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詐欺無効と欺罔行為の相手方
詐欺無効と欺岡行為の相手方 「‖ ̄‥ ̄▼ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄‥ ̄ ̄、 ̄‖ ̄‥ ̄‖ ̄‥ ̄‖ ̄‥ ̄‖ ̄ ̄‘ ̄‥ ̄‖ ̄ ̄ ̄ ̄‥ ̄‥ ̄‖ ̄、 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄‖ ̄ ̄, ̄‖  ̄‥「 l 問1.生命保険募集人の法的地位について検討して下さい 1 問2.告知義務制度の法的根拠、告知義務違反と詐欺(民法上および約款上の)の l 各制度の趣旨、要件・効果の異同について検討し、これら相互の関係について l 述べて下さい_ l 問3.下記判決の事例において、保険外交員Bは、保険契約者lTと保険会社Ⅹとの l 間において、どのような地位にあるかについて検討して下さいJ l 問4.下記判決の判旨を検討して下さい。 」_____________−______一一_‖_−__‖_‖___−__ 高松地方裁判所平成10年11月11日判決(判例集束搭 載) [事案の概要] 1.保険契約者Yは、平成元年6月1日、保険会社 Ⅹ社との問において、次の内容の保険契約(以F l本件保険契約」という)を締結した_ 種 類 定期保険特約付終身保険 被保険者 Y 2.X社は、Yに対し、本件保険契約に基づく疾病 入院給付金等として、次のとおり支払った (1)平成2年12月11日、疾病入院給付金 60万円 (2)平成5年10月22日、疾病入院給付金 42万円 (3)平成6年4H19日、災害入院給付金 60万円 3.X社は、平成9年9月1日、17から、同年4月 5日発生した交通事故により重傷した頚椎・腰部 捻挫のため、同年1月5日から同年8月1911まで 1 l l .l l ll .___‖______‖_‖_‖_.__‖_________‥」 故による腰椎・頚椎捻挫の治療のための入院し 6.X社は、本件保険契約について、終身保険普通 ノー 保険約款16条にいう「保険契約の締結に際して、 保険契約者または被保険者に詐欺の行為があった とき」にあたり、無効である、と主張し、本件保 険契約に基づく給付金(60万円)支払債務の不存 在確認、並びに不当利得返還請求権に基づき同保 険契約により支払済の保険金(162万円)等の支 払を求めるため、本件訴訟を提起した。 [当事者の主張および争点] 1.本件保険契約の詐欺無効 (1:l X社の仁張 lTが、本件保険契約申込当時入院中であり、 また過去5年内に前記の入院歴・既往歴があっ たにかかわらず、これらの事実を秘匿してX社 に告知せず、Ⅹ礼と本件保険契約を締結した の間、整形外科病院に入院したとして、本件保険 契約に基づく災害入院給付金60万日(1H5000円 の120日分ノ の支払請求を受けた 4.Yは、本件保険契約を締結した平成元年6月1 日には、交通事故による綿・腱および靭帯の損傷 仮りに、Ⅹ社の保険外交員月が17の入院中で ノ■ヽ あることを知りながら、これをX社に報告しな かったとすれば、被保険者の告知書および保険 外交員の報告書をもとに、保険契約を締結する 保険会社Ⅹ社(引受決定部門担当者)を、Yと の治療のため入院中(平成元年5月8日から同年 7月8日まで1であった 5.17は、本件保険契約締結口までに、次のとおり 入院歴、既往歴があった (1)昭和61年9日6日から、昭和62年1月11日ま 相通じて欺いたことになり、両者の共謀による 詐欺行為といわざるを得ない で、糖尿病・慢性胃炎・糖尿病性神経炎の治療 のため入院 (2)昭和62年5日25日からl司年6月11日まで、転 倒による頭部打撲の治療のため入院_ノ (3)昭和63年5月30日から同年10月16日まで、糖 尿病腰痛症、慢性肝炎の治療のため入院 (4)平成元年2月2日から同月24日まで、交通事 8 】 (2ノ Yの仁張 Yは、X社の保険外交員Bから本件保険契約 の勧誘を受け、病院内で本件保険契約を締結し た′ したがって、同保険外交員は、Yが入院中 であったことを知っていた′J但し、tTはBに対 し、入院歴、既往歴を告げたことはない, 2.保険外交員Bが、本件保険契約申込当時、17の 入院の事実を知一Jていたとすれば、Ⅹ社が吾知を 受けたことになり、17に詐欺の故意またはX社に 欺岡による錯誤がないといえるか(保険外交員に 告知受領権があるか) 3.本件保険契約締結行為は公序良俗違反か。 [判旨] [一 1.17は、平成元年5月8日から同年7月8日まで、 交通事故による頚椎捻挫・両膝部挫傷等の治療の ためC病院に入院していた。 Yは、金融業を営んでいたが、その貸付先の保 険外交員Bから本件保険契約の勧誘を受け、同年 5月20日頃、右入院先の病院待合室でその申込み をしたし Yは、入院中は保険契約を締結できない と認識していたが、保険に入れたらよいとの思惑 から、Ⅹ社の嘱託医Dに対し、過去5年以内の入 院歴・既往歴及び右申込み当時交通事故で入院治 療中の事実を告知すべき義務があるのに、これを 部門担当者)に対し、あったかなかったかを判断 すべきである。 すなわち、保険契約における重要事項の告知は、 これにより締結の応否を決するためのものである から、その性質上、締約につき決定権を有する者 に対してなされなければならないものであり、・ ・Ⅹ杜は、保険外交員に対し告知を受領する権限 を与えていないからである。 したがって、右Yが保険外交員Bに対し、右Y の入院の事実を口頭で告知していたとしても、X 社(引受決定部門担当者)に対し、右告知をした (欺岡行為がない)ことにはならない。 …・Yは、本件保険契約の申込みに際し、過 去5年内のYの入院歴・既往歴および右申込み当 時に入院中であった事実の告知義務のあることを 知りながら、Ⅹ社に対しこれを告知しなかった欺 岡行為があり、右告知義務違反の重大な内容に照 告げなかった。ノ ただし、l司医師は診査の結果注意 すべき点として、Yの血糖値が高く糖尿病である とⅩ社に報告した Ⅹ社(引受決定部門担当者)は、17の告知内容、 これと同じ内容の保険外交員の報告書及び右嘱託 らし、X社において右告知すべき事実を知ってい れば、本件保険契約を締結することはなかった (Ⅹ社はYの欺同行為により錯誤に陥って本件保 険契約を締結した)と認められる。, そうすると、Yの本件保険契約の締結行為は、 医の検診書に基づき、Yの現在及び過去5年内の 健康状態は糖尿病を考慮しても保険契約を締結す るに支障がないと誤信し、同年6月1日、Yの本 件保険契約の申込みを承諾したので、同日同契約 が成立したJ 終身保険普通保険約款16条には、「保険契約の 締結について、保険契約者文は被保険者に詐欺の 行為があ1たときは、保険契約は無効とし、すで 終身保険普通保険約款16条の詐欺にあたるので、 同契約は無効であり、同契約に基づくⅩ社のYに に支払った保険料は払い戻しません」とある 2.