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自ら進んで表現しようとする児童の育成をめざす 外国語活動の授業づくり
平成23年度 研究紀要 (第885号) G9-01 自ら進んで表現しようとする児童の育成をめざす 外国語活動の授業づくり -アクティブリスニングに視点をあてた教材開発- 10 列目 78 列目 ↓ ↓ 20行目→ 今年度より福岡市は福岡らしい国際教育を推進し,コミュニケー ション力や行動力等の育成に取り組んでいる。本研究では自ら表現 しようとする児童の育成をめざし,アクティブリスニングに視点を あてた教材開発を行った。その結果,児童はうなずいたり聴き返し たりし,相手の伝えたいことを共感しながら聴くことができた。積 極的に聴くことで表現に慣れ親しみ,進んで表現しようとする児童 が育つ授業づくりを構成することができた。 28行目→ 下から 3 行目→ Sゴシック横2倍角 福岡市教育センター 外国語活動 長期研修員 今林 美代子 目 次 第Ⅰ章 研究の基本的な考え方 1 主題について (1)主題設定の理由‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 1 (2)主題及び副主題の意味‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 3 2 研究の目標‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 4 3 研究の仮説‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 4 4 研究の構想 (1)聴かせるための題材選定,活動構成,教材開発‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 4 (2)教師のモデル提示(聴き方・話し方)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 4 (3)アクティブリスニングの提示‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 5 5 研究構想図‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 5 第Ⅱ章 研究の実際 1 聴かせるための授業づくり (1)題材選定について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 6 (2)活動の構成について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 6 2 アクティブリスニングの提示‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 7 3 教師のモデル提示(聴き方・話し方)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 8 4 評価について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 8 5 聴くための教材と考察 (1)第 1 時 建物や施設の名前を知る‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研 9 (2)第2時 建物や施設の名前を想起し,道案内の表現を知る‥‥‥‥‥‥外・長研10 (3)第3時 自分の地図で道案内をし合う‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研12 (4)第4時 友達と「京都旅行」をする‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研13 (5)追加授業 CD で繰り返し音声を聴く授業‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研15 6 児童の変容と考察 (1)事前・事後アンケートの結果と考察‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研17 (2)各時間の振り返りの結果と考察‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研19 (3)児童 A の変容‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研20 (4)教材に関してのアンケート‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研20 (5)教師に対してのアンケート‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研21 (6)全体の分析と考察‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研21 第Ⅲ章 研究の成果と課題 1 研究の成果‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研22 2 研究の課題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研23 引用・参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥外・長研24 例えば中学校では,NS(ネイティブスピ 第Ⅰ章 ーカー)を活用して,聞く力を身に付けさ 研究の基本的な考え方 せたり,全市的に開催されるスピーチコン 1 テストで自分の意見を表現する機会を設け 主題について (1) 主題設定の理由 たりして,福岡市や日本の文化や伝統を説 ア 福岡市の取組から 明できる英語力をめざしている。高等学校 今年度より福岡市は「福岡らしい国際教 では,福岡市やアジアのことについて相手 育」を推進している。 「郷土福岡や日本の自 の意見を聞いて意見交換できる英語力をめ 然,歴史,伝統・文化を愛し,守り伝える ざし,平成 25 年にはオールイングリッシュ 子ども,アジアや世界の中の福岡という視 での授業を行う。これは聞くことを大切に 点をもって様々な価値観を認め合い,他者 し,英語力を身に付けさせる授業を展開す や社会と共に生きることのできるこどもの るものである。 このような福岡市の英語教育の基盤にあ 育成を目指す」ことを目標に掲げ,以下の るコミュニケーション能力の「聞くこと」 ような取組を行っている(表-1)。 表-1 「話すこと」において,まず「聞く」とい 福岡らしい国際教育 うことは, 「 相手が伝えようとしている内容」 を受けとめ,それに対して自分の意見を述 べるのに必要不可欠なことである。 以上のことから,中学校や高等学校で必 要な力を身に付けるための素地として,福 岡市の小学校で相手が伝えようとすること を積極的に聞いて,自分の思いを積極的に 表現しようとする態度につなげていくこと は意義深いと考える。 現在,福岡市は「アジアのリーダー都市」 をめざし,今後,アジアをはじめ,様々な イ 福岡市の実態より (ア) 指導の現状 国との関わりが一層深くなっていくものと 現在,福岡市の学校ではどのような外国 思われる。国際的共通語となっている英語 語活動の授業を行っているのか分析するた でのコミュニケーション能力を身に付けさ め,福岡市立小学校 146 校に対して,年間 せることが必要かつ,重要な課題となって で行う主な活動内容についての質問紙調査 いる。 を行った。平成 22 年度の福岡市教育委員会 また,今年度改訂された学習指導要領で が行った,小学校外国語活動に関する実施 は「生きる力」の学力の要素として思考力・ 調査において 98%の学校が英語ノートを使 判断力・表現力が必要であると述べられて 用していることを踏まえ,指導書に例示さ いる。福岡市が育てたい能力・態度として れた活動内容のうち,年間で多く取り扱う 挙げている「コミュニケーション力」は思 ものを尋ねた。 考力・判断力・表現力につながるものであ 「外国語活動研修ガイドブック」 ( 文部科 り,小学校・中学校・高等学校が連携した 学省,平成 20 年)に基づいて活動の内容を 英語教育を推進し,その力を育てようとし 「聞くことを中心とした活動」,「話すこと ている。 を中心とした活動」,「コミュニケーション 外・長研-1 中心の活動」とし,区分した。 その結果,聞くことを中心とし た 活動を 34%行っているのに対し,話すことを中心 とした活動は 52%,コミュニケーション中 心の活動は 14%で,児童が声を出して表現 する活動が全体の約 66%を占めていること が分かった(図-1) 。 