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物理計測工学Ⅰ 講義スケジュール
物理計測工学Ⅰ 講義スケジュール 第1学期 1 回目 はじめに 2 回目 信号の検出(物理量から電気信号への変換)センサの原理・種類 3 回目 計測における雑音(ノイズ)について:計測の限界を決める! 4 回目 オペアンプを用いた微小信号の増幅,オペアンプの選択法,使い方など 5 回目 ロックインアンプによる微小信号の増幅 6 回目 AD 変換器によるアナログ信号のディジタル値への変換 7 回目 計算機を用いた計測システムの構築法. 8 回目 標準インターフェイスの解説(1)GP-IB,RS-232C 9 回目 標準インターフェイスの解説(2)イーサネット,USB,IEEE1394 など など 第2学期 10 回目 計算機の拡張バスを用いた計測器・計測システム(Ⅰ): 拡張バスの種類と特徴 11 回目 計算機の拡張バスを用いた計測器・計測システム(Ⅱ): 計算機を用いた計測システムにおける計算機とOSの選択 12 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅰ) :比熱自動計測システム 13 回目 計測システムとしての MRI:MRI にはどのような計算機システムが要求されるか? 14 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅱ) : GP-IB バス上に構築した MRI システム 15 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅲ) : VME バス上に構築した MRI システム 16 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅳ) : DSP を用いたリアルタイム MRI システム 17 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅴ) : PC 上に構築した MRI システム 18 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅵ) : コンパクト MRI の展開 19 回目 むすび 物理計測工学Ⅰ 第 1 回目 はじめに 単一の物理量の計測であれば,それに適した計測器を用いれば計測できることが多いが,高速 に時間変化する物理量や,多くのパラメタを含む多次元的な物理量の計測などには,計算機で制 御された計測システムが必要となる.ところが,多数の計測器と計算機を有機的に接続し,シス テムとして有効に動作させるためには,計測に関する基礎知識だけでなく,信号の性質や,計算 機のハードウェアとソフトウェアに関する知識が必要である. この講義では,まず,物理量の電気的測定とそのディジタル化の手法を解説し,そのデータを 計算機に入力する手法を紹介する.そして,その手法を応用して,複数の計測器を有機的に接続 して計測システムを構築する方法について述べる.最後に,これまでに構築してきたさまざまな 計算機を用いた計測システムを紹介する. 物理計測工学Ⅰ 第2回目 信号の検出(物理量から電気信号への変換)センサの原理・種類 信号の検出とは? 現代的計測において,信号の検出とは,物理量の電気信号への変換を意味する. 空気圧や光信号に変換する場合もあるが,例外である.電気信号は,電圧信号と電流信号(電荷) に分けられる.多くの場合は,電圧信号である. 物理量を電気信号に変換するのが,センサー,ディテクタ,プローブなどと呼ばれるものである. ○センサー(sensor:感知器) 定義:対象の状態に関する測定量を信号に変換する系の最初の要素(JIS) 人間の「五感」を代替したようなものとして, 「工業的分野」でよく使用される. ①視覚(光)センサー:フォトトランジスター,イメージセンサー(CCDなど) ②音響センサー:マイクロフォン,ピエゾ(圧電)素子 ③触覚(皮膚感覚)センサー:圧力センサー(ストレインゲージ),温度センサー, 湿度センサー,位置センサー ④臭い(化学)センサー:ガスセンサー(O2,NOx,危険ガスなど,化学反応を利用する) ⑤味覚(化学)センサー:イオンセンサー,pHセンサー,バイオセンサー,分子認識 その他:磁気センサー,電圧計 ○ディテクタ(detector:検出器) 人間の五感では検出できない場合の信号の検出に使われることが多い.一般的な言葉であるが, おもに理学的分野で使われる. 放射線の検出器:ガスカウンター,固体カウンター(シンチレーションカウンタ,半導体カウン タなど) ○プローブ(probe:探針子) 場(電場,磁場,物質の分布など)の中に,それと相互作用するものを入れて検出する場合に使 用する.センサーとは異なった意味合いで使用される. センサーによる計測は,特別の場合を除いて, 「特定の位置」における時間的変化の計測が主で ある(点計測).よって,「時間的に変化する信号」の処理が古くから研究されてきた.しかし, 近年,空間的(二次元,三次元)な物理量の分布を計測する手法(アレイセンサ,アレイプロー ブ集積化センサを用いた多次元計測など)がしばしば行われるようになって来ている(画像計測, CT,MRIなど). 物理計測工学Ⅰ 第3回目 計測における雑音(ノイズ)について:計測の限界を決める! 雑音(noise)とは?:信号に干渉し,情報の伝達を阻害する擾乱(じょうらん) . 信号と雑音は相対的・主観的なもの.内部雑音と外部(外来)雑音に分けられる. (例)宇宙背景放射:米国のベル電話研究所のペンジャスとウィルソンは,宇宙のあらゆる方向 からやってくるマイクロ波の電波雑音をとらえた(1965年).これが宇宙背景放射で,そのスペク トルは3Kの黒体放射であった.これはビッグバンの証拠の一つになっている. ○内部雑音(internal noise):測定系の内部で発生し,計測の限界を決定する要因となる. 測定系内部の物理量の「統計的なゆらぎ」などに起因する. ○外部(外来)雑音(external noise):測定系の外部から,様々な電磁気的結合で混入する. 通常の機器では大きな問題であるが,計測においては,除去されていなくてはならない. ○内部雑音の種類と性質 ①熱雑音(ジョンソンノイズ) 導体(抵抗体)中で,電荷が熱的に不規則な運動を行うことによって,その両端に発生する不規則 な電位差.その電位差vの確率密度関数ρ(v)は, v2 ρ(v) = − 2 1 e 2σ 2 πσ となる(ガウスノイズ).なお,v 2 = 4kTR ∆f となる.ここに,kはボルツマン定数,Tは絶対温度, Rは抵抗, ∆f は観測周波数帯域である.多くの場合,検出限界を決定する要因になる.パワース ペクトルは一定(ホワイト)であるが,周波数の位相はランダムであるので,δ関数とは異なる. 熱雑音を減らすには,温度を下げるのが最も効果的である. 例:T=300 K(室温),R=1 kΩ,∆ƒ=1 kHzのとき, v 2 ∼0.13 µV ②ショットノイズ(散射雑音) 半導体や真空管における,荷電粒子のランダムな運動によって発生する電流性のノイズ.エネ ルギーを持った粒子の数が極度に小さい場合、粒子数の統計的変動が測定にかかるほど大きくな るために発生する.熱雑音と同様に白色雑音となる.熱雑音と似ているが,区別されている. ③1/ f ノイズ(フリッカーノイズ,過剰雑音,ピンクノイズ) パワースペクトルが1/ f の形をしたノイズ.概ね,100Hz以下で,熱雑音より優勢となる.原 因としては,さまざまなものが提案されており,普遍的原理が介在しているものと思われるが, 発生機構は十分解明されていない(カオス?) . (ロックイン増幅器は,主に1/ f ノイズの回避を目的としたものである) ④量子化雑音(quantization error) アナログ信号を,AD(analog-to-digital)変換するときに,ディジタル分解能が有限であるため に発生するノイズ.AD変換器の分解能と,ランダムノイズとの比によって決定される. 