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スライド 1 - 駿河台メディアサービス
明治大学リバティアカデミー,オープン講座:「ドラッカーの世界」への誘い,
明治大学駿河台キャンパス リバティタワー16階1163教室
ドラッカーの社会生態学
Ver. 1.0 2012年10月12日(金)
[email protected]
明治大学法学部教授 阪井和男
明治大学文明とマネジメント研究所所長
資料URL:
http://www.kisc.meiji.ac.jp/~sakai/presen/la-pfd-social-ecology-sakai-20121012.pdf
<役職等>
明治大学震災復興支援センター(センター員)
明治大学東北再生支援プラットフォーム副代表
明治大学文明とマネジメント研究所所長
明治大学サービス創新研究所所長
明治大学死生学・基層文化研究所研究者
明治大学社会イノベーション・デザイン研究所事務局長
略歴
明治大学法学部教授
<公職等>
(理学博士)
サービス学会(Society for Serviceology)設立時発起人
阪井和男 Kazuo Sakai
情報コミュニケーション学会会長
[email protected]
facebook.com/saka1kaz
<プロフィール>
http://rwdb2.mind.meiji.ac.jp/Profiles/7/0000657/profi
le.html
<最近の発表資料>
http://www.kisc.meiji.ac.jp/~sakai/presen/
<略歴>
1952年 和歌山県和歌山市生まれ
1971年 和歌山県立桐蔭高校卒業
1977年 東京理科大学理学部物理学科卒業
1979年 同大学院理学研究科修士課程物理学専
攻修了
1985年 同大学院理学研究科博士課程物理学専
攻退学(6年間在籍)
ソフトハウスに勤務
1987年 理学博士(論文,東京理科大学)取得
サイエンスライター(フリー)
1990年 明治大学法学部専任講師
1993年 明治大学法学部助教授
1998年 明治大法学部教授
2012年10月12日
電子情報通信学会 思考と言語研究会(TL)研究会委員長
ドラッカー学会理事
サービスデザイニング研究所所長
次世代大学教育研究会事務局長
新世代デジタル教育研究会代表幹事
オープンソース&リソース戦略研究会共同代表
日本語プログラミング研究会会長
DPCマネジメント研究会理事
Ja Sakai Community運営委員(設立発起人)
大学情報サミット初代代表幹事
早稲田大学メディアネットワークセンター講師(非常勤)
早稲田大学メディアネットワークセンター 教育の情報化:
連携と支援研究部会 特別研究所員
早稲田大学情報教育研究所招聘研究員
早稲田大学商学学術院総合研究所WBS研究センター ド
ラッカー経営思想研究部会WG座長
<NPO等>
ネクストワールド・サミット第1回大会審査委員長(一般社
団法人日本儀礼協会)
一般社団法人CSスペシャリスト検定協会理事
NPO実務能力認定機構理事
NPO法人 人材育成マネジメント研究会理事
NPO法人 日本地域活性力創出機構評議員
特定非営利活動法人防災・市民メディア推進協議会理事
概要
ドラッカーはマネジメントの父として著名ですが
 他方で「社会生態学」の提唱者としても知る人
には知られています
 社会生態学とはあまり耳慣れない学問です
 社会生態学とは一体どのようなものでしょうか
 本講では
社会生態学の概念内容を現代のさまざまな事
例に則して見てみたいと思います

2012年10月12日
明治大学 阪井和男
3
目次
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
はじめに
社会生態学
二項対立の構造
方法論と適用例
知識社会の教育
セルフマネジメント
社会生態学の先駆者
まとめ
2012年10月12日
明治大学 阪井和男
4
はじめに
今回の底本
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E.,
"Drucker's Lost Art of Management:
Peter Drucker's Timeless Vision for Building
Effective Organizations",
McGraw-Hill, New York, 2011.
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
2012年10月12日
明治大学 阪井和男
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Contents








Chapter 1 Origins of Managements as a Liberal Art in Peter Drucker's Writings
Chapter 2 Management and Liberal Arts Traditions: Bridging the Two Worlds
Chapter 3 Contributions of Management as a Liberal Art
Chapter 4 Federalism and Distribution of Power and Authority
Chapter 5 The Human Dimension and Management as a Liberal Art
Chapter 6 Effective Leadership as a Liberal Art
Chapter 7 Social Ecology and the Practice of Management as a Liberal Art
Chapter 8 Applied Social Ecology: Innovation and Change for a Hopeful and
Bearable Society
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
2012年10月12日
明治大学 阪井和男
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社会生態学
社会生態学とは何か?

