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メキシコにおける環境政策 - JBIC 国際協力銀行

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メキシコにおける環境政策 - JBIC 国際協力銀行
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html
メキシコシティー駐在員事務所
2011 年 5 月
メキシコにおける環境政策
2010 年 11 月 29 日から 12 月 10 日まで、当地キンタナロー州カンクン市にて国連気候変動枠組み
条約第 16 回締約国会議(COP16)が開催された。かかる COP16 において、JBIC は、メキシコ大蔵
大臣臨席の下、BANOBRAS、FONADIN 及び IDB とメキシコにおける環境プロジェクト促進のた
めの MOU を締結するなど、今後メキシコにおける環境プロジェクトの促進に積極的に取り組んでい
く方針である。メキシコにおける環境プロジェクトの促進にあたっては、メキシコ政府の推進する環
境政策を十分に理解することが必要であり、以下にその概要を取り纏めた。
1.
メキシコ政府の環境政策概要
1917 年に制定されたメキシコ合衆国憲法では、全ての国民に対し健康を維持する権利(第 4 条)
が認めらているが、メキシコ政府の環境への本格的な取り組みは、1982 年の憲法改正により環境保
護政策を担う新たな政府機関として都市開発・環境省(Sedue1)が設置され、環境保護連邦法(Ley
Federal de Protección al Ambiente)が制定されたことに始まる。1983 年の憲法第 25 条の改正によ
り、国家は天然資源及び環境保護のために公共の利益となる法規を規定し推進することが定められ、
1987 年 8 月の環境改革による憲法第 27 条の改正によって、国家は領土領海内の天然資源を保有する
とともに、天然資源の破壊を防ぐ等公共の利益のためには私有財産に対し規制を課す権利を有すると
制定され、国家は領土内の環境保護のために主導権を有することが明記された2。また同改革では環
境保護連邦法が撤廃され、代わりに環境調和と環境保護のための一般法(Ley General del Equilibrio
Ecológico y la Protección al Ambiente)が制定され、現在まで環境関連の基本法となっている。Sedue
は、1992 年社会開発省(Sedesol3)に組織移行し、1994 年には新たに環境・資源・漁業省(Semarnap4)
設置、2000 年の組織改変により Semarnap の漁業部門が農林水産省に移行し現在の環境天然資源省
(Semarnat5、以下「環境省」)が誕生した。環境省内には、環境政策の実施及び係る実施における
州政府とのコーディネートを行う環境計画・政策局、環境政策を強化するための規制を立案する環境
規制局、技術面及び管理面での環境保護政策を決定し実行する環境保護局の 3 つの担当局が置かれて
いる6。また、環境省の管轄下にあり、特定の目的のもと組織された 7 つの外局7が設置されている。
1
2
3
4
5
6
Secretaría de Desarrollo Urbano y Ecología (Sedue)
1987 年 8 月 10 日官報公布
Secretaría de Desarrollo Social (Sedesol)
Secretaría de Medio Ambiente, Recursos Naturales y Pesca (Semarnap)
Secretaría de Medio Ambiente y Recursos Naturales (Semarnat)
2003 年 8 月 13 日官報
1
2006 年 12 月に就任したカルデロン大統領は、憲法第 26 条に従い、2012 年までの政権期における
目標、戦略及び最重要課題を纏めた「国家開発計画 2007-2012(Plan Nacional de Desarrollo:以下
「PND」
)」を発表した。この中でカルデロン大統領は、これまでの国家開発計画では初めてとなる持
続可能な環境の実現を重要課題の一つとして組み入れ、環境問題に対し従来よりも積極的に取り組む
姿勢を示した。これを元に、環境省を取り纏め役として 10 の連邦省庁が参加する気候変動対策省庁
間委員会(以下「CICC8」)は、2007 年に中長期的目標を盛り込んだ環境政策である「国家気候変動
戦略(Estrategia Nacional de Cambio Climático:以下「ENACC」
