...

フランス自動車産業における生産組織・労働編成改革と雇用管理 -90

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

フランス自動車産業における生産組織・労働編成改革と雇用管理 -90
フ ラ ンス 自動 車産業 にお け る生 産組織 ・
労働編 成 改革 と雇用管 理
十-90年 代 の改革方向 は 「ジャパ ナ イゼー シ ョン」 か ?― ―
(上)
荒
井
書
夫
I は じめ に一 一 問 題 の 所 在
フ ラ ン ス 自動 車産 業 は,石 油 危機 後 の1980年代 前半 におけ る危機 的局 面 を経
過 して,80年 代 後 半 か ら回復 の局 面 に移 行 す る。 そ こでの特徴 は,80年 代初 頭
か ら顕在 化 した余剰 人員 問題 と労働 コス ト上昇 ,乗 用車 の モ デ ル チ ェ ン ジや 製
品差別化 の遅 れ に よる販 売不 振 ,負 債 増加 ,等 の経営 危機要 因に対 して,大 幅
な人員整理 ,不 採 算事 業 か らの撤 退や 自動 車生産 の 地理 的集 中,政 府補 助金 の
導 入 ,な どの い わば 対症療 法 を施 す とともに,石 油危機 後 の 自動車 の小 型化 ・
多品種化 ・短納期化,等 の市場 と需要の変化 に迅速に対応 しうる部品 メー カー
・下請け企業をも巻 き込んだ生産組織ない し生産 システムの徹底的な改革 に着
1)
手 してい るこ とである。 その際,改 革 のモデル とされたのは,周 知 の ように,
日本 の 自動車産業 の生産 システムす なわちジャス ト ・イ ン ・タイム (JIT)
納 入方式 をは じめ とす る トヨタ生産方式 である。
中央大学経済研究所編 『
構造転換下 のフ ランス 自動車産業一一 管理 方式 の ジ
ャパ ナ イゼー シ ョンーー 』 (中央大学 出版部,1994年 )は,以 上 の ような フ ラン
ス 自動車産業 の80年代後半 におけ る構造転換 を,競 争力回復 のための管理 方式
の 「ジャパ ナ イゼー ション」す なわち 日本型生産 システム とりわけ 日本的な外
注管理 ・下請け システムの導 入 とい う観 ″
点か ら,現 地調査 ・イン タ ビュー に基
づ いて詳細に明 らかに し,そ の点にお いて事実上,MITグ
1 ) F . B r i c n e t , A u t o l n o b i l e : u n e
i n d u s t r i e
E%筋 のガS夕Fγa%σら Librairie Gё
norale Francaise,1993.
ルー プに よる 日本
c o n v a l e s c e n t e , i
92
梶
田 公 教授退官記念論文集 (第305号)
2 1 世 紀 の 世 界 に お け る標 準 的 生 産 シ
型 生 産 シ ス テ ム 三 「リー ン生 産 方 式 」 は 「
2)
ステム」 であるとい う 「リー ン生産」 モデル論 をフランス 自動車産業について
実証 しようとしたわが国初 の優れた集団的労作 である。
点を検討 しようとするもの
本稿は,こ の優れた研究書に触発 された若子の論″
め
で あ って,書 評 を 目的 とす る もの では な い。 そ こで,こ こでは触発 され た論 点
を簡潔 に 説 明す る こ とに よ って,本 稿 に とって の 問題 の所在 を明 らか に した い。
本 書 は まず,わ が 国 では従 来 ほ とん ど知 られ て い な い フ ラ ンス 自動 車産 業 の
外 注管理 ・下請 け システムの実 態 と80年代 後 半 におけ るそ の転換 方 向 を詳細 に
明 らか に して い る。
それ に よれ ば,フ ラ ンスの伝 統 的 な下 請 け システムは,メ ー カー の競 争 入札
方式 に よる短期 取 引契約 と単 品部 品加 工 の 発 注 ,対 応 的 なサ プ ライヤ ー の部 品
納 入価格 の 厳格 な事 前決定 方 式 と リス ク分 散 の ため の特定 メー カー ヘ の 取 引依
存度 の抑制 ,そ れ ゆ えそ の 帰結 は,メ ー カー に よる納 入 価格 統制 ・サ プ ライヤ
ー との 協 力 に よ る部 品 コス ト削減 の 不 可能性 であ った。 そ の 後,新 たに 導 入 さ
れ た下 請 け システムは,生 産 能 力 ・品質 レベ ル ・開発 能 力 ・価格競 争 力 ・財務
状況 とい う諸 基準 に もとづ くメー カー に よるサ プ ライヤー の選別 とその結果 と
しての トップ クラスのサ プ ライヤー (一次サ プ ライヤー 王エ キプモンテ ィエ)
へ の部 品発注集約,発 注 のユニ ッ ト部 品 (機能部 品)化 。小 ロ ッ ト化 ・デイ リ
ー化 ,サ プ ライヤー 品質保証 (AQF)御
!度による部 品の 品質向上確保 ,対 応
2)J.P.Womack/D.Roos/D.T.Jones,効
夕Macカグ
物夕方
あ″ σ
物 %g夕冴 滋夕″θr↓
d,Harper
Perennial,1990[沢田博 訳 『リー ン生産方式が世 界 の 自動車産業 を こ う変 える』経済界,
1990年]
3)本 稿執筆 の きっかけは まず,社 会政策学会 第93回大会 (1996年10月末Ⅲ静 岡大学開催)
におけ る書評分科会 に 向け て,私 が本書担 当 を依頼 され引 き受けた こ とにあ る。私 は,大
会 に向けての レジュ メ作成過程 にお いて,本 書 の優 れた研究調査か ら改めて多 くを学 びえ
た一 方 で,フ ラ ンス 自動車産業 の改革方向 を異論 を含 みつつ も基本的には 「ジ ャパ ナ イゼ
ー シ ョン」 と一 括す る本書 の立場 に対 して十分,納 得 しえず,問 題 を改めて整理 して検討
す る必要 を感 じた, と い う事情 が執筆 の 直接的要 因である。 なお,本 書 の詳 しい紹介 と論
評 はす でに,清 水耕 一 氏に よって行 われて い る。清水 耕 一 「
書評 と紹 介」 (『
大原社会問題
研究所雑誌 』 第439号,1995年 )参 照。
フランス自動車産業における生産組織 ・労働編成改革と雇用管理
93
的 な当該 有 カ サ プ ライヤ ー に よ る生 産 リー ドタイ ム短縮 ・仕 掛 け 品 と製 品 の在
庫 削減 ・カ ンバ ンに よる生産指 示 ・段 取 り替 え時 間短縮,等 に依 拠 して の部 品
の シ ン ク ロナ イ ズ納 入 , 自 己 の外 注業 者 に対 す る同 じ品質保 証制 度 の 導 入 に よ