人と経済的、社会的、政治的組織の関係を究
明すること
 「体系としての社会生態学は行動にかかわる」

社会生態学が知見や結果に重点を置く学問

観察行為と具体的な成果を重視
人間関係や制度を分析するが、それらの関係が生み出
すものを重視
 理論よりも行動を重視する極めて実際的な手法を含む
 手法や過程以上に、社会生態学を実践した結果が重要

Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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9
社会生態学の究極の目的

社会のあらゆる機関が機能するように改善す
ること
 機能する社会をつくり、そこにいる個人がコミュニテ
ィ内での尊厳や位置づけ、社会内での意味ある居
場所を得られるようにすること
 社会の構成員を幸福にするために
(富を創出し、患者を治療し、生徒を教育するために)
行動し、社会の機関を機能させるべく活動すること
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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社会生態学者の目標

「すでに起こった未来」を知ること
 課される要求を事前に管理したい経営陣や、社会
福祉を向上させたい政策立案者などを助けるため
 分析や警告、政策に役立つ指示を行って問題への
安易な対応を防ぎ、
思慮深い行動を取らせなくてはならないから
 それができれば、
避け難い変化の中でも、経営陣や官僚は継続性を
保つ行動方針を立てて実行することができる
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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すでに起こった未来

まだ社会の機関にはっきりした影響を与えてい
ないが、すでに現われている、重要な変化
 「すでに起こった未来」

ピーター・ドラッカーの雑誌特集論文("The Future That Has
Already Happened", in 'The Futurist', Vol. 32, No. 8, 1998)
のタイトル
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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すでに起こった未来
ドラッカーは、
 人々が気づくはるか以前にそれらを未来に当てはめて考え、
その変化が機関や個人にどんな機会、あるいは危険を与え
ることになるかを知らせた
 生じ始めの段階で変化を発見するため、生じた後の現実に
照らし、慎重に考査を重ねる余裕があった
 コンサルタント、教師、著作家として活動していたゆえに、経
営者が重要な変化と一時的流行を確実に区別し、生じつつ
ある変化を最大限に利用することができるよう、折に触れて
助言を与えることができた
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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マネジメントの実践へ

ドラッカーは、社会生態学者として働く過程でマネジメン
トの実践に行き着いた
 社会の諸機関のリーダーに、未来を形成するために必要な
方針と実践、経営者としての能力を与えようとした
 ドラッカーのマネジメントに関する著書はどれも、社会生態学
研究と、組織のリーダーへの詳細な規範とを統合させたもの

『創造する経営者』(1964)を除く
 環境(人口、経済、技術、政治、社会)の変化の検証と、いか
にマネジメントの実践を通してそうした変化を利用するか、と
いう具体的助言とが分けて論じられることはほとんどない
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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リベラルアートとしてのマネジメント

社会生態学の実践=リベラルアートとしてのマネジメントの実践
学問としてのマネジメントはあらゆる知識を動員し、その知識を
他の学問にフィードバックするが、その目的は常に行動である
 「(マネジメントの)主題はプロセスである
 それは実行することを目的に始められる。(中略)
 そして、知識の所産として最終的に得たいのは、個人と社会
に影響する価値の決定である。(中略)
 私たちが必要とするのは― 専門領域を多く含むことにはなっ
ても―決して専門的な学問ではない。(中略)
 それは真に人間主義的な学問でなければならない
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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リベラルアートとしてのマネジメント
 共通のビジョンや価値観によって結びつき、同じ目的のため
に共に働き、かつ、個々で行動する人間のための学問である
 情報、知識、見識、価値観、解釈、予想のすべてを、決定、行
動、達成、結果に集中させねばならない
 考え、動き、感じ、評価する存在として人間を扱わねばならず
、したがって、学問的、情緒的、美的、倫理的な知識を全て動
員しなければない。(中略)
 マネジメントの学問は、人間の経験を扱う全ての知的領域か
ら学ばねばならず、さらには、新しい知識をそれら全てにフィ
ードバックしなければならないのだ」(『変貌する産業社会』)
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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二項対立の構造
維持と変革


