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ベックニュース
BEQNews
[ベックニュース]
◉食を通じてQOLの向上に
貢献する栄養通信
Better quality of life
through better nutrition
編集・発行●株式会社 ジェフコーポレーション 〒105-0012 東京都港区芝大門1-3-11 YSKビル7F http://www.jeff.jp (03)3578-0303
提 供●株式会社 クリニコ 〒153-0063 東京都目黒区目黒4-4-22 http://www.clinico.com (03)3793-4101
◉病態栄養 TOPICS
疾病や栄養状態に与える腸内細菌の影響
◉臨床現場訪問 「ビフィズス菌でインフルエンザウイルス感染予防」
の試み
◉TREND 日本人の食事摂取基準 2010
◉連載 物語としての食 ❸∼食べること、そして、生ききること∼
2009
6
No.
Topics
◉病態栄養TOPICS ❺
疾病や栄養状態に与える
腸内細菌の影響
独立行政法人理化学研究所 知的財産戦略センター 辨野特別研究室
(特別招聘研究員)
▶
辨野 義己 先生
YOSHIMI BENNO
れる所以です。
免疫不全に関しても、
腸内細菌が産生する物質が大
腸内細菌は重要な研究対象
現
きな影響を与えます。
また乳癌は、
腸内細菌が作り出した物質に
よって起こりやすくなるといわれています。
代医療で注目を集めている話題の一つに腸内細菌が
あります。
例えば、
米国では肥満と腸内細菌の関係に
どんな菌が棲んでいるかがポイント
ついて研究が盛んに行われています。
腸内細菌の研究
に携わっている私どもでさえも、
なぜ肥満と腸内細菌なのかという
それでは、
現代人の腸内環境はどうなっているかというと、
最も
意識が強かったのですが、
科学総合誌
「Nature」
に2006 年に掲載
悪い環境にあります。
ある乳酸菌飲料メーカーが、
私が考案した腸
されて以来続々と肥満に関連する論文が発表されています。
年齢チェック表というものを使って600 名規模の調査研究をして
ヒトの腸内細菌に関係する論文を調べてみると1990 年代後半
みました。
すると、
なんと60%の女性たちが便秘か便秘症で悩ん
には年間200 報前後でしたが、
昨年は500 報を超えています。
今
でいて、
しかも、
そのうちの6割∼7割の方は5日に1回しか便が出
年の8月時点でも280 報あまりでしたので、
ここ2年間で2倍強の
ない状態だったのです。
また、
60%以上の方々は腸年齢が老化し
発表論文数になっています。
腸内細菌のあり方、
あり様、
あるいは
ていることもわかってきました。
現代人の、
特に若い女性たちの腸
今申し上げたような肥満との関係、
あるいはプロバイオティクスと
年齢はまさに実年齢と反比例して老化している、
という現象が起
の関連性は非常に注目されています。
こっています
(表)
。
大腸は最も病気の種類が多い臓器!
表 読売新聞2008年2月13日 健康プラスより
ご存知のように小腸は食品の成分を消化・吸収する非常に大事
な場です。
同時に、
全身の免疫担当細胞のなんと6割近くが小腸
□腸年齢チェック表
部位に集まっていると言われています。
小腸の全長は6メートルか
ら長い人で8メートル、
表面積は、
テニスコート1面分ぐらいの広さ
□便秘気味
(または時々下痢をする)
があります。
それだけいろいろな絨毛突起が発達していて、
消化・
吸収・免疫をつかさどる一番重要な臓器になっています。
□便は硬く、
気持ちよく出ない
体が疲れやすい、
風邪をひきやすい、
あるいは風邪が治りにくい
□便の色が茶褐色や黒っぽい
時などは、
小腸の免疫担当細胞の活性が低下しているといっても
過言ではありません。
しかしながら、
小腸部位においてはクローン
□おならや排便後のにおいがきつい
病が発症することがありますが、
あまり病気の起こらない臓器とし
□野菜が嫌い。
あまり食べない
ても知られています。
一方、
大腸は、
全長わずか1.5メートルの臓器ですが、
ここでは、
まず腸内細菌によって食物繊維を分解、
消化します。
その他には、
水分を吸収し、
糞便を作り出して、
貯留しておく場所としての機能し
□肉食や外食が多い
□牛乳や乳製品が嫌い。
ほとんど口にしない
□運動不足を自覚している
か有していません。
小腸に比べれば明らかに単純な作業しかして
いないのです。
ところが、
ヒトの臓器の中で最も病気の種類の多い
□顔色が悪く、
肌につやがない。
老けて見える
臓器が大腸なのです。
その理由は、
そこに腸内細菌が棲んでいる
からです。
その腸内細菌のパターンによって病気が起こりやすいか、
□ストレスが多く、
飲酒や喫煙量がかさむ
起こりにくいかが決定づけられます。
すなわち腸内細菌が、
大腸に
流れてきたタンパク質を分解し、
発ガン物質に変換するとともに、
脂肪の消化吸収に使われた胆汁酸を補発ガン物質に変換するこ
とも知られています。