る二 次下請 け企業 の選 別 ・近 距離化 と部 品 の デ イ リー 納 入 要 請 ,総 じて部 品 の
標準化 とJIT納
入体制 を確保 しよ う とす る新 しい階層的下請け システムであ
り, 日本的 な階層構造 の形成 であるとされ る。
本書は また,以 上 の ような新 しい下請け システム と相互規定 関係 にある企業
内の労働組織 ・労働慣行 の転換 について も明 らかに して い る。
それは, メー カー におけ る職 制組織 の簡素化,現 場監督者 と専 門工 (保全工 )
の職務変更,直 接生産労働者 の チー ム制作業組織化 と多能工化,同 時 に品質改
善小集団 (GAQ)の
組織化 ,対 応的 な有カサ プ ライヤー におけ る製品開発権
限 を担 う機能別 プ ロジ ョク トチー ム編成や工 場組織 の改革,直 接 生産労働者 の
同様 なチー ム制作業組織化 と改善活動参加 ,さ らにはサ プ ライヤー 品質保証御l
度 の適用 時 の メー カー ・サプ ライヤー 間の専 門作業 チー ムの編成による技術指
導,等 として報告 されて い る。 そ して,こ の点に関 しては特 に 「テイラー 主義
の経営方式か ら従業員参加形 態 のマ ネ ジメン トヘ の転換 J=「 日本的経営方式」
の導 入 として強調 されて い る。
総 じて,以 上 の ような生産 ・労働組織 の転換 につ いて,本 書 は,下 請けの階
層構造 が形成 された後 もメー カー ・サプ ライヤー ともに特定一社 へ の取引依存
度 を低 く抑 えて い るこ と,メ ー カー が有カサ プ ライヤー 間の グルー プ化 を促進
して い るこ と,あ るいは 日本的な労働組織 の導 入がフランスの直接労働者 ・間
接労働者 の厳格 な区分 の存続や労働者 の大幅 な雇用 削減 と同時併行的に行 われ
て い ること,等 の 日本 の管理 方式 と異なる事態 も明 らかに し, さ らには,以 上
の転換 の事 態 は 日本型生産 シス テムの個 々の要素 システムであるカ ンバ ン等 の
管理 方式 が フ ランス企業 の個房U的な合理化政策に よって選択的に導 入 されて い
るにす ぎない とい う個別 的分析 を含みつつ も,転 換 の基本方向 としては 「ジャ
パナ イゼー シ ョン」 =「 日本型生産 システムの普及」 として総括 して い る。だ
が,90年 代 の今 日か ら見て,フ ランス 自動車産業 の生産 システムの そ うした総
94
梶
田 公 教授退官記念論文 集 (第305号)
括 は妥 当であ ろ うか 。
本 書 の考 察 の 基本 線 は換 言す れ ば, 執 筆 者 の なか に 異論 を含 み つつ も, フ ラ
ン ス 自動 車産 業 におけ る 日本 的 な生 産 組 織 お よび労働 組 織 の い わば原理 の 共 有
化 を見 い 出す こ とに よって, 日本 型生産 システム = 「 リー ン生 産 方式 」 こ そが
9 0 年代 の世 界 にお い て共 通 す るモデル であ るこ とを示 唆 して い る と言 え よ う。
だが , 生 産 シス テム を経営 管 理 の 諸 原理 , 生 産 組 織, 労 働 組 織, 雇 用 人事 管理,
労使 関係 , 等 の 諸制 度 の 整合 的関係 として 見 た場合 , フ ラ ン ス 自動 車産 業 は 日
本 型生 産 シス テム に収 飲 して い る と言 え るの であ ろ うか 。 この よ うな問題観 点
か ら以下 , フ ラ ンス 自動車産 業 の転換 方 向 を, メ ー カー の労働 編成 ( 労働 組織 )
の 改革 お よび メー カー ・ェ キプ モ ン テ ィエ 間 の生 産 組 織 改革 とそれ に伴 う新 し
い雇用 管 理 方 式 とい う問題 に絞 って検 討 す るこ とに した い。但 し, 検 討 の素 材
は利 用 可能 な文 献 資料 の 点 で ル ノー 公 団 に限定 す るこ と を予 め お 断 りしてお き
た い。
H 労
働 編成 改革 の 発 端 と継続
ここ での 問題 は,フ ラ ン ス 自動 車産 業 の80年代 後半 以 降 の労働 組織 ・労働 慣
行 の 改革 が , 日本 の それ の 導 入 な い し模 倣 として始 め られ たのか ど うか ,す な
わ ち80年代 前半 の 経営 危機 か らの脱却 を 目指 す長期 的戦略 としての 日本 型生 産
シス テムの 導 入 の一 環 として,労 働 組織 もまた この 時初 め て伝 統 的 テー ラー 主
義 組 織 か ら 日本 的 な組 織 に変 え られ たのか ど うか , と い う点 を検 討す るこ とで
あ る。
1.70年 代 の 労働 編成 改革 の 実験
今 日のフランス自動車産業において 「
チーム制作業」(travail en groupe)と
いう概念が新 しい労働組織 ・労働慣行 したがって新 しい労働編成を意味し, し
か も往々にして日本的なそれとして語られているのは周知の ところである。と
4)生 産 システムの概 念につ いては,R.Boyer&J.P.Durand,二
物 をsザレ滋膨%SyrOs,
1993[拙 訳 『アフター ・フォー デ ィズム』 ミネルヴ ァ書房,1996年 ]参 照。
5)J. P.Durand, ニ タサ初υ
αグ
アタ% g%θ″ a rapport pour l er colloque international du/
フランス自動車産業における生産組織 ・労働編成改革と雇用管理
95
すれば, そ うしたチー ム制作業 は, 8 0 年 代後半 に初めて 日本的な方式 の導 入 の
一環 として フ ランス 自動車産業 の なかに出現 したので あろ か。事実 はそ で
う
う
はな く, ル ノー公団 の工 場 ・作業場 レベ ル にお いて, す でに7 0 年代前半 に独 自
の理 由か らチー ム制作業 の実験 が 開始 されてい たことを諸研究は明 らかに して
0
い る。 それ どころか , チ ー ム制作 業 の 経験 に 関 して は, ル ノー 公 団 こ そが世 界
の
的 に見 て 「
最 も先進 的 な企業 」 で あ る とさえ指 摘 され て い る。
それ に よれ ば,独 自の実 験 は,例 えば ル ノー 公 団 の 主要 組 立工 場 の一 つ ル ・
マ ンエ 場 にお い て,68年 5月 間争 とグル ネ ル協定 を挟 む 時期 た る69年初 頭 か ら
展 開 され る移 民 の 単能 工 (OS:技
能 資格 を持 たな い直接 生 産労働 者)中 心 の
