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高齢者糖尿病と癌
8 高齢者糖尿病と癌 特 集 老年医学の視点から見た高齢者糖尿病 8 特 集 老年医学の視点から見た高齢者糖尿病 A 男性 (歳) 高齢者糖尿病と癌 食道 胆嚢 結腸 直腸 肝臓 胆管 膵臓 胃 甲状腺 悪性リンパ腫 前立腺 白血病 その他 肺 80∼ 70∼79 60∼69 駒田久子,坂口一彦,小川 渉 50∼59 神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 糖尿病・内分泌内科 40∼49 0 現在日本では高齢者の糖尿病患者は増加傾向である.糖尿病と加齢は癌発症のリスク因子であり,糖尿病患 B 者ではとくに肝臓癌,膵臓癌,大腸癌の罹患リスクが高いことが報告されている.糖尿病ではインスリン抵抗性 10 20 30 40 50 60 70 80 女性 (歳) や高血糖,慢性炎症や低アディポネクチン血症により癌の発症リスクが増加すると考えられている.また糖尿 病治療薬と癌については,グラルギンと癌の関連やメトホルミンの発癌抑制作用なども報告されたが,最近では 80∼ それぞれ否定的な報告も認められ,薬剤と癌の関連についてはいまだ結論はでていない.糖尿病患者では癌に 70∼79 よる死亡率も増加すると報告されており,糖尿病患者の予後改善のためにも,癌検診などで癌のスクリーニン 60∼69 グの重要性を積極的に啓発することで早期発見,早期治療を促していくことが大切であると考えられる. (%) 100 90 食道 胃 直腸 肝臓 結腸 皮膚 胆嚢 胆管 膵臓 肺 子宮 乳房 悪性リンパ腫 甲状腺 白血病 その他 卵巣 50∼59 40∼49 高齢になるにつれて肺癌の割合が増す( 研究センターの年齢調整別癌罹患率 2) 図1 ) .国立がん では,1990 年と比 6) 20 ∼ 59 歳までが 2.6 ∼10.8 %に対し,60 歳以上では 23.8 7) %と加齢とともに著明に上昇している . 4 9 14 19 24 29 34 39 44 49 54 59 64 69 74 79 84 ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 4 9 14 19 24 29 34 39 44 49 54 59 64 69 74 79 84 (歳) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 ∼ 歳以上であり ,糖尿病も同様に,アメリカでは罹患率は 0 ∼ 女性は 40 歳代で乳癌,子宮癌,卵巣癌の割合が多いが, 500 (歳) 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 ∼ げている.先進国では新たに癌と診断される 78 %が 55 1000 ∼ 合が多いが,70 歳以上では肺癌と前立腺癌の割合が多く, 1500 ∼ 繊維摂取不足) ,アルコール摂取,喫煙とともに加齢を挙 2000 500 ∼ 別では,男性は 40 歳以上では胃癌や大腸癌,肝臓癌の割 2500 1000 ∼ 身体活動量の低下,食事(肉摂取増加,野菜などの食物 ∼ 大腸癌,肺癌,胃癌,膵臓癌,乳癌となっている.年齢 ∼ では,癌発症のリスク因子として,性別(男性) ,肥満, 1500 ∼ 胃癌,大腸癌,肝臓癌,膵臓癌となっており,女性では 2000 ∼ 会)が共同で報告した糖尿病と癌のconsensus report (人) 4500 3000 2500 2010 年 1990 年 年齢階級別罹患率 女性(全部位) 3000 ∼ 男性の癌死亡率は上位から肺癌, 2012年のがん統計 では, 5) B 3500 ∼ 1) (%) 100 90 3500 ∼ 2010 年に ADA(米国糖尿病協会)と AACR(米国癌学 2010 年 1990 年 80 4000 ∼ 万 963 人(男性 21 万 5110 人,女性 14 万 5853 人)であり, 70 4000 ∼ 病,癌のいずれに対しても高リスク状態であると言える. 60 人口10万対 者に対してともに発症のリスク因子であり,高齢者は糖尿 ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 1) 4) ) .以上のことから,加齢は糖尿病,癌の両 の第 1 位となっている .2012 年に癌で死亡した人は 36 50 (人) 4500 人口10万対 1981 年以降,癌は脳血管疾患を抜いて,日本人の死因 図3 40 年齢階級別罹患率 男性(全部位) ∼ いる( A ∼ に増加し,癌と同様に,加齢とともに罹患率は上昇して 30 ∼ であり,2012 年には糖尿病が強く疑われる人は 950 万人 はじめに 20 ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 増加している .糖尿病に罹患する人も同様に増加傾向 10 ∼ 0 3) 図 1 年齢による癌死亡率の変化 (文献 1 改変) 男性では 40 歳以上で胃癌や大腸癌,肝臓癌による 割合が多いが,70 歳以上では肺癌と前立腺癌の割 合が増加している.また女性では 40 歳代には乳癌, 子宮癌,卵巣癌の割合が多いが,高齢になるに伴っ て肺癌の割合が増加している. 図 2 年齢調整別癌罹患率の推移 (1990 年と 2010 年の比較) (文献 2 改変) 1990 年と比較すると 2010 年では男女とも年齢調整別癌罹患率は上昇している.また年齢が高くなるほど癌の罹患率は上昇しており,とくに男性では 60 歳以上に なると著明に上昇している. 較し 2010 年では男女とも年齢調整別癌罹患率が増加して いる.また年齢が高くなるほど癌の罹患率は上昇し,と くに男性では 60 歳以上で著明に上昇している ( 図2 ) . 日本において高齢者は増加の一途を辿っている.2012 糖尿病と癌のリスク 56 ● 月刊糖尿病 2014/12 Vol.6 No.11 て,男性では糖尿病ではない人と比較し 1.27 倍(95 %信 れている.2011 年に日本糖尿病学会と日本癌学会による 頼区間;1.14-1.42)の癌のリスク上昇が認められた.癌を 合同委員会が設立され,2012 年には糖尿病と癌に関す 臓器別でみると,肝臓癌は 2.24 倍(95 %信頼区間;1.64- 8) る委員会報告が出された .この報告によると国内の大 年には 65 歳以上の高齢者は 3079 万人(総人口の 24.1 %) に至り,とくに 65 ∼ 74 歳の団塊の世代の人口が大幅に が,近年,本邦においても糖尿病と癌との関連が報告さ これまでも糖尿病患者に癌が多いとする報告はあった 9) 規模研究( JPHC) では,40 ∼ 69 歳までの日本人におい 3.04) ,膵臓癌は 1.85 倍 (95 %信頼区間;1.07-3.20),腎臓 癌は 1.92 倍(95 %信頼区間;1.06-3.46),大腸癌は 1.36 倍 月刊糖尿病 2014/12 Vol.6 No.11 ● 57