Comments
Description
Transcript
実施事業概要 - 結核予防会
平成22年度実施事業概要 自 至 平 成 22年 7 月 1 日 平 成 23年 3 月 31日 公益財団法人結核予防会 目 Ⅰ 次 国民の結核を中心とする疾病の予防、治療その他国民の健康増進とそのための調査、研究、 対策の策定等を行い、もって国民保健・福祉の向上に寄与するとともに、結核対策に必要な 国際協力を行うことを目的とする事業(公 1) 1. 学術的研究と臨床応用との結合を理念として展開する結核研究事業 (公 1-1) .................. 1 2. 対策成功の基本である人材育成を目的とした研修事業 (公 1-2) ..................................... 21 3. 技術援助、人材育成、研究協力を主要な 3 本柱とする国際協力事業 (公 1-3) ................ 24 4. 変貌する結核に対応する結核医療事業とそれを支える診療の総合化 (公 1-4) ................ 31 5. 結核後遺症高齢者等に対応する療養・保健・福祉事業 (公 1-5) ..................................... 47 6. 外国人結核患者等に対応する診療・服薬指導・相談事業 (公 1-6).................................. 49 7. 増大する呼吸器疾患、新型インフルエンザ対策等に対応する医療・予防事業 (公 1-7) .. 51 8. 全国都道府県結核予防会と連携する研究と健診・予防一体型の事業 (公 1-8) ................ 52 Ⅱ 国民の結核を中心とする疾病の予防と健康増進のための教育、事業の助成・支援及び複十 字シール募金運動等普及啓発を目的とする事業(公 2) 1. 結核予防事業の広報・普及啓発活動 (公 2-1) ................................................................. 56 2. 複十字シール募金運動 (公 2-2) ...................................................................................... 60 3. 秩父宮妃記念結核予防功労賞の表彰 (公 2-3) ................................................................. 65 4. 結核予防事業に従事する医師、放射線技師に関する研修・教育 (公 2-4) ....................... 66 5. 全国結核予防婦人団体連絡協議会に対する育成強化と一部運営費の助成 (公 2-5) ......... 67 6.「ストップ結核パートナーシップ日本」への参画と一部運営費の助成 (公 2-6) .............. 68 7. 地域 DOTS の実態調査 (公 2-7) ..................................................................................... 69 Ⅲ 医療・介護・生活支援等サービスが身近に必要な高齢者・障害者が安心して生活できる住 まいの提供事業(収 1) 1. グリューネスハイム新山手 (収 1-1) ............................................................................... 70 Ⅳ ビル管理関係事業(収 2) 1. 水道橋ビル、KT 新宿ビル、渋谷スカイレジテル (収 2-1) ............................................. 71 Ⅴ 内部研修事業等(他 1) 1. 全都道府県に所在する結核予防会の事務責任者及び事務職員向けの 資質向上のための研修・教育事業 (他 1-1)................................................................. 72 2. 全都道府県結核予防会事務局協議会への一部運営費の助成 (他 1-2) .............................. 73 3. 結核予防、呼吸器疾患予防及び生活習慣病に関するノウハウを 活用した研修事業 (他 1-3) ......................................................................................... 74 Ⅵ 公益財団法人結核予防会役員および機構一覧 1.公益財団法人結核予防会役職一覧 ................................................................................... 75 2.公益財団法人結核予防会役員等一覧 ................................................................................ 76 3.公益財団法人結核予防会機構一覧 ................................................................................... 77 4.平成 22 年度実施事業一覧(7 月~3 月) ........................................................................ 81 Ⅰ 国民の結核を中心とする疾病の予防、治療その他国民の健康増進とそのための調査、研究、 対策の策定等を行い、もって国民保健・福祉の向上に寄与するとともに、結核対策に必要な 国際協力を行うことを目的とする事業(公 1) 1. 学術的研究と臨床応用との結合を理念として展開する結核研究事業 (公 1-1) 結核研究所 1.一般研究事業 (1)結核菌の宿主に関する研究 1)潜在性結核感染宿主における免疫応答の解析(継続)[診断プロジェクト] 【研究担当者】樋口一恵、関谷幸江、原田登之 【目的】潜在性結核感染では、一部の感染者において結核菌は休眠期の状態に入り、現在感染診 断に用いられている結核菌抗原 ESAT-6/CFP-10 の産生は停止すると考えられており、エフェクタ ーT 細胞反応を測定する短期培養系であるクォンティフェロン®TB-2G 等の検査では陰性化すると 予想される。しかし、長期培養による結核菌抗原特異的メモリーT 細胞を測定することにより、休 眠期にある潜在性結核感染の検出は可能であると考えられる。本研究の目的は、休眠期潜在性結 核感染と考えられるエフェクターT 細胞反応陰性・メモリーT 細胞反応陽性者を選別し、長期間の 追跡を行うことにより休眠期潜在性結核感染を証明し、またその検出法の有効性を検証すること にある。 【方法】昨年度に検討した T-SPOT.TB(T-SPOT)による長期培養では SPOT の形成が不明瞭であっ たため、今年度は希釈血液を用いた全血培養系における短期培養と長期培養の相違を検討する。 対象者としては、過去に多くが感染したと考えられる高齢者について、得られた検査結果と既往 との関連を解析する。 【結果】先ずアッセイ系を確立するために、小規模な対象者数で全血を用いた長期培養と短期培 養を比較した。結核既感染者から採血し、一部の血液を用い通常の QFT-2G 検査を行い、一部の血 液は培地で希釈後抗原を添加し 7 日間培養した。それぞれの血漿検体における IFN-γ値を測定し た結果、今回の検討では論文で報告されているような有意な相違は認められなかった。今後、培 養法について種々検討していく予定である。 【結核対策への貢献】現在の感染診断法では判断できない休眠期潜在性結核感染の存在と、その 検出法を確立することは、より広く結核感染者を見出すことになり、結核対策への貢献は大きい と考えられる。 (2)結核の診断と治療法の改善に関する研究 1)診断に関する研究 ①非結核性抗酸菌のパルスフィールドゲル電気泳動法による亜型分類の検討(継続) 【研究担当者】鹿住祐子、前田伸司 【目的】非結核性抗酸菌の型別分類法を確立する。 【方法】臨床分離株で、起病性の有無を照らし合わせ被検株を選択し、パルスフィールドゲル電 気泳動(PFGE)法によってパターンの特徴を分類する。昨年度は抗酸菌の PFGE 法のマニュアルを作 成したので、今年度はそれを応用する。某クリニックにて発生した抗酸菌集団感染事例で分離さ れた Mycobacterium chelonae chemovar niacinogenes 5 株とクリニックの器材から分離された 3 株及び標準菌株を用い、Bodil らの方法にて分析した。 【結果】PFGE 分析においてゲノム DNA 切断に用いる酵素として Dra I を使った場合、被検株 8 株 のうち 1 株が 2 本バンド違いとなったが、他の 7 株は同じパターンだった。他方、制限酵素とし て Xba I あるいは Ase I を使った場合、標準株及び被検株の双方とも低分子ブラグメントが多か った。 【考察】抗酸菌の PFGE 法の場合、判定基準が確立されていないため異同の判定は難しく、遺伝子 配列等の多様性は低いと考えられる。そのため、少なくとも 2 種類以上の酵素で同じパターンと なることが必要であると考えられる。 ②急速凍結固定置換法を用いた樹脂包埋標本での結核菌連続切片観察の試み(新規) 【研究担当者】山田博之、近松絹代、水野和重、青野昭男、御手洗聡、山口正視*(*千葉大学真 菌医学研究センター) 1 【目的】2009 年度に急速凍結置換固定法により作製した結核菌のエポキシ樹脂サンプルを観察し、 従来の化学固定標本よりはるかに優れた微細構造の保存が可能であることを示したが、今回、こ の方法で作製した結核菌標本の連続切片を作製し、菌体全体のサイズの計測を試みる。 【方法】液体培地で培養した結核菌を急速凍結置換固定法で処理し、エポキシ樹脂包埋超薄切片 で連続切片を作製する。連続切片の写真をつなぎ合わせて菌体の全体構造を再構築し、菌体の構 成成分の定量を行う。また、抗結核薬剤に対する感受性、耐性の違いが菌の形態や構成成分の量 的な違いと関係があるかどうか検討する。 【結果】今年度は連続切片作製を実践している千葉大学真菌医学研究センター山口正視准教授か ら実際の手技を教授して頂くとともに、必要な消耗品類を準備した。現在、連続切片の超薄切の 手技の上達を目標に実践訓練中である。 【結核対策への貢献】直接かつすぐに応用することは予想できないが、生きた結核菌に近い構造 の詳細が観察できれば、将来、抗結核薬の作用機序の解明、裏付け等に役立つと考えられる。 ③磁性体粒子を用いた結核菌集菌法の開発(継続) 【研究担当者】御手洗聡、山田博之、青野昭男、近松絹代、水野和重 【目的】現在抗酸菌前処理の段階で必須となっている遠心分離による集菌操作を行わずに、効率 的に集菌する方法を開発する。 【方法】活動性結核患者から収集した喀痰 30 検体を結核菌検査指針 2007 に従って NALC-NaOH 処 理し、リン酸バッファーで中和した後二分し、各々の検体を 10 倍及び 100 倍希釈した系列を作製 した。合計 90 検体で遠心処理(3,000g, 15min)を行い、残り 90 検体を TRICORE キットにより集 菌した。TRICORE キットでは、集菌ビーズ 200µl、吸着試薬 100µl、共沈殿ビーズ 100µl を検体に 添加し、3 分間混和した後、磁気吸着した状態で上清を捨て、残渣を 1ml とした。全ての検体は MGIT 及び 2%工藤培地で培養した。 【結果】MGIT 培養では、遠心法と TRICORE 法の各々で 51(57.3%)検体と 55(61.8%)検体が培養 陽性であった。培養陽性までの平均時間は各々359.3±117.0 時間及び 377.6±162.3 時間であり、 有意差はなかった。 しかし工藤培地では、 遠心法と TRICORE 法の各々で 34(42.5%)検体と 47 (58.8%) 検体が陽性であり、統計的有意差があった。 【結核対策への貢献】前処理過程で最も危険な遠心操作を除くことにより、バイオセーフティの 向上が期待される。また、前処理の自動化にも貢献する。 【論文】Satoshi Mitarai, Hiroyuki Yamada, Kazue Mizuno, Kinuyo Chikamatsu, Akio Aono, Tetsuhiro Sugamoto, Ryouji Karinaga, Tomoyuki Hatano. A novel bead-based specimen concentration method for the culture of Mycobacterium tuberculosis(J Clin Microbiol 投 稿中) ④GenoType MTBDRrl キット(二次薬耐性結核菌検出用 Line Probe Assay)の評価(新規) 【研究担当者】近松絹代、御手洗聡、青野昭男、水野和重、山田博之 【方法】臨床分離結核菌 46 株と Supra-National Reference Laboratory Network での精度管理に 用いられた結核菌 30 株を対象とした。MTBDRsl を用いて gyrA、rrs 及び embB の変異を調べ、1% 小川培地比率法による薬剤感受性検査と比較した。 【結果】MTBDRsl の感度は FLQ 77.8% (21/27)、KM 57.1% (20/35)、AMK 100% (10/10)、CPM 83.3% (10/12)、EB 55.8% (24/43)であり、特異度は FQ 97.6% (41/42)、KM 100% (41/41)、AMK 100% (20/20) 、CPM 100%(18/18)、EB 100% (33/33)であった。MTBDRsl と感受性検査の一致率は FLQ 89.9% (62/69)、 KM 80.3% (61/76)、AMK 100% (30/30)、CPM 93.3% (28/30)、EB 75.0% (57/76)であ った。FQ は Wild type プローブ (WT) と Mutation プローブ (MUT) 両方が陽性となる株が 9.2% (7 株) あった。本邦の株において MTBDRsl の WT 及び MUT 検出による遺伝子変異の内訳は、FQ は MUT1 (A90V) 2 株 (13.3%)、MUT3A (D94V) 7 株 (46.7%)、MUT3C (D94G) 5 株 (33.3%)、WT1 (codon 85-90 の変異) 陰性 1 株 (6.7%)、KM は MUT1 (A1401G) 10 株 (100%)、EB は MUT1A (M306I) 2 株 (10.5%)、MUT1B (M306V) 9 株 (47.4%)、WT1 (codon306 の変異) 8 株 (42.1%) であった。 本邦の株について MTBDRsl の感度は諸外国の報告と比較し EB は同程度、FQ 及び KM(75~90%、 77~100%)は低かった。MTBDRsl は KM 及び EB の感度がやや低いものの迅速性に優れており、臨床 的に有用であると考えられる。 【結核対策への貢献】超多剤耐性結核菌の臨床診断が迅速化されることが期待できる。 ⑤新規 Line Probe assay キットの臨床評価(継続) 2 【研究担当者】水野和重、近松絹代、御手洗聡、青野昭男、山田博之 【目的】ニプロが開発した抗酸菌同定及び結核菌薬剤耐性遺伝子検出用 Line Probe Assay (LiPA) キットの臨床検体(喀痰)による精度評価 【方法】共同研究施設にて収集された喀痰検体を結核研究所へ送付し、結核菌検査指針に従って 前処理後、MGIT 960(ベクトン・ディッキンソン)及び 2%小川培地(極東製薬)にて培養した。 また、アンプリコア(ロシュ)にて核酸増幅及び M. tuberculosis、 M. avium、M. intracellulare の検出を実施した。さらに同一の検体から LiPA(上記 3 菌種+M. kansasii の同定、及び Isoniazid (INH), Rifampicin (RFP), Pyrazinamide (PZA), Fluoroquinolone (FQ)の耐性変異検出)を実施 した。培養陽性結核菌については標準法による感受性検査を実施した。 【結果】抗酸菌感染が疑われる 163 名から同数の喀痰検体が収集され、塗抹陽性 74 (45.4%)検体、 培養陽性 94 (57.7%)検体であった。LiPA による直接同定はアンプリコアあるいは培養菌の同定結 果と一致したが、両者で陰性の 1 検体で M. rhodesiae を M. intracellulare と判定した。感受性 検査については、RFP (n=54)、PZA (n=55)及び Levofloxacin (n=54)について、感度・特異度とも に 100%であった。INH については、NTM/MDR-TB strip を使用した場合感度 50%であったが、INH strip により感度は 75%に改善した。 【結核対策への貢献】ピラジナミド及びフルオロキノロン耐性結核菌の臨床診断が迅速化される ことが期待できる。 【論文】Satoshi Mitarai, Seiya Kato, Hideo Ogata, Akio Aono, Kinuyo Chikamatsu, Kazue Mizuno, Emiko Toyota, Akiko Sejimo, Katsuhiro Suzuki, Shiomi Yoshida, Takefumi Saito, Ataru Moriya, Akira Fujita, Shuko Sato, Tomoshige Matsumoto, Hiromi Ano, Toshinori Suetake, Yuji Kondo, Teruo Kirikae and Toru Mori. Multicenter Evaluation of a New Line Probe Assay Kit for Identification of Mycobacterium Species and Detection of Drug-Resistant Mycobacterium tuberculosis(J Clin Microbiol 投稿中) ⑥結核菌によるマクロファージ系細胞の炎症性サイトカインクロストークに関する研究(新規) 【研究担当者】山田博之、馬目佳信*、藤岡宏樹*、星野昭芳*、御手洗聡(*東京慈恵会医科大学 分子細胞生物学研究部) 【目的】結核による類肉芽腫形成に関して骨や脳、その他、肺胞など組織に存在するマクロファ ージで結核菌が炎症性ケモカインのクロストークにより活性化を及ぼしている可能性について検 証する。 【方法】破骨細胞、ミクログリア、肺胞マクロファージ、腎メサンギウム細胞を含む組織性マク ロファージの細胞を培養、インビトロで結核菌を感染させ、そこで上昇してくるケモカインレセ プターおよびリガンドを細胞からの核酸解析や培養液中への放出で解析する。 【結果】1 回目の感染実験では、結核菌添加培養細胞でかなりの細胞死がみられ、解析が難航した。 得られた内容を解析したところ、幼弱破骨細胞では、LPS 刺激でも結核菌刺激でもその応答には基 本的に差異がないようで、残念ながら結核菌に特異的な応答は見らなかった。その後、追加刺激 実験のサンプルを解析したところ、このデータでは結核菌感染破骨細胞に特異的なケモカイン応 答として CCL23 と CCL25 の産生が確認された。これら結果については、検索した限りでは報告が なく、論文発表する価値があると考えられる。 【結核対策への貢献】結核感染の病理の理解が進行し、効果的な治療法の開発につながる可能性 がある。 ⑦新規合成ならびに天然物由来のマクロライド系化合物ライブラリーを対象とした新しい抗酸菌 治療薬候補化合物の探索(継続)〔新抗結核薬・化学療法プロジェクト〕 【研究担当者】土井教生、福田麻美 【目的】1)新規合成マクロライド系化合物および天然物由来のマクロライド系化合物ライブラリ ーを対象に M. avium complex ( MAC ) に対し有効な新規治療薬・候補化合物を探索する。2)マ クロライド耐性菌に有効な新世代マクロライド抗菌薬の開発・創製。 【方法】1)MAC の type strain:M. avium JATA51-01、M. intracellulare JATA52-01 株を親株と して CAM 128 mg/ml 高度耐性菌をそれぞれ試験管内で誘導し、これら CAM の耐性誘導変異株がい ずれも 23S の遺伝子配列 2274 の位置に変異を有することを確認;これら CAM 耐性変異株を用いて マクロライド耐性 MAC 菌株に有効な候補化合物を選別した。2)15 種類の Gram 陽性菌、12 種類の Gram 陰性菌、M. avium JATA51-01、M. intracellulare JATA52-01 株を用いて候補化合物の抗菌 3 スペクトルを調べた。 【結果】1)検討した 7 種類の候補化合物の中で 16-員環の SPM-711,SPM-423 の 2 化合物のみが既存 のマクロライドと交差耐性を示さず、CAM 高度耐性の M. avium、M. intracellulare 変異株に有効 であることが判明した。2)CAM、SPM-711、SPM-423 が殺菌活性を示した Gram 陽性菌と Gram 陰性 菌の割合はそれぞれ CAM 6/15 株(40%) ;2/12 株(17%)、SPM-711 12/15 株(80%) ;0/12 株(0%)、 SPM-423 2/15(13%);0/12 株(0%)。3)SPM-423 の抗菌スペクトルが最も狭く、 M. avium、M. intracellulare のみに特異的な活性を示す抗菌活性スペクトルを有することが明らかとなった。 ⑧日本人 M. avium-intracellulare complex 感染症の化学療法実施時のリファブチンとクラリス ロマイシン血中濃度の検討(継続) 〔新抗結核薬・化学療法プロジェクト〕 【研究担当者】土井教生 【目的】日本人 M. avium-intracellulare complex 症(MAC 症)患者に rifabutin(RBT) を投 与した場合の薬物動態を検討し、RBT の有効性および安全性(前部ぶどう膜炎を含む有害事象) と薬物動態(Pharmacokinetics:PK)との相関関係を検討する。 【方法】1)薬物動態:MAC 患者に RBT を投与した場合の RBT 投与時のピーク付近濃度(3 時間値) を、投与 1、15、29 日目で比較検討;また、RBT 投与時(RBT 投与 15 日目)と clarythromycin(CAM) を併用した場合(29 日目)の RBT 血中濃度のトラフ値(投与直前)を比較検討した。薬剤血中濃 度は LC-MS で分析。2)試験デザイン:単施設非盲検非比較試験。対象患者および症例数:日本人 MAC 症患者5例*。 【結果】1)RBT のトラフ値は漸増を示したが、投与 15 日目以降 Cmax の上昇は認められなかった。 2)生体による RBT 代謝機序の亢進の影響が疑われた。3)RBT による CYP の誘導により、CAM の Cmax 低下が認められた。4)副作用は対象 5 例全例に認められ、うち 3 例が用量調節や中止を必要 とした。5)CAM 耐性が確認された症例では、RBT 血中濃度上昇を避けるためにも、CAM は投与中 止か1錠のみにするべきと考えらえた。 以上の症例成績をまとめ日本呼吸器病学会(2010 年 4 月;京都)で成果を発表した。 ⑨結核感染診断法における反応細胞の解析(継続)[診断プロジェクト] 【研究担当者】樋口一恵、関谷幸江、原田登之 【目的】クォンティフェロン®TB-2G(QFT-2G)検査、および QFT-2G よりも感度が優れていると報 告されている診断試薬 T-SPOT.TB(T-SPOT)は、その特性については十分に解明されていない部分 が多数ある。我々のこれまで得た結果では、QFT-2G と T-SPOT の間に個人により反応性に大きな違 いが見られている。この相違の原因として、T-SPOT で用いられている抗原は主にメモリーCD8+T 細胞を刺激し、 一方 QFT-2G では主にエフェクターCD4+T 細胞を刺激している可能性が考えられる。 前者は「過去の感染」を、後者は「最近の感染」を反映していると考えられる。この仮説が証明 できれば、 「過去の感染」と「最近の感染」が分けられる可能性がある。このように本研究の目的 は、両検査法における反応性の違いを細胞レベルで解析することにより、 「過去の感染」と「最近 の感染」の区別する可能性を検討することにある。 【方法】結核感染者で QFT-2G と T-SPOT の結果が一致しない対象者について、各々の方法におい て反応している T 細胞を各種抗体で染色し解析を行う。あるいは、末梢血単核球を調整後、各種 の T 細胞亜集団を除去し、得られた結果から反応性 T 細胞亜集団を明らかにする。 【結果】本年度は、QFT-3G 検査の諸問題に取り組んだため、本研究課題の進捗は見られなかった。 【結核対策への貢献】従来の診断法では区別できなかった「過去の感染」と「最近の感染」が区 別できる様になると、治療判断がより容易になるため結核対策への貢献は大きいと考えられる。 ⑩異なる投与経路による抗結核 BCG 予防ワクチン効果の比較検討(新規) 〔動物実験科〕 【研究担当者】宇田川忠 [動物実験科] 【目的】モルモットを用いた動物実験では、結核菌の皮内投与より肺に強い病変が認められ経気 道感染と同様な感染像が得られることから、BCG の経気道感作により肺および所属リンパ節で効果 的な感作ができれば強力なワクチン効果を期待することができる。BCG を噴霧免疫したモルモット の結核感染抵抗性を皮内免疫法と比較した。 【方法】1)経鼻:5×105cfu, 5×106cfu、2)経気管内:106cfu、3)噴霧:3×104cfu, 3×105cfu、 4)皮内:104cfu の各経路で BCG を投与し、BCG 投与後 8 週で非感作対照群と共に結核菌エルドマン株 (10-20cfu)を噴霧感染させ、その後、5 週で解剖し、摘出した肺、脾臓から結核菌の還元培養を 行い、算出した各臓器の生菌数を BCG の各投与経路群間、及び非感作群と比較した。 4 【結果】各経路による BCG 感作群と非感作対照群の間で、肺、脾臓とも、有意(p<0.01)に BCG の抗結核ワクチン効果が認められた。しかし投与経路の異なる BCG 感作群間では肺、脾臓、とも に有意差は認められなかった。 ⑪胸部検診対策委員会フィルム評価会で写真評価を左右した因子の検討(継続) 【研究担当者】星野豊 【目的】フィルム評価会での評価成績についてのデータを分析し、胸部エックス線写真の精度管 理技術の向上を目的とする。 【方法】結核予防会胸部検診対策委員会精度管理部会フィルム評価会のデータより、評価成績に 影響のあった因子について統計的に分析する。 【結核対策への貢献】結核対策や肺癌検診では胸部エックス線写真の画質が重要である。画質を 一定に保つためには、装置などハードウェアと画質の関係を把握しなければならない。ハードウ ェアを最適な状態で使ってこそ良質な検診が行えると考えられる。 【平成 22 年度報告】直接フィルムの総合評価では A・B 評価合計が 71%と昨年度より大幅に増加 した。間接フィルムやデジタルフィルムでも 51%、63%と同様に増加しており、A 評価の割合は 変化がないため B 評価の増加が原因である。これは提出された全体のフィルムが均質化されてい ることを意味している。ただし、誰がみても間違いなく A 評価、というフィルムが減っている印 象も残ったため、今後の精度管理に今まで以上に注意する必要性を感じた。デジタルの画像評価 では、日本国内の医療機関で最も多く取り入れられている性能の読影用モニタを使用し、フィル ムや性能やメーカーごとの比較を行った。参加者の意見をまとめると、胸部エックス線写真には 3M のモニタを用いることが理想であるが、2M のモニタでも対応は可能であるとの結果であった。 ただし、同じ 2M のモニタであっても、輝度レベルが低いものに関しては胸部の読影で支障がある ことが判った。モニタの性能が画質に与える影響に注意が必要である。 ⑫MGIT 960 を用いた二次抗結核薬の薬剤感受性検査 【研究担当者】青野昭男、水野和重、近松絹代、菅本鉄広、山田博之、御手洗聡 【目的】現在 MGIT 960 を用いることで結核菌薬剤感受性検査を迅速に実施することが可能である が、使用できる薬剤は SM、INH、RFP、EB、PZA の 5 薬剤である。細菌検査管理システム EpiCenter (BD)用に開発された MGIT 960 薬剤感受性検査測定用ソフト TB eXiST は既存の薬剤以外の薬剤 感受性検査を研究開発するためのものである。この TB eXiST を用いて二次抗結核薬である Kanamycin(KM)、Amikacin(AMK)、Capreomycin(CPM)、Ofloxacin(OFLX)の薬剤感受性検査を 実施した。 【方法】菌株は Supra-national Reference Laboratory Network で実施された薬剤感受性検査外 部精度保証プログラムにおいて、基本的に施設間で 80%以上の判定一致率を示した 10 株を用いた。 株の構成は KM が感受性 2 株と耐性 7 株、AMK が感受性 4 株と耐性 5 株、CPM が感受性 3 株と耐性 6 株、OFLX が感受性 10 株である。薬剤含有 MGIT チューブは各薬剤の最終濃度が KM 2.5µg/ml、AMK 1.0µg/ml、CPM 2.5µg/ml、OFLX 2.0µg/ml になるように調製した。菌液は McFarland 0.5 の菌液を 5 倍希釈したものを接種菌液とし、各薬剤含有培地に 0.5ml 加え、また発育コントロール培地(GC) には接種菌液の 100 倍希釈を 0.5ml 加えた。 培養・測定は MGIT 960 を用いて行い、TB eXiST で結果の判定を行った。判定は GC が陽性時に 陽性を示した薬剤が耐性、GC 陽性後 7 日以内に陽性を示したものが中間、GC 陽性後 7 日まで発育 が認められないものを感受性とした。 【結果】KM と OFLX については 10 株全て標準法と一致していた。AMK で感受性株 2 株を中間と判 定し、CPM で感受性株 1 株を耐性と判定し結果の乖離を認めた。二次薬検査に関する TB eXist の 有用性が示唆された。更に試験株数を増やし、MGIT 960 を用いた二次抗結核薬の薬剤感受性検査 について評価をする予定である。 【結核対策への貢献】二次結核薬の感受性検査を迅速化することにより、効率的な耐性結核患者 管理が可能となる。 ⑬発光ダイオード(LED)蛍光顕微鏡の相対性能評価 【研究担当者】菅本鉄広、青野昭男、水野和重、桑原龍児、近松絹代、山田博之、御手洗聡 【目的】現在市場には異なる 3 社の LED 蛍光顕微鏡が流通している。それぞれの製品を個別に評 価した研究はあるものの、直接に同じ検体で比較した報告はない。今回 3 社の LED 蛍光顕微鏡の 臨床的精度と実用性を同一の検体で直接相互評価した。 5 【方法】複十字病院において、2010 年 7 月から 8 月までに抗酸菌感染症の診断及び経過観察を目 的として提出された 351 検体を対象とした。検体材料の内訳は、喀痰 313、気管支洗浄液 14、胸 水 7、胃液 3、その他 14 であった。結核菌検査指針に従って検体を前処理後集菌し、オーラミン 染色を実施したあと、通常の水銀灯蛍光顕微鏡にて 200 倍拡大で観察した。鏡検済みの検体は直 ちに遮光・室温保存し、結核研究所抗酸菌レファレンス部細菌検査科で異なる 3 種類の LED 蛍光 顕微鏡(Fluo LED、Lumin kit、Primo Star)を用いて 3 日以内に二重盲検試験を実施した。結果 判定および記載は結核菌検査指針に従って行った。また、複十字病院にて BACTEC MGIT 960 ある いは 2%工藤培地にて培養検査を実施した。水銀灯蛍光顕微鏡による観察と LED 蛍光顕微鏡による 観察はバイアスを防ぐために別の鏡検者がそれぞれ独立して実施し、2 者の結果に不一致が生じた 場合は、第 3 者が正否を判定した。 【結果】水銀灯蛍光顕微鏡による結果を基準として感度、特異度、κ指数を算出した。Fluo LED は感度 92.3%、特異度 89.3%、κ指数 0.789 であった。 同様に Lumin kit は 感度 88.0%、特異度 94.4%、κ指数 0.827 であり、Primo Star は感度 94.9%、特異度 94.9%、κ指数 0.886 であった。 さらに、水銀灯を含めた 4 者の相互比較(コクランの Q 検定)では、4 者間に差異があるという結 果になり、相互比較では水銀灯と Fluo LED との間に有意差があった(水銀灯 vs Fluo LED : P value= 0.00607)。培養を評価基準とする比較については、感度と特異度のカイ二乗検定をそれぞれ水銀 灯に対して実施してみたが、有意差は認められなかった。 【結核対策への貢献】LED 蛍光顕微鏡の精度を正しく評価することで、日本国内における抗酸菌塗 抹検査を改善することができる。 ⑭LAMP 法を用いた結核菌群簡易迅速検出キットの臨床評価 【研究担当者】御手洗聡、豊田恵美子、奥村昌夫(各施設での研究代表者) 【目的】結核は現在も重要な感染症であり、感染制御上迅速な診断が必須である。栄研化学が開 発した LAMP 法による結核菌群簡易迅速検出キット(LAMP キット)は、Procedure for Ultra Rapid Extraction (PURE)法と組み合わせにより、検体受領から 1 時間以内で検査が終了する。