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実運送・輸配送に特化した冷凍・冷蔵車両による事業展開

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実運送・輸配送に特化した冷凍・冷蔵車両による事業展開
別
添
A社
実運送・輸配送に特化した冷凍・冷蔵車両による事業展開
A社は従業員数 100 名未満、資本金 1000 万円程度の中小規模の運送事業者である。自社
車両台数は約 90 台で、そのほとんどは大型・中型冷凍車であり、冷凍・チルド食品の貸切
輸送を中心に事業展開を行ってきた。
1.着目すべき事業展開・取り組み
A社では、倉庫や物流センターの運営、在庫管理や流通加工等の施設系、商流系の事業
にはあえて手を出さず、あくまで実運送・輸配送に特化した事業展開を行っている。
A社のコア事業である輸送事業のメニューとしては、①地場のチャーター便、②長距離
チャーター便、③チャーター便と小口輸送の積み合せ、④個建て配送、⑤特定顧客向けの
アウトソーシングを行っているが、②の一次輸送部分における長距離の貸切輸送がメイン
となっている。
冷蔵・冷凍車両による冷凍・チルド食品の輸送が中心であり、温度管理(定温輸送)とい
う部分で付加価値を高めた輸送サービスを展開している。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
物流センター運営や流通加工、受発注代行など、運送・配送以外の事業からの収益確保
を求める運送事業者が多い中で、A社では実運送・輸配送に特化した事業展開を維持して
いるのが特徴的である。
営業段階では決してNOと言わずに依頼を引き受けて、無理してでもこなしていくこと
が、A社の基本的な営業戦略である。荷主からのスポット的な依頼で大手運送事業者が断
った仕事を、上司自らがトラックに乗ってでも無理に引き受け、こなしてしまうことでま
ずは荷主からの信用を得る(荷主からは「困ったときのA社」として親しまれる)。その後、
次のステップとして、定期的契約・長期安定的な関係への転換を図り、年間定期輸送業務
の獲得につなげていく方法で成長してきた。
A社では、スポット的な依頼 10 件のうち2~3件は長期安定的な取引につながるとして
いる。現在、A社の売り上げの4割以上を占める最大手の顧客も、もともと大手運送会社
を含む 12 社に委託していたが、上記の方法で一次輸送に関しては全てA社がアウトソーシ
ングを受託するに至っている。
上記のような営業展開、顧客との信頼形成のカギを握っているのは配車担当であり、A
社では信頼形成は第一に配車担当、第二にドライバー、第三に営業担当であるとしている。
配車担当が営業担当よりも重要な役割・機能を果たしているのである。
また、A社のオペレーションにおいて、配車担当は配車業務だけを行っているわけでは
なく、受注→配車担当→システム入力→配車確定→会社名・車番入力→各営業所への空車
-1-
連絡→請求書の発行、に至る一連の業務を全て配車担当が行い、業務を完結させている。
請求担当者が実際の業務内容について十分に理解しないまま形式的に請求して、顧客に迷
惑をかけるのを避けるとともに、間接部門の人件費低減を目的とした仕組みである。
配車システムについては、メーカーのソフト利用も検討したが、実際に配車業務にあた
る配車担当の使い勝手を考慮して、社内でエクセルベースのソフトを自社開発している。
このシステムは 100 万円程度のパッケージソフトを購入した後にカスタマイズしたもので
ある。顧客からメールで受注したデータをエクセルに落とし込み、容積・重量ベースで配
車、確定したら荷主にメールバック、その後荷主から再度オーダー、納品書を送付、それ
をドライバーに渡して実際に積み込みという流れになっている。エクセルベースで、メー
ル受発注可能な簡便なソフトを自社開発することで、システム投資コストを抑制している。
車両管理システムは、協力会社の車両も含めて車両の履歴、所在管理ができるほか、車
両庫内温度についてもリアルタイムで把握できる仕組みとしており、運行車両についての
情報システム武装を行うことで、付加価値を高めている。
A社では、冷蔵・冷凍車という高コストの車両により、実運送中心の事業を行っている
ことから、車両管理における輸送品質の向上と、安全性・効率化・省力化の追求がより大
きな課題となる。具体的には直結エンジンとサブエンジンの 2 機のエンジンで 2 室温度帯
管理を行うツーエバ冷凍機搭載車両の導入により、車両故障時の品物溶解や、冷凍機の燃
料効率低下を避けている。また、ショートキャブ車に 16 パレット積載して、後部に余る 1
メートル部分に小口貨物を積み合せることで積載率を高める取り組みも行っている。
3.成長・成功へのポイントと留意点
営業段階ではNOと言わずに引き受け、無理してでも業務をこなして顧客からの信頼を形
成しているが、その後は、定期的契約・長期安定的な関係への転換を図る、二段構えの戦
略をとっていることに留意する必要がある。後で、定期輸送・ベースカーゴを出してくれ
る優良顧客を選別しているのであり、スポットから定期契約につながらない顧客からは撤
退していることが成功のポイントである。
大手運送事業者が断った仕事の獲得にターゲットしている点、大手のように配車担当を頻
繁に変えず、配車担当者を窓口に信頼を高めている点は、中小事業者ならではの強みを活
かした戦略である。
冷蔵・冷凍車両による食品輸送が中心であることから、季節波動(繁閑ギャップ)への対
応が大きな課題である。A社では、自社車両を増やして対応しているが、閑散期にどうし
ても車両が遊休化してしまう。
A社では配車担当者が大きな役割・機能を担っているが、配車担当だけではなく、ドライ
バーに対する教育・研修も重要視している点に留意する必要がある。A社では日常の乗務
員教育のなかで、「ドライバー=パイロット」との意識付け、プライドと危機感の植え付け
に努めている。無事故・無違反に対しては表彰を実施し、商品事故、交通事故があった場
合は、各ドライバーにメールで送信、注意を喚起している。
-2-
B社
貸切り輸送から積み合せ輸送への事業転換
B社は、もともと建設材等の中ロット貨物の貸切り輸送を中心に事業を行っていた、従
業員数 200 名未満の中堅運送事業者である。現在の所有車両台数は約 50 両(うち3~4ト
ン車が約6割)で協力会社車両が 20~30 台、売り上げ構成は輸配送 45%、倉庫・物流セン
ター40%、包装流通加工 15%となっている。
1.着目すべき事業展開・取り組み
B社の事業展開で着目すべきは、小口・中ロット貨物の積み合せ配送サービスであり、
従来の貸切り輸送からこの積み合わせ輸送事業へと転換したことにより、事業を伸ばし成
長を遂げている。B社では従来4トン車による中ロット貨物の貸切り輸送を中心に事業を
展開してきたが、貨物の小ロット化、荷主からの物流コスト削減要求、サービスの高度化
ニーズの高まりのなかで、積み合せ事業への転換を模索していた。9年前に主要顧客(建
築資材メーカー)から、ユーザー近くのSP(ストックポイント)やCS(カラーステー
ション)から多頻度配送する、コスト面で合わないサービスを求められ、競合輸送事業者
が出現したことを契機に、積み合せ輸送への転換に踏み切った。
B社がもとから持っていた中ロットの「容積勝ち貨物」
「重量勝ち貨物」をベースカーゴ
として、小ロット貨物を積み合せるのがこの積み合せ事業の基本コンセプトである(特積
み事業者のように小口貨物ばかりを集めたビジネスでは成り立たない)。既存顧客を重量建
て・容積建て運賃にシフトするとともに、特積み事業者にはないメリットを強調した新規
顧客、積み合せ貨物の開拓を進め、事業を拡大していった。同業他社からも積み合せ貨物
を受注しており、現在9割が積み合せ(共同)配送となっている。
また、集荷・積み込みにコストをかけないローコスト・オペレーション(幹線・引取り
専用車両を走らせない、ドライバー自らがピッキングを行う等)を徹底し、地域・貨物を
絞り込む(北関東エリアに地域特化)一方で、自社の弱い地域・不得意貨物をカバーでき
る同業他社との協力関係を構築しながら、同事業を展開している。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
積み合せ事業の展開にあたっては、配車作業の効率化が必要となり、B社では新たに情
報システム(配車システム)を導入し、それまでのカード分けからデータベースへの配車
組みへと移行した。この配車システムは、荷主企業(飲料メーカー)と連携して共同開発、
システムの作りこみはメーカーでやってもらったため、商業ベースでの開発費用よりかな
り割安な費用で開発・導入することができた。
-3-
配車システムの導入により、受注入力の平準化(誰でもいつでも入力できる)
、配車スピ
ードアップ、配車効率(物流と金額)の可視化、受注増への対応といった効果があった。
積み合せ事業の展開にあたっては、安全と輸送品質の向上も大きな課題となった。従来
