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国際交流学習における日本の伝統文化紹介ツールの作成と活用
分科会K2 国際交流学習における日本の伝統文化紹介ツールの作成と と活用 筑波大学附属聴覚特別支援学校 教諭 有友愛子 キーワード:日本の伝統文 文化,タブレット端末用自作教材,情報,国際交流学習 習,クロスカリキュラム 1.はじめに 分科会K2 平成26年4月に姉妹校提携を結んでいるフラン スのパリ聾学校の生徒5名が来校し、本校中学部の生 徒14名が国際交流学習に取り組んだ だ。本校の生徒が フランスの生徒にゆかたを着付け、和 和楽器(箏)の演 奏と点茶を体験してもらう和のおもて てなしに挑戦した。 日本の伝統文化を紹介するツールと として、動画や静 止画による視覚情報とそれに合わせた た日本語と英語の 簡単な説明によるタブレット端末上で で活用する自作教 材を、電子書籍アプリケーション(iBooks Author)で 作成した。この教材を『和のおもてな なしカード』(以 下、カード)と名付け、フランスの生 生徒に日本の伝統 文化への興味・関心をもってもらうこ ことをねらいとし て情報の時間に作成した。日本の伝統 統文化を紹介する ためのツールとして、また、異なる言 言語を用いる両校 生徒のコミュニケーションツールとし してのカードの有 用性について検討した。 2.目的・目標 2.1 学習の位置づけ 本校中学部では、平成23年度から ら継続して総合的 な学習の時間、国語、音楽、家庭科の のクロスカリキュ ラムとして「和の時間」の学習に取り り組んでいる。家 庭科のゆかたの着装の発展学習として て、ゆかたを着装 して「和楽器(箏) を演奏する」「点茶 を体験する」「短歌 を詠む」「俳句を詠 む」等の体験学習を 行っており、生徒た ちの日本の伝統文化 に関する興味・関心 の高まりがみられて 図1 学習の の位置づけ いる。 本実践は、「和の時間」の学 学習の一環として、本校 中学部3学年の生徒14名を対 対象とした総合的な学習 の時間、情報、音楽、家庭科の のクロスカリキュラムに よる学習活動として取り組んだ だ(図1)。 2.2 情報の時間の活用 本校中学部では、週2時間の の総合的な学習の時間の うち1時間を情報の時間として て設定し、情報教育推進 のため各教科との連携を密にし した取り組みを行ってい る。情報の時間に生徒が作成し したタブレット端末用自 作教材の構成を図2に示した。和楽器(箏)の演奏や 点茶のプレゼンテーションにお おいて、両校生徒の思考 を促し、言語を超えたコミュニ ニケーションに役立つツ ールを目指し、情報の学習で学 学んだ効果的な伝え方を 意識させて取り組ま せた。フランスの生 徒の反応をリアルタ イムに得ることで、 グローバルな視点で 情報を伝えるための スキルについて考え ることをねらいとし 図2 『和の のおもてなしカード』 た。 の構成 3.実践内容 3.1 授業デザイン カードの作成と活用の学習として、カードの作成・ タブレット端末を用いたプレゼ ゼンテーション・学習の ふり返りの3つの学習活動によ よる課題解決型の授業を デザインした(図3) 。日本の伝 伝統文化を紹介する課題 に対し、情報の収集と整理・表 表現・ふり返りによる協 働的な学習に取り組み、思考力 力や表現力の高まりを目 指した。 図3 『和 和のおもてなしカード』の作成と活用の授業デザイン − 144 − JAPET&CEC成果発表会 4.成果 4.1 実践の様子から (1)『和のおもてなしカード』の作 作成 情報の時間に行っている動画や静止 止画に合わせた短 文作りやプレゼンテーションでの資料 料作り等の経験を 思い起こし、 効果的な伝え方を考えなが がら構成を練り、 動画や静止画の撮影に取り組む様子が がみられた。箏の 演奏のページでは、和楽器特有の弦の の数え方や箏爪の つけ方等、演奏体験に必要だと思う情 情報について、音 楽の学習で自分たちがどのようなこと とに戸惑ったのか を思い出しながら取り組む様子がみら られた。文化の異 なる相手の視点に立ち、表現方法や伝 伝えるポイントを 整理することによって、自らも日本の の伝統文化につい て理解を深めることができた。 (2)タブレット端末を用いたプレゼ ゼンテーション プレゼンテーションでは、1人の生 生徒の説明に合わ せてもう1人の生徒がタブレット端末 末のカードを示す 等、お互いにサポートし合いながら取 取り組むことがで きた。箏の演奏体験では、はじめは箏 箏爪のつけ方を教 えることで手一杯であったが、カード ドを活用して身振 りや手振りを加えながら説明をしたり り、パリ聾学校の 生徒の手をとって爪で弦を弾く感覚を を体験してもらっ たりと、相手の反応に合わせながら効 効果的な活用方法 をその場で工夫することができた。 