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米国CMU訪問および国際会議SAT2011参加報告
米国CMU訪問および国際会議SAT2011参加報告 湊 真一 (北海道大学 / JST ERATO) 今回の出張日程 6/18 札幌 成田 Chicago Detroit (Ann Arbor) 国際会議SAT2011(@Univ. of Michigan) 6/23 Detroit (Ann Arbor) Pittsburgh カーネギーメロン大学(CMU)訪問 πDDの論文発表 SAT分野の最新状況調査 ミシガン大の研究室訪問 Bryant教授 Ed. Clarke教授 他6名以上の教授と面会 オバマ大統領来訪 6/25 Detroit Chicago 成田 札幌 (6/26着) July 1, 2011 Shin-ichi Minato 2 訪問先の位置関係 - Detroit (Ann Arbor) - Pittsburgh 米国東部時間(+ サマータイム) (日本との時差13時間) (緯度は札幌と仙台の中間) July 1, 2011 Shin-ichi Minato 3 CMU訪問 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 4 CMU訪問の概要 Agenda 6/22昼頃: ピッツバーグ空港着、市内に移動(約1時間) 15:15~ Blanton教授と面会・討論 16:00~ Bryant教授と面会・討論 17:20~ 副研究科長2名(Lehman教授、Sutner教授)と夕食会 6/24 9:30~ Marculescu教授と面会・討論 10:30~ Pfenning教授と面会・討論 11:30~ オバマ大統領の演説を視聴(ストリーミング中継) 12:00~ Theory専攻の教授昼食会にゲスト参加・歓談 13:00~ Sleator教授と面会・討論 14:00~ Ed Clarke教授の研究室でセミナ講演 15:00~ Sutner教授と面会・討論 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 5 CMU訪問の概要 - 当初はBryant先生とゆっ Agenda くり議論する予定だった。 - オバマ大統領のCMU 6/22昼頃: ピッツバーグ空港着、市内に移動(約1時間) 来訪が急きょ入ったため、 15:15~ Blanton教授と面会・討論 Bryant先生は研究科長と 16:00~ Bryant教授と面会・討論 して演説会場に参列しな 17:20~ 副研究科長2名(Lehman教授、Sutner教授)と夕食会 ければいけなくなった。 6/24 9:30~ Marculescu教授と面会・討論 - 私との面会は前日夕方 10:30~ Pfenning教授と面会・討論 のみに縮小され、代わり 11:30~ オバマ大統領の演説を視聴(ストリーミング中継) に多数の有力教授との面 12:00~ Theory専攻の教授昼食会にゲスト参加・歓談 会・討論をセッティングし 13:00~ Sleator教授と面会・討論 てくれていた。 14:00~ Ed Clarke教授の研究室でセミナ講演 ありがたいことだが、 相当ハードな日程だった。 15:00~ Sutner教授と面会・討論 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 6 Bryant教授とBDD 離散構造の最も基本的なモデルで ある「論理関数」の処理技法 a 1 簡約化 (圧縮) 0 0 c 1 0 b a 0 1986年に画期的なBDD演算 アルゴリズムを提案。以後急速 にBDD技術が発達。 (長期間、情報科学の全分野 Bryant (CMU) での最多引用文献となった) 1 b b 1 c c 0 1 (BDD) 1 0 1 0 1 BDD BDD c c 0 1 1 (場合分け二分木) ・ 場合分け二分木グラフを簡約化(データ圧縮) ・ 多くの実用的な論理データをコンパクトかつ 一意に表現。(数十~数百倍以上の圧縮率が 得られる例も) BDD BDD AND BDD BDD BDD同士の論理演算 (圧縮データ量にほぼ 比例する計算時間) 近年のPC主記憶の大規模化により、 BDDの適用範囲が拡大 (特に2000年以降) 7 湊とBryant教授との関係 初めて会ったのは21年前 湊が初めて国際会議(DAC’90)で発表したとき、 Bryant先生が座長だった。 たぶん湊より10歳くらい年上 湊がBDDに関する成果をまとめた 単行本を出版したとき、Bryant先生に 前書きを寄稿していただいた。 