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21 世紀型能力の育成をめざした授業づくり 大阪市教育センター
研究紀要
第211号
21 世紀型能力の育成をめざした授業づくり
平成28年(2016年)3月
大阪市教育センター
研究紀要
第211号
21 世紀型能力の育成をめざした授業づくり
本研究では,まず,21 世紀型能力の育成のために,先行研究から教育
現場における協調学習の実態と協調学習が可能になる条件を明らかにし
た。次に,先行研究から得られた知見を基に授業改善の視点を具体化し,
教科の特性に応じて 21 世紀型能力の育成をめざした学習を構想し,授業
を通してその有効性を検証した。
授業実践の結果,授業の課題設定や教師のコミュニケーション介入を工
夫することで,児童生徒の思考が深まり,考える必然性が生み出されるこ
とが明らかとなった。その結果として児童生徒が主体的・協調的に学習に
取り組むようになり,21 世紀型能力を育成することができた。
【キーワード】21 世紀型能力
協調学習
授業改善
課題設定
コミュニケーション介入
教育振興担当
國光
妙子
工藤
健司
米田
典生
目 次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅰ
21 世紀型能力の育成につながる課題設定の工夫のために・・・・1
1 課題設定における先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2 「パフォーマンス」に着目した「課題」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
3 21 世紀型能力の育成につながる「活動」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
Ⅱ
知の創造につながる協調学習を促進する
教師のコミュニケーション介入の提案・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1 「対話」に着目した先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2 協調学習を促進させるための教師の介入の在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
Ⅲ
小学校算数科における「協調的問題解決」
-「三角形の角」
(小学校第5学年)の授業実践から-・・・・・・・8
1 21 世紀型能力を育成するための授業づくりのポイント・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
2 授業計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
3 ポイントとなる授業の実際・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
Ⅳ
小学校理科における子ども主体の問題解決をめざした授業づくり
-「ものの温度と体積」
(小学校第4学年)の学習- ・・・・・・・・20
1 理科における問題解決能力の育成と問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
2 授業計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
3
ポイントとなる授業の実際・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
Ⅴ
中学校理科における 21 世紀型能力の育成をめざした授業づくり
-「電流の性質」
(中学校第2学年)の学習-・・・・・・・・・・・・・32
1 21 世紀型能力を育成するための授業づくりのポイント・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
2 授業計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
3 ポイントとなる授業の実際・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
Ⅵ
研究のまとめと今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
21 世紀型能力の育成をめざした授業づくり
はじめに
なぜなら,協調学習をめざして形式的にペア
学習,班活動やジグゾー法を取り入れても,単
21 世紀型能力(図11)参照)の育成をめざす
に取り入れるだけでは,知の創造が起こらない
授業に必要なキーワードは,協調による知の創
場合があるからである。そしてそれはまた授業
造である。
実践現場で頻繁に起こる課題の1つでもある。
三宅は,協調的な学びが可能になる条件を以
下のように整理している 5)。
未来を創る(実践力)
・自律的活動
・関係形成
・持続可能な社会づくり
1.共通して「答えを出したい問い」がある
2.各自少しずつ違う問いへの「答え」が出し
深く考える(思考力)
・問題解決・発見
・論理的・批判的・創造的思考
・メタ認知・学び方の学び
やすく,また「みんなの考えが違う」こと
が見えやすい
道具や身体を使う
(基礎力)
3.一人一人のアイデアを交換し合う場がある
4.多様なアイデアをまとめ上げると段々答え
・言語
・数量
・情報
に近づく期待が持てる
5.一人一人自分にとって最初考えていたもの
図1:21 世紀に求められる資質・能力の構造一例
より確かだと感じられる答えを再度作る機
2015 年
国立教育政策研究所
会がある
それは昨年度の大阪市教育センター紀要 2)に
6.みんなの答えを発表し合って検討する場と,
おいて,
「知識基盤社会化やグローバル化が進展
そこで得られた「自分なりに納得できる」
していく中で,情報を取り入れ,吟味し,それ
答えを再度まとめる機会がある
を活用しながら問題解決していくだけではなく,
7.納得した先に見える
「もっと知りたいこと」
他者と協働して新しい情報を創造し発信できる
を確かめる機会がある
能力の育成が求められる 3)」と今後の教育界の
動向を端的に説明していることからも明らかで
これら条件をふまえた学習活動を三宅は「問
ある。
いと答えの間が長い学習活動」と呼んでいる。
問題は,教育現場での実現可能性である。実
本研究では,三宅の授業改善の視点を,課題
現のために,環境を整えたり(例えば大阪市の
設定と教師のコミュニケーション介入に具体化
昨年度の研究ではICT機器の整備とその活用
し,その効果の検証を行うことを目的とする。
の意義を主張している),
教授活動を改善したり
(例えば,CoREF では協調学習を実現するため
Ⅰ
にジグゾー法を提案 4)している)することが必
21 世紀型能力の育成につながる課題設定
の工夫のために
要である。
今年度研究では,昨年度研究の成果を踏まえ
三宅の提案する授業改善の視点は,思考過程
つつ,知の創造を可能とする協調学習の条件に
の質を向上するための提案である。思考の結果
着目した。
ではなく,思考の過程に注目した先行研究に,
1
(2007)7)や,横浜国立大学教育人間科学部付属
パフォーマンス評価の研究がある。
横浜中学校(2010)8)でも,既に実践的に研
まずは,
パフォーマンス評価について要約し,
本研究の課題設定の工夫とパフォーマンス課題
究が進んでいる。これらが一定の成果を挙げて
との共通点と相違点を明らかにする。
いることは事実であるが,実際の現場で多く広
まっているとは言えない。
1
課題設定における先行研究
パフォーマンス評価の先行研究として JELS
のパフォーマンス課題がある。1例として,小
学校6年生の算数の問題があげられている 6)。
例Ⅰ-1 JELS によるパフォーマンス課題
(右:パフォーマンス課題参照)
(小学校第6学年)
これは 20 分間で1問の自由記述式の問題を
パフォーマンス課題(JELS:小6)
解くものだが,その課題の用件として,以下の
子ども会でハイキングに行ったところ,ある
4つが特徴として挙げられている。
地点でコースが二手に分かれていました。さつ
きコースが全長3㎞で,けやきコースは全長5
a. 思考のプロセスを表現することを要求して
㎞です。どちらのコースをとってもレストハウ
いる
スに行けます。そこで2つのグループに分かれ
b. 多様な表現方法が使える
て,レストハウスで合流することにしました。
c. 真実味のある現実世界の場面を扱っていて,
ゆう子さんのグループは,さつきコースにしま
そこから数学化するプロセスを含んでいる
した。あきお君のグループはけやきコースにし
d. 複数の解法がとれる
ました。
10 時に二手に分かれて,ゆう子さんのグルー
この課題によって,従来「見えにくい」とさ
プがレストハウスについたのは,11 時でした。
れた思考力・表現力を,ルーブリックを使って
その時,あきお君のグループはまだ到着してい
解釈,評価し,個々の子どもの多様な学力の質
ませんでした。
「距離が長いから当然だよね。あ
を把握しようと試みられたものである。
きお君たちが着くまでどれくらいの時間がかか
このような「パフォーマンス評価」がなされ
るのかはかってみよう。
」ということで,時間を
てきた背景には,2003 年 OECD による PISA 実施
はかっていたら,30 分後にあきお君のグループ
以降,2007 年全国学力テスト(
「全国学力・学習
がレストハウスに到着しました。ゆう子さんは
状況調査」
)の実施に伴い,
「PISA 型学力」と言
あきお君に「どこかで休憩していたの?」と聞
われる自分の考えを相手(不特定の誰か)に伝
きました。あきお君は「休憩なんかしてないよ。
える力が測られるようになったことが挙げられ
ずっと歩いていたんだよ。
」と答えました。どち
る。
らのグループも休憩したりせず,一定の速さで
これは,従来の正誤問題・多肢選択問題・短
歩いていました。
答問題にとどまらず,課題解決的な思考や表現
そこで,みんなはどちらのグループのほうが
を評価しようとするものであった。
速く歩いたのか知りたくなりました。あなたは,
また,このようなパフォーマンス評価は,学
どちらが速く歩いたと思いますか。考えたこと
校の中でこそ行われるべきものという主張もあ
とその理由を書いてください。
る。これを受けて,東京都目黒区菅刈小学校
2
それは松下(2007)がこのパフォーマンス評
という点に特に着目する。
(例えば
「〇〇化する」
価について,
を数学化するプロセスと捉えた場合,数学的見
方や考え方を働かせることである。
その条件は,
① 多くの時間と労力を要する
数,図,式,言語を使って,簡潔明瞭に規則性
② 課題数が制限される
を捉えることである。よって,〇〇化するプロ
③ 客観テストに比べると「信頼性」が低い
セスに着目するということは,結果的に他の3
④ ルーブリック作りが難しい
つの特徴(a,b,d)をも自ずと含むものと
⑤ 言語による場面設定にはいくつかの問題が
なる。
)
ある
〇〇化するプロセスを子どもたちの「活動」
として捉えると,その「活動」こそ,授業中に
と課題を挙げている 9)ように,実現可能性が低
見られる個々の学びが表出する場面となり得る。
いためだと考える。
美馬(2005)は,
「活動」を,学習に直結する
核になる概念であり,未来(21 世紀型)の学び
2
「パフォーマンス」に着目した「課題」
のためには最初に学習が生起する可能性が高い
先行研究から,学校や教師が,学習指導や学
濃密な「活動」のアイデアを考えることが重要
だ 11)と指摘している。
習活動に生かすために子どもたちの学力の状態
を把握することを目的とした「パフォーマンス
つまり,
「活動」
そのものの質を考えることが,
評価」のめざす意義は大きいことは明らかであ
適切な課題設定につながっていくということで
る。それは,
「パフォーマンス評価」が結果では
ある。
なく,学習のプロセスの評価の方法論を問題と
このように,授業中の子どもたちの「活動」
しているからである。
の質を考えることは,
「どのような思考をするだ
しかし,前述のように5つの課題が提示され
ろうか」
「多様な活動が見られるだろうか」など
ているように,日々の授業の中で日常的に行う
というパフォーマンス評価の視点をもつことに
ことは容易ではない。
つながっていくと考える。また,そのことが結
そこで本研究では,
「パフォーマンス評価」の
果的に「その課題が適切であるかどうか」を見
うち,
「パフォーマンス(活動)
」の部分にまず
直すことになると考える。
は着目してみたい。松下(2007)が「パフォー
マンス課題は,評価したいと思う学力ができる
3 21 世紀型能力の育成につながる「活動」
だけ直接的にパフォーマンスとして表れるもの
では,
「活動」の質の向上をめざすためには,
10)
にする必要がある
」と述べているように,
どのような視点を持てば,よいのだろうか。美
日々の授業の中で,見とることができる子ども
馬は「活動」について,
の姿(パフォーマンス)を想定し,課題設定を
工夫していくことは,実現可能性が高いと考え
1
活動の目標が明快であること
るからである。
2
活動そのものにおもしろさがあること
3
葛藤の要素が含まれていること
そのために,パフォーマンス課題の用件を含
む前述した課題の用件の特徴4つ(a~d)のう
12)
ち,
「c.真実味のある現実世界の場面を扱ってい
の3点に気をつけることが必要だ
て,
そこから〇〇化するプロセスを含んでいる」
ている。
3
とも述べ
1については,西岡(2010)も「何のために
よって,めざすべき「おもしろさ」とは,子
行う活動なのか,何ができるようになってほし
どもたちの学習意欲を喚起するだけでなく,多
いのか」というゴールを明らかにすることで,
様な考えが表出し,だからこそ,共に学び合う
13)
活動の方向が定まる
と述べているように「明
必要性のある「活動」を通して,より深く教科
快さ」は,活動の方向性の指針となる。ここで
の本質に出会うことができるものでなければな
の指針とは,思考力,判断力,表現力の育成を
らない。
めざすということである。
さらに3の葛藤の要素を含んでいることは,
また,2については,活動の中に埋め込まれ
それまでの自分の思考の枠組みを超えて考えな
た課題そのものがもつ教科の本質に触れるよう
くてはいけないような「活動」となり得なけれ
なものを「おもしろさ」と捉える必要がある。
ばならないということである。
西岡(2010)は,パフォーマンス課題の設定
知識間のつながりや不調和に気付き,自分が
において『本質的な問い』14)を考える必要があ
知っていることを再構築したり,新しい領域横
ると述べている。この『本質的な問い』とは,
断的な考え方を生み出したりすることで,その
教科の中核部分に位置していて,また生活との
不調和を解決するような活動を行いたいと考え,
関連も見えてくるような問いのことである。こ
それを実行するようなものをこれからの知識構
の『本質的な問い』が含まれた「活動」を「お
築だと捉える 15)と三宅(2014)が述べているこ
もしろさ」として捉えなければ,単に「活動そ
とからも,個別の知識・技能の拡がり・高まり
のもの」が愉快なものであればよいということ
のために葛藤の要素を含む「活動」を工夫する
に陥ってしまう危惧が生じてしまう。
必要があると考える。
知識
〝何を知っているか”
伝統的
・数学
・言語
など
現代的
・ロボット工学
・起業精神
など
スキル
人間性
〝知っていることを
どう使うか”
21世紀 〝社会の中でどのように
の教育
関わっていくか”
創造的
批判的思考
コミュニケーション
協働性
思いやり
興味・関心
勇気
逆境を跳ね返す力
倫理観
リーダーシップ
メタ認知
〝どのように省察し
学ぶか”
個別の知識・技能
図Ⅰ―2
思考力・判断力・表現力等
主体性・多様性・協働性
学びに向かう力
人間性など
教育課程企画特別部会 論点整理(案)補足資料
2015 年 文部科学省
4
以上のことから,美馬の提案する視点で活動
内容を検討することは,上図Ⅰ-2で提案され
中での
「対話」
を促進させることが挙げられる。
以下,教師の役割について,考えていく。
ている 21 世紀型能力の育成との関連性がある
といえるであろう。
1 「対話」に着目した先行研究
また,このような「活動」が生起する学習場
理解を深めていく「対話」については,トラ
面は,三宅の述べる協調的な学びが可能になる
ンザクション対話分析がある。これは,異なる
条件を満たしている場となり得ると考える。
意見をもつ話者同士における専有の態度を詳細
に分類したものである。この分類での「対話」
Ⅱ
知の創造につながる協調学習を促進する
は「表象的」と「操作的」という二つのタイプ
教師のコミュニケーション介入の提案
に分けることができる。
既に先行研究から,
「対話」で操作的トランザ
「活動」の質の向上をめざして,課題設定を
行うことの意義は述べてきた。しかし,
「活動」
クションをより多く示した方が,課題解決にお
いて有意に働くことが明らかになっている。
を取り入れても,そこで生じる「対話」の質を
それは田島(2010)16)の分析によると,
「表象
向上させなければ,教科の本質に迫る「活動」
的」トランザクションでは,相手の意見を自分
へと至らない。
の意見として取り込むよりも,むしろ直接的な
よって,教師の重要な役割として,
「活動」の
表Ⅱ-1 トランザクション一覧
対立を避けるような発話を示し,相手の意見や
*田島(2010)がまとめたものをもとに小・中学校の実態に応じて改変したもの
表象的トランザクション
フィードバック要求 「分かる人?」「賛成の人?」
言い換え
「○○(相手の考えを言い換えた言葉)で,合ってるかな?」
正当化要求
「なぜ,そんなことを言うの?」
並置
「私は,A だけど,あなたは B ってことだね。
」
二者関係の言い換え 「これは,私とあなたの考えを言い換えたってことだね。
」
競争的並置
「あなたの考えも分かるけど,私の考えも正しいよ。
」
操作的トランザクション
明確化
「違うよ。私が言いたいことは,○○ってことだよ。
(伝えようとする姿)
」
競争的明確化
「私の考えは,あなたの考えとは,意味が違うね。
」
精密化
「もうちょっと詳しく言うと…(納得を促すか,批判にこたえる姿)
」
拡張
「あなたの考えをさらに発展したのが,私の考えだよ。
」
反駁
「あなたの考えは,筋がとおってないよ。
」
推論の批判
「あなたは,○○を見逃しているよ。
」
「あなたの考えには,根拠がないよ。
」
競争的拡張
「それは,ありえないよ。
」
「ちょっと極端すぎるよ。
」
共通意見・統合
「私とあなたの考えの共通点は,○○だよ。
」
対立する考察
比較批判
「あなたの考えとは別の考えがあるよ。
」
「私とあなたの考え方を比べて,不適切なところや,見逃している点を説明で
きるよ。」
「あなたの考えと私の考えが対立するものでないことを分析できるよ。
」
5
立場を確認したり,自分の意見との併存をはかっ
2 協調学習を促進させるための教師の介入の
たりするような種類の交渉発話によって構成さ
在り方
れていることが明らかになっている。
これまでに「活動」の質を向上させるよう課題
実際の授業場面でも「分かった?」
「同じ?」
「そ
を工夫すること,またそこで生じる「対話」の促
ういう考えもあるね。
」等,単に考えの確認で終わ
進を促す介入の仕方について述べてきた。
ってしまうと,それ以上の理解の深まりが見られ
これらを実現するためには,教師が子どもをど
ないことがある。それは「表象的」トランザクシ
ういう存在だとみなし,知識をどういうものだと
ョンであるということである。
考えるかによって,学びをどう援助するかが左右
一方,
「操作的」トランザクションでは,他者の
される。これを,ブルーナー(1996)17)は「フォ
対立を運用したり,変換したりすることで,自分
ークペタゴジー(教え方に関する直観的なモデ
自身の意見に積極的に取り込んでいくような交
ル)
」と呼び,分類を行った。
(下表参照)
渉発話によって構成されている。これにより,自
ブルーナーは,実際の学校教育は,学習者につ
らの解釈と対立する意見との交渉を行わざるを
いて1つのモデル,あるいは教授についての1つ
得ない発話となる。このことが,内的説得力の理
のモデルに決して限られるわけではないと述べ
解へと進化していくのである。
ている。だからこそ場面に応じ,適切なモデルで
実際の授業場面で
「A さんと B さんの考え方は,
「教育する」方法について,今改めて再考する必
反対だね。」
「この部分は同じだよね。」と他者の意
要があるのではないだろうか。
見を比較したり,「その理由は…。」「つまり…。」
三宅(2004)は,21 世紀型能力の育成をめざす
と意見を吟味・検討したりする場は,考えが練り
なら,モデル3,4あるいはさらに違うモデルに
上げられていく場面となる。
従った教育実践をもっともっと行い,対話によっ
そこで,本研究では,
「操作的」トランザクショ
て子どもが学ぶ実態を示し,メカニズムを解明す
ンを促進するような教師のコミュニケーション
ることが必要だ 18)とも述べている。本研究が,そ
介入をめざしていくこととする。そのために,下
の1つの教育実践になることをめざし,小学校・
記トランザクション一覧を参考としたい。
中学校での具体的授業実践例で以下検証してみ
たい。
モデル
子どもの見方
ペタゴジー(教え方)
育成できる能力
1
模倣的学習者
模倣によって学ばせる
スキル,才能
2
無知で無垢な存在
一方的な教え込み
新しい知識を獲得する能力
3
思考する人
討論と協働による理解の促
メタ認知能力
進
4
知識を備えた人
表Ⅱ-2
文化への参加を援助する
協調的メタ認知能力
4つのフォークペタゴジー(Bruner,1996 年より改変)
6
注)
北大路書房.2014,p.108.