同キット の臨床的有用性を評価した。 【方法】結核予防会複十字病院と国立病院機構東京病院にて結核疑いの患者より喀痰検体を 2 日 連続で採取した。PURE 法により喀痰を直接(未処理検体)あるいは NALC-NaOH 処理した検体(前 処理検体)から核酸を抽出し、LAMP キットによる結核菌群検出を行った。同じ検体について蛍光 抗酸菌塗抹検査も実施した。前処理検体は MGIT 960(ベクトンデッキンソン)と小川培地(極東 製薬)を使用して培養に供した。抗酸菌培養陽性の場合は、菌種を同定した。同じ前処理検体を 使用し、アンプリコアマイコバクテリウムツベルクローシス(ロシュダイアグノスティックス) 及び TRCRapid M.TB(東ソー)でも核酸増幅検査を実施した。 【結果】160 名の患者から 320 検体を収集した。LAMP キットを未処理検体に用いた場合、塗抹陽 性・培養結核菌陽性検体における診断感度は 98.2% (95%CI: 94.9 - 99.4)であった。同様に塗抹 陰性・培養結核菌陽性検体では 55.6% (95%CI: 43.4 - 68.0)であった。これらの診断感度はアン プリコア及び TRCRapid M.TB と同等であり、有意な差を認めなかった。 LAMP キットは現在一般に使用されている核酸増幅法と比較しても遜色ない結核診断感度を有し ていた。喀痰を直接検査することが可能なうえ、抽出が簡易で試薬調製も不要であるため、迅速 性と簡易(利便)性の点で優れていると考えられた。 【結核対策への貢献】複雑な機器を使用しない迅速検査キットの開発により、臨床での結核診断 の改善が期待される。 【論文】Satoshi Mitarai, Masao Okumura, Emiko Toyota, Takashi Yoshiyama, Akio Aono, Akiko Sejimo, Yuka Azuma, Keiko Sugahara, Toru Nagasawa, Naohiro Nagayama, Akira Yamane, Ryozo Yano, Hiroyuki Kokuto, Kouzou Morimoto, Masako Ueyama, Motoko Kubota, Rina Yi, Hideo Ogata, Shoji Kudoh, Toru Mori. Evaluation of a simple loop-mediated isothermal amplification test kit for the diagnosis of tuberculosis(Int J Tuber Lung Dis: in press) 2)治療法に関する研究 ①新規抗酸菌治療薬の開発・評価と評価方法に関する研究(継続) 〔新抗結核薬・化学療法プロジ ェクト〕 【研究担当者】土井教生、福田麻美 【目的】慢性結核感染モデルにおける併用治療条件下で DC-159a と moxifloxacin の in vivo 効果 6 を比較評価した。 【 方 法 】 BALB/c ♀ マ ウ ス に 結 核 菌 M. tuberculosis H37Rv 株 を 2.26 × 102 cfu/ マ ウ ス (log10CFU=2.35)を噴霧吸入感染させ、感染後 9 週間目から投薬治療を開始。肺と脾臓の臓器内菌 数の経時的推移を追究することにより各併用治療群の比較評価を行った。治療群は、2RDZ/2RD、 2RMZ/2RM、2RHZ/4RH;投薬用量は rifampicin:R 10mg/kg, DC-159a:D 100mg/kg、moxifloxacin: M 100mg/kg、isoniazid:H 10mg/kg、pyrazinamide:Z 150mg/kg。 【結果】DC-159a (100mg/kg)併用治療レジメン RDZ は RMZ および標準治療 RHZ を上回る併用治療 効果を示した。 a)肺内治療効果:RDZ>RMZ>RHZ RDZ 治療群は 8 週、RMZ 治療群は 10 週、RHZ 治療群は投薬 12 週間で肺内菌陰性化を達成した。 CFU の経時的な減少も RDZ>RMZ> RHZ の順位だった。 b)脾臓内治療効果:RDZ>RHZ>>RMZ RDZ 治療群は 6 週間、RHZ は 8 週間で脾臓内菌陰性化を達成した。RMZ 治療群は投薬 16 週間後 も脾臓内の菌陰性化を達成できなかった。 【結び】1)慢性感染モデルにおいて DC-159a を含む RDZ レジメンは、肺、脾臓とも moxifloxacin を含む RMZ、標準 RHZ の両レジメンを凌ぐ治療効果を示した。2)DC-159a 併用レジメン RDZ は、同 一用量の moxifloxacin 併用レジメン対比とくに脾臓内治療効果で顕著な有意差を示し、明らかに RMZ を上回った。 (3)結核の疫学像と管理方策に関する研究 1)結核サーベイランス情報を用いた結核疫学研究支援体制の構築に関する研究(継続) 【研究担当者】大森正子、伊藤邦彦、内村和広、山内祐子、吉山崇、星野斉之、村上邦仁子、下 内昭 【目的】結核の疫学研究者、基礎研究者、結核行政の従事者にも利用可能な情報の提供方法を検 討し、その体制を構築することを目的とする。 【方法】雑誌“結核”を通し約 10 回シリーズで疫学的解析結果を提供した。またその結果は、著 作権に配慮しつつ、疫学情報センターのホームページを通して広く一般にも提供した。 【結果】平成 22 年度中に雑誌“結核”に掲載された内容について、結果を報告する。2008 年に HIV 合併は 67 人報告され、うち 12 人(17.9%)が外国人であった。2008 年に培養陽性で薬剤感受性 検査結果が把握された肺結核 4,332 人中多剤耐性は 48 人(1.1%)であった。2008 年に新規登録され た結核患者中再治療は 1,836 人(7.5%,治療歴不明 424 を除く)であったが、前回治療開始年で最も 多かったのは前年の 2007 年で、2008 年も含めると再治療者の 12.0%に相当した。PZA を含む 4 剤 処方は、15-79 歳の 74.5%(化療なし・不明を除く)に実施されていた。喀痰塗抹陽性初回治療で 入院治療を開始した者の平均入院期間は 69 日(中央値)であった。2008 年の年報から 2007 年に 登録した喀痰塗抹陽性初回治療の治療成績は、治療成功が 45.5%、死亡が 18.4%、失敗脱落が 6.0%、 転出が 3.2%、12 か月を超える治療が 12.0%、判定不能が 14.9%であった。治療成績の死亡は治療 中の死亡であるが、すべての死亡に関していえば、喀痰塗抹陽性初回治療の 22.5%は 1 年目までに 死亡していた。2009 年年報を用いた分析と雑誌“結核”への掲載は、 「Series 1.結核発生動向速 報」だけであるが、 「Series 10.治療成績と死亡」まで 10 回シリーズすべての投稿は終了し、Series 4 までは掲載が決定している。 【結核対策への貢献】結核サーベイランスから得られる情報を多くの結核対策関係者が共有する ことで、結核研究の向上に大きく貢献すると考えられる。また、地域の結核対策関係者も、これ まで以上に EBM に基づく結核対策活動が実施可能になると思われる。 2.特別研究事業 (1)結核対策制度改正の効果・影響に関する研究 【目的】届出基準及び接触者健診の実施方法の変更に伴う潜在性結核感染症の動向と入退院基準改 訂による影響を検討することを目的とする。 【方法】平成 19 年 6 月に届出基準が改訂され、潜在性結核感染症の概念が導入された。これによっ て従来の「初感染結核」の対象が 29 歳以下であったのに対して、年齢制限が撤廃され、過去の感染 であっても免疫抑制剤の使用など発病リスクが高くなっていると考えられる者も対象に加わった。 また、平成 22 年 6 月に発表された「接触者健康診断の手引き」(改訂第 4 版)によって、接触者健 7 診実施の際に実施するクォンティフェロン適用年齢は概ね 50 歳以下であったのが、撤廃された。こ れによる届出への影響を分析する。 退院基準は平成 17 年の結核予防法の改正の際に、菌の消失の確認が「2 週間に 1 回喀痰塗抹また は培養による結核菌検査を行い、連続して 2 回陰性であることが確認」とされたのが、平成 19 年感 染症法に統合されたのち 8 月に「異なった日の喀痰検査にて、連続 3 回の培養検査結果が陰性」に さらに改訂され、同時に最低 2 週間の標準的化学療法が実施され、咳、発熱、痰等の臨床症状が消 失し、患者が治療継続及び感染拡大防止の重要性を理解しており、かつ、退院後の治療継続及び他 者への感染の防止ができると確認できている場合には「異なった日の喀痰検査により、連続 3 回し て塗抹検査結果が陰性又は培養検査結果の陰性」で退院できることなった。 【結果】2009 年 1 月から 2010 年 5 月までの潜在性結核感染症の届出は月平均 280 程度であったのが、 6 月以降 2011 年 2 月までの間は、344, 322, 412, 381, 422, 548, 485, 448, 638 と明らかに増加 している。2009 年と 2010 年の届出数は 20-49 歳と 50-74 歳の 2 群に分けて集計すると、 前者は 2,478 から 2,838 と 15%の増加であったのに対して後者は 562 から 973 と 73%増加していた。 届出増加の要因の一つはクォンティフェロン検査を実施できない地域が少なくなり、普及が進ん でいることが考えられる。また、免疫抑制剤の使用に伴う潜在性結核感染症の届出に関する理解が 少しずつ広まっているものと思われる。しかし、制度変更が 6 月であったにもかかわらず、50 歳未 満と以上での年齢群での増加率の明確な違いから、接触者健診実施方法の差が大きく関係している ものと推定された。これによって、最近の感染した者からの発病が減少することが期待される 平成 12 年以降の結核病床の平均在院日数は 96.2 , 94.0, 88.0, 82.2, 78.1, 71.9, 70.5, 70.0 と減少していたが,平成 20 年以降 74.2, 72.5 と推移しており、基準の変更によって若干延長したよ うに見える。しかし、都道府県による差は極めて大きく、高齢化が進行している地域で在院期間が 長い傾向があるが、高齢患者が多いにも関わらず、地域連携の導入に伴って在院期間が短縮した地 域もある。また、新基準では喀痰検査は「異なった日」とされていることから、退院に向けて検査 間隔を短縮することによって在院期間を短縮させた医療機関も報告されている。 (2)集団感染の発生状況に関する研究 【目的】「接触者健康診断の手引き」が策定され、クォンティフェロンの導入と適用拡大、分子疫学 調査・研究の導入拡大により集団感染事件報告に影響を受ける可能性がある。これらのことから実 態を把握し、原因を明らかにすることを目的とする。 【方法】厚生労働省への報告、公表データ、結核研究所への相談事例等から発生状況を分析する。 【結果】年間の発生事例数は平成 14 年から 19 年まで平均 40.5 例、37 例から 47 例の間に分布し大 きな変化はないが、学校と高齢者・医療施設における発生は減少しているのに対して、不特定多数 及び家族・親族・サークル等の割合が高めに推移している。この背景としてクォンティフェロンが 利用できない地域が少なくなっていることから、その高い特異性(偽陽性がほとんどない)から学 校での集団感染事件に発展する事例が減ったためと考えられる。また、近年、分子疫学調査が広く 行われるようになっており、集団感染事件の特定に有用な方法であることが明らかになっている。 複数自治体の事業所が関係した事例では VNTR 法によって全株が同一のパターンを示したことから、 事業所間を転勤した患者が感染源となった。高齢者施設内では同時多発例か集団感染の鑑別が重要 であるが、遺伝子タイピングで菌株のパターンが一致したことから集団感染であることが明らかに なった。また、職場・交流関係・パチンコ店・大学と多様な場で 16 人の発病者と 12 人の感染者を 巻き込んだ事例も報告されている。 平成 23 年 4 月に改訂・公布される結核に関する特定感染症予防指針に関する厚生科学審議会結核 部会でも接触者健診の強化のために結核菌の分子疫学的調査手法を積極的に取り入れることが重要 と議論されている。 (3)バイオインフォマティクスによる結核菌機能解析 【目的】近年コンピュータ性能の向上やバイオ技術の進展によって大量の遺伝学的情報が比較的容 易に入手できるようになっている。現在の結核蔓延状況は遺伝学的に異なる結核菌の亜株によって 構成された流動状態であり、細菌学的に異なる形質の発現の結果と考えられる。結核菌亜株間の感 染力の強弱等の形質的差異を反映していると思われる疫学的状況に関する情報や、細菌学的遺伝子 発現プロファイル等の情報が集積されつつある現在、統計学的あるいは数学的技術を利用したバイ オインフォマティクスの考え方を取り入れて、結核菌形質機能解析を試みる。 【方法】臨床分離結核菌の遺伝情報を、分子疫学解析から得られた情報や in vitro での競合アッセ 8 イに基づいて得られた知見に基づいて解析し、遺伝子機能予測や分類を実施する。これによって結 核菌の感染動態を左右する遺伝情報解析が進展する可能性がある。 【結果】PMA と IFN-gamma で活性化した THP-1 細胞に H37Rv 及び臨床分離結核菌株をそれぞれ競合感 染させ、感染後から 1 日目までの菌量の相対比の変化率に臨床分離株のクラスターサイズとの相関 を認めた。全国規模でのクラスター形成は一定の毒力を反映していると考えられ、競合感染による 結核菌毒力の相対評価の有用性が示唆された。 【結核対策への貢献】結核感染に関する菌側の因子(毒力)を評価することにより、接触者検診の 実施等に関して有用な情報の提供が期待される。 3.結核発生動向調査事業 (1)結核発生動向調査事業 1)有効な結核サーベイランスシステム構築のための研究(新規) 【研究担当者】内村和広、山内裕子、大森正子 【目的】結核対策において国内の結核罹患状況の正確な把握は必須であり、結核サーベイランス システムは、その基盤となるものである。現在、計算機およびネットワークの発達からより有効 かつ効率的なシステムの可能性が開かれている。そこで今後の有効な結核サーベイランスシステ ム構築のための基礎的な調査、研究を目的とする。 【方法】現在のサーベイランスシステムのデータ構造を検証し、より有効な構造をもつことがで きないか、現在の履歴データ構造の改善を中心に実験した。 【結果】現在の結核サーベイランスシステムにおける履歴構造を整理し、簡素化可能なデータ構 造を設計し結核サーベイランスの実データから現状との間で齟齬が発生しないか検証実験した。 実験したデータ構造は履歴情報で最も主要な菌検査結果について登録時と年末時の 2 履歴に集約 した。ただし登録から 6 カ月以内の菌陽性情報は総合患者分類に反映されるため独立項目として 設定した。使用薬剤情報はコホート情報と統合した。現状システムとの間で総合患者分類判定の 齟齬は認められなかった。履歴簡約化によって入力者の菌情報を主とした負担軽減が期待され情 報精度向上が期待される。今後公費負担情報の随時処理が検討課題として残っている。 【結核対策への貢献】結核サーベイランスシステムの改善が可能となればより正確な結核疫学、 患者情報の把握につながり結核対策に有用である。またシステムの改善は保健所、行政現場にお いても負担の軽減につながると考えられる。 (2)結核発生動向調査地域情報解析事業 1)地域における結核登録者情報調査情報の解析と精度改善に関する研究(新規) 【研究担当者】大森正子、内村和広、山内祐子、伊藤邦彦 【目的】結核サーベイランス情報の入力率向上と情報の精度改善にむけた体制の構築作りを目的 とする。 【方法】技術支援として、研修・Web を通し Q&A、活用方法等を指導・公開するとともに、2009 年の年報集計前に、結核研究所から自治体へは事務連絡の形で入力上の留意点について指導を行 った。2009 年の年報集計途中のデータを用い、システムから自動的には出力されないがエラーの 可能性があるものについて出力し、問い合わせを実施した。この作業は年報集計中 2 回実施した。 【結果】HIV 陽性 82 人中 26 人(32%)は修正が必要であった。生年月日入力エラーの存在が考えら れたが、中央では年齢は月齢までしかわからないため、0 歳 0 ヶ月 15 人について問い合わせた。 結果 7 人(47%)について修正が必要であった。100 以上 27 人はすべて正しかった。活動性で単剤治 療の 94 人中 57 人(61%)は修正されたが、その他は単剤のままと言う回答であった。潜在性結核感 染症の治療者で 2 剤以上使用者 25 人中 17 人(68%)は修正されたが、その他は複数薬剤使用のまま という回答であった。その他、矛盾する職業についても確認を求めた。薬剤耐性率(%)は、培養陽 性が確認された者の内、薬剤感受性が把握された者を分母に算出しているが、2008 年から 2009 年にかけて、肺結核中培養検査結果把握率は 63%から 75%へ、培養陽性中感受性検査結果把握率は 46%から 63%へ向上した。システム入力方法の周知に自治体の担当者に直接伝える介入策は効果が 高かった。 【結核対策への貢献】わが国の結核の疫学について、より正確な情報を提供することに貢献した。 9 4.抗酸菌レファレンス事業 (1)WHO Supranational Reference Laboratory 機能(継続) 【研究担当者】近松絹代、水野和重、山田博之、御手洗聡 【目的】フィリピン、カンボジア及びモンゴル国における結核菌薬剤検査の精度保証 【方法】パネルテスト目的で耐性既知の結核菌株を送付し、結果を評価する。カンボジアおよびモ ンゴルのレファレンス検査室には 30 株、フィリピンのレファレンス検査室には 60 株(30 株×2)の パネルテスト株を送付した。 【結果】モンゴルおよびフィリピンから結果を受領した。Isoniazid (INH), Rifampicin (RFP), Kanamycin (KM), Capreomycin (CPM), Ofloxacin (OFLX)の検査精度は表の通りであった。 モンゴル(30 株) INH RFP KM CPM OFLX 感度 100% 88% 100% 100% 100% 特異度 100% 100% 100% 100% 96% 一致率 100% 93% 100% 100% 97% フィリピン(60 株) INH RFP KM CPM OFLX 感度 100% 97% 97% 96% 100% 特異度 100% 96% 96% 97% 100% 一致率 100% 97% 97% 97% 100% INH および RFP に関して感度・特異度 95%以上、全ての対象薬剤について一致率 90%以上の基準を 適用すると、フィリピンについては基準を達成していた。 【結核対策への貢献】WHO Western Pacific Region における Supra-national reference laboratory として、薬剤耐性サーベイランスの精度評価を通じて、アジア地域の結核対策の評価に貢献する。 【 論 文 】 Buyankhishig B, Naranbat N, Mitarai S, Rieder H L. Nationwide survey of anti-tuberculosis drug resistance in Mongolia(Int J Tuber Lung Dis:in press) (2)クォンティフェロン®TB 検査と実技講習(継続) 【担当者】関谷幸江、樋口一恵、原田登之、青木俊明 【目的】結核感染診断試薬クォンティフェロン®TB-2G(QFT-2G)検査は、既に診断薬として認可を 受け、また保険収載もされている検査法であり、現在 QFT-2G 検査を受託している施設は増えつつあ る。しかし、各検査施設における検査精度にはバラツキも見られることから、結核研究所において も引き続き QFT-2G 検査を受託し、高精度の検査結果を出す必要がある。さらに検査を受託しようと する施設は、検査手技の研修を受けるよう結核病学会のガイドラインに記載されているため、今後 も研修受講を希望する施設があると予想される。また、平成 22 年 1 月より次世代のクォンティフェ ロン®TB ゴールド(QFT-3G)が発売されたが、技術的に十分注意を払うべき点を持つ。従って、今年 度は QFT-2G および QFT-3G の検査依頼を受け入れ、かつ QFT-3G の講習も行い、質の高い実技研修を 提供することにより信頼度の高い検査施設の確立を助長する。 【方法】ホームページ、あるいは関連学会等で QFT-2G と QFT-3G 検査受託、および研修の情報を提 供する。 【結果】平成 22 年度の QFT-2G 検査依頼数は 1,292 検体であり、QFT-3G 検査依頼数は 6,436 検体で あった。QFT 検査実技講習への参加者総数は 24 施設 28 名であり、全て QFT-3G 検査講習であった。 また、実技講習を受けた施設には、QFT 検査および結果の関する種々の質問に対応した。 【結核対策への貢献】信頼度の高い検査施設の確立、および高精度の検査結果の提供は、質の高い 結核対策に直結するため貢献度は非常に高いと考えられる。 (3)動物実験施設における研究支援の業務活動(継続) 【業務担当者】宇田川忠、土井教生 [動物実験科] 【目的】所内外の研究者による各種の基礎研究(結核感染発病の病理学的機序解明、新抗結核薬・ 新しい化学療法・次世代の結核ワクチン・新臨床診断ツールの評価・研究・開発)において、実験 動物を用いる実証的な研究は重要な構成要素である。バイオハザード P3 感染動物実験施設を擁する 本施設では、必要に応じて質の高い研究業務が遂行できるよう十分な安全性を確保し、研究環境を 10 整え、各種の結核・基礎研究における動物実験を支援する。 【方法】1) 実験動物施設内の清掃。2) 電気・照明・空調設備とセキュリティー・防災・危機管理 の点検と整備。3) バイオハザード・クリーン動物飼育施設での技術サービスの提供。4) 研究設備・ 備品の点検とメンテナンス業務。 【結核対策への貢献】本施設内のバイオハザード P3 感染動物実験施設は国内では数少ない貴重な実 験設備である。結核の基礎研究分野の動物実験は長期間を要する場合が多く、研究を円滑に進める ために、上記の支援・サービス業務は間接的ながら各種研究課題の遂行に不可欠の業務である。 5.厚生労働省新興・再興感染症研究事業 (1)治療に協力的でない患者への法的強制力に関する研究(継続) 【研究担当者】伊藤邦彦 【目的】治療に協力的でない患者に対する有効かつ妥当な法的強制力の構築に資するため、感染症 患者への法的強制力発動の理論と条件を調査研究する。 【方法】米国/英国/欧州の法学および医学関連の英語文献および本邦の関連する法学および医学 関連文献のレビュー。 【結果】強制措置の条件として、強制措置の目的の妥当性,強制措置の有効性の科学的見込み,個別 アセスメント、有意なリスクの存在、比例原則、least restrictive alternative の原則、適正手続 きが挙げられた。本邦での強制措置制度構築のためには、現在よりも幅広い患者支援の提供など多 くの課題が解決されねばならないことが示唆された。論文として発表(伊藤邦彦.治療に非協力的な 結核患者への法的強制力.結核.2011.印刷中) 【結核対策への貢献】治療に協力的でない患者に対する有効かつ妥当な法的強制力の構築に資する。 (2)予防内服レジメ 3HR の妥当性に関する研究(継続) 【研究担当者】伊藤邦彦 【目的】予防内服レジメ 3HR の妥当性に関する臨床試験の準備として過去に INH+RFP のみで治療を 開始された患者の副作用中断率を調査する。 【方法】1978‐2002 年に複十字病院で活動性結核患者に対し INH+RFP のみで治療開始された患者の チャートレビュー。 【結果】対象 312 人中、治療経過不明 19/3 ヶ月以前自己中断 9/3 ヶ月以前死亡 5/3 ヶ月以前に耐性 判明し治療変更 1/3 ヶ月以前に転出1/3 ヶ月以前に副作用や耐性を理由としない治療内容変更 38 の計 73 名を除き 239 人が対象となった。3 ヶ月までの副作用中断率は全体で 10.5%(25/239)で、 過去に調査した一健/渋谷診療所の INH 単独予防内服での副作用中断率 5.6%(46/825)よりも高率で あった(p=0.798)。中断理由副作用の内容のうち肝障害 3.8%(9/239)で、過去に調査した一健/ 渋谷診療所の INH 単独予防内服での肝障害による副作用中断率 3.2%(26/825)よりも若干高率であ った(p=0.783) 。肝障害以外ではアレルギー13(詳細不明 4,発熱 3, 皮疹 6)、下痢1、食欲不振 1 であった。年齢別では 29 歳以下では副作用中断率 0%(0/59) 、30~49 歳で 10%(8/80)、50~69 歳 で 19.1%(9/47)、70 歳以上で 22.2%(8/28)であった。3HR は INH 単独に比べると副作用中断率 が若干増加する傾向にあるが、若年者においては比較的安全に処方し得る可能性が示された。 【結核対策への貢献】潜在性結核感染症治療の効率的施行拡大に資することで結核罹患率減少に寄 与する。 (3)結核医療の質指標(QICC/Quality index of clinical care)の作成に関する研究(継続) 【研究担当者】伊藤邦彦 【目的】結核医療の質指標(QICC/Quality index of clinical care)を作成し、結核医療の質を実 際に評価することで結核対策の改善を図る 【方法】サーベイランスデータを用い、QICC の候補(となり得るものを探り QICC としての妥当性を 調査する 【結果】結核医療は大きく診断と治療に分けられるが結核対策の根幹は治療であるため、本研究で は主に治療面における質の指標開発に関する検討を行った。結核対策の面から見た結核治療の主目 的とは、感染性結核患者の感染性を消滅させること、ないしは将来感染性になる/再び感染性にな る可能性をできるだけ消滅させることであり、これによって感染サイクルを断ち切ることが結核対 策の根本である。このためには結核の治療はできるだけ耐性化させることなく確実に治癒せしめる ような治療方針であることが求められる。特に耐性化の問題は世界的にも深刻化しつつあるが、本 11 分担研究者の過去の研究から、結核治療に大きな問題がある場合には多くの場合副作用への対応に 問題がある場合が多いことが判明している。このことから 2008 年新登録結核患者のコホートを用い て、RFP 中断率や 300 日を越える治療期間の割合などを年齢別に検討したが、情報不明割合が比較的 高く指標としての妥当性は疑問であった。 【結核対策への貢献】結核対策の重要な指標として機能し得る。 (4)菌バンク機能の活用及び病原体サーベイランスの構築(継続) 【研究担当者】御手洗聡、水野和重、近松絹代、青野昭男、山田博之 【目的】結核菌の病原体サーベイランスシステムを確立する。 【方法】結核菌検査・保管施設の有用性、効果的・効率的運用を検証する。病原体サーベイランス システムに関しては、全国から結核菌検査を受託している民間検査機関における薬剤感受性、遺伝 子タイピング等の情報を集約するシステムを検討し、有用性と問題点を明確にする。また、地方衛 生研究所全国評議会のネットワークを基盤にして、結核菌以外の病原菌サーベイランスで培われた 地域レファレンス機能の結核への応用について検討する。 【結果】結核菌検査・保管施設では 2010 年度に結核菌検査に関するレファレンス機能として、国内 82 施設・海外 4 施設(輸出 150 株・輸入 200 株)に対して薬剤感受性検査外部精度評価を実施した。 また非結核性抗酸菌を含む同定・薬剤感受性検査等を 42 件実施した。さらに多剤耐性結核菌の細菌 学的研究のために 5 株を国内研究機関に分与しており、結核菌の Specimen Bank としての有用性が 示された。第 14 回目となる結核療法研究協議会(療研)全国耐性結核菌サーベイでも中心的役割を 果たしており、病原体サーベイランス上の有用性が明確となった。 検査センターが日常業務で蓄積した結核菌とその薬剤感受性検査データをサーベイランスに利用 する目的で、株式会社ミロクメディカルラボラトリー、株式会社ビー・エム・エル及び株式会社三 菱化学メディエンスに協力を依頼し、10,815 株分の薬剤感受性検査データを収集した。このデータ から重複を除外して地域分布を補正し、最終的に 2,700 症例分の耐性情報を得ることが可能であっ た。これを前述の第 14 回療研調査のデータと比較したところ、ほぼ同じ結果が得られた。結核菌株 に付随する臨床情報(年齢・性別)が不完全であり、未治療・既治療の区別もできないなどの欠点 はあるものの、日本全国の精度保証に基づいた結核菌耐性状況を迅速に提供できる点でサーベイラ ンス上の有用性があるものと考えられた。 衛生研究所に病原体サーベイランスを実施する上での技術的背景があることは示されたが、サー ベイランスを実施する根拠や経費上の問題が認められた。衛生研究所に適切な法的背景を付与する ことにより、行政主導型の病原体サーベイランスを実施することが可能であると考えられた。 【結核対策への貢献】結核菌に関する病原体サーベイランスは、薬剤耐性結核菌の発生状況のモニ ター及び分子疫学的調査に基づく感染動向の把握に有用である。 【論文】近松絹代、水野和重、青野昭男、山田博之、菅本鉄広、西山裕之、御手洗聡. GenoType® MTBDRplus による多剤耐性結核菌同定に関する検討. 結核誌投稿中(in press) 1.Ando H, Mitarai S, Kondo Y, Suetake T, Kato S, Mori T, Kirikae T. Evaluation of a line probe assay for the rapid detection of gyrA mutations associated with fluoroquinolone resistance in multidrug-resistant Mycobacterium tuberculosis. J Med Microbiol. 2011; 60: 184-188. 2.Yamada H, Mitarai S, Chikamatsu K, Mizuno K, Yamaguchi M. Novel freeze-substitution electron microscopy provides new aspects of virulent Mycobacterium tuberculosis with visualization of the outer membrane and satisfying biosafety requirements. J Microbiol Methods. 2009; 84: 627-659. 3.Ando H, Mitarai S, Kondo Y, Suetake T, Sekiguchi JI, Kato S, Mori T, Kirikae T. Pyrazinamide resistance in multidrug-resistant Mycobacterium tuberculosis isolates in Japan. Clin Microbiol Infect. 2010; 16: 1164-1168. 4.近松絹代、水野和重、山田博之、御手洗聡.多剤耐性結核菌における Rifampicin と Rifabutin の 交差耐性の検討.結核 2009;84:631-633. (5)地理情報システム(GIS)を用いた結核疫学分析の研究(継続) 【研究担当者】内村和広、大角晃弘、山田紀男 【目的】地理情報システムを用いた結核疫学分析の方法および結核対策への応用を研究する。 【方法】結核菌遺伝子型別分析から得られた同一菌株クラスタ形成群、および非クラスタ群の情報 を地理情報システム上にマッピングし、平均最近隣距離分析により集積度分析を行った。 12 【結果】新宿区と共同研究を行っている結核菌分子疫学情報をもとに、RFLP 法による結核菌遺伝子 型別分析情報および保健所による患者所在地情報(居住地および日中所在地)が判明した 423 例の マッピングを行った。日中所在地についてクラスタ群と非クラスタ群で平均最近隣距離分析を行っ た結果、集積度の度合を示す z-score(値が小さいほど集積度が大きい)はクラスタ群が-17.7、非ク ラスタ群が-10.6 とクラスタ群での集積度が高い結果を得た。これは昼間所在地に示された場所でよ り感染伝播が起こっていることを示唆した。しかしこの結果は住所不定者の影響が大きいため、一 般人口に限定し分析を行った。患者居住地でのクラスタ群と非クラスタ群の集積度はそれぞれ-18.0 と-14.0 でクラスタ群の集積度が高かった。一方、クラスタ群での日中所在地の集積度は-12.2 と居 住地に比べ低かった。この結果は家族内感染の影響に加え、日中所在地情報不明(日中所在地が区 外も含まれる)の影響も大きいと考えられる。対象数および情報精度の向上が課題である。現在ク ラスタ群のマッピング情報と感染のリスクと考えられる要因(ネットカフェなど不特定多数の集ま る場所など)との関連分析を進めている。 【結核対策への貢献】地理情報システムを用いた視覚的分析は対策現場において、その分かりやす さや他の情報との比較しやすさから有用と思われる。また現在起こっている結核感染伝播の地理的 分析が進めば、結核低蔓延化にともなう感染のホットスポットの解明および伝播防止の介入に有用 と考えられる。 (6)分子疫学的手法を用いた都市部地域における結核菌伝播状況と結核対策活動向上に応用するこ とに関する研究 (継続・一部新規) 【研究担当者】大角晃弘、内村和広、村瀬良朗、大森正子、下内昭、石川信克 【目的】結核菌 DNA 指紋型分析法である IS6110-RFLP 法と Variable Numbers of Tandem Repeats (VNTR)法を用いて、新宿区内及びその他の首都圏地域で新しく登録された全ての結核患者から分離 培養される結核菌の DNA 指紋型分析を行い、住所不定者等結核発病の危険性の高い結核患者を中心 として、都市部における結核菌の伝播様式を推定し、保健所を中心に実施されている都市部地域に おける結核対策活動の質的向上を図る。 【方法】新宿区内及びその他の首都圏内で新たに登録された結核患者から分離培養された結核菌を 結核研究所に送付し、VNTR 分析と IS6110-RFLP 法とを実施する。比較的短時間に分析結果が得られ る VNTR 分析については、その結果が得られた後速やかに保健所に連絡し、後日 RFLP 分析の結果を もって最終的な菌株クラスタに関する判断とする。新宿保健所では、得られた DNA 指紋型分析結果 に基づいて、接触者検診の範囲設定やその評価等に用いるとともに、結核菌の伝播状況の推定を行 う。GIS(Geographic Information System)や Social Network Analysis 等の手法を用いた結核菌伝 播状況の解析を試行する。 【結果】2010 年度は VNTR 分析の追加実施が行われず、IS6110-RFLP 法のみを継続して実施した。2011 年度以降、関係機関の再調整を行った上、開始するようにする。 【結核対策への貢献】日本の都市部におけるより効率的な結核対策を実施する上での基礎資料を提 供すると共に、結核菌の伝播状況に関する情報を提供し、より効率的な都市部の結核対策の改善に 寄与する事が期待される。 (7)都市部における結核感染の流行の特徴に関する研究(新規) 【研究担当者】大森正子、大角晃弘、村瀬良朗、内村和広、鹿住祐子、前田伸司 【目的】川崎市と共同(途中横浜市が参加)で結核菌分子疫学研究事業を実施し 7 年が経過した。 クラスターの疫学的な特徴や経年的な変化を追跡し、川崎市における結核感染の流行を明らかにす る。 【方法】2004 年から 2010 年 9 月まで 471 人についての RFLP 検査を実施した。このうち疫学情報(少 なくとも年齢情報)のある 360 人を解析の対象とした。解析は主に疫学的な背景の違いによるクラ スター形成率、クラスター内年齢差、規模の大きなクラスターについてその地域性についてである。 【結果】360 人中クラスター形成率は 40.8%であった。この割合は観察期間中 2006 年で最も高く 50.0% であった(2004 年は 33.3%、2010 年は 38.7%) 。年齢別では、15-19 歳の 6 人中 67%が最も高く、次 いで 40-49 歳の 53 人中 55%、最も低かったのは 80 歳以上の 47 人中 24%であった(年齢 p=0.013)。年 齢の他、統計学的に有意の差がみられた項目は、性(男 45%,女 27%,p=0.003)、職業(臨時日雇 57%, 家事 25%, p=0.050) 、保険(自費/無保険 57%,後期高齢者医療 23%,p=0.043) 、糖尿病合併(あり 53%, なし 38%,p=0.029)であった。同じクラスター内では年齢は相対的に近いことが多いが、2 人からな るクラスターで平均 12.3 歳の開きがあった。なお、すべてのクラスターで、全組み合わせの年齢差 13 をクラスター規模で調整して得た平均年齢差は 13.6 歳であった。川崎市 7 区(1 区はクラスター形 成なし)は、海岸から北西に並んでいるが、南部 2 区はクラスターの種類が大変似ており、また横 浜市とも傾向が似ていた。 これに対し北部 3 区はクラスターの傾向が南部とはかなり異なっていた。 なお、中央に位置する 1 区のクラスター形成率は低いが、南部 2 区と横浜市双方の特徴がみられた。 【結核対策への貢献】都市部における結核感染状況が患者の背景要因別に明らかになり、感染伝播 を抑制させるための効果的な施策をうつことが可能になると思われる。 (8)日本の都市間および都市内における結核状況の不均一性と都市要因に関する研究(継続) 【研究担当者】内村和広、大角晃弘、山田紀男、加藤誠也、石川信克/(WHO Kobe Center)Dr Francisco Armada 【目的】WHO Kobe Center が行っている「都市と健康問題に関する研究」のひとつとして「都市と結 核」の部分において共同研究を行う。 【方法】①人口流動と罹患率推移の関係を重点的に調べた。罹患率は高齢になるほど高い傾向があ るため地域間の年齢構成の影響を減ずるため、2002 年の日本人口を基準として直接法による調整を 行なった。2002 年から 2006 年にかけての罹患率の増減推移と、地域の 1 日の人口流動(昼間/夜間 人口比、通勤人口流入率)との関係を調べた。分析には他の因子の影響を考慮し、人口密度や失業 率などの社会経済因子を加えた重回帰分析を行った。②都市結核を特徴づける一面は、都市内部で の罹患状況の差の拡大と高罹患地域の局在化とも考えられる。そこで局在的に結核高罹患地域を想 定し他周辺地域との間の人口流動を考慮した疫学モデルの構築を試みた。モデル設定は一般地域と 罹患率比 3 倍、5 倍の地域を設定した。地域間の人口移動もパラメータとして設定した。対策効果と しては DOTS による治癒率、再発率の改善、積極的患者発見による感染期間の減少をパラメータとし て推定した。全体的罹患率傾向として一定の年間減少率を設定した。 【結果】①全結核と菌陰性結核については罹患率増減推移について人口流動との関係は見出せなか った。喀痰塗抹陽性肺結核初回治療罹患率については昼間/夜間人口比、通勤人口流入率ともに 5% 水準で統計的有意性をみた。すなわち昼間人口の方が多い地域/通勤人口の流入が大きい地域では罹 患率減少が鈍いという関係であった。その他に人口密度との相関もみられた。②罹患率減少ととも に高罹患地域が局在化していく遷移過程、および人口移動の罹患率に与える定量的影響を表現する ことができた。また、対策効果では高罹患率地域での積極的患者発見による感染期間減少の効果が 最も大きかったことを示した。 【結核対策への貢献】これからの結核低蔓延化にむけて日本の結核対策において重点となる都市部 の結核疫学構造の解明および効果的な結核対策の介入への資料となると考えられる。 (9)罹患構造の変化に対応した対策実施体制整備 【研究担当者】加藤誠也、石川信克 【目的】低蔓延状況になっているヨーロッパの国々において提起されている結核対策の課題を参考 に今後の我が国の結核対策のあり方を検討する 【方法】WHO European Region における各国の結核対策担当者の会議となっている Wolfheze Workshop に参加した。 【結果】以下のような議論があった。東欧米の多くの国では多剤耐性結核は未治療患者の 10%以上に なっており、その移民の影響でドイツでは多剤耐性結核患者の割合が増加する状況が生じた。結核 に関わる社会経済的要因として、グローバリゼーション、移民、都市化が問題になっている。世界 各国での刑務所における罹患率は極めて高く、入所者に対する健診等及び有症状者の発見に努める 必要がある。倫理・人権問題はとしては、貧困等の社会的要因や必要な対策と人権・自由との相反 等の問題がある。 欧米の先進国では患者中の外国生れの割合は高く、全体の罹患率に大きな影響を与えている。こ のため、新入国者健診が様々な方法で行われているが、効果・効率の観点から見直しが行われてい る。大都市結核のセッションがあったが、都市結核問題の概念は必ずしも明確になっていなかった。 【結核対策への貢献】今後、必要となる体制整備の基礎資料として重要である。 (10)結核菌薬剤耐性の実態調査(継続) 【研究担当者】御手洗聡、水野和重、近松絹代、山田博之、青野昭男 【目的】第 14 回耐性結核全国調査を 2007 年より実施し、薬剤耐性結核の実態を明らかにする。 【方法】結核療法研究協議会(療研)協力施設を中心に、結核病床を有する全国の病院施設から結 核菌を収集し、結核予防会結核研究所抗酸菌レファレンスセンター細菌検査科にて Isonizid、 14 Rifampicin、Ethambutol 及び Streptomycin について、小川標準法による薬剤感受性検査を実施する。 同時に薬剤治療歴などの臨床情報も併せて収集し、既治療・未治療耐性等を評価する。 【結果】2007 年 8 月〜2008 年 7 月までの 1 年間に 47 施設から 3,647 株の抗酸菌を受領した。最終 的に臨床データの得られた 2,292 症例(検体)について解析を実施した。2002 年の第 13 回調査との 比較では、各薬剤に対する未治療耐性(any resistance)に関して、耐性率が有意に増加あるいは 減少した薬剤は認められなかった。一方、既治療耐性の any resistance では、EB の耐性率が有意に 減少していた(p=0.011) 。さらに多剤耐性結核の比率が有意に減少(4.1% vs 9.8%, p=0.023)して おり、なかでも INH+RFP+SM+EB の比率の減少のみが有意であった(1.0% vs 4.6%, p=0.046)。地域 別で検討すると、近畿地区における既治療 MDR-TB の減少が有意(p=0.041)であった。 今回無作為に検体を抽出し、LVFX に対する耐性率も評価を行った。これにより、LVFX の未治療及 び既治療耐性率は 3.2%及び 6.1%と判明した。これは INH の未治療耐性にほぼ匹敵する耐性率であっ た。また、未治療耐性菌に占める Mono resistance の比率が 88.0% (22/25)であり、結核の治療とは 関係なく LVFX 耐性が増加していることが示された。 【結核対策への貢献】全国的な薬剤耐性サーベイランスを実施することで地域別、年齢別、性別等 での耐性の状況が明らかになるほか、検査法・検査施設ごとの感受性検査精度を評価することも可 能となる。 【論文】準備中(Int J Tuber Lung Dis 投稿予定) (11)結核菌の感染性・病原性の評価方法の開発(継続) 【研究担当者】御手洗聡、前田伸司、村瀬良朗、山田博之、水野和重、近松絹代、青野昭男 【目的】結核菌の毒力の強弱の評価 【方法】遺伝子タイピング技術を応用し、臨床分離結核菌の相対的感染力を、in vitro での競合ア ッセイを確立し評価する。また、すでに集団発生事例などで疫学的に感染力や発病率が明らかな結 核菌を標準として相対的な評価を行うことで、感染力(毒力)を評価する。 【結果】全国的病原体サーベイランスから得られた結核菌をクラスターサイズ別に 5 株準備し、H37Rv と比較対象結核菌株を等量混合した菌液を用いて競合感染実験を行った。感染系には THP-1 細胞を PMA と IFN-gamma で活性化して使用した。感染 3 日目には殆ど H37Rv だけが分離される状況となり、 感染 3 時間後から 1 日目までの菌量の相対比の変化率にクラスターサイズとの相関が認められた。 全国規模でのクラスター形成は一定の毒力を反映していると考えられ、競合感染による結核菌毒力 の相対評価の有用性が示唆された。 【結核対策への貢献】結核感染に関する菌側の因子(毒力)を評価することにより、接触者検診の 実施等に関して有用な情報の提供が期待される。 (12)結核菌型別データベース構築を目指した反復多型標準分析法の確立に関する研究(継続) 【研究担当者】前田伸司、村瀬良朗 【目的】結核菌型別データベース構築のために必要な分析技術と精度管理法の確立 【方法】型別データベース構築するためには、多くの異なる施設で分析した結果を集積する必要が ある。そのため、分析法や判断基準の確立や標準化を進めた。 【結果】自動シークエンサーを用いたフラグメント解析では、分析で常に加える内部標準分子量マ ーカーと 4 色の蛍光分析が可能である。このため、4 ローサイのプライマーを混合したマルチプレッ クス PCR の系を作成した。また、フラグメント解析用のプログラムの設定も行い、シークエンサー 使った VNTR 型別分析システムを構築した。 【考察】通常、1 株あたり 16 本の PCR 反応液を準備する必要があったが、マルチプレックス PCR 法 の導入により、4 本だけで済むようになった。また、VNTR 分析で最も重要で手間がかかり、また間 違いが生じやすい段階である PCR 産物からコピー数への換算が、解析プログラムの導入で迅速・正 確にできるようになった。高価な自動シークエンサーの利用ということが前提になるが、本システ ムの導入により、精度の高い型別データベースの構築に結びつくと考えられる。 (13)北京型結核菌の細菌学的・臨床学的特性に関する研究 (継続) 【研究担当者】村瀬良朗、伊藤邦彦、吉山崇、大角晃弘、御手洗聡、前田伸司 【目的】結核の再発は、内因性再燃だけでなく、外来性再感染発病によっても生じるが、我が国に おける実態は不明である。本研究では、①再燃と再感染の割合、②再燃と再感染の鑑別における VNTR 法の有用性、③北京型結核菌感染と再発の相関、について評価する。 【方法】2001~2010 年に結核予防会複十字病院において再発治療がおこなわれた 43 症例を対象とし 15 た。VNTR 法として JATA(15)-VNTR と optimized 15-loci MIRU-VNTR を用いた。 【結果】従来法である RFLP 法と VNTR 法の鑑別結果は全ての症例で一致しており、39 症例(91%)は 再燃、4 症例は再感染であると鑑別された。再燃症例から分離された菌の遺伝系統を調べたところ、 その大半(83%)が北京型結核菌感染による発病であることが判明した。 【結核対策への貢献】現在、全国的な導入が進められている VNTR 法が、再燃・再感染の鑑別におい ても従来法と同様に有用であることが示された。 (14)結核リスク集団における新結核診断技術の特性と改良に関する研究(継続)[診断プロジェク ト] 【研究担当者】原田登之、樋口一恵、関谷幸江 【目的】現在、結核菌特異抗原で血液、あるいはリンパ球を刺激し産生されるインターフェロン- γを測定することにより感染診断する新たな免疫学的結核感染診断法 IGRA(Interferon-Gamma Release Assays)が、特に潜在性結核感染を診断する上でツベルクリン反応に取って代わりつつあ るが、高齢者・小児・HIV 感染者等の結核リスク集団における IGRA の特性は明らかでない。本研究 の目的は、これらの集団を含めた免疫脆弱集団での IGRA の特性解析、および現在の IGRA では判別 不可能な(例えば、休眠性結核菌の感染)部分を診断する方法を開発することにある。 【方法】現在 80 歳代の高齢者における推定既感染率は 70-80%と高いが、このような集団に QFT 検 査を行うと陽性率は約 20%程度である。この乖離の原因として考えられるのは、体内の結核菌が消 滅したか、あるいは IGRA で使用されている抗原を産生しない休眠性の結核菌を持つという可能性で ある。従って、休眠性の結核感染を検出できる方法が確立されれば、高齢者における結核感染の実 態がより明らかになり、今後の対策に大きく貢献できると考えられる。この方法を確立するべく、 共同研究者である Peter Andersen 博士より、休眠期の結核菌が産生する抗原の供与を受け、検出感 度が優れている ELISPOT 法を用い、結核感染者と未感染者を対象とし検討を加える。また、産生さ れるサイトカインの種類により、感染状況がある程度把握可能であるとする論文が報告されている ため、複数のサイトカインを同時に検出する方法とも組み合わせて実施する。小児、および HIV 感 染者については、年次に拘わらず順次例数を蓄積していく。 【結果】結核感染者と未感染者から PBMCs を調整し、 Andersen 博士より供与された抗原に対する IFN 産生応答を検討した結果、両郡における有意な差は認められなかった。また、これら抗原は BCG 抗原との類似性が非常に高いため、結核菌特異部位の検索についても困難であると考えられた。一 方、蛍光標識抗体を使用した ELISPOT 法である FluoroSpot を用い、effector T cell、effector-memory T cell、および memory T cell の割合を解析することにより、結核感染の状況が推測できることを 示唆する論文が報告されているが、我々も IFN-γと IL-2 を同時に検出できる FluoroSpot の系を確 立した。 【考察】これまで Andersen 博士より供与された抗原を用い、休眠性の結核感染を検出することは困 難と考えられた。今後は、他の休眠期特異的結核菌抗原の検索、およびその入手に努めると共に、 FluoroSpot を用い様々な集団に対し解析を行い、結核感染の状況との関連性を検討する。さらに、 最近 TNF- 単独を再生する T cell を解析することにより、活動性結核と潜在性結核感染を区別でき る可能性が報告されており、今後 TNF-αを含めた IFN-γと IL-2 の 3 種類のサイトカインを同時に 測定解析できる FluoroSpot システムの開発に取り組む。 【結核対策への貢献】免疫脆弱集団、特に日本では結核患者の半数近くが高齢者であるため、高齢 者集団における結核感染の実態を明らかにすることは、日本の結核対策上大きな貢献が出来ると考 えられる。 (15)結核看護サービスの評価・分析法の開発―『結核看護システム』試行を通して(継続) 【研究担当者】山内祐子、永田容子、小林典子、加藤誠也・浦川美奈子 【目的】結核看護情報を包括的に管理する『結核看護システム』を開発し、その試行を通して、新 たな結核看護サービスの評価・分析を検討していき、このシステムの情報処理を通して、多様なニ ーズをもった患者支援と DOTS の質的向上を目指す。 【方法】DOTS 支援のためのツールとして『結核看護システム』を開発し、平成 20 年より導入・試行 している。その試行を通して、 「より使いやすいシステム」 ・ 「結核対策に役立つシステム」のあり方 を考えていく。実際に試行している保健所・保健師とともに検討し、 『結核看護システム』の改良を していく。 【結果】服薬支援情報に加えて、性・年齢階級別、職業別、合併症別、リスク評価別にコホート観 16 察の集計表を出力した。リスク評価別に治療成功をみると、リスク無し 78.7%に対しリスク有りで は 77.3%であった。治療成功でも治癒に関して割合をみると、リスク無し 30.0%に対しリスク有り では 41.9%と逆転している。項目別に治療成功をみると、治療成功率が低いのは、過去の中断歴 47.1%、再発 68.5%であった。保健所ではリスクアセスメント表を作成し DOTS タイプを検討してい るところもあり、今後ある程度統一的な視点でのリスクアセスメント表の活用を『結核看護システ ム』に導入していくこととなった。 【結核対策への貢献】結核看護の視点を軸として、結核サーベイランスシステムの改善の際に必要 な情報提供が、実践的に行えることにより有用である。 (16) 「コホート観察」アルゴリズムの検証…『結核看護システム』試行を通して(継続) 【研究担当者】山内祐子、永田容子、小林典子、加藤誠也 【目的】平成 19 年より国の結核サーベイランスシステムが新しくなり、それに伴って自動設定であ る「コホート観察」の入力項目やアルゴリズムも大幅に変更され、名称も「治療成績」となった。『結 核看護システム』における「コホート観察」は、国の旧システムの項目・アルゴリズムを基本に展 開している。『結核看護システム』を試行していくにあたって、国の「治療成績」との関係の検証を 試みる。 【方法】『結核看護システム』の入力項目と国の「治療成績」の関連項目は完全な互換性はないので、 厚生労働科学研究班分担課題の一つである「服薬支援看護ワークショップ」に参加している県市保 健所の研究協力者メンバーから、国の情報を CSV ファイルに変換したファイルを個人識別情報は消 去した上で入手し、従来のアルゴリズムにより「コホート観察」を再現し、 「治療成績」と比較する。 【結果】国のシステムの CSV ファイルを報告していただいた 13 県 41 保健所、平成 19 年肺結核登録 患者 2,328 人の分析を行った。国の「治療評価」は、治療成功(50.2%:治癒 11.9、完了 38.3) 、 死亡(11.8%) 、失敗(0.8%) 、脱落(8.4%)、転出(2.0%)、12 ヶ月を超える治療(9.3%) 、判定 不能(17.5%)であった。従来のアルゴリズム(「コホート観察」)で判定すると、治療成功(74.8%: 治癒 16.7、治療完了 26.7、その他 31.4)、死亡(9.8%) 、治療失敗(2.1%) 、脱落中断(0.7%) 、 不明(0.1%)、そして化療内容が標準以外や判定期間中の死亡以外の登録除外者が対象外となり、 12.5%であった。対象外の 12.5%を従来どおりはずして割合をみると、治療成功 85.4%となった。 国の「治療評価」は治療終了時期と開始時期から計算される治療期間を軸として構成されており、 「コホート観察」と同じ用語を使用しているが、アルゴリズムが微妙に異なっていることから、異 質の結果が得られ、新旧の比較には注意が要る。 【結核対策への貢献】アルゴリズムの違い「コホート観察」結果の違いを明らかにして、今後の結 核対策に役立てたいと考える。 (17)結核看護の質的向上をめざした有効な対策の構築のための研究(継続) 【研究担当者】小林典子、永田容子、山内祐子、加藤誠也、浦川美奈子 【目的】効果的で質の高い地域 DOTS のためには評価事業の導入が必至となる。実施率の拡大にあわ せ、その実施内容の質的向上を目指す。 【方法】平成 22 年 3 月に結核看護の質および治療成績の向上をめざして開催した「服薬支援看護ワ ークショップ」において参加した 20 自治体担当者にコホート検討会実施状況についてアンケート調 査および検討をおこなった 【結果】20 自治体のうち未実施 3 箇所を除く 17 自治体の実施状況は、評価に用いる患者の基本的デ ータの作成方法によって大きく 3 つのタイプに分類できた。1)「服薬看護支援ワークショップ」で 開発した「結核看護システム」の帳票や図表を活用して行う方法で、コホート分析や服薬支援の情 報も併せて検討され、グラフ等での分析も加えられていた。一般に対象者規模が小さく、また年間 開催回数も少数の傾向が見られた。2)国の結核登録者情報システムからの資料を活用して行う方法 で、罹患率や管理図等が資料として用いられ、事例の報告、個別事例検討や確認、保健師の問題点 などの検討や職員のスキルアップ等、保健師の動きをみるなどの傾向が見られた。3)独自に作成し た資料を用いて行う方法で、日常業務の情報漏れのチェックの場として実施回数や頻度も多く行わ れていた。1)+2)、2)+3)というように両方組み合わせて使っていることころもあった(それぞれ 2,3 箇所) 。医療機関への還元の仕方について今後工夫する必要があるという課題は共通事項であった。 【結核対策への貢献】看護の視点で結核対策のあり方を検討するため、日本版 DOTS 事業の精度保証 において質の高いコホート検討会の開催は必須である。 (18)バイオリスク管理の包括的強化及び必要な教材等の開発と実践の評価に関する研究(新規) 17 【研究担当者】御手洗聡、鹿住祐子 【目的】バイオリスク教育および感染症法に関する講習 【方法】病院、検査センター、保健所を対象として感染症法の知識向上に関するアンケート調査を 実施した。また透明安全キャビネットを用いた安全教育訓練を行った。 【結果】感染症法が適切に理解されているか調査することを目的としたアンケート調査を保健所、 病院、検査センターを対象として実施し、311 施設から回答を得た(回収率 42.4%) 。今回の調査か ら、以前に比べて感染症法の理解は進んでいるものの、現在も特定病原体等の分類や管理基準に関 する多くの誤解や、所持・運搬における不適切な運用があることが示された。これらは主に感染症 分類と病原体等の分類の違いやバイオセーフティレベルとの対応の不一致などの感染症法の構造の 複雑さに起因するものであり、感染症法の周知と運用のための適切な研修の不足もあると考えられ た。特定病原体等の管理に関する内容を、施設別・目的別などにわかりやすく分類・解説した手順 書を作成すべきと考えられた。 透明部材を多用した安全キャビネットを利用して研修を行った。この安全キャビネットは日常的 な使用における安全性の確保のメカニズムを視覚的にイメージすることが容易であり、バイオセー フティ技術の研修に有効であった。また安全キャビネットの機能とその限界の具体的な理解に役立 った。 【結核対策への貢献】改正感染症法に基づいた国内の病原体保有、移送、取り扱いと、2008 年に合 意されたバイオリスクマネジメントの国際基準を融合させた施設における仕組み作りの提言、指針、 あるいは Q&A やマニュアルを作成することが可能となる。 (19)Microscopic Observation Drug-Susceptibility assay (MODS)による薬剤感受性検査の精度 評価 【研究担当者】西山裕之、青野昭男、菅本鉄広、近松絹代、水野和重、山田博之、御手洗聡 【目的】MODS の薬剤感受性検査としての精度の評価 【方法】Middlebrook 7H9+OADC で作成した液体培地を 24 穴培養プレートに分注し、そのうちの 4 穴をコントロール、残りの 20 穴を抗結核薬 4 種(Isnoniazid: INH、Rifampicin: RIF、Ethambutol: EMB、Streptomycin: STR)入りの培地とした。各薬剤は 2 倍希釈で 5 段階の希釈系列を作成した。 検体は精度管理用結核菌 39 株を使用し、各検体を McFarland 0.5 の懸濁液にして、10-1,10-2,10-3 の 3 濃度に希釈し、各培養プレートに接種した。結果判定までの時間及び、最小発育阻止濃度の判 定を実施した。なお薬剤感受性検査結果は Lowenstein-Jensen 培地の結果と比較検討した。 【結果】結果判定までの時間は 10-1 希釈の検体で 4.23 日、10-2 希釈では 4.79 日、10-3 希釈では 6.31 日であった。薬剤感受性検査は INH で 0.8μg/ml で最も検出力が高く、感度 0.960、特異度 0.929 一 致率は 0.949 、kappa 指数は 0.889 だった。RIF は濃度に関わらず高い検出力を認めたが、2.0μg/ml の濃度で最も高く、感度 1.000、特異度 0.955、一致率 0.974、kappa 指数 0.948 であった。また EMB はいずれの濃度でも判定が困難で、STR も EMB と同様の結果であった。 MODS は従来の薬剤感受性検査よりも短時間で薬剤感受性の結果を得る事ができる。 また INH と RIF については適切な薬剤濃度の設定で薬剤感受性検査が実施可能であると考えられるが、EMB と STR に関しては検査方法を含め改善の必要があると考えられた。 【結核対策への貢献】結核の診断を耐性検査を含めて迅速化し、さらに低コスト化することが期待 される。 6.国際共同研究事業 (1)次世代の結核標準化学療法レジメン確立のための基礎研究(継続)〔新抗結核薬・化学療法プ ロジェクト〕 【研究担当者】土井教生、福田麻美 【目的】新規抗結核薬候補化合物 DC-159a を含む 4 ヶ月間・短期併用化学療法のレジメンが結核化 学療法の治療期間を短縮しうるか否かを調べる目的で moxifloxacin を含む併用レジメン対比で検討 した。 【方法】DC-159a(D)を含む併用治療レジメン RDZ、moxifloxacin(M)を含む併用レジメン RMZ、 既存の標準治療レジメン RHZ を比較対照して長期・感染治療実験を実施。経気道感染モデルを用い て、肺と脾臓における臓器内菌陰性化の時期を追究し評価を行った。4 ヶ月または 6 ヶ月間の投薬治 療終了後、4 ヶ月経過後に、肺と脾臓における各群(n=10~12)の再発率 relapse ratio を検討した。 18 (R:rifampicin、Z:pyrazinamide、H:isoniazid) 【結果】DC-159a (100mg/kg)併用治療レジメン RD100Z は moxifloxacin を含む RMZ および標準治療レ ジメン RHZ を上回る最も優れた併用治療効果を示した。 1)肺内治療効果:RD100Z>RD50Z>RH10Z=RM100Z>>RM50Z RD100Z 治療群は投薬 12 週間、RD50Z と RH10Z 治療群は 14 週間、RM100Z 治療群は 16 週間で肺内菌陰性 化を達成した。 2)脾臓内治療効果:RD100Z>RD50Z>RH10Z>>RM100Z>>RM50Z RD100Z 治療群は投薬 6 週間、RD50Z と RH10Z 治療群は 8~10 週間で脾臓内菌陰性化を達成したが、 Moxifloxacin を含む RM100Z と RM50Z 治療群は投薬 16 週間後も脾臓内菌数を陰性化することができな かった。 3)再発率(%)/ n=10~12/治療群 肺:RD100Z:8.3、RHZ:9.1、RM100Z:10.0、RD50Z:20、RM50Z:100 %。 脾臓:RD100Z:8.3、RHZ:9.1、RD50Z:10、RM100Z:50、RM50Z:100 %。 【結び】DC-159a を含む併用治療 RDZ は moxifloxacin を含む RMZ 併用レジメンならびに既存の標準 治療 RHZ を上回った;RDZ が結核の治療期間を短縮できる可能性を検証することができた。 (2)結核菌体成分を用いた結核感染診断法の開発(継続) 【研究担当者】樋口一恵、原田登之 【目的】現在血液を結核菌特異抗原により刺激し、産生されるインターフェロン-γ量により結核 感染を診断する方法クォンティフェロン®TB-2G(QFT-2G)検査が普及しつつあるが、手技・経費の 面において問題も残されている。一方、血清中の抗体検出による感染診断は容易で安価、かつ迅速 という利点があり幾つか開発されているが、特異度・感度共に十分ではない。本研究の目的は結核 菌特異抗原を用い、従来より特異度・感度の高い抗体検出による結核感染診断法を開発することで ある。 【方法】共同研究者である Peter Andersen 博士から結核菌特異抗原を入手し、結核感染者および健 常者血清中のこれら抗原に対する抗体を ELISA 法により検出し、診断法としての感度・特異度を検 討する 【結果】本年度は、QFT-3G 検査の諸問題に取り組んだため、本研究課題の進捗は見られなかった。 【結核対策への貢献】容易で安価、かつ迅速な血清診断の開発は、結核感染診断の普及につながる ため、結核対策へ多大な貢献が出来ると考えられる。 (3)HIV 合併結核の発病と予後に関するコホート研究(継続、HIV/結核プロジェクト) 【研究担当者】山田紀男、村上邦仁子、原田登之、御手洗聡、吉山崇、石川信克 【目的】1)HIV 合併結核の結核治療中の死亡率は、ピーク時の 50%よりは改善しているが依然高い 死亡率(30%)であり、死亡を減少させる対策提唱のため死亡の要因の分析を行う。また、HIV 合併 結核の治療成功後の長期予後(結核再発、死亡、HIV 予後)の分析を行う。2)現時点で途上国での結 核診断の基本である塗抹検査で診断することが出来ない結核(塗抹陰性肺結核、肺外結核)の診断 改善への、尿中結核菌由来 DNA 断片の PCR 法による検出方法の効果について検討を行う。結核患者 及び結核合併の無い HIV 感染者間で比較、HIV 感染者コホートにおける検査結果と結核発症の有無の 比較により、敏感度・特異度と早期発見への有用性を検討する。3)ART が可能な状況における INH 予防内服の効果及び副作用について評価する。4)HIV 陽性では集団感染の危険もある薬剤耐性結核の 早期診断のための安価な薬剤迅速検査である MODS 法について、Biohazard の観点からの安全性改良 と、薬剤感受性検査と同時に同定検査も実施できるような改良について研究を行う。 【経過・結果】1)昨年度開始した死亡症例の検討では、症例分析をアップデートし、昨年度 338 例 について分析を行ったが、本年度症例をアップデートし 380 例について死因を検討した結果、28%が 結核、36%が結核以外の HIV 合併症、15%がその他、21%が不明であった。途中経過を下記の通り学会 で報告した。また全県でこれまで実施してきたサーベイランスに基づき、結核患者の死亡時期につ いて解析を行ったところ、HIV 合併の有無に関わらず診断初期に死亡は集中しており、改善のために は結核の早期発見が重要であることが示唆された。下記の通り、誌上発表を行った。2)尿検体によ る結核診断の研究:陽性率分析のための結核症例の蓄積を開始し、一月末の時点で菌陽性肺結核 7 例、菌陰性結核 6 例、肺外結核症例 12 例をインフォームドコンセントをとり研究参加者としてリク ルートした。3)INH 予防内服と ART の結核発症予防効果の研究:データクリーニング後の分析では、 これまでの暫定的分析と同様に、INH 歴/ART 歴ともに無し、INH 歴のみ有り、ART 歴のみ有り、ART 19 開始前の INH 暦有り群で見ると、この順に結核発生が低いことが示唆された。4)MODS 法の安全性の 改善については、安全キャビネット内で観察できるように手動の顕微鏡検査の代わりにデジタルカ メラで捉えた画像を使用する方法を導入し試行を開始した。 【成果発表】Time of highest tuberculosis death risk and associated factors: an observation of 12 years in Northern Thailand. International Journal of General Medicine. Causes of death for TB/HIV co-infected patients during TB treatment at Chiangrai Prachanukroh Hospital in Thailand. International AIDS Conference 2010. 