域によって、その義務の適用は異なるが、現在、デンマークにある275の自治体の内、241の自治体が、それぞれの管轄地
区の一部に、このような義務を適用している。
Article 11.
If it is presupposed in an authorized project for a collective heat-supply plant, at the latest when granting planning permission, the
district council may direct that when new buildings are taken into use they shall be connected to the plant. The district council shall
approve the conditions for the connection.
• (2) The Minister of Environment and Energy can decide the rules for access to make decisions pursuant to subsection (1) after
consultation with the municipal organizations.
• (3) If a new building, which must be connected to a collective heat-supply plant pursuant to subsection (1) cannot be connected
within the time stipulated in the project because of delays in establishing the heat supply, the municipality and the plant are
obliged to secure a temporary heat supply for the building at no extra cost to the users: the district council and the plant shall each
pay half of these costs.
Article 12.
If presupposed in an authorised project for a collective heat-supply plant, the district council may direct that existing buildings shall be
connected to the plant within a certain time limit, i.e. with reference to the natural pace of replacement for existing heating
installations. The district council shall approve the terms for the connections.
• (2) After consultation with the municipal organizations, the Minister of Environment and Energy shall provide rules for making
decisions pursuant to subsection (1), may be paid compensation, of which the district council and the plant each pays half. The
district council decides whether compensation is to be paid and how much. In the absence of an amicable arrangement the
compensation shall be decided by the valuation authorities referred to in articles 57-62 of the Public Roads Act.
Article 13.
A district council may require that the owner of a building that in accordance with articles 11 and 12 can be required to be connected
to a collective heat-supply plant, pay a 5 contribution to the plant, when it is possible for the building to receive its supply of heat from
the said plant.
• (2) The Minister of Environment and Energy, after consultation with the municipal organizations, provides rules as to the
contribution to be paid pursuant to subsection (1).
PwC
87
Section 2 (デンマーク王国)
3-8: 需要家に対する導管接続義務(2/2)
熱供給法に基づき、地方自治体は、新設及び既存の建築物に熱供給もしくは天然ガスのいずれかへの導管接
続義務が課すことができる。その適用に際しては、事前に需要家と協議を行うことが求められ、また、例外適用
の可否についても、それぞれの自治体が判断することとなっている。
2. 導管接続義務の具体的な内容
• 同法の下、地方自治体は、一定の地区の既存建築物もしくは新規に建設される建築物について熱供給ネット
ワーク又は天然然ガスネットワークのどちらかに接続しなければならないという義務を課すことができるとさ
れており、既存の建築物については原則9年間の猶予期限を設定することとなっている。 (Executive Order
no. 581 of 22 June 2000 on Connection etc., to Public Heat Supply Installations)
• 地方自治体が接続義務を導入・適用する場合、対象地域の建築物の所有者と、事前に協議を行うことが求
められている。その際、地方自治体は、接続義務の正当性や法的根拠、接続までのタイムフレーム(既存建
築の場合)、接続により得られる経済的にメリット等について説明することが求められる。
• 導管接続義務には、一定の例外規定が設けられている。
• 具体的な例外としては、①既存の建築物の場合は、熱源の転換に要する費用が極めて高くなる場合、②活
用している熱源の50%以上が再生可能エネルギー起源である場合、③近い将来に建物を撤去する場合、④
年間を通して暖房を必要としない場合などが挙げられる。地方自治体には、対象地区内にある建築物が当
該例外対象に当たるかどうかについて判断することができる。
• また、地方自治体は、地域熱供給の事業採算性が乏しい場合や、断熱性能が高いため熱需要が小さい建築
物である場合や、建築物の所有者が高齢である場合などにおいては、導管への接続義務を課さないこともで
きる。
• なお、熱供給法上、接続義務に対して異議のある需要家は、気候エネルギー建設省下の審判委員会に訴え
ることが認められている。
PwC
88
Section 2 (デンマーク王国)
3-9: 個別熱源禁止
電気式暖房の導入を禁止する規制がある。
1. 熱供給法における特定熱源の導入の禁止
•
熱供給法では、地方自治体が熱供給計画の実施上必要と認めた場合、特定地域内の既存の建築物や新設
建築物に特定の熱源を導入することを禁止することができると規定されている。(熱供給法、第14条)
熱供給法、第14条
If it is deemed necessary for the implementation of heat-supply planning, the municipal council may decide that specified heating
system may not be installed in existing or new building within a defined geographic area
2. 個別熱源禁止の具体的な内容
•
個別熱源に関する規定は、 熱供給エリア内(Zone)における電気式暖房(水式セントラルヒーティング含む)
の禁止という形で存在する。
•
具体的には、次のとおりである。
•

1988年により効率的なエネルギー消費を目的として、電気式暖房の新築建物への設置が禁止された。

1994年には禁止の対象が既存建物の水式セントラルヒーティングシステムまで拡大された。公共の熱
供給が実施されている地域において、個別の電気式暖房が導入されることを防ぐ目的である。
当該規制の目的は、経済的なエネルギー利用の手段として、公益事業としての熱供給事業を推進することに
ある。しかし、実際には、この規制と導管への接続義務を通じて熱供給の需要家を確保することで、熱供給
会社の利益が損なわれないようするとともに、その投資回収を確保することを可能にするという効果をもたら
している。
PwC
89
Section 2 (デンマーク王国)
3-10: 熱供給の事業主体の支配権
熱供給法上、熱供給事業の実施主体を、その供給エリア内の需要家や地方自治体が支配することを前提とした
規定が存在する。
1. 供給エリア内の消費者及び自治体による支配を通じたガバナンス
• 熱供給設備又は熱供給事業者の株式は、主に供給エリア内の消費者もしくは自治体により保有されている。
•
熱供給事業者に対する支配権を基に、料金水準や安定供給等に係るガバナンスを働かせているものと考えられる。
•
具体的には、熱供給法上、以下のような規定が存在する。
2. 熱供給プラントの買取権(熱供給法、第23条f)
• 供給エリア内の消費者が所有権を有していない熱供給プラント又は熱供給事業者の株式が、プラント所在の自治体
以外の第三者に売却される場合、消費者は市場価格で当該プラントを買取る権利を有する。供給エリア内の消費者
が所有権を有している熱供給プラント又は熱供給事業者の株式が、プラント所在の自治体以外の第三者に売却され
る場合、当該プラント所在の自治体は市場価格で当該プラントを買い取る権利を有する。
•
買取権の有効期間は3ヵ月である。
3. Transmission設備保有会社の取締役員の過半数選定権
•
消費者が当該会社の株式を保有する場合、通常株主総会などで取締役の過半数を選定することができる
(熱供給法、第23条h)。消費者が上述の権力を持たない場合、消費者議会(Council of Consumers)を設立
することができ、同議会は当該会社の取締役の過半数を選任することができる。(熱供給法、第23条i)
•
このように、これらの熱供給法上の規定は、通常の株主が有する権利に加え、供給地域内の消費者に熱供
給法下の熱供給事業者に対する優先的な地位を与えるものとなっている。
PwC
90
Section 2 (デンマーク王国)
3-11: 道路占有ルール
道路占有ルールに相当するものとして、熱供給法上、収用に関する条項が定められている。収用の決定は地方
協議会が行い、収用の形態は下記の3形態に分類される。
1. 収用に関する条項概要(The Heat Supply Act, Chapter3)
• パイプラインの敷設・熱供給設備の設置等に不可欠な場合に土地・建物の収用が認められる。
• 収用の決定は地方協議会(District Council)が行う。
• 収用が実行される際には公共道路法(Public Roads Act)のArticles 45, 47, 48, 49が適用される。
2. 収用の形態
• 収用には以下の3形態がある。
 土地・建物・その他構築物の買収する形態
 所有者の該当不動産を処分する権利を恒久的もしくは一時的に制限する、あるいは該当不動産を特別
な目的で売却する権利を買収する形態
 該当不動産の使用権を恒久的にもしくは一時的に買収あるいは無効化する形態
3. その他
• 特定のプラントのための収用が2以上の市町村で行われる場合、気候エネルギー大臣が不動産収用法
(Expropriation of Real Property Act)に基づき収用を行うよう指示することがある。
PwC
91
Section 2 (デンマーク王国)
3-12: コペンハーゲンにおける地域熱供給(1/2)
コペンハーゲンでは、複数の地方自治体により設立された熱輸送会社が上流の熱供給施設からの熱を買い取
り、下流の域内供給地区(Zone)に売却するとともに、ネットワーク全体の需給調整を担うことで、効率的な熱供
給ネットワークが形成されている。
1. コペンハーゲン市の複合的な熱供給事業者の例
•
コペンハーゲン地域では、熱供給施設(CHP)(4件)、廃棄物発電施設(4
件)、その他中小施設(50件)から供給された温水・蒸気が、20の供給地区
(Zone)に対して供給されている。大規模供給施設からの熱輸送の役割は、
CTR、VEKS、 VES (Vestforbrænding) の3社が担っている
図表3-4: コペンハーゲンの熱供給システム
熱変換ステーション
Zone
(20)
熱の輸送を担う3社
•
•
コペンハーゲン市では、大規模発電所の新設を契機として、その廃熱を有
効使用すべく、1984年に策定した熱供給計画(Local Heat Plan)に従い、
同市の自治体連合の下、東地区にCTR社、西地区にはVEKS 社を設立、
その後、VES社が加わり、その3社のパイプによって同市周辺の熱供給施
設を繋げる形態となった。
それらの3社は、熱を輸送する導管、熱変換ステーションなどの施設を有し、
上流のCHP/廃棄物発電から、同市の最終需要者へ熱を供給するZoneへ
つなぐ役割を担っている。
エリア内の需給を想定し、熱供給のバランスを調整している
•
それらの3社は、独立した企業だが、同市における日々の需要を予測し、恒
常的に熱購入の公開入札を実施して、上流の熱供給施設から日毎に最低
価格での熱の買取を行っている。
•
3社間での熱の交換も行われており、互いの温水のやり取りを行うことによ
り、コペンハーゲンへの安定供給を支えている。
•
CTR社はバックアップの熱源を保有し、ピーク時に熱を生産することで、
ネットワーク全体の需給のバランスを確保している。
•
なお、熱輸送を行っている3社は、上流の施設から熱の買取を行い、その
熱を域内(Zone内)のネットワーク会社に対して再販している。(すなわち、
託送という契約形態ではない。)
PwC
熱供給施設
(CHPなど)
熱輸送導管
(VEKS/CTR/VES)
出所:デンマーク熱供給協会(DBDH)のHPを基に作成
92
Section 2 (デンマーク王国)
3-12: コペンハーゲンにおける地域熱供給(2/2)
デンマーク最大のコペンハーゲン熱供給ネットワークは、複数の業態の事業者からなる複雑な形態だが、その
他の中小都市の場合は、より単純な垂直統合事業者により熱供給が行われている。
2. 分離ではなく、複数の事業形態が集まることで形成されたネットワーク
• 前述のように、コペンハーゲン市では、熱輸送を行う企業が、上流の発電会社等から受け入れた熱をコペン
ハーゲン市内の熱供給事業者に供給している。また、これらの企業は、コペンハーゲン市の日々の需給を考
え、定期的に熱の入札を行い、その結果として実現された入札最低価格で熱の買取を行っている。さらに、自
ら調整用の熱源を保有し、ネットワーク全体の需給バランスを確保している。
• このように、コペンハーゲンでは、複数の熱源から最終需要者まで、熱の生産者、熱の輸送・卸売会社、熱の
小売会社といった複数の事業主体が関与することで、熱供給が行われているが、そのきっかけは、発電所廃
熱や清掃工場廃熱等を広域的に有効利用し、効率性を高めようという自治体連合の発意によるもの。競争
政策上の理由で、垂直統合されていた形態からアンバンドルされたものではなく、熱供給システムの拡大に
伴い、様々な形態の企業が複雑化された熱供給システムを構築していったと考えられる。
• なお、上流の熱供給施設である発電所については、海外企業に買収された例もあるが、近年ではこれらの上
流の施設を地方自治体が買い戻す動きがあると言われている。その背景には、デンマークの熱供給事業が
基本的に非営利事業であり、その利潤の追求について厳しい規定があることなどが指摘されている。
3. コペンハーゲン以外の地方都市の場合
• 前述のようなネットワーク形態をとっているのは、コペンハーゲンだけであり、中小の地方都市では、熱供給
は一つの垂直統合型のシステムとして、一つの事業体によって運営されている。これらの事業体は、地方自
治体もしくは消費者団体によって所有・支配されている。
PwC
93
Section 2 (デンマーク王国)
3-13: 参考資料
現状/背景
• DBDH (2012), Danish District Heating, https://dbdh.dk/download/presentations_2012/paris_september
_2012/Danish%20District%20heating%20at%20IEA%20Paris%20September%202012.pdf (2014/12/1
6、アクセス)
• ERRA (2011), Inogate Textbook: Regulatory Implication of District Heating
• EuroHeat & Power (2013), District Heating and Cooling country by country Survey 2013: Denmark
• エネルギー規制庁(2014)、District Heating Planning in Denmark
• エネルギー庁(2000), Heat Supply in Denmark – Who What Where and Why, http://www.seas.columbi
a.edu/earth/wtert/sofos/DEA_Heat_supply_in_denmark.pdf (2014/12/16アクセス)
事業規制
• The Heat Supply Act (Consolidated Act No. 772 of 24 July 2000)
• エネルギー庁(2014)、Danish District Heating Sustainable Cities, http://di.dk/SiteCollectionDocuments/
Markedsudvikling/Europa/Sustainable%20Cities%202014_presentations/DH%20Thursday_1_Ander
s%20Hasselager.pdf (2015/2/25アクセス)
主要関係者
• 4th Generation District Heating Technologies and Systems (4DH)、 http://www.4dh.dk/
• エネルギー規制庁(DERA)、http://energitilsynet.dk/tool-menu/english/
• エネルギー庁(DEA)、 http://www.ens.dk/en
• デンマーク熱供給協会、http://dbdh.dk/
PwC
94
Section 2 (デンマーク王国)
3-13: 参考資料
紛争処理体制
• エネルギー規制庁(2012)、 National Report Denmark to the European Commission Denmark
卸供給に関するルール
• Danish Board of District Heating (DBDH) (n.d.,) Characteristics, http://dbdh.dk/characteristics/
(2014/12/14アクセス)
• VEKS, District Heating, http://www.veks.dk/en/heat-production/district-heating (2014/12/16アクセス)
• VEKS, Annual Report 2013, http://www.veks.dk/~/media/VEKS/Files/EN-%20Publications/VEKS%20a
nnual%20report.ashx (2015/2/23アクセス)
個別熱源禁止
• BRWK (2005), Decentralized Denmark - How Denmark developed its DE
PwC
95
4. フランス共和国
4-0:
4-1:
4-2:
4-3:
4-4:
4-5:
4-6:
4-7:
PwC
フランス全体概要
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給の事業規制
熱供給の主要関係者
熱料金・供給条件・市場監視
紛争処理体制
卸供給に関するルール
4-7:
4-8:
4-9:
4-10:
4-11:
4-12:
4-13:
卸供給に関するルール
安定供給の確保策
需要家に対する導管接続義務
個別熱源禁止
道路占有ルール
その他の主な振興策
参考資料
96
Section 2 (フランス共和国)
4-0: フランス全体概要(1/2)
1.
熱供給市場とその構造
 EUの省エネルギー政策とともに拡大: フランスの熱熱供給システムは、EUにおける省エネルギーを促
進する政策に呼応して成立したグルネル法が導入されたことから近年拡大しており、2011年時点で、フ
ランス全体で548システム存在している。ただし、熱供給量は2007年以降ほぼ横ばいの状況である。
 再生可能エネルギーを中心の熱供給: 再生可能エネルギーと天然ガスを主要な熱源とし、供給先とし
て、住居用建物向けの供給が最も大きいことが特徴である。
2.
熱供給事業規制の枠組み
 エネルギー全体を対象とした法規制と再エネ促進法: フランスでは熱供給事業のみを対象とした法体
系は存在しないが、再エネ促進など多数関連法規が存在する。その中で、熱供給を含む、電力、ガス等
のエネルギー産業のガバナンスを規定する主要法規であるエネルギー法典(Energy Code)に、独立し
たセッションとしてグルネル法(Grenell I, Grenell II)が含まれている。
 フランス環境庁(ADEME)の出先機関が熱供給事業支援を行っている。
 民間事業者との契約を規定するサパン法: また、地方自治体に対し、民間事業者がサービスの提供を
行う際に両者間における契約に記載されるべき条項が規定されているサパン法(1993)にて、契約上記
載が義務付けられる条項と、記載が推奨される条項の2種類が規定されている。
PwC
97
Section 2 (フランス共和国)
4-0: フランス全体概要(2/2)
地方政府機関
中央政府機関
【持続可能開発・環境・エネルギー省
(MEDDE)】グルネル法に基づく温室効
果ガス削減政策の立案
【環境庁(ADEME)】 Heat Fund(振興策
の1つ)の運用を通じた熱供給事業支援
地方での事業 【ADEMEの地方オフィス】 地方レベルで
の熱供給事業支援、熱ファンドの運用
実施支援
事
業
の
監
督
【Energy Ombudsman】 エネルギー
供給契約に係る消費者と企業間の紛争
処理
(
許道
認路
可占
付有
与等
の
)
企業
政策提言
団体/独立組織
【AMORCE】 ユーティリティ事業者の業
界団体として、各種政策提言の活動を実
施
消費者保護
PwC
【地方自治体】熱供給事業者への許認
可付与・コンセッション契約締結
コ
ン
セ
ッ
シ
ョ
ン
契
約
【競争委員会(FCA)】 カルテル行為等
独占・寡占状況の市場監視
苦
情
処
理
対
応
制
度
自
治
体
の
事
業
支
援
消費者/消費者団体
熱供給
98
Section 2 (フランス共和国)
4-1: 熱供給の背景
フランスは、欧州環境目標である「20-20-20」の達成遵守を国際公約として掲げており、CO2 削減への対応策
の一環として熱供給の一層の普及が期待される。
1. 欧州環境目標「20-20-20」達成に向けたCO2削減
• 政府は2008年にEUが公表したCO2削減に係る環境目標「20-20-20」の達成遵守を国際公約として掲げてい
る。
• 「20-20-20」の具体的な内容は下記の通りである。
 温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で20%削減
 再生可能エネルギー使用を全使用量の20%まで増加
 エネルギー効率を20%増加
•
•
「20-20-20」の達成遵守に向けた具体的政策についてフランス国内で議論がなされ、その結果としてグルネ
ル法I,IIが制定された。同法において、熱供給の振興策が盛り込まれている。(詳細は「4-12」参照)
更に、2009年4月にEUが公布した再生可能エネルギー利用促進に係るDirective(Directive 2009/28/EU of
23 April 2009)に基づき、フランス政府は2020年までにエネルギー総消費量のうち再生可能エネルギー比率
を23%まで高めるという国際公約を発表しており、当該公約遵守の具体策の1つとして、再生可能エネル
ギーを熱源とする熱供給事業の振興に取り組んでいる状況である。
PwC
99
Section 2 (フランス共和国)
4-2: 熱供給の現状
熱供給システム数は2007年以降漸増している一方で、供給量は横ばいの状況が続いている。また、主要熱源
として、再生可能エネルギーの割合が最も高い。
1. 熱供給の市場規模
•
熱熱供給システムは特に2007年以降増加してお
り、2011年時点でフランス全土で548システム存
在している。
•
但し、熱供給量は2007年以降ほぼ横ばいの状況
である。
•
供給先は住居用建物向けの供給が最も大きい。
図表4-1: 地域熱供給事業者による消費者向け売上(熱量ベース)
2. 再エネと天然ガスが主要な熱源
•
再生可能エネルギーと天然ガスを主要な熱源とし
ているが、熱ファンド(Heat Fund)等を通じた振興
策の成果もあり、2011年には熱源に占める再生可
能エネルギーの割合が最も高くなっている。
図4-2: フランス全土の熱需要に対する供給熱源別割合
3. コンセッション形態の運営
•
所有権は地方自治体が保持し、運営権を民間事
業者に委託するコンセッション契約等という形での
運営が多く活用されている。
PwC
100
Section 2 (フランス共和国)
4-3: 熱供給の事業規制(1/2)
フランスでは熱供給事業の参入規制や料金規制は存在しないが、再エネ促進などを目的とした多数関連法規
が存在し、各法規において熱供給促進のための規律や技術基準に関連する条項が含まれている。
1.熱供給事業の参入規制や料金規制
•
熱供給事業の参入規制や料金規制は存在しない。
2. 再生エネルギー促進を目的としたグルネル法
•
グルネル法とは、欧州環境目標「20-20-20」の達成を目的とし、再生可能エネルギー利用を振興することを目的として制定され
た法律であり、グルネル法I(Grenell I, 2009年8月施行)及びグルネル法II (Grenell II、2010年7月施行)より構成されている。
•
グルネル法は、熱供給を含む、フランスにおけるエネルギー産業のガバナンスを規定する主要法規であるエネルギー法典
(Energy Code)のなかの1つの独立した章として位置付けられている。
•
グルネル法Ⅰ及びグルネル法IIでは、導管接続義務や熱ファンドといった熱供給の振興策に関する規定が含まれている。概要
は下記の通り。
2-1. Heat Fund (グルネル法Ⅰ)

再エネ熱を利用した熱供給事業に対し、フランス環境・エネルギーマネジメント庁(ADEME)を介して補助金を交付する。
詳細は「4-12」を参照。
2-2. 再エネ導入等に係る計画の策定義務(5万人以上の自治体、グルネル法Ⅱ)

グルネル法Ⅰ法では、都市計画に際して、再エネ熱等を利用した地域熱供給の導入・拡大の可能性について調査義務を
課したところ。

グルネル法Ⅱでは、これを更に具体化させ、5万人以上のコミュニティに対し、再エネ導入等に係る地域エネルギー環境
計画(Territorial climate and energy plan)の策定を義務化。(グルネル法Ⅱ第68条、第75条)
2-3. 再エネ熱供給に係る導管への接続義務 (グルネル法Ⅱ)

PwC
熱供給事業の熱源の50%以上が再生可能エネルギー等である場合、地方自治体が既存及び新規建築物に対して、熱供
給事業者が供給する熱導管への接続義務を課することを可能とする。(詳細は「4-9」を参照)
101
Section 2 (フランス共和国)
4-3: 熱供給の事業規制(2/2)
フランスでは熱供給事業の参入規制や料金規制は存在しないが、再エネ促進などを目的とした多数関連法規
が存在し、各法規において熱供給促進のための規律や技術基準に関連する条項が含まれている。
3. サパン法によるサービスの品質確保
• フランスでは、地方自治体が熱供給事業の運営・管理を民間事業者に委託する傾向にあるが、1993年1月
に施行されたサパン法(Sapin Law)においては、地方自治体と民間事業者との間において締結される契約
に記載されるべき条項が規定されている。
4. 技術面での標準規格に関する規定
• 熱に関する規制(2006年5月施行のDecree)、メータリングに関する規制により、技術面での標準規格が定
められている。
• グルネル法IIにおいても以下の内容が記されている
 建築物でのエネルギー・熱の消費量の計測方法
 建築物の断熱材やエネルギー消費に関する基準
 熱導管と道路工事実施箇所の間の適切な距離
 メーター装置の認証、設置方法
PwC
102
Section 2 (フランス共和国)
4-4: 熱供給の主要関係者(政府関連機関)
1. 持続可能開発・環境・エネルギー省(Ministry of Ecology, Sustainable Development and Energy:
MEDDE)
• 電力、省エネルギー、再生可能エネルギー、原子力、石油、天然ガスの分野におけるエネルギー政策立案・
実施及び環境アセスメントを所掌する省庁である。
2. フランス環境・エネルギー経営庁(Agence de Developpement de l’Environnement et de Maitrise de
L’Energie: ADEME)
• 持続可能開発・環境・エネルギー省及び教育・高等教育研究省傘下にある機関である。
• ADEMEの地方オフィスは熱供給事業の支援を自治体や企業に対し行う。
3. フランス競争委員会(French Competition Agency: FCA)
• カルテル等市場独占に係る監督官庁である。
• エネルギーセクターを含む市場独占にかかる監督・規制権限を有する。
4. エネルギーオンブズマン(Médiateur national de l’énergie)
• エネルギー法典(Energy Code) に基づき、エネルギー分野のオンブズマンが設立され(Article L122-1)、次
の機能を有する。
 消費者とエネルギー事業者間の契約履行に関する紛争の仲裁
 電気、ガス消費に関連した、消費者権利に関する消費者への情報の提供
• 現在、熱供給も仲裁等の対象とする方向で、法改正作業が行われている。
PwC
103
Section 2 (フランス共和国)
4-4: 熱供給の主要関係者(独立組織)
1. 廃棄物管理とエネルギーにかかる地方自治体の全国組織(AMORCE)
• AMORCEは、フランスで熱供給事業を行う事業主体(地方自治体及び民間企業)を含めた、熱供給事業及
び廃棄物管理やエネルギー再利用等ユーティリティ事業者による業界団体である。
• 1987年に創設され、現在の会員団体数は814団体である。このうち地方自治体の参加団体数は551団体、
民間企業は263社である。
• 参加企業のベストプラクティスの共有及びエネルギー再利用にかかる業界提言策定を主な活動として行って
いる。
PwC
104
Section 2 (フランス共和国)
4-5: 熱料金・供給条件・市場監視
熱料金は、地方自治体とコンセッショネアである熱供給事業者との間の相対交渉に基づき決定される。その際
の料金設定方法は、サパン法に定めがある。
1. サパン法での規定
• サパン法に基づき、熱料金は地方自治体と熱供給事業者との間での相対交渉にて決定される。(Article
38)
• 料金の算出根拠はコンセッション契約の中で明記されなければならない。(Article 40)
• サパン法の根拠条文については「4-8」を参照。
2. CREは料金水準決定に未関与
• 電気、ガスの料金とは異なり、エネルギー規制委員会(CRE9)は料金決定には関与しない。
3. 熱料金の事後的監視は競争委員会が担う
• 一般的に、市場支配力を行使した料金引き上げ等は、競争委員会(FCA)によって監視・規制される。
• 消費者保護の観点からは、エネルギーオンブズマンが、消費者・事業社間の契約履行に関する紛争仲裁を
担っている。現在、熱供給も仲裁等の対象とする方向で法改正作業が行われている。
PwC
105
Section 2 (フランス共和国)
4-6: 紛争処理体制
エネルギーオンブズマンに、熱供給に係る消費者と事業者間の紛争仲裁処理機能を担わせる方向で法制度を
改正中である。
1. 紛争処理体制が構築中
• エネルギー法典に基づき設置される、エネルギーオンブズマンが、消費者とエネルギー事業者間の紛争の仲
介や、関連情報の提供を行っているが、現時点では、電気・ガスのみが対象で、熱供給は対象とされていな
い。
• 現在、エネルギー移行法案(Energy Transition Law)が国会審議中であるが、同法案の中でエネルギーオン
ブズマンの対象範囲に熱供給も含める旨、規定されている。
• なお、エネルギーオンブズマン以外には消費者と事業者間の紛争仲裁処理を担う機関は現状存在せず、両
者間で紛争が生じた場合には、裁判を通じた仲裁が行われるものと考えられる。
PwC
106
Section 2 (フランス共和国)
4-7: 卸供給に関するルール
卸供給に関する手続・ルール等は特段設定されていないが、再生エネルギー熱の受入が奨励されている。
1. 卸供給に関するルールは存在しない
• 卸供給に関するルールは存在しない。
2. 再生可能エネルギー熱の受入に係るインセンティブが制度として存在している
• 規制ではないが、グルネル法Ⅰに基づき、熱ファンドによる補助金制度や減税制度が講じられており、これら
の制度が再生可能エネルギーを熱源として利用する場合のインセンティブとして機能している。詳細は「412 」を参照。
PwC
107
Section 2 (フランス共和国)
4-8: 安定供給の確保策(1/2)
サパン法に基づき、地方自治体とのコンセッション契約において、民間事業者として果たすべき安定供給義務等
が定められていると考えられる。
1. サパン法に基づく規制
• 地域熱供給システムの所有者でもある地方自治体と、熱供給事業を運営・維持管理を担う民間事業者との
間で締結される委託契約は、サパン法(Sapin Law)の対象に該当する。
• サパン法(Sapin Law)には、地方自治体に対し民間事業者がサービスの提供を行う際に、両者間において
締結される契約に記載されるべき条項が規定されている。
• 契約上記載が義務付けられる条項と、記載が推奨される条項の2種類の条項を規定している。
• 熱供給事業については定かではないが、参考までに電気事業に関する契約内容をみると、供給の継続性・
品質の確保の義務や、送配電時の非排他的アクセス(特定の地域に優先的に送電を行うようなことはしな
い)の義務等、公共サービス提供に係る義務を負うことが明示されている。
PwC
108
Section 2 (フランス共和国)
4-8: 安定供給の確保策(2/2)
サパン法(Sapin Law no.93-122、1993年1月29日施行)の根拠条文(Google翻訳)
Article 38
The public service delegations legal persons of public law are submitted by delegating authority to a notice procedure enabling
the presentation of several competing offers, in accordance with a decree of the State Council. The public authority lists of
candidates admitted to tender after consideration of their professional and financial guarantees and their ability to ensure the
continuity of public service and equality of users before the public service. Community address to each candidate a document
defining the quantitative and qualitative characteristics of benefits and, if applicable, the pricing conditions of the service provided
to the user. The offers presented and are freely negotiated by the responsible authority of the person delegating public at the end
of these negotiations, the delegate chooses.