田島充士.
「分かったつもり」のしくみを
探る バフチンおよびヴィゴツキー理論の観
点から.ナカニシヤ出版.2010,pp.62-66
1)
16)
国立教育政策研究所.資質能力を育成す
る教育課程の在り方に関する研究報告書Ⅰ.
2015,p.ⅷ.
2)
谷村載美,古閑龍太郎,藤田麻衣子,山
内隆史.21 世紀に求められる資質・能力を
育成する授業デザインに関する研究(Ⅱ)-
ICT を活用して授業と家庭学習とを関連させ
た協働学習の内容・方法-.大阪市教育セン
ター研究紀要第 208 号.2015,p.1.
http://www.ocec.jp/center/index.cfm/31,1
3676,30,html/20150326-175213.pdf
3)
谷村載美,古閑龍太郎,藤田麻衣子,山
内隆史.21 世紀に求められる資質・能力を
育成する授業デザインに関する研究-ICT を
活用した協働学習の内容・方法-.大阪市教
育センター研究紀要第 205 号.2014,p.5.
http://www.ocec.jp/center/index.cfm/31,1
3676,30,html /20140411-095945.pdf におい
て,協働学習は学習科学という研究領域では
「協調学習」と呼ばれていることや協同学習
との違いについて詳しく述べている。本研究
では,個人の理解やそのプロセスを他人と協
調的に比較,吟味,修正する過程を重視する
ことを目的とするため,以後「協調学習」と
いう言葉を使っていくこととする。
4)
大学発教育支援コンソーシアム推進機構
(CoREF).協調学習 授業デザインハンドブ
ック-知識構成型ジグソー法を用いた授業づ
くり-.2015
5)
三宅芳雄,三宅なほみ.教育心理学特論
“学習への動機づけ”.2012,pp.172-186.
6)
松下佳代.パフォーマンス評価-子ども
の思考と表現を評価する-.日本標準ブック
レット No7. 2007.
7)
前掲書.2007.
17)
J.S.ブルーナー(岡本夏木・池上貴美子・
岡村佳子訳).教育という文化.岩波書店.2004,
pp.71-84
18)
前掲書.2014,p.213.
8)
三藤あさみ・西岡加名恵. パフォーマンス
評価にどう取り組むか-中学校社会科のカリ
キュラムと授業づくり-.
日本標準ブック
レット No11. 2010.
9)
前掲書,2007.pp.47-54
前掲書,2007.p.11
11)
美馬のゆり・山内祐平.
「未来の学び」を
デザインする.東京大学出版会.2005,
pp.195-196
12)
前掲書,2005.pp.196-197
13)
前掲書.2010.p.15
14)
前掲書.2010.
15)
P.グリフィン・B.マクゴー・E.ケア(三
宅なほみ監訳 益川弘如・望月俊男編訳.21
世紀型スキル 学びと評価の新たなかたち.
10)
7
Ⅲ
小学校算数科における「協調的問題解決」
-「三角形の角」(小学校第5学年)の授業実践から-
1
願っている答えだけを探してしまったり,また
子どもたちも,そのような指導者の意図を察し
21 世紀型能力を育成するための授業づく
算数科では,伝統的に問題解決学習を重視し
て,求められる答えは何かを考えてしまったり
りのポイント
てきた教科である。片桐(1988)1)は,その
という相互作用的な授業がつくられていること
著書の中で「自分で問題を見出し,それを解決
も珍しくない。
する。これを続けていくことは数学を発展させ
このように,問題解決が形式化している要因
る研究態度であるが,この態度を教育の面に活
は,学習内容と子どもの能力の不一致だけでは
なく,創造力を養うのに役立つのではなかろう
指導者の指導観や,探究を促進しない学級文化
用できるならば,数学の理解を助けるばかりで
なく,問題を「解く」プロセスのみに着目する
か。
」と正田建次郎(1978)2)の言葉を引用し
の影響が大きいということが一因として考えら
ながらまとめている。この考えは,現在でも踏
れる。
襲され,現行学習指導要領においても問題解決
これらの課題に対して,改善の指針をしめす
能力の育成がめざされている。
ために,本研究では「協調的問題解決」に着目
また,21 世紀に求められる資質・能力の一つ
する。
の「思考力」に「問題解決・発見」とあるよう
そのための分析の視点として,三宅(2012)
に,知識基盤社会化,グローバル化が進んでい
の述べる協調学習の条件 6)と,田島(2010)の
く中で,必要な情報を取り入れ,吟味し,活用
トランザクション分析7)を用いることとする。
しながら解決していく力は,今後もより一層求
められていくであろう。
しかしながら,問題解決学習が指導法として
2 授業計画
例えば,古藤・新潟算数教育研究会(1998)
対象に,平成 27 年 11 月に実施した。
形式化している現状は否めない。
授業は,大阪市小学校教育研究会算数部の協
力を得て,大阪市立 A 小学校第5学年 37 人を
や佐藤(2006)4)白水(2008)5)は解法の
3)
検討が指導者と一部の子どもに偏っていたり,
(1) 子どもの実態
いたりということを指摘している。これは,解
を「好き」
「どちらかといえば好き」と答えてい
てきたということが要因として考えられる。
くが,
「問題が解けたとき」
「答えが正解だった
まとめる段階で規範的解法を確認して終わって
事前の意識調査の結果を見ると,算数の学習
を「吟味する」プロセスを無視もしくは軽視し
る子は,37 人中 30 人であった。この 30 人の多
問題解決学習を重視している算数科において
とき」に算数の学習が楽しいと答えていた。
上記のような課題が残っているのは問題を「解
一方,
「どちらかというと嫌い」
「嫌い」と答
く」プロセスを強調してしまう風潮が依然とし
えた7人が,楽しいと思うときは,
「問題が解け
容が系統的であること,また,その 1 時間で,
算問題がどんどん解けたとき(1人)
」
「見通し
めである。その結果,指導者が出してほしいと
はり問題が解けたときに楽しさを感じる子が多
て根強いからだと考える。それは,算数科の内
たとき(2人)
」
「問題が簡単なとき(1人)
」
「計
「教えたい」という思いが指導者に強くあるた
が書けたとき(1人)
」という結果となった。や
8
かった。しかし,2人の子が「楽しいときは,
特にない。
」と答えていた。
と感じられるような教育を積み重ねることが
また,
「算数が楽しくない。」と思うときは,
21 世紀型能力の教育である,ということとも通
「問題が多いとき」
「問題が難しいとき(解けな
じると考える。
いとき)
」という返答が最も多かった。
よって本研究では,
学習プロセスに対して
「で
今回の事前調査から,子どもたちが楽しさを
きた」
「分かった」と感じさせる場面を設定して
感じるかどうかの要因として,算数の「好き」
いくことした。
「嫌い」に関わらず,問題が解けるか解けない
具体的には毎時間の授業の後に「分かったこ
かという点が関与していることが分かった。
と(分からなかったこと)
」を各自でまとめさせ
る時間を設けた。45 分の授業を通して,考えが
(2) 単元設定の意図
変容したところ,納得したところ,新たに疑問
「できた」
「分かった」という思いが,学ぶ楽
が生じたところなどをノートに書かせることで,
しさにつながっていくことは,上記アンケート
自分の考えを再構成する場とすることをねらい
からも明らかだが,その「できた」
「分かった」
とした。
という思いを問題解決のプロセスの中において
また,自分がどう考えたのかを,視覚化でき
も大切にしたい。それは,これから求められる
るような活動を取り入れることで,他者にも考
「学ぶ力」とは,テストの得点を上げることで
えが伝わりやすいこと,また他者の考えも見と
はなく,自分の考えをつくり変える学びに従事
りやすいこと,そこから相互交渉を起こさせる
できることであるからである。このことは白水
ことをめざした。
(2014)8)の主張する,子どもが授業の最初に
それらの具体的な場面については,以下,具
比べて最後に
『自分の考えが変わった,学んだ』
体的な授業場面の様子で述べていくこととする。
(3) 単元の目標
関心・意欲・態度
数学的な考え方
技能
知識・理解
〇筋道立てて考えることの
〇三角形の内角の和が
〇三角形や四角形の内角の
〇三角形の内角の和が
よさを認め,三角形の内
180°になることを,実際
和を用いて,未知の角度
180°であることや,四角
角の和が 180°であるこ
に三角形を作り,並べる
を計算で求めることがで
形の内角の和は三角形に
とをもとに,四角形や他
活動を通して,帰納的に
きる。
分けることによって求め
の図形の性質を調べよう
考えることができる。
とする。
られることを理解する。
〇三角形の内角の和が
180°になることを用い
て,四角形や多角形の内
角の和について,演繹的
に考え,まとめることが
できる。
9
(4)単元の評価規準
算数への
数量や図形についての
数量や図形についての
技能
知識・理解
〇三角形や四角形の内角の
和を用いて,未知の角度
を計算で求めることがで
きる。
〇角の大きさに着目して,
三角形をしきつめたり,
角の大きさと辺の長さに
着目して,四角形をしき
つめたりすることができ
る。
〇三角形の三つの角の大き
さが 180°になることや,
四角形の4つの角の大き
さの和が 360°になるこ
とを理解している。
〇四角形の4つの角の大き
さの和や多角形の和は,
三角形の三つの角の大き
さの和を基にすれば求め
られることを理解してい
る。
数学的な考え方
関心・意欲・態度
〇様々な活動において,自
ら問いをもつことができ
る。
〇多様な三角形や四角形を
作り,主体的に確かめよ
うとしている。
〇三角形や四角形の角の大
きさの和について,筋道
立てて考えようとしてい
る。
〇三角形の三つの角の大き
さの和が 180°であるこ
とを帰納的に見いだし,
その理由について考えて
いる。
〇四角形の4つの角の大き
さの和が 360°になるこ
とを,三角形の三つの角
の大きさの和が 180°で
あることを基に,演繹的
に考えている。
〇角の大きさを求めるとき
に,簡潔な方法はどれか
を考えている。
(5)指導計画
時間
子どもの学習活動
指導者の指導・介入
1
〇合同な直角三角形,正三角形を
つなげると,テープのように並
べることができるかどうかを考
え確認する。
〇どんな三角形でも,テープのよ
うに並べることができるのかと
いう本時の課題をつかむ。
・意図的に特殊から一般へという
流れをつくることで,「できそ
う」
「できないかも」という葛藤
を生じさせるようにする。
・
「どんな三角形でも」という部分
を強調することで,多様な三角
形を作ってみようという意欲を
引きだすようにする。
・書画カメラを使ってそれぞれの
三角形を電子黒板に提示する。
その際,まずは,多くの子ども
たちが考えた三角形,次に個性
的な三角形,というように提示
する順番を工夫することで,驚
きや問題意識を高めるようにす
る。
・個々の考え・気付きを自由にま
とめるように声かけする。
〇それぞれが作った三角形を交流
する。
2
〇発表した三角形を基に帰納的に
「どんな三角形でもテープのよ
うに並べることができる」とい
うことをまとめる。
〇前時の学習を振り返ることで, ・辺の長さ,角の大きさに着目し
「なぜ,どんな三角形でもテー
ている声を取り上げ,板書で色
プのように並べることができた
分けしたり強調したりして考え
のか」という本時の課題をつか
る視点を与えるようにする。
む。
〇一つの三角形を例として,実際 ・再度並べる活動を行うことで,
に並べる活動を通して,考える。
前時に行った活動を振り返りな
がら,
「なぜ,テープのようにな
ったのだろう?」という問題意
識を想起できるようにする。
〇考えを交流する。
・違う並べ方をしているものを取
り上げ,交流することで,どち
らの場合も,三つの角が合わさ
ったところは 180°になってい
ることに気付くことができるよ
うにする。
10
評価の観点
◎多様な三角形や四角形を作り,
主体的に確 かめようとしてい
る。
(関・意・態)
◎「なぜどんな三角形でもテープ
のように並べることができるの
か」という問いをもつことがで
きる。
(関・意・態)
◎三角形の三つの角の大きさの和
が 180°であることを帰納的に
見いだしている。
(考)
〇三つの角が合わさった点に着目
することで,180°になっている
ことをまとめる。
3
〇三角形の三つの角の大きさを工
夫して求めるという本時の課題
をつかむ。
〇一般三角形,二等辺三角形,直
角三角形,正三角形の角の大き
さを考える。
〇適用問題に取り組む。
・前時に作った三角形も見比べ,
どんな三角形でもテープのよう
に並べられる理由について,自
分なりにまとめるようできるよ
うにする。
・身の回りで三角形が一直線に並
んでいる写真を提示し,三角形
の三つの角の和が 180°である
ことが実際の生活の場面で利用
されていることを知らせる。
・前時の学習を振り返り,三角形
の三つの角の和は 180°である
ことをおさせておくようにす
る。
・提示する三角形を一般から特殊
へと変えていくことで,角度を
分度器で測らなくても計算で求
めることのできるよさに気付く
ことができるようにする。
・適用問題に取り組み,習熟を図
ることができるようにする。
〇本時の学習について,分かった ・個々の考え・気付きを自由にま
こと,気付いたことをまとめる。
とめるように声かけする。
4
5
〇四角形の4つの角の和を考える
という本時の課題をつかむ。
◎どんな三角形でもテープのよう
に並べることができる理由につ
いて,まとめることができる。
