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マンションの長期修繕計画・大規模修繕工事の変遷と今後の課題

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マンションの長期修繕計画・大規模修繕工事の変遷と今後の課題
総 説
関
東
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院
大
学
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マンションの長期修繕計画・大規模修繕工事の変遷と今後の課題
The transition of the Long-term maintenances Planning and Large Renovation of Condominium, these future tasks.
田辺 邦男*
Kunio Tanabe
1 .はじめに
集合住宅がマンションという名称で分譲され始めて
の様々な問題が顕在化することが予測される。
・マンションを取り巻く社会環境
から既に50年が経過している。賃貸住宅と異なり,分
近年,
「マンション再生」をテーマとした論議が活発
譲マンションは区分所有されているため,その維持管
に行われている。この「再生」には二つの考え方があ
理は全て所有者が協力しながら自らの手で行っていか
り,一つは「建替え」によるもの,他は「いかに長持
なければならない。所有する建物を維持管理するとい
ちさせるか」の長命化を図る考えである。また,これ
う行為は戸建て住宅ではあたりまえであるが,複数の
らに関する法制度もここ10年の間に急速に整備されて
所有者(個人)が 1 つの建物を共同所有・管理する例
いる。2000年には「マンション管理適正化法(略称)」
はマンションを除いて数少なく,その歴史も浅い。
が制定され,分譲時における「長期修繕計画」の策定
維持管理のためには当然さまざまな費用が必要とな
を規定,01年には「品確法(略称)」により登録制で
る。これらの中には日常的に行われる管理に要する費
はあるが,建物各部位の品質を確保する性能保証が定
用と,定期的に行われる修繕工事のための費用がある。
められた。更に08年には「長期優良住宅促進法(略称)
」
分譲マンションではこの修繕工事のための費用を積立
が制定され,ここではマンションもその耐用に200年
金として,日常管理の費用とは別会計として扱ってい
が求められる状況がにわかに出てきた。これらの法律
る。この修繕積立金の徴収根拠を長期修繕計画に求め
は,いずれもマンションの長命化を図ることに関連し
ており,これにより計画的な修繕工事が行われる。
たものであるが,現実には既存マンションでの適用に
計画修繕工事の中でも特に大規模修繕と言われるも
は問題点も多い。
のは,住まいながらの工事であり,これらの工事が始
一方,マンション建替えに関しては「建替え円滑化
まった20数年前は,居住者も工事の施工者も初めての
法(略称)」が02年に制定された。これにより老朽化
経験であった。この間,試行錯誤を繰り返しながら,
したマンションを円滑に更新するための法整備がなさ
当初の単にお化粧直し的な,初期性能の回復という目
れたと言われるが,現実には高齢者居住の問題もあり,
的から,建物の耐久性・住性能の向上,更に,屋外を
過去20数年間に建替えが行われたものは全国でも110
含めた居住環境の改良・改善へと変質してきた。
数棟に満たないもので,一部の条件の良いものに限ら
問題は,これらの大規模修繕を含めた維持・管理を
どのように行っていくかが,管理組合にとって大きな
れている。
このような状況から,今や「マンション再生」は,
課題となっている。特に,多額の費用を要する大規模
いかに長命化を図るかが大きな課題となっており,こ
修繕工事(建物・設備)では,取り組むべき課題が山
のためのさまざまな具体的手法と提案が求められてい
積している。マンションの維持管理は「長期修繕計画
るが,資金計画面での現実と理想の乖離は大きく,特
と修繕積立金」により支えられており,修繕費の累積
に小規模な高経年のマンションでは困難な状況にある
に対し積立金の資金計画が対応できるかがポイントと
ものが多い。
なる。同時に,今後は高経年マンションで維持管理面
本稿では,過去20数年間に行われてきたマンション
の維持管理の中で,その主要内容である長期修繕計画
*
と大規模修繕工事の変遷を取上げ,また,今後の課題
Department of Architectural Environmental Enginee-
について概説する。
技師,建築設備工学科
ring, Kanto Gakuin University
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建築設備工学研究所報 No.32
2 .マンションの長期修繕計画の変遷
2 .1
分譲マンションストックの現況
2 0 0 9 . 3
2 年後の2010年には20年を超えるものは215万戸,そ
の内30年を超えるものは100万戸に近づく状況にある。
わが国での最初の分譲マンションは,民間では1956
前述のように,建替え円滑化法の施工,区分所有法
年の四谷コーポラスといわれている。5 階建て28戸の
の改正等により,建替えに関する論議が盛んになって
比較的小規模のものである。これより早く東京都が分
いるが,現実には建替えは様々な問題を抱えており,
譲した宮益坂アパートは11階建てで公的分譲の第 1 号
困難なマンションが多い。建替えが不可能な市街地型
となる。また,同時期の1955年には日本住宅公団(現
の高層マンション等では,建物をいかに長持ちさせる
在の都市再生機構)が設立され,団地型の分譲マンシ
か(長命化)と,経年により住宅としての機能が陳腐
ョンが首都圏で売りだされた。分譲マンションの供給
化してくるマンションを,どのように再生させるかが
が本格的に始まったのは1960年代の前半からで,この
課題となっている。
時期のものが第 1 次マンションブームと言われている。
その後1990年代後半のものを第 6 次ブームとしている
が,年代別の供給戸数を見ると1988年以降は着工統計
2 .2
マンションの経年劣化への対応
( 1 )マンションの経年劣化と計画修繕
を見る限り一時期を除いて毎年の供給戸数は15万戸を
一般的に建物の傷みは経年に比例する。経年による
超えている。地域による差もあるが供給戸数は以前の
建物の傷みに対応するためには,定期的な「手入れ」
2 倍以上の年もあり,2008年の段階では全国で528万
が不可欠である。これが「計画修繕」と言われるもの
であり,この計画修繕を一定の時期に集約したものが
戸を超えるストックとなっている。
また,1998年に行われた住宅・土地統計調査による
「大規模修繕工事」となる。当然これらの工事を行う前
と,首都圏の大都市部(京・浜・葉)では共同住宅が
には,傷みの程度・不具合箇所を発見し,その原因究
半分以上を占めており,今やマンションが都市型住宅
明と対策についての検討が必要となる。その結果で「手
として完全に定着したことを示している。
当て」
(処置)の方法が決められる。これらの一連の行
一方,これらのマンションを経年でみると,2000年
為が「建物診断」で,建物の状況・診断の目的に応じ
の時点で全ストックの 6 割が10年を経過し,20年を超
て,健康診断的なものから精密調査まで,建物診断の
えるものが全体の 1 / 4(約100万戸)となる。これが
グレードはいくつかに分けられている。
図−2 . 1
マンションの築年数別ストックの推移と社会的背景
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ラペット立上り・天端廻りの傷み。
マンションの大規模修繕は,10年を経過する前後か
ら外壁・屋根防水等を中心に始まり,15年を超えると
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,
バルコニー・開放廊下等の床防水:これらの部位
設備関係がこれに加わってくる。更に,20年を超える
は,通常コンクリート直仕上,または防水モルタル
と,第 2 回目の外壁等の他,設備を含めた様々な大規
程度で本格的な床防水層を持つ建物は極めて少ない。
模修繕の波が押し寄せ,そのピークは24年∼36年の間
そのため,これらの劣化による下階への雨漏りの発
と推測される。これらに要する修繕費用はかなり多額
生,上げ裏の傷みが問題となる。
となり,特に,設備関係の機器・配管更新,エレベー
ターの更新は高額なものとなる。また,中層階段室型
のものでは,高齢化対策としてエレベーターの新設等
バリアフリー化も課題となっている。
( 2 )建物の物理的老朽化と相対的老朽化
マンションの老朽化には,年を経ることにより起き
てくる建物を構成する各部材と,各種の設備(給水・
排水設備他)機器の傷みがある。これらの傷みは「物
理的老朽化」と言われる。また,建物の老朽化にはも
う一つの現象がある。10年ひと昔と言われるように,
人々の生活水準の向上によりマンション(建物)の住
図−2 . 2
外壁廻りのコンクリートの劣化・亀裂
宅機能が対応しきれなくなるもので,これを「相対的
老朽化(または社会的老朽化)
」と言っている。
具体内容としては各種設備機能の低下の他に,建物
の耐久性・耐震性の問題,高齢化に伴うバリアフリー
対策,防犯・セキュリティー等が上げられる。これら
に対しては前述の物理的老朽化への対応に併せグレー
ドアップ化の検討が求められている。
( 3 )建物・設備の物理的老朽化の具体内容
a . 建物構造体の傷み(鉄筋・コンクリート部等躯体)
)
鉄筋露出現象:コンクリートのカブリ厚不足によ
る鉄筋の錆発生とコンクリートの剥離。
*
図−2 . 3
外壁コンクリ−トの劣化・モルタルの浮
き・剥がれと鉄筋露出現象
図−2 . 4