「社会生態学者の仕事について次に言えることは、変化が世の
中に与える影響に焦点を合わせなければならないということで
ある。社会生態学者の目的は、単なる知識の獲得ではない。
その目的とするところは正しい行動である。
そのような意味において、社会生態学は、医学、法学(中略)と
同じように実学である。その目的は、継続や維持と、変革や創
造とのバランスを図ることである。動的な不均衡状態にある社
会をつくることである。そのような社会のみが、安定性とそして
団結力をもちうるのである」(『ある社会生態学者の回想』)
動的平衡状態
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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動的平衡状態の意味

富の創出はゼロサム・ゲームではない!
 生産性の向上やイノベーションによって新しい富が創られる



治療も、新薬と生産性の向上、医療の革新によって進歩
教育も、脳研究の発見を取り入れ、学習理論を進化させ、情報技術を
利用して学習環境を向上させることで発展
なぜイノベーションと変化が必要不可欠か?
 エントロピーの法則のように崩壊へと向かう動きに歯止めを
かけ、継続性を保つため
エントロピーの法則


物質や人間、あるいは組織の体系が自然と衰退に向かう流れのこと
この流れに反抗し前進し続けるために、イノベーションと変化が必要
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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カオス理論からの学び

ドラッカーは、数年間、数学を研究したこともある
 社会生態学の仕事に役立つかどうかを知りたいため
カオス理論:複雑なシステムに現われる多様な相を調査する
バタフライ効果


初期条件に鋭敏なシステムの性向
時間の経過とともに予測不可能になる
世界のある場所で蝶が羽ばたくと遠く離れた場所で竜巻などが起きる

ドラッカーの学び

カオス理論は、未来を予言しようとしても無駄だという確信をドラッカーに
抱かせた。それよりも、変化をとらえ、それを自らの未来を創るチャンスと
して利用した方がよい
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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社会の継続性への配慮

ドラッカーは、
 機関の経営者に対して常に、イノベーションを行い、チェンジ・
リーダーになり、新しい現実を利用し、それによって社会に貢
献せよと言い聞かせていた
 その一方で、長く存続した価値観を守ろうともしていた

ユリウス・シュタール論の副題、『保守的国家論』(1933/2002)からも推
察できる
 時の試練に耐えた伝統的価値観を重視することで、社会の
継続性を高めたいと望んでいた
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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維持と変革

ドラッカーが定義する社会生態学者は、
 自由社会において不安定要素となる機関(社会的・
公共的機関を含むが、特にビジネスの組織)にはイ
ノベーションと変化を促し、
 社会を安定させる機関(家族、宗教組織、最高裁判
所など)に対しては、継続性を見出してそれを維持
できるように助力する
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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維持機関と変革機関

『維持機関』
 社会やコミュニティや家族
 安定を求め、変化を阻止し、あるいは少なくとも減速しようと
する

『変革機関』
 ポスト資本主義社会における組織
 組織の機能は、道具や工程や製品に対し、仕事に対し、そし
て知識そのものに対し、知識を適用すること
 したがって組織は、つねに変化をもたらすように組織される
(『ポスト資本主義社会』)
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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維持と変革のバランス論



機関の機能する社会では、ある程度の継続が必要
多くの場合、個人の利益とより大きなコミュニティのニ
ーズの間でのバランスを取ること
初期の社会生態学者たち
 大切なのは、変化に直面した際に過去のどの側面を維持し、
何を放棄すべきかを見定めること

変化と継続のバランスを取り、人間の尊厳や発展を促
す
 困難ではあるが空想的なビジョンではない
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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バランス論の2つの解

静的バランス(静的平衡)
 つりあいの問題
自然につりあいのとれる場所を探すこと
空間の問題(新しい空間軸を見つける)


動的バランス(動的平衡)
ドラッカーの認識
 ゆらぎの問題
自然な状態がゆらいでいると認識すること
時間の問題(時間軸を導入して理解する)

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方法論と適用例
社会生態学の方法論
人文科学、社会科学、科学技術のレンズを通して周りの世界を注
意深く観察することを求める