告知書につき、17は、告知書の告知事項欄の記 載内容を知らない旨供述するが、受診者欄のY署 名が自署であることは争いがなく、その記載内容 は、YがX社の嘱託医に対し告知したもので、同 嘱託医がYに無断で記載したことを穏わせる証拠 はないことから、lrの意思により告知書が作成さ れたものと認められる− 3.ところで、証人Bは、本件保険契約の申込みを 受けた当時、Yが交通事故の治療のため入院して いたことを知らなかったし、1’から右事実を聞い たこともない旨供述するが、入院先の病院待合室 で申込みを受けたこと及びこれを否定する1▼本人 の供述に照らし、にわかに採用できないので、Y が同保険外交員に対し入院の事実を秘匿したとま では認めるに足りない一、 4.しかし、本件保険契約締結につきYの欺田行為 (告知義務違反行為)の有無は、Ⅹ社(引受決定 対する給付金支払債務は存在しないことになる また、Yは、無効な同契約に基づき受領した・ 給付金合計162万円を不当利得として返還すべき 義務がある。」 [研究報告] 問1.について 1.保険業法 新保険業法では生命保険募集人に保険契約締結代 理権を与えることができるものとされている。, これは、傷害保険・疾病保険などの第三分野の保 険を生命保険会社も損害保険会社も認PJを受ければ 販売できるからである(従来、損害保険会社の代理 店には、契約締結権が付与されていた、また、生命 保険ほどには医学的な判断が必要とされない傷害保 険等の単品商品については契約締結代理権が付与さ れ得ると解される)。、 旧幕取法では生命保険募集人に承諾権限がないこ とを前提としていたが(第2条1項)、前述のとお り、平成8年4月1日施行の保険業法では生命保険 募集人に承諾権限を与えることができることを規定 した(第2条11項、第294条)。、しかし、現在でも 生命保険募集人に承諾権限を与えた生命保険会社は 9 見受けられない。 いない。、しかし、生命保険募集人は外見上会社の代 しかし、保険契約の締結の代理をおこなう場合と 媒介をおこなう場合とでは契約締結の権限の有無な 理人と誤信される場合があること、保険加入者が主 に接触するのは生命保険募集人であることから、学 説の亘り二は生命保険募集人の告知受領権につき、次 のように、従来の考えに批判的な見解も主張されて いる, どが明示されていなければ、その権限を誤信した保 険契約者に損害を生じさせる境があることから、保 険募集に際して権限を明示することが求められてい る(保険業法294条主 2.告知受領権 r− −.− − −  ̄  ̄ − −  ̄  ̄ r  ̄ ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄ −  ̄ ▼  ̄  ̄  ̄  ̄,J  ̄  ̄「 :「保険会社の勧誘員なるものは保険会社の為め: 保険契約の申込みを誘引する保険会社の使用人I l (1)無診査保険の場合には、告知義務者と直接面接 するのは通常は生命保険募集人だけであり、そこ では保険者が危険測定資料を集めるために診査医 に準じた任務を生命保険募集人に負わせていると 認められるから、その生命保険募集人は診査医の 地位を兼ねているものというべく、特別の事情の l :たるに過ぎずして会社を代理し保険契約申込の: :意思表示を受くる権限を有せざるものと推定せ: 無い限り告知受領権を有すると解すべきである (青谷和夫教授)、 :らるべき‥j(大判・大5.10.211 : (2)生命保険募集人は危険測定資料を集めるための 保険者の機関であり、保険者と保険契約者との問 の負担の公平を考えれば、むしろ解釈論としても、 l l L _ _ _ _ _ _ ▼ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 」 生命保険募集人の法的地位におけるリーディング ケースである上記判決に認められるように、生命保 険募集人(ここでは募集のみに従事する[外務員」 と同意として)は、契約申込に対して承諾する代理 権がないばかりでなく申込の意思表示を受ける代理 権限もないJ生命保険募集人は保険申込人から申込 書を受け取るが、これは法律上、申込書に記載され た意思表示を申込人から会社に伝達する会社の使者 ということになる(中村敏夫『生命保険契約法の理 一般的に生命保険募集人の告知受領権を肯定すべ きである(西嶋梅治教授) しかしながら、現行の約款と中込形式に基づけば、 雷 約款には書面で告知すべき旨の条項があること、 ② 告知書(質問表)には、告知義務違反の効果の 説明とともに、申込者自身でそれに記入すべき旨 の注意が目l二′二つようにゴシックの活字で印字され いること、 論と実務』保険毎日新聞社1997年:保険外務員の 法的地位17貞等)、 近年では、限定された範囲での保険料集金権、お よび第一回保険料充当金受領権は認められると解さ れているが、契約締結権やハ知受領催 しあるいはそ ③ ご契約のしおりにおいて「当社の担当者(生命 保険募集人)はお客様と当社の保険契約締結の媒 介を行う者で、保険契約締結権はありませんJ L たがいまして、保険契約は、お客様からの保険契 約のお申込みに対して当社が承諾したときに有効 の代理権)については保険会社から与えられない限 り H.保険業法ノ 認められないとする考え方が判例・ 学説では一般的である。 理由としては、以トの薫があげられる に成立します−][当社指定の医師以外の職員に 目頭でお話されただけでは、告知したことにはな りません ご注意くださいrlと注意を喚起して いること、 (1)生命保険では損害保険と異なり被保険者の危険 測定が重要であり、生命保険募集人は危険測定を l④ 生命保険募集人の携肯する証明書には、有する 権限を「媒介j と明記してあること、 する医学上の専門知識を有しておらず、被保険者 の健康状態について聞いたこと、又は知て,たこと を正確に保険者に伝えるには限界があるノ (2)保険契約が不成立になれば、生命保険募集人は 笠 契約成立後告知書の写しを契約者に送付し、告 知内容について確認する楼会を与えていること、 等の方策がとられており、こうした方策は単に告知 の方法を限定しただけでなく、保険者の側では申込 者と面接する′ヒ命保険募集人への告知を予定してい 手数料を得られない。したがって必ずしも会社の 営業方針に忠実であることを期待できず、本来保 険契約を締結すべきでない契約についても承諾し てしまうこともあるので、会社において保険契約 の申込を検討する余地を残しておく必要がある。 