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水道原水の水質特性と 浄水処理技術との関係
水道原水の水質特性と 浄水処理技術との関係 東京大学大学院工学系研究科 附属水環境制御研究センター 教授 古米 弘明 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 1 最適な浄水処理システム設計における 検討項目 • 原水水質の把握 水源の種類(地下水、河川、ダム・湖沼) 不溶解性(濁度)と溶解性成分(有機物) 異臭味、アンモニア、農薬、THMFPなど(高度処理) • 処理目標水質の設定 水道水質基準、クリプトスポリジウム等対策、水道薬品 より高い目標水質(高度処理) • 維持管理レベルのよる検討 維持管理の難易度、単位プロセスの維持管理レベル レベルIII類(凝集沈殿+急速ろ過+高度処理) 浄水技術ガイドライン2010 (財)水道技術研究センター 発行 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 2 指定湖沼の水質状況の推移(COD年間平均値) 3mg/L 霞ヶ浦 A類型 COD=3mg/L以下 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 3 湖沼の環境水質基準と水利用用途 水道用水としての判断基準 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 4 湖沼の環境基準 COD COD基準の 判断基準 過マンガン酸カリウム消費量10mg/l=COD2.5mg/l 水道水源として、3.0mg/l以下でOK ヒメマスの生息、アユの生息、コイ、フナの生息:1,3,5mg/l 水浴面:3mg/l以下、農業用水面:6.0mg/l以下 工業用水や環境保全面:8mg/l以下 参考:日本の水環境行政 改訂版 - ぎょうせい 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 5 厚生労働科学研究費 「安全でおいしい水を目指した 高度な浄水処理技術の確立に関する研究」 - e-Water II プロジェクト - 研究期間:平成16~19年度 水質評価委員会成果紹介 研究課題:「原水水質の評価に関する研究」 研究目的:「安全でおいしい水を目指した高度な浄水処理 技術の確立に向けて、原水水質特性を総合的に評価し、 原水条件に応じた最適な浄水プロセス・水質管理体制 の確立に寄与することを目的とする。」 ・ 総合的な評価のために、水道原水水質データを幅広く 収集する。 ・ さまざまな視点から、原水水質の分類・評価・解析を行 い、わかりやすい形で原水水質特性をまとめる。 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 6 1. 水質データ・関連情報 水質データおよび関連情報の収集 • 年度:渇水年(1994)、通常年(1999)、多雨年(2004) • 事業体数:33事業体(129浄水場) • 収集情報:各年度の月別水質データ 水源種類、浄水フロー等浄水場概要 • データの代表性:総浄水量は全国の約4割 (1万~50万m3/日の浄水場主体) →本データを活用し、原水水質の分類・解析及び浄水システム と原水水質の関係整理・ 解析作業を実施。 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 7 1. 水質データ・関連情報 使用水質データ • 収集データのうち、データ数を十分に得られた10項目 ①一般細菌 ②硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素(NO3-N及びNO2-N) ③鉄 ④マンガン ⑤硬度 ⑥pH値 ⑦色度 ⑧濁度 ⑨過マンガン酸カリウム消費量(有機物等) ⑩アンモニア態窒素 の年間中央値(29事業体、102浄水場、 242サンプル) ※カビ臭物質追加や年間95%値による解析も実施したが、 類似の傾向 • データの代表性: 102浄水場の総浄水量は全国の約35% 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 8 1. 水質データ・関連情報 解析の方針と手順 • 原水種類を地表水系と地下水・湧水系に分け、処理性に影響 を与える複数項目を選定して、原水タイプを水質特性で分類 し、採用されている浄水処理フローとの関係を整理した。 • 異なる単位や幅を有する複数の水質データを相対比較する ために、水質の数値を標準得点化する。その際、理解しやす いZ得点(偏差値、線形T得点)を採用した。 平均値 Z xi x 10 50 S ( x) 標準偏差 濃度が高いことは 除去すべき物質が 多く、水質の得点 が低いとみなすた めに工夫を施した。 xi - x + 50 Z = -10 S ( x) Z得点は平均が50、標準偏差が10となるので、Z得点から対象の水質データ 母集団における素点の相対的な位置づけを知ることができる。 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 9 1. 水質データ・関連情報 年平均値(H16)のZ得点分布 pH 年間12回以上測定 4項目 N=293 全国平均 =7.4 全国平均 =7.6 有機物等 過マンガン酸カリウム消費量 全国平均 =5.0mg/l 濁度 マンガン 全国平均 =0.035mg/l 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 10 2. 原水水質分類・解析 原水水質の分類・解析(得点化とグループ化) <実施内容> 1.主成分分析手法を用いた ・ 水道原水水質特性を表す総合指標の探索 ・ 原水水質の得点化による特性評価 2.クラスター解析手法を用いた ・ 原水水質の類型化 3.主成分分析とクラスター解析結果の照合による ・ 原水水質と浄水処理方式との相互関係 詳しくは、「水道原水の水質類型と総合汚濁指標に関する研究」 林、横田、古米、藤原 水道協会雑誌、第77巻、第11号(第890号)、p15-24、平成20年11月 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 11 2-1 2-1 主成分分析 主成分分 解析方法1:主成分分析とは 簡単に言えば、複数の変数がもつ情報を下式のような形で ひとまとめにして要約する方法。 