外壁・バルコニ−手摺廻りのタイル劣化・亀裂
コンクリートの収縮(乾燥・温度変化,打ち継ぎ
部・コールドジョイント)によるひび割れ。
:何らか
の構造的原因によるひびの発生,)の鉄筋露出との
複合作用によるひび割れ。
b . 仕上材の傷み(外壁仕上材,屋根・床等の防水材)
)
外壁仕上材の傷み:風雨の影響によるもの(汚れ
変色,退色,・浮き・フクレ・剥がれ)
。モルタル・
タイル等の浮き,剥離,落下の問題。
*
鉄部・金物類:風雨の影響による,塗膜の劣化・
錆の発生。コンクリートへの埋込部廻りの錆による
劣化,雨水の浸透が原因。経年による金物類の劣化,
一定の時期に更新が必要。
+ 屋根防水:屋根防水の仕様によって,劣化(傷み)
の状況はかなり異なる。露出防水表層材の傷み。パ
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建築設備工学研究所報 No.32
図−2 . 5
2 0 0 9 . 3
図−2 . 8
屋根防水廻りの劣化状態
玄関扉、階段室床廻り金物の劣化
c .設備機器・配管の傷みと機能の陳腐化
設備機器・配管等の傷みの度合い(耐用年数)は,設
置されている場所(屋内・屋外・地下・水中)
,用いら
れている材料(配管・配線等)
,使用頻度,日常のメン
テナンス等の状況と密接に関連する。したがって,耐
用年数も状況によりかなり異なる。一般的に建物の仕
上材と異なり,目に見えない箇所にあるものが多い。
)
給・排水設備機器と配管の傷み
給水配管の劣化は赤水に代表される。配管内部の錆
び発生が原因であるが,水量の低下,更に進行すると
錆びにより漏水の危険もある。給水管の更新等は日常
図−2 . 6
庇・バルコニー上げ裏廻りの劣化
生活を営みながらの工事であるため,実施時には十分
な検討が必要であり,また,専有部分(住戸内配管)
については費用負担の問題がある。排水管の傷みは,
直接漏水事故につながることが多い。排水管は下階天
井裏に配管されているものもあり,修繕・配管更新に
様々な問題が発生する。
今までのマンションの給水方式は,1 棟型市街地マ
ンションでは高置水槽方式,団地型マンションではポ
ンプ圧送方式が主流であった。これらの給水設備には
水槽の他ポンプ設備,関連する制御機器が設けられて
いるが,当然,一定の期間でのオーバーホール,更新
を必要とする。この機器の更新も内容によりかなり高
額の費用を要する。したがって,近年では給水方式を
受水槽・高置水槽を必要としない直結増圧方式に変換
図−2 . 7
バルコニ−手摺金物廻りの劣化状態
するマンションも増えている。
*
消火設備・防災設備
消火設備は高層マンションに設けられており,連結
送水管,屋内消火栓設備等が設置される。設備の具体
内容は消火管・送水口・消火栓箱の他,ポンプユニッ
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TV共聴設備も,各住戸で視聴するチャンネルは多様
化しており,テレビに要求される性能は視聴者間でか
なり開きが生じている。地上デジタル放送が開始され
るなどテレビのサービスも多様化・高度化している。
したがって,従来のアンテナや付帯機器の経年劣化
による部品交換・更新のみでは対応できず,設備機器
の陳腐化現象がここでも著しく,テレビ共聴設備シス
テムを全面的に改善していくことが課題となる。
-
高層住宅のエレベーター設備
エレベーター設備の保守契約にはF・M(フルメン
テナンス契約)と P・O・G 契約があり,また,昇降機
図−2 . 9
給排水管、設備機器の劣化状態
定期検査が法定検査として義務付けられている。日常
的なメンテナンス契約は予防保守契約ともいわれ,エ
レベーターを良好な状態で維持するためのもので,機
ト・制御盤,非常電源等の電気設備であり,マンショ
械や装置の点検・調整を行い,事故や故障が発生する
ンの計画修繕の対象となる。これらの設備は点検整備
前に機器の劣化を予測し,部品の修理や交換等を行う
が法律上義務付けられているが,経年による劣化は避
ものである。しかし,エレベーターの籠本体や出入り
けられず,特に屋外の埋設消火管の劣化,消火栓箱の
口廻り枠の塗装等は対象外となっており,これらは定
錆びによる損傷,消火ホースの経年劣化が見られる。
期的な計画修繕の対象となる。また,エベーターの機
防災設備は,消火設備と連動している自動火災報知
器を含めた全面更新も20∼30年の間に必要となり,更
設備や非常照明,警報設備,非常コンセント,誘導灯
などであり,これらも計画修繕の対象で,定期的な更
新には高額な費用を要する。
近年,エレベーターには様々な機能・性能が付加さ
新が必要となる。
れ,その性能は著しく向上している。地震管制運転装
+
置,火災管制運転装置などであるが,これらの機器更
電気設備関係
電気容量の問題が大きい。古いマンションでは従来
新以外に昇降システムを変更する(油圧式からマシン
の20 A ∼30 A の容量では,家電機器の普及・増大,パ
ルームレスに)ものもある。更に,エレベーター更新
ソコン等の使用による電気容量の不足,更に,近年の
の際にはバリアフリー化への対応などを含め改修を行
情報機能の高度化への対応が問題となっている。その
ったものもある。
ため50 A ∼60 A に増量することになるが,電灯幹線の
改修が必要となる。現状では電灯幹線の改修は,経年
劣化による場合よりも幹線容量の増設に伴う場合が一
般的となっている。
,
情報通信設備,TV共聴設備
従来のマンションの情報設備といえば,電話機器と
TV共聴設備,住戸完結型のインターホン設備程度のも
のであった。しかし,近年の住宅設備の進歩・普及は
めざましいものがあり,特に,情報通信設備の性能は
著しく進歩している。したがって,従来の通信設備の
陳腐化は避けられず,現在の水準に対応したマンショ
ン全体の設備改修が求められており,そのための電話・
インターネットの整備,インターホン設備等の情報通
信設備の性能をグレードアップ化する必要に迫られて
いる。
図−2 . 10
受変電設備廻りの状態
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検や受水槽,高置水槽の清掃は定期的に行うことが義
務付けられているものが多い。排水管の清掃も定期的
に行う必要がある。通常,管理会社やメンテナンス専
門会社に委託される。
*
修繕工事と計画修繕
修繕工事は,日常管理で行われる小口修繕,及び事
故修繕と,計画的に一定の周期で行われる計画修繕に
分けられる。
小口修繕などは部分的な修繕・取替えのため工事費
は比較的低廉。これに対して計画修繕は一定の時期を
予測して行うもので「どのような部位を,いつ,どの
図−2 . 11 エレベ−タ−機器、消火設備廻りの劣化状態
ような方法で行うのか」という検討が必要となる。一
斉に行われる修繕工事で,当然,工事費も多額になり,
資金的な裏付けが必要で事前の準備も欠かせない。こ
2 .3
マンションの維持管理
の計画修繕をまとめたものが長期修繕計画と言われる
( 1 )マンションの維持保全の体系
もので,短期的に繰り返し行われるもの,十数年の周
分譲マンション維持保全のための行為を,その内容・
期で行われる中期的なもの,20∼30年に一度の長期的
性格によって大まかに分類すると「表−2 . 1」のように
なものに分けられる。当然,大規模修繕もこれらに含
なる。この表では分類と同時にその範囲と主要な項目
まれる。
を,また,それぞれが一般的にどのような費用で賄わ
+
環境整備としては外構(屋外工作物,道路,駐車場,
れているかを示している。
)
屋外等の環境整備
日常管理(建物点検,設備点検・清掃)
駐輪場,プレイロット等)と,造園関係が対象となる。
日常管理の中での保守・点検は,現実には設備関係
大規模な団地型マンションの場合は対象項目は多岐に
の占める割合が大きい。これらの事故・故障は日常生
わたる。アプローチ道路,駐車場,駐輪場等の増設・
活への影響が大きいことにある。また,設備関係の点
更新,用途変更等,設備関係を含め様々な内容となる。
表−2 . 1
マンションの維持・保全体系
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表−2 . 2
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計画修繕項目と修繕周期の目安
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また,緑化計画・植栽管理などは管理組合の特別事業
おくことが望まれるが,現実の作業としてはむずかし
として別途の計画を立案するものもある。これらの計
い問題が多い。設備関係の給・排水管,都市ガスなど
画は,環境整備としてのマスタープランが必要となり,
のライフラインも同様であり,原則として専有空間内
グレードアップを含め年次計画として検討が望まれる。
では専有部分となるが,維持管理上,管理規約で共用
部分とするものもある(排水管の下階天井裏配管等)。
( 2 )計画修繕をまとめた「長期修繕計画」
既に述べたように,施設の維持保全は日常的に管理
されるものと,一定の周期で行われる計画修繕に分類
今後の改修工事の際には,住み易さ,管理のしやすさ
を考慮しながら,新たな管理システムを考えていくこ
とが求められている。
される。しかし,これらは全く別個のものではなく,
日常的な管理がどのように行われてきたかが計画修繕
にも影響を及ぼす。したがって,日常の保守・点検が
忘れられがちな建物の各部位にとっては,計画修繕が
より重要なものとなっている。
長期修繕計画は,今後,計画的な修繕が予想される
全てのものが対象で,その直接的な目的は,老朽化・
機能低下を防ぐために「いつ,どのような修繕を行う
必要があるのか」という目安を立てること,更に,こ
れらの修繕を行うために「どの程度の費用を要するか」
を知って,修繕積立金との関連を明らかにするもので
ある。
