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ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する基本計画 (第 2 期

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ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する基本計画 (第 2 期
ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する基本計画
(第 2 期)
平成23 年4月
滋
賀
県
序章 はじめに.................................................................... 1
1 計画策定の趣旨.............................................................. 1
2 計画の位置付け.............................................................. 2
3 計画の期間.................................................................. 2
第1章 滋賀県の野生動植物の現状と課題............................................ 3
1 滋賀県の野生動植物の現状.................................................... 3
2 野生動植物の生息・生育環境等の変化.......................................... 4
(1)天然林の減少等.......................................................... 4
(2)農地環境の変化.......................................................... 5
(3)内湖、自然湖岸、ヨシ群落、河畔林の減少.................................. 6
(4)環境汚染物質等の排出.................................................... 6
(5)人による捕獲・採取...................................................... 6
(6)里地里山における人間活動の変化.......................................... 6
3 野生動植物種との共生に関する現状と課題...................................... 7
(1)希少野生動植物種の絶滅のおそれ.......................................... 7
(2)外来種の移入(導入)と定着................................................ 7
(3)野生鳥獣種による農林水産業等被害の深刻化................................ 8
4 野生動植物に関する国の取組................................................. 11
(1)希少野生動植物種対策................................................... 11
(2)外来種対策............................................................. 11
第2章 野生動植物との共生に関する基本方針および長期的な目標..................... 12
1 基本方針................................................................... 12
(1)保 全................................................................. 12
(2)再 生................................................................. 12
(3)ネットワーク化......................................................... 13
(4)持続可能な利用......................................................... 13
(5)野生鳥獣と人との適切な関係の構築....................................... 14
(6)野生動植物との共生に関する県民意識の向上............................... 14
2 長期的な目標............................................................... 14
(1)野生動植物の生息・生育環境の保全および再生ならびにネットワーク化 ....... 14
(2)希少野生動植物種の保護................................................. 14
(3)外来種による生態系等に係る被害の防止................................... 15
(4)野生鳥獣種による農林水産業等に係る被害の防止........................... 15
第3章 野生動植物との共生に関し講ずべき施策..................................... 16
1 第1期計画期間中に実施された取組の評価と課題............................... 16
2 野生動植物の生息・生育環境の保全および再生ならびにネットワーク化........... 17
(1)長期構想の実現......................................................... 17
(2)野生動植物の生息・生育環境の保全....................................... 17
(3)野生動植物の生息・生育環境の再生....................................... 18
(4)開発に当たっての配慮................................................... 21
3 希少野生動植物種の保護..................................................... 23
(1)希少野生動植物種の指定................................................. 23
(2)捕獲・採取の禁止等..................................................... 24
(3)生息・生育地保護区の指定による生息・生育地の保護....................... 24
(4)保護増殖事業........................................................... 25
(5)希少野生動植物種調査監視指導員......................................... 26
(6)
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に基づく取組.................. 26
4 外来種による生態系等に係る被害の防止....................................... 26
(1)指定外来種の指定....................................................... 26
(2)指定外来種の個体の取扱い............................................... 27
(3)野外への放逐の禁止..................................................... 28
(4)販売時の説明........................................................... 28
(5)防除の実施............................................................. 28
(6)緑化における配慮....................................................... 30
(7)
「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」に基づく取組 .......... 30
5 野生鳥獣種による農林水産業等に係る被害の防止............................... 30
(1)
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に基づく取組.................. 30
(2)
「条例」に基づく取組.................................................... 31
(3)指定野生鳥獣種の種類ごとの対策......................................... 32
第4章 野生動植物との共生に関する推進体制....................................... 37
1 推進組織................................................................... 37
2 生息・生育状況のモニタリング............................................... 37
(1)生きもの総合調査....................................................... 37
(2)野生鳥獣種に関する生息状況等の調査..................................... 37
(3)県の試験研究機関による調査............................................. 38
3 県民等との協働の推進....................................................... 38
(1)住民との協働による自然環境保全・再生活動の推進......................... 39
(2)生きもの生息地等保護協定............................................... 39
(3)自然体験活動の促進..................................................... 39
(4)調査研究に当たっての県民等との協力..................................... 40
(5)野生動植物に係る人材の育成............................................. 40
(6)広報・支援等........................................................... 40
4 基本計画の点検と見直し..................................................... 40
序章 はじめに
1 計画策定の趣旨
よく
