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エステル交換法による高品位機能性アクリレ-ト (PDF形式、73kバイト)

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エステル交換法による高品位機能性アクリレ-ト (PDF形式、73kバイト)
U.D.C.
678.002-036:658.56:547.391.3'26:547.391.1'26
エステル交換法による高品位機能性アクリレ−ト
High-quality Functional Acrylates Made by Transesterification
林 克則*
Katsunori Hayashi
亀井淳一*
Junichi Kamei
機能性アクリル酸エステル(以下アクリレートと略記する)は,塗料,接着剤,建
材,電子材料,光学材料などに用いられる高分子材料の特性向上を目的として,幅広
い用途分野で種々の化合物が使用されている。近年,電子材料分野へのアクリレート
の使用量が増加し,従来にはなかった高品質化(低硫黄分,高純度等)の要求が高ま
っている。
アクリレートの工業的な製造法はエステル交換法と脱水エステル化法の2種類があ
る。従来は製造上の観点から一般的に脱水エステル化法が用いられてきたが,酸性触
媒を使用するため,得られるアクリレートへの硫黄分の残存,不純物の生成・混入が
起きる等の問題があった。そこで,中性触媒を使用するエステル交換法を適用し高品
質化を図ることとした。
本報は,エステル交換法によりアクリレートを製造するにあたっての問題点および
解決策,得られるアクリレートの品質に関してまとめたものである。
Functional esters (henceforth acrylate) are used as additive in the wide variety of
fields to improve the characteristics of polymer materials such as paints, adhesives, and
building, electronic, and optical materials. Recently, the volume of acrylate in electronic
field has increased and the demand for high quality acrylate with low sulfur and high
purity has also increased.
There are two major processes of manufacturing acrylate; transesterification and
dehydration esterification. Dehydration esterification has been conventionally used for
its convenience. However, there is a problem of impurity in acrylate by remaining sulfur
because this process uses acid catalysts. Therefore, we investigated transesterification
using neutral catalyst to develop high quality acrylate.
This report describes the method of transesterification and the quality of acrylate in
the resulting products.
硫酸等の酸性触媒と,原料のアクリル酸(またはメタクリル
〔1〕 緒 言
酸)を過剰に用いるため,合成後それらを中和水洗で除去し
塗料,接着剤,建材,電子・光学材料などに用いられる高
ても,得られるアクリレート(またはメタクリレート)中に
分子材料の特性向上を目的として,種々のアクリレートおよ
は酸性触媒・原料に起因する硫黄分・不純物が残存する。こ
びメタクリレート(メタクリル酸エステル)が使われている。
のため,品質の悪化(色相・酸価の経時変化)が起こりやす
近年,電子材料分野におけるUV硬化系の増大とともにアクリ
いと考えられている。
レートの使用量が増加し,従来にはなかった高品質化(低硫
黄分,高純度等)の要求が高まっている。
一方,エステル交換法はプラントコストが高く運転も複雑
であるため,本法を採用しているメーカはほとんどない。ま
アクリレートおよびメタクリレートの製造法は,エステル
交換法と脱水エステル化法の2種類があり,各々の製造法に
より得られる製品の品質は異なる。図1,2に各々の製造法
の一般的な製造フローおよび反応式を示す。
た,原料低級アクリル酸エステルのポップコーン重合の防止
が,量産化への技術課題となっている。
当社では,メタクリレートに関してはメタクリル酸メチル
を原料としたエステル交換法による製造技術を確立し採用し
現在,ほとんどのアクリレート(およびメタクリレート)
てきた。この方法は中性触媒を使用するため,残存硫黄分・
メーカは,設備,運転方法の容易な脱水エステル化法を採用
不純物がなく,経時での品質安定性に優れる製品を作ること
している。この方法は,パラトルエンスルホン酸(PTS)や
ができる。また,一旦製造技術を確立すれば,中和水洗等の
*
当社 化成品事業部 化成品開発部 五井開発グル−プ
日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1)
35
〈仕込み〉
原料アルコール
アクリル酸
反応溶媒(BTX 等)
酸性触媒
重合禁止剤
〈抜出し〉
水(反応生成物)
〈抜出し〉
反応溶媒
〈仕込み〉
アルカリ水溶液
アクリレート
(製品)
図1 脱水エステル化法製造フロー
仕込
反応
中和水洗
濃縮
ろ過
酸触媒および中和水洗工程が必要となる。
Fig. 1 Manufacturing process of dehydration
esterification
This process needs acid catalyst and an
additional step to remove catalyst and
acrylic acid.