したがって、生命保険募集人には告知受領権が認 められておらず、生命保険募集人の知または過失に よる不知は当然に保険者のそれと同じとは解されて 10 ないことをはっきりと申込者に′Jミすものと解される 川l丈良也[外務員の告知受領権」生命保険判例白一 選79頁等) したがって、保険者から生命保険募集 人には告知受領権をケーえておらず、上記の説はこの ような告知を書面にて行う合意を前提とする実態に は適合しないものと思われる 3.使用者責任 これまで述べてきたように、生命保険募集人の地 位、権限は限定されたものであるが、不告知教唆に よる告知義務違反がある場合などに、告知受領権の 有無と会社の知・過失不知との問題を分けて、告知 受領権が無い場合でも、その知・過失不知が保険者 の知・過失不知と同視すべき場合があると主張して いる学説・判例かあるノ (1)[元来この問題は、告知の受領などと異なり、 かかる補助者の対外的な代理権の有無とは直接関 係がなく、むしろ業務上の補助者の過失による不 利益を本人がいかなる程度まで負担しなければな らないか、という問題として考えるべきであるし、 従って、この場合は、補助者が事実を知りながら 保険者に報告せず、または補助者の過失により知 らなかったため保険者に報告せず、その結果保険 者が事実を知り得なかった場釦二おいて、それが 保険者の補助者の選任・監督についての過失にも とづくものと認められるかぎり、保険者の過失に よる不知として、解除権を行使しえないものと解 すべきであるj(大森忠夫[保険法」132頁) (2)診査医と同様に生命保険募集人も締結について の保険者の機関であり、その悪意重過失は当然に 保険者の悪意・過失となる(田中誠1保険法_I9 5貞) (3)生命保険募集人は、企業の有機的結合関係にお いてその統・的活動を可能ならしめる[責任者」 の地位に立つ場合についてのみ、その悪意重過失 は保険者の悪意・過失となる(石井・判民昭和11 年度13事件46貞) また、二の問題につき、昭和37年の保険審議会が 次のように答申している, 営業職員か告知を妨げ、または偽りの告知をさ せたことによ一Jて告知義務違反が生じたことが、解 除権行使期間(2年間ノ 内において契約者の申立て に基づいて会社で調査の結果明らかになった場合、 もしくは周囲の事情からそうした事実があったと認 地・平9.10.28、大阪地・昭49.7.17等)もある しかし、それら判決のように、生命保険募集人の そのような行為は、そのまま選任監督に過失ありと いうことになると(会社の選任監督の注意義務をつ くしたことは、判例上はどんど認められない)、生 命保険募集人の指示による不告知・不実告知はその まま会社の行為と同じにみられ、結果的には、生命 保険募集人に告知受領権を認めたことと同じになっ てしまうものと考えられる(上記大森教授の説につ いても全く同じことが言える) そこでこのように、生命保険募集人の関与の度合 により会社過失に区別をつけることが困難であれば、 むしろこれを告反における会社過失とせず、不法行 為における会社の使用者責任(民法715条、保険業 法283条)として処理するほうが妥当ではないかと 考えられる_,そう解せば、生命保険募集人の行為の 態様によって、過失相殺(民法722条2項)もでき るし、損害額の検討もできる(中村敏夫文研レポ23 号9頁等こ なお、過失相殺による賠償にあたっては、 その損害額も慎重に判断すべきであり、告知してい ても元来謝絶体であれば、期待権などは考えられず、 損害額は保険料相当額と考えられる),_ 保険募集を めぐる保険者と保険契約者との利益衡量の面からも 妥当と考える▼、 「 −  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄J J J −....  ̄  ̄  ̄J  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄ ▼. ̄  ̄  ̄ 「 :被保険者は、本件告知事項を取扱者である両: ll l名に告知したところ、(取扱者は)申込書の要一 1 1 :血の副中書に健康状態で知すいた事はない旨記: :載し、かつ診査医に対して吾知しないよう指示l lした、被保険者に重要事実を告知しないよう指− ll iI :示し、原告の受けるべき保険金の増額分を受領: :し得なくさせたものであって、右行為は原告に: l対する不法行為に当たるものと認められる▼ そI ll ll :の使用者たる被告保険会社は、取扱者の不法子‖ :為により原告の被った損害を賠償すべき責任が: :ぁるノ また、被保険者自身も、右の指示に安易: lに従って積極的に不実を告知した点で重大な過− ll 1 1 められる場合においては、吉保険事故発生前に判明 したときには、会社は契約を解除し、既払込保険料 全額を契約者に返還する、②保険事故発生後に判明 したときには、契約者または被保険者に悪意または 重大な過失がない限り、会社は契約上の責任を負う」 (『生命保険募集に関する答申』)。 この保険審議会答申は、禁反言(エストッベル) の原則をべ一スにした見解であると思われ、判例に おいても、生命保険募集人の積極的な指ノ云(教唆) による不告知と不′夫告知があった場合には、これを 会社過失と認め、解除権を阻却している判例(岡ll1 :矢があると言うべきである 被保険者の過失は: :原告側の過失として料酌するのが相当であり、: lその割合は、諸般の事情を考慮して5割と求め一 ll Il :るリ(水戸地・昭61.3・28) : 1 1 」 − _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 」 使用者責任の観点からは、このような保険契約者 の保護(救済)が考えられるが、生命保険募集人の 不告知教唆に従うことが保険会社に対する関係で背 信的であること(保険会社を欺田していること)を 理解している保険契約者、被保険者が果たして保護 を受けるべき正当性を有しているかは疑問であるし、 11 そのような不法行為によって会社が損害賠償の責務 を負った場合にはその不法行為の態様、会社の教育 指導状況に応じ、保険業法283条3項(民法715条3 項)によって、不法行為を為した生命保険募集人に 対して会社は求償権を行使していくことも可能と考 える(求償権の行使を認める国家賠償法第1条の規 定も参考となろう)。ノ 問2,について 取消の規定をも重ねて適用することが可能かど うかについては、古くから議論の分かれるとこ ろであ「た,この問題は、特にその保険契約が 吾知義務違反の解除権の除斥期間を経過してい る場合に重要な意味を持つ。学説はほぼ次の三 つに分れている。 1.