滋賀県は、世界屈指の古代湖である琵琶湖を擁し、その周囲に肥沃な平野が
ひろがるとともに、鈴鹿山脈、伊吹山地、比良山地、比叡山地等の山々に取り
囲まれ、陸地部の 60%が森林に覆われる多様で豊かな自然環境を有しています。
これらの自然環境は、長い歴史の中で人の営みと一体となっている上に、これ
らを生息・生育の場とする多様な生きものを育んできました。滋賀県において
は、1 万種を超える野生動植物(外来種を除く。以下同じ)が生息・生育し、本
県あるいは琵琶湖水系だけにしかいない固有種も 60 種以上あり、生物の多様性
の宝庫となっています。
こうした多種多様な野生動植物は、
約 40 億年の生物の進化のたまものであり、
それ自体が尊重されるべきものです。また、多種多様な野生動植物は、人類の
生存の基盤である生態系の基本的構成要素であり、日光、大気、水、土壌とあ
いまって、物質循環やエネルギーの流れを担うとともに、その多様性によって
生態系のバランスを維持しています。野生動植物はまた、食料、衣料、医薬品
等の資源として利用されているほか、学術研究、芸術、文化の対象として、さ
らに生活に潤いや安らぎをもたらす存在として、人類の豊かな生活に欠かすこ
とのできない役割を果たしています。
しかしながら、人がこれまで生活の利便性の向上を追求してきた中で、地域
開発が進み、野生動植物の生息・生育環境は急速に劣化、悪化しつつあり、特
定の野生動植物の過剰な捕獲・採取も加わって、滋賀県の生物の多様性は、今
や危機的な状況にあります。平成 18 年 3 月に発刊した「滋賀県で大切にすべき
野生生物∼滋賀県レッドデータブック 2005 年版∼」
(以下「県版 RDB2005」とい
う。
)では、684 種の野生動植物が絶滅の危機に瀕していると評価されています。
さらに、外国や県外の地域を本来の生息・生育地とする外来の生物が野外で
増殖し、在来の野生動植物を駆逐したり、農林水産業への被害を及ぼしたりす
るようになってきました。これにより、在来の野生動植物の減少に拍車がかか
り、滋賀に生息する野生動植物の様相が一変してしまうおそれがあります。
一方、近年まで人とのすみ分けがなされていた野生動物の一部が、その生息・
生育環境の様々な変化に起因して、人の生活・生産の場へも進出するようにな
あつれき
り、農林水産業等に深刻な被害を及ぼす等、野生動物と人との軋轢が生じてい
る状況も出てきました。
1
こうした野生動植物を巡る様々な課題を解決し、滋賀県の豊かな生物の多様
性を将来の世代へと引き継いでいくためには、多種多様な在来の野生動植物と
人とが適切にすみ分け、良好な関係を保ちながら、共生していく社会を築いて
いくことが必要です。
このため、野生動植物との共生に関する長期的な目標を掲げ、県、県民、事業
者等が連携して、総合的・計画的に施策を推進するため、本計画を策定すること
としました。
2 計画の位置付け
本計画は、
「ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する条例」
(以下「条例」
という。
)第8条に規定する野生動植物との共生に関する施策の総合的かつ計画
的な推進を図るための基本的な計画として策定するものであり、野生動植物と
の共生に関する基本方針、長期的な目標、講ずべき施策等を示すものです。
県の他の計画との関係については、環境行政の上位計画である「第三次滋賀
県環境総合計画」
(平成 21 年 12 月策定)
、
「滋賀県自然環境保全基本方針」
(昭
和 50 年 4 月策定)
、琵琶湖の総合保全整備計画である「マザーレイク 21 計画」
(平成 12 年 3 月策定)と整合したものとします。また、湖辺域における野生動
植物の生息・生育環境の保全、再生およびネットワーク化に関しては、水域と
陸域の推移帯(エコトーン)を保全、整備するための指針である「水辺エコト
ーンマスタープラン」
(平成 16 年 3 月策定)と調和したものとします。
3 計画の期間
本計画は、マザーレイク 21 計画の計画期間との整合性を図り、当初計画策定
時の平成 18 年からおおむね 50 年後である平成 68 年(2056 年)頃の滋賀の野生動
植物と人との共生のあり方についての将来像を視野に入れつつ、これを実現し
ていくための平成 23 年度∼27 年度までの 5 年間の施策の方向性を示すものとし
ます。
2
第1章 滋賀県の野生動植物の現状と課題
1 滋賀県の野生動植物の現状
滋賀県は周囲を山地・山脈に囲まれた盆地地形をなし、中央部には県域の 6 分
の 1 の面積を占める琵琶湖が位置しています。本州のほぼ中央の最狭部に位置す
るため、県域は日本海型気候と太平洋型気候双方の影響を強く受けます。特に北
部は有数の多雪地帯、南端部は近畿地方でも最も内陸的な気候を示す等、滋賀県
の気候は内陸県でありながら変化に富んだものになっています。
こうした地理・地形・気候条件を反映し、県内の植生は標高に従って琵琶湖を
中心とする同心円状に変化しています。山地・山脈で標高 600m付近を境にして、
それより高い山地部は冷温帯のブナクラス域、それより低い山地部から丘陵地、
沖積平野にかけては暖温帯のヤブツバキクラス域となっています。また、両クラ
ス域の間にはモミ林やツガ林等の中間温帯林が見られることもあります。
ブナクラス域の自然植生はブナ林で代表されますが、地形・地質、風当たり等
の環境条件の相違によって、局所的にはオオイタヤメイゲツ林やサワグルミ林等
の湿性林、タニウツギ低木林、ツツジ科植物低木林、ササ群落、またアカソ、シ
ュロソウ、ルリトラノオ、コイブキアザミ、オオバギボウシ等の混生する高茎草
原等が見られ、一方、伐採等の人為的影響を受けた後に成立した植生は代償植生
と呼ばれ、冷温帯の地域にはミズナラ林やシロモジ林等が広く発達しています。
ヤブツバキクラス域の自然植生は、カシ類やシイ、タブノキ等の優占する常緑広
葉樹林で、社寺林や山麓に局所的に分布しています。暖温帯の地域における代償
植生としてはアカマツ林やクヌギ、コナラ、アベマキ等の落葉広葉樹が混生した
二次林が山地部の下部や山麓に広く発達しています。
ただし、戦後の拡大造林等の推進により、これらの自然植生および代償植生の
森林がスギ、ヒノキ等の人工林に置き換わっているところが、実際には半分近く
を占めるようになっています。
水域に隣接し、または関係の深い植生としては、ケヤキ、ムクノキ、エノキ等
の落葉広葉樹とマダケやモウソウチク等のタケ類が混生した河畔林が平野部の
大河川沿いに発達し、湖岸沿いの湿潤な立地にはヤナギ林、ハンノキ林、ヨシ群
落が帯状に分布しています。また、湖岸の砂浜にはハマヒルガオ、ハマエンドウ、
ハマゴウ等の優占する海浜性砂地植物群落が局所的に生育し、冷温帯および暖温
帯の地域の湿原や沼沢地、湛水地等にはミツガシワ、リュウキンカ、サギソウ等
の生育する湿生植物群落が点在しています。
こうした多様な植生環境を反映して、滋賀県は動物相も豊かです。山地の稜線
3
部にはイヌワシやニホンカモシカが見られ、ブナ林をはじめとする奥山林はツキ
ノワグマやヤマネ、コノハズク等のすみかにもなっています。二次林やため池、
水田の広がる里地里山は、ダルマガエル、メダカ、ギフチョウ、タガメ等、身近
な小動物たちでにぎわった場所です。
一方、世界有数の歴史を持つ古代湖である琵琶湖は、多様な環境を持つことか
ら固有種の進化の舞台となっており、ビワマス、ニゴロブナ、ビワコオオナマズ、
セタシジミ、ビワオオウズムシ等はよく知られた固有種です。また、広大な琵琶
湖の水面は多くの水鳥に利用され、冬季にはオオヒシクイ、コハクチョウをはじ
めとする多くのガン・カモ類が飛来します。こうした水鳥の飛来地であることか
ら、平成 5 年に、琵琶湖は湿地の保全を目的としたラムサール条約の登録湿地と
なりました。
このように滋賀県は、豊かな自然環境のもと、多種多様な野生動植物を育み、
その種数は優に 1 万種を超え、滋賀県あるいは琵琶湖水系の固有種は 60 種以上
を数えます。
2 野生動植物の生息・生育環境等の変化
(1)天然林の減少等
滋賀県の森林は、近畿の水源である琵琶湖の周囲を取り巻き、平成 21 年 3
月現在、その面積は 202,025ha で県土の陸地部の 60%を占めており、そのう
ち人工林は 84,804ha で県土の陸地部の 25%となっています。この森林は、野
生動植物の重要な生息・生育空間となっています。特に、ツキノワグマ等の
ほ
きん
大型哺乳類、イヌワシやクマタカといった猛禽類等食物連鎖の頂点に位置す
る動物は、森林を主要な生息場所としており、こうした動物の存在はこれを
支える豊かな自然があることを示しています。
しかしながら、野生動植物の生息・生育地として重要な天然林の面積は、
拡大造林や各種の開発事業等による伐採により、昭和 40 年度の約 157,700ha
から平成 21 年度には約 110,000ha へと減少し、野生動植物の重要な生息・
生育環境を直接的に変化させてきました。
こうした天然林の減少が、イヌワシやクマタカの生息環境に影響を及ぼす
一因となりました。また、ブナ林等の落葉広葉樹林の減少が、ニホンザルや
ツキノワグマ等の採食場所を奪い、人里へ出没する原因の一つであると推察
されています。さらに、奥山において、開発事業が進展したところでは、生
息環境が分断され、野生動物の移動が妨げられるようになりました。
また、1960 年代まで薪炭林として人が手入れをしていたいわゆる「里山」
4
と呼ばれる地域では、林床の明るいクヌギやコナラなどの落葉広葉樹林があ
り、野生動植物の生息・生育地となっていました。しかし、農家・林家の減
少、過疎化、生活・生産様式の変化等により、人の手が入らなくなったこと
から、かつての里山は竹林や林床がやぶに覆われた状態に変わっています。
加えて、最近は「カシノナガキクイムシ」によってミズナラやコナラが枯
れる「ナラ枯れ」が大規模に発生しており、山林の景観悪化や生態系の変化
が懸念されています。
このような中、
「琵琶湖森林づくり条例」に基づき、木材生産を中心とす
る林業の振興だけでなく、環境を重視した森林づくりを目指して、放置され
た人工林を強度間伐することによって環境が豊かで生態系に富み、針葉樹と
広葉樹が入り交じった多面的機能の高い「針広混交林」へ導く事業や、利用
されず荒廃した里山を整備する事業などに取り組んでいます。
平成 22 年度までに環境林整備事業および里山リニューアル事業の実施見
込み面積はそれぞれ 753ha および 942ha にのぼりますが、さらなる事業の推
進のために山林所有者等への普及啓発が課題となっています。
また、里山を維持するためには持続的な取組が必要ですが、人間活動の変
化により里山を利用することの無くなった現在において、自然の摂理に基づ
かず人為で里山環境を維持することは、極めて困難な課題です。
(2)農地環境の変化
滋賀県は、昭和 30 年代まで米作を中心とした農業県として歩んできまし
た。農村地帯では川や湧水地から水田へ水を引く水路や小川が縦横に走り、
特に県南部ではかんがい用のため池が各地に配置されていました。現在でも、
環境に配慮して適切な管理がされている農地は、里地に特有の野生動植物の
生息・生育地としての機能を発揮しています。しかし、農地の面積は、近年
の都市化や宅地化により、農地から他の用途へ転用されることによって、漸
減しています。
ほ
他方、圃場整備事業は、安定した農業生産基盤を面的に確保することによ
り農地環境の維持にも寄与する一方、用水と排水の分離、石組や土で作られ
ていた水路等のコンクリート構造化が進み、農業地帯を生息場所としていた
魚や昆虫、両生類等の野生動物の生息に大きな負荷を与えた面もあります。
また、肥料や農薬の不適切な使用が、里地の野生動植物やその生息・生育環
境に影響を与えている場合もあります。
5
(3)内湖、自然湖岸、ヨシ群落、河畔林の減少
琵琶湖湖辺に広がる水域と陸域の推移帯(エコトーン)は、最も生物の多様
性に富み、琵琶湖の固有種を含む多くの底生動物や魚類、鳥類、植物の生息・
生育空間であり、まさに「生きもののゆりかご」となっています。特に、琵