の貸切り輸送では荷卸し箇所も少なく、事故も少なかったが、積み合せ輸送でサービスレ
ベルが高度化し、従業員のレベルがそれについていけず、輸送事故・交通事故が増加した。
B社では、安全運転・輸送品質教育を根本的に見直し、それまでの全体研修を、12 名~
13 名程度でのグループ研修に変更、基本の徹底と危険防止(ヒヤリハット報告、KYT等)
を行った。グループ研修だけではなく、最終的には個人面談も実施している。
輸送品質については情報カードによる情報の共有化を図り、ドライバーが変わっても対
応ができるようにした。
事故が起こるのはドライバーの責任ではなく、社長や管理者が事故防止の努力を怠って
いるからとの認識のもと、社長や管理者が先頭に立って、当たり前のことをコツコツと、
根気よく継続した。地道な取り組みが実を結び、平成 15 年から保険割引率最高(75%)を
維持、安全性優良事業者認定やISO9001 認証も取得している。
3.成長・成功へのポイントと留意点
B社自身は、自社には事業成功のモトとなる、いわゆる「秘伝のタレ」に相当するもの
があるわけではなく、輸送に関する各パーツ、情報システムや安全と輸送品質への取り組
みについて、標準以上のレベルを維持しつつ、それらを最大限の効果が得られるように上
手く組み合わせていくことがポイントとしている。B社では、上記の既存パーツの組み合
わせによる市場環境への適応に加えて、自社の強みを活かした商品をつくり、それに合っ
た顧客を選んでいく、市場を創造するシステムも必要としている。
B社では積み合せ事業への転換に踏み切り、既存の貨物をベースカーゴとしつつ小口貨
物を組み合わせることで、参入が容易な市場での競争激化を避けつつ、大手特積み事業者
との差別化も図っている。地域や貨物を絞り込む特化戦略や、自社でカバーできないエリ
ア・不得意貨物については、同業者との相互補完型アライアンスを活用している点も、地
域の中堅事業者ならではの戦略として注目される。
積み合せ事業、共同輸配送事業の拡大にあたっては、配送先・納品先を同じくする複数
荷主を獲得して効率をあげていくことが大きなポイントとなる。
情報システム(配車システム)の導入もB社の積み合せ事業成功に大きく貢献している
が、システムの構築費用、ソフトの購入費用が高いこと(B社はたまたま荷主との共同開
発ができたため低コストで開発できた)、ルート配送でなければ完全な自動化はできないこ
と、顧客ごとのカスタマイズがどうしても必要となる点には留意する必要がある。
-4-
C社
顧客からのアウトソーシング請負(3PL)を軸とした事業展開
C社の前身は港湾荷役会社であり、その創業は大正時代にまで遡る。輸入貨物(砂糖な
どの原料類)の沿岸荷役とあわせて、顧客の倉庫・工場への搬出入や構内作業、ユーザー
への配送等のオペレーションを行っていた。C社の従業員 600 名のうち、半分近くを事務
職が占めており、ドライバーや構内作業員などの現業作業員を上回っている。
1.着目すべき事業展開・取り組み
C社の事業展開の軸となっているのは、顧客(荷主企業)のアウトソーシングの受け皿
業務、いわゆるサードパーティ・ロジスティクス(3PL)である。製品(Product)、価格
(Price)、プロモーション(Promotion)、場所(Place)のうち、場所(Place)に関する部
分を丸ごと顧客に代わって引き受けるのが、C社3PLの基本的なビジネスモデルであり、
運送・保管だけではなく、通関、受発注、流通加工(検品、ラベル貼り、組み立て、ギフ
ト詰め合わせ等)、ユーザーへの試薬発送など、そのサービス内容は多岐にわたっている。
また、工場のラインアウトから小売店配送に至るまで広い範囲を代行しており、さらに
最近では新規事業として、顧客工場の生産部門・製造管理まで引き受ける「工場業務の全
面請負サービス」を展開しており、その受託範囲は物流の範疇を超えている。
C社の取扱商品は、食品、化学薬品、医薬品等が中心であり、特殊・専門的な知識・技
術が必要とされる商品の取扱いにより差別化を図っている(チョコレートの定温輸送、ボ
イラー水処理薬品の輸送と機械のメンテナンス作業、薬品の移液作業等)。
3PL事業展開の戦略としては、新規開拓よりも既存顧客をターゲットとした深堀りと
囲い込みにウェートを置いており、少数の既存顧客から、顧客の本業以外の部分を丸ごと
「根こそぎ」引き受けることをねらっている。C社のメインの顧客は6社程度でいずれも
30 年近くの長期の付き合いがあり、この6社で売り上げ全体の8割以上を占めている。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
C社では3PL事業の展開にあたって、ドライバー自身の付加価値向上を大きな取り組
み課題と位置づけ、安全運転に関する研修、運行管理者の資格取得に加えて、ドライバー
にパソコン研修(自分の伝票は自分で入力)、化学薬品等に関する特殊資格の取得や専門知
識研修の受講をさせている。これはC社の取扱商品に、特殊知識・専門技術が必要とされ
るものが多いことによるが、「単なる運送作業員」という意識のドライバーに対して、専門
知識や資格・技術の習得が必要な旨を理解させる点に苦労したとしている。ドライバーに
専門知識を習得、特殊な資格を取らせることで、顧客や納品先ユーザー側では立会い業務
が不要となり、業務の効率化を図ることができ、C社の評価にもつながってくる。
-5-
C社では、顧客別に独立した事業部制をとることで、顧客とのスムーズな情報交換、事
前に情報入手を図り、配車や保管手配など現場での物流効率化につなげている。半面、組
織としての一体性の維持が困難になり、業務の繁閑ギャップ等から従業員の間で不公平感
も発生、従業員に対する評価や人事異動面での対応が課題となっている。
また、傭車も含めた配送品質の維持向上が大きな課題となっている。顧客からの信頼・
評価を得るため、特殊商品の取扱いにおいては自社比率の引き上げを進めているが、コス
トの問題もあり、短期間に全てを自社に切り替えることは困難としている。
3PL事業の収益性は決して高いとは言えず、共同配送化など、似通ったフローの顧客
をパターン化して同業種への水平展開を図ることが今後の課題としている。また、実運送
部分においても、事業部横断的な車両の有効活用を図るため、貨物情報を社内で共有し、
異なる貨物の積み合せ(帰り荷としての積載)への取り組みを検討しているところである。
3.成長・成功へのポイントと留意点
C社では、新規開拓よりも既存顧客(荷主企業)からの受託範囲拡大にウェートを置き、
既存顧客との付き合い、ルーティーン(日常業務)のなかから、顧客が面倒だと思ってお
り、自社で代行できる業務を見出し、顧客に提案し取り込んでいくことを大きなポイント
としてあげている。この点は中小規模の事業者にも参考になり、十分に取り組み可能性は
あるが、クリエイティブな発想が求められる点に留意すべきである。
営業に対しては、単純な運送・保管だけでは差別化が図れないため、代行可能な業務を
見出し、運賃・荷役料以外の見積もり項目をあげて提案するよう指導しており、付加価値
を高めて値下げさせないようにし、収益拡大をねらっている。
3PL成功の重要なポイントとして、顧客との間で定期的な物流会議を持ち、情報を共
有化、荷主側の情報を事前に入手し、現場に反映させる体制をつくることをあげている。
この仕組みがあってこそ、現場からの継続的な物流改善提案を行うことが可能となり、実
運送や保管部分における効率化にもつながるとしている。
3PLでは荷主企業が物流コンペにより委託事業者を決めるケースが多いが、C社では、
コンペに多くの事業者が呼ばれているようなケースでは、提案のタダ取りや入札後の料金
値下げの危険があること、業界下位の企業は、事業者に短期間での提案を求めながら、自
社内での検討には長期間を要する傾向があり、信用できないことを指摘している。
顧客側が中事業者の方がドップ同士での話し合いが可能で話を進めやすい点を評価して
くれて、業務獲得につながったケースもあるとのことであり、3PLは中小事業者にとっ
ても十分にチャンスがある事業である。
なお、C社の場合、当初から港湾荷役に併せて工場・倉庫への搬出入、構内作業までを
行っており、自然な流れで顧客からの一括請負業務を展開してきたのであり、とくに意識
してある時期から3PLへの転換を図ったわけではない点に留意すべきである。
-6-
D社
自社開発の情報システムによる受発注・在庫管理等代行事業の展開
D社は資本金 9000 万円以上の中規模運送会社であるが、事業の割合としては、物流セン
ターの運営が約 60%で、運送(40%)を上回っている。通関業や流通加工業に加えて、医
薬品販売業、損保の代理店、さらには最近では顧客と一体化して食品製造業まで手がけて
いる。物流システムの開発やソフトウェアの販売など、システムに関するビジネスも多い。
1.着目すべき事業展開・取り組み
D社では共同物流(配送)を積極的に展開しており、インターチェンジ近くにDIY店
舗、ホームセンターの一括納品センターを設け、ホームセンターから発注された貨物をセ
