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統一地方選で朴政権は大敗を回避

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統一地方選で朴政権は大敗を回避
みずほインサイト
アジア
2014 年 6 月 23 日
統一地方選で朴政権は大敗を回避
アジア調査部主任研究員
政権への信認回復に向けて問われる政策遂行力
03-3591-1374
苅込俊二
[email protected]
○ 韓国では6月4日、統一地方選が実施された。政権与党セヌリ党は、旅客船沈没事故の対応を巡る政
権批判が高まる逆風下での選挙となり、改選前より勢力をやや落とすも大敗は回避
○ 朴大統領は早期にレイムダック化する事態を避けられたが、7月に実施される国会議員補欠・再選
挙を乗り切る上で、今回の事故で問題となった安全管理対策や危機管理体制の構築を急ぐ必要あり
○ 任期後半の朴政権は「経済改革3カ年計画」を通じて経済立て直しを進める意向だが、公共部門改
革でどれだけ実効性を発揮できるかが鍵に。他方、外交政策面で大きな変更はなされない見通し
6 月 4 日、韓国で 4 年に一度の統一地方選が実施された。朴槿恵(パク・クネ)大統領が率いる与
党セヌリ党にとっては、4 月に発生した旅客船沈没事故の対応を巡り政権批判が高まる逆風下での選
挙となり、大敗も予想されたが、予想を覆し善戦した。本稿では、旅客船沈没事故発生から今回の統
一地方選までの動きを振り返ると共に、今回の選挙結果を踏まえて、朴政権が当面、取り組むべき課
題や任期後半の政策について展望した。
1.統一地方選を前に急落した朴政権支持率
韓国では 4 月 16 日、旅客船セウォル号が全羅南道珍島沖で沈没し、乗客乗員 476 人のうち 302 人
の死者・安否不明者を出す大惨事となった。事故発生当初、乗客の救助に当たらず脱出した船長ら乗
組員、船会社に非難が集中したが、次第に非難の矛先は朴政権に向けられるようになった。
その理由の第 1 は、救助に当たった海洋警察が乗客乗員の人数把握に手間取り、船内にダイバーを
すぐに派遣せず、救命ボートも殆ど使用しないなど初動の遅れや脆弱な救助体制によって多数の犠牲
者が生み出されてしまったことである。第 2 に、事故当時、セウォル号には規定積載量の 2 倍以上も
のコンテナが積み込まれ、固縛も十分されていなかったことが沈没の一因となったが、実はこうした
状況は常態化しており、旅客船の安全をめぐる監督体制が極めて杜撰であったことが明るみになった
ことである。すなわち、今回の事故および多数の犠牲は偶発的に生じたものというよりも、脆弱な危
機管理能力や安全軽視といった構造的な問題に起因するものとの認識が高まり、それを放置してきた
朴政権の責任が厳しく追及されるようになった。
政権への風当たりが強まる中、4 月 27 日、事故対応不手際の責任を取り、鄭烘原(チョン・ホンウ
ォン)首相が辞任を表明したが、逆に「事態が収拾しない段階での辞任は無責任」との声があがり、
1
事故対応が一段落するまで鄭首相の辞表は大統領預かりとなった1。こうして、事故発生前まで 6 割を
超えていた朴政権の支持率は、事故後急落した(図表 1)。
政権への批判が高まる中、5 月半ば、統一地方選の選挙戦がスタートした。韓国では、地方自治体
の首長などを選ぶ選挙が 4 年に一度、全国で一斉に行われる。その総数は約 4 千人にのぼり、有権者
は広域自治体(特別市、広域市、道)の団体長及び議会議員、基礎自治体(市、郡、区)の団体長や
議会議員など少なくとも 4 つ以上の投票を行うこととなる。このため、投票行動には政権に対する評
価が反映されやすいと言われている。
今回の統一地方選は、事故発生前まで与党セヌリ党が有利2とみられていたが、事故により朴政権の
