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家族社会学テキストにおける「パラダイム転換」問題

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家族社会学テキストにおける「パラダイム転換」問題
家族社会学テキストにおける「パラダイム転換」問題
――ハンガリー、中国、台湾、日本を事例として――
京都大学
ライカイ・ジョンボル
1.目的
本報告の目的は、家族・私生活をはじめとするミクロ・レベルにおける人間関係の急激な変容
に伴い、家族社会学テキストにおける「パラダイム転換」問題を考察することにある。第二の人
口転換に伴う(近代)家族の多様化・個人化が進行していることはある程度、普遍的な現象だと
考えられるが、それに応じて家族社会学のテキストでは、<(近代)家族を(近代)社会の単位
とする近代的なパラダイム>から、<個人を(現代)社会の単位とするいわゆるポスト近代的な
パラダイム>への転換が一般的に進行しているのかを検討する――その作業は、社会科学の文脈
において、T.クーンのパラダイム転換論を再考することにつながる。本報告では、このような「パ
ラダイム転換」問題を、西欧文化圏の場合ではなく、これまであまり比較されなかった非西欧文
化圏(中でも経済発展が進む東アジア諸国と、西欧文化圏の影響を地理的に強く受ける東欧地域
の 4 カ国)に焦点を絞って検討する。
2.方法
具体的には、8つの家族社会学の入門テキスト(4つの社会、2つの時期)を分析対象とし、
知識社会学的な分析を行う。各テキストにおいて表象される言説上の家族モデルのありよう、及
び①理論的方向性、②方法論(の精度)、③テキストに表象される家族モデルに焦点を当て、テ
キストの概念資源、パラダイム、またイデオロギーなどを比較検討する。
3.結果
分析の結果、各社会の家族社会学テキストにおいて「パラダイム転換」の方向性が異なること
が示された。すなわち(1)キリスト教的イデオロギーの勃興によるプレ近代への逆戻り(ハンガ
リー)。(2)社会主義イデオロギーによるポスト近代的転換の遅れ(中国)。(3)伝統家族規範が正式
に否定されないことによるポスト近代的転換の遅れ(台湾)、(4)ポスト近代的転換の進行(日本)。
4.結論
以上から、家族テキストの変容は一方向ではないこと、とりわけ4カ国の違いはイデオロギー
によってかなり規定されていることなどが示された。物理学を事例としたクーンのパラダイム転
換論では「イデオロギー」という要因が強調されていなかったが、家族社会学の場合ではポスト
近代的パラダイムの変容においてイデオロギーが大きな影響を及ぼしていることが指摘される。
文献
Rajkai, Zs., 2007, “Model-Building in Family Sociological Textbooks: in Socialist and Post-Socialist
Hungary”, 『京都社会学年報』15: 111-139.
ライカイ・ジョンボル、2008、「社会主義近代化における家族社会学のテキスト作成問題――中
国の場合」『現代社会研究』第 11 号,175-191 頁.
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