ンターに一括納品、店舗別に仕分けして一括配送している。現在のセンター利用取引先数
は 360 社に上り、店舗配送に行った車両が帰りに集荷できるよう積載率を高める仕組みを
作っている。さらにD社では、同業種の複数荷主を対象とした共同物流の水平展開を進め
ており、菓子・食品メーカー11 社、日用品メーカー4社、化学品・化成品メーカー25 社、
医薬品・健康食品3社、出版社 23 社に対する共同配送の実績がある。
D社がもっとも注力しているのが、自社開発の情報システムを駆使した受発注等の代行
サービスである。出版社を対象とした書籍の共同物流において、D社は自社開発の情報シ
ステムを構築し、WEBを通じて出版社からの出荷指示、書店からの発注を受け付ける。
正午までに受け付けた注文は当日中に出荷、翌営業日には取次店等へ納品、エンドユーザ
ー(読者)へのリードタイムは最短3日であり、インターネット書店と遜色ないサービス
を行っている。また、このシステムでは、IDとパスワードを発行した書店や取引先が、
携帯やパソコンから直接在庫情報を確認することができるほか、取引先フォローとして売
掛金の確定などのサービスを行っている。上記のホームセンター店舗への一括納入センタ
ー等や配送管理システムも基本的に自社開発して、現在オープンな仕組みへの切り替えを
進めており、顧客にとって見やすく、使い勝手の良いシステムにしている。
D社では、事業の収益性を高めるために、既存顧客の声を聞いて囲い込むことを基本戦
略としており、物流センター内に流通加工場を併設して流通加工業務を取り込み、さらに
物流センターを食品製造工場にして製造業務に手がけている例もあり、チョコレートやナ
ッツ等の菓子類の製造と袋詰めサービスを行っている。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
D社の競争力の源泉・強みとなっているのは、情報システムの自社での開発能力である。
約 200 名の社員のうち、12 名がシステム開発要員であり、このほかに情報システム出身の
現場責任者3名を擁している。
-7-
物流サービスにおける情報システムでもっとも重視されるのはスピードであり、現場作
業にマッチしたものでなければならない。D社では以前に物流現場を知らない会社にシス
テム構築を任せたところ、コストが高く遅い(現場で使えない)仕組みになったため、自
社でのシステム構築に切り替え、30 年近く自社でのシステム開発を継続している。
また、ユーザーにとって使い勝手がいい(ユーザー・フレンドリー)ことも、システム
構築にあたっての大きな課題となる。この点、D社では顧客ごとにカスタマイズを行って
おり、上記の出版社・書店向けシステムでは、それぞれの出版社の業務手順を変えること
なく、従来のフォーマットがそのまま利用できるように工夫している。また、WEBを通
じたシステムにすることで、クライアント・サーバーシステムのローカルの壁に阻まれる
ことなく、利用者が容易にかつリアルタイムで在庫情報にアクセスできるようにしている。
D社の情報システムには、社内管理数値を社内にもオープンにして、個々の社員に対し
て売り上げやコストに対する意識を持たせる効果もある。
共同物流(配送)では、自社の強み・特徴を見極めたうえで、収益性を最大限に高める
ことが課題となる。D社では、この点、カテゴリーを「消耗品」に絞ったうえで共同物流
を提案・展開しており、同一センターで保管・加工、同一納品先に配送できることを基本
コンセプトとしている。さらに、車両の積載効率を高めることも収益性を高めるうえで大
きな課題となり、D社では、同種の貨物のみならず、タイヤと農薬等、異業種貨物の積み
合せや帰り荷確保に取り組んでいる。
3.成長・成功へのポイントと留意点
情報システムの自社開発を継続してきたこと、あくまでユーザー本位の、物流現場でス
ピードを持って動くシステム開発を行ってきたことが、D社成功の最大のポイントである。
情報システムの自社開発には、相当の設備投資・コストを要するうえ、顧客ごとのカスタ
マイズやメンテナンス等、面倒臭くて手間がかかる。D社はあえて「同業他社が手を出し
づらい」情報システムの自社開発を自社のコアとして継続的に取り組んだことで、同業他
社との差別化に成功しているのであり、先行投資・リスクを取る決断が求められる。
共同物流(配送)の展開にあたっては、上記のとおりカテゴリーを絞り込み、貨物・顧
客を選別しているが、新規の顧客に対しても営業の段階では決してNOから入らず、やれ
るかどうかを検討している点に留意すべきである(NOから入ると次に声がかからない)。
また、自社では出来ない部分については、同業他社とのアライアンスを行っており、相互
補完ができて、同じ考え方、生き方をしている企業を見つけることがポイントとしている。
D社の情報システム構築や共同物流(輸送)の提案の根底には、「得意先の声を聞いて囲
い込む」との戦略、考え方がある。得意先と直接接するドライバーが事業成功の大きなカ
ギを握っており、個々のドライバーに対しても納品先(顧客)を聞くようにとの指導を行
い、「セールスドライバー」化に注力している点も参考となる。
-8-
E社
周辺市場・ニッチマーケットの開拓による事業展開
E社はもともと運送会社であるが、現在の社長のもとで、貸切り便や路線事業における
配送といった従来型の運送事業よりも、引越しやトランクルームなどの周辺市場・すき間
市場(ニッチマーケット)への参入にウェートを置き、広範な事業・サービスを展開して
いる。また、法人向けでは、物流センター運営や流通加工といった施設系の事業、さらに
EC物流など、物流の範疇を超えて商流まで踏み込んだビジネスを展開している。
1.着目すべき事業展開・取り組み
E社では、運送の周辺市場・すきま市場(ニッチマーケット)の獲得に軸足を置いて事業
展開を進めており、消費者向け(BtoC)市場では、①建て替えに伴うコンテナでの一時
保管つき引越しサービスや、②主に書籍を対象にした収納サービス(トランクルームサー
ビス)を展開しており、②では大学図書館向けの蔵書保管サービスも行っている。
実運送の分野では、定温輸送分野における2温度帯同時共同配送サービスを展開している。
同一納品先・同業主の荷主を対象として、業態別・エリア別共同配送を行っている。
施設系の事業として、物流センター運営や流通加工も手がけており、ここでも複数荷主の
物流を同一のセンターにまとめて作業を行う物流の一元化、配送に加えて保管と加工、さ
らに情報と物流を統合する、分断されない一貫物流の構築を目指している。
最近の事業としては、①EC物流における複数荷主の商流管理(インターネット通販物流
システム)、②アミューズメント事業(スロットマシーンの店舗納品に関連する一括物流)
に取り組んでいる。①は、複数メーカーの納品先ECショップの共同物流を行うものであり、
物流はすべて共同物流センターのなかで行っている。また、情報システムにより、メーカー、
問屋(卸)、店舗などの在庫情報を一元管理、リアルタイムに流せるようにしており、自ら
が帳合いをとって名義変更を行うほか、返品商品の価格決定や販売支援、コールセンター(電
話受付)業務の代行など、商流まで踏み込んだサービスを行っている。②では、パチンコホ
ール向けのスロットマシーンの納品業務を行っており、日曜・夜間に各店舗に納品した後、
帰りに外した台を引き取り、物流センターで分解処理、工場への返品まで行っている。さら
に、アッセンブリーの組み立てなど、運送をテコにサービスの幅を広げて、一括請負による
効率化を目指している。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
周辺市場・ニッチマーケットの獲得は中小事業者のオーソドックスな戦略であるが、E社
ではさらにそのなかで特化戦略をとり、中小事業者ならではの強みが発揮できて、高い安
定的な収益が見込める分野にターゲットしているのが大きな特徴である。
例えば引越し事業においては、住宅の建て替えにともなう、家財の一時保管サービスつき
-9-
の引越しに特化することで、一次預かり貨物をいわば「質」にすることで「帰り荷」を確
保しており、車両の積載効率が高くなる。住宅メーカーとタイアップし、住宅展示場での
イベントから参加するといった営業上の工夫も奏功して成功につながっている。
また、トランクルーム(レンタルスペース)事業では大学図書館の蔵書をターゲットとし
ており、大学の蔵書は年間一定量の保管義務があり、確実に保管需要の増加が見込めるた
め、安定的な収益が見込める。それ以外の収益性が見込めない安い仕事は、同業他社に食
べてもらうという徹底した特化戦略を取っている。
アミューズメント事業におけるパチンコ・スロットマシーンの店舗納品業務は、夜間・日
曜が中心であるため、車両の稼働率を高めることができ、ドライバーにとってもいい「小
遣い稼ぎ」となる。さらに、外した台の引き取り回収があるため、帰り荷の確保が可能で
積載効率が向上する。また、廃棄処分業務や修理業務など、受託範囲が広がりやすく、収
益性の向上と拡大が見込まれる。
2温度帯共同配送においても取扱商品や荷主の絞込みを行ったうえで、業態別・エリア別