計画修繕には様々な内容があるが,新築時の初期性
図−2 . 12
マンションの専有部分と共用部分
能への回復のみでは住宅機能の低下(相対的老朽化)
が問題となる。当然生活水準に対応した性能の向上(グ
2 .4
長期修繕計画の変遷
レードアップ)が求められる。これらの内容を,いつ
建物の生涯費用は「LCC(Life Cycle Cost)
」がその
の時期に,どのように計画に組み込むかが,今後の長
代表的なものとして考えられるが,その内容は,建設
期修繕計画策定のポイントの一つとなる。
費(土地取得費を含む)+維持保全費+光熱費+取壊
し費より成り立っている。この中で建設費と最終的に
( 3 )「共用部分と専有部分」
マンションは区分所有され,専有部分と共用部分で
建物が滅失する取壊し費を除いたものが,建物を使用
している期間に必要な費用となる。マンションでは,
構成されている。専有部分は,壁・床などの躯体で区
この維持管理費を日常的な管理費と,計画的に行う修
画された構造上・利用上の独立性のある居住空間であ
繕費に区分けしており,計画修繕に要する費用を修繕
り,個人が財産として具体的に所有し管理する部分と
積立金として,長期修繕計画をその算出根拠としてい
なる。したがって,躯体を除いた空間の内側部分は個
る。以下,長期修繕計画の普及状況,その内容と問題
人が自由に維持管理し,また,リフォームすることが
点について記載する。
できる。これに対して専有部分以外の全てが共用部分
となり,区分所有者全員で組織する管理組合がこれら
( 1 )長期修繕計画の策定状況
を維持・管理している。バルコニー,1 階専用庭など
長期修繕計画の考え方が認識され始めたのは1980年
は共用部分であるが,プライバシーの面から規約で専
代頃からと思われる。当時の普及率は極めて低く,ま
用使用権を認めている。
た,修繕積立金もかなり低額であった。その後,外壁
問題は,これらの両者の境界である。
「どこまでが専
等を中心とした大規模修繕を経験し,資金不足の問題
有(共用)で,誰が管理するのか」のボーダーライン
から長期修繕計画の重要性が認識されだし,その普及
を引くことは,実際のマンションではそれぞれ仕組み
率はかなり向上してきた。しかし,現実にはマンショ
が異なるため一概には決められない。建物の維持管理
ン規模・経年・管理の体制の影響が大きく,その実態
を視野に入れた管理の区分を検討し,規約等で定めて
と内容は明らかでない。
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(表−2・3,図−2・13,図−2・14)は,2003年∼05
年の間に行われた長期修繕計画の策定と見直し等の状
況に関する首都圏での調査結果であるが,各地域の比
較的小規模(50戸以下)のものを抽出し実態を把握し
(1)
たものである。
・長期修繕計画の策定率は,国交省調査では83%とか
なり高い。しかし,調査対象の平均戸数は110戸と
大きく,また,20年未満の比較的経年の浅い新しい
ものが65%を占める影響(優良マンションが多い)
も考えられる。しかし,他の調査結果をみると,東
京都調査では「築30年以上」のものを対象としてい
るため全体でも策定率58%,特に20戸未満の築40年
以上のものの策定率が低い。
図−2 . 13 長期修繕計画の未作成の理由(新宿区調査)
図表は省略したが,平成11年度に行われた横浜市
での調査でも( 2 ),全体の策定率は54%,20戸以下
54%で経年26年以上では35%という東京都調査と同
・長期修繕計画「なし」のマンションの実態をみると
(図−2・13),その理由では,マンションが新しい,
様の結果が出ている。
区分所有者の賛同を得られない,もともと作成され
表−2 . 3
(30%)。一方,作成方法・委託先がわからない,専
ていないから,といった問題のあるものが見られる
長期修繕計画の策定状況
門家がいない,費用の問題などの理由も20∼30%を
占めている。その他何らかの理由も20∼30%と比較
的多いが,いずれも未だ長期計画の理解と認識の低
さに起因していると考えられる。
( 2 )長期修繕計画の見直し状況
長期修繕計画は,策定時点で将来の20∼30年間を予
測したものであるが,修繕・改良を含め予測が不可能
なもの,状況により計画の変更を迫られるものもある。
定期的な内容の見直しが必要で,同時に修繕積立金を
含めた資金計画の再検討も行われなければならない。
しかし,長期計画「有り」でも見直しを行ったものは
図−2 . 14 長期修繕計画の見直し状況(世田谷区調査)
26
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2 0 0 9 . 3
30∼50%弱,半数に満たない。作成後の運用面に問題
国交省としては,現在,分譲時点で管理組合に提示
があり,長期修繕計画の策定を含め,今後の普及・啓
している長期修繕計画が,分譲会社によりその内容に
発が必要となっている(図−2・14)
。
問題があるもの(修繕積立金の初期設定が低額な問題)
,
また,その内容にかなりバラツキがあること,を危惧
( 3 )長期修繕計画の策定と見直しの考え方
したものと思われ,同時に,既存マンションの長期修
近年の長期修繕計画の策定率は83%(国交省調査)
繕計画を一定のレベルに引き上げることを目論んだも
ではあるが,現実にその内容までは把握できていない。
のと考えられる。これにより分譲時の長期修繕計画の
見直しされていない計画を含め長期計画はその内容
内容と精度が改善されることが期待されるが,既存マ
(質)が問われている。
(図−2・15)は長期修繕計画の
ンションでは,特に高経年の小規模マンションがどこ
策定期間と見直しの考え方を示したものである。分譲
までこの内容に対応できるかについては,今後の課題
時のものは近年30年間以上必要とされているが,内容
として残る。
では修繕周期・工事費等は大まかなものであっても,
修繕対象の項目設定(洗い出し)はキチンと整理した
2 .5
長期修繕計画と修繕積立金
ものが要求される。これらが十分なされていればその
修繕積立金は,基本的には長期修繕計画の資金的裏
後の見直しも的確なものとなり,更に修繕対象項目の
付けとして位置付けられる制度である。したがって修
数量が提示されていれば,見直し作業も容易なものと
繕積立金の徴収額は,本来計画的に行われるべき修繕
なる。見直しは 5 ∼ 6 年ごとを原則とするが,ここで
工事の資金計画に基づいて設定されなければならない。
の提案は,見直し後の一定期間(10∼15年目頃)まで
ところが,1980年代では入居当初に決められた積立金
は資金計画の関係で精度の高いものとし,20年を超え
の徴収額は,
「管理費の10%前後」というものが多い。
る先の予測で困難なものは,その後の見直しで検討を
無論,その根拠は不明確で,管理費を基準にしている
加える方法で,常に現状に即したものとする内容で全
ことにも疑問がある。その後の支出状況を見ても,こ
体を構成する考え方である。
れではあまりに低額すぎる。(1980年代後半より,修
また,本年(08年)6 月に国土交通省のマンション
繕積立基金制度を設けているマンションがあるが,こ
政策室より「長期修繕計画標準様式・作成ガイドライ
れは入居当初より10年間程度は資金計画上,有効と考
ン」が策定された。従来の標準的な様式と「マンショ
えられる。)
ン管理標準指針」の内容をより具体化し,長期修繕計
画の作成や修繕積立金額の設定の基本的な考え方等と,
「長期修繕計画標準様式」を使用しての作成方法を示し
( 1 )修繕積立金の目安
「修繕積立金はどの程度が適正額なのか」マンション
の規模・設備内容によって異なるため,一概には決め
たものである。
図−2 . 15
長期修繕計画と見直しの考え方
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27
表−2 . 4 [第Á期]∼[第Â期]までの中・高層マンションの必要修繕費と修繕積立金額
◆
◆
* 1 Ceは,建物全体での中央給湯式(給湯・暖房)設備であり,これらの機械設備の修繕費が全体の50%を占める。
* 2 N 8 は,策定期間内の第 3 回目の大規模修繕工事に,バルコニ−手摺,窓アルミサッシの全面更新を含めており,この工事費の影響
が大きい。
* 3 Smは,:建築関係修繕費が全体の65%を占める。特に,策定期間内に玄関扉・窓サッシの更新が含まれており,これの影響が大きい。
28
建築設備工学研究所報 No.32
2 0 0 9 . 3
られない。一般的に過去の事例からみて,大まかでは
3 .経年によるマンションの大規模修繕工事の変遷
あるが,)入居時より10年目までは4, 000円∼6, 000円
3 .1
大規模修繕の位置づけ
/月・戸(70∼100円/ß)
,*10∼20年目になると7,000
マンションの計画修繕の中で,最も時間と費用を要
∼ 1 万円/月・戸(110∼160円/ß)程度と言われてい
するものに大規模修繕と呼ばれるものがある。これら
る。更に,20年を過ぎると設備関係に要する修繕費が
も計画修繕の一環であるが,建物の外壁改修や屋根防
急激に増え,特に,高層マンションでは 2 万円/月・
水工事,給排水設備の配管更新等がその代表的なもの
戸を超えるものも出てくる。修繕積立金を取り崩して
となる。特に,外壁改修工事では単に外壁廻りのみで
行う大規模修繕は,1980年代から多くの管理組合で実
なく関連する工事(バルコニー・廊下・階段床防水,
施されてきたが,積立金のみで賄われたものは当時は
鉄部塗装等)も同時に行われるため工事期間は長く,
極めてすくない。マンションを長持ちさせ,より良い
工事費用も大きい。また,日常生活を営みながらの工
居住環境を維持していくためにも,長期的展望にたっ
事であるため,居住者の生活への影響も大きい。これ
た修繕計画と,資金計画は,不可欠なものと言える。
らの要素が大規模修繕と呼ばれ,特にマンションにと
ちなみに「
(旧)住宅金融公庫(現,住宅金融支援機