波状 ス トライ キの 後 に,そ れ へ の工 場 と作業場 の 経営 陣 の 自発 的対 応 として実
施 され る。
それ は,69年 春 に, まず車 台組 立 の作 業場 にお い て 「
作業部署 に よる評価付
け 」 に も とづ く労働 編 成 に反 対 す るス トライキ,同 年秋 には,熱 処 理 の作業場
にお い て炎熱 手 当 を要 求す るス トライキ,ま た70年初 頭 には, ト ラ クター 組 立
の作 業場 にお い て ライ ンの ス ピー ドダ ウ ン ・「
作業部署 に よ る評価付 け 」の廃 止
・月給化 ,等 を要 求 す る ス トライキ,さ らに71年春 には, ト ラ ン ス ミッシ ョン
組 立 の作 業場 におけ る 「
作業部署 に よる評価付 け 」 の廃 止 と単能 工 の係数 =賃
金 等級 引 き上 げ を要求 す る職 場 占拠 を契機 として,工 場全体 の生産停 止 と占拠
とい う経過 を辿 る。 しか も,こ の 71年碁 の ル ・マ ンの工 場 占拠 は,直 ちに ビラ
ン クー ル, ク レオ ン,フ ラ ン,サ ン ドゥヴ ィル,シ ョワ ジ ・ル ・ロ ワ, と い っ
ヽGERPISA,1993.な
お,労 働組織 または労働編成 を意味す る organisation du travailとい
フランスの
用語 は,労 働者間 の分 業 だけでな く水平的 かつ垂 直的 な協業 の あ り方,そ れ
う
い
ゆえ わば労働慣行 も含 んで い るので,よ り通切 であ る と思われ る労働編成 とい う用語 を
使 うこ とにす る。
6)こ の点につ い ては,拙 稿 「フ ラ ンス 自動車産業 におけ る労働 と雇用に関す る若子 の考察
(2)」 (『
彦 根論叢』第250号 ,1988年 )参 照。
タサ
物υ
αガ
ブタ
%g殉 %クタタ
%F/2%物
f物 び
容 R夕%″勿″
ちrapport du Colloquc
franco allernand,Philipps―Universitat,Marburg,12-13 oct,1994.な
お,フ ラ ンスの も
一
ー
ー
ー
『
・
い
う つの メ カ ,プ ジ ョ 社 の状況につ ては,花 田 昌宣 中西洋 フ ランス Peugeot
“
社 の Bulletin de Paie"』東京大学デ ィスカ ッシ ョン ・ペ ー パ ー,1994年 ,参 照。
7)M.Freyssenet,こ
梶 田 公 教授退官記念論文集 (第305号 )
た他 の主要組 立工 場 におけ る単能工 たちの工場 占拠 を誘発す るのである。
こ うした単能工 たちの抵抗が,低 い賃金等級へ の格付け とそ して生産能力増
大 のための ライ ンス ピー ドア ップ と交番制導入による労働 強化 とい う劣悪 な賃
金 ・労働条件に起 因す るとともに,職 務 の極端 な細分化 の もとでの彼 らの単純
反復 作業部署 へ の配置固定化 とい うテー ラー主義的労働編成に根拠 を持 つ もの
であるこ とは明 白である。それは,フ ランス社会 におけ る「
労働 の危機 」(crise
du travail)を
引 き起 こ し,山 猫 ス トライキの頻発,無 断欠勤 の増大,高 い離職
率,製 品の手直 しの増加 ,等 として現 象す る。単能工 の そ うした抵抗 を鎮め る
とともに現場 の生産性 向上 をも達成す る目的 をもって,賃 金 ・労働条件改善 の
試み とともに,労 働 それ 自体 の人間化 す なわち「
職務 の構造改革」(restructura‐
tion des ttthes)の
試みが実施 され る。
・
同 じル マ ンエ 場 の車台組立 の作業場 にお いて,72年 初頭に第一段 の実験 と
して,組 立工13名,次 の塗装 ライ ンヘ の連結工 3名 ,手 直 し工 1名 か ら成 る伝
統的な組立 ライ ン上 の単純反復作業方式か ら,組 立工全員が コンベ アー ライ ン
の後 を追 って各部署 を移動 し手直 しをも担 当す るとい う職務拡大方式に変化す
る実験 が行 われたが,作 業負荷増大 の不満 が組立工 たちの間で大 き くな り中止
に追 い込 まれ る。翌年 73年初頭 には第二段 の実験 として, コ ンベ アー ライ ンの
廃 止 とテー ブル上 の集団的組 立 とい う新 た な形態が導 入 され る。 すなわち,一
日に組み立てるべ き車台の数 は経営陣か ら与 え られ るとは いえ, 4人 1組 の チ
ー ムが準備 ・組立 。手直 し ・
完成 品連結 を集団的に行 い,品 質 について も責任
「
をもつ モジュー ル方式作業 」 (travail en module)である。 これは当時,公
団が機械装置 の共 同生産協定 を結んでいたボルボ ・カルマー ルエ場 の実験 に着
想 を得 たいわゆ る半 自律的作業集団 に よる職務充実 (サイ クル タイム :1分 →
15分→25分)の 試みであ り,当 時 のチー ム制作業 の形態であると言えよう (第
1表 ,参 照 )。
また, ド ゥー エエ 場 は73年春 に,蟻 装 ライ ン と機械装置 の組立 ライン を伝統
的 ライ ン構成 に代 えて,各 々 4本 の短縮 ライ ンに再構成 し,各 ライン をチー ム
編成 の作業集団 に委ね,各 作業チー ム は,ラ イ ン外 のサブアセ ンブ リー と準備
フランス 自動車産業 における生産組織 ・労働編成改革 と雇用管理
第 1表 ル ・マ ンの車 台組立 におけ る職務 の構 造改革
コンベ アー ライ ン
上 の細分化 され た
作業
実
働
人
員
拘 束 下 に あ る職
務拡大
十
自 己 手 直 し
組 立 工
1 3
組 立 工
1 3
運 結 工
3
運 結 工
3
手 直 し工
モ デ ュー ル方式
作業
2× 4
1
1 日 の生 産 総 数
各人 1日 分 の生 産数
26.5
33.5
(出"子)B.Coriata La recomposition de la ligne mantage et son etteu,in s%わ け
に ,c
グ物サ
物ク
αガ
ブ
,No.1-1979。
作業 そ して組立 ・検査 ・手直 しの責任 を負わせ るとい う職務 の構造改革 を行 う
こ とに よって, ライ ン停 止の減少 に よ り生産性 を向上 させ るとともに,組 立の
車種 を変 えるこ とを可能 にす る柔軟生産体制 を実験す る。
その他 に,モ ジュー ル方式作業 の実験 につ いては,同 じ年 に導 入 されたシ ョ
ワジ ・ル ・ロワエ 場 のエ ン ジン再生組 立の作業場 の例 が知 られて い る。