の共配の仕組みを作りあげている。この共配事業は、もともとE社が行っていた大手路線
業者の代理店業務(端末配送・集荷業務)が、バブル期の人手不足で先の見通しがなくな
ったために、独自に貨物を確保するために取り組んだものである。荷主向けのセミナーに
参加して、そこでの講演内容を取り込んだ提案を行うことにより、業務獲得を目指すやり
方をとっている。
3.成長・成功へのポイントと留意点
単純に周辺市場やニッチマーケットの獲得を狙うのではなく、そのなかでさらに中小事業
者でも参入可能性があり、収益性の高い分野にターゲットを絞っていることが、成功の大
きなポイントである。
書籍の収納(トランクルーム)サービスや、EC物流事業は、企画や運営を含めて女性戦
力を活用し、女性チームを編成・抜擢している点に留意すべきである。トップ自らが現場
に入って一緒に汗をかいて、人材の抜擢と評価を行っており、中小事業ならではの人材活
用方法として参考となる。
E社では、実際には相当の施行錯誤を重ね、失敗事例も経て、経験・ノウハウを蓄積した
うえで現在の事業・取り組みを成功させていることに留意する必要がある(E社では成功
事例の 10 倍の失敗事例があるとしている)。収益性の望めない分野には見切りをつけて撤
退する判断も必要とされる。E社では、引越し業務については同業他社からの参入による
競争激化で収益が下がりつつあり、さらに労働力確保が難しくなっていることから、撤退
する可能性があるとしている。
E社では経営者も含めて、これまでの自社(先代経営者)の事業展開や同業他社の動向に
左右されない、自由な発想と取り組みを重視しており、新規事業の企画・運営、さらにス
ローガンも含めて経営者ではなく、自分たちで考えさせるようにしている。
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F社
ドライバー指名による収益向上と特定信書便事業への進出
F社は従業員数約 100 名、資本金 2000 万円程度の地方の中小規模の運送事業者である。
会社創立は 100 年以上前に遡る地方の老舗事業者であり、現在の社長が4代目となる。保
有車両台数は 23 台であるが、大型車両は保有していない。地場の短距離輸送を中心に運送
事業を展開してきたが、長距離輸送については新たに別会社を立ち上げるとともに、特定
信書便事業など事業拡大も図っている。
1.着目すべき事業展開・取り組み
F社は、運送事業を長距離と地場の短距離輸送に分けて、長距離輸送部門を別会社化し
(平成 14 年設立)、自社は地場(地元県内)の短距離輸送に特化している。
新事業への取り組みとして特定信書便事業に参入しており、地方自治体や小中学校、教
育委員会、地元JAへの信書便の定期巡回便サービスやダイレクトメールの配送サービス
を行っている。当該事業用の車両は1台のみで、雪国であるためバイクは使用していない。
このほか3PL事業も展開しており、ベンダーマネジメントを通した調達物流の転換、
コア・コンピタンスを重点に考え、取引先に対するプレゼンスを高めることを狙っている。
具体的には、地元醤油メーカーを顧客として、配送のほか、在庫管理や入出庫管理、構内
作業や資材の搬出入、製造計画や販売計画の支援まで、広範な業務を受託している。また、
建設業を対象として、顧客の配送デポの地元移管とともに、建設現場までの建設資材(ボ
ルト等)の広域小口配送サービスを一括で請け負っている。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
F社が長距離輸送部門を別会社化した背景には、①老舗企業であるが故に従業員が「あぐ
らをかいて」しまっていたこと、②大型車両を持たなかったために協力会社から足元を見ら
れるようになった、③特定信書便事業等の新たな事業を行う主体が必要となったことがある。
また、以前からお世話になっていた長距離輸送業者との間で仕事がバッティングしないよう
にとの先代の思惑もあって、自社は地場での輸送に特化した。F社では、長距離会社を別会
社化した理由として、協力会社のなかに信頼のできる事業者がおらず、ドライバーのレベル
にも問題があったこともあげている。
長距離輸送の新会社は設立して4年であるが、一貫して業績が伸びており、2年目から
単年度黒字に転換している点が注目される。
ドライバーに対しては、顧客から指名を受けられるように、「指名料」がもらえるように
との指導を行っているのがF社の特徴的な取り組みである。実際にドライバーが顧客から
指名を受けた場合は、高い運賃がもらえ、高収益につながっている。顧客から多くの指名
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を受けたドライバーには社内で表彰、賞金を出すことでモチベーションを高めている。
ドライバーは全員自分の名刺を持って顧客に営業に回っており(顧客のセールス・ドラ
イバー化)、各々が自分の得意とする分野・顧客を持つようになっている。
ドライバーの教育・研修はドライバー同士で行わせるようにしており、優良なドライバ
ーが優良なドライバーを育成する好循環が形成されている。さらに経営会議でも肩書きの
ついたいわゆる管理職はあまり口を出さずに、ドライバーが中心となって行っており、風
通しのよい組織となっている。
特定信書事業への参入は営業ツールとしての活用を狙ったもので、特定信書便事業を看
板にしながら、メール便等も行ってボリュームを確保し、定期巡回便の配送先との接点の
中から、派生需要、新たな事業分野を見出していくという事業展開である。
3.成長・成功へのポイントと留意点
F社の事業展開の基盤には、ドライバーのスキル・付加価値の高さ、ならびにそれをき
ちんと評価するという経営姿勢がある。ドライバーが主体となって経営会議や研修を行う
風通しのよい組織、指名を受けたドライバーに対する表彰や利益の還元を行っていること
が、ドライバーのやる気・能力を引き出し、F社の競争力の源泉になっている。運賃値下
げ分をドライバーの合理化や給与下げで凌ごうとするのとは正反対の姿勢をとっている。
ドライバーの指名制が成功の大きなポイントとみられるが、とくにドライバーを指名す
る際には、顧客から特別料金をもらうような運賃体系・仕組みがあるわけではない。納品・
引き取り先で商品のふき取りや丁寧な積み下ろしを行う等、ドライバーが細かい気配り・
サービスを地道に顧客庭先で行ったことが、おのずと顧客に評価され、運賃面にも反映さ
れるようになったという、きわめて理想的なケースであることに留意する必要がある。
特定信書便事業への参入は、それ自体を短期的に新たな収益源にすることを狙ったわけ
ではない。定期便巡回事業を行い、配送先顧客との接点のなかから、派生的に新たな仕事
が得られるようにという営業のツールとしての活用を狙ったものである。地元で競合する
事業者が多いなかで、なるべく「うらみつらみ」の残らないような仕事のやり方をしたい
との配慮が背景にある。実際、郵便局と同じ値段では仕事を獲得できないことが多く、特
定信書便事業が短期的に高収益を上げているわけではない。
F社の3PL事業では、非常にきめの細かい煩雑な管理運営を請け負っており、高度な
「現場力」が要求される業務で容易にマネができるものではない。例えば、醤油メーカー
向けの3PLでは、アイテム数が多く、商品のサイクルも短いため、在庫管理がきわめて
難しくパッケージの貼り替え等の作業も煩雑になっている。また、建築現場向けの建築資
材の配送業務も、建築フロアごとにボルト○本単位での仕分け・ピッキング、箱詰めして
の配送が求められ、煩雑なタテ持ち輸送が発生している。また、3PL事業は自社、長距
離輸送の新会社とも行っているため、将来バッティングする可能性があるとしている。
このほか、地元発貨物に比べて地元流入貨物の方が運賃・収益性が高く、こうした地元
流入貨物を取り込んでいることも成功のポイントのひとつとしてあげられる。
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G社
同業他社と連携した広域共同配送事業の展開
G社は従業員数約 60 名、資本金 1200 万円程度の地方の中小規模の運送事業者である。
会社創業は約 80 年前に遡り、沿革は氷の卸小売業で、製氷会社に氷を引き取りにいってい
たことが契機となって、約 40 年前から運送事業に参入した。G社の売り上げの半分を一般
貨物運送事業が占めており、その約半分は共同配送事業によるものである。G社では同業
他社とも連携しながら共同配送事業を主体とした事業展開を進めてきた。
1.着目すべき事業展開・取り組み
G社の事業展開の中心となっているのが共同配送である。G社単独での共同配送事業の
ほか、①同業他社と設立した協同組合によるもの、②同業他社との共同出資による共同会
社(自社の共同配送部門の分社化)によるものがある。
これら複数の事業主体による拠点・ネットワークを展開し、エリアを分担して地元およ
び隣接・周辺県をカバーする広域の共同配送事業を展開している。