それが直接大腸に働きかけ、
例えば大腸癌、
大腸ポリープ、
潰瘍性大腸炎をはじめとする大腸のさまざまな疾
【評価】
9 個以上・・・・・腸年齢は老人状態
6∼ 8 個・・・・・悪玉菌増加。
不調を来すかも
3∼5個・・・・・生活を見直す必要
患を引き起こしてしまうのです。
同時に、
こうした有害物質が腸管壁から吸収され、
毛細血管を介
1∼2個・・・・・腸年齢と実年齢は同じ
して全身に回ってしまうとさらに体内でいろいろな疾患を引き起こ
0個・・・・・・・・腸年齢は若く、
善玉菌優勢
してしまいます。
いま話題の肥満が腸内細菌に関係があるといわ
01
Topics
ビフィズス菌をいかに増やすかに通じます。
そのためには、
前述の
女性の癌死の第1位は大腸癌
ように口からビフィズス菌 BB536
(ロングム菌)
のような優秀なプロ
このような腸内環境の変化、
便秘症の大幅な増加によって、
日本
バイオティクスを取り込むことです。
そのほか、
食物繊維やオリゴ
人の罹患する病気の種類も変わってきました。
日本人の癌患者数の
糖等を摂ることで腸内環境を保ちます。
第1位は、
相変わらず胃癌患者、
第2位は大腸癌患者です。
ところが、
そして三つ目は、
なんといってもウンチを出す力です。
運動不足
大腸癌で亡くなる方を男女別に見ると、
男性は第4位であるのに対
は決定的に大腸癌のリスクを上げる要因だと申し上げました。
まさ
し、
女性では2007年から癌死の第1位になっています。
女性の場
に便秘症の女性たちは、
運動が大嫌いです。
運動として少し速めに
合、
肺癌と胃癌を超え、
今や大腸癌がメインの病気になりつつある
歩くことは、
腸内環境を整える上でもとても大事なポイントです。
階
のです。
段は3階分ぐらいはなるべく自分の足で上る、
あるいは朝、
少し早
一般的に大腸癌の成因は10 年前の食事で決定づけられます。
めに起き、
1駅分ぐらい歩くという習慣を身につけたいものです。
高脂肪、
高蛋白、
低食物繊維の食事を続けている場合、
「毎日お肉
この理想的な三つのウンチ力を発揮したときに、
初めて理想的
を食べています。
大好きです」
という方、
あるいは喫煙もしている、
なウンチができます。
だから、
いいウンチを出すということは、
ご自
運動は大嫌いである、
こういう方で特に、
大腸癌の罹患率が高まっ
身の健康管理の上でもとても大事なポイントです。
ています。
ウンチの成分は80%が水分です。
あとの20%が固形物です。
そ
アメリカ癌研究財団の調査データによると、
大腸癌を起こす要因
のうちの3分の1は食べカスです。
残りは生きた腸内細菌と腸壁か
が四つあることがわかりました。
一つはハム・ソーセージ等の食肉加
ら剥れた腸粘膜で構成されています。
だから、
食物繊維を多く摂
工製品や肉の食べすぎです。
二つ目は野菜不足です。
三つ目はなん
れば摂るほど、
便量は増えるはずです
(図)
。
といっても運動不足です。
癌のリスクを上げる上で運動不足が要因と
ビフィズス菌を多く含む食品、
サプリメントを取り入れることや
なるのは大腸癌しかありません。
もう一つはアルコールの多飲でした。
食物繊維の多い食事で
「三つのウンチ力」
をうまく駆使することを
肉を食べると、
含まれる脂肪を分解するため胆汁酸が分泌され、
心がけましょう。
脂肪酸とグリセリンに分解して肝臓に蓄えられてエネルギー源とな
トイレ
(便所)
は身体からの便りを受けとるところ
ります。
その胆汁酸の5割∼6割は腸管循環でもう一度肝臓に戻
りますが、
残りが大腸に流入し、
腸内細菌によって発癌を促進する
そして、
トイレでは排泄した便をチェックすることが大事です。
物質に変えられてしまうのです。
便をチェックするということは、
食べるものと排泄したものの相関
腸内環境を良好に保つためには
のを食べればいいウンチが出るのかを知ることが体調管理の上で
ヒトは老化が進むと腸年齢も老化し、
腸内環境も老化してきま
も重要です。
便器のあるところを
「便所」
といいますが、
便所の意味
す。
端的な例は、
腸内のビフィズス菌、
特にロングム菌の減少です。
は、
身体の便りを受けとる場所ということです。
体の情報を一番現
ロングム菌は、
成人の腸内にもともと棲みついている有用菌で、
腸
しているのが便なのです。
そういう点で、
これからますます食べ物
内環境を整えるのに最も優れた菌といわれています。
この菌の減
と腸内の健康についてしっかり考え、
いかに腸内のビフィズス菌を
少を食い止めることが健康を維持する大事なポイントです。
した
保つか、
特にロングム菌を多く保つかということが、
健康管理のま
がって、
食生活の改善、
例えば、
特に食物繊維の多い食品を主食に
ず第一歩であると認識してほしいと思います。
して、
オリゴ糖を含む食品素材、
あるいはビフィズス菌、
特にロング
経腸栄養施行患者への影響
性を常にチェックするということです。
トイレに行って、
どういうも
ム菌を含む食品の素材を取り込むことは、
とても大事です。
さらに、