支持率が急落したことで事態が一変した。選挙戦に入る直前(5 月上旬)に行われた世論調査では、
与野党伯仲が予想された中部圏で与党候補が軒並みの劣勢となった他、朴大統領の側近が候補となり
優勢とみられていた京畿道知事選や、これまで与党勢力が負けたことがない釜山市長選まで野党候補
が優勢との結果になるなど、与党にとって逆風下での選挙戦となった。
韓国において、憲法の規定により大統領の任期は 1 期 5 年に限られる。現憲法が施行された 1988
年以後、直接選挙で選ばれた大統領は、任期後半にほぼ例外なくその影響力を弱めてきたが、特に、
政権に対する中間評価の意味合いを持つ統一地方選や総選挙で与党側が敗北すると、大統領のレイム
ダック化は早まる。実際、李明博(イ・ミョンバク)前大統領は 2010 年に実施された統一地方選で
与党ハンナラ党(当時、現セヌリ党)が大敗したことを受けて、求心力を大きく低下させた。その結
果、成長重視を標榜する大統領と弱者救済や雇用促進など福祉政策に重点を移したいハンナラ党との
間で調整が難しくなり、政策遂行が停滞するようになった。
朴大統領はまだ 3 年半以上も任期を残すが、今回の選挙で大敗すれば早くもレイムダック化する懸
念が現実味を帯び、朴政権及びセヌリ党は危
機感を強めた。
こうした中、朴大統領は選挙に先立つ 5 月
19 日、国民談話を発表、旅客船沈没事故にお
ける政府の対応の不手際を謝罪し、事故の再
図表 1
朴政権支持率
(%)
2014年4月16日
セウォル号沈没事故
80
支持
70
不支持
急落
60
発防止や危機管理体制の強化に取り組むこと
を国民に約束した。
50
また、セヌリ党は、今回の選挙を「朴大統
40
領に任せて改革を続けるのか、改革を中断す
30
るのか」といったように朴政権の命運を懸け
20
る戦いと位置づけ、朴大統領を支持する保守
10
層に訴えかける戦略で臨んだ。
0
3
4
5
6
2013年
(資料)Realmeter
2
7
8
9
10 11 12
1
2
2014年
3
4
5
6 (月)
2.与党はソウル市長選で敗北を喫するが、全体としてみれば予想を覆し善戦
統一地方選の投票は 6 月 4 日に実施されたが、主要 8 市、9 道の首長選の結果をみると、セヌリ党
候補が改選前から 1 ポスト減らし 8 ポスト、最大野党・新政治民主連合候補が 9 ポストで当選を果た
した(図表 2)。
最も注目されたソウル市長選では、セヌリ党が現代グループ創業者の六男で知名度の高い鄭夢準
(チョン・モンジュン)氏を擁立して、野党側の現職・朴元淳(パク・ウォンスン)候補に挑んだが
大差で敗れた。鄭氏はソウル市長をステップとして次期大統領選を見据えていただけに、セヌリ党に
とっては痛い敗北となった。また、新政治民主連合は地盤の全羅道地域(全北、全南、光州市)を手
堅く押さえた他、二大政党の影響力が比較的小さいとされる忠世道 4 ポスト(忠北、忠南、大田市、
世宗市)で全勝した。
その一方、セヌリ党は野党系の無所属候補に対し劣勢が伝えられていた釜山市を含め、保守基盤が
厚い慶尚道地域(慶北、慶南、蔚山市、大邱市、釜山市)で勝利した。また、仁川市長のポストを野
党側から奪還した他、有権者数でソウル市を上回る京畿道知事選を激戦の末、制した。
このように、今回の統一地方選は、セヌリ党にとって、ソウル市長選で自党候補が敗れ、改選前よ
り勢力をやや弱める結果となったが、事前の予想で
は保守基盤である釜山市長ポストを失い、京畿道知
事選でも敗北する可能性もあっただけに、大敗を回
避したという結果は与党側の善戦だったと評価して
図表 2
主要 17 都市・道における選挙結果
与党側勝利 野党側勝利
よかろう3。
与党が事前の予想を覆し、大敗を回避できた要因
は何であろうか。
たしかに、今回の選挙では与野党双方にとって重
