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五十嵐レポート - 三菱UFJ投信

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五十嵐レポート - 三菱UFJ投信
五十嵐レポート
2011 年度
第 10 号
三菱UFJ投信株式会社 発行 2012年1月13日
当「レポート」の内容は 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社調査部長の五十嵐 敬喜
によって作成されております。
五十嵐 敬喜(いがらし たかのぶ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社調査部長
株式会社三和銀行(現株式会社三菱東京UFJ銀行)資金証券為替部(ニューヨーク)勤務などを経験。
テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」にゲストコメンテーターとして出演のほか、各種テレビ・ラジオ等に
出演。新聞・雑誌等へのレポート、コメント掲載等も多数。
お客様資料
輪転機を回せば景気は浮揚するのか
いつまでもデフレから抜け出せない日本経済
デフレが続いています。広義の物価指標であるGDPデフレーターの上昇率の推移を見ると、1994 年
第 4 四半期に前年比でマイナスに落ち込んだ後、消費税率引き上げの影響(1997 年第 2 四半期∼1998
年第 1 四半期)や資源価格高騰の影響(2009 年第 1 四半期∼2009 年第 3 四半期)でそれぞれ 1 年間程度
だけプラスに転じた以外は、ずっとマイナスが続いています。日本経済は、実に 17 年間もデフレ状態に
あるわけです。
この間、名目GDP(国内総生産)は全く増えていません。以前にも本欄で紹介しましたが、わが国
の名目GDPは 1995 年を 100 とする指数で見て 2010 年は 97 程度と、若干ながら減少(!)しています
(2009 年はリーマンショック、2011 年は東日本大震災の影響でそれぞれ一時的に大きく落ち込んでいる
ので、2010 年と比較しました)。他の先進国では同じ期間に 40∼90%増えていますから、日本経済だけ
が成長していないのです。日本経済だけでデフレが続いていることと相俟って、デフレがゼロ成長の原
因だと主張する人たちも少なくありません。
こうした主張をする人たちに共通している(と私が考える)のは、「デフレは貨幣的(マネタリー)な
現象だから、日銀が金融政策を改めさえすれば、デフレから脱却することは可能だし、経済も成長する」
という意見の持ち主でもあるということです。この考え方は広く浸透していて、私自身も、あちこちで
「日銀券を大量に刷ればデフレは解消し、景気もよくなるのではないか」といった質問をたびたび受け
ています。今回はこの問題を考えてみたいと思います。
最初に、私の見解を披露しておきますと、「デフレは景気低迷の結果であって、原因ではない」
、「日銀
券を増刷してもデフレが解消したり、景気がよくなったりはしない」と考えています。
「日銀券の増刷」が意味すること
輪転機を回して「おさつ」を低いコストで大量に印刷することは可能です。確か、1 万円札を 1 枚刷
るコストは 16 円(0.16%)ぐらいだと聞いたことがあります。そうだとすると、約 160 億円のコストで
10 兆円分の 1 万円札を刷ることができる計算です。
では、印刷された日銀券はどんなルートを経て市中に出回るのでしょうか。そこには 2 段階のプロセ
スがあります。まず第 1 に、日銀の金庫から民間銀行の金庫に日銀券が運ばれます。これを民間銀行に
よる「現受け」と呼びますが、民間銀行が日銀に保有している預金口座(日銀当座預金)から現金を引
き出すのです。第 2 に、個人や企業が民間銀行に持っている預金口座(当座預金や普通預金)から現金
○当資料は、投資家のみなさまに対して参考となる情報の提供を目的として、三菱UFJ投信が作成したものです。○当資料の内
容は、作成基準時点のものであり、将来予告なく変更されることがあります。また、将来の市場環境や運用成果等を示唆ないし保
証するものではありません。○当資料は、信頼できると判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性を保証
するものではありません。○当資料中のグラフ・数値等は、過去の実績・状況であり、将来の市場環境等や運用成果等を示唆・保
証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。○当
資料は、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
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五十嵐レポート
を引き出します。こうして世の中に日銀券が出回ることになります。
さて、日銀券をもっと刷れと要求している人たちは、市中に流通している日銀券の量を増やすことが
最終的な目標なのでしょうか。上の説明から明らかなように、日銀券の流通量が増えるためには、預金
者による現金の引き出しが増える必要があります。そのためには、そもそもの預金量が増えなければな