【結核対策への貢献】HIV 感染は世界的に結核問題悪化(罹患率及び死亡率上昇)に影響する重要な 問題であり、WHO 新結核対策指針の主要項目の一つになっている。本フィールド研究はその対策策定 に貢献すると期待される。 20 2. 対策成功の基本である人材育成を目的とした研修事業 (公 1-2) 結核研究所 1.国内研修 22 年度の研修受講者総数 1,718 名、内訳は所内研修(18 コース)701 名、地区別講習会 1,017 名 であった。今年度は厚生科学審議会結核部会で「結核に関する感染症予防指針」の改定作業が行わ れた。この予防指針を基に、来年以降、各都道府県で予防計画の見直しが始まることから、改定作 業の過程で明らかになった結核対策上の課題を積極的に研修に還元した。 (1)所内研修 1)医学科 結核病学会が 22 年度より創設した認定医・指導医制度のポイントに当所医学科研修が加えられ たことから、昨年より 31 名増の 98 名の参加を得た。結核の臨床および結核対策に必要な知識の 修得に加え、各コースの目的と参加者に応じて、基礎知識や事例への応用、結核対策の実施に必 用な技術の実習など、重点を変えたコースを設定した。 ①医師 5 日間コース(平成 22 年 6 月 7 日~11 日 31 名) 本コースは、結核対策に携わる医師に、結核対策に必要な最低限の知識を伝えるものである。 行政経験 2 年未満の参加者が多数を占めたことから、結核の基礎と結核対策に関する知識・技術 に加え、診査協議会において必要な読影の基礎的な技術を習得することを目的に実施した。講義 ごとに質問が多く出され、講師との活発な議論が行われた。 ②結核対策指導者コース(平成 22 年 7 月 12 日~16 日、11 月 2 日~6 日、平成 23 年 1 月 10 日~ 14 日 7 名) 全国の自治体・医療機関から推薦いただいた中から、臨床および行政医師未参加自治体の 7 名 を優先的に招聘した。各講義に関する議論の他、各地域およびわが国の結核対策について所内医 師を交えた討論が活発に行われ、今後、指導的な役割を果たせる専門家の育成という本研修の目 的を達成することができた。3 期に亘ることから、参加者の外来診療等を考慮し祝祭日の開催を試 みた。また、結核対策に係わる特定地域の見学では、新宿保健所に加え東京都健康安全研究セン ターに出向き先駆的な研究及び情報を得ることができた。 ③医師臨床コース(平成 22 年 9 月 30 日~10 月 2 日 31 名) 臨床に携わる医師を対象に、結核の診断と治療の能力向上を目的に開催した。臨床に役立つ実 践的な内容を望む声が多いことから、今回初めて臨床演習を取り入れた。複十字病院の 20 症例に ついて、活発な意見交換および議論を行うことができ好評を得た。また、結核医療における地域 連携は今後ますます重要であることから、結核対策の動向および最新情報の提供に努めた。 ④胸部 X 線読影コース(平成 22 年 10 月 19~日 22 日 18 名) 本年の参加者は全員保健所医師であったが、臨床からの転職者もあり、読影技術の差が大きか った。診査協議会において必要な読影の基礎的な技術に加え、行政医師として活動する上で必須 の結核対策最新情報および知識を加えたプログラムとした。 ⑤結核対策合同アドヴァンスコース(平成 23 年 1 月 24 日~2 月 4 日 12 名) 本コースは結核対策に関わる医師を対象にして、結核対策に必要な知識と技術を包括的に学ぶ 研修である。研修内容は、前半に結核に関する知識として結核の基礎知識、疫学、臨床、結核菌 検査、画像診断、結核対策等を修得し、後半は、事例検討会やワークショップなどを通じて、現 場で必要な調整能力や手法の修得を図った。 ⑥抗酸菌検査実習コース(平成 22 年 9 月 6 日~10 日 16 名) 本年度から基礎コースと応用コースを統合し、抗酸菌(結核菌)検査に携わる臨床検査技師の 検査技術の向上を目的に開催した。保健所 4 名、衛生研究所 6 名、医療機関 4 名、企業 2 名と様々 な機関からの参加を得た。坑酸菌塗抹、培養、同定、薬剤感受性、抗酸増幅の各検査法の理論と 実際を交えた内容についての研修生の評価は良好であった。 2)放射線学科 放射線学科では、国内で結核対策を担っている保健所の診療放射線技師(以下、技師)を主な 対象として結核対策や結核事務業務、X 線撮影、医療監視等の内容を取り入れた 5 つの研修コース を企画運営した。それぞれのニーズに対応した効果的な研修コースの企画運営が行えたと考えて いる。 21 ①結核対策合同アドヴァンスコース(平成 23 年 1 月 24 日~2 月 4 日 1 名) 結核対策に関して基礎から応用までを網羅するとともに、3 科合同の講義やディスカッション等 を含み、実際の保健所業務に則した内容とした。また、保健所技師としての総合的な技術向上を 図るため、X 線撮影、装置や画質の管理、被ばく低減などを取り入れた。 ②結核対策と X 線画像コース(平成 22 年 10 月 19 日~22 日 1 名) 結核対策に関して最新の知識を学ぶとともに、X 線撮影に関する技術向上を図ることを目的とし た。医学科の「X 線読影コース」と合同で行った「胸部 X 線写真の精度管理実習」では高い評価を いただけた。 ③結核対策と医療監視コース(平成 22 年 11 月 16 日~19 日 6 名) 結核対策に関して最新の知識を学ぶとともに、立入検査(医療監視)における適正な放射線利 用に関する指導力向上を図るために、受講生同士のディスカッション、医療監視概論、放射線管 理関係法令、被ばく低減の技術等の講義を取り入れた。特に、ディスカッションや PET 検査室の 見学は好評であった。 ④夏期研修コース(平成 22 年 8 月 19 日~20 日 11 名) 検診機関や病院に勤務する技師にも対応した 2 日間の研修であり、結核対策や放射線業務に必 要な最新の知識と、医療や公衆衛生の分野で注目されている新しい話題を取り上げた。 「CT 肺がん 検診の現状と課題」ではメーカーの協力を得てモニタ診断の実習を行うことができた。 ⑤結核行政担当者等研修(平成 22 年 10 月 12 日~15 日 48 名) 結核症や結核対策の基礎、対策の評価方法、結核登録者情報システム、行政実務を学び、結核 の行政事務担当者としての視野の拡大と意識の向上を図る内容とした。最終日に行われた厚生労 働省での講義はこのコースの特色となっており、例年通り受講生には大変好評であった。 3)保健看護学科 平成 22 年度の研修受講者総数は 508 名(21 年度 475 名、20 年度 483 名)であった。看護師参 加者総数は 187 名、年々増加しており全体の 36.8%を占めている。さらに DOTS 事業推進を図るた めに、検査技師、薬剤師、放射線技師など数名参加が見られた。すべてのコースにおいて対応困 難事例の演習と当事者の視点から(多剤耐性結核の治療を受けた中国人患者)病気の受け止め等 患者の心理について直接聴講する機会を設けた。 各コースの状況については以下の通りである。 ①保健師対策 5 日間コース(1 回:平成 22 年 6 月 7 日~11 日 79 名、2 回:9 月 13 日~17 日 83 名、計 162 名) 保健所等で結核対策を担う保健師を対象に、法的制度、結核の基礎知識(検査、診断、治療) DOTS を含む患者支援、接触者健診対応などを提供し、事例検討を通して多様化する結核対策に必 要な知識と技術を習得するコースである。 参加者の業務体制を見てみると、結核業務専任が 82.5%(結核業務のみが減少し結核業務+他業 務または地区担当) 、地区担当が 11.5%であった。研修の目的としては基礎知識の習得、最新の情 報、接触者健診への対応に関するものが約 9 割を占めていた。年数も 5 年未満が 34%と一番多く、 業務においてすぐに対応できるための専門的かつ新しい知識と技術の習得は必須である。DOTS そ のものの取り組みが日常業務で行われるようになると目的が見失われがちである。DOTS に関する 通知が平成 16 年に出され 7 年が経過したが、82.4%が DOTS に対する理解が変わったとアンケー トで回答があった。 ②保健師看護師等基礎実践 4 日間コース(1 回:平成 22 年 10 月 5 日~8 日 79 名、2 回:11 月 9 日~12 日 70 名、3 回:12 月 14 日~17 日 83 名) 結核業務に初めて関わる、あるいはブランクのある保健師・看護師を対象とし、基礎的知識が 50%、対策への応用実践が 50%の割合で、医療機関と保健所の連携まで学ぶことができるコースで ある。特に医療機関と保健所間でお互いの業務を理解する機会となり、院内感染防止対策や ICN (感染管理認定看護師)の取り組みについての要望も聞かれるようになってきている。 先駆的な実践報告については、1 回目は NHO 山形病院と山形県置賜保健所、2 回目は NHO 賀茂精 神医療センターと広島県東部保健所、3 回目は NHO 西群馬病院と群馬県桐生保健所の取り組みを紹 介した。高齢者、精神疾患、外国人等の結核患者を中心とした地域連携の構築について、保健所 および医療機関の立場で地域の特性を活かした先駆的な実践報告であった。研修生アンケートで は、参加保健師では結核業務専任が 64%(結核業務のみが減少し、結核業務+他業務または地区担 22 当) 、地区担当が 23%であった。看護師では 86%が結核病棟病床を持つ医療機関、結核病床なし 5%、 感染管理看護師が 6%を占めていた。 看護師の約 6 割が院内・外来もしくは連携パスを用いており、地域連携の重要性を講義にも取 り入れている。研修で学びたい事は「基礎知識」が一番多く約 9 割であった。印象に残っている のは、DOTS を含めた患者支援や病院と保健所との連携や他の現場からの報告であった。「DOTS に 関する理解が変わった」は看護師 73.4%、保健師 80%であった。 ③夏期集中コース(2 日間)(平成 22 年 7 月 29 日~30 日 102 名) 各コース終了者のフォローアップとして、結核対策に関する最新情報を習得するコースである。 22 年度のトピックスは、最新の診断および治療、院内感染防止対策、多剤耐性患者の心理的負担、 医療機関での結核入院患者の実態調査、高齢者対策を取り入れた。院内感染対策ガイドラインお よび接触者健診の手引き第 4 版改定についても情報を提供した。さらに、医療機関からの受講生 が約半数を占めたので、院内 DOTS 業務に関する事前調査を実施した。 ④合同アドヴァンスコース(平成 23 年 1 月 24 日~2 月 4 日 12 名) 結核対策に関してさらにステップアップをめざす保健師を対象に 3 科(医学科・放射線学科・ 保健看護学科)合同の講義・ワークショップや演習、グループ研究を取り入れたコースである。 対応困難事例の検討や独自のグループ研究を行っており、今年度のグループ研究では、「保健所の 役割;患者用」パンフレット、 「接触者健診手引き;概要版」、 「地域連携パス;連絡帳」の原案を 作成した。 (2)結核予防技術者地区別講習会(参加者 1,017 名) 結核予防に従事する技術者が結核対策に必要な知識と技術の収得を図ることを目的に、6 ブロック の担当県である福島県(東北)、群馬県(関東・甲信越)、富山県(東海・北陸)、和歌山県(近畿)、 岡山県(中国・四国) 、佐賀県(九州)において開催した。今年度は結核予防指針の改定作業が始ま ったことから、合同講義では今後 5 年間の結核対策の方向性に焦点を当てた内容とした。医師講義 においては結核診療の向上をテーマに医療基準に基づいた診断治療、臨床に有用性の高い検査法、 診療放射線技師講義では効果的な患者発見と被検者に対する放射線防護の考え方、保健師・看護師 等講義では地域 DOTS と医療・保健・福祉の連携を中心に基礎的な知識と共に最新情報を提供した。 「行政担当者会議」では、厚生労働省より提案された議題(医療供給体制の現状と課題、予防計 画見直しの進捗状況及び課題)を中心に各自治体間で活発に情報交換を行いながら改善策を協議し た。また、 「結核対策特別促進事業の評価・報告」では、地域の特性に応じた事業の報告を基に質の 高い事業の拡大や新たな展開について、厚生労働省および当所の講師の助言を交え検討を行った。 23 3. 技術援助、人材育成、研究協力を主要な 3 本柱とする国際協力事業 (公 1-3) 結核研究所 1.国際研修 集団コースとしては、 「ストップ結核アクション研修」、 「STOP TB HIV・耐性結核対策菌検査研修」 、 および「WHO Compact TB Laboratory Training Course for the Western Pacific Region(西太平洋 地域諸国の為の結核菌検査短期研修)」計 3 コースを実施した。日本を含む研修対象国は 19 カ国に のぼり、計 31 名が受講した。対象国の内訳は以下の通り。 ストップ結核アクション研修 STOP TB HIV・耐性結核対策菌検査研修 Compact TB Laboratory Training for the Western Pacific Region 総 計 アジア 7 7 7 21 アフリカ 5 2 0 7 他地域 0 0 1 1 日本 1 1 0 総計 13 10 8 2 31 (1)ストップ結核アクション研修(平成 22 年 5 月 10 日~7 月 31 日) 本研修には、日本を含む 12 カ国から 13 名の研修生が参加した。内容は、各国の結核対策の現状 に関する発表、結核に関する疫学、免疫学、治療学、細菌学を始め、X 線写真や結核菌塗抹検査の精 度管理、さらには結核菌塗抹検査の実習など多岐に渡った。過去の研修実施の経験より研修員が疫 学の概念習得に相当の時間を要することが認識されていることから、平成 22 年度より基礎疫学の講 義及び演習を 3 日間設け、午前中に講義、午後に講義内容に密接に関連した演習を行い、講義内容 の習得強化を図った。外部からの講師として、米国 CDC による「基礎疫学とオペレーショナル研究」 や、結核胸部疾患国際連合(UNION)の講師による「結核 HIV とオペレーショナル研究」の講義など、 オペレーショナル研究計画案作成に関連する技術をそれぞれのエキスパートの経験共有を通して学 んだ。また、世界保健機関(WHO)からは、私的医療機関連係(public-private mix, PPM)や多剤 耐性結核対策など高度な結核対策の取り組みに関する講義が行われ、途上国で将来必要な取り組み を先行国での実績を通して研修した。 研修員は研修期間中に各自オペレーショナル研究の計画書を作成し、最終的にスライド発表を実 施した。これは現在の各国の結核対策における問題発見、研究を必要とする重要な疑問点の発見、 その疑問点を解消できるオペレーショナル研究の計画案作成を実施し、将来的な対策の改善点を提 示するための技術習得を目的とするものである。この計画書作成のために、研究所職員によるグル ープチュータリングを研修期間中に行った。研修後評価テスト、オペレーショナル研究計画発表、 出席状況をもとに研修生の習得状況を判断したが、13 名全員が研修を修了できた。 (2)STOP TB HIV・耐性結核対策菌検査研修(平成 22 年 9 月 27 日~12 月 3 日) 本研修には日本を含む 9 カ国から 10 名が参加した。結核検査担当者を対象とした当コースは、1972 年から始まり、延べ 290 名の研修生が修了している。結核対策における結核検査指導者養成を目的 として、結核菌喀痰塗抹検査精度管理・検査室のマネージメントを中心に、コースで開発された独 自のマニュアル及び GLI(Global Laboratory Initiative: WHO 下部組織)で開発された世界標準 SOP(標準作業手順書)を用いて実施している。教授法・トレーニング実施法など指導者として帰国後 必要となる実践的内容を数多く含み、単なる検査技術向上に留まらない内容が盛り込まれている。 また、2009 年度より時代のニーズに合わせ、最新の結核菌培養等の技術研修、懸案である多剤耐性 結核対策の基本知識と技術等を強化し、遺伝子検査法も含んだ内容とした。 (3)WHO Compact TB Laboratory Training for Western Pacific Region (平成 22 年 8 月 2 日~13 日) 本研修には、西太平洋地域諸国 7 カ国から、8 名が参加した。近年、大きな問題となっている多剤 耐性結核菌および超多剤耐性結核菌の診断と治療を結核高蔓延国で実施するためには、結核菌検査 に携わる臨床検査技師の人材育成が不可欠である。平成 21 年より、WHO 本部、WHO WPRO 事務局を中 心に、西太平洋地域 4 カ国;日本・韓国・香港・オーストラリアの SRL(Supranational Reference Laboratory)間で、臨床検査技師の人材育成について検討してきた。今年度は、今まで検討された研 修を具体化、それを当所で実施することとなった。今回は、世界的に養成が必要とされる、結核菌 24 培養とその薬剤感受性検査を実施できるようになることを目標とし、対象は主に各国の National Reference Laboratory で上記検査を担当している臨床検査技師であった。2 週間と短期間の研修で はあるが、座学だけでなく、実習も十分に含んだ技術を身につける研修内容であった。 (4)他研修 沖縄県看護協会(2 回) 、国私立大学(3 回) 、厚生労働省試験研究機関(3 回)など他団体の国際 研修カリキュラムに盛込まれた結核、HIV 関連事項について、研究所にその個別研修が依頼され(計 9 回) 、研究所もしくは実施機関で講義を実施した(171 名受講) 。 2. 国際協力推進事業 (1)国際結核情報センター事業(先進国対象事業) 【目的】欧米先進諸国において、結核問題は既に解決したかのように思われたが、最近殆どの国々 で結核問題が再興し、それぞれの状況に応じた対策が講じられている。今後の結核対策のあり方を 探るためには、先進諸国の動向を探り、それらの国でなぜ結核問題が再興しているか、どのような 対策が必要であるか、どのような国際的な取り組みや協力がなされているか、それらの実態に関す る情報の把握とその検討が重要である。 【事業】①欧米先進諸国や結核低蔓延国における結核流行や対策に関する情報の収集、分析やその 成果の還元。②先進諸国で発行(発信)される結核関係の文献や出版物・情報の収集や最新リスト の作成。③結核分野に従事する人材の育成に必要な研修・教材に関する情報の収集について継続す る。 【成果】TSRU 等の国際会議に参加し、オランダの分子疫学研究成果、スイス国における移民に対す る結核対策、ドイツの電子化結核サーベイランス等、欧米の結核流行や対策に関する最新の情報を 収集した。また EuroTB 等、欧米先進諸国の結核疫学情報の収集を行った。 3.国際協力推進事業(ODA) (1)派遣専門家研修事業 将来国際協力に関わる日本人に対して、専門的研修を行った。本年度は、2 名に対し実施した。 1)医師 1 名(期間:平成 22 年 5 月 10 日~8 月 31 日) 結核対策に関する知識・技術(結核の現状、疫学、細菌学、検査法、法令、HIV 重感染問題、オ ペレーショナルリサーチ等)の習得を行った。特に国際研修「ストップ結核アクション研修」へ 参加した。研修終了後、タイ国メー・ソート地区に所在する NGO の運営する病院に赴任し、結核 を含む感染症診療に従事した。 2)臨床検査技師 1 名(期間:平成 22 年 9 月 6 日~12 月 3 日) 結核対策に関する基礎知識、結核菌検査技術(塗抹・培養・薬剤感受性試験・遺伝子学的試験 等)の習得を行った。JICA 国際集団研修「STOP TB HIV・耐性結核対策菌検査研修」に研修員と して参加した。 (2)国際結核情報センター事業 1991 年 WHO 総会で採択された世界の結核対策の強化目標達成を効果的に実施するために、世界の 結核に関する情報を収集管理し、国内および海外に対して迅速かつ的確に対応するための機関とし て、1992 年 4 月結核研究所に国際結核情報センターが設置された。 事業内容は次の通りである。 1)アジア地域を中心とした開発途上国及び中蔓延国を対象とした結核疫学情報と結核対策向上の ための技術、方法論の収集・提供。 2)結核問題に大きな影響を与える HIV/AIDS に関する情報収集。 3)日本の結核対策の経験を国際的に知らせるため、日本の結核疫学・対策の歴史及び最近の動向 に関する英文の論文(又は冊子)の作成を、結核研究所疫学情報センターに協力して行う。 4)英文ニュースレター発行、ホームページ(インターネット)の作成・維持を通し、世界各国の 関係者への継続的ネットワーク形成及び啓発を行う。 【方法】① WHO 西太平洋地域事務所(WPRO)の Collaborating Center として、各国の疫学・対策情 報の収集・分析、国際研修の開催、専門家の派遣、会議開催の支援、調査実施の支援、Supranational Reference Laboratory (SRL)としての支援を通じて、本センター事業のための情報を収集する。 ②日本国政府の実施する結核対策分野における国際協力に対し必要な情報の提供など、技術的支 25 援を行う。③文献的情報だけでなく、国際研修修了生を中心とした結核専門家ネットワークを活 用し、一般的な統計資料からは得られない各国で行われている具体的な結核対策の試みの事例(新 結核戦略に関連したオペレーショナルリサーチなど)に関する情報を収集し、ニュースレターや ホームページを通じて紹介する。 【経過】①JICA プロジェクト国への技術支援、WHO/WPRO 技術諮問会議、WHO 結核対策インパクト 評価タスクフォース等を通じて、結核対策・疫学調査に関する技術・方法論の情報を提供した。 また WHO/WPRO からの協力を得て実施する結核対策に関する JICA 国際研修を通じて、技術・方法 論の提供を行った(詳細は別項参照)。ベルリンで実施された世界結核肺疾患対策連合(IUALTD) 世界会議の際には、WHO が出資し結核研究所が共同コーディネーターとして有病率調査に基づく結 核疫学・対策に関するシンポジウムを実施した。WHO 西太平洋地域事務所が発行し加盟国に提供す る結核疫学・対策年報作成へ技術支援を行った。②WHO 本部で開催された結核対策戦略技術諮問会 議、IUATLD などに職員を派遣し、結核及び TB/HIV に関する情報収集を行った。また、国際研修生、 文献等を通じて、各国の結核および TB/HIV の疫学状況および対策に関する情報収集を行い、資料 はデータベースに登録した。WHO の結核疫学指標に関する会議等に参加し、情報の収集を行った。 ③TSRU 会議にて、大阪の DOTS 拡大と多剤耐性結核頻度の推移について発表を行った。また、日本 が高蔓延国から中蔓延国に移行していく過程の疫学及び対策の状況把握を行うため、日本で 5 回 実施された結核実態調査情報の収集・整理を行った。④英文ニュースレターを 1 回発行した。ネ ットワーク強化の一環として、研修卒業生データベースの更新を行った。 (3)分担金 結核の世界戦略強化の一環として、下記の 2 組織に積極的に参加し、その分担金を支払った。 1)結核肺疾患予防連合(International Union Against Tuberculosis and Lung Disease: IUATLD) 本組織は、世界における結核予防活動やその研究を推進している最大の民間連合組織で、WHO への技術的支援機能も果たしている。日本は中心を担うメンバーであり、結核研究所の職員が理 事あるいは役員としてその活動に貢献している。 2)結核サーベイランス研究機関(Tuberculosis Surveillance Research Unit: TSRU) 本組織は世界における結核の蔓延とその制圧に関する疫学研究機関で、現在オランダ王立結核 予防財団に事務局をおき、IUATLD 本体や WHO に対するシンクタンクとしての重要な機能を果たし ている。日本の結核研究所は、オランダ、イギリス、フランス、スウェーデン、ノールウエイ等 とともに重要な研究メンバーとして貢献している。近年は、タンザニア、中国、ベトナムなど開 発途上国から研究成果が活発に討議されるようになり、途上国の結核対策にも貢献する内容とな っている。2010 年 4 月にベルリンで行われた会議では、結核研究所職員が現在途上国の疫学調査 で重要視されてきている有病率調査の方法論についてセッションの討議を担当した。昨年度より 途上国の結核対策・研究分野を担当している研究所職員が、Scientific Committee 委員として運 営に参与している。 (4)結核国際移動セミナー 本年度、4 カ国で実施した。 1)ケニア ケニアは、塗抹検査 EQA システム・ネットワークの脆弱性が指摘されていたため、塗抹の EQA 強化のために移動セミナーを実施した。 まず、ケニアでの結核対策、および結核検査、特に塗抹 EQA の現状の把握、中央基幹検査室の 中央レベルの塗抹 EQA の役割、活動状況を把握した。これら地方検査室訪問等で得た知見を基に EQA ワークショップを 2011 年 1 月 13 日に実施した。対象は、ケニア中央リファレンスラボである CRL 職員と NTP のラボ担当者、ナイロビ市検査指導担当者及び EQA 関連ドナー関係検査技師等とし た。これらの対象者に国家レベルでのシステム・ネットワーク強化を支援した。また、研究所の 研修修了者のワークショップを開き、研修修了者のネットワークを強化した。 2)インドネシア 西ジャワ州にパイロット的に導入された過去 1 年間のモデル活動で得られた知見を検証・報告 し、その活動の拡大につなげる契機とすることと DOTS 戦略成功を導く要としての結核菌検査の役 割と EQA の意義について国際的な視野より認識することを目的として 12 月 10 日に実施した。参 加者は新 EAQ 導入地域(全西ジャワ州 26 県)における、県、週、中央(NTP)のマネージャーレ ベル結核対策従事者、上級検査技師等に加え、オランダ結核予防会インドネシア結核対策従事者 26 を含む 156 人が参加した。 3)ネパール Lot quality assurance sampling(LQAS)法に基づく塗抹検査精度管理向上を目的とした研修 を実施した。全国の精度管理担当者 (Regional QC Assessor)を対象にカトマンズの National TB Centre において、2 日間の塗抹 EQA に関するワークショップを実施した。懸案であった、塗抹 EQA に関する National Policy を、ワークショップの際に確立できた。 その後、西部地方 Pokara にて北部 2 地区の DTLO(地区結核担当官)と鏡検者を対象者に LQAS 法 に基づく精度管理拡大準備トレーニングを実施した。これらワークショップとトレーニングは TOT(Trainer of training)であり、養成された NTC 職員及び、Region 職員がその後、西部地方、 北西部において同様の精度管理拡大準備トレーニングを 2 バッチ実施した。 4)バングラデシュ 2 月 9-10 日(水、木)の二日間にわたり都市の結核対策に関するワークショップを開催した。 ダッカ市及び周辺地域の結核対策に関わる非政府組織(NGO)、国家結核事業者(NTP)、世界保健 機関ダッカ事務所等に参集を呼びかけた。都市の結核対策、結核疫学、東南アジア地域の結核対 策について講義を行い、次いでダッカ市の結核対策に関わる関連施設及び団体が所管する施設の 結核対策の状況について発表を行った。その後、グループに別れて都市結核の現状、問題点、提 言についてグループ討議を行い、討議内容をグループ別に発表した。 (5)国際的人材ネットワーク事業 JICA による結核関連の 2 コースが結核研究所で実施された(詳細は別項)。結核研修のアフターサ ービス、フォローアップ事業として世界各地の帰国研修生に対する英文ニュースレターを1回発行 した。また、移動セミナー(前項参照)を開催し、それぞれの国、地域において人材育成・ネット ワークの促進を行った。IUATLD 世界会議(ドイツ国ベルリン)では、本研究所に関連した研究、活動 の紹介をするブースを設置し、研修修了者のフォローアップ会議を実施し約 70 名が参加した。 4.海外の結核事情と医療協力に関する研究 (1)フィリピンマニラ首都圏の社会経済困難層の住民を対象とする結核対策サービスの改善に関す る研究(新規) 【研究担当者】大角晃弘、Auwie Querri*、Oknoy Poblete*、下内昭、伊達卓二**、石川信克(* RIT/JATA Philippines, Inc., **保健医療経営大学) 【目的】フィリピンマニラ首都圏のトンド地区(マニラ市)とパヤタス地区(ケソン市)の住民に提供 される結核対策サービスの向上に寄与すること。本年は、主にそのための基礎情報を収集する。 【方法】フィリピンマニラ首都圏の 2 地区における①結核診断委員会(TB Diagnostic Committee, TBDC)構成委員に対する面接による情報収集、②胸部レントゲン写真撮影技術向上のための研修評 価、③保健所や NGO に登録される新塗抹陽性結核患者の“診断の遅れ”に関する情報を新規登録患 者との面接により情報収集し、解析する。 【結果】①11 の TBDC のうち、10TBDC に関連する TBDC マスターリストからの基礎的情報収集と、56 人中 39 人の TBDC 構成員から面接調査を実施した。TBDC に申請された塗抹陰性肺結核患者の中で活 動性結核と診断された割合は、マニラ市で 54%、ケソン市で 40%であった。TBDC 構成員の TBDC へ の主な参加動機は、個人的な興味、結核対策改善の意欲等であった。②上記 2 地区の住民が利用し ていると推定される 19 の医療機関から、40 人の放射線技師が参加して、各 4 日間で計 3 回の胸部レ ントゲン写真撮影技術向上のための研修を実施した。研修参加前後で、6 つの胸部レントゲン写真撮 影の質を示す評価内容の内 4 つの内容で改善傾向を認め、全体の評価点でも改善傾向を認めた。研 修前後で改善傾向を認めなかったのは、”撮影時の患者姿勢“と”撮影濃度“の 2 点であった。③ 関係者を対象として本研究に関する研修を実施した後、調査対象となる新塗抹陽性結核患者の“診 断の遅れ”に関する情報収集を開始し、現在情報収集中である。2011 年 3 月末まで情報収集し、2012 年度に情報を分析する予定である。 【結核対策への貢献】フィリピンマニラ首都圏に代表される開発途上国内都市部貧困層に対する結 核対策サービスの向上に資することが期待される。 (2)疫学調査技術支援プロジェクト 【担当者】山田紀男、太田正樹、内村和弘、星野豊、西山裕之、松本宏子、御手洗聡、竹中伸一 【背景】2011 年にかけて、一連の有病率調査が計画されているが、技術支援のニーズがあり、結核 27 研究所は有病率調査の経験がある。さらに、方法論上考慮すべき疫学的・統計的課題や、有病率調 査のデータを活用したより詳細な結核疫学に関する分析のこれらは研究機関としての役割がある分 野である。 【目的】本プロジェクトは疫学調査実施のための技術支援(疫学・統計、菌検査、レントゲン検査 等)を主とするが、技術支援と連携して、以下のような結核疫学調査(特に有病率調査)の方法論 (特に結核するクリーニング方法、サンプリングデザイン) 、調査にもとづく対策インパクト評価方 法の検討と調査結果を活用したインパクト評価分析の研究的活動も行う。 【方法】①WHO Impact Measurement Task Force を通じて、有病率調査マニュアルの改訂、各調査の プロトコールの方法論の検討を行う。②カンボジア、ミャンマーの有病率調査結果の分析を行う。 ③カンボジア国で有病率調査で発見される患者と、医療施設への受診を通じて発見される患者との 特徴の差を明らかにする研究プロトコールの作成を行う。 【結果】①マニュアル作成委員として参画したマニュアル改訂版が作成された。サンプリングデザ インの部分では、本プロジェクトが技術支援を行ったカンボジア調査のプロトコールが反映された。 ②ミャンマー全国結核有病率調査(2009 年実施)の暫定分析を行った。有病率調査の主要所見は、 調査参加者 51,367(対象者 57,607 中 89.2%の参加率)、塗抹陽性有病率:243/100,000、菌陽性有病 率:618/100,000 であった。特徴として有病率の地域的な差が大きいことが示唆された。都市部で高 いとともに、アクセスの悪い非都市部で高い地域ホットスポットもあると考えられる。45 歳以上の 男性では、100 人当たり一人が菌陽性結核と推定される高さであるが、有症状の塗抹陽性結核のみの 有病率を比較すると、1996 年に比して減少していることが示唆された。有症状受診者への塗抹検査 にもとづく古典的 DOTS 患者発見を行っていた時期に実施されたカンボジア全国結核有病率調査 (2002 年)で発見された菌陽性結核の結核疑い症状(3 週間以上の咳)と塗抹・培養検査結果につ いて分析を行った。結核疑い症状ありで塗抹陽性例は、菌陽性例の 18%に過ぎず、結核疑い症状が無 く塗抹陰性培養陽性の例が 49%であった。有病患者で典型的な臨床症状(長期間続く咳等)を示さな い結核菌陽性結核の割合が高いことが示された。この結果は、国際結核肺疾患連合世界会議のシン ポジウムで報告した。③カンボジア有病率調査のプロトコールを作成し、有病率調査が開始された。 今後有病率調査の結果に基づき、患者発見の強化が必要な患者層を明らかにする予定である。 