)」を発表。CICC は 2009 年、市
民、有識者や NGO 等とのパブリック・コンサルテーションを経て、温室効果ガス削減の数値目標等
の具体的計画を含む「気候変動特別計画 2009-2012(Programa Especial de Cambio Climático :以
下 PECC)
」を策定した。これをうけ、
国内 32 州の地方政府は気候変動行動計画(Programas Estatales
de Acción Ante Cambio Climático:PEACC9)を順次策定することとなっている。
図1
メキシコにおける環境政策
国家開発計画 2007-2012(PND)
「第 4 章 持続可能な環境の実現」
↓
省庁別開発計画 2007-2012
↓
国家気候変動戦略(ENACC)
↓
気候変動特別計画 2009-2012(PECC)
↓
州別気候変動行動計画(PEACC)
一方、国際社会では 1992 年、メキシコは国連気候枠組変動条約(UNFCCC)に調印、翌年上院で
批准、1997 年には京都議定書に署名、その 3 年後に議会で批准した。京都議定書においてメキシコ
は非附属書Ⅰ国に属し、温室効果ガス削減義務は持たないものの、UNFCCC 第 4 条及び第 12 条で
1. 国家水利委員会(Conagua):持続可能な発展を目的に国内の水資源の開発と利用を規制、管理、維持する
2. 国家自然環境保護委員会(CNANP):国内の自然資源及び生態系を維持することを目的に自然保護区の管理及び運営をする
3. 国立環境研究所(INE):国内の環境課題についての理解・分析・解決に関する科学技術研究を推進し、情報を発信する
4. 環境保護連邦建設庁(Profepa):環境汚染の防止と規制に係る規定が遵守されているかどうか監視する
5. 国家森林委員会(Conafort):持続可能な森林利用を通し国民の生活の向上及び雇用・発展機会の創出に貢献する
6. 水利技術研究所(IMTA):持続可能な水資源の利用を目的とした知識・技術発展のための研究を行う
7. 国家生態系研究委員会(Conabio):生態系の多様性に関する研究及び生態系の維持と持続可能な利用を支援する
8 Comisión Intersecretarial de Cambio Climático. 環境省が座長となり、エネルギー省、農業省、通信運輸省、経済省、社会開発
省、内務省、外務省、大蔵省、保健省の 10 省が参加する。また、オブザーバーとして観光省と国土地理統計院(INEGI)も参加。
CICC は、フォックス前大統領の勅令によって 2005 年 4 月に設立された。
9 2011 年 3 月時点で、計画を提出した地方政府はメキシコ市とベラクルス州、ヌエボレオン州 のみ。(国立環境研究所 HP で随時更新
http://www2.ine.gob.mx/sistemas/peacc/index.html)
7
2
規定された温室効果ガスに関する報告書を途上国では最多となる過去 4 回10提出している。また、
UNFCCC の CDM 登録プロジェクト数ではメキシコは世界で 4 番目に多い 125 件11のプロジェクト
を有している。
また、メキシコは 1994 年の北米自由貿易協定(NAFTA)の補完協定として北米環境協力協定
(NAAEC)を締結しているが、同協定では、加盟国に対して環境保護規定の遵守や環境影響評価制
度の導入が義務化されると共に、北米地域における人間・動物・植物の生命や健康の保護を目的とし
て国際標準よりも厳しい措置を採用・維持・適用することが認められ、また、投資促進を目的とした
健康、安全及び環境に関する措置の緩和は不適当とされている。さらに実施状況をモニタリングする
機関として環境協力に関する北米評議会(NACEC)が設立され、北米地域内の環境保護に貢献する
ことを目的としている12。
2004 年 11 月、米国政府は温室効果ガスの一つであるメタンガスの回収・有効利用のための国際
協力を推進すべく、
「メタン市場化パートナーシップ(M2M)」構想を打ち出した。ここでは、
「炭鉱
メタン」、
「ランドフィル(廃棄物処理)
」
、
「石油・天然ガス・システム」の 3 つの小委員会が形成さ
れ、同分野のメタン回収・有効利用のための協力プロジェクトが実施されている。2006 年 3 月、メ
キシコ環境省(SEMARNAT)と米国環境保護庁(US EPA)は協力協定を締結し、メタンガス活用
促進のためのインフラ建設、回収可能なメタンガス量の特定、技術協力などの一連のプロジェクトを
メキシコで展開している13。
最後に、最近の重要な動きとして、メキシコ政府は 2008 年の環境大臣会合及び洞爺湖サミット拡
