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若手研究者によるブレインストーミングと実践から

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若手研究者によるブレインストーミングと実践から
SS5-9
若手研究者によるブレインストーミングと実践から垣間見る
表面筋電信号計測・解析システムの応用可能性
∼第 19 回創発システムシンポジウムワークショップにおける成果∼∗
○松下光次郎(大阪大学) 成岡健一(Bielefeld University) 西川鋭(東京大学)
築地原里樹(奈良先端科学技術大学院大学) 安部祐一(京都大学)
Qi An(東京大学) 大脇大(東北大学)
概要 本発表は,近年注目される「生体信号に基づく機器制御」の講義・演習の報告である.講義では表面筋電信
号に基づくモータ制御の概念・教材を説明,演習では若手研究者 22 人を 5 チームに分け,表面筋電信号に基づく
ヒト動作解析や外部機器制御に関するブレインストーミング,更には,教材を用いたシステム製作までを行っても
らった.その結果,各チームはシンポジウム 2 日目 14 時から翌朝 9 時までに独自の表面筋電システムを実現した.
キーワード: 表面筋電センサ,福祉機器,ロボット教育
1
はじめに
本稿は,第 19 回創発システムシンポジウム 1)・創発
夏の学校 2013・ワークショップ 4「サイボーグ技術の講
義と演習∼生体信号を用いた機器制御∼」の成果報告
である.上記内容は,チュートリアル講演(9 月 1 日
13:00∼13:40),ワークショップ(9 月 1 日 14:00∼9 月
2 日 9:00),成果発表会(9 月 2 日 9:00∼11:00)で構
成され,工学系の学部 4 年生から准教授までの若手研
究者 22 人が参加した.
チュートリアル講演においては,講師(第一著者)の
研究課題となる頭皮脳波/皮質脳波ブレイン・マシン・
インターフェイス(BMI)2) ,表面筋電位(EMG)を
利用した義手システム 3) を例として,生体信号を用い
た外部機器制御の研究背景・先行研究や技術的内容を
シンポジウム参加者らに解説した.
ワークショップにおいては,講師より教材である表
面筋電位 (EMG) 信号計測・解析システムの概要説明か
ら始まり,あらかじめ教材の使用方法を習得している
5 人(成岡健一,西川鋭,築地原里樹,安部祐一,Qi
An)をリーダーとして参加者 22 名を 5 グループに分
け,(1) 参加者らの EMG 計測,(2) 計測された EMG
信号の周波数解析,(3) 計測された EMG 信号をサポー
トベクターマシンによりパターン識別,(4) 計測された
EMG 信号に基づくシリアルサーボモータ制御など,提
供された教材および教育内容の演習を行った.その後
は,各グループが成果発表会の時間まで自由に「EMG
信号に基づく身体計測/外部機器制御」の新規的な研
究テーマのブレインストーミング,教材を用いた独自
の EMG 信号計測・解析システムの製作,発表会用ス
ライド作成を始めてもらった.成果発表会においては,
各グループがブレインストーミングによって創出した
ユニークな研究テーマの説明,および,EMG 信号計
測・解析装置の応用可能性が示されたデモ発表が行わ
れた.
本稿の構成は以下となる.次章(2 章)にて,EMG
信号計測・解析システム(教材)について説明する.3
章では,ワークショップ発表会において報告された各
グループからの提案内容について説明し,4 章で,本
∗ 本発表は第 19 回創発システムシンポジウム学生企画ワークショッ
プの内容に基づくものである.
システム・情報部門学術講演会 2013(2013 年 11 月 18 日~ 20 日・滋賀)
945
(a) System overview
(b) System chart
Fig. 1: EMG measurement and analysis system
稿をまとめる.
2
教材
本教材は「簡便性」
「信頼性」
「再利用性」を重視し,
後々の研究利用も可能であるよう教材構成をまとめて
いる.そのような理由から,Fig. 1 に示されるように,
多くのユーザーを有する National Instruments 社製の
データ取得装置の中で安価な種類 (2.1 節),USB から
複数のモータの角度制御が可能なシリアルサーボモー
タ(2.2 節),無料だが信頼性のあるオープンソースラ
イブラリ(2.3 節),などの組み合わせとなっている.
