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HER2 陽性胃癌に対する Pharmacodiagnostics*の開発

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HER2 陽性胃癌に対する Pharmacodiagnostics*の開発
Ask the Experts
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HER2 陽性胃癌に対する
Pharmacodiagnostics* の開発
Jan Trøst Jørgensen, MScPharm, PhD
Director, Dx-Rx Institute, Baunevaenget 76DK-3480 Fredensborg, Denmark
External Lecturer, Department of Pharmacology and Pharmacotherapy,
Faculty of Pharmaceutical Sciences University of Copenhagen, Denmark
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ダコ・ジャパン株式会社
www.dako.jp
〒 112-0004 東京都文京区後楽 2-5-1
住友不動産飯田橋ファーストビル
Tel : 03-5802-7211
Fax : 03-5802-7212
105-1101
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* “pharmacoDiagnostic®” は Dako の登録商標で、
「特定の治療に対する患者の反応性を予測するために治療前に実施する検査」を意味します。
HER2 発現状態の検査は、モノクローナル抗体であるトラスツズ
マブ(Herceptin®, Genentech/Roche)やチロシンキナーゼ阻害
従来、進行胃癌の治療は緩和を目的としてきており、治療法
剤であるラパチニブ(Tykerb , GSK)など HER2 阻害剤による乳
について現 実的なコンセン サスは ない。 様々な 組み合わせ
癌治療の適応を予測するために極めて重要な検査である(1, 2)
。
の 化 学 療 法 が 行 わ れており、5-FU/ カペシタビン(Xeloda®,
HER2 陽性と HER2 阻害剤による治療の有効性との相関を示す
Roche) とシスプラチンまたはオキサリプラチン、エピルビシ
研究は数多く報告されている(3 ~ 5)
。HER2 タンパクは 185
ン(Pharmorubicin®, Pfizer)またはドセタキセル (Taxotere®,
kDa の膜貫通型チロシンキナーゼ受容体であり、上皮細胞増殖
Sanofi-Aventis) など第 3 薬剤の単独または併用投与との組み
®
因子受容体(EGFR)ファミリーに属する。HER2 過剰発現は腫
合わせの効果が最も高いようである。最近、ある第 III 相試験
瘍形成を促進し、いくつかのヒトのがんの発症に関わっている
で、進行胃癌患者 457 人をランダム化し、ドセタキセル、シス
ことが示されている(6)
。HER2 タンパクをコードする遺伝子は
プラチン、5-FU の組み合わせ、またはシスプラチン、5-FU の
17 番染色体にあり、約 20 ~ 25% の女性乳癌患者において増幅
組み合わせのいずれかを投与した結果、全生存期間の中央値は
し、癌細胞を増殖させることが見出されている(1)
。乳癌におけ
それぞれ 9.2 ヵ月と 8.6 ヵ月であった(14)
。また、同様の別の
る HER2 過剰発現と HER2 遺伝子の増幅は予後不良とも関連が
試験では進行食道癌または進行胃癌の患者 507 人をランダム化
ある(1)
。
し、エピルビチン、シスプラチン、5-FU の組み合わせ、または
図1.胃の腺癌
Dako HercepTest ™ による染色
スコア 3+
(対物レンズ 20 倍)
エピルビチン、オキサリプラチン、カペシタビンの組み合わせの
免疫組織染色(IHC)法による HER2 タンパクの過剰発現や、蛍
いずれかを投与した。この試験では、全生存期間の中央値はわ
光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)法および発色 in situ ハ
ずかに上昇し、それぞれ 9.6 ヵ月と 11.2 ヵ月であった。このよ
イブリダイゼーション(CISH)法による HER2 遺伝子増幅など、
うに全生存期間の中央値が 8 ~ 11 ヵ月という進行胃癌に対する
さまざまな病理組織標本を用いた検査法が使用可能である(1,
効果的な治療方法を新たに開発する必要性は明らかである。乳
2)
。HER2 の遺伝子増幅や過剰発現は、乳癌以外でも、卵巣癌、