S. Minato: “Binary Decision Diagrams and Applications for VLSI CAD” (Kluwer, 1996). 今回会うのは14年ぶり 1997年に湊がCMUを訪問して 特別講義をしたとき以来 8 Bryant教授との面会 会うのは14年ぶりだったが、 全くそんな感じがしなかった。 Knuth先生の話で盛り上がる 湊が、最新のπDD と SeqBDD を紹介 Knuth本のBDDのSectionの お手伝いをされた。 Bryant先生も、Knuth先生の仕事ぶりのすごさにはお手上げ 2人でKnuth本を見ながら重要事項を確認。 非常に興味を持たれていた。 Bryant先生はCMUのCS研究科長(7年目) 5年任期の2期目。多忙なため担当学生は1~2名 講義は持っている。4色問題やTSPを解く学生向けデモプログラム πDDをそういう有名問題に応用できないかと。(数独とか) July 1, 2011 Shin-ichi Minato 9 Ed Clarke教授との面会 2007年チューリング賞受賞者 直接お会いするのは初めて Symbolic Model Checking の考案者 BDDを導入してVLSI検証を実用化 最近はBDD以外にSATやSMTも利用 私がZDDを考案したことはご存知で、ZDDにも興味 湊が、SAT2011発表内容(πDD)を研究室でセミナ講演 ZDDのアイデアから順に説明。よく理解されていた。 πDDの乗算を不動点に達するまで繰り返す手法は、Symbolic Model Checkingの計算法と似ているので、非常に興味を持たれた。 博士学生にルービックキューブを課題として与えたこともあったそう で、πDDでの解法に感銘を受けた様子。 Model Checkingの高速化(対称性の除去)にπDDが使えるかも、 とのコメント。関係しそうな論文を渡してくれた。 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 10 その他の教授 (1) Daniel Sleator教授 オンラインアルゴリズム(競合比解析)、探索アルゴリズムが専門。 ゲーム・パズルにも興味。 πDDでルービックキューブを解く話をしたら、とても面白がって、 戸棚からルービックキューブとか様々なパズルが出てきた。 帰って来てから川原さんに聞いたら、オンラインアルゴリズムの大御 所・創始者の1人だったそうで、そうとは知らずに失礼しました。 Klaus Sutner教授 オートマトン解析、群論、計算量、グラフアルゴリズムおよび基盤ソフ トウェアに興味。πDDとSeqBDDに非常に興味。 昨年、KnuthがCMUに来たときに、自分が考えていた未解決問題を 話したら、1週間後に解けたという手紙が届いたという。現在その話を 論文にまとめているところ。 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 11 その他の教授(2) Shawn Blanton教授 Diana Marculescu教授 VLSIの低消費電力設計が専門。 BDD/ZDDは昔から知っていたが、最近、データマイニングや機械 学習の分野でも応用が広がってると聞いて興味を持っていた。 Frank Pfenning教授 VLSIのテスト生成が専門。 シミュレーション結果を解析して故障診断する手法を研究しており、 LCM over ZDDs の話には興味を持っていた。 論理プログラミング、型理論が専門。ソフトウェアの検証に興味。 第5世代プロジェクトのことを良く知っていた。 Lehman教授 副研究科長。主に産官学連携担当。オバマ訪問の背景を解説して くれた。 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 12 Theory専攻の教授昼食会にゲスト参加・歓談 Theory専攻の教員は週1回の ランチミーティングで自由に雑談 ホワイトボードに 名前を書いて自己紹介 10数人が参加。ピザ・パスタ・サラダ・ 飲み物が置いてあって、自由に取って 食べる。(余った料理は学生に) この専攻に限らず、CMUは教員同士が 非常に親しく楽しそうなのが印象的 日本の大学の教授会は もっとお堅い雰囲気だが… この日の主な話題は オバマCMU来訪の理由 日本の大震災の様子は? 日本の留学生が最近少ないのは なぜ? July 1, 2011 Shin-ichi Minato 13 オバマ大統領のCMU来訪 米国の新しい科学技術プロジェクトを発表(総額600M$) CMUで演説したが、全米のトップ大学に共通のプロジェクト ロボティクスやAIで新規産業を起こし、雇用を創出。 