Article 40
The public service delegation agreements should be limited in duration. This is determined by the community based on the
services requested the delegate. Where facilities are the responsibility of the delegate, the delegation agreement takes into
account in determining the duration, nature and amount of the investment to be made and can not in this case exceed the normal
depreciation period of facilities implemented. A delegation of service can only be extended:
a. For reasons of general interest. The duration of the extension case may not exceed one year;
b. When the delegate is constrained, for the proper performance of the public service or extension of its geographical area and at
the request of the delegator, performing not provided for in the original contract work, alter the general economy
of the delegation and that could not be amortized over the term of the agreement remaining as an
increase of manifestly excessive prices.
[Provisions declared non-compliant with the Constitution by Constitutional Council decision No. 92-316 DC of 20
January 1993.]
If the authorization was granted by a public person other than the state, the extension referred to in a or b can occur only after a
vote of the deliberative assembly. Public service delegation agreements may contain clauses by which the delegate shall cover
the performance of services or foreign payments to the purpose of the delegation. The amounts and methods of calculating duties
and fees paid by the delegate to the delegating authority must be justified in these conventions. The modalities of application of
this Article shall be determined as necessary by decree of the State Council.
PwC
109
Section 2 (フランス共和国)
4-9: 需要家に対する導管接続義務
グルネル法II は、熱供給事業の熱源の50%以上を再生可能エネルギーより賄う地域において、地方自治体が、
需要家に対し、熱導管への接続義務を課すことが出来る旨規定している。
1. エネルギー法典(Energy Code)に含まれるグルネル法Ⅱに基づく接続義務
•
エネルギー法典(Energy Code)には、再エネ導入拡大等を定めたグルネル法Ⅱが含まれている。
•
この中に、熱供給分類(Classification of a DH Network)と呼ばれるものがあり、地方自治体が需要家に対
して導管接続義務を課することが可能となる熱供給事業の範囲が規定されている。
•
具体的には、次の要件を満たす熱供給事業の供給エリア内の需要家に対し、熱導管への接続義務を課する
ことができるとしている。(Article L712-1)
 熱供給事業の熱源の50%以上が再生可能エネルギー若しくは回収エネルギーであること
 供給熱量が、導管の結節点(熱供給事業者が保有する導管が、建築物保有の導管に接続する地点)に
て計測されること
 熱供給設備の償却期間中に、事業収支が黒字化になること
•
自治体が上記の条件を満たすエリアで導管接続義務を導入するにあたっては、自治体は熱供給の優先開発
地域(Territory)を定め(Article L712-2)、当該地域において暖房熱・空調熱・温水の需要が30KWを越える
新規建築物若しくは大規模な改修を行う既存建築物に対し、熱導管への接続を義務付けることとされている。
(Article L712-3 )
PwC
110
Section 2 (フランス共和国)
4-10: 個別熱源禁止
建築物への個別熱源の設置を禁止する法規則は無い。
1. 個別熱源の導入に関する規制
• 建築物への個別熱源の設置を禁止する法規則は存在しない。
(参考:熱消費規制について)
• 熱消費規制(2012 Thermal Regulations)に基づき、新規建築物の年間エネルギー消費量を50kWh/m2
を上限に規制がなされている。
• 熱消費規制は2011年1月から非住居用建築物が対象になり、2013年1月より全ての建築物を対象として
適用されている。
• 但し、熱供給事業者の導管に接続している建築物については、接続されている熱供給システムの温室効
果ガス削減量(カーボンフットプリント)が一定の範囲内であることを条件として、上記のエネルギー消費
量上限の適用除外の扱いとされている。
PwC
111
Section 2 (フランス共和国)
4-11: 道路占有ルール
道路占有を含む、各種許認可は、地方自治体と企業間のコンセッション契約に基づき、地方自治体が認可手続
きを行うのが原則である。
1. 地方自治体と企業間のコンセッション契約に基づく規定
• 地 方 自 治 体 が 熱 供 給 事 業 を 企 業 に 委 託 す る 際 に 締 結 す る コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 ( the Service Public
Delegation Agreement)において、熱供給事業の実施計画が記載されており、計画の中に企業が取得必要
な許認可(道路占有ルールも含む)についても記載されている。
2. 地方自治体の機能
• コンセッション契約に記載されている、企業が事業実施に必要な許認可は、地方自治体が認可に係る必要な
手続きを行うのが原則である。
• 但し、道路の管轄主体が地方自治体ではなく国である等の場合においては、地方自治体の認可に加えて、
当該道路の管轄主体からも追加的に認可を取得する必要する場合がある。
PwC
112
Section 2 (フランス共和国)
4-12: その他の主な振興策
熱供給に係る主な振興策として、Heat Fundによる補助金、付加価値税の減税が挙げられる。
1. Heat Fundによる補助金制度
• グルネル法II に基づき、熱ファンドによる補助金制度が準備されており、再生可能エネルギーを熱源として利
用することが推奨されている。
• 2008年時点にて、総延長200km超の熱供給システムが熱ファンドの助成を受けている。
• なお、熱ファンドの助成条件は次のとおりである
 熱供給システムの熱源の50%以上が再生可能エネルギーによって供給される、若しくはこの基準を満
たす熱供給システム導入計画を策定すること。
 熱供給プロジェクトが都市計画に関する各種規制を遵守し、エネルギー効率改善に努めること。
 熱供給システム導入を通じ熱密度を高めること。
2. 付加価値税(VAT)の減税
• グルネル法I及び税法に基づき、熱供給システムの熱源の50%以上がバイオマス、地熱、廃棄物改修熱より
供給される場合は需要家が支払う熱料金に対して賦課される付加価値税が5.5%に減税される。
PwC
113
Section 2 (フランス共和国)
4-13: 参考資料 (1/2)
背景/概要
•
Ecoheat4eu (n.d.), http://ecoheat4.eu/en/Country-by-country-db/France/Overview-of-National-DHCMarket/ (2015年1月28日アクセス)
•
Electricite Reseau Distribution France,( 2015) , http://www.erdf.fr/EN_Institutional_ERDF (2015年1月
29日アクセス)
•
EuroHeat & Power (2013), District Heating and Cooling country by country Survey 2013: France
•
European Commission(2014), Europe 2020 targets, http://ec.europa.eu/europe2020/targets/eu-targets
/index_en.htm (2015年1月28日アクセス)
•
Najwadi (2014), Heating & Cooling, Policy in France
•
SNCU(2014), Overview of National DHC Market: France - Summary of the National DH market
PwC
114
Section 2 (フランス共和国)
4-13: 参考資料 (2/2)
事業規制
•
PLC (2014), Commission approves French aid for district heating networks in Paris, http://uk.practicall
aw.com/8-504-6065?q=%22district+heating%22 (2015/1/28アクセス)
•
Schwartz (2012), The Energy Regulation and Markets Review
•
SNCU(2014), France: Overview of DHC Legislative Framework, Ecoheat4eu, http://ecoheat4.eu/en/C
ountry-by-country-db/France/Overview-of-DHC-Legislative-Framework/ (2015/1/28アクセス)
•
Tupper (2011), Gerenelle de l’environnement: Annotated Translation of French Environmental LawSIS
熱料金・供給条件・市場監視主体
•
European Commission(2014), Competition, State Aid Control – Overview, http://ec.europa.eu/competit
ion/state_aid/overview/index_en.html (2015/1/28/アクセス)
その他の主な振興策
•
SNCU(2014), France: Support Measures for DHC, Ecoheat4eu , http://ecoheat4.eu/en/Country-by-cou
ntry-db/France/Support-Measures-for-DHC/ (2015/1/27/アクセス)
•
SRCAE(2012), Schema Regional du Climat, de l’Air et de l’Energie d’Ile de France, http://www.develo
ppement-durable.gouv.fr/Reseaux-de-chaleur-l-essentiel-en.html (2015/1/28アクセス)
PwC
115
5. 米国
5-0:
5-1:
5-2:
5-3:
5-4:
5-5:
5-6:
5-7:
米国全体概要
熱供給の背景(米国全体)
熱供給の現状(米国全体)
熱供給にかかる事業規制
(米国全体)
熱供給にかかる主要関係者
消費者保護(米国全体)
ニューヨーク州の熱供給
事業状況
ニューヨーク州の市場監視
主体
5-8: ニューヨーク州の熱料金・供給
条件
5-9: ニューヨーク州の卸供給に関す
るルール
5-10: ニューヨーク州の紛争処理体制
5-11: 需要家に対する導管接続義務・
個別熱源禁止
5-12: 道路占有ルール
5-13: その他主な振興・支援策
5-14: 参考資料
*: 連邦レベルの統一規制は存在せず、州毎の規制に基づく事業運営になる
ため、本調査ではニューヨーク州を事例に各個別トピックをまとめている。
PwC
116
Section 2 (米国)
5-0: 米国全体概要(1/2)
1.
熱供給市場とその構造
 教育・研究機関を中心に近年拡大する熱供給: 近年、熱供給システムの利用は拡大しているが、総じ
て教育・研究施設及び中心市街地にて地域連暖房システムは広がりをみせ、居住地区への利用は低い
ことが特徴に挙げられる。
 民間主導の熱供給事業: 連邦政府や地方自治体が運営に携わる場合もあるが、多くの場合、自治体
から認定を受けた民間企業が運営している場合が多い。
2.
熱供給事業規制の枠組み
 州を中心とした規制と監視の枠組み: 政府による法的枠組みを見た場合、連邦政府による熱供給事
業の規制や市場管理の枠組みは存在していないが、関連振興法/プログラムは、連邦・州レベルでそれ
ぞれ整備されている。多くの州で、電気、ガスといった公共サービスとともに、熱供給に関する価格、契
約内容、サービスの質等の規制・監視を行っている例も確認されている。
 消費者保護については、連邦から地方自治体まで複数のレベルで対応: その中で、需要家保護につ
いては、公平な市場環境の維持を目指す連邦レベルから州、地方自治体まで、複数のレベルで対応し
ていることが、特徴として挙げられる。
PwC
117
Section 2 (米国)
5-0: 米国全体概要(2/2)
政府機関
地方自治体
【連邦レベル】 統一規制はな
いが、エネルギー省(DOE)、環
境保護庁(EPA)を中心をした振
興策を実施
【消費者保護部】
消費者保護の実施
【州レベル】 公益事業委員会
(NYPSC等)による規制/管理
消費者保護
政策提言
企業
Consolidated Edison ( ニ ュ ー
ヨーク州唯一の熱供給事業者)
など
独立機関/団体
【 国 際 熱 供 給 協 会 ( IDEA ) 、
CHP協会、省エネ経済にかか
るアメリカ評議会(ACEEE)】
熱供給関係者のネットワーク構
築、政策提言、技術促進支援
ネットワーク強化支援
技術促進支援
州法
(N.Y. PBS Law
など)
消費者/消費者団体
熱供給
ニューヨーク州の場合、Consolidated
Edisonの顧客の約4割は、居住者
PwC
118
Section 2 (米国)
5-1: 熱供給の背景(米国全体)
100年以上の熱供給システムの歴史があるが、近年はエネルギーセキュリティー、災害時のレジリアンス、気候
変動対策(CO2削減)の観点から、熱供給システムは注目を浴びている。
1. エネルギーセキュリティ面での恩恵
• 安価なシェールガスの活用により、天然ガス価格が低下した。このことにより、石油化学産業を筆頭に、天然
ガスによるCHPシステムの普及が広がっている。
• 熱供給事業においても、近年CHPによる事業が増加している。
2. 災害時の弾力性(安定供給)の確保
• 2011年のハリケーン・アイリーン、2012年のハリケーン・サンディが米国北東部の電力供給網に影響を与え
た際に、CHPシステムは通常運行を続けることができた。ユーティリティの信頼性の向上、及び弾力性(レジ
リエンス)の確保のため、CHP/熱供給システムは注目を浴び、実際に幾つかの州では、熱供給事業の普及
を促進させるための財政プログラムや関連法が施行されることになった。
3. 気候変動・CO2 削減への対応
• 石炭による熱供給が従来の主流であったが、連邦・州の両レベルで、地球温暖化ガス(Greenhouse Gas:
GHG)排出基準が厳しくなっており、GHG排出量の少ない天然ガスを活用した熱供給システムへの注目・活
用が上がっている。
PwC
119
Section 2 (米国)
5-3: 熱供給にかかる事業規制(米国全体)
連邦レベルの規制は存在しておらず、各州単位で規制が存在している。但し、関連振興法/プログラムは、連邦・
州レベルでそれぞれ整備されている。
1. 市場管理は、連邦レベルの規制ではなく、各州レベルでの規制
•
州を越境する事象が連邦レベルの規制対象であり、エリア毎の事業展開になる熱供給には、連邦政府によ
る統一的規制や市場管理は存在していない。
•
州毎での規制になるため、州によって制度の有無・内容は異なっている。
2. ニューヨーク州における事業規制
• ニューヨーク公共サービス法(New York Public Service Law: N.Y. PBS Law)に基づき、電気、ガス、水、熱
供給、テレコミュニケーション産業が規制されている。
• 2009年制定の州立エネルギー計画によって、将来のエネルギーニーズを満たすための政策枠組みを示して
いる。
PwC
121
Section 2 (米国)
5-4: 熱供給にかかる主要関係者(政府・議会関係)
1. エネルギー省(Department of Energy)
•
CHP TAPsを通じ、 CHP及び地域エネルギー供給事業の促進のための研究活動、市場分析、技術支援を
行っている。
2. 環境保護庁(Environment Protection Agency)
•
CHPパートナーシッププログラムを通じ、需要家、CHP事業者、州政府、地方自治体、その他関係者とパート
ナーシップを組み、全米での高効率CHP技術の促進を行っている。
3. エネルギー・資源にかかる上院委員会
•
再生可能エネルギーを含む主なエネルギー・資源分野を監視している。
4. 環境・公共事業にかかる上院委員会
•
気候変動対策、汚染対策等の環境政策にかかる権限を有している。
5. エネルギー・商業下院委員会
•
大気質やエネルギー供給にかかる州や国をまたぐ商業について、法的監視の責任を担っている。
6. 州立公益事業委員会(Public Services Commission: PSC)
•
州政府の公的組織である公益事業委員会(Public Services Commission: PSC)がユーティリティにかかる
規制/監視を行っている。
•
熱供給が対象に含まれるか否かは、州次第である。
PwC
122
Section 2 (米国)
5-4: 熱供給にかかる主要関係者(独立機関/団体)
1. 国際熱供給協会(International District Energy Association: IDEA)
•
非営利の産業団体で、26か国から2,000の組織(熱供給事業者)が参加している。
•
熱供給にかかる政策提言を行っている。
2. CHP協会(CHP Association)
•
CHPと廃棄物エネルギー回収利用システムの促進を目的としている業界団体。
3. 省エネ経済にかかるアメリカ評議会(America Council for an Energy Efficiency Economy: ACEEE)
•
省エネ促進を目的とする非営利組織。
•
CHP産業に関しては、技術的、政策観点からの評価を行っている。
PwC
123
Section 2 (米国)
5-5: 消費者保護(米国全体)
連邦レベルで熱供給事業に特化する消費者保護組織は存在しないが、一般的に消費者保護を行う組織(連邦
取引委員会)がある。州レベルでは、公益事業委員会(PSC)が消費者保護の役割を担っている。
1. 連邦取引委員会による消費者保護(連邦レベル)
• 連邦レベルで熱供給事業に特化する消費者保護組織は存在しないが、一般的な消費者保護の役割を担っ
ている連邦取引員会(US Federal Trade Commission: FTC)が需要者の保護の役割を担っている。
• FTC内の消費者保護事務局(Bureau of Consumer Protection)が、苦情に対する調査を行い、不公平/違法
なビジネスや詐欺行為等の問題に取り組んでいる。必要に応じ、公平な市場環境を維持させるための規制を
作る場合もある。
2. 公益事業委員会による消費者保護(州レベル)
• 例えばニューヨーク州では、ニューヨーク州公益事業委員会(New York Public Services Commission:
NYPSC)の消費者保護局が、熱供給事業を含むユーティリティ全体の消費者保護にかかる責任を有してい
る。
• 熱供給事業に特化する消費者保護法はないが、全般的な消費者保護法に熱供給事業も対象に入っている。
• 消費者保護に関連法令文書は、「PSC Regulations, Home Energy Fair Practice Act, Rules Governing
the Provision of Gas, Electric and Steam Service to Residential Customers」にまとめられている。
3. 地方自治体による消費者保護(地方レベル)
• ニ ュ ー ヨ ー ク 州 の 幾 つ か の 自 治 体 で は 、 地 方 自 治 体 内 に 消 費 者 保 護 部 ( Consumer Protection
Department)が設置されている。
PwC
124
Section 2 (米国)
5-6: ニューヨーク州の熱供給事業状況(1/3)
ニューヨーク公共サービス法(N.Y. PBS Law)に基づき、唯一の事業者であるConsolidated Edisonが、熱供給
事業を実施している。
1. Consolidated Edisonがニューヨークにて熱供給事業を実施
• ニューヨーク州は、地域熱供給システムを導入した初めての州であり、長い歴史とともに、米国最大規模の地
域熱供給システムを有している。
• ニューヨーク州では、Consolidated Edisonが唯一の熱供給事業者である。電気・ガス・熱を供給しているが、
発電の9割は外部調達を行っている。(事業構造はp. 127を参照)
• 他州と異なる同州の特徴は、居住地区へ大規模な熱供給が実施されていることであり、Consolidated
Edisonの顧客の約4割は居住者である。
2. 公共サービス法(N.Y. PBS Law)に基づく熱供給事業
• ニューヨーク公共サービス法(New York Public Service Law: N.Y. PBS Law)に基づき、電気、ガス、水、熱
供給、テレコミュニケーション産業が規制されている。その中でも、熱供給事業を対象している条項は、Article
4-Aである。
3. 公益事業委員会が規制/監視の主体者
• 州政府の公的組織であるニューヨーク州公益事業委員会(NYPSC)が電気、ガス、水、熱供給、テレコミュニ
ケーション産業にかかる規制/監視を行っており、価格、サービス内容に関する規定を有している。
• 消費者保護に関しては、NYPSCの消費者保護局が、熱供給事業を含むユーティリティ全体にかかる責任を
有している。(消費者保護に関連法令文書は、「PSC Regulations, Home Energy Fair Practice Act, Rules
Governing the Provision of Gas, Electric and Steam Service to Residential Customers」にまとめられて
いる。)
PwC
125
Section 2 (米国)
5-6: ニューヨーク州の熱供給事業状況(2/3)
ニューヨーク州における熱事業は、公共サービス法(N.Y. PBS Law, Article 4-A)にて規制されている。
4. N.Y. PBS Law Article 4-Aの目次
• ニューヨーク州における熱供給事業を規制しているN.Y. PBS Law Article 4-A (Provisions Relating to
Steam Corporations; Regulating Price of Steam)の目次は次のとおりである。
 第78節
条項の適用
 第79節
適切な業務;構成及び合理的な料金;不当な差別及び非合理な選考
 第80節
蒸気熱に関する委員会(Commission)の一般的権限
 第81節
法人及びフランチャイズ権の承認;証明書
 第82節
株式・債券発行、他の債務の承認
 第82-A節
再編
 第83節
フランチャイズ、資産、または株式の譲渡
 第84節
蒸気熱業務及び価格に対するクレーム;委員会による調査;クレームの種類
 第85節
通知及びヒアリング;蒸気価格の調整命令、又は改善要請
 第88節
蒸気熱に対する過剰料金事例の弁護
 第89節
地方役人の権力
PwC
126
Section 2 (米国)
5-6: ニューヨーク州の熱供給事業状況(3/3)
図表5-3: ニューヨーク州における事業スキーム(マンハッタン区の場合)
ニューヨーク州公共
サービス法
(N.Y. PBS Law)
ニューヨーク州
公益事業委員会
(NYPSC)
苦情申し立て
市場監視
使用料金 仲介
仲介
需要者
熱供給
契約で決められた料金
許認可付与
熱供給事業者
(Consolidated
Edison)
出典: N.Y PBS Law の各種関連条項を基に作成
PwC
127
Section 2 (米国)
5-7: ニューヨーク州の市場監視主体
連邦レベルの市場監視は存在しないが、公益事業委員会(NYPSC)が価格、契約内容、サービスの質等の監
視を行っている。
1. 公益事業委員会による市場監視の実施
• 熱供給事業を含むユーティリティ全体の市場監視はNYPSCによって行われている。
• 市場監視を通じ、価格、熱供給計画の妥当性、サービスの質が確認されている。
• 監視の結果によって、事業者への改善指摘が行われるものの、事業者がその指摘を受け入れない場合、10
万ドルを上限とした罰金がかされることになる。(NY. PBS Law, Section 25 (2))
• 但し、その指摘事項が人への安全性(傷害)にかかわるような内容であれば、最大で25万ドルを上限とした罰
金が科されることになる。(NY. PBS Law, Section 25 (3) )
ニューヨーク公共サービス法(N.Y. PBS Law), Section 5 (1) (c)
“[t]he jurisdiction, supervision, powers and duties of the [NYPSC] shall extend” to “the manufacture, holding,
distribution, transmission, sale or furnishing of steam for heat or power, to steam plants and to the persons or
corporations owning, leasing or operating the same.”