琶湖岸や内湖に生育しているヨシ群落は、琵琶湖に生息するフナ・コイ等多
くの在来種にとって産卵の場、稚魚の成育の場として、また水鳥の営巣、採
食、休息の場として、重要な機能を果たしています。
しかしながら、昭和 15 年に 37 箇所、約 2,900ha あった内湖が平成7年度
には 23 箇所、約 425ha にまで減少し、自然湖岸も干拓、埋立や湖岸堤の整
備等により、面積が減少してきました。これに伴い、昭和 28 年に琵琶湖周
辺で約 260ha あったヨシ群落は、平成 4 年には約 127ha へと半減してしまい
ました。
このため、カイツブリの生息数が減少する等、水辺の鳥類をはじめ、水生
動植物の生息が困難となっています。また、かつて整備されたコンクリート
三面張りの河川は、水生動植物の生息環境に大きな影響を与えている他、河
川改修等に伴う河畔林の伐採により、河畔林に生息するキツネ等の動物の生
息環境の悪化が危惧されています。
(4)環境汚染物質等の排出
過去には、工業排水および農薬散布等によって、有害化学物質等が水域に
排出され、水生動物の生息に大きな影響があったと言われています。また、
きん
イヌワシやクマタカ等の猛禽類等の繁殖率低下の原因の一つとして、体内へ
の有害化学物質の蓄積の可能性が指摘されています。
(5)人による捕獲・採取
野生動植物のうち、特に希少性が高い、あるいは美しい等の理由で、商業
的な価値の高い山野草、魚類、昆虫類等は、人による捕獲・採取の対象とな
りやすく、このために種の存続を脅かされるものも出てきました。
滋賀県においても、ハリヨ、イチモンジタナゴ等の希少な魚類、カワラハ
ンミョウ等の昆虫類、オキナグサ、サワラン等の希少な植物が人の捕獲・採
取による絶滅が危惧される状況にあります。
(6)里地里山における人間活動の変化
雑木林や水田、ため池等の里地里山の環境は、伝統的な手入れによって維
持・管理されてきました。そのため、オオムラサキやギフチョウといったチ
6
ョウ類をはじめ、タガメやオオクワガタ等の昆虫類には、この里地里山の環
境に適応してきたものが少なくありません。しかしながら、近年は、農家・
林家の減少、過疎化、生活・生産様式の大きな変化に伴って、里山の雑木林
は、放置されたところが多く、林床が荒れてやぶの状態となっています。ま
た、水田等も耕作放棄がされているところが多くあります。手入れがされな
いと、雑草が繁茂して林床に光が届かず、カタクリ等の植物が生育しないば
かりか、それに依存している野生動物も生息しにくい状況になっています。
また、放置され繁茂した雑草を採食するニホンジカやイノシシの生息数が増
加したり、やぶを隠れみのにしてツキノワグマやイノシシ等が農地や人家付
近にまで出没したりする原因となります。さらに、棚田等の農地は、セツブ
ンソウやダルマガエル等の野生動植物の生息・生育地となっていますが、維
持管理が十分なされないと、これらが生息・生育できなくなることが危惧さ
れます。
3 野生動植物種との共生に関する現状と課題
(1)希少野生動植物種の絶滅のおそれ
以上のような天然林、農地、自然湖岸等の減少・劣化等が原因となり、絶
滅が危惧される野生動植物種が増えてきました。
「滋賀県で大切にすべき野
生生物∼滋賀県レッドデータブック 2005 年版∼」によると、滋賀県の野生
動植物のうち、絶滅のおそれのある「絶滅危惧種」
(県内において絶滅の危
機に瀕している種(亜種または変種を含む。以下同じ。))
、
「絶滅危機増大
種」
(県内において絶滅の危機が増大している種)および「希少種」
(県内に
ぜい
おいて存続基盤が脆弱な種)とされた野生動植物が 684 種も選定されていま
す。
(2)外来種の移入(導入)と定着
滋賀県においては、琵琶湖でオオクチバスやブルーギルが激増し問題化し
ているほか、近年になってアライグマ、ハクビシン、ヌートリアなどの目撃、
捕獲が急増し、定着が懸念される等、外来種が在来の野生動植物の生態系に
影響を与えるとともに、農業、水産業等への被害が憂慮される状態となって
います。
①外来種の定義
外来種とは、おおむね明治時代以降に、意図的または非意図的に、人間
7
の活動に伴って外国から日本に持ち込まれた外国産の動植物および他の
都道府県から滋賀県に持ち込まれた国内産の動植物のことをいいます。渡
り鳥等は、自然の力で移動するものなので、外来種とはみなしません。
②琵琶湖等の水域における外来種
琵琶湖においては、オオクチバスやブルーギルが増殖し、オオクチバス
は在来魚の稚魚や成魚を補食し、ブルーギルは卵や仔魚を捕食するほか、
在来魚の仔稚魚と餌を競合して、沿岸域の魚類群集を激変させ、生態系に
大きな悪影響を与えています。一方、河川上流部のダム貯水池において、
河川での深刻な生態的影響が憂慮されるコクチバスの定着が確認されて
います。これ以外にも、定着はしていないと考えられますが、アリゲータ
ーガー、ピラニア等の 34 種に及ぶ外来魚が発見されています。また、最
近、カミツキガメやワニガメ等、人の身体に危害を及ぼすおそれのある外
来種も発見されています。
③陸域における外来種
近年、滋賀県においてもアライグマ、ハクビシンおよびヌートリア等の
外来種の目撃情報が増加しています。特にアライグマは関西一円で生息数
が爆発的に増加しており、滋賀県においても目撃情報、捕獲数が平成 18
年度から著しく増加しています。アライグマは、雑食性で果樹、野菜等の
農作物への被害が出ており、また人家や寺社などの木造建築物への侵入に
よる生活環境や文化財への被害も懸念されます。ハクビシンについても農
産物への被害が懸念されています。また、ヌートリアは、水辺の生活に適
応しており、水生植物の茎や地下茎を主食とするため水稲への被害が懸念
される種です。
(3)野生鳥獣種による農林水産業等被害の深刻化
滋賀県では様々な要因で、ニホンザル、ニホンジカ、イノシシ、ツキノワ
グマ等の野生獣が、本来の生息域から人里近くに生息域を移し、いわゆる「有
害鳥獣」として、農林業、生活環境等への被害が見過ごせない状態となって
います。
また、竹生島と伊崎半島に 2 大コロニー(営巣地)形成しているカワウは、
琵琶湖の在来魚を捕食し、深刻な漁業被害を与えるとともに、竹生島等の樹
林を枯死させるなど景観や生態系への著しい影響が生じています。
8
①ニホンザル
ニホンザルは、平成 11∼13 年度の調査によれば県内に 133 群、約 7,000
頭が生息すると推定されています。
ニホンザルによる被害は、水稲、豆類、果樹および果菜類等の農作物等
への食害による農業被害が県内のほぼ全域でみられ、その被害量は平成 13
年の 678tをピークとして、年間 200∼600t の間で推移しています。
また、
一部の群れは非常に人なれが進んで、人家への侵入や屋根瓦の破損、人へ
の威嚇等深刻な生活環境被害を及ぼしています。
また、100 頭を大幅に超えるような大規模で、加害レベルの非常に高い
群れが複数存在し、このような群れへの対応が課題となっています。
②ニホンジカ
湖南地域の琵琶湖沿いの平野部に位置する一部市町を除き、ほとんどの
地域でニホンジカの生息が確認されており、近年の全国的な傾向と同様に、
滋賀県でも個体数が増加し、分布範囲が拡大しています。
県内には推定で約 26,300 頭が生息しているとされ、主要な生息環境で
ある森林面積 1km2当たりに換算すると 13 頭となり、自然植生に影響が生
じない生息密度とされている 3∼5
頭/km2の 3 倍程度の生息数となっており、実際に県内各地で自然植生への
被害が確認されています。
また、農業被害も全県的に恒常的に生じており、被害量は、平成 20 年
で 235tとなっています。水稲やダイコン、キャベツ、ハクサイ、カブ等
の野菜の被害が顕著であり、
被害額では水稲が全体の6 割を占めています。
林業被害についてみると、被害面積が平成 8 年度までは 20ha 程度で推
移していたものが、平成 9 年度から徐々に増加しはじめ、平成 15 年度に
は前年比 5 割増の約 230ha に達し、以降変動が激しいものの、横ばいの傾
向で推移しています。
③イノシシ
イノシシについては、科学的な生息数の把握方法が確立されておらず、
生息数は推定されていませんが、平成 14 年度の県の調査では、中山間地
域のほぼ全域で生息が確認されています。イノシシの農作物への被害状況
は平成 13 年以降、年間 400t 程度で推移しています。平成 21 年度におい
ては、獣害による農作物被害のうち 45%がイノシシによるものであり、非
常に深刻な状況です。水稲の被害が大半を占めていますが、野菜、豆類、
9
イモ類も被害を受けています。また、畦畔や法面等の掘り起こしにおる生
産基盤への被害も深刻となっています。
④ツキノワグマ
ほ
ツキノワグマは、日本の数少ない森林性大型哺乳類です。その食性は雑
食性で、昆虫類、カエル等の動物や、ブナ、ミズナラ、クリ、オニグルミ
えさ
等の実を餌としています。
県内のツキノワグマは、平成 17 年から 19 年の調査により、生息数が 173
∼324 頭程度と推定されており、隣接する京都府および福井県にまたがる
北近畿東部地域個体群および石川県、富山県、福井県および岐阜県にまた
がる白山奥美濃地域個体群に属し、本州西部と東部の結節点に位置する重
要な地域となっています。西隣の京都府ではツキノワグマは「京都府レッ
ドデータブック」で絶滅寸前種に指定されており、
「滋賀県で大切にすべ
き野生生物∼滋賀県レッドデータブック 2005 年版∼」においても「希少
種」に位置付けられています。
はく
一方、ツキノワグマによる被害としては、主に針葉樹の剥皮等の林業被
害が湖西地域と湖北地域において発生しています。平成 17 年度には、林
業被害面積は、約 23ha に達しています。また、人家周辺に出没したり、
登山中に突発的に遭遇したりすることによって、人身被害や精神的被害も
発生しています。
⑤カワウ
カワウは、昭和 15 年頃まで竹生島(長浜市)で繁殖の記録がありまし
たが、その後県内において繁殖の記録はありませんでした。しかし昭和 57
年に竹生島で再び繁殖が確認されて以来、生息数が年々増加し、平成に入
ると竹生島と伊崎半島(近江八幡市)に大規模なコロニーを形成し、爆発
的な勢いで個体数が増加してきました。
平成 22 年の春期調査では、滋賀県における生息数は約 2 万 3 千羽と推
計されています。カワウの増加に伴って、コロニーのある竹生島および伊
崎半島で、広範囲にわたって樹木が枯死し、深刻な植生被害が生じていま
す。また、琵琶湖はもとより、主要な河川においてもアユをはじめとする
在来魚の捕食による水産業被害も深刻な問題となっています。カワウは 1
日に約 350∼500g の魚を捕食するとされており、カワウによる魚類補食量
は、琵琶湖の年間漁獲量に匹敵すると推定されています。
10
また、カワウは繁殖力が非常におう盛なことに加え、県外各地へと広域
にわたる季節移動を繰り返しています。毎年 2 月末頃に竹生島、伊崎半島
等で営巣を始めますが、繁殖期が終わる 9 月を過ぎて、秋から冬の間は県
内にいるカワウの多くは県外に移動します。
なお、平成 21 年度よりカワウの個体数調整事業が始まりましたが、平
成 22 年には、竹生島の湖を挟んで対岸の岬で初めてカワウの営巣が確認
されました。個体数調整事業による強力な捕獲圧が、ねぐら・コロニーの
さらなる分散につながらないよう、注意深く監視を行う必要があります。
4 野生動植物に関する国の取組
野生動植物との共生を図るためには、条例の適切な施行に加え、野生動植物の
生息・生育環境の保全に資する国の取組との連携を図ることが必要です。
(1)希少野生動植物種対策
①絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律
絶滅のおそれのある希少な野生動植物の保護を目的として、
「絶滅のお
それのある野生動植物の種の保存に関する法律」が平成 4 年に制定され、
全国的見地から絶滅のおそれのある野生動植物を「国内希少野生動植物