癌で実証されているとおり、薬剤治療の効果を予測できるバイ
前立腺癌、大腸癌、膵臓癌、胃癌などの悪性腫瘍で報告されて
オマーカーと標的治療薬による層別化治療(stratified medicine)
いる(7 ~ 11)
。特に胃癌は、HER2 陽性進行胃癌患者における
は、進行胃癌に対するより効果的な治療となるアプローチである
化学療法とトラスツズマブの併用すなわち ToGA 試験の結果が
(2, 18)
。この章では、HER2 陽性の胃食道癌および胃癌に対す
有望であったことから、最近注目を集めている。ToGA 試験は多
る pharmacodiagnostics・コンパニオン検査薬の臨床的開発に
施設第 III 相臨床試験で、HER2 陽性の進行胃食道および胃の
ついて論じる。
図 2.胃の腺癌
Dako HER2 FISH pharmDx ™ Kit に
よる染色
HER2 遺伝子増幅
(HER2/CEN-17 ≥ 2.0)
(対物レンズ 40 倍)
腺癌の患者をランダム化し、化学療法のみまたは化学療法とトラ
スツズマブの併用を行った(12)
。
胃癌における HER2 発現状態
胃癌は全世界的に主要な疾患である。最近のデータでは、毎年
1986 年の最初の報告(19, 12)以来、数多くの研究により確認
新たに胃食道癌または胃癌と診断される患者数は 140 万人、そ
されている。最近発表されたレビューにおいて、個々の研究 24
の癌による死亡数は 110 万人とされている(13)
。罹患率は地
件の合計 6,542 例について HER2 タンパク過剰発現のデータが
胃癌における HER2 遺伝子の増幅と HER2 タンパク過剰発現は
理的な差異が顕著で、発展途上国において幾分高い傾向がある
掲載された(21)
。HER2 陽性を呈する症例の割合は研究によっ
(14)
。男性の罹患率は女性の 2 倍である。予防や治療が進んで
て大幅に異なる(8.2 ~ 53.4%)
。この差異の原因として、試験
いるにも関わらず、世界の大部分において 5 年生存率はいまだ
に登録した母集団の違いなど複数の要因が関係すると考えられ
約 20%にすぎない。胃癌の罹患率は減少しているが、相変わら
るが、最も大きな要因は、使用した検査法が標準化されてい
ず予後不良である(15)
。この低い生存率は、診断時にすでに病
ないこと、そして検査結果を判定する基準が統一されていない
期が進行していることが主な原因である。日本のように胃癌のス
ことが考えられる。この 24 件の研究の結果を加重平均すると、
クリーニングが標準検査として行われれば、腫瘍を早期に発見
HER2 陽性の癌症例の割合は 19.0% であった。また、これらの
し、外科的切除を行うことが可能となると思われる。外科的切
研究の多くは、HER2 タンパク過剰発現が予後不良と関連してい
除により 5 年生存率は 50%以上に上昇することが示されている
ることも報告している。
(15)。
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Connection 2010 p40-46 HER2 陽性胃癌に対する Pharmacodiagnostics の開発 | 3
参考文献
ToGA 試験(22)
検査法の種類
患者総数
HER2 陽性率
IHC/FISH
3,667
22.1%
登録患者数ではなくスクリーニング実施者数を基に計算された
レビュー(21)
IHC
6,542
19.0%
ものであった。また、示説から、検査を実施した 3,997 人の患者
レビュー(21)
FISH/CISH
869
19.4%
「……HER2 は癌治療の標的としての
重要性を示し、切除不可能な胃癌症
のうち 190 人が IHC スコア 0 または 1+ で FISH 陽性であったこ
とが示された。この最近のデータから、ToGA 試験のスクリーニ
表 1. 胃癌における HER2 陽性率
例に対する新たな治療への道を切り
ング対象患者に関する IHC 法と FISH 法の一致率は、胃癌につ
いての他の研究(25 ~ 27)の報告および乳癌についての知見
開いた」
(28 ~ 30)と一致すると結論することができると考えられる。
研究の中には少数ではあるが、胃癌患者における HER2 遺伝
に基づく最近のメタアナリシスでは、全 HER2 陽性率が 22.2%、
子の増幅を FISH 法または CISH 法で評価したものもあり、合
全生存期間(OS)に対する相対リスクの中央値が 2.75 であるこ
前臨床試験
計 869 人の患者のデータが掲載されている(21)
。HER2 遺伝
とが示された(1)
。
胃癌における HER2 過剰発現と増幅についての所見と乳癌の研
たは化学療法(シスプラチン・ドセタキセル)と併用して投与して
究での知見より、HER2 阻害薬が抗腫瘍効果をもつという仮説を
いるが、最終結果はまだ報告されていない(38 ~ 40)。
