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大阪湾における四角い太陽
大阪市立科学館研究報告 18, 41-43 (2008) 大阪湾における四角い太陽 長 谷 川 能 三 * 概 要 日 の出 時 や日 の入 り時 に太 陽 が大 きく変 形 して見 えることがあるが、この現 象 は広 い意 味 での蜃 気 楼 の一 種 である。特 に太 陽 が四 角 く変 形 して見 える現 象 は狭 義 の蜃 気 楼 である上 位 蜃 気 楼 であり、これま で寒 冷 地 において撮 影 されている。 ところが、2007年 4月 29日 に大 阪 府 泉 大 津 市 から明 石 海 峡 に沈 む夕 日 が四 角 く変 形 している現 象 を撮 影 したので、報 告 する。 水 平 線 から昇ってくる朝 日 や水 平 線 に沈 んでいく夕 1.はじめに 「蜃 気 楼 」とは、下 部 に冷 気 層 (低 温 の空 気 層 )、そ 日 も、このような温 度 の異 なる空 気 層 によって変 形 して の上 に暖 気 層 (高 温 の空 気 層 )がある場 合 に、10km 見 えることがある。太 陽 の変 形 パターンは大 きく2種 類 程 度 先 の景 色 が上 に伸 びたり上 下 反 転 したりして見 え に分 けることができ、一 方 はだるま型 太 陽(写 真1)にな る現 象 である。逆 に 、冷 気 の下 に 暖 気 層 があるときに る場 合 、もう一 方は四 角 い太 陽になる場 合 である。だる は景 色 が下 に映 ったように見 え、「浮 島 現 象 」などと呼 ま型 の太 陽 は下 位 蜃 気 楼 の一 種 であり、全 国 各 地 で ばれる。通 常 、蜃 気 楼 は前 者 のみを指 すが、広 義 には 撮 影されている。 後 者 も含 み、その場 合 には前 者 を「上 位 蜃 気 楼 」、後 これに対 し、四 角 い太 陽 は上 位 蜃 気 楼 の一 種 であ 者 を「下 位 蜃 気 楼 」と呼 ぶ。上 位 蜃 気 楼 は富 山 湾 沿 り、全 国 各 地 で見 られるものではない。インターネットで 岸 や琵 琶 湖 畔 、猪 苗 代 湖 畔 、北 海 道 沿 岸 など限 られ 「四 角 い太 陽 」をキーワードで検 索 したところ、撮 影 場 た地 域 で稀 にしか見 られない珍 しい現 象 であるが、下 所 が明 示 されている場 合 、北 海 道 や南 極 など寒 冷 地 位 蜃 気 楼 は全 国 各 地 で晴 れた日 にはよく見 られる現 の地 名 が書 いてあり、四 角 い太 陽 は寒 冷 地 でしか見 ら 象 である。 れないというのがこれまでの常 識 であると思われる。 2.2007年 4月29日 の状 況 2-1.滋 賀 県 大 津 市・なぎさ公 園おまつり広 場 滋 賀 県 大 津 市 の琵 琶 湖 畔 、なぎさ公 園 おまつり広 場 は、今 や日 本 国 内 では富 山 県 魚 津 と並 ぶ蜃 気 楼 の 発 生 地 である。この日も、天 気 予 報(天 気 、最 低 気 温 、 予 想 最 高 気 温 )から、大 津 で蜃 気 楼 の発 生 の可 能 性 が高 いと思 われた。 しかし、琵 琶 湖 大 橋 と湖 面 の間 隔 に多 少 の変 化 は あったものの、蜃 気 楼 と 呼 べるほどの変 形 は 起 きなか った。 2-2.大 阪 府 泉 大 津 市・汐 見 公 園 夕 方 になっても天 気 が良 かったため、だるま型 に変 写 真 1.だるま型 の太 陽 形 した太 陽 を撮 影 しようと移 動 した。大 阪 湾 は西 に淡 * 大阪市立科学館 学芸課 E-mail:nozo@sci−museum.jp 路 島 が ある た め、水 平 線 に 沈 む 太 陽 を 撮 影 でき る 場 所は限 られている。この日 の大 阪 での日 没 の方 角が真 - 41 - 長谷川 能三 西 より18.2度 北 よりであることから、撮 影 場 所 は明 石 海 峡 から真 東 より18.2度 南 より附 近 で海 岸 に出 ること が可 能 な泉 大 津 市の汐 見 公 園とした。 図 1.汐 見 公 園 と明 石 海 峡 大 橋 の位 置 関 係 しかし、この日は少 し霞がかかっていたため、太 陽 高 度 が低 くなってくるとだんだん太 陽 が見 えなくなってい った。撮 影 は続 けたものの、日 没 時 には太 陽 の姿 を肉 眼 ではほとんど確 認 することはできなかった。ところが、 このと き 撮 影 した 写 真 を 後 日 画 像 処 理 したとこ ろ、日 没 直 前の太 陽 が四 角く変 形 していたことがわかった。 3.