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01 南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動に関する報告
南海トラフ沿いの巨大地震による 長周期地震動に関する報告 平成27年12月 南海トラフの巨大地震モデル検討会 首都直下地震モデル検討会 あ はじめに .......................................................... 1 1.長周期地震動とは .............................................. 3 2.長周期地震動の検討対象とする地震 .............................. 5 2-1.過去地震 ................................................ 5 2-2.最大クラスの地震 ........................................ 5 3.長周期地震断層モデル .......................................... 6 3-1.東北地方太平洋沖地震等から得られた知見 .................. 6 3-2.南海トラフ沿いの長周期地震断層モデル .................... 8 4.長周期地震動による地表の揺れの推計手法 ........................ 9 4-1.対象とする地震動の周期 .................................. 9 4-2.地盤構造モデル .......................................... 9 (1)浅い地盤構造モデル .......................................9 (2)深い地盤構造モデル ......................................10 4-3.三次元差分法による長周期地震動の計算 ................... 11 (1)統計的グリーン関数法と三次元差分法 ......................11 (2)長周期地震断層モデルの破壊伝播の揺らぎの導入 ............12 (3)長周期地震動の推計結果と観測記録との比較 ................12 (4)破壊開始点、強震動生成域の位置の違いの影響 ..............13 5.長周期地震動による地表の揺れの推計結果 ....................... 14 6.超高層建築物への影響 ......................................... 15 6-1.構造躯体への影響 ....................................... 15 (1)擬似速度応答スペクトルの推計結果 ........................16 (2)超高層建築物の耐震性能に関する実証的研究 ................17 (3)構造躯体への影響の評価 ..................................18 6-2.室内への影響 ........................................... 19 (1)各階における揺れの推計手法(モード合成法) ..............19 (2)各階における揺れの最大値の推計手法(SRSS 法) ............19 (3)モード合成法と SRSS 法の妥当性の評価 .....................20 (4)最上階における揺れの推計結果 ............................21 (5)室内への影響の評価 ......................................22 7.長周期地震動への対策 ......................................... 24 7-1.超高層建築物の構造躯体の対策 ........................... 24 7-2.超高層建築物の室内等の対策 ............................. 24 (1)家具類等の固定の推進 ....................................25 (2)身の安全確保 ............................................25 (3)エレベーター対策 ........................................25 (4)非構造部材等の対策 ......................................26 (5)災害対応力の向上対策 ....................................26 7-3.石油タンクの対策 ....................................... 29 8.留意事項と今後の課題 ......................................... 29 8-1.推計結果を利用する際の留意事項 ......................... 29 8-2.今後の課題 .............................................. 30 (1)長周期地震動の推計手法の高度化 ..........................30 (2)地盤構造モデルの高度化 ..................................31 (3)建築物の挙動・影響の評価機能の充実 ......................31 おわりに ......................................................... 31 (参考)本両検討会における用語の取り扱い ......................... 33 参考文献 ......................................................... 36 (参考)委員名簿 ................................................. 38 はじめに 「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会 報 告 」( 中 央 防 災 会 議 , 2011) に お い て は 、 今 世 紀 前 半 に も 発 生 す る 可 能 性 が 高いとされている南海トラフ沿いの巨大地震対策として、過去に発生した地 震・津 波 の み で な く 、最 大 ク ラ ス の 地 震・津 波 に つ い て も 検 討 す る 必 要 が あ る と 指 摘 し て い る 。ま た 、首 都 直 下 地 震 対 策 で は 、そ れ ま で 検 討 対 象 と さ れ て い なかった相模トラフ沿いの巨大地震、いわゆる関東大震災クラスの地震につ いても検討すべきであると指摘している。 こ の た め 、南 海 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 対 策 の 検 討 に あ た っ て は「 南 海 ト ラ フ の 巨 大 地 震 モ デ ル 検 討 会 」を 、首 都 直 下 地 震 対 策 の 検 討 に あ た っ て は「 首 都 直 下 地 震 モ デ ル 検 討 会 」を 設 置 し 、必 要 と な る 地 震・津 波 の 震 源 断 層 モ デ ル 及 び 、 そ れ ら に 対 応 す る 地 震 動 ・ 津 波 高 等 の 検 討 を 行 い 、「 強 震 断 層 モ デ ル と 震 度 分 布 」及 び「 津 波 断 層 モ デ ル と 津 波 高 等 」を 既 に 報 告 書 と し て 取 り 纏 め 公 表 し た 。 この報告書で取り纏めた強震断層モデルによる震度分布は、木造家屋等の 被 害 推 定 に 利 用 さ れ る 指 標 で 、統 計 的 グ リ ー ン 関 数 法 に よ り 得 ら れ た 周 期 2~ 3 秒よりも周期の短い強震波形を用いて推定したものである。 し か し 、高 さ 60m を 超 え る よ う な 超 高 層 建 築 物 の 固 有 周 期 は 、高 さ 100m で 2 秒 程 度 、高 さ 300m で は 5~ 6 秒 程 度 と な る 。ま た 、大 型 の 石 油 タ ン ク は 、タ ン ク 内 の 石 油 量 に よ り 異 な る が 、 概 ね 4~ 10 秒 程 度 の 固 有 周 期 を 持 つ 。 こ の こ と か ら 、超 高 層 建 築 物 や 大 型 の 石 油 タ ン ク 等 に 被 害 を も た ら す 恐 れ の あ る 2 ~ 10 秒 程 度 の や や 長 周 期 の 地 震 動 ( 以 下 、「 長 周 期 地 震 動 」 と 言 う 。) に つ い て は 、 長 周 期 地 震 動 を 推 定 す る た め の 震 源 断 層 モ デ ル ( 以 下 、「 長 周 期 地 震 断 層 モ デ ル 」 と 言 う 。) を 含 め 、 別 途 検 討 す る 必 要 が あ り 、 引 き 続 き の 検 討 課 題 としてきた。 長 周 期 地 震 動 の 推 計 に つ い て は 、「 南 海 ト ラ フ の 巨 大 地 震 モ デ ル 検 討 会 」 及 び「 首 都 直 下 地 震 モ デ ル 検 討 会 」の 両 検 討 会 に 共 通 す る 課 題 で あ る こ と か ら 、 両 検 討 会( 以 下 、両 検 討 会 を 合 わ せ て 、 「 本 両 検 討 会 」と 言 う 。)で 共 同 し て 検 討 す る こ と と し た 。本 両 検 討 会 で は 、東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 震 源 断 層 モ デ ル 等の最近の科学的知見を基に、南海トラフ沿い及び相模トラフ沿いの長周期 地 震 断 層 モ デ ル や 長 周 期 地 震 動 に よ る 影 響 の 評 価 等 に つ い て 、こ れ ま で 31 回 にわたり検討を重ねてきた。 こ の 検 討 の 結 果 、南 海 ト ラ フ 沿 い で 発 生 す る 地 震 等 、震 源 断 層 域 か ら あ る 程 1 度以上離れた場所にある長周期地震動については、概ね妥当な長周期地震断 層モデルを設定できることが確認された。 これに対し、大正関東地震において震源断層の直上となる神奈川県南部な ど 、相 模 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 に お け る 長 周 期 地 震 動 に つ い て は 、そ の 揺 れ が 極めて大きくかつ大きな地殻変動も伴うことから、震源断層の極近傍におけ る長周期地震動を表現するための長周期地震断層モデルの検討と、強い地震 動による地盤の塑性化を考慮した地震伝播の計算手法の検討を併せて行う必 要がある。 し か し な が ら 、今 回 の 検 討 で は 、こ れ ら 震 源 断 層 の 極 近 傍 に お け る 長 周 期 地 震 動 の 推 計 手 法 を 取 り 纏 め る に は 至 ら な か っ た 。こ の 課 題 に つ い て は 、震 源 断 層に係る理論的な研究や本年4月に発生したネパールの地震等における震源 断層の極近傍における観測記録なども参考として、科学的な観点から引き続 き早急に検討することが重要となる。 以 上 の こ と か ら 、今 回 、本 両 検 討 会 と し て 、相 模 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 に よ る長周期地震動については引き続きの課題とし、南海トラフ沿いで想定され る巨大地震による長周期地震動の検討結果を「南海トラフ沿いの巨大地震に よる長周期地震動に関する報告」として取り纏めることとした。 本検討では、超高層建築物や石油タンク等に及ぼす影響を検討する必要性 が高い三大都市圏を中心に、長周期地震断層モデルの設定とこのモデルを用 いた長周期地震動の推計を実施した。 ま た 、長 周 期 地 震 動 に つ い て は 、超 高 層 建 築 物 等 へ の 影 響 に 関 す る 社 会 的 な 関 心 が 極 め て 高 い こ と か ら 、超 高 層 建 築 物 の 構 造 躯 体 へ の 影 響 及 び 、一 般 家 庭 内 の 家 具 や 事 務 所 内 の オ フ ィ ス 家 具 並 び に 家 電 製 品 等 ( 以 下 、「 家 具 類 等 」 と 言 う 。)の 転 倒 や 移 動 、人 の 行 動 に 与 え る 影 響 に 関 す る 注 意 喚 起 等 を 行 う た め 、 建築分野の専門家にも参加頂き検討した。 た だ し 、長 周 期 地 震 動 に よ る 超 高 層 建 築 物 等 へ の 影 響 は 、個 々 の 建 築 物 の 構 造 特 性 に よ り 大 き く 異 な る 。こ の た め 、超 高 層 建 築 物 や 石 油 タ ン ク 等 に お け る 具 体 的 な 長 周 期 地 震 動 対 策 に つ い て は 、本 報 告 を 参 考 に し て 、今 後 、関 係 省 庁 等において、詳細な検討が進められることを期待する。 本報告が南海トラフ沿いの巨大地震の事前の備えの一つとして、今後の長 周 期 地 震 動 対 策 の 充 実 、強 化 の 契 機 と な る こ と を 期 待 す る も の で あ る 。ま た 、 相模トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動については、引き続きの検討 2 課題として、早急に検討することが重要である。 な お 、今 回 検 討 し た 長 周 期 地 震 動 評 価 の た め の 長 周 期 地 震 断 層 モ デ ル は 、あ くまでも長周期地震動を検討するために作成した断層モデルであり、震度分 布や津波高等を推定に用いる断層モデルとは異なるものである。 1.長周期地震動とは 地 震 が 起 き る と 様 々 な 周 期 を 持 つ 揺 れ( 地 震 動 )が 発 生 す る 。こ こ で い う「 周 期 」と は 、揺 れ が 1 往 復 す る の に か か る 時 間 の こ と で あ る 。南 海 ト ラ フ 沿 い の 巨大地震のような規模の大きな地震が発生すると、木造家屋に被害を及ぼす 短 周 期 の 地 震 動 だ け で な く 、 数 秒 か ら 100 秒 を 超 え る よ う な 長 い 周 期 の 地 震 動 も 生 じ る 。先 に 述 べ た と お り 、本 報 告 で は 、こ れ ら 周 期 の 長 い 地 震 動 の う ち 、 超 高 層 建 築 物 や 大 型 の 石 油 タ ン ク 等 に 影 響 す る 2~ 10 秒 程 度 の や や 長 周 期 の 地震動を「長周期地震動」と呼んでいる。 長周期地震動は、マグニチュードが大きくなると振幅が急激に増大する特 徴 が あ る 。ま た 、長 周 期 地 震 動 の 主 成 分 で あ る 表 面 波 は 、震 源 が 浅 い ほ ど 卓 越 す る 。