要なソウル市長選で敗北するなど、朴政権及び与党
は沈没事故に対する責任を厳しく審判された格好だ
が、それでも保守地盤とされる慶尚道や大票田の京
畿道でポストを維持した。
先述の通り、セヌリ党は選挙終盤、朴政権存続の
危機を訴える戦術を採ったが、こうした働きかけに
対し、改革の中断や政治の不安定化を嫌う保守層が
呼応し、最終的にはセヌリ党支持を崩さなかったも
のとみられる。こうして、与党側が保守地盤を死守
できたことが、大敗を免れた要因といえるだろう。
(資料)各種報道資料をもとに作成
3
3.政権の信認回復に向けて取り組むべき喫緊の課題
今回の統一地方選で与党側は大敗を免れたが、沈没事故を契機に失墜した信認を回復できなければ
早晩、朴大統領のレイムダック化が始まる可能性は捨てきれない。だが、信認を回復させることは容
易ではない。
朴政権の今後を見る上で当面の焦点は7月30日に予定される国会議員の補欠・再選挙である。これは、
少なくとも12選挙区で実施される大型選挙であり、敗北すれば朴政権は再び窮地に陥る可能性がある。
朴政権が7月の補欠・再選挙を乗り切るためには、今回の沈没事故で露呈した危機管理能力の欠如、杜
撰な安全管理体制に対する早急な取り組みが必要といえよう。
(1)行政組織再編を通じた危機管理能力の強化
朴大統領は 5 月 19 日の国民談話の中で、
「海洋警察庁が迅速に対応していれば犠牲を減らすことが
できた」と、行政トップとしての責任を認め、国民に謝罪すると共に、上述の通り、鄭首相に今回の
責任をとらせた。また、危機対応に失敗した海洋警察庁を解体した上で、捜査機能は警察庁に、救助・
警備機能は新設する国家安全庁にそれぞれ移管し、海洋安全における専門性と責任を大幅に強化する
ことを意図した政府組織法を国会に提出している。新設される国家安全庁の傘下には海洋、航空、火
災などの災害に対応する特殊チームを新設するなど、危機対応力の強化が図られる見通しである。
(2)官民癒着構造の根絶による安全管理体制の強化
また、朴大統領は今回の沈没事故について「当然守らなければならない安全規定が守られず、そう
した不正を黙認した監督機関の無責任な行動が結局は殺生の業として返ってきた」と述べて、安全に
対する監督・管理体制に甘さがあったことを認めている。こうした杜撰な管理体制は、船会社の運航
や経営をチェックする監督・管理が海運会社の会費で運営されている「海運組合」に委任されており、
そこには多数の公務員が天下る(歴代理事長 12 名のうち 10 名が海洋水産部出身)という官民癒着構
造の中で醸成されたとの見方が少なくない。官民癒着の構造は、例えば食品医薬品安全庁を過去 10
年間に退職した 93 人の高級公務員のうち実に 83 人が監督下にある業界団体等に再就職するなど、他
の業界にも蔓延しているとみられる。
朴大統領は今回の事件を契機として「長い歳月にわたり黙認されてきた官民癒着の構造を正した
い」と、公務員改革に意欲をみせる。現行の公職者倫理法においても、公務員は退職直前の 5 年間に
従事していた業務と関連のある企業等には、退職後 2 年間就職できないようになっている。しかし、
現行法では海運組合のような組合や協会などの多くは就職制限機関に該当せず、多数の官僚がこれら
業界団体に就職する仕組みが温存されている4。
こうした実態を受けて、政府は①退職公務員の就職制限対象機関に組合や協会などを入れ込み、制
限機関数を現状より 3 倍以上に拡大、②退職直前 5 年間に所属した部署に関連する業種への就職禁止
期間を現行の退職後 2 年から 3 年に延長、③許認可業務、調達業務と直結する公職関連団体の首長と
監査職には公務員を任命しないなどを骨子とする公職者倫理法改正案を国会に提出した。
改正法案は現在、国会で審議中だが、公務員改革につきものである官僚側の抵抗や骨抜き工作によ