以上 の ような単能工 の抵抗 に対応 しての脱 テー ラー主義的な労働編成改革 の
局 地的実験 は,同 時 に賃金 ・労働条件 の公団 レベ ル での若子 の改善 をもた らし
た。 それは,72年 6月 の 「
製造専 門工 」 (PlF,係
数 162)と い う新 しい カテ
ゴ リー の創設 であ り,平 均 的な単能工 よ りも複雑 な作業,従 業員 と生産設備 に
対す る責任,作 業部署 におけ る 2年 の経験,現 場 で獲得 された職業的知識に関
す る実践的テス トの通過, とい う四条件 を満 たす単能工 に与 え られ る格付け上
の措置である。 これに対 しては,こ の措置 の直後 の各工場専 門工 に よるPlF
に対応す る自分 たちの格付 け引 き上げ要求 のス トライキそ して73年初頭か ら春
にかけての各工場単能工 に よるPlF無
条件付与要求 のス トライキ, とい う二
類型 の大規模 な抵抗が発生 し,新 たな措置が提起 され るこ とになる。 それは,
「
作業部署 に よる評価付 け」 の正 式廃止 (経験 と能力 もまた評価付けの要素)
であ り,単 能工 の 「
生産要員」 (AP)へ の名称変更 とそれ らの APoA,AP・
B,APoC,AP・
165)と専 門工 の 「
Qの 4等 級化 (係数,150。155'160。
専 門要
98
梶
田 公 教授退官記念論文集 (第305号)
員」 (AP)へ
の名称変更 と同 じくAP・ lA,AP・ lB,AP。 2,AP。 3の 4等
210)と い う点
級構成 そ して係数 引 き上げ (162→170,168→180,175→190,195→
を主要 内容 とす る,73年 6月 か ら適用 され る新 しい格付 けである。
それは, きわめて限 られた範囲であ るとは い え,単 能工 の企業 内昇格 ・昇給
を可能 に し,そ れゆえ企業 内へ の統合 の イ ンセンテ ィヴを与 えるもので あ った。
それで も,こ うした制度的見直 しは,秩 序 回復 をもた らす こ とな く,翌 年 74年
の各工場 におけ る係数 引 き上 げ ,Pl昇 進 を要求す るス トライキの頻発,75年
春以降 のル ・マ ンエ 場 の部分 ス トを発端 として数 ヶ月に及ぶ 「
熱情 のス トライ
キ」 の貫徹,等 として労使 関係 の不安定化 は続 くのであるがさ
いずれ にせ よ,以 上 の ような70年代 前半 の経過 の うちに,ル ノー公団独 自の
労働編成改革 の発端 を見 い出す こ とがで きよう。但 し,そ れは,工 場 とい うよ
りもむ しろ作業場 の レベ ルの非常 に限 られた実験 にす ぎないの であ り, しか も
労働編成 の特徴 として,単 能工 のみに よって構成 され る数人規模 の小集団であ
り,専 門工 や技術職員 との協働 を欠 いて い る,等 の点にお いて,今 日のチー ム
制作業 と異 なって い る。
2.80年 代 の 労働編成 改革
ル ノー公 団の労働編成改革 は,以 上 に ような70年代 の 「
労働 の危機 」 に対処
す るため の各工 場 内の作業場 レベ ルの実験 で終 了す るのではな く,そ の後,推
進 された生産 の 自動化 とい う80年代初頭 の新 しい状況 の もとで継続 され る。事
実,公 団の各主要 工場 にお いて,産 業用 ロボッ トの利用台数 は,70年 代 中期 (76
年)の 二十数 台か ら80年代初頭 (81年)の 二百数 十台へ と急増 して い るの であ
り,そ うした 自動化 は,石 油危機後 の市場 の変化 に対応 しての製品 モデルの 多
様化 と低 コス ト迅速供給 を可能 にす るフレキ シブルな生産設備 の確保 とそ して
大 きな肉体 的負担 と危 険 の 多い作業部署 に就 くがゆえに相 対的高賃金 である製
造現場労働 力 の コス ト削減 を理 由 として,産 業用 ロボ ッ トをは じめ とす る自動
8)
機械 が ,機 械 加 工 ・プ レス ・溶接 ・塗 装,等 の部 門 に 急速 に 導 入 され る。 それ
8)D,Richter,L'automatisation a la Rёgie Renault,in Notice 3 de Cα
力彦/s Fγ
a%【
形れ
No.209, 1983.
フランス 自動車産業における生産組織 ・労働編成改革 と雇用管理
99
は ,世 界 市場 の 新 た な状 況 に 対 して ,い わ ゆ る フ ォ ー ド主 義 的 生 産 シ ス テ ム の
自動化 と規模 の経済 の追求 に よって対応 しようとす る公 団経営陣の意思 を示 し
て い る (80年,生 産 台数200万台超過)。
そ こでの生産 の 自動化 は,異 常時 の 自動停止,故 障個所 の 自動検 出,機 能不
全要素 のユニ ッ ト交換,等 を装備 した 「
製造 におけ る諸機械 の 自動化 ・
統合化 」
=「 統合製造 ライ ン」 (LIF)と して現れ るが
,こ うした 自動化 の形態は, コ
・
ー
ス ト パ フォ マ ンスの観点か ら,従 業員 の欠勤 と休 憩に関わ りの ない機械 の
連続稼働 の確保,同 じ従業員に よる複雑性 の異 なる職務 の遂行 ,そ して生産 の
停 止時間 を最小 にす るための迅速 な故 障修 理, とい った新 しい労働規 準 を要請
す る。
以上 の ような生産 の 自動化 の もとでの新 しい労働規 準 の要請 に,従 前 の労働
編成 の実験 の延長 線上 にお いて対応 しよ うとす るのが,80年 代初頭 のル ・マ ン
エ場経営陣による新 しい内部昇進型専 門工 の認定 とそれによる均質的作業 チー
の
ムの組 織化 の 試 み であ る。 す なわ ち,75年 の 車 台 の組 立 におけ る 8名 の集 団 に
よる モ ジュー ル 方 式作業 の一 般化 ,76年 の R30の 一 機械装 置 の加 工 におけ る 5
名 の 集 団 に よる契約 労働 の実験,78年 の トラ クター の い くつ か の機械 装 置 の組
立 の おけ る 自律 的作 業 チ ー ム に よ る交 番制 の実施,な どの チー ム制作業 の局 地
的実 験 の積 み重 ね の うえで,ル ・マ ンエ 場 経営 陣 は,公 団 トップ特 に 中央 人事
社 会 関係部 との協 議 を踏 まえつつ も,そ の 意思 か ら相 対 的 に独 立 して,当 工 場
の機械加 工 部 門にお い て新 しい格付 け 「自動化装 置正 式運転 工 」 (CCUA)を
82年 に 導 入 し,そ れ を精神 工 学 の テス トと理 論 的実 践 的試験 の通過 を前提 に,
