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美容家電による脅威と新たな事業機会 - Nomura Research Institute
11 年初夏特別号 美容家電による脅威と新たな事業機会 ~化粧品メーカーの新たな成長ドライバー~ 株式会社野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 副主任コンサルタント 川元 麻衣子 1.美容家電市場の現状と今後 1)拡大が見込まれる美容家電市場 近年、美容効果を訴求した家電、美容家電の市場が盛 り上がりをみせている。美容家電市場では、大手家電メー カーを皮切りに参入メーカーが相次ぎ、商品ラインナップ やチャネルが多様化している。 美容家電市場は、美容関連市場(スキンケア化粧品の 市場、およびエステなどのサービス市場)や家電市場と、 製品や提供機能が類似しており、両市場と競合する市場 と捉えることができる(図1)。 ゴリーに整理できる(図2)。アンケート結果をもとに、美容 家電市場の規模を推計すると、11 カテゴリー中、市場規 模が最も大きいのは、「高機能ドライヤー」である。これは、 スチームやイオンなどの噴出機能を有するドライヤーを指 し、2010 年の市場規模は約 410 億円と推計される。 美容家電市場全体では、保湿効果を訴求する製品ライ ンナップが急拡大しており、「高機能ドライヤー」の他に、 据え置き型の「保湿スチーマー」(市場規模約 150 億円)、 ハンディタイプの「保湿美顔器」(同約 80 億円)などのカテ ゴリーの成長が著しい。 図2 美容家電のカテゴリー 効果・機能 保湿 図1 美容家電市場および周辺市場 顔 (410億円) •スキンケア化粧品 (メイクアップ化粧品は除く) •エステ、美容室などサービス 家電市場 部位 美容関連市場 •白物家電 •AV家電 … 髪 (500億円) 引き締め 保湿スチーマー 引き締め・スリミング 保湿美顔器 汚れ除去 毛髪スタイリング クレンジング・ 毛穴ケア まつ毛・まゆ毛・ うぶ毛ケア 頭皮ケア ヘアアイロン 角質ケア 脱毛・除毛(女性用) 保湿効果を訴求 高機能ドライヤー 全身 (310億円) :市場規模100億円以上 引き締め・スリミング :市場規模50億円以上100億円未満 :市場規模50億円未満 美容家電市場は、2010年に約1,200億円規模 国内の美容関連市場と家電市場は、普及が一巡してい るためほぼ飽和状態にあり、ともに近年の売上は横ばいま たは減少している。一方、美容家電市場は、ここ2、3年で 急速に拡大し、2010 年の市場規模は約 1,200 億円に上る と推計される。今後も拡大を続け、2013 年には市場規模 は 1,540 億円に到達するとみられる1。 美容家電市場の拡大に伴い、化粧品など美容関連市 場の一部が侵食される可能性がある。本稿では、美容家 電市場を洞察し、化粧品メーカーにとっての脅威および 事業機会を分析する。 2)美容家電市場の定義・分類 美容家電は、利用対象部位と機能によって、11 のカテ 1 NRI では、2010 年 11 月に、全国の女性 1,000 名を対象に、「美容家 電と育児サービスに関するインターネットアンケート」を実施した。 3)美容家電の利用者像 先述のアンケートより、現在の美容家電所有者は、2つ のセグメントに大別される。 ①富裕層 一か月の可処分所得が 10 万円以上の消費者を指す。 年齢は 20~50 代と幅広く、就労形態は、主に共働き夫婦 や専業主婦などである。 ②美容への意識が高い層 主に 20~30 代で、可処分所得が月に3~5万円程度 の消費者が多い。就労形態としては、派遣・契約社員のケ ースが多い。 今後美容家電の利用者の裾野は、一か月の可処分所 得が7~10 万円の消費者や、美容への意識が高い 10 代、 40 代消費者へと拡大するとみられる。美容家電のカテゴリ ー別にみると、「保湿スチーマー」、「保湿美顔器」などに 加えて、今後は「クレンジング・毛穴ケア」や「頭皮ケア」な ど汚れ除去を訴求する製品の購入意向が高まっている。 -1- 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyrightⓒ2011 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 11 年初夏特別号 2.美容家電市場の周辺の市場に対する影響 1)化粧品メーカーにとっての脅威 美容家電市場はスキンケア化粧品・エステ市場といっ た美容関連市場と競合しており、これらの市場を侵食する 可能性がある。