腸内環境を良好に保つために大事なことは良い便を作
臨床栄養の面からみると、例えば、長期に経腸栄養管理されて
ることです。
私は、
「三つのウンチ力」
という提案をしています。
一つ
いる患者さんや寝たきりの患者さんは、運動もできないので、ビフ
は便を作る力です。
一番理想的なウンチを作るには、
どういう食品
ィズス菌の数が減って、腸内細菌のバランスもくずれがちで、下痢
を取ればいいかということをよく知っておくことです。
を起こしやすくなっています。食物繊維を強化するなどしてできる
二つ目はウンチを育てる力です。
これは、
腸内の善玉菌である、
だけ有形便を出す工夫を施すことが、介護の上でも重要になって
きます。さらに人間の尊厳を守るという観点からも、自分で便を出
せるようにしてあげることは重要です。
そのためには、良い働きをする一番の代表選手であるビフィズ
固形物
20%
理想的な便
ス菌を保持することが大切です。だれしもが腸内に持っています
食べ物のカス
が、老化や、偏った食事を摂り続けたりすると、腸内のビフィズス
菌が減少してきます。したがって、もともといるビフィズス菌をいか
水分
80%
剥れた腸粘膜
に活性化させるか。これを大事に考えていってほしいと思います。
そのために、生きたビフィズス菌の添加が困難であれば、カプ
腸内細菌
セル状にして投与する工夫も必要です。さらに、ビフィズス菌を腸
内で確実に増加させることができるオリゴ糖を加えることも必要
●腸内細菌がつくる物質
でしょう。
酢酸、
酪酸、
プロピオン酸、
乳酸、
コハク酸、
アミン、
インドール、
スカトール、
アンモニア、
メタン、
窒素、
硫化水素
腸内でビフィズス菌が優勢である環境づくりは病気のリスクを
下げる上で、重要なキーワードといえます。
図 馬場錬成:腸内宇宙−100兆個のハーモニー−(健康科学センタ̶)より
02
Interview
◉臨床現場訪問 ❻
「ビフィズス菌でインフルエンザ
ウイルス感染予防」
の試み
博仁会志村大宮病院 理事長・院長▶
鈴木 邦彦 先生
KUNIHIKO SUZUKI
わ
が国においては現在新型インフルエンザの感染者が
急増し、
本格的なインフルエンザ流行期である冬に向
20週間継続して摂取
かって事態の深刻化が懸念されている。
様々なインフ
私どもの介護老人保健施設に入居している、
同意を得られた
ルエンザ感染対策が話題になっているが、
茨城県にある博仁会志
65歳以上の高齢者の方 27名を対象に、
無作為化二重盲検並行
村大宮病院理事長・院長 鈴木邦彦先生はビフィズス菌の有する
二群間比較試験を実施しました。
整腸作用や免疫賦活作用に着目。
ビフィズス菌 BB536
(ビフィド
あらかじめ全員に6 週間にわたって BB536菌末1包(1包あたり
バクテリウム・ロンガムBB536)
*を用いて、
ビフィズス菌が高
2g 菌数500 億個)
を摂取して頂きました。
製品は顆粒状ですので
齢者のインフルエンザウイルス季節性感染に対して予防効果があ
大概はぬるま湯に溶いて飲んでいただきました
(熱湯では菌が死
ることを森永乳業株式会社との共同研究で明らかにし、
2006 年
滅するため避けていただきました)
。
に開催された日本農芸化学会で発表している。
今回は、
本研究の
3週目にインフルエンザワクチンの接種を行いました。
インフル
概要について鈴木邦彦先生にお話しを伺った。
エンザワクチン抗体価を確認した後、BB536 摂取開始後 6 週目
に対象者を2 群
(BB536 摂取群及びプラセボ摂取群)
に分け、
14
*ビフィズス菌
週間の継続摂取期間において、
感染症の発症、
発熱、
抗生剤の投
善玉の腸内細菌の代表格。
人間の腸内には1∼10 兆個のビフィ
与及びインフルエンザワクチン抗体価等を記録しました
(試験実
ズス菌が棲んでいる。
乳酸や酢酸といった有機酸を生成して有害
施期間 :平成16 年11月上旬∼平成17年 3月末日まで)
(
。図1)
菌の増殖を抑えることで、
腸内環境を良好に保つ。
結果
ビフィズス菌 BB536(ビフィドバクテリウム・ロンガムBB536
以下 BB536)は、
森永乳業株式会社が健康な乳児から分離した
14週間の観察期間中、
BB536 摂取群とプラセボ摂取群を比較
ヒト由来のビフィズス菌で、
酸や酸素に強く、
生きたまま腸まで
したところ、
以下のような結果を得ました。
届きやすい特長を有する。
整腸作用のほか、
最近では、
免疫力を
高める作用や抗アレルギー作用にも注目が集まっている。
長年の
❶インフルエンザ発症数
研究により、
安全性が裏付けられており、
ヨーグルトなど同社の
BB536 摂取群では、
観察期間中にインフルエンザを発症者は皆
製品に多く使われている。
無でした。
一方、
プラセボ摂取群では5 名の方がインフルエンザを
発症しました。
ビフィズス菌の感染防御作用に着目
❷発熱者数
森永乳業株式会社では、
BB536の有する様々な生理機能につい
BB536 摂取群では、
プラセボ摂取群に比べて38℃以上の発熱
て研究を続けていらっしゃると伺っていましたが、
