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自ら問い続け,豊かにかかわり続ける力
研究主題 —自ら問い続け,豊かにかかわり続ける力— 兵庫県小学校教育研究会社会科部会 神戸市小学校教育研究会社会科部 近社研実行委員会研修部 1. 子供たちの「いま」と「未来」 (1)「いま」の子供,社会の「いま」 避難所で高齢者のために働く高校生,被災した町でボランティア活動に励む中学生,スポーツ会 場でごみを拾って帰る青年たち―。誰かに言われたわけではなく,自分の判断で誰かのために動こ うとしている十代の若者たちの姿。SNS を通じて集まった高校生たちは,自分たちなりに「平和 とは何か」を考え,自分なりの方法で声を上げている。 この子供たちは,なぜそのように考え,行動することができるのであろうか。何もないところか ら考えや判断は生まれない。今までの学習の積み重ねによって子供たちのなかに社会的な見方や考 え方が養われていたことで, 「自分に何ができるのか」を考え,行動している子供たちの姿である。 一方,視線を転じると,心の豊かさを疑う言動も目にする。インターネットに溢れる誹謗・中傷。 一方的で無責任なつぶやき。仲間内のはずの「グループ」で頻発するいじめ。子供たちを取り巻く 現代社会とその変化の先にも,課題が山積している。グローバル化による新興国との価格競争,先 の見えない領土問題,東日本大震災を契機としたエネルギー問題,少子高齢化と人口減少―。 (2)子供たちの生きる未来 現代社会が抱える問題に「正解」はなく,問題はさらに多様化・複雑化,そして深刻化していく。 情報化やグローバル化の進展による新しい社会の形に,社会の仕組みが追いつかない場面もより多 くなってくると考えられる。子供たちの生きる未来は,今の常識や専門的な知識を当てはめるだけ では,問いを解決することがより困難な時代となる。 正解のない様々な問いに対するには,一人一人が知恵と知識をもち寄り,よりよい考えを見出し ていかなければならない。知識基盤社会である 21 世紀を生きる子供たちには,「何かを知ってい る」という理解にとどまらず,「何かをできるようになること」が求められている。 未来は,不確実なものである。様々な未知なる問いや簡単には答えられない問いに対しても決し て挫けず,たくましく迫っていける子供たちのために,社会科に託された期待と責務は大きい。 2.未来につなぐ社会科学習(研究主題) (1)新しい自分をひらき,よりよい社会づくりをめざす 未来に生きる子供たちに必要な力を育むことは,私たち教師の使命である。では,どのような子 供であれば,確かな力をつけた姿といえるのであろうか。私たちは議論を重ねるなかで,次のよう な子供の姿をめざしていくことを確認した。 ◎社会に興味・関心をもち,自ら進んで考える続ける子 ◎友達とかかわり,様々な見方や考え方に気付く子 子供は,問いの姿勢をもつことで学び始める。興味をもって問い続けることが主体的な学びの姿 となり,子供の多様な個性や能力を伸ばしていくこととなる。 また,自分一人だけではなく,自分の考えを友達に伝えたり,友達の考えを聞いたりすることで 自分の考えと比べたり,まとめたりする姿も目指す。友達の様々な見方や考え方に気付き,豊かに かかわってこそ,自分の考えも膨らみ,成長していくものと考えている。 さらに,このような学びを積み上げていくことで,次のような子供に成長していくと考えた。 ◎人と人とのつながりに目を向け,地域社会に愛着と誇りをもつ子 ◎人の生きる姿に学び,社会の一員として考える子 社会科は「人に学ぶ」学習ということができる。「いま」の自分のくらしが「誰か」によって支 えられていること,つまり,人と人とがつながり,社会を形成していることを考えることは,未来 に生きる子供たちに「よりよい社会」をつくりあげていく力になると考えている。