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生態系に悪影響を及ぼす農薬(環境ホルモン物質アトラジン)を認識する
生態系に悪影響を及ぼす農薬(環境ホルモン物質アトラジン)を認識する材料の合成と評価 神奈川工科大学 工学研究科 応用化学専攻 ○伊藤 光寿,斎藤 貴 1. 緒言 内分泌撹乱物質であるアトラジンはトリアジン系の除草剤であり,アスパラガス,トウモロコシなどの畑地の一年生 イネ科,カヤツリグサ科および広葉雑草に有効でありゴルフ場の雑草管理などにも使用されている.しかし近年の研究 により数 ppb の低濃度においても雄カエルの生殖腺異常などに対する生体影響、 植物プランクトンの光合成の阻害など の影響を与える.米環境保護局によれば,アトラジンへのヒトの暴露は 3ppb より高いレベルでは有害であると考えら れている.さらに高い暴露は,心臓血管系障害,副腎ダメージ,筋肉けいれん,網膜ダメージ,がんと関連することに なる.ヒトは飲料水を通じてこの除草剤に暴露しているケースが最も多い.こういった経緯から近年,アトラジンの使 用を規制,禁止する動きが高まっている. そこでアトラジンを選択的に吸着する分離材料や回収剤の機能を持つ機能性材料の開発を行った.アトラジンの分子 形状を記憶する高分子材料を微小な球状粒子で得るためシリカ粒子反転型単分散ポリマーを合成した.合成したインプ リントポリマーについて,分子構造類似物質を用いてインプリント効果の評価を行った. 3. 結果および考察 吸着実験の結果を Fig.1 および Fig.2 に示した. IP 0.1g に対して,アトラジンが 5 時間後に 2.44× 10-6mol 吸着されることが確認された.アトラジン と類似した分子構造をもつプロパジンは 1.84× 10-6mol の吸着が見られた.本実験では溶媒に 10v/v%メタノール水溶液を使用しているが,ピリジ ン,尿酸,カテキン,ペントキシフィリン,テオブ ロミンに関してはほとんど吸着しなかった.これは 吸着平衡時の水相側への溶解性が高く,疎水性の高 い IP へは吸着し難いこと,また分子構造がアトラ ジンの鋳型と一致しなかったためと考えられる.一 方,NIP に関しては,アトラジン及びプロパジンに おいて,0.755×10-6 及び 0.899×10-6mol の低い吸 着が生じたが、これはポリマー基材への表面吸着が 生じた結果と考えられる.以上のことから,本研究 で合成した IP はアトラジンに対して,選択性を有 することが明らかとなった. Adsorbed amount / mol ・ g (×10-6) 3 atrazin propazine 2 pyridine unic acid 1 catechin pentoxifylline theobromine 0 0 60 120 180 240 300 Time / min Fig.1 Adsorption equilibrium experiments using IP (×10-6) 3 Adsorbed amount / mol ・ g 2. 実験 本研究で合成した IP はアトラジン分子に対する 鋳型を保持していると仮定すると,アトラジンを選 択的に吸着し,またアトラジンと分子構造が類似し ている分子は吸着が容易で,アトラジンと分子構造 が大きく異なる分子は吸着し難いと考えられる.そ こで種々のゲスト分子の吸着実験を行い合成したア トラジン分子認識インプリントポリマーの選択性を 評価した. 条件は 25℃,5 時間,IP または NIP(非鋳型分 子)0.1g に対して試料を 9.28×10-5mol/L に調製し たものを使用した.ゲスト分子溶液 45mL に IP ま たは NIP を投入したのち,一定時間ごとに溶液を採 取し吸光度を測定し,その増減から試料の IP への 吸着能を評価した. atrazin propazine 2 pyridine unic acid 1 catechin pentoxifylline 0 theobromine 0 60 120 180 240 300 Time / min Fig.2 Adsorption equilibrium experiments using NIP