種」等として指定し、その捕獲・採取規制を行うほか、国内希少野生動植
物種の重要な生息・生育地を「生息地等保護区」として指定し、その開発
規制を行っています。また、必要に応じて個体の数を増やすための保護増
殖事業を実施しています。
②文化財保護法
学術的価値の高い野生動植物およびその生息・生育地について「天然記
念物」または「特別天然記念物」に指定し、原則として、指定された種の
捕獲や採取を禁止する規制措置を講じています。
(2)外来種対策
平成 16 年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法
律」が制定され、生態系や農林水産業等に係る被害を及ぼし、またはそのお
それのある外来種を「特定外来生物」に位置付け、これらの輸入、飼養等を
制限するとともに、その積極的な防除を進めることとしています。
11
第2章 野生動植物との共生に関する基本方針および長期的な目標
1 基本方針
野生動植物と人との共生に関する基本方針は、次のとおりとします。
(1)保 全
野生動植物種の生存を脅かす要因は、過度の捕獲・採取のほか、人間の活
動域の拡大等による生息・生育地の消滅または生息・生育環境の悪化等であ
ることから、野生動植物種の保護を図るためには、これらの状況を未然に防
止することが必要です。このため、希少野生動植物のうち捕獲・採取の対象
となるもの等については、捕獲・採取を原則として禁止し、違反行為の監視・
取締を徹底します。さらに、生息・生育環境を維持するため、十分な規模・
配置、規制内容、管理水準の確保された保護地域を設けることとします。ま
た、自然環境の保全を目的とする制度による規制措置を講じます。
一方、社会資本整備や農林水産業の保護の観点から設けられた制度にあっ
ても、野生動植物の生息・生育環境の保全に資するものが数多くあります。
このことから、これらを積極的に活用し、または連携して、野生動植物の生
息・生育環境について総合的な保全に取り組みます。
加えて、在来の野生動植物の生存を脅かす外来種について、科学的知見の
収集に努め、影響の防止のための実効性ある対策を進めていきます。
(2)再 生
これまでの人間活動により自然の再生産能力を超えた自然資源の収奪、自
然環境の破壊が進み、その結果、野生動植物の生息・生育環境が既に悪化し
ている地域が数多く存在します。このため、残された生息・生育地を維持す
るための保全だけではなく、自然の回復力、自然自らの再生プロセスを人が
手助けすることにより、生息・生育環境の再生、修復を積極的に進めます。
この際、見本となる自然や過去の姿を調査し、科学的知見に基づく情報を関
係者が共有し、社会的合意を形成した上で再生を進めていく必要があります。
また、自然再生事業の実施によりかえって生態系の機能を損なうことのない
よう、的確なモニタリングと事業内容の柔軟な見直しを行いつつ、慎重に実
施することとします。
12
(3)ネットワーク化
野生動植物の安定した生存、あるいは減少しつつある野生動植物の回復を
図るためには、十分な規模の生息・生育地を核としながら、それぞれの種の
生態特性に応じて、生態系ネットワークが形成された県土づくりが必要です。
このため、各種制度に基づいた保護地域や公園・緑地、自然再生事業の実施
等により確保した生息・生育空間を拠点として、奥山から丘陵地、里地里山、
琵琶湖に至る面的な空間と、河畔林、河川、湖岸等の線的なつながりとを有
機的に結合し、生息・生育環境のネットワーク化を図ります。
(4)持続可能な利用
野生動植物の生息・生育地は、野生動植物が生存するため不可欠な場であ
るとともに、農作物、木材、魚貝類等の農林水産物の供給の場として利用さ
れているところもあります。このため、希少野生動植物種の生息・生育地等
特に保護すべき地域は保護しつつ、一方で、地域に身近な自然については、
生態系の構造と機能を維持できる範囲内で、また、生物資源の再生産も可能
な範囲内で、持続可能な方法により利用を行うことが重要です。
このように人の生活・生産活動との関わりの中で野生動植物の生息・生育
地を保全していくためには、野生動植物の保護と生活・生産上の必要性等と
を調整する社会的な仕組みや手法を積極的に導入することが必要です。具体
的には、保護地域における規制的手法に加え、環境アセスメント(環境影響
評価)や生物環境アドバイザー制度等による公共事業や生産活動における生
息・生育環境への配慮、地権者との管理協定、地域社会における合意形成の
仕組み、NPO活動の支援等を有機的に組み合わせて推進します。
また、農林水産業等生物資源を利用した生産活動は、その方法によっては
生態系に大きな影響を与えうるものであり、一方で、それらの営みは自然の
生態系の豊かさに支えられています。この認識に立って、農地、森林等の有
する環境保全機能を確保し、さらに高めるとともに、漁場環境にあってはそ
の保全に配慮しつつ、農林水産業資源の持続的利用を図ることとします。
一方、中山間地域等では、生活・生産様式の大きな変化に伴い自然に対す
る人為的な働きかけが低下することによって、里山や水田等が放棄され、里
地里山特有の生物相が消失する等の問題が生じています。こうした危機に対
しては、やぶや下草の刈取りや樹木の間伐等、対象地域の特性に応じた人為
的な管理や利用を行う新たな取組を進めることとします。
13
(5)野生鳥獣と人との適切な関係の構築
近年、農林水産業への被害を与えている野生鳥獣は、本来の生息地として
いた奥山等から人の生活・生産の場にやむを得ず進出してくることにより、
あつれき
人との軋轢が増大してきています。これらの問題に対しては、野生鳥獣と人
との「すみ分け」を基本とした施策を推進します。具体的には、野生鳥獣の
本来の生息環境の保護および再生を図る一方、科学的知見のもと、計画的に
個体数調整、被害防除、野生鳥獣の近づきにくい地域環境の整備を行い、野
生鳥獣を本来の生息域に戻す人為的な圧力をかけることとします。また、人
が自然から遠ざかってしまったことにより、かつての人と野生鳥獣との関係
え
が人とペットとの関係と混同されている現状を改善し、安易な餌付け等の誘
引の原因を取り除く取組を進めます。
(6)野生動植物との共生に関する県民意識の向上
野生動植物との共生を確保していくためには、県民の協力が不可欠です。
このため、野生動植物にかかわる現状と課題について、環境教育・環境学習
の機会の活用や各種の広報等を通じて、県民、特に子どもや若者の理解を促
進し、意識を高めるための活動を積極的に進めます。
2 長期的な目標
前述の基本方針を踏まえ、野生動植物との共生に関する長期的な目標として、
次のものを掲げます。
(1)野生動植物の生息・生育環境の保全および再生ならびにネットワーク化
野生動植物の生息・生育環境を含む自然環境の保護地域を適切に配置し、
それを核として地域の特性に応じた自然再生事業を行い、森林・水系の連続
性を活用した質の高い生態系ネットワークを形成すること。また、野生動植
物の生息・生育環境に配慮した持続可能な方法により、県土や自然資源の利
用を行うこと。
(2)希少野生動植物種の保護
滋賀県に生息・生育する野生動植物に絶滅のおそれが新たに生じないよう
に予防的対策を講じるとともに、現に絶滅のおそれのある希少野生動植物種
について、捕獲・採取の規制、生息・生育地保護区の指定および管理、保護
14
増殖事業等の施策を積極的に推進し、個体や個体群の回復を図ること。
(3)外来種による生態系等に係る被害の防止
外来種の移入(導入)の予防、早期発見・早期対応、定着したものの防除(影
響緩和)を実施し、外来種による在来の野生動植物に対する生態的影響や農
林水産業等への被害を防止すること。
(4)野生鳥獣種による農林水産業等に係る被害の防止
ニホンザル、ニホンジカ、イノシシ、ツキノワグマ、カワウ等のいわゆる
有害鳥獣について、被害防除、個体数管理、生息環境の整備等の取組を総合
的かつ計画的に推進し、これらの鳥獣による農林水産業等に係る被害を防止
あつれき
し、人との軋轢を解消すること。
15
第3章 野生動植物との共生に関し講ずべき施策
1 第1期計画期間中に実施された取組の評価と課題
平成 21 年 2 月には、野生動植物の安定した生存や減少からの回復を可能とす
る県土づくりを目指すための構想として、
「滋賀県ビオトープネットワーク長期
構想」を策定しました。この構想では、十分な規模のビオトープのまとまりを核
としながら、それらが物理的なつながりを維持できるような生態系ネットワーク
化を図ることを求めています。
この構想で定められた「十分な規模のビオトープ」を保全するためのツールと
して、条例に定められた「生息・生育地保護区」制度がありますが、平成 22 年
度までに指定された地区は 7 カ所で、
その面積も 10ha 以下の小さなものが多く、
十分な規模をもった保護区を指定することはできていません。この生息・生育地
保護区指定を含め、ビオトープネットワーク長期構想で定められた生態系のネッ
トワーク化を具体的に実現していくことが今後の課題です。
その他の個別の施策については、概ね順調に進められていると評価できますが、
計画を策定した後の状況の変化として、外来生物問題と有害鳥獣問題が深刻さを
増しており、取組の一層の強化が必要です。
外来生物問題については、琵琶湖では、ミズヒマワリやナガエツルノゲイトウ
が新たに侵入したことが確認されました。また、陸域では、アライグマとハクビ
シンの目撃、捕獲数が急激に増加し、県内での生息数の爆発的増加が懸念されて
おり、ヌートリアについても定着が懸念されています。これら外来生物について
は、増加する前の段階で早期に対応し、根絶を図ることが最も有効です。しかし、
一定程度以上に増加してしまった場合にはもはや事実上根絶が困難な場合もあ
り、様々な取組を実験的に実施して知見を集積しながら、状況に応じメリハリを
つけて効率的に対策を進めていく必要があります。
有害鳥獣問題については、特に、ニホンジカとカワウについて、その個体数が
近年非常に増加し、自らの生息範囲の生態系すら劣化させている状況です。これ
らについては、目標とする生息数を実現するため、捕獲目標を設定して捕獲を進
める個体数管理の取組を開始しました。捕獲目標は今のところ概ね達成できてい
ますが、生息数の目標の達成に向けて今後数年間の取組が決定的に重要な状況に
あります。
16
2 野生動植物の生息・生育環境の保全および再生ならびにネットワーク化
野生動植物の生息・生育環境の保全・再生・ネットワーク化を図るため、十分
な規模のビオトープのまとまりを核としながら、それぞれの種の生態的特性に応
じて、それらが物理的なつながりを維持できるような生態系ネットワークが形成
された県土づくりが必要です。このため、平成 20 年度に策定した「滋賀県ビオ
トープネットワーク長期構想 −野生動植物の生息・生育環境の保全・再生・ネ
ットワーク化に関する長期構想−」
(以下「長期構想」という。
)に基づき、
「条
例」に基づく施策を推進することと併せ、他の制度に基づく保護地域や事業につ
いても積極的に活用しつつ連携して総合的に取り組みます。
(1)長期構想の実現
長期構想の実現を図るため、以下の施策を講じることとします。
○長期構想について、県民、事業者、NPO、国・市町といった他の公共団
体の理解を得るように努め、長期構想の実現のための保全・再生の取組を
促すこと。
○都市計画や道路整備、河川整備、ほ場整備、自然再生等の事業の計画の策
定および実施に当たって、長期構想の実現への配慮を求めていくこと。
○既存保護区の拡大、新規保護区の指定等により、十分な規模を持った野生
動植物の生息・生育環境の「核」を確保すること。特に、長期構想で選定
された 16 の重要拠点区域のうち、保全する担保が弱い区域について、重点
的に保全のための方策を検討すること。
○長期構想の実現状況について定期的にモニタリングを行い、その結果を地
域の住民、事業者、関係機関等にフィードバックして、既存の計画、施設
設計・管理に反映させ、互いに連携して長期構想の実現を目指すこと。