2. 不適切な設定価格はNYPSCによる介入
• 熱供給事業者の設定価格が、不当/不適切(unjust, unreasonable, unjustly discriminatory, or unduly)と
NYPSCによって判断される場合、合理的な価格の上限が提示され、その上限内で価格を設定することにな
る。(NY. PBS Law, Section 85)
PwC
128
Section 2 (米国)
5-8: ニューヨーク州の熱料金・供給条件(1/2)
熱供給事業者(Consolidated Edison)と需要家間の契約にて価格が形成されるが、N.Y.PBS Lawに基づき、
合理的(just and reasonable)な価格でなければならない。
1. 事業者による合理的な価格形成
• 熱供給事業(Consolidated Edison)と需要家間での契約に基づき、価格が形成される。
• 熱供給事業者は、価格やサービス内容を含んだ需要家との契約書をNYPSCへ提出し、NYPSCが内容の確
認することになっている。(N.Y. PBS Law, Section 80, 81)
• 価格は、合理的(just and reasonable)でなくてはならない。(N.Y. PBS Law, Section 79)
• Consolidated Edisonは、6種類の基本価格分類を有している。(次頁参照)
2. NYPSCからの許認可による価格修正
• 熱供給事業者が、価格を引き上げたいと考える場合、理由が明記された書類をNYPSCに提出し、許認可を
受けなければならない。
• 提出された届出は、まずニューヨーク市を含む関係者からコメントをもらうことになる。NYPSCは、受領コメン
トを鑑みつつ、価格引き上げの理由の妥当性や価格を上げることで需要家への安定供給は確保されるか等
を判断し、可否の決定を下すことになる。(New York State (2011), Rate Case Process Overview)
PwC
129
Section 2 (米国)
5-8: ニューヨーク州の熱料金・供給条件(2/2)
図表5-4: Consolidated Edisonの異なる熱供給サービス価格分類
種類
事業対象
SC-1
All-purpose steam rate for small commercial and small residential accounts such as tailor
shops and five story brownstones;
SC-2
Annual power service for steam heat and/or air conditioning for large commercial office
buildings, hospitals, and hotels;
SC-3
Apartment house steam service for buildings with at least 50% residential and containing
at least three or more separate living apartments;
SC-4
Power service to customers who use steam supplied by the company and another energy
source for the same purpose during the winter months (Back-up/Supplementary Service);
SC-5
Negotiated agreement to retain and attract customers that have viable competitive
alternatives to the company’s steam service; and
SC-6
Firm transportation and delivery of steam to the premises of a customer who arranges for
third-party supply of steam.
PwC
130
Section 2 (米国)
5-9:ニューヨーク州の卸供給に関するルール
N.Y. PBS Lawには卸供給に関するルール・規制はないものの、省エネ促進に寄与する熱源が推奨されてい
る。
1. 熱源受入れに係る規制は無い
• 化石燃料や再生可能エネルギーの区分も含め、熱供給給事業における第三者の熱源を受け入れる際の
ルール、規制は特段存在しない。
• 但し、2015年までに電力供給の30%を再生可能エネルギーで賄うことも目的とした州立再生可能エネル
ギー利用割合基準(RPS)に基づき、CHPシステムのような省エネ促進につながる熱源の受け入れが推奨さ
れている。
PwC
131
Section 2 (米国)
5-10: ニューヨーク州の紛争処理体制(1/2)
事業者が民間企業の場合、公益事業委員会(NYPSC)による3段階の紛争処理体制が準備されている。地方
自治体が事業者の場合は、地方条例に基づき応対されることになる。
1. 苦情処理の窓口はNYPSC消費者保護局
• 熱供給事業にかかる苦情がある利用者は、NYPSCの消費者保護局(Division of Consumer Protection)に
その旨を伝え、同局が熱供給事業者とやり取りを行い、解決策を見出すことになる。
2. NYPSCによる2段階の紛争処理が整備されている
• 利用者が上述の消費者保護局の応対に納得できない場合、NYPSCの消費者サービス室(Office of
Consumer Service)に、紛争処理を依頼することになる。同室は、苦情内容の調査を行った後、調査結果と
一次決定事項(Initial Decision)を依頼者に知らせる。
• 利用者が一次決定事項に納得しない場合、 一次決定事項を受け取った15日以内であれば、NYPSCに再
調査依頼を依頼することが可能である。その場合、NYPSCのヒアリング担当官(Hearing Officer)が再調査
を行い、二次決定事項(Second Decision)を下すことになる。
• 利用者が二次決定事項に納得しない場合、二次決定事項を受け取った15日以内であれば、納得できない理
由、または(これまで未提出の)新しい証拠を提出することが出来る。NYPSCは、ヒアリング担当官に再調査
の依頼、ないしは利用者の申請拒否を行うことが出来る。
3. 地方自治体が熱供給事業者の場合
• 他州で地方自治体が熱供給事業の運営・管理に関与している場合、地方条例に基づく解決が行われる。
PwC
132
Section 2 (米国)
5-10: ニューヨーク州の紛争処理体制(2/2)
図表5-5: ニューヨーク州における苦情・紛争処理手順
ニューヨーク州公益事業委員会
(NYPSC)
①苦情申し立て
消費者保護局
(Division of Consumer Protection)
②解決策
苦
情
処
理
③調査依頼(15日以内)
消費者サービス室
(Office of Consumer Services)
利用者
④調査結果、一次決定事項
⑤再調査依頼(15日以内)
ヒアリング担当官
(Hearing Officer)
④調査結果、二次決定事項
⑦再調査依頼
(理由/新情報を提出)
紛
争
処
理
⑧’再調査依頼
NYPSC
⑧’申請拒否通知
PwC
133
Section 2 (米国)
5-11: 需要家に対する導管接続義務・個別熱源禁止
需要家に対する導管接続にかかる規制は存在しない。個別熱源の導入を禁止する規定も存在していない。
1. 導管接続にかかる規制は存在しない
• 熱導管接続義務に関する制度は連邦レベルでも、ニューヨーク州においても存在しない。
(参考)統一基準(SIR)に基づく電線接続
なお、CHPにより熱供給と発電事業を行う場合、発電に関しては、電線への接続基準である標準接続要求
(Standardized Interconnection Requirements: SIR)を遵守する必要がある。
 NYPSCが、SIRを管轄している。
 SIRは電気関連事業を対象としているため、電気を生み出すCHPはSIRに従う必要がある。なお、CHP
の熱源は化石燃料及び再生可能エネルギーの両方が対象である。
 標準化契約書(Standardized Contract)に基づき、電線への接続に係る申請を行わなければならない。
 施設の発電容量に基づき、簡易プロセスと通常ステップがある。両ステップとも、スケジュール、料金体
制、紛争処理体制などが確認される。
 接続許可に係る審査過程は、随時ウェブサイトにて、確認することが出来る。
2. 個別熱源の禁止にかかる規制はないが、省エネを推奨
• NYPSCでは、個別熱源にかかる規制は設けていない。
PwC
134
Section 2 (米国)
5-12: 道路占有ルール
熱供給事業者は、土地所有者から通行権/地役権を得て、関係当局から事前に許可書を得る必要がある。
1. 関係当局からの証明書の取得が必要
• 熱供給事業者は、事業予定地の通行権/地役権(Right of Way and/or Easements)を土地所有者から事前
に取得しなければならない。
• 通行権/地役権を取得できた場合、熱供給事業者は、発電所立地及び環境にかかるニューヨーク州委員会
(New York State Board on Electric Generation Siting and the Environment)から当該証明書を取得しな
ければならない。(N.Y. PBC Law, Section 81)
2. 土地所有者から通行権/地役権が得られない場合は、裁判を実施
• 通行権/地役権を獲得することが出来ない場合は、ニューヨーク州地役権手続法(New York State Eminent
Domain Procedure Law)に基づき、裁判において、解決を図ることになる。
• 但し、同法には、計画中の熱供給事業が公共性という観点で恩恵がある状況では、当該土地所有者はアク
セス権(Access Rights)を熱供給事業者に寄与しなければならないと規定がある。
PwC
135
Section 2 (米国)
5-13: その他振興・支援策(1/2)
連邦レベルで、技術支援、調査研究、ネットワーク構築支援等を通じた、CHP促進にかかる枠組みが存在して
いる。
1. 大統領令 (Executive Order 13624) (2012年)
• 2020年までに40GWの産業用CHPの新規導入を目的に、エネルギー省と環境保護庁を中心にした関係省
庁・機関が連携するよう要請している。
• 州政府及び事業者に対し、一般的なガイダンス、技術調査、財務分析等を提供している。また、州政府には、
政策の策定・実施支援も行っている。(詳細は「参考」を参照)
2. Local Energy Security and Resiliency Act , S1205 (LESRA)(2013年)
• 省エネ促進・エネルギーのレジリエンスの強化を目的に、産業界、大学、病院等に対し、CHP事業にかかる
借入保証、技術支援等を行う枠組み。
3. CHP技術協力パートナーシップ (CHP Technical Assistance Partnership: TAP)(2001年~)
• CHP及び熱供給事業の促進にかかる研究活動、市場分析、技術支援を目的に、エネルギー省によって2001
年に最初のCHP技術協力パートナーシップ(CHP TAPs)が設立された。現在では全米で7つのCHP TAPが
あり、それぞれのCHP TAPが幾つかの州を地域別に取り纏めている。
4. CHPパートナーシップ プログラム(2001年)
• 2001年に環境保護庁は、全米での高効率CHP技術のためのプログラムであるCHPパートナーシップを構築
した。
• 需要家、CHP事業者、州政府、地方自治体、その他関係者とパートナーシップを結んでいる。
PwC
136
Section 2 (米国)
5-13: その他振興・支援策(2/2)
連邦レベル及び州レベル(ニューヨーク州)では、免税措置、補助金、融資、ボンド等にかかる振興策が準備され
ている。
5. 連邦レベルにおける、税制措置、補助金、融資、ボンド等に係る関連振興法/プログラム
 CHP Investment Tax Credit
 The American Recovery and Reinvestment Act of
2009
 Renewable Electricity Production Tax Credit
 The Energy Policy Act of 2005
 The Energy Independence and Security Act of 2007
 Clean Water State Revolving Fund
 Qualified Energy Conservation Bonds
 Business Energy Investment Tax Credit
 State Energy Program






State Energy Program
Business and Industry Guaranteed Loans
Repowering Assistance Program
U.S. Department of Energy – Loan Guarantee Program
REAP – Guaranteed Loan and Grant Program
Federal Loan Guarantees for Advanced Fossil Energy
Projects
 Deployment of Clean Energy and Energy Efficiency
Projects on Indian Lands
6. ニューヨーク州における、税制措置、補助金、融資、ボンド等に係る関連振興法/プログラム





New York System Benefits Charge
Agricultural Energy Efficiency Program
CHP Acceleration Program
Combined Heat and Power Performance Program
RPS Customer-Sited Tier Anaerobic Digester Gasto-Electricity
 Existing Facilities Program
 Energy Smart New Construction Program
 Industrial and Process Efficiency Performance
Incentives
PwC
 New York Natural Gas rates
 Local Opinion – Solar, Wind & Biomass Energy Systems
Exemption
 National Grid (Gas) – Commercial Energy Efficiency
Rebate Programs
 Custom Measures Commercial and Industrial Rebate
Program
 Manufacturing Assistance Program
 Linked Deposit Program
 Tax-Exempt Equipment Leasing Program
137
Section 2 (米国)
(参考): その他振興・支援策(大統領令)
大統領令(Executive Order 13624)では、産業分野における高効率コジェネを2020年末までに倍増すべく、政
策対話を通じた普及啓発や関連支援策の有効利用を進めること等を要請している。
1. 要請先
• エネルギー省(DOE)、商務省、農務省、環境保護庁(EPA)
2. 要請の概要
• 国家経済会議(National Economic Council)・国民政策審議会(Domestic Policy Council)・環境問題委員
会(Council on Environmental Quality)・科学技術政策局(OSTP)と協力して、以下の3点を実施すること。
 産業界エネルギー効率改善やCHPのベストプラクティスの採用を奨励するために利害関係者を招集する
こと
 産業界エネルギー効率改善やCHPへの投資を通じた便益に関する情報の公開
 投資を支援する既存の連邦権限や計画及び政策を活用すること
PwC
138
Section 2 (米国)
(参考): その他振興・支援策(大統領令)
大統領令(Executive Order 13624)では、産業分野における高効率コジェネを2020年末までに倍増すべく、政
策対話を通じた普及啓発や関連支援策の有効利用を進めること等を要請している。
3. 具体的な内容
①
2020年末までにCHPシステムを新たに40ギガワット追加して現行レベルの50%増まで拡大するという国家目標の達成に向けて、上述の
連邦省庁は投資を調整・奨励する。
②
産業界エネルギー効率改善やCHPへの投資を妨げている障壁に対処する投資モデルや州政府ベストプラクティス政策を策定し、その利
用を奨励するため、一連の公開ワークショップを介して利害関係者を招集する。
③
産業界エネルギー効率改善やCHPへの投資を促進するため、上述の連邦省庁は既存権限や資源を活用する:
 州政府が全米環境大気質基準(National Ambient Air Quality Standards)達成の為に州実行プラン(State Implementation Plans
=SIPs)を策定する際、CHPやその他エネルギー効率改善政策の潜在的な排出削減ベネフィットを州政府に説明。
 CHP他のクリーンエネルギー導入に対して、排出権取引計画SIPsのセットアサイド(set asides)、グラント及びローンといったインセン
ティブを提供。
 CHP等の高効率発電技術が持つ排出面でのベネフィットを評価するため、必要に応じて、電力・産業部門の規制遵守オプションとして
出力ベース(output based)のアプローチを採用。
 DOEのBetter Buildings, Better Plants (BBBP)プログラムへの参加拡大、及びBBBPプログラムを支援する追加ツールの作成で努
力すると同時に、エネルギー効率改善やCHPを支援する既存パートナーシップ計画を活用。
④
産業界エネルギー効率改善やCHPへの投資拡大努力を支援、奨励する:
 州政府や公益事業、産業施設の所有者や技師に対して、産業界エネルギー効率改善やCHPに投資する価値に関する一般的ガイダ
ンス、技術的分析や情報、及び財務分析を提供。
 連邦政府収集データや分析の有用性を改善。
 産業界エネルギー効率改善やCHPへの投資増進を可能にする州独特のベストプラクティス政策の開発・実施で州政府を支援。
PwC
139
Section 2 (米国)
5-14: 参考資料(1/2)
背景/概要
•
•
•
•
EuroHeat & Power (2013), District Heating and Cooling country by country Survey 2013: United
States of America
International District Energy Association (IDEA) (2012), Community Energy: Planning, Development a
nd Delivery,
International Energy Agency (IEA) (2014), Insights Series 2014, The IEA CHP and DHC Collaborative,
CHP/DHC Country Scorecard: United States
Katrina Pielli (2013), US Combined Heat & Power / District Heating & Cooling Developments
PwC
140
Section 2 (米国)
5-14: 参考資料(2/2)
ニューヨークの熱供給事業規制
•
NY Code (NY PBS Law), http://codes.lp.findlaw.com/nycode/PBS/4-A (2015/2/24アクセス)
•
New York State (2011), Major Rate Case Process Overview, http://www3.dps.ny.gov/W/PSCWeb.nsf/0
/364D0704BEEC5B7D85257856006C56B3?OpenDocument (2015/2/24アクセス)
関連資料
•
•
•
•
New York City (2013), A Stronger, More Resilient New York
New York City Department of Buildings (2010), Installing Natural Gas-fueled Combined Heat and
Power (CHP) Systems
New York State Energy Planning Board (2009), 2009 State Energy Plan
New York Steam Corporation (1932), 50 Years of New York Steam Service, The Story of the Founding
and Development of a Public Utility
その他振興策
•
•
•
White House Executive Order 13624 (2012), Accelerating Investment in Industrial Energy Efficiency,
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2012/08/30/executive-order-accelerating-investmentindustrial-energy-efficiency (2015/2/24アクセス)
エネルギー省(n.d.)、CHP Deployment、http://www.energy.gov/eere/amo/chp-deployment (2015/2/24
アクセス)
NEDOワシントン事務所(2012)、デイリーレポート(2012年9月5日号)、http://www.nedodcweb.org/dailyre
port/2012_files/2012-09-05.html (2015/2/24アクセス)
PwC
141
6. 大韓民国
6-0:
6-1:
6-2:
6-3:
6-4:
6-5:
6-6:
6-7:
6-8:
6-9:
PwC
韓国全体概要
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給にかかる事業規制
熱供給対象地区における
スキーム図
熱供給にかかる主要関係者
市場監視主体
熱料金・供給条件
卸供給に関するルール
紛争処理体制
6-10:
6-11:
6-12:
6-13:
6-14:
6-15:
安定供給の確保策
個別熱源禁止
需要家に対する導管接続義務
道路占有ルール
熱供給の振興策
参考資料
142
Section 2 (大韓民国)
6-0: 韓国全体概要(1/2)
1.
熱供給市場とその構造
 国主導のもと発展した熱供給事業: 韓国政府は、70年代のエネルギー危機後、1979年に「エネルギー
使用の合理化に関する法律」を制定し、それまで産業地域だけだった地域熱供給を住宅及び商業地域
にも拡大した。
 その後、熱電併給活用拡大を目的に99年に制定された「統合エネルギー供給法」において都市計画方
針の中、新住宅開発地を熱供給指定区域と指定する制度を導入。、現在の熱供給の普及率は、人口の
約15%。市街に集中している熱消費者は増加傾向にあり、2011年度と2006年度の熱売上量を比較する
と、39.2%上昇している。
2.
