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レーザープロファイラデータを用いた初生地すべりの
土木技術資料 50-9(2008) 報文 レーザープロファイラデータを用いた初生地すべりの計測評価 笠井美青 * 池田 学 ** 藤澤和範 * ** ることで、レー 1.はじめに 1 N ザープロファイ 地すべり災害を防止・軽減する為には、まず地 ラデータを解析 すべりを抽出してその活動状態を調べ、各々の斜 することによっ 面に適切なモニタリングや対策を施す必要がある。 て得られる初生 しかし「過去に移動したことのない斜面で初めて 地すべりの地形 発生し、かつ発生してからの年月が短い」地すべ 的特徴を明らか り(ここで「初生地すべり」と定義)は、地すべ にしようとした。 り地形に特徴的な緩斜面はまだ発達しておらず、 2.1 天ノ川地区 地すべりの輪郭も不明瞭である。その為、空中写 天ノ川地区で 真から作成した従来の等高線図を用いて、それら は、新宮川水系 を判別する事は困難であった。一方で「初生地す 天ノ川に沿って べり」では、最近の活動による亀裂や段差等の微 急峻な斜面が連 地形は地表に現れることから、近年発達の目覚ま 続 し ( 図 -1 )、 しいレーザープロファイラデータを活用すること 地すべりはこの が、判別を進める上で期待されている。レーザー 斜面で発生して プロファイラを用いることにより、針葉樹林や疎 いる。地質は白 林、冬枯れした森林であれば、森林下であっても 亜紀に形成され 高密度且つ高精度な地表測量ができる。測量デー た砂岩と頁岩が タから作成された詳細な等高線図や地形のイメー 主 で あ り 、 ジ図は、地すべり判読の場に取り入れられてきて チャートや緑色 いるところである。しかし地形情報が詳細であっ 岩類を伴う。全 ても、地すべりの判読には判読者の主観が反映さ 般に風化の程度 れる事は避けられない。そこでレーザープロファ は弱い。この地 イラデータを解析して、初生地すべりが発生して 区 で は 2005 年 3 いる斜面の地形特性を数値で表す事が出来れば、 月にレーザープ 図-1 天ノ川地区 図-2 中津川地区 初生地すべりの判読に貢献出来ると考えた。 本報ではレーザープロファイラデータ起源の DEMを 用 い て 地 形 解 析 を 行 い 、 初 生 地 す べ り を 計測評価した結果を報告する。 2.解析対象地 地 形解 析は 、 2地区 を対 象 に行 われ た。 それ ぞ れの地区にて、初生地すべりの他にも、主に崩土 が 堆 積 し て いる 斜 面 (以下 、 崖 錐 斜 面 )、 発 達し た古い地すべり、地山斜面にて解析が行われた。 これらの斜面ブロックの解析結果を同時に比較す ──────────────────────── Characterizing geomorphic features of landslides in early development stages by analyzing LiDAR-derived DEM - 12 - 表-1 天ノ川地区解析対象斜面ブロック概要 斜面番号 1 2 3 4 5 6 表-2 面積 (ha) 3.5 4 7.5 5.3 2.8 7.1 備考 崖錐斜面 崖錐斜面 地すべり地形 初生地すべりの可能性が高い 初生地すべりの可能性が高い 地山斜面 中津川地区解析対象斜面ブロック概要 斜面番号 1 2 3 4 5 面積 (ha) 1.9 0.5 0.9 1 10 備考 崖錐斜面 地すべり地形 初生地すべり 崖錐斜面 地山斜面 土木技術資料 50-9(2008) α 認 され た。 斜面 番号 1, 2, 3, 4の 斜 面 ブ 法線ベクトルのばらつき ロックは、現地調査結果を基に輪郭が 描かれた。地質は中新世の凝灰岩、安 山岩と玄武岩からなる溶岩及び火山砕 屑物が分布し、局所的には白亜紀の花 近傍8点から算出さ れた近似平面の法 線ベクトル 対象グリッドポイント の水平面に対する法 線ベクトル 図 -3 α 近傍8点から算出さ れた近似平面 崗 岩 類 も 見 ら れ る 2) 。 2003 年 の 融 雪 期 対象グリッドポイント における斜面勾配 測量が行われ、2mグリッドのDEMが作 各 グ リッ ドポ イン トに お け 図 -4 る斜面勾配 ( 5月 ) にレ ーザ ープ ロフ ァ イラ によ る 各グリッドセルにおける法線 ベクトルのばらつき概念図 成された。 3.