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2007 年 10 月号

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2007 年 10 月号
2007 年 10 月号
米国経済・金融市場の概況
■ FOMC は 9 月 18 日、50bp の大幅利下げを実施した。株式
市場は好感し、株価が上昇しているが、債券市場ではイ
ンフレ警戒感が強まり、長期金利が上昇している。短期
金融市場でも、ターム物の高止まりが収まらず、クレジ
ット・クランチから脱したとは言いがたい状況にある。
■ 米国経済では、住宅市場の調整が一段と深刻化している
が、他の分野では顕著な悪化が見られない。もっとも、
金融市場の混乱依然から減速基調にあったことが、8 月雇
用統計で明らかとなったほか、個人消費や設備投資の勢
いにも陰りがみられ、先行き予断を許さない状況にある。
2007 年 9 月 28 日発行
※当レポートは情報提供のみを目的として作成されたもので、商品の勧誘を目的としたものではありません。
みずほ米国経済情報 2007/9/28
Mizuho Research Institute
1.トピック:クレジット市場の劣化と広がるサブプライム関連損失
シンジケート・ローン市
米連邦準備制度理事会(FRB)、米預金保険機構(FDIC)
、米通貨監督庁(OC
場の不良債権比率は低位
C)、及び米貯蓄機関監督庁(OTS)が 25 日に発表した「シンジケート・ローン
(Shared National Credit、SNC)に関する調査」によれば、2006 年時点のシン
ジケート・ローンのクレジットは歴史的にみれば良好な水準を保った。
SNCとは 2000 万ドルを超え、複数の金融機関(3 行以上)によって供給される
クレジット(ローン及びローンコミットメント)を指す。2006 年末時点のコミット
メント残高は 2.3 兆ドル、前年比+21.4%と大幅に増加した。M&A関連のシンジ
ケート・ローンの増加が一因である。
不良債権(classified credits)は 716 億ドル、不良債権の可能性がある債権
(special mentioned)は 425 億ドルで、両者を合わせた「criticized credit」は
1,141 億ドル、コミットメント全体に占める割合は 3.1%である。過去の水準と比べ
て同比率は低位に留まっていることから、SNC調査では「クレジットの質は満足
できるものであることを示している」と指摘されている。
しかし、引き受け基準の
緩みに強い警戒。クレジ
しかし、今回のSNC調査では、昨年に続いて引き受け基準の悪化が指摘されて
おり、世界的なクレジット市場の混乱の根深さが改めて浮き彫りとなった。
ット市場の混乱の根深さ
以下、SNC調査の指摘を紹介する。
を示唆
・ 2006 年にみられた急速なポートフォリオの拡大や、引き受け基準の悪化、不
良債権の増加は、信用リスクの高まりを示している。
・ 満期まで元本返済がほとんど、または全くないケース(筆者注:IOローン
を示唆)、借り換えを前提としたケース(同:サブプライムARMを示唆)、
レバレッジ比率や“fixed charge coverage ratio(同:キャッシュフローや
EBITDA を利払い・リース費用で除した比率)”など有効性のある貸出条件を付
していないケース(同:Alt-A ローンを示唆)など、寛大な返済条件のローン
がかなりの金額に上る。
・ 現状潜在的な評価損を抱え投資家に売却できずにおり、将来、自らのポート
フォリオとして抱え込む必要があるかも知れないレバレッジド・ローン・コ
ミットメントの未処理案件(バックログ)がある。
米銀行部門の一部にみられる安易な貸出の横行については多くの指摘がなされて
きた。最近では、米連邦準備制度理事会・ウォーシュ理事が、CDO(債務担保証
券)などのストラクチャード・クレジットと呼ばれる金融取引の複雑化や、レバレ