(知・理)
◎角の大きさを求めるときに,簡
潔な方法は どれかを考えてい
る。
(考)
◎三角形の三つの角の大きさ が
180°になることを理解してい
る。
(知・理)
◎他の形ならどうなるのだろうと
いう問いをもつことができる。
(関・意・態)
・前時の振り返りを紹介すること
で,「四角形ならどうなるのか
な」という子どもの問いを本時
の課題へとつなげていく。
〇四角形の4つの角の和について ・「三つ以上の考え方で調べよう」 ◎四角形の4つの角の大きさの和
考える。
と指示することで,多様な考え
が 360°になることを,三角形
方を引きだすようにする。
の三つの角の大きさの和が
180°であることを基に,演繹的
に考えている。
(考)
〇考えを交流する。
・子どもたちの考えを「共通点」
「相違点」に着目して,板書し,
多様な考えを整理する。
〇四角形の4つの角の和は,三角 ・個々の考え・気付きを自由にま ◎他の形ならどうなるのだろうと
形を基にして考えることができ
とめるように声かけする。
いう問いをもつことができる。
るということをまとめる。
(関・意・態)
〇多角形の角の和を考えるという ・前時の振り返りを紹介すること
本時の課題をつかむ。
で,「多角形ならどうなるのか
な」という子どもの問いを本時
の課題へとつなげていく。
〇各自,五角形,六角形・・・と図を ・自分で考えた形で考えさせるこ ◎自ら多角形をかき,調べようと
かきながら調べる。
とで,多角形の内角の和を求め
している。
(関・意・態)
るときに,三角形を基にして考
えたり,三角形と四角形を基に
して考えたりと,多様な考え方
を出させるようにする。
〇考えを交流し,表にまとめるこ ・それぞれの考えを式でも表すよ ◎多角形の和は,三角形の三つの
とを通して,きまりを見つける。
うにし,数に着目させることで,
角の大きさの和を基にすれば求
数値の増え方にきまりがある
められることを理解している。
(180°ずつふえている)ことに
(知・理)
気付かせるようにする。
〇多角形の内角の和は,三角形や, ・個々の考え・気付きを自由にま
四角形を基にすれば考えること
とめるように声かけする。
ができることをまとめる。
11
6・7
〇しきつめもようを作るという本
時の課題をつかむ。
〇四角形がしきつめられるときの
条件について考える。
〇しきつめもようを作る。
〇作ったもようを交流し,本時の
学習について,分かったこと,
気付いたことをまとめる。
3
・しきつめられた歩道タイルを提
示し,同じようにしきつめるこ
とができる形を作ることがで
きるかどうか,問いをもたせる
ようにする。
・例として合同な四角形を4つ並
べ,
「しきつめられるとき」と「し
きつめられないとき」を比較さ
せることで,角の大きさだけで
なく,辺の長さにも着目させる
ようにする。
・2色の画用紙を選ばせること
で,辺のつながりが明確になる
ようにする。
・作ったもようを各自画用紙に貼
ることで,すぐに掲示し,交流
できるようにする。
ポイントとなる授業の実際
◎角の大きさと辺の長さに着目し
て,四角形をしきつめたりする
ことができる。
(技能)
◎身の回りにあるしきつめもよう
に興味をもつことができる。
(関・意・態)
授業の導入5分で,指導者がクラスの約四分の
(1)どんな三角形でもテープのように(一直線に)
一の人数である 10 人を前に出し,実際に三角形
並べることができるのか調べる活動
(第 1 時)
を並べさせた。このように子どもたちが次々と課
第 1 時での活動を「協調的な学びが可能になる
題に直接関わっていくことで,学習の「構え」の
条件」と照らし合わせながら,振り返っていく。
課題をつかむ段階
空気ができあがっていった。
そのため,本時の課題「どんな三角形でも一直
線に(リボンみたいに)なるのかな?」をつかみ,
T:
(直角三角形を提示して)
実際に個々に三角形を作る活動へとスムーズに
「この直角三角形を何枚か使って,並べるとリボン
移行していくことができた。
みたいにつながっていくかな?」
C1:前で直角三角形を 1 枚並べた。
この後,C2,C3,C4,C5 が順に続きを並べていった。
T:
(正三角形を提示して)
「じゃあ,今度は,正三角形。この正三角形も直角
三角形みたいに,リボンみたいにできる?」
C 多数:
「できる。」
T:
「ほんとに?」
(揺さぶりをかける言葉)
C6:前で正三角形を1枚並べた。
この後,C7,C8,C9,C10 が順に続きを並べていった。
T:「じゃあ,名前が付い ている特別な三角形じゃ
写真Ⅲ―1
前で三角形を並べている様子
なくても,こんなふうにリボンみたいにできるか
な?」
多様性が生まれる算数的活動
C:
「できる」多数。
「できない」少数となった。
「どんな三角形でも」と言われたことで,変わ
T:
「どんな(揺さぶりをかける言葉)三角形でも,一
直線になるのかな?」
った三角形を作りたい!という気持ちが生じた
・・・答えを出したい問い
子もいた。その子たちは,角度や辺の長さにこだ
*下線部は,強調している言葉
わって,何度も三角形をかき直す姿が見られた。
12
また,作図に自信がない子,はさみで切ること
作った三角形を発表し,交流し合う場面
に自信がない子などは,大きな三角形や,二等辺
T:
「どう?できた?」
三角形をかく姿も見られた。・・・みんなの考えが違うこ
C:
「できた。
」
とが見えやすい
T:
「じゃあ,発表したいという人?」
いずれにせよ,思い思いにかいた三角形は,全
C:8人挙手。
て違っているため,同じ班の子と「どんなの作っ
C11:作った三角形(二等辺三角形)を見せた。
た?」
「それは,できそうだ。」等と交流する場面
T:
「これ,みんなできそうって言ったね。
」
(と言って
が自然に生まれていた。・・・アイデアを交換し合う場
から,並べたノートを画面に映した。
)
多様な三角形を作ったことは,この後の作った
C:「おおお~。」
三角形を交流する場面での「他の子は,どんな三
C12「正三角形(みたい)
。
」
角形を作ったのだろう。」と興味へとつなげるこ
T:「これ,できたね。他のは?」
とができた。
C:15 人挙手。
また,この活動は,クラスのみんながそれぞれ
C14:作った三角形(一般三角形)を見せた。
三角形を作ることから「どんな三角形でも」と帰
T:
「どう?」
納的に調べることになった。
C:
「いけた。
」
作った三角形を交流する場面
T:
「これも,できました。
」
それぞれの考えた三角形を発表し,交流し合う
C:
「オッケー!」
場面では,指導者の介入の仕方で,流れが大きく
T:
「他にもどんどん見せてもらいましょう。
」
変わってきてしまう。
・・・段々答えに近づく期待
今回は,はじめに一般三角形を紹介したところ,
C:12 人挙手。
子どもたちも安心したようで,その後の挙手が増
C15:作った三角形(鋭角三角形)を見せた。
えていった。
(右談話分析参照)
T:
「うわっ,むっちゃ難しそう。
」
また指導者が,意図的に一般三角形から鋭角三
C16:
「つまようじみたい。
」
角形へと提示の順番を工夫したことで,少しずつ
C17:
「できてる。
」
「どんな三角形でもできそうだな。」という期待
T:この後,5人を指名し,長くつなげた一般三角形を
から「やっぱり,どんな三角形でもできそうだ。
」
三つと,鈍角三角形,鋭角三角形,を提示した。
という納得へとつながっていった。
・・・みんなの答えを発表し合って検討し,納得する場
第 1 時学習後の子どものノート
授業の最後には,「どんな三角形でも一直線に
(リボンのように)並べることができる」とまと
めた後,各自ノートに分かったことを書かせた。
これは,自分の考えを整理したり,考えが変容し
たことを自覚したり,新たな問いを見つけたりす
ることができる場として設定した。
実際の子どもたちのノートに書かれていたこ
写真Ⅲ―2 三角形を電子黒板で見合う場面の様子
13
とは,以下のようなものであった。*1人無記入
(感想を書いたり,分かったことをまとめたりし
ている子・・・18 人)
・簡単だった。
・つながるのが,楽しかった。
・いつもより難しかった。
写真Ⅲ―5
鋭角三角形でもできたことは,
・一直線になることが分かった。
子どもたちにとって驚きだったようだ。
・自分の予想が当たっていた。等
(面白さ・不思議さ・驚きを感じている子・・・8人)
(2)多様な解決の可能性がある課題設定の工夫
・どんな三角形でもできたから,驚いた。
(第5時)
・色々な三角形が出てきて面白かった。
第 4 時では,三角形の三つの角の和が 180°と
・はじめはできないと思っていたけど,やってみたらでき
いうことを基にして,四角形の4つの角の和を考
たから,すっきりした。
えてきた。第 4 時後のノートから
・細い三角形でもできたから,驚いた。
・三角形が二つ分で四角形なら,五角形,六角形
・初めて知って,驚いた。等
もできそう。
(新たな問いを見つけた子・・・10 人)
・きまりが分かったから,もうできそう。
・めっちゃ変な三角形でもできるのか試したい。
・このまま 180°ずつ増えていく?
・家でも別の三角形でやってみたい。
等と三角形,四角形の後の学習への問いや期待を
・なぜ三角形を並べたら一直線になるんだろう?
もっていた子が9人いた。これは,前時の学習が
・そうなる理由は,なんとなく分かるけど,次の
次の学習に活かされていくという経験を重ねて
時間によく考えたい。
きたからこそだと考える。
・他の図形でも,一直線になりそう?
第 5 時は,多角形の定義を知り,その上で,そ
・辺の長さが関係しているのかな?
れぞれの角の和を考える場面である。
・次の学習に役立ちそう?等
ここでは,五角形,六角形を指導者が与えずに,
ここでの子どもたちの問いを第2時の学習活
自分でかいた図形について,調べるという課題を
動につなげることができた。
設定した。これにより,各自「少しずつ違う答え
子どもたちが作った三角形一例
の求め方」になり,また「みんなの考えが違う」
ことが見えやすい活動となる。つまり多様性を引
き出すことで,協調的な学びを可能とすることが
ねらいあった。
授業では,子どもたち一人ひとりが違う形,違
う考え方で解決する姿が見られた。例えば,次ペ
写真Ⅲ―3
「できる」と予想した三角形。
ージノートAでは五角形を「四角形と三角形」に
分けて考えている。一方,ノートBでは,五角形
を「三角形三つ」として考えていた。
このように,違う形の五角形,六角形を取り上
げることで,それぞれの形の特性に応じて,考え
写真Ⅲ―4 鈍角三角形を作った子は,6人だった。
14
方が変わってきた。よって,「私の考えた五角形
自分のかいた五角形を使って,
は・・・。
」と友だちのものと比べたり,
「式は一緒な
角の和の求め方を説明する場面
のに,形が違う。
」と共通点と相違点を意識したり
T:「C1さんは,こんなベースボールのベースみたい
するような対話が生じる場面となった。
な形をかいているよ。
」
(右談話分析参照)
C1:
「まず五角形を三角形と四角形に分けました。す
ると三角形は 180°,四角形は 360°というきま
りがあるので,二つを合わせると 540°になり,
五角形の角の和は 540°になります。どうです
か?」
C:
「はい。
」
T:
「分かりやすかったね。納得できた?」
…フィードバック要求
C:ほぼ全員挙手。
T:
「じゃあ,この 180 って何表しているの?」
C:7人挙手。
C2:「三角形の角の和です。
」
T:
「じゃあ,
この 360 っていうのは何表しているの?」
C:5 人挙手。
写真Ⅲ―6
子どものノート A
C3:「四角形の4つの角の和です。
」
T:
「じゃあ,次は C4 さんの考え方です。どう違うか
見ておいてね。
」
…別の考え方が出てくることを明確化
C4:「まず,五角形を対角線で,三つの三角形に分け
て,三角形の角の和は 180°なので,180°×3
で 540°になりました。どうですか?」
T:
「納得できた人?」
C:ほぼ全員挙手。
T:
「C4 さんも対角線で分けているけど,何の形に分
けてる?」
…共通点の確認と相違点の強調
C5:「三角形。
」
T:
「じゃあ,この×三つてどんな意味があるの?」
C6:「三角形が三つ。
」
T:「対角線で分けると,同じ三角形が三つあるから
×3 なんだね。C1 さんも C4さんも分け方は違う
けど,五角形の角の和は答えは同じになったね。
写真Ⅲ―7
子どものノート B
ということは?」
C:
「五角形の角の和は 540°」
15
…言い換え
下線部のように,指導者が適宜子どもたちに式
(感想を書いたり,分かったことをまとめたりし
や数の意味を問いかけ,考えさせるよう介入を行
ている子・・・28 人)
っている。C1 も C4 も筋道立てて流暢に説明して
・多角形の角の和が比例していることが分かった。
いたことから,ともすれば,そのまま次の説明に
・これで百角形でも分かるから楽しかった。
流れていってもおかしくない。しかし波線部のよ
・角度を測らなくてもいいから,簡単だった。
うに,子どもたちの反応が十分良かったとはいえ
・三角形や四角形とのつがなりがよく分かった。
なかったので,その雰囲気を感じ取って,指導者
・何角形でも計算で角の和を求められることが分かった。
が自ら介入していくことで,対話を促そうとして
・難しかった。等
いたと考えられる。
(面白さ・不思議さ・驚きを感じている子・・・3人)
・まさか,三角形の数と多角形の角の和が比例していると
は思わなかった。
・今日の計算を使えば何角形でもできる。便利!
・C6さんが言っていたみたいに対角線で区切ってできる
三角形の数が,
(○角形の辺の数-2)っていうことに
全く気付かなかった!