解析手法 ロ フ ァ イ ラ に よ る 測 量 が 行 わ れ 、 1mグ リ ッ ド の レーザープロファイラによる測量データを解析 DEMが 作 成 さ れ た 。 こ の DEMを 用 い て 6斜 面 ブ するにあたり、本研究では斜面の特徴を表す解析 ロッ クを対象 に地形解 析を行 った(図 -1、表 -1)。 要素として、斜面勾配と固有値比を用いた。斜面 このうちの2斜面ブロック(斜面番号:4,5)は現 勾配は、地すべりの活動による地形の変化を表現 地踏査によって、岩盤の緩みや陥没帯の存在から 出来る。また固有値比は地表面の粗さの指標であ 初生地すべりの可能性が高いとされた。その他の ることから、微地形の発達による地表の凹凸の変 解析対象は、広い範囲で崩土が堆積していること 化を表すことが出来ると考えた。 が 現 地 に て 確 認 さ れ た 2つ の 崖 錐 斜 面 ( 斜 面 番 3.1 斜面勾配 号 : 1,2)、 1つ の 発 達 し た 地 す べ り ( 斜 面 番 号 : DEM上 の あ る 点 に お け る 斜 面 勾 配 は 、 そ の 点 3)、 1つ の 地 山 斜 面 ( 斜 面 番 号 : 6) で あ る 。 地 に お ける 水平 面の 法線 ベク ト ルと 、近 傍 8点か ら 山斜面は侵食前線より上方の緩斜面に位置する。 なる近似平面の法線ベクトルとがなす角として求 それぞれの斜面ブロックについては、現地調査及 めた(図-3)。 びレーザープロファイラデータから作成された 3.2 固有値比 DEMを 視 覚 化 し た 図 ( 図 -1) を 基 に 輪 郭 が 描 か 固 有 値 比 は DEMの 各 グ リ ッ ド セ ル 平 面 の 法 線 れた。 ベクトルの方向について、隣接するセル間のばら 2.2 中津川地区 1) つ き を 表 す 値 で あ る 3) ( 図 -4)。 活 発 な 地 表 活 動 阿武隈川水系の摺上川ダムに流入する中津川沿 が起こっている場では地表面が粗くなり、固有値 い で 、 5斜面 ブロ ック を対 象 に地 形解 析を 行っ た 比 が小さ くなる事 が報告さ れてい る 4) 。固 有値比 ( 図 -2、 表 -2)。 斜 面 番 号 3は 、 2004年 に 緩 み 岩 の 求 め 方 を 以 下 に 示 す 。 グ リ ッ ド セ ル iに お け る 盤が確認され、その後のボーリング調査ですべり 法線ベクトルを(x i , y i , z i )とすると、法線ベク 面が確認された初生地すべりである。他の解析対 トルの方位行列, Tは 象は、崖錐斜面(斜面番号:1,4)、地すべりとし T = ての活動を休止して久しいと見られる古い地すべ り ( 斜 面 番 号 : 2)、 尾 根 と 小 沢 を 含 む 地 山 斜 面 ( 斜 面番 号: 5) であ る。 崖 錐斜 面は 現地 にて 、 ∑ x ∑ x y ∑ x z ∑ y x ∑ y ∑ y z ∑ z x ∑ z y ∑ z 2 i i i 2 i i i i i i i i i i i (1) 2 i 崩土が広く堆積した斜面ブロックであることが確 表-3 固有値比 1-2.25 2.25-2.5 2.5-2.75 2.75-3 3-4 4-5 5-6 固有値比と地表の様相(天ノ川地区) 亀裂の入った 又は緩んだ岩盤 ○ ○ ○ 崖錐堆積物 ○ ○ ○ ○ 緩やかに 起伏した地表 ○ ○ ○ 表-4 固有値比と地表の様相(中津川地区) 固有値比 1-2 2-3 3-4 4-5 5-6 6-7 7-8 注)「穏やかに起伏した地表」の起伏はおよそ 1.5m以下 崖などの 崖錐 緩やかに 露岩地 堆積物 起伏した地表 ○ ○ ○ ○ この行列から 3個 の 固 有 値 が 得られるので、 ○ ○ ○ ○ ○ 値の大きいもの ○ ○ ○ ○ か ら 順 に 、 λ1, λ2, λ3 と す る 。 各固有値を法線 - 13 - 土木技術資料 50-9(2008) ベクトル数nで除算し、S 1 , S 2 , S 3 を求める。 (2) 本 研 究 で は 3行 3列 の グ リ ッ ド セ ル 間 の ば ら つ 1.0 0.9 0.9 0.8 0.8 0.7 0.7 0.6 斜面番号 1 2 3 4 5 6 0.5 0.4 きを求めているので、n = 9を用いた。ここでは 0.3 McKean and Roerling 4) が用いた方法と同様に、 0.2 S 1 とS 2 から、固有値比γを以下の式から求めた。 