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しびれの原因のその対策

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しびれの原因のその対策
しびれの原因のその対策
埼玉医科大学総合医療センター
神経内科
野 村 恭 一
はじめに
「しびれ」は、一般内科、神経内科、整形外科、脳外科などで診察する最も多い神経症候の一つですが、臨床
の現場では十分な診察が行われているとは言いがたく、時として精神的なものとして片付けられていることも少なくありま
せん。これは「しびれ」の訴えがあくまでも主観的なものであり、他人には分かりにくいことが挙げられます。また、神経疾患
の診察は面倒なため、一般内科医師には敬遠されがちな訴えの一つであります。しかし、「しびれ」は患者様にとって
は極めて不愉快な感覚であり、日常生活に与える影響は大きいため適切な診断と治療が必要となります。
しびれの内容
患者様は、診察室では「しびれ」の内容を正しく医師に伝えることが最も重要です。しびれの定義は人により異なりま
す。一般に「しびれ」は、「ジンジン」、「ビリビリ」などの自覚的な異常感覚を示しますが、患者様にとっては運動障害
である「ふるえ」までもしびれと表現される場合があり、診断に苦慮します。多くの医師は運動障害のふるえは「しびれ」と
理解せず、感覚障害に起因する場合をいわゆる「しびれ」と判断します。
「しびれ」の内容は出来るだけ具体的な訴え、例えば、「正座後のピリピリする感じ」、「むずむず、虫がはうような感じ」、
「小石の上を歩いている様な感じ」、「剣山の上を歩いている様な感じ」、「冷や冷やする感じ」など伝えてください。次
に、「しびれ」の分布が大切です。しびれ体幹、手足のどの部位に、どのように分布しているのかを正確に訴えてくださ
い。これにより診断がより確実になります。また、「しびれ」がどこから始まり、どのように伸展して、現在に至るのかを詳しく
伝えてください。その他、しびれの随伴症状、患者様の既往症、家族歴などを医師は確認します。別紙にしびれ(感
覚障害)の分布と病巣部位を示しました。しびれの内容を正しく伝えることにより適切な診断と治療が受けられます。
しびれの原因
「しびれ」の原因としては、1)神経障害性、2)非神経障害に大きく分けられます。1)神経障害性は、その障害部
位により末梢神経、神経根、脊髄、脳幹、大脳障害性に分けられ、それぞれ特有の感覚障害の分布を示します
(図1)。2)非神経障害性は、循環障害(動脈/静脈)、内科疾患、その他筋障害に起因するものが含まれ、「し
びれ」は神経障害の分布に一致しません。
1)神経障害のうち、主に感覚神経の障害を来す原因として、① 末梢神経障害では、代謝障害(糖尿病)、ビ
タミン B1欠乏症、膠原病、中毒(薬、金属、有機溶媒)、神経免疫性疾患(ギラン・バレー症候群、癌など)、遺
伝性神経疾患などがあります。② 脊髄・神経根障害では、脊髄の圧迫(頚椎症、脊髄腫瘍など)、脱髄疾患
(多発性硬化症など)、血管障害(脊髄梗塞)、脊髄空洞症、脊髄炎、ビタミン B12 欠乏症(亜急性連合性脊
髄変性症)などがあります。③ 脳障害では、脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)、脳腫瘍、脱髄疾患などがありま
す。
2)非神経性障害の「しびれ」の原因として、① 血管系の異常:頚部、肩、上肢のしびれ・痛みを訴える場合では
胸郭出口症候群(前斜角筋症候群)、四肢(主に下肢)のしびれ、痛みを訴える場合では閉塞性動脈硬化症、
Buerger 病などを考慮します。また、② 内科疾患として、四肢のしびれ、筋痙攣(四肢の突っ張り)を認める場合で
は過換気症候群、副甲状腺機能低下症、左上腕内側のしびれを訴える場合では虚血性心疾患(狭心症、心
筋梗塞)、四肢のしびれ、肩こり、頭痛の訴えでは緊張型頭痛(肩こり頭痛)などを考慮します。
しびれの検査
「しびれ」の検査は、様々の検査がありますが、神経学的診察が最も重要です。一般外来診療では、脳神経、運
動神経、感覚神経(表在・深部感覚)、腱反射、協調運動などの神経学的診察法を行います。さらに、血液検
査、電気生理学的検査(運動・感覚神経伝導速度、上下肢の感覚伝導検査など)、頭部・頚髄・腰髄の