告知義務制度の法的根拠 現在諸外国の保険契約法上、告知義務は例外無く 認められており、他の契約には見られない保険契約 に特有の制度となっている,このような義務が、特 に保険契約に見られる法的根拠として学説上、大き ② 重複適用説 商法の告知義務違反は、吾知義務者に保険 者の必要とする危険測定資料を提供させ、こ れに違反した場合、保険者に解除権を与えよ うとする保険契約特有のものである′,一方、 民法の錯誤・詐欺は、当事者の意思の欠鉄お く次の二つの立場がある (1)技術説(危険測定説) 判例、通説である 保険制度の合理的運営の為 に、保険者が保険事故の発生の度合等をあらかじ よび意思表示の澱庇のゆえに、契約の効力を 否定する制度であり、両者はそれぞれ別個の 制度である。,従って、告知義務違反が問題と なる場合においても、民法の錯誤および詐欺 め測定し、これを基礎として契約締結の可否を決 定する為、本来保険者において調査すべき資料 (危険測定資料)をその収集園難さから、特に加 入者側に開示させることが必要であるとする。、 12:契約法理説 技術説は告知義務違反の必要と背景を説明して の規定の適用は叶能である(大森忠夫[保険 法」有斐閣135石上 ⑦ 商法単独適用説 商法と民法は特別法と一一般法の関係にある から、民法の一般規定の適用は排除され、商 法のみを適用すべきであるとする(松本蒸治 はいるが、個々の契約においてなぜ加入者側が告 知義務を負うのかという法律的な根拠を示してい ないとし、契約法の 一般法理によって告知義務違 反の根拠を説明しようとする説 代表的な見解と して射倖契約説がある 保険契約給付の発生が偶 [商法判例批判1392頁) この説によれば、 告知義務違反による解除権を行使しうる期間 (解除の原因を知一つたときから1月、契約の ときから5年1を経過した後は、保険者は保 険金の支払を拒みえないことになる 3ニ 折衷説 然の事情によって左右される射倖契約であり、加 入者側において保険事故発生に影響を及ぼす事実 を知っているが、保険者はこれを知らないという 場合に、加入者がその事実を伏せたまま契約を締 結するのは契約当事者間の衡平に反するとし、加 入者においてそのような事実をあらかじめ保険者 に開示することが信義則上とくに要請されるとす る, しかし、射倖契約説においても、何故告知義務違 反の効果として、契約の解除と保険料の不返還であっ て、無効ではないのかを説明し得るものではなく、 「結局、告知義務の法的根拠としては両当事者間の 衡平の理念が、とりわけ保険契約の内容的特質を通 して特殊な型として発現したものと解される1(西 鳴梅南「保険法j第二版43貞) 2.告知義務違反と詐欺との関係 (lJ 保険契約において、商法678条に規定された 告知義務違反が問題となる場合において、保険 12 契約の効力を決定するのは、商法の規定だけか、 民法総則上の錯誤による無効および詐欺による 民法の錯誤と詐欺とを区別して、錯誤に関 する規定は排除するが、詐欺は保険契約者に 反倫理的な要素があるため、その適用を認め て、解除権を行使しうる期間を経過した後も 詐欺を理由に取消を主張できるとする(西嶋 梅治[保険法」第三版61頁) (2)趣旨・要件・効果 窓 告知義務違反 ア.趣旨 1.の法的根拠で既に述べたとおり、技術 説(危険測定説)が有力であり、保険制 度の本質的要請に基づくものと解されるrノ ィ.要件 i)客観的要件 契約者又は被保険者が1重要な事実」 を告げなかったこと叉は重要事実につい て不実のことを告げたことrこ, ・重要な事実十一一危険測定に関する重要 な事実であり、保険者がそれを知っ ていたならば、保険契約の締結を拒 絶し、少なくとも同一条件では締結 しないと客観的に認められる事項。 通説は保険契約上の 一般的な通念に よって決せられるとする。 h)主観的要件 告知義務者の不告知又は不実告知がそ の名の悪意(ここでいう悪意とは、害意 ではなく故意として理解される)または 重過失によること,ニ ・故意、重過失−ある事実の存在およ びその事実が重要事実であることな らびにこれを告知すべきことを知り ながらしないこと(故意).また、そ れらの不告知につき重大な過失があ ること り.効果 保険者は契約を将来に向かって解除する ことができる また保険事故発生後に契約 を解除した場合においても遡及的に保険金 支払義務を免れることができる(ただし、 保険契約者側が、保険事故の発生と告知義 務違反の対象とな一つた事′夫との間に因果関 係がないことを証明したときはこの限りで はない) 工.除斥期間・阻却事由 ・「解除権は保険者が解除の原因を知り たる時より1ヶ月之を行わざるときは 消滅す 契約の時より5年(約款1二2 年)を経過したるとき亦同じ」(商法 678条2項)_ ・保険者が「不告知または不実告知の対 象となった事実を知り、または過失に よりて之を知らざりしときは1契約を 解除できない(商法678条1項)_ ② 民法第96条の詐欺 ア.意義 i)詐欺者に故意があること a 相手側を欺関して錯誤に陥れようと する故意。 b.その故意によって意思表示を為さし めようとする故意。, との二段の故意があることを要する。 li)事実を隠したり虚構したりする欺岡行 為があること.ノ 欺岡行為とは他人に誤った観念を惹起・ 強化または保持せしめる容態をいう。真 実の事実を隠蔽すると虚偽の事実を虚構 するとを問わない。不作為とくに沈黙も 欺岡行為となりうる(我妻民法総則308 貢)。 山)表意者が錯誤に陥り、その錯誤によっ て意思表示をしたこと。 錯誤と意思表示との間に因果関係が存す ることを要する′,したがって、その錯誤 がなかったとしても、その意思表示をし たであろうと認められる場合には本条の 適用を生じないJ Lかしその因果関係は 表意者について主観的に存在すれば足り 三、 IV)違法性があること 欺圃行為が社会通念上、信義誠実の原 則に反する程度に遵法なものであること、 ウ.効果 1)詐欺による意思表示は取り消すことが できる(既払込保険料は返還)u l題)ただし、第三者が詐欺を行った場合は、 相手方がその事実を知っていたときに限 り取り消すことができるニ 11j)詐欺者は不法行為に基づく返還義務を 負う(通説)_ 1V)善意の第三者には対抗できない,、 ③ 約款上の詐欺無効 r. ̄ − −  ̄  ̄  ̄  ̄J . ̄  ̄. ̄  ̄ −  ̄  ̄J  ̄  ̄  ̄J  ̄ − T − ▼ ▼ 「 :保険契約の締結または復活に際して、保険: l契約者または被保険老に詐欺の行為があっ − lたときには、保険契約を無効とし、すでにl l払い込んだ保険料は払い戻しませんニ(第I :一生命5年ごと利差配当付終身保険普通保, :険約款第16条) : 1 l 詐欺による意思表示とは、表意者が他人 の欺同行為により錯誤に陥ってなした意思 表示をいう。