4
って、改正法の実効性が損なわれることがあれば、政権不信がむしろ強まるだろう。朴大統領が強い
イニシアチブを発揮し、改革に取り組む姿勢をどれだけ見せられるかが、今回の補欠・再選挙の帰趨
を決めるポイントと思われる。
4.朴政権任期後半期の政策の展望
最後に、朴政権が補欠・再選挙を無難に乗り切ったと仮定して、政権後半期の政策はどのように展望
できるか考えてみたい。ここでは、経済政策面、外交政策面の2つに関わる政策を見ることとする。
(1)経済政策面:「経済革新 3 カ年計画」に基づく経済建て直しができるか
朴大統領は 2013 年の就任時、「『質の高い』雇用を生み出しながら成長を遂げ、成長と福祉が好循
環する社会の実現が必要」との認識から、雇用率(就業者数/生産可能人口)を任期中に 70%まで引
き上げることを、政策の最重点目標としてきた。しかし、2013 年の雇用率は 64.4%と前年から 0.2%
PT の上昇にとどまり、2013 年の目標(64.6%)を達成できなかった。朴大統領は、今年 1 月の記者
会見で「国民の幸福中心の政策を推進してきた」と述べたが、具体的な内容に踏み込むことはなく、
結果的に、大統領自身が目に見える成果に乏しいことを認めた格好だ。
こうした状況を受けて、朴大統領は2月25日、
「経済革新3カ年計画」を発表した。そして、その具体
的成果として、2017年には潜在成長率4%、雇用率70%、国民所得を年4万ドルにそれぞれ引き上げる
数値目標を掲げた。朴政権は、上述の通り政権発足に際して雇用率70%という目標を掲げたが、成長
率や所得水準については具体的な数値目標は掲げてこなかった。2年目を迎えるにあたり数値目標を提
示したのには「雇用面を重視するあまり成長を軽視している」との批判をかわす狙いや、具体的数値
を示すことで、国民に対し計画実施に向けた政権の意気込みをみせる意味合いもあったと思われる。
図表 3 経済革新 3 カ年計画
目標
経済革新、躍進を通じた「国民幸福時代」の幕開け
戦略
基礎が強固な経済
躍動的な革新経済
内需・輸出の
均衡型経済
行動
計画
○公共部門改革
・業績が悪化している
公営企業の経営改革
・「ワン・ストライク・アウト
制」(贈収賄など不正を
行った機関は入札業務
を2年間調達庁に委託)
導入
・政府の財政事業を3年
間で600件以上削減
○ 新産業創造支援
・ベンチャー起業支援などに
総額4兆ウォンを投入
・「コリア・リサーチフェロー」
制度新設
・研究開発費をGDP比5%に
引き上げ
○ 規制緩和
・ネガティブリスト(原則自
由、例外列挙)方式導入
○ 消費の活性化
・住宅金融対策などにより
個人負債比率を5%低下
・社会保険、基礎生活保障
制度の見直し、など
○ 財政・税制改革
・地下経済の摘発強化
・補助金不正受給防止
○ 海外市場獲得支援
・中国、ベトナム、インドネシ
アなどとFTAを早期締結
・建設受注、サービス輸出
の促進
○ 雇用の促進
・職業教育の強化などで青
年就業者数を3年間で50万
人増、など
○ 非公正慣行等改革
・大企業と下請けの不公
正取引慣行の是正強化
・労使関係の改善、など
(注)行動計画は全部で100項目あるがその中から抜粋
(資料)韓国政府資料
5
これら数値目標はメディアによって「474 政策」と名づけられ、朴政権の 3 カ年計画の成否は数値
目標の達成如何にかかっているとの論調も出されたが、朴政権が掲げる「経済革新 3 カ年計画」の核
心は、数値目標よりは、それを達成するための戦略にこそあると考えるべきだろう。朴大統領は、3
カ年計画の核心戦略として、①基礎が強固な経済、②躍動的な革新経済、③内需・輸出の均衡型経済
の 3 つを提示し、これらを実現するため 100 項目の行動計画を示した(図表 3)。
第1の戦略は、非効率性を排除し、市場原理に則した強固な経済基盤を確立することである。その