ッジド・ローンの急速な拡大を踏まえて、「大手米銀は深刻なリスクに曝されうる」
と警告を発している(7/11、米下院金融サービス委員会における証言)
。今回のSN
C調査は、こうした指摘を改めて裏付けるものだ。
IMFによればサブプラ
一方、国際通貨基金(IMF)が発表した「国際金融安定報告書」
(Global Financial
イム関連損失は 2,000 億
Stability Report、GFSR)によれば、サブプライム関連損失は 2,000 億ドルにも上
ドル規模。悲観シナリオ
る可能性があるという。
ではさらなる広がりも。
試算では、非プライム・ローン(=サブプライム+Alt-A)の直接損失額(Estimated
Cash Flow Loss)は 1,700 億ドルと見込まれる一方、資産担保証券(ABS)や ABS
CDO などの時価評価に伴う関連損失(Estimated Mark-to-Market Loss)は 2,000 億
1
みずほ米国経済情報 2007/9/28
Mizuho Research Institute
ドルに達する。
前月号で「投資有価証券の損失額は、サブプライム・ローンの予想不良債権額を
大きく上回る可能性」について触れたが、IMFの試算結果は問題の大きさを如実
に物語っている。
なお、GFSR が参考に用いた最終損失額に関する大手証券会社の試算は最近拡大方
向で修正されており、IMFの最終損失額の試算も同額(500 億ドル)程度拡大す
る可能性がある。また、GFSR に示された各種前提に素直に従って計算すると、サブ
プライム関連損失は 1700 億ドル~2700 億ドルのレンジとなる。GFSR に示された
2000 億ドルという試算値はこれらの中央値に過ぎないかも知れない。
市場規律の隘路
ヘッジファンドの台頭や、クレジット・デリバティブの発展などにみられる金融
革新が、今回の金融市場における混乱と関係していることは疑う余地がほとんどな
いが、規制当局が抱える本質的な課題の一つは、金融セクター全般を通じて市場規
律が有効に働く仕組みを作ることだろう。なお報道によれば、国際金融安定化フォ
ーラムが次回G7(10 月)にむけて報告書を提出する予定であり、①金融機関のリ
スク管理と流動性、②金融派生商品(デリバティブ)の評価方法、③簿外取引など
に対する金融機関の監督、④格付け会社の機能などが焦点となっている。
2.需要動向:消費に足踏み感、住宅市場は調整持続、設備投資の改善も一服
住宅販売・着工は減少基
調
住宅市場は販売、着工ともに減少傾向にある。過剰在庫の状況を踏まえると、一
段の悪化が予想される。
中古住宅販売件数は 7 月に横ばい推移した後、8 月には年率 550 万件(前月比▲
4.3%)と大きく減少した(図 1)。2002 年 8 月以来の低い水準に落ち込んでいる。
新築住宅販売件数も 8 月年率 79.5 万件(同▲8.3%)と大幅に減少した。年初来、
安定推移していた新築住宅販売だが、金融市場の混乱を受け再び悪化基調に転じた
様子である。
建設業者の景況感は一段と悪化している(図 2)。新築住宅販売の現状と見通し(6
ヵ月先)、見込客の動向をもとに作成されている住宅市場指数(Housing Market Index、
0~100 の範囲をとり、水準が高いほど良好)は 9 月 20(前月比▲2Pt)と 7 カ月連
続の低下となった。見込客の動向指数は 8 月と同水準の低位で推移し、販売の現状
図 2 住宅着工件数
110
(万件)
(万件)
680
660
640
100
90
620
600
80
580
560
70
540
520
60
50
500
06/8
07/2
07/8
新築住宅販売
中古住宅販売(右目盛)
200
190
180
170
160
150
140
130
120
110
100
図 3 消費者信頼感指数
(万件)
#N/A
図 1 住宅販売件数
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
06/8