熱供給事業規制の枠組み
 熱供給を単独で規定した統合エネルギー供給法(IESA)と詳細な規定: 統合エネルギー供給法
(Integrated Energy Supply Act: IESA)は、省エネルギーへの寄与や国民生活の利便性を向上させる
ことを目的として1999年に施行された法律で、熱供給システムの構築・運営・安全性に係る事項が規定
されており、2010年に法目的を含め、全面改正がなされている。
 産業通商資源部(MTIE)の下の熱供給事業: 同法では、熱生産者-熱供給事業者間、及び熱供給事業
者-消費者間での料金設定の基本的考え方(例えば、上限価格設定)や契約締結義務等について規定
されている。同法を通じて、MTIE主導の下、熱供給を含むエネルギー産業規制、セクター改革やエネル
ギー価格の統制が行われている。
PwC
143
Section 2 (大韓民国)
6-0: 韓国全体概要(2/2)
地方自治体
政府機関
【産業通商資源部(MTIE)】
事業規制、許認可付与
補
助
金
政
策
提
言
企業
団体、独立組織
【韓国エネルギー研究委員会(KIER)】
新技術試験
【韓国エネルギー管理公団(KEMPO)】
政策策定
【韓国ガス安全公社(KGS)】
ガス安全性認証
PwC
【KDHC】
地域熱供給対象区域
消費者/消費者団体
独占供給
144
Section 2 (大韓民国)
6-1: 熱供給の背景
70年代のエネルギー危機への対応策の一つとして、熱供給が普及した。その後も、大気汚染や気候変動対策
等として熱供給の利用が推進されている。
1. 韓国の熱供給
• 2007年以降、韓国におけるガス価格が急速に増加し、熱電併給は経済的魅力を失っていた。韓国は全ての石油を
輸入しているため、石油価格上昇時に掛かる関税により石油価格は高いレベルとなっていた。
• 2008年以前は熱電併給施設に使用される重油燃料は輸入税から免除されていた。
• 石油の卸売市場は韓国ガス公社(Korean Gas Cooperation: KOGAS)が独占し、各都市ガス会社が地域独占をし
ている。価格の競争性があまりないが、ガス供給者の利ざやに対する厳しい規制により、価格に上限がある。
2. 熱供給の歴史
• 1970年代に2度のエネルギー危機があり、両危機は石油輸入国である韓国に多大な影響を与えた。その結果、
1979年に韓国政府は「エネルギー使用の合理化に関する法律」を制定した。当該法律が成立する前までは、地域
熱供給の対象は産業地域だけだったが、当該法律の新規定により、居住及び商業地域にも供給が可能になった。
• 1999年には統合エネルギー供給法(Integrated Energy Supply Act: IESA)が制定された。
• 韓国政府は、熱電併給活用の向上を目的とした統合エネルギー供給政策を通じ、都市計画方針の一環で、新住宅
開発地を熱供給指定区域と指定し、熱供給にとって魅力的な市場を開拓した。
3. クリーンエネルギー・省エネ等による環境保全促進
• 大気汚染防止の観点から地域冷暖房の導入が開始された。
• 近年では、エネルギー利用の効率化、資源のリサイクル、空間利用の経済性、防災の観点から大きな役割を果た
すものとして期待されている。
4. 日本に非常に似ている気候
• 日本同様、韓国には明確な四季がある。2011年度の平均気温は約12℃であったが、地球温暖化で例年平均気温
が上昇傾向にある。(日本の平均気温:13.5℃)
PwC
145
Section 2 (大韓民国)
6-2: 熱供給の現状
熱供給事業は市街地を中心に増加しており、対象地区での導管接続義務や補助金政策などの熱供給促進に
かかる取り組みが行われている。
1. 熱供給普及率 – 国民の凡そ15%
• 人口約5千万人の凡そ15%が熱供給を利用している。
2. 市以外に集中する熱供給
• 多世帯住宅が密集しているため、熱需要も市街に集中している。
• 年々熱消費者は増加傾向にある。
• 2011年度と2006年度の熱売上量を比較すると、39.2%上昇してい
る。熱供給システムに接続している世帯数も拡大傾向にある。
3. 熱供給の成長に向けた取り組み
• 多くの熱供給システムは、新規都市開発計画の一部として行政主
導で推進され、自治体のエネルギー計画により地域暖房区域が定
められ、同区域内の建物に対しては、事実上、熱供給ネットワーク
への接続が義務付けられている。
• 2000-2012年にかけては、バイオマスプラント、バイオガスプラント
に対して、化石燃料利用時と比較した追加コストを補てんすること
を目的とした電力買取制度を実施した。
PwC
図表6-1: 韓国における地域熱供給の概要
人口
5千万人
国土面積
100,210平方キロメートル
供給割合
国民の15%(2011)
暖房度日
2483(ソウル)
平均気温
12℃(ソウル)
産業:55.8%
家庭:39.3%
サービス等:5.0%
LNG:34.44%
石炭:32.55%
埋立地ガス等:22.12%
石油等:10.89%
181,863,000平方メートル
セクター別
熱需要割合
熱源割合
熱供給面積
熱供給
システム数
112(2011)
出典:Euroheat and Power (2013)
146
Section 2 (大韓民国)
6-3: 熱供給にかかる事業規制(1/2)
熱供給を単独で規定した統合エネルギー供給法(IESA)が存在し、同法律に詳細な規定が記載されている。
1. 統合エネルギー供給法の概要
• 統合エネルギー供給法(Integrated Energy Supply Act: IESA)は、省エネルギーへの寄与や国民生活の利
便性を向上させることを目的として1999年に施行された法律で、熱供給システムの構築・運営・安全性に係
る事項が規定されている。
• 2010年に法目的を含め、全面改正がなされている。
2. 法的枠組み
• 産業通商資源部(Ministry of Trade Industry and Energy: MTIE)は、5年ごとに地域熱供給マスタープラン
を策定・公表している、このプランには、地域熱供給に係る中長期計画に加えて、省エネ目標・排気ガス削減
目標値が含まれている。(IESA、第3条)
• 自治体や住宅公社などが住地開発や商業施設開発を行う場合、産業通商資源部と協議し、産業通商資源
部は必要に応じて「熱供給対象地区」を指定する。(IESA、第5条)
• 熱供給対象地区では、熱供給システムが自治体の都市計画に組み込まれ、全ての建物は熱供給システム
への接続が義務付けられる。(IESA、第5条)
• 熱供給を行うに際しては、MTIEの許可が必要となっている。許可要件としては、供給力が指定地区内の需
要を満たすこと、省エネや環境改善に資すると認められること、事業を遂行する上での経済的基礎や技術的
能力を有すること、供給地域が他の事業者と重ならないことが挙げられる。(IESA、第9条)
• 熱供給対象地区における熱供給を希望する民間企業は、MTIEの入札にて参加しなくてはならないが、応札
した民間企業に、独占供給権を与えることによって、民間企業の投資の安全性確保を図っている。(IESA、第
9条)
PwC
147
Section 2 (大韓民国)
6-3: 熱供給にかかる事業規制(2/2)
統合エネルギー供給法の目次は以下の通り。
3. 統合エネルギー供給法の目次
• 韓国における熱供給を規定している統合エネルギー供給法(Integrated Energy Supply Act: IESA)の目次
は次の通りである。








PwC
Chapter 1:
Chapter 2:
Chapter 3:
Chapter 4:
Chapter 5:
Chapter 6:
Chapter 7:
Chapter 8:
総則
統合エネルギー供給
事業許可
供給規制
設備運営、建設
韓国熱供給公社
附則
罰則
148
Section 2 (大韓民国)
6-4: 熱供給対象地区における熱供給事業スキーム図
【 MTIE 】
熱供給対象地区を
指定
熱供給対象地区
【熱生産者】
独占供給で
はないため
複数社も可
MTIE認可
IESA §6
供給/売買契約
IESA §19
民間企業
競争入札
民間企業
企
業
選
出
【独占供給事業者】
熱供給またはCHP
事業者
供給/売買契約
IESA §17
【消費者】
熱の独占供給
熱供給
MTIE認可
IESA §9
電力供給
*特別許可に基づく
韓国電力市場
PwC
149
Section 2 (大韓民国)
6-5: 熱供給にかかる主要関係者(公的機関)
1. 産業通商資源部(Ministry of Trade Industry and Energy: MTIE)
• 知識経済部に代わり、2013年に設立され、エネルギー政策策定、エネルギー産業規制、気候変動問題、エ
ネルギーセクター改革、エネルギー価格統制等の役割を担う。
2. 韓国エネルギー経済研究所(Korea Energy Economics Institute: KEEI)
• エネルギー計画と政策を支えるために、エネルギー動向の予測とモデリングを行っている。
• 熱供給に関する調査も実施している。
3. 韓国エネルギー研究委員会(Korea Institute of Energy Research: KIER)
• 政府の認可過程の一環として、新たなエネルギー技術の試験を行う。
4. 韓国エネルギー管理公団(Korea Energy Management Corporation: KEMCO)
• 政府のエネルギー政策策定、エネルギーセクターの情報収集に責任を負う。
5. 韓国ガス安全公社(Korea Gas Safety Corporation: KGS)
• ガス安全性の認証機関。
PwC
150
Section 2 (大韓民国)
6-5: 熱供給にかかる主要関係者(熱供給事業者)
1. 韓国地域暖房公社(Korea District Heating Corporation: KDHC)
• 韓国における熱供給における主要企業(国営)で、同国の熱供給セクターの発展に深く寄与してきた。また
1991年に、フィンランドのElectrowatt-Ekono社と共同で韓国熱供給エンジニア会社を設立し、熱供給に関わ
るエンジニアリングサービスやプラント建設監督を行う。
2. 韓国ガス公社(Korea Gas Corporation: KOGAS)
• 韓国における天然ガスの独占卸供給事業者。LNGの輸入、保管、ガス輸送に責任を負う。
3. 韓国電力公社(Korea Electric Power Corporation: KEPCO)
• 2001年の卸電力市場創設に伴い、KEPCOの発電部門が6社に分割され、送電、配電および小売事業を担
当することになった。また、1982年の電力国有化後、1989年に株式公開し、企業形態としては株式会社と
なったが、株式公開は最大49%に限定され、現在も政府が株式の51%を保有している。市場シェアは85%と
圧倒的で、他の約40社の独立系発電事業者を大きく引き離している。
4. ポスコ(Pohang Iron and Steel Company: POSCO)
• 韓国の主要鋼鉄生産者。近年、エネルギー関連事業を拡大させている。子会社のPOSCOエナジーは韓国
最大の独立系発電事業者で、燃料電池CHPシステムの主要な供給者となっている。
PwC
151
Section 2 (大韓民国)
6-6: 市場監視主体
産業通商資源部(MTIE)により市場監視が行われている。
1. MTIEによる市場監視手法及び権限
• IESAに基づき、MTIEは、エネルギー産業規制、セクター改革やエネルギー価格の統制を行っている。
• MTIEは熱供給事業者や熱生産者の営業所、事務所、事業所への立ち入り、及び帳簿、書類などの検閲権
を有する。(IESA、 第50条)
Article 50 (Inspections)
(1) The Minister of Knowledge Economy may, within the extent necessary for enforcing this Act, have a public official under his/her
control gain access to an office, a place of business or other place of work of a business operator or a heat producer who
concludes a supply contract with the business operator and inspect books, documents and other materials.
•
MTIEはKDHCの以下5項目について監視権を有する。(IESA、 第43条)
 熱の生産、運輸、供給
Article 43 (Supervision)
 供給施設の建設と運営
The Minister of Knowledge Economy shall give directions and supervision on
the affairs related to the matters referred to in the following subparagraphs for
 組織構造や従業員数の変更
the Corporation to attain its management objectives:
 予算や決算の編成
1. Production, transportation and distribution of integrated energy;
2. Construction and operation of supply facilities;
 事業計画と業績
3. Adjustment of the organizational structure and the number of staff
members;
4. Compilation of the budget and settlement of accounts;
5. A business plan and the results of business.
PwC
152
Section 2 (大韓民国)
6-7: 熱料金・供給条件
統合エネルギー供給法(IESA)にて、熱生産者-熱供給事業者間、及び熱供給事業者-消費者間での料金設定
の基本的考え方等について規定している。
1. IESAにより熱料金設定方法が規定されている
• IESAにて、熱生産者-熱事業者間、及び熱事業者-消費者間における料金設定方法が規定されている。
2. 熱生産者・熱事業者間の契約
• 熱生産者と熱事業者は熱供給価格につき契約を締結しなくてはならない。(IESA、 第19条)
• 契約に合意できない場合は、MTIEが仲介役或いは調停案の作成をする。(詳細は「6-9」を参照)
3. 熱事業者・消費者間の契約
• 熱供給事業者の消費者に対する熱料金はMTIEが発表している上限価格定を超えてはならない。(IESA、第17条1項)
• 熱料金は建設費用の一部または全てを回収できる額に設定しなければならない。(IESA、第18条)
• 熱供給事業者が、熱料金や供給条件にかかる規定を新規策定又は変更する際には、MTIEに届出を提出しなければ
ならない。また、供給規定の変更に関しては、需要家に対して遅延なく書面通知すると共に、ホームページで公表する
義務を負っている。
Article 17 (Supply Regulations)
(1) A business operator shall formulate supply regulations on charges and other terms and conditions of supply as prescribed by
Ordinance of the Ministry of Knowledge Economy and report them to the Minister of Knowledge Economy, and the same shall
also apply to cases where he/she intends to modify them. In such cases, where he/she has obtained approval of, or approval for
modification of, the electricity supply clauses from the Minister of Knowledge Economy under Article 16 of the Electric Utility Act,
he/she shall be deemed to have reported the matters related to electricity supply in the supply regulations or to have reported
any modification of such matters.
Article 18 (Charges for Construction Costs)
(1) A business operator may have the users bear the whole or part of construction costs for supply facilities.
(2) Matters necessary for the basis of the calculation of charges, methods of imposition and collection, etc., under paragraph (1)
shall be prescribed by Presidential Decree.
[This Article Wholly Amended by Act No. 9933, Jan. 18, 2010]
PwC
153
Section 2 (大韓民国)
6-8: 卸供給に関するルール
IESAは、卸供給に係る契約の締結義務等を規定している。工業団地以外の熱供給対象地区においては、ク
リーンエネルギーの使用が義務付けられている。
1. 熱生産者との契約締結義務
• 熱生産者が熱供給事業者に熱の卸供給を行う場合、熱生産者はMTIEによる定めに基づき、熱供給の料金
や条件について契約を締結しなければならない。(IESA、第19条1項)
Article 19 (Terms of Heat Producers)
(1) Where a heat producer intends to supply a business operator with heat, he/she shall conclude a supply contract on charges and
other terms of supply, as prescribed by Ordinance of the Ministry of Knowledge Economy.
•
契約に合意できない場合は、MTIEが仲介役或いは調停案の作成をする。(詳細は「6-9」を参照)
2. クリーン・エア保全法による規定が存在する
• クリーン・エア保全法(Clean Air Conservation Act)に基づき、工業団地以外の熱供給対象地区において熱
供給を行う場合、独占供給者は、液化天然ガスや液化石油ガスまたは再生可能エネルギー等の汚染物質を
最低限に留める「クリーンエネルギー」の使用が義務付けられている。また工業団地であっても、都市部の近
郊では、クリーンエネルギーの使用が義務付けられていることがある。
3. 天然ガスや再生可能エネルギーへの助成金政策を実施
• 政府がLNGを含む天然ガス、新エネルギーや再生可能エネルギーを使用する事業者に対して優先的に助成
金を交付していることから、政府としてはこれらの熱源使用を促進していることが想定される。(IESA、第8条3
項)
Article 8 (Subsidization)
(3) Where the State or a local government provides subsidies pursuant to paragraph (1), it may preferentially subsidize any business
operator who uses natural gas (including liquefied natural gas) or new or renewable energy pursuant to subparagraph 1 of
Article 2 of the Act on the Promotion of the Development, Use and Diffusion of New and Renewable Energy as fuel.
PwC
154
Section 2 (大韓民国)
6-9: 紛争処理体制
熱生産者と熱供給業者間の紛争については産業通商資源部(MTIE)が仲裁し、消費者の苦情/紛争について
は、消費者基本法に基づき、応対される。
1. IESA (第19条3項)に基づく事業間紛争
• 熱生産者と地域熱供給事業者間で料金または供給条件にかかる契約締結の過程で支障が生じた場合、両
者ともにMTIEに仲裁を求めることが可能である。
• 被申請者(紛争の相手方)は、一定期間内に当件にかかる意見書を提出する機会が付与される。
• 上記の提出期間が過ぎた後、MTIEは仲裁計画を策定し、双方の解決策を見出すことになる。
Article 19 (Terms of Supply of Heat Producers)
(3) Where a heat producer or business operator fails to enter into a supply contract pursuant to paragraph (1), he/she may request
the Minister of Knowledge Economy to mediate between a heat producer and business operator.
(4) Where the Minister of Knowledge Economy receives a request for mediation pursuant to paragraph (3), he/she shall notify the
other party concerned thereof and provide him/her with an opportunity to submit a written opinion within a fixed period.
(5) Where a period pursuant to paragraph (4) expires, the Minister of Knowledge Economy shall prepare a mediation plan and
recommend the parties concerned to accept the same.
[This Article Wholly Amended by Act No. 9933, Jan. 18, 2010]
2. 事業者・消費者間の紛争
• 韓国公正取引委員会とその傘下の機関である韓国消費者院(Korea Consumer Agency:KCA)が、消費者
基本法に基づき、消費者にかかる紛争処理を担当している。
 消費者団体協議体の自主的な紛争調停(消費者基本法31条)
 韓国消費者院に消費者紛争調停委員会を設置し運営(消費者基本法、第60~69条)
(多数の消費者被害が発生している場合には、集団的紛争調整を依頼・申請)
PwC
155
Section 2 (大韓民国)
6-10: 安定供給の確保策
熱供給事業者や熱生産者に対して供給義務を課すことで、熱供給が担保されている。
1. 国レベルの法律規定
• 熱供給事業者としての事業許可の要件としては、供給力が指定地区内の需要を満たすことが求められてい
る。 すなわち、熱供給事業者が当初の条件を順守することができない場合は、熱供給ライセンスが剥奪さ
れ、供給事業の運営が禁止されることとなる。 (IESA、第9条)
•
熱供給事業者は、正当な理由がない限り、指定地区内の需要家への熱供給を拒否することはできない。(供
給義務) (IESA 、第16条)
•
熱の生産者も、熱供給事業者と卸契約を結んでいる場合は、合理的な理由がない限り、熱の供給を拒んで
はならない(供給義務) (IESA、第16条)
•
熱生産者は熱事業者と締結した熱供給条件を含む契約の順守が義務付けられている。 (IESA 、第19条)
Article 16 (Supply Obligations)
(1) No business operator shall refuse to supply integrated energy for users in a supplied district, for whichhe/she has obtained a
license, without justifiable grounds.
(2) In cases where a heat producer has entered into a supply contract with a business operator pursuant to Article 19, he/she shall
not refuse to supply heat without justifiable grounds.
Article 19 (Terms of Supply of Heat Producers)
(1) Where a heat producer intends to supply a business operator with heat, he/she shall conclude a supply contract on charges and
other terms of supply, as prescribed by Ordinance of the Ministry of Trade, Industry and Energy. <Amended by Act No. 11690,
Mar. 23, 2013>
(2) A heat producer shall supply heat according to a supply contract pursuant to paragraph (1).
PwC
156
Section 2 (大韓民国)
6-11: 個別熱源禁止
統合エネルギー供給法(IESA)に定められた熱供給対象地区では個別熱源を新設等する場合は、産業通商資
源部(MTIE)の許可を得なくてはならない。
1. 個別熱源はやむを得ない事業がある場合にのみ許可制で認められる
• 熱供給指定区域内でボイラーなどの熱源を新設・改修・拡張しようとする者は、MTIEの許可を得なければな
らない。(IESA、第6条)
• この許可は、①供給力を超える需要がある場合、②ビルの構造上、地域熱供給ではなく個別空調の利用に
よらなければならない事情がある場合などにおいて与えられる。
Article 6 (Permit for New Establishment of Heat Production Facilities)
(1) Any person who intends to newly establish, re-establish, or extend heat production facilities, such as boilers, at standards higher
than those prescribed by Presidential Decree in an area to be supplied shall obtain a permit from the Minister of Knowledge
Economy.
(2) Where any person who has obtained a permit pursuant to paragraph (1) changes the matters permitted, he/she shall obtain an
amended permit from the Minister of Knowledge Economy: Provided, That this shall not apply to any change in minor matters
prescribed by Presidential Decree.
(3) Where an application for new construction, etc. of heat production facilities pursuant to paragraph (1) or an application for
amended permit pursuant to paragraph (2) is made, if such application falls under any of the following subparagraphs, the
Minister of Knowledge Economy shall grant a permit: 1. Where the demand for integrated energy in an area to be supplied
exceeds the supply volume; 2. Where separate air conditioning facilities or steam generating facilities (limited to the relevant
facilities) are required due to the nature of uses of buildings other than housing in an area to be supplied where a district air
conditioning and heating project is implemented; 3. Where an applicant for a permit or an amended permit is not stably supplied
with integrated energy by a business operator.
(4) The Minister of Knowledge Economy may order any person who has newly constructed, reconstructed, or extended heat
production facilities in an area to be supplied without obtaining a permit or an amended permit pursuant to paragraph (1) or (2) to
reinstate them.
[This Article Wholly Amended by Act No. 9933, Jan. 18, 2010]
PwC
157
Section 2 (大韓民国)
6-12: 需要家に対する導管接続義務
導管接続を課す法令はないが、熱供給指定区域内において個別熱源の新設等に係る許認可(制限)があること
から、結果的に導管接続が義務化されている。
1. 導管接続義務は、規定されていない
• 法律上は、導管接続義務は存在していない。
2. 地域熱供給指定地区内の場合
• 但し、MTIEが設定した地域熱供給指定地区内においては、IESA第6条に基づき、やむを得ない事業がある
場合にのみ個別熱源の設置が認められること(許可制)から、結果的に、同地区における内の全建物・ア
パートの熱供給ネットワークまたは地域エネルギーシステムへの接続が義務化されていると考えられる。
(IESA、第5条)
Article 5 (Designation of Districts to be Supplied with Integrated Energy)
(1) In cases of any of the following subparagraphs, the Minister of Knowledge Economy shall designate and publicly announce
districts to be supplied with integrated energy (hereinafter referred to as area to be supplied ), as prescribed by Presidential
Decree. The same shall also apply to cases where he/she has changed the matters announced:
1. Where it is necessary to carry out a master plan;
2. Where, as a result of consultation pursuant to Article 4, it is deemed appropriate to supply integrated energy;
3. Where it is deemed necessary to designate an area to be supplied.
PwC
158
Section 2 (大韓民国)
6-13: 道路占有ルール
熱供給事業者は、既存のユーティリティを阻害しない範囲で使用許可を関係当局から得る事が出来る。
1. 公有地利用について
• 熱供給事業者は、既存のユーティリティを阻害しない範囲で、道路の使用許可を関係当局から得ることが可
能である。(IESA、 第45条)
• また公有地の所有者は、正当な理由無しに、同使用許可付与を拒否することはできない。
Article 45 (Use of Public Land)
(1) In cases where it is necessary to construct supply facilities on a road, bridge, sewer, river, or bank or on or under other public
land, a business operator may use it with permission from the manager thereof within the extent that such use does not interfere
with the utility thereof.
(2) No manager of public land shall refuse the use pursuant to paragraph (1) without justifiable grounds.
[This Article Wholly Amended by Act No. 9933, Jan. 18, 2010]
PwC
159
Section 2 (大韓民国)
6-14: 熱供給の振興策
熱供給事業者への助成金、税務優遇や政府ローンの融資を行っている。
1. 振興策
• 熱供給事業を促進するために、政府や自治体は熱供給事業者に補助金を交付することができる。(IESA、第
8条)
• 韓国の法人税率は、事業者の課税標準により11%~24.2%となっているが、 熱供給事業者は、事業運用初
年度の税務利益から投資の10%分を控除することができる。(特別税制限法(Restriction of Special
Taxation Act))
• 省エネルギー施設への投資を行っている企業は、資本投資の80%を上限として政府の融資を受けることが
できる。また、小規模事業や非営利組織の場合には、100%をカバーすることも可能となっている。年利率は
1994年に施行されたエネルギー資源ビジネス特別会計管理法(Energy Resources Business Special
Accounts Management Act)に基づき3年物国債の利率に応じて3~10%が適用される。
また、返済期間は5~7年間で、3年の返済猶予期間が付与される。
PwC
160
Section 2 (大韓民国)
6-15: 参考資料
背景/概要
• Euroheat and Power (2013), Country by Country Survey – Korea
• International Energy Agency (2013), The IEA CHP and DHC Collaborative http://www.iea.org/publicat
ions/insights/insightpublications/KoreaScorecard_FINAL.p (2015/1/15 アクセス)
• Korea (2011), Integrated Energy Supply Act http://www.moleg.go.kr/english/korLawEng;jsessionid=4z
NFkbN3MSebJy6skEfsQatOOPHEemNNi2EoaPL3V6kAukQQemNq63NmmnIogAgc.moleg_a2_servl
et_engine2?pstSeq=57722&pageIndex=9 (2015/1/15 アクセス)
事業規制
• Korea (2011), Integrated Energy Supply Act http://www.moleg.go.kr/english/korLawEng;jsessionid=4z
NFkbN3MSebJy6skEfsQatOOPHEemNNi2EoaPL3V6kAukQQemNq63NmmnIogAgc.moleg_a2_servl
et_engine2?pstSeq=57722&pageIndex=9 (2015/1/15 アクセス)
主要関係者(公的機関)のHP
• 産業通商資源部、
• 韓国電力委員会、
• 韓国エネルギー経済研究所、
• 韓国エネルギー研究委員会、
• 韓国エネルギー管理公団、
• 韓国ガス安全性公社、
PwC
http://www.motie.go.kr/language/jap/index.jsp
http://www.leadernews.co.kr/korec_home/eng/
http://www.keei.re.kr/main.nsf/index_en.html
http://www.kier.re.kr/eng/
http://www.kemco.or.kr/new_eng/main/main.asp
http://www.kgs.or.kr/kgsmain_eng/index.do
161
Section 2 (大韓民国)
6-15: 参考資料
主要関係者(民間企業)のHP
• 韓国地域暖房公社、 http://www.kdhc.co.kr/index_eng.do?sgrp=S05 (2015/1/15 アクセス)
• 韓国ガス公社、 http://www.kogas.or.kr/en/main.action (2015/1/15 アクセス)
• 韓国電力公社、 http://cyber.kepco.co.kr/kepco/EN/main.do (2015/1/15 アクセス)
• ポスコ、 http://www.posco.com/homepage/docs/eng3/jsp/s91a0010001i.jsp (2015/1/15 アクセス)
PwC
162
7. スウェーデン王国
7-0:
7-1:
7-2:
7-3:
7-4:
7-5:
7-6:
7-7:
7-8:
7-9:
7-10:
PwC
全体概要
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給にかかる事業規制
熱供給にかかる主要関係者
熱料金・供給条件
市場監視主体
紛争処理体制
消費者保護システム
導管利用に関するルール
安定供給の確保策
7-11: 需要家に対する導管接続 義
務・個別熱源禁止
7-12: 道路占有ルール
7-13: 参考資料
163
Section 2 (スウェーデン王国)
7-0: スウェーデン全体概要(1/2)
1.