、(注釈民法) 内心的効果意思はあり、これに相応した 表示Lの効果意思もあるが、内心的効果意 思の形成過程で欺岡されるなどの暇痕があ り、その意思表示は有効であるがこれを取 り消すことによって救済を図ったもの(錯 誤=意思の欠映) ィ.要件 1 1 l L _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ − _ _ _ _ _ _ _ _ 」 約款の詐欺規定において、特にその要件を 定めていないのは、基本的に民法の要件を 準用する趣旨と考えられる。, ア.要件 1)保険契約者または被保険者に保険者を 欺岡して錯誤に陥れ、この錯誤によ一つて 13 契約を締結(復活、特約の中途付加等を 考えられること、 より、いずれも有効と考える また、商法単独適 用説があるので、いわゆる重要事実を詐欺の意図 をもって隠蔽した場合で告知義務違反を問えない 含む。以下同じ)させようとする 二段の 故意かあること hl虚偽を陳述したり、真′夫を隠蔽したり する欺岡行為があること ケース(例えば、解除の除斥期間経過後)でも、 保険契約を無効にし得る旨を明示しておく必要も あ一つたものと考えられるU なお、制裁的措置との 且解もあるが、対等当事者間において制裁という 概念自体はなじまないものであろう。。 田)欺岡行為によって相r方である保険者 が錯誤に陥り、その錯誤に陥ったことに よって保険者が意思表示(契約締結)を したこと Ⅳ)欺岡行為に違法性があること り言義誠 実の原則に反することJ このうち、l) また、要件においては、効果が異なる以上は、 約款の詐欺には保険金の取得意思等比較的強い違 法性が要求されるとの見解があるが、判例をみる 限りでは構成要件は両者共通であり、約款に定め る詐欺も二段階の故意があれば足り、詐欺と異な′つ の被保険者による詐欺については、保険 契約関係者であることから第三者による 詐欺ではなく、契約者と同じと捉えられ 民法96条2項を排除しているものと考え られる。 ィ.効果 i)詐欺による契約締結は無効であるノ の 会社はすでに払い込まれた保険料は払 い戻さないニ 111)会社が既に給付金等を支払っている場 合には不当利得の返還請求権に基づき返 還請求をすることができる 1㍉)善意の第三者には対抗することができ ない (3:l 検討 ① 民法上の詐欺と約款上の詐欺 約款では、詐欺による法律効果を無効(取消 の意思表示を必要としない− と定め、既払込 保険料は返還しない旨規定している点で、保 険契約者側に厳しいものとな一Jている これ は、 た特別の違法性(保険金の不法利得目的等)を要 求していない 「 A J  ̄  ̄  ̄ . A J J ..  ̄ J  ̄  ̄J, ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄ J  ̄ r  ̄  ̄ J 1 日約款上の−;乍敗とは、‥民法96条にいう詐欺と: iその法律要件を異にするものではない](東; :京高・平3・10・17) : 日詐欺が成立するためには、 二段の故意があ: ll lれば足りるのであって、更に原吾主張のような: :保険金取得を目論むといった積極的意図は必要: :であると解すべき理由はない」(熊本地・平: 1 1 1 16.11.101 l l l L _ _ _ _ _ _ _ ▼ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ ▼ _ _ _ 」 告 告知義務違反と詐欺 「 r  ̄ A  ̄  ̄  ̄  ̄J  ̄ ▼ V J  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄ r. ̄  ̄ ▼  ̄  ̄  ̄. ̄J  ̄  ̄ 「 :大判・大6.12.11 : :なんとなれば、同条の改正規定によれば、菖: ll :知義務違反の事実を以て単に契約解除の原因と: :なすに止まり、保険契約の成立を害するものと: ,せず.その仁眼とするところは、叙上のごとき: ,保険事業経営上の必要に基づき保険者を保護せ l ア.生命保険契約の射倖契約性という性質か ら、両当事者間に信義則が強く要請される 事情に鑑み、詐欺による保険契約の締結の 場合には、信義則に違反したことが、特に 強い違法性があると認めることができるこ と、 ィ.詐欺の場合の法律効果を無効とした約款 の趣旨が、「保険によって不当な利得を図 ろうとする老をより徹底して排除するため その効力を根底から否定しようとするもの (高松地・昭60.6.21)1であると考えら れること、 ケ 無効においても保険料の返還義務が生じ ない点については、商法643条(保険契約 無効と保険料返還)の反対解釈、及び民法 708条(不法原因給付)が法的根拠として 14 :んとするにあることを明白にして、竜も保険契: 約に意思の欠紋または意思表′云の畷痕あること Iに基因するものに非らざるや疑いをいれざる所l ll :なれば、法律行為に欠放電痕あることを根拠と: :する民法総則の詐欺および錯誤に関する規定と: lその根拠を同じうせず、したがって、il主知義務 − ll 1 1 :違反と詐欺および錯誤とは全然要件および効果: :を異にするを以て告知義務違反の事実に基づき: :保険契約を解除することを得るがために、詐欺, l ll :または要素の錯誤に基づきその契約の取り消し: 昌等べきこと、または無効なることの妨げとなる: :べき謂れかなければなりJ : J l L _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _._ _ _ _ _,_ 」 ノー\ 「 ̄ − −  ̄ −  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄ r.. ̄ T r  ̄  ̄ −  ̄  ̄  ̄,−  ̄ −  ̄J J J 「 :高松地・昭60・6・21 : :(約款上の詐欺は)保険によって不法な利得: く、無効と取消とは相いれない観念ではないから である。。」(我妻栄「新訂民法総則」297頁)と の見解があり、やはり重複適用説が妥当と考える。 l :を図ろうとする老をより徹底して排除するため, 1その効力を根底から否定するものであって、右一 1 1 Il :約定はもとより有効なものと解される−・告知: :義務違反による解除規定が設けられているが、: :同制度は不良の契約を排除することによって保: 問3.について 判決は(状況より保険契約者Yが入院中の事実を 秘匿したとまでは認定しなかったものの)、ほぼ被 告保険会社Ⅹの主張どおり、[欺岡行為(告知義務 1 1 1険制度の合理的な運営を図る趣旨で設けられてl 上記判例よりも、これまで述べてきたとおり、 違反行為)の有無は、あくまでⅩ社の引受決定部門 につき、その存否を判断すべき」と明確に保険外交 員の告知受領権を否定している。