(2)野生動植物の生息・生育環境の保全
野生動植物の生息・生育環境を含む自然環境の保全を目的として、以下の
ような保全地域を指定しています。
これらの地域においては、
工作物の設置、
土地の形状変更、木竹の伐採、水面の埋立・干拓等を適切に規制するととも
に、違反行為を厳正に取り締ります。また、長期構想の実現のため、必要に
応じて区域の見直しを行います。
①自然公園
「自然公園法」に基づき国により琵琶湖国定公園および鈴鹿国定公園が
17
指定されています。また、県においても、
「滋賀県立自然公園条例」に基づ
き、三上・田上・信楽県立自然公園、朽木葛川県立自然公園および湖東県
立自然公園を指定しています。これらは琵琶湖を含む県土の約 37%を占め
ており、県土に占める自然公園の割合は全国一となっています。
②緑地環境保全地域
「滋賀県自然環境保全条例」に基づき、特に市街地・集落地における自
然環境を保全するため、
「緑地環境保全地域」として三島池および周辺県有
地(鳥類生息地)
、今津のザゼンソウ群落および 4 箇所の社寺林を指定して
います。
③鳥獣保護区特別保護地区
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」および同法による「鳥獣
保護事業計画」に基づき、鳥獣保護区の区域内で鳥獣の生息地の保護を特
に図る必要がある区域として、14 箇所、1,404ha の「特別保護地区」を指
定しています。
④ヨシ群落保全区域
琵琶湖や内湖に生育するヨシ群落は、水鳥をはじめ約 100 種類の野鳥が
営巣地、採食地、ねぐら等として利用し、生息に欠かせない場所となって
います。また、ヨシ群落にはコイ、ニゴロブナ等の在来魚の産着卵が多く
し
えさ
見られ、ふ化した仔稚魚は隠れ場、餌場として利用しながら成育します。
このため、滋賀県では、こうした生態系の保全の機能を有するヨシ群落を
保全するために「滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例」を制定し、
琵琶湖と一部の内湖においてヨシ群落保全区域を 832.6ha 指定しています。
⑤保護水面
有用な水産資源の保護増殖を図るため、アユ、ホンモロコおよびニゴロ
ブナが産卵繁殖する重要な区域を、
「水産資源保護法」に基づく「保護水面」
に指定し、産卵期など指定された期間には、これら魚類などの採捕を禁止
しています。なお、アユについては 8 河川、ホンモロコおよびニゴロブナ
については琵琶湖沿岸の 2 水域に保護水面が指定されています。
(3)野生動植物の生息・生育環境の再生
残された生息・生育環境を保全することに加え、既に失われた生息・生育
18
環境を積極的に再生するための事業を推進します。
①湖岸環境の再生
平成 16 年 3 月に策定した「琵琶湖湖辺域保全・再生の基本方針」に基
づき、湖辺域の砂浜や植生帯の保全・再生に取り組みます。
○人工湖岸の再自然化
これまで埋立や治水を目的として、コンクリートや鋼矢板を使った人
工護岸が整備された琵琶湖湖岸のうち、周辺の自然・歴史・文化環境と
の調和が特に求められるものについて、治水機能を保持しつつ、ヨシ原
や砂浜等の自然湖岸への再生を進めていきます。
○湖岸の保全整備
浜欠け等の湖岸侵食が顕著であり、または、琵琶湖固有の景観や湖辺
の生態系にとって重要な湖岸について、突堤や緩傾斜護岸、養浜等によ
る湖岸の侵食対策やヨシ原・湖畔林の保全整備を進めていきます。
○ヨシ群落の再生
平成 16 年 6 月に策定した「ヨシ群落保全基本計画」に基づき、失われ
たヨシ等の再生、魚類の産卵・成育の場所の確保、自然的環境の復元を
目的としたヨシ群落造成事業を推進します。また、県民や事業者との協
働によりヨシの植裁、刈取り、清掃を行うヨシ群落維持管理事業を行い
ます。
②河川環境の再生
母なる琵琶湖やそれを支える川を、健全な姿で次世代へ伝えるため、人
と自然にやさしく地域に愛される川づくりを進めます。
特に、豊かな自然を育み、多様な生物が生息する川を目指すために、治水
安全度の確保を目指すとともに、1)地域住民の理解と積極的な参加を得
て、河畔林や周辺の多様で豊かな自然空間との一体性などに配慮し、湖辺
域と山地森林を結ぶビオトープネットワークを形成する骨格としての河
川環境の保全と創出を図ります。2)人と自然の営力により、それぞれの
川が本来有するべき川相が形成・維持されるとともに、上下流の連続性が
確保されるように河川環境が有していた機能を保全・再生することに努め
ます。
③内湖環境の再生
平成 16 年3月に策定した「エコトーンマスタープラン」および平成 24
19
年度に策定予定の「内湖再生全体ビジョン」
(仮称)に基づき、内湖にお
ける動植物の生息・生育環境の保全・再生に取り組みます。
かつての琵琶湖の周囲には多くの内湖が存在し、在来魚の産卵・生育の
場として、また水鳥の生息地、貴重な植物の生育の場など多様な機能を有
していました。
しかし、戦後の食糧難対策としての農地への干拓などにより多くの内湖
が消失し、湖辺域の生態系の劣化の一因となりました。
内湖が本来持っていた生態系保全機能などを復元させるため、また、琵
琶湖の原風景である内湖を復活させるために、内湖と、水田などの陸域や
琵琶湖、他の内湖などをつなぐ河川・クリークなどを一体的に保全・再生
する取り組みを進めます。
④森林環境の再生
平成 16 年度には琵琶湖森林づくり条例を、平成 17 年度からは琵琶湖森
林づくり基本計画を策定し、また平成 18 年度からは、琵琶湖森林づくり
県民税を活用した環境重視と県民協働の視点からの施策を展開していま
す。
○針広混交林の創出
森林の持つ多面的機能を高度に発揮させるため、奥地等の放置され
た人工林を必要に応じた強度で間伐するなど適切な手法により管理し、
野生動物の採食環境の改善にも寄与する針葉樹と広葉樹の入り混じっ
た針広混交林に導くとともに、森林環境の調査研究により、森林生態
系を重視した森林づくりを推進します。
○里山環境の再生
社会経済情勢の変化により利用されず荒廃している里山について、市
町が森林所有者と締結する協定に基づき、松の枯損木の除去や竹林の整
理等の管理・手入れをして、県民が森林に親しみ、利用できる場としま
す。これにより、荒廃していた里山の光環境が改善し、かつてこうした
見通しのよい明るい環境に生息していた昆虫、鳥類等の野生動物が戻る
ことが期待できるとともに、いわゆる有害獣の里地への接近が妨げられ
る効果も期待できます。
⑤田園環境の再生
○田園景観の再生
農村地域においては、水田や水路、里山等の豊かな二次的自然が形成
20
されており、持続的な農業生産活動が行われることにより美しい景観が
形成されています。そして、ここに依存した野生動植物が数多く生息・
生育しています。このため、集落等が行う営農を通じた地域ぐるみの生
態系・景観保全活動を促進し、滋賀県らしい野生動植物と共生した美し
い田園景観の形成を図ります。
○魚類の産卵繁殖環境の再生
かつて、琵琶湖周辺の水田地帯は、ニゴロブナ、コイ、ナマズ等の産
卵場として利用されていましたが、様々な開発により琵琶湖と水田との
間に大きな落差が生じたため、現在では、水田で魚の姿を見ることはほ
とんどありません。このため、琵琶湖周辺の水田を魚類の産卵繁殖の場
として再生するため、魚道の設置、水管理等を行う「魚のゆりかご水田
プロジェクト」に取り組みます。
⑥廃川敷地の再生
新放水路の整備により廃川となった旧野洲川の敷地の一部について、県
民等との協働により、様々な野生動植物が生息・生育する「びわこ地球市
民の森」として再生する事業に取り組みます。
また、平成 14 年度に草津川放水路が完成したことにより、旧草津川は
廃川となりましたが、この廃川敷地のうち湖岸から約 1.3km の範囲は、
「草
津川廃川敷地整備基本計画」において、ビオトープ保全区間として水域か
ら陸域へと緩やかに環境条件が変化するようなエコトーン(推移帯)機能
の保全を目指しています。
(4)開発に当たっての配慮
野生動植物の重要な生息・生育地の保護を図るためには、保全地域の指定
による規制的手法のみならず、開発の計画段階、実施段階および事業の終了
段階のそれぞれにおいて、野生動植物の保護に配慮する社会的な仕組みが必
要です。
このため、長期構想を活用しつつ、以下のような制度を充実していきます。
①環境アセスメントによる指導
平成9年6月に制定された「環境影響評価法」および平成 10 年 12 月
に制定された「滋賀県環境影響評価条例」は、開発事業に関して事前に効
果的な環境配慮を組み込むための重要な制度です。評価項目として「生物
の多様性の確保と自然環境の体系的保全」と「人と自然との豊かなふれあ
21
い」も位置付けられています。制度の対象となる事業者は、この制度に基
づいて野生動植物の生息・生育範囲や分布状況、開発に伴う生息・生育地
への影響や分断、その回復措置等について評価書を作成する必要がありま
す。これに対して県は、野生動植物の生息・生育環境の保全等の視点から
意見を述べ、野生動植物の生存に配慮した事業となるよう指導をしていき
ます。
②自然環境保全協定
「滋賀県自然環境保全条例」に基づき、一定規模以上のゴルフ場の建設、
宅地の造成等の形質の変更、土石の採取、鉱物の掘採、工作物の設置を行
おうとする事業者と県とが協定を締結し、事業の実施に当たって野生動植
物の生息・生育地の保全について配慮するよう事業者に働きかけます。
③イヌワシ、クマタカ保護指針
イヌワシおよびクマタカは、絶滅のおそれが高く、
「絶滅のおそれのあ
る野生動植物の種の保存に関する法律」に基づく国内希少野生動植物種に
指定されており、また、食物連鎖の頂点に位置していて生態系の豊かさを
示す指標種です。これらの保護対策の基本方向を示す「滋賀県イヌワシ、
クマタカ保護指針」
(平成 14 年7月策定)に基づき、事業者が開発事業を
行う際にイヌワシおよびクマタカへの適切な配慮を行うよう指導します。
④公共事業の実施に当たっての配慮
平成 15 年 11 月に策定した「公共事業環境こだわり指針」に基づき、ま
た、生物環境等の専門家から指導・助言を受ける「生物環境アドバイザー
制度」を活用し、公共事業の計画や施工等に際し、貴重な植物の保存・移
植、小動物の移動・脱出経路の確保等、野生動植物の生息・生育環境の保
全に配慮した公共工事の実施を推進します。また、事業の施工後において
も、必要に応じて生物環境アドバイザーの意見を聴くこととします。
22
3 希少野生動植物種の保護
(1)希少野生動植物種の指定
①希少野生動植物種の指定
県内に生息・生育する野生動植物の種であって、次のいずれかに該当す
るものを「希少野生動植物種」として選定します。
○県内におけるその種の存続に支障を来す程度にその種の個体の数が著
しく少ない野生動植物の種
○県内におけるその種の個体の数が著しく減少しつつある野生動植物の
種
○県内におけるその種の個体の主要な生息地または生育地が消滅しつつ
ある野生動植物の種
○県内におけるその種の個体の生息または生育の環境が著しく悪化しつ
つある野生動植物の種
○以上のほか、県内におけるその種の存続に支障を来す事情がある野生動
植物の種
具体的には、平成 22 年度に策定を予定している「滋賀県で大切にすべ
き野生生物∼滋賀県レッドデータブック 2010 年版∼(以下「県版 RDB2010」
という。
)
」に掲載された「絶滅危惧種」
、
「絶滅危機増大種」および「希少
種」に該当する野生動植物種を「希少野生動植物種」として選定します。
②指定希少野生動植物種の指定
「希少野生動植物種」のうち、特にその保護を図る必要があると認める
ものを「指定希少野生動植物種」として指定し、その保護を図ります。具
体的には、以下の要件に該当する希少野生動植物種を指定することとしま
す。
○滋賀県において保護することが当該種の保存上特に重要であるもの
○観賞、愛がん等を目的として種を特定した捕獲または採取が行われてお
り、指定希少野生動植物種に指定することが捕獲または採取の制限につ
ながり、種の保存上有効と考えられるもの