物理計測工学Ⅰ 第4回目 オペアンプを用いた微小信号の増幅,オペアンプの選択法,使い方など ○オペアンプとは? 2つの入力と1つの出力をもつ線形増幅器.operational amplifierの略で演算増幅器と訳されている. アナログ回路において,微小信号の増幅から波形整形,出力制御など非常に幅広く使用される. ○理想オペアンプ ①増幅度(open loop gain)が無限大(実際でも106以上). ②増幅信号帯域が無限大(実際はDCから1∼数100MHz). ③入力インピーダンスは無限大(電流の流れ込みがない) . ④出力インピーダンスはゼロ(電流を取り出しても電圧降下がない) . ⑤入力オフセット電圧はゼロ. ⑥出力ノイズがゼロ. ○反転増幅器と非反転増幅器 R2 R1 Gain = - R2 / R1 R2 R1 Gain = ( R1 + R2 ) / R1 反転増幅器 非反転増幅器 入力と反対の極性の出力が得られる. 入力と同じ極性の出力が得られる. 入力インピーダンスを低くできる. 入力インピーダンスを高くできる. 電流入力型として使用できる. ○オペアンプの用途 DC(直流)アンプ,オーディオアンプ,ビデオアンプ,アクティブフィルタ,アナログ演算器 信号変換器(電圧−電流,電流−電圧,絶対値,RMS値) ○微小信号増幅におけるオペアンプの実用的選択法 膨大な種類のオペアンプの中から,以下の特性を参考にして選択する.通常は,用途毎に使われ るオペアンプはほぼ決まっており,コストなどを勘案して決定する. オフセットとドリフト オフセット(offset)とは?:入力をゼロとしたときに,出力に現れる電圧を,出力のオフセット 電圧と呼ぶ.通常は,その値を入力値に換算して(入力)オフセット電圧と呼ぶ. ドリフト:出力オフセット電圧が,時間・温度とともに変動すること. ⇒ 微小な直流電圧の計測(熱電対:∼数µV/°C)では大きな問題になる. 入力オフセット電圧:数µV∼数mV.入力オフセット電流:0.001(FET入力)∼数100nA ドリフトは,熱的なもののみが規格化されている:入力オフセットドリフト:0.1∼数µV/°C オペアンプの発生する雑音:種類によって大きく異なる ①熱雑音(ジョンソンノイズ):スペクトルは白色 ②ショットノイズ(散射雑音):スペクトルは白色 ③1/ f ノイズ(フリッカーノイズ,過剰雑音):DC(直流)に向かって増加 帯域・スルーレート(slew rate) 微小信号でも,高い周波数や,高速に変化する信号を含む場合には,帯域やスルー・レートに関 する知識が不可欠である. 帯域は,利得帯域幅積(gain band width: GBW)で評価されることが多い.すなわち,オペアンプ の増幅率と帯域の積は一定であり,増幅度を大きくすると増幅できる信号の帯域は狭くなる. GBWとしては1∼数100MHz. スルーレートとは,無限小の時間で立ち上がる入力波形に対するオペアンプの応答速度を示すも のであり,出力電圧の変化率(V/µsなど)で表される.1∼1000V/µsのものが使用されている. 物理計測工学Ⅰ 第5回目 ロックイン・アンプによる微小信号の増幅 オペアンプの欠点:低周波数における1/ f ノイズによるノイズの増大. (古いタイプのもの(741)などに比べ,比較的新しいもの(OP-27など)は改良されている) 1 kΩの抵抗の熱雑音: 4nV Hz ロックイン・アンプの基本的考え方:信号対雑音比(SN比)を増大させるため,信号の帯域を狭 くする.ところが,直流近傍では,1/ f ノイズの影響が大きいため,観測信号をある周波数(参 照周波数)で変調し,充分なレベルまで増幅した後に,位相敏感検波器(phase sensitive detector: PSD)により復調し,ローパスフィルタ(LPF)を通過後,(直流)出力を得る. ロックイン・アンプのブロック図 ロックイン・アンプの原理 物理計測工学Ⅰ 第6回目 AD変換器によるアナログ信号のディジタル値への変換 主なAD変換器の種類 種類 サンプリング周波数 用途 二重積分型 遅い(10Hz∼1kHz) ディジタル電圧計など直流電圧の計測 逐次比較型 中程度(数kHz∼数MHz) 音声帯域の信号のサンプリングなど フラッシュ型 速い(数MHz∼数GHz) 映像信号・高速信号の計測など ①二重積分型ADコンバータ:計測すべき電圧で一定時間充電した積分回路を,基準電圧で逆に 放電させて,その放電時間を計測する. (特徴)変換速度は遅いが,高精度化(16ビット以上)が 容易で価格も安い. 入力電圧 積分回路出力 クロックパルス 発生回路 0V 充電 制御回路 カウンタ 充電 放電 基準電圧 放電 積分回路 AD 変換出力 N1 N2 ②逐次比較型ADコンバータ:計測すべき電圧と,DAコンバータの出力との比較により変換値を 求める.具体的には,DAの上位桁から順に比較を行う(12ビットのADCでは12回の比較を行う). 特徴:出力の精度がDAの精度で決められる.速度は中程度. V R 2R 1 1 1 Vout = (a0 + a1 + 2 a2 + L + n−1 an−1 )V 2 2 2 4R R 2n-1R Vout DAコンバータの原理 DA コンバータ 制御ロジック 入力電圧 コンパレータ AD 変換出力 逐次比較型ADコンバータの原理 ③フラッシュ型ADコンバータ:比較電圧を一定の刻みで順番に変化させたコンパレータを,ディ ジタル分解能の数だけ用意し,それらを同時に動作させ,ディジタル出力を得る.(特徴)最も高速 な方式.コンパレータが分解能の数だけ必要なため,高分解能化は困難. V R R R R R/2 入力電圧 物理計測工学Ⅰ 第7回目 計算機を用いた計測システムの構築法 計算機を用いた計測システムを構築する方法として,次の二つのアプローチがある. ○拡張バスを使用する方法 計算機の拡張バスにAD変換器を搭載したボードを挿入し,アナログデータをボード上でディジ タルデータに変換する.計算機の入(出)力命令でそのデータを入力する.比較的安価にシステ ムが構成できる.また,データの入力速度を拡張バスの転送速度まで向上できるため,高速なデ ータの収集には不可欠である.ただし,拡張バスの仕様は計算機毎に異なるため,汎用性に欠け るところがある. 拡張バスの例: PC-9801の拡張バス(Cバス),IBM-PC互換機のATバス,PCIバス,PCカードバス,工業的な分野で 使用されるVMEバス,かつてのMacintoshで使用されていたNuバス,Sunワークステーションで使 用されていたSバスなど. ○標準インターフェイスを使用する方法 規格化された入出力インターフェイスを使用し,計測器においてディジタル化されたデータを 計算機へ入力する.それぞれの入出力用のドライバやサブルーチンなどを使用する.計算機の種 類によらず接続できるという大きな長所がある.ただし,入力の速度は,規格で決められており, また入出力プログラムは,汎用性のために速度が犠牲になることがあるため,高速なデータの収 集には適さないことがある.なお,計算機・計測器のそれぞれに標準のインターフェイスが必要 なため,コスト的には比較的高くなる. 標準インターフェイスの例: ・GP-IB(8ビットパラレル):計算機と計測器を接続する最も標準的なバス.速度は最大1MB/s. 複数台の装置の接続が可能.ただし,計測器以外ではほとんど使用されていない. ・RS-232C(シリアル) :計算機同士,計算機と周辺機器を接続する最も一般的なインターフェイ ス.計算機には標準に装備されている.速度的な限界があり,多数の機器の接続には適さないが, 単体の機器の接続には安価な方法である. ・セントロニクス(8ビットパラレル):主に,計算機とプリンタを接続するインターフェイスと して使用されているが,他の機器を接続することも可能である.ただし,一般的ではない. ・SCSI(8∼32ビット) :主に,計算機とその周辺機器(ハードディスクやイメージリーダーなど) を接続するのに使用されるが,高速なデータの入力が必要な場合には,計測器との接続にも使用 されることがある. ・イーサネット(シリアル):10∼1000Mbit/s.