大会合において、気候変動対策資金として緑の基金の創設を提唱した。そして 2010 年 12 月のカンク
ン合意14にて、緑の基金(Green Climate Fund)の設立が示された。かかる基金の目的は、途上国の
環境プロジェクトを資金面で支援することで、先進国は 2010~2012 年に約 300 億ドルを、2013 年
以降 2020 年まで毎年 1,000 億ドルずつ(総計 8,300 億ドル)を共同で調達するという目標にコミッ
トするもの15。2011 年に南アフリカ共和国で開催される COP17 での設立を目標とし、カンクン合意
では UNFCCC の 40 カ国(先進国 15 カ国、途上国 25 カ国)の代表によって構成される基金設立委
員会(Transitional Committee)を立ち上げ、基金の枠組みを決定していくこととなった。基金設立
委員会の第 1 回会合は、4 月 28・29 日にメキシコシティーで開催される予定。
10
1997年、2001年、2006 年、2009 年の 4 回。CICC の国際ワーキンググループによって作成されている。
2011 年 3 月時点(http://cdm.unfccc.int/Statistics/Registration/NumOfRegisteredProjByHostPartiesPieChart.html)
12環境と経済連携協定に関する懇談会「経済連携協定(EPA)/貿易自由協定(FTA)に対する環境影響評価手法に関するガイドライ
11
ン」(環境省 HP:http://www.env.go.jp/earth/keizai-k/guide/guide01.pdf)
13 NEDO 海外レポート No,.998, 「メキシコの地球温暖化防止に向けた取り組み」2007.4.11
14 カンクン合意書第 IV 条 A 項参照(http://unfccc.int/files/na/application/pdf/07a01-1.pdf)
15 2010 年 12 月時点で既に 280 億ドルの資金を獲得(2010 年 12 月 13 日付
大統領府プレスリリース
http://www.presidencia.gob.mx/prensa/entrevistas/?contenido=62103)
3
図2
国内外におけるメキシコ政府の環境活動
National
Development
Plan
(出典:World Bank, MEXICO, pionerring work in climate change mitigation and adaptation を基に作成)
(1) 国家開発計画 2007-2012(PND)
2007 年 5 月 31 日、カルデロン政権の基本方針を定めた「国家開発計画 2007-2012」が官報に公布
された。この中でカルデロン政権は基本重要課題として、安全な法治国家、競争力のある経済、機会
の平等化、効率的な民主主義及び責任のある外交という4つの課題に加え、これまでの政府の国家開
発計画では触れられることのなかった環境に係る課題が持続可能な環境の実現として初めて盛り込
まれた。国家開発計画 2007-2012 において、持続可能な環境の実現は「次世代の国民の生活の質に悪
影響を与えない範囲で現在の国民生活を改善するような効果的で合理的な天然資源の利用」と定義さ
れ、これを達成するために気候変動適応策(Adaptation)と温室効果ガスの削減(Mitigation)とい
う 2 つの目標のもと、それぞれの戦略が示された(表 1)
。
表1
国家開発計画における環境目標と戦略16
目標
戦略
温室効果ガス削減
クリーンエネルギー(再生可能エネルギーを含む)発電の推進
策
家庭、産業、農業、交通におけるエネルギーの効率的使用の推進
(Mitigation)
自動車等の排ガス量の削減(国際標準)
気候変動適応策
気候変動対策の計画策定における市民社会の参加を推進
(Adaptation)
国内の地域別気候変動シナリオの策定
社会経済分野別及び生態系別への気候変動が及ぼす影響や脆弱性の調査
気候変動による自然災害対策に関する情報の提供
16
Comisión Intersecretarial de Cambio Climático, 2009, Cuarta Comunicación Nacional ante la Convención Marco de las
Naciones Unidas sobre el Cambio Climático, p.112
4
(2) 国家気候変動戦略(ENACC)2007-2012
PND において持続可能な環境の実現が政府目標とされたことを受け、カルデロン大統領は 2007 年