図-2 事前アンケ-トの結果 授業内容について,聞く態度や類推しよ うとする項目に関しては「よくあてはまる」 「だいたいあてはまる」の児童が 77%いる のに対して,話す態度や慣れ親しんで話す ことに関しては「あまりあてはまらない」 図-1 「あてはまらない」児童が 51%である。つ 活動の内容 まり「はずかしい」 「むずかしい」と不安な (イ) 児童の実態 児童の実態を把握するために,平成 23 年6月に,児童 151 人に対し事前アンケー 気持ちをもっている児童が約半数いるとい うことが分かった。 トを行った(表-2)。 表-2 図-1,図-2に示した(ア)指導の現状, 児童アンケート項目 (イ)児童の実態を合わせて考えると,教師は 興味・関心 1 外国語活動が好きである。 授業の中で「話すことを中心とした活動」 や「コミュニケーションを中心とした活動」 2 GTや先生が話している英語をよく聞こうとしている。 聞く態度 類推 3 GTや先生が話している英語がわからないときは 「こう言っているのではないか。」と考えながら聞いている。 など,児童が自分の考えや感情を表現する 活動を約 70%も仕組んでいるが,約半数の 児童は話すのが恥ずかしい,難しいと感じ 4 GTや先生が話している英語の内容がわからないときは 誰かに聞いている。 ており,これは「なんと言ったり話したり すればよいか分からない」という不安や自 5 自分からGTに話しかけようとしている。 信のなさに通じるものと考えられる。 話す態度 6 英語をはずかしがらずに話している。 慣れ親しみ 学習指導要領解説では「児童が初めて出会 う外国語への不安を取り除き,新しいものへ 7 英語をむずかしいと思わずに話している。 挑戦する気持ちや失敗を恐れない雰囲気を そして,その結果を項目ごとにまとめた 作り出すためには,豊かな児童理解と高まり 合う学級集団作りとが指導者に求められる」 (図-2)。 「外国語活動が好きである」という興味・ と述べられている。不安を取り除く,失敗を 関心の項目で「よくあてはまる」 「だいたい 恐れない雰囲気を作る等,学級担任は外国語 あてはまる」と答えた児童が 78%と多いこ 活動の授業をコーディネートしなければな とが分かる。 らない。 外・長研-2 とである。 昭和女子大学附属昭和小学校の小泉清裕 氏は「コップに水を注ぎ続けるといっぱい イ 「外国語活動の授業づくり」とは 外国語活動の授業において指導過程や活 になり,溢れ出るのと同じで,言葉もある 一定量が溜まると自然に話すようになる」 動の内容,教材・教具,環境,発問など, 「小学校の英語教育でもまず『聞くこと』 目的や児童の実態に合わせ,よりよい方法 から始めなければならない」と述べている。 や手だてを講じ,授業を展開していくこと である。 さらに,信州大学の渡辺時夫氏は「①子 どもたちにとって理解可能な英語のインプ 具体的には,学校行事や各教科の学習内 ットをできるだけ沢山与えること②発話さ 容,児童の興味・関心,知的好奇心を抱く せる前に,英語をたっぷり聞かせ,英語の ような話題など,外国語活動のテーマと関 音に慣れ親しませてから発話させること③ 連するものを取り上げ,教材・教具を使っ 英語のメッセージの意味を考えながら,聞 て児童に活動させる。また,児童が積極的 く態度を身につけさせることが大切である」 に聞いたり表現したりすることができるよ と述べている。 うな雰囲気を作るために,教師がクラスル このように,話すことと聞くことは表裏一 ームイングリッシュなどを使い,児童のモ 体だと言われている。 デルになることや,児童を褒めたり,児童 そのような点から,話すことを急がず, 同士のコミュニケーションを図らせたりす 聞くことを中心とした活動を増やしたり, 積極的に聞くような教材開発をしたり,児 ることも重要になると考える。 ウ 「アクティブリスニング」とは 童自ら積極的,共感的に聞こうとする態度 「アクティブリスニング」とは, 「積極的 を身に付けさせたりすることで話す雰囲気 傾聴」と訳され,一般的にはカール・ロジ ができ,児童の不安は少なくなると考えた。 ャースが提唱したカウンセリングで用いる 児童が積極的,共感的に聞こうとすれば, 傾聴の考え方である。一般的な聞き方に比 相手の伝えようとしていることを効果的に べ,より共感的に耳を傾けて相手の話を聞 受けとめ,分からないことを類推しながら く方法である(以下,積極的,共感的に聞 英語に慣れ親しみ,自ら進んで表現しよう くことを「聴く」と表記)。相手が伝えよう とするようになるのではないかと考え,本 としていることを聴くための態度である。 主題を設定した。 また,経済界では「ポジティブリスニン グ」という,話を聴くための手法が流布し (2) 主題及び副主題の意味 ている。これは聴き手の方から「しっかり ア 「自ら進んで表現しようとする」とは 聴いてますよ」というメッセージを伝えな コミュニケーション活動の中で,他者の考 がら,より積極的に聴くための技術である。 えや感情などを受けとめ,自分はそれに対し 積極的,共感的に聴こうとする態度や技 てどう思い,どう考えているのか,積極的に 術は,小学校高学年の児童が,コミュニケ 相手に伝えようとすることである。外国語活 ーションを図りながら人間関係を築いてい 動においては,英語を使って単語や文章で話 く上で重要であると考える。また,外国語 すこと,日本語も交えて伝えることの他に, 活動でコミュニケーションの素地を養うの 非言語メッセージであるジェスチャーや表 にも必要な姿勢である。 情,絵を描くなどの手段で自分の考えや感情 そこで「アクティブリスニング」の考え などを,相手に何とかして伝えようとするこ 方の上に「ポジティブリスニング」の手法 外・長研-3 ○ を取り入れ,本研究においての「アクティ 示をする。 ブリスニング」を次のように定義する。 相 手 が伝 え た い こ と を 理 解 しよ う 4 と,積極的,共感的な態度で聴き,相 教師や GT が話し方・聴き方のモデル提 研究の構想 (1) 聴かせるための題材選定,活動構成,教 手の思いを受けとめようとする行為 材開発 高学年児童は声に出して英語を話す時に恥 「あなたの伝えたいことを受け取りまし たよ」 「分かりましたよ」と話し手に伝わる ずかしいという気持ちが起こってくる。一方, ような聴き方をすれば,より話しやすい雰 自分の知識や経験では予測できない事柄に出 囲気になり,コミュニケーション活動がよ 会うと「見たい,聴きたい,やってみたい,知 り活発に行われ,満足感,達成感を味わわ りたい」という興味・関心や知的好奇心を抱く せることができると考える。 ようになる。 エ 外国語活動でねらうコミュニケーションの 「アクティブリスニングに視点をあてた 素地を養うためには,まず聴くことができな 教材開発」とは 児童がアクティブリスニングをして「聴 ければならない。 児童が聴いて探索・解決しようとする気持 く」ということを意識して活動する教材を ちになるような内容を教材化することで,よ 作ることである。 「相手の伝えようとすること」を聴かな ければ考えたり反応したりできない教材, りいっそう聴くことを集中して行い,それに 対して思考し,判断するようになると考える。 英語表現を繰り返し聴かせて慣れ親しませ, つまり,自ら聴くことで活動に参加できる 教材を作り,授業に取り入れる。また,相 「聴いたら分かった」「聴いて反応できた」 手が伝えようとしていることが分からなか という体験を何度もさせることが,表現する ったりあいまいだったりする時には,類推 ことにつながると考える。 したり,分からないことは質問したりする (2) 教師のモデル提示(聴き方・話し方) ことで活動できる教材とする。 外国語活動の時間に教師はクラスルームイ 2 ングリッシュなどを使ったり,ボディランゲー 研究の目標 アクティブリスニングに視点を置いた教材開 ジを入れながら話したりすることで,GT(ゲ 発をすることで,自ら進んで表現しようとする ストティーチャー,外部講師)以外の英語で 児童の育成をめざす外国語活動の授業づくりを の話者となる。それは,児童にとって「話し手 行う。 としてのモデル」である。また,児童が話をす る際に教師自らアクティブリスニングで聴く 3 姿を見せたり,HRT (ホームルームティーチ 研究の仮説 単元の中で,以下のような手だてをとり,ア ャー,学級担任)と GT のやりとりを児童に視 クティブリスニングに視点をあてた教材開発を 聴させたりすることは,教師は児童にとって すれば,自ら進んで表現しようとする児童が育 「聴き手としてのモデル」でもある。 ジェスチャーや表情,絵などの非言語メッ つ授業づくりができるであろう。 ○ 児童が興味・関心のある事柄を用い,先 セージを入れながら話すほかに,声の大きさや 生や友達の伝えようとしていることを聴く 速さを調整しながら話したり分かりにくいとこ ような活動を多く仕組む。 ろを繰り返し話したりすることも必要である。 外・長研-4 児童の実態のところで述べたとおり,半数の 安も少なくなり,話したり活動したりし,満 児童が英語を話すことに関して不安を感じて 足感,達成感を味わうことができると考える。 いる中で,教師がモデルを示すことは,不安を また,本研究では,聴き手が分からなけれ 感じている児童のよい支援になると考える。 ば聴き返しをすることもアクティブリスニン グの一つとする(表-3)。 (3) アクティブリスニングの提示 表-3 外国語活動の時間は表現する言葉がほとん 本研究でのアクティブリスニング アクティブリスニング ど英語であるということから「この表現方法で ハート リスニング よいのか」という不安をもつ児童がいる。一方, 「なんと言っているか分からない」と感じる児 童もいる。聴き手が話を否定せず,分かった ボディー リスニング ことにうなずいたり,顔や体を向けたりして 聴けば,話し手は「伝わっている」と感じ, 聴き返し 英語で表現しようとする雰囲気ができる。 児童への提示は,発達段階を考えて行う。 アクティブリスニングの考え方に基づき,以 意味 子どもの姿 ・相手が伝えようとするときに 途中でさえぎらない 相手を認め,話を心で受 ・話している途中で けとめる 訂正しない ・話題をうばわない 相手に「あなたの話 を聴いていますよ」 というメッセージを 伝える ・相手の方を向く ・分かったことにうなずく ・メモを取る ・One more time. ・Once more please. と 話の内容が聞き取れな 聴き返す。 い ・Pardon? 話の内容が分からない ・相手の話で分からない言葉 の語尾を上げる。 聴き手は,分かったことには分かったと反 下の方法を提示する。 応し,分からなければ聴き返しをして繰り返 ・ハートリスニング し聴こうとする。聴き返しをすることで話し 相手を認め,話を受けとめる聴き方 手はさらに分かるように表現しようとし,聴 ・ボディーリスニング き手は分からないところを自ら聴こうとする。 相手に「あなたの話を聴いてますよ」 「分 かりましたよ」と伝える聴き方 類推したりすることができる。これは外国語 話し手は表現することに余裕ができて,不 5 繰り返し聴くことで分かるようになったり, 活動に必要な態度である。 研究構想図 外・長研-5 それぞれの題材で,児童がどのようなこと 第Ⅱ章 に興味・関心を示して聴こうとするか,その 研究の実際 ポイントを洗い出して「道案内をしよう」を 1 選定した。 聴かせるための授業づくり 授業の中で児童が自ら進んで表現するように 道案内は地図や実際の建物を見ながら行う なるためには,まず聴いて内容を理解したり分か ことが多く,児童は聴いたり話したりする活 らない時には類推したりして,相手の話を受けと 動を行う。英語で道案内をするためには,相 めなければならない。 手が尋ねている場所をよく聴いて相手がわか 本研究では聴くということが話すことへの不 るように伝えなければならない。また,尋ね 安を少なくする第一歩であると考え,積極的に ている方は案内された場所への行き方を聴か 聴くような題材を取り入れたり,聴くことを中 ないと目的地にはたどり着くことができない。 心とした活動を増やしたりして,児童自らが聴 分からなければ何度でも聴き返して,どのよ こうとする態度を身に付けさせた。 うに道をたどれば良いか相手のメッセージを そこで,始めに聴かせるための題材を選定し, 受け取らなければならない。道案内の単元は 活動を構成した。また,児童は聴いて英語での 相手意識,目的意識だけでなく,相手の伝え 表現に慣れていくことで言葉や文を一つの固ま ようとしていることに対してアクティブリス りとしてとらえ,親しみ,そして初めはまねを ニングをするのに相応な単元であると考えた。 して,徐々に自分で表現しようとすると考えた。 (2) 活動の構成について 本研究では,4時間単元とした。児童が第 (1) 題材選定について 英語ノートの題材の中から児童にとって興 味・関心をもって聴く題材を選定し,分析し た(表-4・平成 24 年度 聴くことを大切にした(表-5)。 外国語活動ガイドブックで活動内容として 新教材に関連する 挙げられている「聞くことを中心とした活動」 題材)。 表-4 1時より無理に話すような活動内容ではなく, 題材選定のための洗い出し から,緩やかに「話すことを中心とした活動」 題材 児童の興味・関心のポイント や「コミュニケーションを中心とした活動」 世界のあいさつ 日本語と英語での表現の違い ができるように配慮した。 自己紹介 (できること・誕生日等) 外来語 表-5 友達のことを知る 活動構成の例 単元の第1時 第2時 第3時 導入の聴く活動 導入の聴く活動 導入の聴く活動 日本語と英語での発音の違い 導入の聴く活動 導入 行ってみたい外国 知らない国や友達のこと 自分の一日 友達と自分の生活の違い インタビュー 友達のことを知る 将来の夢 友達の夢を知る ッ ッ ュ ュ ュ 外・長研-6 ッ 振り 返り 自己評価 自己評価 自己評価 ム イ 話すことを中心 ン にしたゲーム等 グ リ コミュニケション シ 中心 ュ 答えを考え,導き出す ッ クイズ大会 ク 導入の話す活動 ラ ス NSとのデモンス ル トレーション ー 道を尋ね,目的地に行く ー 道案内 ク ク ク ラ ラ NSとのデモンス ラ NSとのデモンスト ス ス トレーション ス レーション ル NSとのデモンス ル ル 聴くことを中心に した活動 トレーション ム ム 聴くことを中心に ム イ イ した活動 イ 展開 ン ン ン グ グ グ 話すことを中心 リ 聴くことを中心に リ リ にした活動 した活動 話すことを中心 シ シ にした活動 シ コミュニケション 中心 ー 店員と客のやりとり ー 買い物 第4時 自己評価 表-6 第1時 導入 ○校区の建物の写真(全体) 活動構成と聴かせ方及び評価規準 第2時 第3時 ○GT セッズゲーム(全体) ○指ツイスターゲーム(一人) 第4時 ○スキット(全体) 写真を見ながら建物などの英語 GTが言う建物の写真に指を順番 GTが指示する方向へ体を向 学級全体で教師のスキットを での言い方を知る。 ける(GT) に置いていく。 見て本時の活動をとらえやす (校区内写真) (仮想マップ) くする ゆっくり 単語 ゆっくりまたは普通に 文章 普通に 単語 ○カルタ(一人→二人) 展開 ○デモンストレーション ○マイマップ作り(一人) (GT→全体) GTが言う建物などのカードを取 GTとT1の話を聴きながら方向の 自分の選んだ建物や店でマ る。(仮想マップ) イマップを作る。(マイマップ) 言い方を知る (仮想マップ) ○ナビゲーム(GT→全体) 普通に 文章 ○道案内ゲーム(全体) 道案内の表現を使って模擬 旅行体験をする。 (京都市内地図) ○道案内ゲーム(二人組) GTの話を聴きながらどの場所に 友達に自分がどこに行きたいか 伝えたり友達の話を聴いたりし 行ったか考える て,どの場所に行ったか考え (仮想マップ) る。(マイマップ) ゆっくり 単語 文章 評価 規準 児童がそれぞれに合わ 児童がそれぞれに合わ せてゆっくり せてゆっくり または普通に または普通に ゆっくり 文章 建物の名前を知り,GTの言 GTや友達の言うことを聴い うことを聴いてカルタなどの て指ツイスターや道案内の 活動をしている。 ゲームなどの活動をしてい る。 道案内の表現を使って友 いろいろな友達と道案内 達に伝えようとしている。 の表現を使って交流して 友達の道案内を聴こうとし いる。 ている。 park,university,shrine,temple barber shop,elementary school,restaurant,police box,station, 使用 supermarket,candy shop,convenience store,amusement park, 表現等 clinic,department store Go straight two blocks. turn right,turn left,right side,left side Where is the ~ park? It's the ~ park. Excuse me. Thank you. See you. 