,その理由として、 「保険契約における重要事実の告知は、これにより 締結の応否を決するためのものであるから、その性 告知義務違反制度と民法の規定は互いに根拠、要 件、効果を異にしており、重複適用説が妥当と考 える すなわち、告知義務違反による解除規定は 約款l二の詐欺の規定による無効の効果を妨げるも のではない_ 例えば、不良危険の排除を目的とす 質上、契約につき決定権を有する者に対してなされ なければならないものであり、Ⅹ社は、保険外交員 に対し告知を受領する権限を与えていないからであ る」と述べており、この理由は設問1.告知受領権 で述べたとおり妥当と考える。本件における保険外 る告知義務違反制酎二おいては、一定期間の経過 によ′フて契約時の危険選択の効果が薄れてしまう こと、保険契約を長く不安定な状態におくことは 契約者保護の見地からみて不適当であることから 除斥期間が定められているが、そもそも契約締結 時における意思表示の畷痕がある詐欺規定(約款 交員Bの地位は、保険会社Xの使用人(具体的業務 として、①申込の誘引②商品説明③申込書の受渡し 上無効)においては、危険選択の効果や契約者側 の地位の保護は問題にするに及ばない−,また、同 様に告知義務違反における会社過失も問題となら ないことになる(民法96条詐欺には重過失要件な し≠民法95条錯誤但善し しかし、告知義務違反の要件と詐欺の要件がと に伝達する会社の使者であるが、実際に伝達するも のは[申込書1という書類)であると考えるV, したがって、本判決は、保険外交員Bが保険契約 者Yの入院中の事実を知っていたか否かにつき明確 ll :いるものであ一つて、・・詐欺により契約が無効と: :みとめられることの支障になるものではない、言 」 _ _ _ _ _ _ _ _ . _ _ _ _ n _ _ _ _ ▼ ▼ ▼ ▼ _ _ _ _ _ T _ _ _ 」 もに存在する場合に、その効果がひとつの規定で あれば有効で(告知義務違反による解除は解除さ れるまで有効)、ひとつの規定によれば無効また は無効の結果を生じ得るような場合においてはそ の適用を相排斥するものと考えるべきとの見解も ある(野津務「保険法j84頁) これに対しては、 保険についてではなく、一一・般の無効と取消につい てi無効と取消はその根本の趣旨を共通にすると ころがある_,従ってある具体的意思表′六について、 それぞれの要件を証明して無効を主張することも 取消を主張することも自由である、具体的な行為 が無効であると同時に取消し得るということは不 合理ではない 実際問題として錯誤においては内 容の重要な部分であることを証明することが困難 であり、詐欺においては相手側の故意を証明する のか困難である_、表意者はどちらでもやり易い方 をや「てさまたげない,なぜなら錯誤も詐欺もと もに表音者保護の制度にはかならないばかりでな 舎l第一つ可保険料受領⑤ご契約のしおり交付⑥診査手 配又は告知書取次ぎ等特定されたもの)であり、保 険会社Xと保険契約者Yrとの媒介(伝達機関=法律 上は申込書に記載された意思表示を申込人から会社 な判断は下しておらず、また会社の過失が問題とな らない詐欺の認定であったが、仮に本事例が2年以 内の告知義務違反案件とし、入院中であることを保 険外交員が知っていたとしても、上記のように媒介 として限定された業務を行なう保険外交員の[知」 が、すなわち会社の過失(不知)とまでは言えない ものと考える、 このように、保険外交員の[知」が争点となる事 例においては、保険外交員に告知受領権を認めず、 その地位は媒介(伝達機関)として結論付けること で足りるであろうが、保険外交員が不告知教唆等の 不法行為を為した場合には、例えその地位が媒介で あっても、保険会社の使用者責任(選任、監督上の 過失)による損害賠償(民法715条、保険業法283条) という問題は避けられないであろう(設問1.使用 者責任参照) また逆に、本判決においては保険会社Ⅹ主張の保 険外交員Bの共謀による詐欺行為にまでは言及して いないが、実態として保険外交員が、「使用人とし ての業務(前述〕」に違背し、保険契約者と共謀し 15 て詐欺行為を為したと認定し得る事実が判明すれば、 その場合の保険外交員の地位は、もはや保険会社の (使用人」とは無関係であり、むしろ保険会社、保 険契約者間においては[保険契約者の使者ないし代 理」とみなせるものであり、その行為は保険契約者 のため、あるいは自己のためにする個人的な行為と 解すべきである。そして、このような場合の保険会 社と保険契約者との要保護性の問題については、保 険外交員が業務違背していることを保険会社が知っ ている場合(「知り得る」は含まず)には保険契約 者を保護すべきであろう−,また、そのような使用人 としての職務に関連しない行為が為された場合には、 共同不法行為者として保険外交員の責任を問うこと も可能であろうこ したがって、モラルリスクの増加に伴なう保険制 度への不信感が強まり、その解決が社会的要請とも なっている状況下においては、生命保険募集人(保 険外交員)の地位および使用者責任は、個別具体的 な募集事情を勘案したうえで慎重に判断すべきもの と考える(本件通常の成年者である保険契約者Yが 入院中に生命保険申込を為したこと自体に違法性が 認められる主 なお、本判決は、「欺岡行為」と[告知義務違反」 を同義ないし同列として使用しているが、本告知義 務違反を詐欺の構成要件の一つである欺岡行為と認 定した根拠については以下2.詐欺無効において述 べることとする 2.詐欺無効 本判決は、いかなる根拠で詐欺による無効を認定 したか 事実経緯 昭和61年9月6日、62年1月14日 l糖尿病・慢性胃炎・慢性神経胃炎」入院(13 1日) 昭和62年5月25日、6月11日 [頭部打撲(転倒「」入院(18日) 昭和63年5月30日、10月16日 [糖尿病・腰痛症・慢性肝炎l入院(140日) 平成1年2月2日、2月24日 「腰椎頸惟捻挫(交通事故)」入院(23日) 平成1年5月8日、7月7日 i頸部捻挫・両膝部捻挫(交通事故)」入院 し62日) 平成1年6月1日 問4,について 1.欺岡行為の相手側 本判決は設問3.で述べたように、生命保険募集 人の告知受蝕権を否定し、告知は締結につき決定権 を有する者に対してなさなければならないとしてい ることから、従来の判例、学説(設問1.の2)を 踏襲したものと考える 告知受領権については、既 に設問1.