って重要な工事として位置づけられる所以である。こ
構)のマンション維持管理基準」によれば,修繕積立
れらの大規模修繕は外壁関係では一般的に12∼15年の
金の額として,5 年未満は6, 000円/月・戸,5 年∼10
周期で繰り返し行われる。また,設備関係の計画修繕
年未満7,000円/月・戸,10∼17年未満9, 000円/月・戸,
は専有部分との関連もあり,修繕積立金の資金計画の
17年以上10, 000円/月・戸を必要額としている。現在
検討を含め,どのように長期修繕計画に組み込むか,
この基準は廃止されているが,経年による修繕積立金
それぞれのマンションの課題となる。
額の一応の目安となっている。
(表−2 . 4)は,第Á期(経年21∼30年目)から第Â
3 .2
マンションの大規模修繕の変遷[表−3 . 1]
期(経年31∼40年目)にかけての中・高層マンション
マンションの大規模修繕が本格的に始まったのは1980
の長期修繕計画による修繕積立金の必要額を,事例に
年代(昭和55年前後)からであろう。無論,それ以前
より算定したものである。高層マンション 5 事例,中
にも一部の民間マンションでは既に行われていたが,
層マンション 7 事例であるが,策定時期は見直しを行
首都圏ではこの時期より郊外団地型マンションの大規
った後のものであるため,経年は一部を除き20年前後
模修繕が活発化してきた。これらのマンションは60年
のもの,策定期間は概ね20年間(経年40年目頃まで)
代後半(昭和40年代)に建てられたもので,この時期
で作成している。
からマンションの大規模修繕ブームが始まったと考え
この期間内での修繕積立金額をみると,高層のもの
られる。本項ではこの時期(1980年∼)を第¿期とし,
では1. 5∼3. 4万円/月・戸(250∼390円/ß)
,中層では
以降 5 年毎にÀ期∼Ã期に分け各時期のマンション大
1. 3∼3. 5万円/月・戸(180∼420円/ß)とかなり巾が
規模修繕の特徴について概観してみる。
ある。マンションの固有条件によりかなり差がでるも
ので,高層のCe,N 8,中層のSmの 3 事例は,特殊設
( 1 )マンションの特徴と社会的背景
備を持つもの,あるいは長期修繕計画の策定期間内の
■ 第¿期「1980∼85年(S・55∼60年)」
大規模修繕工事の内容により高額なものとなっており,
・第¿期で工事を行っているマンションは60年代後半
特に,後者の工事対象項目の影響が大きい。また,規
に分譲されたものが多い。代表的なものに都市郊外
模の影響(市街地 1 棟型と郊外団地型マンション)
,建
の大規模団地(公団・公社の分譲)がある。その規
物形態(特に低層のテラスハウス等)
,経年により必要
模は 1 団地500∼600戸,中には1, 000戸を超えるも
修繕費にかなりの差がでる。更に,長期修繕計画の策
定時期・期間によっても修繕費の差は大きく異なる。
のもあり,建設後10∼15年を経過したものである。
・当時は長期修繕計画や修繕積立金については,未だ
前述の「
( 1 )修繕積立金の目安」は20年目までのもの
策定手法・徴収制度が確立されておらず,また,こ
であるが,これ以降の修繕費はかなり高額となること
れらに対する重要性・認識が低い状況にあったとい
を示している。
える。更に,長期計画があり修繕積立金を徴収して
いるマンションでも,その内容は極めて不十分なも
のであった。このような状況が,その後の第 1 回目
関
表−3 . 1
東
学
院
大
学
29
マンション大規模修繕工事の変遷
の大規模修繕工事に際し様々な問題を生み出すこと
ら,工場生産の PC(プレキャストコンクリート)工
になった。
法で中層 5 階建のものもある。前期に続き外壁を主
・竣工年度が古いものでは竣工図書(図面等)が全く
無いもの,十分そろっていないものがあり,修繕工
事の実施時に問題となった。
体とした大規模修繕を行うものが増え,マンション
の大規模修繕ブームといった時期となる。
・80年代後半になると管理組合活動も活発になってい
■ 第À期「1986∼90年(S・61∼H・2 年)」
る。特に公的分譲の団地型では,役員構成も当時は
・この時期に工事を実施したものは71∼75年(S・40
30代の比較的若い層が多く,維持管理面でも活発に
年代後半)に分譲されたもので,市街地では高層型
行われており,大規模修繕工事のセミナー・見学会
のもの,郊外団地では更に大規模団地の工事が増加
している。建物構造も従来の RC 在来工法のものか
等にも積極的に参加している。
・長期修繕計画の重要性,修繕積立金の必要性と認識
30
建築設備工学研究所報 No.32
も高まりつつあり,建築の専門家を交えた地域の居
2 0 0 9 . 3
( 2 )工事内容と特徴
住者団体の勉強会等も行われ始め,その成果がマン
■ 第¿期
ション管理組合に浸透してきた時期である。しかし,
・マンションの形態は比較的単調なものが多く,特に
工事を実施したマンションの中には,分譲時より数
郊外団地型のものでは中層 5 階建の羊羹型である。
年間は積立金が低額(500∼千円/月・戸)だった
市街地1棟型の形態は様々であるが,複雑な形態に比
ものも多く,資金不足により借入れ・一時金徴収を
べ羊羹型は工事もやり易かったこともあり,工事費
行ったものも多い。
もかなり低額が多い。
・一方,建設時期がオイルショック期にかかっていた
・工事内容は外壁修繕を主体としたものが多く,モル
ものでは,建設時点の問題(外壁仕上げ・仕様等の
タル塗りセメントリシン仕上げの外壁が10年以上経
変更)が大規模修繕時に出てきたものもある。
過したことから「みすぼらしくなった建物を新築時
■ 第Á期「1991∼95年(H・3 ∼ 7 年)
」
の姿に戻す」がコンセプトになっている。
・第 1 回目の大規模修繕を迎えたものは80年代前半の
・バルコニー・廊下・階段の床よりの漏水が問題とな
オイルショック後に建てられたものである。住居面
り,これらの床防水を同時に行ったものも多い。し
積もこの時期のものから従来の 3 DK より 3 LDK 中
かし,修繕積立金を原資とした資金計画が十分でな
心へと移行しており,住居面積も若干大きくなる。
かったことから,工事範囲を最小限に留めたものも
都市型高級マンション「億ション」といわれた住宅
あり,工事実施後数年で雨漏りが発生,問題となっ
もこの時期より供給され始めた。
たものもある。
■ 第Â・Ã期「1996∼03年(H・8 ∼15年)」
・80年代後半以降に建てられたものの第 1 回目の大規
早い時期より長期修繕計画に基づいて積立て計画
を行い工事実施したものは,極めて少ない。
模修繕工事,87年∼90年の間はバブル期に建てられ
たものとなる。この時期のマンションは今までの画
一型の大量供給から形態・規模・間取り等,多様化
したものが増えてくる。羊羹型の南面向き単調配置
から,郊外団地に見られるタウンハウス型,雁行型・
セットバック型,また,屋根も傾斜屋根を採用して
いる。同時に住宅設備も充実化してくる。
・バブル期に建てられたものでは斬新なデザイン,様々
な仕上材が用いられ,100ßを超える大型マンショ
ンも分譲された。また,設備面でも最新設備と呼ば
れたものであったが,しかし,その後の経年による
一部機器の故障によりシステム全体の機能が麻痺す
図−3 . 1
るといった問題が出たマンションもある。
外壁廻りの改修工事
・更に,オイルショック期に問題となった粗製乱造に
よる建物の構造欠陥も,大規模修繕時に顕在化して
■ 第À期
きたものも一部である。
・第¿期工事の経験を踏まえ,仕様・工法の検討と施
・各地の居住者団体の活動も活発になり,また,公共
工方法の技術的検討が加えられてくる。外壁はモル
機関・建築等の専門技術関係団体により長期修繕計
タル塗りのものから新たに工場生産の PC工法のもの
画・大規模修繕等のセミナー,シンポジュウム等が
も出てきており,
「お化粧直し的」な外壁修繕からコ
全国主要都市で開催されている。
ンクリート躯体を保護するための修繕工事(建物の
・一方,バブル崩壊後の建設界の不況により,大手を
含むジェネコンの改修業界への参加が活発になり,
これが原因の工事価格のダンピングなどの問題が発
生している。
耐久性の確保)へとコンセプトも変わり,これに対応
するため「躯体改修工事」の工事項目が設けられた。
・耐久性向上のために,仕上材も旧仕上材(主にリシ
ン系吹付け材)は除去を前提とし,そのために高性
能の高圧水洗機も開発され,塗替仕様もコンクリー
関
東
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ト保護を目的とする樹脂系塗料へとグレードアップ
院
大
31
学
・工事内容の主体は外壁であるが,足場を架けること
から関連する工事をできるだけ同時に行う考えが定
が計られている。
・PC 工法の建物では,PC 版ジョイント部(接続部分)
着してくる。このため第À期の工事に比べ工事内容
のシーリング材の打替えが重要な工事項目となる。
も広範なものとなり,改修技術も工事項目を含め体
しかし,この時期のものは PC 工法の開発初期のも
のであったため,このジョイント部に問題が出てい
系化されたものとなってくる。
・外壁関係工事でも,この頃より20年以上を経過した
る。この部位よりの雨漏りが多発し大規模修繕時に
マンションで第 2 回目の大規模修繕が始まってくる。
その対策が課題となった。
屋根防水工事も同時に行われるが,第 1 回目の工事
・建設時期がオイルショック期にかかったものでは,
内容に問題があったもの,予算との関係で工事が不
外壁タイル貼りのものを急遽塗装仕上げに変更等,
十分だったものを等,前回の経験を踏まえ準備段階
建物構造,設備面で問題を抱えたマンションもある。
に時間をかけ検討しているものが多い。
・第 2 回目の工事を行うものでは,外壁廻りの金物類
の取替えが行われている。特に,海浜地域等のマン
ションでは,早いもので窓手摺り等鉄部・金物類の