使用 教材 ○拡大校区地図 ○校区建物絵カード ○建物カルタ ○指ツイスターシート ○拡大仮想マップ ○児童用仮想マップ そして具体的には道案内の活動を考え,活 ○拡大マイマップ ○児童用マイマップ ○建物小カード(貼付用) 2 ○京都拡大地図 ○旅行者用地図 ○案内用地図 ○京都提示用写真 ○京都小カード(貼付用) アクティブリスニングの提示 単元の始めに,外国語活動でアクティブリス 動内容を配置した(表-6)。 なお,この表に示す導入及び展開の活動の ニングをするための聴き方を提示し,指導した。 始めにはどのように活動するかデモンストレ 児童が心に留めやすく,分かりやすいように ーションを行い,児童にアクティブリスニン 三つずつ項立てたものをハートリスニングには グをすることを意識させるようにした。 「3ナイス」とボディーリスニングには「3キュ 外・長研-7 ー」という言い方を加えた(資料-1 )。 資料-1 ○ メッセージから内容を類推することが外国語活 児童へのアクティブリスニングの提示 動には大切であることを知らせた。 ハートリスニング(3ナイス) ・じゃましない ○ 3 教師のモデル提示(聴き方・話し方) ・うばわない 外国語活動を行うとき,教師は日頃から自然 ・訂正しない とジェスチャーなどを使って表現していること ボディーリスニング(3キュー) が多いものである。本研究で,教師が意図して ・向く ジェスチャーを加えたり,絵に表したり提示し ・うなずく たり,表現の順番を考えて提示したりすること (・書く) で児童がさらに分かりやすくなると考えた。 ○ 聴き返し 実際の授業場面では GT が表現するものを, T1(本研究では研修員が T1,HRT が T2)が ボディーリスニングの三つ目の「書く」こと 聴いて繰り返す。ポイントになる言葉を,ジェ に関しては,外国語活動では文字の読み書きは スチャーを加えながらゆっくり繰り返して表現 学習しないので,実際に「英語の綴りを書く」 し,聴かせる。そうすることで意味がとらえや ことは指導しない。しかし,新しい言葉を聴い すくなったようである。 たときに絵カードなどに記してあるスペリング 単元1時間ずつの聴かせ方を表-6(P7) を見て頭文字だけを書いたり(3年生国語科で に示す。新しい言葉や文章を提示する際,教師 ローマ字を既習)絵に描いたりすることは可能 はジェスチャーや写真などの非言語メッセージ であることを児童に伝えた。 を使ってゆっくり単語で繰り返し聴かせるよう ボディーリスニングで分かったことにはうな にし,その表現に慣れてきたら少しずつ文章で ずかせ,分からないことには聴き返しをさせた。 表現するようにした。速さを変えたり繰り返し コミュニケーションを図る際,日本語でなく, 聴かせたりすることで児童は英語の表現に慣れ 英語を使うことで自信なさそうに英語を話す児 親しんだ。 童がいる。日頃友だちとのコミュニケーション さらに,児童はモデルを見て,どのように表 が苦手な児童にとってはなおさらである。そう 現すればよいかを確認し,自分の方法(話す, いう児童が話し手になった時,聴いていて「声が 非言語メッセージ等)で表現するようになった。 小さくて聴き取ることができない」場合がある。 そういう場合に,聴き返しを積極的に行うことも 4 評価について アクティブリスニングの一つとした。また,「内 時間ごとの評価は主に「ハローカード」とい 容が分からない」という場合も聴き返しをするよ う自己評価カードにより行った。聴くこと・表 うに指導した。 現すること(話すこと)に特化して作成した(ハ 聴き返しをすることで「話の内容が伝わって ない」ということが話し手に分かり,より分か りやすく表現しようとするであろうということ ローカードには「聞く」と表記。以後児童の感 想は「聞く」と表記)。 指導計画を作成した後,各時間の内容に基づ いた①話すことについて②聴くことについて③ を伝えた。 アクティブリスニングをしたが話し手の伝え 聴き返しについての三つの項目を4段階評価す たい内容がはっきり分からない場合,話し手が るように規準を示した。アクティブリスニング 表現した中で,知っている言葉や相手の非言語 の中でも聴き返しは特に外国語活動に必要なこ 外・長研-8 とだと考え,毎時間評価させることにした。 ハローマークの鼻の部分に数字を入れて,自 (1) 第1時 ア 己評価するように作成した(資料-2)。 資料-2 ) 興 活動するという見通しや意欲をもたせるた ハローカード ) No.( 拡大校区地図 導入では児童が自分の校区を題材にして 外国語活動 6年 ハローカード Topic:道案内をしよう 6th grade class( 建物や施設の名前を知る name( めに,校区の地図を取り扱った。A ゼロの ) 一番近い気持ちを○でかこんで,簡単なふりかえりをしましょう。 第 1 時 10 月 7 日 ①建物や店の名前をまねをして言おうとしましたか。 1 2 3 4 ②清水先生の言うことをよく聞いてカルタがとれましたか。 1 2 3 4 ③英語がわからないとき聞き返しをしようとしましたか。 1 2 3 4 大きさに拡大した校区地図を作成し,提示 した。児童は身を乗り出したり,驚きの声 を上げたりして地図を見ていた。 金 曜 日 第 2 時 ①Bob先生を見ながら友達に道案内をしようとしましたか。 1 2 3 4 ②Bob先生の言うことをよく聞いて指ツイスターをしましたか。 1 2 3 4 ③英語がわからないとき聞き返しをしようとしましたか。 1 2 3 4 第 3 時 ①マイマップを作るときに建物や店の名前を英語で言おうとしたり, 友達に道案内をしようとしたりしましたか。 1 2 3 4 10 ②友達の伝えようとしていることを聞いて目的地までの道をたどりましたか。 1 2 3 4 ③英語がわからないとき聞き返しをしようとしましたか。 1 2 3 4 10 イ 絵カード 興 月 この題材で扱う建物などの英語をより身 11 日 火 曜 日 近に感じさせるために,校区の建物や施設 を写真に撮り,A4に拡大,作成し,ロー マ字を頼りに発話する児童もいるため,英 月 18 日 語の綴りを右下に貼付した。絵カードの表 火 曜 日 第 4 時 10 には一般的な英語での名称を貼り,校区を ①英語での京都の名所の言い方を聞いてまねをしましたか。 1 2 3 4 ②地図を見ながら友達に道案内をしようとしたり, 友達の案内を聞いて目的地までの道をたどったりしましたか。 1 2 3 4 ③英語がわからないとき聞き返しをしようとしましたか。 1 2 3 4 よく知らない GT と児童の共通認識を図る 月 28 ために,裏にはその建物や施設の固有名詞 日 金 曜 日 を貼った。一般的な名称と固有名詞を両方 聴かせることで児童はアクティブリスニン 5 聴くための教材と考察 グで聴こうとする姿が見られ,分かりにく 本研究では「聞くことを中心とした活動」を い児童には理解の助けになった(資料-3)。 活動構成の中に多く取り入れ,また,アクティ 資料-3 絵カード ブリスニングをさせることで,児童自らが聴き, 類推し,活動したり表現したりすることができ るような教材開発を行った。 聴かせるためにはまず興味をもたせなければ ならないので,教材開発については,以下のよ うに区分して作成した。 ○ 主に興味・関心をもたせるための教材。 主に導入で使う教材で,何をするか見通 しをもたせることもできる。…興と表示 ○ 主に聴かせるための教材 聴いて考えたり,活動したりすることで ウ 前時を想起したり,本時活動を展開する 建物カルタ 聴 絵カードで知った名前を聴かせ,親しま せるために,絵カードと同じ写真を使い, ためのもの。…聴と表示 そしてそれを検証するために,研究対象校, 第6学年4学級の児童を対象として「道案内を しよう」の単元の授業を行った。 建物カルタを作成した(資料-4)。 英語での名前を確認させるために,二人 で一つ使用するようにして,児童数の半分 の数を作成した。 外・長研-9 資料-4 建物カルタ 資料-5 第1時 活動の様子と感想 一人がカルタを行い,ペアの児童はカー ドのチェック係をするルールにして二人で 名前の確認をさせた。一人で活動するルー ルなので競争することなく,よく聴いて探 せばカードが見つかる。チェックをする児 童もよく聴いていなければチェックできな い。名前を聴いて分からなければ GT や T 1,T2に聴き返しをして,活動できた。 エ 児童の感想と考察 アクティブリスニングを提示した後に活 (2) 第2時 動に入ったこともあり,児童は教師の方を 見てうなずきながら聴いていた。 建物や施設の名前を想起し,道 案内の表現を知る ア 「おもしろかった」「楽しかった」と言う 指ツイスターシート 聴 第2時の導入で前時の振り返りを行い, 感想は,アクティブリスニングをしてカード 建物の名前に慣れ親しませるために,絵 を探せば,競争することなく自分のペースで カード,カルタと同じ写真で指ツイスタ カードを見つける活動が行えた安心感や達 ーシートを作成した(資料-6)。 