また本教材に基づく教育内容としては,自作の表面
筋電位(EMG)センサの構成(2.1 節)と EMG 信号
計測・情報処理・シリアルサーボモータ制御の C サン
プルコード提供(2.3)が根幹となっている.
2.1
自作 EMG センサおよびデータ取得装置
筋電位信号は生体信号のひとつであり,ヒトが筋肉
を収縮させるときに生じる微弱な電気信号である.特
に,体表面にて計測できる筋電信号は表面筋電位 (Elec-
SY0009/13/0000-0945 © 2013 SICE
Fig. 2: EMG signal
Fig. 4: Serial servo motor
(a) Circuit diagram (b) Circuit (cost: about 1,000 yen!)
Fig. 3: EMG sensor
Fig. 5: Example of ECoG/EMG-to-Motor controller
tromyographic:EMG) 信号と呼ばれ,Fig. 2 に示され
るような交流波である.
2.3
EMG 信号の計測は,Fig. 3 に示す自作の EMG セ
ンサにより計測される.計測対象の筋肉上の皮膚表面
に 2 個の電極を隣り合わせで貼り付け,もう一つの電
極を肘や手の甲などの部分にグランドとして貼り付け
る.電子回路(Fig. 3(a))は,筋肉上の 2 電極間の電
位差を増幅する機能を持っており,数百 µV である表
面筋電位信号を数万倍の ±9V 以内の範囲で増幅し出力
する.R1∼R4 の抵抗値を変更すること,増幅率や検出
する周波数の帯域を調整することが可能となっている.
一般に,EMG センサは高価なのだが,精度を考慮し
なければ,原材料費約 1,000 円という安価な金額で製
作も可能となる.特に今回は精密な筋電計測ではなく,
筋電の特徴を活かした外部機器制御を目的としている
ため,自作 EMG センサの利用が可能となっている.
EMG センサ信号を PC にて計測する上で,データ
取得装置「NI USB-6008」を使用する.
「NI USB-6008」
は ±9V の範囲の電圧に対応しているため EMG セン
サをそのまま接続するだけで簡単に計測可能である.
また,約 17,000 円と安価な上に,USB ケーブルのみ
で通信および電源の確保をしているので,商用ノイズ
(50Hz/60Hz)の影響を受けやすい AC 電源を使わず,
USB のみで電源を供給できることが大きな利点となっ
ている.
2.2
シリアルサーボモータ
C 開発環境およびサンプルコード
幅広い初心者に対応可能とするため,使用する PC
は最も多いユーザー数を持つ「Windows7」,また C
開発環境は無料で提供されている「Visual C++ 2010
Express Edition」に限定している.その理由は,上記
システムは教材製作者が長年使ってきた開発環境であ
り,起こりうる問題をほぼすべて把握しており,それ
に対する解決策を準備することで,初心者の PC に迅
速に開発環境を構築することを実現している.
これら開発環境を前提として,Table 1 に示されるよ
うに「生体信号計測」「生体信号処理」「シリアルサー
ボモータ制御」などの個別の機能を簡潔にまとめたサ
ンプルコードと,それら機能を連動させ「生体信号に
基づくシリアルサーボモータ制御」を実現しているサ
ンプルコードを提供している.サンプルコードによっ
て,Fig. 5 に示す「生体信号に基づく外部機器制御」
だけでなく「パターン認識に基づくヒト意図推定シス
テム」も実現が可能である.