主に計算機のネットワークに使用されるが,計測 器との接続にも使用されるようになってきた.複数の計算機で計測器を共用することも可能であ り,また1台の計算機で多数の計測器を制御することも可能である. ・ USB(Universal Serial Bus): 1996年に仕様書公開,PCの標準(最大12Mbits/s∼480Mb/s) ・ IEEE1394(Fire Wire, i link): 100Mb/s,200Mb/s,400Mb/s,家庭用 ・ Bluetooth: 無線インターフェース 物理計測工学Ⅰ 第8回 標準インターフェイスの解説(1)GP-IB,RS-232C など GP-IB(General Purpose Interface Bus),HP-IB(Hewlett Packard Interface Bus),IEEE-488 Bus(IEEE: 米国電気電子技術者協会)などと呼ばれ,計算機と計測器を接続するための,最も標準的なイン ターフェイスとなっている.速度は最大で 1Mbyte/sec で最大で 15 台の装置が接続できる.しかし, 計測器以外のインターフェイスとしては,ほとんど使用されないため,パーソナルコンピュータ などで使用するためには,このバスのための拡張ボードとソフトウェアが必要である. 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 GP-IB のピン配置 GP-IB の構造(16 本の信号線と 8 本のグランドライン) ○データバス(DIO1∼8:8 本) :双方向のデータ転送.ただし,コマンド・モードのときには,機 器のアドレスが送られる(1∼4 と 13∼16). ○ハンドシェイク・バス(DAV,NRFD,NDAC:3 本) :信号の確実な受け渡しのためのハンドシェイ クに使われる(6∼8).(ハンドシェイクとは:送信側では,受信側が準備 OK であることを NRFD で確認してデータを送り出し,データが有効である信号(DAV)をアクティブにする.受信側は, DAV を確認してデータを受け取り,データを受け取った確認の信号(NDAC)をアクティブにする) ○管理バス(ATN,REN,IFC,SRQ,EOI:5 本): ATN(attention):コマンドモードとデータモードの切り替え(11),REN(remote enable):各装置の リモート・ローカルの切り替えに使用(17),IFC(interface clear):各機器の GP-IB インターフェイ スのリセットに使用(9),SRQ(service request):各装置からコントローラ(計算機)への割り込みに 使用(10),EOI(end or idenntify):一連のデータのうちの最終データバイトとともに使用して,デ ータの終了を知らせる(5). コマンドとデータの伝送方法 GP-IB 上の機器は,コントローラ(制御),トーカー(データ発信),リスナー(データ受信)に分類さ れる.コントローラーは通常は計算機で,役割は固定しているが,トーカーとリスナーは自由に 指定される. まず,コントローラが ATN を L にして,バスをコマンド・モードにし,最初に,unlisten コマン ドを送って,すべてのリスナーを解除する.次に,トーカー・アドレスとリスナー・アドレスを 送って,どの機器からどの機器へデータが送られるべきかを知らせる.その次に,ATN が H とな って,バスがデータ・モードになると,トーカーからリスナーへデータが送られる. PC 計測器1 計測器2 GP-IB ○RS-232C(Recommended Standard)とは? データ端末機(Data Terminal Equipment: DTE,PC など)とモデム(Data Communication Equipment: DCE)を接続するための規格で,1962 年に RS-232 として制定され,その後,1972 年に RS-232C と して改訂されたシリアル(直列)インターフェイスの規格である.最大伝送速度は 20kbps(bit per second),到達距離は 15m 以下とされているが,最大速度は 200kbps,低速ならば 1km 位までの距 離で伝送が可能である(距離と速度は trade off). 現在,PC には標準で搭載されているので,GP-IB と異なり,特別なインターフェイスなしで, 実験装置との接続が可能である.ただし,GP-IB より速度が遅く,1つのポートに1台の機器し か接続できないため,事実上1∼2台の機器の接続に使用され,中規模以上のシステムの構築に は向いていない. ○RS-232C の信号と役割 規格では,20 本の信号が決められており,コネクタとしては,本来 D-Sub25 が使用されていた. しかし,ほとんどの場合(非同期式,調歩同期式の場合),8 本の信号と GND しか使用されないた め,最近は,コネクタとして D-Sub9 などが用いられている(IBM-PC など:上記). D-Sub25 D-Sub9 略号 方向 名称 役割 8 1 DCD ← キャリア検出 モデムがキャリアを検出すると ON 3 2 RxD ← 受信データ モデムから DTE(PC)へ 2 3 TxD → 送信データ DTE(PC)からモデムへ 20 4 DTR → データ端末レディ 7 5 SG 6 6 DSR ← データセットレディ モデムが送受可能であることを示す 4 7 RTS → 送信要求 モデムに送信開始を要求する 5 8 CTS ← 送信許可 モデムが送信可であることを知らせる 22 9 RI ← 呼び出し表示 DTE(PC)がレディであることを示す 信号接地 回線から呼び出し信号を受けたとき ON ○RS-232C の信号のフォーマット 出力:-25∼-5V が Low(論理は1:マーク).+5∼+25V が High(論理は0:スペース) 入力:-15∼-3V が制御線 ON(データはマーク),+3V∼+15V が制御線 OFF(データ線はスペース) PC PC PC Modem ○RS-232C による接続法 (1) PC とモデム:対応する端子をそのままストレートケーブルで接続する. (2) PC と PC:DTE 同志であるので,TxD と RxD,DTR と DSR,RTS・DCD と CTS をクロスケ ーブルで接続する. (3) PC と周辺機器:モデム以外の周辺機器は,ほとんど DTE として(まれに DCE)として設計され ているので,クロスケーブルで接続する. 物理計測工学Ⅰ 第9回 標準インターフェイスの解説(2)イーサネット,USB,IEEE1394 など ○Ethernet とは? ハワイ大学で開発された ALOHA という無線ネットワークを原型として,Xerox 社で開発され た Local Area Network(構内通信網)の一方式である.1980 年にバージョン 1.0 が,1982 年にバー ジョン 2.0 が発表され,現在の標準になっており,IEEE802.3 と呼ばれている.イーサネットは, 実現する方式(データ転送速度,伝送方式,伝送媒体長さ)によって,10BASE5,10BASE2,10BASE-T などの方式に分けられる.現在は,100Mbps の方式(100BASE-T など)が主流. ○Ethernet の動作原理(CSMA/CD: Carrier Sense Multiple Access / Collision Detection) (1) Carrier Sense(キャリア検出) イーサネットに接続された局(計算機など)で,送信を行いたい局は,まず,同軸ケーブル上 の信号をモニタして,キャリアの有無を調べる.これを Carrier Sense という.信号がなければ送 信可となる. (2) Multiple Access(多重アクセス) キャリアがないとき, (ある確率で)複数の局から(ほぼ)同時にイーサネットへの送信が起こ りうる.