とくに感染防御
者が少ないことがわかりました。
(図2)
作用を検討する中で、
インフルエンザ感染予防に着目し研究を深
❸抗生剤使用回数
(のべ回数)
めたいというお話がありました。
私どもの施設でも高齢の患者さん
BB536 摂取群では、
プラセボ摂取群に比べて感染症などにより、
が多く、
感染予防は最大の関心事の一つであり、
また私も以前に
抗生剤を使用した人が少ないこともわかりました。
腸内細菌の研究で名高い光岡知足先生
(東京大学名誉教授)
のも
したがって、
インフルエンザ発症数、
発熱者数、
およびインフル
とで腸内細菌叢の研究に携わったこともあって、
ビフィズス菌にそ
エンザ以外の感染症による抗生剤使用回数と全ての項目において
のような生理機能があるならば、
感染予防対策の一環として大き
BB536の継続摂取による作用が有意に認められました。
な力になるのではと考え、
臨床試験に取り組むことにしました。
ただ、
インフルエンザワクチンを接種後から試験終了までの観
10人
BB536摂取(6週間)
:27名
プラセボ摂取群
8人
8人
途中、
3週目にインフルエンザワクチン接種
6人
BB536 摂取群
5人
4人
プラセボ摂取群
(14週間)
:14 名
BB536摂取群
(14週間)
:13 名
2人
2人
0人
0人
インフルエンザ発症者
図1
38℃以上の発熱者
図2 ビフィズス菌BB536のインフルエンザ予防 難波和美ら、日本農芸化学会2006年度大会(2006)より
03
Interview
察期間中、
BB536 摂取群とプラセボ摂取群において、
インフルエン
ザワクチン抗体価*に経時的な変化が認められなかったことから、
ンフルエンザが流行し、
その中ではっきりとした有意差が出たとい
BB536はインフルエンザワクチンの抗体価を維持するなどの作用
大変意味があったと考えております。
はないようです。
うことで、
ビフィズス菌の免疫能を高める効果が実感できたことは
実際のビフィズス菌の利用については、
即効性はないので、
流行
時期の1ヶ月前くらいから前もって継続して飲み続けることが望ま
*抗体価
しいと思います。
ウイルスなどの蛋白質
(抗原)
に対して産生された抗体の量を
また、
摂取の方法については、
「BB536」
菌が入ったヨーグルトや
示す指標。
サプリメントからでしか摂取できません。
ヨーグルトなどの乳製品
通常は、
血清を2倍ずつ段階的に次々と希釈して、
抗原抗体反
すべてにビフィズス菌が含まれているわけではないので、ビフィズ
応により抗体価を決定する。
この方法で血清を希釈していくと、
ス菌 の表示を確認した方がいいですね。
また、
BB536のサプリメ
ある段階で抗原と反応しなくなる。
この反応しない一段階手前の
ント
(菌末)
は、
スティック1本に500 億個入っているので、
手軽に
血清希釈倍数の逆数を抗体価として表す。
継続して飲むのには適していると思います。
例えば、
1/2、
1/4、
1/8、
1/16、
1/32、
1/64、
1/128 と順次希
釈し、
抗原抗体反応で1/64 以上に希釈した血清で反応がなくな
好中球殺菌能
(%)
れば抗体価は 32 倍ということになる。
抗体価が大きいほどそのウイルスに対する抵抗力が強いとみ
なされる。
(参考:インターネット weblio 辞書・辞典、
愛知県衛生
p<0.01
100
研究所・ホームページ等)
好中球殺菌能・NK 細胞活性が有意に増加
また、
血液検査を行ったところ、
BB536 摂取前と、
摂取5週目に
80
おいて、
好中球殺菌能とNK
(ナチュラルキラー)
細胞活性が有意に
増加したことが明らかとなりました
(図3)
。
さらに、
BB536 摂取群
では、
観察経過とともに20 週間この値を維持したのに対して、
プ
ラセボ群では20 週目には低下しました。
60
好中球とNK 細胞は、
ともに白血球の1つで、
好中球は、
外部から
摂取前
侵入した細菌などを殺菌する働きがあり、
NK 細胞にはウイルスに
摂取5週目
NK 細胞活性
(%)
60
感染した細胞を体内で死滅させる働きがあります。
体内でこれら
p<0.01
の能力が高まることは、
外界からの細菌やウイルスなどの攻撃に対
する免疫カが高く、
インフルエンザを始めとする感染症を予防す
る働きがあると考えられます。
40
継続して摂取することが望ましい
以上の結果より、
ビフィズス菌 BB536は体内の免疫を刺激する
20
ことにより好中球やNK 細胞を活性化させ、
今回試験対象となった
高齢者の方々のインフルエンザ等の感染症を低減させる作用があ
ると推察されました。
もっと多人数での試験を行えば確実性が増す
0
と思いますが、
27名という少数での検討においても有意差のある
データが得られました。
しかも、
本臨床試験の終了直前に実際にイ
摂取前
摂取5週目
図3 好中球殺菌能・NK細胞活性(%)
第25回日本静脈経腸栄養学会サテライトセミナー
第3回クリニコ臨床栄養イブニングセミナー開催
日 時:2010年2月24日