〈抜出し〉過剰のアクリル酸
R − OH
+
原料アルコール
O
cat.
HO
アクリル酸
solv.
O
+ H2O
R−O
アクリレート
〈抜出し〉
低級アクリル酸エステル
低級アルコール
(反応生成物)
〈仕込み〉
原料アルコール
低級アクリル酸エステル
(兼反応溶剤)
重合禁止剤
触媒
〈抜出し〉
低級アクリル酸エステル
アクリレート
(製品)
図2 エステル交換法製造フロー 低級
仕込
R1 − OH
原料アルコール
反応
O
+
濃縮
ろ過
O
cat.
R2O
R1 − O
低級アクリル酸エステル
アクリレート
+
アクリル酸エステルを留去する工程がある。
R2 − OH
低級アルコール
Fig. 2
Manufacturing process of
transesterification
This process needs a step to remove
lower alcohol and lower acrylic ester.
必要はなく,製造も短工程で済み,ランニングコストは低く
抑制技術の確立が必要不可欠である。当社では,ポップコー
なるという効果もある。そこで,メタクリレートより技術的
ン重合を防止するために,重合禁止剤の最適化(シード生成
難易度の高いアクリレートの製造法に,エステル交換法を適
の禁止およびシード成長の抑止)および気相におけるビニル
用する検討に着手した。
化合物濃度の低減に焦点をおいて検討を行い量産化技術を確
立した。
〔2〕 エステル交換法の問題点と解決策
エステル交換法では,反応時に副生する低級アルコールを
原料の低級アクリル酸エステルと共沸させて留去する工程,
合成後に過剰の低級アクリル酸エステルを留去する濃縮工程
〔3〕 エステル交換法品の特性
エステル交換法と脱水エステル化法の違いによる品質への
影響として,電子材料用途への引き合いの多いジシクロペン
がある。これらの工程の際,蒸留塔内部で低級アクリル酸エ
タニルアクリレート(機能性アクリレート ファンクリル
ステルのポップコーン重合が起きることがある。ポップコー
FA-513A)を例として特性比較を行った。それぞれの特性比
ン重合性は,低級アクリル酸エステルの方が低級メタクリル
較表および経時品質変化試験結果(60℃における促進試験)
酸エステルよりも高く,アクリレートへのエステル交換法の
を表1および図3,4に示す。
適用はメタクリレートの場合よりも難しくなっている。ポッ
エステル交換法および脱水エステル化法によって製造した
プコーン重合物は,多孔質で嵩高い乳白色の固体で,ほとん
FA-513Aの一般的な特性はほぼ同等であったが,残存する硫
どの有機溶媒に不溶である。ポップコーン重合が起きると,
黄分に差がみとめられた。さらに,エステル交換法品は,脱
装置の閉塞から反応の停止,やがて設備破損・爆発へと繋が
水エステル化法品よりも経時での色相・酸価の変化がともに
る危険な状態となる。この重合を抑制することが,安定操業
少なく,経時品質安定性に優れることが明らかになった。こ
を行う上で大きな課題となっている。
の結果は,電子材料用途で使用する際,酸の遊離による電気
ポップコーン重合は,主に気相中で核となるポリマ(シー
ド)が生成した後,それを起点として高温の重合熱を伴いな
がら,非常に速い速度で進行する1)2)。このため,シードの生
成防止が重要と考えられ,生成機構の解析や抑制技術の検討
が行われてきているが十分には解明されていない
。
3)4)
特性等への影響や色相の変化が少ないという点で有利である。
〔4〕 硫黄分に関する検討
エステル交換法で製造したFA-513Aは脱水エステル化法で
製造したそれよりも,経時品質安定性に優れることがわかっ
以上のことから,アクリレートをエステル交換法にて製造
た。原因としては,製品中に含まれる硫黄分と関連性のある
するためには,低級アクリル酸エステルのポップコーン重合
可能性が考えられる。硫黄分は,脱水エステル化法で使用す
36
日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1)
表1 FA-513Aの特性例 硫黄分に差がある。
O
OH
H2C =CH −C −O
O
O
S −OH
(cat.)
O
in Toluene
単 位
%
96.0以上
色相
APHA
50以下
水分
%
0.10以下
酸価
mgKOH/g
1.0以下
重合禁止剤
ppm
硫黄分
ppm
エステル交換法
O
S −O
O
+
= =
項 目
純度(ガスクロ法)
=
HO
= =
Table 1 Characteristics of FA-513A
Sulfur content differs by the processes.