イーサネットでは,これは禁止されておらず,Multiple Access と呼ばれている. (3) Collision Detection(衝突検出) それぞれの局は,送信開始後も,イーサネット上の信号のモニタを義務づけられており,他局 との信号の衝突が存在すれば,ジャッミング信号を用いて,他局に衝突を検出したことを知らせ, 送信を中断する.そして,乱数によって決定される待ち時間の後,再び送信(Carrier Sense 以降の 操作)を行う. ○Ethernet による計測装置の制御 Ethernet は,本来,計算機同士をつなぐネットワーク規格であるので,計測器を接続するには, 過大な規格である.ただし,実験室を越えて遠隔制御を行う場合には,最も有効な手法である. もちろん,実験室内でも,複数の計算機を用いて複雑な計測システムを構築する際には有用であ る. ○GP-IB, RS-232C, Ethernet の比較 ・GP-IB: 1つの実験室内の小∼中規模(最大機器 10 台程度)のシステムに適している. ・RS-232C: せいぜい 2∼3 台程度の計測機器を接続し,簡単な制御,計測を行うのに適している. ・Ethernet: インターネットにも接続可能であるので,原理的には,世界中の機器を接続して,実 験システムを構築できる.ただし,その場合には,通信速度や信頼性の確保が課題となる.実験 室レベル,もしくは一つの建物に亘る大きなシステムの構築には不可欠のインターフェイスであ る.ただし,プログラミングには,ネットワークの知識が必要であまり容易ではない. ・USB(Universal Serial Bus): PC で標準的な位置を占める中・高速インターフェース 1993 年に,Compaq,Intel,Microsoft,NEC が研究開始,1996 年に仕様書公開(USB1.0). Windows98 のリリースとともに普及(Windows2000 でも標準サポート,Macintosh でも標準装備). ○USB(1.0/1.1)の特徴 ・接続トポロジー:ホスト・コントローラー(PC)を中心に,7 ビットのアドレスで区別された デバイス(127 台)の接続が可能. ・ケーブルとコネクタ:GND と電源(+5V,最大 500mA),差動型のデータ線(D+,D-)の合計 4 本からなる.データ線は twisted-pair である.コネクタは,上流側(ホスト側)と下流側(デバ イス側)で異なるが,小型で,ホットプラグ対応. ホスト側 デバイス側.二種類のサイズがある ・データ転送速度:12M ビット/s のフル・スピード・モードと,1.5M ビット/s のロー・スピード・ モードがある.ロー・スピード・モードでも RS-232C(115K ビット/s)の約 10 倍,フル・スピー ド・モードで 10BASE のイーサネットと同程度である. ・用途:ロー・スピード・モード;キーボード,マウス,ジョイスティック フル・スピード・モード;プリンタ,スキャナ,デジタルカメラのメモリ,MO など インターフェースのワンチップ化とともに,計測器にも装備されつつある.USB2.0(USB1.0/1.1 の上位互換)は,480M ビット/s を実現しており,高速の記憶デバイスも接続されている(HD, MO など).RS-232C,GP-IB の代替えになる可能性は大きい. ○IEEE1394: 高速ハードディスク・インターフェースとして,1986 年に Apple 社が開発開始.当 初は,FireWire と呼ばれていたが,その後,IBM,ソニーが参加し,IEEE 規格として標準化.SONY の PC などには標準で搭載(i link).ただし,USB2.0 の陰に隠れて,ごく一部(ディジタルビデ オカメラなど)でしか使われていない. ○今後の動向:計測器において,RS-232C は,確実に USB に置き換えられるであろう.GP-IB と USB の関係は不明であるが,次第に置き換えられていく可能性もある.将来的には,近距離は USB もしくは無線 LAN,,遠距離は Ethernet となるであろう. 物理計測工学Ⅰ 第 10 回 計算機の拡張バスを用いた計測器・計測システム(Ⅰ):拡張バスの種類と特徴 電子機器の高密度化,高性能化,インテリジェント化が進んだため,独立した計測器と計算機を 標準インターフェイス(GP-IB,RS-232C,イーサネットなど)で接続する方法ばかりでなく,計 算機の拡張ボードに計測器の機能を持たせたものが広く使われるようになってきている. 例)ディジタルオシロスコープボード,ディジタルマルチメーター(電圧計,電流計,抵抗計測な ど)ボード,AD 変換・DA 変換ボード,ファンクションジェネレータボード,マルチチャンネル アナライザボード 拡張ボードを使用した計測器の利点: 独立した計測器に比べ,電源や筐体,そして外部インターフェイスを持たないため,比較的安価 に計測システムを構築できる.特に,計算機(PC)が非常に安価になってきたため,この効果は極 めて大きい.また,標準インターフェイスに比べ,データ転送が高速であるため,高性能なシス テムの構築に適している.また,様々なボードを組み合わせて,複雑なシステムを構築すること も可能である. 拡張ボードを使用した計測器の欠点: 独立した計測器と異なり,単体では使用できない.動作させるためのソフトウェアが必要である が,複数のボードを使用して計測システムを構築する場合,複数のソフトウェアを関連させて動 作できるかどうかが,ポイントになる.また,計算機内のスイッチングノイズのため,高精度の 計測(nV,pA など)には適さない. 計測器に適した拡張バスの種類: ISA バス,PCI バス,PC カードバス,VME バス,PC98(C)バス,など ① ISA(Industrial Standard Architecture)バス 本来,内部バス 16 ビット,外部バス 8 ビットの CPU である i8088 を使用した IBM-PC 用の 8 ビットデータバス(信号線 64 本)として作られた拡張バスが,CPU として i80286 を使用した IBM-PC/AT において,新たに 32 本の信号線が拡張され,PC-AT バス,または ISA バスと呼ば れるようになった. データバスは 16 ビット,アドレスバスは 24 ビット(16Mbytes),その他,10 本の割り込みラ インなどがある.システムクロックは約 8MHz(8, 8.25, 8.33 など)であり,データ転送能力は, メモリアクセスの場合には,最大 8Mbytes/s(1 word の転送に最小 2 クロックサイクル),I/O ア クセスの場合には最大約 5Mbytes/s(1 word の転送に最小 3 クロックサイクル)である. かつては,主メモリの拡張にも使われたが,現在は,比較的低速なデバイスのインターフェイ スに使用されている.現在の PC では,ほとんど使われていないバスであるが,過去の資産の豊 富さやインターフェイスボード作成の容易さなどから,実験室ではまだしばらく使われていくも のと思われる. ② PCI(Peripheral Component Interconnect)バス ISA バスのデータ転送能力の限界を克服し,拡張ボードの各種設定(I/O アドレスや割り込み番 号など)を自動化する(Plug & Play)ために開発されたバスの規格.現在 PC などで使用されてい るバスとしては最も高機能のものである.信号線は 124 本あり,データバスは 32 ビット,アド レスバスは 32 ビットである.ただし,2 回に分けて転送することにより,64 ビットデータと 64 ビットのアドレスにも対応している.システムクロックは最高 33MHz または最高 66MHz であ る.データ転送能力は,システムクロックが 33MHz のとき,最大で 132Mbytes/s(ISA バスの約 15 倍)である. Plug & Play を実現するために,各ボードの資源(どれだけのメモリ空間や I/O 空間を必要とす るか,どのような割り込みを必要とするか,そしてどのベンダーが製作したかなどの ID 番号など) を記憶したコンフィギュレーションレジスタを必要とし,ボードを自作するのは難しい. (CompactPCI バスという規格も産業用には使われているが,PCI とは互換性はない. ) PCI カードにも,いろ いろなサイズのものが ある(左図) . ③PC カード(PCMCIA) PCI と同じく,Plug & Play を実現した拡張バスである.