で述べたとおりなので、ここでは意思表 示における法人理論について触れておきたい 法人の法律行為のための意思表示は、純理論的に 言えば、法人の代表者(株式会社であれば、取締役 会で選任された代表取締役)が行うことになるが、 現実的には、効率化の観点から組織化L、分業によ り営業を行っている関係で、代表取締役以トの使用 人に権限委譲され法人内部の業務が成り立一つている_, また使用人と会社との間には労働・雇用関係により 詳細が取り決めらている(商法43条「 生命保険契約の申込に対する承諾(の意思表示) は、使用人である本社引受査定部門であり、承諾の 意思表示の暇痕は、契約締結の権限が付与された当 該部門につき判断される(民法101条1項1 一方、 生命保険募集人には当該権限が付与されておらず、 法人理論からも、欺閏行為の相手側は、保険外交員 ではなく、引受決定部門担当者において判断すべき とした本判決は妥当と考える 16 上記入院中本件保険契約締結(日額5000円) 平成2年7月20日、11月24日 [糖尿病1人院(128日) 平成5年7月6日、10Hl R 「糖尿病」入院(88r= 平成5年10117口、平成6年4日13H l[頸部捻挫(交通事故)」入院189日 平成9年4月5[]、8月19日 [頚部捻挫(交通事故)入院137日 裁判所が判決にて詐欺と認定した事実 (1)本件保険契約を締結した平成1年6月1円には、 交通事故による筋・腱及び靭帯の損傷の治療のた め入院中であ一つたにもかかわらず、その旨を告知 しなかった(入院中加入)rノ l:′2〕過去5年以内の入院歴・既往歴につき告知しな かった (3〕保険契約者Yは、入院中は加入できないと認識 していたが、保険に入れたらよいとの思惑から、 重大なる告知義務違反をおかした (4)保険会社Xは保険契約を締結しても支障がない と誤信し、申込みを承諾した。, (5)保険会社Xにおいては、告知すべき事実を知っ ていれば、本件保険契約を締結することはなかっ た, なお、判決却二は述べられていないが、上記の契 約の態様以外に、請求の態様において、本件事故状 況が不自然で、受傷の程度からみて入院期間が妥当 とは言えない不必要入院であったこと、生保7杜、 合計日額31,500円の多数契約であったことも詐欺認 定Lの重要なファクター(徴憑)と考えられる._、 よって、本件においては、詐欺の構成要件たる欺 岡子」一為があり(1)(2)(3)、相手方(保険会社)が錯 誤によって意思表示をなし(4)(5)、その欺田行為に 経詳報社 ・内田 貴「民法I」東京大学出版会 ・青谷 和夫「保険契約法論」千倉書房146頁 は、明らかな反証がないかぎり当然に二段の故意が 存在すると考えられる また、詐欺の「違法性jについては、本判決にお いて「不法な利得目的jについては述べられておら ず、「不法な利得目的」が詐欺の適法性における要 件とは考えられないが、り)(2)および請求の態様か ・渡辺 剛庸「外務員の悪意」生命保険判例百選11 8、119頁 ・龍田 節「告知義務違反と詐欺及び錯誤」生命 保険判例百選122、123貞 ・前田 庸「既往症・現症の不告知と詐欺(1)」 生命保険判例百選126、127頁 らは、「不法な利得目的jを推認しうる程度の強度 の違法性が認められ、本判決の詐欺無効の認定は妥 当なものと考える なお、従来の判例との比較においては、契約の背 ・河本 一郎「既往症・現症の不告知と詐欺(2)」 生命保険判例百選128∼129頁 ・長谷川仁彦改訂・増補生命保険契約法[最新実 務判例集成1保険毎日新聞社 景としての集中加入や、契約時の自発加入、他社加 入についての秘匿、請求時の請求保留(2年後請求) などを明確に認めることはできないが、詐欺の推認 は間接事実の積み重ねによって行われると考えれば (立証においてこれらがどの程度そろえばいいのか は未だ明確ではない)、本判決の詐欺の認定を揺る がすものではないであろう なお、判決は詐欺による無効を認定したのみで、 争点3の公序良俗違反による無効については検討さ れていない これは、いわゆる一般条項といわれる 公序良俗違反による無効の抗弁が、裁判所として採 ・坂口 光男「保険法」文眞堂63∼68貢 ・島 十四郎「詐欺による生命保険契約の申込と取 消」生命保険判例百選52、54頁 ・江口 順一[外務員の契約締結の権限」生命保険 判例百選56、57月 [講師コメント] (松岡弁護士) 問Iについて 1.生命保険の募集主体 (1)保険者の使用人たる生命保険募集人(権限 の明示、業法294条)1芸:票霊芝慧芸霊霊宝 (2)保険代理商1慧禁箆芸雲 用しにくいものであること(発動の基準が曖昧)が 考え「)れるか、詐欺と公序良俗においてどちらの主 張を先に判断するかにつき法律的な前後関係はなく、 従前より、できるだけ個別条項で処理できるものは、 (3)保険仲立人(業法299条以下) 2.生命保険募集人の権限 (い 契約締結の代理権を有せず、媒介を行う場 処理をするというやり方が行われたきた(一般条項 は最後の切札とされる) これは、′実定法主義のも とでは つのあり方と考えられる ① 証明書等への「媒介」の明記 ② 契約申込書に「保険契約の代理権を有し ないこと」の明記 ③ 「承諾前死亡」の場合、「体況等におい て当然成立していると思われる契約につい [参考文献] 本文中に記載の他 ・吉田 明l生命保険契約をめぐる諸問題]H本 経済評論社252\253頁 ・保険業法研究会「最新保険業法の解説」大成出 版 ・ノ主命保険文化研究所[生命保険新実務講座7」 有斐閣357\359貢 ・保険研究会[保険業法」財経詳報杜 ・保険研究会[コンメンタール保険業法」470貢財 合 ては、第一一回保険料相当額を受け取った口 から契約上の責任を負う」と扱われている が、契約締結権の有無の問題ではない。, 12)契約締結の代理権が与えられる場合の検討 ① 被保険者の年齢・死亡保険金額が低く、 無診査の保険の場合など。 ② 傷害保険、疾病保険など第三分野の保険 ③ 外務員等が、保険契約者のために働くこ とや広範な権限を有するものと期待する場 合の、契約者の保護など。 17 (3)告知受領権の有無 ① 一般には、告知受領権はない、とされて いる、, ② 告知は、書面による答弁義務とされ、 「契約のしおり」等に告知受領権がない旨 が書かれている ③ 無診査保険については、告知受領権を与 えるべきである、といわれている,告知の 相手方でないためニ ④ 権限のない外務員に対する告知の効果を、 何らか会社に帰責させる場合_ し41保険料受領権の有無 ① 原則として、保険料受領権を有しない。 ② 第1回保険料相当額の受領権を有すると 思われるニ ③ 保険料受領権を有しない外務員が、「会 社所定の領収証」を使用し、または、自己 の扱った契約につき、名刺または私製の領 収証等を使用して集金した場合などの扱い。、 問IIについて 1.