熱供給市場とその構造
 熱供給システムは大半の地域で導入されている: スウェーデンでは、現在、290市中250市に熱供給シ
ステムが導入されている。
 現在も地方自治体の権限が大きいシステム: スウェーデンでは地方自治体の権限が強く、熱供給シス
テムについても、電力や上下水道といった他のインフラ同様、地方自治体主導のもと1948年に導入が開
始された。1996年に電力市場の自由化とともに、一部の熱供給事業が民間企業や国内外の電力会社
に買収されたものの、多くの事業者は現在も自治体が所有している
2.
熱供給事業規制の枠組み
 熱供給事業法下の契約: 熱供給事業の透明性を高め、消費者保護を促進する目的で、熱供給事業
法(District Heating Act)が制定され、熱料金と売買当事者間の契約条件について定義されている。同
法で価格の透明性、公開が義務付けられているが、料金規制は存在しない。
 エネルギー市場監督局、競争当局による市場監視: 企業エネルギー通信交通省の傘下にあるエネル
ギー市場監督局、競争当局が独立の規制当局として、電力、天然ガス、熱供給市場の監視を行ってい
る。
 信頼性向上を目指す品質監査システムREKO: スウェーデン熱供給協会と消費者団体により、2005年
に導入された熱供給の品質監査システムであるRekoが導入され、「価格透明性」、「比較可能性」、「信
頼性」の3原則を掲げ、消費者保護と熱供給事業者-消費者間の信頼関係の向上を目指している。
PwC
164
Section 2 (スウェーデン王国)
7-0: スウェーデン全体概要(2/2)
国
【エネルギー庁(Swedish Energy Agency)】
エネルギー政策実施
地方自治体
【熱供給委員会(Swedish District Heating
Board)】 紛争仲裁
資
本
所
有
【エネルギー市場監督局(Energy Market
Authority)】電力、天然ガス、熱供給市場の監視
【競争監督局(Swedish competition
authority)】 競争法に基づく監視
企業
独立組織/団体
加盟
【熱供給協会(Swedish
District Heating
Association)】
【Fortum】【E.ON】
民間企業
【Vattenfall】
国有企業
その他自治体所有企業
消費者団体と
協働で設置
消費者/消費者団体
Reko System
PwC
供給契約
保護
165
Section 2 (スウェーデン王国)
7-1: 熱供給の背景
熱供給は公共性が高く、1948年に自治体主導のもと整備が開始され、1970年代の化石燃料に対する重税政
策によって、輸入に依存していた石油燃料から国内燃料資源への燃料転換、熱供給事業の促進がなされた。
1. 気候と熱需要
• スウェーデンは北緯55度から70度の高緯度地帯にあり、海洋性と大陸性双方の気候条件を有する。
• 四季があり、秋季、冬季、春季は暖房が必要だが、夏季にはオフィスや病院など快適さを求められる建物で
しか冷房は使用されない。
• 寒冷な気候条件により豊富な熱需要を有する一方で、化石燃料の大部分を輸入に依存しているため、エネ
ルギー需要の削減と熱需要の削減が大きな政策課題とされてきた。
2. 熱供給の事業主体
• スウェーデンでは地方自治体の権限が強く、熱供給システムについても、電力や上下水道といった他のイン
フラ同様、地方自治体主導のもと1948年に導入が開始された。
• 1996年に電力市場が自由化されると、自治体所有の熱供給事業が民間企業のFORTUM(フィンランド)、
E.ON(ドイツ)、国営企業のVattenfallに買収されたが、それ以外の事業者は現在も自治体が所有している。
熱供給システムに占める民間企業、自治体所有企業、国営企業数の割合は、それぞれ19%、74%、7%と
なっている。
3. 石油燃料からの燃料転換
• 初期に導入された10の熱供給システムでは石油燃料を使用していたが、1970年代の石油危機以降、石油
燃料に対し重税が課されたことで、石油燃料から石炭、ヒートポンプ、産業廃棄熱への燃料転換が促進され
た。
• 国内燃料資源を一括管理できる熱供給システムは、国のエネルギー政策に適合し、急速に普及が進んだ。
PwC
166
Section 2 (スウェーデン王国)
7-2: 熱供給の現状
スウェーデンでは、290市中270市で熱供給システムが普及しており、熱需要に占める熱供給の割合は、1978
年の22%から2011年には56%に達している。
• スウェーデンでは現在、290市中250市に
熱供給システムが導入されている。
図表7-1: 熱需要のために使われるエネルギー源(2011)
• 近年の熱供給セクターの売上は約20~27
億円に上り、供給量も増加傾向にある。
• 多くの場合、熱供給システムは各地域毎に
独占的な状態にある。
• 石油危機以降、石油製品に対する重税政
策を進め、1991年に導入された炭素税は、
バイオマス燃料等の普及を後押しした。
図表7-2: 熱供給のために使われる熱源
• スウェーデン政府は、最終エネルギー消費
に占める再生可能エネルギー比率49%を
2020年までに目標に掲げている。
出所:Euroheat and Power ( 2013)
PwC
167
Section 2 (スウェーデン王国)
7-3: 熱料金にかかる事業規制
熱供給事業法(District Heating Act)にて、熱料金の透明性と売買当事者間の契約条件について定義されてい
るが、料金規制は課されていない。
1. 熱供給事業法(District Heating Act)
• 2008年に熱供給事業の透明性を高め、消費者保護を促進する目的で制定された。熱の売買当事者間にお
ける契約条件、交渉義務、熱供給断絶に対する保護や価格の透明性と明瞭性を規定している。
• 企業エネルギー通信省によると、消費者保護と自由化された熱市場の運営を維持する狙いが熱供給事業法
には含まれており、同法に基づき紛争仲裁を担当する熱供給委員会(Swedish District Heating Board)が同
時に設立された。
• なお、同法に料金規制は含まれていない。
2. 競争法(Competition Act)
• 他の産業や市場と同じく、熱供給事業も競争法の規制を受けている。
• 熱供給事業は、自由化のもと自然独占状態に陥りやすく、ため、不正な価格や条件による売買を行ったり、
生産量や市場や技術開発に制限を課すことで消費者に不利益を及ぼしたり、消費者によって扱いを変えると
いった事例に対し、競争監督局が独占的立場を悪用していないか判断することになる。
PwC
168
Section 2 (スウェーデン王国)
7-4: 熱供給にかかる主要関係者
1. 公的機関
1.1. エネルギー庁(Swedish Energy Agency)
• 企業エネルギー通信省の傘下にあり、エネルギー政策の実施を担当している。
1.2. エネルギー市場監督局(Swedish Energy Market Inspectorate)
• 企業エネルギー通信省傘下の独立の規制当局として電力、天然ガス、熱供給市場の監視を行う。
1.3. スウェーデン熱供給委員会(Swedish District Heating Board)
• 熱事業者と消費者、または熱事業者と熱供給事業者間の紛争仲裁を行う。
1.4. スウェーデン競争監督局(Swedish Competition Authority)
• エネルギー庁、エネルギー市場監督局と協働し、競争法に基づき、競争阻害的な連携や独占市場の悪用を
規制する。
1.5. 地方自治体
• スウェーデンでは地方自治体の権限が大きく、各自治体がエネルギー利用計画や土地利用計画を策定して
いる。
2. 非政府組織
2.1. スウェーデン熱供給協会(Swedish District Heating Association)
• 約135社の熱供給事業者から成る業界団体で、エネルギー省と協働して研究を行うなどの活動を行う。
3. 民間企業
3.1. Fortum(フィンランド)
• 15%のマーケットシェアを有するスウェーデン最大の熱供給事業者で、ストックホルムで事業を行っている。
3.2. E.ON(ドイツ)
• マルメで事業を営む熱供給事業者で、熱生産も行っている。
3.3. Vattenfall
• スウェーデンの国営企業で、熱生産も行っている。主要な事業地域は、ストックホルム北部のウプサラ。
PwC
169
Section 2 (スウェーデン王国)
7-5: 熱料金・供給条件
熱供給事業法で価格の透明性が謳われている(公開が義務付けられている)が、料金規制は存在しない。
1. 熱料金にかかる規制は存在しない
• スウェーデンでは熱料金に関する規制は存在しない。
• 熱料金は自治体間で大きく異なり、2012年において、最低価格のルレオ市の熱料金(集合住宅で年間
SEK100,000/193MWh)と、最高価格のファルケンベリ市の熱料金では2倍以上の差があった。このような熱
料金の差額は、熱供給事業者の株主構成や要求収益率、燃料構成、さらに熱供給システム設置に際する地
理条件によるものである。(エネルギー庁(2013)、 Energy in Sweden)
2. 価格の透明性と公開義務(熱供給事業法 、第5条)
• 熱供給事業者は、熱供給と熱供給システムへの接続にかかる料金を公開し、料金の内訳についても公開す
る義務を負う。
• 消費者によって異なる料金を設定している熱供給事業者は、消費者の区分基準を公開する義務を負う。
• 価格情報は正確かつ明瞭でなければならない。
Section 5 Price Information
A district heating undertaking shall ensure that information about the district heating undertaking's prices for district heating and for a
connection to the district heating operation and about how a price is determined is readily available to district heating customers and
the general public. If different prices apply for different categories of district heating customer, the district heating undertaking is under
the same obligation as regards the principles employed for dividing district heating customers into different categories.
Price information must be correct and clear.
PwC
170
Section 2 (スウェーデン王国)
7-6: 市場監視主体
企業エネルギー通信交通省下のエネルギー市場監督局(Swedish Energy Markets Inspectorate)が、独立の
規制当局として電力、天然ガス、熱供給市場の監視を行っている。
1. エネルギー市場監督局による市場監視(熱供給事業法 第52条)
• 企業エネルギー通信交通省の傘下にあるエネルギー市場監督局が独立の規制当局として、電力、天然ガス、
熱供給市場の監視を行っている。
• エネルギー市場監督局は、熱供給事業者が熱供給事業法を順守しているか監視しなければならない。監視
の適用される条項は、次のとおりである。
 第5-9条: 価格情報、契約情報、契約条件にかかる交渉
 第18-21条: 熱供給事業者の通知義務、契約更新に係る交渉、仲裁
 第25-29条: 契約期限、契約違反時の消費者への熱供給断絶
 第37-43条: 導管接続に係る交渉、自治体運営の事業者、熱供給事業者の会計
Section 52 Supervision
The supervisory authority shall exercise supervision of the district heating undertaking's compliance with the provisions of Sections 5
to 9, 18 to 21, 25 to 29, 31 and 37 to 43. The supervisory authority may issue the orders that are necessary to ensure compliance
with these provisions. Such an order may be made subject to a default fine.
2. 競争監督局による監視
• エネルギー市場監督局やエネルギー省と連携し、競争法に基づき、反競争的行為や独占市場の悪用を監督
している。
PwC
171
Section 2 (スウェーデン王国)
7-7: 紛争処理体制
スウェーデン熱供給協会(Swedish District Heating Board) が熱供給事業者と消費者間、熱供給事業者と熱
生産者間の紛争処理を担当している。
1. スウェーデン熱供給委員会(Swedish District Heating Board)
• 2008年、熱供給事業法の施行にあわせてエネルギー庁傘下の独立組織として設立され、熱供給事業におけ
る紛争仲裁の役割を担っている。
2. 熱供給事業者-熱生産者間紛争
• 熱供給事業者と熱生産者間の紛争については、スウェーデン熱供給協会が紛争仲介を担当している。
3. 熱供給事業者-消費者間紛争(熱供給事業法 、第10条)
• 熱供給事業者と消費者間の熱供給契約が合意に至らない場合、熱供給事業者または消費者は、スウェーデ
ン熱供給協会に仲裁を求めることができる。
Mediation
Section 10 If negotiations between a district heating undertaking and a district heating customer do not lead to agreement on
conditions for district heating, the district heating undertaking or the district heating customer may apply for mediation.
Section 11 An application for mediation shall be submitted to the authority which mediates in accordance with this Act. The
application shall have been received by the authority within three weeks from the date on which the district heating undertaking,
under Section 9, notified the district heating customer that the negotiations have been concluded.
PwC
172
Section 2 (スウェーデン王国)
7-8: 消費者保護システム
消費者保護と消費者-熱供給事業者間の信頼関係向上のためReko Systemを導入したことで、政府による料金
規制を回避し、熱供給の自由市場を維持している。
1. 消費者保護を目的としたReko System
• スウェーデン熱供給協会と消費者団体により、2005年に導入された熱供給の品質監査システムであるReko
Fjärrvärme (Swedish System for Strengthening Customer Relations and Empowering the Consumer)
が導入された。
• 消費者保護と熱供給事業者-消費者間の信頼関係の向上を目指し、「価格透明性」、「比較可能性」、「信頼
性」の3原則を掲げている。
• スウェーデンの熱供給市場は、多くの場合熱供給事業者の独占市場にあることから、消費者は熱供給事業
者との関係において不利な立場にあったが、Reko Systemを通じて熱供給事業者と消費者の信頼関係向上
に努めたことで、政府による価格統制を回避することに成功した。
• Reko Systemの成功要因として、熱供給事業者の過半数がシステムに加盟したこと、システムとシステム構
築に消費者の影響力が十分に及んだことが挙げられる。
2. 消費者団体と協調し運用されるシステム
• Reko基準は消費者団体との協調に基づき、市場の拡大、要求水準に応じて毎年改正される。
• 品質委員会が設置されており、Rekoの品質基準に満たない企業を脱退させる権限を有している。
• Reko Systemの主要項目は、「顧客関係における要求水準」、「品質委員会」、「価格透明性レポート」、「消
費者とReko間のミーティング」の4つである。
PwC
173
Section 2 (スウェーデン王国)
7-9: 導管利用に関するルール
熱供給事業法上、熱導管を有する熱供給事業者に対し、導管利用に係る交渉に応じる義務を課している。
1. 当事者間における交渉義務
• 熱供給事業者が、熱生産者から導管接続を希望する旨の通知を受け取った場合、当該相手との交渉に応じ
なければならない。(熱供給事業法、第37条)
• 当該交渉は、導管利用の合意に向けてなされなければならないが、もし、契約合意に至らなかった場合は、
熱供給事業者は接続を認めない理由を開示しなければならない。
Section 37 Negotiations regarding access to pipelines
If a district heating undertaking receives a request for access to the pipelines from a party which wishes to sell heat to the district
heating operation or use the pipelines for the distribution of heat, the district heating undertaking shall conduct negotiations regarding
access with the party making the request.
The obligation to negotiate means that the district heating undertaking shall attempt to reach an agreement regarding access with the
party which requested such access. If an agreement regarding access cannot be reached, the district heating undertaking shall state
the reasons for access not being granted.
PwC
174
Section 2 (スウェーデン王国)
7-10: 安定供給の確保策
個別の企業や組織が熱供給の安全供給に対する義務を負うのではなく、全ての利害関係者間の協調のもとに
安定供給を図っている。
1. 当事者間での調整が行われる
• 個別の企業や組織が熱供給の安全供給に対する義務を負っている訳ではないため、熱供給に関わる全て
の利害関係者(熱供給者、消費者、公的機関)間の協調が求められている。
2. 供給者による断絶が許容される場合がある
• 消費者が契約違反や法令違反を犯した場合には、消費者への熱供給を中断することが許されている。(熱供
給事業法、第27-28条)
• 人身損害や器物破損の回避、熱供給システムの拡張、供給保障の確保といった理由があれば、消費者への
熱供給を中断することが許されている。(熱供給事業法 、第31条)
Discontinuation of distribution in the event of a breach of contract
Section 27 The distribution of district heating to a consumer may be discontinued if the consumer has neglected his obligations under
the contract and this neglect constitutes a fundamental breach of contract. However, the distribution may only be discontinued if the
consumer does not comply with a written demand to fulfil his obligations under the contract within a specified and reasonable period.
Section 28 If a consumer has not made payment according to the contract, the distribution of district heating may be discontinued if,
in addition to that which is stated in Section 27, first and third paragraphs, 1. the claim of the district heating undertaking is
undisputed, 2. the consumer has not complied with the written demand to pay the claim and the consumer has subsequently been
served a written reminder to make payment within three weeks from this service, 3. the reminder included information that the
distribution of district heating may be discontinued if the claim is not paid, and 4. a message concerning the content of the reminder
has been sent to the Social Welfare Committee in the municipality where the consumer has the district heating distributed.