りません。
クレジットカードやプリペイドカードを廃止したり、給与の現金支給を復活させれば、市中の日銀券
の流通量は間違いなく増えます。とはいえ、それでデフレが解消するとは誰も思わないでしょう。そう
であれば、「もっと日銀券を」という要請は、もっと預金残高を増やすべきだ、預金残高が増えるような
政策を実行すべきだ、という意味だと理解できます。消費額は財布の中の 1 万円札の枚数に比例するの
ではなく、消費者の預金残高とより密接な関係があると考えられるのです。
日銀による国債の直接引き受け
ところで、日銀券は印刷しただけではまだ「ただの紙」に過ぎません。これが紙幣として価値を持つ
ためには条件があります。日銀券という紙幣は日銀の負債です。金本位制の時代には、1 万円札を日銀
に持っていけば 1 万円相当の金と交換してもらえました。現在はそうはなっていませんが、それでも 1
万円札には(金ではないが)1 万円の価値を持つ資産の裏づけが必要です。つまり、日銀のバランスシ
ート上で日銀券という負債の額に見合った資産を日銀は同額保有しなければなりません。そうなって初
めて「ただの紙」が「紙幣」に変わるのです。
では、日銀が紙幣(日銀券)発行の見合いとして保有する資産とは何でしょうか。理屈としては、資
産に計上できるものなら何でもいいのです。FRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長はかつ
てケチャップでもいいと言ったそうです。とはいえ、現実には、その資産の中心は国債です。日銀が誰
かから国債を購入し、その代金として、輪転機で刷った日銀券で支払うイメージです。
今は日銀法で禁じられていますが、日銀が新発国債を政府から直接購入すると、日銀は政府が日銀に
保有している預金口座(政府当座預金)に代金を振り込みます。政府はこの預金を財政支出の原資にし
ます。これを現金で引き出して、直接誰かに渡してもいいし、誰かの預金口座に振り込んでもいいので
す。まさに「日銀が輪転機を回す」ことを意味するわけで、デフレの解消や景気浮揚の助けになると思
われます。
とはいえ、これは財政赤字を拡大する政策です。歳出の原資として国債を発行する際、それを市場に
消化させるのではなく日銀に買わせるのです。デフレが解消するまでの期間に限れば問題ないという人
もいますが、こうした市場が持つ価格機能を無視したやり方は、海外を含めた金融市場に極めてネガテ
ィブなメッセージを発信する結果になると思います。無理筋の策だと言わざるを得ません。
○当資料は、投資家のみなさまに対して参考となる情報の提供を目的として、三菱UFJ投信が作成したものです。○当資料の内
容は、作成基準時点のものであり、将来予告なく変更されることがあります。また、将来の市場環境や運用成果等を示唆ないし保
証するものではありません。○当資料は、信頼できると判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性を保証
するものではありません。○当資料中のグラフ・数値等は、過去の実績・状況であり、将来の市場環境等や運用成果等を示唆・保
証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。○当
資料は、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
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使われない預金の増加
日銀が市場から国債を購入する場合はどうでしょうか。日銀が民間銀行から購入するのであれば、日
銀のバランスシート上で、資産側に国債が計上され、負債側に同額の(民間銀行の)日銀当座預金が計
上されます。購入相手が銀行ではなく、機関投資家といった非銀行の場合は、日銀当座預金が増えると
ころまでは同じですが、加えて、この機関投資家の預金残高が増加します。
日銀が国債を購入することによって、銀行であれ、機関投資家であれ、その預金残高が増えるわけで
す。これが現金で引き出されればやはり日銀券の流通量が増えるではないかと思われがちです。しかし
よく考えてみると、必ずしもそうではありません。
銀行のバランスシートの変化を考えると、保有していた国債が減少し、同額の日銀当座預金が増加し
ます。機関投資家のバランスシートも、保有していた国債が減少し、同額の預金が増加します。いずれ
も、資産の中身が替わっただけで、資産の総額は不変です。
さて、銀行や機関投資家はなぜ国債を保有していたのでしょうか。もちろん資産運用の一環としての
ことです。そうであれば、増加した預金を引き出して使ってしまうといったことはありえないと考えら
れます。日銀が高く買ってくれるから一旦国債を売ったものの、得たお金は再び別の資産に運用するに
違いありません。つまり、銀行や機関投資家の預金残高が増えるのは確かですが、それが使われて(引
き出されて)デフレ解消に寄与するというシナリオは描きがたいのです。
換言すると、日銀は銀行や非銀行部門の「引き出せば日銀券になるような預金」を増やすことはでき
ますが、新発国債を直接引き受けて預金を増やすのでもない限り、使われない預金が増えるだけに終わ
ってしまう可能性が高いと思われます。