ln(S 1 /S 2 ) 0.5 斜面番号 1 2 3 4 5 0.3 0.2 0.1 0.0 0.0 10 20 30 40 50 60 70 80 0 10 (3) 図-5 4.現地調査 を行い、地表の様相を調べた。それぞれの場にお いて、観察された地表の様相と、地形解析によっ て得られた固有値比の値を照合し、関連を調べた。 5.結果 density 解 析 対 象 斜 面 ブ ロ ッ ク ( 図 -1と 図 -2) は 踏 査 斜面勾配の累積密度 (天ノ川地区) 図-7 1.0 1.0 0.9 0.9 0.8 0.8 0.7 0.7 0.6 0.6 0.5 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 0 内の 6割以上 が 40度以上の急な斜面 単位からな っ 60 70 斜面勾配の累積密度 (中津川地区) 2 4 6 8 10 12 0 図-6 固有値比の累積密度 (天ノ川地区) 2 4 6 8 10 12 γ γ ブ ロ ッ ク ( 斜 面 番 号 : 4,5) で は 、 斜 面 ブ ロ ッ ク 50 0.0 0.0 天ノ川地区の初生地すべりの可能性が高い斜面 40 30 0.5 0.4 5.1 天ノ川地区 20 slope (degree) slope (degree) density = 0.6 0.4 0.1 0 γ density = λk / n density Sk 1.0 図-8 固有値比の累積密度 (中津川地区) 割 以 上 、 35 度 以 下 の 斜 面 単 位 が 2 割 以 上 分 布 し た ( 図 -5)。 ま た 斜 面 ブ ロ ッ ク 内 の 約 1割 が 固 有 ( 図 -7)、 他 斜 面 ブ ロ ッ ク よ り も 勾 配 の 分 布 に ば 値 比 2.5以 下 で あ り 、 他 の 斜 面 ブ ロ ッ ク と 比 較 し らつきが見られた。これは地表に様々な様相が混 て 2倍 ほ ど 高 か っ た ( 図 -6)。 初 生 地 す べ り の 可 在している為であり、斜面ブロック内ではそれら 能性が高い斜面ブロックでは、亀裂が入ったり緩 の 様 相 を 含 む 固 有 値 比 4-5 ( 表 -4 ) の 割 合 が 高 んだりしている岩盤が、他斜面ブロックと比較し かっ た。固有値比 5-6の割合 も高く、固有 値比 4- て現地で多く見られた。天ノ川地区の解析対象斜 6で あ る 斜面 単位 の割 合は 、 初生 地す べり ブロ ッ 面全体について、現地で観察された地表の様相と ク 内 の 約 2割 を 占 め た ( 図 -8)。 ま た 初 生 地 す べ その場における固有値比の関係を整理したところ りでは、現地にて急崖が各所に確認されており、 (表-3)、固有値比が2.75以下の場ではそのような こ の 様 相 が 存 在 す る 固 有 値 比 2.5以 下 の 斜 面 は 、 岩盤が分布しており、初生地すべりの可能性が高 ブ ロ ック 全体 のほ ぼ 1割を 占 めた 。こ の範 囲の 固 い斜面ブロックにおける現地観察結果と一致した。 有値比の斜面単位は、崖錐斜面内(斜面番号: 一 方 、発 達し た地 すべ り( 斜 面番 号: 3) では 、 1,4) で は そ の 割 合 の 半 分 以 下 で あ っ た 。 一 方 、 勾 配 35度 以 下 の 斜 面 単 位 の 割 合 が 半 分 以 上 を 占 地 山 斜面 (斜 面番 号: 5) で は、 尾根 や小 沢な ど め た (図 -5)。ま た斜 面ブ ロ ック 内に おい て固 有 の急な傾斜の変換点を多く含んでいる為に、この 値 比 4-6( 表 -3) で あ る 斜 面 単 位 の 割 合 が 約 3割 範囲の固有値比の斜面単位が占める割合が、初生 と 、 他斜 面ブ ロッ クに 比べ て 多か った (図 -6)。 地すべりより若干少ない程度であった。 古い地す べり(斜面番号: 2)では 、勾配が 35 現地調査結果との比較では、この範囲の固有値比 の 場 で は 、 0.5m深 の 陥 没 等 、 緩 や か な 地 形 の 変 度以下の斜面単位の割合が約4割を占めて、全体 形が見られた。 的 に 緩勾 配で あっ た( 図 -7)。 お そら く活 動を 停 5.2 中津川地区 止してからの時間の経過が長かった為に、地表面 中 津川 地区 の初 生地 すべ り (斜 面番 号: 3) で は、地すべ り内にて勾配45度 以上の斜面単位が 4 は 侵 食 さ れ て 滑 ら か で あ り 、 固 有 値 比 2.5以 下 の 斜 面 単位 は非 常に 少な かっ た (図 -8)。