07/2
07/8
住宅着工件数
ホームビルダー・マーケット指数(右目盛)
2
110
(66Q1=100)
(1985=100)
120
105
115
100
110
95
105
90
100
85
95
80
90
75
85
70
80
06/9
07/3
07/9
ミシガン大
カンファレンスボート(右目盛)
みずほ米国経済情報 2007/9/28
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指数及び見通し指数は共に悪化した。
住宅着工は横ばい、在庫
住宅着工は 8 月年率 133.1 万件(前月比▲2.6%)となり、2007 年入り後しばら
率は高水準で価格には下
く続いてきた横ばい推移から、再び減少基調へと転じている(図 2)
。8 月の着工水
落圧力が残存
準は 4~6 月期平均と比較し年率▲31.7%の減少率で、7~9 月期平均がこの水準に
留まれば、2006 年半ばに調整が始まってから四半期ベースでは最も大きな悪化テン
ポとなる。先行きを示す住宅着工許可件数も同 130.7 万件(前月比▲5.9%)と大き
く悪化した。
供給の絞り込みが続いているが、住宅在庫率は高水準が続いている。中古住宅の
在庫率は 8 月 10.0 カ月、新築住宅は 8.2 カ月に達した。
供給過剰感の根強さを背景に、住宅価格には低下圧力が強い。S&P/Case-Shiller
総合指数(全米 10 都市圏。2 度以上売買されたことがある戸建て中古住宅。品質調
整済み価格指数)は 7 月前年比▲4.5%と低下テンポが加速している。
中古住宅価格(戸建て、中央値)は 8 月同横ばいに留まったが、新築住宅価格(同)
は同▲7.5%と大きく低下した。
消費者マインドは軟調。
消費者マインドは軟調である。FOMC による大幅利下げがあったものの、金融市場
雇用不安や油価上昇が下
の不透明感が燻っているほか、雇用不安や油価上昇が下押し要因となっているとみ
押し要因
られる。
9 月のミシガン大消費者信頼感指数(速報)は 83.4(前月比+0.4Pt)と横ばい推
移となった(図 3)。一方、カンファレンスボード消費者信頼感指数は 99.8(同▲
5.8Pt)と大きく低下した。均してみれば消費者マインドは軟調と言えるだろう。
カンファレンスボードによれば、「仕事が見つかりにくい(jobs hard to get)」
との回答を得た割合は 22.1%(前月比+2.4Pt)
、半年先の雇用について「減少する
(fewer jobs)」と回答した割合は 18.7%(同+3.5Pt)と共に上昇・悪化し、雇用
不安の広がりを示している。
ガソリン小売価格は 2.86 ドル(1 ガロン当たり。9/22 週)と高値圏で推移してい
るほか、これから需要期を迎えるヒーティング・オイルは 2.24 ドル(同)と緩やか
に上昇している。
消費は足踏み
7~9 月期の個人消費(実質)は緩やかな拡大に留まっている様子である。
8 月の小売売上高は前月比+0.3%と緩やかに拡大した。内訳をみると、自動車・
図 4 小売動向
1%
(前月比)
21
68
20
66
19
0%
18
(年率,百万台)
(10億ドル)
360
16
▲2%
06/8
07/2
07/8
国内自動車販売(右目盛)
コア小売
(年率、10億ドル)
340
64
320
62
17
▲1%
図 6 非住宅建設投資
図 5 機械設備投資
300
60
15
58
14
56
※いずれも、
航空関連を除く
06/8
07/2
07/8
非国防資本財出荷
非国防資本財新規受注
3
280
260
06/7
07/1
07/7
みずほ米国経済情報 2007/9/28
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同部品販売業の売上高は同+2.8%と高い伸びとなり、過去 2 カ月の落ち込みから持
ち直した。国内自動車販売台数でみると、8 月は年率 1,620 万台(米国商務省)と 5