データ幅は 16 ビット,アドレスは 26 ビットであり,ISA バスを自然に拡張したようなバス構造になっている.カードの厚みによって, TYPE I∼ III が定義されているが,ほとんどが TYPE II である. PC カードに実装された AD 変換器や標準インターフェイス(GP-IB,RS-232C,イーサネット) なども販売されており,ノート型の PC を用いた小規模な計測システムを構築する場合には,不 可欠な拡張バスである.カードを自作するのは困難であるが,カードの種類が増えてきているの で,これらのカードを使用して計測システムを構築することができる.このカードの形状やコネ クタと互換性を保ち,PCI バスのサブセットである CardBus という規格(データバス 32 ビット) も決められており,最近のノート PC では,CardBus と PC カードのどちらにも対応できるように なっている.なお,USB 接続機器が普及する状況から,一般化するのは難しそうである. ④VME バス 産業用のシステムにしばしば使われてきたバスであるが,PC では,ほとんど使用されていない. このバスはデータバス 32 ビット,アドレスバス 32 ビットで,特にモトローラの 68000 系の CPU を使用した産業用のシステムでは長い間,標準的なバスであった.これを拡張した VXI バスが使 われることもある(後の講義でも出てくる). 物理計測工学Ⅰ 第 11 回 計算機の拡張バスを用いた計測器・計測システム(Ⅱ):計算機を用いた計測システ ムにおける計算機とOSの選択 これまでの講義において,計算機を用いた計測システムの構築法として, (1) 独立した計測器と計算機を,標準インターフェイス(GP-IB,RS-232C,USB,イーサネットな ど)で接続する方法 (2) 計算機の拡張ボードに,計測器の機能を持たせたものを使用する方法 を述べた. そこで,次に問題となるのは,どのような計算機,オペレーティングシステム,プログラム言 語を使用して,「いかに計測システムを構築していくか」,ということである. 過去の長い経緯から,使用する計算機が決定されている場合もあるが(高エネルギー分野での VAX のシステム,既存のボードを活かすための PC98 など:ただ,これらは(IBM-)PC に統一され てきた),ここでは,過去の経緯にとらわれず,計測用の計算機を選択する場合を考える. マンマシンインターフェースを持つ計算機を考えた場合,現在では,PC,Macintosh,専用 UNIX マシン,組み込み型計算機などの 4 種類の選択がある.また,ハードウェアの形態から言えば, デスクトップ用と,ノート型(モバイル型),スタンドアローン型(携帯電話もその一つ)などが 考えられる.そして,オペレーティングシステムの種類から言えば,Windows,MacOS,Unix (Linux) などがある.その他,いくつかの組み込み型(Embedded)OS がある. ○計算機の種類 ・PC(インテル系 CPU をもつマシン):もっとも安価でバラエティに富む.ただし,競争が激し いので,ハードウェアの進歩が速く,古いタイプのマシンが確保できないという難点もある. ・Macintosh:ハード・ソフト共に1社で管理されているので,互換性が保証されている.比較的 安価.ただし,何回か,CPU のアーキテクチャに変遷があった(68 系 → PowerPC → Intel X86) . ・専用 Unix マシン:拡張ボードは PCI に統一.標準インターフェースは使用可能.ただし,最近 は,このようなマシンはなくなってきた. ・組み込み型(ボード PC など) :最後の選択だが最良の選択となることもある.ハードルは高い. ○ハードウェアの形態 ・デスクトップ型:標準的な形態であり,拡張ボード(PCI,ISA)の挿入が可能.ただし,ISA ボードが挿入可能な計算機は,非常に少なくなりつつある(工業用 PC などのみ). ・ノート型(モバイル型,携帯電話型) :スペース的な制約や,ポータブル型にすべき場合に選択 する.機能拡張の方法としては,PC カードスロットに様々な機能を有する拡張カードを挿入した り,USB などを使用する.携帯電話や無線 LAN を使って,屋外,屋内でリモート計測を行うこ とも考えられる. ・その他(組み込みハードウェア) :計測器に埋め込まれた計算機.携帯ゲーム機と同様の計測器. ○オペレーティングシステムの種類 ・Windows95/98/Me:過去 10 年において最も普及していた OS.マルチタスクが可能.最も情報 が豊富. 「比較的」安定.現在でもかなり広く使われている.ただし,マルチユーザーではないの で,サーバー的な使用は不可.リアルタイム制御には向かない(バッファリングが必要). WindowsNT 系と統合され,XP Home Edition となった.現在,新規入手はほとんど不可能. ・WindowsNT/2000:ユーザーインターフェースは Windows95/98/Me と同様であるが,デバイスド ライバは異なる.Windows95/98/Me より頑丈.現在は,XP Professional version となっている. ・MacOS:ユーザーインターフェースが直感的でわかりやすい.マルチタスクは MacOS X で初め て可能となった.長らく,マルチタスクなどが不可能であったため,計測用への応用は,PC に比 べ,遅れたものとなっている. ・Unix (Solaris, Linux, etc.):サーバーとしての実績があり,さまざまなツールが揃っている.リア ルタイム制御には向かないが,Linux を機器に組み込むことが流行しつつある(第三世代携帯など). Embedded OS:TRON など,埋め込み機器での動作を目指しているので,スタンドアローンのシ ステムには,広く用いられている.レスポンスが速く,リアルタイム制御に適したものもある. ・携帯電話の OS:ITRON,Windows Mobile,Symbian OS,Linux ○開発言語の種類 C,C++,C#,Visual Basic,Java,Perl,Assembler,Macro languages,LabView など ○これまでに開発した計測システム 構築 システムの名称 年 1980 1983 計測目的 システム構築方式 MC6800 拡張バス OS なし (自作) (独自方式) マシン語 UNIX GP-IB 上に構築 (対象) 比熱計測システム 研究用 MRI 比熱 MR 撮像 PC8001 1986 研究用 MRI MR 撮像 MC68000∼ MC68030 1992 リアルタイム MRI MR 撮像 (DSP で再構成) 1995 リアルタイム MRI MR 撮像 (PC での再構成) 1998 OS/言語 計算機 コンパクト MRI (PC-MRI) MR 撮像 UNIX/C,Basic マシン語(Z80) VME バス上に構 OS9/68000/68030 C,マシン語(Z80) 築 MC68030 VME バス+ OS9/68030,C DSP32030 PC9801 バス DSP Assembler MC68030 VME バス+ OS9/68030,C PC9801 PC9801 バス MS-DOS, MS-C PC(Pentium) ISA バス DSP320C32 Windows95/98 Visual C 物理計測工学Ⅰ 第 12 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅰ):比熱自動計測システム 8 ビットマイクロプロセッサ MC6800 を用いた,比熱自動計測システム(マイコン部分は,1977 年完成,その後,I/O を追加して 1980 年完成(博士課程 2 年) :次頁参照) . MC6800 は 1974 年にモトローラ社が開発 したマイクロプロセッサ. ミニコンのア ーキテクチャと,プログラム分析に基づい て設計された.PDP-11 のアーキテクチャを 参考にしたといわれ,同時期のインテルの 8080 に比べて,非常に洗練されていた. <比熱計測(断熱型熱容量計測)の原理> 外部からの熱の流入・流出を遮断した状態で,一定の熱量を加える前後の温度上昇を計測する. C= Q T2 − T1 断熱条件: 試料と外壁の間の温度差を0とし,かつ,試料と外壁の間を真空とする. ○測定手順 「温度計測(T1)→加熱→温度計測(T2)」の単純な繰り返し:計算機による自動化に最適 ○計測システム ・断熱セル:三重の断熱セル(二重の真空断熱層) ・温度計:温度測定用 Si ダイオード,-2.7 mV/deg 発熱量(10µA で使用時に約 10µW)が小さく,感度が高い.