MITの総長も臨席 Stanford, UCB, MIT, U-Michigan, GeorgiaTech 等を列挙 なぜCMUで発表したのか CMU発のロボティクス分野のスタートアップ企業の実績 ピッツバーグという街の象徴的な歴史(鉄鋼業が寂れた後、ハイ テク産業で復興、実業中心でリーマンショックのダメージ少ない) ペンシルベニア州の地政学的重要性(民主党vs共和党) ワシントンDCから半日往復圏 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 14 SAT2011参加報告 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 15 SAT2011の概要 開催日程:2011年6月19日(日)~22日(水) 14回目の開催 開催地:Univ. of Michigan (ミシガン大学) SAT(充足可能性判定問題)およびその発展形 (SMT, CSP, QBF, etc.)の理論と応用に関する 国際会議 Conference Chair: Karem Sakallah (ミシガン大) Laurent Simon (パリ南大) 参加者数 約70人 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 16 πDDの発表 初日のセッション SATの会議で、BDDのセッションが1つできた。 「この論文はSATの論文ではなかったけど、とにかく面白かった から通った」と、Conference Chairが言っていた。 順列空間における制約充足問題という位置づけで、比較的 興味は持ってもらえた。 Symbolic Model Checking の Image computation との 類似性についての質問あり Symbolic Model Checking がBDDからSATに変わって、 Boundary Model Checking となった経緯があるので、 順列を扱うBDDから、順列を扱うSATに発展する可能性はある。 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 17 発表論文の傾向 大きく分類すると 理論の論文が意外と多い ただし、さほど面白くない物も混じっており、不満を持つ人も。 SATソルバの実装の話はレベルは高いが数は少ない SATエンジンの中味の実装の話 SATの具体的問題への活用法の話 SATに関する計算量理論の話 簡単には性能向上できなくなっているので、通りにくい 活用手法(変数割り当て, 並列化)は非常に少ない印象 本セッションには落ちて、ポスター発表や併設ワークショップに 回っているものも多い。(PCメンバの趣味?) 特定の応用分野の会議に行かないと通りにくいかも July 1, 2011 Shin-ichi Minato 18 Best Paper PCによる査読で3件の候補をノミネート。 学会参加者全員の投票で1件を選出。 理論が2件、実装が1件 実装の論文が選ばれた “On Freezing and Reactivating Learnt Clauses” G. Audemard, J. Lagniez, B. Mazure and L. Sais (Universite Lille-Nord de France) SATソルバの高速化技術 探索中に値を代入する候補となる項が多数発生するが、どの項 を優先して処理するかを動的に制御する技法を提案 実験結果により有効性を示した。 (ものすごく画期的というほどではない) July 1, 2011 Shin-ichi Minato 19 個人的に興味を持った論文 “BDDs for Pseudo-Boolean Constraints – Revisited” I. Abio, R. Nieuwenhuis, A. Oliveras and R.-C. Enric (Tech Univ. of Catalonia, Barcelona) 主結果:「線形不等式の論理式を表すBDDのサイズは、 NP ≠ co-NP であるとすれば、どんな変数順序でも指数サイズに なってしまうような係数の組合せが必ず存在する。」 (線形不等式の例) 3x1 + 5x2 + 7x3 < 6 ただし、指数サイズになる組合せの存在を示しているだけで、 指数サイズになる事例を作る構成的な方法は示していない。 (NP ≠ co-NP ならば P ≠ NP が導けるので、たぶん簡単な話で はなさそう) 係数の総和が小さければ、BDDサイズが小さくなることはKnuth 本で示されている。w1x1 + w2x2 + w3x3+ … < t のとき O((∑w)2) July 1, 2011 Shin-ichi Minato 20 SAT Competition 毎年開催されているSATソルバの性能コンテスト 首位はppfolioが断トツ いくつもの部門に分かれて競争 Main track - SAT, UNSAT, SAT+UNSAT Minisat hack track, 32core track etc. 