(水)
15:30∼19:00
川島由起子 先生(聖マリアンナ医科大学病院 栄養部 部長)
会 場:ホテルスプリングス幕張 新館 アネックス 3階
テーマ「新特別用途食品制度と食事摂取基準2010」
テ ー マ:NST業務のスキルアップを目指して
参 加 費:2,000円 ※軽食付
「今、
改めて基本を振り返る」
募 集:事前登録制(定員に達し次第締め切らせていただきます)
総合司会:岡田 晋吾 先生(守一会 北美原クリニック 理事長)
JSPEN2010ホームページにて12月中旬より開始予定
テーマ
「褥瘡と栄養管理」
http://jspen.jp/jspen2010/index.html
講 師:戸原 玄 先生(日本大学歯学部 摂食機能療法学講座 准教授)
定員 280名
共 催:日本静脈経腸栄養学会/株式会社クリニコ
テーマ
「摂食・嚥下リハビリテーションの実践」
04
Trend
◉TREND
(最近の話題や用語を紹介)
❻
日本人の食事摂取基準 2010
独立行政法人国立健康・栄養研究所 栄養疫学プログラムリーダー 食事摂取基準プロジェクト▶
森田 明美 先生
AKEMI MORITA
2
も含めて、
どのように活用してもらったらいいかというところにかなり
009 年 5月、
厚生労働省から
「日本人の食事摂取基準
力点を置いて策定した点も特徴といえます。
(2010 年版)
」
が発表された。
その内容については、
厚
さらに、
活用の目的を、
前回は個人に対する活用と集団に対する
生労働省のホームページより全文ダウンロード可能で
ある(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/sessyu-kijun.html)。
活用ということで、
対象者によって二つに大きく分けていましたが、
2005年版から5年ぶりの改定だが、
数値の見直しと共に、
「乳児・小
今回は食事摂取基準を活用する主目的として
「食事改善」
と
「給食管
児」
「妊婦・授乳婦」
「高齢者」
等、
ライフステージを考慮して特別な配
理」
に大きく分けました。
日本の食事形態において給食サービスとい
慮が必要な事項について整理を行った点等が大きな特徴といえる。
そ
うのがある意味、
特徴ですから、
ここを一つ大きく取り上げようとい
こで、
今回の改定の特徴や高齢者の食事摂取基準の概要等について、
うことで、
給食管理での活用についてかなり詳しく書いてあります。
食事摂取基準策定に携わられた、
「日本人の食事摂取基準」
策定検討
活用全般にあたっては、
アセスメントの重要性が非常に強調されてい
会・構成員、
高齢者ワーキンググループリーダー森田明美先生に伺った。
ます。
食事改善を図る場合でも、
給食管理を行う場合でも、
まず対象者
の栄養状態をしっかり評価することが重要との視点にたっています。
食
対象者や利用目的を明確化
事改善でも給食管理であっても、
アセスメントがあって初めて、
計画を立
今回の改定においては、
2005年∼2010年にかけての新しいエビデ
てることが出来、
その計画を実行し、
実行したら、
その結果を評価し見直
ンスを加えて再度見直しをいたしましたが、
2005年版と2010年版の
すという意味で、
またアセスメントが必要だということを強調しています。
根本的な考え方にはあまり変化はありません。
ただ、
考え方が変わらな
いというと値も同じだと思われる方が多いのですが、
各数値はそのと
エネルギー量や各栄養素摂取量に関して
きの日本人の体格や、
栄養の摂取状況、
それに新しいエビデンスを加
個別に大きく変わった点をみると、
エネルギーは値がかなり変
えて算定しており、
5年も経過していますので、
値は細かく変わってい
わっています。
基礎代謝量はほとんど変更されていないのですが、
ます。
値が全く前回
(2005年版)
と同一という箇所は逆に少ないです。
身体活動レベルについては見直された箇所が多くあります。
身体
変更点をいくつかあげますと、
まず、
指標名として、
摂取過剰によ
活動レベルの代表値が変わっているので、
エネルギーの値にそれ
る健康障害からの回避のための
「上限量」
を今回
「耐容上限量」
とい
がかなり反映されています。
妊婦や授乳婦に関しては計算方法も
う言い方に改めました。
これは、
ある量以上摂取すると過剰摂取に
変わっているため変化は大きいです。
由来する障害が発生するという考え方に基づき、
「ここまで摂取して
前回、
たんぱく質の目標量は、
生活習慣病の予防という観点から
良い」
という上限ではなく、
「この量を超えたらいけない」
という意
算出されていなかったので、
今回は目標量を削除しています。
ミネ
味合いを込めるために
「耐容」
という言葉をつけました。
ラルでは、
カルシウムで目標量と目安量ではなく、
推定平均必要量
また、
前回は目標量、
目安量において、
栄養素によってはやや定義が
と推奨量が算定されました。
カルシウムに関しては、
カルシウム欠
混乱している部分がありました。
今回ははっきりと、