5 月 CICC の気候変動特別ワーキンググループによって作成された国家気候変動戦略(ENACC)を
発表した。ENACC では、国家開発計画で提唱された気候変動適応策(Adaptation)と温室効果ガス
削減策(Mitigation)について、それぞれ 2014 年までの中期的な目標が設定された。具体策は「気
候変動特別計画 2009-2012(PECC)
」で策定されるとした上で、気候変動適応策(Adaptation)で
は国土の一部は気候変動によって起こりうる自然災害等に脆弱であるため、国家開発のための全ての
領域において災害予防を喚起する文化を推進することが重要であること、温室効果ガス削減策
(Mitigation)では 6 分野 12 プロジェクトによって 2014 年までに温室効果ガスを 106.8MtCO2e 削
減することが可能(表 2 参照)であることが示された。
表2
分野
2014 年に向けた温室効果ガス推定削減量とその方法17
削減方法
推定削減量
(MtCO2e/年)
エネルギー効率化
メキシコ省エネルギー委員会(CONAE)と省エネルギー信託基
27.9
金(FIDE)によるエネルギー効率化プログラム
Pemex 業務関連
CFE 業務関連
製油所等 Pemex の施設におけるコジェネ
7.7
石油プラットフォーム用発電機器の取替
1.9
製油所におけるエネルギーの効率化
2.7
天然ガスの生産や輸送時に発生するメタンガスの回収・貯留
2.4
送配電線における電力伝達の効率化
6.0
化石燃料を使用する発電所のエネルギー効率化
0.7
発電所の近代化改修、天然ガス燃料の使用量の増加等
コジェネ
民間産業(セメント、鉄鋼、砂糖精製業等)におけるコジェネ
再生可能エネルギー
7 千 Mw 規模の再生可能エネルギー発電施設の建設及び年間 1.6
21.0
>25.0
8.0
万 GWh の発電実施(大規模水力発電は除く)
交通
10 年以上のディーゼルエンジントラック及びバスの取替
2.0
鉄道による貨物輸送量の 1 割増加
1.5
106.8
合計
(3) 気候変動特別計画 2009-2012(PECC)
PND の基本方針及び ENACC の中長期的目標を受け、2009 年 8 月 28 日、「気候変動特別計画
2009-2012(PECC)」が官報に公布された。PECC では、2012 年までの具体的な目標及びプログラ
17 Comisión Intersecretarial de Cambio Climático, 2007, Estrategia Nacional de Cambio Climático, México, Síntesis Ejecutiva,
p.4
5
ムが組み込まれ、かかる策定過程では CICC に参加する省庁の関与だけではなく、2009 年 3 月から 6
月まで広範なパブリック・コンサルテーションも行われた。パブリック・コンサルテーションでは 24
人の科学者等専門家から成る CICC の気候変動顧問委員会(C4)を中心に、合計で 25 の大学・研究
機関、23 の環境等 NGO、23 のコンサルタント会社、12 人の政府関係者、農産者団体 2 つが参加し、
①発電とエネルギー使用における温室効果ガス削減、②森林及び土地利用における温室効果ガス削減、
③気候変動適応、④外交における環境政策の 4 つの主なテーマで議論がなされ、その議論をもとに
PECC が作成された18。PECC においては、PND における持続可能な環境の実現目標で提案された
気候変動適応策(Adaptation)と温室効果ガス削減策(Mitigation)の具体策が以下の通り示された。
【気候変動適応策(Adaptation)】
PECC では、気候変動適応策は温室効果ガス削減策と同様に重要であると示され 2050 年までに下記
の戦略を執るとしている。
第 1 段階(2009~2012 年)
:気候変動適応システムの構築、気候変動に脆弱な地域の特定、気候
変動適応策にかかる経済的コストの評価
第 2 段階(2013~2030 年)
:国、地域、セクター別の気候変動適応戦略の制定と適応能力の強化、
森林地帯における伐採と植林の均衡維持、持続可能な農業生産体制の
実施、環境保護と温室効果ガス削減政策の実施、自然災害リスクが高
い地域における住民の移住及びインフラの移転計画の策定開始、環境
政策の実施状況の評価
第 3 段階(2031~2050 年)
:森林地帯の回復、生態系の維持を含む持続可能な環境を保証する開
発、自然災害リスクが高い地域の住民の移住及びインフラの移転にか
かる計画の施行
【温室効果ガス削減策(Mitigation)】
PECC では、温室効果ガスの排出を 2050 年までに 2000 年比 50%削減するとの初めての数値目標