1.
2.
3.
4.
5.
そして、認識される変化について5つの問いかけをする
通念に反することで、すでに起こっている変化は何か?
パラダイム・チェンジとは何か?
その変化が一時的なものではなく、本当の変化であることを示す証拠は
あるか?
その変化は何か結果をもたらしたか? 言い換えれば、何か世のなかを
変えたか?
もしその変化に意味と重要性があるのであれば、それはどのような機会
をもたらしてくれるのか?
(『ある社会生態学者の回想』)
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
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社会生態学の適用例

『ネクスト・ソサエティ』(2001/2002)


社会生態学者としてのドラッカーが使う手法を具体的に見せてくれる
社会生態学を通してどのように知識だけでなく行動も生み出すか、ある
いは、社会やマネジメントの中で見出された変化にどのように働きかけ
るか、ということを、実例をもって示してくれる
「未来はあなたが思うよりも近づいている。ピーター・ドラッカーは、それが今日とどう変
わるのか、それに備えるためには何をしなければならないのかを教えてくれる」(『エコノ
ミスト』紙の編集者)


今日の社会と次の社会の違いの一つに、富を創出する資源として知識
が登場する
完全なる知識社会の到来と、そのことが個人や先進国の三つの領域(
公共、民間、社会)にどのような意味をもつかを論じた
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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社会生態学の適用例

『断絶の時代』(1969)
経済の景色を変え次の社会を生み出しつつある変化の力について鋭く洞察
し、知覚された未来を方向付けていくためのはっきりとした青写真を提供
 4つの断絶
1.
2.
3.
4.

重要な新産業を登場させる新技術の爆発的増加
国際経済からグローバル経済への移行
政治、哲学、精神面での重大な課題をもたらす、組織の多元化による社会
政治上の新しい現実
大規模教育に立脚した新たな知識労働の世界とその意味
ドラッカーはこれら4つの「断絶」が機関や人々にどのような影響を与える
かを熟考し、「過去との継続性を保つ」と同時に、社会に「前向きな変化」
を生み出すためには、こうした変化にどう対処すべきかを検討
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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社会生態学の適用例

『変貌する産業社会』(1959)
 知識労働と知識労働者の出現を追う
 第5章
The Educated Society(教育のある社会)で、知識労
働と知識社会が出現したことをはっきりと宣言
「今日の社会・経済において生産性の高い仕事とは、ビジョンや知識、
思想をもって行われる仕事である。つまり、手よりも頭を基盤とする仕
事なのである」
 未来の視点から、第二次大戦後の教育に注目

1944年の復員兵援護法により、全ての復員兵に有給で大学教育を
受ける権利が与えられた結果、大学卒の人口が激増
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社会生態学の適用例

『企業とは何か』(1946)
 GMに関するドラッカーの初期の研究
 社会生態学の手法や、知的理論とマネジメントの実践を組
み合わせる方法が実際に用いられた例

断絶、継続、現代産業社会における人間の位置づけと尊厳といった
問題を解決しようとするドラッカーの姿勢がはっきりと感じられる
 9人の社会生態学者と7人のマネジメント実践者の知性豊か
な先達が告発した様々な力と闘うべく、「マネジメントされた
組織が機能する社会」という思想の構築に乗り出していた
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
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知識社会の教育
知識社会の到来

ドラッカーは『変貌する産業社会』(1959)で初めて知識
労働と知識労働者について書いた
 フリッツ・マッハルプ




1958年には、米国経済における知識労働の割合に注目
著書『知識産業』を、ドラッカーの3年後の1962年に出版
 1958年の米国で、国民総生産の29%を知識産業が占めていた
綿密な実地調査によって米国経済が知識産業の方向へ動いているこ
とを証明したもので、ドラッカーの主張を裏付けるもの
実際に知識労働の出現を研究し始めたのは、遅くとも『
変貌する産業社会』(1959)が出版される十年前
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
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知識社会における教育

知識労働や知識労働者が現われ、知識社会
が到来すれば・・・
 知識労働者の生産性を上げることが個人、組織、
国家の競争において何よりも重要になると確信
→学校や教師の生産性を上げることも、知識社会を効果
的に機能させる上では重要になる
ところが、「教育の生産性の水準が低すぎる。貧しい国で
は耐えがたい水準であり、すでに経済発展にとって最大の
障害となっている」(『断絶の時代』(1969))
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
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知識社会における教育