こ の た め 、お お よ そ マ グ ニ チ ュ ー ド 7 以 上 の 規 模 で 、海 溝 型 地 震 や 内 陸 の活断層で起きる地震のように震源が浅い地震では、長周期地震動による被 害 の 発 生 が 懸 念 さ れ る 。ま た 、長 周 期 地 震 動 は 、周 期 の 短 い 波 に 比 べ て 減 衰 し に く く 遠 く ま で 伝 わ り 、厚 い 堆 積 層 が あ る 大 規 模 平 野 で は 、長 周 期 地 震 動 に よ る揺れが大きくなる。長周期地震動の主な特徴を図1に示す。 一 方 、建 物 に は 固 有 の 揺 れ や す い 周 期( 固 有 周 期 )が あ り 、図 2 に 示 す と お り 、超 高 層 建 築 物 の 固 有 周 期 は 、建 物 の 高 さ が 高 く な る に つ れ て 長 く な る 。こ の関係を用いて、個々の超高層建築物の高さからその建築物の大まかな固有 周 期 を 把 握 す る こ と が で き る 。 例 え ば 、 高 さ 100m 程 度 の 建 物 で 固 有 周 期 が 2 秒 程 度 、 日 本 で 最 も 高 い ビ ル の 高 さ 300m 程 度 に な る と そ の 固 有 周 期 は 5~ 6 秒程度である。 建物の固有周期が地震動の卓越周期と近い場合には建物は揺れやすく、地 震動に揺すられ続けることで建物の揺れは次第に大きくなる。これを共振と い う 。長 周 期 地 震 動 は 、短 周 期 の 地 震 動 に 比 べ て 揺 れ の 継 続 時 間 が 長 い た め 、 振幅が小さくても、建築物の固有周期に近い卓越周期の長周期地震動が入力 す る と 、そ の 建 築 物 は 共 振 に よ っ て 大 き く 揺 れ る こ と と な る 。な お 、超 高 層 建 3 築物の揺れは、低層階よりも高層階が大きくなる。 近 年 、大 規 模 平 野 に 立 地 す る 首 都 圏 や 中 部 圏 、近 畿 圏 な ど の 地 域 で は 、近 代 的 な 超 高 層 建 築 物 が 多 く 建 て ら れ て い る 。こ れ ら 近 代 的 な 超 高 層 建 築 物 は 、未 だ 南 海 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 に 見 舞 わ れ て い な い が 、 1944 年 昭 和 東 南 海 地 震 で は 四 日 市 市 の 高 さ 185m の 煙 突 が 倒 壊 し た 事 例 も あ り 、想 定 さ れ る 南 海 ト ラ フ沿いの巨大地震による長周期地震動の揺れによる影響が懸念されている。 長 周 期 地 震 動 に よ る 被 害 は 、以 前 か ら 知 ら れ て い る 。1964 年 新 潟 地 震( M7.5) は 、液 状 化 に よ る 建 物 倒 壊 の 被 害 が 社 会 的 に も 注 目 さ れ た 地 震 で あ る が 、石 油 タ ン ク 内 の 石 油 が 共 振 し て 溢 れ 、火 災 被 害 が 発 生 し て お り 、長 周 期 地 震 動 に よ る 被 害 に 関 心 が 持 た れ た 地 震 で も あ っ た 。 1983 年 日 本 海 中 部 地 震 ( M7.7) や 1984 年 長 野 県 西 部 地 震 ( M6.8) で は 、 震 源 か ら 遠 く 離 れ た 新 宿 の 超 高 層 建 築 物において、長周期地震動によると考えられるエレベーターの管制ケーブル の 破 断 事 故 が 発 生 し て い る ( 木 下 ・ 大 竹 , 2000)。 最 近 で は 、 2003 年 十 勝 沖 地 震 (M8.0)に お い て 、 震 源 か ら 約 250km 離 れ た 苫 小 牧 で 発 生 し た 石 油 タ ン ク 火 災 が 記 憶 に 新 し い 。こ の 被 害 は 、長 周 期 地 震 動 と タ ン ク 内 の 石 油 が 共 振 し 、液 面 が 大 き く 搖 動( ス ロ ッ シ ン グ )し た 結 果 、タ ン ク か ら 石 油 が 溢 れ る 等 に よ り 発 生 し た も の で あ る 。な お 、石 油 で 満 た さ れ た 石 油 タ ン ク の 固 有 周 期( ス ロ ッ シ ン グ 固 有 周 期 )は 、タ ン ク 内 の 石 油 量 に よ り 異 な る が 、4~ 10 秒 程 度 の も の が ほ と ん ど で あ る 。2004 年 新 潟 県 中 越 地 震 (M6.8) では、東京は震度 3 程度の揺れであったが、長周期地震動によるエレベータ ーロープの揺れによると考えられる引掛りの被害が報告されている(エレベ ー タ ー 協 会 ,2009)。 2011 年 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震( M9.0)で は 、地 震 の 規 模 が 大 き い こ と か ら 、 広範囲で震度 5 弱以上の揺れとなり、エレベーターの停止や閉じ込め、家具 の 転 倒 な ど の 被 害 が 発 生 し た 。さ ら に 、こ の 地 震 は 、日 本 海 溝 沿 い の や や 深 い 場 所 で 発 生 し た 地 震 で あ っ た こ と や 、そ の 周 辺 の 地 下 構 造 の 特 色 に よ り 、地 震 規模に比べて長周期地震動を強く励起した地震ではなかったが、首都圏の超 高層建築物の滞在者が「船に乗っているような揺れが長く続きとても怖かっ た」と感じる等、長周期地震動による特徴的な建物の揺れが報告されている ( 気 象 庁 , 2011)。 ま た 、 震 源 か ら 遠 く 離 れ た 大 阪 で も 、 長 周 期 地 震 動 に よ る 特徴的な揺れが報告されており、長周期地震動が社会的に注目された。 今 回 検 討 対 象 と し た 南 海 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 は 、 地 震 規 模 が M8〜 9 ク ラ 4 スと大きく、東北地方太平洋沖地震が発生した日本海溝沿いの地震に比べて 震源域が浅い上に陸地に近いため、長周期地震動が強く発生する可能性が高 い 。こ の た め 、高 層 ビ ル や 石 油 タ ン ク 等 が 多 く 立 地 し て い る 三 大 都 市 圏 の 平 野 部では、長周期地震動による被害が懸念されている。 2.長周期地震動の検討対象とする地震 2-1.過去地震 図 3 に 示 す と お り 、過 去 1000 年 程 度 の 間 に 南 海 ト ラ フ 沿 い で 発 生 し た 地 震 の 履 歴 を 見 る と 、 M8~ 9 ク ラ ス の 巨 大 地 震 が 約 100~ 150 年 の 間 隔 で 発 生 し て いる。 中 央 防 災 会 議( 2003)に よ る 南 海 ト ラ フ 沿 い の 地 震・津 波 対 策 で 検 討 対 象 と し た 過 去 地 震 は 、歴 史 資 料 等 が あ る 程 度 整 っ て い る 地 震 と し て き た 。本 検 討 に お い て も 、実 際 に 発 生 し た 過 去 地 震 に 対 す る 検 討 を 具 体 的 に 進 め る 観 点 か ら 、 中 央 防 災 会 議( 2003)と 同 じ く 、過 去 地 震 に つ い て は 、1707 年 宝 永 地 震( M8.6)、 1854 年 安 政 東 海 地 震( M8.4)、1854 年 安 政 南 海 地 震( M8.4)、1944 年 昭 和 東 南 海 地 震( M7.9)、1946 年 昭 和 南 海 地 震( M8.0)の 5 地 震 を 今 回 長 周 期 地 震 動 を 検討する対象とした。 な お 、地 震 調 査 研 究 推 進 本 部( 2015)に よ る と 、南 海 ト ラ フ 沿 い で M8~ 9 ク ラ ス の 地 震 が 発 生 す る 確 率 は 、 今 後 30 年 以 内 に 70 パ ー セ ン ト 程 度 と し て い る。 2-2.最大クラスの地震 「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会 報告」 ( 中 央 防 災 会 議 ,2011)で は 、今 後 想 定 す る 地 震・津 波 の 考 え 方 と し て 、 「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討すべきで あ る 」と 指 摘 し て い る 。こ の 趣 旨 を 踏 ま え 、本 検 討 で は 、南 海 ト ラ フ 沿 い に お ける過去地震に加え、最大クラスの地震についても検討対象として長周期地 震動の推計を行うこととした。 南海トラフ沿いの最大クラスの地震における長周期地震断層モデルは、最 大 ク ラ ス の 地 震 に 相 当 す る M9 ク ラ ス の 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 震 源 過 程 解 析 から得られた科学的知見を基に、後述するとおり、検討対象とした 5 つの過 5 去地震で強震動を生成した領域を包絡する形で設定した。 「 南 海 ト ラ フ の 巨 大 地 震 モ デ ル 検 討 会( 第 二 次 報 告 )」 ( 内 閣 府 ,2012)で は 、 最大クラスの地震の発生頻度は、領域の津波堆積物調査による津波の発生履 歴からみると、千年に一度あるいはそれよりもっと低いと整理されたもので あ る 。今 回 、長 周 期 地 震 動 の 発 生 を 検 討 す る 最 大クラスの地震の発生頻度につい ては、津波堆積物等の資料が十分でなく、直接的な評価はできないが、一 般 的 に は 、 地震規模が大きいほど頻度が低くなるため、検討対象とした 5 つの過去地震 に比べて発生頻度は更に低いと考えられる。 なお、日本海溝沿いの巨大地震について見ると、地震調査研究推進本部 ( 2011) は 、 869 年 の 貞 観 地 震 や 15 世 紀 頃 に も 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 と 同 程 度の規模の地震が発生したと考えられることから、東北地方太平洋沖地震と 同 程 度 の 規 模 の 地 震 の 発 生 間 隔 を 約 600 年 程 度 と し て い る 。 建 造 物 の 耐 震 対 策 に お け る 検 討 で 対 象 と す る 地 震 は 、一 般 的 に 、そ の 使 用 期 間 や 使 用 目 的 等 を 踏 ま え て 検 討 さ れ る 。こ の 際 、最 大 ク ラ ス の 地 震 に よ る 長 周 期地震動を対象とすることは、それぞれの建造物の建築主及び設計者の判断 に委ねられている。本検討における最大クラスの地震による長周期地震動の 推計結果については、建造物の使用期間や使用目的等を踏まえて参考とされ たい。 3.長周期地震断層モデル 3-1.東北地方太平洋沖地震等から得られた知見 複雑な断層の破壊過程によって生じる強震動や津波、長周期地震動を統一 的 に 表 現 す る 震 源 断 層 モ デ ル を 構 築 す る こ と は 困 難 で あ る 。こ の た め 、本 検 討 で は 、こ れ ま で に 構 築 し た 南 海 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 に お け る「 強 震 断 層 モ デ ル 」、 「 津 波 断 層 モ デ ル 」と は 別 に 、長 周 期 地 震 動 を 推 計 す る た め に 用 い る「 長 周 期 地 震 断 層 モ デ ル 」を 構 築 し た 。長 周 期 地 震 断 層 モ デ ル の 検 討 に あ た っ て は 、 最大クラスの地震に相当する東北地方太平洋沖地震など、過去地震における 断 層 の 破 壊 過 程 に 関 す る 解 析 結 果 を 収 集・整 理 し 、そ の 特 徴 等 を 以 下 の と お り 整理した。 ① 東北地方太平洋沖地震の津波断層モデルでは、海溝に近い側に大きな津 6 波を発生させた断層すべり量の大きな領域(大すべり域及び超大すべり 域 )が 存 在 す る 。ま た 、広 範 囲 で 観 測 さ れ る 周 期 20 秒 か ら 数 百 秒 以 上 の 地震動は、概ね大すべり域、超大すべり域に対応する領域から発生して いる。 「 南 海 ト ラ フ の 巨 大 地 震 に よ る 震 度 分 布 ・津 波 高 等 に つ い て( 第 一 次 報 告 )」( 内 閣 府 , 2012) で 整 理 し た 既 往 研 究 に お け る 東 北 地 方 太 平 洋 沖地震の断層すべり量分布の解析結果を図4に示す。 ② 一方、日本国内で観測された強震動地震波形を用いた解析により、周期 10 秒 程 度 或 い は そ れ よ り 短 い 周 期 の 地 震 動 は 、津 波 断 層 モ デ ル の 大 す べ り域、超大すべり域よりも陸域側の領域で発生すると考えられる。この よ う な 強 震 動 を 発 生 す る 領 域 は 、 強 震 動 生 成 域 ( SMGA : Strong Motion Generation Areas) と 呼 ば れ て い る 。 断 層 運 動 に よ り 地 震 動 と 津 波 を 生 成する領域である強震動生成域及び大すべり域・超大すべり域の模式図 を図5に示す。 ③ 川 辺・他( 2012)、Kurahashi&Irikura( 2013)等 に よ る 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 解 析 で は 、 周 期 2~ 10 秒 程 度 ま で の 長 周 期 地 震 動 は 、 大 す べ り 域 や超大すべり域等を含む震源断層全体を表現する断層モデルではなく、 強震動生成域のみから長周期地震動が生成されるとする断層モデルによ り 観 測 記 録 を 再 現 で き る こ と を 示 し た ( 図 6 )。 ④ なお、周期の長い地震動ほど断層の変位が大きな領域からも発生してい る と 考 え ら れ る こ と か ら 、 本 検 討 に お い て 、10 秒 程 度 ま で の 長 周 期 地 震 動が、超大すべり域から発生しているか否かを確認した。その結果、図 7 に 示 す と お り 、超 大 す べ り 域 を 含 む 津 波 断 層 モ デ ル で は 、周 期 10 秒 の 長周期地震動の推計が広範囲にわたり過大評価になった。さらに、超大 すべり域を除外した津波断層モデルでも、震源域から離れたところの再 現性は改善するが近い場所では過小評価となる。このため、本検討にお け る 周 期 10 秒 程 度 ま で の 長 周 期 地 震 動 の 断 層 モ デ ル は 、超 大 す べ り 域 を 含むことは適切でなく、強震動生成域のみを用いた断層モデルにより推 計することが妥当であることが確認された。 ⑤ 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 強 震 動 生 成 域 の 解 析 結 果 は 、図 8 に 示 す と お り 、 過 去 に 同 じ 領 域 で 発 生 し た M7~ 8 ク ラ ス の 地 震 の 強 い 強 震 動 を 発 生 さ せ る 領 域( 過 去 の 検 討 で「 ア ス ペ リ テ ィ 」と 整 理 し た 領 域 )の 解 析 結 果 と 、 7 概ね近い領域にある。このことから、南海トラフ沿いにおける最大クラ スの地震による長周期地震動の検討においても、検討対象とした過去地 震の強震動生成域を基に検討することが適切と考えられる。 ⑥ 地震の規模を表す地震モーメントと断層面積の間には、図9に示すとお り相似則(スケーリング則)が成立することが知られている(例えば室 谷・他( 2012))。一 方 、東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 解 析 結 果 を 整 理 す る と 、 図10に示すとおり、強震動生成域毎の地震モーメントと面積の間にも 同 様 の ス ケ ー リ ン グ 則 が 成 立 し て い る ( 横 田 ・他 ,2012)。 こ の こ と か ら 、 長周期地震断層モデルの各強震動生成域の地震モーメントは、このスケ ーリング則を用いて設定こととする。 ⑦ 地震断層に蓄えられた応力は、地震の発生によって解放される。この蓄 えられた応力の解放量を「応力降下量」という。東北地方太平洋沖地震 に よ る 2~ 10 秒 程 度 の 長 周 期 地 震 動 の 既 往 研 究 に よ る 解 析 ( 表 1 及 び 図 11)によれば、強震動生成域の応力降下量は、その面積等の大小によ ら ず 、 多 少 の バ ラ つ き は あ る も の の 概 ね 15~ 30MPa の 範 囲 に あ る 。 ⑧ 強震動生成域の応力降下量の解析結果を踏まえ、南海トラフ沿いの過去 地 震 の 再 現 に 用 い る 強 震 動 生 成 域 の 応 力 降 下 量 に つ い て は 、15~ 30MPa の 範囲に設定して検討することが適切と考える。また、最大クラスの長周 期地震断層モデルに用いる強震動生成域の応力降下量においても、最大 で も 30MPa と す る こ と が 適 切 と 考 え ら れ る 。 3-2.南海トラフ沿いの長周期地震断層モデル 本 検 討 で は 、先 に 述 べ た 震 源 断 層 モ デ ル の 特 徴 等 を 踏 ま え 、南 海 ト ラ フ 沿 い の地震による長周期地震動を推計する長周期地震断層モデルを構築した。 周 期 10 秒 ま で の 長 周 期 地 震 動 に つ い て は 、強 震 動 生 成 域 の み の モ デ ル で 表 現 で き る こ と か ら 、今 回 検 討 す る 長 周 期 地 震 断 層 モ デ ル は 、震 源 断 層 域 全 体 で はなく、強震動生成域のみのモデルを用いることとした。 過去地震の長周期地震断層モデルとして設定する強震動生成域は、統計的 グ リ ー ン 関 数 法 で 震 度 分 布 を 再 現 す る 強 震 動 生 成 域 と 同 じ と し た 。ま た 、応 力 降下量についても、震度分布を再現した際と同様に、全ての強震動生成域で 30MPa と し た 。な お 、南 海 ト ラ フ 沿 い の 過 去 地 震 に つ い て 、そ れ ぞ れ の 震 度 分 布を再現する強震断層モデル及び津波を再現する津波断層モデルを、別冊① 8 「南海トラフ沿いの過去地震の強震断層モデル及び津波断層モデル」に取り 纏めた。 さらに、最大クラスに相当する東北地方太平洋沖地震の強震動生成域が過 去に同じ領域で発生した地震の強震動生成域と概ね一致した場所にあること を踏まえ、南海トラフ沿いの最大クラスの地震による長周期地震動を推計す る た め の 長 周 期 地 震 断 層 モ デ ル に 用 い る 強 震 動 生 成 域 は 、検 討 対 象 と し た 5 つ の 過 去 地 震 の 強 震 動 生 成 域 を 全 て 包 絡 す る よ う に 設 定 し た 。な お 、5 つ の 過 去 地 震 の 強 震 動 生 成 域 は 、同 様 の 位 置 に あ っ て も 面 積 が 異 な る 場 合 が あ る 。こ の 場 合 、最 大 ク ラ ス の 長 周 期 地 震 断 層 モ デ ル に お け る 強 震 動 生 成 域 は 、面 積 が 最 大 の も の を 採 用 し た 。ま た 、応 力 降 下 量 は 、最 大 ク ラ ス に 相 当 す る 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 解 析 結 果 か ら 30MPa と し た 。 本検討で構築した長周期地震断層モデルの強震動生成域を図12に、断層 パラメータを表2に示す。 4.長周期地震動による地表の揺れの推計手法 4-1.対象とする地震動の周期 本 両 検 討 会 に お い て は 、既 に 短 周 期 の 地 震 動 を 推 計 す る 手 法 で あ る 統 計 的 グ リ ー ン 関 数 法 を 用 い て 概 ね 周 期 2~ 3 秒 以 下 の 短 周 期 の 地 震 動 を 推 計 し 、南 海トラフ沿いの地震による震度分布の検討を終えている。 先に述べたとおり、長周期地震動により被害が懸念される超高層建築物の 固有周期は長いもので 6 秒程度、貯蔵されている石油を含む石油タンクのス ロ ッ シ ン グ 固 有 周 期 は 4~ 10 秒 程 度 の も の が ほ と ん ど で あ る こ と か ら 、 今 回 の 長 周 期 地 震 動 の 検 討 は 、 周 期 2~ 10 秒 程 度 の 地 震 動 を 対 象 と す る 。 4-2.地盤構造モデル 本 検 討 で は 、長 周 期 地 震 動 の 推 計 に 用 い る 地 盤 構 造 モ デ ル に つ い て 、最 近 の 科 学 的 知 見 を 踏 ま え 、 S 波 速 度 が 350m/s~ 700m/s の 工 学 的 基 盤 を 境 と し て 、 浅い地盤構造と深い地盤構造を以下のとおり整理した。 (1)浅い地盤構造モデル 短 周 期 の 地 震 動 の 強 さ を 示 す 震 度 の 推 計 で は 、工 学 的 基 盤 か ら 上 の 浅 い 地 盤 の モ デ ル 化 を 行 い 、 深 さ 30m ま で の S 波 平 均 速 度 ( AVS30) か ら 表 層 地 盤 に よ る震度の増幅分を求め、これを工学的基盤における震度の推計結果に加える 9 ことで、地表での震度を推計した。 一 方 、浅 い 地 盤 に お け る 長 周 期 地 震 動 の 震 幅 の 増 幅 を 調 査 す る た め 、東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 に お け る KiK-net 地 震 計 の 観 測 記 録 か ら 、 浅 い 地 盤 に 相 当 す る 深 さ 105m 未 満 孔 中 地 震 計 を 抽 出 し 、孔 中 と 地 表 の 地 震 観 測 記 録 を 比 較 し た 。 図13に結果を示すとおり、ほとんどの地点において、周期 2 秒以上の長周 期地震動は震幅の増幅が小さいことが確認できた。 以 上 の こ と か ら 、本 検 討 に お け る 長 周 期 地 震 動 の 推 計 に 用 い る 地 盤 構 造 モ デ ルは、浅い地盤構造を含まず、工学的基盤が地表を構成しているとした。 た だ し 、図 1 4 に 示 す と お り 、沿 岸 部 な ど 柔 ら か い 地 盤 の 地 域 で は 、固 い 地 盤の地域に比べ、わずかではあるが長周期地震動も増幅しやすい傾向にある こ と も 確 認 し て い る 。本 検 討 結 果 の 活 用 に あ た っ て は 、こ の こ と に 留 意 す る と と も に 、東 京 湾 沿 岸 部 や 濃 尾 平 野 の 一 部 な ど 堆 積 層 が 厚 い と こ ろ で は 、塑 性 化 により地盤の固有周期が長くなる可能性についても留意する必要がある。 (2)深い地盤構造モデル 地震動の水平動と上下動の観測記録を比較すると、堅固な地盤では水平動 と上下動が同程度であるのに対し、柔らかい地盤では水平動が上下動に比べ て 大 き く な る 。こ れ は 、深 い 地 盤 の 固 有 周 期 に 対 応 す る 周 期 の 表 面 波 が 増 幅 す る特性によるものと考えられる。 本両検討会における震度分布及び津波高等のこれまでの検討では、上記の 考 え を 踏 ま え 、地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 か ら 公 開 さ れ て い る「 全 国 一 次 地 下 構 造 モ デ ル( 暫 定 版 )」( 2012)を 基 に し て 、水 平 動( H)と 上 下 動( V)の 周 期 ご と の 振 幅 比( H/V ス ペ ク ト ル )の 観 測 値 に 合 致 す る よ う 首 都 圏 及 び 中 部 圏 の 地 盤 構造モデルを修正している。 本 検 討 に お い て も 、こ れ ま で の 修 正 方 法 を 用 い て 、四 国 及 び 東 海 地 域 な ど 図 1 5 に 示 す 地 域 の 観 測 デ ー タ を 点 検 し 、深 部 地 盤 モ デ ル の 修 正 を 行 っ た 。主 な 地 点 の H/V ス ペ ク ト ル に よ る 地 盤 モ デ ル の 修 正 結 果 を 図 1 6 に 示 す 。 図 1 7 に は 、 観 測 記 録 の H/V ス ペ ク ト ル と 地 盤 モ デ ル か ら 計 算 さ れ る H/V ス ペ ク ト ルそれぞれの卓越周期の相関図を地盤モデルの修正前と修正後について示す。 修 正 後 の 地 盤 モ デ ル は 、概 ね 観 測 記 録 の 卓 越 周 期 を 説 明 す る こ と が 分 か る 。ま た 、地 盤 構 造 モ デ ル 修 正 前 後 の 速 度 層 上 面 深 度 分 布 を 図 1 8 に 、中 央 防 災 会 議 2007 年 モ デ ル か ら の 変 更 履 歴 を 比 較 し た 断 面 図 を 図 1 9 に 示 す 。 10 な お 、地 域 毎 に 観 測 さ れ る 地 震 波 形 の 卓 越 周 期 は 、地 盤 の 一 次 固 有 周 期 と 相 関 が 高 い こ と が 中 央 防 災 会 議 の こ れ ま で の 検 討 で 確 認 さ れ て い る( 例 え ば 、中 央 防 災 会 議( 2006))。本 検 討 で 用 い る 地 盤 構 造 モ デ ル か ら 計 算 し た 地 盤 の 一 次 固 有 周 期 は 、図 2 0 に 示 す と お り で あ り 、地 域 毎 に 卓 越 し や す い 地 震 動 の 周 期 を把握することができる。 な お 、短 周 期 の 地 震 動( 震 度 )は 浅 い 地 盤 構 造 に よ る 増 幅 が 大 き く 、地 域 毎 の 増 幅 量 に つ い て は 、震 度 の「 ゆ れ や す さ マ ッ プ 」 ( 図 2 1 )と し て 、 「首都直 下 の M7 ク ラ ス の 地 震 及 び 相 模 ト ラ フ 沿 い の M8 ク ラ ス の 地 震 等 の 震 源 断 層 モ デ ル と 震 度 分 布 ・ 津 波 高 等 に 関 す る 報 告 書 」( 平 成 25 年 12 月 ) で 公 表 し て い る。 図20と図21を比較することで、周期が長い地震動が卓越しやすい地域 と震度が大きくなる地域が必ずしも一致しないことが分かる。 4-3.三次元差分法による長周期地震動の計算 (1)統計的グリーン関数法と三次元差分法 本 両 検 討 会 に お い て 震 度 の 推 計 に 用 い た 統 計 的 グ リ ー ン 関 数 法 は 、小 地 震 に よる S 波の振幅特性及び経時特性が統計的に得られることを利用して、小断 層毎に推計した地表の波を重ね合わせることで各地点の震度を求める手法で あ る 。こ の 手 法 の 詳 細 を 別 冊 ②「 統 計 的 グ リ ー ン 関 数 法 を 用 い た 震 度 分 布 の 推 計手法」に示す。 一 方 で 、本 検 討 で は 、厚 い 堆 積 層 な ど で 増 幅 す る 表 面 波 を 含 め た 長 周 期 地 震 動を推計するため、弾性体の運動方程式を逐次数値計算的に解くことで地震 動を求める三次元差分法を用いることとした。統計的グリーン関数法と三次 元差分法の推計手法の特徴を図22に示す。 三次元差分法においては、地盤構造モデルを格子の集合体のモデルに置き 換 え 、各 格 子 の 粒 子 速 度 と 応 力 を 逐 次 計 算 す る 。こ の 際 、格 子 の サ イ ズ は 、計 算 す る 地 震 動 の 波 長 と 比 べ 十 分 に 小 さ く す る 必 要 が あ る 。な お 、本 検 討 で 設 定 した格子サイズは、周期 2 秒の波長の 5 分の 1 よりも小さくなるよう設定す る こ と と し 、 最 も 格 子 サ イ ズ が 小 さ な 浅 部 で 140m で あ る 。 本 検 討 で 用 い た 手 法 の 詳 細 に つ い て は 、別 冊 ③「 三 次 元 差 分 法 を 用 い た 長 周 期地震動の推計手法」に示す。 三次元差分法を用いた長周期地震動の計算は、複雑な地盤構造や伝播過程 11 を反映した計算が可能となる一方で、メッシュ数を増やすと多くの計算資源 が 必 要 と な る 。ま た 、本 検 討 で は 、多 数 の 地 震 を 検 討 対 象 と す る こ と や 長 周 期 地震動の影響範囲が広範囲に及ぶこと、断層の破壊過程の揺らぎ等を変えた 多 く の パ タ ー ン の 計 算 を 行 う こ と な ど 、膨 大 な 計 算 資 源 を 必 要 と し た 。こ の た め 、本 検 討 に お け る 長 周 期 地 震 動 の 計 算 に は 、文 部 科 学 省 が 政 策 的 に 重 要 か つ 緊急な課題に対し割り当てる重点化促進枠により、世界トップレベルのスー パーコンピュータ「京」を利用して実施した。 (2)長周期地震断層モデルの破壊伝播の揺らぎの導入 実 際 の 地 震 に お け る 断 層 の 破 壊 は 、断 層 面 の 不 均 質 性 等 に よ り 、一 様 に 破 壊 するのではなく、破壊の伝播速度や破壊の大きさが場所により異なる複雑な 破壊過程であると考えられる。 本 検 討 で は 、こ の 複 雑 な 破 壊 過 程 を 表 現 す る た め 、乱 数 を 用 い て 、断 層 の 破 壊伝播速度に揺らぎを与えた場合と、断層のすべり量に揺らぎを与えた場合 について検討した。 結果、断層のすべり量に揺らぎを与える方式よりも破壊伝播速度に揺らぎ を与える方式の方が効果的に複雑な破壊過程を表現できることが確認できた ( 図 2 3 及 び 図 2 4 )。 こ の こ と か ら 、 今 回 の 検 討 で は 、 破 壊 伝 播 速 度 に 揺 ら ぎを与える方式を用いることとした。 な お 、こ の 揺 ら ぎ は 、乱 数 に よ る 方 式 を 用 い て い る が 、同 じ 分 散 を 持 つ 乱 数 系列であっても、乱数系列により長周期地震動の推計結果が異なることも確 認 さ れ た 。