スキンケア化粧品市場とエステ市場をみる と、両市場は相互に影響し合っており、過去にエステ市場 が減少した際には、高価格帯のスキンケア化粧品市場の 拡大が観察されている。 アンケート結果より、下記3点が想定される。 ・ 2013 年の単年でエステ市場が約 70 億円分、スキン ケア化粧品市場が約 90 億円分、それぞれ美容家電 市場に侵食される。 ・ すでに美容家電を所有している利用者は、美容家 電の購入によってマッサージクリームやパックなどの 購入金額が減少している(図3)。 ・ 今後新たに美容家電を購入する消費者は、美容家 電の購入に伴い、化粧水や乳液の購入金額を減ら す意向がある。これらの消費者は、美容への投資予 算を一定金額に限っており、美容家電を購入するた めに、化粧品への投資を抑制する。 化粧品市場は、人口の減少などにより国内市場の自 然減が見込まれる。さらに、美容家電市場による市場の 侵食は、化粧品メーカーにとってさらなる脅威となるだ ろう。 図3 美容家電購入に伴う スキンケア化粧品利用金額の変化 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 55.4 37.8 フェイスエステ(n=74) 6.8 クレンジング剤(n=321) 5.9 89.7 4.4 洗顔料(n=363) 7.4 87.3 5.2 化粧水(n=350) 7.1 乳液(n=276) 9.1 85.1 5.8 10.2 81.9 7.9 美容液(n=254) マッサージクリーム(n=124) ジェル(n=110) マスク・パック(n=170) 85.1 66.1 23.4 19.1 22.4 減少 そのまま 7.7 10.5 72.7 8.2 67.1 10.6 増加 2)化粧品メーカーにとっての事業機会 以上のように、美容家電市場はスキンケア化粧品市場 を脅かす。しかし同時に、美容家電は化粧品メーカーにと って新たな事業機会を創出すると捉えることもできる。 例えば、化粧品メーカーは、美容家電との相乗効果で 効果を高めることができる専用の化粧品を開発し、それら を組み合わせて販売することが考えられる。アンケートに おいても、美容家電購入意向者の3~4割が、「美容家電 を利用する際に専用の化粧品を併用したい」と回答して おり、美容家電専用化粧品に対するニーズは一定数存在 している。この傾向は、すでに美容家電を所有している層 よりも強い。 3)美容家電専用化粧品による期待効果 化粧品メーカーが、美容家電と専用化粧品の併売によ って得る期待効果として、下記3つの効果があげられる。 ①チャネルの拡大 化粧品メーカーは、家電量販店、バラエティショップや インターネット通販など、現在販売比率が高くないチャネ ルでの拡販が可能となる。これまで、自社販売店との関係 を考慮して、インターネット通販への参入を躊躇する企業 が多かった。しかし、美容家電専用の化粧品をインターネ ット通販専用の商材と位置付けることで、インターネット通 販に本格的に参入するきっかけとなるであろう。 ②グローバル市場での競争力向上 美容家電は日本ならではの商材である。日本で美容家 電を購入する外国人も多く、とくに、米国、フランス、中国、 韓国などからの観光客に人気が高い2。このため、家電量 販店の中には、美容家電のコーナーに外国人の従業員 を配置している店舗もある。近年、化粧品メーカーは、海 外展開を積極的に推進しているが、日本ならではの商材 である美容家電と専用化粧品を組み合わせて販売するこ とで、グローバル市場での競争力向上が期待できる。 ③顧客接点の拡大 美容家電をインターネットに接続することによって、化 粧品メーカーは顧客のデータをリアルタイムに収集するこ とが可能となる。これまで、化粧品メーカーは、販売店チャ ネルを介した販売の割合が高く、インターネット通販を大 規模には行っていないため、顧客に関する情報は POS デ ータなどに依存してきた。このため、顧客の肌の様子や実 際の化粧品の利用状況の把握や、真のニーズの掘り起こ しは難しかった。美容家電のインターネット接続は、これら を可能にし、来店促進や効果的な製品情報の提供を可 能とする突破口となりうる。 現在、化粧品メーカーの多くは、事業の拡大を目指す も、強力な打ち手を見出だせずにいる。このような中、美 容家電は、数少ない「成長ドライバー」として、化粧品メー カーの飛躍の糸口となる可能性を秘めている。 2 家電量販店の店頭ヒアリングより -2当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyrightⓒ2011 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.