(新たな問いを見つけた子・・・2人)
・多角形には,他にも特徴がありそう。
写真Ⅲ―8
子どもが発表した二つの五角形
・多角形の面積も求めてみたいと思った。
第5時終了後の子どものノート
第 1 時と比べると,
「新たな問いをもつ子」より
*1人欠席。3人無記入。
も「分かったことを自分なりにまとめる子」の方
授業のまとめの段階では,○角形の角の大きさ
が多かった。それは,第 5 時の学習内容が,既習
について表でまとめ,そこからきまりを見出し
内容を使って考えるという場面であるからこそ,
「○角形の角の和は(○-2)×180°」と板書で
「
(前時と比べて)ここが分かった。
」と感じる場
整理していた。その後の各自のノートに書かれて
面が多かったことも要因だと思われる。
いたものは以下のようなものであった。
写真Ⅲ―9 第5時の板書写真
16
4
考察
(1)協調的な学びを可能とする「活動」について
授業実践を通して,子どもたちの思考が深まっ
本研究では,コミュニケーションの必要性に迫
た点,逆に戸惑わせることになってしまった点な
られる課題を設定するために,授業の中に,どの
ど,成果と課題が明らかになった。
タイミングで,どのような「活動」を取り入れる
以下,具体的にまとめていく。
のか,を考えてきた。
表Ⅲ-1
時間
「活動」内容
1
どんな三角形でもテープのよう
に並べられるか調べる活動
2
三角形を並べて,なぜテープのよ
うになるのかを考える活動
3
三角形の三つの角の大きさ(角度
が書き込まれていない三角形を
提示する)を工夫して求める活動
4
四角形の角の和を三つ以上の考
え方で求める活動
5
個々にかいた五角形,六角形の角
の和について演繹的に考える活
動
○しきつめもようを作る活動
6・7
「活動」内容の成果と課題
成果
課題
○「葛藤」の生じる問題場面のた ○個々の考えを広めるための場
め,主体的に取り組むことがで
設定の工夫が必要となる。
(ICT
きた。
の活用など)
○多様な三角形を取り上げるこ
とで帰納的に考える素地を養
うことができた。
○問題解決の多様性があるため,
新たな問いが生じやすかった。
○一つの三角形を例とすること ○一つの三角形を取り上げて考
で,
「角度」に着目させやすかっ
える場としたため,第 1 時で多
た。
様な三角形を作っていたこと
を十分活かしきれなかった。
○三つの角を三つとも分度器で
測る子,二つ測る子,両方の考
え方を取り上げることで,どち
らの方法が簡単か吟味するこ
とができた。
○三つ以上,と指示することで, ○対角線を2本引いて,4つの三
多様な考え方が出てきた。
角形を分ける方法が出たが,こ
○出てきた考えを,共通点,相違
れについて理解できない子に
点で分類する場を設けること
対して,四角形の4つの角の和
で,他の考えと比較することが
が 180°×4となるのでは?と
できた。
いう戸惑いを招いてしまった。
○多様な形で考えるため,「三角 ○表にまとめて,一般化するとき
形に分けて考える」「四角形と
に,
「三角形と四角形に分ける」
三角形に分ける」とその形の特
方法で考えていた子の中には,
徴に応じた考え方を比較する
「三角形と四角形」というのは,
ことができた。
つまり「三角形と,三角形二つ」
○個々に多角形をかくことで,個
という段階を踏んだ説明が必
人差に応じて,八角形,九角形
要であった子もいた。そのよう
…まで考えさせることができ
な子のために,「四角形は三角
た。
形が二つ」ということを再度お
さえることができるような視
覚的な支援が必要だった。
○多様なしきつめもようができ ○作る技能の個人差が大きいた
たことで,自然に対話が生まれ
め,個別の対応が必要となっ
る空間となった。
た。
写真Ⅲ―10
しきつめもよう
作品例
17
というように,37 人中 33 人が,好き(得意)に
なったと自覚していることが明らかになった。
(2)協調的な学びを促進する指導者の「介入」につ
しかしながら,4人の子は「やっぱり苦手」と
いて
答えていた。この4人の子の事後アンケートを見
本実践を行った学級は,事前の実態調査から
ると以下のようにまとめることができる。
も,算数が好きな子が多かった。これは,授業実
これを見ると,子ども C を除く3人とも,
「答
践後もほぼ変化がなかった。ただ,
「算数が楽しい
えが分かった」ことに楽しさを感じたり,
「前より
と思うときは,どんなときか」という問いに対し
もできるようになった」という有能感を感じたり
て,
・みんなと一緒に考えているとき。
していることが分かる。苦手意識をもつている子
・考えているとき。
どもには,まずは,基礎基本の力がついたことを
・考えをみんなに発表するとき。
実感させることが,協調的な問題解決や,自分の
・いろんな考えが出てくるとき。
考えを再構成する,つまりプロセスを楽しむこと
・先生が面白いとき。
ができると考える。
・話し合いをするとき。(みんなで考えるとき。
)
だからといって,指導者の「介入」の仕方とし
て,子どもたちの理解を確かめるために,つい「分
と,問題が解けたときだけでなく,そのプロセス
において楽しさを感じている様子が感じられる
意見が増えていた。これは,単元を通して,多様
な考えを出し合い,比較・検討・吟味する中で,
指導者が適切にその場に介入することで,子ども
たちが学びの場を楽しむことができた結果であ
かった?」
「できた?」と聞くだけでは思考は深ま
っていかない。上記 A,B,C,D のような子ども
たちが,確かな習得をめざす上で表象的トランザ
クションもある程度は必要だと考えるが,このよ
ると考える。
うな語り方だけに陥ってしまうと,形式化された
また毎時間,
「分かったこと」として,個々の学
びを書く時間を取ってきた。そのまとめに対して,
指導者がコメントを書いて返却することも指導
者の個別の学びの場への「介入」だと考える。事
問題解決となってしまうからである。
協調的な問題解決をめざすならば,指導者が,
どのように「介入」していくのか,その対話の質
後アンケートでの「自分の考えをノートに書くこ
を今後も考えていく必要がある。
と」については
・もともとノートに自分の考えを書くことが好き
(得意)だった。
(11 人)
・前よりも,できるようになってきた。(22 人)
子ども A
「図形の角」を学習
して楽しいと思った
のは,どんなととい
ですか。
前よりできるように
なったことは何です
か。
算数は,好きか,
嫌いか。
子ども B
子ども C
子ども D
角度を求める問題を
解いたとき。
計算をしたら角が何 無記入
度かが分かったとき。
切って作ったときが
楽しかった。
角度の計算。
角を簡単に求められ
るようになった。
無記入
答えがあっているこ
と。
角度,筆算などの問
題が苦手だから嫌
い。
計算が速く解けるの
で好き。
無記入
もともと嫌い。
表Ⅲ-2 アンケート結果(一部)
18
注)
1)
片桐重男.数学的な考え方の具体化.明治
図書.1988,pp127-128.
2)
片桐重男.正田建次郎先生エッセイと思い
出.1978.p134.
3)
古藤怜・新潟算数教育研究会.コミュニケー
ションで創る新しい算数学習-多様な考えの
生かし方まとめ方-.東洋館出版社.1998.
4)
佐藤学.学校の挑戦 学びの共同体を創る.小
学館.2006.
5)
白水始.授業を外から見る -学習科学研究者
による授業研究-.日本教育心理学会第 50 回
総会発表論文集.2008.
6)
「はじめに」5)参照
7)
「はじめに」16)参照
8)
P.グリフィン・B.マクゴー・E.ケア(三宅な
ほみ監訳 益川弘如・望月俊男編訳).21 世紀
型スキル 学びと評価の新たなかたち,“第
5章 新たな学びと評価は日本で可能か(白
水始)”北大路書房.2014,p211.
19
Ⅳ
小学校理科における子ども主体の問題解決をめざした授業づくり
―「ものの温度と体積」
(小学校第4学年)の学習―
1
理科における問題解決能力の育成と問題点
なく,子ども主体の問題解決になるように,教
師が理解するべきことも明記している。5)それ
(1)理科における「問題解決」とは
現代社会は変化が激しく,多様な価値観の中
は,「教材の理解」,「子どもの理解」,「問
で,複雑に絡み合った問題に直面している。そ
題解決の理解」である。では,「問題解決の理
のような解決困難な問題に自分なりの答えを導
解」とは一体どのような理解であろうか。それ
き出したり,多くの人々が納得できる答えを求
は,教師が子ども主体の問題解決のために,ど
めたりする態度が求められている。このような
のような課題を設定し,子どもが思考する必然
資質・能力の育成のために,理科では以前から
性を生み出し,どのような教育的介入をするの
問題解決能力の育成に取り組んできた。
そして,
かという視点をもっているかどうかである。こ
今後も理科において育成が求められる能力の一
れは,日置らが「理科で問題解決を大切にする
つである。
ということは,子どもの主体的な学習活動を促
理科の学習は,児童の既にもっている自然に
すことであり,『知の更新』を可能にする。」
6)
ついての素朴な見方や考え方を観察,実験など
と述べていることからも明らかである。
の問題解決の活動を通して,少しずつ科学的な
これからの社会を生きていく上で,答えが一
ものに変容させていく営みであると考えること
つではないあるいは答えがない問題に自分なり
ができる。1)日置は,
「理科における問題解決は,
の答えを導き出す力が求められている昨今,主
自然の事物・現象を対象にして,未知を知にす
体的に問題解決する力の育成は,ますます重要
る思考といえる。」2)と述べている。また,村山
さを増していくと考えられる。
は,「問題解決においては,プロダクトとして
の『知識』はもちろんのこと,プロセスとして
の『思考』が極めて重要になります。」3)と述べ
ている。つまり,理科では子どもが問題解決の
活動の中で思考し,すでにある素朴概念から科
学概念へ変容させることであると言える。
村山は,理科における問題解決の過程を①自
然事象への働きかけ⇒②問題の把握・設定⇒③
予想・仮説の設定⇒④検証計画の立案⇒⑤実験・
観察の実施⇒⑥結果の処理⇒⑦考察の展開⇒⑧
結論の導出といった 8 つのステップで表してい
る。4)また,この 8 つのステップを体験活動と
言語活動に分けている。具体的には,①を体験
活動Ⅰ,②~④までを言語活動Ⅰ,⑤を体験活
動Ⅱ,⑥~⑧を言語活動Ⅱとしている。(図Ⅳ
-1)また,村山は,問題解決の 8 つのステップ
図Ⅳ-1 理科における
問題解決の 8 つのステップ
は,単に問題解決の過程を表しているだけでは
20
きないことに気づく。つまり,
「経験として知っ
ている自分」と「科学的に説明できない自分」
(2)理科における問題解決学習の問題点
との間に葛藤が生まれ,目の前の現象について
これまでに,主体的な問題解決をめざした教
説明したい,わかりたいという意欲が芽生えて
育実践や「問題解決」に関する意義やあり方に
くると思われる。このような葛藤を生み出す場
ついて,多くの研究者や教師が論じてきた。
7)8)9)10)
面をつくり出すことによって,考えたり,話し
しかし,子ども主体の問題解決をめざす
合ったりする必然性が生じ,主体的な問題解決
としながら,問題解決のステップを丁寧に踏む
につながると考えられる。しかし,事象との出
だけの授業が多く,問題解決が手続き化してい
合いを工夫しても,解決するべき問題を教師か
るように思われる。これは,教師が問題解決の
ら提示しては,子ども主体の問題解決にはなら
プロセスを如何に習得させるのかということを
ない。子どもの疑問や気づきをクラス全体で共
中心に考える傾向があることが原因であると考
有し,子どもどうしの対話や教師と子どもとの
えられる。つまり,問題解決のプロセスを辿っ
対話から問題を設定することも非常に大切であ
て学習が進めば,問題解決の能力が育成される
る。
という考えである。
このような考え方をすると,
問題解決の過程を直線的な一方通行としての解
決過程として捉えてしまい,柔軟性に欠ける教
②の手だてとして,問題解決の 8 つのステッ
師主導の授業になってしまう。このような形骸
プは大切にしながらも,それ以上に子どもの思
ためには,教師の「授業観」,「学習観」を変
そのために,問題解決を辿るうえで,立ち止ま
化した授業から子ども主体の問題解決へ変える
考の流れを大切にした学習活動を設定していく。
ったり,前のステップに戻ったりして,子ども
が常に自分の学習を振り返りながら問題解決を
えていくことが求められる。理科の学習におい
進めていきたい。
て,子どもが調べてみたいと思える必然性を生
③の手だてとして,話し合いの形式に捉われ
み出し,子どもがなるほどと納得できるような
るのではなく,話し合いの質を高めることを意
授業デザインが求められているのである。
識していきたい。そのために,子どもが説明し
(3)子ども主体の問題解決をめざした授業デザ
たくなる,他者の考えを聞きたくなる状況をつ
インのポイント
くりだすことが大切となる。また,話し合いの
前述した問題点を改善するために,本研究で
質を高めるためには,子どもの発言に対する教
は,
以下の 3 つの視点から授業づくりを行った。
師のコメントを工夫したり,子どもの発言にさ
授業デザインのポイント
らに説明を求めたり,対立する考えを引き出し
①:自然事象との出合いから問題設定のあり方
たりする教師のコメントを工夫していく。
②:子ども(学習者)の思考の流れを大切
にした問題解決
授業は,大阪市立 B 小学校の協力を得て,第
2 授業計画
③:話し合う,考える必然性を生み出す工夫
➀の手立てとして,事象との出合いと解決す
4 学年 31 人を対象に実施した。単元は「ものの
るべき問題の設定を工夫する。子ども主体の問
温度と体積」で,平成 27 年 11 月~12 月に実施
題解決のために,日常生活において見たり,経
した。
験したりしたことのある現象と出合わせること
にする。そうすることで,子どもは現象につい
本単元は,粒子概念のうちの「粒子のもつエ
(1)子どもの実態
て知っているが,その現象を説明することがで
ネルギー」に該当する。児童は,これまでに「も
21
のと重さ」の単元において,ものは変形させて
に影響がでてくると思われる。本研究では,
「教
さが違うものがあること(粒子の保存性)
,
「空
水を冷蔵庫に保管したところ,ペットボトルが
も重さが変わらないこと,ものは同体積でも重
師がペットボトル入りの水を飲み,飲み残した
気と水の性質」の単元において,閉じ込めた空
へこんだ。
」という場面を設定し,実際のペット
気は,押し縮められ,体積は小さくなるが,水
ボトルを提示する。どこの家庭でも起こり得る
は押し縮めることができないこと(粒子の存在)
現象であり,実際にそのような現象を経験した
について学習している。
ことのある子どもも少なからずいると思われる。
子どもたちの日常生活において,温度の変化
そこで,子どもにどうしてペットボトルはへこ
によって金属,水及び空気の体積が変化してい
んだのか理由を考えさせる。そうすることで,
る現象は意外と多く,子どもたちもその現象を
これまでの経験や既習事項(例えば外からの力
見たり,
経験したりしている。
(ボールのへこみ,
によって空気は縮むが,水は押し縮まらない)
飲料水の入ったペットボトルを冷やしたときの
をもっている自分と科学的に説明できない自分
へこみ,鉄道のレールなど)しかし,それらの
との間に葛藤を生み出し,主体的な問題解決に
ことを温度による体積変化であると捉えている
向かっていくようにする。ここでは,現象の説
子どもは少ないと思われる。
明を言葉の説明よりもイメージ図を使って,表
現させるようにする。空気や水を粒で表現した
子どもの実態を踏まえて,本単元の「ものの
り,ペットボトルのへこみやふくらみを矢印な
(2)単元設定の意図
温度と体積」では,導入時に日常の生活場面で
どで表したりすると考えられる。この単元導入
起きている現象に出合わせ,問題解決の活動を
時の子どもたちの素朴概念を把握し,第 1 次終
通して,子どもの既有概念を科学的な概念へと
了時にもう一度同じ現象について説明する活動
変容させるような授業をデザインする。また,
を取り入れ,子どもの変容を見取っていく。
問題解決の8つのステップは辿るが,一方通行
また,本研究では,単元を通して子どもの予
的な解決過程ではなく,子どもの思考の流れを
想や実験計画,考察は,はじめに個人で考え,
失敗の原因を考えさせ,再検証していく。つま
し,全体で共有するという流れで進めていく。
大切にし,仮に実験が失敗したとしても,その
ワークシートにまとめ,次に各グループで交流