こ の た め 、乱 数 系 列 の 差 に よ る 影 響 を 少 な く す る た め 、断 層 の 破 壊 伝 播 速 度 に 揺 ら ぎ を 与 え た 60 通 り の 推 計 を 実 施 し 、各 地 点 に お け る 長 周 期 地 震 動 の 推 計 値 及 び 推 計 値 の ば ら つ き が 、 周 期 2~ 10 秒 の い ず れ の 結 果 に お い て も 平 均 的 な 範 囲 に 収 ま る 5 通 り を 妥 当 性 が 高 い ケ ー ス と 判 断 し て 、こ の 5 通 りの推計結果を平均化した値を長周期地震動の推計結果として採用すること とした。 (3)長周期地震動の推計結果と観測記録との比較 検討対象とした過去地震のうち、長周期地震動の計算結果と観測記録を比 較 で き る 地 震 は 少 な い 。本 検 討 で は 、比 較 的 記 録 が 残 っ て い る 昭 和 東 南 海 地 震 と 大 正 関 東 地 震 ( 横 田 ・ 他 ,1989) を 対 象 と し て 、 長 周 期 地 震 動 の 観 測 記 録 と 12 推計結果を時刻歴波形とスペクトルで比較し、三次元差分法による推計手法 の妥当性を評価した。 昭 和 東 南 海 地 震 の 観 測 記 録 と の 比 較( 図 2 5 )で は 、東 京 や 横 浜 、千 葉 な ど 震源断層域からある程度以上離れたところでの観測記録を概ね再現すること が で き た 。な お 、昭 和 東 南 海 地 震 の 再 現 計 算 に 用 い た 強 震 動 生 成 域 の 応 力 降 下 量 は 30MPa で あ る 。 ま た 、大 正 関 東 地 震 の 観 測 記 録 と の 比 較( 図 2 6 )で は 、震 源 か ら 少 し 離 れ た 東 京 の 観 測 デ ー タ を 概 ね 再 現 す る こ と が で き た 。し か し な が ら 、震 源 断 層 の 極近傍における長周期地震動については、その評価手法に関する科学的知見 の蓄積や観測記録が不足していることなどから、その妥当性を評価できなか っ た 。こ の こ と か ら 、相 模 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 に よ る 長 周 期 地 震 動 に つ い て は 、引 き 続 き の 検 討 課 題 と し た 。な お 、大 正 関 東 地 震 の 再 現 計 算 に 用 い た 強 震 動 生 成 域 の 応 力 降 下 量 は 25MPa で あ る 。 (4)破壊開始点、強震動生成域の位置の違いの影響 過去の地震の観測波形との比較により、設定した長周期地震断層モデルと 破壊伝播速度の揺らぎの妥当性に加え、破壊開始点や強震動生成域の設定に ついても、概ね妥当であることが確認できた。 し か し 、断 層 の 破 壊 開 始 点 が 異 な る と 、長 周 期 地 震 動 の 伝 播 の 様 子 が 異 な る 。 ま た 、強 震 動 生 成 域 の 位 置 は 、過 去 地 震 の 震 度 分 布 を 再 現 し た も の を 用 い て い る が 、今 後 の 過 去 資 料 の 一 層 の 充 実 に よ り 、強 震 動 生 成 域 の 位 置 も 異 な る 可 能 性がある。 本検討では、これら破壊開始点や強震動生成域の位置が異なった場合の例 に つ い て も 試 算 し た 。長 周 期 地 震 動 の 活 用 に あ た っ て は 、こ れ ら の 試 算 結 果 に も留意する必要がある。 ① 破壊開始点の違いの影響 紀伊半島沖にある強震動生成域から破壊が開始し、東西方向に破壊が伝 播するケースと最も西側の強震動生成域から破壊が開始し、東側へ破壊が 伝 播 す る ケ ー ス で 長 周 期 地 震 動 を 推 計 し た 結 果 、図 2 7 に 示 す と お り 、破 壊 が一方向に伝播するケースの方が長周期地震動の推計値が大きくなる地点 があることが分かった。 13 ② 強震動生成域の位置の違いの影響 検討対象とした過去地震の震度分布を再現する強震動生成域の位置を基 本 ケ ー ス と し て 、 強 震 動 生 成 域 を 東 側 ・ 西 側 ・ 陸 側 ・ 沖 側 へ 約 10km 移 動 さ せた 4 つのケースについて、長周期地震動を推計し、強震動生成域の位置 の揺らぎに対する推計結果への影響を評価した。 図28に結果を示すとおり、推計値の最大値が大きくなる地点がある場 合や新たに推計値が大きな地域ができる場合があることが確認できる。 5.長周期地震動による地表の揺れの推計結果 本検討では、南海トラフ沿いの巨大地震が発生した際に想定される長周期 地震動を概観するために、検討対象とした過去地震及び最大クラスの地震に つ い て 、長 周 期 地 震 動 に よ る 地 表 の 揺 れ を 推 計 し た 。こ の 際 、先 に 述 べ た と お り 、工 学 的 基 盤 の 揺 れ を 地 表 の 揺 れ と 見 な し て 推 計 し て い る 。ま た 、破 壊 開 始 点は、震度分布を再現した際と同様に、紀伊半島沖に設定した。 本 検 討 で 推 計 し た 長 周 期 地 震 動 の 波 形 及 び 最 大 速 度 、最 大 変 位 、継 続 時 間 の 推 計 結 果 に つ い て は 、別 冊 ④「 長 周 期 地 震 動 の 推 計 結 果 ~ 長 周 期 地 震 動 に よ る地表の揺れ~」に取り纏めた。 こ こ で は 、検 討 対 象 と し た 過 去 地 震 の う ち 、マ グ ニ チ ュ ー ド が 大 き く 影 響 範 囲が広い宝永地震と安政東海地震及び最大クラスの地震による推計結果から、 長周期地震動による影響が大きな地域を概観する。 ま ず 、長 周 期 地 震 動 の 計 算 波 形 を 図 2 9 に 示 す 。関 東 平 野 や 濃 尾 平 野 、大 阪 平野などの大規模平野などで長周期地震動が励起されている様子が確認でき る 。ま た 、長 周 期 地 震 動 の 強 さ と し て 、最 大 速 度 の 推 計 結 果 を 図 3 0 に 、最 大 変 位 の 推 計 結 果 を 図 3 1 に 示 す 。最 大 速 度 及 び 最 大 変 位 の い ず れ に お い て も 、 強 震 動 生 成 域 付 近 で 震 度 と 同 様 に 大 き く な る 。さ ら に 、強 震 動 生 成 域 か ら 離 れ た場所でも宝永地震では中部圏及び近畿圏で、安政東海地震では首都圏及び 中 部 圏 で や や 大 き な 値 が 推 計 さ れ て い る 。ま た 、最 大 ク ラ ス の 地 震 で は 、三 大 都 市 圏 の 全 て で や や 大 き な 値 と な っ て い る 。な お 、比 較 の た め 、短 周 期 の 地 震 動の強さを示す指標である震度分布を図32に示す。 続いて、長周期地震動による揺れの継続時間に関する推計結果を図33に 示 す 。い ず れ の 地 震 に お い て も 、三 大 都 市 圏 で 揺 れ の 継 続 時 間 が 長 く 推 計 さ れ 14 て い る 。こ れ は 、三 大 都 市 圏 が 立 地 す る 柔 ら か な 地 盤 の 堆 積 層 で は 、長 周 期 地 震動が励起されやすく、継続時間が長くなりやすいためである。 以 上 の 推 計 結 果 か ら 、南 海 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 が 発 生 し た 場 合 に は 、三 大 都市圏において長周期地震動が卓越することが想定される。 ま た 、気 象 庁 で は 、周 期 1.5 秒 か ら 8 秒 ま で の 地 震 動 を 対 象 と し て 、減 衰 率 5% の 絶 対 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル の 最 大 値 を 基 に 「 長 周 期 地 震 動 階 級 」 を 定 め て い る 。本 検 討 に お け る 長 周 期 地 震 動 の 推 計 結 果 を こ の 階 級 に 適 用 す る と 、長 周 期地震動が卓越している三大都市圏に加え、震度が大きな地域でも長周期地 震 動 階 級 が 大 き く 推 計 さ れ て い る 。こ の 結 果 に つ い て は 、別 冊 ④ に 掲 載 し て い る。 な お 、本 検 討 に お い て は 、強 震 動 生 成 域 の み か ら 成 る 長 周 期 地 震 断 層 モ デ ル を用いて継続時間を推計しているが、実際の地震では強震動生成域を除く震 源 断 層 領 域 か ら も 微 弱 で は あ る が 地 震 動 が 発 生 し て い る 。こ の た め 、実 際 の 地 震では、長周期地震動の継続時間がより長くなる可能性があることに留意が 必 要 で あ る 。ま た 、首 都 圏 に お け る 長 周 期 地 震 動 の 影 響 に つ い て は 、本 検 討 で 今後の検討課題とした相模トラフ沿いの巨大地震による影響についても考慮 する必要がある。相模トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動の推計につ いては、別途検討を行うこととしている。 6.超高層建築物への影響 6-1.構造躯体への影響 南 海 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 が 発 生 す る と 、地 域 の 地 盤 構 造 に 応 じ て 、長 周 期 地 震 動 が 発 生 し 、震 源 か ら 一 定 程 度 離 れ た 地 域 に お い て も 、固 有 周 期 が 長 い 超 高層建築物や免震建築物が共振し、長い時間繰り返し大きく揺れる場合があ る。 超高層建築物を設計するにあたっては、建設時期によりその内容に違いは あ る も の の 、こ れ ま で 一 定 の 長 周 期 成 分 を 含 む 地 震 動 に 対 し て 、建 築 物 の 各 部 分に生じる力及び変形を時々刻々と連続的に把握するなど、個別に詳細な検 討 が 行 わ れ て き た 。ま た 、免 震 建 築 物 に つ い て は 、超 高 層 建 築 物 と 同 様 の 検 討 を 行 う か 、又 は 、別 途 定 め ら れ た 計 算 基 準 に よ り 耐 震 安 全 性 を 確 保 す る こ と が 必要とされてきた。 15 具 体 的 に は 、極 め て ま れ に 発 生 す る 地 震 動 に 対 し て 、超 高 層 建 築 物 に つ い て は 、原 則 と し て 、各 階 の 層 間 変 形 角 を 1/100 以 内 と す る こ と 、各 階 の 層 全 体 や 柱 や は り 等 の 部 材 の 塑 性 率 を 一 定 以 下 と す る こ と 、免 震 建 築 物 に つ い て は 、上 部構造の柱やはり等の部材に損傷が生じないこと、免震層の変形により擁壁 に 衝 突 し な い こ と な ど 、建 築 物 の 倒 壊・崩 壊 に 対 し て 、余 裕 の あ る 設 計 が 求 め られてきた。 建築物の構造躯体への影響の評価においては、 「超高層建築物の構造耐力上 の 安 全 性 を 確 か め る た め の 構 造 計 算 の 基 準 を 定 め る 件( 平 成 12 年 建 告 第 1461 号 )」 で は 減 衰 率 5% の 加 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル ( Sa) で 振 幅 が 定 め ら れ た 波 形 を 構 造 設 計 に 用 い る と し て い る ほ か 、工 学 の 分 野 で は 、加 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル か ら 換 算 す る 擬 似 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル (pSv) が 地 震 動 の 大 き さ を 評 価 す る 指 標 と し て 用 い ら れ る こ と が 多 い 。ま た 、建 築 物 の 層 間 変 形 角 と 速 度 応 答 ス ペ ク トルには、図34に示すとおり相関がある。 本 検 討 で は 、1 質 点 系 に モ デ ル 化 し た 超 高 層 建 築 物 に 今 回 推 計 し た 長 周 期 地 震 動 を 地 面 の 揺 れ と し て 入 力 さ せ 、減 衰 率 5% で 推 計 し た 加 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル か ら 擬 似 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル を 算 出 し た 。さ ら に 、こ の 計 算 結 果 と 超 高 層 建 築物の耐震性能に関する研究を参照することで、南海トラフ沿いの巨大地震 が発生した際に三大都市圏における超高層建築物の構造躯体への影響を概観 した。 (1)擬似速度応答スペクトルの推計結果 宝永地震、安政東海地震及び最大クラスの地震による長周期地震動につい て 、 三 大 都 市 圏 に お け る 減 衰 率 5%の 擬 似 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル の 推 計 結 果 ( 周 期 2、3、4、5、6 秒 )を 図 3 5 ~ 3 7 に 示 す 。な お 、三 大 都 市 圏 の 拡 大 図 で は 、 地盤構造モデルによる推計結果の局所的なばらつきを少なくするため、各格 子 の 推 計 値 と し て 周 辺 に あ る 格 子 ( 9×9 領 域 ) の 推 計 値 を 参 照 し 、 そ の 中 央 値 を 推 計 値 に 採 用 す る 空 間 的 な フ ィ ル タ ー( メ デ ィ ア ン フ ィ ル タ ー )を か け る ことにより平滑化した結果を掲載している。 こ の 推 計 結 果 を 概 観 す る と 、三 大 都 市 圏 で は 、い ず れ の 地 域 で も 平 野 部 を 中 心 と す る 広 い 範 囲 で 概 ね 150cm/s 以 下 と な っ て い る が 、 沿 岸 部 や 内 陸 部 の 一 部 に 局 所 的 に 最 大 250cm/s 程 度 の 値 が 見 ら れ る 。 ま た 、 地 盤 の 持 つ 固 有 周 期 の 違 い に よ っ て 、増 幅 さ れ る 長 周 期 地 震 動 の 周 期 帯 が 異 な る こ と か ら 、擬 似 速 16 度応答スペクトルの値の地域差も周期毎に異なっている。 検討対象とした地震毎に比較すると、首都圏に最も影響が大きな過去地震 は 安 政 東 海 地 震 で あ る 。一 方 、中 部 圏 及 び 近 畿 圏 に 最 も 影 響 が 大 き な 過 去 地 震 は 宝 永 地 震 で あ る 。な お 、最 大 ク ラ ス の 地 震 で は 、首 都 圏 で 安 政 東 海 地 震 と 同 程度、中部圏及び近畿圏で宝永地震と同程度の値となっている。 