f=a1X1+a2X2+・・・・・・+apXp f:主成分得点 a1…ap:重み係数(a12+a22+・・・+ap2=1) X1... Xp:標準化水質データ p:水質項目数(ここでは10) 第1主成分⇒fの分散が最大となるようにaを決定 第2主成分⇒第1主成分と無相関、且つ分散最大 ↓ 水質項目により重み係数が変わる=重み付けがなされるこ とで、水質特性を表す総合指標(主成分)が示される。 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 12 2-1 主成分分析 主成分分析結果 第1主成分 第一主成分 重み係数 寄与率:50% 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 過マンガン酸カリウム消費量 鉄 濁度 色度 マンガン アンモニア態窒素 一般細菌 Log pH値 硬度 大きな重み:①有機物量、②鉄、③濁度、④色度など 第1主成分の意味:原水水質の汚濁度合を表現する総合指標 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 13 2-1 主成分分析 主成分分析結果 第2主成分 寄与率:14% -0.3 -0.2 第二主成分 重み係数 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 NO2-N + NO3-N 硬度 アンモニア態窒素 鉄 マンガン 濁度 一般細菌 Log 過マンガン酸カリウム消費量 色度 pH値 大きな重み:①硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素、②硬度、③アンモニア態窒素 第2主成分の意味:地下水・湧水の特徴と窒素汚染度合を表現する指標 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 14 2-1 主成分分析 原水タイプ別の主成分得点分布 6 地下水・湧水系 地表水系(高度処理 オゾン+粒状活性炭) 5 地表水系(高度処理 粒状活性炭) 地表水系(高度処理 生物) 地表水系(高度処理無) 第二主成分得点(寄与率14%) 4 地下水・湧水系 ※高度処理の定義:オゾンor粒状活性炭or生物処理 3 総データ数:242(102浄水場) 2 地表水(高度処理オゾン+粒状活性炭) 1 地表水(高度処理 生物) 0 -4 -2 0 2 4 6 8 10 12 -1 地表水(高度処理無) -2 第一主成分得点(寄与率50%) 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 15 2-1 主成分分析 主成分得点と浄水処理方式の関係 6 活性炭未 使用ゾーン 混在ゾーン 高度処理 or 粉末活性炭 ゾーン 高度処理ゾーン 5 凝集沈澱急速ろ過(粉炭無) 凝集沈澱急速ろ過(粉炭有) 凝集急速ろ過 高度処理付加 粒状活性炭 高度処理付加 オゾン+粒状活性炭 高度処理付加 生物 膜ろ過 緩速ろ過 滅菌のみ 第二主成分得点(寄与率14%) 4 Max 凝集沈殿急速ろ過(粉炭無) 3 Max 凝集沈殿急速ろ過(粉炭有) 2 総データ数:242(102浄水場) 1 0 -4 -2 0 2 4 6 8 10 12 -1 Min 凝集沈殿急速ろ過(粉炭有) -2 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 第一主成分得点(寄与率50%) 16 2-1 主成分分析 第1主成分得点と採用浄水処理方式の範囲 消毒のみ 緩速ろ過 凝集急速ろ過 凝集沈澱急速ろ過粉末炭無 凝集沈澱急速ろ過粉末炭有 ※膜ろ過は1浄水場(2データ)しかないため、省略 高度処理(粒状炭) 高度処理(生物) 高度処理(オゾン+粒状炭) -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 第一主成分得点(寄与率50%) 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 17 2-2 クラスター解析 解析方法2:クラスター解析とは 異質なものの混ざり合っている対象の中で、各データ間の類似 性を示す距離を決められた計算方法によって求め、その距離の近 いもの同士を集めて同一クラスター(グループ)を作り、対象を分類 しようという方法を総称したもの。 本方法を用いて、各浄水場が有する10項目の原水水質データ群 を類似しているもの同士に分類。その上で、各グループの特徴を 整理し、原水水質がどのように分類可能か示すことを試みた。 <イメージ> 水質データ群 A、B、C、D、E、F クラスター解析 G、H浄水場 A、D、E B、F、H C、G 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 18 2-2 クラスター解析 クラスター解析結果 ・以下の4つのグループに分類すると クラスター1(32/242):高度処理導入率:0% 濁度、色度、有機物低く、地下水中心(清澄) クラスター2(160/242):高度処理導入率:16% 平均的な水質 クラスター3(46/242):高度処理導入率:33% 全国平均より汚濁が進行 クラスター4(4/242):高度処理導入率:100% 全項目高く、汚濁がかなり進行 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 19 2-3 主成分分析とクラスター解析の照合 主成分分析とクラスター解析の融合図 6 地表水系(高度処理 オゾン+粒状活性炭) 地表水系(高度処理 粒状活性炭) 地表水系(高度処理 生物) 地表水系(高度処理無、粉末活性炭有) 地表水系(高度処理無、粉末活性炭無) 地下水・湧水系 第二主成分得点(地下水質の特性等: 寄与率14%) クラスタ1(32):低汚濁、高特性 -4 5 4 ※高度処理の定義:オゾンor粒状活性炭or生物処理 