Table 1: List of sample codes
プログラム名
内容 01 NI-DAQ only
NI-DAQ 装置によるデータ取得
02 RS303MR only
シリアルサーボ RS303MR の制御
03 NI-DAQ RS303MR
NI-DAQ 装置で取得したデータに基づく
シリアルサーボ RS303MR の制御
04 FFT only
サンプルデータの周波数解析(FFT)
05 NI-DAQ FFT
NI-DAQ 装置で取得したデータの
リアルタイム周波数解析(FFT)
本システムで使用しているモータは,双葉電子工業株
式会社のシリアルサーボモータ「RS303MR」
(約 7,000
円)である.通常の RC サーボモータよりも高価であ
るが,シリアル通信の 3 本線を直列に接続し PC から
C プログラミングでの直接の角度制御が可能であるこ
とが利点である(マイコンは不要な上,猥雑な配線に
苦しめられない点).また「RS303MR」は,Fig. 4 に
あるようなアルミブラケットなどの専用パーツも多数
販売されているため,ドライバ一本で様々な構造の組
み立てが可能である.
06 SVM only
サンプルデータを用いたパターン認識
(サポートベクターマシン)
3
ワークショップの内容
本節では,ワークショップ発表会での提案内容をもと
に,各チームでのブレインストーミングについて報告
する.なお,チームの構成員は若手准教授,助教,博
士課程後期,前期,学部学生となっている.
946
three-way deadlock
!"
'()*"
%%&"
'(+*"
%%&"
win
lose
weak
#$%&"
middle
strong
!"#$
*,-./"
01234" 56789:"
player 1
Fig. 6: Intention estimator system
て各周波数帯の平均振幅を算出する.さらに,得られ
た伸筋側 20,屈筋側 20 の計 40 次元のベクトルデータ
をサポートベクタマシン (SVM) によって右方向,左方
向,ニュートラルの 3 方向に識別する.指差し方向と
反対を向くよう M1 の角度を制御し,ニュートラルの
ときには正面を向くようにする.
実際にゲームで対戦している様子を Fig. 7 に示す.
意図推定は非常に高精度であり,かつ対戦者や観戦者
が違和感を感じないほど十分に高速に動作することが
確認された.また,必勝のモードだけではなく必敗の
モードも用意した.すなわち,モータ M2 を 180 度回
転させることにより,他のアルゴリズムに一切の手を
加えずに,ロボットの顔は常に対戦相手が指差した方
向を向くようになる.顔面部に両面相だるま(歌川国
芳作)を用い,必勝モードのときには悪の顔,必敗モー
ドのときには善の顔になるよう工夫を凝らした.適当
な試行毎にモードを切り換えることにより対戦相手を
飽きさせずにゲームを続行させることが可能となった.
ワークショップ中の試行錯誤の段階では,攻守を入れ
替え,ロボットが攻撃側,人が守備側になるような条
件も試みた.しかし,首回旋の際に働く筋が深部にあ
るため動作の識別がうまくいかず,また,回旋にとも
ない皮膚が大きく変形するために電極を固定するシー
ルが剥がれ易いという問題が生じた.
以上のように,本チームでは簡単な対人ゲームを対
象として,筋電位情報から人の意図を読み取り,それに
応じたアクションを行う機械システムを製作した.製
作を通じて筋電位計測と信号処理の基礎的技術を習得
し,その応用可能性と課題について議論した.
Fig. 7: “Look this way” game
3.1
player 2
Fig. 8: Arm wrestling game with EMG
チーム 1:ヒトの運動意図を先読みする対人ゲー
ムロボット
正確で素早い運動意図の推定は,人の運動を補助す
るロボットスーツ 5) などにおける最重要課題のひとつ
として挙げられる.本チームでは,そのような意図推定
を要する課題として簡単な対人ゲームを取り上げ,筋
電位計を利用して対戦相手の行動を先読みし,常勝可
能な機械システムを開発した.
