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羽田正著『新しい世界史へ』合評会:コメント①
大阪大学歴史教育研究会・特別例会(2012 年 4 月 7 日) 羽田正著『新しい世界史へ』合評会:コメント① 中村 武司 (弘前大学人文学部) 1. 本書について 「新しい世界史」をめぐるマニフェスト【参考資料①】 「新しい世界史」とは?…地球市民のための「地球社会の世界史」 ※グローバルな帰属意識のための世界史/グローバル・ヒストリー 現行の世界史の問題点 ①日本人による世界史 ②自他を峻別する歴史 ③ヨーロッパ中心史観 →ヨーロッパ中心史観の克服の追求 中心性の排除と関係性の発見を重視 新しい世界史を構想するための方法 ①世界の見取り図を描くこと ②時系列史にこだわらないこと ③横につなぐ歴史を意識すること 2. コメント 目的論的な時系列史…中心史観と相互補完・不可分の関係 ※著者の「時系列史にこだわらない」という提案のラディカルさ ここでは時系列史をめぐる論点を中心にコメント …①世界史における時代区分 ②「記憶の場」のアプローチ 2.1. 世界史における時代区分にかんして 歴史学における空間の問い直し→時間軸の問題は? 世界史/グローバル・ヒストリー…関係性・共通性の発見に重点が置かれるあまりに、時 代区分や時間概念の問題が後景に退いているのでは? 1 コメント 1 …世界史における問題発見的な目的から、時系列のあり方や時代区分につい て議論することも必要ではないか? 近年の世界史における時代区分の例 A.G. ホプキンズ、C.A. ベイリ…グローバリゼーションの 4 つの歴史的段階 【参考資料②】 ※古典的グローバリゼーションとプロト・グローバリゼーションの並列・重複 …近世という時代がもつ重要性 2.2. 地球市民のための「記憶の場」は構想できるのか ピエール・ノラの『記憶の場』プロジェクト …フランスの集合的記憶を表象する場の分析をとおして、フランスの国民意識を考察 原因より結果の分析を重視/史学史的方法/時系列をはずしたアプローチ 理論的限界 ナショナル・ヒストリーを批判し解体する歴史学が、それを再構築する *それを克服しようとする試み 例)板垣竜太・鄭智泳・岩崎稔編『東アジアの記憶の場』 その特徴 ・ 「東アジア」は、所与の地理的空間とはみなされてはいない ・ 「東アジア」は、ナショナルな記憶の枠組みや記憶の共有モデルを解体し脱構築するため の方法的概念 ・関係性や共通性の重視 コメント 2 …東アジアあるいはヨーロッパ、大西洋など、従来のナショナルな枠組みを 超えた空間の「記憶の場」のみならず、グローバルで地球市民のための「記憶の場」を はたして構想できるのか? →地球市民のための記憶な場を追求し、歴史的記憶の共有を試みることも、帰属意識の形 成に寄与できるでは? 2 参考資料① 羽田正『新しい世界史へ──地球市民のための構想』 (岩波新書、2011 年) 《目次》 はじめに 1 新しい世界史の魅力 序章 歴史の力 2 ヨーロッパ中心史観を超える 3 他の中心史観も超える 第 1 章 世界史の歴史をたどる 4 中心と周縁 1 現代日本の世界史 5 関係性と相関性の発見 2 戦前日本の歴史認識 3 世界史の誕生 第 4 章 新しい世界史の構想 4 日本国民の世界史 1 新しい世界史のために 2 3 つの方法 第 2 章 いまの世界史のどこが問題か? 3 世界の見取り図を描く 1 それぞれの世界史 4 時系列史にこだわらない 2 現状を追認する世界史 5 横につなぐ歴史を意識する 3 ヨーロッパ中心史観 6 新しい解釈へ 第 3 章 新しい世界史への道 終章 近代知の刷新 参考資料② グローバリゼーションの歴史的段階 段階 時期 古典的グローバリゼーション (1300-1800 年代) プロト・グローバリゼーション 1600-1800/1850 年代 近代グローバリゼーション 1800/1850-1950 年代 ポストコロニアル・グローバリゼーション 1950 年代以降 典拠:A.G. Hopkins, ‘Introduction: globalization – an agenda for historians’, in idem (ed.), Globalization in world history (London, 2002), pp.1-10. 3 主要参考文献 板垣竜太・鄭智泳・岩崎稔編『東アジアの記憶の場』 (河出書房新社、2011 年) . 岸本美緒「時代区分論の現在」 、歴史学研究会編『現代歴史学の成果と課題 1980-2000 年 I ──歴史学における方法的転回』 (青木書店、2002 年) . 水島司編『グローバル・ヒストリーの挑戦』 (山川出版社、2008 年) . ──『グローバル・ヒストリー入門』 (山川出版社、2010 年) . Hopkins, A.G. (ed.), Globalization in world history (London, 2002). Nora, Pierre (éd.), Les lieux de mémoire, 8 vols (Paris, 1984-92). 谷川稔監訳『記憶の場──フラ ンス国民意識の文化=社会史』全 3 巻(岩波書店、2002-3 年) . O’Brien, P.K., ‘Global history for global citizenship’, Global History and Maritime Asia Working and Discussion Paper Series, Working Paper, No. 7 (2008). 4