政府紙幣の発行という暴論
ここで、話が少しわき道に入りますが、「政府紙幣」に触れておきます。日銀ではなく、政府が発行す
る紙幣のことですが、そのメカニズムは次のようなものです。安住財務相が、「金 10 兆円也」と書いた
お札(ふだ)を桐の箱に入れて、白川日銀総裁に渡すとします。白川総裁はそれを日銀の金庫にしまい、
バランスシートに 10 兆円の資産として計上します。負債側には同額の政府当座預金が計上されます。そ
して、政府はこの 10 兆円を使うことができるのです。
このとき政府は、通常の国債を発行して得たお金と区別する意味で、この 10 兆円に限って、日銀券と
は異なる「政府紙幣」という紙を印刷して使うのです。とはいえ、その価値は日銀券と全く同じです。
そのことを政府が保証するのです。これが政府紙幣です。
以上の説明でお分かりだと思いますが、この仕組みにおいては、わざわざ政府紙幣という別の紙幣を
用意する必要もありません。政府紙幣の核心は、政府に対する信用を日銀が資産とみなして、日銀券(政
府当座預金)を発行するということなのです。政府に対する信用という意味では、国債もお札(ふだ)
○当資料は、投資家のみなさまに対して参考となる情報の提供を目的として、三菱UFJ投信が作成したものです。○当資料の内
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証するものではありません。○当資料は、信頼できると判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性を保証
するものではありません。○当資料中のグラフ・数値等は、過去の実績・状況であり、将来の市場環境等や運用成果等を示唆・保
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も同じですが、国債が償還されるのに対して、お札は一切償還されないところに大きな違いがあります。
そんな代物を日銀は資産とみなしていいのかと皆が疑問を呈するようになれば、日銀券は信用をなくし、
価値が暴落してしまう(ハイパーインフレになる)のは容易に想像がつきます。
以上の話を踏まえると、「発行済みの国債は、日銀が輪転機を回して償還すれば何の問題もない」とい
う議論の意味も理解できます。これは、国債は政府紙幣で償還すればいいという議論と同じなのです。
お札(ふだ)の見合いとして政府当座預金を増やすことができた政府が、それを使って国債を償還する
わけです。何百兆円もの価値があることになっているお札を日銀が持たされていても、日銀券に対する
信頼は揺るがないという暴論です。
ちなみに、政府紙幣でなく本来の日銀券(政府当座預金)で国債を償還するということになると、そ
の際、日銀が保有する資産は国債でしょう。その場合は、新しく国債を発行して既発国債を償還するこ
とになりますから、それは償還ではなく単なる借り換えです。
借金こそが成長の原動力
以上の話をまとめると、まず日銀券を増刷するということは、「預金がより多く使われる(支出される)
ようにする」ことを意味します。預金には、民間銀行や政府が日銀に保有している預金(日銀当座預金、
政府当座預金)と民間の銀行預金があります。輪転機を回すという表現に代表される経済効果を生むた
めには、政府が当座預金を歳出に充てるか、個人や企業が預金を支出に充てることが必要です。
その前段階として日銀が日銀当座預金、政府当座預金、あるいは銀行預金を増やすことは可能です。
しかし、新発国債を政府から直接引き受けるのでもない限り、増えた預金が支出される保証はないし、
むしろ支出されない可能性が高いと考えられます。
では使われる預金を増やすことはできないのでしょうか。もちろん、ありえます。それが信用創造で
す。個人や企業が銀行からお金を借りることです。銀行からお金を借りると預金が増えます。しかもお
金を借りるのはそれを使うためですから、増えた預金は使われるのです。さらに言えば、信用創造以外
でも、企業が株式や社債を発行して資金を調達すれば、そのお金は使われます。この場合、マクロで見
れば預金は増加しませんが、お金を使わない人の預金がお金を使う人の預金にシフトすることによって、
デフレの解消や景気の浮揚に寄与することが期待できるのです。
資金を調達する個人や企業は、「返す当てがある」から借りるわけです。ここがポイントです。この行
為がないと経済は活性化しないし、デフレもなかなか解消しないと思います。日銀に輪転機を回させる
という話は、直感的には理解しやすいかもしれませんが、中身は空虚です。個人や企業、とくに企業に
お金を借りる気を起こさせることが成長戦略の肝だと考えます。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長
五十嵐敬喜)
○当資料は、投資家のみなさまに対して参考となる情報の提供を目的として、三菱UFJ投信が作成したものです。○当資料の内
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資料は、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
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