子増幅を示す症例の割合には多少の差異がみられるが(16.0 ~
27.1%)
、IHC 法での差異よりはるかに小さい。これは FISH 法
胃癌患者における HER2 遺伝子増幅と HER2 過剰発現との関係
前臨床腫瘍モデルで試験することは妥当と思われる。in vitro お
および CISH 法は定量的検査であるのに対し、IHC 法は半定量
を FISH 法と IHC 法により調査した研究がいくつかあり、FISH
よび in vivo 試験がはじめて行われたのは 1992 年で、抗 HER2
ToGA 試験は、現在のところ、十分な管理のもとに行われ発表
的な判定基準を用いていることに起因すると考えられる。この 5
法と IHC 法との一致率は 86.9%から 96.4%であった。この結
モノクローナル抗体を 2 種類組み合わせて使用した。HER2 阻
された唯一の進行胃癌における HER2 阻害薬の臨床試験であ
件の研究の結果を加重平均すると、HER2 遺伝子増幅患者の割
果から、これら 2 種の検査法の一致率は比較的高いと思われる
害薬の増殖阻害効果は、in vitro では培養したヒト胃癌の細胞株
る。試験はアジア、オーストラリア、ヨーロッパ、中央・南アメリ
合は 19.4% であった(21)
。胃の腺癌について、図 1 に HER2 タ
(25 ~ 27)
。これにより、乳癌の場合と同様に、HER2 遺伝子
NCI-N87 で、in vivo ではヌードマウスに異種移植した同細胞株
カ、南アフリカの世界各地域 24 ヵ国で実施された(12)
。試験
にて確認された(31)
。その後、同種の研究がトラスツズマブと
デザインは非盲検ランダム化多施設共同第 III 相試験で、進行胃
ラパチニブを使用して、細胞株 NCI-N87 だけでなく SMU-216、
食道腺癌および胃腺癌の HER2 陽性症例を対象とした。IHC 陽
増幅により HER2 タンパクが過剰発現していることが示唆される。
ンパク過剰発現(IHC スコア 3+)を、図 2 に HER2 遺伝子増幅
(HER2/CEN-17 ≥ 2.0)の例を示す。
胃癌における HER2 遺伝子増幅と HER2 過剰発現に関する大部
4-IST、MKN-45P など他の HER2 陽性の胃癌細胞株について
性(3+)または HER2 FISH 陽性(HER2:CEN-17 ≥ 2.0)のいず
最近報告された ToGA 試験では、胃癌 3,667 例の腫瘍検体に
分の研究は、3,667 人の患者でスクリーニングが行われた ToGA
も行われた。これらさまざまな前臨床試験で、トラスツズマブ
れかを HER2 陽性とした。IHC 検査には、Dako HercepTest ™
ついて HER2 発現状態のスクリーニングが実施されたが、これ
試験と比較すると小規模である。現在までに得られた結果をみ
とラパチニブは単独投与においても、また 5-FU、カペシタビン
を用い、判定基準として Hoffmann らの報告に記載された判定
はこれまでの報告における最大数である。本試験では、スク
ると、遺伝子とタンパクとの関係は上記の研究の結果ほど明確で
、イリノテカン(Camptosar , Pfizer)
、シスプ
(Xeloda , Roche)
基準を若干修正して用いた(25)
。FISH 検査には Dako HER2
リーニング段階で全患者の HER2 遺伝子増幅を FISH 法(Dako
はないようである。ASCO 2009 の abstract では IHC 法と FISH
ラチン、パクリタキセル(Taxol , Bristol Myers Squibb)など胃
FISH pharmaDx ™ Kit を使用した。試験登録患者をランダムに
HER2 FISH pharmDx ™)で、HER2 タンパクの過剰発現を IHC
法の一致率は 87.5%としており(23)
、これは他の研究の結果と
癌治療に広く使用される化学療法剤との併用においても奏功す
割り付け、化学療法(5-FU またはカペシタビンとシスプラチンの
®
®
®
法(Dako HercepTest ™)で測定した(22)
。スクリーニング段
合致する。しかし、abstract では、
「乳癌での IHC スコア 0 ま
ることが示された。ある in vivo 試験では、カペシタビン、シス
併用)または化学療法とトラスツズマブの併用を行った。計 584
階での試験の結果は、進行胃癌患者の 22.1% が FISH 法、IHC
たは 1+ の検体はほとんど FISH 陰性であるが、ToGA では IHC
プラチン、トラスツズマブの三剤併用により NCI-B87 の異種移
人がランダム化された。トラスツズマブは初期投与量 8mg/kg と
法のどちらかで HER2 陽性であったことを示した(22,
23)
。ヨー
スコア 0 または 1+ の検体が FISH 陽性を示す頻度が IHC2+ で
植腫瘍モデルにおいて著しい腫瘍増殖阻害効果が示されている