ただし、以下のものについては、指定希少野生動植物種に指定しない
こととします。
・絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に基づき指定
23
された国内希少野生動植物種および緊急指定種である希少野生動植
物種
・外来種
・従来からごくまれにしか渡来しない種
・個体としての識別が容易な大きさおよび形態を有しない種
(2)捕獲・採取の禁止等
指定希少野生動植物種については、学術研究、繁殖等の目的で行うものと
して知事の許可を受けた場合等を除き、捕獲、採取を禁止します。また、指
定希少野生動植物種の生きた個体の所有者等は、その生息・生育の条件を維
持する等適切な取扱いに努める必要があります。
(3)生息・生育地保護区の指定による生息・生育地の保護
希少野生動植物種の保護の基本は、その生息・生育地における個体群の安
定した存続を保証することにあります。したがって、希少野生動植物種の保
護のため必要があり、その個体の生息・生育地およびこれらと一体的にその
保護を図る必要がある区域であって、その希少野生動植物種の保護のため特
に重要と認めるものを、
「生息・生育地保護区」として指定します。
なお、第1期基本計画期間中においては、
「生息・生育地保護区」の指定
に当たり、地権者との協議の難航や地元保全団体等による保全活動の担保が
できないこと等から、指定箇所は 7 カ所にとどまりました。十分な規模を持
った保護区を設定し、かつ、将来にわたりその地域の希少野生動植物の保全
活動が行われるためには、地元地権者を始め多くの関係者の協力・協働が必
要です。このため、当保護区の必要性を含め、生物多様性保全の必要性につ
いて、広く普及・啓発に努める必要があります。
①生息・生育地保護区として指定する生息・生育地の選定方針
以下の要件に該当する場所について総合的に検討し、生息・生育地保護
区として優先的に指定すべき生息・生育地を選定します。
○希少野生動植物種の個体数、個体数密度、個体群としての健全性等から
みて、その種の個体が良好に生息・生育している場所
えさ
○植生、水質、餌条件等からみて、希少野生動植物種の生息・生育環境が
良好に維持されている場所
○生息・生育地としての規模が大きい場所
なお、生息・生育地が県内各地に分散している種にあっては、主な分布
24
域ごとに主要な生息・生育地を生息・生育地保護区に選定します。
②生息・生育地保護区の区域の範囲
生息・生育地保護区の範囲としては、以下の要件に該当する区域を確保
することとします。
○希少野生動植物種が現に生息・生育している区域
じ
○鳥類等行動圏が広い動物の場合は、コロニー、重要な採餌場所等その種
の個体の生息にとって重要な役割を果たしている区域およびその周辺の
個体数密度または個体が観察される頻度が相対的に高い区域
○希少野生動植物種の生息・生育地に隣接する区域であって、そこでの各
種行為により当該生息・生育地の個体の生息・生育に支障が生じること
を防止するために一体的に保護を図るべき区域
③生息・生育地保護区の保護に関する指針
生息・生育地保護区の保護に関する指針においては、希少野生動植物種
の個体の生息・生育のために確保すべき条件とその維持のための環境管理
の指針等を定めるものとします。
④生息・生育地保護区の指定に当たって留意すべき事項
生息・生育地保護区の指定に当たっては、関係者の所有権その他の財産
権を尊重するとともに、農林水産業を営む者等住民の生活の安定および福
祉の維持に配慮し、地域の理解と協力が得られるよう適切に対処するもの
とします。また、県土の保全その他の公益との調整を図りつつ、その指定
を行うものとします。
(4)保護増殖事業
指定希少野生動植物種の保護のため必要があると認めるときは、指定希少
野生動植物種の個体の繁殖の促進や、その生息・生育地の整備その他の指定
希少野生動植物種の保護を図るための「保護増殖事業」を行います。
事業の内容としては、指定希少野生動植物種のうち、その生息・生育地の
整備等が必要な種を対象として、種の個体数の維持・回復を阻害している要
因を除去または軽滅します。また、著しく絶滅のおそれが高い種については、
個体の行動範囲を変化させないよう配慮しながら、繁殖の促進を図ります。
なお、生息・生育地保護区の区域内の土地の所有者等は、保護増殖事業のた
25
めに必要な施設の設置に協力するように努める必要があります。
現在、県研究機関や民間団体等による希少種の保護増殖に係る取組が行わ
れています。今後は、保護増殖に取り組む際の指針の策定など、積極的に保
護増殖事業に取り組んでいけるよう体制の整備や必要な支援に努めること
とします。
(5)希少野生動植物種調査監視指導員
希少野生動植物種に係る専門的知見を有する者を「希少野生動植物種調査
監視指導員」として配置し、希少野生動植物種の保護およびその生息・生育
環境の保全に関する調査、監視、県民等への啓発・助言を行います。
(6)
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に基づく取組
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に基づき、
「狩猟鳥獣」
(鳥
類 29 種、獣類 20 種)以外の鳥獣の捕獲等は原則として禁止されています。
特に、同法で「希少鳥獣」とされている 39 種の鳥獣については、捕獲等を
しようとする場合には環境大臣の許可が必要となっています。また、鳥獣
の保護を図るため必要な区域については、
「鳥獣保護事業計画」に基づいて、
「鳥獣保護区」に指定し、狩猟による鳥獣の捕獲を禁止しています。さら
に、鳥獣保護区の「特別保護地区」においては、開発行為についても一定
の規制がなされます。
この法律を適切に施行し違法な捕獲等を防止するため、鳥獣保護員等に
より県内一斉の狩猟取締を行う等により、狩猟の適正化に努めます。
4 外来種による生態系等に係る被害の防止
(1)指定外来種の指定
県内にその本来の生息・生育地を有する野生動植物の種とその性質が異な
ることにより、県内において農林水産業、人身被害および生態系に係る被害
を及ぼし、または及ぼすおそれのある外来種を、
「指定外来種」として指定
します。
具体的には、以下のいずれかの要件に該当する種を選定します。
○県内の野外で既に定着し、生態的影響や生命・身体、農林水産業への被
害がとりわけ大きい外来種であって、かつ、種(種類)の同定が容易で、
個体単位で取り扱える体の大きさを有する等、生息・生育の抑制の実効
性が確保できると期待され、優先的に防除対象とすべきものであること。
26
○観賞、愛がん、園芸、実験等のための飼育・栽培、狩猟・釣りのための放
流等を目的として利用される外来種であって、かつ、県内の野外で生息・
生育した場合、生態的影響や人の生命・身体、農林漁業への被害が大きい
と考えられるもの。
ただし、以下のものについては、指定外来種に指定しないことにします。
・
「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」に基づ
き指定された特定外来生物
・個体の入手経路が多岐にわたり特定が難しい上、飼育・栽培等の個体数
が極めて多い外来種(県民意識の現状、外来種の指定に伴う社会的・経
済的影響、取締の実効性を考慮し、随時選定していくこととします。
)
(2)指定外来種の個体の取扱い
①飼養等の届出
外来種による被害の多くは、一部の者が不適切な管理のもと飼養等をし
た結果、遺棄や逸出等によって野外に放たれることに起因しています。こ
のため、指定外来種を飼養、栽培、保管または運搬する行為(以下「飼養等」
という。)は知事に届け出ることを義務づけ、後述の適合飼養等施設での管
理および適切な方法で飼養等がなされるよう指導を徹底することとします。
ただし、非常災害に対する必要な応急措置に伴う飼養等、県および市町が
実施する指定外来種の防除(捕獲、採取、殺処分、被害防止措置の実施)
に伴う飼養等、違法飼養個体の押収等に伴う飼養等、やむを得ない場合に
ついては、届出を行う必要はありません。
②適合飼養等施設の施設基準
指定外来種の個体の飼養等をする者は、指定外来種が逸出等しないよう、
当該指定外来種に係る適合飼養等施設を備えて、飼養等をする必要があり
ます。このため、適合飼養等施設について、指定外来種の逸出等を防ぐ構
造・強度とすること等を定め、飼養等をする者に対し、これを遵守するこ
とを求めます。
③飼養等の方法
指定外来種の個体の飼養等をする者は、指定外来種が逸出等しないよう、
飼養等の状況の確認、適合飼養等施設の保守点検を定期的に行う必要があ
ります。また、飼養等施設の清掃等のため一時的に指定外来種を飼養等施
27
設の外に出すとき等に、指定外来種が逸出等しないよう適切に取り扱う必
要があります。これらについて、飼養等をする者に対し、遵守することを
求めます。また、指定外来種をみだりに繁殖させて管理に支障が生じない
よう、繁殖制限を行うことが望ましいですが、繁殖させる場合であっても
飼養等施設の収容力等を勘案して計画的に行うよう努めるものとします。
(3)野外への放逐の禁止
外来種による被害を防止する上で最も重要なことは、当該外来種の遺棄
や逸出等を防ぐことです。このため、飼養等をしている指定外来種の個体
については、例外なく、適合飼養等施設の外に放ったり、植えたり、種を
まいたりすることを禁止しています。住居や事業所の移転に伴い、指定外
来種の飼養等が困難となる場合もあり得ますが、その場合でも、遺棄せず
に、引き取り先の確保や殺処分等の措置を行う必要があります。
また、飼養等をされている者に対しては、定期的に飼養状況について調
査を実施し、野外へ放逐することなく最後まで責任を持って飼養するよう
指導を行います。
(4)販売時の説明
指定外来種の中には、一般市民が飼養等をする種も多く含まれ、指定外来
種の生態系に及ぼす影響等について理解した上で、飼養等を行わなければな
りません。このため、指定外来種の販売業者は、購入者に対し、指定外来種
の適正な飼養等の方法や指定外来種が及ぼす生態系等への影響について説
明を行う義務があります。
(5)防除の実施
①防除の考え方
野外で既に定着している指定外来種および特定外来生物については、防
除を推進することとしますが、特に、農林水産業や人の生命・身体に被害
を及ぼす外来種および希少野生動植物や滋賀県の固有種が多く生息・生育
する地域に定着した捕食性や交雑可能性または繁殖力や競争力が強い外
来種について、重点的に防除を実施します。また、既に広範囲にまん延し
て生態系等に被害を及ぼし、または及ぼすおそれがある場合には、優先的
に防除を進めるべき地域や手法を考慮し、段階的に防除を進めることとし
ます。このような防除を効果的かつ計画的に推進するため、必要に応じて、
28
指定外来種または特定外来生物の防除計画を策定することとします。
なお、一度定着してしまった外来種の駆除などの対策については、実施
手法が確立されてはいないため、様々な取組による知見を集積する必要が
あります。このため、対策に取り組む際には、
「実験的」という位置づけ
で、十分なモニタリングを行いながら実施するよう努めることとします。
②オオクチバス等の防除
特に、在来魚への生態系・水産業被害が著しい特定外来生物であるオオ
クチバスおよびブルーギル(以下「オオクチバス等」という。
)について
は、緊急かつ重点的に防除を行う必要があることから、平成 18 年度に策
定した「オオクチバス等防除実施計画」に基づき、県内でのオオクチバス
等の生息数をゼロにすることを目指し、漁具による捕獲、繁殖抑制に努め
ます。
なお、コクチバスについては、平成7年に琵琶湖で最初に確認されて以
来、複数回捕獲されていますが、分布が拡大しないよう早期発見に努める
とともに、拡大防止策の検討を行います。
③アライグマ等の防除
アライグマ、ハクビシンおよびヌートリアについては、農業被害や生活
環境被害を与えるため、
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に