直線性良好. ・測定コントロール・データ収集システム CPU:MC6800 (Motrola 社製 N-MOS LSI, clock frequency 1 MHz, machine cycle 2 µs) データサイズ 8 ビット,アドレス 16 ビット(64 kbyte アドレス空間) メモリ:4 kB static RAM 外部記憶装置:カセットテープ(300 bps ?) 外部表示装置:発光ダイオード(メモリの内容を表示) CRT ディスプレイ(モノクロ,32 文字×20 行,256×192 ドット) 入力装置:パネルスイッチ(アドレス 16 ビット,データ 8 ビット入力) キーボード(ASCII キーボード) 計測用 I/O:1/100 秒 16 ビットクロック,16 ビット DA コンバータ,12 ビット AD コンバータ ヒーターON-OFF 回路, 温度計測用定電流(10µA)回路,ヒーター用定電流電源(1∼10mA) 500 時間以上の計測においてノーエラー. 参考:世界最初のパーソナルコンピュータ AppleⅡ(1977) ,IBM-PC(1981),PC9801(1982) 国産初の MRI(1983) 8 bit DATA BUS CPU MC6800 10 µA current source 16 bit DA converter 16k byte RAM Si diode thermometer Cassette Tape 12 bit AD converter CRT Display ASCII Key Board Heater current Logic Output Hardware Clock Heater 8 ビットマイクロプロセッサ MC6800 を用いた比熱自動計測システム 物理計測工学Ⅰ 第 13 回目 計測システムとしての MRI: MRI にはどのような計算機システムが要求されるか? ○計測システムとしての MRI 全身用 MRI(東芝製) ポータブル MRI 手専用 MRI MRI(Magnetic Resonance Imaging)とは,核磁気共鳴現象(Nuclear Magnetic Resonance)を利用し て,体内の構造や機能などを可視化し,医学診断や脳機能計測,そして,さまざまな分野におけ る非破壊計測を行う手法である.MRI を計測システムとして見たとき,以下のような概念でとら えることができる. 制御信号 100ns 以下の時間分解能 1ms 以下の更新 磁石 勾配コイル RF コイル 被写体 計測エレク トロニクス 計算機 システム 信号制御・処理部 高周波電力(最大数十 kW) 勾配コイル電流(最大数 100A) NMR 信号 ~1GB/scan 信号変換部 NMR 信号 ~mV: µV 以下まで検出 信号検出部 ○MRI の計算機システムには,どのような機能が要求されるか? MRI の計算機システムには,少なくとも次のような二種類の機能が必要とされる. 一つは,MRI のパルスシーケンスを,正確なタイミング(パルスジッタ 10ns 以下(注))で, 自由自在に発生する機能であり,もう一つは,大量のデータをサンプリングし,保存して,主に, フーリエ変換を中心とした画像再構成計算を行うという機能である.さらに,得られた二次元な いし三次元画像を用いて,さまざまな画像処理を行う機能も必要とされる. 通常の論理回路では,スイッチング時間が 10ns 以下であるため,第一の機能は,出力タイミン グが,決められた通りに正確に発生できる論理回路を用いれば実現可能であることを示している. よって,このような回路は,パルスプログラマと呼ばれている. パルスプログラマを,パーソナルコンピュータ(PC)そのもので実現することは,現実的では ない.それは,たとえ,PC の CPU を直接制御できる計算機のコードを使用したとしても,ハー ドウェアのレベル(実は,PC 全体は,システムクロックとそれに同期した,一種のタイマー(DRAM のリフレッシュやその他の割り込みを制御)で制御されている)では,プログラム通りに正確な タイミングでは動作しないからである. よって,パルスプログラマには,全く時間的な遅れのない論理回路を使用する必要がある.こ のためには,大きく分けて,二つの方法がある.一つは,時間的に正確に動作するある種のマイ クロプロセッサシステムを使用する方法と,特別に論理回路を設計・製作する方法である. 前者は,ワンボードのマイクロプロセッサボードの多くが対応可能であるが,入出力(I/O)の 機能,時間分解能,プログラミングの容易さなど,さまざまな点を考慮して選定する必要がある. 下に示すボードは,クロック周波数 40MHz(25ns サイクルタイム)の DSP を用いたボードで, このボードだけで,MRI のパルスプログラマを実現できる稀有なボードである. 特別な論理回路を設計する方法も,世界中ではいくつか試みられている.特に,医用機器メー カーでは,パルスプログラマの開発に大きな投資を行って開発している. 大量のデータをサンプリングして保存し,画像再構成などを行う計算機としては,サンプリン グデータを一時的に保存する(大容量の)バッファメモリを有する AD コンバータを用いれば, PC で実現可能である.なお,画像処理は PC で充分であるが,高度な用途には,ハイエンドの PC が使用される. MRI の計算機システムを構築するに当たっては,計測エレクトロニクスとのインターフェース 部分と,人間とのインターフェース部分を考慮し,フロントエンドマシンとバックエンドマシン, という切り分け方も可能である. 以上のことを前提とし,これまでどのようなシステムを構築してきたか,次回以降に解説する. 汎用計算機(PC 他) 計測用計算機 with GUI OS with real-time OS バックエンド フロントエンド マシン マシン MRI システム 標準インターフェース(GP-IB,イーサネットなど) を使うか,拡張バスを使うか? (注)MRI のパルス発生器に,どの程度のパルスジッタ(時間的なゆらぎ)が許されるかは,目 的とする NMR 信号の帯域などによって決定される.たとえば,100kHz の信号を,位相精度 1° 以下で計測しようとすれば,10µs/360°~30ns となる. 物理計測工学Ⅰ 第 14 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅱ):GP-IB バス上に構築した MRI システム システムブロック図 使用期間:1983年∼1985年(於 東芝) 各ブロックの役割 (1) PC-8001(8ビットパーソナルコンピュータ:NEC,NEC 最初の本格的パソコン) 測定パラメタ入力(繰り返し時間,パルスシーケンス) シーケンスパラメタ作成,Z80A プログラム・データダウンロード (2) パルスプログラマ(自作) Z80A(クロック周波数 4 MHz)マイクロプロセッサの,正確なインストラクションサイクル を利用して NMR パルスシーケンスを生成.