更新を行っているものもある。
・給水設備関係の大規模修繕も始まってくる。この時
点では給水配管の経年劣化による修繕工事となる。
更新とするか,更生(現在の配管内部にエポキシ樹
図−3 . 2
バルコニ−床防水改修
図−3 . 4
図−3 . 3
外壁タイル貼り廻りの改修
階段室廻りの改修
■ 第Á期
・第Á期で工事が行われたものでは,外壁はコンクリ
ート打ち放しのものが多く,コンクリート躯体の劣
化(亀裂・鉄筋露出等)が問題となった。経年劣化
だけでなく建設時の施工の善し悪しが,第 1 回目の
外壁改修時に顕著に表れている。
図−3 . 5
屋根防水改修
32
建築設備工学研究所報 No.32
2 0 0 9 . 3
脂ライニングするもの)とするかの選択となるが,
■ 第Â期・Ã期
住戸内の専有部分の配管は更生工事としたものが多
・第 1 回目の外壁等の大規模修繕を迎えるものは80年
い。同時に20年を超えたものでは屋外に設けられた
代後半よりバブル期に建てられたものである。住戸
受水槽・高置水槽の取替え(更新)工事が始まる。
も大型のものとなり,また,建物形態も斬新・複雑,
仕上材も様々なものが用いられている。外壁はタイ
ル貼りのものが多くなり,その亀裂・浮き・剥がれ
に対しての改修工法が新たに検討項目となり,様々
な工法が提案されている。
・超高層マンションも早いものでは第 1 回目の大規模
修繕時期となる。工事内容も過去の経験とは全く異
なるもので,改修設計者,工事を担当する施工業者
を含めて初めての経験となる。特に足場架設等に新
たな提案がなされている。
・第 2 回目の大規模修繕を迎えるマンションでは,グ
レードアップが目玉となってくる。工事内容も外壁・
図−3 . 6
バルコニー手摺廻り改修・更新
屋根防水といった単独工事での機能回復から,外構
関係・設備を含めた住環境改善・向上を目的とした
大規模修繕へと変質する。
図−3 . 7
給水設備機器の改修・更新
図−3 . 9
図−3 . 8
消火管・消火栓の改修
図−3 . 10
超高層マンションの外壁改修工事
1 階ピロティ−・エントランス廻りの改修工事
関
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・設備関係工事では給排水設備の他,電気設備(電気
槽方式からポンプ圧送方式へ)したものもある。こ
容量のアップ)
,エレベーター設備の更新が行われて
れらの工事は従来の単独工事として行うものもある
いる。給排水設備では単に配管更新のみでなく設備
が,建物の大規模修繕と併せ行い,工事費のスケー
システム全体を再検討し,給水方式を変更(高置水
ルメリットを計るマンションも増えている。
図−3 . 11
1 階ピロティ−廻りの改修・メ−ルコ−
ナ−の新設
図−3 . 14
給水設備の改修(給水システムの変換)
図−3 . 12
1 階エントランス廻り、玄関扉と集合郵便
受けの更新
図−3 . 15
給水システムの変換と給水設備の更新
図−3 . 13
階段室に手摺設置(バリアフリー−工事)
図−3 . 16
エレベ−タ−の更新
34
建築設備工学研究所報 No.32
2 0 0 9 . 3
( 3 )工事費用にみられる特徴
大規模修繕工事の費用関係については,
(図−3・17,
(3)
18,19)に調査事例を掲載している。
工事実施年で分類すると,(図−3・17)は第¿期の
80∼83年に実施したもので,公的分譲(公団・公社)
の団地型を対象としている。また,実施時期が85∼86
年に集中しているものは第À期に分類している。これ
らは大部分が 1 棟型の民間マンションである。
(図−3・18)は93∼2000年の間に工事を実施したも
ので,事例では公的分譲の団地型,民間 1 棟型が混在
している。これらは第Á期・Â期に分類した。これら
は,建築・設備を含めた総合型の大規模修繕であり,
また,全てが第 2 回目のものである。
(図−3・19)は,
「
(財)住総研」で行った2003年度の
調査結果で,50戸以下の民間マンション28事例の工事
内容と工事費である。
図−3 . 18
第Á期・第Â期実施、大規模修繕工事費
(戸当たり負担額)
■ 第¿期
*公的分譲・団地型[図−3・17]
工事費用は一般的に工事内容と工事範囲が直接関係
する。事例は全て団地型のものでありマンション規模
も大きい。しかし,その工事費をみるとかなりの差が
ある。第 1 回目の大規模修繕では工事内容・仕様工法
等も試行錯誤で行われていたものが多く,この影響が
大きいと考えられる。また,工事内容が同じものでも,
かなり工事費にバラツキがある。建物は同形態のもの
が多いことから,材料の選定による工事単価の影響も
ある。
・工事内容・範囲の他にも,工事発注方法(特命での
責任施工方式,設計・監理方式による相見積り方式
等)の違いの影響も大きい。
(図−3・20)
図−3 . 17
第¿期・第À期実施、大規模修繕工事費
(戸当たり負担額)
・工事内容の違いはあるが,全般的に20∼30万円/戸
のものが多く,この時期に工事を行った団地型マン
ションの平均的価格であり,Â期に行われている同
工事内容のものに比べると仕様・工法の違いもある
が半額以下の工事費である。
関
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35
・団地型との工事費の違いはマンションの規模(住戸
数)にもある。小規模のものは工事内容が同じでも
スケールメリットが無いことから割高となる傾向が
ある。
■ 第Á期・Â期[図− 3・18]
・団地型・民間マンション 1 棟型が混在しており,一
部に第 2 回目の大規模修繕のものもあるが,大部分
は 1 回目のものであり実施時期はÁ・Â期にまたが
る。
¿・À期に見られるような規模による差は少ない。
むしろ工事内容の影響が大きい。第 1 回目のものでも
60∼70万円/戸のものが多い。この時期の第 2 回目の
ものではその他の工事費が大きく,その内容をみると
マンション全体のグレードアップを目的としたもので
ある。
■ 第Â期・Ã期[図−3・18]
(図−3・18)の99∼01年実施のものは第 2 回目の大
規模修繕のものである。経過年数24∼36年目のもので
外壁・防水等の建築関係以外に設備関係工事,外構関
係工事を同時に行っている総合改修工事として位置づ
けられる。したがって,設備関係の工事費は 1 / 3 ∼
1 / 2 を占め,戸当たり負担額も100万円を超え250万円
に近いものもある。
*設計・監理方式は、管理組合が大規模修繕工事に際し設計・
工事監理を第三者としてのコンサルタント(通常は建築設計
事務所)に委託し行うもの。工事発注の際の施工業者選定で
競争原理が働く。
*責任施工方式は、一般に管理会社に多く設計から工事施工ま
でを請負う事例が多く、特命での工事発注となる。
・設備関係工事内容もエレベーターの更新・新設等の
バリアフリー対策,給排水設備・電気設備の大規模
改修,更に,建物関係では玄関扉・メーターBOX扉
等の建具更新を行ったものもある。
■ 第 1 回目と第 2 回目の大規模修繕工事費の違い
図−3 . 20
設計・監理方式と責任施工方式
[図− 3・19]
大規模修繕工事の内容と工事に要した具体的費用に
■ 第À期
関しての調査結果は少なく,(図− 3・19)は住総研の
*民間マンション・1 棟型[図−3・17]
調査結果である。第 1 回目の大規模修繕工事の平均額
・第À期の工事費用の事例は全て民間マンションであ
は88. 5万円/戸であるが,当然,工事内容(建物形態・
る。工事実施時期は公的分譲より数年後であるが,
工事仕様・工事発注方法等)によって異なり,中規模
工事内容と質,仕様工法等は従来の延長線上で大き
(70∼100戸)以上のマンションの平均工事費(50∼80
な違いはない。しかし,工事費用では団地型に比べ
万円/戸)と比べ,小規模ゆえに割高と考えられる。第
全般的に高額であり,また,工事範囲・内容が同じ
2 回目の工事費では,設備関係工事が含まれるものが
でも団地型以上に差がみられる。特に外壁工事費(仮
多い。建築関係工事のみの平均は118万円/戸,設備関
設・下地補修・塗装工事費)に大きく,建物形態と
係工事を含めたものは140. 8万円/戸である。第 2 回目
仮設工事費,塗替え仕様の違い,工事単価の影響が
の工事は経年18∼25年目にかけて行われており,戸当
考えられる。また,その他工事の影響がある。民間
たり負担額はかなり高額となっている。
マンションでは大規模修繕時に玄関・エレベーター
ホール,屋内階段・廊下等の内装工事を行ったもの
があり,これらの費用も大きい。
36
建築設備工学研究所報 No.32
2 0 0 9 . 3
45%前後,半数以下となる。国交省調査以外では積立
金のみで賄ったものは約半数程度,特に小規模のもの,
高経年のものではかなり低く,長期計画の有無も影響
している。
( 5 )予測される第Ä期以降の大規模修繕
第 3 回目の大規模修繕は,第 1 回目の周期(一般的
に外壁を中心としたもので12∼15年)を前提とするな
ら36∼45年目に行うことになる。但し,建設時期の早
いものでは45年目を超え第 4 回目の大規模修繕となる。
いずれにしても,この時期までに建物を構成する全て
の部材の修繕周期が一巡すると考えられる。第 3 回目
の大規模修繕の内容がどのようなものとなるか,過去
2 回の大規模修繕の延長線として位置づけるか,また
は,躯体以外の全ての部位の部材を更新させ総合的に
改修し,新築マンションと同レベルまでグレードアッ
図−3 . 19
小規模マンションの大規模修繕工事内容と
工事費
プすることも考えられる。実際,東京都の公営住宅(賃
( 4 )大規模修繕工事の資金調達[図− 3・21]
住総研調査(図省略)では修繕積立金のみで賄った
ものは全体で60%弱,他は不足分を一時金徴収または
金融機関よりの借入れである。長期計画があっても資
金不足のものもあり,なしでも積立金のみで賄ったも
のもあるが(予算に合わせた工事内容?)