基づく有害鳥獣捕獲をすすめます。また、アライグマおよびヌートリアに
ついては、有害鳥獣捕獲のみならず、
「特定外来生物による生態系等の被
害の防止に関する法律」に基づく防除の仕組みも活用し、つつ、捕獲を進
めます。
なお、これらの種については、早急に捕獲を進める必要性が高いことか
ら、現状で市町等による捕獲体制が整備されている場合は県が必要な支援
を行いつつさらなる捕獲をすすめ、捕獲体制が未整備な地域においては県
および市町が連携して効率的な捕獲体制の整備をすすめます。
④外来水生植物の防除
外来水生植物は、繁茂が小規模の段階で発見すれば、駆除で根絶するこ
とは十分可能です。規模の大きい群落は、市町や県が事業化して駆除を実
施するとともに、小規模な群落については、県民や関係行政機関等へ外来
水生植物に関する知識を普及して、早期発見・ボランティアによる駆除実
施体制を整備します。
29
⑤被害防除推進員
指定野生鳥獣種や指定外来種および特定外来生物による被害防除に関
して、地域において指導・助言、普及啓発活動を進める「被害防除推進員」
を配置します。
(6)緑化における配慮
開発事業において、樹木の伐採や土地の形質の変更が行われる際に、当該
のり
区域の自然の再生・回復を図るため、法面等の緑化工を施すことがありま
す。また、農地の畦畔管理の一環でカバープラント(地被植物)を植栽す
ることがあります。
これらの場合に使用する植物については、関係事業者の協力を得つつ、可
能な範囲内で当該区域の在来種を使用することとし、生態系に影響を及ぼ
すおそれのある外来種は使用しないように配慮します。また、今後、自然
公園区域内など、地域別に緑化における方針について検討を行います。
(7)
「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」に基づく取組
平成 14 年 10 月に制定された「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関
する条例」に基づき、レジャーの面からも琵琶湖の豊かな生態系を保全する
ため、外来魚を減らしていく取組への釣り人の協力を得つつ、県内全域で釣
り上げたオオクチバス等を再放流(リリース)することを禁止しています。
また、釣り人がリリース禁止に協力しやすい環境を整備するため、釣りの
ポイントごとに外来魚回収ボックスや回収いけすを設置しています。その他、
琵琶湖下流域の小中学生を対象に夏休み期間中に実施する『びわこルールキ
ッズ事業』など広報啓発活動に努め、
『釣り上げた外来魚は再放流しない』
という新しい琵琶湖の釣りのルールの定着に向けた取組を進めていきます。
5 野生鳥獣種による農林水産業等に係る被害の防止
(1)
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に基づく取組
①有害鳥獣捕獲等
ニホンザル、ニホンジカ、イノシシ、ツキノワグマ、カワウ等の野生鳥
獣種により農林水産業、生活環境、生態系に係る被害が生じているかまた
はそのおそれがあり、原則として被害防除対策によっても被害が防止でき
30
ないと認められるときは、市町等からの有害鳥獣捕獲申請に基づき許可を
行います。さらに、市町が行う有害鳥獣の銃器捕獲および捕獲檻の設置等
に対して財政的な支援を行います。
②「特定鳥獣保護管理計画」の策定・推進
有害鳥獣捕獲は、有害鳥獣の生息数や生態を十分把握、分析することな
く被害に応じて捕獲が行われるのが通例でした。しかし、有害鳥獣による
被害を減少させるためには、生息分布等科学的知見に基づいた総合的な取
組が求められています。このため、
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関す
る法律」には、著しく個体数が増加等している鳥獣(特定鳥獣)について、
「特定鳥獣保護管理計画」を策定する仕組みが導入されています。これに
より、特定鳥獣の保護管理の目標を掲げ、被害防除対策、個体数管理、生
息環境の整備を組み合わせて総合的かつ計画的に対策を推進することと
します。
(2)
「条例」に基づく取組
「条例」では、希少野生動植物種および外来種のみならず、有害鳥獣対策
を柱の一つに据え、総合的かつ計画的に進めることにしています。
①指定野生鳥獣種の指定
ニホンザル、ニホンジカ、イノシシ、ツキノワグマによる農林業被害が
生じていることに加え、カワウによる水産業被害およびコロニーのある竹
生島、伊崎半島における植生被害が深刻化していることから、これら 5 種
類の野生鳥獣種を条例に基づく「指定野生鳥獣種」として指定しています。
②すみ分けを基本とした被害防除対策の推進
指定野生鳥獣種の個体の生息状況に留意しつつ、指定野生鳥獣種による
農林水産業等に係る被害を防止するため、被害防除対策、個体数管理およ
び生息地の整備を組み合わせて、総合的かつ計画的に対策を推進します。
対策の推進に当たっては、人と野生鳥獣のすみ分けを図ることを基本と
して、野生鳥獣の農地・宅地への侵入を防ぐ効果的な防護柵等の開発やそ
の設置の支援を行います。また、農地・宅地と森林との間に緩衝地帯を造
成することや、そこを利用した家畜放牧の実施等によって、人と野生鳥獣
のすみ分けを図る集落づくりに取り組みます。なお、指定野生鳥獣種につ
いて、
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に規定する「特定鳥
31
獣保護管理計画」が定められているときは、当該計画に基づく取り組みと
一体的に対策を推進します。
え
③餌付けの禁止
野生鳥獣は、自然の中で自らの力で食料を得て生存しているものであり、
え
人為的に飲食物を与えること(餌付け)は、人なれを助長し、人里に出没さ
えさ
せる誘因となります。また、意図的ではなくとも野生鳥獣の餌となるもの
を野外に放置しておくこと(例えば、生ゴミの不適切な排出、墓地でのお
供えものの放置、収穫しない不要な果樹の放置等)も、同様な影響を与え
るとともに、本来の生息場所から人間の生活の場へ野生鳥獣の出没を促す
あつれき
ことになり、人との軋轢を増幅することにつながります。
このため、条例では、指定野生鳥獣種の個体に飲食物を与えることを禁
止しています。ただし、動物園等で鳥獣を飼養・保管している場合、
「鳥
獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に基づく有害鳥獣捕等の捕獲許
可を受けて捕獲する場合、または狩猟により捕獲する場合等は除きます。
なお、狩猟解禁日前に、獲物を誘引する目的で行う餌付けは禁止ですの
で、このことについて狩猟者に対する指導を行います。
④地域ぐるみの対策
地域ごとに、県、市町、地域住民等により構成される「指定野生鳥獣種
地域協議会」
(以下「地域協議会」という。
)を設置して、地域全体で被害
防除対策に係る理解と対策手法の修得を図るほか、対策を効果的に実施す
るための「地域対策実施計画」を策定し、地域ぐるみの対策を推進します。
なお、市町が鳥獣被害防止特措法に基づく被害防止計画を策定している
場合は、その内容と整合のとれた対策となるよう留意します。
⑤人材の育成
地域が主体となった被害防除対策を進めるため、被害防除に係る指導・
助言、啓発活動等を行う「被害防除推進員」を配置するとともに、集落単
位での対策の中心となる指導者を育成します。また、有害鳥獣捕獲や個体
数調整の担い手を育成するため、狩猟者団体と連携して、狩猟に係る研修
や狩猟技術の向上に努めます。
(3)指定野生鳥獣種の種類ごとの対策
32
①ニホンザル
○「第二次ニホンザル特定鳥獣保護管理計画」
平成 20 年 4 月に策定した「第二次特定鳥獣保護管理計画(ニホンザ
ル)
」に基づき、個体数調整、被害防除対策、生息地の整備を組み合わ
せ、関係者が連携して、総合的に対策を進めます。また、専門家からな
る検討委員会を設置し、計画の進捗状況の点検を行い、対策のさらなる
改善を図ります。
○地域ぐるみの対策
地元市町や農業関係者等からなる地域協議会で地域実施計画を策定
え
し、餌付けや農作物の残置の防止、防護柵の設置、群れの行動把握と花
火や爆竹等による追い払い、被害が生じた場合の有害捕獲等、様々な地
域ぐるみの対策を進めます。
○加害レベルが高く特に悪質な群れの個体数調整
県内の一部の群れには、人を全くおそれない程に人なれが進み、生活
環境に被害を及ぼしたり、人への威嚇を行ったり、主たる生息場所を人
里に移している群れや、100 頭を超えるような大規模な群れがあり、こ
れまでの対策では十分な効果をあげることが困難な状況となっていま
す。このように、特に加害レベルが高く、様々な防除対策を試みても被
害を軽減できない特に悪質な群れについては、
「第二次特定鳥獣保護管
理計画(ニホンザル)
」に基づく個体数調整の実施も視野に入れ、より
踏み込んだ対策を推進します。
②ニホンジカ
○「特定鳥獣保護管理計画(ニホンジカ)
」
平成 17 年 10 月に策定し、平成 21 年度に変更した「特定鳥獣保護管
理計画(ニホンジカ)
」に基づき、被害防除対策、個体数調整、生息環
境の整備を組み合わせ、関係者が連携して、総合的に対策を進めます。
また、専門家からなる検討委員会を設置し、計画の進捗状況の点検を行
い、対策のさらなる改善を行います。
○個体数管理
ニホンジカの生息数は、平成 19 年度には推計で約 26,300 頭に達して
おり、被害が生じないレベルと比較して非常に高密度に分布しているこ
とから、平成 23 年度末に県内生息数を 10,000 頭とすることを目標とし
ます。このため、以下の対策を実施します。
・
「特定鳥獣保護管理計画(ニホンジカ)
」に基づき、捕獲頭数の上
33
限の引き上げ、狩猟期間の延長等、狩猟制限の緩和措置を講じ、
狩猟を通じた個体数の抑制を図ります。
・併せて、許可による捕獲についても、市町が行う「特定鳥獣保護管
理計画(ニホンジカ)
」に基づく個体数調整による捕獲を支援する
とともに、効果的な捕獲をすすめるため広域的な取組の検討を進め
ます。
○被害防除対策
地元市町や農業関係者等からなる地域協議会の場を活用しながら、農
林業被害に対して、防護柵の設置、忌避剤の散布、樹木へのテープ巻き
等、様々な地域ぐるみの対策を進めます。
③イノシシ
イノシシについては、科学的な生息数の把握方法が確立されていません。
ただし、イノシシは極めて繁殖力が強く、近年の出没傾向から推測すると、
相当程度広く分布しているものと考えられます。このため、地元市町や農
業関係者等からなる地域協議会の場を活用しながら、農作物被害等が生じ
た際には、有害捕獲を行うほか、防護柵等の設置、緩衝地帯の造成、見回
え
り、餌付けや農作物の残置の防止等、様々な地域ぐるみの対策に取り組み
ます。
また、今後、イノシシについても、特定鳥獣保護管理計画の策定につい
て、検討を行います。
④ツキノワグマ
○「特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)
」
ツキノワグマは、林業被害や人身被害を与える一方、県内の生息数が
少なく、県版 RDB2005 では希少種に指定されていることから、科学的知
見に基づき、保護と被害対策を両立させた計画的な取組が必要です。こ
のため、特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)を適正に推進するため、
同計画の検討委員会を設置して、生息密度や行動範囲等について調査を
進めます。
○被害防除対策
人身被害を回避するためには、ツキノワグマとの不意の遭遇を避ける
ことが重要です。このため、出没情報を県、市町、警察等で共有し、連
携して必要な対策に取り組むことにより、人身被害の発生を防ぎます。
34
はく
また、剥皮等の林業被害に対して、剥皮害防止のための樹木へのテープ
巻きを行います。
○有害捕獲
特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)に基づき、人里へ出没して人