協同組合は地元の2代目・3代目の若手経営者たちが集まって平成5年に設立したもの
である。景気低迷のなか、これらの経営者が米国の物流業視察する機会があり、そこから
ヒントを得て、運送事業の明るい未来を切り開くとの趣旨で設立、燃料や事務用品の共同
購入からスタートし、求貨・求車事業や共同配送、共同受注へと事業内容を広げていった。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
G社の共同配送事業のコンセプトは「クロスドッキング」であり、24 時間稼動のクロス
ドッキングセンターを中核にして、IT機能、共同配送を組み合わせるスタイルである。
集荷した貨物をセンターに集め、仕分けを行い、同じエリアごとにまとめて出荷する。仕
分けと同時に流通加工・検品を行って在庫を低減するのがクロスドッキングセンターの大
きな特徴であり、リードタイムを大幅に短縮している。24 時間稼動のため、夜間にこの作
業を行って翌朝配送、翌日中納品が可能となり、
最短リードタイム 15 時間を達成している。
同業他社が連携し、各社の貨物をまとめて取り扱うことから、集約化のメリットも生じ
る。各社の貨物を同じセンターに集め、エリアごとに同じトラックにすき間なく積み合せ
て輸送するため、積載率が高まり、荷主にとってはコスト(運賃)低減につながる。ある
食品メーカーからの受託事例では、10%のコストダウンに成功している。
クロスドッキングセンターでは、貨物動態情報を把握する情報システムを備えており、
発地から着地までの商品情報を一元管理している。このシステムでは顧客が直接アクセス
して、商品の状態をインターネットによりリアルタイムで確認できる。ドライバーは取引
先情報、納品完了時と、各ポイントで商品や伝票に貼られているバーコードを専用スキャ
ナで読み取り、データがセンターに送信され、集約・加工されて、インターネット上に公
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開される。顧客はIDとパスワードを入力することで、誰でも配送状況を即時に確認する
ことができる。G社の共同配送では「納品の精度」(定時性)を最重視しており、やむを得
ず到着が遅れそうな場合は必ず事前に顧客に連絡、善後策を講じることを徹底している。
上記の商品追跡システムでは、商品ごとに到着遅延情報や到着予定時間、遅延理由等がわ
かりやすく表示されるように画面設計しており、顧客からアクセス・確認できるようにな
っている。
車両オペレーションのなかでは、なるべく少ない車両で積載率・稼働率を高めるように
しており、貨物量が増えてなくても車両を減車している。また、幹線輸送・端末輸送で車
両を専用化せず、端末配送を行った車両をそのまま幹線輸送に回したり、なるべく帰り便
の安い車両を確保するよう努めている。共配用の車両として、当初は荷捌きの都合を考え
て主に7トンのウィング車を導入していたが、バン車の方がウィング車に比べてコストが
安く(1台当たりの車両コストが 100 万円程度安い)、積載率も高いことから、現在では、
アルミバン4トン車を中心に導入しており、現在の車両台数は 29 台でG社のトラックのな
かではもっとも多い。
物流施設のオペレーションにおいても、時間差をつけて同じスペースを有効活用するこ
とにより稼働率を高め、コストダウンを図っている。例えば、倉庫の仮置きスペースを、
時間差をつけて仕分けスペースとしても活用している。また、昼間は仕分け場所になって
いるスペースを使って、空いている昼間の時間帯で、進物(お中元等)の詰め合わせ・包
装作業などの流通加工サービスを行っている。また、大手顧客の商品保管スペースから貨
物が出て行った後に、そのスペースを利用して他の顧客商品の共同配送作業を行うという
二段階方式を取っている。
3.成長・成功へのポイントと留意点
G社の共同配送事業のポイントとしては、①同業他社と連携しながら、複数の共配事業主
体を持つことにより、広域をカバーする拠点・ネットワークを構築していること、②実際
のオペレーションのなかで、車両や施設の稼働率をなるべく高める地道な取り組みを行っ
ていることがあげられる。
一方、同業他社との連携がうまくいかずに失敗した部分もあり、貨物の種類が適合しない
(冷凍品)、センター運営の賦課金の負担に耐えられなくなった等の理由で、メンバーの脱
退が相次ぎ、脱退に際して貨物を持ち逃げされたこともあったとしている。
G社では、共同配送は、理論上は積載効率が向上して車両1台あたりの収益は高まるが、
実際にはサービスに比べて運賃・コストが合わなくなることも多いため、上記のように実
際の車両・施設のオペレーションのなかでも、効率性を高める工夫が必要としている。
また、共同配送に適した貨物・顧客の選別も大きなカギとなる。G社では、とくに波動性
の高い商品は、ピーク時に入出庫もままならなくなるほど現場(センター)が混乱するた
め、共同配送には適合しないとしている。採算の合わない顧客・貨物については、運賃値
上げ交渉までして断っており、徹底した選別を行っていることに留意する必要がある。
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H社
建築資材輸送専業から環境事業・3PLへの業態転換
H社は従来建築資材メーカーの製品輸送専業の中堅運送事業者であったが、取り扱って
いた建築資材の事業環境が悪化したことから、新たな収益事業を確保するため、環境事業
やサードパーティ・ロジスティクス(3PL)に進出、業態転換を行った。
1.着目すべき事業展開・取り組み
H社の事業展開で着目されるのは、建築資材の専業輸送から、環境ビジネスや3PLビ
ジネスへのドラスティックな事業転換である。従来、特定の大手建築資材メーカーの製品
輸送を中心に事業を行ってきたが、メーカーの出荷基地統廃合による輸送量の減少、湾岸
地区のサービスステーション向け出荷による近距離輸送の増加、メーカー別縦割り輸送体
制の崩壊による他業者との競争激化など、取扱っていた建築資材輸送の事業環境が悪化す
るなか、新たな収益源の確保が必要となった。H社では、環境事業と3PLに活路を求め、
その収益構造、ビジネスモデルを大きく変化させて、新たな収益減の確保に成功している。
H社の収益構成は、当初建築資材輸送が 80~90%を占めていたが、現在の建築資材のシ
ェアは 40%にまで低下しており、3PL事業が 35%、環境事業が 25%となっている。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
環境事業への取り組み・成功事例としては、①廃FRP(強化プラスティック)のリサ
イクルシステム、②古畳リサイクルシステムがあげられる。
①はガラス繊維が含まれた処理困難物であるFRPを破砕、カロリーの高い物質と混合
し、建築資材の助燃材として製品化する事業である。プラスチック業界団体、大手建築資
材メーカーの環境事業部と共同研究し、生産工場向けのサーマルリサイクルシステムとし
て開発。NEDOの実証実験としてスタートしたが、処理施設が高スペックでコストが高
くつくため、施設の買取りは行わず、施設運営からは手を引いている。
H社はもともと建築資材輸送でフレコンバックの回収を行っており、産業廃棄物の収集
運搬の許可も取得していた。ただし、単純な収集運搬だけではなく、処理も含めた一元管
理でないと収益につながらないこと、これまでの顧客である建築資材メーカー工場が巨大
な焼却場でもあること、環境関連規制の強化により、コンプライアンスの高い事業者にと
って環境ビジネスは大きな市場となることを踏まえ、静脈物流から環境事業へと展開した。
②は、地元の農家、酪農家との共同事業であり、地元農家・酪農家から土地の提供を受
けて、リサイクルプラントを整備。許可の取得からプラント設計、経営までをH社で実施
している。地元農家の共同出資による事業会社による運営であるが、農水省の補助を受け
る関係でH社自身は出資できず、経営だけを受託している。古畳を回収して破砕し、地元
酪農家に引き取ってもらってし尿をつけてもらう。それを回収して発酵棟でバクテリア発
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酵させ、肥料・堆肥化する事業である。堆肥を使ってできた農産物をタダで配って還元し
ている。土地は地元農家から提供を受けているため用地コストは不要、農水省の補助も活
用して投資コスト負担軽減を図ることができた。材料となる古畳については、都市整備公
団の置き場管理業務を受託、リフォーム時に発生する古畳を調達している。
3PL事業への取り組み・成功事例としては、①紙製品メーカー向けの工場内物流の一
括管理包括受託、②製菓メーカー向けの詰め合わせ等の流通加工業務があげられる。
①の顧客からは、従来配送だけを受託していたが、新工場の開設にあわせて改善提案を
行い、結果としてコンペで落札。原材料の受け入れから製品出荷まで、入出庫・在庫管理、
配送管理など、工場内物流部門を一括受託、現在は代理店として製品の拡販に協力してい
る。その後、本社工場を含む物流包括受託契約につながった成功事例である。