最 大 の 自己投 入 ・3交 替制 8時 間労働 。新 しい諸職務 の遂行 ・集 団作業,等 の
諸条件 を受容 しそ して精 巧 な機械 設備 に就 い ての 6ヶ 月 の 訓練 を経 た元 単能 工
に,専 門工 第 2級
(P2,係
数 195)の 追加 的 カテ ゴ リー として認 定 し付 与 す
る。 この格 付 け は従 来,保 全 な どの伝 統 的職種 の専 門工 の み に与 え られ てお り,
直接 生 産 労働 者 =製 造要員 には 存在 しなか った もの で あ る。
9)こ の点 につ い ては,拙 稿 「
最近 の フ ラ ンス 自動車産業 におけ る労働 と雇用の変容 」 (『
彦
根論叢』 第268号 ,1991年 )参 照。
100
梶 田 公 教援退官記念論文集 (第305号
)
これ らの運転工 たちは,製 品の検査 と第 1レ ベ ルの保全 ・放障修理一-5分
以内の停 止時間の故障 ;但 し20分以内の停止時間の それに も技術要員 とともに
積極 関与一― ,そ して以前は調整工が遂行 して いた工具変換 ・調整 とい った異
なる職務 を担当す るこ とに よって,機 械設備 の連続稼働 と生産 の停 止時間の最
小化 を確保 しようとす るのであ り,班 長役 たる専 門的技術要員 (ATP,係
数
260)の指揮 の もと, 8名 か ら成 る午前,午 後,夜 間の各交替制作業班 の人員配
置や ジ ョブ 。ロー テー シ ョンの仕方 を自ら決定 し,必 要 な情報交換 と直接的協
働 を行 う自律的作業 チー ム を編成す る。 ここでは,伝 統的 ライ ン作業 におけ る
作業工 へ の職制 の直接的管理 と調整工 の部署 は廃 止 されてお り,従 来 の階層組
織 の簡素化 が実現 され る (第 2表 ,参 照 )。
第 2表 ル ・マ ン とク レオ ンの機械加 工 作業場 におけ る労働編成
職 位 の レベ ル
技術 的管理 業務 ,第 3レ ベ ルの
故障修 理 ・診断
第 2レ ベ ルの故 障修 理 ・診断
ル ・マ ンエ 場
ク レ オ ンエ 場
専 門的技術要 員
(ATP260)
保全部 門専 門工
エ
ニ長
職
長
努
ゲ
軍
チ
軍
脊
え品
ウ
墨
鰭職
ユ ニ ッ ト交換,プ ロ グラム修 正
第 1レ ベ ルの敵障修理 ・診断
数値訂正,工 具 の事前調整
サ イ クル 開始,工 具 変換,部 品
検査 9緊 急停 止
調整 工
自動化装 置正 式運転 工
(CCUA)
視覚 に よる部 品表面検査
部品の投入 と取 り外 し,穿 孔作業
パ レ ッ ト運搬,鋳 ば り除去
Pl相
当者
生 産要員 (AP)
(出刃予)G.de Bonnafos,Automatisation et nouvelles formes d'organisation du travail
ガ
クz)″
οが
αサ
θ物 タ
dans l'industrie automobile,in ttθ 脅?夕
,No.8-1984.
出I.Freyssenet,La requalification des opOrateurs et la forme sociale actuelle d'
?冴 % 方%αs転〃
automatisation,in 5bび わJ昭う
,No.4-1984.
類似 の例 は,84年 の新 車 シ ュペ ー ル 5の 投 入 に 向け て 導 入 され た ロ ボ ッ ト化
ライ ン を もつ フ ラ ンエ 場 のプ レス加 工 の作業場 に 見 い 出 され る。 そ こでは,各
ラ イ ン が 専 門的 技術 要 員 (ATP,係
数 285),電 気 機 械 専 門 工 (P3,係
数
215), ライ ン主任 ,各 1名 と運転 工 3名 か ら構 成 され る 自律 的作業 チー ムに よ
フランス自動車産業における生産組織 ・労働編成改革 と雇用管理
101
って担 当 され,こ の運転 工 た ちは,元 単能 工 ま たは製造専 門工 第 1級 か ら,選
「
抜 試験 と 4ヶ 月 の 訓練 の 後 に ライ ンに配 置 され 自動化 設備 正 式運転 工 」 (CC
IA)と
して専 門工 第 2級 に格付 け され る (但 し,ル ・マ ンエ 場 と同様 に追加
当者 ,係 数 195)。彼 らは,監 視 ・品質検杢 。第 1レ ベ ル
的 カテ ゴ リー =P2相
故 障修 理 ・診 断,等 の職務 を遂行 し, さ らには ATPや
P3と
ともに第 2レ ベ
ルの 放 障修 理 に も関与す る。 こ う して,こ こでは,従 来 の 製造,保 全,生 産 技
ー
術 とい った部 門問障壁 を越 え た独 創 的 な混成 的作業 チ ムの形成 が 見 い 出 され
る。
これ らの 実験 は,70年 代 の それ と異 な り, も はや個 々の 製造 ライ ンや 作業場
の レベ ル で は な く,公 団経営 陣 との協議 を踏 まえ た工 場 レベ ルの独 自的事 業 で
あ り,時 を措 か ず して公 団全体 の 方針 に反映 され う る措 置 で あ る。
実際,以 上 の ような80年代前半 の労働編成改革 の継続 は,81年 の経営 の赤字
「
ー
転落 を契機 とす る83年 2月 の労使代表 に よる協議 キャンペ ン 産業的変動 と
組織化 を通 じて再評価 され るの であ り,そ れ を
労働 内容 の明示的な充実 と提供 され
踏 まえての84年 5月 の労使協定 にお いて 「
「
る職位 の資格 向上 を優先す る組織 の選択 の承認 と促進 」 お よび 格付 け表にお
け る昇進 とキャ リアの可能性 の保証 と種 々の昇格 コー スの障壁除去 」 を体現す
労使 に よる活力」 (MIDE)の
る新 しい格付け制度 として,公 団全体 の レベ ルで事実上,追 認 され る。
この新 しい格付 け制度は,フ ランス特有 の社会職業的 カテ ゴ リー の 区分 の観
点にお いて注 目され る。 まず製造要員 =直 接 生産労働者
点か らは,次 の ような″
について,従 来 の格付 け表にお いては,元 単能工 である生産要員 (AP),勤
続
年数 や経験的知識 に よって専 門工 の名称 が与 え られ る製造専 門工 (PF),国 民
教育 に も とづ く学歴 。技能資格 を持 たない点では前二者 と同様 であるが,選 別
σ
わガ
欠タガタR夕%α物″ 冴タヱ9れぞ粉ヱ989,rapport pour ler colloque
lo)MI.Freyssenet,二 αサ
物夕
international du GERPISA,1993.