ために、朴大統領は「社会に蔓延した不適切な慣行の正常化、非効率な経営体質の改善が必要だ」と
述べている。特に、公共部門の改革が急務だとする。具体的には、贈収賄などの不正を行った機関は
入札業務を2年間調達庁に委託させるという「ワン・ストライク・アウト制」の導入や、今後は政府補
助金の不正受給など税金浪費にも厳しく対処していく方針だ。さらに、赤字が常態化している公営企
業に対して、負債削減、経営効率化を厳然と求める。
第2は、雇用拡大に資する新産業や新市場を創出することである。朴大統領は「国民のアイデアとICT
(情報通信技術)
・科学技術を融合させることで、イノベーションを起こし、新しい市場の創出を通じ
た雇用増大を図る「創造経済」実現を発展戦略の主軸と位置づけてきた。それを実現するために、今
回の計画では①青年起業家支援のための予算増額(7,600億ウォン)を含め、ベンチャー企業育成に3
年間で4兆ウォンを投じる、②世界からトップレベルの科学者300人を誘致する「コリア・リサーチフ
ェロー」制度の新設、③研究開発投資を2017年にはGDP比5%まで引き上げる(2012年は4%)などの具
体策を示した。
第3は、輸出のみに依存しない経済構造とするため、内需拡大を阻害する各種規制の緩和や制度改善
を図ることである。具体的には、各種規制を「ネガティブリスト(原則自由・例外列挙)」方式に変更
し、規制には原則期限をつけて緩和していく。また、消費を活性化するため、住宅金融対策などで個
人負債比率(2013年、GDP比137%)を3年間で5%PT低下させるなどの政策も示された。
以上のような取り組みを通じて、朴政権は韓国経済の成長力を高めると共に、成長が雇用拡大につ
ながるメカニズムの確立を目指している。それによって、朴政権が目指す最終目標「国民幸福時代」
が実現できると言うのである。
もっとも、朴政権はセウォル号沈没事故の対応に追われ、これら行動計画への着手が遅れてしまっ
ている。朴政権にとって、上述の3つの戦略はどれもすぐに着手する必要があろうが、第2、第3の戦略
は韓国の成長パターンを転換する取り組みであり、短期間で成果を打ち出せるものではない。また、
それを実現していくためには大統領の強いイニシアチブとそれを支える強固な政権基盤が必要となる。
こうしたことを踏まえれば、第1の戦略において実効性ある成果を早期に国民に示せるかが重要となっ
てこよう。第1の戦略で謳われた非効率性の排除を図る上で公共部門改革は不可欠であり、沈没事故を
通じて浮き彫りとなった官民癒着構造の根絶と併せて、その成果を国民に示すことが朴政権の信認を
向上させ、その後の改革の推進力になると思われるからだ。朴大統領は5月26日に開かれた「公共改革
正常化ワークショップ」に出席し、
「公共部門が進化しなければ、ドードー(翼が退化して絶滅した鳥)
のようになってしまう」と公共部門の改革の必要性を訴え、早急に取り組む強い意志を示した。
6
過去を振り返ると、歴代大統領も就任後「雇用拡大」や「潜在成長率引き上げ」といった目標を国
民に提示してきた。しかし、それらの達成に向けた政策が十分実行に移されず、成果が得られないま
ま任期後半にかけて支持率が低下していくことが常であった。こうした轍を踏まないためにも、朴大
統領にとって、掲げた行動計画をいかに着実に実行していけるか、実行力が問われることになろう。
(2)外交政策面:大幅な変更はなされない見通し
朴政権は就任後、外交面では高い評価を得ている。大統領就任 1 年を機に有力紙「中央日報」が実
施した世論調査によれば、朴政権の「経済活性化・雇用創出」、
「福祉政策」を評価する割合はそれぞ
れ 49.8%、34.9%にとどまる一方、
「外交政策」については 75.6%にのぼった。外交政策に対する国