クラスタ3(46):中汚濁 3 総データ数:242(102浄水場) 2 クラスタ4(4):高汚濁 1 0 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 -1 クラスタ2(160):平均的 -2 第一主成分得点(水質汚濁度合:寄与率50%) 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 20 霞ヶ浦(西浦)の主成分得点の経年変化 e-WaterII 水質評価委員会のマクロ計算ソフト http://www.jwrc-net.or.jp/tools/ewater2macro.html 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 21 霞ヶ浦(西浦)の主成分得点の位置づけ e-WaterII 水質評価委員会のマクロ計算ソフト 1970年 1990年 2000年 2010年 1980年 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 22 茨城県企業局 浄水場位置図 (水源;霞ヶ浦) (水源;河川) ポイント • 取水量の6割強を霞ヶ浦 に依存している。 • 霞ヶ浦を水源とする浄水 場では,例年,秋から春 先にかけて藻類の大量発 生に起因する水処理障害 (凝集阻害,ろ過障害,高 濃度のかび臭物質発生 等)が生じている。 • 霞ヶ浦がかつての汽水湖 であることに起因して、オ ゾン処理における臭素酸 という消毒副生成物の懸 念がある。 那珂川 霞ヶ浦 (西浦) (北浦) 利根川 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 23 霞ヶ浦における藻類の発生状況 (木原取水場沖) 140,000 緑藻類 藻類数 (細胞/mL) 120,000 藍藻類 オシラトリア大発生 珪藻類 100,000 オシラトリア大発生 80,000 60,000 40,000 20,000 0 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 藻類数 (糸状体/mL) H18 2 3 4 5 6 7 8 H19 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 H20 2 3 4 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 H21 30,000 Oscillatoria 20,000 10,000 0 4 5 H18 6 7 8 9 10 11 12 1 H19 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 H20 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 5 6 7 8 9 10 11 12 H21 24 凝集沈澱処理の状況 (新治浄水場) 60 着水(月最大値) 沈澱処理水(月最大値) 50 原水濁度 濁度 (度) 40 30 20 10 沈殿処理水 濁度の上昇 0 4 H19 5 6 7 8 9 10 11 12 1 H20 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 H21 オシラトリア大発生 平成19年12月から20年5月には,Oscillatoriaが大発生し,凝集障害や高濃度 のかび臭物質の発生により,水質基準を満足することに大変な労力を要した。 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 25 霞ヶ浦におけるかび臭物質の発生状況 (木原取水場沖) 1,200 オシラトリア大発生 2-MIB 1,000 2-MIB,ジェオスミン(ng/L) ジェオスミン 800 600 400 200 0 4 H16 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 H17 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 H18 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 H19 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 H20 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 H21 26 粒状活性炭再生量の推移 ×1000m3 9 8 粒状活性炭再生量の推移 (霞ヶ浦を水源とする6浄水場の合計) 7 6 5 4 3 2 1 0 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 • 夏季には原水の藻類数は減少するものの,溶解性有機物によりトリハロメタン濃度 が高くなるため,粒状活性炭の適切な運用が求められている。 • 水処理障害に対し,現状の処理方式(凝集沈澱処理→砂ろ過処理→粒状活性炭 処理)においては,薬品注入や粒状活性炭処理の強化により対応しているが,その 費用は年々増加傾向にある。 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 27 富栄養化した湖沼を原水とする場合の 浄水処理における課題整理 • 藻類大量発生に伴う処理障害 • かび臭原因物質の発生とその除去 • 溶解性有機物によるTHM濃度上昇への対応 課題解決へ向けて • 富栄養化した湖沼を原水を対象として,安定的かつ効率的 に浄水処理が行えるような水処理方式の確立のためには? • 安全・安心でおいしい水道水に対するニーズに対応する最 適な水処理方式の確立のためには? 平成21 年度から23 年度まで、茨城県企業局と企業群による共同研究チャレンジ どのような新たな高度浄水処理方式があるのか? その処理方式をどのように生かすのか? 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 28 2013年7月17日 浄水処理技術シンポジウム 29