②の事例は、顧客が撤退した後の空き倉庫(約 700 坪)を活用して、手作業の内職仕事
として、菓子の詰め合わせ業務を受託したことから始まったものである。パートの作業効
率・労務管理を徹底して行なったこと、モノができたら配送業務も付いてきた成功事例で
あり、加工品質(納期遵守、ノークレーム)の向上と差別化が浸透している。この事例を
モデルとして、保管業務を中心とした既存倉庫から、流通加工業務を中心としたLC(ロ
ジスティクス・センター)への転換を進めているところである。
事業の拡大・転換にあたって、辞めていく人間の意見も聞きながら、人事部に頼らず社
長自ら説明会で事業内容を説明、自分の考え方に同調してくれる人材を確保した。
3.成長・成功へのポイントと留意点
H社の3PLには、成功事例だけではなく失敗事例もあり、相当の試行錯誤を重ね、経
験やノウハウを蓄積して、成功につなげていることに留意する必要がある。
3PLの失敗事例としては、①引越用包装資材メーカーの引越業者向け配送や入出庫・
在庫管理などの一括請負業務、②農業資材商社向けの物流センター運営・配送業務がある。
①では倉庫の集約等による物流改善を行ってきたが、顧客に派遣されてきた銀行役員がア
ウトソーシングのメリットを理解せず、顧客の社長が説得することができなかったために、
撤退せざるを得なかった。②では、物流改善に成功したものの、油断して継続的な改善提
案ができなかったこと、H社で選定した特積み事業者の品質の悪さ(積み残しの発生等)
により、同業他社に仕事を「横取り」され、業者変更通達により撤退を余儀なくされた。
空き倉庫を利用した3PLが軌道に乗って黒字化するまでには相当の時間を要しており、
既存倉庫をロジスティクスセンター化して流通加工業務を展開していくことについては、
社内でも疑問視する意見があり、議論と説得が必要であった。
H社では、従来型の建設資材輸送事業と新規の3PL事業や環境事業部では、業務内容
や労働条件が大きく異なることから、評価の仕方が極めて難しく、従業員の配置や異動希
望への対応が今後の課題ととらえている。今後、事業部間の人事交流を積極的に行うこと
により、新しい事業への理解の浸透を図ろうとしている。
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I社
冷凍食品に特化した低温物流事業の共同配送
I社は従業員数約 200 名(関連会社含む)、資本金 2000 万円程度の地方の中小規模の運
送事業者である。会社設立は平成 10 年と比較的最近であり、
規制緩和後の事業参入である。
実運送(車両)部門を別会社化したほか、人材派遣会社も設立しており、3社でグループ
を構成して事業展開している。保有車両台数は約 60 台で、
そのほとんどが冷凍車両である。
1.着目すべき事業展開・取り組み
低温物流事業(温度管理輸送)を中心とした共同配送事業がI社の中核事業であり、低
温食品のなかでもとりわけアイスクリームという特定商品に特化して事業展開している点
が注目される(取扱い貨物の8割がアイスクリーム)。
実運送(車両)部門を別会社化しているほか、人材派遣会社を関連会社として設立して
おり、冷凍車のレンタルアウトやメーカー向けの人材派遣事業を展開している。I社自身
は車両を持たない運送取扱業から事業開始、当初から提案・コンサルティング的を行って
おり、物流の一括請負、いわゆる3PL事業に先駆的に取り組んでいた。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
I社では、アイスクリームの生産工場から末端の小売店舗までの物流全体をカバーする
ネットワークを構築しており、①一次物流:生産工場から各営冷蔵庫、②二次物流:営業
冷蔵庫から各得意先(問屋)、③三次物流:得意先(問屋)から各小売店舗までの物流の 3
つのセクションに分けて、社内で担当(営業所・窓口)を分けている。いずれのセクショ
ンも複数荷主の貨物を一括して取り扱う共同配送となっているのが特徴である。
実運送部分で共同配送という強みを作る一方、I社自身は運送取扱業として、自社では
極力車両を持たず、総合物流、元請業務の窓口として、提案・コンサルティングも含めた
物流の一括請負、現在のいわゆる3PL事業に早くから取り組んでいた点も注目される。
地元では物流機能を持たない中小メーカーも多く、これらメーカーから在庫管理、受発注、
伝票発行等の周辺事務代行も含めた一括請負業務を獲得、収益を拡大させている。また、
冷凍食品といえども製造日からある程度日付が経つと廃棄処分が発生することに着眼し、
廃棄物の収集運搬許可を取得、メーカーから商品の廃棄処分業務を受託している。今後、
廃プラを資材として再生する等のリサイクルビジネスの展開も検討している。
関連会社の人材派遣会社では、得意先メーカー向けに工場・倉庫内の作業員派遣を行っ
ており、5年間で社外派遣業のみで採算が取れるようになっている。現状では人材派遣業
の収益性が一番高く、運送業よりも派遣業で収益を上げている。また、アイスクリーム輸
送車両はとくに低い温度帯での輸送が求められ、架装がしっかりして耐用年数も長いこと
から、実運送部門の関連会社では、アイスクリーム輸送の現役は外れたがそれ以外の商品
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の低温輸送には支障のない冷凍車のレンタル事業を行っている。
地元経済の停滞、メーカー再編の進展のなかで、メインの顧客がアイスクリーム事業か
ら撤退、顧客を失うというピンチを迎えた際、I社では営業所の閉鎖、車両台数の減少(現
在の車両台数はビーク時の半分)に踏み切っている。これにより、売上高は減少したが、
閑散期に当該事業を行う必要がなくなったため、逆に利益率は高まっている。
今後の事業展開方針として、低温物流事業・冷凍食品以外への業容拡大は価格競争に巻き
込まれるリスクが高いとの判断のもと、I社では逆にこれまでの冷凍食品(アイスクリーム)
への特化戦略をさらに極め、付加価値・サービスの向上に取り組んでいる。具体的には「フ
レッシュ・フローズン」というコンセプトのもと、顧客に一般の食品並みの物流を提案し、
製造日から日数の経たない商品を末端の店舗・消費者まで直接配送、商品の品質向上と製
造・販売拡大を支援する事業に取り組んでいる。また、共同配送の仕組みを受注分野に拡大、
共同受注システムへと進化・レベルアップさせることを検討しており、さらなる業務の効率
化と収益拡大を目指している。
冷凍食品というカテゴリーのなかでは取扱品目の拡大にも取り組んでおり、アイスクリ
ームの共配エリア外でのアイスクリーム以外の冷凍食品の共配を展開することを目指して
いる。すでに東日本、西日本2拠点での冷凍食品の小口混載便を走らせているが、現状で
は特定顧客への依存度が高く、これを共同配送化していくことをねらっている。
3.成長・成功へのポイントと留意点
I社の成長・成功の要因としては、①低温物流事業(温度管理輸送)という付加価値が
高く、車両や設備への初期投資や温度管理のノウハウが要求される等、参入ハードルが高
い分野に参入したこと、②冷凍食品のなかでも、さらにアイスクリームという特定商品に
ターゲットを絞る特化戦略をとったこと、③複数のメーカーの商品を束ねて一括して取り
扱う共同配送を基本に据えた事業展開を行っていることがあげられる。I社では上記のよ
うな特化戦略のもと、当初から大手の牛乳、菓子メーカーからの直接業務受託に成功した
ことを大きなポイントとしてあげている。
I社は規制緩和後の事業者増加・競争激化のなかで事業参入しており、平成 10 年という
不況期の「どん底」に会社設立している点にも留意する必要がある。I社はその理由とし
て、①現在の社長(創業者)はトラックドライバーとしての勤務経験があり、その当時に
付き合いのあった食品メーカーの物流子会社、物流担当者から声をかけてもらう機会があ
ったこと、②もともと 30 歳前までに一旗あげたいと考えていたこと、③不景気だからこそ
共同配送事業は逆に伸びるという見込み・判断があったことをあげている。
関連会社による冷凍車のレンタルアウトや人材派遣など、車両や人材の外販ビジネスの
成功も、I社の収益基盤の拡大に寄与している。
I社では、メーカー再編の流れのなかで中小事業者が共同配送事業を展開していくうえ
での課題として、特定の系列メーカーの圧力に屈せず、特定系列メーカーの傘下に入れら
れ、他のメーカーから受託できなくなるという流れから脱却することをあげている。
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J社
WEBシステムの構築による受注拡大と業務の効率化
J社は従業員数約 130 名、資本金約 2000 万円、車両台数 150 台強の地方の中堅運送事業
者である。J社の事業は、①公共工事関連の土砂・砕石などの建設関連貨物輸送と、②地
元M社向けの肥料・農産物輸送が中心であったが、最近では一般貨物の取扱いへと業容を
拡大するとともに、WEBシステムによる受注拡大と業務効率化を図っている。