成感があったためだと考えられる(資料- GT の言う言葉を聴いて写真の上にま 5)。また,「聞こうとして聞いたらだいた ず一本の指を置き,その指は離さないよ い分かった」という感想から,児童はアク うにして次の GT の指示する写真に指を ティブリスニングをし,聴くということを 置いていくゲームである。 意識して活動していたことが分かった。聴 建物の名前を聴いても分からない場合 き,考え,分かって活動したことで,児童 は,児童は GT や T1,T2に聴き返して は達成感を味わったと考える。 ゲームを進める。それでも分からない児 また, 「 今度はいろいろな店の英語を言っ 童が活動に参加できるよう,今までに慣 てみたい」という感想では,聴いて考える れ親しんできている色や形を手がかりに だけでなく,次は表現したいという意欲が カードが取れるように,写真の枠に色を付 見られ,聴くことで表現する意欲を喚起し けたり,枠の形を変えたりして作成した。 たと考える。 外・長研-10 資料-6 資料-7 指ツイスターシート 校区仮想地図 T1は,GT の言葉でポイントになるところ を繰り返したり,ジェスチャーを加えたりし ながら机間指導した。分からずに困っている 児童には,立ち止まっているところからの進 み方をジェスチャーを交えて繰り返し聴か せた。 イ 校区仮想地図(拡大,児童用) 興 聴 まず,道案内の表現を知らせるために, ウ 児童の感想と考察 GT がぬいぐるみを使って,デモンストレ 授業の始めにアクティブリスニングにつ ーションを行った。拡大した校区の仮想地 いて振り返り活動をした。本時は建物の名 図の上を“Go straight.”や“Turn right.”と 前だけでなく英語の文章を初めて聴くの 言いながら,いろいろな場所へ行くもので で,ゆっくり繰り返し聴かせ,児童の活動 ある。実際の校区地図は道が曲がったり T を行った。児童もよくアクティブリスニン 字路になっていたりして児童には難しいの グをしていた。地図を見てたどっているが, で,校区仮想地図を作成した。碁盤の目の 時々顔を上げて T1のジェスチャーを見た ように道路を走らせ,1ブロックに4つの り,分からないところを聴き返してきた。 空き地をつくり,そこに,校区にある建物 「よく聞いてできた」「ちゃんと聞いて や店を配置した。1ブロックの中にもどこ 分かるようになった」という感想が前時よ に建物があるか集中して聴かせるためであ りも多く見られた。聴けば分かるようにな る(資料-7)。 るという体験から満足感が得られたと考え 児童に道案内の表現を繰り返し聴かせる ために,GT が進む方向を言う際,T1がポ イントになる言葉を“Go straight ?”“Turn る(資料-8)。 「次はわからない英語を聞き返したい」と いう聴き返しに関しての意欲も見られた。 right ?”のように聴き返した。そうするこ 「英語がわからなくてもちがう伝え方が とで,児童は繰り返される言葉に集中し, あることがわかった」という児童に,授業 意識して聴くようになった。 後に詳しく尋ねると左右の言い方が分から その後,GT が示す道順を聴いて,児童そ ない時に教師のジェスチャーを見てはっき れぞれの地図でスタートの駅から指でたど り分かったとのことだった。また,「ぬい らせる活動を行った。 ぐるみの道案内と,GT と T1のやり方でよ 外・長研-11 く分かった」という感想も合わせて考える 資料-9 第3時 マイマップ と,ジェスチャーを加えて話すことや本時 のデモンストレーションや繰り返し聴かせ たことは児童の理解や類推に有効であった と言えるだろう。 資料-8 第2時 児童の様子と感想 1時,2時を振り返らせるために,マイ マップを作り上げるための建物や店のカー ドをあらかじめ少なく配布した。足りない カードを教師のところに取りに来させた。 マイマップ作成後,ペアで活動を行った。 一人の児童は聴き手になり,プリントを裏 向きにして白地図にし,目的地を尋ねる。 ペアの児童(話し手)は自分の地図を見な がら目的地への行き方を伝えるという活動 を行った。分からないときには“One more time.”や, “Pardon?”と,聴き返しをする 児童の姿が見られた。その際,案内人は説 明を止め,どこが分からないのか相手の地 (3) 第3時 ア 図を確認し,さらにジェスチャーを加えて 自分の地図で道案内をし合う サイモンセッズゲーム 説明する姿が見られた。 聴 第2時での道案内の表現を振り返るため にサイモンセッズゲームを GT の名前に変 ウ え,表現も“(GT の名前)says ~.”という ゲームにした。児童は GT の指示を聴いて 体を動かし,楽しみながら活動した。 イ マイマップと小カード 興 児童の感想と考察 第3時になると,ずいぶん聴くということ を意識して活動できる児童が増えてきた。 地図をたどるときには目を下に落として いるが,質問や聴き返しの時はしっかり相手 の顔を見てうなずいて聴く児童が増えてき 聴 第3時では小さなカードを自由に貼付し て各自のマイマップができあがるような地 図を作成した。地図は両面印刷をした。表 はマイマップ,裏は友達の道案内を聴くた めの地図にした(資料-9)。 外・長研-12 た(資料-10)。 単元の3時間目になると「友達に道案内 ができた」という感想が多く,聴いて表現 に慣れ,相手に伝えることができたという 達成感を得た児童が多かったようである。 資料-10 第3時 閣寺,銀閣寺が建立されたこと等は社会科 児童の様子と感想 で学習していたが,平安京が長方形に区画 されており,道路が碁盤の目のように走っ ていたことは知らず,驚きの声を上げた。 イ GT と T1によるスキット 聴 前時までに出てきた表現を振り返らせる ため,また,本時の表現を知らせるために GT と T1でスキットを行った。 道案内の表現や場所を尋ねる表現は前時 までと同じだが,本時に出てくる建物が新 しいので,今まで表現との違いをジェスチ ャーや写真を交えて聴かせた。 旅行先の英語表現である公園,寺,神社, 大学等は第1時より使用していたが,固有 名詞になると児童は分かりにくかったよう でスキットの後,写真(A4の絵カード) で補足をした。 ウ 京都旅行用の教材 興 聴 授業後に「聴き返せたのでよかった」 「パ 第4時の活動は,友達と二人組を作り, ーデュンと言えてよかった」という児童に その友達と京都に旅行に行こうという設定 何がよかったのか尋ねたところ,両者とも で行った。 「分からなかったことが聴き返しをするこ 地図は簡素化し,目的地の場所は京都市 とで,その意味が分かった」との答えがあ 内の場所となるべく異ならないように位置 った。児童は「分かってよかった」「言えて 関係を考えながら A~H 地点を配置した よかった」とコミュニケーションの楽しさを (資料-11,資料-12)。 味わい,「次も言えたらいい」という感想に つながったと考えられる。 資料-11 案内用地図の一例 案内用地図 また,コミュニケーションの難しさを感 じた児童もおり,「難しいから聴く」とい 銀閣寺 うアクティブリスニングの大切さを児童に (ぎんかくじ) 伝えて次時の意欲とした。 (4) 第4時 ア 友達と「京都旅行」をする 京都拡大地図 清水寺 (きよみずでら) 興 京都駅 第4時の初めに京都の拡大地図を見せて 興味・関心を抱かせるようにした。児童は, 京都に平安京があったことや室町時代に金 外・長研-13 資料-12 ならない。そのように活動させるために,あ 旅行者用地図の一例 らかじめ目的地の組み合わせを考え地図を 旅行者用地図 B C 作成した。 F D たどり着いた場所の記号が正しいどうか A E G GT,T1のところに確かめに行き,正しけれ ば小カードがもらえる仕組みにした。 H Kyoto station エ 金 閣 寺 児童の感想と考察 スキットで導入した後,ゲームの前に再 ( 度本時の英語表現を聴かせるためにルール ) き ん か く じ 説明としてデモンストレーションを行った。 どの場面でどう表現すればよいか,児童と 清 水 寺 一緒に確認し,活動に入った。 ( き よ み ず で ら 旅行者も案内人もそれぞれ地図を見てい ) るが,“Turn right.”や“Turn left.”の時に はジェスチャーを確認したり,相手の表情 を見たりして活動していた。(資料-13) 旅行者用の地図には目的地に到着した印と して提示用の絵カードと同じ写真の小カード を貼るスペースを設けた。 ゲームは,クラスを案内人(二人組)と 旅行者(二人組)に分けて行った。旅行者 は手元の地図のどこが自分たちの目的地な のか,その情報をもっている案内人を探す という活動を仕組んだ。