,詳細は定か
でない。国交省調査(図表省略,平成15年調査)をみ
ると,全体では一時金徴収・借入れが10∼20%を占め
ているが,借入れは比較的少ない。しかし,新宿区調
査(図−3・21)をみると,全て積立金で賄ったものは
半数強,他は一時金徴収・借入れで賄っている。これ
図−3 . 22
を長期修繕計画の「有無」別でみると,「有り」では
住戸玄関扉・窓サッシュのグレ−ドアップ
更新
63%が積立金であるのに対し,「検討中,なし」では
図−3 . 21 大規模修繕工事の資金手当法(新宿区調査)
図−3 . 23
玄関・ホ−ル廻りのグレ−ドアップ更新
関
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貸住宅)ではスーパーリフォームとして工事期間中は
居住者に引越してもらい,専有・共用部を一括して改
修した事例もある。しかし,分譲マンションではこの
ような事例は未だ見当たらない。第 3 回目(または第
4 回目)の大規模修繕をどのように位置づけ,その内
容をどのようなものとするかは,居住者の合意形成と
資金計画が重要な要素となるが,十分な検討時間が必
要となろう。
( 6 )マンション設備修繕の特徴
■ グレードアップが前提の設備改修
図−3 . 25
マンションの住宅性能として最も陳腐化の早いもの
玄関ホ−ル廻りの防犯設備改修
に設備機能がある。生活水準に対応したマンション設
備のレベルアップは居住者のニーズとして常に新しい
部の住戸内に配管されている)
,共用部分だけの修繕で
ものが求められる。高経年化マンションと新築マンシ
は問題が解決しないことが多い。したがって,設備関
ョンの設備機能にはかなりの差がある。マンション設
係の大規模修繕工事はシステムの変換,グレードアッ
備改修は時期的には第 2 回目の大規模修繕と前後して
プを前提に,また,
「建築」「設備」の工事を一体化し
行われるものが多い。当然「新しい部材・パーツ」が
た,
「専有・共用」の管理区分を超えた総合的な改修工
用いられるが,機能のグレードアップも必要となる。
事が求められている。
レベルアップにより,いかに時代の水準に近づけるか,
そのために従来のシステムを変えていくことも課題と
4 .マンションの長命化とグレードアップ
なる。
4 .1
一方,設備の配管や配線は床や天井仕上材の裏側,
物理的・相対的老朽化への対応
マンションの寿命は?とよく言われる。近年「マン
パイプシャフトの中などに隠蔽され,目に見えない部
ション建替え円滑化法」審議の過程で30年,40年とい
分にあるものが多い。これらを修繕するためには設備
った論議もなされている。しかし,マンションは躯体
関係工事だけでなく,建築関連工事も同時に必要とな
(構造体)を含めキチンと維持管理され,また,住居と
しての機能が保持されていれば100年の寿命も不可能
る。
給排水・ガス・電気などのライフラインとしての設
ではない。この長命化を可能にするためには,経年に
備に不具合が生じると,日常生活に支障をきたすこと
よる「物理的・相対的老朽化」にどのように対応して
になる。これらの設備は共用・専有で一体的なシステ
いくかであり,このことが今後多くのマンションの課
ムを構成しており(配管類は全て共用部分を通し専有
題となってくる。
(図− 4 . 1 )はマンションの大規模修繕工事とグレー
ドアップの関係を示したものである。第 1 回目(12∼
15年経過)までの外壁等を主体とした大規模修繕工事
では,途中に保守・点検等のメンテナンスは行われる
ものの,建物を当初の機能まで回復させることを目的
としている。同時に部分的な改良修繕が行われる場合
もある。第 2 回目(24∼30年経過)になると,設備関
係では日常のメンテナンスの他に中規模な修繕工事が
行われる。第 2 回外壁等の大規模修繕工事では,建物
に付帯する鉄部・金物関係(外壁廻金物,バルコニー
手摺り等)の改修・更新工事が加わってくる。これら
の工事により建物全体のグレードアップが計られる。
図−3 . 24
住戸内(専有部分)の設備配管更新
同時に,この期間では設備関係のライフラインの更新
38
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図−4 . 1
2 0 0 9 . 3
マンションの大規模修繕とグレードアップ
出典:「改修によるマンション再生マニュアル(マンションリフォーム技術協会編著)
も行われグレードアップ化される。第 3 回目以降は,
建物の構造体を除く二次部材(鋼製建具,アルミサッ
シュ等)の更新も段階的に行われるようになり,従来
の改良修繕から一歩進んだ「マンション再生」を目的
とした大規模修繕に変質していく。このような目的を
達成するために,資金計画を含めどこまで行えるかに
よって,マンションの価値が大きく変わっていくこと
が予測される。
( 1 )経年による物理的老朽化に「大規模修繕工事の改
修計画」で対応する
図−4 . 2
経年による「物理的・相対的老朽化」への対応とし
ピロティー廻りの耐震補強改修
て,どのような項目・内容が上げられるか,具体的に
は以下の項目が考えられる。
の主要構造部の耐震性能によって差がでる。これら
)
の建物は耐震性能を診断し,問題があれば耐震補強
建物の耐久性・耐震性能の向上
が必要となる。どの程度まで耐震性能を高めるかは,
・建物の耐久性を高め,耐用を延ばす改良修繕が求め
補強方法や費用によって異なる。
られる。大規模修繕時の仕様・材料の選択,鉄部・
金物類(バルコニー・開放廊下・階段等の手摺り,
・建物の構造補強の他に,エレベーターを更新する際
外壁に設けられた金物類等)の更新ではグレードア
には「新耐震基準」にする。また,避難経路を確保
ップ(鉄製品からアルミ・ステンレス製品へ)を考
するために玄関扉を耐震のものに,屋外鉄骨階段の
建物接合部の補強等もあげられる。
慮する。
・1981年以前の設計基準(耐震基準)のマンションの
*
建物共用部の環境整備
中には,阪神・淡路大震災で建替えざるを得ないよ
・入居30年以上を経過したマンションでは「新築時の
うな大被害が出たものもある。被害の程度は,建物
姿に戻すこと」というコンセプトでは大規模修繕の
関
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大
39
学
目的にはならない。マンションの顔となるエントラ
ンスやエレベーターホール廻り,階段室出入り口廻
り改善が居住者のニーズとなる。また,階段・廊下
廻りを含めた建物全体のグレードアップが求められ
る。
・共用部の環境整備の中では,バリアフリー化も併せ
て検討が求められる。入居当初は30∼40歳代であっ
た居住者も,マンションの経年と同時に高齢化して
くる。若い頃は苦にならなかった階段の昇降や廊下
の段差も,年をとると問題となってくる。高齢者も
安心して快適に住み続けられるマンションとするた
図−4 . 5
めに,屋外の通路を含めた,建物の入り口から住戸
階段室型の住棟にエレベーター設置
玄関までの段差解消,階段室型の建物ではエレベー
ターの新設も将来の課題となっている。
・セキュリティー性能の向上も新たな項目として上げ
られる。ピッキング,エレベーター内の悪戯,駐車
場の車上荒らし,などマンション特有の犯罪が増加
図−4 . 6
大規模修繕工事に併せ,エレベーター設置
している。エレベーターホールやマンションの出入
り口,駐車場などに防犯灯や防犯カメラを設置する。
図−4 . 3
また,出入りしやすいマンション・団地では共用部
エレベーター更新とバリアフリー
分を区画する共用扉を設け,オートロックシステム
とするなどの改善が望まれる。
+
専有部を含めた快適な居住環境の確保
・専有部・共用部の両者を対象とし,断熱・省エネル
ギー性能を向上させる。具体には外壁や屋根防水の
「外断熱工法」の採用,また,近年では屋上を緑化す
る手法も採用されている。
・開口部のサッシュや玄関扉を更新する際には,断熱・
気密・遮音性能の高いものを採用する。インナーサ
ッシュ・二重ガラスにするなど,部屋の断熱性を高
める。これにより結露・ヒートロスを防ぐことが可
能となる。
図−4 . 4
共用部のバリアフリー(スロープ設置)
40
建築設備工学研究所報 No.32
2 0 0 9 . 3
に変化してきた。また,電話設備もアナログからデ
ジタルへ,更に ISDN や光ファイバーへと高速・高
機能化している。このようにめまぐるしく変化して
いる情報機能に対応した改良・改善が求められてい
る。
4 .2
マンションの再生
現在,わが国のマンションストックは520万戸を超
えている。この中には新築後30年を超えるものが2010
年の段階では100万戸に近づく状況である。これらの
多くは1965∼75年(昭和40年代)に分譲されたもので,
図−4 . 7
大規模修繕工事での外断熱改修
とくに郊外団地の階段室型で,3 DK を主体とした住戸
面積50ß前後のものが多い。マンションの老朽化・陳
腐化にどのように対応していくかの検討が問われてい
( 2 )経年による相対的老朽化への対応,「物理的老朽
化」への対応と併せ検討する。
)
設備機能の向上とライフラインの増量
るストックである。近年,住宅ストックは過剰傾向に
あり,空き家も多く発生しているといわれる。世帯人
口は減少しているが,一方で住宅(マンション)の建
・住宅設備機器の性能向上や変化は著しい。セントラ
設は続けられる。新築マンションの価格もバブルの一
ル給湯や床暖房,エアコンの普及,台所のシステム
時期に比べかなり低廉となったが,中古マンションの
キッチン等があげられるが,これらのインテリアリ
転売価格の下落も著しく,購入時の半値以下も例外で
フォームは,共用部分の電気幹線の容量,ガス引込
はない。とりわけ郊外団地型の住戸面積の小さいもの
み管の供給能力,給水能力と直接関係する。
ほど下落幅は大きい。また,都市近郊の交通の便の良
・30年前のマンションは,各戸20∼30アンペアの電気
い一部を除いては,建替えも不可能な状況にある。こ