MRI 検査、脳脊髄液検査、四肢の血管系検査として動脈硬化の測定検査(PWV など)があり、以上でも診断
が確定しない場合では、皮膚の末梢神経を取り出して顕微鏡、電子顕微鏡で病変を確認する神経生検を行い
ます。
主な「しびれ」を来す疾患
1)末梢神経障害では、神経の障害に一致した感覚障害を認めます。例えば、① 正中神経障害(単ニューロ
パチー)では、両手のしびれを訴え、第1指から第4指のしびれ(第5指のしびれはない)、朝方の手首の痛みを主訴
に来院します。運動・感覚神経伝導速度の検査を行い、正中神経の障害部位を確認、保存的治療あるいは手
術療法の適応を決定します。② 多発ニューロパチーでは、手袋靴下型のしびれを訴え来院します。以前より糖尿
病を指摘され、両下肢、足底のビリビリ感を訴え、さらに最近では両手のしびれを認める症例では、糖尿病性多発
ニューロパチーを疑います。糖尿病性ニューロパチーは主に足手の感覚障害を認め、運動障害は軽度です。一方、
感覚障害のみならず明らかな運動神経障害を合併する場合では、様々な末梢神経疾患が疑われ、血液検査、
脳脊髄液検査、神経伝導速度検査などを行い、診断を確定し治療法を確定します。
2)脊髄・神経根障害では、特有な感覚障害の分布を示します。例えば、① 頚椎症(C5/6)では左肩から前
腕にかけての痛み、しびれ、さらに両下肢、膝以下のしびれを訴え来院します。神経学的検査、頚部 MRI 検査を
行い、病変部位を確認し治療方針を決定します。② 坐骨神経痛では坐骨神経に放散、神経に沿って疼痛が
生じ、障害側の腰部から大腿後面のしびれ、痛みを訴えます。原因として腰部椎間板ヘルニア、腰部脊椎管狭
窄症、その他、帯状疱疹、脊椎炎、悪性腫瘍の脊椎転移などがあります。
3)脳障害では、主に病巣と反対側に感覚障害を認めます。例えば、① 脳梗塞では病巣と反対側の顔面を含
めた半身の感覚障害を認めます。脳幹梗塞では時に病巣側の顔面感覚障害と反対側の半身感覚障害(感
覚解離)を認めます。また、② 特徴的な脳梗塞として視床梗塞があります。半身の顔面の口周囲と手(主に第1、
2指)のしびれを訴え、口手症候群と呼ばれます。原因は視床内側の小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)あるいは視床出
血によるもので、治療は非常に困難です。
特徴的な「手足のしびれ」
1)朝方目覚めた時に一過性の手のしびれ:これは一般に神経圧迫、循環障害によるものが多く、治療の対象と
はなりません。一部に関節リウマチによる場合があります。2)動悸・胸部圧迫感とともに一過性の手のしびれ:過換
気症候群によるものが多く、若い女性に認められます。3)冬、冷水に手をつけたとき指が蒼白になってしびれる:これ
はレイノー現象と呼ばれるもので、膠原病を含めた精査が必要です。4)肩こり、後頭部痛を伴う四肢のしびれ:しび
れは日によって変化し、明らかな感覚障害を認めない場合では緊張型頭痛に伴うしびれと判断します。5)夜間、激
しい足のしびれ、痛みを伴う:糖尿病性ニューロパチー、腎性ニューロパチー、ムズムズ症候群を疑います。
治療困難な「しびれ」
様々な検査を行うにもかかわらず明らかな原因疾患が見つからない「しびれ」で、神経生検で小径神経線維が主
に障害される疾患は、特発性小径線維性ニューロパチーと診断されます。また、悪性腫瘍に伴うニューロパチー、
視床症候群、糖尿病性自律神経障害(アロデニア)、脊髄炎後の帯状の「しびれ」などは、多岐にわたる治療に
もかかわらず治療に抵抗性を認めます。この様な症例では、患者はピリピリ、ジリジリ、チリチリ、ジンジン、ビリビリする「し
びれ」と訴えることが多いようです。
しびれの治療
しびれの治療の原則は、「しびれ」の原因である疾患を正確に診断することです。しかしながら、あらゆる詳細な問診、
丁寧な診察、様々な検査を行っても確定診断に至らない症例もあり、この様な症例では対照療法を行っています。
一般的な「しびれ」の治療薬として、循環改善薬、代謝改善薬、抗不安薬、筋弛緩薬、抗うつ薬、抗けいれん
薬、血管拡張薬、非ステロイド薬などが用いられ、特殊な治療では、ステロイド・パルス療法、免疫グロブリン静注療
法、血液浄化療法などがあり、難治例では免疫抑制薬なども用います。
本日は、様々な「しびれ」の紹介とその診察、診断と治療法を解説します。
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