そのために,案内 人用の地図8種類,旅行者用の地図8種類 を作成した。 資料-10 と資料-11 を例にとれば,以下 のような活動になる。 ①旅行者は金閣寺と清水寺に行きたい ②案内人の地図では二つのうちの清水寺の 場所しか分からない ③案内人は旅行者に京都駅から清水寺への 道案内をする ④旅行者は金閣寺の場所を尋ねるために別 の案内人を探す 多くの場所に旅行に行くためには,たくさ んの案内人に話しかけ,道順を聴かなければ 外・長研-14 資料-13 第4時 児童の様子と感想 案内人は,聴き返しをされた時,旅行者 やすい。GT の読み聞かせの途中,分かり がどこまで地図をたどっているか確認し, にくい言葉は T1がジェスチャーを付けて その場所からの道順を,ジェスチャーを加 読み進めていった。そして次の CD を使っ え教えていた。相手がどこで迷っているの た宝探しの活動につなげた。 か,共感しようとアクティブリスニングを する姿も見られた。 「 ボディーリスニングと イ ハートリスニングができたのでつづけてい CD を使った音声教材 聴 児童 が何度も 音 声を聴き返 せるよう に きたい」 「 何度も聞きかえすことがよかった」 CD に音声を録音し,それを聴いて宝探し 「うなずきながらきけた」等の感想が多か をするという授業を行った。 った。これは外国語活動のときにアクティ くじは,児童がメモをとれるように作成 ブリスニングをすることで相手の伝えたい した(資料-14)。アクティブリスニングの ことがわかるようになった児童が増えたと 中のボディーリスニング「書く」というこ いうことだろう。 とを体験させた。 第4時を終えて,特に,聴き返しに関し 資料-14 くじとメモ ては「分からないことが分かってよかった」 という感想が多く,相手の伝えたいことを理 解するために児童に有効であったと考える。 また「相手に聞きやすいようにできた」 という感想から,話し手として,自分の伝 えたいことを聴き手に分かりやすいように 表現しようとしたと考えられる。 (5) 追加授業 CD で繰り返し音声を聴く授業 本単元終了後,アクティブリスニングの中 でも聴き返すという手だての効果を検証する くじを引いたあと,スタート地点から出発 ために,コミュニケーションを行わない, 「一 し,CD で聴いた指示通りに道をたどって行 方通行で音声を聴く」という授業を行った。 けばくじと同じ記号の宝を手に入れることが 絵本の読み聞かせの後,CD を使った音声 できるルールにした(資料-15)。 教材で宝探しをする活動を行った。 ア 絵本の読み聞かせ 資料-15 聴 Eric Carle の“The Secret Birthday Message” は,主人公が誕生日にもらった秘密のメッ セージに書いてある通りに行くと誕生日プ レゼントにたどり着くという内容の仕掛け 絵本である。moon,star,rock,triangle とい うような児童に親しみのある言葉が使われ ている他, “Walk straight.”という道案内の 表現が使われており,ストーリーがとらえ 外・長研-15 D 地点から宝までの道順 CD の音は児童が同じグループ数名で聴く ときに集中できるように,また,デッキ同士 ば,ジェスチャーや表情等からさらに類推 しやすくなるものと考えられる。 の音が干渉し合わないように,あらかじめ小 次の CD の音声を使った宝探しでは,繰 さく設定しておいた。分からなければ繰り返 り返し聴いて確かめることができ,全員が し聴く,間違えたらもう一度聴くという作業 宝にたどりついたので満足感を得た児童は ができたのでどのチームも宝を探し出すこと 多かった。一方で「人は聴き返したらすぐ ができた。 答えてくれる」「先生や友達はジェスチャ ーがあるのでわかりやすい」「CD より人 ウ 児童の感想と考察 の方がよい」という意見が多かった。聴い 絵本の読み聞かせでは,「ジェスチャー ていて分からないことは「知りたい」「わ で分かった」「絵を見て分かった」という かりたい」という児童の気持ちの表れでも 感想が多かった(資料-16)。 あると考える(資料-19)。だからこそ, 資料-16 第5時 外国語活動で行う題材は児童の興味・関心 読み聞かせの感想 のあるものがふさわしいと考える。また, この活動から人とコミュニケーションをと るときの良さや,アクティブリスニングを する良さに気付いた児童もいた。 資料-19 第5時 宝探しの様子と感想 また,分からないところは類推しながら 読む姿が見られた(資料-17)。 資料-17 第5時 類推した児童の感想 初めての英語表現を聴かせるときには,非 言語メッセージを加えることが児童の理解 や類推の助けになっていると言えるだろう。 人とのコミュニケーションでなく,一方 通行で音声を聴くという活動でも,自ら聴 これが,人と人とのやりとり,つまりコ こうとすることで児童は内容を類推し,次 ミュニケーションの中で行われるのであれ の行動につなげた。コミュニケーションの 外・長研-16 中でアクティブリスニングをすれば,次に 表の時などに行っていることもあり,外国語 自分の思いを表現するという行動につなが 活動の時間にも目を見たり体を向けたりうな ると考える(資料-20)。 ずいたりすることは児童にとって意識化しや 資料-20 すかったと考えられる。 コミュニケーションについての感想 よく 心がけて いる 4 事前 だいたい 心がけて いる 3 あまり 心がけて いない 2 事後 1 心がけて いない 0% 20% 図-3 6 60% 80% 100% 英語で話を聞くとき, 児童の変容と考察 (1) 40% 相手の目を見るように心がけているか 事前・事後アンケートの結果と考察 研究協力校の児童に「外国語活動の時間の 話すこと,聴くこと」についてのアンケート 4 3 2 1 向けて いる 事前 を,検証授業前(10 月初旬)と検証授業終了 だいたい 向けて いる 後(11 月中旬)に行った。 児童がどのように自己評価しているかを図 ることは,聴くことをどれだけ意識したか, あまり 向けない 事後 つまり,どれだけ自ら聴こうとしたか,また 向けない そこからどのように話すことにつながってい 0% 20% 40% 60% 80% 100% るかということが分かると考える。 図-4 目を見る,相手の方を向く,うなずくこと 英語で話を聞くとき, 体や顔を向けて聞いているか に関しての質問に対しては図-3,図-4, 図-5に示す。 よく うなずく 4 3 2 1 事前 事前と事後を比較してみると,相手の目を だいたい うなずく 見るように心がけていると答えた児童はわず かしか増えていないが,その中でも「よく心 がけている」児童は約 10%増加している。体 あまり うなずか ない 事後 を向けて聴くようになった児童は6%,うな ずきながら聴くようになったと答えた児童は 約 15%の増加である。どの項目もボディーリ スニング(向く,うなずく)をしようとして いると自己評価した児童が増えた。これは, 掲示物を常掲していることや,他教科でも発 外・長研-17 うなずか ない 0% 図-5 20% 40% 60% 80% 100% 英語で話を聞くとき,わかることに うなずきながら聞いているか 話すということに関して,単元終了後では, 次に本研究でのアクティブリスニングの一 つ,聴き返しについては図-6,図-7のに 積極的な解答をした児童が増えたことが分か 示す。 る(図-8,図-9,図-10)。 もう一度 言ってと 言う 事前 4 3 2 1 聞こえ ないと 言う 進んで 話そうと している 4 3 2 1 事前 だいたい 話そうと している そのまま 聞く 事後 0% 図-6 20% 40% 60% 80% 100% 事後 友達に 聞く 話そうと しない 英語の話の内容が聞こえなかったとき, どうしているか もう一度 言ってと 言う 0% 図-8 4 3 2 1 事前 あまり 話そうと しない 20% 40% 60% 80% 100% 新しい英語の表現で話そうとしているか よく そう思う 4 わから ないと 言う 事前 だいたい そう思う 3 そのまま 聞く 事後 あまり 思わない 2 友達に 聞く 0% 図-7 20% 40% 60% 80% 事後 1 100% 思わない 英語の話の内容が分からなかったとき, 0% どうしているか 図-9 聞こえなかったとき,内容が分からなかっ 20% 40% 60% 80% 100% 自分の気持ちや考えを英語で友達に 伝えたいと思うか たときに「もう一度言って」と,聴き返しを するようになったと自己評価している児童が どちらの項目も約 15%増えている。資料-19 や資料-20 の感想のように,聴き返しをする よく そう思う 4 事前 だいたい そう思う 3 ことで「内容が分からないことを尋ね,理解 したい」と考えるからではないだろうか。