な お 、本 検 討 で 推 計 し た 擬 似 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル に つ い て は 、別 冊 ⑤「 長 周 期地震動の推計結果 ~擬似速度応答スペクトル~」に取り纏めた。 (2)超高層建築物の耐震性能に関する実証的研究 長周期地震動に対する超高層建築物の損傷の評価については、まだ十分な 科 学 的 知 見 が 蓄 積 さ れ て い な い 。本 検 討 で は 、数 少 な い 科 学 的 知 見 と し て 、こ れまでに実施された長周期地震動に対する既存の超高層建築物の耐震性能の 確認を目的とする実証的研究である文部科学省の「都市の脆弱性が引き起こ す 激 甚 災 害 の 軽 減 化 プ ロ ジ ェ ク ト 」に お け る「 鉄 骨 造 高 層 建 物 の 崩 壊 余 裕 度 の 定 量 化 」( 以 下 、「 実 証 的 研 究 」 と 言 う 。) を 参 照 し た 。 こ の 研 究 か ら 得 ら れ た 主 な 知 見 は 、以 下 の と お り で あ る 。な お 、こ の 実 証 的 研 究 の 詳 細 を 参 考 1 に 示 す。 ○文部科学省「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」 ~鉄骨造高層建物の崩壊余裕度の定量化~ こ の 実 証 的 研 究 で は 、1980 年 代 か ら 1990 年 代 に 建 設 さ れ た 鉄 骨 造 高 層 建 物 を 念 頭 に 、 18 階 建 て を 想 定 し た 縮 尺 1/3 の 試 験 体 を 震 動 台 に 置 い た 震 動 実 験 を 行 っ て い る 。震 動 台 の 揺 れ を 次 第 に 大 き く し て 、試 験 体 の 損 傷 が ど の よ う に 進 む か を 調 査 し た 結 果 、参 考 1 の 参 図 5 に 示 す 層 せ ん 断 力 -層 間 変 形 角 関 係 の と お り 、 擬 似 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル 180cm/s ま で は 、 梁 端 に 塑 性 化 が見られるものの、履歴は安定していた。擬似速度応答スペクトルが 180cm/s を 越 え た 220、 250 ㎝ /s で は 、 梁 端 の 破 断 が 確 認 さ れ る が 、 層 せ ん 断 力 -層 間 変 形 角 関 係 で は 、 ま だ 耐 力 に 明 瞭 な 劣 化 は 見 ら れ て い な い 。 更 に 入 力 地 震 動 を 大 き く し て い く と 、 擬 似 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル 300cm/s で 、 層 せ ん 断 力 -層 間 変 形 角 関 係 に 明 瞭 な 劣 化 が 始 ま り 、 300cm/s を 越 え る と 劣 化 が よ り 進 行 す る こ と が 確 認 さ れ た 。こ の こ と か ら 、擬 似 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル 300cm/s の 時 点 で は 、建 物 は 倒 壊 し て い な い が 、地 震 後 に 人 が 建 物 の 中 に い 17 る こ と は 適 切 で は な い 状 況 に 達 し た と 判 断 さ れ て い る 。そ の 後 も 、更 に 入 力 地震動を大きくした実験を行い、さらに擬似速度応答スペクトルの値を上 げ た 実 験 を 続 け 、 最 大 値 が 420cm/s と な る 揺 れ を 3 回 被 っ た 時 点 で 、 梁 端 破断が広く進み、1 階の柱脚が破断して倒壊に至った。 こ の 実 証 的 研 究 で 用 い た 高 層 建 物 の モ デ ル は 、溶 接 を 含 め 、高 い 品 質 管 理 の 下 で 建 造 さ れ て お り 、例 え ば 古 い 時 代 の 超 高 層 建 築 物 で は 、溶 接 棒 や 鋼 材 の 品 質 に も ば ら つ き が あ り 、変 形 能 力 が 低 い 可 能 性 が あ る 。そ の 他 、実 験 時 の梁の長期応力が縮小試験体のため小さくなっているなどの課題がある。 したがって、この実験結果から一般的な超高層建築物の倒壊挙動を論ずる ことは適切ではないとの指摘もある。 小 鹿 ・ 他( 2015)は 、こ の 実 証 的 研 究 を 踏 ま え 、古 い 時 代 の 超 高 層 建 築 物 に即した評価が可能となるよう、溶接性能や鋼材の品質等の性能を一部引 き 下 げ た シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 っ た 。そ の 結 果 、実 証 的 研 究 の 条 件 か ら 各 種 性能を低下させた場合、より小さな擬似応答スペクトル値でも地震後に人 が建物の中にいることは適切ではない状況となる可能性を示唆しているこ とに留意する必要がある。 (3)構造躯体への影響の評価 今回推計した過去地震及び最大クラスの地震における擬似速度応答スペク ト ル の 値 は 、い ず れ の 地 震 の 場 合 も 、実 証 的 研 究 の 結 果 か ら 導 き 出 さ れ た 、地 震後に人が建物の中にいることは適切ではない状況とされた値には至ってい な い 。実 証 的 実 験 で は 、地 震 後 に 人 が 建 物 の 中 に い る こ と は 適 切 で は な い 状 況 に到達した時点で直ちに建物が倒壊していないことから、実際の高層建物に お い て も 、倒 壊・崩 壊 す る ま で に は 強 度 的 に 一 定 の 余 裕 が あ る の で は な い か と 推察される。 た だ し 、こ の 評 価 に つ い て は 、品 質 管 理 が さ れ た 建 造 物 に よ る 実 験 結 果 に よ るものであり、古い時代の超高層建築物を対象としたシミュレーションによ ると、より小さな擬似速度応答スペクトル値でも地震後に人が建物の中にい ることは適切ではない状況となる可能性があると指摘されている。このこと か ら 、個 別 の 超 高 層 建 築 物 の 構 造 躯 体 へ の 影 響 に つ い て は 、想 定 す べ き 長 周 期 地 震 動 を 用 い て 、改 め て 構 造 安 全 性 の 検 証 を 行 い 、そ の 検 証 結 果 に 応 じ て 、改 修等の措置を講じることが望ましい。 18 ま た 、超 高 層 建 築 物 に 限 ら ず 、免 震 建 築 物 に お い て も 、倒 壊・崩 壊 に 対 し て 、 余 裕 の あ る 設 計 が 求 め ら れ て き て お り 、倒 壊・崩 壊 に 対 し て 一 定 の 余 裕 が あ る と考えられるものの、建設された年代や使用されている免震装置等が異なる 各種の免震建築物に対し、長周期地震動に十分な余裕を有しているかについ て、現時点では判断できないものも存在することに留意が必要である。 6-2.室内への影響 本 検 討 で は 、長 周 期 地 震 動 の 地 表 の 揺 れ の 推 計 結 果 か ら 、超 高 層 建 築 物 の 揺 れ の 大 き さ を 推 計 し 、室 内 の 影 響 を 概 観 し た 。こ の 際 、超 高 層 建 築 物 の 各 階 の 揺れは、実際の建物の階層で観測された記録をもとにして推定した。 (1)各階における揺れの推計手法(モード合成法) 超 高 層 建 築 物 の 各 階 の 揺 れ の 推 計 手 法 と し て「 モ ー ド 合 成 法 」を 用 い た 。こ の 手 法 は 、建 物 を 多 質 点 系 に モ デ ル 化 し 、さ ら に 1 質 点 系 で モ ー ド 展 開 す る こ と で 、建 築 物 の 揺 れ( 建 物 応 答 )を 1 質 点 系 の 応 答 の 線 形 和 で 求 め る も の で あ る。 ま ず 、建 築 物 を 多 質 点 系 に モ デ ル 化 し た 模 式 図 を 図 3 8 に 示 す 。続 い て 、あ る 階 の 応 答 波 形 に 着 目 す る 。こ の 波 形 は 、図 3 9 に 示 す よ う に 、刺 激 関 数 を 介 し て 各 モ ー ド の 応 答 波 形 に 分 解 す る こ と が で き る 。刺 激 関 数 は 、建 物 の 揺 れ を 各モードで分解した際における各モードにおける揺れの寄与を示す重みであ る 。さ ら に 、こ れ ら 各 モ ー ド の 応 答 波 形 は 、同 じ 固 有 周 期 の 1 自 由 度 系 の 応 答 波 形 と 置 き 換 え る こ と が で き る 。こ の こ と か ら 、地 表 の 長 周 期 地 震 動 に よ る 1 質点系の応答計算の重ね合わせによって、建物の各階における揺れの大きさ を推計することができる。この手法は、モード合成法と呼ばれている。 このモード合成法を用いた超高層建築物の最上階における揺れの推計結果 と 観 測 記 録 と の 比 較 を 、 図 4 0 に 示 す 。 こ の 図 か ら 、 減 衰 率 2%と す る こ と に よ り 観 測 記 録 を 概 ね 再 現 で き る こ と が 確 認 さ れ る 。こ の こ と か ら 、本 検 討 で 超 高 層 建 築 物 の 最 上 階 の 揺 れ の 推 計 に 用 い る 減 衰 率 は 、 2%と し た 。 な お 、大 宮・久 田( 2014)に よ る 刺 激 関 数 を 用 い て 高 層 建 築 物 の 各 階 に お け る 揺 れ を 推 定 す る 場 合 、上 層 階 で は 概 ね 観 測 記 録 と 一 致 し た 揺 れ と な る が 、中 層 階 で は 過 小 評 価 と な る 場 合 が あ る こ と に 留 意 が 必 要 で あ る ( 図 4 1 )。 ( 2 ) 各 階 に お け る 揺 れ の 最 大 値 の 推 計 手 法 ( SRSS 法 ) 19 建物応答の最大値を推計する手法として、モード合成法による各 1 質点系 の 最 大 応 答 値( 応 答 ス ペ ク ト ル )の 自 乗 和 平 方 を 用 い て 評 価 す る「 応 答 ス ペ ク ト ル 法 」が あ る 。こ の 手 法 で は 、い く つ か 推 計 式 が 提 案 さ れ て お り 、本 検 討 で は、各次モードにおける刺激関数と最大応答値の自乗和平方根から応答の最 大 値 を 求 め る 「 自 乗 和 平 方 根 法 ( SRSS 法 )」 を 用 い た 。 一般的な高層建築物の揺れの推定では、その建物の 3 次モードまでの揺れ を 考 慮 す れ ば 十 分 と さ れ て い る こ と か ら 、 本 検 討 に お い て も 、 1~ 3 次 モ ー ド ま で を 用 い た SRSS 法 に よ り 超 高 層 建 築 物 の 揺 れ を 推 定 す る こ と と し た 。 ま た 、 今 回 の 三 次 元 差 分 法 に よ る 長 周 期 地 震 動 の 有 効 周 期 は 2~ 10 秒 と し て い る こ と か ら 、高 次 モ ー ド( 例 え ば 、1 次 固 有 周 期 が 3 秒 の 場 合 、2 次 固 有 周 期 は 1 秒 程 度 、3 次 固 有 周 期 は 0.6 秒 程 度 )の 揺 れ が 含 ま れ て い な い 。し か し 、家 具 類 等 の 転 倒 や 移 動 、人 の 行 動 へ の 影 響 を 評 価 す る に あ た っ て は 、短 周 期の地震動による応答を無視することができない。このため、周期が 2 秒以 下 と な る 2 次 、3 次 モ ー ド の 揺 れ は 震 度 の 再 現 を 行 っ た 統 計 的 グ リ ー ン 関 数 法 に よ る 応 答 値 を 用 い る こ と と し た 。な お 、最 大 ク ラ ス の 地 震 に つ い て は 、推 計 した長周期地震動との振幅の大きさに対する整合性を保つため、長周期地震 断 層 モ デ ル と 同 様 の 強 震 動 生 成 域 と 応 力 降 下 量 30MPa と し て 推 計 し た 強 震 動 を 用 い て 2~ 3 次 モ ー ド の 応 答 値 を 求 め た 。 な お 、推 計 に 用 い た 刺 激 関 数 に つ い て は 、建 物 の 構 造 や 階 数 に あ ま り 依 存 し な い こ と が 知 ら れ て お り 、大 宮・久 田( 2014)他 は 、刺 激 関 数 の 近 似 式 を 求 め 、 応答スペクトル法を用いて建物の応答を簡易的に推計している。今回の検討 で は 、 刺 激 関 数 に 大 宮 ・ 久 田 ( 2014) の 値 を 用 い た 。 ( 3 ) モ ー ド 合 成 法 と SRSS 法 の 妥 当 性 の 評 価 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 観 測 記 録 を 用 い て 、モ ー ド 合 成 法 と SRSS 法 を 用 い た超高層建築物の揺れの推計結果を比較して、本検討における推計手法の妥 当性を評価した。 具体的には、東北地方太平洋沖地震における 6 棟の超高層建築物の最上階 における観測波形について、地表の観測波形からモード合成法を用いて推計 した応答波形を比較した。その結果を図42に示す。 さ ら に 、最 上 階 の 揺 れ( 加 速 度 ・ 変 位 )の 最 大 値 に つ い て 、観 測 値 、モ ー ド 合 成 法 の み の 推 計 値 及 び モ ー ド 合 成 法 と SRSS 法 に よ る 推 計 値 を 比 較 し た 。こ 20 の 結 果 を 表 3 に 、 観 測 値 と 推 計 値 の 相 関 を 図 4 3 に 示 す と お り 、 SRSS 法 に よ る推計の妥当性が確認できた。 (4)最上階における揺れの推計結果 超 高 層 建 築 物 の 揺 れ は 、低 層 階 よ り も 高 層 階 の 揺 れ が 大 き く な る 。こ の た め 、 本検討では、室内への影響が最も大きくなると考えられる最上階の揺れを推 計 し た 。こ の 推 計 に は 、本 検 討 に お け る 長 周 期 地 震 動 に よ る 地 表 の 揺 れ の 推 計 結 果 を 入 力 波 と し て 、 モ ー ド 合 成 法 及 び SRSS 法 を 用 い た 。 超 高 層 建 築 物 の 各 階 に お け る 揺 れ は 、個 々 の 建 築 物 に よ り 異 な る た め 、そ れ ぞれの構造モデルを用いて外力に対する応答を計算する必要があるが、ここ では平均的な減衰率や固有周期を持つ仮想的な建物の最上階の揺れを推計す る こ と と し た 。な お 、最 上 階 よ り 下 の 階 に お け る 揺 れ の 大 き さ の 程 度 に つ い て は、モード合成法で求めた各階の揺れの大きさの関係を示した図41から把 握することができる。 宝永地震、安政東海地震及び最大クラスの地震による長周期地震動に伴う 超高層建築物の最上階の揺れについて、三大都市圏における最大加速度と最 大 変 位 の 推 計 結 果( 周 期 2、3、4、5、6 秒 )を 図 4 4 ~ 4 6 に 示 す 。