脱水エステル化法
(a)
図5 脱水エステル化反応と含硫黄副生成物 (a)が副生する。
Fig. 5 By-product containing sulfur by dehydration esterification
The by-product has a structure indicated by (a).
450∼550
1未満
約1,000
加して経時品質安定性試験を行った結果,脱水エステル化に
より製造したFA-513Aとほぼ同様の品質変化(悪化)が認め
られた。
エステル交換法
80
80
脱水エステル化法
60
色相[APHA]
色相[APHA]
100
40
20
10
0
2
4
エステル交換法
40
20
6
保存期間[月]
図3
エステル交換法+TCD−OTs
脱水エステル化法
60
0
0
2
4
FA-513Aの経時品質変化(色相) エステル交換法品は,色相の変
6
保存期間[月]
化が小さい。
図6 エステル交換法FA-513A+TCD-OTsの経時品質変化
(色相) TCD-
Fig. 3 Stability (color) of FA-513A
Color of acrylate by transesterification changes very little.
OTsの添加により,エステル交換法品でも色相が悪化する。
Fig. 6 Stability (color) of FA-513A by transesterification with TCD-OTs
Color changes by adding TCD-OTs.
5
エステル交換法
脱水エステル化法
5
3
2
1
0
0
2
4
6
酸価[mgKOH/g]
酸価[mgKOH/g]
4
4
3
2
1
保存期間[月]
0
0
図4 FA-513Aの経時品質変化(酸価) エステル交換法品は,酸価の変
化が小さい。
Fig. 4 Stability (acid value) of FA-513A
Acid value of acrylate by transesterification changes very little.
2
4
保存期間[月]
6
図7 エステル交換法FA-513A+TCD-OTsの経時品質変化
(酸価) TCDOTsの添加により,エステル交換法品でも酸価が悪化する。
Fig. 7 Stability (acid value) of FA-513A
Acid value changes by adding TCD-OTs.
る触媒由来の副生成物と考え,単離・同定を行った。その結
果,副生成物は原料アルコール(トリシクロデカノール)の
トルエンスルホン酸エステル (a)
(以下TCD-OTsとする) で
あることがわかった。
次に,TCD-OTsのFA-513Aの経時品質安定性への悪影響の機
構を考察した。
〔5〕 金属腐食性
電子材料分野でのアクリレート使用の際に,金属腐食性が
しばしば問題を生じる。金属腐食を起こす要因としては,ア
図4に示した試験結果より,6ヶ月後の酸価と硫黄分測定
クリレート中に種々含有する元素(例えばナトリウム,カリ
値をPTS物質量に換算すると,41.7µmol/g(酸価より換算)
ウム,塩素,硫黄等)および酸(スルホン酸類,アクリル酸
および31.1µmol/g(硫黄分分析値より換算)となる。この数
等)があげられる。そこで,エステル交換法および脱水エス
値は,経時でFA-513Aに含有するTCD-OTsの加水分解に加え,
テル化法で製造したFA-513Aと,TCD-OTsを添加したエステ
遊離したPTSを触媒としてFA-513A自体の加水分解反応が起
ル交換法品について金属腐食性の有無を確認した。脱水エス
こり,アクリル酸の生成が起きていると考えられる。確認の
テル化法品が銀への腐食を示すのに対し,エステル交換法品
ため,エステル交換法にて製造したFA-513AにTCD-OTsを添
は金属腐食を起こさなかった。また,TCD-OTsを添加したエ
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ステル交換法品も脱水エステル化法品と同様の現象を起こし
性がある。そこで,各々の方法により作成したFA-513Aの
たため,TCD-OTsが金属腐食性の原因となっていることがわ
P.I.I.測定を行った(OECDガイドラインNo.404に準拠)
。
かった。
予想通り,エステル交換法で製造したFA-513Aは,脱水エス
表2 FA-513Aによる金属腐食性
エステル交換法品は金属腐食しない
が,TCD-OTsの添加により金属腐食が起きる。
Table 2 Metal corrosion by FA-513A
FA-513A by transesterification does not corrode metals, but FA-513A with
TCT-OTs does corrode some kinds of metals.
Au
品 名
Ag
Al
硫黄分
テル化で製造したFA-513Aよりも,低いP.I.I値を示すことが確認
できた。なお後述する表5の結果より,FA-511A,512A,513A,
314Aは,エステル交換法品のP.I.I.が脱水エステル化法品よりも
顕著に低くなっているが,FA-126Aおよびその他数種の化合物
ではほとんど差が見られなかった。この要因は,アクリレー
トのアルコール残基の特性に起因するためと考えている。
1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月[ppm]
エステル交換法+
○
○
○
○
○
×
○
○
○
900
脱水エステル化法 ○
○
○
○
○
×
○
○
○
1,300
○
○
○
○
○
○
○
○
○
1未満
TCD-OTs
エステル交換法
表4 FA-513Aの皮膚一次刺激性確認結果
エステル交換法を用いるこ
とにより,P. I. I.が低くなる。
Table 4 P. I. I. and sulfur content
P. I. I. FA-513A by transesterification has lower sulfur than that by
dehydration esterification.