目標量は生活習慣病
乏で骨粗鬆症になることを防ぐための量という観点も含んで計算
の一次予防のために値を設定できるものだけとし、
生活習慣病一次予防
してます。
ですから、
どちらかというと、
カルシウムは推奨量を目標
のエビデンスが強固でない栄養素については、
目標量を削除しています。
量的に使っていただいていいと思います。
さらに、
目安量については、
摂取量が推定できる、
もしくは摂取量の
今回、
ナトリウムの目標量を下げました。
日本人の食塩摂取量は
データがあり、
「健康な個人ならびに健康な人を中心として構成されて
年々減少しています。
日本人の場合、
食事の総摂取量が男性も女性も
いる集団
(栄養素の不足が見られない集団)
の習慣的摂取量の中央
減ってきているので、
薄味になってきたかどうかは不明ですが、
とにか
値」
と定義されています。
基本的にはその定義を厳格に適用しました。
く摂取量で見るとナトリウムは減っています。
したがって以前の目標
ですから前回よりも一つひとつの指標の意味合いが非常にすっ
量は、
すでに達成している人が増えてきているのです。
現在50∼60
きりしたという言い方ができます。
代の男性がナトリウムを最も多く摂取しているのですが、
その50∼
また、
今回、
強調させていただいているところを挙げますと、
基本
60代の男性の摂取量の中央値と、
本当に目指すべき値の中間の値を
的に対象者は健康な個人、
集団ですが、
そうでない場合にも使える
目標量としています。
この中間の値は、
現在でも50∼60代の男性の2
ということを詳しく示しています。
もちろん様々な病気の方で食事
∼3割ぐらいの人は達成できています。
だから5年後には、
それが5割
に対する制限、
指導、
処方が出ている方はそれを優先すべきですが、
ぐらいになると期待できるので、
そこを目標量にして、
例えば男性の成
この食事摂取基準というのは、
エネルギーと栄養素34種類に関し
人だと前回は10g未満だったのを、
今回9g未満に下げました。
て定めています。
したがって特に医療的な指示が出ていないような
場合、
または指示が出ていない栄養素については、
本食事摂取基準
ライフステージ
「高齢者」
について
を参考にして考えてもいいとはっきり明言しています。
こういう部分
一方、
今回ライフステージという項目が設けられ、
「高齢者」
というこ
05
Trend
とで70歳以上の食事摂取基準についての注意事項がまとめられまし
生活のなかで外に出て日光を浴びることも推奨されます。
カルシウム
た。
食事摂取基準の対象は、
基本的に
「健康な個人または集団」
です。
の適切な摂取は生活習慣病予防のためにも必要ですが、
高齢者では
しかし、
高齢者においては加齢にともなう身体機能の変化が著明にな
サプリメントの利用などによる過剰摂取に十分な注意を要します。
り、
栄養の摂取・吸収・排泄および身体活動についても多くは低下し
ナトリウムおよびカリウムは、
若年者から高齢者まで目標量に達してい
ます。
また高齢者では、
なんらかの疾患を有する者、
介護を必要とする
ない栄養素ですが、
目標量をめざすあまり、
おいしくない食事になってし
人も多いので、
高齢者の食事摂取基準を考えるうえで疾患を有する人
まうことがあります。
高齢者など元々摂食能力が十分でない場合には、
急
や介護を要する人をすべて除いてしまうと、
限られた
「非常に健康な高
激に今までより低いナトリウムの食事に変えることによって、
食欲が落ち
齢者」
のみを対象とした基準になってしまうという問題があります。
そ
て低栄養のリスクを高める、
といったことにならないよう注意が必要です。
こで、
ほぼ自立した日常生活を送っている高齢者であれば、
加齢にとも
なう身体機能変化によって発症する疾患や障害を有していてもよい
流動食の組成に関して
(軽度の介助を要する者や軽度の疾患を有する者も対象として含む)
流動食などの組成に関しては、
もしその流動食以外から全く栄養を摂
という観点で、
系統的レビューやそれに基づく基準の策定がなされて
取できないというならば、
今回の食事摂取基準の値と比較し、
含まれる
います。
ただ、
特に高齢者に関しては、
エビデンスは現在のところ非常
成分の量が、
その患者の必要量を満たしているかどうかを検討し評価す
に少ない状況で、
今回は、
高齢者だから特別に配慮して数値を上げた
る必要があります。
また、
少なくとも食事摂取基準に載せている栄養素
り、
下げたりということは基本的には行っておりません。
今日本では
34種類は必須ですから、
何かの栄養素が欠けるのは問題があると思わ
100歳以上の方でも4万人はいるのですが、
70歳代はともかく、
80、
れます。
微量なものもありますが、
これが完全に欠乏してゼロの状態が
90、
100歳代のデータはほとんどありません。
もちろん健康な人が少
続くと明らかに欠乏症状が出ますので、
含まれていることが理想的です。
ないということもありますが。
今のところ高齢者を70歳以上としてい