「告知」を法的義務とする理由は、次の二つ である (1)制度的根拠−危険測定の必要(危険測定 ③保険者の過失 ④解除権の除斥期間 ⑤解除による失効 詐欺 ①暇痕ある意思表示(表意者の保護) 芝意思形成過程に暇症があること ③取消権の行使と時効 ④法律効果の発生障害・遡及的失効 3.学説 (1)重複適用説−請求権競合 (21商法単独適用(錯誤・詐欺規定排除)説一 一特別関係 (3)錯誤規定排除(詐欺規定適用)説(動擬の 錯誤の特別規定) 4.民法上の詐欺と約款Lの詐欺との異同 (1)両者の要件は全く同一か。 同一要件で、その効果は全く異なるのはな ぜかニ (2)民法上の詐欺が「取消」とされたのは、 「効果意思」の形成にあたり「欺岡」がある ため、その表示者を保護する必要から、「取 消」とした (3)約言狛二より「詐欺無効」と規定すれば当然 に無効となるであろうかi無効」としうる ② この保険事業の性質から、危険測定の必 要がある_ だけの理由を要するように思われる。ノ保険金 等を不法に利得使用とするなど(集中加入、 高額・多数加入、自発申込、告反、事故招致 など)、契約全体として無効とすべき比較的 強い違法性を要するように思われる ③ 保険契約者らの支配圏内にある事実であ り、保険者による調査は困難である. ④ これのみを根拠にすると、告反かあれば、 悪意・重過失の場合に限る理由はないこと 問3.問4について 1.Yの入院歴・既往暦 :1:l 事実の概要5.(1)ないし4の入院歴のある 説・技術説) 曾 保険制度上、同一一種頬・同程度の危険を 有する被保険団体たる性質を有する こと となるレ (2)当為的(義務付け)根拠−射倖契約制・ 信義則による義務付けの必要(射倖契約説) に入院 ① 保険契約者らに、「告知」すべき法的義 務を根付ける必要 (3)Yは、同年5月20日、C病院待合室にて本 ② 保険契約者らが知っている事実を、契約 締結に先立ち開示すべき信義則上の要請が 2.1’は、上記1.(1)および(2)の事実を告知すべ あるノ ③ 保険契約構造の中に、保険契約者に吾知 を要求することを正当ならしめる事情があ る− 2.告知義務違反・解除と詐欺との異同 告反解除 ①重要事項の告知 ②悪意・重過失による告反 18 l′2’l 平成元年5月8日から7月8円までC病院 件契約中込をなしたこと き義務があるのに、不告知としたこと_, 3.嘱託医nは、Yに対し、どこで診査をなした か Yの告知の相手方は誰か、Dか引受決定部門 担当者か 4.外務員Bは、C病院待合室にて、Yから申込 を受けた 17は、Bと共謀して詐欺行為をしたとすれば、 その相手方は誰か′ 引受決定部門担当者とする が、どうか′, 5.外務員が、告反させた場合に、会社に責任が あるか 6.本件では、商法678条目、644条IIにより、告 反解除権(契約後5年)は消滅し、詐欺無効を L張したもののようである。民法上の詐欺でも よいかニ (岡野谷弁護士) 本事案は、金融業を営んでいた17が、貸付先であ る生命保険募集人からの勧誘により入院中の病院待 合室で申込みをしたという特異な事案であり、当時 Yが入院していた事実を募集人自身は知った上で申 込みを受けたことが強く疑われる事案である。従っ て、入院中との事実の不告知についての保険募集人 の関与の程度(不告知の教唆の有無等)いかんによっ ては、当該募集人の選任、監督についての保険者の 過失を前提として告知義務違反による解除が制限さ れうる事案であ一Jた(商678I但書),そのような場 合であ′つても、詐欺無効を主張する限りは生命保険 募集人の関与は問題となる余地がないと割り切るこ とには若「の抵抗をおぼえる。 いずれにせよ、本件では契約者側が本人訴訟であっ たこともあり必ずしも充分な審理がなされたとはい いがたいrノ (片山講師) 1 判決摘示の事実からみるかぎり、・般の告知義 したわけではない(欺もう行為とまではいえない) かもしれない。 2 保険外交員による不告知・虚偽告知の教唆と告 知義務違反、詐欺無効の関係 保険外交員による不告知・虚偽告知の教唆を不 法行為ととらえ、過失相殺によって損害陪償額の 調整をはかる考え方が紹介されているが、そもそ も、正当な告知をすれば保険契約の申込は拒絶さ れるべきものであったとすれば、不告知・虚偽告 知の教唆によって生じた損害とは何か。不法行為 としても、損害額が既払い込み保険料というので は問題の解決にならないように思われるこ,次のよ うに考えてはどうだろうか,_, 単なる告知義務違反による解除については、保 険外交員による不告知・虚偽告知の教唆がある場 合には保険会社の過失不知として解除できないし 契約者が保険事故の発生を予見し、保険金・入院 給付金の不法利得を意図しているような場合には 詐欺無効とする(保険外交員は詐欺の共犯)。詐 欺無効では保険会社の過失は問題にならない 未熟で、思いっきの域をでないが、実務はこの ようなものだろうか。、 (東京:Hll.6.17) 報告.第一生命契約サービス部 竹内康恭氏 出題:弁護士 松岡 浩氏 指導:松岡弁護士、岡野谷弁護上、片山講師 務違反の事件と人差ないように見える たしかに 故意の告知義務違反と詐欺の要件はほぼ同じであ るが、保険会社が現実に詐欺無効の主張をするの は、死期の迫一つた被保険者の重大疾病の秘匿とか、 自発申込、多数契約の集中加入、契約直後の長期・ 不必要入院、偽装事故など不法利得の意図が明ら かな場合であろう 本作でも、レポーター報告のように、生保7社 との多数契約、不自然な事故状況、長期の不必要 入院等の事実があったようであるが、被告Yは本 人訴訟で、「1’は、Ⅹ社の保険外交員から保険契 約の勧誘を受け、病院内で本件保険契約を締結し た したがって、同保険外交員は、17が入院中で あることを知′フていた1旨の1張をしたのみで あり、事案の全容が明らかにされておらず、論点 も「分には尽くされていないように思われる た とえば、入院中の契約であることが重視されてい るように見えるが、その事実は保険外交員が知っ ており、入院原因も交通事故による頚部捻挫・両 膝部捻挫ということからすれば、ことさらに秘匿 19 粛聯塔越境締顧囁粒細線潮騒細粒混成覇敏感轟艶耗鰯嘘破滅約搬観潮紡 粉 ( ′ヽ 編集・発行者 (大阪本部)〒530や005大阪市北区中之島4丁目3番43号 TEL:大阪(06)6441−1465 FAX大阪(06)6445−1 財団法人 振替口座 00940−5−2989番/取引銀行 住友銀行中之島支店 普通440133・三和銀行中之島支店 普通33461 生命保険文化研究所(東京本部)〒1041)028東京都中央区八重洲2丁目8番8号 TEL:東京(03)3281−4621FAX:東京(03)3281 振替口座 00180−7ー105820番/取引銀行 三和銀行京橋支店 普通19694 20