○腐食なし,×腐食確認
エステル交換法
〔6〕 皮膚一次刺激性(P.I.I. Primary Irritation
Index)
脱水エステル化法
P.I.I.
硫黄分[ppm]
P.I.I.
硫黄分[ppm]
2.5
1未満
4.0
1,000
塗料・接着剤分野においてアクリレートを使用する際,
〔7〕 結 言
P.I.I.が一つの指標となる。
エステル交換法によりアクリレートを製造するにあたって
表3 刺激性の程度
の問題点および解決策,得られるアクリレートの特徴に関し
Table 3 Classification of irritancy
P.I. I.
皮膚刺激性の程度
0
刺激なし
て報告した。
今般,原料低級アクリル酸エステルのポップコーン重合を
0∼2
軽度な刺激
2∼5
中程度な刺激
5∼8
激しい刺激
抑制し,エステル交換法にてアクリレートの製造をできるよ
うになり,製法差からくる品質の違いを検証した。その結果,
エステル交換法品は中性触媒を使用するため,製品中に硫黄
分を含まず,色相および酸価の安定性と耐金属腐食性に優れ,
P.I.I.とは,皮膚への刺激・かぶれ等の指標であり,一般的
皮膚一次刺激性の低い製品が得られることが確認できた。ま
にアクリレートは高いものが多い。TCD-OTsが残存する脱水
た脱水エステル化法品中に含有する硫黄分は,原料アルコー
エステル化法品は,経時で腐食性物質であるPTSおよびア
ルのトルエンスルホン酸エステルであり,種々問題を引き起
クリル酸を生成するためP.I.I.が高くなっていると考えられ
こす原因物質であることを確認できた。
現在,表5に示した化合物を製品化し,用途分野毎にワーク
る。すなわち,エステル交換法で製造されるFA-513Aは脱水
エステル化法で製造されるそれと比べP.I.I.が改善される可能
中である。今後,さらに適用品種を拡大していく計画である。
表5 新規開発品アクリレ−ト特性比較 エステル交換法品は,脱水エステル化法品と比べ優れた特性を有している。
Table 5 Characteristics of newly developed acrylate
The acrylate by transesterification has better characteristics than that by dehydration esterification.
品 名
*1
FA-511A(S)
*1
FA-512A(S)
製法
FA-324A
FA-126A
O
O
構造式
FA-314A
O
O
O
O
O
O
O
O
4
C9H19
O
O
Om
O
O(CH2)
6 O
n
O
(m + n ≒ 4)
O
エステル交換 脱水エステル化 エステル交換 脱水エステル化 エステル交換 脱水エステル化 エステル交換 脱水エステル化 エステル交換 脱水エステル化
保存安定剤*2
0.06→0.12
0.23→0.42
0.06→0.08
0.06→0.35
0.08→0.12
0.25→7.20
測定中
測定中
0.17→0.34
0.38→6.11
硫黄分(ppm)
1未満
1,300
1未満
200
1未満
200
1未満
50
1未満
450
金属腐食性
無
有
無
有
無
有
無
有
無
有
P.I.I.
1.8
4.3
2.2
3.7
1.8
2.7
測定中
測定中
5.0
5.5
拡販用途
*1
*2
配線版レジスト
電子・光学用塗料,接着剤
配線版レジスト
電子・光学用塗料,接着剤
塗料,接着剤
脱水エステル化により製品化されている製品は,品名末尾に“S”をつけエステル交換品として区別化
60℃(0→6ヶ月)における酸価の変化
参考文献
応 技苑 No.37 31-35 1983.10.20
1)高士 雄吉,村谷 俊雄: ポプコーン重合 日本文理大学紀要 第26
巻 第1号 1988.2
3)例えば M.S.Kharasch,et al., Ing.Eng.Chem., 39,830 1947
4)辰已 正和,山本 清香:ポプコン重合における溶媒の添加効果日
2)山本 清香,辰已 正和:ビニル化合物のポプコーンポリマ生成反
本化学会誌(9) 1282-1287 1983
*本報内の測定値は保証値ではありません。
38
日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1)
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