月以来の水準に戻っている(図 4)
。もっとも、8 月に見られた自動車販売の好調は
7 月に続く GM のピックアップトラック向け販売促進策の影響による一時的な動きと
みられる。サブプライム・ローン問題を受けて、金融機関の貸出姿勢がタイト化し
ている中、最も影響を受けるのが自動車販売という見方が広がっており、自動車販
売の行方は厳しい状況が予想される。
自動車以外の小売動向についてみると、建材・造園は前月比▲1.0%と減少した。
均してみると同分野の販売は「横ばい~緩やかな拡大」の動きがうかがえるが、住
宅市場の調整が再加速していることを踏まえると、建材・造園分野の小売販売が再
調整の局面を迎える可能性が指摘できる。
コア小売売上高(除くガソリン、建材・造園、自動車)は前月比横ばいに留まっ
た。7 月の高い伸び(前月比+0.8%)からの反動とみられ、金融市場の混乱による
深刻な影響は表れていないようだ。
とは言え、小売売上高を実質個人消費ベースに引き直してみると、8 月時点で 4
~6 月期対比年率 2%台半ばの緩やかな伸びに過ぎない。8 月における自動車販売の
急伸が一時的で 9 月に再び大きく落ち込むことがあれば、7~9 月期の実質個人消費
は前期比年率+1%半ばに留まるとみられる。
設備投資は減速
米企業の設備投資活動には減速感が表れている。
機械関連の設備投資動向を示す非国防資本財(除く航空関連)の出荷額は 8 月前
月比+0.8%と小幅増加した(図 5)。先行きの動向を示す同財新規受注額は同▲
0.7%と減少した。機械関連設備投資は、出荷、新規受注とも、前期比 10%前後の
高い伸びとなった 4~6 月期と比べ、伸び率はゼロ近傍へと大きく減速している。
建設投資(民間。除く住宅投資)は 7 月前月比+0.4%とほぼ横ばい推移に留まっ
た(図 6)。商業施設、宿泊施設、電力施設、工場などこれまで建設投資を支えてき
た分野の建設活動の伸びが鈍化し始めている。
今のところ、製造業企業の設備投資に対する先行き判断は良好である。ニューヨ
ーク連銀によれば 8 月の設備投資判断DI(6 ヵ月先)は+22.3、フィラデルフィ
図 7 貿易収支
(10億ドル)
▲ 30
図 9 鉱工業生産指数・稼働率
図 8 累積財政収支
(3ヵ月移動平均,3ヵ月前比)
5%
▲ 40
(10億ドル)
0
(2002=100)
85
▲ 50
115
84
▲ 100
▲ 50
0%
▲ 150
83
(%)
110
▲ 200
▲ 60
82
▲ 250
▲ 70
▲5%
06/7
07/1
07/7
石油収支
石油を除く貿易収支
実質財輸入(右目盛)
実質財輸出(右目盛)
105
▲ 300
81
▲ 350
80
100
▲ 400
10
12
2
06年度
04年度
4
4
6
8
(月)
05年度
06/8
07/2
07/8
設備稼働率(総合,右目盛)
鉱工業生産(除くエネルギー)
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ア連銀による同種調査では+21.3 と、ともに良好な水準にある。
一方、設備投資の先行きに対して慎重な見方を示す調査もある。DUKE/CFO 見通し
調 査(四半期調査)によれば、先行き 12 カ月の設備投資計画は 3 月調査の前年比
+6.7%から+5.2%(6 月調査)、+3.2%(9 月調査)と直近調査で大きく下方修正
されており、景気や業界に対する楽観論が後退している。金融市場の混乱に見られ
るように、金融機関や投資家の間では投融資に関わるリスクの再評価が進んでおり、
企業にとって資金調達環境が従来に比べて厳しくなっている点も懸念材料である。
特に住宅ローン同様の高リスクな融資活動があったとの指摘が見られる商業不動産
の先行きには注意が必要だろう。
貿易赤字は横ばい
7 月の貿易収支は▲592 億ドル(前月比+1.8 億ドル)となり、4 月以降でみると
横ばい推移が続いている(図 7)。堅調な海外経済とドル安が追い風となり、輸出が