民の評価を踏まえれば、朴政権が現在の外交路線を大きく軌道修正する可能性はそれほどないように
思われる。
朴政権は、最初の特使を中国へ派遣するなど就任当初から「中国重視」姿勢をみせている。経済的
に中国との関係が格段に強まるなか、同盟関係にある米国の比重が相対的に低下している。今後も中
韓 FTA の早期締結など韓国の対中重視の姿勢に変化はないだろう。
他方、北朝鮮とは対話を通じた信頼醸成を謳うが、北朝鮮側の挑発的な行動に対して毅然と対応し
ている。例えば、北朝鮮は 2013 年 4 月、南北経済協力事業の開城工業団地の操業を一方的に止めて、
発足直後の朴政権を揺さぶったが、朴大統領は「閉鎖、放棄も辞さず」と断固たる姿勢を崩さず、北
朝鮮側が結局、折れて 9 月に操業が再開されている。また、今年 2 月、両国で離散家族再会事業が 3
年 3 カ月ぶりに開催された。北朝鮮側は再開の条件として、米韓軍事演習の延期のほか、外貨獲得に
つながる金剛山観光の再開などを望んだが、朴政権はこれにも応じなかった。こうした「ぶれない姿
勢」は保守層を中心に評価されている。
ぶれない姿勢は対日外交においても一貫している。朴大統領は、日本を「重要な隣国」としながら
も、関係改善には日本側の「正しい歴史認識」が必要だとの姿勢を崩さない。このため、就任後、日
本との二国間首脳会談は一度も開催されていない。また、朴大統領が各国首脳や政治家らとの会談で
日本の歴史認識問題を取り上げるのは、慣例になりつつある。
こうした対日外交姿勢について、今後も大きな変化は望めそうにない。朴政権は当面、内政に注力
する必要に迫られることや、今回の選挙で保守層が政権の強い支持基盤となったことを踏まえると、
日本との関係改善に配慮する余裕はあまりないとみられるからだ。実際、オバマ米大統領の仲介で実
現した 3 月の日米韓首脳会談を受け、4 月中旬以後、日韓局長級協議が 2 回開催されたが、両国は互
いの立場を主張するにとどまり、関係修復の兆しはみられない。2015 年は日韓両国が 1965 年に日韓
基本条約を締結、国交を正常化してから 50 年という節目の年に当たる。日本側は来年の記念事業実
施に向けて日韓首脳会談の実現に期待を寄せるが、上記のような状況を踏まえれば、韓国側が対日関
係の改善に積極的に動くことは考えづらい。
7
鄭氏の後任として 5 月下旬、首相に指名された元最高裁判事の安大煕(アン・デヒ)氏は、弁護士事務所開業後わず
か 5 カ月で 16 億ウォン(約 1 億 6 千万円)もの報酬を得ていたことが判明、批判が高まる中、首相就任の辞退を余
儀なくされた。その結果、後任首相の選定は統一地方選挙後となり、6 月 10 日、有力紙「中央日報」の主筆を務め
た文昌克(ムン・チャングク)高麗大学教授が首相に指名された。しかし、野党側は同氏が「日本による植民地支配
や南北分断は神の意向によるもの」といった過去の発言を問題視し、指名撤回を求めている。
2 与党セヌリ党は当初、朴大統領の高い支持率を背景に、17 の広域自治体の首長ポストのうち 12 ポスト取ることが目
標だったといわれる。
3 投票日翌日(6 月 5 日)の韓国総合株価指数(KOSPI)の終値は前日比 0.6%低下した。もっとも、これは選挙結果
の反映というより、欧州中央銀行(ECB)の金融政策を巡る思惑に起因するものとの見方が多い。
4 一部の機関では、退職を控えた時期に職責を変えることで「業務上の関連性」を有名無実化しているとされる。
1
●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに
基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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