最 大 加 速 度 は 、家 具 類 等 の 転 倒 や 人 の 行 動 難 度 を 評 価 す る 指 標 と し て 、最 大 変 位 は 、固 定されていないキャスター付きの家具類等が室内を移動する距離や、室内に い る 人 が 感 じ る 揺 れ の 大 き さ の 指 標 と し て 参 考 と な る 。な お 、図 中 に 示 す 数 値 は全て片振幅の大きさである。 最 大 加 速 度 の 推 計 結 果 を 概 観 す る と 、 三 大 都 市 圏 の 広 い 範 囲 で 250cm/s 2 以 上 が 推 計 さ れ て い る 。特 に 、宝 永 地 震 で は 、中 部 圏 及 び 近 畿 圏 に お い て は 、沿 岸 部 を 中 心 と す る 地 域 で 500 cm/s 2 程 度 若 し く は そ れ 以 上 の 加 速 度 が 推 計 さ れ て い る 。安 政 東 海 地 震 で は 、首 都 圏 で も 500 cm/s 2 程 度 の 加 速 度 が 推 計 さ れ る 地 域 が あ る 。最 大 ク ラ ス の 地 震 で は 、最 大 加 速 度 が 首 都 圏 で 安 政 東 海 地 震 と 同程度、中部圏及び近畿圏で宝永地震と同程度となっている。 最 大 変 位 に つ い て は 、い ず れ の 地 震 で も 、三 大 都 市 圏 の 沿 岸 部 を 中 心 と す る 地 域 に お い て 、 100cm~ 200cm 程 度 が 推 計 さ れ て い る 。 さ ら に 、 超 高 層 建 築 物 の 固 有 周 期 別 に み る と 、中 部 圏 及 び 近 畿 圏 の 一 部 地 域 に お い て 、固 有 周 期 5~ 6 秒 の 建 物 で 300cm 以 上 の 変 位 も 推 計 さ れ て い る 。首 都 圏 に お い て は 、固 有 周 期 が 長 い 建 物 ほ ど 変 位 は 大 き く な り 、固 有 周 期 5~ 6 秒 の 建 物 で 200cm 程 度 の 21 変位となっている。 な お 、本 検 討 で 推 計 を 行 っ た 長 周 期 地 震 動 に よ る 建 物 最 上 階 の 揺 れ( 最 大 加 速度、最大変位)については、別冊⑥「長周期地震動の推計結果 ~超高層建 築物における最上階の揺れ~」として取り纏めた。 (5)室内への影響の評価 ①家具類等の転倒 家 具 類 等 の 転 倒 に つ い て は 、背 の 高 い も の ほ ど 、揺 れ が 小 さ く て も 転 倒 す る 可 能 性 が 高 く な る 。金 子( 2002)に よ れ ば 、周 期 2 秒 程 度 以 上 の 揺 れ に 対 し て は 、家 具 の 転 倒 の 有 無 は 、加 速 度 と 相 関 が あ る こ と か ら 、今 回 の 検 討 で は、加速度の指標を用いて家具の転倒を評価した。 ま た 、日 本 建 築 学 会( 2013)に よ る 加 速 度 と 家 具 の 転 倒 に 関 す る 簡 易 評 価 式を用いて、家具の形状別に長周期地震動による家具の転倒可能性を整理 す る と 図 4 7 の と お り と な る 。 こ れ に よ れ ば 、 奥 行 40cm の 家 具 で は 、 加 速 度 応 答 が 200cm/s 2 以 下 で あ れ ば 、 高 さ 180cm 程 度 ま で の 家 具 は 転 倒 の 可 能 性 が 低 い 。 一 方 で 、 加 速 度 が 400cm/s 2 程 度 以 上 に な る と 高 さ 100cm 程 度 ま で の 家 具 が 、加 速 度 が 800cm/s 2 以 上 に な る と 高 さ 50cm 程 度 ま で の 家 具 が 転 倒の可能性が高くなる。 超高層建築物における最上階の揺れの推計結果と家具の転倒可能性に関 する簡易評価式から、南海トラフ沿いの巨大地震が発生した際の三大都市 圏 に お け る 影 響 を 概 観 す る と 、背 の 高 い 家 具 類 等 に つ い て は 、広 い 範 囲 で 転 倒 す る 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ る 。ま た 、一 部 地 域 で は 、背 の 低 い 家 具 類 等 であっても、転倒を引き起こす程度の揺れが発生することが想定される。 超 高 層 建 築 物 に お い て は 、図 4 1 に 示 す と お り 、上 層 階 ほ ど 揺 れ が 大 き く なるが、中層階においても最上階の半分或いはそれ以上の揺れとなること か ら 、家 具 転 倒 に つ い て 注 意 す る 必 要 が あ る 。な お 、周 期 が 長 く な る と 、加 速度が大きくなくとも家具類等が転倒する可能性が高まることに留意する 必要がある。 ②家具類等の移動 長周期地震動で超高層建築物が大きく揺れると、キャスター付きの滑り やすい家具類等は、建物の揺れの変位量と同程度もしくはそれ以上に移動 22 す る 可 能 性 が あ る 。本 検 討 で 推 計 し た 変 位 量 は 、揺 れ の 振 幅 の 最 大 値( 片 振 幅 ) で あ り 、 例 え ば 、 揺 れ の 変 位 が 2m 程 度 あ る 場 合 に は 、 滑 り や す い 家 具 類 等 も 2m 程 度 、 往 復 で 4m 程 度 若 し く は そ れ 以 上 も 移 動 す る こ と に な り 、 極 め て 危 険 な 凶 器 と な る 。ま た 、移 動 し た 家 具 類 等 が 衝 突 す る こ と で 、更 な る移動や転倒を引き起こし、被害の拡大を招く可能性もあることにも留意 が必要である。 ③非構造部材等の被害 2011 年 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 で は 、 超 高 層 建 築 物 を 含 む 多 く の 建 物 で 、 間 仕 切 り 壁 や 天 井 材 、ス プ リ ン ク ラ ー な ど の 非 構 造 部 材 や 設 備 機 器( 以 下 、 「 非 構 造 部 材 等 」 と 言 う 。) に も 様 々 な 被 害 が 発 生 し た 。 日 本 建 築 学 会 ( 2013) で は 、 非 構 造 部 材 等 の 被 害 と し て 、 加 速 度 100 ~ 350cm/s 2 の 揺 れ が 生 じ た 建 物 で 間 仕 切 り 壁 の 割 れ や 天 井 落 下 、 ス プ リ ン ク ラ ー の 破 損 、防 火 戸 の 開 閉 障 害 な ど の 発 生 が 確 認 さ れ て い る 。こ れ よ り 小 さ な 加 速 度 50~ 150 cm/s 2 の 揺 れ が 生 じ た 建 物 で も 、階 段 室 の 壁 の 亀 裂 や は が れ 、壁 パ ネ ル の 脱 落 、集 合 住 宅 の 玄 関 脇 の 壁 モ ル タ ル の 軽 微 な 剥 離 な ど が 発 生したとしている。 本検討における超高層建築物の最上階の揺れの推計結果から、南海トラ フ沿いの巨大地震が発生した際には、東北地方太平洋沖地震に発生した非 構造部材等の被害と同等かそれ以上の被害が、三大都市圏を中心に広範囲 で発生する可能性がある。 ④人の行動への影響 肥 田・永 野( 2012)は 、東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 発 生 時 に 超 高 層 建 築 物 内 にいた人へのアンケート調査を基に、加速度及び速度と人の行動難度に関 す る 関 係 を 整 理 し て い る ( 表 4 及 び 図 4 8 )。 本検討における人の行動への影響については、家具類等の転倒に関する 影響の評価と同様に、加速度をその指標として評価した。 肥 田・永 野( 2012)に よ る 超 高 層 建 築 物 の 加 速 度 と 人 の 行 動 難 度 の 関 係 式 に よ る と 、 最 大 加 速 度 が 100cm/s 2 程 度 で 歩 い た り 動 い た り す る こ と に や や 支 障 が あ り 、200cm/s 2 程 度 で 立 っ て い る こ と が で き な く な る 、と し て い る 。 今回の最大加速度の推計結果を見ると、一見小さな値のように思われる 23 か も し れ な い が 、家 具 類 等 の 移 動 と 同 じ く 、揺 れ の 周 期 が 長 く な る と 、揺 れ の変位量と同じだけ人も部屋の中を何回も移動させられるような状況とな る可能性がある。 南海トラフ沿いの巨大地震が発生した際の三大都市圏における影響を概 観 す る と 、 広 い 範 囲 で 、「 船 に 乗 っ て い る よ う な 揺 れ が 長 く 続 き 」 歩 い た り 動 い た り す る こ と に や や 支 障 が 生 じ 、一 部 地 域 で は 、立 っ て い る こ と が 困 難 に な る 。さ ら に 、揺 れ に 翻 弄 さ れ 、自 分 の 意 志 で 何 も 行 動 で き な い よ う な 状 況が生じることも想定される。 超高層建築物内で長周期地震動を感じた場合には、部屋の中で振り回さ れ な い よ う 、身 の 安 全 を 確 保 す る と と も に 、体 が 移 動 し な い よ う 手 す り 等 に 摑まることが重要となる。 7.長周期地震動への対策 7-1.超高層建築物の構造躯体の対策 既存の超高層建築物においては、現時点では長周期地震動による影響が十 分 に 解 明 さ れ て い な い 点 も 多 い 。ま た 、一 般 に 高 い 耐 震 性 を 有 す る と さ れ る 免 震 建 築 物 に お い て も 同 様 に 、擁 壁 に 衝 突 し た 場 合 や 設 計 時 に 想 定 し た 地 震 動 、 使 用 材 料 及 び 接 合 部 の 種 類 、平 面・立 面 の 形 状 等 に よ り 、想 定 す べ き 長 周 期 地 震動に対し、強度的に必ずしも十分な余裕を有しているとは判断できないも の も 存 在 す る 可 能 性 が あ る 。こ の こ と か ら 、超 高 層 建 築 物 や 免 震 建 築 物 の 長 周 期 地 震 動 対 策 に つ い て は 、個 別 の 建 築 物 ご と に 、想 定 す べ き 長 周 期 地 震 動 を 用 い て 、改 め て 構 造 安 全 性 の 検 証 を 行 い 、そ の 検 証 結 果 に 応 じ て 、改 修 等 の 措 置 を講じることが望ましい。 な お 、超 高 層 建 築 物 や 免 震 建 築 物 の 管 理 者 は 、大 規 模 地 震 に よ り ビ ル が 大 き く 揺 れ た 場 合 は 、継 続 利 用 や 改 修 の 要 否 の 判 断 を 行 う に 当 た り 、当 該 建 築 物 の 設計者等の専門家に調査を依頼することが望ましい。 7-2.超高層建築物の室内等の対策 多くの人が滞在する超高層建築物では、長周期地震動による大きな揺れが 生 じ た 場 合 、火 災 や 負 傷 者 の 発 生 、建 物 内 へ の 閉 じ 込 め な ど 、様 々 な 被 害 が 同 時 発 生 す る こ と が 懸 念 さ れ る 。ま た 場 合 に よ っ て は 、通 信 の 輻 輳 に よ り 電 話 が 24 使 え ず 、空 調・電 気・上 下 水 な ど の ラ イ フ ラ イ ン が 停 止 す る こ と も 考 え ら れ る 。 エレベーターは、地震発生時の管制運転により長時間停止することが予想 さ れ 、低 層 階 に 位 置 す る「 防 災 セ ン タ ー 」や 管 理 人 室 の 職 員 が 高 層 階 の 被 害 状 況 を 速 や か に 把 握 し て 駆 け つ け る こ と が で き な い 場 合 も 想 定 さ れ る 。ま た 、同 じような状況が周辺の超高層建築物でも発生することで、外部からの迅速な 救援も期待できない状況に陥ることを前提に対策を講じる必要がある。 (1)家具類等の固定の推進 超高層建築物が長周期地震動によって共振すると、上層階になるほど揺れ が 大 き く な る 。今 回 の 超 高 層 建 築 物 の 揺 れ の 推 計 結 果 で は 、多 く の 固 定 し て い ない家具類等が転倒する可能性が高く、キャスター付きの家具類等が大きく 移動することで人的な被害が発生することが懸念される。 家 具 類 等 の 転 倒 や 移 動 、落 下 の 防 止 対 策 は 、短 周 期 の 揺 れ へ の 対 策 だ け で な く 長 周 期 地 震 動 対 策 と し て も 非 常 に 重 要 で あ る 。こ の た め 、転 倒 防 止 器 具 や 移 動防止器具により、家具類等の固定を推進する必要がある。 特 に 、巨 大 地 震 が 発 生 し た 場 合 に は 、家 具 類 等 を 十 分 に 固 定 で き ず 、転 倒 に より扉がふさがれたり、コピー機などの重い機器が窓際にあるとガラスに衝 突 し て 地 上 に 落 下 し た り す る 可 能 性 が あ る 。こ の こ と か ら 、家 具 類 等 の 設 置 位 置にも配慮が必要である。 (2)身の安全確保 今回の推計結果では超高層建築物において、立つことができない程の揺れ に な る 場 所 が 多 く あ る と 想 定 さ れ る 。揺 れ を 感 じ た ら 、ヘ ル メ ッ ト 等 に よ り 頭 部を保護し、廊下や部屋の出入口など足や手を伸ばすことで体を固定できる 場 所 で 、体 勢 を 低 く し 、揺 れ に よ り 飛 ば さ れ な い よ う に す る こ と が 重 要 で あ る 。 ま た 、室 内 の 照 明 な ど の 設 備 機 器 が 落 下 す る こ と も 想 定 さ れ る こ と か ら 、丈 夫なテーブルの下など安全な場所に避難することも重要となる。 (3)エレベーター対策 2004 年 新 潟 県 中 越 地 震 ( M6.8) で は 、 東 京 の 震 度 は 3 程 度 で あ っ た が 、 長 周期地震動によるエレベーターロープの揺れによると考えられる引掛りの被 害 が 報 告 さ れ て い る ( エ レ ベ ー タ ー 協 会 ,2009)。 25 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 の 長 周 期 地 震 動 予 測 地 図 作 成 等 支 援 事 業( 2012)で は 、 地震によるエレベーター被害の特徴を以下のとおり取り纏めている。 ・マ グ ニ チ ュ ー ド 7 ク ラ ス 以 上 の 規 模 の 地 震 で あ れ ば 、震 央 か ら 遠 く 離 れ て も厚い堆積層に立地する超高層ビルでは被害が発生する可能性がある。 ・超高層ビルのエレベーターロープは、長周期地震動で共振して大きく揺 れ 、昇 降 路 内 の 機 器 ブ ラ ケ ッ ト な ど に ひ っ か か る こ と に よ っ て 被 害 を 起 こ すことが多い。 以 上 を 踏 ま え 、す で に 国 と し て は 、地 震 時 管 制 運 転 装 置 の 導 入 や エ レ ベ ー ターロープの昇降路突出物への絡まり防止対策を求めているところである。 