が立てられた(図 3 参照)。また 2020 年の排出量を、経済活動を現状のまま維持(Business As Usual)
した場合に予測される温室効果ガス排出量であるベースライン19(赤線)比 2 割減の 700MtCO2e と
すること、カルデロン政権が任期を迎える 2012 年の排出量を、ベースライン比 6.5%減の 735 MtCO2e
に削減するとの目標を設定した。ENACC では 2014 年までに 106.8MtCO2e の削減目標を設定して
いたが、PECC では 2012 年までに 50.65MtCO2e と控えめな削減目標となっている。この目標を達
成するため 86 のプロジェクトを設定し、それぞれの実施機関を指定された(表 3)
。
この削減目標を分野別に見ると、最も削減目標割合が高いのは発電(35.6%)で、続いて農産地、
森林地帯(30.2%)、省エネ、コジェネ等によるエネルギー使用(23.4%)
、最後に廃棄物処理(10.8%)
となっており(図 4)、エネルギー分野での削減目標割合は 59%に上る。また ENACC で示されたよ
18
19
World Bank, Mexico, Low-Carbon Development Policy Loan, October 25, 2010
ベースラインによると、温室効果ガス排出量は 2020 年には 2000 年比 37%増、2050 年には 70%増が予想されている。
6
うに、エネルギー部門は排出源別でも全体の 61%と最大の温室効果ガスを排出しており20、特に、発
電部門(24%)、交通部門(18%)が高い排出源となっている。これより、メキシコではエネルギー
部門が温室効果ガスの排出源割合において、また削減目標分野において全体の 6 割を占めていること
がわかる。そこで次に、メキシコ政府が最重要分野としているエネルギー部門の環境関連政策につい
て触れておきたい。
図3
PECC における温室効果ガス削減シナリオ21
(赤線=ベースライン、緑線=削減目標ライン)
図4
PECC 温室効果ガス削減目標における分野別割合22
(青=発電、赤=エネルギー使用、緑=農林業、紫=廃棄物処理)
20
21
22
エネルギー部門に続く排出源は、森林分野が 14%、廃棄物処理分野が 10%、農業分野が 7%、鉱工業分野が 8%
Comisión Intersecretarial de Cambio Climático. 2009. Programa Especial de Cambio Climático 2009-2012. p49.
22 Comisión Intersecretarial de Cambio Climático. 2009. Programa Especial de Cambio Climático 2009-2012. p24
7
表3
温室効果ガス削減の主要プロジェクト23
プロジェクト
実施機関
GHG削減量
(MtCO2e)
カンタレル油田における窒素ガスの注入
エネルギー省
6.90
衛生埋立地の建設(29のプロジェクト)
環境省、Sedesol、地方政府
4.44
持続可能な森林保存区域に295万Ha追加
環境省
4.37
再生可能エネルギー発電(自家発電、最大発電能力
エネルギー省、民間企業
3.65
森林伐採削減プログラムの推進
環境省
2.99
冷蔵庫、空調機器及び白熱電球の交換による省エネ
エネルギー省
2.68
薪コンロ60万台の設置
Sedesol、農林水産省
1.62
1,957Mw)
貨物輸送用鉄道網の拡大(陸上輸送に占める鉄道の割合: SCT
1.60
26%→28.3%)
環境サービス補助金対象区域に217万Ha追加
環境省
1.43
野生保存区域に250万Ha追加
環境省
1.39
Pemexのエネルギー効率化
エネルギー省
1.24
38の新規高速道路建設
SCT
1.20
グリーンハウス80万戸の建設
Infonavit
1.20
CFEの風力発電量の増加(2012年までに発電能力507Mw エネルギー省
1.20
に)
自然保護区域に75万Haの森林地帯を追加
1.12
環境省
1.10
マンサニージョプロジェクト(発電所、LNG再ガス化ター エネルギー省
ミナル、港・道路・鉄道マルチモーダル)
老朽化した貨物トラック及びバスの廃車促進
SCT、大蔵省、経済省、Nafin
1.10
Pemexのコジェネ
エネルギー省
0.90
公共交通における低排出ガス車の使用
環境省
0.90
500万Haの牧草地化
農業水産省
0.84
La Yesca水力発電所
エネルギー省
0.81
17万Haの商業用植林
環境省
0.61
7.37
その他のプロジェクト
50.66