「あっち向いてホイ」は古くから親しまれるゲーム
で,二者がじゃんけんなどにより攻撃と守備の役割を
決定した後,掛け声とともに攻撃側は上下左右のいず
れか一方を指差し,同時に守備側もいずれか一方へ顔
を向ける.顔を向けた方向と指を差した方向が一致す
れば攻撃側の勝ちとなり,一致しなければ役割決定過
程に戻る.通常であれば攻撃側,守備側ともに直感的
に手を決める他なく,攻撃側の的中率はチャンスレベ
ル(四分の一)に留まる.視覚情報がある程度利用され
ることもあるが,一瞬のうちに相手の行動を見ながら
自分の手を変更するというのは難しく,高確率での的
中には至らない.このゲームで高い勝率を得るために
は,極めて素早く正確な運動意図の推定と,それにと
もなうアクション生成が必要である.そこで,筋電位
計によって得た人の筋活動情報を元に,周波数解析と
パターン識別の技術を用いて運動意図を予測し,それ
に付随した動作をする対人機械システム(以下,ロボッ
トと呼ぶ)の実現を考えた.簡単のため,顔を向ける
方向を左右に限定し,人が攻撃側,ロボットが守備側
と設定した.また便宜上,人が指差す方向にロボット
の顔が向けば人の勝ち,逆方向にロボットの顔が向け
ばロボットの勝ちと定めた. ロボットは 2 個のサーボ
モータと平面状の顔によって構成されており,顔を左
右に向けるモータを M1 , 顔を上下反転させるモータを
M2 と呼ぶ.M2 は環境に固定され,M1 ,顔の順に直
列に接続されている.運動意図の推定およびロボット
の動作手順を Fig. 6 に示す.まず,対戦相手の右腕手
根屈筋および手根伸筋に筋電位計を装着し,各筋の筋
電位を計測する.次に高速フーリエ変換 (FFT) により
信号を変換し,0-200Hz までの区間を 10Hz 毎に区切っ
3.2
チーム 2:力の入れ具合を活用する新感覚ゲーム
の提案
近年,任天堂の Wii コントローラ 6) やマイクロソフ
トの Kinect7) など身体の動きを取り入れるコントロー
ラが多く開発されている.身体を動かすコントローラ
を用いることでゲームへの参加感が高まり,強い感情体
験を導くことが知られている 8) .こうしたコントロー
ラの一種として筋電を使ったコントローラを考える.こ
れは,実際の身体運動を計測するコントローラと比べ
ると,筋指令という目に見えないものを操るという面
白さがあり,また,姿勢変化を伴う必要がないことに
より安全であるという優位性があると考えられる.そ
こで本チームでは,筋電データのゲームへの応用の可
能性を探った.
ゲームとして本チームでは腕相撲を模して,筋電に
よる腕相撲,エア腕相撲を提案した(Fig. 8).基本は
プレーヤ 2 人の筋電値の大小により,サーボモータに
よる首振りを制御し,相手側に倒せば良いという単純
947
なものである.戦略要素として,単純な大小だけでは
なく,筋電パターンに基づく 3 すくみの関係を加えた.
3 すくみで勝った側の筋電の値に応じてサーボの移動
角が決まるというものである.筋電パターンは,あら
かじめ教師データとして 3 種の筋電データのライブラ
リを作っておき,それに基づき新たに取得したデータ
を分類した.分類には,生の筋電データに FFT による
処理を行った後,SVM によるパターン認識を用いた.
移動のための勝敗はサーボモータの移動の周期毎に決
定した.
このゲームの特徴としては以下が挙げられる.3 すく
みの関係により,ただ頑張るだけではなくその時々に
応じた筋電の細かい制御が求められる.また,パター
ンを筋電の大きさ大中小の 3 種とすることにより,2 値
の制御と違い,適度なところで保つという難しさがあ
る.さらに,バーチャルなゲームと違い,筋電という
体を使うものを用いていることにより,常に相手に勝
つパターンを出すことを狙う他に,いかに相手を疲れ
させ,自分の疲労を少なくするか,ということも求め
られる.実際に班員でゲームをしてみたところ,思っ
たパターンを出すことの難しさ,力の入れ具合と勝つ
ための戦略を同時に実現する難しさなど,筋電という
慣れないものをコントローラにする難しさが感じられ
た.こうした難しさは一見ゲームへ参入を阻むように
見えるが,その困難に打ち勝つことによる達成感も期
待できる.
本チームでは,ワークショップ中に上記のゲームの
他に,筋電のさらなる応用への試みとして以下の 2 つ
も実装した.1 つ目は,両手の筋電の和と差を組み合
わせることで,首振り機を制御するものである.両手
をうまく協調させた時が最も強くなるように以下の式
のように角度変化を決定した.