し、病勢が進行するまで 3 週間間隔に 6mg/kg 投与した。主要
ロッパとアジアでの HER2 陽性率の差異は認められなかった。
の FISH 陽性の頻度と同様に高い傾向を示した(23% vs 26%)
」
(34)
。事実、この三剤併用が後に ToGA 試験において実施され、
評価項目は全生存期間(OS)とし、副次的評価項目は全奏功率
(23)とも記載している。Abstract での指摘どおり、この点で最
進行胃癌症例で効果を示した(12)
。こうした数々の HER2 陽性
(ORR)と無憎悪生存期間(PFS)などとした(12)
。ToGA 試験
適な検査において 95% の一致率を示す乳癌とは異なっている
率に関する疫学的研究と in vitro および in vivo の前臨床試験の
は 1)標準化学療法とトラスツズマブの併用の安全性と効果の検
また Lauren 分類では intestinal type のほうが diffuse type・混
(30)
。IHC スコア 0 または 1+ で FISH 陽性を示した患者数は
結果により、HER2 陽性胃癌に対するトラツズマブの臨床試験を
証、2)試験に使用した HER2 IHC 検査と FISH 検査の効果予測
合型より HER2 陽性率が高かった(23)
。ToGA 試験では、標準
131 人であったが、これは ToGA 試験登録患者 584 人の約 23%
開始する科学的根拠は十分実証されたようである。
的特性の実証という 2 つを目的とした。
化された IHC 検査法と FISH 検査法を使用した1つの中央検査
に相当する。
これまでに報告されているように、HER2 陽性例は胃に癌が局在
する場合より、胃食道接合部にある場合のほうが多かった(24)
。
施設において HER2 検査が行われたという事実により、その検
ToGA 試験
主要評価項目については、化学療法とトラスツズマブの併用が
査結果の信頼性は高いと考えられる。表1に ToGA 試験および
2009 年 9 月にベルリンで共催された欧州癌会議(ECCO 12)お
トラスツズマブ使用に関する臨床報告は ToGA 試験のデータ以
化学療法単独より統計的に有意に優れていた。OS 中央値は
最近のレビューからの IHC 法と FISH 法での胃癌における HER2
よび欧州臨床腫瘍学会(ESMO 34)で、ToGA 試験の HER2 検
外は比較的少ない。2005 年と 2006 年に少数の症例報告が発
11.1 ヵ月から 13.8 ヵ月に延長し(p=0.0046)
、ハザード比は 0.74
陽性率の比較を示す。
査に関する abstract が示説にて発表された(22)
。この示説で
表され、少数の患者に対する化学療法(5-FU・カペシタビン・ド
(95% CI: 0.60 ~ 0.91)であった。 副次的評価項目では、ORR
HER2 発現状態に関して文献で発表された研究のほぼ半数が、
は、ToGA 試験において IHC スコア 0 または 1+ で FISH 陽性に
セタキセル)とトラスツズマブの併用が有効であったことが報告
も PFS も化学療法とトラスツズマブの併用のほうが優れていた
過剰発現または遺伝子増幅が予後不良性への関連を報告してい
なる患者数が比較的多いにも関わらず、なぜ一致率が高かったか
されている(36, 37)
。さらに、第 II 相試験がパイロット的にいく
(12)
。HER2 発現状態に関して化学療法とトラスツズマブの併用
る。これは乳癌についても同様である。39,730 人の患者データ
について詳細に解説がなされた。IHC と FISH の一致率は試験
つか進行中と報告されており、そこではトラスツズマブを単独ま
の効果を評価するサブグループ解析を行った結果、トラスツズマ
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ブによる生存期間の延長は HER2 タンパク過剰発現レベルに依
ブ適応患者の選択のための一次検査に使用すべきであることが
治療の適用候補となる胃癌患者の選択には IHC を一次検査とす
存することが示された。生存期間がもっとも延長したのは HER2
示された。図 3 に示すように、トラスツズマブの効果は HER2
べきということが強調されている。
検査結果が IHC3+ の患者群であった。この群で化学療法とトラ
タンパク過剰発現の程度に依存する傾向が認められ、IHC3+ の
スツズマブの併用を行った場合、OS 中央値は 17.9 ヵ月で、ハザー
症例群で OS 中央値が最大であった。さらに、スクリーニング
結論
ド比は 0.58(95% CI: 0.41-0.81)であった(12)
。図 3 に IHC ス
検査結果を除いた ToGA 試験のみの HER2 検査結果を見ると、
ToGA 試験により有望なデータが得られ、進行胃癌の治療は大
コア別のサブグループ解析結果を示す。