プログラム/データは PC8001 よりダウンロード. (3) NMR イメージングシステム 高周波パルスでスピン系を励起し,勾配磁場で NMR 信号の位置を識別して,信号を計測する. (4) ディジタイザ・シグナルアベレージャー(分解能 10 ビット) NMR 信号をディジタル化し,信号の S/N が不足の場合は信号加算する. (5) UX-300 ミニコンピュータ(16 ビットミニコン:TOSHIBA,国内初の UNIX ミニコン) NMR 信号を集積し,二次元/三次元フーリエ変換により画像再構成を行う. 外部インターフェースとして,GP-IB 標準装備,ハードディスク 10 MB (6) 画像ディスプレイ(自作) 256 画素×256 画素,256 階調(8 ビット),GP-IB インターフェイス(自作) → 自動計測(撮像)が可能となったが,データ転送の点で問題があった. UX-300 画像ディスプレイ 東大物性研における MRI 東芝総合研究所における MRI 16-bits 20 µ s RF shape ROM RF phase phase shifter DA system timer Data acq. Static RAM 4MHz clock Z80H CPU A D D R E S S B U S multiplexer D A T A B U S DA Gx DA Gy DA Gz latches multiplexer host CPU Z80 を用いたパルスプログラマ(自作) 物理計測工学Ⅰ 第 15 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅲ):VME バス上に構築した MRI システム 使用期間:1986 年∼1992 年(筑波大学着任後製作し,研究に使用:灰色の部分は自作) ○各ブロックの役割 (1) CPU BOARD(16/32 ビットボードコンピュータ:既製品) OS9/68K,NMR 信号を集積し,二次元/三次元フーリエ変換により画像再構成を行う. 測定パラメタ入力(繰り返し時間,パルスシーケンス) シーケンスパラメタ作成,Z80A プログラム・データダウンロード (2) パルスプログラマ(自作:前作と設計思想は同一,しかし BUS に直結) Z80A(クロック周波数 4 MHz)マイクロプロセッサの正確なインストラクションサイクルを利 用して,NMR パルスシーケンスを生成.勾配磁場制御波形発生(16 bit).プログラム/データは CPU BOARD よりダウンロード. (3) NMR イメージングシステム(パワーアンプ以外は自作) 高周波パルスでスピン系を励起し,勾配磁場で NMR 信号の位置を識別して,信号を計測する. (4) ディジタイザ・シグナルアベレージャー(自作:12 bit) NMR 信号をディジタル化し,信号の S/N が不足の場合は信号加算. (5) 画像ディスプレイボード(自作) 256 画素×256 画素,256 階調(8 ビット),VME インターフェイス,NTSC コンポジット信号 ○従来の GP-IB を用いたシステムに対する優位性 バス幅が 8 ビットから 32 ビットへ拡大,転送速度も 100 倍程度向上(10kbyte/s → ∼1Mbyte/s) CPU/OS の 32 ビット化により,メモリ空間の壁(64kbytes)を追放. CPU の高速化(GP-IB とは直接関係ないが,ボードの交換により upgrade 可能) ○VME バスとは? VME バス [VERSA Module European Bus] モ トローラ社が開発した 68000 用 VERSA バスを IEEE で規格化した産業用の標準バス.シング ル・ハイト(100×160),ダブル・ハイト (233.35×160)の基板に 96 ピン DIN コネクタを実装した 32 ビット・バス.画像処理などの分野で長い間使われてきた. 現在でも,産業用,宇宙航空用に使 われており,火星に着陸したマーズパスファインダーでも,リアルタイム OS の VxWorks と一緒 に使われた. ○なぜ,VME を選択したか? (1) 画像再構成には巨大なメモリ空間を必要としていた. 128×128 画 素 の 画 像 再 構 成 に 必 要 な メ モ リ 容 量 は , 最 低 で も 128kB で あ っ た (128×128×4byte×2=128kbyte:浮動小数点数を用いた複素数 2DFFT を使用).1985 年当時,イン テルの 16 ビットマイクロプロセッサは,8086 であり,そのアーキテクチャでは,メモリ空間に 64kbyte の壁があった(1 セグメントあたり 64kbyte のメモリしか管理できなかった) .よって,よ り広いメモリ空間の使用が可能な,モトローラの 16 ビットマイクロプロセッサ MC68000 もしく は 32 ビットマイクロプロセッサ MC68020/30 が賢明な選択であった. (2) MC68000,MC68020/30 を用いたコンピュータは? インテルの 16 ビットマイクロプロセッサ 8086 を使ったコンピュータとしては,PC9801 を始め, 多数の PC が販売されていたが,MC68000 を使ったコンピュータで,しかも高性能の拡張バスを 有するシステムとしては,VME バスの上に構築されたものしかなかった.MacintoshII の発売はま だ先であった. 以上の理由により,VME バスと,MC68000(16 ビット)ないし MC68020(32 ビット),MC68030 (32 ビット)を用いたシステムを選択した.当時としては,最良のシステムであったと思う.な お,OS は,OS9/68000 ないし,OS9/68020. ただし,これだけでは,MRI システムは構築できないので,以下のボードを自作した: (1) パルスプログラマボード:Z80 を用いたパルスプログラマ. (2) データ収集ボード:12 ビット 2CH,16 回までのハードウェアによる信号加算 (3) 画像表示ボード:NTSC コンポジット信号を用いたビデオ信号発生 1st フィールド(262.5 本) 2nd フィールド(262.5 本) 映像信号キャリア周波数: 3.579545 MHz 水平同期周波数: 15.374 kHz 垂直同期周波数: 59.94 Hz 走査線の数は 525 本だが,実際に表示され るのは,約 480 本.これが,VGA の解像度 (640×480)の基礎となっている. NTSC コンポジットビデオ信号のしくみ 物理計測工学Ⅰ 第 16 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅳ) :DSP を用いたリアルタイム MRI システム システムブロック図 完成:1992年(10 年来の夢) リアルタイム MRI とは? 画像信号取得と画像再構成を共に高速化し,並行して実行することにより,撮像対象の状態を, ほぼ同時に観測できる装置:NMR テレビ! リアルタイム MRI に対する要求 (1) 高速撮像:毎秒数枚の撮像が可能な撮像方法,エコー・プラナーイメージングが理想 (2) 高速画像再構成:100ms 以下での画像再構成.64×64 画素では,FFT だけでも約 105 回の浮動 小数点演算が必要.正規化等を含めると,数 MFLOPS 以上の演算速度が必要,当時の PC(ペン ティアム出現以前)では,DSP が最良の選択. (3) 高速画像表示:毎秒 10 枚程度,グレースケールの画像を表示する必要有り.当時の高速ワー クステーションでようやく可能なレベル:自作のフレームメモリ. DSP(Digital Signal Processor) ディジタル演算を高速に実行することを目的として開発されたマイクロプロセッサ.アーキテ クチャをシンプルにし,データ長を一定にするなどの工夫や,並列化を行うことにより,同時代 の汎用マイクロプロセッサに比べ,数 10 倍以上の高速演算が達成されている. TMS320C30 (33.3MHz)と Pentium (100MHz)程度が同程度の演算速度. (OS とコンパイラ,コーディングの巧拙に依存する) 用語の解説: エコー・プラナーイメージング: ノーベル賞を受賞した,Peter Mansfield が発明した超高速イメージングの手法.