ま た 、エ レ ベ ー タ ー 内 の 閉 じ 込 め が 発 生 し た 際 に 、エ レ ベ ー タ ー 保 守 会 社 の み な ら ず 、消 防 や 建 物 管 理 者 等 が 、安 全 に 配 慮 し つ つ 救 出 で き る よ う 、関 係 団 体 と も 協 力 し て 、訓 練 に 取 り 組 ん で い る と こ ろ で あ り 、引 き 続 き こ れ ら の 対 策 を 推進する必要がある。 (4)非構造部材等の対策 南海トラフ沿いの巨大地震が発生した際には、三大都市圏を中心に広範 囲 で 非 構 造 部 材 等 の 被 害 が 発 生 す る 可 能 性 が あ る 。こ れ ら の 被 害 は 、建 物 の 居住者や建物周辺の人に危害を与える可能性があることに加え、地震後の 生活継続や事業継続に支障が生じることも想定される。 こ の た め 、超 高 層 建 築 物 に お け る 長 周 期 地 震 動 対 策 に つ い て は 、構 造 躯 体 へ の 対 策 の み で な く 、非 構 造 部 材 や 設 備 機 器 に つ い て も 、長 周 期 地 震 動 に よ る影響を受けないよう対処することが重要である。 特 に 、人 に 危 害 を 与 え る 可 能 性 が 高 い 天 井 材 等 の 落 下 に つ い て は 、接 合 金 物に耐震性の高いものを用いることや壁や設備との間に適切な空間を設け ること、部材を軽量化することなどの対策が考えられる。 (5)災害対応力の向上対策 ①緊急地震速報等の情報の活用 長周期地震動はゆっくりとした速度で伝わる表面波が主成分であるため、 南海トラフ沿いの地震のように遠方の海溝型地震の場合、長周期地震動が 26 到 達 す る ま で に あ る 程 度 の 時 間 的 な 余 裕 が あ る 。さ ら に 、超 高 層 建 築 物 が 長 周 期 地 震 動 と 共 振 し て 、揺 れ が 次 第 に 大 き く な り 、揺 れ が ピ ー ク に な る ま で には地震発生から数十秒~数分程度の猶予があると考えられる。 このため、緊急地震速報等の大きな地震の発生を知らせる情報を活用す ることにより、長周期地震動による揺れが大きくなる前に地震の発生を知 ることができ、ある程度の余裕をもって身の安全の確保を行うことが可能 になる。超高層建築物の滞在時に大きな地震が発生したことを知らせる緊 急地震速報等を見聞きした場合や、長周期地震動による揺れを感じた場合 には、大きな揺れに備えて体が移動しないように身の安全を図ることが重 要 で あ る 。な お 、長 周 期 地 震 動 に よ る 揺 れ が 大 き く な る 前 に 、短 周 期 の 地 震 動による大きな揺れが発生する場合があることにも留意が必要である。 緊急地震速報等の情報は、短周期の地震動による揺れに対応するための も の で 長 周 期 地 震 動 を 直 接 的 に 予 測 す る 情 報 で は な い 。今 後 、長 周 期 地 震 動 の発生を予測し、超高層建築物の在館者へ事前に情報提供を行う新たな仕 組みについて検討することが望まれる。 ②被害状況を把握する手段の改善 超高層建築物等で火災等の監視と消防設備等の制御を行う「防災センタ ー 」は 、通 常 は 地 上 階 に 位 置 す る た め 、地 震 時 の 高 層 階 の 揺 れ や 被 害 状 況 を 把 握 す る こ と は 困 難 で あ る 。 こ の た め 、「 防 災 セ ン タ ー 」 で は 、 緊 急 地 震 速 報の活用に加え、建物内の揺れや震度のリアルタイムでのモニターなどに より被害状況を早期に把握することで、速やかな警戒態勢の構築や適切な 館内放送などの対応が可能となる。 ③初動対応体制の改善 巨大地震の発生時には、超高層建築物等の建物内外で災害が同時発生す る た め 、「 誰 も 助 け に 来 ら れ な い 」 こ と を 前 提 に 災 害 対 応 力 を 向 上 さ せ る 必 要がある。 具 体 的 に は 、各 自 で オ フ ィ ス ビ ル 等 の「 自 衛 消 防 組 織 」や マ ン シ ョ ン 等 の 「 自 主 防 災 組 織 」な ど の 災 害 対 応 組 織 を 確 認 し 、地 震 発 生 時 の 対 応 や 自 身 の 役 割 を 予 め 確 認 す る こ と が 重 要 で あ る 。ま た 、地 震 に よ る 火 災 発 生 時 に は 、 スプリンクラーが作動しないことを前提に、各自で速やかに消火器が使え 27 る こ と や 、周 辺 の 住 民・事 業 者 等 と 協 働 し て 消 火 活 動 が 行 え る 必 要 が あ る 。 続 い て 、近 隣 の 安 否 確 認 と 傷 病 者 対 応 を 行 う 。家 具 等 の 下 敷 き に な る だ け で な く 、ド ア が 開 か な く な る 可 能 性 が あ り 、各 階 で バ ー ル や 救 急 箱・担 架 等 を 準備しておくことも有効である。 ④避難・待機方法の改善 地震発生時に超高層建築物の在館者が一斉に避難しようとすると、非常 階段等の避難経路に在館者が集中し、かえって避難に時間を要することと な る 。ま た 、超 高 層 建 築 物 か ら 在 館 者 が 退 避 し た 場 合 に は 、建 築 物 の 周 辺 に 退避した人が溢れることとなり、周辺地域にも大混乱を誘発する可能性が ある。 超 高 層 建 築 物 は 、一 般 的 に は 高 い 耐 震 性 を 有 し て い る こ と か ら 、火 災 の 発 生 や 構 造 躯 体 に 大 き な 損 傷 が な け れ ば 、慌 て て 避 難 せ ず 、各 階 の 安 全 な 場 所 に 待 機 す る こ と が 、超 高 層 建 築 物 に お け る 地 震 時 の 基 本 的 な 考 え 方 と な る 。 ただし、超高層建築物内で火災が発生した場合や構造躯体に大きな損傷 が 発 生 し た 場 合 に は 、速 や か に 屋 外 へ 避 難 す る 必 要 が あ る た め 、在 館 者 の 一 斉 避 難 に よ る 渋 滞 や 混 乱 が 生 じ な い よ う 、「 防 災 セ ン タ ー 」 等 の 指 示 に 従 い 順次避難することが重要となる。 東京などの大都市では、延焼火災や大群集によるパニックなどのリスク が 高 い こ と か ら 、危 険 な 周 辺 状 況 が 無 い こ と が 明 ら か に な る ま で 、帰 宅 や 屋 外への避難を控え、滞在していた建物内で待機することが重要となる。 こ の た め 、超 高 層 建 築 物 で は 、一 週 間 程 度 の 水・食 糧 等 を 備 蓄 し て お く こ と が 望 ま し い 。ま た 、余 裕 が あ る 場 合 に は 共 用 ス ペ ー ス な ど を 一 時 滞 在 場 所 として提供することも望まれる。 ⑤防災訓練の改善 超 高 層 建 築 物 等 で は 、地 震 発 生 時 に 火 災 や エ レ ベ ー タ ー 停 止 、室 内 の 被 害 や 傷 病 者 の 発 生 な ど 、さ ま ざ ま な 被 害 が 同 時 発 生 す る 。こ の 状 況 に 適 切 に 対 応するには、 「 発 災 対 応 型 訓 練 」を 実 施 す べ き で あ る 。具 体 的 に は 、 「防災セ ン タ ー 」の 職 員( 自 衛 消 防 組 織 な ど の 本 部 隊 な ど )に 頼 る の で な く 、各 階 の 事 業 者・住 民( 同 組 織 の 地 区 隊 )の 役 割 が 非 常 に 重 要 に な る こ と を 認 識 し 、 本 部 隊・地 区 隊 と の 連 携 方 法 、及 び 、各 自 の 災 害 対 応 能 力 の 向 上 を 目 的 と す 28 る 実 践 的 な 防 災 訓 練( 初 期 消 火 に 加 え 、初 動 対 応 体 制 と 各 自 の 役 割・情 報 連 絡 方 法 の 確 認 、各 階 の 安 否 確 認 、傷 病 者 の 救 急 救 護 や 担 架 搬 送 、閉 じ 込 め 者 の救出など)を実施すべきである。 7-3.石油タンクの対策 工業地帯における長周期地震動による被害としては、石油タンクにおける 被害が特に知られている。 長周期地震動により石油タンクに被害が生じる原因は、石油タンクの内容 物 で あ る 石 油 が 共 振 し て 大 き く 揺 動 す る「 ス ロ ッ シ ン グ 」と い う 現 象 に あ る 。 ポンツーンと呼ばれる浮きが付いた屋根をもつ浮き屋根式の石油タンクにス ロ ッ シ ン グ が 生 じ る と 、そ れ に 伴 っ て 浮 き 屋 根 も 上 下 動 し 、浮 き 屋 根 が 破 損 、 沈下したり、浮き屋根と他の設備の衝突による火花により火災が生じたりす るなどの大きな被害が発生することがある。 2003 年 十 勝 沖 地 震 で は 、 北 海 道 苫 小 牧 市 の 石 油 タ ン ク で ス ロ ッ シ ン グ が 起 こ り 、タ ン ク 2 基 で 火 災 が 発 生 し た 。う ち 一 基( 直 径 42.7m 、許 可 容 量 32,779kL) で は 、浮 き 屋 根 が 沈 没 し 、そ の 後 全 面 火 災 に 至 っ た 。こ の 教 訓 を 踏 ま え 、一 定 規模以上の浮き屋根式のタンクについては、長周期地震動に対する耐震基準 を 強 化 し て お り 、平 成 28 年 度 末 ま で に 現 行 基 準 に 適 合 す る こ と と さ れ て い る 。 ま た 、東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 で は 、川 崎 市 の 石 油 タ ン ク( 直 径 38.74m 、許 可 容 量 19,365kL) で 、 現 行 基 準 に 適 合 し て い な い 浮 き 屋 根 が ス ロ ッ シ ン グ に よ り 沈 没 し た 事 例 が あ る が 、現 行 基 準 に 適 合 し て い る 浮 き 屋 根 に つ い て は 、ポ ンツーンの破損に伴う浮き屋根の沈下・傾斜といった浮き性能を損なうよう な被害はなかった。 こ の こ と か ら 、浮 き 屋 根 の 現 行 基 準 へ の 適 合 を 着 実 に 進 め る こ と に よ り 、石 油タンクの耐震安全性を確保するとともに、本検討における長周期地震動の 推 計 結 果 を 踏 ま え て 、石 油 タ ン ク へ の 影 響 を 精 査 し 、長 周 期 地 震 動 へ の 対 策 に ついての調査検討を進めることが重要である。 8.留意事項と今後の課題 8-1.推計結果を利用する際の留意事項 本報告で推計を行った長周期地震動の分布図や波形等は、南海トラフ沿い の巨大地震として想定される地震発生パターンの一例に基づく結果であり、 必ずしも次に発生する地震を特定したものではない。各地点の揺れについて 29 も 、三 大 都 市 圏 を 含 む 関 東 か ら 九 州 に か け て の 領 域( 日 本 海 側 を 除 く )に つ い て 地 盤 構 造 モ デ ル を 点 検 し 、必 要 な 修 正 を 行 っ た 地 盤 構 造 モ デ ル を 用 い て 、そ の地域の概ねの揺れの程度を推定したものであって、特定の場所の揺れを詳 細に表現したものではない。 長周期地震動を推計する際の注意点として、地震動の干渉によって強い場 所 と 弱 い 場 所 が 交 互 に 現 れ る こ と が あ げ ら れ 、そ の 場 所 や 範 囲 に つ い て は 、推 計 に 用 い る 地 盤 構 造 モ デ ル に よ っ て 大 き く 変 わ る 。こ の た め 、場 所 ご と の 揺 れ の 違 い を 表 現 し た も の と 誤 解 を 与 え な い よ う 、長 周 期 地 震 動 の 推 計 結 果 は 、空 間的に平滑化したものとしている。 本検討では工学的基盤を地表面と想定して長周期地震動を推定しているが、 実際に個別の建築物への影響を評価する場合には、建築物の構造や立地場所 の地下構造など、更なる詳細なデータに基づき評価することが必要となる。 ま た 、本 検 討 に お け る 長 周 期 地 震 動 の 推 計 は 、強 震 動 生 成 域 の み を 用 い て 実 施しているが、実際の地震では強震動生成域を除く震源断層領域からも微弱 ではあるが地震動が発生しており、長周期地震動の継続時間がより長くなる ことも考えられる。 本報告の活用にあたっては、以上のことに留意されたい。 8 - 2 .今 後 の 課 題 (1)長周期地震動の推計手法の高度化 地 震 動 の 大 き さ は 、通 常 、震 源 近 傍 ほ ど 大 き く な る 。し か し 、マ グ ニ チ ュ ード 8 を超える地震になると、震源近傍の地震動の強さは頭打ちになるこ とが知られている。 このため、中央防災会議における統計的グリーン関数法による強震動の 推 計 で は 、震 源 域 か ら の 距 離 が 小 さ い と こ ろ の 地 震 動 の 振 幅 は 、1 /( R+ C) [R:断 層 最 短 距 離 、C:定 数 ]で 減 衰 す る と し て 強 震 波 形 を 計 算 し 、地 震 動 が 震 源 断 層 の 極 近 傍 で 飽 和 す る よ う に し て い る 。ま た 、柔 ら か い 地 盤 に 強 い 地 震 動 が 入 射 し た 場 合 に は 、地 盤 が 塑 性 化 し 、弱 い 地 震 動 に 比 べ 地 盤 に よ る 地 震 動 の 増 幅 が 小 さ く な る 特 性 を 持 つ 。震 度 分 布 の 推 計 に あ た っ て は 、こ の 効 果もある程度考慮したものとしている。 三次元差分法による長周期地震動の推計においても、これらと同様の効 果 を 検 討 する必要があるが、 そ の 推 計 手 法 を 取 り 纏 め る に は 至 ら な か っ た 。 30 このことから、震源断層の極近傍に影響地域がある相模トラフ沿いの巨大 地震による長周期地震動の推計については、引き続きの課題とした。 首 都 圏 等 に お い て は 、南 海 ト ラ フ 沿 い の 巨 大 地 震 に 加 え 、相 模 ト ラ フ 沿 い の巨大地震など首都圏周辺で起こる地震による長周期地震動についても、 そ の 影 響 が 懸 念 さ れ る 。こ の た め 、今 後 、首 都 圏 に お け る 超 高 層 建 築 物 等 へ の適切な対策が検討できるよう、相模トラフ沿いの巨大地震等による長周 期地震動を検討するための新たな検討会を設置し、早期に推計結果が取り 纏められることを要望する。 (2)地盤構造モデルの高度化 長周期地震動の場所ごとにおける違いを評価し、個々の建築物への影響 を 正 確 に 評 価 す る に は 、留 意 事 項 で 述 べ た と お り 、地 盤 構 造 の 精 度 を 上 げ る こ と が 重 要 と な る 。長 周 期 地 震 動 の 推 計 結 果 に つ い て 、地 盤 構 造 の 違 い に よ る例を図49に示す。 