知識が重要な資源となり始め、知識労働者の生産性
を上げるという課題に取り組んだ
Output:
 『明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命』(1999)
の第5章
 「知識労働の生産性向上」(2002, Drucker Internet Module
8105 Corpedia Education)
 『断絶の時代』(1969)、『経営者の条件』(1967)、『ポスト資本
主義社会』(1993)でも扱われた
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
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知識社会における教育

『ポスト資本主義社会』(1993)
 ポスト資本主義社会=知識社会


個人、組織、国家の競争力の源が、有形資本から人的
資本へと替わりつつある
学校の生産性の向上
 第2章「責任ある学校」でも取り上げている
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
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知識社会における教育

ドラッカーの方法論の2つの特徴
1.
知識を新興資源とみなしたこと
→「すでに起こった未来」を知覚する能力があったことの実
例
2.
個人や機関に規範的な助言したこと
→断絶を最小限に抑え、過去との継続性を高める形で知
識経済という現実に社会を適応させようとする彼の姿勢
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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セルフマネジメント
セルフマネジメント

知識社会において個人に課された新たな要求
 労働の基盤が知識に移行し始めると、雇用者の研
修プログラムばかりに頼らず、積極的に自分をマネ
ジメントしなければならないと説いた
この新たな課題は、かなり早い時期から登場しているが、
初めて系統的に扱われたのは『経営者の条件』(1967)
 このテーマは、彼の死去(2005年2月2日)の一カ月前に発
表された『プロフェッショナルの条件』(2006)でも扱われて
いる

Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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セルフマネジメント


知識労働者には、
力を発揮するために自己を管理する責任がある
そのためには自分を知る必要がある
 自分の強みや弱み、価値観を知り、目的を達成する際に自
分はどんな行動をするかを知らなければならない

それが分かれば、
自分が力を発揮できる場所はどこか、
2. 成果をあげるにはどのように貢献すればよいか、
3. 関係に責任をもつためにはどうしたらよいか、
―が見えてくるMaciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
1.
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
2012年10月12日
明治大学 阪井和男
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自分を知る

自分を知ること
自分をマネジメントする第一歩
 自分の強みを知り、それを最大化するには何をすべきかを
知り、強みを十分に伸ばす妨げとなっている悪癖を改める
強みを知ることが極めて重要
 知識労働者の働くべき場所が、
何よりもその強みによって最善の貢献ができる場所だから
 他人の助けがなければ、
自分の強みを正確に把握するのは容易ではない
Maciariello, Joseph A. and Linkletter, Karen E., "Drucker's Lost Art of Management: Peter Drucker's
Timeless Vision for Building Effective Organizations", McGraw-Hill, New York, Chap. 7, 2011.
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自分を知る道具「フィードバック分析」

フィードバック分析
 ドラッカーは、その道具として「フィードバック分析」を推奨
 450年以上も前に、イエズス会創立者のイグナティウス・ロヨ
ラが用いた

イエズス会士たちは、仕事の中にフィードバック分析と継続学習の習
慣を組み込んでいた
 ドラッカーによれば、イエズス会の成功はそのおかげ

はるか昔からイエズス会士たちは、セルフマネジメント、フィードバック
分析、継続学習を修得していた
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自分を知る道具「フィードバック分析」

フィードバック分析
 「昔のイエズス会士は、
毎年、その週を集中的に使って前年の行いを振り返り、献
身の誓いを新たにした
 イエズス会の自己認識の技術(すなわち精神修養)は、
変化に対応するために新会員に継続学習と日々の自省と
いう習慣を浸透させた
 こうした技術は現代でも有効である

なぜなら、これらはまさに、多忙な人々が『走りながら考える』ために
生み出された技術だからである」(Heroic Leadership: Best Practices from a 450Year-Old Company That Changed the World) (元イエズス会士でJPモルガン.アンド・カンパニー
の取締役を務めたクリス・ローニー)
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自分を知る道具「フィードバック分析」
1.
2.
重要な決定や行動を行う前に、何が起きるか書く
自分の決定と期待した結果、実際の結果と比べる
このとき注目するのは、


3.
予想よりうまくいったところはどこか、
悪かったのはどこか
フィードバック分析の結果から
 強みと判明したところに集中し、
 強みの発揮を邪魔している弱みを補強し、
 自分の強みがさらに成果をあげそうな場所を判断する
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自分を知る道具「フィードバック分析」
4.
そして、強みを伸ばし続ける
新たな知識や技術を身に着け、
強みを伸ばす妨げになっている悪癖を改める