∆P
ただし, Si
Di
S1
S2
−
). (1)
gb D1 + 1 gb D2 + 1
= eli + eri ,
(2)
= ga (
= |eli − eri |.
(3)
ここで,∆P はサーボモータ角度の変化量,ga ,gb は
定 数,eli ,eri はそれぞれプレーヤ i の左右の筋電値を
示す.2 つ目は,サーボモータを複数組み合わせるこ
とで首振り部を多段にし,それぞれの段を別の筋電で
制御するものである.段の頂上にボールを載せて,相
手側にボールを転がした方が勝利といったように腕相
撲ゲームにこの要素を組み込むことができる.これら
2 つの要素を導入することで,同時に複数の部位の筋
電を制御する必要が生まれ,筋活動の協調など筋電を
使ったゲームならではの特徴を高めることができる.
ワークショップの短い時間中にも,筋電のゲームへ
の応用可能性を垣間見ることができた.今回見られた
要素をさらに深く掘り下げていくことで,これまでに
ない楽しみ方のゲームが生まれることが期待される.
3.3
チーム 3:握力を用いたロボットハンドの把持
制御
事故や感染症などの疾病が原因で自身の腕を失った
人が,失われた手の機能や見た目を取り戻すための義
手という福祉機器が存在し,その中で,主に作業用とし
て手の機能を復元するための電動義手が存在する.ま
948
Fig. 9: Robotic hand controlled by gripping EMG
た,一般的に電動義手は,人間の表面筋電位を計測する
筋電センサを用いて制御する筋電義手と呼ばれる.電
動義手は,前腕から表面筋電位を用いて手先の制御を
行うため,自然な操作感が得られる.このような筋電
義手では,物体の把持機能や,軽量,低コストを目標
とし研究されている 9) .
本チームでは,表面筋電位を福祉機器に応用できな
いかといった視点でブレインストーミングが進められ,
それぞれの意見を創出した.顔の表情筋を用いたアプ
リケーションとして,会話中の人間の口の開閉動作の
模倣や,“じゃんけん” の代行が提案された.また,腕
の前腕筋を用いたアプリケーションとして,前腕筋の
握力を推定して,握力の調整が必要となるコンセント
のプラグ動作やコップのサーブ動作が提案された.1 章
に示す通り本ワークショップの作業時間,考察にかかる
時間を考慮し,それぞれを包含するようなサブゴール
として,人間の握力を推定して,簡易なロボットハン
ドの把持動作を実装することをチームでの目的とした.
全体のシステムは,Fig. 9 に示すように構成した.
Fig. 9 は,被験者の右腕の前腕の腕橈骨筋と前腕屈筋
に EMG センサを貼り付けて,センサから得られた情報
を基に簡易的なロボットハンドの開閉制御を行った図と
なる.筋電計測については,腕橈骨筋と前腕屈筋に対し
て計測し,それらのノルムを用いることで握力を推定
した.計測時に被験者は全力で腕に力を入れ,ベースラ
インと正規化のための最大筋活動を取得した.最大筋
活動を取得した後は,連続的な筋電位を計測し,RMS
の計算を基に正規化した信号から把握動作を推定する.
ロボットハンドの開閉に用いるモータ制御については,
筋電義手としてのリアルタイム性を表現するため,筋
電位の値に応じた角速度制御を用いた.制御に用いる
最大角速度等のパラメータは,筋電計測開始 5 秒間の
最大筋活動を計測する時に決定される.今回のロボッ
トは,自己干渉の恐れがあるので,閾値を設けて制御
できる関節角領域を制限した.
筋電位を計測し握力推定をすることで,ロボットハ
ンドの把持制御を実装した.ロボットハンドを実際に
腕リンクを有するロボットに搭載することや,実際に人
間の腕に装着しハンドとして用いることが考えられる.
演習を振り返ると,班員の構成として筋電計測を専
門とする者と SNS から情報抽出を専門とする者で構成
されていて,ロボット制御は全くの専門外で本システ
ムのハンドの制御は大変困難であったと考える.また,
筋電計測に関しては,班員の専門性を活かすことので
きた演習となった.