PwC
175
Section 2 (スウェーデン王国)
7-11: 需要家に対する導管接続義務・個別熱源禁止
需要家に対する導管接続義務は存在しない。
個別熱源を直接的に禁止する規制はなく、熱源の選択は自由に行える。
1. 導管接続義務の有無
• スウェーデンでは、需要家に対し、熱供給システムの導管への接続義務は課されていない。
2. 個別熱源禁止に関する規制の有無
• 熱供給事業法では個別熱源に関する規制は設けていない。
PwC
176
Section 2 (スウェーデン王国)
7-12: 道路占有ルール
各地域の都市計画は自治体に委任されており、熱供給事業を含むインフラ施設については詳細開発計画で規
制されている。
1. 計画・建設法に基づくインフラ開発
• 2010年制定の計画・建設法(Planning and Building Act)に基づき、各地方自治体は、交通、上下水道、(熱
供給事業を含む)エネルギー供給施設を開発をしなければならない。
• 同法に基づき、用地取得や通行権や地役権を得なければならない。
PwC
177
Section 2 (スウェーデン王国)
7-13: 参考資料
背景/概要
• Euroheat and Power (2013), Country by Country Survey – Sweden
• RES-H Policy (2009), Introduction and development of the Swedish district heating systems
• Swedish Energy Agency (2014) Energy in Sweden 2013
• Swedish District Heating Association (2009) An International Comparison of District Heating Markets
事業規制
• District Heating Act (2008:263)
主要関係者(公的機関)のHP
• エネルギー庁、 http://www.energimyndigheten.se/en/
• エネルギー市場監督局、 http://ei.se/en/
• ス ウ ェ ー デ ン 熱 供 給 委 員 会 、 http://www.energimyndigheten.se/en/About-us/Our-organisation/TheDistrict-Heating-Board/
• スウェーデン競争監督局、 http://www.kkv.se/
PwC
178
Section 2 (スウェーデン王国)
7-13: 参考資料
主要関係者(非政府組織機関)のHP
• スウェーデン熱供給協会、 http://www.svenskfjarrvarme.se/
主要関係者(民間企業)
• Fortum, http://www.fortum.com/en/pages/default.aspx (2015/1/13アクセス)
• E.ON, http://www.eon.com/de.html (2015/1/13アクセス)
• Vattenfall, http://corporate.vattenfall.com/ (2015/1/13アクセス)
熱料金・供給条件
• Elenchus Research Associates Inc. (2010), An Assessment of District Energy Opportunities
消費者保護
• Euroheat and Power (2012), Good practice in Metering and Billing, http://www.vraghana.com/kmportal
/cops/ned/Metering%20Billing%20Report.pdf (2015/2/23アクセス)
PwC
179
8. フィンランド共和国
8-0:
8-1:
8-2:
8-3:
8-4:
8-5:
8-6:
8-7:
PwC
フィンランド全体概要
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給にかかる事業規制
熱供給にかかる主要関係者
熱料金・供給条件
市場監視主体
紛争処理体制
8-8: 需要家に対する導管接続義務・
個別熱源禁止
8-9: 道路占有ルール
8-10: その他振興・支援策
8-11: Fortum社のOpen DHCモデル
8-12: 参考資料
180
Section 2 (フィンランド共和国)
8-0: フィンランド全体概要
国
【フィンランド競争・消費者機構:Finnish
Competition and Consumer Authority:
FCCA】
独占市場がないか監視
地方自治体
【エネルギー市場監督局:
Energy Market Authority】
熱価格や熱市場を監視
消
費
者
保
護
所
有
独立組織/団体
企業
【フィンランドエネルギー産業
協会:Finnish Energy
Industry】
承認
加盟
【Helsinki Energy】
【Fortum】
品質保証制度
保
護
消費者/消費者団体
PwC
供給契約
181
Section 2 (フィンランド共和国)
8-1: 熱供給の背景
寒冷な気候条件により国民一人当たりのエネルギー消費量が多く、エネルギーの輸入依存度も高いため、総エ
ネルギー消費のうち1/3を占める建物の暖房用エネルギーの削減に取り組んできた。
1. 熱需要が高い気候
•
フィンランドは北緯60度~70度に位置し、大陸性気候と海洋性気候が混在するEUで最も寒い国の1つである。寒冷な気候条
件のもと、暖房日数は年間3,900~6,400時間に及び、総エネルギー消費のうち4割が建物の暖房に用いられている。そのため
政府が定めたビル規制(Building Regulation)では、新規に建設されるビルに対して断熱効果を高めるよう規制している。
2. 熱供給の導入
•
フィンランドは国民一人あたりのエネルギー消費量が多く、ま
たエネルギー輸入依存度も高いため、産業界と政府が共同
で省エネルギー技術の研究・推進に取り組んできた。
•
エネルギー消費量の節約と効率的利用を目差して1950年代
から熱供給が導入され、普及が進むとともにエネルギー利用
効率が向上し、大きな成果を生んでいる。政府や地方自治
体は、熱供給の普及が望ましいという態度をとっているもの
の、熱供給の導入に際して特別な財政的・制度的な支援を
行っているわけではなく、熱供給の普及の背景には、熱供給
の導入が結果的にコスト節約につながり、高い収益性をもた
らすこと、さらに国内生産が可能なエネルギー源の利用促進
となる、といった利点があったためであると考えられる。
3. 高いCHP普及率
•
フィンランドはCHPの先進地であり、2011年の総発電量に占
めるCHPの割合は36%となっている。また、2014年における
熱生産の74%がCHPにより、発電量は12.6TWhとなってい
る。
PwC
図表8-1:熱供給による熱生産量と接続熱負荷量の推移
出所:Energy Year 2013 - District heat (2015), Finnish Energy Industries
182
Section 2 (フィンランド共和国)
8-2: 熱供給の現状
国全体での熱供給システムの普及率は50%に上り、首都のヘルシンキでは建物の9割以上が熱供給システム
による熱供給を受けている。
1. 熱供給普及率
• フィンランドにおける熱供給の歴史は長く、2011年時点での普及率は50%となっており、首都ヘルシンキにおいては
建物の9割以上が熱供給に接続されている。また、住宅部門の熱需要に占める供給割合は47%を占め、2014年にお
ける供給熱量は31.3TWh、熱供給事業全体の売上高は2,350百万ユーロとなった。
2. 熱供給の事業形態
• 全熱供給事業者数に対する民間事業者数の割合は1%にも満たず、熱供給事業者の
ほとんどが自治体所有企業もしくは自治体出資の合弁会社となっている。
• 大規模都市においては供給事業者が企業体(Energy Board)を共同して設立している
場合が多い、中小都市では、供給事業者が各地域で個別に発電と熱供給を実施して
いる場合が多い。
• 首都ヘルシンキでは、ヘルシンキ・エナジーが独占的に生産から輸送、小売りまで行っ
ており、2012年の契約数は14,452口で供給熱量は年間6,900GWhに及ぶ。
3. ガス化プラントの活用事例
• Vaskiluodon Voima Oyは、2012年にVassa市に140MW規模という世界でも有数の
大規模ガス化プラントを建設した。ガス化プラントは、既設プラントの25-40の石炭使用
量を再生可能バイオ燃料に転換でき、二酸化炭素の排出量も年間230,000トン削減で
きる。さらに、地域経済へも良い影響を与えており、数百万ユーロの投資、バイオマス
調達を通じた数百の雇用創出をもたらしている。木質チップなどバイオ燃料の調達は
全プラント近隣で賄い、そのためのロジスティックスも整備した。
• 熱供給は環境性に優れているが、ガス化プラントの活用によって環境性の更なる向上
が期待されている。
PwC
図表8-2:熱供給プラント分布
出所:District Heating in Finland 2013
(2013), Finnish Energy Industries
183
Section 2 (フィンランド共和国)
8-3: 熱供給にかかる事業規制
フィンランドの熱供給事業は規制のない自由市場として運営されており、熱供給事業について単独で規定した法
律は存在せず、電力市場法、一般競争法、消費者保護法等の適用を受けるのみとなっている。
1. 熱供給事業について個別に規定した法律は存在しない
• 雇用経済省によると、フィンランドでは熱供給を個別に規制する法律は存在せず、電力市場法、市場乱用を監視する
一般競争法と消費者保護法の適用を受けるのみとなっている。
2. 電力市場法(Electricity Market Act)
• 熱供給事業を規制している法律がないため、電力市場法の適用を受けている。
3. 一般競争法(General Competition Legislation)
• フィンランド競争・消費者機構は、熱供給事業を既存の顧客関係から独占事業と見なしており、独占市場の乱用を防
止するために、固定熱料金や低すぎたり不当な価格での熱供給を禁止するなど、いくつかの要件を定めている。
4. 消費者保護法(Consumer Protection Legislation)
• 消費者保護の観点から、フィンランドでは、導管接続義務を課しておらず、消費者に個別熱源の選択権を認めている。
5. 省エネ法(The Energy Efficiency Law )
• 2012年のEU省エネ指令を実施すべく、2014年に新たに施行された法律で、2015年1月1日施行。熱供給事業者に
対し、メーターの設置、消費量に応じた料金請求、熱消費量や料金等の情報提供(少なくとも年4回)を求めている。
• なお、同法の施行に伴い、熱供給事業者に対し、料金の算定方法・熱消費量等の情報提供義務を課していた2009年
エネルギーサービス法は廃止されている。
PwC
184
Section 2 (フィンランド共和国)
8-4: 熱供給にかかる主要関係者
1. 公的機関
フィンランド競争・消費者機構(Finnish Competition and Consumer Authority)
• 雇用経済省の傘下にある独立行政機関である。
• 市場の透明性及びそれに伴う公正な機能性の確保・促進、事業者・消費者の双方に対する消費者問題に関
する情報提供と指導、信用性の監視・伝達及び影響力行使による市場維持を目的としている。
エネルギー市場監督局(Energy Market Authority)
• 電力市場法に基づき熱供給価格とその他のネットワークサービスを監視している。
2. 非政府機関
フィンランドエネルギー産業協会(Association of Finnish Energy Industry)
• 2004年に設立された独立業界団体で、240社のメンバーのうち、115社が熱供給事業者で組織されている。
3. 企業
Fortum
• フィンランド最大の熱供給事業者で、スウェーデンなどの北欧諸国やバルト諸国、ポーランドでも事業を展開
している。
ヘルシンキ・エナジー
• ヘルシンキで熱供給を行う熱供給事業者。2012年のヘルシンキ市の熱供給による売上高は同社全体の売
上高7億6,653万ユーロの約45%を占める。また、マーケットシェア90%以上、CHPシェア90%以上、燃料効
率90%以上の達成目指す「90-90-90」原則を抱えている。
PwC
185
Section 2 (フィンランド共和国)
8-5: 熱料金・供給条件(1/2)
一般競争法に基づき、不当な価格での熱供給が禁止されているが、料金規制は存在しない。
1. 熱料金にかかる規制は存在しない
• フィンランドでは熱料金の水準設定に関する規制は存在しない。
• ただし、2015年に施行された省エネ法は、消費量に応じた料金請求をするよう熱供給事業者に求めている。
2. 一般競争法に基づく不当な価格での熱供給の禁止
• 熱供給事業者は、独占市場の乱用が禁止されており、固定熱価格や不当な価格での熱供給が禁止されてい
る。料金の設定はコストに基づき、透明性を保つこと、同一条件の顧客は等しく扱うことが義務付けられている。
3. 熱料金の構成要素
• 熱料金は、以下3つの要素から構成されている。
 接続料:熱供給システムへの接続時に支払
われ、建物の大きさにより異なる。
 基本料:固定費に対応。熱料金合計の2割
程度に相当する。
 使用料:変動費に対応する。
• 一般的には熱供給システムの大きさが価格水準
に大きく影響し、大都市では、CHPによる熱供給
システムが普及していることから熱料金が安い傾
向にある。また、熱源構成や熱供給プラントの稼
働年数や管理体制、経営者の要求利回りによっ
ても価格水準は異なる。また、地域によって熱料
金は異なり、料金差が倍近くなっている。
PwC
図表8-3:平均熱料金毎の企業割合
出所:District Heating in Finland (2013), Finnish Energy Industries
186
Section 2 (フィンランド共和国)
8-5: 熱料金・供給条件(2/2)
高品質な熱供給サービスや透明性のある熱料金を提供しているなど、顧客指向の経営を行う信頼性の高い企
業に対し、品質保証(Fair District Heating)を付与する枠組みがある。
1. 品質保証(The Fair District Heating)
• 顧客指向かつオープンな経営をしている企業に対し、フィンランドエネルギー産業協会による品質保証制度
を設けている。この品質保証を獲得するためには、以下の要件を満たす必要がある。
 高品質な熱供給サービス
 公開性と比較可能性を備えた価格の維持
 顧客安全性の向上
 様々な顧客、メディアを含む利害関係者との開かれたコミュニケーションと協働
• フィンランドエネルギー産業協会によると、品質保証を申請する企業は、熱供給システムへの接続や売上に
ついてエネルギー産業協会が要求する技術や経済水準に達している必要があり、品質保証を獲得している
企業は、高い信頼性を保証される。
• 既にフィンランドでは41社が品質保証を受けており、これらの企業の売上高合計は市場全体の84%を占めて
いる。
PwC
187
Section 2 (フィンランド共和国)
8-6: 市場監視主体
エネルギー市場庁及びフィンランド競争・消費者機構による監督が行われている。
1. 限定的な市場監視体制
• フィンランドは多くのエネルギー企業が自由に価格設定を行う世界でも最も規制緩和が進んだエネルギー市
場であり、熱供給市場に対しても最低限の監視体制しかとられていない。
2. エネルギー市場監督局による監視
• 電力市場法に基づき、熱供給価格、熱供給事業の運営が適正に行われているかを監視している。
3. フィンランド競争・消費者機構による監視
• フィンランドの熱供給事業者は自然独占状態にあるため、競争・消費者機構が独占市場の悪用がないか、監
視している。
PwC
188
Section 2 (フィンランド共和国)
8-7: 紛争処理体制
消費者は、不当な価格や市場活動については、競争・消費者機構に申し立てをすることができ、紛争となった場
合には、消費者紛争委員会が紛争処理を担当する。
1. 消費者紛争
• 消費者は、不正な熱料金や市場活動について、フィンランド競争・消費者機構(Finnish Competition and
Consumer Authority: FCCA)へ苦情の申し入れをすることができる。
• 紛争となった場合には、法務省が管轄する独立中正の専門機関である消費者紛争委員会(Consumer
Dispute Board)が紛争処理を行う。
PwC
189
Section 2 (フィンランド共和国)
8-8: 需要家に対する導管接続義務・個別熱源禁止
導管接続義務について法律で規定されていないが、自治体による都市計画の一環で新規に建設される建物に
ついては導管接続を要請する場合がある。
個別熱源の導入を禁止する制度はなく、消費者は熱源の選択を自由に行える。
1. 需要家に対する導管接続義務はない
• フィンランドでは、消費者保護の観点から、熱供給システムの導管への接続義務は課していない。
• ただし、自治体が都市計画の中で、特定の地域に関しては導管への接続を要請する場合があるが、そのよう
な場合も既存の設備には適用されず、一般消費者に対しては導管接続義務が免除される条項がある。
• なお、導管への接続を促すインセンティブとして、補助制度が設けられている。
2. 個別熱源禁止に関する規制は存在しない
• フィンランドでは、消費者保護の観点から消費者に熱供給システムへの接続を強制しておらず、熱源の選択
を消費者が自由に行える。
PwC
190
Section 2 (フィンランド共和国)
8-9: 道路占有ルール
国土使用・建設法に基づき道路占有許可を取得する必要がある。
1. フィンランドにおける道路占用
• フィンランドでは、各自治体が都市計画を策定している。
• 都市計画を策定する各自治体は、国土使用・建設法(Land Use and Building Regulation)に基づき、用地取
得や通行権や地役権を得なければならない。
PwC
191
Section 2 (フィンランド共和国)
8-10: その他振興・支援策
再生可能エネルギー支援法により、再エネ熱の利用が推奨されている。
1. 再エネ電気支援法(Laki uusiutuvilla energialähteillä tuotetun sähkön tuotantotuesta)
• 2010年施行の再生可能エネルギー支援法で、バイオマス電気の優遇買取を規定したもの。
• バイオガスや木質燃料によるコジェネ(CHP)から生産される電気について優遇買取を規定するとともに、当
該コジェネが熱を生産する場合には、ヒートボーナスとして更に買取価格を上乗せしている。
(バイオガスの場合:+€50/MWh、木質燃料の場合:+€20/MWh)。
Article 1 Purpose of the Act
Purpose of this Act is to promote the production of electricity from renewable energy sources, and these sources of energy
competitiveness and the diversification of electricity production and increase self-sufficiency in electricity production.
Article 26 Heat premiums increased feed-in tariff
An increase in the thermal feed-in tariff to be paid a premium of 20 per megawatt-hour of electricity produced in a wood-fuel and 50
per megawatt biogas power plant, the electricity produced.
PwC
192
Section 2 (フィンランド共和国)
8-11: Fortum社のOpen DHCモデル
Fortum社は、価格メカニズムを活用しながら、多様な熱源の選択的利用や熱需要の抑制を促すことで、熱供給
の効率化を図っている。(Open DHCモデル)
1. Fortum社のOpen DHCモデル
•
2012年、Fortum社はストックホルムで、利用可能なエネルギー源
の最適利用、熱供給関連コストの最小化によるDHCシステムの利
益率拡大を目的に、Open DHCモデルを開始した。
•
Open DHCシステムとは、ネットワークに接続されているあらゆる
タイプの熱源を市場価格ベースで等しく取り扱うビジネスモデルの
ことであり、再エネ熱か、熱供給会社が生産する熱よりも効率的な
熱源の熱のみ受け入れている。
•
冷暖房の市場価格は、毎日、3種類の熱のタイプ(次熱、次熱、
ネットワークに還流する還元熱)に応じて決定される。同様のメカニ
ズムは、ネットワークユーザーの暖房熱容量、冷房熱容量にも適
用され、需要側のエネルギーマネジメントや蓄熱層の利用を通じ
た熱需要の抑制を促す。これが熱供給会社の熱生産能力の抑制
に役立つ。このように、Open DHCモデルは、DHCの顧客(熱源側、
需要側)に合理的な冷暖房価格を保証しながら、これらのシナジー
効果を得ようとするものである。
•
Open DHCネットワーク内のエネルギーは、熱供給会社のみなら
ず、ネットワークに接続しているほかのオペレーターによっても供
給されうる。また、このモデルは、地域の清掃工場熱の利用も許可
しており、システム全体としての効率性を改善するとともに、CO2
削減を達成している。
•
Open DHCモデルは、地域のエネルギー源を取り入れて、低炭素
化を進め、エネルギー価格の透明性を確保する、よりスマートな
DHCへの第一歩となるものである。
PwC
図表8-4:Open DHC モデルの概念図
出所:IEA(2014)
193
Section 2 (フィンランド共和国)
8-12: 参考資料
背景/現状等
• Euroheat and Power (2013), Country by Country Survey – Finland
• Finnish Energy Industries (2013), District Heating in Finland 2013
• Finnish Energy Industries (2014), Highlights of 50 years History of the Finnish District Heating,
• JETRO (2013)、 通商広報 5190923e68fb0 -価格競争力で地域暖房が優位-欧州の熱供給分野の省エネ
- (フィンランド)
事業規制
•
Energy Regulators Regional Association (2011), Inogate Textbook Regulatory Implications of District
Heating
主要関係者(公的機関)のHP
• フィンランド競争・消費者機構、 http://www.kkv.fi/en/
• エネルギー市場監督局、 http://www.energiavirasto.fi/en/home
主要関係者(非政府機関)のHP
• フィンランドエネルギー産業協会、 http://energia.fi/en
主要関係者(非政府機関)のHP
• Fortum、 http://www.fortum.com/en/pages/default.aspx
•
ヘルシンキ・エナジー、 https://www.helen.fi/kotitalouksille/
PwC
194
Section 2 (フィンランド共和国)
8-12: 参考資料
熱料金・供給条件
• Finnish Energy Industries HP, http://energia.fi/en/home-and-heating/district-heating/fair-district-heating
(2015/1/23アクセス)
紛争処理体制
• 消費者庁HP 主要国の消費者政策体制, http://www.caa.go.jp/adjustments/findings/honbun_3_1_8_a_1.
html (2015/1/19アクセス)
Fortum社のOpen DHCモデル
• IEA (2014), “Linking Heat and Electricity Systems: Co-generation and District Heating and Cooling
Solutions for a Clean Energy Future”,
http://www.iea.org/publications/freepublications/publication/LinkingHeatandElectricitySystems.pdf
(2015/2/26アクセス)
PwC
195
9. ノルウェー王国
9-1:
9-2:
9-3:
9-4:
PwC
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給の法体系
参考資料
196
Section 2 (ノルウェー王国)
9-1: 熱供給の背景
寒冷な気候条件から熱需要は存在するものの、熱供給源は電力が41%と大きな割合を占めている。
1. 気候条件
• ノルウェーは北緯58度から71度に位置し、気温が-10度~-40度という寒冷で乾燥している内陸性気候、温暖で
雨に恵まれる夏と暖冬を有する海洋性気候、内陸性気候と海洋性気候両方の性格が混在する寒冷気候という
3つの気候条件を有している。2012年の暖房日は4,302時間に上り、寒冷な気候条件による豊富な熱需要が見
て取れる。
2. 高い水力発電割合
• 2011年のノルウェーにおける熱市場規模は、産業部門も含めて発電量にして65TWh/234PJ程度だった。熱供
給システムは着実に普及しているが、2010年を頂点として、2011年には暖冬と水力発電による余剰電力の影
響を受けて熱供給量が減少している。ノルウェーは世界第6位の水力発電国であり、熱市場における熱供給の
50%は水力が占めている。
3. エネルギー政策
• ノルウェーは世界第2位の天然ガス輸出国、世界第7位の石油輸出国として、国内エネルギー需要の6~7倍
相当分を輸出している。
• 2015年よりエネルギー効率目標に伴う新建築法が施工され、新規に施工される建物は全てパッシブ・ハウス
基準への適合が求められることとなる。この法令により、再び電気ヒーターが最も望ましい熱源と認識される
可能性が高く、熱供給システムへの影響が懸念されている。
PwC
197
Section 2 (ノルウェー王国)
9-2: 熱供給の現状
熱供給の普及率は他の北欧諸国と比べ低い水準にあるが、熱供給システム普及に向けた取り組みが行われて
おり、一定の成果を上げている。
1. 熱供給の普及率は0.7%と低い
• 熱需要の46%を住宅部門が占めており、その他サービス部門が31%、工業部門が23%と続く。
• 熱供給の普及率は0.7%と低く、住宅部門の熱需要に占める供給割合は6%に留まっている。暖房や給湯設備
に対して、電気が独占的なエネルギー源となっている。住宅部門とサービス部門では石油給湯器から熱供給
や他の再生可能エネルギー源への転換が進んでいるが、工業部門においては未だ大部分の石油給湯器がそ
のまま使用されている。
2. 熱供給システム普及促進に向けた取り組み
• 熱供給/地域冷房システムと石油燃料から再生可能エネルギーへの転換に対する財政支援を行っており、既
存施設の電気から再生可能エネルギーへの転換に対しても適用されている。
3. オスロ市(Hafslund Varme)の事例
• Hafslund Varmeは、オスロ市とコンセッションを組むノルウェー最大の熱供給事業者で、住宅部門で約60,000
戸、サービス部門で約1,000社の顧客にサービスを提供している。また、主要株主はオスロ市の自治体である。
• 地方及び国家環境目標に従い、2006年にオスロ市における熱供給システム普及促進プログラムが開始され
た 。 2020 年 まで に 熱 供 給 量 が 2 TWh を 超 え る こと を 目 指 し 、 2010 年 に は 、 オ ス ロ 市 の 熱 供 給 量 は 、
1,000GWhから1,800GWhまで増加、80%の成長率を達成した。また、180百万ユーロ以上が再生可能エネル
ギーや回収熱による熱供給/地域冷房のベースロード設備に投資された。ピークロードは、天然ガスや石油燃
料によって補完されるが、オスロ市は2016年までに熱供給システムの脱炭素を目指している。
• 石油消費量を50百万リットル/年に削減し、NOx排出量を削減することで、地域の大気汚染を改善することを目
標としている。このNOx排出削減量は、 60,000台の車が年間15,000km走行した際に排出される量に相当す
る。
PwC
198
Section 2 (ノルウェー王国)
9-3: 熱供給の法体系(1/2)
エネルギー法と都市計画・建築法の中に熱供給事業に関する規定がある。
熱料金は、電気ヒーター利用の場合の料金を超えならないとされている。
1. エネルギー法 (Energy Act)
• エネルギー法第5条の中で、熱供給事業について規定している。
• 熱供給事業の建設・運営は許認可制となっており、規制当局が開業、デザイン、試運転、メンテナンス、運営
や廃業といった事業に関わる許可や事業者の組織体・専門性、また業務委託先の専門性や外部委託を規制
する条項に関して規制や条件を付与することがある。(第1項、第2項)
• また、接続可能な熱供給システムを有するプラントに対して、他のプラントとの導管接続や供給義務が課され
ている。(第3項、第4項)
• 熱料金については、接続料と、年間固定料金と、熱の使用量に応じた料金により算出される。但し、この料金
は、供給地区の電気ヒーターの料金を超えてはならない。(第5項)
Section 5-5. prices
The charge for district heating can be calculated in the form od a connection fee, a fixed yearly charge and a charge for the heat
that is used. The charge for district heating shall not exceed the charge for electrical heating in the same supply area.
•
許可なく廃業してはならない。(第6項)
(参考)オランダ・ノルウェーにおける熱料金設定
• オランダ、ノルウェーでは、代替熱源(ボイラー等)との比較において熱料金が規制されている。
• 代替熱源の価格・コストをベースに熱料金が設定されることとなるが、市場により相対価格が設定されることとな
るため、熱供給システムのコストとの相関性はない。
• 当該料金規制の下では、熱供給事業者は、コスト削減を行うことにより利益を確保できる。他方、代替燃料の価
格が高ければ、熱供給事業者は料金を変更する必要がないため、消費者の不利益となる可能性も有り得る。こ
のため、このような価格設定手法は、熱供給と代替熱源のコストが合理的な場合にのみワークする。
PwC
199
Section 2 (ノルウェー王国)
9-3: 熱供給の法体系(2/2)
エネルギー法と都市計画・建築法の中に熱供給事業に関する規定がある。
2. 都市計画・建築法 (Planning and Building Act)
• 都市計画・建築法第66条aは、条例により、熱供給事業の許認可を有する事業者の供給エリア内の建築物
に対し、熱供給ネットワークへの接続義務を課すことができると規定している。
Section 66a. District heating plants
After a licence has been granted pursuant to the Act relating to the production, conversion, transmission and distribution of energy,
etc. (the Energy Act), it may be decided by means of a bylaw that buildings constructed within the area to which the licence applies
must be connected to the district heating plant.
PwC
200
Section 2 (ノルウェー王国)
9-4: 参考資料
背景/現状等
• Ecoheat 4 EU (2011), Existing legislative support assessments for DHC
• Euroheat and Power (2013), Country by Country Survey – Norway
• Swedish District Heating Association (2009), An International Comparison of District Heating Markets
PwC
201
10. オーストリア共和国
10-1:
10-2
10-3:
10-4:
10-5:
10-6:
PwC
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給の法体系
熱供給の振興策
ウイーン市における熱供給事例
参考資料
202
Section 2 (オーストリア共和国)
10-1: 熱供給の背景
寒冷な気候条件のもと、他の北欧諸国と同じく自治体主導のもと熱供給の整備が始まった。また、豊かな森林
資源を活かした木質バイオマスの利用が進んでいる。
1. 気候条件
• オーストリアは中央ヨーロッパ北部に位置し、国土の2/3をアルプス山脈に覆われている。全国土に占める森林の割合は46%と
ヨーロッパの中でも最も高い割合となっている。四季があり、寒冷な冬季と温暖な夏季を有し、6月から8月には気温が30度まで
上がるが、12月から3月にかけては寒気と降雪が続く。暖房需要は寒冷な北部に特に多く、熱供給の比率も南部に比べて高く
なっている。
図表10-1: オーストリアにおける地域熱供給分布
2. 熱供給の歴史
• オ ー ス ト リ ア で は 、 1949 年 に 自 治 体 主 導 の も と
Klagenfurt市で産業用プラントの導入が業務用及び家
庭用の熱供給システムに先行して導入された。その
後、熱供給システムは、公営、民営等様々な経営形態
の熱供給事業者のもと着実に整備が進み、2011年時
点での熱供給総売上高は73,176TJと2007年の55,995
から年平均15%の成長率で推移している。
3. 木質バイオマスの利用拡大
• 1978年、オーストリアでは国民投票により原子力発電
所の廃炉を決定、自然エネルギーを推進する政策が展
開されるようになった。豊かな森林資源から、木質バイ
オマスの活用が促進され、農村部の住民が自らの手で
建設・運営する地域熱供給プラントとその供給網の構
築を行い、2011年にはエネルギー供給量のうち227PJ
がバイオマスを使用して作られるようになった。現在、
2,000以上の0.5~30MW規模の地域熱供給プラントが
稼働している。
PwC
203
Section 2 (オーストリア共和国)
10-2: 熱供給の現状
熱供給による熱供給量は堅調に増加しており、パイプラインの整備も進んでいる。こうした背景には、補助金政
策があるが、企業の投資意欲に陰りが見えることが懸念として挙げられる。
1. 熱供給の普及率
• 熱需要の57%を住宅部門が占めており、その他サービス部門が30%、工業部門が13%と続く。
• 熱 供 給 の 普 及 率 は 21% で 、 住 宅 部 門 の 熱 需 要 に 占 め る 供 給 割 合 は 19% と な っ て い る 。
都市部における地域暖房の普及率は、リンツ市(人口約19万人:国内第3位)60%、ウィーン市(人口約176万
人:国内第1位)36%、クラーゲンフルト市(人口約9万人:国内第6位)30%、グラーツ市(人口約25万人:国内
第3位)26%、ザルツブルク市(人口約15万人:国内第4位)23%。
• 2006年から2011年までの間に熱供給量は31%増加し、導管接続は年3%拡大、4,400kmに及んでいる。
2. 熱供給の事業主体
• 熱供給事業者は約750社。垂直一貫を前提とした事業形態であり、少なくとも1つの熱源(CHP又はボイラー)
と導管を所有している。大規模な熱供給事業の場合は、CHP所有者などから廃熱を購入する場合もある。
• 大手熱供給事業者の所有者は、多くの場合、地方政府。少なくとも少数株主(50%未満)となっている。
3. 熱供給システム普及の障害
• 高い第1次エネルギー価格、低い電気価格と排出権取引の仕組みが、CHPの相対的な収益性を脅かしている。
また、エネルギー税が熱供給システム発展の更なる障壁となっている。天然ガスによる発電が課税対象になら
ないのに対し、熱供給のためのガス消費は税務上の特例として認められていない。
• また、熱供給/地域冷房事業者にとって、投資環境が次第に複雑化してきている。煩雑な手続きや、薄い法的
保護が投資活動を停滞させており、熱供給事業者は、2012年から2021年にかけての投資額見込みを2.2兆
ユーロから1.7兆ユーロに減額させている。
PwC
204
Section 2 (オーストリア共和国)
10-3: 熱供給の法体系
熱料金供給を直接的に規制する法令や連邦規制は存在せず、一般的な法規制の適用事業規制を受ける。
1. 熱供給にかかる規制
• 熱供給を直接的に規制する法令は存在せず、カルテル法(Kartellgesetz)、不公正競争法(Bundesgesetz
gegen den unlauteren Wettbewerb)、競争法(Wettbewerbsgesetz)といった競争性にかかる法律や、消費
者保護法(Konsumentenschutzgesetz)、その他取引規制や安全性にかかる一般的な法律が適用される。
• 熱料金については、競争料金という位置づけで、熱供給事業者が独自に定めるものとされており、競争当局
が、競争法に基づき、過剰利益を得ていないかどうかをモニタリングしている。
• 但し、実際は、小売料金については、通常、州政府によりキャップが課されており、その範囲内で熱供給事業
者が料金改定を行うこととなる。
• また、熱料金価格については、オーストリア科学研究省(Federal Ministry of Science, Research and
Economy: BMWF)が1992年施行の価格法(Preisgesetz)に基づき、その価格構成等について定義しており、
BMWFは、この監督機能を州政府に委任することができることとなっている。例えば、2009年にfernwärme
wien gmbhの価格についてViennaの地方政府による官命が出された事例がある。
• 熱供給ネットワークへの接続等に関する規制も特段ない。ネットワークへの接続は熱供給事業者との相対契
約に基づき行われることとなる。
PwC
205
Section 2 (オーストリア共和国)
10-4: 熱供給の振興策(1/4)
熱供給普及に向けてCHP法や地域熱供給拡大法といった支援策を実施している。
1. CHP法(コジェネ法)(Kraft-Wärme-Kopplung: KWK-Gesetz)(2009年改正)
• 省エネ・省CO2の推進を目的としている。
Article 4 Objectives (Google翻訳)
Goal of this federal law is to ensure their continued operation through the support of existing CHP plants for district
heating and public to promote their modernization.