フィードバックされた情報
知識労働者に何をすべきでないかも教えてくれる
∴判明した弱みに頼るような仕事は引き受けるべきではない
強みを活かして最高の成果をあげることへ力を注ぐべき
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社会生態学の先駆者
社会生態学の思想
9人の社会生態学と、7人のマネジメント実践者から影響
 過去の仕事を礎として、
 社会生態学の仕事を規範作りにまで拡大させ、
 そのために自分の方法論も確立した
 重要な変化を見定め、それに注意を促し、
関連する特定のマネジメントの課題に対処し、
組織の経営者の助けになるような、
広範で一般的なマネジメント原則をつくり出す
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ドラッカーの先駆者たち

9人の社会生態学者
 社会生態学の手法(人間関係と機関をよりよく理解
するために、社会や周囲の状況を観察すること)を
教授し

7人のマネジメント実践者
 産業化が人間に与える衝撃を最小限に抑えようと
試みた
 産業が機能する社会は社会生態学者たちの示した
諸問題に対処しうる、ということを教えた
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9人の社会生態学者

社会生態学の「重要な実践者」
 社会生態学の原型を作った社会を観察する者
生じつつある変化、潜在的な脅威や課題、新たに生じた
状況への新たな取り組みに目を向けていた
 社会生態学に必要な観察の技術を授けた



様々な機関との関係を分析する方法
7人の実践者たち
 ドラッカーがマネジメント哲学を構築するのを助けた
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9人の社会生態学者

ドラッカーが挙げた8人
 「社会生態学における最も偉大な文献は、アレクシス・ド・ト
クビルの「アメリカの民主政治』である。他にこの体系に属
する者として、同じくフランス人であるベルトラン・ド・ジュブ
ネル、2人のドイツ人、フエルデイナンド・テニエスとゲオルグ
・ジンメルがいる。また3人のアメリカ人、ヘンリー・アダムス
、ジョン.R・コモンズ、そして、誰にもましてソースタイン・ベ
ブレンがいる。しかし、その気質・思考・手法において私に
最も近いのは、ビクトリア朝時代のイギリス人、ウオルター・
バジョットである」(『ある社会生態学者の回想』)

ドラッカーの友人であるカール・ポランニー
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7人のマネジメント実践者

科学的管理法を開発したパイオニア
 フレデリック・ウィンズロー・テイラー(1856-1915)
 ヘンリー・ローレンス・ガント(1861-1919)
 フランク・バンカー・ギルブレス(1868-1924)
 リリアン・ギルブレス(1878-1972)

その他
 リンダール・アーウィック(1891-1983)
 メアリー・パーカー・フォレット(1868-1933)
 ロバート・オーウェン(1771-1858)
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まとめ
まとめ
ドラッカーの方法論に影響を与えた社会生態学者とマネ
ジメントの実践者について概観
 明らかになったこと
ピーター・ドラッカーがルネサンス人の心だけでなく、
2. 研究を行動と結果に変える実用主義者の精神ももっていた
∴彼は理論家であり実用主義者であった
 彼のリベラルアーツの教養と、思考を成果に変えたいという
欲求は、社会生態学の実践を通して結びつけられた
 社会生態学は、講義やコンサルティング、著作活動を通して
実践された
1.
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まとめ

社会生態学の目標
 社会や組織、個人に重大な影響を与えるだろう未
来の傾向を見定めること
 経営者や為政者に与えるべき規範的な助言を考え
出すこと
ドラッカーは、変化や崩壊に直面してから慌てて無分別
な対応を取ることがないよう、余裕をもって助言をしようと
した
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まとめ

行動する社会生態学(ドラッカーの流儀)
労働の質そのものの変化を見抜き、
知識社会における生活や労働に備えるための方法を明らかに
したこと

ドラッカーはおよそ半世紀にわたり、
 有形資源に匹敵する価値のある知識という資源が、
何を出現させ、どんな問題や機会を生み出すかを研究

最も気にかけたのは、
1.
2.
個人が知識社会の要求に応える準備をしているか、
経営者が成長させるべき資産として人間を扱っているか
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おわり
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