り,子どもが納得することに重きを置く問題解
全体で共有する状況では,子どもの考えが練り
決をめざす。
上げられていくような教師の教育的介入をめざ
本単元は,子どもの多様な発想による検証実
していきたい。
験を考えさせることに適した単元である。子ど
もの多様な実験計画を認め,実験結果の見通し
(3)単元の目標
〇金属,水及び空気を温めたり冷やしたりし
を持たせながら,主体的な探究活動を促してい
て,それらの変化の様子を調べ,金属,水
及び空気の性質についての考えをもつこ
きたい。そして,問題解決の活動の中に,子ど
とができるようにする。
もどうしの対話,教師と子どもとの対話が必然
ア 金属,水及び空気は,温めたり冷やし
的に生まれる環境をデザインしていく。
たりすると,その体積が変わること。
理科の学習において,子ども主体の授業を実
現させるためには,問題解決の入り口である単
元導入が非常に大切である。ここで,事象にど
(4)単元の評価規準
のように出合わせるかによって,その後の活動
自然事象への関心・意欲・態度
①金属,水及び空気を温めたり冷やしたりし
22
たときの現象に興味・関心をもち,進んでそ
観察,実験の技能
れらの性質を調べようとしている。
①実験器具を安全に操作し,金属,水及び空
気の体積変化を調べる実験をしている。
科学的な思考
②金属,
水及び空気の体積変化の様子を調べ,
①金属,水及び空気の体積変化の様子と温度
その過程や結果を記録している。
を関係付けて,予想や仮説をもち,表現して
自然事象についての知識・理解
いる。
①金属,水及び空気は,温めたり冷やしたり
②金属,水及び空気の体積変化の様子と温度
すると,その体積が変わることを理解してい
変化を関係付けて考察し,自分の考えを表現
る。
している。
(5)指導計画(全 10 時間)
第1次(空気と水の温度と体積変化)
時
子どもの学習活動
○冷蔵庫で冷やした水と空気
の入ったペットボトルを提
示する。
○どうしてへこんだペットボ
トルが元にもどったのかを
予想する。
1
教師の指導・介入
◇ペットボトルがへこんでい
ることに気づくことができ
るようにする。
◇キャップはしっかりと閉め
られており,中の空気や水
は漏れないことを確認す
る。
◇空気や水にどのような変化
がおきているのかを考えら
れるようにする。
◇言葉だけではなく,イメー
ジ図もかかせるようにす
る。
評価の観点
◎冷やすことでペットボトル
がへこんだ現象に興味・関
心をもち,すすんで表現す
ることができる。
(関・意・態)
〇予想を共有し,問題を把握
する。
閉じ込められた空気や水は冷やしたり,あたためたりすると体積は増えたり,減ったり
するのだろうか。
○空気と水のどちらから調べ
るかを決める。
2
○空気の温度と体積に関する
予想を確かめるための実験
方法を考える。
〇実験方法を共有する。
○実験し,結果を記録する。
3
・
4
◇予想したことを調べるため
には,空気と水を別々に調
べる必要があることを捉え
られるようにする。
◇考えた実験方法と予想され
る結果の見通しを明確にす
る。
◇子どもの考えた多様な実験
に合わせ,実験器具を準備
する。
◇やけどをしないように,ゴ
ム手袋をさせ,安全に気を
つけて実験できるようにす
る。
◇予想と実験結果を比べなが
ら,結果をまとめられるよ
うにする。
23
◎予想を基に検証計画を立案
することができる。
(思・表)
◎実験器具を安全に操作して,
温度による体積変化の実験
ができ,その過程や結果を
図や言葉で記録している。
(技)
〇実験の結果から,空気の温
度と体積の関係についてグ
ループで考察する。
5
6
・
7
8
◇実験結果から,空気をあた
ためることで空気の体積が
どのように変化したかをイ
メージ図や動作化で視覚化
する。
〇グループでの考察を全体で
共有する。
○水の温度と体積変化につい ◇考えた実験方法と予想され
て予想し,全体で共有する。
る結果の見通しを明確にす
る。
○実験方法を考え,
全体で共有
◇子どもの考えた実験に合わ
する。
せ,実験器具を準備する。
○実験し,結果を記録する。 ◇やけどをしないように,ゴ
ム手袋をさせ,安全に気を
つけて実験できるように
する。
〇実験の結果から,水の温度 ◇予想と実験結果を比べなが
と体積の関係についてグル
ら,結果をまとめられるよ
ープで考察する。
うにする。
〇グループでの考察を全体で ◇実験結果から,水をあたた
共有する。
めることで水の体積がどの
ように変化したかをイメー
ジ図などで視覚化する。
〇演示実験から,温度による ◇子どもの考えた実験方法で
水の体積変化について知
は,水の体積変化を読み取
る。
ることは困難であることを
説明する。
〇冷蔵庫で空気と水の入った
ペットボトルを冷やすと,
へこんだ現象について説明
する。
〇日常生活におけるものの温
度と体積変化についての事
例を調べ,説明する。
◇言葉や図を使って,温度に
よる体積変化を表現するよ
うに助言する。
◇これまでの実験から,温度
による体積変化を利用した
生活場面を想像できるよう
に助言する。
◎実験結果を基に予想と照ら
し合わせて,空気の温度と
体積変化について,自分の
考えを表現している。
(思・表)
◎既習事項を根拠にしながら
予想し,検証計画を立案す
ることができる。
(思・表)
◎実験結果を基に予想と照ら
し合わせて,水の温度と体
積変化について,空気の体
積変化と比較しながら自分
の考えを表現している。
(思・表)
◎演示実験から,実験装置の違
いと実験結果を照らし合わ
せて,温度による水の体積
変化について説明すること
ができる。
(思・表)
◎温度による空気や水の体積
変化の大きさには,差があ
ることを理解している。
(知・理)
◎温度によるものの体積変化
は,日常生活の場面でも見
られ,役立てられているこ
とが分かる。
(知・理)
第2次(金属の温度と体積変化)
時
子どもの学習活動
教師の指導・介入
評価の観点
金属は,冷やしたり,あたためたりすると体積は変化するのだろうか。
9
○金属もあたためたり,冷や
したりすることで,体積が
変化するかどうか予想す
る。
○実験方法を理解する。
○実験し,結果を記録する。
10
〇実験の結果から,金属の温
度と体積の関係についてグ
ループで考察する。
◇空気や水の体積変化の結果
や日常生活での経験を基に
考えられるようにする。
◇実験方法を考えさせた後,
金属球膨張試験機を提示す
る。
◇熱した金属球に絶対に触れ
ないことを説明する。
◇金属の体積変化は非常に小
さいことを捉えられるよう
にする。
24
◎実験器具を安全に操作して
温度による体積変化の実験
ができ,その過程や結果を
図や言葉で記録している。
(技)
◎実験結果を基に予想と照ら
し合わせて,空気や水の体
積変化と比較しながら,金
属の温度と体積変化につい
て,自分の考えを表現して
〇グループでの考察を全体で
共有する。
いる。
(思・表)
飲み残しのある飲料を冷蔵庫で冷やすと,ペッ
トボトルがへこむ現象をふだん感じ取っていた
3 ポイントとなる授業の実際
(1)自然事象の出合いから検証実験の立案
理科学習において問題解決を進めていく上で,
事象との出合い⇒予想⇒検証計画(第 1・2 時)
8 つのステップ全てに同じような時間のかけ方を
するのではなく,単元によって 8 つのステップの
子どもも数人おり,「確かにペットボトルがへこ
んでいた。
」と振り返る様子も見られた。そして,
この事象を観察した後,子どもたちはすぐに自分
なりの予想をワークシートに書き込む姿が見ら
時間配分を工夫することが大切である。本研究で
れた。ここでの予想に関しては,予想した根拠や
は,問題解決の入り口の部分である自然事象との
理由はについて深く尋ねることはしなかった。全
出合いは,その後の学習に大きく影響を及ぼすと
体での意見の交流場面では,子どもたちから次の
考え,授業時間は,45 分しっかりととった。はじ
ような考えが出された。
めに,日常生活の中で起きている事象を子どもた
ちに観察させることで,ふだん,何気なく見たり,
感じたりしていたことの不思議さに気づかせる
ようにした。具体的な事象と子どもの反応は以下
A:冷やすと,空気と水がかたまってペット
表Ⅳ―2
現象を観察した後の子どもの予想
ボトルがへこむ。
B:冷やすとペットボトルの中の空気が縮
のとおりである。
み,体積が小さくなってへこむ。
C:冷蔵庫の空気が外からペットボトルを押
す。
(水はへこまない。
)
D:冷やすとペットボトルの中の空気が抜け
てへこむ。
E:温めると水から湯気が出てふくらむ。
ペットボトルの中身の空気や水だけではなく,
ペットボトルの外側にある空気が関係あると答
えた子どもが数人いた。これは,前の単元「とじ
こめた空気や水」において,とじこめた空気を外
から押すと押し縮められるという既習事項が影
図Ⅳー2 自然事象との出合い
表Ⅳ-1 単元導入時の子どもの反応
響したと思われる。
ルってへこむの?」
案していったのだが,この状態ではたくさんの要
とにもどると思うよ。」
きなのか,子どもたちにはわかりにくい。そこで,
これらの考えから問題をつくり,検証計画を立
C1:
「冷蔵庫に入れただけで,ペットボト
C2:
「冷えてへこんだのなら,温めたらも
因が挙げられており,何をどのように検証するべ
T:「じゃあ,温めてみようか。
」
教師が介入し,目の前の現象が起きている要因を
(ペットボトルをお湯に入れる。)
以下のように整理した。
C3:
「わあ!パキパキいいながらもどって
➀現象に空気と水が関係している(A)
る!」
②現象に空気のみが関係している(B・C・D)
25
③現象に水のみが関係している(E)
写真Ⅳ―1 は,ペットボトルの中の空気が縮む
その後,空気と水を別々に検証することを説明し,
のか,ペットボトルの外にある冷たい空気が押す
象に空気が関係しているという考えには,上記の
もは,冷やすことによってピストンが下がれば,
子どもたちは,空気から調べることになった。現
B・C・Dの 3 つ考えが出されていた。この中の
のかを検証するための説明が書かれている。子ど
空気自身が縮んでいて,ピストンが下がらなけれ
Dの考えに関しては,空気が抜けないようにしっ
ば,空気は縮まないという論理である。この考え
かりとふたを閉めていたことを説明し,検証計画
は,すべてのグループに見られ,冷やし方,あた
から外した。そのうえで,問題を次のように設定
ため方も同じであった。(注射器や空気でっぽう
した。
を立てて冷やしたり,あたためたりした。
)
本単元において,空気の温度と体積の関係を調
べるための検証実験を考えさせると,多様な実験
問題:とじこめた空気は,冷えると押されて
表Ⅳ―3 子どもたちが設定した問題
方法が子どもたちから出される。しかし,本研究
へこむのか,空気自体が縮むのか?また,温
では,ペットボトルの外にある空気に着目した子
めると水がなくてもふくらむのだろうか?
どもの考えを問題として設定したので,このよう
子どもたちは,自分なりに検証実験に使える道
な展開となった。
具ついて考え,アイデアを出し合う場面が見られ
た。風船,チャック付きの袋,注射器,空気でっ
ぽうなど,様々な道具を出し合った。子どもたち
は,これらの中から問題を解決するための検証実
験にふさわしい方法を考え出していった。実験結
果の見通しを明確することで,どのような実験方
法が適しているのかを自分たちで判断すること
ができた。例えば,冷えた空気が外から押してい
ることを反証するために,外の空気に触れる部分
写真Ⅳ―2 検証実験の一場面
がやわらかいもの(風船,チャック付きの袋など)
ではなく,固いもの(注射器,空気でっぽう)を
選んでいた。
(2)子どもの考えの揺らぎから,再検証場面へ
結果⇒考察(交流)⇒再検証(第 3~6 時)
実験の結果は,すべてのグループで同じになっ
た。実験結果の発表の様子は,以下のとおりであ
る。
C1:後玉も前玉も上がって,冷やすと両方とも
実験結果を発表し,確認する場面
下がった。
C2:水のときは,少しずつ下がって,お湯のと
きは少しずつ上がった。
C3:お湯につけると,3cm 位上がる。氷水につ
けたら,3cm 位下がった。
写真Ⅳ―1 検証実験の計画
26
T:どこの班も同じ結果になりましたね。どん
考察を発表し,交流する場面
なことが言えますか。考えたことを教えて
ください。
C4:水が無くても,空気は自分で下がる。温め
られると・・・。
T:どんな空気だったっけ?
C4:閉じ込めた空気は,温めると膨らむ。
T:他に教えてくれる人。
写真Ⅳ―3 検証実験の結果
C5:冷やすと空気が下に行こうとして・・・
T:そうなの。冷やすと空気が下に行こうとする
んだ。
C5:温めると空気が上に上がろうとして・・・
T:上に上がろうとして,膨らむんだ。
C5:湯気みたいなのが・・・
T:でも,水無いよ。
C5:・・・
T:でも,上に上がろうとしてって思った。何を
見てそう思った?どの結果をみてそう思っ
たの?
C5:・・・
写真Ⅳ―4 検証実験の結果
C6:僕が水に入れているときに,自分でピスト
ンを押してみたら,手ごたえがピュッといっ
たから(ピストンが下に下がるジェスチャ
ー)
,下に下がっている。
T:C5 さんと C6 さんと同じ考えの人?
C:
(挙手なし)
T:そうじゃないと思う人?
C:
(数名)わからん。
この後,空気が縮む説,空気が上下する説,わか
らなくなったのいずれかに挙手させた。
写真Ⅳ―5 検証実験の結果
空気が縮む説:4 人
実験結果(事実)の発言の中に,ピストンや玉
が「上がった」
「下がった」という言葉が出てくる。
この言葉により,予想時に空気自身が縮んだり,
膨らんだりすると考えていた子どもに,揺らぎが
生じてきた。
(以下,考察を発表し,交流する場面
空気が上下する説:7 人
わからなくなった:12 人
第 5 時・第 6 時では,
前時の子どもの考察から,
を参照)
上昇(下降)説と膨張(収縮)説を検証する計画
を考えた。前時の実験で,
「わからなくなった」と
27
あたためると膨張すると考えた子どもの動作
あたためると上昇すると考えた子どもの動作
写真Ⅳ―6 あたためられた空気の動作化
写真Ⅳ―7 再検証の立案➀
「あたためると上に行く説は,図のように下だ
けに行けるようにして,風船がふくらむと上に
写真Ⅳ―8 再検証の立案②
「あたためられた空気が上にしかいかないの
いう子どもが多かったことから,再検証の立案の
と,暖められた空気は上にしか行かないのはち
行くという説は否定できる。」
なら,横に入れた注射器のピストンが横に動く
がう。
」
(写真Ⅳ―6 参照)そうすることで,目に見えな
前に,温度変化による空気の動きを動作化させた。
これは,自分たちの行った最初の実験から,新
い空気の粒をイメージできた子どもが増え,自分
たな問題が生まれ,その問題を解決したいという
では,上昇説を反証で打ち消す記述が多くみられ
ども自身が「何について調べようとしているのか」
の考えを明確にすることができた。再検証の立案
必然性をもつことができたからである。また,子
るようになった。(写真Ⅳ―7,Ⅳ―8 参照)
が明確になっているからでもある。
28
(3)問題解決の意識の持続性と話し合う必然性
演示実験による水の温度と体積変化について
の話し合いの場面
(丸底フラスコに細いガラス管を挿したもの
をお湯につけたり氷水につけたりして,体積変
化を確認した後)
空気の温度と体積変化について,解決した後も
の創出(第 7 時)
子どもたちは,次に検証しなければならないこと
がすでにわかっていた。単元の導入時の現象に立
ち戻り,水の温度と体積変化について自ら調べよ
うとする姿が多くみられた。水の温度と体積変化
に関しても,予想の設定,検証計画の立案,検証
実験の実施,実験結果の処理,考察の展開まで子
ども主体で取り組んだ。しかし,水の体積変化は,
子どもの考える検証実験では,確かめることがで
きない。(水はあたためても冷やしても体積は変
化しないと答えたグループは 5 グループ,少し変
化したように感じるグループは 3 グループ)そこ
T:まとめると。
を無理に考えさせては,教師の押しつけ,話し合
C7:水は,あたためると体積が大きくなり,
いの形式化となってしまう。そこで,今回は子ど
冷やすと体積は小さくなる。
もの検証実験の結果から考察した後,水の体積変
T:どうして,注射器では小さくならなかった
化が分かる演示実験として,教師から提示した。
そして,子どもたちは,水の体積変化が空気と比
のかな。
C8:丸底(フラスコ)でもならなかった。
べて小さいことを実感することができた。また,
この場面では,演示実験と自分たちの実験方法の
C9:細いから。
T:そう。
違いを見つけさせ,どうして演示実験では,水の
C10:えっ?