流動食の摂取量を決定する際にどの指標を参考とするかについては、
るのは、
あくまでも80、
90歳のデータがないからです。
今後は、
本当に
栄養ケア計画に基づいて適切に決定すべきでしょう。
推定平均必要量は
70歳以上で一括して論じていいのか、
あるいは年齢ではなく、
もっと
50%の人が充足しているという値であり、
推定平均必要量に満たないと、
ほかの指標を使う方法などの検討が必要というのが今回の結論です。
5割以上の人が欠乏症状を示すということです。
推定平均必要量の値を
重視するのか、
例えば短期間であるなら、
それほど問題視する必要はない
高齢者の栄養摂取状況と考慮すべき栄養素
と考えるか。
もしくは、
経腸栄養がある程度長期にわたる場合は、
やはり推
高齢者の栄養摂取状況についてはデータが少なく、
国民健康・
奨量、
目安量を参考にして安全を期すのか、
というのは対象者によっても
栄養調査ならびに国立長寿医療センター研究所が実施している老
違いますし、
その流動食をどの時期に使うかにもよるでしょう。
したがって、
化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)における食事摂取状況
やはり食事摂取基準に参考にしつつ、
現場の医療スタッフが行う適切なア
調査の結果から検討されました。
セスメントや栄養ケア計画の立案が、
最も重要になると思います。
それぞれの調査における、
加齢によるエネルギー・栄養素摂取
表1 高齢者
(70歳以上)
の推定エネルギー必要量
量の違いを比較した結果、
男性のエネルギー、
たんぱく質、
脂質と
●男性
いった三大栄養素摂取量は、
年齢が上がるにつれて減少する傾向
が見られました。
その他の栄養素については同じ性別内では年齢
身体活動レベル
(代表値)
階級間に大きな違いは認められませんでした。
エネルギー
(kcal/日)
70歳以上の食事摂取基準の値は、
半数近くの栄養素で70歳未
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
1,850
2,200
2,500
●女性
満の成人の各基準値とまったく同じ値です。
残りの大部分の栄養
身体活動レベル
(代表値)
素でも算定の根拠としての体重当たりの基準値などは70歳未満
エネルギー
(kcal/日)
Ⅰ
1,450
Ⅱ
Ⅲ
1,700
2,000
と同じ値を用いています。
高齢者独自の基準を算定しているのは
エネルギー、
たんぱく質、
カルシウム、
鉄のみです。
表2 高齢者(70歳以上)の主な栄養素の食事摂取基準
高齢者に、
基準として示された値を活用する上で、
考慮すべき栄
養素としては、
たんぱく質、
n-3系脂肪酸、
ビタミンAおよび E、
ビタ
たんぱく質
(g/日)
ミンB6、
B1 および葉酸、
ナトリウムおよびカリウム、
カルシウムおよ
推定平均必要量
男性
女性
50
40
炭水化物(%エネルギー) 目標量
50以上70 未満
たんぱく質必要量は窒素出納法に基づいて算定されています。
一般
脂質
(%エネルギー)
目標量
20以上 25 未満
的に高齢者で骨格筋量は減少するので、
その変化によるたんぱく代謝
食塩相当量
(g/日)
目標量
9.0 未満
7.5 未満
への影響も考慮する必要があります。
また、
身体活動量やエネルギー
カリウム
(mg/日)
目安量
2,500
2,000
摂取量が低い場合にはたんぱく質の必要量は大きくなるため、
このよ
カルシウム
(mg/日)
推定平均必要量
600
500
うな対象者には個別にたんぱく質の補給を考えなければいけません。
鉄
(mg/日)
推定平均必要量
6.0
5.0
ビタミンB6、
B1、
葉酸の低値は高齢者の脆弱性、
いわゆる体が弱
亜鉛
(mg/日)
推定平均必要量
9
7
い、
病気になりやすいといった状態などに関連していたとの報告が
ビタミンA
(μgRE/日) 推定平均必要量
550
450
あり、
摂取不足による欠乏状態に注意を払うよう記載されています。
ビタミンB(mg/日)
1
推奨量
1.2
0.9
ビタミンB(mg/日)
6
推奨量
1.4
1.1
葉酸
(μg/日)
推定平均必要量 200
ビタミンD
(μg/日)
目安量
びビタミンDがあります。
ビタミンDは腸管でのカルシウム吸収を促すため、
カルシウム摂取
量が相対的に少ない日本人にとって重要な栄養素で、
生活習慣病予
防や高齢者の転倒予防に効果があると報告されています。
ビタミンD
は紫外線を浴びることで皮膚でも産生されますので、
高齢者には日常
06
5.5
Column▶▶▶
◉連載
物語としての食 ❸
∼食べること、
そして、
生ききること∼
市立砺波総合病院 地域医療部▶
佐藤 伸彦 先生
NOBUHIKO SATO
臓や呼吸が止まった時に心臓マッサージや人工呼吸をするほどの
医療の国の物語
物
緊急性はない。
しかし、
何もしなければ早晩体が衰弱し死が訪れ
語的理解というお話を前回書いた。物語(ナラティ
ることもわかっている。