合計
23
Comisión Intersecretarial de Cambio Climático. 2009. Programa Especial de Cambio Climático 2009-2012. pp.22-23
8
2. エネルギー部門における環境政策
エネルギー部門は、前述のとおり温室効果ガス削減の戦略的部門として重要であるだけではなく、
メキシコの歳入の約 3 割24を生み出すことから国家財政にとっても重要である。2008 年 11 月のエネ
ル ギ ー 改 革 に よ っ て 環 境 関 連 の 2 つ の 法 律 (「 エ ネ ル ギ ー の 持 続 的 利 用 法 ( Ley para el
Aprovechamiento Sustentable de la Energía)」と「再生可能エネルギー利用及びエネルギー移行資
金法(Ley para el Aprovechamiento de Energías Renovables y el Financiamiento de la Transición
Energética)」)が可決されたことを受け、エネルギーの効率的な利用及び再生可能エネルギーの促進
による持続可能な環境の実現という新たな取り組みが行われている。
2008 年 2 月、エネルギー省は国家開発計画 2007-2012(PND)
を受け「エネルギー省計画 2007-2012」
25を発表し、2030
年までの長期的展望26に向け 2012 年までに取り組むべき目標を 5 つの分野で設定
した(参照表 4)
。このうちエネルギーの効率化・再生可能エネルギー・バイオ燃料分野と気候変動対
策分野における目標は、後に発表される「エネルギー移行及びエネルギーの持続的利用に係る国家戦
略(Estrategia Nacional para la Transición Energética y el Aprovechamiento Sustentable de la
Energía)27」の基盤となった。
表4
エネルギー省計画 2007-2012 における主な目標28
分野
2012 年までの目標(2006 年→2012 年)
原油部門
1.
原油生産量の増加(日量 330 万バレル→320 万バレル)*
2.
天然ガス生産量の増加(日量 54 億 ft→70 億 ft)
3.
原油確認埋蔵量の維持(41%→100%)
4.
天然ガスの採掘量の向上(95%→98%)
5.
製油所の稼働率向上(83%→87%)
電力部門
発電にかかる一次燃料の利用割合
・
化石燃料(29%→20%)
・
・
石炭(9%→10%)
・ 大規模水力(17%→17%)
・
小規模水力(4%→3%)
・
天然ガス(36%→41%)
その他再生可能エネルギー
2010 年の歳入に占める原油関連収入は 32.9%(SHCP, Informes sobre las finanzas públicas al 4º trimestre de 2010)
Secretaría de Energía, 2008, Programa Sectorial de Enería 2007-2012
26 2030 年に向けてエネルギー部門が公共政策及び財政・労働・規制の法的枠組みの下で適切に運営され、それによって競争力のあ
る価格を維持し、多様で十分且つ継続的な高品質エネルギー部門へと成長することを目指すとともに、経済・社会・環境面で持続可
能な開発を約束し、利用可能な技術を駆使することにより、エネルギー収入の最大化を目指している。この長期的展望をもとに、2012
年までに、国家の発展に必要なエネルギーを競争力のある価格で提供すること、環境への影響を緩和すること、国際標準に基づいた
業務運営をすること、エネルギーの合理的な利用とエネルギー一次資源の多様化を図ることを目的としている。
(JETRO「メキシコ
の環境に対する市民意識と環境関連政策」
)
27 本国家戦略におけるエネルギー移行とエネルギーの持続的利用の定義は下記の通り
・エネルギー移行:温室効果ガスを削減するようなエネルギーの生産から消費までの過程における変化を指す。例えば生産過
程において、化石燃料から再生可能エネルギーに代替すること。供給過程においては、エネルギーの分配損失を減らすこと。
消費過程では、エネルギー消費量を減らすこと。
・エネルギーの持続的利用:エネルギー使用料を削減するようなエネルギーの効率的使用を指す。
28 Secretaría de Energía, 2008, Programa Sectorial de Enería 2007-2012 を基に作成)
24
25
9
(2%→6%)
・
原子力(3%→3%)
エネルギーの効率化・再生
1.