太 陽 と明 石 海 峡 大 橋 のケーブルの変 形 肉 眼 でほとんど太 陽 の姿 が確 認 できなかっただけで なく、デジタル一 眼 レフカメラで撮 影 した画 像 も、太 陽 の姿はほとんどわからない状 態だった(写 真2)。 写 真 2.太 陽 がほとんど見 えない元 画 像 (18:40:12) そこで、このカラー画 像 の赤 色 成 分 からモノクロ画 像 を 作 成 し、更 にコントラストを高 めたところ、太 陽 の姿 をは っきりさせることができた。この処 理 を 太 陽 が 沈 むまで の 各 コ マに 施 したとこ ろ、太 陽 が 沈 む 直 前 、四 角 く 変 形 していることがわかった(写 真3の上から3枚 目)。 写 真 3.変 形 しながら沈 んでいく太 陽 - 42 - 大阪湾における四角い太陽 また 、こ の 一 連 の 写 真 を 更 に 詳 しく 見 る と 、明 石 海 は、魚 津 から海 岸 沿 いに10km程 度 北 に離 れた生 地 峡 大 橋 のケーブルの一 部 が太 くなり、不 自 然 なカーブ 付 近 の 景 色 である。このタイプの蜃 気 楼 の発 生 メカニ を描 いていた(写 真 4)。これも蜃 気 楼 により、ケーブル ズムに つ いては 、日 本 海 か ら生 地 付 近 を 通 っ て 富 山 の途 中から上 部が上に伸びて見 えているためである。 湾 に流れ込 む空 気 が、一 部 は生 地 付 近 の陸 地 の上を 通 っ て暖 められ 、海 上 を 通 った 冷 気 の 上 に 暖 気 層 を 作 るという説 が有 力 である。このような空 気 の流 れは、 富 山 湾 の奥 に広 がっている富 山 平 野 への海 風 がベー スになっていると考えられる。 これと 同 じ縮 尺 の 大 阪 湾 付 近 の 地 図 を 、13 5度 回 転 させたの が 図 3である。こ の2つの 図 を 比 べると、湾 の形 状 やその奥 に広 がる平 野 の規 模 が、富 山 と大 阪 で似 ていることがわかる。ただ、大 阪 湾 には、淡 路 島 と いう「蓋 」がついていることが大 きな違 いである。また、 富 山 では湾 の入り口の生 地 付 近に比 較 的 低 地 が広が っているのに対 し、大 阪 湾 では、明 石 海 峡 の両 側 でも 紀 淡 海 峡 の 両 側 でも 、比 較 的 海 の 近 く まで山 が 迫 っ ており、生 地 のように 陸 地 の 上 を 空 気 が 通 るスペース 写 真 4.明 石 海 峡 大 橋 のケーブル(一 部 コントラスト調 整 ) がほとんどないのである。しかし、改 めてこの地 図 をよく 3.大 阪 湾 での蜃 気 楼 発 生 メカニズム 見 てみると、淡 路 島 の中 央 付 近 は山 が低 くなっており、 今 回 、大 阪 湾 で四 角 い太 陽 が撮 影 されたのは偶 然 の要 素 が大 きいが、以 前 から大 阪 湾 で蜃 気 楼 が見 え この部 分 を瀬 戸 内 海 から大 阪 湾 に空 気 が通 れば、淡 路 島の幅は暖 気 層をつくるのに十 分 な距 離がある。 るのではないかと考 えていた。通 常 、蜃 気 楼 は10km そこで、気 象 庁 アメダスのデータを調 べてみると、淡 程 度 先 の景 色 が変 形 して見 える現 象 であるが、この距 路 島 の 群 家 に アメダス の 観 測 点 が あり 、この 日 は 9 時 離 が遠 くなれば冷 気 層 と暖 気 層 の温 度 差 が小 さくても から17時 まで、北 西 ∼南 西 の風 、約 1m/秒 という状 蜃 気 楼 が発 生 する可 能 性 がある。さらに、埋 め立 て地 態 が続 いている。他 に適 当 な気 象 データの観 測 地 点 を通る空 気が暖 気 層を形 成 する可 能 性も考えられた。 がないため、このデータだけから断 言 することはできな しかし、今 回 実 際 に大 阪 湾 で、しかも湾 のまん中 を いが、淡 路 島 を通 った空 気 が、広 く大 阪 湾 に暖 気 層 を 通 る よう な経 路 で 蜃 気 楼 が 観 測 さ れたこ とか ら、大 阪 作った可 能 性は十 分 考 えられる。 湾 での蜃 気 楼 発 生 メカニズムの可 能 性について、改め て考 察 しなおしてみた。 参考文献 図 2は、蜃 気 楼 が見 られることで有 名 な富 山 県 魚 津 市 付 近の地 図 である。魚 津 から見 られる蜃 気 楼の多く 木 下 正 博 ,市 瀬 和 義 「富 山 湾の上 位 蜃 気 楼における発 生 理 由 の解 明」 図 2.富 山 湾 周 辺 地 図 図 3.大 阪 湾 周 辺 地 図 (右 下 が北 ) - 43 -