1.着目すべき事業展開・取り組み
J社の事業は①建設関連会社向けの土砂・砕石輸送、②M社向けの肥料・農産物輸送が
中心であったが、建機レンタル会社の増加にともない建機輸送に進出、さらに建設・農業
関連以外の一般貨物の取扱いを始め、業容を拡大している。
事業拡大にあたっては、地元の運送事業者に対するM&Aを行ってグループ会社化して
いる。長距離輸送会社を傘下におさめるとともに、地元および隣接県への営業所展開を行
い、ネットワークを拡充している。
J社の取り組みで着目されるのが、WEBによる受注システムの構築である。それまで
の顧客からの電話による受注情報を社内システムに再入力するやり方から、WEBシステ
ムを構築して顧客に入力してもらい受注する方法に切り替えた。
このほか、既存業務・顧客をテコにした3PL事業にも取り組んでいる。具体的には、
M社の農機具部品センターの管理運営と配送業務請負、レンタルハウスの物流部門の一括
受注(運送から組み立て、整備までの一括請負)があり、M社向けの3PLでは、平成 19
年に新しい物流センターの立ち上げに伴い、伝票発行まで受託業務を拡大する予定である。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
J社にとって業務の効率化を図り、収益性を高めるためのキーとなっているのが、WE
Bシステムの構築である。WEB上のシステムを構築・導入することにより、これまでの
電話受注の場合に比べて、受注機会の逸失を避けるとともに、顧客側で入力してもらうこ
とで再入力によるミスを減らし、業務の効率化を図ることが可能となった。
このシステムは配車システム・車両動態情報の管理の効率化にも役立っている。車両情
報の可視化、共有化が図られ、異なる営業所の配車担当者間でも相互に車両情報を確認す
ることができるため、帰り荷確保など車両の稼働率を高めることができる。全ての配車担
当がシステム上で配車ができるため、これまでのような配車担当者間での電話連絡が不要
となり、時間が短縮された。
このシステムでは車両や貨物情報のほか、ドライバー稼働状況、構内作業員の稼働状況
も把握可能であり、徹底した情報の可視化・共有化が行われている。さらに、給与関係、
請求関係などの業務も行うことができ、時間単位での収益の把握管理が可能である。
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顧客側もWEBを通じて貨物や車両の情報に容易にアクセスでき、最近ではパソコンだ
けではなく、携帯端末によりアクセス可能な仕組みとしている。これにより、従来の電話
での問い合わせに比べて顧客の利便性が高まり、業務の効率化を図ることができる。
J社はドライバーの教育・研修にも情報システムを活用しており、ドライバー控え室に
パソコンを設置し、写真と文章により車両のメンテナンスや点検項目についてドライバー
が学べるようにしている。また、得意先情報(顧客ごとの積み下ろしにあたっての注意点
等)についても、パソコン上で全てのドライバーがいつでもみられるようになっている。
運送事業者のなかにはネットワーク拡大のために同業他社との業務提携(アライアンス)
を行うところが多いが、J社ではアライアンスだけではなくM&Aを活用しているのが特
徴的であり、同業他社や卸売業の物流部門を買収している。アライアンスに比べて、輸送
キャパシティや営業拠点・ネットワークの拡大をスピーディに行うことが可能となる。
3.成長・成功へのポイントと留意点
建設関連貨物輸送という利益率の高い得意分野を持ちながら、建設関連貨物需要がピーク
アウトする前から、建設機械の輸送、さらには一般貨物への事業展開に踏み切っていたこ
とが、J社成功のポイントである。建設関係の仕事の収益性は高いが、繁閑ギャップがあ
る(夏場が暇で冬場が忙しい)。J社では建設関連以外の貨物、収益源を確保することで、
業務の平準化、収益の安定化を目指している。ただし、J社では建設関連事業の比率は下
げているものの、地元で「片手間」にやっている事業者が増えているなか、顧客から建設
関連輸送への取り組み強化の要望があることから、建設関連輸送事業の再構築も検討して
いる。
WEBによる受注システムがJ社の業務効率化と収益拡大のカギを握っているのは間違
いない。ただし、J社の受注全てがWEBシステム経由に変わっているわけではなく、売
り上げベースでのシェアは 14 億円のうちまだ2割前後に過ぎないことに留意すべきである。
また、J社ではM&Aを行っているが、これはあくまで相手先から持ちかけたられたも
ので、J社から積極的に仕掛けたものではない。また、すべての買収案件を引き受けてい
るわけではなく、その会社を買収することによって貨物獲得につながるところを選別して
いる点に留意する必要がある。
J社の新事業への取り組みには成功事例だけではなく失敗事例もある。①3PL(物流
センター業務)では、顧客のセンター建設が当初予定より遅れたために投資コストがかさ
んだ。②フェリーによる無人航走を利用した長距離の産業廃棄物輸送では、紹介した先が
倒産した。③建設需要の落ち込みへの対応のひとつとして、共同配送にも取り組んでいる
が、限定されたエリアのなかで協力してくれる事業者を探すのが難しいうえ、1年間の取
り組みで 1000 万円近い赤字が出ており、このままでは値上げも検討せざるを得ない。こう
した失敗が建設需要の落ち込み時期に重なったときはダメージも大きかったとしている。
上記のような試行錯誤、失敗を重ねながらも、これまでの得意分野(建設関連輸送)に
とらわれず、あきらめずに新事業への取り組みを継続するという姿勢が基盤にある。
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K社
スポット便への特化戦略と経営革新の断行による収益確保
K社は従業員数約 30 名、資本金 800 万円程度の地方の中小規模の運送事業者である。創
業は平成7年で当初は廃棄物収集運搬を行っていたが、平成 12 年に運送事業の許可を取得、
運送事業に参入した。ニッチマーケットで付加価値の高いハードを提供することにより、
高い収益をあげる戦略のもと、これまでスポット便に特化した事業展開を進めてきた。
1.着目すべき事業展開・取り組み
K社の事業展開で注目されるのは、ニッチマーケットでオンリーワンを目指すとの戦略
のもと、スポット便に特化して少量の収益性の高い貨物獲得を目指している点である。
社内の取り組みではITを活用しながら業務の標準化・効率化を進めている点も注目さ
れる。情報システムのなかに落とし込み、社員が誰でもみられるようにすることで、社員
のコスト管理意識を向上させ、会社全体でコスト管理を徹底的に行う仕組みにしている。
各種の認証取得は企業の付加価値向上につながるとの考え方から、運送事業・倉庫事業
のグリーン経営認証を取得しているほか、IT活用型経営革新ビジネスモデル事業にも鳥
取り組んでいる。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
スポット便に特化していることがK社の事業展開の大きな特徴である。定期に比べて運
賃相場の高いスポット便に集中することで、適性見積もりを提出、運賃競争に巻き込まれ
ず、高い収益を上げることに成功している。競争の激しい定期便市場を避け、規模は小さ
いがが供給も少ないスポット市場をターゲットとて、大手との差別化を図っている。
車両、倉庫の両面で付加価値の高いハードを整備し、このハードに適合した顧客を選別
する(顧客の方がK社に依頼せざるを得なくなる)ようにしている点も特徴である。倉庫
については、天井クレーンを装備した倉庫を整備し、付加価値の高い「創庫」というネー
ミングのもと、倉庫のスポット貸し事業を展開してきた。車両面でもあえて他の事業者が
買わないような高コストのエアサス平ボディ4トン車、2トン車を中心に導入し、スポッ
トでの貸し出しを行っている。ボリュームは少ないが供給も少ないニッチマーケットに特
化することで付加価値を高め、収益性を確保してきた。
社内では、ITを積極的に活用し、業務手順のマニュアル化・標準化とコスト管理を徹
底させている。まず全車両にデジタコを導入し、これにより把握したデータを基に、①ド
ライバーの適正な運行管理、②配送の効率化、③運行状況の把握による燃費改善、有料道
路使用などの改善指導、④安全運行指導を行う。新たなドライバーの評価基準をつくり、
個々のドライバーに業務の流れとチェックポイントを把握させ、不備があった場合は減点
する仕組みにして、情報システムに落とし込み、ドライバーのレベルアップとコスト意識
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の向上、燃費向上を達成している。こうして蓄積した経営ノウハウを情報システムに組み
込み、社員全員が経営全体について把握、参加できるようにしている。
当初は売り上げ至上主義で売り上げを伸ばしてきたが、運送原価の上昇に加えて、無理
な運行、スピード違反、過積載などの不具合要因が発生した。経営者自らが物流大学校講