″αttJち
足毎 夕 貿夕
ガ
θ%s,筋
俗s"∽ サ
タ 冴夕
S σ″
α 宅わ物タ
11)M.Carrё re&Ph.Zarifian,こ
お,84年 5月 のル ノー の企 業協定 につ い
Document de travail,No.20,CEREQ,1986.な
『
ては,松 村文 人 「フランス職務 等級表 の考察」 (石田光 男他編 労使 関係 の比較研究』東大
出版,1993年 ,所 収)参 照。
102
梶 田 公 教授退官記念論文集 (第305号)
され て企 業 内訓練 を受 け る こ とに よ って専 門工 として処 遇 され る生産 関連専 門
い う三つ の 系列 が 区別 され て い たが ,そ れ らを製造要 員 の格付 け
工 (PP)と
。
・
として一 本化 ・統合 した こ と,が 確 認 され る。 それ は,多 能性 職務 充実 内
部移 動 ・訓1練の発 展 を条件 とす る製造要 員 の専 門工 化 す なわ ち昇 進経路拡 張 と
・
そ して元単 能 工 の 比率 の 削減 を意 図す る。 次 い で,工 具 製作 保全 な どの伝 統
的職 種 の専 門工 に つ い て,従 来 は,専 門工 第 3級 (P3)の 上 に75年 7月 の金
「
属産 業全 国協 約 におけ る格付 け 製造現場 技術職 員 」 (TA,係 数 240)に 起 源
を もつ 「
専 門的技術 要 員」 (ATP)が
260'285の 二 等 級 を もって格付
係数 240・
「
け され て い たが ,上 位 の 等 級 の二つ を新 たに 製造現場 内技術職 員 」 (T en A)
と名称 変 更 (T en A260と T en A285)し た こ と,が 確 認 され る。 それ は,伝
統 的専 門工 の 系列 に生 産 技術部 門 ・研 究部局 の要 員 と共通 す る技術職 員 の名称
を導 入す る こ とに よ って,製 造 現場 の仕事 の再 評価 とそ して専 門工 た ちの 技術
職 員 へ の昇 進 とモ ラル ア ップ を意 図す る。 さ らに調整 工 につ い ては,従 来 は,
運搬 ・工 具 製作 ・保 全 ,等 の他 部 門業務 と製造部 門業務 との文 字通 り調整 に従
事 し,元 単能 工 の 製造専 門工 第 1級 (PlF)で
の昇 進凍結 へ の解 決策 として
位 置づ け られ て い たが ,今 回 の 改革 では何 らの措 置 も とられ なか った こ と,が
確 認 され る。 それ は,製 造要 員 に調整 の仕事 を担 当 させ ,彼 らの昇進経路 も拡
張す るこ とに よ って,調 整 工 の 系列 自体 を消滅 させ るこ とを意 図す る。最 後 に,
職 制 に つ い て,従 来 は作業場 長 (CA,係
。
335)と 作 業 班 長 (CE,係
305。
数 365)の もとに職 長 (CM,係
数 285
260)と い う階 層 的構 成 を とって い た
数 240。
が ,今 回 の 改革 では,標 準 的 な班長 の格 付 けが生産 設備 の 技術専 門性 の 高度化
と作 業 班 におけ る専 門工 の 増加 を理 由 として係 数 260に 引 き上 げ られ た こ と,
工 具 製作 ・保 全部 門 にお い て は班 長 の伝 統 的機 能 が 廃 止 され,代 わ りに生産 設
ー
備 や従 業員 の効 率 的配 置 ・運 用 さ らには経 費 セ ン タ の予 算策定 へ の参加 ,従
・
業 員 の 訓練 ・昇 進 へ の 関与, と い った生 産 管 理 人事 管 理 の機 能 へ の接近 が 目
指 され,名 称 も 「区分 長 」 (CS)に
変 更 され,係 数 も305に 引 き上 げ られ た こ
と,ま た製造 と保 全 の 組織 的統合 が 実現 され て い る混成 的 区分 そ して工 具 製作
・保 全 の 自律 的小 集 団 にお い て は,職 制 の代 わ りに高度 資格 専 門工 が 「技術 的
フランス自動車産業における生産組織 ・労働編成改革と雇用管理
調整役 」 (CT)と
103
して指名 され,小 集 団 の作 業遂行 を調整 し指 導す る責 任 者 と
して位 置づ け られ るこ と,が 確 認 され る。 それ は,職 制 の 階層組織 の簡素化 と
役 割 の根 底 的転換 を意 図す る。
以上 の ような製造要員 の専 門工化,工 具製作 ・保全 の専 門工の技術職員化,
調整工の消滅,職 制 の階層組織簡素化 と役割転換, と い った改革方向が,前 述
のル ・マ ンエ 場や フ ランエ 場 の 多能的 ・多機能的専 門工 たちに依拠す るチー ム
制作業 の組織化方向 と基本的 に合致 して い るこ とは明 らかであろ う。
なお,84年 のこの格付 け制度 の改革 は,そ うした作業 チー ム 内での従業員 の
多能性 ・多機能性 の発揮 にインセンテ ィヴ を与 える賃金 システム をも提起 して
い る。す なわち,賃 金 の 「
個別化 」 (individualisation)の
提起 である。
まず製造要員 の基本給につ いて,そ れは,就 いて い る職位 (emploi occupe)
の レベ ルつ ま り係数 に直接結 びつ いた 「
職位基本給」 (base emplol)と
達成 され
補足的基本給」 (comp16ment de base)との
る個 人的集団的な効率 と関連す る 「
二つの部分 に分 割 され,後 者は格付 け表か ら分離 され る。 そ うしたシステムは
したが って,効 率 へ の インセンテ ィヴ効 果 のみ ならず,賃 金総額 を変化 させ る
こ とな く,賃 金 の個人的集団的変動 を可能 にす るとともに,従 来 の紛争時 の よ
うな一律賃 上げ を抑制す るとい う賃金管理に弾力性 を与 える効果 をももた らす。
だが,賃 金計算表 の提起 にお いては,「補 足的基本給」 の新設 は行 われず,「採
適応賃金率」 (taux
用賃金率」 (taux dttmbauche)の他 に,そ れ を若千上 回る「
d'adaptation)そ して この後者 をさらに上回る 「
職位賃金率 」 (taux d'emplol)
とい う各係数 ごとの三段階 の賃金率 が PlCSか
らP3ま での製造要員 につ い
採用賃金率」 に
て設定 され る。保全 な どの専 門工の賃金計算表 は,各 係数 の 「
「
つ いて二つの異なる賃金率 そ して 職位賃金率」 につ いて三 つの異な るそれ を