前月比+2.7%と堅調な伸びを見せているが、昨年半ばから今年前半まで横ばい推移
に留まっていた輸入も拡大基調に戻っている様子がうかがえる。内需の弱い状況が
続くと見込まれ、このまま輸入が輸出同様の伸びを続けるとは考えにくいが、景気
に対する外需寄与は一時的に中立に戻る可能性もある。
連邦財政は改善基調
8 月の連邦財政収支は▲1,170 億ドル、
2007 年度の累計額では▲2,744 億ドルとな
り、前年同月比+300 億ドルの改善となった。米議会予算局(CBO)によれば、9
月は大幅な黒字となり、2007 年度の連邦財政収支は▲1,580 億ドル、GDP比▲
1.2%に縮小する(2006 年度は▲2,480 億ドル、GDP比▲1.9%)と予想されてい
る。米国経済が住宅市場の調整によって下押しされる中、財政面からも無視できな
い大きさの引き締め圧力を受けてきた格好となる。
3.生産・雇用動向:企業の業況・景況感は軟化、雇用は減速基調
鉱工業生産は軟調
鉱工業生産はエネルギー部門を除き軟調となった。
8 月の鉱工業生産は、エネルギー生産が大きく拡大(同+2.3%)する一方、非エ
ネルギー部門の生産が前月比▲0.3%と減少した(図 9)。後者の内訳をみると、I
T部門の生産は拡大基調にあるものの(前月比+0.8%)
、非IT部門では自動車生
産(同▲2.6%)が大きく落ち込んだほか、消費財や資本財など他の分野における生
産も横ばいないし小幅悪化した。
図 11 雇用統計
図 10 企業業況・景況感
62
4.8
4.7
4.7
4.6
4.6
4.5
4.5
4.4
4.4
4.3
4.3
60
58
56
54
52
50
48
46
06/8
07/2
07/8
製造業ISM指数
非製造業ISM指数
(%)
(前月比、千人)
図 12 総労働時間・時間当り賃金上昇率
250
1.0%
200
0.8%
150
0.6%
100
50
0
▲50
06/8
07/2
07/8
非農業部門雇用者数(右目盛)
失業率
5
(前月比)
総労働時間
時間当り賃金
0.4%
0.2%
0.0%
▲0.2%
▲0.4%
06/8
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07/8
みずほ米国経済情報 2007/9/28
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足元では、GMの全米自動車組合(UAW)組合員によるストライキが行われて
いた(9/24~26)。前回(1998 年)のストライキは 54 日間(6/5~7/29)継続し、
自動車関連生産は同年 5 月 90.5 から 7 月 71.1 と大幅に落ち込んだ。今回のストラ
イキは短期間で終了したことから、景気に与えるインパクトは限定的である。
製造業、非製造業ともに
業況・景況感は軟化
企業の業況・景況感は軟化している。
製造業企業の業況を示す製造業ISM指数は、7 月に続き 8 月も 52.9(前月比▲
0.9Pt)と低下した(図 10)。生産指数は横ばいに留まったが、新規受注指数が 55.3
(同▲2.2Pt)と落ち込んだ。
一方、7 月に大きく低下した非製造業ISM指数は 8 月 55.8、前月比横ばいで推
移した。個別企業の業況を示す新規受注指数(8 月 57.0)が大きく持ち直したが、
雇用指数(同 47.9)は判断の分かれ目である 50 を下回り、非製造業部門の雇用減
を示した。
9 月の製造業企業の景況感はまちまちである。ニューヨーク連銀・製造業景況感
指数は+14.7%(前月比▲10.4Pt)と大きく低下する一方、フィラデルフィア連銀・
同指数は+10.9%(同+10.9Pt)と改善をみせた。
雇用は緩やかに減速
雇用は緩やかな減速基調を辿っている。
8 月の失業率は 4.6%となり、前月比横ばいで推移した(図 11)。一方、非農業部
門雇用者数が前月比▲0.4 万人と 2003 年 8 月以来となる減少を示した。また、過去
2 カ月分も大きく下方修正され、金融市場の混乱が見られる以前から雇用の増加テ
