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眼球において不要な血管を退縮させる仕組みを解明 ―がんの血管を

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眼球において不要な血管を退縮させる仕組みを解明 ―がんの血管を
プレスリリース
2016 年 6 月 21 日
報道関係者各位
慶應義塾大学医学部
眼球において不要な血管を退縮させる仕組みを解明
―がんの血管を減らし、進行を抑える新たな治療法の開発に期待―
慶應義塾大学医学部 機能形態学講座の久保田義顕教授らは、同外科学(一般・消化器)教室
の北川雄光教授との共同研究により、マウスを用いた硝子体血管の実験を通じて、血管が自発的
に退縮する仕組みを明らかにしました。
血管の代表的な自発的退縮に、胎児の時期にしか必要とされない血管が、出生後に全て退縮す
るという現象があります。しかし、この退縮がうまくいかなかった場合、さまざまな病態を引き
起こすことが知られています。その病態の一つに「第一次硝子体過形成遺残(注 1)
」という疾患
があります。目に存在する胎児特有の血管である「硝子体血管(注 2)
」が退縮せずに出生後まで
残存すると、眼球内の光の通り道の妨げとなり、組織傷害から重篤な視力障害を引き起こします。
これまで、硝子体血管を明瞭に可視化し観察する技術が無く、その発生メカニズムは明らかにさ
れていませんでした。
本グループは、硝子体血管の可視化技術を確立し、体の中のあらゆる血管の成長・維持に必要
な血管内皮細胞成長因子(Vascular endothelial growth factor: VEGF)
(注 3)に着目し研究を進めま
した。その結果、目の神経が出生後に、旺盛 VEGF を取り込み・消化することで、目の中の VEGF
濃度を低下させ、硝子体血管を退縮させているというメカニズムを明らかにしました。今回の成
果は、これまで原因不明とされてきた「第一次硝子体過形成遺残」の病因の一端を解明するとと
もに、将来的にがんの血管を抑える新しい治療法につながるものと考えます。
本研究成果は 2016 年 6 月 20 日(米国東部時間)の「The Journal of Experimental Medicine」オ
ンライン版に掲載されました。
1.研究の背景
ヒトのからだには、酸素と栄養を全身のすみずみまで送り届けるため、膨大な血管が張り巡ら
されます。この血管ネットワークができあがる過程では、単に血管の枝分かれを増やし、広がら
せるだけではなく、適宜不要となった部分を退縮させ、その時々のからだの成長に合わせた血管
ネットワークへ作り変える必要があります。この『血管の取捨選択』で代表的なものが、胎児に
おいて使われていた血管が、出生後に必要となくなり退縮するという現象です。この退縮がうま
くいかなかった場合、さまざまな病態を引き起こすことが知られています。代表的なものに「第
一次硝子体過形成遺残」があります。これは眼球における胎児特有の血管である硝子体血管が退
縮しないことで発生する先天性の眼科疾患で、重度の場合、眼球内の組織傷害から重篤な視力障
害を引き起こします。
特定の時期の特定の血管が自発的に退縮する現象を解明できれば、胎児血管退縮不全による先
天性疾患の病態解明のみならず、がんの血管をターゲットとした(がん血管を自発的に退縮させ
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る)がん治療の開発に応用することが可能です。それゆえ、硝子体血管にフォーカスし、その退
縮のメカニズムを解き明かそうとする基礎研究が、世界各国で盛んにおこなわれています。しか
しながら、未だそのメカニズムは全く以て解明されていませんでした。
2.研究の概要と成果
先述のように、硝子体血管の自発的退縮を司るメカニズムは、世界的に精力的に解析されてい
るにもかかわらず未解明となっています。その大きな理由の一つとして、硝子体血管を明瞭に可
視化し観察する技術がない、という点が挙げられます。そこで、まずわたしたちが取り組んだの
は、硝子体血管の高精度な可視化技術の確立でした。さまざまな試行錯誤の結果、硝子体血管が
遠位部で付着する虹彩(注 4)をテンプレートとして、機械的に一塊として網膜から分離し、染
色作業をすることで、非常に明瞭に、かつオリジナルの構築を損傷することなく、硝子体血管全
体を一視野のもと可視化することに成功しました(図 1)
。この技術を駆使し、体の中のあらゆる
血管の成長・維持に必須である、血管内皮細胞成長因子(VEGF)に関わる種々の遺伝子改変マ
ウスの硝子体血管を観察することで、研究を進めました。
図 1 . マウス硝子体血管可視化技術の開発
虹彩に付着させたまま、マウス硝子体血管を一塊として取り出し染色する(A)ことで、硝子体血管の
全体像(B)が明瞭に可視化される。
まず遺伝的に神経でのみ VEGF を無効化させたマウスにおいて、硝子体血管の早期退縮が起こ
ることを見出しました。また、血管内皮細胞における 2 型 VEGF 受容体(VEGFR2: 数種類存在
する VEGF 受容体のうち、主役として働く受容体)を欠失させると、同様に硝子体血管の退縮が