体積変化が分かるのかを考えさせた。このように,
授業のどこで,何について考えさせるのか,話し
C9:細いから,水の量の伸び縮みがわかりや
すい。
合わせるのかということを教師は考えて授業を
C10:なるほど!
デザインすることが大切であると考える。(右演
T:もう一回,どうぞ。
C9:これは,細いから(ガラス管を指して)
示実験による水の温度と体積変化についての話
水の量が少なくて,水の上がり下がりがすご
し合いの場面参照)
くわかりやすい。
T:注射器は?(どうして体積変化がわかりに
くいの)
C11:注射器は,これより太いから変化がわか
りにくい。上がってても。
(わかりにくい)
T:ということは,水はあたためると(体積が)
大きくなって,冷やすと(体積が)小さくな
るけど,空気と比べると・・・。
C11:体積は,大きくなったり,小さくなった
写真Ⅳ―9 丸底フラスコ(水入り)をドラ
イヤーであたためる子どもたち
りするのは,小さい。
29
4
考察
部会理科
本研究では,問題解決の形骸化を脱するために,
(1)素朴概念から科学概念への変容について
3 つの視点から授業の改善を試みた。はじめにも
述べたように,理科の学習においては,問題解決
の活動を通して,素朴概念から科学概念へ変容さ
せることが求められている。子どもの変容につい
て,ワークシートを中心に見ていく。
写真Ⅳ―10 子ども A の第 1 時のワークシート
写真Ⅳ―10,Ⅳ―11 は,子ども A の単元導入時
のワークシートと第1次終了時のワークシート
である。単元導入時は,Ⅳ―10 のように空気や水
があたためると,元に戻ったという現象面のみの
を図や絵で表しておらず,ペットボトルのへこみ
記述にとどまっている。しかし,第1次終了時に
は,空気や水をあたためたり,冷やしたりしたと
きの空気の体積変化について,Ⅳ―11 のように矢
印で表現することができている。また,文章で記
述する欄には,
「空気のつぶ」という言葉で体積変
化を説明しており,粒子概念が芽生えてきたと考
えられる。これは,単元導入時から,空気や水を
粒で表現する子どもが数人おり,その子どもたち
の発表を聞いたり,交流したりする中で,空気や
水を粒で表現することの良さを感じたと思われ
る。クラス全体の傾向として,単元導入時に現象
写真Ⅳ―11 子ども A の第 8 時のワークシート
表現している子どもが 1 人,未記入が 2 人であっ
ワーキンググループ資料 7 でも,「問題解決の過
変化を表現する児童が,25 人であった。クラス全
べている。このように,問題解決の過程を一方向
題解決や友達との交流を通して,素朴概念から科
切にした柔軟な問題解決の過程を常に意識して
考えられる。
うすることで,子どもの問題解決への意識が常に
(2)子ども(学習者)が納得する主体的な問題解
ができた。授業の質を保障する要因の一つとして,
面の記述のみの子どもは,24 人,空気や水を粒で
た。そして,第 1 次終了時には,粒や矢印で体積
程は,必ずしも一方向の流れではない。」11)と述
体で分析しても,子どもの思考の流れに沿った問
的に捉えるのではなく,子どもの思考の流れを大
学概念へと少しずつではあるが変容していると
おくことがこれから求められる。本研究では,そ
高い状態で,実験や全体での交流に参加すること
決について
秋田も「参加の保障」を挙げている。12)子どもは,
本単元では,問題解決の過程を一方向的な過程
「わかりたい」と思う存在であり,そのために教
あるいは単なる手続きとしてではなく,立ち止ま
師は,授業の効率性や形式を求めるのではなく,
ったり,前のステップに戻ったりするものとして
子どもが「納得できる」学習環境を整えていく必
捉え,授業づくりを行った。文部科学省教育課程
要がある。
30
問題設定を工夫することで,グループでの話し
(3)話し合いの質を高める工夫について
き台】理科ワーキンググループ(第 3 回)配布
合いが活発になった。また,全体での交流も,友
資料 資料 7.
見直す場面も見られた。また,全体交流の時間に
o/chukyo3/060/siryo/1366512.htm
達(他者)の意見を聞いて,自分の考えや立場を
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chuky
は,教室の前に全員が集まる形をとった。物理的
12)秋田喜代美.学びの心理学-授業をデザイン
な学習環境の工夫ではあるが,子どもどうしの心
する-.左右社.2012.p.25-26
理的距離も縮まり,話し合いが活発になったと考
えられる。しかし,子どもたちの理解や思考が深
まったとまでは言えない。授業におけるリヴォイ
シングの重要性を見直し,話し合いの質を高める
取組を続けていかなければならない。
注)
1)文部科学省,小学校学習指導要領解説 理科
編,初版,大日本図書,2008,p.11
2)日置光久.展望日本型理科教育-過去・現
在・そして未来-.東洋館出版社.2005,
p.192
3)村山哲哉.小学校理科「問題解決」の 8 つの
ステップ.東洋館出版社.2013,p.13
4)村山哲哉.前掲書.2013,p24-28
5)村山哲哉.前掲書.2013,p.23
6)日置光久,矢野英明.理科でどんな「力」が
育つか-わかりやすい問題解決論-.東洋館
出版社.2007,p.14
7)鷲見辰美.問題解決の形骸化を打破する-意
味理解思考に応える授業-.教育研究.
2015.6,p.33
8)日本理科教育学会.今こそ理科の学力を問う.
東洋館出版社.2012,p.156-161
9)日置光久,矢野英明.前掲書.2007,p.12-
32
10)谷村載美,古閑龍太郎,藤田麻衣子,山内隆史.
21 世紀に求められる資質・能力を育成する授
業デザインに関する研究―ICT を活用した協
働学習の内容・方法―.大阪市教育センター研
究紀要第 205 号.2014,p.25-38
11)文部科学省.アクティブ・ラーニングの三つ
の視点を踏まえた,資質・能力の育成のために
重視すべき理科の指導のプロセス(案)【たた
31
Ⅴ
中学校理科における 21 世紀型能力の育成をめざした授業づくり
―「電流の性質」
(中学校第2学年)の学習―
1
21 世紀型能力を育成するための授業づくり
も同様の課題が報告されている
のポイント
6)
。つまり,観
察・実験には積極的に取り組む姿勢が見られる
(1) 中学校理科において 21 世紀型能力を育成
が,知識・技能を活用させながら主体的に探究
する必要性
する学習までは到っていない実態が明らかとな
「知識基盤社会」と呼ばれる 21 世紀に生きる
った。主体的な学びを実現するためには,生徒
子どもに必要な資質・能力は,知識・技能の習得
が生き生きと活動し,学習に充実感や達成感を
を学びのゴールとすれば良いのではなく,状況
もたせることが大切である。そのためには,授
や課題に応じてそれらを活用し,他者とコミュ
業の課題やその提示方法を工夫することで生徒
ニケーションをとりながら協働的に問題を解決
の探究する気持ちを喚起させていき,目的意識
するといった実社会で活用できる資質・能力,
をもって課題を解決させる探究的な学習を取り
つまり 21 世紀型能力が求められている 1)。この
入れることが必要である。
ような背景から,次期学習指導要領の改訂に向
そこで,本研究では上述の状況を鑑みて,課題
けて,課題の発見と解決に向けて主体的・協働
を解決させる探究的な学習にアクティブ・ラー
的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニン
ニングを取り入れることにより,主体的・協働
グ」
)への学習指導の質的転換が求められるよう
的に学習に取り組む態度を育成することを目的
になった 2)。つまり,これから求められる授業で
とした。
は,生徒が自ら主体的に学ぶ探究型の授業,生
徒が他者と共に学び合う協働型の授業を具現す
(2)
ることが喫緊の課題となった。
21 世紀型能力を育成する授業づくりのポ
イント
ところで,中学校理科では,学習指導要領(平
1)
21 世紀型能力の育成に向けたアクティブ・
成 20 年度版)において「自然の事物・現象の中
ラーニング
に問題を見いだし,目的意識をもって観察,実
平成 26 年 11 月 20 日文部科学大臣は,中央教
験などを主体的に行い,得られた結果を分析し
育審議会に対して,次期学習指導要領の方向性
て解釈するなど,科学的に探究する学習を進め
を示す「初等中等教育における教育課程の基準
ていくことが重要である
3)
」と述べているよう
等の在り方について」を諮問した。この中で,
に,目的意識をもって主体的に探究的な学習を
「『何を教えるか』という知識の質や量の改善は
させることの重要性が示されている。さらに,
もちろんのこと,『どのように学ぶか』という,
この探究的な学習を通して科学的な知識や概念
学びの質や深まりを重視することが必要であり,
を日常生活や社会で活用できるようにすること
課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学
が求められている 4)。しかしながら,平成 27 年
ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)
度全国学力・学習状況調査(中学校理科)では,
や,そのための指導の方法等を充実させていく
「実験を計画すること」や「分析して解釈する
必要 7)」があると指摘している。ここで期待され
こと」,
「知識・技能を活用すること」などに課題
ているのは,単に問題解決学習やグループ・デ
がある
5)
ことが示され,大阪市の分析において
ィスカッションを実践することでなく,学習者
32
が主体的に学習活動を展開し,意欲的・積極的
って,生徒が「知りたい」
「調べたい」と知的好
に協働の学びを生かし,自らの知的好奇心を働
奇心を高めることが大切である。そのために授
かせながら学ぶ方法を身につけることである。
業の導入部では,生徒が「なぜだろう」
「不思議
このことから,21 世紀型能力の育成に向けた
だな」と思うような事象に出合わせるなど,学
アクティブ・ラーニングを実現するためには,
習対象との関わり方や出合わせ方を工夫する必
授業の中に学習者が自らすすんで学ぶ場面が設
要がある。その際,事前に生徒の発達や興味・関
定されていること,また,学習者どうしが互い
心を適切に把握し,これまでの生徒の考えとの
にかかわって学ぼうとしたり,授業者と学習者
「ずれ」や「隔たり」を感じさせたり,対象への
が双方向的にかかわったりする場面が設定され
「あこがれ」や「可能性」を感じさせたりする工
ていること 8)が必要である。
夫をしなくてはならない 11)。
2)
主体的・協働的な学習を促す工夫
では,生徒の主体的・協働的な学習を促すに
② 到達目標の具体化
は,具体的にどのようにすれば良いのだろうか。
本時の課題が決まれば,次に,生徒に到達目
生徒が主体的に学習に取り組むには,学習活動
標,つまり授業のゴール地点を示す。この目標
や行動において,自分が①「何」を②「どのよう
は,
「○○を説明できる」や「○○を図に表すこ
に」すべきかということが明確になっている必
とができる」など,できるだけ具体的である方
要がある 9)。このことから,生徒が実現すべき目
が生徒はゴールをイメージすることができ,見
標あるいは解決すべき課題,そしてその目標を
通しを立てやすくなる。また,図Ⅴ-1のよう
実現する方法や解決する方法を明確にもたせて
に到達目標には育成させたい資質・能力に応じ
から学習させることによって,主体的に学習に
て,
「知っている・できる」レベル,
「わかる」レ
取り組むことができると考える。さらに,この
ベル,
「使える」レベルの3つのレベルを取り入
学習を質的に高めるためにも,多くの仲間など
れることにより,理科に関する知識だけでなく,
の協働的に学ぶ他者がいることによって,様々
ものの見方や考え方など汎用的なスキルが身に
な視点から分析することができ,探究的な学習
つくようになる。
はさらに充実していくと考える。
そのためには,驚きや疑問を抱かせるような
③ 実験方法の考案
事象を提示し,事象に基づいた課題を設定する
実験方法を考案する場面では,教師は生徒一
必要がある。さらには,課題解決を取り入れた
人ひとりが実験の手続きや操作の意味を理解し
授業の到達目標の示し方や実験方法の考案が必
ているか,実験の目的に即して必要な条件を制
要である。以下では,生徒の主体的・協働的な学
御しているかなどについて机間支援を行い,必
習を促すために,①課題の設定,②到達目標の
要に応じて生徒が自らの考えを検討して改善す
具体化,③実験方法の考案に関する条件を整理
る契機となるような助言や問い返しをすること
した 10)。
が大切である。また,グループで意見交換する
①
際のツールとして,ホワイトボード等を利用す
課題の設定
自然の事物・現象の中から問題を見いだし,事
る。ホワイトボードには,
「実験の方法」や「結
実を基に課題を設定する。ここでの課題は,生
果の予想」を記述させることで,生徒どうしの
徒の素朴な見方や考え方を表出させることによ
思考過程の可視化,共有化を促進する効果があ
33
図Ⅴ-1 学校で育成する資質・能力の要素の全体像を捉える枠組み 12)
る。さらに,学級全体での意見交換の場を設定
ない問題でも面白い問題なら解きたい」(57%)
し,必要に応じて生徒自身が考えを検討して改
と回答する生徒はあまり多くなく,主体的に問
善できるようにする。
題を解決する意欲にやや課題があることが分か
った。さらに,観察や実験に対して「結果を予想
2
授業計画
している」
(65%),
「準備するものや調べる方法
前節の知見を取り入れ,アクティブ・ラーニン
を考えている」
(57%),
「自分の意見や考察をま
グによる課題を解決させる探究的な学習を取り
わりの人に説明している」
(45%)と回答する生
入れた授業を実施する。授業は,研究協力校で
徒もあまり多くなく,探究する方法や協働的に
ある大阪市立C中学校の協力を得て,第2学年
問題を解決することに課題があることが分かっ
76 名を対象に平成 27 年 10 月~平成 28 年1月
た。
に実施した。
電流に関する興味について自由記述で質問し
(1) 生徒の実態
た結果,「電気の作り方について知りたい」「電
事前の意識調査の結果,
「理科の勉強は好きだ」
圧とは何か」
「静電気のおこるしくみについて知
(77%)
,
「理科の勉強は大切だ」
(87%)
,
「理科
りたい」といった回答が多かった。その中で,日
の授業内容はよく分かる」
(90%)と肯定的な回
常生活と関連する内容としては,省エネを意識
答をする生徒の割合が多く,理科の学習に対す
した家電製品のしくみ,電気に関する単位のこ
る意識が全体的に高いことが分かった。それに
と,直流と交流の違いなどに興味があるという
対して,
「理科の授業で学習したことで疑問に思
記述がみられた。
ったことは調べたい」
(54%)
,
「成績とは関係の
34
(2) 単元設定の意図
また,回路図の作成やオームの法則の計算など
このような生徒の実態を踏まえて,本単元で
の知識・技能を習得させる場面では,学習内容
は生徒が主体的・協働的に学習に取り組む態度
を定着させるために「学び合い」活動を取り入
を育成することを目的として,課題を解決させ
れ,他者とかかわりながら課題を解決できるよ
る探究的な学習にアクティブ・ラーニングを取
うにした。具体的に「学び合い」がどのように行