Fig. 12: Developed Snake Robot
Fig. 10: Result of the spectral analyzation
影響を受けてしまっており,このような結果になった
のではと分析した.実際に食べ物を判別するには,こ
の点を踏まえてセンサを増やす,またデータの取り方,
FFT の範囲を考え直す必要があると思われる.
時間制約のある中での不十分な実験であったが,各被
験者で食べ物の食べ方が異なり,さらに筋電位で食べ
物の判別や食べ方の比較ができる可能性が示唆された.
Fig. 11: Smile wrestling
3.4
3.4.2
チーム 4:筋電位センサを用いた咀嚼パターン判
別と表情筋トレーニング手法の提案
表情筋による腕相撲
Fig. 11 のようなシステムを筋電位センサを使って組
み上げた.より笑った方にサーボモータが向かい,ペッ
トボトルを倒したら勝ちという単純なゲームである.戦
略性については議論が必要だが,楽しみながら表情筋
を使うことが出来るため,リハビリテーションなどに
おける応用,あるいはアイスブレイクのための手段と
して利用可能だと考える.
我々のチームは顔面の筋の表面筋電位を使ったアプ
リケーションに注目し,咀嚼物の判別と表情筋を楽し
んで動かすゲームを開発した.
3.4.1 筋電位センサによる咀嚼パターン判別
背景 これまで,人が物を食べる際の口内運動につい
ては多くの研究がなされており 10) ,咀嚼筋の表面筋電
3.5 チーム 5:ヘビ型ロボットを用いたバイオフィー
位を計測することで食べ物の特性や人のテクスチャー
ドバック手法の提案
感覚 10) を評価出来ることが知られている 11) .今回は,
リハビリテーションの現場では,バイオフィードバッ
ワークショップで提供された安価なシステムを用いて
12)
クを用いた効果的な運動療法が行われている
.バイ
食べ物を分類できるかについての可能性を探った.
オフィードバックは,人が知覚しにくい生理反応を,知
目的 咀嚼筋の咬筋部分に表面筋電位センサを取り付
覚しやすいフィードバック信号に変換して提示するこ
けることで食べているものを判別する.
とで,生理反応を自身に認知させる.実際の医療現場
手法 1 つの表面筋電位センサを咀嚼筋の咬筋部分に
では人の筋活動を計測し,提示することで,自身の状
取り付け,おでこの部分を信号の基準電位とした.識
態を定量的に知り,意識的に筋活動を促進したり抑制
別する食べ物として,
「さきイカ」
「煎餅」
「マシュマロ」
することが可能になる.
の 3 つを対象として選んだ.これは食べ物の硬さに応
バイオフィードバック時に提示する信号は,ディスプ
じて信号が変わるだろうと予測したためである.被験
者には約 1Hz で咀嚼動作を行ってもらうよう要求し, レイやスピーカーを通じて,視覚や聴覚に与えること
が多い.しかしながら,これらの外部信号は単調で,飽
サンプリング周期 2000Hz でデータを 1 秒間× 20 回取
きやすいという問題点がある.そこで本チームでは,筋
得し,その 1 秒間のデータの高速フーリエ変換 (FFT)
活動に応じて動作するロボットを製作し,バイオフィー
を行いスペクトル解析することで,その値に有意な差
ドバックによって誘発される筋活動の効果を分かりや
が出るかどうかを議論した.
すく伝えることを目的とした.
結果 結果,周波数 0 のスペクトルが大きく表れ,そ
特に本ワークショップでは,ヘビ型ロボットに着目
れぞれの食べ物で有意な変化がそこでのみ得られた.な
し,進行速度や進行距離からリハビリテーションの効
お,周波数 0 のスペクトルは直流成分と被験者の咀嚼
果を実感してもらう.リハビリテーションの対象とし
周波数 1Hz 付近の成分を多く吸収していると考えてい
て,リズミカルな筋活動の生成とした.リハビリテー
る.Fig. 10 は,各食べ物に対する各被験者の咀嚼デー
ションの現場を想定し,対象となる被験者と医療者の
タの周波数 0 におけるスペクトル値を表している.値
2 名のユーザーの筋活動からロボットを駆動する.筋
は 20 回の標本平均であり,エラーバーは標本標準偏差
電位は 2 名のユーザーの腕から計測し,使用中は互い
を表している.さきイカとマシュマロを比べた時に,被
に手を握り合い,タイミングを合わせて筋を活性化さ
験者 1,2 に関してはマシュマロの方のスペクトル値が
せることでヘビ型ロボットを前進させる.