パリ聾学校の生徒からは、「抹茶を を点てたり、箏を 弾いたりす ることはは じめての経 験だったけ れどすごく 楽しかった」 「抹茶を点 てることは すごく面白 かった。箏 写真1 和楽 楽器(箏)の演奏体験 の演奏は少 し難しかった」等の感想を得た た。また、引率教諭から は、「フランスでも日本の文化 化についてふれることは できるが、本当の日本の文化に にふれるのは今日がはじ めてだったので生徒にとって発 発見があり、良い体験に なった」との感想を得た。生徒 徒達は、日本の伝統文化 とおもてなしの気持ちを伝える ることができ、達成感と 自信を得ることができた。 (3)国際交流学習のふり返り スライドの吹き出しに書き込 込まれた内容を分析した ところ、伝えたいことが伝わっ っているか相手の反応を 気にしながら、自分たちが自作 作したカードの内容を関 連付けたり、作成の際に気づい いたポイント等を思い出 したりして和のおもてなしに取 取り組んだことがうかが えた。また、パリ聾学校の方は は不安や戸惑いをもちな がらも、日本の伝統文化に驚い いたり、楽しんだりしな がら和のおもてなしの時間を過 過ごしてくれたと感じて いることがわかった。カードの の活用により、箏の演奏 や点茶について、約8割の生徒 徒がなんとか伝えること ができたという自己評価をして ていることがわかった。 4.2『和のおもてなしカード ド』の有用性 本校の生徒を対象に、国際交 交流学習において自作の カードが役立ったかを五件法で で質問したところ、とて も役立った78.6%、役立っ った14.3%どちらと も言えない7.1%あまり役立 立たなかった0%役立た なかった0%という結果となっ った。 「言葉だけではわか らないことも、カードを使えば ば理解してもらうことが できた」 「自分でもすぐに確認で できる」 「説明が楽にな った」等の理由があげられてい いた。前年度の3年生が 取り組んだ国際交流学習の結果 果と比較したところ、日 本の伝統文化を伝えられたとい いう自己評価が高かった。 タブレット端末用の自作教材 『和 和のおもてなしカード』 は、国際交流学習において日本 本の伝統文化を紹介する コミュニケーションツールとし しての有用性が高いとい えるだろう。また、カードの作 作成と活用に関する協働 的な学習により思考力や表現力 力の高まりもみられ、情 報活用能力の育成においても有 有効な取り組みであった。 5.今後に向けて パリ聾学校の生徒の1人が日本土産としてゆかたを 購入したと伝え聞いた。自作の のカードを活用したプレ ゼンテーションがきっかけとな なり、日本の伝統文化に 興味をもってもらえたことに生 生徒らの喜びはひとしお であった。この体験を通して身 身に付けた情報を伝える ためのスキルは、グローバル社 社会に生きる生徒たちに とって大きな自信となった。 生徒からは、カードに付け加 加えたい内容について 様々なアイデアがあがっている る。学年をまたがった取 り組みとして、教材の拡充に取 取り組んでいきたい。 − 145 − 分科会K2 3.2 実践の様子 (1)『和のおもてなしカード』の作 作成 カードの作成は、前年度の3年生が が英訳した、タイ の大学生が来校した際に交流会で活用 用した紙媒体の日 本の伝統文化紹介カードの内容を拡充 充する形として取 り組んだ。 家庭科や音楽で学んだ知識や や技能をもとに、 箏の弾き方や抹茶の点て方・いただき き方等、説明に必 要な情報について意見を出し合わせた た。生徒がお互い に撮影者とモデルになり、カードに必 必要な動画や静止 画をタブレット端末(iPad)のカメラで で撮影し、電子書 籍アプリケーション(iBooks Author))で編集してカー ドを作成した。 ゼンテーション (2)タブレット端末を用いたプレゼ パリ聾学校の生徒1人を本校の生徒 徒2〜3人が担当 し、グループごとにタブレット端末(iiPad)を1台ずつ 用いて取り組んだ。タブレット端末の の電子書籍アプリ ケーション(iBooks)上のカードを活用 用し、和楽器(箏) の演奏と点茶のプレゼンテーションに に挑戦した。学ん だことを伝える学習の一環として、情 情報の学習で身に 付けたスキルを生かす場であることを を意識させ、相手 の反応やその場の状況に応じた臨機応 応変な対応を心が けて取り組ませた。 (3)国際交流学習のふり返り ようなことに気を 国際交流学習をふり返り、①どのよ つけたか、②どのような気持ちだった たか、③どのよう な不安があったか、④パリ聾学校の人 人はどのような気 持ちだったと思うかの4項目について て考えさせた。1 人1台タブレット端末(iPad)を用い、プレゼンテーシ ョン用アプリケーション(Key Note)を活用してスラ イドにまとめた。プレゼンテーション ンに取り組んだ際 の画像をスライドに挿入し、項目ごと とに色分けした吹 き出しに整理させた。生徒それぞれの のふり返りの内容 を電子黒板に提示して考えを共有し合 合い、カードのブ ラッシュアップに向けて意見を交換し した。