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ホーチミン市の雨水排水対策について
ホーチミン市の雨水排水対策について 2010/07/27 JICA 専門家 岩崎宏和 1.ハード面の現状 市街地には雨期のスコールを排除するため、フランス統治時代から排水網が整備されて いる。汚水も収集する合流式の管渠である。自然流下方式で川や運河に排水する。ホーチ ミン市は標高が 1.2m~3m と大変低く、ほぼ平坦であるため、その排水網の勾配は非常に 緩やかであり、道路に沿って網の目のようにつながっている。また排出先の川や運河は潮 の干満の影響を受けるため、満潮時には排水管内に水が逆流するような状況である。 排水ポンプ場は基本的に存在しないが、水はけが悪い市内の数箇所には、移動式ポンプ 車のような排水ポンプが設置されており、満潮時等に強制排水を行っている。排水管理課 長によるとポンプは市内に 30 箇所、40 台設置されている。また、円借款の水環境改善プロ ジェクトのパッケージ B は、雨水排水を目的にしており、排水管と排水ポンプ場を整備し ている。 円借款プロジェクトのパッケージ D は、既存管の改修を行うものであるが、その設計は 2年確率降雨となっている(ピーク1時間あたり約 85mm の降雨でシミュレーションを行 っている)。既存管の対応降雨強度は不明とのこと。 写真-1 既存管のマンホールを開けたと ころ 写真-2 管の埋設深は非常に浅い WB プロジェクトによる管渠の敷 設替えの現場 1 図-1 既存管渠の平面図 道路に沿って網の目のようにつながっている 図-2 既存管渠の標準平面図 [管渠の標準設計] 図-3 既存管渠の標準縦断図 [管渠の標準設計] 2 図-4 写真-3 排水ポンプ マンホールの標準図 雨水ますを兼ねている 水はけの悪い箇所 写真-4 排水ポンプ に配置されているが数は少ない このポンプはサイ ゴン川に排水する 3 写真-5 排水ポンプ このポンプはニエ 写真-6 排水ポンプ ウロック運河に排水する 手前はで満潮時は 変色しているところまで水位が上がる 2.排水管理業務について 排水管理業務を所掌しているのはホーチミン市人民委員会に所属する洪水対策センター (SCFC)の排水管理課である。職員数は 20 名程度。排水管理課は市内の排水管(1,2, 3レベル1)を管理している。業務の概要は以下の通り。 ・洪水対策計画の立案 ・排水管の清掃、浚渫(都市排水公社に委託) ・排水管の補修計画の立案 ・排水管の改良、補修(都市排水公社に委託) ・排水ポンプの運転、維持管理(都市排水公社に委託) ・浸水の調査(都市排水公社に委託) 10cm以上水がたまり、30分以上排水されない場合を浸水と定義している。都市 排水公社(UDC)に浸水状況の調査を委託し、大雨ごとに現場で浸水面積を確認させ ている。排水管理課には地域別に担当者がおり、UDC の調査結果を集計している。 ・排水設備の承認 個人は排水設備を設置する場合に届けを SCFC に提出する。排水設備の設置工事には 専門会社を指定しないと承認されない。 1 市内の排水網は4レベルに分類される。 レベル1:運河 レベル2:レベル1につながる管渠 レベル3:レベル2につながる管渠 レベル4:レベル3につながる管渠 宅地からの排水はレベル3と4に接続される。 船が通過するような運河は、交通局河川課が管理している。 レベル3の一部とレベル4の管渠は、区が管理している。 4 3.浸水被害について 浸水被害は、大雨によるものと、満潮によるものに大別される。 2010 年 3 月 2 日の新聞記事では SCFC の排水管理課長にインタビューをしており、それ によると大雨によって浸水被害が頻発するのは 96 箇所、満潮時に浸水被害が頻発するのは 67 箇所とのこと。 写真-7 浸水の様子( http://www.thesaigontimes.vn/Home/thoisu/doisong/30575 より) 4.浸水調査 SCFC の排水管理課が行う浸水の調査は、以下のような区分で行われている。 浸水深(m) 浸水時間(分) 浸水ではない h≦0.1 t≦30 分 軽い浸水 0.1<h<0.15 30<t 面積(m3) 備考 s<2,000 3項目のうち一つが範囲 を超えたら「中程度の浸 水」 中程度の浸水 0.15≦h≦0.3 30≦t≦120 2,000<s<4,000 強い浸水 0.3<h 120<t 4,000<s 3項目のうち一つが満た されなければ「中程度の 浸水」 排水管理課長への聞き取りによると、Go Vap 区の Le Duc Tho と 12 区の Nguyen Van Qua で浸水が深刻であり、20mm の雨で浸水するとのこと。雨は局地的に降るため、部分 5 的にしか浸水しないが、仮に 50mm の雨が降ったとしたら、大体 20 箇所で浸水するとの こと。高潮による浸水被害もあり、GL1m のところで、高潮時に水位が 1.56m になること もあるとのこと。 5.雨水対策の整備について 排水能力の向上を図るためのプロジェクトは、ODA によるもの(円借款プロジェクトの パッケージ B,D、世界銀行プロジェクトの一部)の他、ベトナムの予算で既存管の改修工 事が一部で進められている。 JICA は 1998~1999 年に開発調査を行い、下水道に関するマスタープランを作成した。 下水道の整備は、これを承認した首相決定 752(2020 年までのホーチミン市の排水システ ムに関するマスタープランの決定(2001))に基づき整備が進められてきた。排水管理課長 によると、マスタープランでは 2 年に1回の降雨を 85mm、潮の高さを 1.32m に設定して いたが、現在では 85mm の雨は 1 年に 10 回降り、潮の高さは 1.56m になるとのことで、 マスタープランをそのまま適用できない状況にあるとのこと。 また、首相決定 1547(ホーチミン市の洪水対策と灌漑計画の決定(2008))に基づき、 サイゴン川沿いに堤防と逆流防止ゲートを建設するプロジェクトが予定されている。現在 は投資者のオランダとマスタープランの協議中である。なお、ホーチミン市は標高が低い ため、「気候変動によって影響を受ける世界10都市の一つ」と言われる。 6.その他 雨量計は、市内に 17 箇所存在し、そのうち 8 箇所を SCFC が管理し、残りをホーチミン 市の気象研究所が管理している。データはそれぞれで管理されており、相互に利用されて いない。気象研究所のデータが欲しければお金を払わないといけない。DONRE(天然資源 環境局)が雨量計の追加案を研究している。 市民に対するお知らせは、SCFC で実施予定がある。排水管理課長によると、インターネ ットを使用する研究をしているとのこと。 浸水に対する警報システムのようなものは存在していない。 気象研究会のレーダーについては確認できていないが、少なくとも SCFC に情報は来て いない。広域の雨雲レーダー画像は中央気象情報センターのサイト http://www.khituongvietnam.gov.vn/web/vi-VN/73/Default.aspx で見ることができる。ベ トナムに気象レーダーは3箇所ある模様。 6