高いが,被験者 3 ではその逆になっている.これはそれ
本チームの作成したヘビ型ロボットを Fig. 12 に示
ぞれの被験者の食べ方が異なっていることに起因する
す.シリアルサーボモータ(RS303MR)を連結し,10
と考えている.被験者 1,2 は,さきイカを食べるとき
の体節を持つヘビ型ロボットを作成した.
は口はあまり開けずに強く噛み,マシュマロを食べる
ヘビの各体節を表すシリアルサーボの角度
ときは,口を大きく開けて弱く噛んだと述べたのに対
(θn=1,···,10 )は 式(4)か ら 計 算 さ れ る .ヘ ビ 型 ロ
し,被験者 3 は,双方において口の開き具合は変えず
に,噛む強さだけ変えたと述べている.この事実から, ボットの進行速度やそれが進む距離は,式中の振幅 A
と角速度 ω によって決定され,振幅と角速度が大きい
筋電位センサは筋肉の出した力と動かした量の両方の
949
θn
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
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59
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61
62
63
64
65
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70
71
72
73
74
75
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79
80
81
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83
84
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86
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90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
103
104
105
106
107
108
109
110
111
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113
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単純に生体信号は興味を惹く)点,(2) それにもかか
わらず,意図通りにはうまく信号が得られない,動か
᫬㛫
ない(不便である)点.この一見扱いづらい不便性が,
➽㟁
䝉䞁䝃
アイディアを創出する余地を提供し,効果的なブレイ
ンストーミングの一助(不便の益 13) )となったと考え
られる.今回,
「“あっち向いてホイ”ロボット」,
「エア
腕相撲」
,
「表情相撲」といったゲーム,
「握力を用いた
᫬㛫
ロボットハンド」,
「リハビリ応用を目指すヘビ型ロボッ
Fig. 13: Parameter calculation based on EMG signals
ト」といった機械制御,
「咀嚼」パターンの定量化,と
いったアイデアは,すべてこの不便の益を「楽しむ」,
ほどロボットは多くの距離を進むため,リハビリテー
「生かす」,
「制御する」,
「理解する」ことを試みたアイ
ションの効果が実感しやすくなる.
デアであったといえよう.今後も EMG 計測・解析装
本チームの提案する手法の概念図を Fig. 13 に示す. 置(教材)を用いたものづくり教育,議論の場が多く
青の実線が被験者 1 より計測された筋電位を表し,丸
開催され,この分野の発展に貢献することを期待する.
マーカー付き赤の実線は被験者 2 の筋電位を示す.本
謝辞
研究で用いるヘビ型ロボットの振幅(A)は各被験者の
本 報 告 は ,第 19 回 創 発 シ ス テ ム シ ン ポ ジ ウ ム
筋電位のピークの時間差(δ )によって決定され,角速
ワークショップでの成果に基づきます.ワークショ
度(ω )は各被験者のピーク時間の平均から次のピーク
ップの参加者全員への謝意を表します.また,同シ
の時間平均までの時間 T によって算出される.ここで
ンポ ジウムの開催にご尽力いただいた実行委 員長
のピークは,該当する筋の最大随意収縮時の筋電位の
大 阪 大 学 清 水 正 宏 准 教 授 を は じ め ,実 行 委 員 の 皆
様(URL:http://www.ess19th.org/shi-xing-wei-yuan80%を越える点とし,次のピークは筋電位が一度 20%を
hui 参照)に謝意を表します.さらに,同シンポジウ
下回った後の点を再度ピークとして認定する.