Article 7 Promotion of cogeneration energy (Google翻訳)
(1) An improvement in the production of electrical energy directly and effizienzmaximiert produced as a by-product in
the production of district heating from existing or modernized CHP plants (§8) is permitted only under the
condition that;
1. the operation of the public district heating is used and
2. a saving of primary energy use and CO2 emissions compared to separate electricity and heat production is
achieved.
PwC
206
Section 2 (オーストリア共和国)
10-4: 熱供給の振興策(2/4)
熱供給普及に向けてCHP法や地域熱供給拡大法といった支援策を実施している。
1. CHP法(コジェネ法)(Kraft-Wärme-Kopplung: KWK-Gesetz)(2009年改正)
• 省エネ・省CO2を推進すべく、高効率コジェネの投資及び運転費用に対する助成措置が講じられている。
Article 7 Promotion of cogeneration energy (Google翻訳)
(3) The promotion of new CHP plants, all necessary permits required for construction for which up to 30 September
2012 in the first instance and go later than 31 December 2014 in operation, takes the form of investment grants.
Maximum of 10% of the immediately needed for the construction of the CHP plant capital expenditure are to be
granted (excluding land costs) as an investment grant at the request of the system operator of a new
cogeneration facility in accordance with the available resources, with a maximum at CHP plants
1. up to a maximum capacity of 100 MW, an investment subsidy of 100 € / kW maximum capacity,
2. from a maximum capacity of more than 100 MW to 400 MW in the amount of 60 € / kW maximum capacity and
3. from a maximum capacity of 400 MW in the amount not exceeding 40 Euro / kW maximum capacity, with capital expenditure and be
covered by the investment subsidy needs of the settlement agent for investment grants (§ 13c ÖSG) is demonstrated. (…)
Article 8 Reimbursement of costs for CHP energy (Google翻訳)
(1) operators of existing and modernized CHP plants are taking into account the electricity and district revenues
necessary for the maintenance operation costs in one year to be determined by the Federal Minister of
Economics and Labour amount in cents per kWh electricity (support tariff for CHP electricity) paid by the EnergieControl GmbH. These costs consist of the cost components of fuel costs, maintenance costs and operating costs;
except for the cost of a reasonable return on capital employed, pension payments, administrative costs and taxes
at existing CHP plants.(…)
PwC
207
Section 2 (オーストリア共和国)
10-4: 熱供給の振興策(3/4)
熱供給普及に向けてCHP法や地域熱供給拡大法といった支援策を実施している。
1. CHP法(コジェネ法)(Kraft-Wärme-Kopplung: KWK-Gesetz)(2009年改正)(参考)
• 支援対象・内容 (*1)
1) Existing CHP plants
CHP electricity support tariff based on additional expense (costs less revenues) of maintaining
operations,excluding a reasonable return on capital employed
2) Modernised CHP plants
CHP electricity support tariff based on additional expense (costs less revenues) of maintaining
operations, excluding a reasonable return on capital employed
3) New CHP Plant
Investment grant
•
オーストリアにおけるCHP普及策の経緯(*2)
 2000年のエネルギー自由化法により、送配電会社に地域熱供給の熱源として使われるCHPからの電
気を買い取ること義務づける権限を州政府に付与。加えて地域熱供給の熱源として使われるCHPから
の電気に対して補助を行う権限を州政府に付与。
 2003年のグリーン電力法では、個別のCHP電気への補助事業の資金源にあてるためのサーチャージ
制度を導入(徐々に支援額は減少)。
 2009年のCHP法(KWK Gesetz)は、グリーン電力法対象外であって地域熱供給用の新規の高効率か
つ省CO2のCHPの運転費用を助成することを規定。
PwC
(*1) 出典: E-Control (2009)
(*2) 出典: IEA (2014)
208
Section 2 (オーストリア共和国)
10-4: 熱供給の振興策(4/4)
熱供給普及に向けてCHP法や地域熱供給拡大法といった支援策を実施している。
2. 地域熱供給拡大法(Wärme- und Kälteleitungsbaugesetz: WKLG)(2009年施行)
• 省エネ・省CO2推進を目的に、高効率熱源による地域熱供給向け投資を対象とした補助金支援を行っている。
 地域熱供給ネットワークの拡張に際しては、当該拡張が省エネ・省CO2につながる場合に助成される。
新設やリプレイス時も同様。
 当該支援により都心部における地域熱供給の拡大、地方における小規模な熱供給(再エネ熱利用)等
を推奨している。
Article 1 Objectives (Google翻訳)
(1) The measures provided for in this federal law grants the existing energy and CO2 savings potential, taking into account security of supply and a
balanced energy mix as well as a reduction of primary energy use are used. It is on the basis of investment subsidies in particular;
1: a cost-effective CO2 -savings be effected;
2: energy efficiency can be increased;
3: be attenuated by the construction of cooling networks of power consumption increase for air conditioning;
4: the emission of air pollutants, especially in redevelopment areas pursuant to § 2 para. 8 Air Pollution Control Act, Federal Law
Gazette. . No. I 115/1997 , in its current version (IG-L) can be reduced;
5: existing heat and waste heat potentials, in particular industrial type are used cost;
6: the integration of renewable energy sources to achieve the purpose of expansion of small-scale regional heat supply in rural areas;
7: the expansion of district heating are accelerated in the metropolitan areas.
(2) The funded through this federal law measures a permanent emission reductions of up to 3 million tonnes of CO2 can be achieved. The additional
expansion of heating and cooling networks is only to promote when the additional generation demonstrably leads to less primary energy use and less
CO2 emissions are caused, as would be caused by the replaced or newly built heating and cooling systems.
PwC
209
Section 2 (オーストリア共和国)
10-5: ウィーン市における熱供給事例
ウィーン市では、市が所有するウィーンエネルギー社が市民に熱供給を行っている。
1. ウィーンエネルギー(Wien Energie GmbH) -シュタッツベルケ
• ウィーン市(Wiener Stadtwerke Holding AG )の下に設立(2001年12月)。
• 200万の市民と23万の事業所に、電気、ガス、暖房熱を供給。
• コジェネ発電設備を利用。
• バイオマス発電所も建設(48,000世帯に電気、12,000世帯に暖房熱を供給)。
• ウィーンの地域暖房は、7割をコジェネでカバー。残り28%はゴミ焼却設備からの熱。
• 2008年以降、ゴミ焼却設備排熱の利用を拡大(プファフェナウ)。
• なお、2011年から規制部門と非規制部門の分離に着手。2013年8月には組織再編を行い、地域暖房子会社
(Wien Energie Fernwärme)をWien Energy GmbHに統合するとともに、電力及びガスのネットワーク部門
を分離・統合してWien Netze GmbH社を設立。このネットワーク会社は、650km熱導管(650km)や光ファイ
バ(2,700kw)も管理する 。
(*)Wiener Stadtwerke Holding AG についての補足
 Wiener Stadtwerke Holding AG は1999年に設立。ウィーン市100%所有のインフラサービス供給会社
であり、電気・ガス、交通、IT、環境、廃棄物処理、下水道、葬儀サービス、公園マネジメントサービス等を
展開。オーストリア25大企業に入る。2013年の売上げは3,044millionユーロ、従業員1.6万人。
PwC
210
Section 2 (オーストリア共和国)
10-6: 参考資料
背景/現状等
• Ecoheat4eu (2011), Existing legislative support assessments for DHC
• Euroheat and Power (2013), Country by Country Survey – Austria
熱料金にかかる規制
• IEA (2014),Energy Policies of IEA Countries - Austria - 2014 Review
• EC: Legal Source Renewable Energy (2014), Austria Summary: Heating and Cooling, http://www.reslegal.eu/search-by-country/austria/summary/c/austria/s/res-hc/sum/91/lpid/94/ (2014/2/25アクセス)
熱供給の支援策
• CHP法, https://www.ris.bka.gv.at/GeltendeFassung.wxe?Abfrage=Bundesnormen&Gesetzesnummer=
20005916 (2014年2月25日アクセス)
• EC, “RES-Legal” http://www.res-legal.eu/search-by-country/austria/single/s/res-hc/t/policy/aid/supportof-res-h-infrastructure-7/lastp/94/ (2014/2/25アクセス)
• E-Control (2009), CHP support from since 1 April 2007, http://www.e-control.at/en/businesses/electricit
y/combined-heat-and-power%20%28CHP%29/CHP-support (2014/2/25アクセス)
• IEA (2014), Energy Policies of IEA Countries - Austria -- 2014 Review
• 地域熱供給拡大法, https://www.ris.bka.gv.at/GeltendeFassung.wxe?Abfrage=Bundesnormen&Gesetz
esnummer=20005917 (2014年2月25日アクセス)
オーストリアにおける熱供給事例
•
http://www.advantageaustria.org/jp/events/WIMI2009_KNS1_Kossina.pdf (2014/2/25アクセス)
PwC
211
11. イタリア共和国
11-1:
11-2:
11-3:
11-4:
PwC
熱供給の背景
熱供給の現状
熱供給の法体系
参考資料
212
Section 2 (イタリア共和国)
11-1: 熱供給の背景
1949年のガス資源発見に伴うガスの発展と共に、熱供給事業も普及を始めた。また、1990年代の省エネ促進
を目的としたCHPの振興策によって、熱供給事業は拡大している。
1. 天然ガス資源発掘による供給網の整備
• 1949年に国内でガス資源が発見されたことから、ガスの配給網の建設が進み、広く供給網が整備、活用され
ている。
• 熱供給においても、2011年時点で熱源の76.6%に天然ガスが使用されている。
2. 省エネの促進
• 2004年のEUコジェネ指令、2006年のエネルギーサービス指令に対応する形で、国内におけるCHPの促進
や振興策が整えられ、その過程で、熱供給は事業は拡大していくことになった。
3. 北部に熱需要が高い地理的特性
• イタリアは北部は大陸性気候、海岸地域は海洋性気候、南部は地中海性気候と北と南で気候が異なってお
り、比較的寒冷な北部地域にて主に熱需要が高い状況である。
PwC
213
Section 2 (イタリア共和国)
11-3: 熱供給にかかる事業規制と振興策
熱供給にかかる事業規制は存在しないが、間接的に熱供給を支援する法規制や振興策は整備されている。
1. 国レベルでの事業規制は存在しない。
• 熱供給事業にかかる国レベルでの事業規制は、存在していない。
• 他方で、熱供給事業を間接的に支援する国の法規制やガイドラインがある。
2. 地方での事業規制が重要な役割を担う
• 各州毎の法制度が熱供給事業者によって、重要になる。熱供給事業者は、州営の熱サービスプロバイダー
乃至はESCO事業者と長期契約(一般的に20年)を結ぶことになる、
3. 再生可能熱システムの促進にかかる振興策
• 2011年の政令(Decree 28/11)にて、再生可能熱システムの振興を促しており、各地方自治体は、熱供給シ
ステムを含む省エネ計画を導入し、熱供給システムのための保証基金を創設しなくてはならない。
• 1998年以降は、バイオマスか地熱をエネルギー源とする熱供給システムには、税額控除がなされる。
PwC
215
Section 2 (イタリア共和国)
11-4: 参考資料
背景/概要
Ecoheat4eu (2011), Recommendation Report for Italy
Ecoheat4eu (n.d.), Country-by-Country db, http://ecoheat4.eu/en/Country-by-country-db/Italy/Overview-ofNational-DHC-Market/ (2015/2/25アクセス)
EuroHeat & Power (2013), District Heating and Cooling country by country Survey 2013: Italy
IEA (2009), Energy Policies of IEA Countries - Italy
PwC
216
12. 欧州連合(EU)
12-1:
12-2:
13-3:
12-4:
PwC
EUレベルでの熱供給普及促進と気候変動目標対策
EUの省エネ政策と熱供給
まとめ
参考資料
217
Section 2 (EU)
12-1: EUレベルでの熱供給普及促進と気候変動目標対策(1/5)
- EUの熱供給事業とEuroheat
1. 熱 供 給 事 業 へ の 側 面 支 援 を 行 う Euroheat &
Power
•
EU域内には、約6,000の熱供給システム(図表
12-1)があると言われているが、域内諸国の熱供
給事業は各国独自の制度の下、運営されている。
•
Euroheat & Powerは、欧州を中心とした30カ国
のCHP/熱供給の事業者およびその団体、そして
同事業に関連する製造企業、調査機関などから
なる組織である。欧州以外では、中国、韓国、ロシ
ア、アラブ首相国連邦等の域外国も加盟している。
•
Euroheat & Power は、主に欧州レベルでの熱供
給事業の規制/振興政策に関する調査活動や、欧
州委員会、欧州議会、国際エネルギー機関
(International Energy Agency: IEA)等の組織へ
のロビー活動の役割を果たしているが、域内で統
一された制度や法制を求めているものではない。
図表12-1: 熱供給システムがあるEU域内の都市
出所:Euroheat, Heat Road Map 2050
PwC
218
Section 2 (EU)
12-1: EUレベルでの熱供給普及促進と気候変動目標対策(2/5)
- EUの熱供給事業とEuroheat
2. EUにおける熱供給のマーケットシェアは13%
•
EU27カ国における熱供給システムのシェアは、住宅および商業施設において、約13%(2010年)となってお
り、合計11.8 EJ (3,300 TWh) を供給している。
図表12-2:EU住宅・商業施設市場における熱供給システムのシェア
出所:Euroheat, Heat Road Map 2050
PwC
219
Section 2 (EU)
12-1: EUレベルでの熱供給普及促進と気候変動目標対策(3/5)
- 2020年気候変動対策目標
•
EU は 2010 年 6 月 に 採 択 し た 新 成 長 戦 略 「 欧 州
2020」に5大目標の1つとして温暖化対策を明記し、
その中で「2020年までにエネルギー効率を20%高
める」との省エネルギー目標を掲げ、各加盟国の具
体的目標とそのための行動計画の改定を求めてい
る。
図表12-3: 2010年策定加盟各国省エネアクションプラン
1. 温室効果ガスを 90 年比で 20%削減
2. 最終エネルギー消費に占める再生可能エネ
ルギーの割合を 20%
3. エネルギー効率性を 20%改善
•
3.の省エネルギー目標は、もともと温室効果ガス削
減の手段の 1 つとしての位置づけであったが、上記
のように目標に格上げされたものである。
•
06 年 4 月採択されたエネルギーサービス指令では、
16年までに 90 年比でエネルギー最終消費の 9%
を削減する目標を定めていたが、欧州委員会は 加
盟国にエネルギーサービス指令に基づく行動計画
(Energy Efficiency Action Plan: EEAP)を提示する
よう求め、各国はそれぞれの目標(図表12-3)を提
示している。
PwC
出典:欧州委員会(2014)
220
Section 2 (EU)
12-1: EUレベルでの熱供給普及促進と気候変動目標対策(4/5)
- 2030年気候変動対策目標
•
•
•
EUは、2014年10月23日に、2030年までのGHG
の削減目標を40%とすることに合意をしたと発表
した。
この目標は、欧州委員会が、2014年1月22日に
公表した、「2030 Framework for Climate and
Energy Policies」に沿ったものであり、消費者へ
の適正なコスト設定、エネルギーセキュリティーの
確保、適切な競争力政策の考慮、域外のエネル
ギー依存の低減がその土台となっている。
同削減目標は、欧州委員会、欧州議会にて協議
を経て、決定されたものであり、2020年および
2050年のGHG削減目標とともに、EUにおける気
候変動対策の土台となり、域内各国におけるエネ
ルギー政策の根幹となる。
 地球温暖化ガスを1990年比で-40%削減
 再生可能エネルギー割合を27%に引き上げ
 省エネ目標を最低限27%
 EU-ETSの改革と目標引き上げ(2021年以
降のEU-ETS下においては、2020年までの
年率1.74%を上回る、年率2.2%の削減を行
い、2030年までに43%のGHG削減を目指
す。)
PwC
2030年目標における熱供給の役割
• 熱供給は、この2030年目標の中において特段言及はないも
のの、同目標の達成には、加盟各国が、省エネポテンシャ
ルのあるセクターを優先付し、計画を立てることを前提とし、
EUレベルでは、計画策定や報告プロセスについて関与する
としている。
• 但し、エネルギー分野では、エネルギーサービス指令
(2006)、省エネ指令(2012)およびエネルギー分野への公
的支援ガイドライン(2014)などにおいて、熱供給について
言及している。
European Council (23 and 24 October 2014)
Conclusions on 2030 Climate and Energy Policy
Framework (省エネ関連項目抜粋)
6. The European Council agreed that a reliable and
transparent governance system without any unnecessary
administrative burden will be developed to help ensure that
the EU meets its energy policy goals, with the necessary
flexibility for Member States and fully respecting their
freedom to determine their energy mix. This governance
system will :
6.1 build on the existing building blocks, such as national
climate programmes, national plans for renewable energy
and energy efficiency. Separate planning and reporting
strands will be streamlined and brought together;
221
Section 2 (EU)
12-1: EUレベルでの熱供給普及促進と気候変動目標対策(5/5)
- Heat Road Map Europe 2050
•
•
•
•
2030年までの気候変動目標がEUで合意されてい
るが、Euroheat & Powerは、熱供給事業の政策に
ついて、EU全体のエネルギー政策の策定に沿って、
2050年までの成長シナリオ(ロードマップ)である
「Heat Road Map 2050」を作成した。
熱供給事業は、EUにおけるエネルギーコストの低
減、雇用創出に役立つとし、他のエネルギー源と共
に、事業の促進を目指すための提言が同報告書に
てなされている。
同レポートの中には、成行きのシナリオ(Business
As Usual: BAU)下の「Pre-study 1 (2012)」とEUの
気候変動対策に沿った「Low-heat Demand」シナリ
オ下の2つを想定しているが、双方で多くの便益を
実現できるとの見方から、2030年のシェアは30%、
2050年までには、50%に伸長することが可能として
いる。
但し、経済モデルによる需要予測と、その効果につ
いて本報告書にて論じているものの、それらの目標
を実現するための政策的な提言は含まれていない。
EuroHeat & Powerは、熱供給の域内での政策の
統一などは目指しておらず、振興策などについては、
ロビー活動を行うことが主眼となっていることが、そ
の背景となっている。
PwC
222
Section 2 (EU)
12-2: EUの省エネ政策と熱供給(1/9)
欧州委員会は、そして、中長期(2020-2050年)の気候変動目標達成のため、幅広い政策の実行を促しており、
加盟各国において、それぞれの気候変動対策の国内法制化を進めている。
•
•
欧州委員会は、中長期(2020-2050年)の気候変動目標達成のため、幅広い政策の実行を促しており、加盟各国に
おいて、それぞれの気候変動対策の国内法制化を進めている。
これまでEU内で進められている省エネルギーに関する取り組みと熱供給との関係は次のとおりである。
1. コジェネ振興指令(2004)
• 熱と電気を供給するコジェネレーションは、省エネポテンシャルが大きいことから、効率的なコジェネレーション 普及促
進のため、EU 加盟国にコジェネレーション及ポテンシャルの検証と普及に必要な支援策を講じることを求めている。
2. エネルギーサービス指令(2006)
• EUでは、2006年、加盟各国の自主的な取り組みとしながらも、指令の発効後9年間で9%の省エネルギーを達成する
ように盛り込まれている。
• なお、このエネルギーサービス指令では、需要家保護、料金規定等にかかる施策も盛り込まれており、電力、ガスとと
もに熱供給も、指令の対象とされている。
3. 省エネ指令(2012)
• 2020年までの20%の省エネ目標の達成が難しいことから、各国の省エネ取組の促進を目的としている。
• 2004年のコジェネ振興指令と2006年のエネルギーサービス指令を統合し、域内でのエネルギー効率化対策の共通
な枠組みを構築するものである。
4.省エネに対する公的支援のガイドライン(2014)
• EUは、2014年から2020年の省エネ目標達成のため、2014年に、域内の省エネ促進に対する公的支援のガイドライ
ンを策定している。
PwC
223
Section 2 (EU)
12-2: EUの省エネ政策と熱供給(2/9)
- Heat Road Map Europe 2050
1. 競争力があり、透明性が求められる価格形成
•
2006年のEU指令「Directive 2006/32/EC on End-use Energy Efficiency and Energy Services」では、需要家保護、料金規
定等にかかる施策が含まれている。
•
EUにおけるユーティリティーサービス全般において、対消費者への料金規定(Metering and Billing)で最も重要な指令として、
2006年に導入されたEU指令である。(下段枠参照)
•
同指令では、「熱供給を含む電力、ガスなどのユーティリティーサービスが、顧客の消費を反映した競争力のある価格で、かつ
透明性のある形で提供されること。(Article 13)」とあるが、但し、上記の目標を達成するための詳細な手法は規定しておらず、
各国がそれぞれの目標を達成することを求めている。
Directive 2006/32/EC on End-use Energy Efficiency and Energy Services , Article 13
1. Member States (“MS”) shall ensure that, in so far as it is technically possible, financially reasonable and proportionate in relation to the
potential energy savings, final customers for electricity, natural gas, District Heating and/or cooling and domestic hot water are provided
with competitively priced individual meters that accurately reflect the final customer's actual energy consumption and that provide
information on actual time of use.