今 後 、地 盤 構 造 の 確 定 に は 、研 究 機 関 に 加 え 、多 様 な 主 体 が 参 加 し 、地 震 の観測等により地盤構造の推定精度の向上に取り組むことが望まれる。 (3)建築物の挙動・影響の評価機能の充実 地震動による建物等への影響を評価するには、地震時における建物の揺 れの状況がモニターできる機能を個々の建築物が有することが望ましい。 今 後 、地 震 時 の 建 築 物 に お け る 挙 動 や 影 響 を 評 価 す る 上 で も 、よ り 多 く の 建 築物に地震計による挙動や影響をモニターする機能が整備されることが望 まれる。 おわりに 本検討では、南海トラフ沿いで想定される巨大地震による長周期地震動対 策 を 推 進 す る た め 、 南 海 ト ラ フ 沿 い で 発 生 し た M8~ 9 ク ラ ス の 過 去 地 震 及 び 想 定 さ れ る 最 大 ク ラ ス の 長 周 期 地 震 動 の 推 計 を 行 っ た 。さ ら に 、こ れ ら の 推 計 結 果 か ら 、超 高 層 建 築 物 の 構 造 躯 体 へ の 影 響 や 、室 内 へ の 影 響 と し て 家 具 類 等 の転倒や移動、人の行動への影響を概観した。 長 周 期 地 震 動 の 推 計 は 、発 展 途 上 の 技 術 で あ り 、震 源 や 強 震 動 生 成 域 の 場 所 、 31 地 盤 構 造 モ デ ル 等 の 計 算 条 件 に よ り 、推 計 結 果 は 大 き く 変 わ る 場 合 が あ る 。ま た 、地 震 は 自 然 現 象 で 不 確 実 性 を 伴 う も の で あ り 、今 回 の 想 定 と は 異 な る 事 象 が発生する可能性があることにも留意する必要がある。 今 回 の 検 討 は 、あ く ま で も 現 時 点 の 科 学 的 知 見 に 基 づ い た も の で あ り 、今 後 の科学的知見の蓄積を踏まえ検証し、必要に応じて修正していくべきもので ある。 本検討における長周期地震動の推計結果は、地表や超高層建築物の揺れの 大きさ等について全体像を俯瞰することを目的としたものであり、超高層建 築物や石油タンク等における長周期地震動対策については、上記の留意事項 を 踏 ま え 、関 係 省 庁 等 に お い て 別 途 検 討 さ れ る こ と が 望 ま れ る も の で あ り 、そ れら検討結果に基づき、適切に対処されることを切望するものである。 ま た 、今 後 の 課 題 に も 述 べ た と お り 、本 両 検 討 会 で は 引 き 続 き の 課 題 と し た 相模トラフ沿いの巨大地震など首都圏周辺で起こる地震による長周期地震動 に つ い て も 、早 期 に 検 討 会 を 設 置 し 、検 討 が 進 め ら れ る こ と を 強 く 望 む も の で ある。 32 (参考)本両検討会における用語の取り扱い 本両検討会の報告は、国や地方公共団体の防災担当者に加えて、防災に 関係する地震や津波の専門家、超高層建築物の管理者等にも幅広く活用さ れることが想定される。このため、この報告で用いる用語については、一 般の方々に分かり易いものとすることと併せて、専門家にも誤解なく理解 されるものとする必要がある。 このことから、本報告で用いた用語については、誤解を与えることがな いよう、以下のとおり整理して使用した。 (1)アスペリティに替わる用語 「アスペリティ」は、強い強震動を発生させる領域と、断層すべりの 大 き な 領 域 の 両 方 を 示 す 用 語 と し て 使 用 さ れ て き た が 、 2011 年 東 北 地 方 太平洋沖地震の詳細な解析の結果、両者は必ずしも一致するものでな く、領域的にも異なる場合があることが明らかとなった。 このため、本報告では「アスペリティ」に替わる用語として、以下を 用いた。 ① 強 震 動 生 成 域 ( SMGA) 震度分布を評価するための断層モデルに使用する用語で、断層面の なかで特に強い地震動(強震動)を発生させる領域を言う。この用語 は、強震動の研究分野において用いられている用語である。 ②大すべり域、超大すべり域 大(おお)すべり域は、津波を評価するための断層モデルに使用す る用語で、断層面のなかで大きく滑る領域を言う。その中でも特に大 きく滑る領域を、超大(ちょうおお)すべり域と言う。 ( 2 )「 断 層 モ デ ル 」 等 の 呼 称 地震時に動いた断層を震源断層といい、この断層モデルを震源断層 モデルと言う。しかし、強震動、津波高等、長周期地震動の全てを統 一的に表現できる震源断層モデルの構築は困難であることから、強震 動、津波高等、長周期地震動のそれぞれに対し、観測データ等をより 近似表現できる断層モデルを、それぞれ個別に設定している。本報告 で用いる断層モデルに関する呼称は以下のとおりである。 ①震源断層モデル 地震時に動いた断層が震源断層と呼ばれ、地震動や津波を発生させ 33 るこの断層運動をモデル化したものを震源断層モデルと言う。 ②強震断層モデル 震源断層モデルのうち、強震動(強震波形、震度)を評価するため のモデルを強震断層モデルと言う。 ③津波断層モデル 震源断層モデルのうち、津波を評価するための地殻変動を評価する ためのモデルを津波断層モデルと言う。 ④長周期地震断層モデル 震源断層モデルのうち、長周期地震動を評価するためのモデルを長 周期地震断層モデルと言う。 ⑤震源断層域 地震時に動いた断層の領域であり、強震断層モデル、津波断層モデ ル、長周期地震断層モデルを包絡する領域である。なお、強震断層モ デル、津波断層モデル、長周期地震断層モデルに対応する領域を、そ れぞれ強震断層域、津波断層域、長周期地震断層域と言う。 ( 3 )「 応 答 ス ペ ク ト ル 」 等 の 用 語 ①応答スペクトル 構 造 物 を 、さ ま ざ ま な 固 有 周 期 と 減 衰 定 数 を 持 ち 、質 点 が 1 つ で 、そ の 質 点 の 運 動 を 記 述 す る た め の 座 標 軸 が 1 つ だ け の 系( 1 質 点・1 自 由 度 系 )と 考 え る 。こ の モ デ ル 化 し た 質 点 が 地 震 動 で 揺 す ら れ た と き の 最 大応答値を固有周期の関数として表したものを応答スペクトルという。 な お 、応 答 値 が 加 速 度 の 場 合 を 加 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル 、速 度 の 場 合 を 速度応答スペクトル、変位の場合を変位応答スペクトルという。 ② 擬 似 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル ( pSv) 加 速 度 応 答 ス ペ ク ト ル に T/2π を か け て 求 め ら れ る ス ペ ク ト ル 。速 度 応 答 ス ペ ク ト ル と 厳 密 に は 一 致 し な い が 、設 計 用 の 応 答 ス ペ ク ト ル と し て一般的に広く用いられている。 ③層間変形角 34 建物各階での床と真上の床との水平変位の差を各階の高さで割った 値 で 、各 階 で の 変 形 の 度 合 い を 示 し 、建 物 の 被 害 の 程 度 を 評 価 す る 指 標 として用いられる。 (4)その他の用語 ①家具類等 一 般 家 庭 内 の タ ン ス・本 棚・食 器 棚 な ど の 家 具 、事 務 所 内 の キ ャ ビ ネ ッ ト・ロ ッ カ ー な ど の オ フ ィ ス 家 具 、テ レ ビ・冷 蔵 庫・電 子 レ ン ジ な ど の家電製品を言う。 ②防災センター 消 防 法 施 行 規 則 に 基 づ き 、超 高 層 建 築 物 等 の 防 火 対 象 物 に お い て 、消 防用設備などを管理するために設置されている。 ③自衛消防組織 火災及び地震等の災害時の初期活動や応急対策を円滑に行い、建築 物の利用者の安全を確保するため、消防法に基づき設置されている。 ④自主防災組織 地 域 住 民 が 自 主 的 に 結 成 す る 組 織 で あ り 、災 害 に よ る 被 害 を 予 防 し 、 軽減するための活動を行う組織である。 35 参考文献 日 本 エ レ ベ ー タ ー 協 会 ・ 日 本 建 築 設 備 ・ 昇 降 機 セ ン タ ー ( 2009): 建 築 基 準 法 及 び 同 法 関 連 法 令 、 昇 降 機 技 術 基 準 の 解 説 , 2009 年 版 大 宮 憲 司・久 田 嘉 章 (2014):応 答 ス ペ ク ト ル を 用 い た 超 高 層 建 築 の 簡 易 応 答 評 価 に 関 す る 研 究 , 日 本 建 築 学 会 大 会 学 術 講 演 梗 概 集 , pp1011-1012. 金 子 美 香 (2002): 地 震 時 に お け る 家 具 の 転 倒 率 推 定 方 法 , 日 本 建 築 学 会 構 造 系 論 文 集 , 第 551 号 , 61-68. 川 辺 秀 憲・釜 江 克 宏・上 林 宏 敏 (2012):2011 年 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震( M9.0) の 長 周 期 地 震 動 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン , 日 本 建 築 学 会 大 会 学 術 講 演 梗 概 集 ,構 造 系 , pp69-70 気 象 庁 ( 2011): 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 時 に お け る 長 周 期 地 震 動 に よ る 揺 れ の 実態調査結果, 長周期地震動に関する情報のあり方検討会(第 1 回), 資 料 1, p.13. 気象庁:長周期地震動について, http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/choshuki/index.html 木 下 繁 夫 ・ 大 竹 政 和 ( 2000): 強 震 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地 震 に よ る 震 度 分 布 ・ 津 波 高 等 に つ い て ( 第 一 次 報 告 ). 内 閣 府 ( 2012): 南 海 ト ラ フ の 巨 大 地 震 モ デ ル 検 討 会 , 南 海 ト ラ フ の 巨 大 地 震 モ デ ル 検 討 会 ( 第 二 次 報 告 ). 日 本 建 築 学 会 (2013): 長 周 期 地 震 動 と 超 高 層 建 物 の 対 応 策 ,家 具 被 害 の 簡 易 予 測 手 法 , 254-255. 日 本 建 築 学 会 ( 2013)「 長 周 期 地 震 動 と 超 高 層 建 物 の 対 応 策 」 , 超 高 層 ビ ル の 被 害 状 況 , pp114-119. 久 田 嘉 章 : 第 4 回 「 超 高 層 建 築 の 震 災 対 策 」, 耐 震 の 入 り 口 と 出 口 の 話 , 構 造 設 計 ポ ー タ ル , SEINWEB, NTT DATA, 肥 田 剛 典 ・ 永 野 正 行 (2012): ア ン ケ ー ト 調 査 と 強 震 記 録 に 基 づ く 2011 年 東 北 地方太平洋沖地震時における超高層集合住宅の室内被害, 日本建築学会構 造 系 論 文 集 , 第 77 巻 , 第 677 号 , pp1065-1072. 文 部 科 学 省 研 究 開 発 局 ・ 独 立 行 政 法 人 防 災 科 学 技 術 研 究 所 ・「 平 成 23 年 度 長 周 期 地 震 動 予 測 地 図 作 成 等 支 援 事 業 成 果 報 告 書 」 2012, 超 高 層 ビ ル の エ レ ベ ー タ ー 被 害 , p100 横 田 崇・上 野 寛・下 山 利 浩・元 山 知 範・増 田 徹・室 谷 智 子・甲 斐 田 康 弘( 2012) : 海 溝 型 地 震 の 強 震 動 生 成 域 に お け る 相 似 則 , 日 本 地 震 学 会 2012 年 秋 季 大 会 講 演 予 稿 集 , B22-10. 横 田 治 彦 ・ 片 岡 俊 一 ・ 田 中 貞 二 ・ 吉 沢 静 代( 1989): 1923 年 関 東 地 震 の や や 長 周 期 地 震 動 , 日 本 建 築 学 会 構 造 系 論 文 報 告 集 ,第 401 号 , 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Irikura(2013): Short-Period Source Model of the 2011 Mw 9.0 Off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake,Bulletin of the Seismological Society of America,Vol.103,No.2B,pp1373–1393. 37 南 海 トラフの巨 大 地 震 モデル検 討 会 委員名簿 (参考)委員名簿 座 長 座長代理 阿部 勝征 東京大学名誉教授 今村 文彦 東北大学災害科学国際研究所副所長・教授 入倉 孝次郎 愛知工業大学客員教授 岡村 眞 高知大学総合研究センター防災部門特任教授 岡村 行信 金田 義行 名古屋大学減災連携研究センター特任教授 佐竹 健治 東京大学地震研究所教授 橋本 学 京都大学防災研究所教授 平川 一臣 北海道大学名誉教授 平原 和朗 京都大学大学院理学研究科教授 福和 伸夫 名古屋大学減災連携研究センター長・教授 古村 孝志 東京大学地震研究所災害科学系研究部門教授 翠川 三郎 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授 室崎 益輝 ひ ょ う ご 震 災 記 念 21 世 紀 研 究 機 構 研 究 調 査 本 部 長 山岡 耕春 名古屋大学大学院環境学研究科教授 山崎 文雄 千葉大学大学院工学研究科教授 国 立 研 究 開 発 法 人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門 首席研究員 38 首 都 直 下 地 震 モデル検 討 会 委員名簿 座 長 阿部 勝征 東京大学名誉教授 今村 文彦 東北大学災害科学国際研究所所長・教授 入倉 孝次郎 愛知工業大学客員教授 岩田 知孝 京都大学防災研究所教授 国立研究開発法人 土木研究所 大原 美保 水災害・リスクマネジメント国際研究センター 水災害研究グループ主任研究員 座長代理 国 立 研 究 開 発 法 人 産業技術総合研究所 岡村 行信 佐竹 健治 東京大学地震研究所教授 武村 雅之 名古屋大学減災連携研究センター教授 平田 直 東京大学地震研究所教授 福和 伸夫 名古屋大学減災連携研究センター長・教授 古村 孝志 東京大学地震研究所災害科学系研究部門教授 翠川 三郎 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授 山崎 文雄 千葉大学大学院工学研究科教授 活断層・火山研究部門 首席研究員 建 築 分 野 の専 門 家 北村 春幸 東京理科大学理工学部建築学科教授 小鹿 紀英 株式会社小堀鐸二研究所副所長 久田 嘉章 工学院大学建築学部まちづくり学科長・教授 39