座を受講し、経営に関する知識を習得、経営革新の必要性に気付き、売り上げ第一主義か
ら収益性重視へと転換、上記のような経営革新の具体策を実践していった。
K社がメインターゲットとしてきたスポット便は利益率が高い反面、日々の業務や伝票
管理が違うことで、ミスや事故の可能性が高まるなどのリスクが大きい。この点K社では、
デジタコ装備やITを活用した業務の標準化・マニュアル化によって、ドライバーのレベ
ルアップや業務効率化を図り、スポット便のリスク回避に成功している。
3.成長・成功へのポイントと留意点
K社では顧客からの無理を聞くことがサービスではないとの意識のもと、ニッチマーケ
ットねらいで付加価値を高めて、顧客にいかに選んでもらうかではなく、顧客の方から頼
んでくるような仕組みを構築した。運賃の安い仕事は無理に引き受けず、スポット便とい
うニッチマーケットで付加価値の高いサービスを提供する姿勢を貫いたことが成功のポイ
ントである。スポットの場合、顧客にとっては「お試し」感覚で利用できリスクも小さい
ことから、顧客はコンタクトしてきた段階ですでにK社に委託するつもりになっており、
運賃や支払条件面でもK社からの要望に柔軟に対応してくれるとのことである。
経営者が売り上げ第一主義から収益性重視への転換の必要性に気付き、経営革新を断行
したことも、成功の大きなポイントである。経営革新を実行した翌年は一時的に業績が落
ち込んだものの、その後は順調に業績を伸ばしている。
スポット便は定期便に比べて高い運賃を収受できるが、事業規模、顧客が多くなってく
ると、一般管理費・間接費用負担が大きくなるという問題がある。中小事業者としての成
功からさらにステップアップし、規模拡大を目指すためには、物量のある分野にも手を出
していかざるを得ないとの認識のもと、試験的にエアサスウィング車を導入している。あ
わせて協力会社のレベルアップが不可欠との認識しており、これまでのK社の経営ノウハ
ウをマニュアル化・標準化し、さらに他の中小事業者への普及を目指す取り組みとして、
経済産業省の補助を活用して、デジタコ経営革新支援ASP事業を展開している。
創業当初は地元の同業他社からの「いじめ」に会い、大手の下請けで低賃金での長時間
労働を強いられる等の苦労もあったが、K社ではこれにめげずにプラスの方向に転化する
「負けず嫌い」の取り組み姿勢をベースに持っていた。コストアップにも泣き言を言わず、
「コンプライアンス無視でなりふり構わず業務獲得、コストアップを凌ぐ」という、マイ
ナス方向に走らなかったことも成功の大きな要因である。K社が前向きの挑戦サイクルで
取り組みを継続できた背景には、守るもの・失うものがないという創業者の強みもあった。
K社では「創業は易く守勢は難し」という表現で、今後、50~100 年の長期スパンでどのよ
うに継続成長を図っていくかが課題と認識している。
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L社
繁閑ギャップの組み合わせによる人事提携と人材育成への注力
L社はもともと公設の中央卸売市場内に本社を置く地域の中堅運送事業者であり、市場
の青果物、生鮮食料品輸送から事業を開始した。地元(県内)の食品輸送を中心に事業展
開してきたが、地元の農産品(米、大豆)や冷菓、冷凍食品まで取り扱い品目を拡大する
とともに、最近では保管(倉庫業)や、生産地での保管から消費地配送までの一貫物流へ
と事業の幅を広げつつある。
1.着目すべき事業展開・取り組み
L社は卸売市場関係の食品運送業を主体とした事業から、地元で生産される農産品の保
管、さらに生産産地での保管と消費地までの配送を行う一貫物流(3PL事業)へと展開
している。倉庫業、3PLでは、県内の高速道路IC近くに、4温度帯対応の物流センタ
ーを整備。生鮮青果物、穀物をはじめとする、冷菓・冷凍食品まで扱えるフル温度帯の環
境を構築している。
また、中長期的な人材の育成に注力しており、ドライバーの確保と安全輸送へ向けての教
育の徹底だけではなく、中長期的な課題として、ドライバー以外の中堅幹部、物流センター
の運営者等、自身の事業展開の後継者の育成にも取り組んでいる。
2.事業展開・取り組みの特徴/収益性を高めるための創意工夫・課題等
L社が営業基盤としている県は、人口規模、産業の集積度合いが小さく、毎年県内から
の企業・労働力の流出が続いており、さらにドライバー等の労働者の人件費も高くなると
いう厳しい環境にあったことから、人材の確保・育成が大きな取り組み課題となった。
ドライバー確保と効率的な運用へ向けての取り組みとして注目されるのは、取扱貨物の
繁閑ギャップをうまく組み合わせた他社との人事提携である。L社の輸送品目は青果物な
ど夏場にピークが来るものが多く、県内に冬場にピークが来る石油輸送を行う石油会社系
の物流会社との間で人事提携を行い、両社のドライバーを相互に出向させる仕組みを導入、
両社におけるドライバーの確保と効率的な運用につながっている。
また、首都圏港湾からの輸入青果物の県内向け輸送について、従来の同業他社との間で
連携共配を行い、互いに車両積載率を高める工夫も行っている。自社が営業基盤を置く県
では、冬場は青果物等の産出・出荷がなく、逆に他県からの流入が少なくないこと、個別
の事業者ごとの積載効率はあまりよくないことを踏まえた取り組みである。
このほか、実運送部分での効率性を高めるための工夫として、車両が貨物を選ばないよ
う、汎用性の高い車両を導入している。米、冷凍食品、青果物といった様々な食品のほか、
食品以外の貨物(工業製品)にも対応できるよう、幹線輸送部分ではウィングの冷凍車を
スタンダードとして利用しており、大型車(トレーラ)は導入していない。
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L社では、相当な時間と投資をかけてドライバーの安全に対する意識を高め、輸送の安
全確保におけるプロドライバーの育成を目的とした育成・研修に注力している。新人の採
用、中途社員採用からフォローアップまでを一貫して行う仕組みとして、ヒューマン・ク
オリティ・マネジメント(HQM)を導入、一貫教育のための専門部署を設置している。
経営計画書、業務マニュアルを教材として社員に対する個人面接を通じて、個人や会社に
対する問題点の早期発見と解決に向けての対策を講じている。L社の基幹情報システムは、
受注管理や運行管理、配車システム、社員台帳や事故分析などが有機的に連携しており、
ドライバーに関する各種の情報が一元的に把握できる。各ドライバーの車両運行状況や事
故歴、健康状況を踏まえて、効果的な個人面接が実施できるようになっており、ドライバ
ーの教育においても重要な機能を担っている。
付加価値・競争力を高めるための施策として、L社では原単位管理の徹底に取り組んで
いる。個々の社員に運行1キロあたりにかかるコストや内訳を把握させ、コストダウンに
対する意識の向上を図っており、デジタルタコグラフの導入も進めているところである。
各々の取り組み課題について、経営会議で検討しても堂々巡りになるだけで有効な解決
策にはつながらないことから、L社では少人数の専門委員会を設けて、そこで解決方策を
検討させる体制をとっている。一見時間がかかりそうであるが、こちらの方が早いとして
いる。拠点運営など現場のマネジメントや次代の経営を担う人材の育成方法、課題解決に
取り組む社風・企業文化の形成方法として、参考となる。
3.成長・成功へのポイントと留意点
地域の物流の特性を踏まえ、地元の企業をターゲットとして、地元密着型ビジネスを展
開してきたことがL社成功の大きなポイントである。ビジネスだけではなく地域社会への
貢献活動として、小中学校向けの交流授業や施設見学、ICから卸売市場までの道路の清
掃作業等を実施している点にも注目すべきである。
季節繁閑ギャップを組み合わせた人事面での提携(ドライバーの相互出向制度)は、相
手先のトップ、現場担当責任者との間で綿密な打ち合わせを行い、事故が起きた場合の対
応等いろんなケースについて取り決めたうえで、きちんとした文書を取り交わして実施し
ている。両社の間で業務内容をオープンにして、相当の信頼関係が基盤として構築されて
いないと不可能な取り組みである。
L社ではドライバーに対する教育を徹底して行い、安全輸送の確保、事故の防止、過積
載等の違反防止につなげている。L社の安全面における輸送品質の高さは、安全輸送への
取り組みを単なるコストアップ要因ととらえるのではなく、最終的に効率化・コストダウ
ンにつながるとの視点のもとで、相当の時間と投資コストをかけて、安全を重視する社風・
企業文化を形成することにより実現したものである。
L社の地元の貨物・企業を対象とした地元密着型の3PLビジネスは一応の成功を納め
ているとみられるが、L社では、3PLのような提案型のビジネスでは、下手に提案する
と「当て馬」にされ、値下げの危険があることを指摘している点に留意すべきである。
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