聴 き返しは話し手の伝えようとしていることを 2 あまり 思わない 事後 受け取るために主体的に尋ね,類推するのに 1 思わない 有効な手だてであると考える。 0% 図-10 20% 40% 60% 80% 100% 外国語活動の時間は普段話すことが 少ない人と話す機会が多いと思うか 外・長研-18 グラフからはわずかではあるが,話そうと る題材であったことや,聴いてカルタを取る している,自分の気持ちを英語で伝えたいと考 活動であったことなど,児童が活動しやすか える児童が増えている。 ったと考えられる。 特に,今回の単元では協力して活動するゲ ームを多く取り入れた。そのことから普段は 第2時でどの項目も点数が落ちている。そ 話すことが少ない人と話す機会が多いと感じ れは,第2時から建物の名前に加え,道案内 たと思われる(図-10)。 や場所を尋ねる文や文章を活動に取り入れた 一単元の授業ではわずかであるが,年間を ことで,聴く量が多くなったためであろうと 通して,児童の不安を取り除くような聴く活 考える。教師はゆっくり聴かせるようにした 動をもっと取り入れた授業づくりをすれば, が,児童にとっては“right”と“left”の区別 児童はさらに自分の気持ちを表現するように や,曲がる時の“turn left.”と場所に着いた なると考えられる。 時の“left side.”などの表現にまだ慣れず, 混乱しやすかったことも原因だと考えられる。 (2) 各時間の振り返りの結果と考察 各時間の終末にハローカードで振り返り を行った。 第3時,第4時では点数が上がってきた。 どちらの時間も話すことを急がず,聴く教材 ①話すことに関すること,②聴くことに を多く取り入れ,繰り返し聴かせ,英語の表 関すること,③聴き返しの3点について「よ 現に慣れさせるようにした。教師のデモンス くできた」を4点, 「できなかった」を1点 トレーションも繰り返し行った。そうするこ と換算し,各時間の平均をとった(図-11)。 とで聴いて,慣れ親しみ,どう表現したら良 いか自分で確認しながら表現しようとしたと 考えられる。 第4時で,聴くポイントが下がったのは京 都の寺や神社等の固有名詞が新しく入ってき たためと思われる。しかし,文章での表現に は慣れていたことや,聴き返しをしながら目 的地にたどり着くために話そうとしたことは グラフから読み取れる。単元の終盤では新し 図-11 い表現を取り入れず,1,2時間目に出会わ ハローカードによる 各時間の振り返り せた英語での表現を,3,4時間目で慣れ親 しませるような活動の構成にすれば,児童に 第1時では,聴いてまねをすることを「話 とってよりよい活動になったと考えられる。 す」こととし,点数化した。第1時では「話 す」こと,「聴く」こと,「聴き返し」に関す る振り返りのどの項目でも点数が高い。 時間が経つごとに,教師が児童に対して喚 起しなくても少しずつ自分たちでうなずいた これは,導入でアクティブリスニングを提 示したことで児童が意識して取り組み,自己 評価が高くなったと考えられる。また,1時 は校区の建物の写真を使い,興味・関心のあ り,聴き返しをしたりするアクティブリスニ ングをする姿が見られるようになった。特に, 聴き返しを行うことは相手の伝えたいことを 繰り返し聴いて類推し,自ら進んで表現する 外・長研-19 かし,その後の友達とのマイマップ案内では, ことにつながったと思われる。 友達への道案内でどう表現すればよいか分か らずとまどっていた。自己評価が「話す1, (3)児童 A の変容 児童の実態を知るため,また,児童とのコ 聴く2,聴き返し1」となり, 「あまり楽しく ミュニケーションを図るため,検証授業以前 なかった」と記述していた。A 児の近くで GT に他単元で5時間授業を行った。 や T1が繰り返し聴かせてまねをさせたが, 児童 A は外国語活動が苦手な児童であり, 話せなかったという気持ちから満足感が得ら れてないのが自己評価から読み取れる。 日本語で授業をしてほしいと訴えてきた。 第4時では,単語や日本語混じりで,ジェ しかし,聴くことを中心とした活動を仕組 んでいく中で,笑顔で英語の単語や日本語を スチャーを付けて交流している姿が見られた。 交えながら活発に友達と交流する姿が見られ 「通じた」という楽しさから満足感が得られ るようになった(表-7)。 た結果,自己評価が高かったものと考える。 表-7 時 第1時 活動内容 児童 A の各時間ごとの様子 児童Aの様子 自己評価 話す 聴く 聴き返し 4 4 3 ○ 校区地図提示 ○ 「おもしろそうやん!」と 身を乗り出して地図を見る ○ 校区建物等 絵カード提示 ○ 知っている物を大きな声で答 ○ がんばって英語を える まねしようとした。次 ○ 迷いながら友達に日本語で もがんばる。 尋ねて取る ○ 一人カルタ ○ 指ツイスター ○ 隣の児童と一緒に協力して指 ツイスターをしている 3 3 (4) 教材に関してのアンケート 単元終了後,本単元の教材について児童に 尋ねた。英語ノートと比べて感想を書かせた 結果,以下のような感想があった(資料-21)。 資料-21 ○ 友達を見てやっている ○ マイマップづくり ○ 日本語を交えながら “ ~ please.”と言っている 第3時 ○ 道案内ゲーム ○ 英語ノートよりも実際に体を動かして活 ○ 何が起こるのか身を出して見 聴きしている ○ デモンストレーション ○ どのような活動か見聴きして いる 第4時 ○ 京都道案内 動する方が楽しいし覚えやすかった。 ○ 校区にあるお店の写真が使われてい るのでとても分かりやすかった。 1 2 1 ○ ジェスチャーもついていたので言って いることや伝えたいことがよく分かった。 ○ あんまり楽しくな ○ 何と言えばよいか分からずに かった。 活動が滞っている(支援) ○ スキット 教材についての感想 本単元の教材がよかったという意見 3 ○ デモンストレーション ○ 地図とぬいぐるみの動きをよく ○ 道案内ができるよ 第2時 見て教えようとしている うになった。ツイス ○ ナビゲーム(仮想マッ ○ 隣の児童に尋ねながら指で ターも少しできたの でよかった。 プを指でたどる) 地図をたどっている ○ GTセッズゲーム 児童 4 4 絵も写真もついていたのですごく分かり やすかった。 4 ○ 自分たちが知っていたからなんとな くでも英語で言おうと思えた。 ○ 上手に道案内が ○ 二人組で協力しながら単語や できた。 日本語を交えて案内したり目的 地を尋ねたりしている 英語ノートの方がよかったという意見 ○ 第1時の校区地図提示の場面で「おもしろ 写真は黒板にはってあって見にくい けど,英語ノートは自分のがあるから そうだ」と身を乗り出して話を聴く姿が見ら 見えやすい。 れた。 ○ 第3時では GT セッズゲームの後,児童全 英語ノートはパソコンルームでのス クリーンが分かりやすい。 員の案内で目的地まで行くという簡単な活動 を行った際,A 児が立候補し活動を行った。 道案内という題材ということもあり,一般 英語を聴いて,考えて,自分が動くという活 的な絵で表している英語ノートよりもより身 動であったが,笑顔で楽しそうにできた。し 近で自分の生活に近い,リアリティーのある 外・長研-20 ものを提示したので児童はイメージしやすく, クティブリスニングの意識付けをしたことで, 活動に取り組みやすかったと考える。 徐々に聴くという行為をするようになったと 題材が知っている場所であるということや, 考えられる。 新しい教材を提示するときには,教師がジェ 本研究では,アクティブリスニングに視点 スチャーを付ける等のモデル提示を行ったこ をあてた教材開発をしたが, 「 積極的に友達に とで類推しやすかったと考えられる。その際, 話しかける姿が見られた」 「 英語を口に出す回 アクティブリスニングで相手の話を聴こうと 数が多かった」という意見があった。 話すために聴くことは有効であったという する態度や構えができていたことも要因であ ると考えられる。また,英語ノートは個人持 ことが言えるだろう。 ちの教材で見やすい,電子黒板等の方が分か また,教材開発をして児童の興味・関心の りやすいという意見もあり,併用をしていく あることを教材に取り入れたことや,体験的 とさらに効果的であると考えられる。 な活動を多く取り入れたことは,児童の意欲 や「活動したい」 「言いたい」という気持ちを 引き出したと考えられる。 (5) 教師に対してのアンケート 担任にアンケートを行い,単元終了後の児 童の外国語活動の様子について質問した。 (資 (6) 全体の分析と考察 料-22)。 ○ 資料-22 毎時間の導入にカルタ,指ツイスター, サイモンセッズゲームなど,聴いて反応す 担任への事後アンケート る活動を取り入れ,前時を振り返ったこと 教材について 道案内はいつも積極的に活動できない で「できた」「分かった」「ゲームが楽しめ 子どもが進んで取り組める教材になって た」という感想をもち,次の活動の積極的 いた。 な取り組みにつながった。これは教師が活 ○ 校区の地図や身近な施設の言い方や案 動構成を考えたり,児童に絵よりもリアリ 内は,児童の興味を高めることができる。 ティーのある写真で題材を提示したりした ○ ○ 京都の案内は,積極的に友達に話しか ためと考える。 ける教材だった。 ○ 英語を口に出す回数が多くてよかった。 短い期間で大きな変化は難しいが,意 識付けができたおかげで反応しながら聴 いたり質問したりする児童が増えたよう に思う。 ○ 聴き返しの言葉をどんどん使えるよう になった。 ○ アクティブリスニングを提示し,掲示物 を教室に常掲して,教師が自らアクティブ 単元終了後の児童の様子について ○ ○ 普段の授業でも落ち着いて聴くことが 少し増えたように感じる。 リスニングをして聴き手のモデルとなり 話を聴くことで,外国語活動を重ねるごと に児童はアクティブリスニングで話を聴 くようになってきた。 「話をよく聞いたら分かった」「聴き返し をすることで分からないことが分かった」と いう児童の意見が多かった。また,「次の授 業では聞き返したい」「分からないときは聞 き直したい」「次は聞き返したい」と,聴き 返しに対して意欲的な児童も多い。これは相 教師のアンケートから,まず,アクティブ 手の伝えようとしていることを類推して,あ リスニングの提示をし,外国語活動の中でア るいは理解しようとするために自主的に積 外・長研-21 聞こえてわかった」と,自分が聴く主体で 極的に取り組む姿であると考える。 あることを感じ取った児童もいた。 聴き返したり,繰り返し何度も聴くとい ○ うことは,英語での表現に慣れ親しんだり, 日常生活で,普段の日本語の会話でも繰 相手が伝えたいことを類推したり,自分が り返して聴く,聴き返して内容を把握する 伝えたいことをどういうふうに表現するか ことはよくある。英語での会話(英語を聴 確かめたりできる。それら全てが自ら表現 く)においては,なおさらである。外国語 することにつながっているのではないかと 活動の授業の中にアクティブリスニングを 考える。また, 「聴いて分かった」と喜びを 取り入れ,相手の話を聴こうとし,話し手 感じることで,自分の気持ちや考えを表現 に聴き返しをすることで,児童は内容を把 する意欲となり,次の活動につながったも 握しやすくなる。また,よく相手の話を聴 のと考えられる。 くことで自分の表現を確認することができ るため,自ら表現しようとすることにつな ○ がったと考える。 教師がデモンストレーションをする際に 児童は正しい表現を聴き,まねをした。分 からなければ聴き返し,また正しい表現を 聴くという活動を繰り返したことで児童は 第Ⅲ章 研究の成果と課題 どのように表現するか分かり,進んで表現 しようとする児童の姿が見られたと考えら れる。 1 研究の成果 本研究では,アクティブリスニングを用いて 英語を積極的に聞こうとする「聴く」というこ ○ 教師が非言語メッセージを加えながらデ とに視点をあてた教材を作り,自ら進んで表現 モンストレーションしたり,英語を聴かせ しようとする児童の育成をめざした授業づくり たりしたことは,児童が類推したり理解し を行った。 たりするために,効果的であったと考える。 ○ その結果,以下のような成果がみられた。 CD を使い何度も繰り返し音声を聴くこ (1) 聴かせるための題材選定,活動構成,教 とができるようにした活動では,聴くとい 材開発 うことに特化した。CD と比べて「人は聴き 本単元は4時間単元とし,児童が第1時よ 返したらすぐに答えてくれる」 「人はジェス り無理に話すような活動内容ではなく,聴く チャーがあるから分かりやすい」という考 ことから表現することへと緩やかに活動を構 えの児童が多かった。逆に CD がよかった 成した。そして,アクティブリスニングをさ という少数の意見もあった。これらの意見 せるための教材を作った。そのため,児童が はどちらも,英語での話を聴くときに,何 繰り返し英語表現を聴き,確かめることができ 度も繰り返し聴いて理解したい,聴き返し た。何度も聴いて英語表現に慣れ親しむことで て相手に答えてもらうことで内容を理解し 自ら表現しようとすることにつながったと考 たいという児童の思いや欲求があると考え える。 られる。それが外国語活動で必要な類推す る力に通じると考える。 (2) 教師のモデル提示(聴き方・話し方) また,資料-5,資料-20 のように人と 教師自らが児童に提示したアクティブリス のコミュニケーションで「聞こうとすれば ニングで聴き, 「聴き手としてのモデル」にな 外・長研-22 ることで,児童はどのようにアクティブリス 2 研究の課題 ニングをしたらよいか意識し,自らのアクテ ○ 本研究では道案内の単元について,活動 構成や教材づくりを行った。他の題材につ ィブリスニングにつながったと考える。 アクティブリスニングを続けていく中で, いては検討を行ったが,今後はその活動構 相手のことを理解しようと類推する態度につ 成も考え,アクティブリスニングに視点を ながったと考える。 あてた教材づくりをしていきたい。 同時に,教師が授業の中で「話し手としての モデル」となって,以下のような手だてをとり ○ 英語を聴かせる場面において,児童に負 児童に表現した。 担が多くならないように,英語表現の量を ・ 速さや声の大きさを変えて表現する。 考えなければならない。 ・ ジェスチャーや絵など非言語メッセージ ○ を加えて表現する。 ・ 本研究では,現行の英語ノートは使用せ ず,教材開発をすることで授業づくりをし 伝えたいことを繰り返し表現する。 その結果,児童はどのような言葉や文章で た。平成 24 年度から使用される新教材の聞 どのように表現すればよいか,デモンストレ くことを中心とした活動についても分析し, ーション等でモデルの正しい表現を聴き,ま 手作り教材と新教材の両方の利点を生かし ねをすることを繰り返し,表現に慣れ親しむ た活動構成にすることを考えていきたい。 ことで積極的に表現しようとする児童の姿が 見られた。 (3) アクティブリスニングの提示 本研究でのアクティブリスニングは三つの 聴き方を提示したが,聴き返しの方法が一番 有効であったと考える。 今まで相手が英語で表現していることに対 して,聞こえなくても,分からなくてもその ままにしていた児童が「聞き返しをすること で分かるようになった」 「 今度は聞き返しをし たい」と意欲的になった姿が多く見られた。 自分から積極的に相手に働きかけ,関わろ うとする態度は児童の満足感,達成感を味わう ことにつながったと言えるであろう。 聴き返しをして相手の話を類推しようとす る態度は福岡らしい国際教育で求められてい る行動力やコミュニケーション力につながる ものと考える。 外・長研-23 引用文献 1 文部科学省 小学校学習指導要領解説 外国語活動編 東洋館出版社 2 文部科学省 小学校外国語活動 研修ガイドブック 旺文社 3 福岡市教育委員会 (平成 20 年) 「福岡市らしい英語教育」説明会資料 4 イノベーションクラブ 5 ベネッセ教育研究開発センター 「聴く力」 VIEW 21[小学校版]4 月号 6 (平成 20 年) 三省堂英語ホーム 小学校英語活動コラム第 14 回 福岡市教育委員会 (平成 23 年) ダイアモンド社 (平成 21 年) ベネッセ (平成 19 年) 三省堂 (平成 21 年) 文部科学省 (平成 21 年) 参考文献 1 文部科学省 英語ノート2 指導資料 2 小泉清裕 現場発!小学校英語 文溪堂 (平成 21 年) 3 渡邊時夫 インプット理論の授業 三省堂 (昭和 63 年) 4 宗誠 小学校ならではの英語活動 文溪堂 (平成 19 年) 5 菅正隆 すぐに役立つ!小学校英語活動ガイドブック ぎょうせい (平成 20 年) 文溪堂 (平成 20 年) 岩波新書 (平成 16 年) 中央労働災害防止協会 (平成 15 年) (平成 15 年) 6 松川禮子,直山木綿子 ゼロから創る小学校英語 7 齋藤孝 コミュニケーション力 8 三島徳雄,久保田進也 積極的傾聴を学ぶ 9 ブライアン・ソーン カール・ロジャース コスモス・ライブラリー 9 奥田真夫,河野重男 現代学校教育大事典 ぎょうせい (平成 5 年) 10 青木一,大槻健 現代教育学事典 労働旬報社 (昭和 63 年) 長期研修員 今 林 美代子 (香住丘小学校教諭) 研究指導者 大 場 隆 一 (主任指導主事) 宮 野 直 哉 (主任指導主事) 外・長研-24