2. MS shall ensure that, where appropriate, billing … is based on actual energy consumption, and is presented in clear and understandable
terms. Appropriate information shall be made available with the bill to provide final customers with a comprehensive account of current
energy costs. Billing on the basis of actual consumption shall be performed frequently enough to enable customers to regulate their own
energy consumption.
3. MS shall ensure that, where appropriate, the following information is made available to final customers in clear and understandable terms
… in or with their bills, contracts, transactions, and/or receipts at distribution stations: 10 Report on Good practice in Metering and Billing
a. current actual prices and actual consumption of energy;
b. comparisons of the final customer's current energy consumption with consumption for the same period in the previous year, preferably in
graphic form;
c.
wherever possible and useful, comparisons with an average normalized or benchmarked user of energy in the same user category;
d. contact information for consumers’ organizations, energy agencies or similar bodies, including website addresses, from which
information may be obtained on available energy efficiency improvement measures, comparative end-user profiles and/or objective
technical specifications for energy-using equipment.”
PwC
224
Section 2 (EU)
12-2: EUの省エネ政策と熱供給(3/9)
- Directive 2006/32/EC on End-use Energy Efficiency and Energy Services
1. 電力・ガスの自由化の影響を受けた消費者サービス向上の動き
• EUにおいて、電力およびガス事業の自由化が進み、かつスマートメーターなどの技術的な革新があったことから、よ
り顧客へのサービス向上への検討が進み、電力ガス欧州規制機関グループ(European Regulators‘ Group for
Electricity and Gas: ERGEG)や欧州エネルギー規制評議会(Council of European Energy Regulator: CEER) が
電力およびガスにおけるスマートメーター関連のタスクフォースを立ち上げることとなった。
• これらの目標は、ヨーロッパ域内のエネルギー関連ユーティリティーのサービス向上とスタンダード化を狙ったもので
あり、その動きと並行して、“Good Practice Guidance for Billing for the Electricity Sector” 下の市民会エネルギー
フォーラム(Citizen’s Energy Forum)で策定された。
• 電力とガスと比較して、熱供給は、スタンダード化やスマートメーター化の動きは見られないものの、熱供給が他のエ
ネルギー源と競合する現状から、対顧客のサービスの向上を進めるきっかけとなった。
2. 熱供給における顧客とサービスの特徴
• 顧客:熱供給の顧客は、①個別住宅、②集合住宅、③公的施設、④商業施設に分けられ、提供するサービスは、温
水と蒸気となる。また冷房の場合は、②、③および④への提供はあるものの、①への提供はあまり見られない。
• このような中、①を除く多くの契約は、集合住宅や施設のオーナーと締結されるものであり、電力サービスと異なり、
熱供給サービスの最終顧客は、直接の契約主体ではないことが多い。
• 欧州域内を見た場合、国や地域によって、個別家庭との契約形態は、異なるものの、ハンガリーのように熱供給事業
者が必ずけ別家庭との契約を締結する例、フランスやスウェーデンのように、多くの場合は、集合住宅や大型施設と
の契約という形態をとるものと様々に分かれている。
3. サービス向上の必要性と省エネ促進
• 上記のように、電力・ガスが消費者サービス向上の動きがある中、これまで最終顧客との関係が、比較的弱かった熱
供給事業も、価格競争力のみならず、個々の顧客へのサービスの向上の必要性が高まり、新しい動きが見受けられ
ている。
• また、個人レベルでの熱消費とコストの関係を明らかにすることにより、より省エネ意識を高めることができるとして、
価格を含む契約の透明性などのサーブ巣の向上が図られている。
PwC
225
Section 2 (EU)
12-2: EUの省エネ政策と熱供給(4/9)
- Directive 2012/27/EU on Energy Efficiency
•
•
2020年までにエネルギー効率を20%引き上げる目標を達成するための具体策を盛り込んだエネルギー効
率指令案を採択したが、本指令は、域内のエネルギー事業者に対し最終消費者へのエネルギー販売量の削
減を義務付けることや、加盟国に対しエネルギー効率基準に基づく公共調達を義務付けることなどを柱として
いる。
本指令は、2006年のエネルギーサービス指令が最終消費者のメータリングおよびビリング改善への影響が
限定的であったとの問題意識から、より最終顧客が熱供給関連の情報も含むサービスの内容について強制
力のある指令として策定された。
• (32) The impact of the provisions on metering and billing in Directives 2006/32/EC, 2009/72/EC and
2009/73/EC on energy saving has been limited. In many parts of the Union, these provisions have not led to
customers receiving up-to-date information about their energy consumption, or billing based on actual
consumption at a frequency which studies show is needed to enable customers to regulate their energy use. In the
sectors of space heating and hot water in multi-apartment buildings the insufficient clarity of these provisions has
also led to numerous complaints from citizens.
• (33) In order to strengthen the empowerment of final customers as regards access to information from the
metering and billing of their individual energy consumption, bearing in mind the opportunities associated with the
process of the implementation of intelligent metering systems and the roll out of smart meters in the Member
States, it is important that the requirements of Union law in this area be made clearer. This should help reduce the
costs of the implementation of intelligent metering systems equipped with functions enhancing energy saving and
support the development of markets for energy services and demand management. Implementation of intelligent
metering systems enables frequent billing based on actual consumption. However, there is also a need to clarify
the requirements for access to information and fair and accurate billing based on actual consumption in cases
where smart meters will not be available by 2020, including in relation to metering and billing of individual
consumption of heating, cooling and hot water in multi-unit buildings supplied by district heating/ cooling or own
common heating system installed in such buildings.
PwC
226
Section 2 (EU)
12-2: EUの省エネ政策と熱供給(5/9)
- Directive 2012/27/EU on Energy Efficiency
•
また、省エネポテンシャルの高いCHPおよび熱供給システムの導入を加速する為、熱供給ポテンシャルに関
する計画を積極的に推進するように記されている。
• (35) High-efficiency cogeneration and district heating and cooling has significant potential for saving primary
energy, which is largely untapped in the Union. Member States should carry out a comprehensive assessment
of the potential for high-efficiency cogeneration and district heating and cooling. These assessments
should be updated, at the request of the Commission, to provide investors with information concerning national
development plans and contribute to a stable and supportive investment environment. New electricity generation
installations and existing installations which are substantially refurbished or whose permit or license is updated
should, subject to a cost-benefit analysis showing a cost-benefit surplus, be equipped with high-efficiency
cogeneration units to recover waste heat stemming from the production of electricity. This waste heat could then
be transported where it is needed through district heating networks. The events that trigger a requirement for
authorization criteria to be applied will generally be events that also trigger requirements for permits under
Directive 2010/75/EU of the European Parliament and of the Council of 24 November 2010 on industrial emissions
and for authorization under Directive 2009/72/EC.
PwC
227
Section 2 (EU)
12-2: EUの省エネ政策と熱供給(6/9)
- Directive 2012/27/EU on Energy Efficiency
•
同指令では、2015年末までに、高効率コジェネ及び地域冷暖房システムの導入ポテンシャルについて評価し
たうえで、その内容を欧州委員会に提出することを加盟国に求めている。つまり、それまでの自主的な取り組
みから、より積極的な振興へとスタンスを変化させている。
Article 14 (Promotion of efficiency in heating and cooling)
1. By 31 December 2015, Member States shall carry out and notify to the Commission a comprehensive assessment
of the potential for the application of high-efficiency cogeneration and efficient district heating and cooling, containing
the information set out in Annex VIII. If they have already carried out an equivalent assessment, they shall notify it to
the Commission.
•
欧州委員会に提出する内容(Annex VIII: Potential for Efficiency in Heating and Cooling)は次のとおりで
ある。
a. 地域冷暖房需要の概要
b. 今後10年間の需要変化予測
g. d.の需要を達成するために、e.を実現させる2020
年及び2030年までの政策や戦略
d. 高効率コジェネによって満たされる需要
h. 高効率コジェネと2004年EU指令にて達成されたポ
テンシャル/進捗の割合
e. 追加的な高効率コジェネの可能性
i.
一次エネルギーの推量
f. 地域冷暖房インフラによる省エネの可能性
j.
地域冷暖房への公的支援の推定
c. 地域冷暖房マップ
PwC
228
Section 2 (EU)
12-2: EUの省エネ政策と熱供給(7/9)
- Directive 2012/27/EU on Energy Efficiency
•
メータリングについては、最終顧客が、それぞれの消費量を理解できるよう2016年12月31日までにメーター
を設置すべきとし、その実行を促している。
Article 9 (Metering)
• 1. Member States shall ensure that, in so far as it is technically possible, financially reasonable and proportionate
in relation to the potential energy savings, final customers for electricity, natural gas, district heating, district cooling
and domestic hot water are provided with competitively priced individual meters that accurately reflect the final
customer’s actual energy consumption and that provide information on actual time of use.
(中略)
• In multi-apartment and multi-purpose buildings with a central heating/cooling source or supplied from a district
heating network or from a central source serving multiple buildings, individual consumption meters shall also be
installed by 31 December 2016 to measure the consumption of heat or cooling or hot water for each unit where
technically feasible and cost-efficient. Where the use of individual meters is not technically feasible or not costefficient, to measure heating, individual heat cost allocators shall be used for measuring heat consumption at each
radiator, unless it is shown by the Member State in question that the installation of such heat cost allocators would
not be cost-efficient. In those cases, alternative cost-efficient methods of heat consumption measurement may be
considered.
PwC
229
Section 2 (EU)
12-2: EUの省エネ政策と熱供給(8/9)
- Guidelines on State aid for Environmental Protection and Energy 2014-2020
1. 域内の省エネに対する公的支援のガイドライン策定
•
同ガイドラインでは、熱供給が域内の省エネに貢献するとの立場から、公的支援を適用する対象として熱供
給を含み、加盟各国に対しては、定量的な手法で、省エネ効果について示すように推奨している。
3.4.Energy efficiency measures, including cogeneration and district heating and district cooling
(138) The Union set the objective of saving 20 % of the Union’s primary energy consumption by 2020. In particular the Union adopted the
Energy Efficiency Directive, which establishes a common framework to promote energy-efficiency within the Union pursuing the overall
objective of achieving the Union’s 2020 head line target on energy-efficiency and pave the way for further energy-efficiency improvement
beyond 2020.
3.4.1.Objective of common interest
• (139) In order to ensure that aid contributes to a higher level of environmental protection, aid for district heating and district cooling
and cogeneration of heat and electricity (‘CHP’) will only be considered compatible with the internal market if granted for investment,
including upgrades, to high-efficient CHP and energy-efficient district heating and district cooling. For measures co-financed by the
European Structural and Investments Funds, Member States may rely on the reasoning in the relevant Operational Programmes.
• (140) State aid for cogeneration and district heating installations using waste, including waste heat, as input fuel can make a positive
contribution to environmental protection, provided that it does not circumvent the waste hierarchy principle (referred to in paragraph (118)).
• (141) To demonstrate the contribution of the aid towards an increased level of environmental protection, the Member State may use, as
much as possible in quantifiable terms, a variety of indicators, in particular the amount of energy saved due to better, lower energy
performance and higher energy productivity or the efficiency gains by reduced energy consumption and reduced fuel input.
(中略)
Operating aid for high energy efficient CHP
(151) Operating aid for high energy efficient cogeneration plants may be granted on the basis of the conditions applying to operating aid for
electricity from renewable energy sources as established in Section 3.3.2.1 and only:
(a) to undertakings generating electric power and heat to the public where the costs of producing such electric power or heat exceed its
market price;
(b) for the industrial use of the combined production of electric power and heat where it can be shown that the production cost of one unit of
energy using that technique exceeds the market price of one unit of conventional energy.
PwC
230
Section 2 (EU)
12-2: EUの省エネ政策と熱供給(9/9)
- 加盟国における国内法化の進捗
•
EUでは、省エネ関連の各指令に関し、加盟各国
内の法制化に関する以下の項目の進捗状況につ
いて、2014年8月時点での報告されている。
図表12-4: 2010年策定加盟各国省エネアクションプラン
 Measures addressing electrical
transmission and distribution losses
 Measures promoting high efficiency
cogeneration
 Measures prioritising other high efficiency
generation plants, including wind, PV
 Measures to encourage district heating or
improve its efficiency
 Measures to promote load management
 Measures to promote or develop smart
grids
 Measures addressing the efficiency of the
supply of oil and gas
 Voluntary Agreements encouraging
supply-side savings
 Measures aimed at promoting greater
competition among suppliers
PwC
出典:欧州委員会(2014)
231
Section 2 (米国)
12-3: まとめ
EUの熱供給事業は、省エネ政策の中で、中心的な役割を果たし、最終顧客の省エネ意識向上から省エネ目標
の達成により深く貢献することを目指している。
1. 省エネ指令を中心としたEUと熱供給の関わり
• 2004年のコジェネレーション指令以降、EUでは、省エネの推進のため、熱供給の活用を推進してきた。
•
また、2006年のエネルギーサービス指令までは、加盟各国の自主的な施策が中心であったが、EUの省エネ
目標の達成が危ぶまれる中、加盟各国のエネルギー計画の策定にEUが強く関わることとなり、公的資金の
ガイドライン、エネルギープラン策定のガイドラインなどがEUより発出されている。
2. 顧客サービスの向上から、省エネ意識を高めることを目的とする
•
•
•
電力やガスの自由化に伴い、2006年に制定されたEU指令に従った顧客サービスの向上の動きが活
発化しているが、事業構造の違いから、必ずしも、電力やガスと同じようなスマートメーター化や事業
のスタンダード化が進んでいない。
但し、熱供給事業も、他の熱源との競争上の必要性から、対顧客の活動において、より価格の透明
性や競争力のある価格の設定が必要となっている。加えて、熱供給システム全体の効率化は、経済
性の向上や地球温暖化対策の面からも喫緊の課題となっている。
EU指令が、どのように実施されているかについて、Euroheatは調査を行っているが、これらの複合的
な背景から、熱供給事業では、業界内の自主的な取り組みが始められているが、域内での実施状況
には大きくばらつきがみられる。
PwC
232
Section 2 (EU)
(参考1) Metering and Billingの実態(1/3)
1. メータリング(Metering)による効率化の重要性
• これまでの熱供給事業での効率化は、熱供給側で進められてきたものである。より効率的な熱の回収、熱輸送の手
法改善、技術のスタンダード化などがあったが、顧客の消費行動に関連する効率化の動きは、あまり進められていな
かった。
• 熱供給事業者側から見た場合、システム全体の効率的な運用が欠かせないことから、最終顧客も巻き込んだ形での
効率化のニーズが高まっています。したがって、顧客サイドの情報を、より正確に把握するために、より詳細なメータ
リングを進めています。また、同様のメーテリング改善の要請は、他の熱源(電気、ガス)でのメータリングとの比較で、
個人の最終顧客からも、熱供給サービスの価格透明性が求められるようになっていることから、メータリングの必要
性が高まっている。
• 以下は、加盟国の一部を対象としてEuroheatが調査したメータリングおよび請求(Billing)に関するアンケートの内容
である。
図表12-4:Metering and Billingにかかるアンケート結果(1/3)
デンマーク
フィンランド
Basis: Metered
What is the basis for a Basis: Consumption by
the meter in for
consumption (MWh)
District Heating bill and
and contracted heat
how is it calculated? example kWh multiplied
by the unit price plus demand (peak demand:
annual fee depending heat effect kW or water
on the size of the
flow m3/h), monthly
building or by the
fixed charge for
connected (available)
individual customer
power.
(22% in average; the
Hot water is prepared
smaller building, the
after the meter, there is
higher share). The
only one price for
heating cost in the
heating no matter of
building is then
purpose
normally divided
between the
apartments (also offices
etc.) according to the
floor area (m2) (not on
the responsibility of the
DH company)
PwC
フランス
ドイツ
スウェーデン
Basis: DHW billing
made on cold water
volume and an index
(kWh/m3)
Basis: individual
consumption as
metered by the district
heating company (MWh
or kWh, in some cases
the m³); In cases of
heat allocation, the
basis for the cost
allocation is dependant
on the contract. It must
be based on the floor
space of the flat in m²
(30 to 50 % of total
consumption) and on
the heat allocator
readings (50 to 70 % of
consumption).
Basis: kWh. There are
other items on the bill
(see iii.4) such as fixed
fee etc but in the end it
is the energy that the
customer pays for.
Some suppliers divides
the total consumption
on a year with 12 and
issues a bill for that
every month (not very
usual) and we have
those who measures
actual consumption and
issues bills accordingly
(more common) and
every case in between.
233
Section 2 (EU)
(参考1) Metering and Billingの実態(2/3)
図表12-4:Metering and Billingにかかるアンケート結果(2/3)
デンマーク
フィンランド
Is billing only based on based on consumption based on consumption
consumption, m2 or
and the fixed annual fee (MWh) - based on peak
other parameters such
demand (fixed charge)
as peak demand?
フランス
ドイツ
Fix part based on the based on consumption,
subscribed power,
with the exception
Energy consumption
being heat allocation
based on heat
consumption. There are
amendments which
concern valuable
modifications, revision
of these prices being
contractually planned
every five years.
スウェーデン
based on consumption
- based on peak
demand
How long does a
undetermined deadline. undetermined deadline;
District Heating contract Price can be regulated DH company is allowed
last and are there any
on yearly basis.
to change price if
price amendment
changes in production
clauses foreseen?
costs, in legislation,
circumstances, or the
need to promote energy
saving. Change has to
be informed at least
one month before.
Between 12 and 20
years
undetermined deadline;
contract can be ended
within three month. No
price amendment
clauses.
Fixed cost: 20 – 40%
Variable cost: 60 – 80%
fix part + connection
fee: 35 %
variable part: 65 %
For an example case of
very different
160 kW connected
depending on what
load, 288 MWh
company the customer
consumption the
is connected to. In
average mixed price is general about 20% of
64,27 €, the demand
the price is fixed fee
rate is 31,12 € per kW
and the rest is heat
and the energy price is
energy price
46,98 € per MWh.
Prices are weighted
and do not include
VAT.
How are the tariffs
structured?
PwC
According to our
statistics (prices on
1.1.2010), (prices
include all taxes)
one family house
(building volume 500
m3): • connection fee 3
360 € • fixed price /
year 360 € (28,9%)
• energy price / year
885 € (71,1%) • total
annual cost 1 245 €
234
Section 2 (EU)
(参考1) Metering and Billingの実態(3/3)
図表12-4:Metering and Billingにかかるアンケート結果(3/3)
Where can customers
turn in case of
complaints and are any
contact points
mentioned on the bill?
PwC
デンマーク
フィンランド
フランス
ドイツ
スウェーデン
Danish Energy
Regulatory Authority
(DERA )
billing and information
center (contact given
on the bill); Consumer
Agency or Finnish
Competition Authority
billing and information
center - Local
authorities Association of
customers
billing and information
center - to the courts
(no special institution)
billing and information
center - or customers'
associations. Swedish
DH Ass. introduced a
system called “Reko”.
Every customer to a
company that is Rekocertified can turn to the
Reko Quality board ->
board asseses the
issue and rules
235
Section 2 (EU)
(参考2)フィンランドの熱供給Billの例: Fortum社
•
•
At the moment, there is only a recommendation made by the association. New law of energy services:
same information than the electricity bill.
Once (or twice) a year: separate report on heat consumption (history from previous years, comparison
to other customers), plus estimation of expenses for the coming year. New Energy efficiency service
law requires to send a consumption report (more in the question 1.2)
PwC
236
Section 2 (EU)
(参考2)ドイツの熱供給Billの例
•
•
Based on consumption, with the exception being heat allocation
For an example case of 160 kW connected load, 288 MWh consumption the average mixed price is
64,27 €, the demand rate is 31,12 € per kW and the energy price is 46,98 € per MWh. Prices are
weighted and do not include VAT.
PwC
237
Section 2 (EU)
(参考2)スウェーデンの熱供給Billの例
•
"No rules/regulation -> billing varies from company to company. But on a basic level the bills always
contains one or more of these components:- Fixed fee or price- Heat energy price- Seasonal pricingPrices on water flow through substation- Heat power price"
PwC
238
Section 2 (EU)
12-4: 参考資料
全般
• Euroheat and Power (2011), Good Practice in Metering and Billing
•
Euroheat and Power (2012), Heat Roadmap Europe 2050
•
欧州委員会(2014)、 Report from the Commission to the European Parliament and the Council – Progress
Report on the Application of Directive 2006/32/EC on Energy End-use Efficiency and Energy Services and on
the Application of Directive 2004/8/EC on the Promotion of Cogeneration based on a Useful Heat Demand in
the Internal Energy Market
•
欧州委員会(n.d.)、2020年目標、http://ec.europa.eu/clima/policies/package/index_en.htm
•
欧州委員会(n.d.)、2020年目標、http://www.consilium.europa.eu/uedocs/cms_data/docs/pressdata/en/ec/1453
56.pdf
EU指令
• コジェネ振興指令(2004)、http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32004L0008&from
=EN
•
エネルギーサービス指令(2006)、http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52011PC03
70&from=EN
•
省エネ指令(2012)、http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32012L0027&from=EN
•
省エネに対する公的支援ガイドライン(2012)、 http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELE
X:52014XC0628%2801%29&from=EN
PwC
239
© 2015 PricewaterhouseCoopers Co., Ltd., All rights reserved.
PwC refers to the PwC Network member firms in Japan and/or their specified subsidiaries, and may sometimes refer to the PwC Network. Each member firm is
a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further details.
This content is for general information purposes only, and should not be used as a substitute for consultation with professional advisors.
二次利用不可リスト
報告書の題名:
平成26年度国際エネルギー使用合理化等対策事
業(諸外国における熱供給事業制度に関する調
査)報告書
委託事業名:
平成26年度国際エネルギー使用合理化等対策事
業(諸外国における熱供給事業制度に関する調
査)
受注事業者名:
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
20
27
55
55
頁
図表番号
図表1-2
図表1-4
図表2-1
図表2-2
65
図表2-4
76
76
78
100
100
120
120
146
167
167
182
183
186
203
214
214
218
219
220
231
図表3-1
図表3-2
図表3-3
図表4-1
図表4-2
図表5-1
図表5-2
図表6-1
図表7-1
図表7-2
図表8-1
図表8-2
図表8-3
図表10-1
図表11-1
図表11-2
図表12-1
図表12-2
図表12-3
図表12-4
タイトル
英国における熱供給概要
独立熱消費者保護スキーム認証までのプロセス
ドイツ全土の熱の最終総需要に対する供給熱源別割合
地域熱供給事業者による消費者向け売上(熱量ベース)
熱市場全体に占める導管接続義務の対象需要家からの売上げ
の割合
熱供給普及の拡大
全セクターを含む熱供給利用割合率(2011)
熱供給システムの供給地区(Zone)設定
地域熱供給事業者による消費者向け売上(熱量ベース)
フランス全土の熱需要に対する供給熱源別割合
地域熱供給システム分布図
地域熱供給システムの年間増加量
韓国における地域熱供給の概要
熱需要のために使われるエネルギー源(2011)
熱供給のために使われる熱源
熱供給による熱生産量と接続熱負荷量の推移
熱供給プラント分布
平均熱料金毎の企業割合
オーストリアにおける地域熱供給分布
熱供給におけるエネルギー源構成(2011)
熱供給における熱源構成(2014)
熱供給システムがあるEU域内の都市
EU住宅・商業施設市場における熱供給システムのシェア
2010年策定加盟各国省エネアクションプラン
2010年策定加盟各国省エネアクションプラン
Fly UP