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第8回
今日の学習項目 1.有形固定資産の種類と表示 2.有形固定資産の原価決定 3.有形固定資産の原価配分-減価償却 4.有形固定資産の期末評価-減損会計 5.リース資産 6.まとめ 会計学1 第8回 有形固定資産 1 2 財務諸表での表示 1.有形固定資産の種類と表示 貸借対照表 • 長期投資資金→生産活動→製品に価値移転(製造 原価)→販売代金の受取・回収→長期投資資金の 回収 • 有形固定資産とは,1年を超えて利用する事業用資 産で,物理的な形態を備えた項目です。費用性資 産。 • 次の項目があります。①償却資産,②消耗性資産, ③非償却資産,④建設仮勘定。リース資産。 固定資産 有形固定資産 償却資産 消耗性資産 リース資産 損益計算書 減価償却 売上原価 販売費・管理費 非償却資産 建設仮勘定 生産活動に関する資産の減価償却費は売上原価(P/L)に算入され, 本社・営業所の資産の減価償却費は販売費及び一般管理費(P/L)に, 計上されます。リース資産も減価償却されます。 非償却資産と建設仮勘定はP/Lとリンクしません。 3 有形固定資産の種類 4 有形固定資産の種類 つづき (3)非償却資産 使用や時間の経過によって価値の低下が生じない 有形固定資産。土地,希少価値のある美術品。 (1)償却資産 使用や時間の経過とともに価値が低下する有形固 定資産。減価償却により費用化します。建物,構築 物,機械装置,船舶,航空機,車両運搬具,工具器 具備品。 (4)建設仮勘定 建物や機械装置等の建設に際し,建設業者に支 払った手付金や前渡金等の,工事の完成までに要 するすべての支出をいったん集計するための勘定。 建設が完了し引き渡しを受けた時点で,建物や機 械設備等の本来の資産勘定に振り替えます。それ までは,減価償却を行いません。 (2)消耗性資産 採取によって数量的に減少し,最後に枯渇する天然 資源等。採取された数量に応じて償却されます。鉱 山,油田,山林。 5 6 1 費用性資産の会計処理 2.有形固定資産の原価決定 第7回再掲 • 生産・販売を経て最終的に費用となる項目を費用性 資産といいます。 ≠貨幣性資産:事業投資の回収過程にある項目 (売上債権),最終的に収入となって貨幣を増加させ る項目(有価証券,貸付金)。 • 費用性資産の会計処理は,①原価の決定,②原価 の売上原価と時期繰越額への配分,③期末繰越額 の評価という3つの手続きから構成されます。 • 有形固定資産の原価 =取得原価-減価償却累計額。 (1)購入の場合 取得原価=購入代金+付随費用 取引運賃,手数料,関税,据付費,試運転費等。 値引(品質不良等による単価の切り下げ),割戻(多額の購入 による代金の減額分)は,取得原価から控除します。割引(代 金の早期支払による支払の一部免除)は,金利の性質を持 つことから,営業外収益に計上します。 7 有形固定資産の原価決定 8 資本的支出と収益的支出 つづき • 有形固定資産に関する2種類の支出 (2)自家建設の場合 適正な原価計算の基準に準拠して算定された製造原価をもって取得原価 とします。 (3)現物出資の場合 出資者に対して交付された株式の発行価額をもって取得原価とします。時 価。 (4)交換の場合 交換後も投資が継続しているとみなし,譲渡資産の適正な簿価をもって取 得原価とします。圧縮記帳も認められています。 (5)贈与の場合 公正な評価額をもって取得原価とします。国庫補助金,建設助成金,工事 負担金の場合,税法では,①圧縮記帳,②繰延利益,③積立金方式に よる処理が認められています。 (1)資本的支出 改良等(耐用年数を延長させる効果を持つ支出,資産価値を 増加させる支出,増築・拡張・模様替えの支出)のための支 出。資産原価に算入されて資産の一部とされます。 (2)収益的支出 定期的な補修・修理・部品交換等のための支出。支出年度の 費用として処理され,資産原価とはされません。金額が僅少 な支出はすべて収益的支出とされます。 9 3.有形固定資産の減価配分-減価償却 10 減価償却の方法 • 有形固定資産の価値低下(営業活動への貢献)は,棚卸資 産とは異なり,物理的な数量の減少を伴いません。 期間を配分基準 とする方法 定額法,定率法,級数法 償却年金法 正規の減価償却 • 減価は,使用または時の経過による摩滅減耗を原因とする ものとみなし,計画的・規則的な減価償却方法により,有形 固定資産の原価を期間に配分します。 適正な期間 損益計算を目的とする。 • 減価償却方法 (1)期間を配分基準とする方法 定額法,定率法,級数法,償却年金法,年金法 (2)生産高を配分基準とする方法 生産高比例法 ※減価償却と同様の効果を持つ会計処理として取替法 税法上の特別償却 生産高を配分基準 とする方法 生産高比例法 通常の減価償却と同様の方法,引当金による特別償却 準備金方式,利益剰余金処分による特別償却準備金方式 政策目的に沿った設備投資 の促進を目的とする。