ま た初 生 - 14 - 土木技術資料 50-9(2008) 地 すべ りと比 較し て、固有 値比 が 4-6である 斜面 なお地質的な条件が異なる地域では、初生地す 単 位 の割 合は 若干 少な かっ た が、 固有 値比 が 6以 べりの地形的特徴や、解析要素と地表の様相との 上の割合は1割多かった。 関係が、本研究の結果とは異なる可能性が大きい と考える。また解析要素と地表の様相との関係に 6.まとめ つ い て は 、 地 質 ・ 地 形 的 要 因 の 他 に も 、 DEMの 両地区の初生地すべりについては、他斜面ブ サイズが関係すると思われる。例えば中津川地区 ロックと比べて急勾配の斜面単位が多かったこと、 では天ノ川地区と比較して、同様の地表の様相を ま た 固 有 値 比 が 2.5 以 下 で あ る 斜 面 の 割 合 が ブ 表す固有値比の範囲が、やや高い値で幅広く現れ ロ ッ ク内 の約 1割 を占 めた こ とが 共通 して いた 。 た 。 こ れ は 前 者 の DEMの グ リ ッ ド サ イ ズ は 後 者 これは両地区の初生地すべりが、緩んだり亀裂が よりも大きく、地形が若干ならされて表現される 入ったりした岩盤や、急崖を多く含むためであっ ことが原因の1つであると考えられる。 た。また中津川地区では、初生地すべり内に様々 今後は、他地域についても同様の研究を続け、 な 様相 の地表 が存 在するこ とで 、固有 値比 が 4-6 汎用性のある初生地すべりの計測評価方法を検討 である斜面単位の割合も多かった。 していきたい。 一方、天ノ川地区は中津川地区と異なり、固有 値 比 4-6が分 布する 場では 、穏 やかな 地表 の起 伏 謝 辞 が主に見られた。この地区では発達した地すべり 本研究の実施にあたり、データの提供をしてい に、この範囲の固有値比をとる斜面単位の割合が ただいた奈良県及び国土交通省東北地方整備局摺 多 かっ た。こ れら の結果か ら、 固有値 比 4-6の場 上川ダム管理所に深く感謝いたします。 における地表の様相は異なるにしても、それぞれ の地区においてこの範囲の固有値比の斜面単位が 参考文献 ブロック内に占める割合を、地すべりの発達や活 1) 笠井美青、池田学、藤澤和範、松田昌之、鈴木雄介: 航空レーザー測量データから作成されたDEMの解析 に基づく地すべり地形発達プロセスの推定、地すべり 学会誌, pp26-32, 2008 2) (社 )東 北 建 設 協 会 :建 設 技術者 の た め の 東 北地 方 の 地質、東北建設協会、408p、2006 3) Woodcock, N.H.: Specification of fabric shapes using an eigenvalue method, Geol. Soc. Amer. Bull., Vol. 88, pp1231-1236, 1977 4) McKean, J., Roering, J.: Objective landslide detection and surface morphology mapping using high-resolution airborne laser altimetry, Geomorphology, Vol. 57, pp331-351, 2004 動の度合いの指標と出来る可能性があることも分 かった。 本研究では、地すべりの地形的特徴が現地調査 によって地表の様相とともに明らかに出来れば、 その様相を表す固有値比や斜面勾配の空間分布を 地すべり判読の際の指標として活用できる可能性 を示すことができた。これらの解析値の空間分布 は、レーザープロファイラデータから作成された 等 高 線 図 や DEMを 視 覚 化 し た 図 な ど と 組 み 合 わ せることにより、初生地すべりの輪郭を想定する 際に役立つと考えられた。 笠井美青* 独立行政法人土木研究所つくば 中央研究所土砂管理研究グルー プ地すべりチーム研究員, PhD (環境科学) Dr. Mio KASAI 池田 学** エイトコンサルタント㈱技術本 部プロジェクト部防災・解析 チーム(前 独立行政法人土木 研究所つくば中央研究所土砂管 理研究グループ地すべりチーム 交流研究員) Manabu IKEDA - 15 - 藤澤和範*** 独立行政法人土木研究所つくば 中央研究所土砂管理研究グルー プ地すべりチーム上席研究員 Kazunori FUJISAWA