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化学反応とエネルギー: 電子レンジを用いた アセチルサリチル酸の合成
エネルギー・環境教育 教育素材集 広島大学エネルギー・環境教育研究会 化学反応とエネルギー: 電子レンジを用いた アセチルサリチル酸の合成 古賀信吉・田中春彦 (広島大学エネルギー教育研究会) □ ねらい □□□□□□□□□□□□□□□□□ (1) サリチル酸のアセチル化に必要となるエネルギーと してマイクロ波を用い,従来法と比較することにより, 化学反応に要するエネルギーの多様性を理解させる。 (2) 電子レンジを用いてアセチルサリチル酸の合成をお こなう場合,従来の湯浴での加熱よりも大きなエネルギ ーが供給されるため,触媒を必要とせず,反応時間の短 縮が図れることを理解させる。 □ ポイント □□□□□□□□□□□□□□□□ 従来法とマイクロ波を用いた合成法を比較することを 通じて,新しい反応エネルギーの可能性,触媒や試薬の 削減を意識させ,グリーンケミストリーの意義を理解さ せる。 □ 器具 □□□□□□□□□□□□□□□□□□ ・ 家庭用電子レンジ(500W) ・ ビーカー ・ メスピペット ・ マグティックスターラー ・ ガラス棒 ・ 温度計(120℃) ・ ろ紙 ・ ブフナーろうと ・ 吸引びん ・ 薄層 ・ マスク ・ 保護メガネ ・ 作業用手袋 □ 試薬 □□□□□□□□□□□□□□□□□□ ・ サリチル酸 ・ 無水酢酸 ・ 無水酢酸ナトリウム ・ ジエチルエーテル ・ 石油エーテル ・ アセトン ・ ヘキサン ・ アセチルサリチル酸 □操作 □□□□□□□□□□□□□□□□□□ [実験 1] アセチルサリチル酸の合成 1)(従来法) (1) 乾いた 50ml 三角フラスコにサリチル酸 5g を入れ, これに無水酢酸 10ml を加える。 (2) 触媒として,無水酢酸ナトリウム 1g を加え,よくか き混ぜる。 (3) フラスコの中の固体を湯浴で溶かし,反応を終結さ せる。 (4) 100ml ビーカーに水 50ml を入れ,その中に操作(3) の溶液を加える。浴かき混ぜて過剰の無水酢酸を加 水分解する。 (5) 冷水で十分冷却し,結晶を析出させる。 (6) 得られた結晶を吸引ろ過した後風乾する。 [実験 2]電子レンジを用いたアセチルサリチル酸の合成 (1) サリチル酸 5g をビーカー(50ml)に量り取り,無水酢 酸 5ml を加え,よくかき混ぜる。 (2) 電子レンジ(500W)中,混合試料にマイクロ波を 2 分 間照射する。 *このとき試料は透明の液体として得られる。もし, ビーカー内に固体が残っている場合は照射時間を 長くする必要がある。 (3) マイクロ波照射後,得られた混合溶液の温度が約 85℃になるまで攪拌し,蒸留水 30ml を加え,さら に約 1 分間攪拌する。 (4) 氷水浴中で 5 分間攪拌し,得られた結晶を吸引ろ過 した後風乾する。 [実験 3] 再結晶 (1) [実験 1]および[実験 2]から得られた試料をジエチル エーテル 65ml に溶かした後,等容の石油エーテル を加え静置する。 (2) 析出した結晶を吸引ろ過し,乾燥させて収量を求め る。 (3) 理論値および[実験 1],[実験 2]の操作で得られた試 料の収量を比較する。 [実験 4] 結晶の定性試験 [実験 3]で再結晶して得られた試料,標品アセチルサ リチル酸およびサリチル酸の各少量をそれぞれ試験 管にとり,水で溶解する。これに 0.02mol/l 塩化鉄(Ⅲ) 水溶液を加えて各溶液の色を比較する。 [実験 5] 結晶の同定(薄層クロマトグラフィー) (1) 合成した試料,標品アセチルサリチル酸およびサリ チル酸を水に溶解する。 (2) 試料溶液を薄層の先端から 2cm の位置にガラス毛 管を用いて直径 1.5~2mm のスポット状に付着させ 乾燥する。 (3) 展開溶媒(アセトン:ヘキサン=4:3)に,薄層の先端 を浸し,展開させる。 (4) 上端近くまで展開後,薄層を取りだし,すばやく展 開先端に印をつけ,Rf 値を求める。 □ 留意点 □□□□□□□□□□□□□□□□□ ○ 電子レンジを用い,アセチルサリチル酸を合成する 場合,混合試料中の無水酢酸が蒸発するため,電子 レンジの扉を開けた際に酢酸臭が生じる。このため, 実験はドラフトなど排気設備のある場所でおこな い,マスクを着用する事が望ましい。 ○ マイクロ波の照射時間が長くなると,生成物が飴状 になり,結晶化が困難となるため収量が少なくなる。 これを防ぐために事前に実験に用いる電子レンジ を使用し,適切な照射時間を調べておく必要がある。 ○ サリチル酸と無水酢酸の混合物に,マイクロ波を照 射する場合,混合試料中の無水酢酸の量が多くなる ほど試料の温度は高くなる。このため,今回用いた サリチル酸,無水酢酸の混合量よりも多いあるいは 少ない試薬量で実験をおこなう場合には混合量に 注意する必要がある。また,試料量を少なくした場 合,マイクロ波照射時間も短くする必要がある。 ○ 合成後のアセチルサリチル酸は,医薬用に使用して はいけない。 □ 解説 □□□□□□□□□□□□□□□□□□ [アセチルサリチル酸の合成反応] アセチルサリチル酸(アスピリン)は,次式のようにサ リチル酸のアセチル化により生成する物質であり,解 エネルギー・環境教育 教育素材集 広島大学エネルギー・環境教育研究会 熱・鎮痛剤として医薬品等に広くもちいられている。 [マイクロ波照射によるアセチルサリチル酸の合成] サリチル酸と無水酢酸の混合物に,マイクロ波を照射 し,試料の温度変化を測定した場合,混合試料中の無水 酢酸の量が多くなるほど試料の温度は高くなることがわ かる。この結果から,無水酢酸がマイクロ波照射により 加熱媒体となり反応が進行すると考えられる。 □ 参考文献 □□□□□□□□□□□□□□□□ 1)田中春彦 編,化学の実験,培風館,1995,p95.