減税効果。 11 12 2 棚卸資産の原価配分と 有形固定資産の減価償却 費用性資産の原価配分 • 相違点 棚卸資産の減価は数量的な減少を伴いますが,有形固定資 産の減価は数量的な減少を伴いません。 • 原価配分の方法 棚卸資産の原価配分は,払出しの記録と原価移転に関する 仮定に基づき実施されますが(連続意見書四の六),有形固 定資産の減価償却は,使用または時の経過を基準にして計 画的・規則的に実施されます。 第2第 期1 末期 の末 資の 産資 価産 額価額 • 共通点 適正な原価配分を行うことによって,毎期の損益計算を正確 なものにすることを目的とします(連続意見書三および四)。 資産原価の配分プロセス Cost Allocation 資産の取得原価 300 B/S計上 資産評価と費用認識 は裏表の関係にあり ます。評価基準は基 本的に取得原価です。 費用に配分 100 第3期末 資産価額 ゼロ 100 原価配分 完了 100 第4回再掲 費用に配分 費用に配分 第1期 100 P/L計上 100 第2期 100 P/L計上 100 第3期 100 P/L計上 会計期間 100 13 減価償却の3要素 14 減価償却方法 (1)定額法 耐用年数にわたって,毎期一定の金額の減価償却 を行う方法です。 (1)取得原価 (2)残存価額 (3)耐用年数等の配分基準 (旧法) 減価償却費=(取得原価ー残存価額)÷耐用年数 (新法) 減価償却費=取得原価÷耐用年数 【注】2007年4月1日以降に利用を開始した新規取得資産につ いては,残存価額をゼロとする税法改正が実施されました。 取得原価 減価償却費 15 減価償却方法 つづき 耐用 16 (3)級数法 耐用年数までの序数の総和(n(n+1)÷2)を分母と し残存年数(n-k+1)を分子とする数値を基準にし て,減価償却総額を按分する方法です。 残存価額 取得原価 k年目の按分割合= (新法) 償却率=1 ÷ 耐用年数 × 2.5 新法は250%定率法とも呼ばれます。①[期首未償却残高×償却率] が,②[未償却残高÷残存耐用年数]よりも小さくなった場合は,②の 金額が減価償却費とされます。 資産の貸借対照表価額 減価償却方法 つづき (2)定率法 期首の未償却残高に,毎期一定の償却率を乗 じて各期の減価償却費を算定する方法です。 (旧法) 償却率=1-年数 減価償却累計額に整理 未償却残高 n − k +1 n(n + 1) ÷ 2 k年目の減価償却費=取得原価 × 17 n − k +1 n(n + 1) ÷ 2 18 3 級数法のイメージ 減価償却方法 つづき (4)生産高比例法 耐用年数3年の場合の配分パターン 資産の利用度を基準にして減価償却費を算定する 方法です。 3/6 2/6 減価償却費=(取得原価-残存価額 ) × 1/6 各期の実際利用量 利用可能総量 資産の利用可能総量が事前に見積可能で,各期の 実際利用量が測定可能であることが前提となります。 生産高比例法の適用は,航空機,車両,鉱山等の 資産に限定されます。 上記の配分割合に未償却額を乗じて減価償却費を計算します。 19 20 設 例 定額法の計算 取得原価:¥900 残存価額:ゼロ 耐用年数:6年 • 新法で計算すると,以下のようになります。 各年度の減価償却費 = 900 ÷ 6 = 150 21 22 定率法の計算 級数法の計算 • 新法で計算すると,以下のようになります。 • 新法で計算すると,以下のようになります。 償却率 = 1 ÷ 6 × 2 .5 = 0 .417 ②定額で計算した金額 ; 5年目 = 51.99 , 6 年目 = 51.99 6 − k +1 6 − k +1 = 6(6 + 1) ÷ 2 21 6 1年目の減価償却費 = 900 × = 257.14 21 5 2年目の減価償却費 = 900 × = 214.29 21 M ①<②なので,51.99 6年目の減価償却費 = 900 × 配分割合 = 1年目の減価償却費 = 900 × 0 .417 = 375 .30 2 年目の減価償却費 = 900 × (1 − 0 .417 ) × 0 .417 = 218 .80 3年目の減価償却費 = 900 × (1 − 0 .417 ) 2 × 0 .417 = 127.56 4 年目の減価償却費 = 900 × (1 − 0 .417 ) 3 × 0 .417 = 74.37 5年目以降の減価償却費 ①償却率で計算した金 額 ; 5年目 = 43.36 , 6 年目 = 21 .68 23 1 = 42.86 21 24 4 設例による減価償却費の比較 定額法 定率法 級数法 1年度 150 375.30 257.14 2年度 150 218.80 214.29 3年度 150 127.56 171.43 4年度 150 74.37 128.57 5年度 150 51.99 85.71 6年度 150 51.99 42.86 取替法 • 老朽品の部分的な取替を繰り返すことで,全体の機能を維 持する方法です。 • 鉄道会社のレールや枕木,電力会社の電柱や送電線等。同 種の資産が多数集まって1つの機能を果たす資産群(取替資 産)を構成している場合に適用されます。 • 取替資産については取得原価を計上したまま減価償却を行 わず,取替に要した支出をその期間の費用とする原価配分 方法です。 • 類似の方法に廃棄法があります。廃棄法は,取替費用では なく,廃棄資産の取得原価をその期間の費用とする方法で す。 25 26 減価償却に関する変更 除却と売却 機能的減価(新技術の発明等)により,減価償却に関する変更 を行う必要が生じる場合があります。 (1)残存価額 (2)耐用年数の変更 (3)減価償却法の変更 いずれについても,①変更前の計算による過年度の未償却 残高を修正する方法(修正差額は特別損益に計上)と,②過 年度の償却計算を修正しない方法の2つがあります。 • 有形固定資産を除却した場合は,未償却残 高を固定資産除却損として処理します。 • 有形固定資産を売却した場合は,未償却残 高と売却価額の差額を,固定資産売却損益 として処理します。 減価償却に関する変更を行った場合は,①変更の旨,②変更 の理由,③変更による影響を,注記する必要があります。 27 28 減損会計の手続 4.有形固定資産の期末評価-減損会計 • 資産の収益性の低下により投資額の回収が 見込めなくなった状態を,減損と言います。 • 減損会計は,資産投資額の回収可能性を反 映させるために,貸借対照表の資産価額(簿 価)を減額する手続です。 • わが国では2002年に基準が公表され,2005 年度から実務に導入されました。 29 Step1 資産グループごとに回収可能性をチェックし、減損会計を 実施するかどうかを決定 Step2 回収可能額を計算し、簿価との差額を減損損失として処理 Step3 減損損失を資産グループに配分し、帳簿価額を減額 30 5 回収可能額の計算 使用価値の計算 【設例】 資産グループY 当期末の簿価:380 残存耐用年数:3年間 毎期の見積キャッシュ・フロー(CF):100 第3期末の残存価額:50 割引率:10% 正味売却価額:270 (=売却時価-処分費用見込額) 将来キャッシュ・フローの割引現在価値であり, 下記の計算式で求められます。 第n期のキャッシュ・フロー n (1+割引率) 100 100 100 50 + + + = (1 + 0.1) (1 + 0.1) 2 (1 + 0.1)3 (1 + 0.1) 3 使用価値=∑ ※使用価値と正味売却価額のうち,いずれか高い方が回収可 能額となります。 31 32 資産グループYの回収可能価額 減損会計の手続 • 減損損失の計上 第1期 第2期 第3期 名目CF 100 100 割引価値 正味 売却価額 90.9 - 第3期 残存価額 合計額 100 50 350 82.6 75.1 37.6 286.3 - - - 当期末の簿価(380)ー回収可能額(286.3) =93.7 ※この金額93.7を減損損失として損益計算書に計上し ます。 270 割引価値>正味売却価額なので,割引価値が回収可能価額となります。 • 資産グループの簿価の減額 回収可能額=減損処理後の新しい簿価286.3 ※この金額286.3を資産グループYの価額として貸借対 照表に計上します。 33 減損会計の図解 貸借対照表(期首) 資産Y 380 減損損失93.7 負債180 資本200 損益計算書 減損会計は評価か配分か • 減損会計は一般に評価と言われていますが, 他方では配分と考えることもできます。 貸借対照表(期末) 資産Y 286.3 34 負債180 資本106.3 • 資産の取得原価を上限とし,価値減少分を特 定の期間に臨時的に割り当てる手続。価値 上昇分は認識しません。 減損額93.7だけ 資産価額が減少 利益56.3 収益300 費用150 • 原価以下主義,保守主義。棚卸資産の低価 基準と類似した性質を持っています。 その分だけ 当期費用が増加 35 36 6 5.リース資産 リース資産 つづき • 貸し手(レッサー)と借り手(レッシー)の間の契約に基 づいて行われる物件の賃貸取引で,下記の条件を 満たすものをファイナンス・リース取引と言います。 これらの条件を満たさないものは,オペレーティン グ・リース取引と言います。 • 法的にはリース物件の賃貸取引ですが,その経済 的実質は,当該物件を購入した後に代金をリース料 として長期に分割払いしている(レッシーがレッサー から融資された資金で物件を購入し,リース料の支 払を通して元利の返済を行っている)のと同じです。 (1)リース契約の中途解約が不可能であること(non cancelableの条件) (2)リース物件から生じる経済的利益と使用コストが レッシーに帰属すること(full payoutの条件) • 法的形式(賃貸借取引)よりも経済的実質(売買取 引)を重視する実質優先の原則(Substance over Form)に基づき,リース物件(資産)をレッシーの貸借 対照表に計上するとともに,将来のリース期間にわ たって支払うリース料を評価して負債に計上するこ とが,要求されるようになりました。 37 38 リース取引の仕組み リース資産の会計処理 (1)リース資産の取得原価 ①購入価格(購入価格が明らかな場合),②(a)見積現金購入価額と(b)リー ス料の割引現在価値のいずれか低い方(購入価格が不明の場合および 所有権移転外リースの場合)。契約締結時には同額のリース負債がB/S に計上されます。 リース資産 貸し手 Lessor リース料 借り手 Lessee (2)減価償却 リース資産についても,通常の有形固定資産と同様に,正規の減価償却 を行います。減価償却費は,売上原価または販管費としてP/Lに計上さ れます。 リースは,貸し手から借り手への貸付と同じ効果 を持ちます。所有権移転ファイナンス・リースの 場合は,リース契約終了後にリース資産の所有権 がレッシーに移転されます。実質優先の原則。 (3)支払利息 レッサーに支払われるリース料のうち,支払利息に相当する部分は,支払 利息としてP/Lに計上されます。それ以外の部分はリース債務の償還分 を意味します。その金額だけリース債務が減額されます。P/Lには影響し ません。 39 リース取引の数値例による検討 40 リース契約期間中の会計処理 1.リース資産の原価(=リース開始時の公正価値) 10,000 2.リース資産の見積経済耐用年数 8年 3.リース契約期間(解約不能で固定的) 5年 4.年間リース料 2,400 5.リース終了時点のリース資産の残存価値 2,000 6.レッシーがリース終了時点に残存価値保証する金額 2,000 7.リース資産の減価償却は定額法による。 8.最低リース料支払額 ①+②=14,000 ①リース期間中の最低リース料支払額 2,400×5=12,000 ②リース期間終了時点に残存保証する金額 2,000 9.リースにおいて考慮される利子率 11.21% 41 リース会計 非適用 適 用 リース料 支払利息 リース負債の 償還額 開始時 ― ― ― 10,000 ― 1年目 2,400 1,121 1,279 8,721 1,600 2年目 2,400 977 1,423 7,298 1,600 3年目 2,400 818 1,582 5,716 1,600 4年目 2,400 641 1,759 3,957 1,600 5年目 2,400 443 1,957 2,000 1,600 累計額 12,000 4,000 8,000 ― 8,000 リース負債の 期末未償還額 減価償却費 42 7 数値の理解 リース会計の文献案内 1.リース料(非適用)=支払利息+リース負債の償還額(適用) 2.支払利息=リース負債の期首未償還額×利子率 3.リース負債の期末未償還額=期首未償還額-当期償還額 4.上記1~3の計算を5年間繰り返すと,リース負債(8,000= リース負債の公正価値10,000-残存保証額2,000)が償還 されます。 5.リース資産(8,000)は,定額法により5年間で償却されます。 6.現金収支の実態は,非適用の場合とまったく同じです。 7.リース料を生み出す負債(リース負債)と,リース収益を生み 出す資産(リース資産)を認識し,貸借対照表に計上するの が,リース会計です。 1.徳賀芳弘[1981]「現代アメリカにおける負債 会計の考察」『経済論究』第53号。 2.藤井秀樹[1997]『現代企業会計論』森山書店, 268-273頁。 43 リースの財務効果 資産 企業A 借入金 企業B リース 100 50 負 債 50 0 利 益 10 10 44 リースの財務効果(図解) 企業B 企業A 利益率 ROA 資産 100 10% 負債 50 資本 50 資産 50 資本 50 リースのオン バランス化 リース資産 リース負債 50 50 20% 法的形式は,企業A≠企業Bだが・・・ 経済的実質は,企業A=企業B 45 46 6.まとめ (1)有形固定資産の取得原価の決定方法,原価配分 の方法,期末評価について,重要な論点を整理して おきましょう。 (2)減価償却方法の種類と会計処理の相違は,正確に 理解しておきましょう。 (3)減損会計は,有形固定資産を回収可能価額で評 価するものであり,棚卸資産の低価基準と類似した 性質を持っています。 (4)リース資産は,実質優先の原則に基づき,レッシー の貸借対照表に計上されます。 47 8