フーリエ空間を, 一筆書きのようにスキャンすることにより,数 10ms での撮像を可能とした方法.下に示すのは, フーリエ空間における信号収集の軌跡(トラジェクトリ)である. ky ky kx kx フーリエイメージング(通常の方法) エコープラナーイメージング FFT(高速フーリエ変換) : 一次元 N 点の離散的フーリエ変換は, X k = N −1 ∑ x pW − pk , ただし W = e i 2π N (回転因子)と p =0 定義されるため,N2 回の演算が必要.FFT を使うと,演算の回数を Nlog2N 程度に減らすことが できる.すなわち,N=64=26 のときは,212=4096 から,64×6=384 回と,約 1/10 にすることができ る.N が大きい場合には,時間短縮の効果は絶大である.よって,MRI に置ける画像再構成には, FFT が使われる. FLOPS: FLoating Operation Per Second の略で,1秒あたりの浮動小数点演算の回数の単位.KFLOPS, MFLOPS,GFLOPS,TFLOPS などの単位が使われる.現在の MPU は,1クロックで 1 回の浮動 小数点演算を可能としている(並列演算(パイプライン)も可能)ので,1GFLOPS を越えている. ペンティアムプロセッサが出現するまでは,小さなシステムにおける高速演算は,DSP が主役で あった. ところが,その出現以来,DSP と Pentium(汎用プロセッサの代表)は,スピードの競争を繰り返 し,現在では,DSP は,画像処理演算などに特化したコンパクトなチップのものなどが携帯電話 などに多く使われている.そして,汎用プロセッサは,超並列計算機やグリッドコンピューティ ングの CPU として,広く使われている(ついに,Mac にも Pentium が入ることになった!:2005 年). 物理計測工学Ⅰ 第 17 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅴ):PC 上に構築した MRI システム NMR imaging system Windows95/98/Me WindowsNT/2000 システムブロック図 完成:1998年 ○なぜ PC を用いたか? (1) CPU やビデオカードをはじめ,ハードウェアの進歩が最も急速でコストも安い. (2) Windows95 を始め,Windows OS は,32 ビットマルチタスク OS であり,ユーザーインターフ ェースに優れ,開発ツール(C 言語など)が揃っており,I/O 制御・画像表示に適する. (3) 豊富な I/O ボードが利用できる(ADC,DSP,DDS など). ○むしろ,なぜこれまで,PC を用いていなかったか? (1) 1995 年以前の PC の OS である MS-DOS は,16 ビット OS であり,大きなサイズの画像再構成 演算などが困難であった.Windows95 になって初めて,32 ビットのメモリ空間が自由に使えるよ うになった.また,MS-DOS は,マルチタスクも不可能であった. (2) 信号サンプリング,NMR パルスシーケンス発生(DSP ボード),NMR 共鳴周波数発生などの 市販のボードが利用できなかった(PC とは直接関係なかったが,現実問題として). (3) CPU が Pentium となるまでは演算速度の点で問題があった.Pentium と Windows はほぼ同時に 発売. ○本システムのキーポイント (1) 市販のボード(DSP,ADC,DDS ボード)を導入し,ソフトウェアを開発するだけでシステ ムが構築できた.このため,システムの構築が安価にかつ容易となった(量産化も可能). (2) PC におけるマルチタスキング Windows プログラミング パルスプログラマ制御,信号収集,画像再構成表示を切り分けて同時に実行.柔軟性の向上. (3) 撮像後のデータをさまざまなソフトウェア(画像処理ソフトなど)で直ぐに利用できる. ○本システムで使用している汎用拡張ボード(MRI 用に開発されたものではない!) DSP ボード:これ1枚だけで,MRI のパルスシーケ ンスが発生できる稀有なボード.このようなボードが 存在することは,奇跡的なことである.100ns 時間分 解能が実現される. AD 変換ボード:最高 1µs のサンプリングレートで, 同時に 2 チャンネルの信号を 14 ビットの分解能でデ ィジタル化できる.このボードも,MRI のために作 られたようなボードである. DDS(Direct Digital Synthesizer)ボード:100kH か ら 200MHz まで,1Hz の精度で発生できるシンセサイ ザ.スペクトル純度は比較的良く,NMR にも使用で きる.周波数制御は,ISA バス経由で可能.これも MRI のために開発されたようなボード. PC 上に MRI システムを構築することにより,コンパク トでローコストな MRI 計測制御システム(MRI コンソー ル)の製作が可能となり,これによって,さまざまな MRI システムの開発が可能となった. デスクトップ型 MR マイクロスコープ 骨密度計測コンパクト用 MRI 鮭雌雄判別用 MRI 手専用コンパクト MRI 食品用 MRI 植物用 MRI など デスクトップ型 MR マイクロスコープ 物理計測工学Ⅰ 第 18 回目 計算機を用いた計測システム構成例(Ⅵ):コンパクト MRI の展開 ○人体全身用 MRI の世界シェア(世界市場約 3300 億円) このように,人体全身用 MRI は,世界 big 3 と国内 2 社で寡占の成熟市場である.ただし,技術 的には,さまざまな技術開発が行われている. ○コンパクト MRI とは? 人体全身用 MRI は,国内に約 6,000 台と広く普及しているが,医学診断の分野以外のあらゆる 科学技術,産業分野において,その利用が期待されている.ところが,従来の MRI は,動物用 MRI や,縦型超伝導磁石を用いた MRI も含め,これらの用途には適していなかった.すなわち, 従来型の MRI は,巨大で,移動不可能であり,試料空間も限られており,多様な用途には使えな かった. これに対し,前回の講義で話したように,PC を用いて,容易に計測システムを構築することが できることを示した.このシステムと,さまざまなタイプの永久磁石を組み合わせることにより, 多様な用途に向けて開発されたのが,コンパクト MRI である(1998 年). コンパクト MRI の原型(大学病院の全身用 MRI 永久磁石を用いた MR マイクロスコープ を用いた MR マイクロスコープ:1998 年)(永久磁石を用いた最初のコンパクト MRI:1999 年) 鮭雌雄判別用 MRI(2000 年) 岩手県の財団より開発依頼 骨密度計測用コンパクト MRI(2001 年) すでに約 1,000 人以上の計測の実績有り 学園祭にて 2001 年∼2006 年計測を実施 マウス用 MRI(2003 年) (製品化済) 手専用 MRI(0.2T)(2005 年) 大学病院にて臨床試験開始 手専用 MRI(0.3T)(2007 年) 製品化予定 ○ベンチャー企業による企業化 MRTechnology 創業の頃(2000 年) 国際会議での展示(2002 年) MRI 国産第一号機(1982 年) コンパクト MRI を集大成した単行本(2004 年) 物理計測工学Ⅰ 第 19 回目 むすび 計測システムの構築手法について,その基本的な技術を解説すると共に,これまでに実際に構 築してきたシステムを例として紹介した. ある目的を達成するための計測システムには,絶対的な解はなく,時代と共に進化していくも のである.よって,よりよい計測システムを構築していくためには,この講義で紹介した基本的 な技術を基礎にして,計測技術と計算機技術の進歩を積極的に取り入れていくことが大切である.