身被害を及ぼすおそれがある場合および農林業被害が発生している場
合においては、原則、檻による捕獲を認めます。
捕獲された個体については、初めて捕獲した個体の場合は、原則奥山
に放獣することとします。この場合、可能な限り耳タグを付けその個体
が再出没個体であるか否かを把握できるようにするとともに、再び人里
に降りて来ないように唐辛子スプレー等で人に対する恐怖心を学習さ
せた上で、行うこととします。ただし、人身被害を起こしたものや、人
家に侵入したもの、2回以上集落付近で捕獲されるなど常習性があるも
のについては殺処分を認めるとともに、人身被害が及ぶ可能性が高く緊
急性があるものについては、銃器による捕獲も認めることとします。
⑤カワウ
○「特定鳥獣保護管理計画(カワウ)
」
平成 21 年度に策定した「特定鳥獣保護管理計画(カワウ)
」に基づき、
個体数調整、水産業被害防除、植生被害防除を組み合わせ、関係者が連
携して、総合的に対策を進めます。また、漁業関係者、自然保護団体、
地元関係者、専門家、市町、県等からなる「カワウ総合対策検討協議会」
を設置し、対策の効果を見極めて、さらなる改善を図ります。
○個体数の抑制
カワウの生息数は、平成 22 年春期調査の推計で約 2 万 3 千羽に達し
ています。水産業被害および植生被害の防止のためには個体数の大幅な
抑制が必要であることから、県内におけるカワウの適正生息数を 4,000
羽と設定し、竹生島および伊崎半島等のコロニーにおいて、銃器捕獲を
実施します。
○漁業現場における被害防除対策
漁業の現場である河川や湖岸域においては、カワウの着水を阻止する
ための防鳥糸の設置、花火等の脅しによる巡回追い払い、銃器捕獲等を
継続的に進めます。
○コロニーにおける植生の再生
平成 21 年度からの高効率捕獲等によりカワウの生息数が減少傾向に
あることから、竹生島においては過度な植生被害によって生じていた裸
35
地の草地化や、照葉樹枯死木からの芽吹きなど、潜在自然植生の自発的
な再生が確認されています。このような自然の力による再生の促進を大
切にして、慎重に本来の植生の復元に努めます。
また、裸地部分において,表土の流出やがけの崩落などの危険性が認
められた場合には,必要に応じて可能な対策を検討します。
○地域ぐるみの対策
竹生島、伊崎半島および漁業の被害現場のそれぞれにおいて、地域の
関係者が情報を共有し、連携して、地域の特徴に応じた計画的な取組を
推進します。
特に、伊崎半島における対策については、管理主体である滋賀森林管
理署と十分な連携のもと推進します。
○広域対策の推進
カワウの行動範囲は、本州の極めて広い範囲にまたがるため、県内の
みでの取組には限界があることから、環境省および中部近畿の 15 府県
等からなる「中部近畿カワウ広域協議会」において、
「カワウ広域保護
管理指針」に基づき、連携・協働による広域的な対策に取り組みます。
また、平成 22 年度に発足した「関西広域連合」において、連合傘下
府県内におけるモニタリング調査が実施され、広域保護管理計画が策定
される予定ですので、広域連合と積極的に連携し、効果的な対策の推進
に取り組みます。
36
第4章 野生動植物との共生に関する推進体制
1 推進組織
野生動植物との共生に関する施策は、その実施組織が県の自然環境部局のみな
らず、林務、農政、水産、土木等関係部局等多岐にわたることから、県内の関連
する部局が連携し、総合的に行うこととします。
また、市町は、地域の状況に熟知し、かつ希少野生動植物種の保護や指定野生
鳥獣種の被害対策の重要な担い手であることから、市町との十分な情報交換や協
議を行い、連携して施策に取り組みます。
2 生息・生育状況のモニタリング
野生動植物の生態については、その全てが解明されていないことに加え、最近
の個体の生息・生育状況は、生息・生育地を取り巻く環境の変化とともに複雑に
なっています。また、人間の社会経済活動が野生動植物の生息・生育環境に様々
な影響を及ぼします。さらに今後、外来種による在来野生動植物の個体および生
息・生育地への影響も懸念されます。
したがって、野生動植物に関する情報を科学的に把握するため、以下のような
モニタリングを行い、施策の効果を把握、評価することとします。
(1)生きもの総合調査
野生動植物に関する施策を推進するための基礎的な情報を得るため、滋賀
県における野生動植物の生息・生育状況、生息・生育地の状況等を調査する
「生きもの総合調査」を実施します。この調査では、野生動植物の分類群ご
との専門家からなる「生きもの総合調査委員会」を設置し、過去の文献調査、
現地調査を行い、また、県民等による情報の提供も得て、情報データベース
を作成・更新します。そして、おおむね 5 年ごとに、本県で保護が必要な野
生動植物の選定および絶滅のおそれの程度に応じたカテゴリー区分を行い、
「滋賀県レッドデータブック」として公表します。
(2)野生鳥獣種に関する生息状況等の調査
野生鳥獣種の保護および適正な管理に関する施策を推進するための基礎
的な情報を得るため、次のような鳥獣の生息状況や行動範囲等の調査を継続
的に実施します。
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○ガンカモ類等生息状況調査
水鳥の保護のための基礎的な情報を得ることを目的に、ガンカモ科、ア
ビ科、カイツブリ科などの琵琶湖、内湖、溜池および主要河川等への飛来
数について調査します。
○鳥類生息環境調査
鳥獣保護区特別保護地区の指定・更新のための基礎的な情報を得ること
を目的に、鳥類の重要な生息地について調査します。
○「ニホンジカ特定鳥獣保護管理計画」モニタリング調査
ニホンジカによる被害対策の効果の検証等をするため、生息数や行動範
囲等について調査します。
○「ニホンザル特定鳥獣保護管理計画」モニタリング調査
ニホンザルによる被害対策の効果の検証等をするため、生息数や行動範
囲等について調査します。
○「ツキノワグマ特定鳥獣保護管理計画」モニタリング調査
ツキノワグマの保護管理を推進するため、生息数や行動範囲等について
調査します。
○カワウの生息数等の調査
カワウによる被害対策の効果の検証等をするため、関西広域連合と連携
し、カワウのコロニーにおける生息数、漁業現場等への飛来数、カワウの
繁殖率、カワウの行動範囲、コロニーでの植生被害状況等について調査し
ます。
(3)県の試験研究機関による調査
琵琶湖環境科学研究センター、琵琶湖博物館、水産試験場等の試験研究機
関が実施する調査研究には、野生動植物の生息・生育に関するものが含まれ
ます。野生動植物との共生の視点から、これらの調査研究事業との連携を図
ります。
3 県民等との協働の推進
県民および事業者は、日常の生活および事業活動において、野生動植物の生
息・生育地の利用、林業・漁業資源としての利用、廃棄物の不適切な排出等、
野生動植物に大きな影響を与えていることから、野生動植物との共生に十分配
慮し、本計画に示された基本的な方向に沿って、自主的・積極的に行動するこ
とが求められます。
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また、NPO活動等を通じて、里地里山等野生動植物の生息・生育地の保全・
再生活動、野生動植物の生息・生育状況調査、環境教育・環境学習等に参画し、
野生動植物との共生に貢献することが期待されます。
これらの取組を促進するため、県では以下の施策を推進します。
(1)住民との協働による自然環境保全・再生活動の推進
滋賀県では、平成 8 年度に策定した「みずすまし構想」に基づき、田んぼ
や排水路を魚が行き来できるようにし、生きものの命あふれる田園環境をよ
みがえらせることを目的とした「魚のゆりかご水田プロジェクト」や、農地・
農業用水などの資源や農村環境を地域ぐるみの協働活動で保全することを
目的とした「世代をつなぐ農村まるごと保全向上対策」を推進していますが、
これらでは地域住民と行政とが一体となって、農村地域の水質および生態
系・景観の保全に取り組んでいます。
また、多自然川づくりの一環として、愛知川の河畔林を地域住民・学識者・
行政が協力して手入れを行い、河川の治水機能の維持とともに、自然にふれ
あえる良好な環境にすることを目的とした活動が続けられています。
自然環境の保全・再生を図るには、これらのように地元住民が主役となっ
た息の長い取組を実施する必要があり、今後も住民との協働による様々な取
組を推進していきます。
(2)生きもの生息地等保護協定
希少野生動植物種の生息・生育地の保護等、野生動植物との共生に必要な
環境の保全を図ろうとする者と、その保全に係る土地・木竹の所有者等との
間で「生きもの生息地等保護協定」が締結され、必要な環境の保全が図られ
ることを推進します。このため、適切な内容の協定について知事が認定を行
うとともに、技術的な助言・指導を行います。
(3)自然体験活動の促進
野生動植物との共生を図るためには、自然観察、登山、キャンプ等、自然
との触れ合いを体験し、野生動植物についての理解を深める自然体験活動が
重要です。このため、特に、将来の自然保護の担い手となる子どもたちが積
極的に参加できるよう配慮しながら、朽木いきものふれあいの里、湖北野鳥
センター等の自然公園施設や琵琶湖博物館等を拠点として、自然環境に関す
る情報の提供や自然観察行事の開催等を行います。
また、自然体験活動を行うに当たり配慮すべきルールを定めた自然体験活
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動指針を策定し、野生動植物の生息・生育環境を損なうことのない持続可能
な自然体験活動の推進を図ります。
(4)調査研究に当たっての県民等との協力
県民やNPO等の協力を得て行う、いわゆる参加型調査は、地域固有の詳
細な情報や過去の記録等、専門家による特定の地域での調査や文献調査では
得にくい情報が収集できることがあります。また、協力者が参加体験を通じ
て野生動植物に関する理解や関心を深めることができる等、施策を支援する
人々の裾野を広げる効果が期待できます。このため、生きもの総合調査や県
の試験研究機関による調査を行うに当たって、必要に応じ、参加型調査の手
法を取り入れます。
(5)野生動植物に係る人材の育成
自然体験活動の指導者やリーダーを育成するため、関係する県民、行政職
員、学校教員、NPO等に対して、野生動植物に関する高度な専門知識の取
得と野外での実習体験等を行う研修等を推進します。
これに関する研修として平成 12 年度から行っている生物環境アドバイザ
ー研修は、大学教授、小中高教員、学生、県職員、コンサル会社社員や一般
県民などを対象にして、これまででのべ 600 名を超える人材を育成し、この
研修修了者の多くは生物環境アドバイザーやみずすましアドバイザー、NP
O代表、各地での自然観察会指導者などとして活躍しています。
今後も、これらの研修制度をさらに充実、発展させ、人材の育成に努めま
す。
(6)広報・支援等
県民の野生動植物との共生についての理解と関心を深め、また、NPO等
が行う野生動植物との共生に資する活動を促進するため、琵琶湖博物館、環
境学習支援センター等の施設やインターネット等様々な媒体を通じて、広報
活動や情報の提供、助言等の支援を行います。
4 基本計画の点検と見直し
野生動植物の生態や生息・生育分布の変化については、短期間では評価し難
い一方、自然環境の状況や社会経済の変化に柔軟かつ適切に対応する必要があ
ること、また、滋賀県レッドデータブックの改訂をおおむね 5 年毎に行うこと
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を踏まえ、本計画は、おおむね 5 年毎に点検し、必要に応じて見直しを行うこ
ととします。
点検、見直しに当たっては、広く庁内での調整を図るとともに、環境審議会に
おいて専門家の知見を十分に得た上で行います。
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