容量であったが,エアコンや家電製品の普及により
れらのマンションの老朽化の進行はスラム化につなが
幹線容量が不足するようになった。最近のマンショ
る危険性がある。これを防ぐためにも大幅なリノベー
ンでは各戸60アンペアの容量が確保されている。建
ション(再生)が必要となる。過去の大規模修繕より
物全体の受変電設備・幹線容量を増やし,同時に各
一歩進んだ「マンション再生」に取り組むことが,今
戸の配線回路の更新(系統を分ける)が必要となる。
後の課題となる。
・小型ガス瞬間給湯器が普及し,住戸内でのセントラ
ル給湯システムが一般化している。しかし,セント
・生活のライフサイクルと住宅は密接な関係にある。
給能力の向上(増量)が必要となる。共用部ガス配
夫婦二人住まいの頃は「 2 ∼ 3 DK」のマンション
管の更新の際には,これらを考慮し検討することが
は居住スペースとしては十分な広さを持っている。
求められる。
しかし,子供が生まれ成長してくると住宅の狭さが
・マンション全体のライフライン供給能力の変更(増
*
( 1 )生活空間拡充のための,マンションの 2 戸 1 化へ
ラルシステムや温水床暖房に改造するにはガスの供
問題となる。とくに,小・中学の学齢期となると,
量)には,供給システムの変更が出てくる。システ
より広い住宅への住み替えが始まる。郊外団地型の
ム変更には建物の改造が不可避なもの,これからの
マンションでは入居時よりの居住者は 2 割に満たな
マンション大規模修繕では,これらの内容を含め工
いものもある。一方で「 3 DK」50ß前後の住宅で
事の範囲・実施時期の検討が必要となる。
も 2 戸を一体化することによって100㎡を超えるも
情報機能の高度化・インテリジェント化
のとなる。上下・左右の隣戸を合併することにより
・高度情報社会の進展は著しく変化している。マンシ
居住面積を拡大することが可能となる。
ョンの情報設備といえば,30年前は VHF 放送を共聴
・近年のマンション管理組合では,大規模修繕に際し
する設備のみであったが,その後,UHF・BS・CS
て改修を積極的に行うものが多い。しかし,隣接す
受信,地域CATV 受信やインターネット接続へと次々
る 2 住戸を一体化するため戸境壁や上下階のスラブ
関
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を抜いての工事を許可する事例は未だ見当たらない。
して,また,親と子の近接( 3 世代居住)を可能に
技術的には可能であるが,現在の規約ではコンクリ
するために,管理組合が「合築再生」に取り組まざ
ート構造躯体に手をつけることは禁止されているこ
るを得ない状況も出てくると考えられる。
とによる。しかし,今後は住宅の狭さ解消の手法と
図−4 . 11
図−4 . 8
上下階の 2 戸 1 化の事例
住戸の 2 戸 1 化への概念
図−4 . 12
スーパーリフォームの事例( 1 )
*既存マンションの増築と完全バリアフリー化(リフォーム前
の状態)
図−4 . 9
図−4 . 10
左右の住宅を 2 戸 1 化した事例
バルコニーの屋内化により連続する
図−4 . 13 スーパーリフォームの事例( 1 )
*既存マンションの増築と完全バリアフリー化(リフ
ォーム後の状態)
42
建築設備工学研究所報 No.32
( 2 )生活様式・家族構成変化への対応
2 0 0 9 . 3
建替えられたマンションは全国で110数棟と言われて
・住居の狭さの問題はライフサイクルの一時期である。
いる。そのうち首都圏においては61件(団地型16件を
高齢化し子供達がそれぞれ独立した後の夫婦二人家
含む2, 696戸)が建替えられている。その内訳は,)等
族となると,3 DKは十分な広さとなる。むしろ住宅
価交換方式27件,*第 1 種市街地再開発事業 9 件,+
の間取りを変え,使い方に多様性をもたせる試みも
法定建替え(円滑化法)22件であるが,この中で+の
必要であろう。ファミリー向けの「 3 DK」住宅を単
法定建替えは03∼07年の間のもので「建替え円滑化法」
身者向けの「 1 LDK+仕事場」に間取り変更するこ
の施行後のものである。また,これらの建替えられた
ともできる。また,住居から地域の生活関連施設(店
マンションの築後年数をみると,20∼30年のもの12件,
舗,地域図書館の分館,保育所等)にコンバージョ
31∼50年のもの40件,51年以上のものは 9 件であるが,
ンすることも考えられる。今後,更に増えるであろ
これについては大部分が同潤会アパートの建替えであ
うマンションの過剰ストックに対応させるための一
る。これらの状況をみると,建替えは必ずしも経年に
手法となろう。
よる老朽化したものだけではない実態が明らかになっ
(4)
ている。
図― 4 . 16∼図― 4 . 20は横浜市内でのマンション建替
(5)
え事例(N住宅)である。
横浜市の中心部に位置し
ているが,閑静な住宅街の一画に立地した中層 5 階建
て,5 棟,全120戸の団地型マンションであった。1956
年(昭和31年)日本住宅公団(現在は都市再生機構)
により分譲されたものである。建替えは04年より準備
が始まり(これ以前にも一時期提案はなされていたよ
うである),05年 9 月には「建替え組合」が設立され,
07年 3 月工事着工,08年 9 月に新マンションに生まれ
変わったものである。
N 住宅の建替え可能だった要因としては,大きく次
図−4 . 14 スーパーリフォームの事例( 2 )
*既存マンションの完全バリアフリー化
の 3 つが上げられる。その内容は a . 立地条件・周辺環
境が良好だったこと,b . 容積率に余裕があったこと,
c . 社宅・賃貸・空家が多かったこと,等であるが,更
に,d . 建物・設備の計画的な維持管理がほとんどなさ
れていなかったこと(過去50年間に 1 度も大規模修繕
がなされなかった)から,劣化がかなり進行しており,
このことも建替えの大きな要因となっていた。c 及び
図−4 . 15 スーパーリフォームの事例( 2 )
*既存マンションの完全バリアフリー化(EV・廊
下・階段を新設)
( 3 )マンションの建替え
マンション「建替円滑化法」が施行されてから 6 年
が経過している。法律の施行以前のものを含め過去に
図−4 . 16 「N住宅」建替え可能な要因(1)
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d の要因は,極めて短期間で準備が進められてきた N
住宅の特殊な要因と考えられる。
図−4 . 20
図−4 . 17 「N住宅」建替え可能な要因( 2 )
建替え竣工後の「N住宅」
(3)
5 .今後の課題
( 1 )増大するストック,どこまで「再生」が可能か?
・増大する高経年マンション
前述のように 2 年後の2010年には30年を超える高経
年マンションは100万戸に近づく。これを一般的な中・
高層のマンション 1 棟当たりの平均戸数(60戸/棟)に
換算すると,約16, 700棟という膨大な数となる。しか
し,建替え可能なものは,これらのうち条件の良いご
く一部のものに過ぎない。また,容積率が現行法の規
定を超えているものは「現行法不適格」となり,建替
え時には「減築」を迫られることになる。
・建物の高経年化と,居住者の高齢化
一方,
「長命化」にもさまざまなハードルがある。築
図−4 . 18
建替え竣工後の「N住宅」( 1 )
後30∼45年の間に行われる第 3 回目∼第 4 回目での大
規模修繕工事内容は,外壁・屋根改修の他,設備機器・
配管の更新,高層マンションではエレベーター,防災
設備の更新,共用部でも住戸専有部に直接関係する玄
関扉,窓サッシ,バルコニー手摺等の二次部材の更新
等がある。更に,専有部の設備配管更新等の工事が次々
と発生し,これらに要する費用はかなり高額なものと
なる。
ちなみに,築20年の高層マンション(10階建て,62
戸)が,今後20年間(築40年目まで)に必要とする修
繕費の総額は472. 8万円/戸,年額23. 6万円/戸,月額に
すると19, 700円/戸となる試算がある。但し,これには
(6)
大幅なグレードアップ的な要素は含まれていない。
今後の高齢化社会はマンションにとっても例外では
図−4 . 19
建替え竣工後の「N住宅」( 2 )
ない。マンション購入時に40歳とすれば,20年後では
60歳,更にその後の20∼30年先の維持管理費の負担は,
高齢者にとってかなり重いものとなる。これらの費用
44
建築設備工学研究所報 No.32
2 0 0 9 . 3
負担にどこまで耐えられるかを前提に,将来の資金計
どのようなものなのか,次の 3 つのパターンが予測さ
画の検討が重要となってくる。
れる。
・マンションを100年持たせる
)
積極的再生型:マンションの長命化と再生」に積
本年12月に公布された「長期優良住宅の普及の促進
極的に取り組む。長期修繕計画の中にも「マンショ
に関する法律(略称「長期優良住宅促進法」)は,09
ン再生・グレードアップ」の検討を取り込み,自分
年 4 月の施工となっているが,これにより,マンショ
たちのマンションの将来像を画いていく。若い人た
ンもその耐用に200年を求められる状況がにわかに出
ちの参加が重要となる。これらの取り組みが,いず
れ将来の「建替え再生」につながる。
できた。
つい数年前までは100年持たせることでの議論が活
*
現状維持型:マンション居住者の高齢化により,
発になされていたが,今後はさらに200年の超長期耐
財源(将来の資金計画)の問題等で長命化再生を積
用が求められるようである。しかし,当面この法律は
極的に取り組むことができない。何とか現状を維持
基本的に新築を対象とした,より高度な技術の進展を
しながら,長命化を模索していく。次世代に「建替
え」を含めた再生を託す。
求めたものと考えられる。マンションの高機能・高耐
用化を図る提案は20年前より行われており,センチュ
+
無関心型:マンションの維持管理に無関心層が多