ムの共催,協賛団体であり,本学生企画の主催団体
振幅 A は,式(5)から算出され,ピークの時間差 δ
であるロボット系若手研究者交流会「ヒューロビント
に対して線形で減少し,0.5 s 以上時間差があった場合
(HUROBINT)」,身体性認知科学と実世界応用に関
には,0 になる.また振幅が更新された時からの経過時
する若手研究会(ECSRA),関西ロボット系若手研究
者ネットワーク(関ロボ)への謝意を表します.なお,
間 ∆t に対して比例して減衰する.角速度 ω は定数 β1
本研究は MEXT/JSPS 科研費 25702035 の助成を受け
を T で割ったもので,振幅と同様に経過時間に比例し
たものである.
た減衰を受ける(式(6)).位相差 φ に関しては,体節
参考文献
数で決定される定数で式(7)から算出された.本ワー
1) http://www.ess19th.org
クショップでは(α1 ,α2 ,β1 ,β2 ,γ )は(197,250,
2) M. Hirata, K. Matsushita, et al.: Motor restoration
0.05,25,1.27)とした.
= Asin(ωt + (n − 1)φ),
= α1 (0.5 − δ) − α2 ∆t,
β1
− β2 ∆t,
ω =
T
φ = γ.
A
(4)
(5)
(6)
(7)
実際に,ワークショップの参加者で実験をしたところ,
最初は筋活動のタイミングが合わずロボットはほとん
ど前進しなかったが,訓練を重ねるにつれてリズミカ
ルな筋活動を生成することができるようになった.本
研究では,2 名の筋活動からヘビ型ロボットの運動を決
定したが,本システムは 1 名でも使用することができ
る.例えば片麻痺患者の疾患部位とそれ以外の部位の
筋電位を用いることで,運動の改善が期待される.また
下肢筋肉の筋電を用いることで,歩行のようなリズミ
カルな筋活性を促進したりすることも可能であり,筋
電位の計測位置を工夫することで,様々な症状に対応
することができる.
4
まとめ
短時間のブレインストーミングにもかかわらず,各
チームから将来的な研究や応用へと発展しうる非常に
ユニークかつ学術的意義にも富んだテーマが生み出さ
れた.著者らは,その理由として以下の 2 点を考えて
いる:(1) 実際,自らの(あるいは同じ他の人間の)身
体から出力されている生体信号を用いている(やはり
950
based on the brain machine interface using brain surface electrodes: real time robot control and a fullyimplantable wire-less system, Advanced robotics, 26
399/408 (2012).
3) K. Matsushita, H. Yokoi: Robotics Education: Development of Cheap and Creative EMG Pros-thetic
Applications,in Proc. of IROS2009, 2341/2346 (2009).
4) 松下光次郎,横井浩史:ものづくり教育:筋電制御機器
の理解と創作,第 27 回日本ロボット学会学術講演会予
稿集,2J2-05(2009).
5) T. Hayashi, H. Kawamoto, and Y. Sankai: Control
method of robot suit HAL working as operator’s muscle using biological and dynamical information, in
Proc. of IROS 2005, 3063/3068 (2005).
6) http://www.nintendo.co.jp/wii/controllers/
7) http://www.xbox.com/ja-JP/kinect
8) N. Bianchi-Berthouze, W. W. Kim, and D. Patel:
Does body movement engage you more in digital game
play? And Why?, Affective Computing and Intelligent Interaction, 4738, 102/113(2007).
9) 田口裕也,吉川雅博,松本吉央,佐々木信也:筋収縮に
伴う断端の形状変化で操作する対向 3 指を備えた作業用
電動義手,生活生命支援医療福祉工学系学会連合大会,
GS1-5-2(2012).
10) J. Chen: Food oral processing – A review, Food Hydrocolloids, 23-1, 1/25 (2009).
11) 神山かおる:筋電位,日本食品科学工学会誌,57-6,273
(2010).
12) 森田百合子,石川中,森下勇,岩井浩一:神経筋肉系心
身症のバイオフィードバックの効果について,心身医学,
20,317/324(1980).
13) 不便益システム研究所 URL(http://www.fuben-eki.jp)
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