設定 し,製 造要員 よ りも各係数 におけ る賃金率 の複数化 を進 めてお り,従 業員
個人 の労働成果 に応 じての職制 に よる賃金率適用 の余地 の広 が りを示 して い る。
いずれ にせ よ,以 上 の ような70年代 か ら80年代前半 にかけてのル ノー公団に
おけ る労働編成改革 の発端 と継続お よびそれに対応的な格付 け制度 の改革 が,
日本的 な方式 の導 入 または模倣 を意味 しない こ とは明 白である。
104
梶
田 公 教授退官記念論 文集 (第305号)
ー
ー ー
周知 の ように,80年 代 におけ る 日本 の 自動車 メ カ におけ るチ ム制作業
組織 は,労 働者相 互 の助け合 いによるチー ムワー クの確保,労 働者 の個別的状
況に対応 した 日々の仕事 の 自律的編成 とジ ョブ ・ロー テー ションに よる多能工
イ
し,チ ー ム 内の職務 の 多様 な経験 の うえでの QC・ 提案活動 に よるモ ラル ア ッ
プ と知的能力 の向上, と い ったいわゆ るQWL的 要素 を含 みつつ も, ト ヨタに
生産手当」 との関連 が最 も鋭 く表現 し
おけ る作業 チー ム と独 自の集団能率給 「
て い るよ うに,本 質的 には,労 働者集団 を作業 と工程 のム グを除去す る作業改
善 ・工程 改善 に動員す ることに よって,生 産時間の短縮 (工数低減)と 生産労
働者数 の低減 (省人化)を 実現 させ ようとす る作業集団問競争 の担 い手 である
とともに, コ ンベ アー ライ ン作業 に起 因す る労働疎外 の克服 と企業 目標へ の統
合 の意図をもって濃密 な人間関係 を創 り出 し維持 しようとす る 「人間関係諸活
ー
動」 の担 い手に他 ならな誤。 これに対 して,フ ランス (ここではル ノ 公団)
の チー ム制作業組織 は,同 じくコンベ アー ライ ン作業 に起 因す る労働疎外 を労
職務 の構造改革」 によって克服す るこ とを
働者 の 自律性 と自主性 を拡大す る 「
一
推進的動機 の つ として きたのであ り, 日本 の もの と動機 と出 自を相 当に異に
して い る。
因みに,そ うしたチー ム制作業組織 に対応 した 日本 の職能的資格制度 は,こ
れ また周知 の ように,基 本的 には,製 造要員 か ら管理職 まで一 本化 された企業
独 自の職能資格 の も とで,労 使交渉 の輝外 におかれ, しか も従業員 の企業 内活
動 の能力 ・業績 ・態度 とい う全領 域 が評価 の対象 に され る人事考課に よって昇
能力主義」管理 =個 別的競争刺
進 ・昇格 の度合 いが完全 に決定 され るとい う 「
激的 システムに他 ならない。 それ ゆ え,従 業員 の格付 け表が,依 然 として企業
横 断的 な労使交渉 ・労働協約 に基づ く格付 け制度 を前提 として,厳 然 たる社会
一
職業的 カテ ゴ リー (製造要員,専 門工,技 術職員,事 務職員,職 制,等 )一
12)日 本 の チー ム制作業組織 につ いては,野 原光 ・藤 田栄史編 『自動車産業 と労働 者』法律
文化社,1988年 ,野 村 正 賃 『トヨテ ィズム』 ミネ ルヴ ァ書房,1993年 ,丸 山志也 『日本的
一 「トヨタ自動車 におけ
生産 システム とフレキシビ リテ ィ』 日本評論社,1995年 ,清 水耕
岡 山大 学 経 済 学 会 雑 誌 』第27巻 1号 ,第 27巻 2号 ,1995
る労働 の 人 間化 (I)(II)」 (『
年),等 参照。
フランス自動車産業における生産組織 ・労働編成改革と雇用管理
105
一 一 別 に構 成 され て い るこ
各 カテ ゴ リー 内部 で職種 統合 が進 ん で い る とは い え
と,さ らに は,賃 金 の個 別 化 が 導 入 され ,労 働 組合 の 集 団的規制 が 部分 的 に崩
れ て きて い る とは い え,そ れ は,公 開 され た複 数賃金率 の適 用 に とどま り,職
制 と人事 部局 の従 業員個 人,特 に 製造要 員 に対 す る成績査 定 の 果 たす役 割 は依
然 として ゼ ロに 等 しい こ と,等 の 点 にお い て,フ ラ ンスの格付 け 。賃 金制 度 が ,
日本 の それ と大 き く異 な って い るこ とは明 白であ る。
3.日 本 的 な生産 組織 の 導 入 と労 働 編成 改革
ル ノー 公 団へ の 日本 的 な生産 組織 の 導 入 の 直接 的契機 は,1984年 の公 団 の 経
営 危機 であ る。この 年 の公 回 の赤 字額 は約 126億フ ラ ン に達 し,銀 行 利 子率 の 高
騰 と相 侯 って,負 債 額 も売上 高 の46%を 越 え る とともに,生 産 台数 も前年 の207
万台か ら178万台へ と大 き く落下す る。こ うした危機的状況 に対 して,公 団経営
陣は,不 採算部 門や電子工 学 ・自転車 な どの子会社 の売却,投 資規模 の縮小,
とい った即効 的な減量政策 とともに,損 益分岐点 の低下に向けての生産拡張政
策放棄,労 働組合 とりわけ CGTと の対決姿勢へ の転換, 自動車へ の事業 の再
集約化, 自動車生産 の ヨー ロ ッパ地域 へ の集 中,等 の 中長期 的政策 を実行 に移
す。 そ うした減量経営 に よる損益分岐点 の急速 な低下 の追求 は,大 幅 で急激な
人員削減 とそ して部 品 と製 品の在庫削減 とりわけサ プ ライヤー の納 入部 品の価
格 ・数量 ・納期 に対す る厳格 な管理方式 の導 入 をもた らす のである。 そ して,
この後者 こそ, 日本的 な外注管理 ・下請け システム したが って また 日本的な生
産組織 の導 入に他 な らない。
そ うした 日本的 に生産組織 の導入が労働編成 の改革 と結びつ くの は,ほ ぼ次
の ようなプ ロセス を通 じてである。
入方式
ル ノー公団 の製造部 は84年に,ジ ャス ト ・イン ・タイム (JIT)納
の適用 のために 「
産業管理 プ ロジェク ト」 を策定 し,マ ー ケテ ィン グ,製 品開
発 か ら顧客 へ の納入 までの流れの分析 を開始す る。翌年85年には,購 買部 が,
パー トナー シップ協定」 を結 び,
機械装 置 と鋳造製品のサプ ライヤー の団体 と 「
13)こ の 点につ いてはなお,松 村文 人,前 掲論文,花 田昌宣 ・中西洋,前 掲書,参 照。
14)出I.Freyssenet,op.cit.(rapport du GERPISA).