り入れた授業を実施する。単元は,中学校第2
われるのかを橋本(2010)から引用する 13)。
学年の「電流の性質」を例に取りあげた。
子どもたちが,自分たちで教え合って授業を
現代社会において,電気は必要不可欠なエネ
進めていくということを理解したら,子どもに
ルギーである。普段使用している電気製品は,
その授業での課題を与えます。「今日の,この
電流に関する様々な法則や性質がうまく組み合
授業のゴール(めあて)は『全員が~をできる
わされて作られたものである。このようなこと
ようになる』です。みんなで教え合って,全員
から,電流に関する基本的な知識・技能を身に
がわかるようにしていこうね」と,まず,めあ
つけることはもちろん,日常生活と関連付けて
ては何か,授業の最後にどうなっていればよい
理解させることが大切である。 小学校では,第
のかを子どもたちがわかるように説明します。
3学年で豆電球を用いた回路・導体についての
(中略)たとえば「全員が植物の成長に何が必
基礎的内容を,第4学年で乾電池の数とつなぎ
要かを,他の人にわかるように説明できるよう
方,光電池のはたらき,第6学年で電気による
になる」などです。(中略)教師の「さあ,ど
発熱について学習している。
うぞ」という声かけで,子どもたちに動きを促
本単元の前半では,小学校での学習経験を基
します。(中略)誰かが動き出したり,友達に
に,回路の種類や電流,電圧の概念を習得する
質問したりしたら,それを評価しましょう。
「そ
とともに,電流計や電圧計などの実験器具の操
う,動いていいんだよ」「わからないことを聞
作技能,回路図を作成する技能を,実習を通し
けてえらい」。または笑顔でうなずくだけでも
て習得させる。後半では,様々な回路に流れる
通じます。それを見て,他の子どもたちも安心
電流や加わる電圧,抵抗の大きさを測定する実
して動き始めます。
験を行い,その結果を分析して解釈させること
この「学び合い」については,考えを同じくす
により,回路の電流や電圧,抵抗についての規
る三崎が「学び合いは考え方であり,その考え
則性を見出させることがねらいとなる。また,
方を享受した子どもたちが目標達成に向けて自
電力の違いによって発生する熱や光などの量に
分たちで動き始めた結果,学び合いの現象が自
違いがあることなどを,観察・実験を通して見
然発生する 14)」と述べるように,
「学び合い」が
出させ,日常生活や社会と関連付けて理解させ
単なる方法論ではなく,考え方(の原理)である
ることもねらいとなる。
ことを強調している。
本単元の観察・実験では,目的意識をもたせる
また,基本的に全ての授業の最後には「振り返
ような課題を設定して提示したり,実験方法や
り」をさせるようにする。この「振り返り」では,
実験結果のまとめ方を考案させたりするように
授業の内容をどれほど理解できたかということ
した。さらに,実験結果を基に考察する場面で
だけでなく,チームで協力できたか,チームに
は,話し合い活動を取り入れ,各グループの意
貢献できたか,人に説明することができたかな
見や考えをクラス全体で共有させるようにした。
ど,行動や態度についても記述させるようにす
35
る。教師は,この「振り返り」シートをノートや
部に加わる電圧についての規則性を見いだす
ワークシートと共に点検し,次の授業での行動
こと。
計画をコメントするようにする。
イ 電流・電圧と抵抗
金属線に加わる電圧と電流を測定する実験
(3) 単元目標
を行い,電圧と電流の関係を見いだすととも
電流回路についての観察・実験を通して,電流
に金属線には電気抵抗があることを見いだす
と電圧との関係及び電流の働きについて理解さ
こと。
せるとともに,日常生活と関連付けて電流と磁
ウ 電気とそのエネルギー
界についての初歩的な見方や考え方を養う。
ア
電流によって熱や光などを発生させる実験
回路と電流・電圧
を行い,電流から熱や光などが取り出せるこ
回路をつくり,回路の電流や電圧を測定す
と及び電力の違いによって発生する熱や光な
る実験を行い,回路の各点を流れる電流や各
どの量に違いがあることを見いだすこと。
(4) 単元の評価規準
自然事象への
関心・意欲・態度
・回路と電流・電圧,電
流・電圧と抵抗,電気と
そのエネルギーに関す
る事物・現象に進んで
関わり,それらを科学
的に探究しようとする
とともに,事象を日常
生活との関わりでみよ
うとする。
科学的な思考・表現
観察・実験の技能
・回路と電流・電圧,電
流・回路と抵抗,電気と
その電気エネルギーに
関する事物・現象の中
に問題を見いだし,目
的意識をもって観察・
実験などを行い,回路
における電流や電圧の
規則性,金属線に加わ
る電圧と電流の関係や
電気抵抗,電流による
熱や光の発生と電力と
の関係などについて自
らの考えを導き,表現
している。
・回路と電流・電圧,電
流・回路と抵抗,電気と
その電気エネルギーに
関する観察・実験の基
本操作を習得するとと
もに,観察・実験の計画
的な実施,結果の記録
や整理などの仕方を身
に付けている。
自然事象についての
知識・理解
・回路における電流や
電圧の規則性,金属線
に加わる電圧と電流の
関係や電気抵抗,電流
による熱や光の発生と
電力との関係などにつ
いて基本的な概念や原
理・法則を理解し,知識
を身に付けている。
(5) 単元計画
時
1
学習活動・学習内容
電流が流れる道すじ
【実験:回路をつくって電
流の流れ方を調べよう】
【実験:秘密の回路を調べ
指導上の留意点
○
回路を組み立てさせることで,電流
・回路に興味をもち,自ら進
の通り道に切れ目がないことに気づか
んで調べようとする【関】
せる。
○
電気用図記号と回路図
・回路を正しく組み立てるこ
実習を通して未知の回路のつながり
よう】
2
評価規準
とができる【技】
方を推測させる。
○
【実習:回路図の作成】
実体配線図をもとに回路図を作成さ
せ,電気用図記号や回路図のかき方を
身につけさせる。
○
「学び合い」を通して,分かる生徒
が分からない生徒への理解を促す。
36
・回路図を正しく作成するこ
とができる【技】
・電気用図記号と回路図のか
き方を正しく理解している
【知】
3
回路の種類
直列回路と並列回路を組み立てる実
・直列回路と並列回路の違い
【実験:直列回路と並列回
習を通して,2つの回路の特徴を理解
を指摘することができる
路】
させる。
【思】
【実習:家庭の電気配線は
○
○
直列?並列?】
話し合い活動で考えをまとめて発表
4
電流と電圧
させる。
○
を理解している【知】
水流モデルを用いて電流と電圧につ
いて理解させる。
○
・直列回路と並列回路の特徴
・電流と電圧について,単位
や特徴を理解している【知】
電流計と電圧計の使い方の実習を通
して身につけさせる。
5
電流計と電圧計の使い方
○
電流計と電圧計の使い方の実習を通
【実習:電流計の使い方を
して身につけさせる。
身につけよう】
・電流計を正しく使い,電流
を測定することができる
【技】
【実験:電圧計の使い方を
・電圧計を正しく使い,電圧
身につけよう】
を測定することができる
【技】
・電流計・電圧計の目盛りの
読みや使い方について理解
している【知】
6
直列回路の電流と電圧
○
直列回路の電流と電圧を測定する実
・直列回路の電流と電圧の規
【実験:直列回路の電流と
験を通して,電流と電圧の規則性を見
則性を見いだすことができ
電圧の測定】
いださせる。
る【思】
○
話し合い活動で,直列回路の電流と
電圧の規則性を考え,発表させる。
・電流計と電圧計を正しく使
い,回路の各点の電流や電
圧を測定することができる
【技】
7
並列回路の電流と電圧
○
並列回路の電流と電圧を測定する実
・並列回路の電流と電圧の規
【実験:並列回路の電流と
験を通して,電流と電圧の規則性を見
則性を見いだすことができ
電圧の測定】
いださせる。
る【思】
○
話し合い活動で,並列回路の電流と
電圧の規則性を考え,発表させる。
・電流計と電圧計を正しく使
い,回路の各点の電流や電
圧を測定することができる
【技】
8
回路による電流と電圧の
○
・直列回路と並列回路での電
と並列回路での電流・電圧の規則性を
流の規則性を理解し,知識
違い
今までの実験の結果から,直列回路
まとめる。
を身につけている【知】
・直列回路と並列回路での電
圧の規則性を理解し,知識
を身につけている【知】
9
電流の強さは何で決まる
○
のか
実験結果の表をもとにグラフを作成
【実験:電流と電圧との関
係を調べよう】
させる。
○
・ 電流 と電圧 の関 係を予想
し,進んで調べようとする
実験方法や考察の仕方を話し合い活
動で発見させる。
【関】
・電源装置を正しく使い,電
圧と電流を同時に測定し,
グラフに表すことができる
【技】
37
10
オームの法則
○
・実験の結果から,電圧と電
の間の規則性を見いださせ,電気抵抗
流との間の規則性を見いだ
について理解させる。
すことができる【思】
導体と不導体
前時の実験結果から,電圧と電流と
・電気抵抗について理解し,
知識を身につけている【知】
11
オームの法則の活用
ジグソー法で実験することによっ
・実験の結果から,電圧と電
【実験:未知の電気抵抗の
○
て,電流と電圧の関係から未知の抵抗
流との間の規則性を見いだ
大きさを調べる】
の大きさを調べさせる。
し,未知の抵抗の大きさを
【実験:電球にかかる電圧
求めることができる【思】
と流れる電流】
・電源装置を正しく使い,電
圧と電流を同時に測定し,
グラフに表すことができる
【技】
12
回路全体の抵抗
○
オームの法則を復習し,直列回路と
・電気抵抗のつなぎ方による
並列回路の全体の抵抗を計算によって
全体の電気抵抗の大きさの
求めさせる。
変化を見いだすことができ
る【思】
・回路に成り立つ諸法則を用
いて,未知の電流や電圧,
電気抵抗を計算することが
できる【知】
13
復習
○
オームの法則についての練習問題を
【実習:電流・電圧・抵抗・
解き,その解き方を全員が,他の人に
オームの法則】
説明することができる。
○
・他者と協力して課題を解決
しようしている【関】
協働学習を通して,分かる生徒が分
からない生徒への理解を促す。
14
電流のはたらきはどのよ
○
・電気器具のはたらきに興味
物体を動かしたりするはたらきがあ
をもち,進んで発表しよう
り,電気器具の電力の違いによって発
とする【関】
うに表したらよいのか
電流には光や音,熱を発生したり,
生する光や熱の量に違いがあることを
理解させる。
15
電流による発熱量を決め
を身につけている【知】
電熱線の発熱と電力の関係を調べる
・電力と発生する熱量との関
るもの
実験から,時間が同じ場合,電力が大
係に関心をもち,進んで発
【実験:電熱線の発熱量が
きいほど電熱線の発熱が大きいことを
表しようとする【関】
何によって決まるのか調
見いださせる。
べよう】
○
・電力について理解し,知識
○
・水の温度の上昇は,電力や
実験方法や考察の仕方を話し合い活
動で発見させる。
電流を流す時間と比例関係
にあることが指摘できる
【思】
16
実験のまとめ
○
前時の実験結果から,電流による熱
・実験の結果から,電力と発
は,時間と電力に比例することを見い
生した熱量との関係を見い
ださせる。
だすことができる【思】
・電流による熱は,時間と電
力に比例することを説明で
きる【知】
38
3
ポイントとなる授業の実際
が説明できる」ためにはどのようにすれば良い
(1) 第9時 電流の強さは何で決まるのか【実
のかを次のように説明した。
験:電流と電圧との関係を調べよう】
「全員が説明できるというのは,班の誰かが説
課題の設定
明できれば良いのでなくて,一人残らず全員が
授業の導入において,豆電球を乾電池1つで
きちんと説明できるようにならなければいけま
光らせる様子を演示しながら,豆電球をより明
せん。誰か説明できない人がいれば,今日の目
るく光らせる方法を考えさせた。この内容は小
標を達成したことになりません。だから,課題
学校で学習していることもあり,生徒からすぐ
を解決できた人は,まだわかっていない人に教
に「電池を2個にすれば良い」と答えが返って
えてあげてください。」
きた。この答えを受けて,次に写真Ⅴ-1のよ
このように授業内容についての目標と併せて,
うに乾電池2個を並列につないで,明るさが変
「人に説明する」,
「質問する」,
「班で協力する」
わらない様子を演示した。すると,生徒たちは
などの態度目標を示してあげることで,課題を
すぐに思い出したように「電池を直列につなげ
協働的に解決するように促した。
る」と答えを言い直すことができた。導入にお
実験方法の考案
いて,あえてこのような「揺さぶり」をかけるこ
生徒実験では,豆電球の代わりに抵抗器を用
とによって,電流の回路では「何を何個つなげ
いて,抵抗器に加わる電圧と電流の規則性を調
る」だけでなく「つなぎ方」によって結果が違っ
べさせた。その際,電圧と電流を同時に測定す
てくることを意識させるようにした。
る方法を生徒に考えさせるようにした。
演示実験を見せたあと,電池を直列に2個つ
まず,電流と電圧を同時に測ることができる
なげると豆電球が明るくなった理由を考えさせ
回路図をホワイトボードに設計図として書かせ,
た。生徒からは「電圧が2倍になったから」や
教師がホワイトボードに描かれた回路図を点検
「電流が2倍になったから」という意見がおよ
し,安全の確認をしてから班ごとに実験を開始
そ半々で返ってきた。そこで,電球の明るさを
させるようにした。各班で実験方法を考えなけ
決めるものは何かを調べることを本時の課題に
ればならないため,電流計と電圧計のつなぎ方
設定した。
を確認するなど,自然と班のメンバーとコミュ
ニケーションを取りながら試行錯誤する様子が
見られた(写真Ⅴ-2)
。
写真Ⅴ-1 演示実験の提示場面
到達目標の具体化
写真Ⅴ-2 実験方法を考案する場面
前述の課題を受けて,本時の到達目標は「電
実験結果の処理・考察
池を直列に2個つなぐと豆電球が明るくなる理
また,実験結果のまとめ方も生徒に考えさせ
由を全員が説明できるようになる」に設定した。
るようにした。以下の表は,ある班の発話をま
この到達目標をスクリーンに映しながら,
「全員
39
とめ,分析したものである。
徒自ら観察の視点や考える方向性を定めること
ができるようになると考えた。このように,生
S1:
(ワークシートの表を指さしながら)こっ
徒に主体的に考えさせ,話し合う必然性を持た
ちは電圧なん?電流なん?
せることで協働的な学びが促進される。
S2:
(教科書をめくりながら)どっちでもいい
次に,実験結果を基に考察する場面では,どの
んちがう?
ようにすれば規則性を見つけ出すことができる
S3:電圧が 10V までしか測ったらあかんって
か考えさせるようにした。そして,写真Ⅴ-3
先生言ってたやん。
のように各班で行った実験方法や話し合った内
S1:じゃあ,電圧を変えよか。
(独立変数に「電
容を教室の前で共有することによって,他の班
圧」
,従属変数に「電流」と記入)
S1:これ「0(V)
」から測らなあかんねんな?
の考えと共有させることができた。授業の最後
S3:前は「0(V)
」から測ったな。
(以前のノ
には,本時の課題である「電池を直列に2個つ
なぐと豆電球が明るくなる理由」をワークシー
ートを見返す)
トに記入させた。
S2:
「0(V)
」なんか測る意味あるん。
「0(A)
」
やん。
T:
「0V」を測るってどう意味があるのかな?
S3:
「0(V)
」のときに「0(A)
」じゃないか
もしれへんからやろ。
S2:
(教師の方を向いて)そう?