そして,地域に 愛着をもち,「ふるさと」として誇りをもてる子供たちになっていってほしいと考えている。 また, 「人に学ぶ」社会科であるからこそ, 「人の生き方」そのものに学ぶことがある。自分の仕 事に誇りをもち努力し続ける人,公害を語りどこよりも環境を大切にしている人々,家族を思いな がら戦争で命を落とした若者―。人の生きる姿を他人事としてとらえるのではなく,自分も社会形 成の一員である自負と誇りをもち,ともに支え合い,高め合うことで,よりよい社会づくりを目指 す人になってほしいと考えている。 これらのことから,目指す子供像を「新しい自分をともにひらき,よりより社会づくりをめざす子」とし た。「新しい自分をともにひらく」とは,自ら問い,人とかかわり続けていくなかで,未来の「新 しい自分」へと「ともに」つないでいこうとする子供の姿である。「ひらき」とは,未来に向かっ て豊かなかかわりを広げる「開き」,自分自身の生き方や考え方を問い続ける「啓き」,自分と地域 の未来を切り拓く「拓き」を意味している。「よりよい社会づくりをめざす」とは,社会科学習を 通して個人や社会の多様性に気付き,それらを尊重し,よりよい社会づくりに主体的に参画しよう とする子供の姿を目指すものである。 (2)「未来につなぐ」ということ ここまで述べてきたように,子供たちを取り巻く社会情勢を考えると,楽観的に考えられる未来 ではない。しかし,確かな力を身に付けた子供たちなら,未来の様々な問いにも立ち向かうことが でき,自分たちの未来を自分たちでつくり上げていくことができると考えた。つまり,社会科の学 習で力をつけることは子供たちの未来につながっており,それこそが社会科を学ぶ重要な意義であ ると私たちはとらえた。そこで,研究主題を「未来につなぐ社会科学習」と設定した。 「未来につなぐ」とは,子供たちの主体的な意識を意味している。誰かがひらいてくれる未来で はなく,一人一人が力をつけて,自らが未来へつないでいこうとする資質や能力の育成を目指すも のである。それとともに,教師の意識も意味している。子供たちを未来へと確実につなぐこと,そ のための様々な力を子供たちにつけることも,教師の責務ととらえ,研究主題とした。 3.自ら問い続け,豊かにかかわり続ける力(研究の視点) (1)自ら問い続ける力 未来に生きる子供たちの力となる学習の姿とは,どのようなものなのだろうか。私たちは,「未 来につなぐ社会科学習」で子供たちに身に付けたい力とは何かを繰り返し議論をしてきた。おもな 考えとしては,次のような意見である。 ○社会的事象に対して自分から疑問をもち,主体的に問い続けることのできる力 ○事実を丹念に読み取り,自分なりに考え続けることのできる力 子供たち一人一人がじっくりと自分の頭で考えるためには,社会の出来事に対して自分のことと してとらえることが重要である。そのためには,子供が自ら考えようとするだけの「問い」が絶対 に必要である。浅い思考で安易に物事を判断するのではなく,問い続けることで深まりのある新た な「考え」が生まれ,そしてまた新たな「問い」へと発展していく。主体的に問い,自分なりに調 べ,考えるからこそ,「考える力」も身に付いていくことになる。 事実をとらえ,自分なりに問い,考え続けていくことが,未来に生きる子供たちの力となる。つ まり「自ら問い続ける力」が求められるのである。 考える力を培うことは,調べる力や表現する力などの能力を同時に高めていくことでもある。自 ら問い続けることは,「未来につなぐ社会科学習」となると考えた。 (2)豊かにかかわり続ける力 さらに,次のような意見も出された。 ○新しい考えと出会い,比べたり統合したりすることでよりよい考えへと深化させてい くことのできる力 ○より広い視野から調べたり,考えたりすることのできる力 社会科の目標は,「公民的資質の基礎」を養うことである。