リーハウズィング,そして S I 住宅などは100年の耐用
い。一部に危機感を持った居住者がいても,現状を
を目指したものであった。
変えるまでには至らない。当面,何とか生活できる
しかし,これらの技術もあまり普及していない状況
ことで,将来のことまで関心がない。
である。現在分譲されている新築マンションでも耐震
)は高経年団地型マンションの一部に見られる傾向
性能は別として,分譲後の維持管理面に向けての技術
である。分譲当初より住まい続けてきた高齢の居住者
の工夫は未だ十分とは言えず,また,200年耐用がど
と,その後入居してきた若い世代が管理組合の運営を
こまで可能か,大いに疑問がある。
担っていることで,互いのさまざまな意見交換がなさ
・長期修繕計画は,どこまで機能するか
れる。若い世代がこれらの問題に積極的に取り組み,
本年 6 月に発表された国交省の「長期修繕計画標準
高齢者は消極的ながらとりあえず若い世代を支持する
様式,作成ガイドライン」により,長期修繕計画の見
といった,比較的コミュニティの良好なマンションで
直しがなされたとしても,現実には計画内容と積立て
可能となる。
金額の乖離が問題となっている高経年マンションも多
*の「現状維持型」は 3 つのパターンの中で最も多
いようである。マンションの経年が50年を超え60∼80
いタイプと考えられる。マンションが将来どのように
年に至った段階での長期修繕計画の内容は,居住者の
なるかに危惧を持っている居住者が 1 割程度存在すれ
生活水準の向上や,陳腐化を防ぐため住宅機能がどの
ば,管理組合の運営を含めて現状維持のための努力が
ように変わっていくか,現在の段階では予測のつかな
なされると思われる。しかし,)のような積極的な方
い内容が多いと思われ,特に設備関係の技術の進展は
向性を持つことができず,次世代に問題を託すことに
顕著である。たとえ,技術的な面での建物・設備の100
なる。このパターンではマンションの今後の状況によ
年への対応は十分可能であったとしても,最終的には
り,将来)に近づくことができるか,または+の傾向
管理組合の維持管理の取り組みに委ねられる。マンシ
となるか極めて難しい状況におかれてくる。
ョンの長命化による再生は,管理組合の若返りによる
+では*に近づく努力がどこまでなされるかが,将
再生にポイントがあり,これによって100年の長命化
来のスラム化を防ぐための鍵となる。しかし,現状は
への対応が可能と考えられる。
居住していない区分所有者(賃貸している)
,高齢の居
・高経年化した100万戸のマンションの行く末は,考
住者も多く,また,居住者の入替わりも頻繁となり無
えられる 3 つのパターン
関心層が多くなる。高経年化した小規模マンションに
前述のように「マンションの長命化による再生」は,
見られる傾向で,長期修繕計画もなく,修繕積立金の
管理組合が今後この問題にどのように取り組むかがポ
蓄積も不十分で将来の大規模修繕に対応できる資金計
イントとなる。30年を超える高経年マンションは今後
画がなされていないものも多い。このような状態が続
も増え続け,現状のものはいずれ近い将来50年を超え
くことにより徐々に劣化が進行し,空き家の発生や最
るものとなる。建替えが困難なマンションの行く末は
終的には管理の崩壊,スラム化することが懸念される。
関
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学
このような状況では,もはや管理組合による維持管理
は困難な状態となり,公的機関による法的な指導が必
要となる。
マンションの将来は,これらのパターンのいずれか
が予測されるが,今後の管理組合の運営面(ソフト面)
での課題とし考慮することが望まれる。
( 2 )既存ストックの再生と区分所有法の限界
区分所有法と,現在の一般的な管理組合規約では,
建替えは別として共用部分(建物の構造体)の除去や
変更を認めていない。また,現行の新築建物の設計基
準ともなっている建築基準法の体系では,既存建物は
図−4 . 21
超高層マンション事例( 1 )
図−4 . 22
超高層マンション事例( 2 )
遡及適用こそ受けないものの,増・改築をする際には
現行基準に適合させることを義務付けている。すなわ
ち,既存マンションの 2 戸 1 化等の「合築再生」には,
現行法で規定されているさまざまな内容をクリアーし
なければならず,困難な問題が多い。したがって,法
律の柔軟な対応,規約改正が求められるが,更に,建
物を長く使い続けるためには,現行法に適合させよう
とする考え方を改め,ストックを重視した長期対応を
促進させる法体系の整備が求められる。当然,再生を
図るためには,建物の安全性・耐久性に配慮した計画
でなければならない。今後,マンションをスラム化さ
せないための重要課題といえよう。
6 .あとがき
分譲マンションの歴史は1956年より始まり56年間が
経過しており,この間のマンションストックは528万
棟,約57, 000戸となり,これらを含めた総戸数は572
棟,16万戸を超えるものとなる。
戸に上る。これらのマンションの形態は,中層 5 階建
今後,高経年マンションは更に増えてくるが,半世
て階段室型の郊外団地型のものから,市街地 1 棟型の
紀後には100年を超えるマンションも数の上ではかな
中・高層のものが主流であった。その規模(管理組合
り出現するはずである。
単位)においては,郊外型のものでは200∼1, 500戸で
問題は,これらの超高経年マンションがその時点で
団地を構成するもの,市街地1棟型では10戸未満/棟の
どのような状態にあるか,または,どの程度のマンシ
極小規模のものから100戸/棟までかなり巾がある。
ョンが「長命化を図る」ことができたかであろう。本
住戸面積では,1960年以前のものでは30∼40ß
報告は,過去に行われてきた維持管理の現状や問題点
( 2 K・3 K),1970年代に入り48∼60ß( 3 DK)の広
を事例を通して整理したものであるが,今後,起こり
さとなる。また,1980年代になると 3 LDKの60∼75ß
前後が分譲マンションの標準的なものとなってきた。
うるさまざまな問題は予測できない内容も多い。
特に,超高層マンションの維持管理については,既
その後1990年代のバブル期には100ßを超える大型の
に多くの問題が指摘されているが,未だ潜在化の状態
ものも出てきた。
である。しかし,近い将来これらの問題が顕在化した
一方,1990年以降より超高層マンション(20階建て
段階では,今まで中・高層マンションが抱えてきた問
以上のもの)が分譲され始め,首都圏でのストックは,
題以上のものとなることが予想される。早い時期より
06年までの17年間で398棟,104, 400戸余りとなってい
問題点の整理と対応を検討しておくことが望まれる。
る。更に今後も増えつづけ07・08年での竣工予定は174
46
建築設備工学研究所報 No.32
参考文献
2 0 0 9 . 3
「図― 3・18」第Á期・第Â期実施,大規模修繕:
1 )改修によるマンション再生マニュアル:マンショ
00年∼02年,首都圏の民間マンションの調査,
ンリフォーム技術協会編著 2004年 9 月.
(株)ぎ
山本研究室卒研生による。指導教授山本育三,
ょうせい
2 )マンション設備改修の手引き:マンションリフォ
ーム技術協会編著 2004年 9 月.
(株)ぎょうせい
3 )小規模マンション管理の課題と解決策に関する調
査報告書「 3 . 建物・設備の維持管理」
(P61∼81)
田辺邦男著.
(財)住宅総合研究財団 2005年 3 月.
4 )マンション学 第27号:「長期修繕計画と大規模
修繕工事の現状と対策」
(P118∼127)田辺邦男著.
日本マンション学会 2007年 4 月.
5 )マンション学 第30号:「高経年マンションの老
研究指導 田辺邦男
「図― 3・19」小規模マンション大規模修繕工事
内容と工事費:
(財)住総研「小規模マンショ
ン実態調査」3 .建物・設備の維持管理(P75
∼76)
( 4 ):(株)
東京プランニング「アメニティ」305号デ
ーターより
( 5 ): マンション学第30号,論文「P120∼127」田辺
邦男著 2008年 4 月
( 6 ):(財)マンション管理センターが04年「修繕積
朽化の実態と建替えの概要」
(P120∼127)田辺邦
立金算出システム」の検討時にシュミレーショ
男著.日本マンション学会 2008年 4 月.
ンした事例である。
注( 1 )「表−2・3」
*住総研「小規模マンション実態調査報告」
:
(財)
住宅総合研究財団の下に研究委員会を組織,全
国各地域のマンション管理組合団体の協力によ
りヒヤリング可能な首都圏31件,他 5 地域22件,
計53件を調査対象としたもの。調査期間03年10
月より04年 1 月まで。
*
( a )国土交通省マンション総合調査:国交省が
概ね 5 年ごとに行っている「マンション総合調
査」で,平成15年度(2003年)調査結果による
もの。[平成16年(2004年 3 月)
]
*( b )東京都首都整備局「築30年以上のマンシ
ョンの実態調査:東京都首都整備局[平成15年
(2003年)3 月]
「図― 2・13」長期修繕計画を未作成の理由:新
宿区分譲マンション実態調査[平成16年(2004
年)3月.新宿区
「図― 3・21」大規模修繕工事の資金調達:新宿
区分譲マンション実態調査[平成16年(2004
年)3 月.新宿区]
( 2 ): 横浜市「老朽・小規模マンションの維持管理に
関する実態調査[平成11年(1999年)3 月.横
浜市住宅局]
( 3 ):「図― 3・17」第¿期・第À期実施,大規模修
繕:85年∼87年,首都圏40マンションの調査の
中から公的分譲12,民間分譲12を選択したも
の,山本研究室卒研生による。指導教授山本育
三,研究指導 田辺邦男
(2009年 2 月10日受理)
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