ンポが減速していたことが明らかとなった。9 月の新規失業保険申請件数は改善し
ているが、雇用の減速基調は変わっていないとみられる。
時間当たり賃金上昇率は 8 月同+0.3%と堅調な伸びが続いている(図 12)。ただ、
雇用の減速傾向を受けて総労働時間の伸びが鈍化しており(8 月は前月比横ばい)、
今後は雇用所得環境にも変調が見られ始めると予想される。
4.物価動向:コアCPI上昇率は安定持続
コア輸入物価上昇率(前
年比)は鈍化
輸入面からの国内消費財に対するインフレ圧力は緩やかに緩和している。
8 月の輸入物価指数上昇率は前年比+1.9%と緩やかな伸びに留まった。石油を除く
コア輸入物価指数上昇率も同+2.3%と、やや高めながら上昇率には鈍化傾向がうか
図 13 コア輸入物価(除く石油関連)
図 14 コア最終財PPI
図 15
3.0%
5.0%
コアCPI
3.5%
0.4%
2.5%
4.0%
3.0%
2.0%
1.5%
3.0%
2.5%
0.2%
1.0%
2.0%
2.0%
0.5%
0.0%
1.0%
1.5%
▲0.5%
0.0%
▲1.0%
0.0%
06/8
07/2
07/8
06/8
前月比
6
07/2
前年比
07/8
06/8
07/2
前月比
1.0%
07/8
前年比(右目盛)
みずほ米国経済情報 2007/9/28
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がえる(図 13)。
もっとも、油価の上昇やドル相場の下落を受けて、輸入物価は
再び上昇率が高まっていくとみられる。
コア最終財PPIの上昇
国内生産部門(最終財)におけるインフレ圧力は限定的である。
は緩やか
8 月のコア最終財PPIは前年比+2.2%とやや上昇率が高まった(図 14)。一方、
原材料PPIは前年比+6.6%、中間財PPIは同+2.4%とそれぞれ鈍化している。
鉱工業部門の稼働率は今次拡張局面で最も高い水準に達しているが、ISMの入荷
遅延指数は低位で推移し、仕入価格指数も高水準ながら低下傾向がみられることか
ら、生産部門におけるインフレ圧力は限定的と言えるだろう。
コアCPIは安定
コアCPIは 8 月、前月比+0.2%と緩やかな上昇に留まった(図 15)。前年比上
昇率は+2.1%となり、7 月と比べて▲0.1%Pt 低下した。衣料品物価の下落や家賃
関連物価の鈍化がコアCPI上昇率を押し下げている。
5.金融市場:長短スプレッドが拡大、ドルは減価、株価は大幅上昇
追加利下げ期待により短
期金利は低下。一方、長
期金利はインフレ懸念を
受けて上昇
米国の金融市場では、利下げ期待から短期金利が低位推移する一方、インフレ懸
念が台頭し長期金利の上昇が見られる(図 16)
。
9 月 18 日の米連邦準備制度理事会(FOMC)は、50bp の大幅利下げを決定した。そ
の後、バーナンキ議長が議会証言で今後も必要に応じた措置を採ると発言し、市場
参加者の間では 10 月の追加利下げの可能性を織り込む動きが見られる。米国債 2
年利回りは 4%近傍の低位で推移している。一方、長期債市場では利下げがインフ
レ懸念につながっており、米国債 10 年利回りが上昇、長短スプレッドが拡大した。
ドルは下落。株価は大幅
上昇
ドルは主要通貨に対して大きく減価している(図 18)。対円レートでは大きな動
きとなっていないが、ユーロに対しては 1999 年の導入以来最安値を更新したほか、
豪ドル、NZ ドルなどに対しても下落している。
一方、米国株価は FOMC の利下げを好感し、大きく上昇した(図表 17)
。世界の株
式市場も同様で、独 DAX や MSCI エマージング指数なども上昇している。
図 16 金利
2年債
(%)
(%)
5.2
5.2
10年債(右目盛)
5.0
5.0
4.8
4.8
4.6
4.6
4.4
4.4
4.2
4.2
4.0
4.0
3.8
3.8
3.6
3.6
3.4 (%Pt)
3.4
0.8
3.2
長短金利差
3.2