公民的資質の基礎を養うためには, 社会的な見方や考え方を養うことが重要である 社会には様々な立場の人がおり,それぞれの考えをもっている。それは正解・不正解と安易に分 けられるものではなく,それぞれの人によってとらえ方が違ったり,変化したりする。単純に他者 の意見に流れたり,簡単に他者を批判したりするのではなく,人と人とのかかわりを大切にするな かで「なぜとらえ方が違うのか」を問うことが重要である。そして,自分の考えと他者の考えを比 べたり,違いについて考えたりすることで,新しい気付きに達することにもなる。 自分なりの考えを表現したり,友達と考えを交流したりすることも, 「豊かなかかわり」である。 子供たちには,多くの人と「豊かにかかわり続ける力」を育むことも,様々な刺激を受けて自分自 身の生き方を問い直すことになると考えた。 (3)2つの力の関連 これらの力は不可分であり,必ずお互いに影響しあっている関係にある。一人一人の学びがあっ てこそのかかわり合いであり,豊かにかかわってこそ個が育つのである。つまり,社会科学習のな かで,「自ら問い続ける」ことと「豊かにかかわり続ける」ことがきちんと織りなされることが特 に重要であると考えた。そこで,研究の視点を「自ら問い続け,豊かにかかわり続ける力」と定めた。 「自ら問い続ける」という主体的な態度は,「豊かにかかわり続ける」という積極的な行動を生 み出す原動力となる。子供が多くの人と豊かにかかわり,様々な考えや生き方に心を動かしていく なかで,自分がどうあるべきかという自問を繰り返す。そして,自分自身もよりよい社会の一員と しての自覚をうみ,自らもよりよい社会づくりをめざす態度をもち続けると期待している。 私たちは,遠大に思える「未来」に向かいつつ,目の前にいる子供たち一人一人と 45 分を一単 位として向き合い続けなければならない。それこそが,子供たちの明るい未来につながっていると 信じて,一人一人の力を確実につけなければいけないのである。 子供たちに,社会科の学習を通して自ら問い続け,豊かにかかわり続ける力を育んでいくことに より,新しい自分をひらき,よりよい社会づくりをめざしていく,そんな子供の育成を目指す社会 科学習の在り方を,より具体的に考えていきたい。 研究主題 未来につなぐ社会科学習 研究の 視点 自ら問い続け,豊かにかかわり続ける力 めざす 子供像 新しい自分をともにひらき,よりよい社会づくりをめざす子 4年 3年 1・2年 課 題 Ⅰ 子供の追究が響きあう「問題解決的な学習」 ○疑問から生まれる一人一人の学習問題 ○考えが深まる学習過程 Ⅱ 学びを深める指導と評価 ○思考を促し判断・表現に導く発問や 板書・ノート指導の工夫 ○学びを見取りよりよい指導につなぐ評価 Ⅲ 子供と社会をつなぐ教材開発 ○社会を見る目を育てる教材と単元構想 ○子供の追究を支える資料 Ⅳ 自校プランと実践の共有化・財産化 ○ふるさとへの愛情を育む地域力の活用 ○4年間を見通した指導計画 人 の生きる姿 に学び、社会 の 一員として考 える子 学年別研究主 題 5年 践 人と人とのつながりに目を向け、地域社会に愛着と誇りをも つ子 友達とかかわり、様 々な見方や考 え方 に気付く 子 社会 に興味 ・関心をもち、自ら進ん で考 え続 ける子 6年 実 想像力を働かせて調べ,我が国のあゆみや文化遺産への理解を深め, 国際社会で共に生きることの大切さを考える 資料を的確に駆使して調べ,産業の発展と暮らしを支える人々の営みに 心を動かし自分の生活と関連付けて考える 様々な資料から視点をもって調べ,人々の生活を維持・向上するための働き を実感し自分と地域社会のつながりについて考える 体験的な活動を通して調べ,人々の仕事や生活の様子について発見し, 身近な地域の特色や良さを考える 身近な人々と繰り返しかかわり,まちや自分の良さに気付き, できることをみつけよりよい生活を送ろうとする