106
梶 田 公 教授退官記念論文集 (第305号)
業 者 の選男U, JITの
管 理 方 式 の教 示 ,業 者 へ の責任分 与,上 流 プ ロセ スヘ の
虹 の女神 プ ロ ジ ョク ト」
関与,等 に着 手す る。 また86年には,技 術 開発部 が 「
を策定 し, 日本 の 諸 メー カー と公 団 の工 場 間 の生 産性 の 比較研 究 に着手す る。
さ らに87年には,海 外 販 売 ・ア フ ター サ ー ビスの責任 者 を品質部 長 に指 名 し,
「
全社 的 品質 管 理 」 (TQC)の
ヤ ー 品質保 証 」 (AQF)の
キャ ンペ ー ン を開始す る とともに,「 サ プ ライ
制 度 をプ ジ ョー 社 と一 緒 に 開始 し,サ プ ライヤ ー が
納 入す る部 品の 品質 を評価す るシステム を始動 させ ,そ れ らの選別 を本格化 さ
せ る。 こ うして, JIT納
入方式 を可能 にす る 日本的な生産組織 が,Vヽわば上
か ら創 られてゆ くこ とになる。
こ うした生産組織 の創 出 と同時併行 的 に進め られたの は,徹 底的な人員削減
と労使関係 の転換 である。
人員削減 は,公 団内部 では,全 国雇用基金 (FNE)の
協約 に依拠 しての55
歳以上 の従業員 の定年前退職方式 とそ して子会社 の売却 によって行 われ,公 団
の定員 は,84年 の98154名か ら86年の79191名に変化 し,2年 間で約 19000名の削
減 が敢行 され るとともに,ル ノー ・グルー プ全体 としては同 じ期 間に213725名
か ら182448名に変化 し,約 31000名の急激 な減少 を記録す るの である。87年以降
は,削 減 が続行 され るとは い え,小 規模 な人数 になる (89年までに公回全体 に
つ いて約 8500名の削減)。
しか も,こ うした雇用量 の削減 は,労 働組合 とりわけ CGTと
の交渉 を拒否
す る形 で進め られ,経 営陣 と代 表的諸組合 との交渉 を通 じて の企 業定員計画
策定 と実行 とい う従来的労使関係 をご破算に した うえで,職制
(plan social)の
に よる年齢 の他 の適性,行 動 な どの基準 に もとづ く余剰 人員 の リス ト作成,C
GTを 除 く諸組合 へ の単 なる意見聴取,「過剰経費 セ ンター」へ の配置,離 職手
当お よび法律 ・協約上 の補償金 と引 き換 えの 自発的離職 の個別的手続 き 。同意,
とい うプ ロセス を通 じて実現 されたので ある。
以上 の よ うな減量経営 の結果,87年 には経営黒字 (約23億フラン)を 達成す
るが,公 団経営陣 は,全 社 的品質管理 (TQC)と
人的資源管理政策へ の従業
15)D.Labbё ,Renault:les trois ages de la nё
匂υ
αガ
ちNo.26,1992.
gociation,in T″
フランス自動車産業における生産組織 ・労働編成改革 と雇用管理
107
員 の 動 員 の観 点か ら改め て,諸 組合 との協 議 を再 開 し,翌 年 88年か ら89年にか
け て 医療保 険 '共 済制 度や 技能 資格 ・労働 編 成,等 の テー マ に 関す る労使 代 表
同数 の 作 業 グル ー プ を人事社 会 問題 部 の イエ シアチブの もとに設 置す る。 CG
T以 外 の 諸組合 は,大 量 の 人員 削減 の現実化 に よ って失 われ た影響 力 と地位 を
回復 し,労 働 編成 の 改革 に よ って職務 充実 と従 業員 へ の キャ リア の一 層 の 開放
を 目指 す ため に,協 議 と交渉 に肯 定 的 な立場 で参 加 す る。 ここでは,そ れ まで
の 各 工 場 におけ る労働 編成 改革 の様 々 な実験 と活 動 が, と りわけ TQCを
推進
しようとす る経営陣か ら再評価 され,諸 組合 もそれぞれの立場 か ら受容 し,再
開 された労使交渉 の結果 として,89年 末に二つの企業協定 「自動化 された環境
生 存す るため の協定」 として結実す ることになる。 それ
におけ る格付 け」 と 「
らの協定 とくに後者は,多 能的 ・多機能的 な製造要員か ら構成 され るチー ム制
作業組織 こそが,公 団の労働編成 の基本的形態であ り,品 質向上 とパ フォー マ
ンス改善 の推進者 となるべ きこ とを公 式 に宣言す るの である。 (続く)
108
梶
田 公 教授退官記念論文集 (第305号)
Rlfomes de l'organisation de la
production et du travail dans
l'industrie automobile en France.
正[isao Aral
On assiste rOcemment a un fOrt argument sur la transformation
structurelle de l'industrie automobile en France qui consiste a
me de production a la japOnaise en tant que
l'llnplantation du systё
modё le avancOe, dite
`
japonisation″. L'ouvrage du grOupe des
Otudes a l'UniversitO Chuo est un cas typique de tel argument.
Linlitant ici au domaine de l'organisation du travail,selon lui,les
constructeurs francais n'ont introduit le travail en groupe que s'1ls
ont implantO de haut les relations hiOrarchisOes entre constructeur
一
JAT)dans
f o u r n i s s e u r s p e r m e t t a n t l a l i v r a i s o n ean tjeumsptse(一
la deuxiё
me moitiO des ann6es 80.
Un tel raisonnement ne correspond pas au dOrOulement des
rOalites dans cette industrie francaise,Parce que,suivant les Otudes
et recherches en France,on a dё
ja abOrdo aux expёriences diverses
re moitiO des annё
es 70 pour
du travail en groupe depuis la prenllё
faire face aux rOsistances des ouvriers spOcialisOs contre l'organisa‐
tion taylorisOe du travall et dans le but
dё des annoes 80 en vue du
fonctionnement en continu des installations hautement
autornatisOes.
Fly UP