【成果発表】Tuberculosis Prevalence surveys: a handbook. 2nd edition.WHO, 2010(共著) Myanmar TB Prevalence Survey Report(Draft), Ministry of Health, Myanmar,2010(主要協力者) High prevalence of smear-negative and culture-positive TB. Symposium “ Lessons from TB prevalence surveys into practice: experiences in Asia”, IUALD, Berlin, 2010. (3)発展途上国での胸部 X 線撮影業務の適正化(継続) 【研究担当者】星野豊 【目的】発展途上国において、胸部 X 線撮影を用いた結核実態調査が行われるようになってきた。 これは、喀痰による診断だけでは良質な喀痰を出せない患者や塗抹陰性の患者を見落としてしまう からである。また、途上国では装置やフィルムなどハードウェアの利用に各種の制限があり、画像 の精度管理や撮影業務従事者や被検査者の被ばくへの対応など多くの課題が残されているため、こ れらを改善することを目的とする。 【方法】その国へ実際に赴き、画質、撮影条件、撮影法、検診車の使用、現像方法、画像の精度管 理手法を指導する。画像評価を行うことにより、指導の前後での結果を把握する。 【結核対策への貢献】発展途上国での結核実態調査の精度を上げられるとともに、その国での X 線 撮影の精度向上に多大な貢献ができ、その後の結核対策に資することとなる。 【平成 22 年度報告】カンボジアで行われている実態調査に立ち会った。今後へ向けた改善点として 以下の 3 点が考えられた。①X 線写真の濃度:胸部 X 線写真の濃度を一定に保つためには、被検査者 の体格に見合った X 線量(mAs)の調整と、自動現像機の管理が行われる必要があるが、それらの状 況をモニタするためにセンシトメーターの活用が望まれる。また、使用しているグリッドの集束距 離が撮影距離と合っていないため、画像の中心と左右で濃度差を生じている。撮影時間を短くする ためにも、やや撮影距離を短くすると良いと思われた。②ポジショニング:肩胛骨の肺野への写り 込みと、肺尖が狭く写っていることが修正点であった。③カセッテの使い方:読影医からフィルム へのゴミや傷の混入について指摘を受けた。対応策として、撮影時からカセッテの方向を決めてお くことや、現像の際に一定の方向で処理を行うこと、カセッテ表面に増感紙の番号が記載されてい ることが必要であった。④散乱線分布の測定:サーベイにおける被ばく管理のため、散乱線分布を 28 測定した。散乱線の発生源となる被検査者から 2m離れれば 0.1μSv 以下となるため、撮影業務従事 者は最低でも 2m の距離を取ることが重要となる。また、今回の測定で、カセッテの裏側において 1m の距離で 5μSv、4m で 1.0μSv を記録した測定点が見つかっている。撮影時に必要最低限に照射範 囲を設定することや、カセッテの裏側に 5m 以上の距離を取ることが必要である。 (4)社会的・文化的要因を考慮した結核対策改善に関する研究(継続) 【背景】疾患対策の技術は確立していても、有効に機能するかどうかは社会的・文化的要因を考慮 する必要がある。 【研究担当者】山田紀男、野内ジンタナ、村上邦仁子、堀井直子 【目的】社会で特定の集団(社会的弱者)への有効な結核対策の提言と、住民参加型結核対策に影 響を与えるボランティア及び患者の社会的・文化的要因を分析し、改善に寄与する提言を行う 【方法】タイ国北部に在住する少数山岳民族の結核対策上の課題(脱落率及びその要因)を分析し、 改善案を試行する。ザンビアで実施している住民参加型結核対策の担い手であるボランティアの持 続性と活動レベルに影響を与える要因を明らかにするとともに、住民参加型結核サービスの活用度 合いに影響を与える患者側の要因を分析する。 【結核対策への貢献】近年結核対策において新技術の導入や住民参加の重要性が提唱されているが、 それが一般住民に受け入れられ活用されることが重要である。本研究は、社会的・文化的要因を考 慮したより効果的な結核対策の改善に寄与する。 【結果】ザンビア国ルサカ市の住民参加型患者発見プロジェクト(Bauleni 地区)における患者行動 の暫定結果では、外部からの流入した住民が住民参加型患者発見サービスの利用度が低いことが示 唆された。Kamanga 地区で咳症状に対する受療行動に関する住民調査(分析対象 4,022 人)では、過 去に 3 週間以上の咳の既往がある者の内 20%は特に受療行動を起こしていないという結果であった。 以上から、早期発見に必要な診断技術の導入とともに、有症状者の受診を促進するような結核対策 サービス(健康教育、アクセスの改善等)が必要なことが示唆された。タイにおける山岳少数民族 の結核対策実施状況では、一般タイ住民に比し HIV サービス受療率や治療成績は近年改善している ことが示唆されたが、元患者や住民代表等との問題分析からは、交通費・言語の壁から結核医療サ ービスへのアクセスに依然問題があり地域での患者サポート等改善が必要なことが示唆された。タ イ山岳少数民族の結核対策の状況分析については、国際 AIDS 会議で報告した。 【成果発表】Access to HIV testing among hilltribe ethnic minority tuberculosis patients in high HIV prevalence setting, Chiang Rai, Thailand. XVIII International AIDS Conference, July 2010, Vienna Australia 【結核対策への貢献】社会的・文化的要因を考慮することにより結核対策の課題と改善点の提言に 貢献すると期待される。 (5)住民主体の結核治療のための患者主導アドボカシー(戦略的普及啓発活動)の研究開発(継続) 【研究担当者】野内ジンタナ 【目的】①患者主体の参加型支援活動内容をまとめる。②隔離病棟に入院中の結核患者のエンパワ ーメントを目的とした DVD の開発。 【方法】①-1 結核治療中に心理的・社会的困難を経験した結核患者へ支援を行っている PLHIV ボ ランティア及び患者(元結核患者及び TB/HIV 重複感染者)組織を通した活動の内容をまとめる。① -2 ボランティアの特徴、活動の動機、ボランティアの与える印象、またボランティアが直面する 障害について検証を行う。①-3 日本の患者組織を含め他の国々でも適用可能なボランティアの活 動成果を纏めた小冊子を作成し配布する。②-1 結核に関する情報及び心理面でのサポートについ て、隔離病棟に入院中の患者の抱える問題とそのニーズを調査する。②-2 結核に関する教育及び TB/HIV の偏見・差別の軽減を目的とした DVD の開発に向け、患者ボランティアや僧/聖職者、婦人会 及び医療従事者を巻き込む。 【結果】結核患者支援に従事する患者ボランティアの役割に焦点を当てた 2 つの質的調査を実施し た。その調査結果を小冊子(Let me wipe your tears and touch your heart: A memory of volunteers working with people affected by TB and TB/JHIV in Thailand ) 及 び DVD(Knowledge … Hope ….Strength for Curing TB and TB/HIV”に纏めた。 【成果発表】The Development of Digital Video Disc(DVD) for TB/HIV patients who are hospitalized in the isolation room. The XVIII International AIDS Conference. July 2010. Vienna Australia 【結核対策への貢献】WHO 新結対策核戦略の一つである「患者と住民のエンパワーメント」に貢献す 29 ることが期待される。 (6)カンボジア国立結核センター中央検査室における結核菌培養精度評価 【研究担当者】菅本鉄広、松本宏子、岡田耕輔、御手洗聡 【目的】カンボジアで 2010 年に実施される第 2 回全国結核有病率調査に先立ち、国立中央結核セン ター(CENAT)中央検査室における結核菌培養検査精度を評価することを目的とした。 【方法】CENAT にて 2010 年 3 月より同年 9 月までに新規結核疑い患者の喀痰 2,211 検体(塗抹陽性 喀痰は 498 検体)を材料として用いた。喀痰塗抹検査終了後、3 日以内に 4%水酸化ナトリウムにて 前処理し、2 本の工藤培地に菌接種した。CENAT 全体の成績だけでなく、技師ごとのリカバリー率(塗 抹陽性検体における培養陽性率)と培地汚染率を指標として評価した。評価対象技師は 4 名で、技 師 A、B は 10 年以上、技師 C、D は 3 年未満の経験であった。 【結果】評価期間中の CENAT におけるリカバリー率は 79.4%、培地汚染率は 6.9%であった。特に 7 月の第 2 および 4 週目のリカバリー率は 48%、19%と著しく低い値を示した。汚染率は 2%から 12% の間を推移していた。技師ごとのリカバリー率、培地汚染率はそれぞれ技師 A(65.7%, 10.2%) 、技 師 B(67.5%, 4.4%)、技師 C(84.9%, 4.6%)、技師 D(83.8%, 11.2%)であり、技師 A、B、D が 7 月 の検査に従事していた。 精度評価の実施にあたっては、機器・試薬などの環境的要因と個人の技術的要因との 2 つを考慮 する必要がある。7 月に認められたリカバリー率の低下は、技師 A、B、D が同じ培地を使用していた ことから、培地凝固器が正常に作動しなかったことによる培地品質の不良によるものと思われた。 個人の技術的要因としては、手順を遵守せず、喀痰を放置したことによる発育能力の低下、台帳へ の単純な転記ミス、多忙による労働意欲の低下が考えられた。 【結核対策への貢献】カンボジアの結核診断技術の向上に貢献し、同国の結核減少に寄与する。 5.その他 (1)東京都アジア感染症対策プロジェクト 1)アジアの都市部における結核対策についての共同実態調査(継続、次年度終了) 【研究担当者】大角晃弘、浦川美奈子、加藤誠也 【目的】アジアの都市部における結核対策改善に寄与すること。 【方法】アジアの幾つかの都市(バンコク、ハノイ、シンガポール、ソウル、クアラルンプール、 台北、ジャカルタ、東京)において、結核を発病する危険が相対的に高い集団を既存の情報から 選定し、その集団の特徴を記述する。また、そのような集団に対して実施されている公的機関や 私的機関・NGO 等による結核対策の現状について、関係者からの聞き取り調査及びワークショップ、 既存の資料等から情報収集を行い、記述する。聞き取り調査のまとめ、関係諸機関の連絡先と地 図上の分布、結核患者ケア経過図(結核症状発生から診断・治療完了までに関わる諸機関の役割 のまとめ図)を作成し、都市部における結核対策の現状の問題点や改善法等について比較検討す る。 【結果】ハノイ市、ソウル市、台北市、ジャカルタ及び東京都の 5 都市で共同研究を実施した。 本年度は東京都で実施した社会経済的困難層と高齢者結核患者に対するケアを提供している機関 関係者と患者から得られた情報等から結核患者ケア経過図を作成した。次年度は、各都市におけ る研究結果を集約し、互いに学びあえる部分について検討する予定。 【結核対策への貢献】都市部における結核対策の現状の問題点や改善法等について学び合うこと により、各都市における結核対策改善に寄与することが期待される。 新山手病院 JICA カンボジア国結核対策向上プロジェクトに対し、これまで呼吸器科医師を短期専門家として 派遣してきた。現地での読影研修会用の X 線フィルムを提供する等の支援も行っている。 30 4.変貌する結核に対応する結核医療事業とそれを支える診療の総合化(公1-4) 複十字病院 2010 年度は、経営健全化の 2 カ年計画の最終年度であり、目標達成のために職員一丸となって経営 改善に取り組み損益が黒字となった。 2009 年 12 月に救急告示病院として認定され、救急告示病院前 1 年間と告示後 1 年間を比較して 45%増の救急車搬送となりその実績を基に 2010 年 12 月に東京都より二次救急指定に認定され、地域 基幹病院として更なる地域救急医療に貢献できるよう取り組んでいる。 1.経営基盤の安定 2010 年度は、経営を健全化のため月 2 回の経営企画会議と月 1 回院長会議で対応策を検討した結 果、外来患者数、入院患者数ともに前年度を上回る事が出来た。 また、診療報酬改定年度(0.19%増)であり、当院で算定できる項目について経営会議等で検討し た届出を行った結果、外来、入院の単価が向上し医療収益が大幅に伸びた。 2.患者の動向 (1)入院 2010 年度の入院患者総数は 5,146 人(2009 年度 4,925 人、2008 年度 4,600 人)で対昨年度比 221 人増加、対一昨年度比 546 人増加であった。 また年間の延べ入院患者数は 110,389 人(2009 年度 109,407 人、2008 年度 111,963 人)で、1 日当たりでは 302.4 人(2009 年度 299.7 人、2008 年度 306.7 人)で、延べ入院患者は対昨年度比 982 人増加、対一昨年度比 1,574 人減少、1 日当たりでは対前年度比 2.7 人増加、対一昨年度比 4.3 人減少した。 在院日数については、全病棟 20.5 日一般病床 15.62 日で昨年と比較すると全病棟で 0.8 日の短 縮、一般病棟で 0.66 日の短縮であった。 (2009 年度全病棟 21.3 日、一般病棟 16.28 日、2008 年 度全病棟 23.1 日、一般病棟 17.8 日)であった。 延べ 1 日当たり 在院日数 在院日数 区分 入院患者数 入院患者数 入院患者数 (全病棟) (一般病棟) 2010 年度 5,146 110,389 302.4 20.5 15.6 2009 年度 4,925 109,407 299.7 21.3 16.2 2008 年度 4,600 111,963 306.7 23.1 17.8 (2)外来 2010 年度の年間外来患者受診延べ数は、142,246 人で、1 日当たり 583.0 人であった。対昨年度 比で 5,492 人増加、1 日当たりで 22.5 人増加した。 3.呼吸器センター(結核・呼吸器) 結核病棟の機能としては、結核患者の隔離入院が主である。2010 年の結核入院は 330 名、うち多 剤耐性結核は 13 名であった。平均在院日数は 54 日であった。そのほか 69 名の菌陽性結核患者が外 来で治療を受けている。うち 6 名が多剤耐性結核であった(うち 1 名は未治療で帰国、1 名は培養陰 性化せず手術のため外科病棟入院、1 名は培養陰性となったが手術のため外科病棟入院、3 名は外来 治療で改善)。 そのほか、結核疑いで他院より紹介されたが精査の結果非結核性抗酸菌あるいは化膿症等他の疾 患と分る例もあり、診断されるまで個室入院隔離を一般病棟(空気感染隔離の出来る部屋)もしくは 結核病棟個室に隔離として行っている。そのような症例が当院結核病棟には 2010 年には 40 例ほど 見られている。 結核対策の評価は、治療成績にあるが、2009 年の入院外来の 381 例の結核症例のうち、209 例治 癒、7 例治療中、73 例死亡、81 例転院、3 例治療失敗(2 例は多剤耐性、1 例は感受性例で治療中の 再排菌であり再治療を行って治癒した)、8 例治療中断(うち 1 例再治療を行い治癒、1 例見つかった 後死亡、2 例中断後他院で再治療となった例、4 例は治療中断のままであった)。治療中断+失敗率 は毎年 5%以下である。結核の外科療法については、2005 年~2009 年の過去 5 年間に、全国 13 施設 31 で結核の外科手術が 111 件行われたが、そのうち 40 件は複十字病院であり、多剤耐性結核に限ると 全国 52 件中 35 件が複十字病院であった。このような実績によって、 「結核に関する特定感染症予防 指針」の改正に伴って、複十字病院は国立病院機構近畿中央胸部疾患センターとともに、結核医療 の「高度専門施設」に指定された(2011 年 5 月 16 日) 。 昨年度誕生した呼吸器センターにより呼吸器内科・呼吸器外科の有機的な連携がさらに深まり、 2010 年度は患者サービスならびに診療レベルを一層向上させることができた。しかし 2011 年 3 月 11 日に東日本大震災が発生してからは、計画停電による交通機関の乱れや通常診療への影響により 思うような医療を行うことが困難な状況となった。2011 年 4 月からは結核予防会の被災地支援の一 環として、岩手県立大船渡病院の呼吸器科に対する医療支援が始まることになっている。6 月初めま で毎週 1 名ずつを現地に派遣する予定で、当院の診療レベルを維持しつつ被災地支援も行うという 難しい舵取りが要求される。 (1)呼吸器内科 呼吸器内科は工藤翔二院長体制がさらに磐石のものとなり、倉島篤行研究アドバイザーの援護 も加わって呼吸器内科の診療レベルは一層向上した。通常の呼吸器外来に加えて、非結核性抗酸 菌症の週 4 単位、禁煙外来の週 2.5 単位、SAS 外来の週 1 単位、喘息外来の週 1 単位の専門外来を 継続した。 これによって抗酸菌症全般の診療の充実が図られ、抗酸菌診療・研究は日本のトップを走り続け られた。それとともに、社会的に関心が高まっている禁煙、SAS 分野においても当院の取り組みを アピールすることができた。肺癌診療の部門では、呼吸器内科医・外科医・放射線科との診療連携 の場であるキャンサーボードを引き続き行い、また定期的に病理カンファを行うことによって、 各医師の診療レベルの向上に努めた。 また当院は東京都の二次救急医療機関に指定され、呼吸器疾患の緊急入院が増加しており、当 院の呼吸器診療に対する地域の期待の表れが顕在化したといえる。 (2)呼吸器外科 呼吸器外科は 2010 年度 5 名の常勤医と 1 名の研修医による 6 人体制で診療に当たっていた。し かし 2010 年 4 月一杯で都内大学よりの派遣が打ち切りとなり 5 人体制に戻った。その後 2011 年 1 月から新たに研修医 1 名を迎え 6 人体制に戻ることができた。肺癌手術件数は 88 例と横ばいであ ったが、完全鏡視下肺癌手術を導入しさらなる低侵襲手術を目指した。 一方縦隔胸壁腫瘍(7 例)・気胸(28 例)・非結核性抗酸菌症(17 例)・多剤耐性肺結核(9 例)・膿胸(13 例)・アスペルギルス症などの感染性肺疾患(9 例)などは前年並みを維持し、呼吸器疾患手術件数は 計 203 例となった。今年度は非結核性抗酸菌症件数、多剤耐性肺結核件数ともに増加した一方、 気胸件数が減少した。 4.消化器センター 2010 年度の目標は、①外来部門は現在の 2 診での外来診療体制を維持する。②手術部門は減少傾 向にある消化器外科手術件数を内視鏡下大腸切除術などの新しい手技の導入や 2 次救急により年間 400 件程度まで増やす。③内視鏡部門は消化器内視鏡だけでも年間 6,500 件近い件数をこなしている が、さらに人間ドック内視鏡件数および ESD 件数を増やしていく。④入院部門は、約 80 人の入院患 者を維持していく。入院化学療法患者の入院日を調整し、週末も化学療法を行い病棟稼働率を上げ ていく。⑤結核病院の消化器外科として、手術の必要な結核患者を全国から広く受け入れていくこ とを目標とした。 (1)消化器内科 本年度に肝臓内科医 1 名の退職があり、消化器内科は 1 人体制となった。 このため TAE などの 肝臓癌に対する IVR が行われなくなった。消化器内科医、特に肝臓内科医の確保が必要である。 (2)消化器外科 池田副院長以下 5 人で診療を行った。残念ながら本年度も外科医の増員はできなかった。手術 件数は 2003 年度をピークに減少傾向であったが、今年度は目標の 400 件には届かなかったが上昇 に転じた。 32 消化器外科手術件数実績 年 度 食道癌 胃癌 大腸癌 肝胆膵癌 胆石 胆嚢ポリープ 虫垂炎 ヘルニア その他 合計 2000 6 50 80 10 2001 1 60 53 15 2002 8 51 73 24 2003 9 61 58 17 2004 14 46 68 8 2005 16 54 106 14 2006 3 52 88 9 2007 4 64 67 12 2008 3 52 95 17 2009 4 52 56 12 2010 5 57 73 2 64 63 68 53 75 66 57 50 41 46 53 88 85 82 96 76 93 86 87 80 86 100 72 400 125 425 90 426 109 486 124 449 99 448 89 384 74 358 52 340 86 302 63 353 (3)内視鏡室 2010 年度実績は全ての検査で前年より件数が少し減少した。しかし、近年の医療事情を反映し 胃瘻造設、CVC ポート挿入、IVR 処置などが年々増加してきており、年間 8,500 件の検査、処置が 内視鏡室で行われている。 内視鏡件数実績 年 度 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 食道・胃・十二指腸 3,814 3,558 3,572 3,588 3,687 3,543 4,208 4,438 4,422 ファイバー 上部 EMR・ESD 12 21 14 27 12 23 19 19 23 上部処置 (止血術 EVL など) 大腸ファイバー 1,744 1,685 1,446 1,454 1,524 1,668 1,885 1,938 2,011 下部 EMR・ESD 183 185 155 183 222 220 307 293 333 下部処置 (止血術など) ERCP 37 33 44 49 57 89 69 64 58 胃部造影 1,001 1,088 990 1,079 1,265 1,408 1,378 1,177 1,102 注腸造影 111 102 149 173 228 215 234 143 111 PTCD挿入 19 43 35 48 40 110 58 79 48 CVC ポート挿入 イレウス管挿入 2009 2010 4,687 4,158 29 14 41 2,093 304 1,885 285 33 34 1,178 26 56 53 1,049 37 42 67 58 5.乳腺センター (1)乳腺科 2010 年度は、常勤医 4 名(年明けより 3 名) ・非常勤医 1 名体制で診療を行った。 手術日は月曜日と木曜日の週二日体制を継続し、2010 年は乳癌手術 126 例となり、10 月には乳 腺科発足以来の乳癌手術症例数が 500 例を越えた。 外来診療については、年度を通じて月間 1,000 名を越える外来患者の診療を行った。 一方、外来化学療法室での運営では、コンピュータ管理の下、精度管理・安全管理の安定化が 図られた。また、リンパ浮腫外来も週一回定期的に行った。 学会発表は日本外科学会総会をはじめ 19 件、院外講演 17 件、院内講演 6 件を行った。論文は 邦文 4 編で、主催講演会・研究会は第 7 回市民公開講座を含め 2 件を開催した。 33 全手術件数 乳癌 センチネル 乳腺良性 その他乳腺 甲状腺 その他 合計 2010 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 10 55 61 73 96 100 124 0 0 22 55 70 77 102 2 20 19 10 5 11 5 2 14 2 5 7 7 8 0 3 7 7 6 5 4 0 4 17 4 11 3 6 14 96 128 154 195 203 249 乳癌症例数 2004 年 乳癌(胸筋合併全摘) 乳癌(胸筋温存全摘) 乳癌(乳房温存) 内視鏡手術 合計 温存率(%) 0 3 7 0 10 70 2005 年 0 37 18 6 55 32.7 2006 年 1 34 26 23 61 42.6 2007 年 2 35 39 36 76 51.3 2008 年 2 37 57 47 96 59.4 2009 年 2 51 49 40 102 48.0 2010 年 1 49 76 63 126 60.3 (2)緩和ケア科 1)緩和ケアチーム 緩和ケア科医師(麻酔科兼任)1 名、看護師 4 名(緩和ケア認定看護師 1 名)、薬剤師 1 名、臨 床心理士 1 名(非常勤)、ソーシャルワーカー1 名の体制で入院患者を対象にコンサルテーション 形式で活動をしている。毎週月曜日は医師と認定看護師で回診、水曜日はコメディカルとの症例 カンファレンスを行っている。 年間依頼患者数は 33 例、前年に比べ 22 例減少した。がん腫別では、消化器がんが全体の 54.5% を占め、肺がん 24.2%、乳がん 9.1%であった。依頼内容は、疼痛管理が最も多く、次いでせん 妄、抑うつ、不安など精神症状の軽減、呼吸困難感や倦怠感の軽減と様々な身体的あるいは精神 的症状への対応が求められた。近年、がん患者の QOL の維持・向上において心理的支援の重要性 が高まりをみせているが、全症例に臨床心理士が介入、全人的ケアの提供をこころがけ取り組ん でいる。 さらに、家族への精神的支援、緩和ケアへの移行支援、療養場所の相談は重複しており、在宅 療養へ移行できた患者は 42.5%と前年度を上回った。 今後、緩和ケアが必要な患者・家族の数が増えることが予測されるが、緩和ケアは終末期医療 という認識は根強く、疾患の早期より抗がん治療と並行して行うものという考え方が定着してい くよう、医療者に対する相談・指導・教育、患者・一般市民への啓発・普及は継続課題である。 2)緩和ケア外来 緩和ケア科医師と緩和ケア認定看護師が担当し、毎週月曜日の午前中に診療を行っている。開 設 2 年目を迎え、新規外来受診患者数は 13 例と前年と同様であった。 依頼内容は、疼痛・精神症状の緩和、緩和ケアチーム介入患者の退院後継続支援、緩和ケアへ の移行支援が大半を占め、原則予約制だが疼痛緩和など緊急の依頼にも柔軟に対応した。また、 在宅療養中の不安や心配事に関しては、家族の悩み相談としての役割が大きく、患者を支える家 族への精神的支援が今後も重要である。 抗がん治療中で緩和ケア外来へ通院している患者は 30%で、抗癌治療中のつらさを聞いてもら う、代替補完療法についての相談、自分の病気について話したい・聞いて欲しいなどの期待を持 っており、患者・家族の多様な価値観、ニーズに向き合い続けることが求められている。 今後も、外来での緩和ケアの提供によりがん医療全体の充実を図るとともに、できる限り家で 暮らすことを可能とし、症状緩和に要する入院期間短縮を目指したい。 3)啓発・教育活動 a)2010 年 5 月 22 日乳腺科患者会「知って欲しい緩和ケア」講師緩和ケア認定看護師 34 b)2010 年看護部教育委員会「緩和ケア」ラダー別研修担当緩和ケア認定看護師 c)「がん患者のこころに寄り添うためにサイコオンコロジーの基礎と実践」執筆緩和ケア認定 看護師 (3)臨床心理科 2010 度は、産休育休中の常勤心理士に代わる産休代替心理士 2 名(週 1 日 1 名、週 2 日 1 名) と、非常勤心理士 1 名(週 1 日)の計 3 名の心理士で週 4 日分の業務を分担した。乳腺科、呼吸 器科、消化器科など各診療科からの依頼(入院・外来)に加え、緩和ケアチームや職員カウンセ リング、入院・外来患者の家族サポートなど、多領域の多様な依頼に対応した。 年度 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 カウンセリン グ 706 件 1,507 件 1,440 件 1,224 件 1,334 件 対応延べ数 6.呼吸ケアリハビリセンター 呼吸ケアリハビリセンター(リハビリテーション科・訪問看護科・呼吸ケア診療科)では従来の 理学療法と在宅医療に加え、科学的根拠に基づいた慢性期の呼吸ケアを、COPD を中心とした慢性呼 吸器疾患患者に提供できるよう努めている。2010 年 7 月に当センターのホームページが開設された。 2010 年 10 月以降、ホームページを見て呼吸リハビリテーションプログラム参加を希望する患者が増 加している。 (1)リハビリテーション科 新患依頼数は 1,083 名で前年度とほぼ同様であったが、患者総数 18,029 名、総単位数 20,816 単位で前年度と比べそれぞれ 16%、21%の増加がみられた。患者 1 名に対する継続的なリハビリテ ーションが行えるようになった結果と考える。より早期からリハビリを開始することで早期加算 も 12,527 件と 31%増加した。その他ほとんどすべての項目での数値が前年を上回った。また学会 発表 2 題、学生実習 7 名(8 週間 3 名、3 週間 2 名、1 週間 2 名)と、研究・教育的な役割も当科 は果たしている。 スタッフの努力に感謝すると共に更なる飛躍を期待するところである。 (2)訪問看護科 2010 年度の訪問看護の新患依頼数 68 人、利用者は 737 人で前年度より約 30 人増加し、訪問看 護延べ件数は 3,122 件と前年度より 344 件(11.2%)増加している。介護支援専門員からの紹介 は新患依頼数の 1 割であった。昨年度から開始した病棟からの相談依頼件数は 20 件で、そのうち 13 件(65%)が訪問看護に繋がった。当院の訪問看護利用者の平均年齢は 80 歳で、かなり高齢で ある。それに高齢者の 2 人暮らし(老老介護) 、高齢独居、認知症の合併などの問題が加わり在宅 生活をより困難にしている。利用者にとっては地域の支援が必須であり他職種との連携が重要で あるが、退院時カンファレンス 56 件・居宅カンファレンス 33 件と昨年度と比べその数に大きな 変化は見られなかった。夜間・休日の携帯電話の対応は 176 件(14.4%増)であった。看護学校 2 校から在宅看護論臨地実習の受け入れを行い、東京都看護協会復職支援研修を実施した。 現在、2011 年 10 月の訪問看護ステーション開設に向けて準備が進んでいる。ステーションに切 り換え他の医療施設からの依頼を新たに受けることで、収支の黒字転換を図りたい。また、複十 字病院で完結していた在宅医療(病院完結型)が地域完結型へ変わり、北多摩北部医療圏におけ る地域連携がより円滑になると考える。 (3)呼吸ケア診療科 毎週火曜日の午後、呼吸ケア外来を行っている。その内容は、息切れや排痰困難などで日常生 活に支障がある慢性呼吸器疾患患者の自己管理教育が中心である。呼吸器の一般外来と異なり、 患者 1 人に対し 30 分から 1 時間かけて指導をしている。病状に応じた外来での呼吸理学療法を行 い、適応があれば呼吸リハビリテーションの参加を促す。呼吸リハビリテーションは、呼吸ケア 診療科とリハビリテーション科が中心となって行う、12 週間のプログラム(自己管理教育と運動 療法)である。最初の 2 週間が入院で、その後は外来で継続する。プログラムの内容から対応で きる患者数は 1~2 人/月が限度であるが、毎月 1 人ずつ呼吸リハビリテーションプログラム参加 のために入院している。 35 7.生活習慣病センター 生活習慣病センターは 2009 年 6 月の複十字病院組織改編により誕生した。循環器科、糖尿病科、 整形外科、神経内科、歯科の 5 科を含んでいる。しかし残念ながら 5 科とも外来のみであり、しか も常勤医師が対応しているのは循環器科と歯科だけとなっている。 (1)循環器科 常勤医師 1 名、非常勤医師 2 名により外来のみの診療を行った。将来的には、常勤医師を増や してもっと充実させていきたい。 (2)糖尿病科、整形外科、神経内科 常勤医師不在のため、非常勤医師により外来診療のみを行った。糖尿病科においては将来の目 標ではあるが、ぜひとも常勤医を確保して糖尿病科系病棟への足がかりとしたい。 (3)歯科 常勤医師 1 名で外来診療を行った。日々の診療はもちろん重要であるが、清瀬市歯科医療連携 推進協議会委員にもなっているので、歯科医師会ともコンタクトを強め病診連携を深めていきた い。 診療科別外来患者数(4 月~2 月) 区分 2009 年度 2010 年度 前年同月比 循環器科 5,069 4,959 △ 110 糖尿病科 3,930 4,272 342 整形外科 3,019 4,102 1083 神経内科 2,008 1,987 △ 21 歯科 3,808 3,295 △ 513 8.放射線診療部 (1)放射線技術科 2010 年放射線科事業計画は以下の通りであった。 1)より専門的知識に基づいた医療の提供 2)放射線治療装置の更新 3)胸部動態 X 線検査装置の共同開発の継続 結果:1)に関しては、4 月に常勤の放射線診断医が着任し、画像診断が向上した。また、放射線治 療に関しても、1 月に予防会初、常勤の放射線治療認定医が放射線診療部長として着任し、今後の 放射線治療に大きな展望が開けた。2)に関しては、都立清瀬小児病院のお古だが、ようやく 2011 年 6 月に着工の予定が立った。今までとほぼ同じスペックの装置で、新しい治療はできないが、 今回は予定外の更新であった為、次回本館建て替え時までのつなぎとなる。3)に関しては、件数 は 36 件から 130 件へと大きく飛躍し、データ解析も疾病別分類など、次の段階に進んでいる。ま た、呼吸器内科の医師がこの装置を使った COPD の患者についての研究発表を行っており、次年度 は当科からも発表を予定している。 主な件数については以下の通りであった(ドックの件数含む)。 