電力消費の節約(21,685Gwh→43,416Gwh)
可能エネルギー
2.
再生可能エネルギー発電の増加(発電能力の 23%→26%)
環境と気候変動
1.
発電による CO2 排出量の削減(14 MtCO2→28MtCO2)
2.
ガソリンに含まれる硫黄分の削減(プレミアガソリン:300ppm→
80ppm)
組織改善
*
1.
各種計画や政策の改善
2.
インターネットを窓口とする手続きの増加(0%→80%)
3.
職員の専門性の向上
4.
オペレーションコストの削減
国家インフラ計画 2007-2012 に基づく原油生産量計画に従い、2012 年までは原油の探査に大規模投資を行い、生産開発は、2013
年以降に増加させる計画。
2008 年 11 月に可決されたエネルギー改革によって、エネルギー省には「国家エネルギー戦略」及
び「エネルギー移行及びエネルギーの持続的利用に係る国家戦略」の策定と夫々の戦略に基づき毎年
評価を行い改訂するという新たな機能が課せられ、温室効果ガス削減のための省エネルギー及び再生
可能エネルギーの利用推進において、より積極的な役割を求められることとなった。エネルギー改革
ではまず、連邦公共機関法第 33 条の改正により、エネルギー省は毎年 2 月に、今後 15 年間の展望を
含めた国家エネルギー戦略案を議会に提出し 30 日以内に批准されることが制定された。初の国家エ
ネルギー戦略となった 2010 年版の主な目標においては、原油生産量を日量 330 万バレル以上とする
こと、1 バレルの原油の生産に対し、1 バレルの原油を発見することによって原油確認埋蔵量を 100%維持
すること、余剰発電能力を今後の発電所建設の延期及び老朽化している発電所の停止等によって 47%
(2009 年)から 27%(2024 年)に引き下げること、及び 2024 年までに再生可能エネルギーによる発電を
全体の 35%とすること等が設定された。
次に、エネルギー改革によってエネルギーの効率化(省エネを含む)に係る国家計画及び管轄機関
等の指定などを規定した「エネルギーの持続的利用法(Ley para el Aprovechamiento Sustentable de
la Energía)
」と再生可能エネルギーの使用に係る国家計画及び管轄機関等を規定した「再生可能エネ
ルギー利用及びエネルギー移行資金法(Ley para el Aprovechamiento de Energías Renovables y el
Financiamiento de la Transición Energética)29」が新たに制定された。
エネルギーの持続的利用法第 6 条により、エネルギー省は「エネルギーの持続的利用のための国家
計画(Programa Nacional para el Aprovechamiento Sustentable de la Energía)」を策定すること
が定められた。これを受けて 2009 年 11 月に「エネルギーの持続的利用のための国家計画 2009-2012」
29
本法律で定義される再生可能エネルギーには、原子力、大規模水力(30Mw 以上の発電能力をもつもの)
、産業廃棄物の熱利用、
環境規定を満たさない衛生埋立地の熱利用の 4 つは除外されている。
10
が官報に公布され、7 つの戦略的分野においてエネルギーの効率化のための目標が策定された30。
また、再生可能エネルギー利用及びエネルギー移行資金法の第 26 条により、エネルギー省は「エネ
ルギー移行及びエネルギーの持続的利用に係る国家戦略(Estrategia Nacional para la Transición
Energética y el Aprovechamiento Sustentable de la Energía)
」を策定し、再生可能エネルギーの利
用及び省エネの状況について毎年評価を行い、改訂することが定められた。さらに同法第 27 条では、
上記「エネルギー移行及びエネルギーの持続的利用に係る国家戦略」を施行するために、エネルギー
省を座長とした 8 つの政府機関31の代表によって構成される技術委員会が運営するエネルギー移行及
びエネルギーの持続的利用基金(Fondo para la Transición Energética y el Aprovechamiento
Sustentable de la Energía)の設立が決定され、翌年 2 月に Banobras を受託者とする信託基金(当