促進されることを確認しました。この結果は硝子体血管が、他の血管と同様、VEGF/VEGFR2 シ
グナルに依存して生存していることを示しています。次に、網膜における VEGF 発現について出
生前後で定量を行いましたが、着目すべき変化を認めませんでした。その一方、VEGFR2 に関し
ては出生直後の神経において著明な発現の増加を認めました。これを受けて神経特異的 VEGFR2
ノックアウトマウスを作製したところ、眼球内の VEGF タンパク量が著明に増加しており、硝子
体血管の退縮が著しく阻害されることを見出しました。また、この表現型は神経で VEGFR2 と
VEGF の双方をノックアウトすることで打ち消されました。以上の結果から、出生直後における
硝子体血管の退縮は神経の VEGFR2 を介した眼球内の VEGF の希釈を通じて、そのタイミング
が精密にコントロールされていると考えられました(図 2)
。
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図 2 . 神経による硝子体血管退縮の制御
胎仔期の神経は VEGFR2 が発現せず、VEGF の取り込みが行えないため、眼球内に VEGF が多く存
在する。出生後には VEGFR2 が神経に発現し、VEGF の取り込みを開始するため、眼球内の VEGF が
低くなり、硝子体血管が生存できずに退縮する。
3.研究の意義・今後の展開
本研究は、重篤な視力障害を引き起こす「第一次硝子体過形成遺残」に関し、これまで全く不
明であった原因の一端を、マウスモデルを用いて解明したものであり、この疾患の新たな治療法
の開発につながるものと考えます。また、今回明らかにしたメカニズムは、硝子体血管にとどま
らず、状況が整えば全身どこの血管であっても起こり得る現象であることを示しています。発現
を制御する技術が確立できれば、腫瘍の血管を自発的に退縮させ、腫瘍を血行不全に陥らせる新
たながん治療の開拓の手掛かりとなることも期待されます。
4.特記事項
本研究は主に以下の事業・研究領域・研究課題によって遂行されました。
MEXT/JSPS 科研費 22122002
5.論文について
タイトル(和訳):
“Developmental regression of hyaloid vasculature is triggered by neurons”
(硝子体血管の内因性の退縮は神経によって引き起こされる)
著者名:吉川祐輔、山田暢、田井育江、岡部圭介、北川雄光、依馬正次、久保田義顕
掲載誌:The Journal of Experimental Medicine(ジャーナル オブ エクスペリメンタル メディシ
ン)オンライン版で 2016 年 6 月 20 日(米国東部時間)に公開
【用語解説】
(注 1)第一次硝子体過形成遺残
眼球における胎児特有の血管である「硝子体血管(注 2)
」が何らかの原因で退縮せずに、出生
後まで残存することにより、重篤な視力障害を引き起こす疾患である。70~90%は片眼だけに発
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症し、遺伝性はないといわれる。異常の存在する部位によって前部型、後部型、混合型に分けら
れる。原因も不明である。
(注 2)硝子体血管
眼球において、胎児期にのみ見られる血管。やや遅れて眼球内に成長する網膜血管の広がりと
ともに必要なくなり、退縮・消失する。通常、硝子体血管はマウスでは出生直後に、ヒトでは胎
生 5 カ月頃に自発的に退縮することが知られる。その自発的に退縮するというユニークな特徴か
ら、世界的に盛んな研究対象となっている血管である。
(注 3)血管内皮細胞成長因子(Vascular endothelial growth factor: VEGF)
1983 年、Harold Dvorak らによって発見されたタンパク質。強力な血管に対する増殖作用を有
し、生体内における血管の発生、伸展に必須の分泌性タンパク質である。遺伝学的 VEGF を欠損
させたマウスでは体内に血管が全くつくられず、胎生初期に死に至る。
(注 4)虹彩
眼球の前面、ひとみの周りにある円盤状の膜。伸縮してひとみの大きさを変え、網膜に達する
光の量を加減する。硝子体血管は、虹彩の後面に付着している。
※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。
※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブ、各社科学部等に
送信させていただいております。
【本発表資料のお問い合わせ先】
慶應義塾大学医学部
坂口光洋記念機能形態学講座
久保田義顕(くぼた よしあき)教授
TEL:03-5315-4358 FAX:03-5315-4359
Email:[email protected]
http://www.keiovascular.com/
【本リリースの発信元】
慶應義塾大学信濃町キャンパス総務課
谷口・吉岡
TEL: 03-5363-3611 FAX: 03-5363-3612
E-mail: [email protected]
http://www.med.keio.ac.jp/
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