HER2 タンパク過剰発現と遺伝子増幅との一致率は乳癌での一
きく一歩前進したと考えることができる。HER2 は癌治療の標
般的な所見より胃癌でのほうが若干低く、IHC 0 と IHC 1+ で比
的としての重要性を再度示し、切除不能な胃癌症例に対する新
較的多くの HER2 FISH 陽性例が認められた(22,23)
。
たな治療への道を切り開いた。すでに数年にわたって層別化治
サブグループ解析の結果に基づき、全登録患者から IHC 法 3+、
または IHC 法 2+ かつ FISH 法陽性の患者群に対し探索的解析
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を行った。これら要件を満たした合計 446 人の患者の、化学療
2009 年 12 月に 欧 州 医 薬 品 庁(EMEA)の ヒト 用 医 薬 品 委
かれることが期待される。胃癌を含む癌治療の個別化と効果を
法とトラスツズマブの併用群における OS 中央値は 16.0 ヵ月であ
員 会(CHMP)は、ToGA 試 験 の 結 果に 基づき、Herceptin ®、
促進する重要な要素は分子診断であり、今後数年でさらに多数
7.
るのに対し、化学療法単独群では 11.8 ヵ月であった。ハザード
Genentech/Roche の適 用を HER2 陽 性の胃または胃食 道 接
の薬剤 - 診断の組み合わせが導入されることが期待される(18,
Slamon DJ, Godolphin E, Jones LA, et al. Studies of the HER2/neu proto-oncogene
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8.
比は 0.65(95% CI: 0.51 ~ 0.83)であった。ToGA 試験の全患
合部の転移性腺癌に拡大することに対し前向きな発言を行った。
43)
。ToGA 試験で有望な結果が得られた今、世界中の進行胃
Morris MJ, Reuter VE, Kelly, WK, et al. HER2 Prolining and Targeting in Prostate
Carcinoma. Cancer 2002; 94:980-986.
者フォローアップ期間の中央値は 17.1 ヵ月と報告されている。
治療選択に関し CHMP は「承認文書」で、Herceptin® の適用は
癌患者すべてにおいてルーチン HER2 検査が実施されることが
9.
Schuell B, Gruenberger T, Scheithauer W, et al. HER2/neu protein expression in
colorectal cancer. BMC Cancer 2006; 123:1-5.
検証済みの正確な検査法による判定で IHC2+ かつ FISH 陽性ま
期待される。
IHC 法と FISH 法それぞれの効果予測的特性については、サブ
たは IHC3+ と定義される HER2 過剰発現を呈示する転移性胃
グループ解析および探索的解析において、IHC 法をトラスツズマ
癌例に限るべきとしている(41)
。ここでもまた、トラスツズマブ
20
用語集
■
Lauren 分 類:1965 年 Pekka Lauren が 提唱した基 準に 基づく胃
癌の組織学的分類。intestinal type と diffuse type・混合型がある
(44)
。
■
ハザード比: 相対リスクを推定する値で、臨床試験などで 2 つのアウ
トカムを統計解析する場合に多用する。ToGA 試験ではトラスツズマ
ブと化学療法併用と化学療法単独の患者群間で死亡リスクを比較す
るのにハザード比を使用した。
OS (Months)
18
■
16
14
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C
C+T
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2
0
IHC0/FISH+
(n=61)
IHC1+/FISH+
(n=70)
IHC2+/FISH+
(n=159)
IHC3+/FISH+
(n=256)
図 3. 化学療法(C)と化学療法 + トラスツズマブ併用(C+T)の両治療グループの全生存期間を IHC スコ
ア別に比較(単位:月)
6 | Connection 2010 p40-46 HER2 陽性胃癌に対する Pharmacodiagnostics の開発
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Connection 2010 p40-46 HER2 陽性胃癌に対する Pharmacodiagnostics の開発 | 7
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