初 4 億ペソ)が創設された。
また、気候変動特別計画 2009-2012(PECC)で割り当てられたプロジェクトに従い、エネルギー
省は個別分野の計画も策定している。例えば「再生可能エネルギー利用特別計画(Programa Especial
para el Aprovechamiento Sustentable de la Energía)
」では、風力発電、太陽光発電、小規模水力発
電、地熱発電、バイオマス発電の開発の可能性及び政府計画につき示されたほか、「省エネ電気製品
交換計画(Programa de sustitución de equipos electrodomésticos para el ahorro de energía)」では、
冷蔵庫及び空調機(計 200 万台)と白熱電球(4720 万個)の交換により、2012 年までに 7,871GWh
の省エネが計画されている32。
7 つの戦略的分野とは、①交通車両の燃費の向上及び車両の使用年数の低下、②白熱電球の交換、③老朽化した家電製品(冷蔵庫、
エアコン等)の交換、④コジェネ、⑤新規公団建設における省エネ、⑥産業用モーターのエネルギー効率化、⑦水ポンプシステムの
効率化
31 参加する政府機関は、エネルギー省、大蔵省、環境省、農林水産漁業省、CFE、LFC、メキシコ石油研究所(IMP)
、電力研究所
(IIE)、国立科学技術振興会(Conacyt)。LFC は 2009 年 10 月に大統領勅令により解体したため計 8 つの政府機関からの代表によ
って技術委員会が構成される。当該基金は、エネルギー移行、省エネ、クリーンテクノロジー、再生可能エネルギーの利用目的のプ
ロジェクトに対する資金支援を行う。
32 2009 年 8 月末時点で 10 万個の冷蔵庫及び空調機器の交換が終了(Comisión Intersecretarial de Cambio Climático, 2009, Cuarta
Comunicación Nacional ante la Convención Marco de las Naciones Unidas sobre el Cambio Climático, p.179)
30
11
図5
エネルギー分野における関連法規と計画
国家開発計画 2007-2012
(2007 年 5 月官報交付)
エネルギー省計画 2007-2012
(2008 年 2 月官報交付)
エ
国家エネルギー戦略
ネ
(2010 年以降毎年 2 月に発表)
ル
ギ
ー
エネルギーの持続的利用法
エネルギー移行及びエネルギー
(2008 年 11 月官報交付)
の持続的利用に係る国家戦略
改
エネルギーの持続的利用法規定
革
(2009 年 9 月官報交付)
(2010 年以降毎年 2 月に発表)
気
候
変
動
特
別
計
再生可能エネルギー利用特別計画
再生可能エネルギー利用およびエ
(2009 年 8 月官報交付)
ネルギー移行資金法
その他個別計画(Pemex、CFE、省エ
(2008 年 11 月官報交付)
ネ製品交換計画等)
3. まとめ
メキシコにおける環境政策の基盤は、カルデロン大統領のイニシアティブにより策定された「国家
開発計画 2007-2012(PND)」
、
「国家気候変動戦略(ENACC)」
、「気候変動特別計画 2009-2012
(PECC)」の 3 つの重要な計画である。とりわけ PECC では、気候変動適応策(Adaptation)と温
室効果ガス削減策(Mitigation)にかかる具体的な目標が設定され、それぞれ実施機関を指定するこ
とによって責任の所在を明確化したことは大きく評価される。しかしこれらの目標がカルデロン政権
の任期満了となる 2012 年までに果たしてどれだけ達成できるのか、またメキシコでは大統領の再選
が禁止されていること、また次の大統領選挙では政権交代の可能性が高いと言われる中、次期大統領
がカルデロン政権の環境政策を引き継ぐのか、またどれだけ積極的に環境政策に取り組むのかが今後
注目されるところである。
12
画
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また、本稿は信頼できると判断した各種報道・データに基づき作成しておりますが、その
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