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
8/10 8/24 9/7 9/21 10/5
図 17 ドルレート
104
103
図 18
(前月末=100)
2800
実効ドル
対ユーロ
対円
102
101
2700
(ポイント)
(ドル) 14400
NASDAQ総合指数
14200
ダウ平均(右目盛)
14000
13800
2650
100
99
13600
2600
98
97
96
95
8/10
2750
株価
8/24
9/7
7
9/21
10/5
13400
2550
13200
2500
13000
2450
8/10
8/24
9/7
9/21
12800
10/5
みずほ米国経済情報 2007/9/28
Mizuho Research Institute
巻末資料:米国主要経済指標
05Q1
3.1
3.0
1.0
▲182.4
▲6.0
Q2
2.8
▲0.3
0.6
▲183.2
▲6.0
Q3
4.5
4.9
0.7
▲173.4
▲5.5
Q4
1.2
▲1.1
0.8
▲215.8
▲6.8
06Q1
4.8
2.5
0.6
▲200.6
▲6.2
Q2
2.4
0.8
0.9
▲205.6
▲6.3
Q3
1.1
▲1.5
0.9
▲217.3
▲6.6
Q4
2.1
1.2
0.9
▲187.9
▲5.6
07Q1
0.6
0.2
0.8
▲197.1
▲5.8
Q2
3.8
3.5
0.9
▲190.8
▲5.5
Apr-07
▲0.2
May
0.2
前月比
Jun
▲0.1
Jul
0.7
Aug
▲0.6
Apr-07
▲0.4
May
0.2
前年比
Jun
▲0.1
Jul
0.9
Aug
0.6
小売売上高(%)
除く自動車(%)
国内自動車販売台数(百万台、年率)
住宅着工件数(万件、年率)
住宅着工許可件数(万件、年率)
ホームビルダー・マーケット指数
MBA購入指数(%)
ミシガン大消費者信頼感指数(66Q1=100)
カンファレンスボード消費者信頼感指数(85=100)
▲0.3
▲0.1
*1621
*149
*146
*33
0.8
*87
*106
1.6
1.7
*1628
*144
*152
*30
5.3
*88
*109
▲0.8
▲0.2
*1563
*147
*141
*28
2.1
*85
*105
0.5
0.7
*1523
*137
*139
*24
▲1.8
*90
*112
0.3
▲0.4
*1620
*133
*132
*22
1.2
*83
*106
2.8
2.8
▲7.7
▲15.5
▲24.0
5.6
5.5
5.0
▲28.2
▲21.7
3.5
4.3
▲3.1
▲19.0
▲28.4
3.5
4.8
▲12.4
▲21.1
▲18.9
4.2
4.5
▲0.8
▲18.8
▲24.1
国防を除く資本財出荷(%)
除く航空機・同部品(%)
国防を除く資本財受注(%)
除く航空機・同部品(%)
民間建設支出(非居住用,%)
1.1
0.9
▲0.3
2.0
1.5
0.7
0.7
▲6.8
▲1.5
2.1
▲0.5
▲0.8
6.3
▲0.2
0.4
1.0
▲0.0
4.8
0.9
0.4
0.7
0.8
▲12.6
▲0.7
#N/A
2.5
0.4
11.7
2.9
0.0
▲0.2
▲0.9
2.7
▲1.6
0.0
▲0.6
▲1.6
5.9
▲3.2
0.0
0.5
▲1.1
15.3
▲0.6
0.0
1.9
▲0.7
5.4
▲1.2
#N/A
*▲58.6
*▲55.3
▲0.7
▲3.5
*▲59.6
*▲54.9
2.5
1.2
*▲59.4
*▲55.2
0.9
0.8
*▲59.2
*▲53.5
3.5
0.8
#N/A
#N/A
#N/A
#N/A
6.6
1.9
8.2
1.8
6.7
2.1
12.3
2.6
#N/A
#N/A
2.0
2.8
1.9
2.8
1.5
2.3
1.7
2.7
1.7
2.3
実質GDP(%、前期比年率)