やはり胃瘻とやらを造るしかないのか。
ブ)とは、始めがあり、中間(いろいろな叙述)があり、
口から食べられなくて寝たきりになって、チューブから栄養を
そして終わりへと向かう、言葉によって作られたもの
無理やり流し込まれて生きるなんて嫌だね。
まるで、
畑に肥料をま
である。実は私達は物語に囲まれて生きている。生きていること
いて野菜を育てている感じがするもの。
胃瘻畑みたいだね。
自体が物語でもある。
物語は様々な経験を他者に伝えることを可
母は昔そんなことを言っていた。そこまでして生きていたくない
能にするが、それが必ずしも真実とは限らない。語られたことだ
から、
私が脳卒中や認知症で何も分からなくなったら自然の流れ
けが事実となって残り、
語られないことは伝わらない、
ということ
のままにしておいてね。人間それが自然だから。動物も死期を
が起き得るのも物語の一つの特徴である。そのことは「医療の
悟ったら何も食べなくなるって言うじゃない。象は一人でどこかに
国」
という専門性の強い世界で起こりやすい。
いってそっと最期を迎えるらしいよ。私も人知れず静かに逝きた
医療の国では、病気を患った人は「患者」という言葉で呼ばれ
いな、
みっともない姿は見せたくない。
る。患者として振る舞い、医療の国の規則に従うことを要請され
でも今、
目の前で寝たきりになってはいるものの生きている母に、
る。
貴方が、
未知の土地に迷い込んだことを想像して欲しい。
何を
栄養を与えずにそのまま見ていくだけの勇気が、
私達家族にはない。
言っているのか分からなければ、その国の規則に従うしかなくな
医療は社会的実践行為
る。
威圧的に対応されれば恐くなって従うしかないだろうし、
反対
に優しい口調で話をされればその内容が正しいかどうかに関わ
今ここで重要なのは、
「食べられない人に経管栄養をはじめと
らず、
なんとなく従ってしまうだろう。
する人工栄養が必要か否か」という二者択一的な問題ではない。
患者さんにしろ、家族にしろ、医療側の説明を1回聞いただけ
ある人
(家族)
には必要なこともあり、
ある人
(家族)
には必要でな
では、
半分も理解できないのではないだろうか。相手の国の言葉
いこともあり得るのである。
どこかにある何か絶対的な基準に照
を理解しようというお互いの努力が必要である。
その努力を初め
らし合わせれば答えが出る、
という問題ではない。
てインフォームド・コンセントという。それは医療の国の言葉で
医学の領域では、
栄養を絶って自然な状態で死を迎えることが
説明し署名をもらう
「説得」
ではないし、
理解できない言葉をその
「正しい」選択とはされていない。栄養補給の方法は経静脈的栄
養はこれとこれ、消化管を使った経腸栄養法としてはこれとこれ、
ままにして頷いてしまう
「妥協」
でもない。
といったフローチャートしか存在しない。医学の世界では敢えて
よくある胃瘻の物語
栄養補給を行わないことは選択肢となりえない。
病気を解明し人
「口から食べられないので、
経管栄養にしましょう。
鼻から管を
の命を救うことを至上命令としている医学には、何もしないで死
入れる方法もありますがそれだと本人が不快だし、見た目にもよ
を待つという敗北の選択肢はない。
しかし、
人は必ず死ぬ。
人の死
くない。
そこで、
胃瘻といって胃カメラを使って胃に直接栄養を入
亡率は100%である。
今のところもっとも正確な医学統計である。
れる穴を造りましょう。お腹にあるもう一つの口だと思えばいい
医療は、医学という学問領域にとどまらない、一つの社会的な実
ですよ。
手術といっても全身麻酔ではなく内視鏡室で局所麻酔で
践行為である。
医学的に正しいといわれていることであっても、
単
行いますし、
順調に行けば1時間ほどで終わります。
」
純に行えば社会的に問題となることもある。出来ることは何でも
口から食べるとむせる、そんなことを気にしていたらある日熱
して良い、ということに懐疑的になる必要があるのかもしれない。
が出て入院。誤嚥性肺炎と言われてしばらく点滴を続けた後に、
では、
何を頼りに決めていけばいいのか。
こう告げられることは多い。
医師から説明を受け手術承諾書に署
それは、
本人の価値観であ
名したものの、
胃瘻を造るとはどういうことなのか、
実感がわかな
り、
本人と家族との関係性で
いという家族は多い。
あり、医療 側の職業的倫理
もしかしたら何か食べられるのではないか、
練習すれば何とか
観なのではないだろうか。
なるのではないか、そう思いながら日に日に足腰が弱って立てな
(次号に続く)
くなってしまった。
やっぱり胃瘻とやらを造るしかないのだろうか。
他に方法はなさそうだし、このままいつまでも点滴を続けること
は出来ないらしい。
水分・栄養を口から摂れなくなったときどうすればいいのか。
心
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の
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07
2009年12月1日発行
Fly UP