一般撮影 CT MRI リニアック X-TV マンモ 外来 37,905 9,382 2,076 3,725 1,751 6,271 入院 16,415 1,631 237 2,221 559 12 前年度比 108.9% 104.2% 97.2% 133.6% 107.8% 100.3% 1)CT は昨年同様 10,000 件を超え、今年度も複十字病院史上最多件数更新である。MRI は、常勤の 診断医が赴任した割には、昨年よりもさらに落ち込んだが、外来数だけで比較すると僅かながら 伸びている。 2)リニアックの照射件数の増加は著しく、特に乳がんの予防照射が半数以上を占めている。また、 1 月からは待望の放射線治療の常勤医が赴任し、装置の方も更新が決まった。 3)マンモは乳がん検診も乳腺科からの精密検査もほぼ横ばいであった。 認定資格取得状況:マンモグラフィ 5 名、放射線治療専門技師 1 名、放射線品質管理士 1 名、医用 画像情報管理士 1 名、胃がん検診専門技師 1 名となっている。この他、マンモの施設画像認定も 36 取得している。 (2)核医学技術科、アイソトープ・PET センター PET/CT・ガンマカメラ検査件数(2010 年度) 検査名 外来 入院 PET/CT 1,277 16 骨シンチ 691 10 肺換気 140 12 肺血流 136 11 心筋・心プール 64 脳血流 33 センチネルリンパ節 6 103 追跡シンチ 12 100 ガリウムシンチ 5 その他 4 合計 2,356 152 ドック 38 6 44 合計 1,331 701 145 147 64 39 109 112 5 4 2,545 前年度比% 106.5 99.7 92.4 90.7 74.4 114.7 129.8 130.2 55.6 66.7 102.2 件数/年 件数/月 件数/日 共同利用率/年 1,331 110.9 5.5 36.4 1)ガンマカメラ検査に関して ①合計件数は 1,214 件で昨年度とほぼ同じであった。 ②検査種類別では、センチネルリンパ節シンチが 2010 年 4 月の診療報酬改定で加算が認められ、 昨年度の増加率よりも更に大きく増加(30%)した。 ③脳血流シンチが 15%増加し、肺換気・肺血流シンチが 8%減少、骨シンチはほぼ同数であった。 2)PET/CT 検査に関して ①合計件数は 6.5%(81 件)増加した。検査件数の上昇は、診療報酬改定による PET 検査の適応 疾患の拡大が影響したものと推定できる。 ②共同利用率は昨年度より 3%上がり、36.4%と高い共同利用率になったが、これは地域の医療施 設からの、PET の更なる有効活用が進んでいるものと考える。 PET/CT 検査 9.中央手術部 (1)麻酔科 常勤麻酔科医師 2 名で麻酔科業務を行っている。2009 年 12 月からの救急告示に伴い 2010 年度 総手術件数は 838 件と増加し、月平均 70 件の手術麻酔を行なった。 年度 2008 2009 2010 手術数 784 797 838 (2)中央手術室(中央材料室) 環境対策上非常に好ましくない GOG 使用回数は、対象物品を用途別分類したことにより 2009 年 度では、前年対比 17%減少した。しかし、2010 年度では、5%増加となった。年間総手術件数が 838 件と増えたことによると想像される。 年度 2008 2009 2010 EOG 使用回数 161 134 141 (3)東日本大震災(2011 年 3 月 11 日)の対応 計画停電により通常の時間帯に予定手術が組めない為、午前 6 時より予定手術を開始した。 非常時には人材の確保が大切と考え、地震発生当日、麻酔科医師を向う 3 週間分確保し緊急手術 に備えた。緊急手術は 5 件だった。 37 10.臨床検査部 (1)臨床検査診断科 複十字病院が公益財団法人として良質な医療の提供を目指し、2010 年 4 月より検体管理加算 IV 施設基準の維持・発展に努めている。2010 年 12 月の院内発表会で報告した様に、臨床検査委員会 を運営し、メンバーの協力の基、①精度管理の支援、②検査項目の見直し、③検査実施状況の改 善、④外部委託の調整、⑤研究検査の推進を行った。最小限の資格の臨床検査管理医を 12 月に所 得した。検体管理加算 IV では持つべき臨床検査専門医の準備を、なるべく頻回に検査報告書を書 きながら進めている。 (2)臨床検査技術科 4 月の診療報酬改定では、細菌検査関連が 10~15 の増点、生化学マルメ 5~6 の減点で、他はほ ぼ増減点がなかった。外来迅速加算が 5 点→10 点、検体管理加算が 300 点→500 点と増点され、 黒字化に貢献している。 検査件数は、入院・外来・検診共に増加しており、生化学・血液検査に増加があり、細菌検査 に減少が見られる。 2010 年度の各検査件数と 2009 年度との対比 2009 年度の各検査件数 区分 入院 外来 検診等 計 対比 生化学 258,438 500,444 253,521 1,012,403 104.5% 血液 122,109 205,734 96,109 423,952 107.6% 血清 9,610 38,683 15,614 63,907 97.2% 一般 9,467 37,959 13,499 60,925 96.9% 区分 入院 外来 検診等 生化学 252,343 489,841 226,234 血液 119,889 191,165 83,112 血清 10,772 38,530 16,418 一般 10,359 39,202 13,336 生理 細菌 病理 計 対比 5,526 15,825 2,458 23,809 18,801 15,655 857 35,313 3,448 4,381 4,479 12,308 427,399 818,681 386,537 1,632,617 100.8% 102.5% 111.4% 97.3% 87.8% 91.3% 104.0% 生理 6,090 15,811 細菌 20,790 18,564 病理 3,667 5,228 計 423,910 798,341 計 968,418 394,166 65,720 62,897 2,560 24,461 878 40,232 4,581 13,476 347,119 1,569,370 104.0% 11.薬剤科 本年度の薬価改訂は薬価ベースで-5.75%であったにもかかわらず、当院の総購入医薬品金額(薬 剤科取り扱い分)は約 21.9%増加した。総購入金額における後発医薬品購入金額の占める割合は、前 年度の 20.9%から 16.0%に減少した。いずれの原因も抗がん剤の購入金額増加によるものと考えられ る。アリムタ注射用・アバスチン点滴静注用の購入金額だけで前年より約 1 億 2480 万円増加し、両 薬剤の購入金額は総購入金額の 27.3%をも占めている。 6 年制になった薬学部の長期実習が今年度より始まった。2.5 ヶ月ずつ計 6 名の学生を受け入れ、 参加型実習で技能、態度の修得を目指し指導を行った。 診療報酬改訂にともない新設された薬剤管理指導料医薬品安全性情報等管理加算・退院時薬剤情 報管理指導料を算定するため、医薬品の使用状況・安全性情報等の収集と提供体制を整え、手順書 を作成し算定を開始した。医薬品安全管理責任者の配置が医療法に定められて 3 年、その業務内容 や役割が浸透しており体制の整備は円滑に行えた。しかしながら薬剤管理指導料は前年度に比べ 84% と減少し残念な結果となった。これは退職者不補充のまま、病棟の抗がん剤混注を開始したことの 影響が大きい。安全キャビネットを配備したミキシングルームの完成を待ち、外来のみで行ってい た抗がん剤の混注対象を全病棟に拡大した。日曜祝日も対応し、院内全ての抗がん剤を薬剤師が混 注する体制を整えることができた。無菌製剤処理加算は 1,232 件であった。がん治療の充実を目指 す当院の懸案事項であった、患者様へのより安全な抗がん剤使用と医療従事者の調製時の被曝防止 が達成できたことになる。 12.看護部 今年も看護の質の向上として実施していたプライマリー看護・ラダー教育を充実していく・看護記 録の充実を事目標に進めた。 38 委員会が中心になり目標を達成し、看護に繋げる事が出来た。しかしオーダリングと看護支援の リンクに問題もあり見直しの必要も出てきた。 副部長を中心に、業務・教育と委員会活動が充実し、各委員が役割意識を持ち看護部の運営を遂行 できたと考える。特に目標管理に繋がるラダー研修は内容も充実してきた。3 年目に入った東京都復 職支援病院は、年 3 回実施することを通し、当院への就職には繋がらなかったが地域病院の発展に つながる事に貢献できたと思う。看護技術向上のための備品の整理をする事もできた。 入院基本料 10 対 1 の人員を確保し維持する事ができ、導入された看護必要を実施する事で経営に も参画できたと考える。今後も学習会への参加を促し、診療報酬の変化に対応して行きたい。また、 看護師のスキルアップを始め、経営の安定を図りながら、病院の質・看護の質の向上に努めていきた い。 13.事務部 当院の経営状況を全職員が理解するために毎月収支状況報告書(32 ページ)を作成して幹部職員 に配布、収支状況報告書の抜粋版(20 ページ)を全職員が閲覧できる体制にし、職員一丸となって 経営の黒字化を目指した。 2009 年 6 月特定共同指導が行われ数々の指摘・改善事項を指導された。この事を鑑みてカルテ改 善委員会を発足させカルテ記載の改善方法についての方針を決めて関係部署に徹底させた。その後 カルテ監査委員会が中心になり記載方法が改善されているかチェックし指摘項目を改善している。 2010 年度診療報酬改定により新規項目の検体管理加算(Ⅳ)、急性期看護助手加算、医師事務作業補 助加算等の届け出を行い算定した。 SPD 導入により、年間購入料の多い物品をリスト化して上位品目の入札を行い、購入金額を抑える ことができた。 2010 年度より出勤・退出の実時刻の記録を残す勤務表とした。 2010 年 10 月より医事業務の精度及び接遇の向上のために委託業者の変更を行った。変更に当たっ ては、トラブルが予想されたが 2 ヶ月間の旧業者との引き継ぎ等がありスムースに移行することが 出来た。 2010 年度に医療相談室のソーシャルワーカー(社会福祉士)分野では新規相談援助が 379 件、累 計相談援助件数が 12,672 件であった。 新規相談援助は、昨年度と比較すると 23 件の減少であった。累計相談援助は相談体制が整わず減 少した。相談援助の内訳では、退院援助が新規依頼ケースのうち 257 件と全体の 78%を占めた。援助 ケースも昨年より 10 件増加した。これは、DPC 導入と早期に相談依頼が出ていることが影響したと 考える。退院援助以外の援助に十分時間を割けずに緊急性のある退院援助に重点を置いた業務内容 となった。 看護相談(看護師)分野では、新規相談件数が 288 件であった。在宅支援をはじめ相談内容は多 岐に及んだ。相談体制の確立と外来・病棟との連携が重要である。 早期介入とハイリスクケースの早期発見は相談援助においては課題事項である。今後、他職種・ 他関係機関との連携をさらに強化し、相談援助実績を分析して、患者や家族の気持ちや生活を支え る看護・福祉相談に努めていきたい。 地域連携室は本年度も地域における医療機関との相互の連携を図るため病診・病病連携の推進に 力を入れ、地域医療の発展に貢献したいと考えて業務を行った。 主な内容としては、予約診療・予約検査を中心に地域の医療機関との連携を図りながら、患者の 医療への安心を高めるとともに、地域医療に密着した患者サービスの向上に努めている。 2010 年度の新患の紹介率は 57.19%となり、検査も 1893 件の予約を受けましたが、セカンドオピ ニオンや他の医療機関からの依頼や相談などが増加して、充実した業務を行うことができた。また、 公立昭和病院を中心に 16 病院と「救急当直医」の情報を共有化して、スムースに救急搬送ができる ように、各医療機間との連携を強化することが出来た。 施設整備では、リニアックの更新を 2011 年 6 月より行うことを決めた。また患者アメニティ向上 のために売店経営の公募し各社プレゼンテーションの上 2011 年度よりのミニコンビニエンスストア 化にすることとした。 39 14.情報システム部 (1)システム管理室 システム管理室では、2009 年 5 月に更新したオーダリングシステム「MegaOakHR」の保守を行い ながら、細かな不具合の解消や運用の見直しを進めた。オーダリング系は幸いハード・ソフトと もに目立った障害はなく、ネットワークについても障害は見られなかった。イントラネット業務 連絡系では NAS(ネットワーク・アッタチト・ストレージ)が業務量の増加に伴って容量不足に陥 り、新規更新を余儀なくされた。サイボウズサーバについてもトラフィックの増加から能力の限 界が近づいており、サーバ更新あるいは外部サーバの導入を検討中である。 (2)診療録管理室 診療録管理室では、カルテに綴じるべき書類・用紙が増加し、院内カルテ内整理に支障が生じ ていたため、入院カルテを改編し、全体を十部門に分け、各部門を色紙で境し、各色紙にその部 門に綴じるべき用紙の一覧を印字した。また、各用紙に固有のコードを付番し、コードを見れば 綴じ位置が即座に分かるようにした。また、昨年度に引き続き、診療録等の破棄選別作業をおこ なった。DPC(診断群分類包括評価)を用いた入院医療費の定額支払い制度への対応として、DPC 委 員会・医事課と協力して DPC コーディングの精緻化へ向けた医師への啓発や指導に取り組んだ。 また、診療録記載を正確にしていくためにカルテ記載監査委員会が院内で発足したが、この活動 に協力するとともに日常のカルテ内容チェックを続け、カルテ記載不備を減らしていくための業 務を続けた。 15.安全管理室 感染管理部門は、入院患者への抗生剤適正使用を目標に毎週金曜日 ICT ラウンドを開始した。抗 生剤長期使用例や届出制にした抗菌薬使用例について、ICD が中心に病棟内で検討して、主治医にコ メントを残している。しかしこのコメントに対し、主治医からリスポンスのないことも多く指導も ラウンド指導の難しさを痛感する。9 月に多剤耐性アシネトバクターの院内集団感染事件が報道され、 ついで欧米で問題となっていたインド発の多剤耐性大腸菌(NDM1)が国内で検出されたことから、 改めて院内の耐性菌サーベイランス体制を再確認した。 安全管理部門はがん告知に関わる諸問題が発生したことから、原則患者本人に対して告知すると いう当院の方針を周知してもらうため院内に掲示した。このことは常勤医に限らず、外来のみの非 常勤医にも浸透するよう努めた。また、薬剤科による抗癌剤の混合調整がスタートし、その誤投与 を防止するために医師・看護師と緊密な連絡が必要となり、オーダリングシステムを使った処方確 認をマニュアル化した。医療機器部門では、旧くなった器材の入れ替えを計画的に行えるように使 用機器のベータベース化を行うなど、順調に安全管理体制が整備されてきている。しかし 3 月 11 日 という年度末に発生した東日本大震災は、当院の安全管理体制に大きな衝撃を与える事件となった。 地震による院内の被害は軽微だったが、発生時にシステマチック初動ができず、災害マニュアルを 一から作り直す必要性を痛感した。大災害対策が、次年度の安全管理室の主要課題になることは間 違いないと思われる。 16.治験管理室 治験管理室は、主に製薬会社の治験、製薬会社検査会社からの受託研究がスムーズに行なわれる ように対応している。さらに 2010 年度には、医師または企業が主導する多施設共同研究に対応でき るよう手順を整備した。このうち、治験については、前年度より 2 件継続して実施し、さらに本年 度 3 件契約し開始した。対象となった 5 薬剤は、多剤耐性肺結核用薬剤、抗がん剤、オピオイド使 用に伴う便秘に対する薬剤、がん悪液質に対する薬剤である。受託研究については 5 件の管理を行 なった。その疾患領域は、非小細胞肺癌、多剤耐性肺結核、および乳がんであった。 新山手病院 当院では、地域医療を支える病院として役割を果たすため、診療体制の維持と医療の質の向上、 安全の確保を図り、堅実な病院運営を目指した。 診療各科について、呼吸器科は常勤 1 名、整形外科は依然として常勤医師が不在であり、非常勤 医師による外来中心の診療を行っている。 40 循環器病センター、結石破砕センター、歯科口腔外科センターはそれぞれ順調に運営を進め、地 域での専門医療センターとしての役割が定着した。引き続き、近隣医師・歯科医師との連携をより 深めることを目指している。 看護部門においては、22 年度も新卒・中途採用ともに採用予定数をほぼ確保することができ、入 職者の現場への定着も順調であった。 現任者の能力開発の面では、卒後年数・各人の目標・これまでの経歴に基づいた研修プログラム の策定に本格的に取り組み、実施に進めた。また、認定看護師資格取得支援制度を活用し、感染管 理と緩和ケアにおいて 1 名ずつ資格を取得し、認定看護師はがん化学療法を合わせ 3 名となった。 こうした方策を通して、専門性の高い看護を推進している。 設備投資については、画像保存通信システム(PACS)の更新等を行ったが、翌年度以降の新本館 建設を視野に、故障・損耗等による古い機器の更新にとどめた。 東京都 2 次救急指定病院としては、平成 14 年度に指定を受けて 9 年を経過し、22 年度の指定更新 も終えて、引き続き救急指定病院として役割を果たす予定である。救急救命士再教育(病院実習) も 8 年目を迎え、循環器病棟に 3 名の実習生を受け入れた。 業績発表会は 9 回目であり、例年どおり保生の森、グリューネスハイムと共同で開催し、職員の 連携と技術の向上を目指して、各部署から業務内容や研究成果を発表した。 このように当院では、地域医療の中核を担う医療機関として堅実な取り組みを続けている。 また、3 月には東日本大震災被災者に対する支援に、当院からは瀬崎循環器病センター長、内野看 護師長を岩手県へ派遣した。平成 23 年度も引き続き職員を派遣する予定である。 1.入院患者の状況 入院患者の延べ数は、48,525 人で前年度より 2,454 人下回り、1 日当りの入院平均患者数も、132.9 人で前年度を 6.8 人下回った。入院平均在院日数は 16.8 日で前年度より 0.1 日の増、入院平均単 価は 43,030 円で前年度より 1,403 円の増となった。 2.外来患者の状況 外来患者の延べ数は、72,431 人で前年度より 1,724 人減少した。このため 1 日当りの平均外来患 者数も 272.3 人と前年度を 7.5 人下回った。一方、外来平均単価は、診療報酬の改正案により前年 度より 709 円増え 10,020 円となった。 3.手術件数 全手術例数は 555 例、そのうち消化器外科 372 例、 (全麻 239 例、腰麻 58 例、局麻 74 例。うち腹 腔鏡下手術 12 例)、胸部外科 16 例(全麻 14 例うち腹腔鏡下手術 10 例、局麻 2 例)、整形外科 1 例 (全麻 1 例)、心臓血管外科 13 例(弁置換 12 例、うち 7 例は弁置換+α。バイパス 18 例、うち off pump13 例、5 例はバイパス+α。全麻 26 例。) 、泌尿器科 80 例(全麻 40 例、腰麻 33 例、局麻 2、静 脈 5 例。うち膀胱鏡手術 16 例) 、口腔外科 46 例(全麻 31 例、局麻 15 例)、血管外科 24 例(全麻 13 例、腰麻 4 例、局麻 7 例)であった。 内視鏡検査は、消化器内視鏡例数 1,809 例(上部 1,293 例、下部 516 例) 、十二指腸(ERCP)10 例。 上部消化管内視鏡によるポリープ切除 6 例、止血術 3 例、EVL5 例、食道バルン拡張術 5 例、下部消 化管内視鏡によるポリープ切除 108 例、結腸ポリープ、粘膜切除術(EMR)6 例、止血術 4 例。内視 鏡的胃瘻増設術(PEG)16 例。ERCP12 例、EST1 例、PTCD 及び PTGBD13 例。腹部血管造影例数 28 例 (肝臓癌に対する抗癌剤の「選択的血管注入術」16 例、 「選択的血管塞栓術」2 例)。呼吸器内視鏡 例数 142 例であった。 41 4.手術件数(循環器) カテーテル検査 心臓カテーテル検査(左心系) 心臓カテーテル検査(右心系) 冠動脈形成術(PCI) うち薬物溶出ステント使用 心臓電気生理学検査 心臓カテーテルアブレーション 下大静脈フィルター 血管内視鏡(IVUS) 体外式ペースメーカー ペースメーカー植え込み術 経皮的血管拡張術(PTA) 経皮的心肺補助(PCPS) 大動脈バルーンパンピング(IABP) 外科手術 心臓手術(人工心肺使用手術) 心臓手術(人工心肺不使用) 人工血管置換術 自己血回収(セルセイバー) 血液浄化 透析用ブラッドアクセス挿入術 血液透析(HD) 持続式血液濾過透析(CHDF) 血液吸着(DHP) 459 件 59 件 103 件 (82 件) 35 件 23 件 1件 53 件 29 件 31 件 0件 2件 5件 15 件 9件 5件 27 件 37 件 67 件 113 件 13 件 5.救急医療への取り組み 平成 14 年度に東京都の二次救急医療機関の指定を受けてから 9 年目を迎え、 指定の更新を行った。 救急車搬送患者数は昨年度比 20 件増加して計 566 件(平成 21 年度 546 件、平成 20 年度 547 件)と なった。また、東京消防庁の救急救命士再教育実施機関の指定も受けており、本年度は 3 名を循環 器病棟にて各 2 日受け入れた。 救急車搬送患者数 月 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 計 患者数 40 42 39 61 49 31 43 28 56 64 43 70 566 6.地域連携室の状況 入院・外来患者・地域の住民及び他医療機関からの医療相談業務は 7,435 件(うち面接 4,102 件、 電話 2,673 件、文書 658 件、訪問 2 件)で、相談の内容としては受診援助 443 件、入院援助 1,092 件、退院援助 2,392 件、療養上の問題調整 3,119 件、経済問題調整 334 件、家族問題援助 20 件、日 常問題援助 22 件、心理情緒的援助 1 件、人権擁護 12 件。 訪問看護は、病院での治療が終わり退院される患者がスムーズに在宅療養に移行し安心した生活 が送れるように支援している。 訪問診療は寝たきりの方、又は通院する事が困難な方に毎月診察に伺っている。 特に、終末期の患者の場合は、病棟看護師や主治医と連携をとりながら療養生活見守り、必要時 には入院できる体制をとっている。このように、院内の訪問介護の特徴は病棟や主治医との連携が 取りやすく、患者とご家族は安心して在宅療養を送ることができている。 月 訪問看護 4 109 5 86 6 102 7 80 8 87 9 103 42 10 97 11 88 12 80 1 57 2 57 3 計 70 1,016 7.業績発表会 11 月 27 日(土) 、本年で第 9 回を迎える保生の森、グリューネスハイムとの合同業績発表会を開 催した。三施設の全部署から幅広い分野の演題を提出、口演・ポスターセッションを含め計 72 題の 発表があった。院内外の出席者は合計で 200 名を超え、活発な意見交換が行われた。 8.保生会 例年どおり 5 月の第 3 日曜日である 5 月 16 日(日)本館外来ホールにおいて、当院の退院患者で 組織する保生会(会員数 898 名)の第 70 回総会が開催された。あわせて会員の健康診断が実施され、 計 52 名(前年 51 名)が受診した。 〔追記〕 (1)結核対策 平成 18 年 11 月から結核病床は 8 床である。結核部門も呼吸不全などの合併症を持つ結核患者の 治療を行い急性期病棟と同等の治療を行っている。 また、元結核入院患者の会である保生会の総会に併せ、年 1 回会員の健康診断を実施、胸部レン トゲン検査や喀痰検査を行い結核の再発予防に努めている。 (2)呼吸器疾患対策 呼吸器病棟(40 床)は 32 床を一般病床化し、増加の一途をたどる肺癌や COPD、間質性肺炎によ る急性呼吸不全などの患者を積極的に受け入れている。今年度気管支鏡検査件数は減少したが、末 梢病巣の診断には放射線科と協力しナビゲーション画像を作成することにより診断率が向上してい る。ステント挿入、気管支充填術などの治療も行っている。在宅酸素の患者会も定着し患者教育に も力を入れている。肺癌の手術件数も増加しているが、Stage1B 以上肺癌の術後化学療法にも積極 的に取り組んでいる。気胸の外科的治療は VATS を積極的に行っている。 第一健康相談所 今年度は、健康ネットワーク事業部の当所への完全移管にともない、業務の見直し・スリム 化を図り効率化に向けて各部門間の連携強化を行い整備してきた。また、職員一人ひとりが保 健事業を取巻く環境を理解し、この状況を乗越えるため、さらに職員の意識改革を行ってきた。 1.職員の意識改革と能力向上 部門・個人の目標に対して期限を設定し、目標達成のためにサポート者と協同し課題解決を 図ってきた。また、グループ制を導入し業務の明確化、連携体制の強化および責任意識の改革 に繋げてきた。 技術向上では早朝カンファレンス、定期勉強会を開催し、放射線科においては技師読影も必 要とされている中、消化器専門医による定期勉強会を通じ医師へのフィードバックを行うため レベルアップに努め、新年度内には実行することとしている。 臨床検査科においても外部研修会参加による技術向上や各施設の協力のもと結核研究所で はQFT検査の技術取得、複十字病院では病院業務研修に参加しレベルアップに努めてきた。 保健看護科では、QFT検査が結核の診断で主流となったことにともない接触者検診後の治療 患者が保健所の紹介により増加傾向にあり、今後も保健所との連携強化を図り都内の中心的役 割を果たしていく。また、保健指導の一環として看護師全員がワンポイントアドバイスに携わ れるようになり、今後においてもさらにレベルアップに努めていく。 また、今年度より新山手病院・保生の森業績発表会、複十字病院院内発表会を参考にして所 内発表会を試行し、各部署の業務を相互理解することで連携強化を図ってきた。次年度以降に ついても本格的に開催していく。 2.経営改善の実施 電子カルテの導入によりカルテ・検査結果の管理業務が充実し、保管スペースを有効に活用 できるよう整備してきた。 43 3.部署間の連携および業務体制の整備 営業情報の共有による一体的体制の充実を目指し、毎週定例連絡会を開催してきた。 また、入札案件の早期情報収集を図り関係者への事前周知により対応策を協議する体制を整 備してきた。 各部門の予約・受付・会計業務においては役割分担を明確化し、体制整備を強化することで 顧客サービスを高めることができた。 4.外来部門の動向 外来受診者は、結核治療を含む呼吸器科 9,502 人、内科 657 人、循環器科 1,728 人、消化器科 1,323 人、糖尿病外来 1,473 人。合計 14,683 人で前年対比 1,031 人の増となった。 また、健診受診者は、個人健康診断 1,113 人、来所公害 2,909 人、出張公害 1,130 人、その他 984 人。外来扱い受診者総合計では、20,819 人で前年対比 629 人の増となった。 5.読影部門の動向 胸部 X 線フィルム読影受託件数は、間接 74,672 件、直接 9,348 件、CDR 等の媒体 46,699 件で合計 130,719 件であった。 今年度も広報等により前年度に引続き 11,655 件の増となった。 44 入 院 の 状 況 区 分 許 繰 可 越 病 在 複十字病院 床 院 患 者 新山手病院 数 339 床 180 床 リ 数 298 人 122.8 人 理 調 処 剤 延 入 院 患 者 数 5,146 人 2,878 人 退 院 患 者 数 4,730 人 2,902 人 死 亡 患 者 数 438 人 203 人 数 110,389 人 48,525 人 年 度 末 在 院 患 者 数 276 人 122 人 在 院 患 者 延 区 分 ニ ヤ 学 療 方 病 床 利 用 率 302.4 人 箋 剤 呼 吸 器 手 消 1 日 平 均 在 院 患 者 数 ッ 化 複十字病院 新山手病院 ク 2,221 件 - 件 法 13,283 件 8,342 件 数 43,267 枚 17,500 枚 数 750,603 剤 319,393 剤 大 195 件 18 件 小 8 件 4 件 大 344 件 290 件 小 2 件 74 件 大 137 件 12 件 小 121 件 6 件 器 132.9 人 術 乳 89.2 % 73.8 % 結 核 50.9 日 56.8 日 一 般 15.6 日 16.1 日 そ の 他 9 件 - 件 - 人 13 人 般 食 199,143 食 70,230 食 学 258,438 件 155,542 件 給 一 食 特 別 食 69,417 食 47,557 食 臨 血 液 122,109 件 69,363 件 職 他 - 食 5,556 食 血 清 件 23,713 件 数 1 体 - 体 平均在院日数 人 間 ド ッ ク 受 診 者 生 床 化 血 件 4,990 件 細 菌 18,801 件 4,480 件 生 理 5,526 件 4,536 件 査 病 理 3,448 件 1,313 件 一 般 9,467 件 25,889 件 X 直 接 撮 影 16,091 件 12,850 件 断 層 撮 影 - 件 1 件 影 324 件 206 件 影 106 件 236 件 影 1 件 533 件 T 1,631 件 1,778 件 I 237 件 487 件 マ ン モ グ ラ フ ィ 12 件 5 件 364 件 102 件 骨 線 消 撮 化 血 器 造 管 造 検 C M 査 そ 剖 そ の 検 R の 他 の 造 影 入院患者の居住地分布 複十字病院 居住地 地 呼 吸 器 480 件 64 件 造 影 ) 1,125 件 466 件 他 92 件 43 件 核 RI(除 画像処理) 医 E T 学 P 136 件 -件 16 件 -件 般 0 件 -件 査 0 件 -件 内 視 消 化 器 ( 除 鏡 そ の 眼 科 の 他 一 の 検 患者数 率 新山手病院 患者数 元 1,087 人 21.1 % 1,612 人 率 56.0 % 隣 接 市 町 村 2,876 人 55.9 % 713 人 24.8 % 他 553 人 19.2 % 府 県 1,183 人 23.0 % 計 5,146 人 100.0 % 2,878 人 100.0 % 疾患別入院患者数 非 結 核 そ の 他の 施 そ 員 9,610 輸 検 腺 設 名 結 核 計 胸 部 疾患 疾 複十字病院 新山手病院 45 患 353 人 2,681 人 2,112 人 5,146 人 23 人 351 人 2,504 人 2,878 人 外 来 の 状 況 区 分 複十字病院 新山手病院 第一健康相談所 初 診 12,016 人 3,943 人 2,959 人 再 診 130,230 人 72,431 人 11,724 人 そ の 他 142,246 人 -人 5,023 人 延 数 284,492 人 76,374 人 19,706 人 断 - 人 123 人 1,113 人 ツ ベ ル ク リ ン 反 応 検 査 - 人 -人 152 人 B 種 - 人 -人 35 人 学 500,444 件 303,962 件 47,695 件 臨 血 液 205,734 件 111,535 件 4,102 件 血 清 件 31,122 件 2,260 件 輸 血 件 -件 - 件 細 菌 15,655 件 1,728 件 4,577 件 生 理 15,825 件 16,903 件 680 件 査 病 理 4,381 件 2,578 件 259 件 一 般 37,959 件 119,805 件 1,818 件 受 診 者 数 健 康 診 C G 生 床 検 接 化 38,683 間 接 撮 影 - 件 0 件 - 件 直 接 撮 影 31,415 件 21,113 件 4,717 件 断 層 撮 影 - 件 0 件 - 件 影 1,034 件 2,014 件 - 件 影 1,707 件 1,186 件 21 件 影 0 件 0 件 - 件 T 9,382 件 2,263 件 719 件 I 2,076 件 803 件 - 件 マ ン モ グ ラ フ ィ 6,271 件 964 件 3件 科 191 件 1,651 件 - 件 度 823 件 157 件 881 件 影 39 件 20 件 - 件 器 13 件 78 件 - 件 造 影 ) 4,117 件 1,194 件 299 件 他 4 件 1 件 - 件 核 RI( 除 画 像処 理) 医 E T 学 P 1,078 件 -件 - 件 1,315 件 -件 - 件 般 0 件 -件 12 件 査 0 件 -件 - 件 ク 3,725 件 -件 - 件 法 4,749 件 2,709 件 - 件 数 3,202 枚 4,504 枚 7,592 枚 数 57,711 剤 155,603 剤 - 剤 請 508 件 52 件 693 件 呼 吸 器 疾 患 受 診 者数 (再 掲) 50,054 人 10,510 人 9,502 人 205.2 人 39.5 人 78.0 人 X 骨 撮 消 線 検 化 血 器 管 造 C M 査 造 R 歯 骨 密 そ の 他 の 呼 吸 内 視 消 化 器 ( 除 鏡 そ の 眼 そ 科 の リ 他 の ッ 学 核 検 ヤ 調 処 剤 延 結 一 ニ 理 造 療 方 箋 剤 予 1 日 平 均 防 法 受 診 申 者 数 46 5. 結核後遺症高齢者等に対応する療養・保健・福祉事業 (公 1-5) 介護老人保健施設保生の森 平成 22 年度は、前年度の介護報酬プラス改定に加え、利用率の維持、向上による経営の安定化を 図ること、また、職員の教育に重点を置き、事故予防、より良いサービスの提供を目指し事業を遂 行した。 経営状況については、利用者数が入所(短期含む)1 日平均 98.5 名(前年度 98.7 名)、通所(予 防通所含む)1 日平均 38.0 名(前年度 38.2 名)と前年度に比べほぼ同水準を維持できたこと、安定 した収益の確保につなげた。 