T:
「0V」のときに「0A」になるって,もう分
かってるの?
写真Ⅴ-3 実験の考察の場面
S2:分からない。
(2)
S1:
(欄に「0」と記入)
「0(V)
」の次は何
第2時
電気用図記号と回路図【実習:
回路図の作成】
にする?最大 10(V)やろ。
第2時「電気用図記号と回路図」では,実体配
S3:
(表の欄が残り5個あるのを数える)
S2:間が同じ方がいいやろ?
線図から回路図を作成する技能を習得させるた
S3:
(表を指さしながら)
「2(V)
」ずつやっ
めに,
「学び合い」を取り入れた。
「学び合い」を
たら最大「10(V)
」になるで。
取り入れた授業では,スライドを用いながら,
S2:2,4,6,8,10 って書いて。
約 15 分間で学習内容を説明した。その後,課題
S1:
(欄に「2,4,6,8,10」と記入)
演習などのグループワークを通して学び合い・
教え合う,協働的な学習を行い,最後に確認テ
結果のまとめ方では,電流と電圧の関係を「表」
にしてまとめることは簡単に予想がついても,
ストと振り返りを行った。
「電流」と「電圧」のどちらを独立変数にするの
到達目標の具体化
まず,授業の始めに本時の課題である「クラス
か,また測定する数値の間隔はどのようにすれ
ばよいのか,ゼロから測らないといけないのか,
全員が正しく回路図を作ることができる」をス
などを各班で考えなければいけない。その際,
クリーンに映し,授業の取り組み方について説
教師は生徒の学びを把握しながら,質問で介入
明した。事前に,
「教える側の生徒には,教える
するようにした。問い直してあげることで,生
ことで自分の理解がさらに深まること,教えて
40
もらう側には,質問に答えることで相手の理解
ら,生徒が聴くだけになってしまわないように
も深まること」を伝えているため,自分一人だ
気を配るようにした。
けでなく,クラス全員が回路図を正確にかける
振り返り
ようにするためにはどのようにすれば良いかを
課題演習を時間内に終わらせ,確認テストを
考えさせるようにした。
行う。確認テストの一部はグループで取り組ん
次に,電気用図記号と回路図の書き方につい
だものと同じ問題であるが,解答の過程を確か
て説明をした後,実体配線図から回路図をかか
めながら再度自分で解かせることで,解き方を
せる例題を解かせた(写真Ⅴ-4)。代表生徒に
定着させることができる。また,同じ問題であ
自分の答えを板書してもらい,教師が回路図の
れば満点を取りやすいため,生徒の学ぶ意欲を
書き方のポイントをおさえながら添削した。
高めることにも繋がると考えた。そして,最後
に振り返りシートを記入させ,回収した。
確認テストを採点した結果,80%以上の生徒が
満点をとることでき,その他の生徒も電気用図
記号の書き間違いなどで1問のみ間違えた生徒
が多かった。普段の小テストを苦手としている
生徒が,多数満点をとれていたことは特筆すべ
きことである。
写真Ⅴ-4 生徒に例題を解かせる場面
学び合い
4 考察(成果と課題)
続いて,練習問題 10 問を印刷したプリントを
配布し,解けない問題や分からない部分がある
学習記録や生徒を対象にした質問紙調査等か
場合は,教師が答えるのではなく,グループで
ら,アクティブ・ラーニングを取り入れた探究
教え合ったり,さらには他のグループに聞きに
的な学習が,生徒の主体的・協働的に学習に取
行ったりすることを奨励した。「さあ,どうぞ」
り組む態度の育成に有効であったかを検証する。
と動くことを促すと,始めは個人で問題を解い
(1) 意識の変容について
事前・事後調査(4段階評定尺度法)によって,
ているが,徐々に他の子に教える生徒,教わる
ために移動する生徒が出て動きはじめ,グルー
対象生徒の探究的な学習,主体的な学習,協働
プが生まれていった。やがて,写真Ⅴ-5のよ
的な学習に関する意識の変容について考察する。
うに,グループ同士の交流が始まり,多くの生
なお,事前・事後調査の質問項目は,平成 27 年
徒が課題を達成することができた。この間,教
度全国学力・学習状況調査,及び国際数学・理科
師は机間支援を行い,適宜生徒に声をかけなが
教育動向調査(TIMSS)の質問紙の項目 15)16)を参
考に作成したものである。
1)
アクティブ・ラーニングを取り入れた探究
的な学習に関する意識
事前調査の平均点と事後調査の平均点の差が
統計的に有意か確かめるために,有意水準5%で
両側検定の t 検定を行ったところ,次の4項目
で学習の前後の平均点の差が有意であることが
写真Ⅴ-5 学び合いをする場面
41
わかった(図Ⅴ-2)
。つまり,探究的な学習に
・観察や実験を始める前に,準備する物や調
関する以下の4項目を意識して学習する生徒が
べる方法を考えている〔t(71)=2.46,p<.02〕
増加した。
・観察や実験の結果をもとに考察している
〔t(71)=2.14,p<.04〕
事前調査において,観察や実験に対して「結果
を予想」し,
「調べる方法」を考えている生徒が
少なく,探究的な学習が十分になされていない
ことが課題であった。そこで今回の授業では,
課題の設定を工夫して具体的な到達目標を示し,
目的意識をもたせた上で課題を解決させるよう
にした。その結果,授業の目的を理解し,検証計
画を立案してから観察・実験を行い,結果をも
とに考察するという科学的に探究する態度が養
われたと考える。
2)
主体的な学習に関する意識
事前調査の平均点と事後調査の平均点の差が
統計的に有意か確かめるために,有意水準5%で
両側検定の t 検定を行ったところ,次の2項目
で学習の前後の平均点の差が有意であることが
わかった(図Ⅴ-3)
。つまり,主体的な学習に
関する以下の2項目を意識して学習する生徒が
増加した。
図Ⅴ-2 探究的な学習に関する意識
・毎時間,授業の目的を理解して,授業を受け
ている〔t(71)=2.36,p<.02〕
・観察や実験を始める前に,結果を予想して
図Ⅴ-3 主体的な学習に関する意識
いる〔t(71)=2.43,p<.02〕
42
両側検定の t 検定を行ったところ,次の3項目
・理科の授業で学習したことで,疑問に思っ
たことは調べたい〔t(71)=2.56,p<.01〕
で学習の前後の平均点の差が有意であることが
・成績とは関係ない問題でも面白い問題なら
わかった(図Ⅴ-4)
。つまり,協働的な学習に
解きたい〔t(71)=2.57,p<.01〕
関する以下の3項目を意識して学習する生徒が
事前調査では,理科で学習した知識・技能を
増加した。
活用して問題を解決する意欲に課題があった。
・理科の授業で,自分の意見や考察をまわり
今回の授業では,目的意識をもたせた上で課題
の人に説明している〔t(71)=2.18,p<.03〕
を解決させるようにした。その結果,生徒は学
・グループだと友達の意見が聞けて,自分の
知識が増える〔t(71)=2.51,p<.01〕
習に充実感や達成感をもつことができ,進んで
問題を解決したいという主体的に問題を解決す
・できない問題をみんなで助け合ってできる
ようにしたい〔t(71)=2.14,p<.04〕
る態度を養うことができたと考える。
3)
協働的な学習に関する意識
また,
「みんなで問題を考えたり,学び合った
事前調査の平均点と事後調査の平均点の差が
りする授業をこれからも続けてほしいですか」
統計的に有意か確かめるために,有意水準5%で
という質問に対して,97%の生徒が肯定的な回
答していた。今回の授業では,実験の方法や実
験結果の処理方法,考察の仕方を生徒に考えさ
せるなど,話す必然性をもたせることによって
協働的に学び合うようにした。その結果,生徒
の感想にも「いろんな人の考えが聞けて楽しい」
「友達なら質問しやすい」
「友達に教えるともっ
とよくわかる」とあるように,協働的に学習す
る意義に気づき,協働の価値を学ぶことができ
た生徒が増加したと考える。
一方,協働的な学習に否定的な回答をした生
徒は,
「一人でするより時間がかかる」ことを理
由に挙げていた。つまり,一人で課題を解決す
ることができる生徒にとっては,他の生徒と協
働して学習することに意義を見いだせず,時間
がかかることを心配していた。このことから,
すべての生徒に協働的に学習する態度を養うに
は,一人だけでは解決できないような発展的な
課題を設定することによって,話し合う必然性
をもたせる必要があると考える。
(2) 成果と今後の課題
以上から,課題を解決させる探究的な学習に
アクティブ・ラーニングを取り入れた授業を実
図Ⅴ-4 協働的な学習に関する意識
43
践することにより,生徒の課題の解決に向けて
6) 大阪市教育委員会.平成 27 年度 大阪市「全
主体的・協働的に学習に取り組む態度の育成に
国学力・学習状況調査」の結果について.2015,
一定の成果を見ることができた。このように,
pp.25-28.
アクティブ・ラーニングを取り入れた探究的な
7) 下村博文.前掲書
学習を中学校3ヵ年通して行うことによって,
8) 田代直幸,山口晃弘.中学校理科 9つの視
さらに主体的に課題を解決する態度や,他者と
点でアクティブ・ラーニング.東洋館出版社.
コミュニケーションをとりながら協働的に問題
2015,p.13.
を解決するといった実社会で活用できる資質・
9) 角屋重樹.なぜ,理科を教えるのか-理科教
能力を養うことができると考える。しかし,生
育がわかる教科書-.文渓堂.2013,pp.76-78.
徒の学びの質を高めるには,生徒の学びに応じ
10) 日本理科教育学会.理科の教育 Vol.65,
て発展的な課題を設定するなどの必要があるこ
No.762,東洋館出版社,2016,p.39.
とが明らかとなった。
11) 田村学.授業を磨く.東洋館出版社.2015,
理科の授業では,探究的な学習やグループご
p.20.
とに観察・実験を取り入れ,生徒どうしが互い
12) 石井英真.今求められる学力と学びとは-
に関与する協働的な学びの場面が設定されてい
コンピテンシー・ベースのカリキュラムの光
る
17)
。しかし,探究の過程だけを重視するので
と影-.日本標準.2015,p.23.
なく,生徒の学びの質と照らし合わせながら,
13) 西川純.
「学び合い」スタートブック.学陽
これまで行ってきた理科の授業を,アクティブ・
書房.2010,p.45.
ラーニングの視点から再評価する必要があるの
14) 三崎隆.
「学び合い」入門-これで,分から
ではなかろうか。
ない子が誰もいなくなる!-.大学教育出版.
2010,p.67.
15) 国立教育政策研究所.平成 27 年度全国学
注)
力・学習状況調査報告書 生徒質問紙,2015.
1) 国立教育政策研究所.国研ライブラリー 資
http://www.nier.go.jp/15chousa/pdf/15shi
質・能力〔理論編〕.東洋館出版社.2016,
tumonshi_chuu_seito.pdf
pp.12-15.
16) 国立教育政策研究所.IEA国際数学・理
2) 下村博文.初等中等教育における教育課程の
科教育動向調査の 2011 年調査(TIMSS2011)
基準等の在り方について(諮問)
.文部科学省,
国際比較結果の概要・問題例,2011.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chuk
http://www.nier.go.jp/timss/2011/T11_gai
yo/chukyo0/toushin/1353440.htm
you.pdf
(参照 2014-11-20)
17) 日本理科教育学会.理科の教育 Vol.64,
3) 文部科学省.中学校学習指導要領解説 理科
No.760,東洋館出版社.2015,p.4.
編.大日本図書.2008,p.17.
4) 文部科学省.前掲書,p.17.
5) 国立教育政策研究所.平成 27 年度全国学力・
学習状況調査報告書
中学校理科.2015,
pp.8-9.
44
Ⅵ
に取り組み,納得解を見つけ,事象についての科
研究のまとめと今後の課題
学的説明ができるようになった。
本研究では,21世紀型能力の育成をめざした
中学校理科では,課題を解決させる探究的な学
授業づくりのために,知の創造を可能とする協調
習に,アクティブラーニングを取り入れた。具体
学習の条件について整理し,授業改善の視点を具
的に,課題設定,到達目標の具体化,実験方法の
体化し,その効果について追究してきた。
考案についての工夫を授業に取り入れることに
はじめに,教育現場における協調的な学びの実
より,生徒が主体的・協働的に学習に取り組む態
態と知の創造を可能とする協調学習についての
度を育成することができた。
先行研究を整理し,授業改善の視点を「課題設定」
今後さらに,21世紀型能力の育成をめざした
と「教師のコミュニケーション介入」と設定した。
授業改善の取り組みを継続していかなければな
次に,
「課題設定」と「コミュニケーション介入」
らない。その際には,方法論に傾いた授業改善で
についての先行研究を踏まえて,本研究における
はなく,子ども主体の学びとは何か,質の高い対
協調学習を促進するための工夫を次のように考
話とはどのようなものなのかを問い続けながら
えた。
日々の授業実践を積み重ねていくことが大切で
・個々の学びが表出する「活動」を学習に直結す
あると考える。
る核になる概念と捉え,
「活動」の質を考える。
また,そのことが,適切な課題設定につながる。
おわりに
・21世紀型能力の育成をめざして,以下の3点
を考慮した「活動」を設定する。
これからの社会は,ますます他者と協働して新
➀活動の目標が明快である。
しい知を創造し,発信できる能力が求められる。
②活動そのものにおもしろさがある。
現在,学校教育においても協調的学習を取り入れ
③葛藤の要素が含まれている。
た授業実践が行われている。しかし,協調的学習
・
「対話」の質の向上のために,
「操作的」トラン
が形式化されたもの,手続き化されたものであれ
ザクションを促進するようなコミュニケーシ
ば,知の創造はおこらず,21 世紀型能力の育成も
ョン介入をめざす。
期待できないであろう。
これらの考えを基にして,教科の特性に応じた
今,教師に求められるのは,子どもをどのよう
授業をデザインし,研究協力校の協力を得て授業
な存在とみなし,学びをどのように捉えるのか,
を実施した。授業実践の結果,次のような成果を
ということを再考し,日々の授業実践につなげて
得た。
いくことではないだろうか。
小学校算数科では,協調的学びを可能とするた
今後も,21 世紀型能力の育成をめざした授業展
めの「活動」と教師の「介入」について工夫した
開が要請されるなか,現場の先生方が日々の授業
授業実践に取組むことによって,子どもの思考が
実践において,授業改善の視点を示した先行研究
深まったり,対話が自然に生まれる空間をつくっ
として本稿がその役割を果たせるなら幸いであ
たりすることができ,子どもが問題解決のプロセ
る。多くの方々のご指導ご叱正をお願いする次第
スに楽しさを感じたり,学びの場を楽しんだりす
である。
ることができた。
なお,本研究における授業実施にあたり,忙し
小学校理科では,子ども主体の問題解決をめざ
い時間を割いてご協力いただいた関係の方々に
し,単元導入のあり方,子どもの思考の流れを大
対して心から感謝申し上げる次第である。とりわ
切にした問題解決,考える必然性を生み出す工夫
け,授業実践者には,授業実践や資料提供をいた
をすることによって,子どもが主体的に問題解決
だいた。
45
〈研究協力校〉
大阪市立長居小学校
大阪市立阪南小学校
大阪市立豊崎本庄小学校
大阪市立田辺中学校
〈執筆担当者〉
國 光 妙 子 はじめに,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ
工 藤 健 司 Ⅳ,Ⅵ,おわりに
米田典生 Ⅴ
46
研究紀要
第 211 号
平成 28(2016)年 3 月 31 日
発行所
大 阪 市 教 育 セ ン タ ー
552-0007
電
話
発行者
発行
大阪市港区弁天 1-1-6
06( 6572) 0667
林田
国彦
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