各部門で順位をつけて、総合点で金銀銅のメダルを授与 ポートフォリオ型(いろんな手法を組み合わせるタイプ) 手法選択の戦略を機械学習するのがウリ SATソルバ内部に興味を持つ技術者は少々シラケ気味 日本勢も健闘 鍋島先生(山梨大)のGlueMiniSatが複数部門で優勝・入賞 産業応用カテゴリで単一CPUのUNSAT部門で優勝、総合部門(SAT +UNSAT部門)で2位,単一・複数CPU 全体クラスのUNSAT部門で2位 元々UNSATに特化したツールだが、SATでも意外に強さを発揮 Minisat hack部門で東大稲葉研の学生の園部君が優勝 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 21 日本からの参加者と活動状況 今回、本セッションでのacceptは湊だけ 番原先生(神戸大)と学生の丹生さん ポスターでaccept、併設ワークショップで発表 (SATの変数符号化法の研究) 田村先生(神戸大)代表のSATプロジェクト(基盤A)の中心メンバ。 他に井上克己先生(NII)、岩沼先生、鍋島先生(山梨大)、長谷川 先生、横尾先生(九大)。 日本でほぼ唯一のSATソルバ研究グループ(ただし、始めたのは 割と遅くて2004年頃。元々はSATよりもCSPに興味) 稲葉真理先生(東大)と学生の園部さん、長井先生(群馬大) 併設ワークショップで発表。学生さんがCompetitionで入賞 今井浩先生の研究室出身のグループ July 1, 2011 Shin-ichi Minato 22 その他のSAT関係者との情報交換 Armin Biere (オーストリア・ケプラー大) Laurent Simon(パリ南大) Conf. Co-chair。昔、SATソルバにZDDを使う論文を書いている。 2年前、私がパリ南大に約1カ月滞在していたが、互いに知らなかった。 Karem Sakallah(ミシガン大) Symbolic Model Checking にSATを導入してBoundary Model Checking とし て実用化したことで知られる。現在もSAT分野のリーダ的存在。昔、湊のBDDの 本を読んだと言っていた。 Conf. Chair。元はVLSI CAD出身で湊とは知人。πDDに興味。SATの変数対称 性除去の論文を昨年発表していて、関係ありそうなので詳しく説明してくれた。 Igor Markov(ミシガン大) PCメンバ。湊の知人で北大にも来たことがある。VLSI回路設計の最適化に BDDやSATを利用。量子回路の設計でも実績。πDDでreversible logicの列挙を 行う方法に非常に興味。30代でミシガン大のテニュア教授獲得。 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 23 SAT Conferenceの問題点 PC関係者の論文採択率が他者に比べ大幅に高かった 米国開催なのに欧州からの発表・参加が過半数 日本から少し。中国・インドからゼロ。(MITの中国人留学生1人) 実用的な研究は他の応用分野の学会に流出していると思われる。 欧州の理論研究者の割合が相対的に増加。高齢化。 SAT competitionを続ける意義があるか議論されていた おそらく投稿数が少なくて、直前にPCに投稿依頼をかけた(と思わ れる)ことが影響している。(湊の論文IDは締切3日前で8番) 強い新規参入者が少なくなっている。(または技術が深化して、 新規参入者が簡単に成果を出せなくなっている) 今後も続けるが、公平な評価方法と例題設定には不満も SAT技法は2000年頃に急激に発展したが、今は停滞気味 理論と応用の中間層の実装技術(Art)で、研究コミュニティを保つ 構造的な難しさ。(圧倒的な結果が出続けないと維持できない) July 1, 2011 Shin-ichi Minato 24 その他の話題 ミシガン大はキャンパスが巨大 最寄りホテルから会場まで約3キロ。学内巡回バスから外れていて、 交通機関なし(徒歩かタクシー) 3日目の午後はバスツアーでデトロイト市内へ フォードの工場見学(フォードの歴史と最新の製造技術) フォード博物館 (歴代大統領の公用車、蒸気機関車、飛行機) (リンカーン奴隷解放に関する記念展示中で大混雑) GM本社前の河畔公園で記念撮影(対岸はカナダ) アラブ系アメリカ人記念館でアラブ料理の夕食会 その日の夕方から夜にかけて荒れ模様の天気。 (トルネード警報発令。TVは夜通し速報。シカゴ空港閉鎖で混乱) July 1, 2011 Shin-ichi Minato 25 その他の写真 July 1, 2011 Shin-ichi Minato 26