労働生産性(%、前期比年率、非農業部門)
雇用コスト指数(%、前期比)
経常収支(10億ドル)
名目GDP比(%)
カンファレンスボード景気先行指数(%)
貿易収支(10億ドル)
実質財貿易収支(10億ドル)
実質財輸出(%)
実質財輸入(%)
財政収支(10億ドル)
*177.7
*▲67.7
*27.5
*▲36.4
*▲117.0
鉱工業生産(%)
最終財生産(%)
設備稼働率(%)
民間在庫投資(10億ドル)
在庫率(カ月)
0.6
0.5
*81.7
*5.2
*1.27
▲0.1
▲0.3
*81.5
*7.1
*1.26
0.6
0.7
*81.8
*5.4
*1.27
0.5
0.6
*82.2
*7.0
*1.26
0.2
0.0
*82.2
#N/A
#N/A
ISM製造業指数
ISM非製造業指数
NFIB楽観指数(1986=100)
フィラデルフィア連銀景況感指数
*54.7
*56.0
*96.8
*0.2
*55.0
*59.7
*97.2
*4.2
*56.0
*60.7
*96.0
*18.0
*53.8
*55.8
*97.6
*9.2
*52.9
*55.8
*96.3
*0.0
失業率(%)
非農業部門雇用者数(千人)
製造業雇用者数(千人)
週平均労働時間(時間)
時間当り賃金(%)
*4.5
122.0
▲18.0
*33.8
0.2
*4.5
188.0
▲3.0
*33.8
0.4
*4.5
69.0
▲19.0
*33.9
0.5
*4.6
68.0
▲1.0
*33.8
0.3
*4.6
▲4.0
▲46.0
33.8
0.3
3.7
4.0
4.0
4.1
3.9
0.3
0.1
0.4
0.2
0.6
0.2
0.7
0.1
0.3
0.3
0.2
0.2
0.1
0.1
0.1
0.2
-0.1
0.2
▲0.1
0.2
3.0
1.6
2.3
2.0
2.9
1.6
2.2
1.9
2.8
1.8
2.2
1.8
2.9
2.3
2.2
1.8
2.3
2.2
2.1
1.7
*5.25
*5.25
*4.98
*4.82
*5.10
*5.00
1.3
1.5
0.5
0.3
0.2
0.3
*13408.62 *13211.99
*2603.23 *2546.27
*123.39
*119.13
*1.3520
*1.3711
*5.25
*4.31
*4.67
2.6
0.4
0.9
*13357.74
*2596.36
*115.83
*1.3641
12.2
12.4
6.1
11.6
11.7
6.3
12.3
10.8
6.2
12.9
9.7
6.0
12.9
10.1
6.7
輸入物価(%、除く石油関連)
生産者物価・最終財コア(%)
コア消費者物価(%)
連鎖式コア消費者物価(%)
FF金利誘導目標(末値,%)
2年債金利(%)
10年債金利(%)
商工業向け銀行貸出(%)
不動産向け銀行貸出(%)
マネーサプライ(%)
ダウ工業30種平均(末値)
NASDAQ(末値)
円・ドルレート(末値,\/$)
ドル・ユーロレート(末値,$/Euro)
*5.25
*5.25
*4.67
*4.77
*4.69
*4.75
0.6
1.3
0.7
0.3
0.8
0.3
*13062.91 *13627.64
*2525.09 *2604.52
*119.44
*121.76
*1.3660
*1.3453
(注)*印は水準。
(資料)米国商務省、米国労働省、米連邦準備制度理事会、カンファレンスボード、米サプライマネジメント協会(ISM)、
モーゲージバンカーズ協会(MBA)、米住宅建築業協会、米独立企業連盟(NFIB)、HAVER ANALYTICS
8
発行 / みずほ総合研究所
編集 / みずほ総合研究所 調査本部
〒100-0004
東京都千代田区大手町 1-5-5
シニアエコノミスト 小野 亮
[email protected]
TEL 03−3201−0544
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