また、職員教育については、本年度新たに教育委員会を設置した。主に新入職員を対象として統 一化された指導内容の教育プログラムの作成、実行に取り組み、職員のレベル向上とより良いサー ビスの提供に努めた。 1.施設利用者の状況 区分 入所 4月 2,920 5月 2,932 6月 2,842 7月 2,997 8月 3,043 9月 2,907 10 月 3,003 11 月 2,868 12 月 3,002 1月 2,957 2月 2,722 3月 2,994 介護度 3.26 短期入所 42 101 69 69 40 78 81 64 49 56 52 51 3.41 通所リハ 900 792 910 952 902 948 934 920 900 866 841 835 2.68 予防短期 予防通所 91 81 92 90 79 90 104 75 68 53 54 56 1.55 合計 3,953 3,906 3,913 4,108 4,064 4,023 4,122 3,927 4,019 3,932 3,669 3,936 2.98 2.ISO9001 認証への取り組み 平成 15 年 1 月に認証を取得した ISO9001 については、本年度の 10 月に維持審査を受け、 「登録継 続」の承認を得た。また、内部監査も年に 2 回実施しており、業務改善に必要な手順書の改善も進 んでいる。 3.相談指導室の状況 平成 22 年度の相談件数は年間 17,463 件であった。前年を若干下回ったが、ほぼ満室状況の維持 につなげることができた。 4.看護・介護科の状況 職員の学会・研修の参加については、全老健主催の研修へ 2 名、その他外部研修等へ 8 名、内部 研修及び勉強会は 31 回開催し、多くの職員が参加した。また、各種委員会を中心に業務の向上、改 善、教育等を実施した。 5.リハビリテーション科の状況 利用者のニーズにあった訓練(理学・作業・言語)を実施することができた。平成 22 年度は入所・ 短期入所が 9,060 件(1日当たり 24.8 件)、通所が 10,020 件(1日当たり 32.7 件)の個別訓練を 行った。 6.栄養科の状況 利用者に季節感を感じていただくため、手作りおやつ、バイキングなどを実施した。アンケート 結果からも利用者に好評であった。 47 7.補助金の状況 平成 22 年度の福祉医療機構の借入利息 4,845,224 円に対する補助金として、東京都から 4,771,000 円の利子補給をうけた。 また、前年度 12 月から交付を受けている介護職員処遇改善交付金について、本年度は東京都から 7,486,695 円の補助金を受けた。 8.市町村・社会福祉協議会等との情報交換 東村山市社会福祉協議会とは、本年度も後方支援業務として夜間相談窓口の委託を受け密接な連 携を保っている。また、東村山市には認定審査会に 2 名、高齢者在宅計画推進部会に 1 名が参加し ているほか、通所サービス事業者連絡会には役員として参加し、地域における研修会、各種会議開 催の中心的な役割を担った。 9.学会・研究発表会 (1)第 21 回全国介護老人保健施設大会研究発表(岡山:11 月 10 日~12 日) 【演題 1】 新人教育への取り組み ~統一した指導への挑戦~ 【発表者】 北原則彦 【演題 2】 老健の医療について 【担当者】 瀬口美智子 (2)第 86 回多摩医学会研究発表講演会(10 月 23 日) 【演題 1】 踵骨部と踝骨部に集中して発生した褥瘡ケアを通して学んだこと 【担当者】 三輪登美子 居宅介護支援センター保生の森 平成 22 年度は、常勤職員 2 名と兼務 3 名(常勤換算は約 3 名)の配置によりケアプラン作成等の サービスを行った。新山手病院、保生の森と密接に連携し、在宅部門における中心的な役割を果た した。 1.サービス実施の状況 区分 居宅支援 認定調査 相談件数 4月 84 14 713 5月 84 9 702 6月 88 25 661 7月 85 7 641 8月 78 15 658 9月 80 16 624 10 月 78 13 596 11 月 81 11 715 12 月 81 9 571 1月 77 16 644 2月 80 13 494 3月 81 16 655 合計 977 164 7,674 1 日平均 2.7 0.4 21.0 2.研修会の参加状況 東京都介護支援専門員研修に 1 名参加した。 48 6. 外国人結核患者等に対応する診療・服薬指導・相談事業 (公 1-6) 結核研究所 1.在日外国人医療相談事業 (1)電話相談 1)体制:毎週火曜日(10~15 時)、在日外国人を対象とした結核に関する電話相談に応じている (火曜日 17 時まで、水・金曜日 10~17 時はソーシャルワーカーのみ在室) 。 保健師(石川) 、ソーシャルワーカー(須小) 、中国語通訳(斉藤) 、韓国語通訳(鄭→金)で対応 している。相談内容により結核研究所、第一健康相談所、複十字病院、本部から助言を得ている。 2)相談の概要:電話相談と第一健康相談所呼吸器外来での診療支援に分けられる。 ①相談件数 平成 22 年度(平成 22 年 4 月 1 日~23 年 3 月 31 日)の相談件数は 254 件、内電話相談は 51 件、 診療支援は 203 件だった。 ②対象者の国籍 a)電話相談(特定の対象者がいる 41 件中) 中国:26 件、韓国:3 件、ベトナム:4 件、フィリピン:3 件、ペルー:2 件、インドネシア:1 件、不明:2 件 b)診療支援(203 件、66 名中) 中国:144 件(40 名) 、中国から*:7 件(7 名) 、台湾:12 件(1 名) 、韓国:10 件(4 名) 、フ ィリピン:12 件(4 名) 、ミャンマー:9 件(2 名) 、インドネシア:2 件(1 名)、ネパール:2 件(2 名) 、パキスタン・スリランカ・ウガンダ・メキシコ・ボツワナ:各 1 件(1 名) *中国残留邦人やその家族で、言葉の支援が必要なため外国人に含めている ③相談者 a)電話相談(51 件中) 対象者本人:20 件、対象者の家族や知人:4 件、医療機関:7 件、保健所:8 件、行政機関:6 件、学校:1 件、NGO:1 件、その他:4 件 b)診療支援(203 件中) すべてが対象者本人 ④相談内容と対応 a)電話相談(51 件中) ・結核の治療を受けているが(結核の疑いで検査中だが)相談したい:21 件 例)通院中の中国人女性から「結核の疑いもあるということだが、なかなか診断がつかず、医 師の説明にも納得がいかない」との相談があった。主治医や病院の相談室とも連絡をとり、受 診に同行して通訳するなどの支援を行った。 ・結核に関する外国語の資料がほしい:12 件 例)医療機関、保健所、行政機関などから、主に患者への説明のため、または配布するための 外国語の資料やパンフレットがほしいとの問い合わせがあり、可能なものについては提供した。 ・通訳してほしい:6 件 例)病院から「耐性結核で入院中の患者に治療方針の説明をする際、同席して通訳してほしい」 との依頼があり、実施した。 ・外国の結核医療事情について知りたい(医療機関を紹介してほしい) :4 件 例)保健所から「結核の治療途中で中国に帰る患者がいるので、現地の医療機関を紹介してほ しい」との問い合わせがあり、結核研究所の紹介システムにつなげた。 ・患者への対応について助言がほしい:3 件 ・翻訳してほしい:3 件 ・受診したいので医療機関を紹介してほしい:1 件 ・症状、検査、治療、感染や医療費など、結核に関して知りたい:1 件 (2)診療支援 第一健康相談所呼吸器外来を受診した外国人患者には通訳担当者を含めたスタッフ 2 名で対応し ている。事前に患者から聞き取りを行い、診察に同席し、再説明や確認も行っている。原則として 初診から治療終了、その後の健診まで関わるようにしている。 49 66 名(203 件)中、前年度からの継続が 9 名、初診が 57 名だった。 初診 57 名の受診理由として最も多いのは「健康診断で精密検査が必要とされた」で 39 名、特に 日本語学校の健康診断は 34 名だった。その内、20 名が結核と診断され治療を開始している。 次に多いのは「接触者健診で精密検査が必要とされた」で 8 名、内 7 名が潜在性結核の予防的治 療を開始している。 健康診断(中国残留邦人の家族が日本語学級に入学するため、学校結核健診)での受診も 6 名あ った。 (3)その他の事業 1)パンフレット及び資料の送付 平成 21 年度に発行したパンフレット「ひょっとして結核?!結核についてもっと知りたいあな たへ」改訂版(英語・中国語・韓国語版各 2,000 部、計 6,000 部) 、及び他資料を、医療機関、保 健所、行政機関、学校、NGO 等の依頼を受け、送付した。 2)調査・研究 ①結核研究所(対策支援部保健看護学科)研修(平成 22 年 6 月 10 日) テーマ「外国人への対応~文化的背景の理解のために」の中で「中国語通訳の立場から」とし て報告した。 ②外来看護服薬支援カンファレンス(平成 22 年 5 月 25 日、7 月 27 日、9 月 28 日、11 月 25 日、 平成 23 年 1 月 27 日、3 月 24 日) 第一健康相談所で結核の治療を受けている外国人患者についての DOTS カンファレンス(都内を 中心とした保健所、第一健康相談所呼吸器科、結核研究所対策支援部保健看護学科)に出席した。 (4)運営に関する会議の開催 1)在日外国人結核医療相談事業運営委員会 ①目的:相談事業を円滑かつ効果的に運営するための助言を得る。 ②開催日:平成 22 年 12 月 14 日 ③内容:平成 21 年度及び平成 22 年度前期の事業報告、今後の事業計画及び展開について ④出席者:(委員)石川、下内、藤木、(オブザーバー)星野、手塚、(国際部)安藤、柳、市原、 (相談室)石川、須小 50 7. 増大する呼吸器疾患、新型インフルエンザ対策等に対応する医療・予防事業 (公 1-7) 本部(事業部普及課) 1.COPD 共同研究 平成 19 年~23 年に 5 カ年計画で COPD(慢性閉塞性肺疾患)潜在患者の早期発見を目的として、 製薬会社と共同研究を行っているもので、4 年目の事業を実施した。 特に 22 年度は、①厚生労働省開催の「慢性閉塞性肺疾患(COPD)の予防・早期発見に関する検 討会」(6 月~8 月に 4 回開催)に本会共同研究委員会メンバーが委員として参画、②12 月に設立さ れた日本 COPD 対策推進会議において本会共同研究委員会メンバーが副会長、幹事として参加、の 2 点が新たな事業として挙げられる。 2.禁煙ポスター 5 月 31 日からの禁煙週間に合わせて、禁煙ポスター「赤い糸、焼いていたのは、たばこかも。 」 を作成し、企業、医療機関、学校等に配付した。 51 8. 全国都道府県結核予防会と連携する研究と健診・予防一体型の事業 (公 1-8) 複十字病院 1.健康管理センター (1)管理課・業務課 健康管理センターでは、地方自治体の乳児 BCG ワクチン接種について 6 市(清瀬市、小平市、 西東京市、所沢市、狭山市、東久留米市)と契約し実施している。 2010 年度より、東久留米市が入札となり、その結果、落札出来ず 600 万円の減収となった。し かしながら、企業健診の分野で最大顧客である西武バス株式会社の関連会社である西武ハイヤ- 株式会社と新規で健診の契約を締結し、1,800 万円の増収となった。この額は東久留米市乳児検診 の減収を十分に補填することが出来る額である。 一方で、人間ドックを含む施設健診は 2009 年度に比し大きな変化は見られなかった。 結果として健康管理センターの年間総収入は、前年度比で 1,850 万円の増収となり、4 億円超とな った。予算額および決算見込額を大幅に上回る収益をあげることができた。 (2)健康サポート科 昨年度開始した「企業巡回保健指導」については、今年度も継続で実施した。各営業所での認知 度が高まり、健康意識の向上や同僚・家族への波及効果も得られているようだ。 「特定保健指導」は、新規契約の企業があった。その他集合契約や市町村職員共済組合、全国健 康保険協会東京支部などに対して実施し、少しずつ増加している。 「外来食事相談」の依頼は減少気味だが、健康管理センター医師の強力により、自費での「食 事相談」が増えた。 他、資格更新研修や講習会参加などにより、資質の向上を図った。資格としては、管理栄養士 2 名とも「日本糖尿病療養指導士」を取得した。 院内外の講習会開催や外部会議参加・地域社会への貢献・執筆などをついては以下に示す。 1)院内活動 2010 年 5 月看護の日: 「嚥下食」について展示 2010 年 6 月第 6 回 生活習慣改善講習会 「食事のカロリーカットのコツ~低カロリーおやつの作り方も紹介」 2010 年 10 月第 7 回 生活習慣改善講習会[食事の塩分カットのコツ] 2010 年 12 月院内発表会「2 型糖尿病患者における食事療法・運動療法の効果」 2)院外活動 2010 年 5 月日本医療企画「ヘルスケアレストラン 5 月号」執筆 ~在宅で作る安くておいしい簡単料理~ 2010 年 9 月清瀬市健康まつり「みんなの食育~未来の健康は自分で作る~」 2010 年 11 月小平市市民講座「子どもの発達と成長」講師講義と調理を各 1 日実施。 2010 年 11 月小平市健康フェスティバル「みんなの食育~未来の健康は自分で作る~」 2010 年 11 月西東京市誕生 10 周年記念事業「朝食メニューコンクール」審査員 東京都施設給食協会多摩小平支部 2010 年度支部長(川﨑) 北多摩北部地域医療推進委員会委員(多摩小平保健所)2009 年度より 2 年任期 新山手病院 1.来所健(検)診 東村山市の「国保特定健康診査」の 1 次健診を受託し、4 ヶ月半に亘って実施され受診者数は 1,161 人と前年度より 47 人上回り、平成 21 年度から開始されたオプション検査では、胸部直接撮影検査 707 人で前年度より 110 人上回り、安静心電図検査 555 人で前年度より 54 人上回った。また「社保 特定健康診査」 の受診者数は 272 人で前年度より 24 人上回った。肺がん検診の受診者数は 170 人で、 前年度より 51 人上回った。 なお、乳がん検診は平成 21 年度から施行無料クーポン券の給付により、受診者数は 574 人で前年 度より 5 人下回ったがほぼ前年並みになった。事業所健康診断等の受診者数は 281 人で前年度を 12 人上回った。 52 2.人間ドックの受診状況 半日・一泊人間ドックの利用者は、今年度 1,308 人( 半日 1,295 人、一泊 13 人)で、90 人減と なった。例年 240 人前後の受診者がある東京都情報サービス産業健康保険組合が 22 年度より対象年 齢を 5 歳引き上げ 40 歳からとしたため、当初から 60~80 名減を予想していた。それにも増して 3 月の東日本大震災により人間ドック自体の受診者がほとんど無くなってしまったことが大幅な減少 の原因と考えられる。 主な受託先の、山崎製パン健康保険組合は 398 人の受診で前年度より 8 人の減少、これは震災に より工場がフル稼働体制に入り、申込みされていた殆どの方がキャンセルとなったためである。 東京都情報サービス産業健康保組合は前述の通り、182 人で 72 人減となった。 今年度のオプションドック受診者は 453 人、その内訳は脳ドック 161 人(23 人減)、肺ドック 39 人(21 人減)、脳ドックと肺ドックは一昨年とほぼ同数に戻った。大腸ドック 2 人(1 人増)、骨粗 鬆症ドック 20 人(5 人減) 、口腔ドック 6 人(3 人増)、マンモグラフィ 144 人(25 人減) 、乳腺エコ ー81 人であった。乳がん検診は自治体の検診をはじめ、健康保険組合においても特段の予算を付け た検診となってきている。基本コースに含む健康保険組合が増えつつある。 (この集計ではオプショ ンとしてカウントしている。) 前年度の平均単価は 40,752 円であったが、今年度も 40,730 円とほぼ同額となった。 3.生活習慣病対策 糖尿病患者数は全国的に増加しており、教育的入院、コントロール目的の入院が必要な患者は多 く、CGM(持続血糖測定)を積極的に行った。また、循環器科の冠動脈疾患を有する患者には糖尿病 コントロールは重要で、入院にて積極的に治療している。当院循環器科で治療している急性冠症候 群の症例の多くはメタボリック症候群や境界型糖尿病の未治療例である。これらの状況を改善する ためには医師会と協力して生活習慣病の是正に関する市民の理解を得る努力が必要であり、地元の 啓蒙活動に参加貢献に努めた。 最近は尿路結石も生活習慣病のひとつであるという認識がなされてきており、再発防止に向けた 生活指導にも重点を置いている。外来配布用に結石再発予防のための生活指導のパンフレットを作 成するなど、再発防止に向けて努力している。 また、健保組合等からの受託により人間ドックを実施しているほか、市からの委託で集団検診(国 保特定健康診査、胃大腸検診他)を実施している。 第一健康相談所 顧客サービスでは、健診システムのバージョンアップおよび医療機器の更新により顧客満足 度を高めるとともに新規顧客の獲得、既存顧客へのより付加価値の高いサービスを提供してき た。ネットワーク健診においても全国展開している新規顧客を獲得し、各県支部および協力医 療機関との連携・協力の下、健診体制を整備・拡充し展開してきた。次年度においても継続的 に拡大していく。 さらに結核予防会として当所が果たしてきた歴史的な役割を踏まえ、読影センター機能も広 報により拡張傾向にあり、呼吸器外来では保健所との連携により患者増が図られ、また生活習 慣病外来では夜間診療も開始したことで徐々に充実してきた。 今年度3月の東日本大震災の影響で出張健診をはじめとする健診のキャンセル、延期等によ り収支の悪化が重なる厳しい状況の中、本部をはじめ各施設と共同し被災支部に対する健康支 援タスクフォースを急遽立上げ現地で支援活動を行ってきたが、当所は引続き支援活動を展開 していく。 1.生活習慣病予防・研究センターの機能強化 保健指導においては、新規案件の獲得および既存顧客の規模拡大により増加傾向にあり充実 してきた。また、循環器病の予防に関する調査(NIPPON DATA2010)の結核予防会事務局とし て 参画し、従来国が実施してきた後継調査に各県支部と連携・協力しながら実施してきた。 53 2.集団健診部門の動向 (1)施設健診 入社健診 843 人、定期健診〔A〕2,277 人、定期健診〔B〕15,945 人、定期健診二次 440 人、そ の他 659 人。来所健診受診者数の合計は、20,164 人で前年対比 1,675 人の減となった。 企業の雇用問題、統廃合等および震災の影響によるキャンセル、延期により定健〔A〕、〔B〕 受診者が減少した。 (2)出張健診(一次) 官公庁 35,063 人、学校 56,973 人、総合健保 11,046 人、単独健保 6,780 人、事業所 13,090 人。 出張一次健診受診者数の合計は 122,952 人、前年対比 2,038 人の減なった。 入札、既存顧客の損失および震災の影響による健診のキャンセル、延期等により受診者減とな った。 (3)出張健診(二次) 総合健保 549 人、事業所 2,465 人、学校 665 人。出張二次健診の合計は 3,679 人で前年並みで あった。 3.人間ドック部門の動向 総合健保 4,827 人、単独健保 1,578 人、事業所 1,486 人、協会健保 1,357 人、その他 148 人。人 間ドック受診者数は合計 9,396 人となり前年対比 437 人の減となった。 協会健保では受診者増となったが、総合健保で健診内容の見直しを行い施設健診扱いとしたため 減少となった。 4. 健康ネットワーク事業部門の動向 健診取扱件数は、67,600 件、保健指導 375 件、その他 3,108 件で合計 71,804 件であった。新規顧 客の獲得により昨年対比で 31,016 件の増となった。 5.経営改善の実施 営業推進室においてはネットワーク健診既存顧客のモデルをもとに新規顧客を獲得し、各県 支部と連携し、また新たな協力医療機関の協力を得ながら健診体制の整備・拡充が図られた。 次年度以降も新規顧客の獲得がみられ、今年度から各県支部・協力医療機関と協働しながら効 率的運用を図れるよう展開してきた。 診療部門では、生活習慣病(糖尿病、高血圧)の夜間外来を開始し、併せて保健指導も行うこと で生活習慣の改善に繋げ、患者数も徐々に増加してきた。 6.業務体制の整備 昨年度更新した健診システムにおいては機能拡充により健診処理体制が簡素化し、より効率 的な運用が構築されたことで顧客サービスへと繋がった。 54 集団検診実施報告書 (単位:件) 複 区 分 病 結 核 検 診 ツ ベ ル ク リ ン 反 応 検査 十 字 新 院 病 山 手 第 院 相 513 T 検 査 418 893 B C G 接 種 7,427 5,442 X 線 間 接 撮 影 X 線 直 接 撮 高齢者医療 特 痰 検 22,102 70ミリ 100ミリ 15,906 39,564 影 3,561 14,747 査 548 特 定 健 康 診 査 定 保 健 指 導 15,906 36,860 3,561 12,052 1,689 9 動機付け支援 20 67 積極的支援 47 133 後 期 高 齢 者 健 診 市町村実施 一 の 健 所 F 検 診 車 け い り ん 号 に 間接(再掲) よ る も の 直接(再掲) 法 談 康 Q 喀 保 健 5 結 核 健 康 診 断問 診票 確 一 般 健 康 診 702 353 査 2,500 1,080 170 診 肺 が ん 検 診 1,428 胃 が ん 検 診 143 子 乳 大 宮 が が 腸 ん ん が 検 検 ん 検 診 診 3,530 診 385 574 学 校 検 診 心 臓 検 診 1,101 14,630 腎 臓 検 診 140 28,672 寄 生 貧 そ 虫 血 の 事業所検診 定 検 検 他 の 606 査 検 9,459 生 活 習 慣 病 健 診 2,753 201 28,672 126 80 21,969 そ 化 の 健 診 診 消 期 診 器 他 検 の 検 診 34,741 診 1,692 鉛 有 特 殊 検 診 機 溶 他 人 の 検 診 公 間 ド 害 ッ 検 620 ん 肺 8 216 V D T 268 1,560 綿 89 6 そ の 108 じ 石 そ 剤 の 他 ク 3,095 診 1,308 9,396 4,039 骨 粗 鬆 症 検 診 301 そ の 他 の 検 診 161 B C G 接 種 以 外 の 予 防 接 種 2,637 55 513 264 Ⅱ 国民の結核を中心とする疾病の予防と健康増進のための教育、事業の助成・支援及び複十 字シール募金運動等普及啓発を目的とする事業(公 2) 1. 結核予防事業の広報・普及啓発活動 (公 2-1) 結核研究所 1.セミナー等事業(社会啓発・アドボカシー) 結核対策の維持・強化を図るため、結核対策従事者へ結核情報を発信する場として下記の事業を 実施した。 (1)第 69 回日本公衆衛生学会(東京)総会自由集会(平成 22 年 10 月 27 日 参加者 120 名) 集団感染の対応に必要な情報と技術を提供するとともに、実際の事例を基にその対応について 協議する場として、例年開催をしている。今年度は改訂されたばかりの「接触者健診の手引き第 4 版」の詳細な解説と共に、奈良県から産院を舞台とした母子の結核発症事例と兵庫県から広域に 展開する飲食チェーン店の事例を報告いただいた。フロアとの活発な討議が行われ、産科医療機 関に対する結核の啓発活動および保健所間の連携の重要性が示唆された。二人の助言者からは関 東圏で初めて行われる小児結核検討会の経緯、分子疫学を用いた対策の方向性についてお話しい ただき、ここ数年の自由集会では最多となる 120 名の参加を得ることができた。 (2)第 69 回日本公衆衛生学会(東京)総会ブース展示(平成 22 年 10 月 27 日~29 日) 結核予防週間のテーマ「そのせき、結核ではありませんか?」をタイトルに掲げ、立体ポスタ ーによる展示のほか、プロジェクターを使った DVD の上映をしながら最新情報の提供に努めた。 また、結核の減少と共に、公衆衛生の専門家の関心も低下することから、パンフレット「結核の 常識 2010」を配布しながら、結核がまだ公衆衛生上の大きな課題であることを訴えた。毎年ブー スに立ち寄って最新の情報を得ているという声も聞かれ、継続した広報活動の重要性と必要性を 実感した。 (3)平成 22 年度全国結核対策推進会議(平成 23 年 3 月 4 日 289 名) 結核に関する特定感染症予防指針の見直しが行われ、さらに新たな目標に向かって結核対策を 進める時代を迎えることから、今年度のテーマを「結核対策の新機軸」とした。予防指針改正作 業の経過とともに指針見直しのために行われた調査研究(結核病床、院内 DOTS 業務量、全国自治 体業務アンケート)の結果を報告いただき、今後の都道府県計画策定へつなげる企画とした。 シンポジウムでは、参加者の関心の高い「今日の多剤耐性結核(MDR)最新情報」をテーマに、 各演者から MDR の検査、診断、治療、看護について発表いただき、最新の知識の提供に努めた。 また、今年度からポスター展示者に事前に紹介いただく場を設けたことによって、活発な意見交 換・情報交換の場を提供することができた。 (4)第 16 回国際結核セミナー(平成 23 年 3 月 3 日 259 名) 本セミナーは、国内外の専門家を含め、結核対策指導者養成研修卒業生を講師として、日本の 結核対策の質的向上と国際化を目指して毎年開催している。16 回を迎える今年は「感染リスクへ のアプローチ」を全体テーマに掲げた。WHO 西太平洋事務局大菅克知先生には、西太平洋地域の現 状と新 5 年間の戦略について特別講演をいただき、シンポジウムでは「リスクグループ対策の新 展開」と題し、高齢者・住所不定者対策、都市結核・外国人・HIV 合併結核、さらにタバコなどに 関して最新の知見や先進的な取り組みを紹介した。 (5)世界結核デー記念フォーラム(平成 23 年 3 月 3 日) 平成 22 年 5 月 29 日に急逝された財団法人結核予防会会長青木正和先生を悼み、 「研究の成果を 活かした新しい対策の樹立-接触者健診の礎」と題して、国際結核セミナーに引き続き記念フォ ーラムを開催した。青木先生は 56 年間の長きにわたり、日本及び世界の結核制圧に向けた結核予 防対策の推進に生涯を捧げられた。研究の成果を活かした新しい対策の樹立に努められた先生の 研究の一つである集団感染論は、「接触者健康診断」や「院内感染対策」策定の重要な基盤となっ ていることから、青木先生とご一緒に「結核定期外健康診断ガイドライン」 (平成 5 年)の作成作 業にあたられた阿彦忠之先生に当時を振り返っていただいた。併せて、現在の「接触者健診の手 引き(第 4 版) 」の解説を交えながら、低蔓延下の結核対策のあり方についてお話しいただいた。 シンポジウムでは各時代の集団感染事例を報告いただき、今後の対応について展望した。 (6)第 3 回結核対策指導者研修修了生による全国会議(平成 22 年 8 月 27 日-28 日) 全国から結核対策指導者研修修了生 36 名が結核研究所に集い、第 3 回全国会議を開催した。 「接 56 触者健診の手引き第 4 版」や QFT-3G 等についての最新情報の提供に加え、厚生科学審議会結核部 会で改定改正作業が進む「結核に関する特定感染症予防指針」をテーマにワークショップを行っ た。来年以降、都道府県ではこの予防指針を受けて予防計画の見直しが始まることから、今回の 議論を反映するため、①低蔓延状況下のスクリーニング、②都道府県計画における目標設定と対 策評価指標、③病原体サーベイランスの構築、④日本版 DOTS 戦略の展開、⑤結核医療体制の構築 についての提言をまとめた。 (7)結核研究所ホームページ(HP)の運営 結核研究所 HP の運営を、HP 委員会を通じて行った。内容の充実(雑誌「結核」に結核研究所職 員が書いた論文、結核用語辞典、テーマ別目録等の掲載)を継続的に進め、結核対策に携わる保 健医療従事者の支援を強化した。HP 上で行ったアンケートによる評価は内容については概ね良好 であったものの、職員の手作りによる HP のため、わかりにくい、見づらい、知りたいことを調べ にくいなどの意見が寄せられた。来年度は専門業者に作成を委託し使い勝手の改善と内容の充実 に努めたい。 2.各県の結核対策事業支援 (1)結核対策特別促進事業の企画に関する相談・支援 昨年度に引き続き、DOTS の事業評価、DOTS 拡大に伴う地域連携の構築に関する事業および研修 の企画の他、発見の遅れに伴う高齢者重症結核に関する対応の相談が多かった。 (2)各種研修会等の講師の派遣 結核研究所宛講師派遣依頼文書は、講師等 259 件、兼業 74 件、計 333 件であった。講師等 259 件では、講演会 176 件(68%)が一番多く、医療基準改定に伴う診断および治療の他、DOTS 事業の 評価、地域連携体制の構築に関する依頼が多かった。コホート検討会 20 件、結核対策会議 13 件、 集団感染事例発生に伴う対策委員会 4 件にも積極的に出席した。 (3)結核に関する質問・相談への対応 保健所や医療機関、住民からの各種の問い合わせ(結核研究所ホームページを通したメール、 電話および FAX)は 1,421 件で、昨年から 77 件増加した。メールによる相談が 1,207 件(携帯メ ール 638 件、PC メール 569 件)と最も多く、電話・FAX による相談は 214 件で前年とほぼ同数だ った。相談者の内訳は一般、保健師、医師、放射線技師の順で、一般からの相談の多くは症状に 関するものであった。保健所からの相談は接触者健診や BCG、外国人対応が多かった。接触者健診 の相談については、接触者健診対応システムを用いて関係者が協議し、導いた対応方針を相談者 に還元した。 本部(事業部普及課) 1.第 62 回結核予防全国大会 第 62 回結核予防全国大会を福島県との共催により、平成 23 年 3 月 23 日(水)~24 日(木)に 福島県郡山市のホテルハマツにおいて開催予定で準備を進めていたが、3 月 11 日に発生した東日本 大震災の影響により中止した。 2.報道機関との連絡提携 (1) 結核予防週間、世界結核デー等に合わせ、広報資料ニュースリリースを発行し、全国の主要報 道機関(新聞社、放送局、雑誌社)に提供した。 (2) 結核関係資料を報道関係者に随時提供した。 (3) AC ジャパン支援キャンペーンに申請したが、23 年度 7 月からの実施は見送られた。 3.結核予防週間の実施 9 月 24 日(金)から 1 週間、「そのせき、結核ではありませんか?」を標語に全国一斉実施。主 催は、厚生労働省、都道府県、政令市、特別区、社団法人日本医師会、公益財団法人結核予防会、 社団法人全国結核予防婦人団体連絡協議会及び財団法人健康・体力づくり事業財団。 行事は、各地域の実情に合わせて行い、本部は全国規模で教育広報資料の作成・配布行った。 57 (1)結核予防周知ポスター 「長引くせきは、イエローカード!」を B3 判カラーで作成し、全国支部、配布希望の企業、 医療機関、学校に配布した。 (2)結核予防のリーフレット「結核の常識」 教室の黒板、教卓の上にシールぼうや、シールハイハイ、たすけあインコ、リンゴを配置した 体裁の表紙で、最新の結核の情報を掲載して作成、全国支部、配布希望の企業、医療機関、学校 に配布した。 4.グローバルフェスタに出展 10 月 2 日(土)~3 日(日)に東京都千代田区の日比谷公園で開催されたグローバルフェスタ JAPAN2010 において、ブース出展・資料配付、ワークショップ「国際協力と結核-フィリピン貧困地 区の現場から-」を行い、国際協力関係者の中で結核予防知識の普及啓発を行った。 5.世界結核デーの実施 3 月 24 日(木)の世界結核デーを記念して 3 月 3 日(木)に東京都港区のヤクルトホールで、 世界結核デー記念フォーラムを実施し、関係各所に広報活動を行った。 ※「世界結核デー」とは・・1882 年 3 月 24 日のコッホによる結核菌発見の発表を記念し、世界の 結核根絶への誓いを新たにするために 1997 年制定され、以降毎年 3 月 24 日前後に世界で記念 イベント等が実施されている。 6.「複十字」誌の発行 年 6 回(隔月)毎号 16,000 部(大会号 18,000 部)発行を予定していたが、全国大会中止に伴 い大会号を発行中止し、5 回発行した。また、 「結核予防会 公益財団法人への移行について」と題 し、特別号を 16,500 部印刷し、配布した。結核およびこれに関連する疾病の知識とその対策、各地 の行事等幅広く収録。全国支部経由で都道府県衛生主管部局、市町村、保健所、婦人団体に配布し た。 7.全国支部および関係機関への情報配信 本部・支部の活動状況、各種の行事、情報等の連絡速報としてメーリングリストにて全国支部 に配信した。 8.教育広報資材の貸出し 普及啓発用の展示パネル、ビデオ・DVD 等を、保健所、学校、事業所その他に無料で貸出しを行 った。 本部(事業部出版調査課) 昨年に引き続き、結核の罹患率は 20 を下回ったが、新登録患者数年間 2 万人以上、死亡者数は 2 千人を超えるなど依然として主要な感染症であり、国の結核対策の方針を広くかつ的確迅速に周知 する必要がある。こうした状況に鑑み、一般の読者はもとより、結核対策の第一線で活躍している 医師、保健師、放射線技師、結核予防婦人会を対象に結核対策従事者の技術と意識の啓発、正しい 知識の普及のための出版物を発行し、広範囲にわたり頒布した。 1.出版活動 国内における結核を中心とした出版物を発行し、全国広く頒布に努めた。 平成 22 年度の新たな出版物は次のとおりである。 (1)主な新刊 ○ 結核の統計 2010 ○ 定期雑誌 保健師・看護師の結核展望 95 号,96 号 (2)主な改訂 ○ 医師・看護職のための結核病学 3 巻 治療①(平成 22 年改訂版) 58 ○ 医師・看護職のための結核病学 増刊コッホ現象・多剤耐性結核症(平成 22 年改訂版) ○ 結核!?でも心配しないで(平成 22 年改訂) ○ 結核の接触者健康診断の手引きとその解説(平成 22 年改訂版) ○ DOTS ってなあに(平成 23 年改訂) (3)外部の依頼による制作 ○ 結核と BCG(下敷き) (日本ビーシージー製造) ○ 直接 BCG 接種の手引き(平成 22 年改訂版)(同上) ○ PR チラシ QFT 検査のご案内(同上) ○ 結核と BCG 接種について(同上) ○ 結核対策推進会議新報 11 号(結核研究所) 59 2. 複十字シール募金運動 (公 2-2) 本部(事業部資金課) 1.運動の概要 学校、市町村、事業所、婦人会の組織を通じ、とくに家庭の婦人層を中心に複十字シール運動の 趣旨とシールの使い方について積極的な PR を行った。結核や肺がん・COPD(慢性閉塞性肺疾患)な ど胸部疾患の予防知識の普及を図ると共に、事業資金造成のための募金活動とその協力者の拡大を 図るよう努めた。 平成 22 年 7 月に本会が公益認定を取得した関係で、全国 47 都道府県支部に新しい複十字シール 運動について、9 月臨時全国支部事務局長会議、12 月シール担当者会議、2 月全国支部事務連絡会議 を開催し、説明を行い、平成 23 年度よりスタートする。 本年度目標額は、従来同様 5 億 4 千万円に設定したが、募金総額は約 3 億 1 千 4 百万円で昨年度 に比べ約 1 千 9 百万円減少した。 (1)募 金 目 標 額 5 億 4 千万円 (2)運 動 期 間 平成 22 年 8 月 1 日~12 月 31 日(これ以外でも募金は受け付ける) (3)後 援 厚生労働省、文部科学省、全国結核予防婦人団体連絡協議会 (4)運動の方法 1)組織募金 各県の地域事業に即した方法で、関係行政機関の協力を得ながら、保健所、市町村、婦人会組 織、事業所、各種団体等に募金の協力をお願いした。特に婦人会組織を通じての募金活動に重点 をおいた。 2)郵送募金 媒体を郵送する方法で、組織的協力の難しい都市地域を対象に実施した。対象者は協力を受け 易い階層の個人、会社、事業所から選定した。今年度の新規購入データの内訳は、法人が 2 万件、 個人が 1 万 5 千件を追加した。 (5)シール、封筒の募金基準額および製作数 種別 募金基準額 製作部数 シール大型シート(24 面) 1,000 円 ,334,600 部 シール小型シート(6 面)) 100 円 1,851,000 部 小型シール・封筒 3 枚組合せ 11111,、、200 円 376,000 部 (6)募金成績 1)募金総額 314,131,141 円 募金の内訳について(カッコは占有率) 郵送 107,887,908 円(34.3%) うち本部は、 55,563,141 円 組織募金 学校関係 7,626,340 円(2.4%) 市町村 64,386,784 円(20.5%) その他の官公署 25,896,793 円(8.2%) 婦人会関係 85,348,059 円(27.2%) 衛生関係団体 7,336,032 円(2.3%) 会社 6,495,994 円(2.1%) その他 9,305,652 円(3.0%) 2)郵送募金と婦人会関係の組織募金で、全体の 61.5 %を占めている。ただし、郵送募金の 51.5 % は本部によるもので、支部については、婦人会関係に次いで、市町村役場からの協力が大きい。 本部は、約 290 万円減額の 56,214,802 円となった。 3)都道府県支部別の募金成績は、下記のとおりとなった。 ①募金額の多い支部は、1 位:沖縄県支部、2 位:大阪府支部、3 位:静岡県支部、4 位:宮城県支部、 5 位:長野県支部となった。 ②前年度募金額を上回った支部は、14 支部(前年度 10 支部) 岩手県支部・茨城県支部・埼玉県支部・東京都支部・山梨県支部・新潟県支部・福井県支部・ 60 愛知県支部・奈良県支部・島根県支部・香川県支部・福岡県支部・大分県支部・沖縄県支部(北 から) その中で、2 年連続前年の募金額を上回った支部は、埼玉県支部と愛知県支部となった。 4)シール・封筒の取扱数 募金媒体別に見た募金額の比率はシール 92.5%(90.2%)、封筒 7.5%(9.8%)となった。支 部だけでは、シール 89.9%(87.1%)、封筒 10.1%(12.9%)となっている。シールへの依存度 が高くなることは望ましい傾向である。 5)地域別募金状況募金運動成績(カッコ前年度) ①北海道東北地区 44,150,879 円 (48,806,543 円) ②関東甲信越地区(本部含む) ) 98,186,966 円 (103,732,170 円) ③東海北陸地区 31,862,015 円 (35,825,172 円) ④近畿地区 37,646,139 円 (44,505,892 円) ⑤中国四国地区 30,513,013 円 (34,111,175 円) ⑥九州沖縄地区 71,772,129 円 (78,027,167 円) 6)諸経費と益金 シール封筒、宣伝資材等の製作費、運搬費等の合計 104,761,222 円 募金総額から諸経費を除いた益金は 209,369,919 円 寄附金率 66.7% (72.8%)となった。 7)寄附金の使途 (単位:千円) 本部 支部 合計 使 途 区 分 金 額 % 金 額 % 金 額 % 1.普及啓発や教育資材に 22,892 28 27,748 15 50,640 19 2.結核予防団体への事業助成に 1,516 2 37,432 21 38,948 15 3.検診車・機器等施設拡充に 100,280 56 100,280 38 4.途上国への国際協力事業に 58,081 70 6,405 4 64,486 25 5.調査研究事業などに 7,223 4 7,223 3 計 82,489 100 179,088 100 261,577 100 8)本部の郵送募金成績 昨年度の協力者、継続協力者、新規を対象として、以下のとおり 159,497 件を発送した。 種 目 複 十 字 シール シール・封筒 小型シール 合 計 組 合せ セ ッ ト 大 型 小 型 区 分 件数 部数 件数 部数 件数 部数 件数 部数 件数 比率% 発 送 数 158,358 160,846 448 2,654 687 2,682 4 13 159,497 100 受 付 数 20,619 21,347 162 1,296 293 1,282 2 2 21,076 13.21 入 金 数 13,437 14,116 219 1,286 287 1,533 2 2 13,945 8.74 (内過年度分) 201 220 10 109 8 38 2 2 221 返送・事故数 7,178 7,230 4 10 6 20 0 0 7,188 4.51 無 応 答 数 137,800 139,499 225 1,358 394 1,400 2 11 138,421 86.78 入 金 額 54,253,041 587,410 691,390 31,300 55,563,141 (内過年度分) 2,917,805 26,100 13,500 31,300 2,988,705 1 件当りの入金額 4,038 2,608 2,409 15,650 3,984 2.広報資料の配布 募金運動の趣旨並びに運動内容をひろく一般に周知させるとともに、結核予防事業および募金運動 に対する理解を高めるために、次の宣伝資材を作成し、支部を通じて配布した。 ポスター 23,500 枚 リーフレット 1,075,600 枚 はがき 52,000 枚 61 3.次年度複十字シール図案の作成 平成 23 年度複十字シール図案は、引き続き画家の安野光雅氏に依頼した。シールは「外国のあそ び」をモティーフに制作される。 尚、平成 22 年度の複十字シールがドイツのベルリンで開催された第 41 回 IUATLD(国際肺疾患予 防連合)のシール・コンテストにおいて、1位となった。 62 別表1 平成22年度 複十字シ ール運動募金成績( A) 平成23年3月31日現在 複十字シール大型 都道府県名 北 海 道 ・ 東 北 地 区 関 東 ・ 甲 信 越 地 区 東 海 ・ 北 陸 地 区 近 畿 地 区 郵送用 組織用 北海道 377 青 森 278 3面 (改造) 6面 17 岩 手 宮 城 複十字シール小型 652 1,433 山 形 小型シール セット 平成22年度 募金額(円) 平成21年度 募金額(円) 9,609 7,117,573 7,755,092 8,735 2,758,963 2,910,227 1,347 2,279 3,573,612 3,432,346 15,580,497 16,266,978 124,000 11,284,326 11,987,389 27 6,377 664,777 3,171,131 773,694 3,799,893 福 島 203 381 17,643 茨 城 66 1,311 28,143 5,923,058 5,803,243 222 10,577 2,107 1,951,202 1,954,774 6,586 2,587 5,645,467 7,387,721 栃 木 群 馬 107 埼 玉 674 59 554 1,043 2,735,052 2,353,065 千 葉 225 289 1,197 1,233 1,861,088 2,163,967 134 1,792 658 570,550 481,035 770 10,820 6,130 4,314,531 4,646,633 10,000 536,879 508,491 長 野 404 60,453 新 潟 594 6,675 14,335,691 4,098,646 15,075,141 3,894,113 富 山 82 石 川 224 福 井 東 京 神奈川 山 梨 177 3,773 42,073 2,976,158 3,274,309 408 3,826 1,520,701 1,611,548 17 8,061 14,097 5,142,194 4,709,054 静 岡 460 11,208 33,050 15,847,552 16,827,646 愛 知 181 101 1,548 834 1,584,005 1,560,975 岐 阜 290 50 1,736 三 重 155 3,097 14,956 1,007,477 3,783,928 1,150,791 5,100,204 滋 賀 305 156 320 9,428 2,378,904 2,848,711 京 都 554 44 22,080 252 3,544,021 4,249,180 大 阪 3,482 180 2,709 15,663 18,221,791 18,374,227 2,794 6,830,507 10,259,064 76 1,200 7,448 20,862 2,500,648 4,170,268 1,845,038 4,780,808 7,000 924,938 1,086,477 3,400 694,944 633,279 25,945 6,342,706 6,361,061 91 兵 庫 奈 良 3,962 鳥 取 67 300 島 根 岡 山 185 3,376 広 島 292 山 口 337 徳 島 169 30 香 川 229 100 愛 媛 480 31,136 高 知 446 46,335 福 岡 485 12 3,997 2,049,607 2,076,861 17,808 3,897,481 3,898,863 200 20,353 3,481,108 3,877,922 8,525 5,797 2,607,883 2,539,859 4,651,312 5,863,034 5,588,675 6,137,276 5,362,907 5,279,290 1,359,852 1,481,976 2,044,816 2,050,448 7,560,016 9,164,469 13,730 2,555,540 2,502,151 310 8,679 2,102,300 2,125,100 172 16,476 11,969 4,449 352,464 6,152,108 44,634,590 257,916,339 7,077,740 44,176,707 273,843,511 55 佐 賀 九 州 地 区 合 せ 7,338 和歌山 中 国 ・ 四 国 地 区 組 45,427 57,797 秋 田 シール・封筒 5,452 6,929 3,251 9,295 長 崎 333 熊 本 431 大 分 88 宮 崎 93 鹿児島 607 沖 縄 102 1,203 6,175 99,769 25 計 15,132 10,103 1,072,796 本 部 14,117 0 1,286 292,370 1,262 2 56,214,802 59,463,987 合 計 29,249 10,103 1,074,082 293,632 2 314,131,141 333,307,498 * 各媒体の数字は入金部数です。 63 64 3. 秩父宮妃記念結核予防功労賞の表彰 (公 2-3) 本部(事業部普及課) 長年にわたり結核予防のために貢献された個人・団体に対して、世界賞・国際協力功労賞・事業 功労賞・保健看護功労賞の 4 分野において表彰するもので、表彰式は第 62 回結核予防全国大会にて 行われる予定であったが、全国大会中止に伴って延期することとなった。 65 4. 結核予防事業に従事する医師、放射線技師に関する研修・教育 (公 2-4) 結核研究所 1.結核予防会・日本対がん協会共催 診療放射線技師講習会(平成 23 年 3 月 9 日~11 日 50 名) 結核予防会と日本対がん協会で共催して診療放射線技師講習会を開催した。検診での撮影業務に 関することを主な内容とし、がん予防や検診についての最新動向を柱にして肺がん検診、結核検診、 胃がん検診、乳癌検診、被検者への被ばく対策等の検診業務に有効な内容を取り上げたカリキュラ ムとした。 本部(事業部普及課) 1.胸部検診対策委員会の開催 従来の肺癌検診対策委員会を引き継ぎ、胸部検診全般について、総括、精度管理、統計の各部 会において当面取り組むべき問題への対策を検討する胸部検診対策委員会は、6 月 15 日(火)に本 部会議室で精度管理部会を実施した。デジタル化への流れに対応するために 21 年度から評価体制の 新たな試みを開始し、それに続く今回の方法について活発に討議された。12 月 9 日(木)~10 日(金) に東京都清瀬市の結核研究所で、名称が新しくなって第 2 回目の胸部画像精度管理研究会(フィル ム評価会としては 26 回目)を実施した。 2.放射線技師を対象とし、撮影技術等の習得の目的をもって、日本対がん協会との共催で診療放 射線技 師研修会を 3 月 9 日(水)~11 日(金)に結核研究所において開催した。 3.医師を対象とし、結核等最新知識の習得を目的とした医師研修会は、参加者減少により 22 年度 は実施 を見合わせ、今後のあり方を検討した。 66 5. 全国結核予防婦人団体連絡協議会に対する育成強化と一部運営費の助成 (公 2-5) 本部(事業部普及課) 1.講習会の開催ならびに補助 (1)第 15 回結核予防関係婦人団体中央講習会を、結核予防会総裁秋篠宮妃殿下の御臨席を仰ぎ、 (社)全国結核予防婦人団体連絡協議会と結核予防会の共催により、平成 23 年 2 月 15 日(火) ~16 日(水)に東京都墨田区の第一ホテル両国において開催した。 (2)地区別講習会の開催費の一部を 5 地区に補助した。 (3)必要に応じ、各都道府県単位講習会等に講師を派遣した。 2.(社)全国結核予防婦人団体連絡協議会の運営に対する捕助 全国規模で結核予防事業を行い、各地域組織の連絡調整をする標記婦人会事務局の業務を支援し、 その組織運営費の一部を補助した。 67 6.「ストップ結核パートナーシップ日本」への参画と一部運営費の助成 (公 2-6) 本部(事業部普及課) 平成 19 年 11 月 19 日に、 「結核のない世界」の実現に向けて、世界中の結核患者を治すための諸 活動を支援・推進することを目的に今までの枠を超えた連携が立ち上がった。 「ストップ結核パートナーシップ日本」の事務局を本会内に提供し、本会職員を事務局員とし て 1 名専属配置し、パートナーシップの主要なメンバーとして本会は積極的に参画した。 68 7. 地域 DOTS の実態調査 (公 2-7) 結核研究所 1.結核看護の視点からみた地域連携構築のための研究(継続) 【研究担当者】永田容子、小林典子、山内祐子、加藤誠也 【目的】患者支援を考えていく上で、保健所と医療機関の連携は不可欠である。コホート検討会や DOTS カンファレンスを通して、質の高い地域 DOTS を実践するために、DOTS のゴールを見据えた双 方の連携を深めていくことを目指す。 【方法】『結核看護システム』を医療機関で活用し、その活用を通して保健所との相互の看護情報の 交換に役立たせるための対策を検討する。 【結果】①平成 19-20 年の肺結核患者総数は 10 都府県市 710 人の結果は、治療成功 77.4%(治癒 44.4%、治療完了 20.7%、その他 12.3%)、死亡 15.4%(結核死亡 6.5%、結核外死亡 8.9%)、治療 失敗 2.1%、脱落中断 0.7%、不明 4.5%であった。②県内の結核専門医療機関が限定される場合には医 療機関別に見ることが可能である。たとえば A 県では中心となる X 病院に 53.3%が受診しており、X 病院の結果は治癒 54.4%、治療完了 21.1%、その他 1.1%合わせて治療成功 76.6%、死亡 18.9%、治療 失敗 1.1%、脱落中断 1.1%、不明 2.2%であった。③第一健康相談所の平成 18 年 4 月から 21 年 8 月に 結核治療を開始した外国人患者を対象 150 名のうち非結核性抗酸菌症、結核を否定されたもの、帰 国者を除いた 141 名を分析対象とした。 コホート観察結果は治癒 125 名(88.7%)、治療完了 6 名(4.3%) 、 中断 10 名 (7.1)%。 脱落中断後、 継続治療 4 名、最終的なコホート観察の結果は、治癒 127 名 (90.1%) 、 治療完了 8 名(5.7%)、脱落中断 6 名(4.3%)であった。治療終了者の治療経過一覧を保健所に還 元した。DOTS カンファレンスは年 6 回実施し、保健所や外国人相談室と情報の共有化を図り、言葉・ 治療の理解の問題、受診の途切れと中断の理由、支援方法など相互の看護情報の視点が明確になっ た。今現在、分析した結果を各項目別に検討するには例数が少ないので、今後に引き続き「結核看 護システム」を医療機関で活用を続け、 「コホート観察」をひとつの指標として、新たな結核看護サ ービスの評価・分析を検討していき、このシステムの情報処理を通して、多様なニーズをもった患 者支援と DOTS の質的向上を目指していきたい。今後複十字病院の入院患者についても入力を集積し ていき。本システムの情報処理を通して、多様なニーズをもった患者支援と DOTS の質的向上をめざ す。 【結核対策への貢献】『結核看護システム』から作成される DOTS カンファレンス資料やコホート検 討会資料は、保健所・医療機関ともに同一の様式である。そのため情報および問題の把握や支援の 方向性を統一することが可能となり、地域連携構築につながっていくものと考えられる。 69 Ⅲ 医療・介護・生活支援等サービスが身近に必要な高齢者・障害者が安心して生活できる住 まいの提供事業(収 1) 1. グリューネスハイム新山手 (収 1-1) 平成 22 年度は、新規入居が 3 件、退出が 1 件あり、年間の入居率は前年度を 0.6 室上回った。 入居者サービスについては、入居者同士及び新山手病院、保生の森との交流を深めるため、納涼会、 忘年会などを開催したほか、入居者との意見交換会、健康相談、お食事の提供各種レクリエーショ ンも引き続き実施している。 また集会室は、新山手病院及び保生の森の合同業績発表会や勉強会、研修会等のほか、地域交流 の場として外部の方々にも開放している。 1.入居者及び集会室利用の状況 区分 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 合計 月平均 契約 32 32 32 33 33 33 33 34 35 35 35 34 401 33.4 件数 集会 14 9 12 14 7 10 15 9 12 4 14 15 135 11.3 利用 70 Ⅳ ビル管理関係事業(収 2) 1. 水道橋ビル、KT 新宿ビル、渋谷スカイレジテル (収 2-1) 水道橋ビルの貸室はほぼ満室の状況であり、渋谷スカイレジテル(旧渋谷診療所)及び KT 新宿ビ ルも含め、まずは堅調に推移している。ただ、不況の影響等により近隣物件の空室が増加傾向であ り、実際に 23 年度に入って水道橋ビルに一部退室が見込まれる等、今後の状況は厳しくなることが 予想される。 水道橋ビルの地下の機械式駐車場は、当年度期初は利用率が低かったが、利用台数の増加を図り、 21 年度の収益を上回る結果となった。 建物・設備の維持管理については、安定的な運営のため設備の更新も含め計画的に行うとともに、 費用の節減を図り効率的な運営を進めている。 その他、本年度も各テナントとの合同打合せ会議を開催、また全テナント参加の防災訓練を実施 した。 71 Ⅴ 内部研修事業等(他 1) 1. 全都道府県に所在する結核予防会の事務責任者及び事務職員向けの 資質向上のための研修・教育事業 (他 1-1) 本部(事業部普及課) 1.全国支部事務連絡会議の開催 本部・支部間および支部相互の連絡調整を図り事業の促進を図る目的をもって、9 月 13 日(月) に東京都千代田区の学士会館で臨時全国事務局長連絡会議を、2 月 25 日(金)に東京都港区のホテ ルフロラシオン青山で全国支部事務連絡会議を開催した。特に今年度は、7 月 1 日から本部の公益財 団法人移行に伴い、支部との関係をより良好に進めて行くための調整が行われた。 2.結核予防会事業連絡協議会を開催 2 月 25 日(金)に東京都港区のホテルフロラシオン青山で結核予防会事業連絡協議会を開催した。 3.講師派遣ならびに視察受入れ 支部主催または支部が地方自治体、あるいは諸団体との共催による講習会等に対する、講師の派 遣ならびに本会事業所の視察の受入れを行った。 4.支部役職員の研修 (1)事務局長または事務責任者を対象とし、結核予防対策等の動向などを目的とした事務局長研修 会は公 益財団法人への移行に伴う協議に重点を置いたため実施を見合わせた。 (2)事務職員(概ね勤続 3 年以上~10 年未満)を対象とし、資質の向上等の目的をもって、事務職 員セミナーを 1 月 18 日(火)~20 日(木)に結核研究所において開催した。 (3) 幹部候補管理職を対象とし、指導者の経営資質向上等を目的とした管理職経営セミナーを、8 月 26 日(木)~27 日(金)に結核予防会大阪府支部/大阪新阪急ホテルにおいて、結核予防会全 国支部事務局協議会との共催により実施した。 5.支部ブロック会議に役職員派遺派遣 支部において開催するブロック会議(6 ブロック)に役職員を派遣した。北海道・東北(秋田県) 9 月 30 日(木)、関東・甲信越(千葉県)11 月 12 日(金)、東海・北陸(富山県)12 月 9 日(木)、 近畿(和歌山県)10 月 25 日(月)、中国・四国(香川県)11 月 29 日(月) 、九州(宮崎県)10 月 14 日(木) 。 72 2. 全都道府県結核予防会事務局協議会への一部運営費の助成 (他 1-2) 本部(事業部普及課) 次の 3 団体に対し、それぞれの事業を援助するため補助金を交付した。 (1) 全国支部事務局協議会に対する補助 (2) たばこと健康問題 NGO 協議会に対する捕助 (3) ストップ結核パートナーシップ日本に対する補助 73 3. 結核予防、呼吸器疾患予防及び生活習慣病に関するノウハウを活用した研修事業 (他 1-3) 結核研究所 1.結核予防会マンモグラフィ講習会(平成 22 年度 2 回開催 参加総数 100 名) NPO 法人マンモグラフィ検診精度管理中央委員会教育・研修委員会(精中委)の共催をいただき、 今年度は 2 回の撮影技術講習会を開催することができた。マンモグラフィでもデジタル化が進んで いるため、 「デジタル撮影装置の最近の話題」を講義として組み入れた。試験での成績も例年通りの 高い合確率を維持している。 本部(事業部普及課) 1.放射線技師を対象とし、乳がん検診の精度向上に資するため、マンモグラフィ講習会を 11 月 5 日(金)~7 日(日)、1 月 21 日(金)~23 日(日)の 2 回、結核研究所において開催した。 2.主に臨床検査技師を対象とし、乳がん検診の精度向上に資するため、乳房超音波講習会を結核 研究所において日本対がん協会との共催により開催予定であったが、日程の調整がつかず実施を 見合わせた。 74 Ⅵ 公益財団法人結核予防会役員および機構一覧 (平成 23 年 3 月 31 日現在) 1.公益財団法人結核予防会役職一覧 総 裁 秋篠宮妃殿下 理 事 長 長田 功 結 核 研 究 所 長 石川 信克 専務理事 橋本 壽 複 十字病 院長 工藤 翔二 総務部長 竹下 隆夫 新 山手病 院長 江里口正純 財務部長 飯田 保生の森施設長 亮 介 護 老 人 保 健 施 設 居 宅 介 護 支 援 セ ン タ ー 守 純一 事業部長 藤木 武義 保生の森所長 守 純一 国際部長 下内 グリューネスハイム新山手館長 守 純一 第一健康相談所長 岡山 昭 75 明 2.公益財団法人結核予防会役員等一覧 評議員会会長 島尾 忠男 理 事 長 長田 評議員会副会長 石館 敬三 副理事長 石川 信克 評 井伊久美子 専務理事 橋本 壽 同 伊藤 雅治 理 飯田 亮 同 内田 健夫 同 江里口正純 同 小倉 剛 同 岡山 同 中畔都舍子 同 尾形 正方 同 保坂シゲリ 同 工藤 翔二 同 小林 典子 同 竹下 隆夫 同 藤木 武義 同 守 議 員 事 監 事 同 76 功 明 純一 櫻井 孝頴 渡辺 俊介 3.公益財団法人結核予防会機構一覧 総 本 務 部 総 人 務 事 課 課 営 ル 理 情 管 報 理 課 課 室 及 版 広 調 報 査 課 課 財 務 部 経 経 ビ 事 業 部 普 出 国 際 部 計 業 画 務 課 課 事 務 部 庶 経 図 書 務 理 管 理 課 課 課 主 疫 任 学 研 情 究 報 員 室 究 査 査 査 報 験 員 科 科 科 科 科 部 企 画 主 幹 研 究 主 幹 臨 床 ・ 疫 学 部 ( 疫 学 情 報 セ ン タ ー ) 結 核 研 究 所 抗 酸 菌レ ファ レン ス部 (菌バンク) 主 任 研 免 疫 検 細 菌 検 病 理 検 結 核 菌 情 動 物 実 対 策 支 援 部 企 画 ・ 医 学 科 保 健 看 護 学 科 放 射 線 学 科 国 際 協 力 部 企 国 国 際 結核 情報 セン ター 77 画 際 調 研 査 修 科 科 事 務 部 情 報 シ ス テ 診 療 主 幹 呼 吸 器 セ ン タ ー 消 化 器 セ ン 乳 複 十 字 ム 部 腺 セ ン タ ー タ ー 庶 経 医 診 療 情 企 画 医 療 地 域 務 理 事 報 管 理 広 報 相 談 連 携 課 課 課 課 課 室 室 シ ス テ ム 管 理 室 診 療 録 管 理 室 安 全 管 理 室 治 験 管 理 室 呼 吸 器 内 科 ア レ ル ギ ー 内 科 呼 吸 器 外 科 消 肝 消 内 化 器 内 臓 内 化 器 外 視 鏡 科 科 科 科 乳 緩 臨 和 床 腺 ケ 心 科 科 科 ア 理 呼 吸 ケ ア 診 療 科 病 院 呼 吸 器 ケ ア リ ハ ビ リ セン ター リハ ビリ テー ショ ン科 訪 生 活 習 慣 病 セ ン タ ー 循 糖 神 整 歯 放 部 放 放 放 核 核 射 線 診 療 問 看 環 尿 経 形 射 射 射 医 医 護 器 病 内 外 線 線 線 学 学 診 治 技 診 技 科 科 科 科 科 断 療 術 療 術 科 科 科 科 科 中 央 手 術 部 麻 中 臨 床 検 査 部 臨 床 検 査 診 断 科 病 理 診 断 科 臨 床 検 査 技 術 科 看 護 部 健 康 管 理 セ ン タ ー 78 央 酔 手 科 術 科 室 薬 剤 科 栄 養 科 診 管 業 健 康 サ 療 理 務 ポ ー ト 科 課 課 科 事 第 第 務 一 二 診 診 療 療 部 総 医 部 第 一 内 第 二 内 外 来 臨 床 放 射 線 東 洋 医 学 健 康 管 理 科 科 科 科 科 科 外 整 麻 科 科 科 部 務 事 形 課 課 外 酔 リハ ビリ テー ショ ン科 新 山 手 病 院 診 療 技 術 部 検 放 薬 栄 臨 外 心 臓 科 部 泌 歯 科 口 腔 外科 セン ター 歯 科 学 器 血 管 尿 外 科 器 口 腔 森 科 科 科 科 科 科 科 外 科 部 域 連 携 事 務 診 療 相 談 指 導 看 護 ・ 介 護 介護老人保健 施設 の 環 結石 破砕 セ ン ター 護 線 剤 養 工 床 循 地 生 射 循環 器病 セ ン ター 看 保 査 室 室 科 室 科 リハ ビリ テー ショ ン科 栄 薬 居宅介護支援センター 養 剤 科 科 森 事 居 宅 務 支 援 室 室 グリューネスハイム新山手 事 務 管 理 室 保 生 の 79 事 第一健康相談所 (総合健 診セ ンタ ー) 務 部 総 医 務 事 課 課 健 康 ネ ット ワー ク事 業部 企 画 調 整 課 営 業 推 進 室 情 報 シ ス テ ム 課 健 部 出 張 健 診 企 画 課 出 張 健 診 調 整 課 施 設 健 診 課 部 診 臨 放 床 射 保 健 診 康 支 援 療 生活習慣病予防・研究センター 80 療 検 看 査 線 科 科 科 護 科 4.平成22年度実施事業一覧(7月~3月) 総裁御臨席行事 平成22年 7月13日 青木正和会長を偲ぶお別れの会 リーガロイヤルホテル東京 12月4日 結核予防チャリティーコンサート 大妻講堂 平成23年 2月15日 ~ 16日 第15回結核予防関係婦人団体中央講習会 東京都・第一ホテル両国 7月7日 ~ 10日 食生活改善指導担当者養成スキルアップセミナー 日本光電工業東中野事業所 7月7日 ~ 10日 主な行事 平成22年 保健指導実践者養成セミナー 日本光電工業東中野事業所 7月13日 青木正和会長を偲ぶお別れの会 リーガロイヤルホテル東京 7月16日 ~ 17日 結核予防関係婦人団体幹部講習会 北海道 北海道・国立大雪青少年交流の家 7月23日 連続報告会「世界の結核へ挑む!」(第1回) 東京都・JICA地球ひろば WHO西太平洋地域コンパクト結核検査研修 結核研究所 8月26日 ~ 27日 管理職経営セミナー(結核予防会事務局協議会との共催) 大阪府支部 9月13日 臨時全国事務局長連絡会議 学士会館 9月24日 全国一斉複十字シール運動キャンペーン 9月24日 ~ 30日 「結核予防週間」 9月30日 北海道・東北ブロック会議 10月2日 ~ 3日 8月2日 ~ 13日 グローバルフェスタ出展 日比谷公園 10月14日 九州ブロック会議 宮崎県・ホテルプラザ宮崎 10月18日 ~ 19日 結核予防関係婦人団体幹部講習会 近畿 奈良県・ホテル日航奈良 10月19日 ~ 22日 胸部X線写真読影医研修会 結核研究所 10月21日 ~ 22日 結核予防関係婦人団体幹部講習会 東海・北陸 愛知県・ホテルフォレスタ 10月22日 連続報告会「世界の結核へ挑む!」(第2回) 東京都・JICA地球ひろば 10月25日 近畿ブロック会議 和歌山県・ダイワロイネットホテル和歌山 マンモグラフィ撮影技術認定講習会2回 結核研究所 11月11日 健康日本21全国大会出展 愛媛県・愛媛県武道館 11月11日 ~ 15日 国際結核肺疾患予防連合(IUATLD)肺の世界会議出展 ドイツ・ベルリン 11月12日 関東・甲信越ブロック会議 千葉県・ホテルオークラ千葉 11月5日 ~ 7日 平成23年 秋田県・秋田ビューホテル 11月17日 「世界COPDデー」 11月17日 ~ 18日 結核予防関係婦人団体幹部講習会 九州 11月18日 ~ 19日 結核予防関係婦人団体幹部講習会 東北 福島県・飯坂温泉ホテル聚楽 11月22日 ~ 29日 婦人会スタディツアー カンボジア 11月29日 中国・四国ブロック会議 香川県・高松国際ホテル 熊本県・熊本テルサ 12月7日 複十字シール運動担当者会議 TKP東京駅ビジネスセンター 12月9日 東海・北陸ブロック会議 富山県・名鉄トヤマホテル 12月9日 ~ 10日 胸部画像精度管理研究会(フィルム評価会) 結核研究所 12月4日 結核予防チャリティーコンサート 大妻講堂 1月15日 ~ 22日 国際結核レビュー 結核研究所 1月18日 ~ 20日 事務職員セミナー 結核研究所 1月21日 ~ 23日 マンモグラフィ撮影技術認定講習会3回 結核研究所 2月15日 ~ 16日 第15回結核予防関係婦人団体中央講習会 東京都・第一ホテル両国 2月25日 事業連絡協議会 東京都・ホテルフロラシオン青山 2月25日 平成22年度全国支部事務連絡会議 東京都・ホテルフロラシオン青山 3月3日 国際結核セミナー・世界結核デー記念フォーラム 東京都・ヤクルトホール 3月4日 全国結核対策推進会議 東京都・ヤクルトホール 3月9日 ~ 11日 診療放射線技師講習会(対がん協会共催) 結核研究所 3月10日 連続報告会「世界の結核へ挑む!」(第3回) 本会5階大会議室 3月17日 結核研究所研究事業運営委員会 結核研究所 3月23日 ~ 24日 第62回結核予防全国大会(東日本大震災の影響により中止) 福島県・ホテルハマツ 3月24日 「世界結核デー」 81