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(日本気象協会北海道支社)の発表資料はこちら(PDF)
「近年の気象変化と融雪出水」 寒地土木研究所:2006.07.07 融雪出水予測 臼谷 友秀 (財)日本気象協会 北海道支社 - H16,H17年度 依頼研修員(環境研究室) - 発表内容 ①融雪流出モデルの開発 積雪内の水の流下:a)積雪層の浸透 を考慮,b)大雨は,積雪層の浸透 を考慮しない方が,流出量の計算 精度が高い. 流出モデル定数:融雪期を対象とす る場合は,モデル定数を固定して も,十分な再現精度が得られる. ②流入量予測例の紹介 降雨 融雪水 雪面 積雪層 浸透 地表 流出モデル 河川へ流出 :2006年融雪期において試験的に実施した予測の2 例を紹介 2001年研究発表会,水文・水資源学会(2001.08.01~03) 2000年5月大雨時の出水状況 豊平峡ダムの貯水位・放流状況 (2000/5/13) 5/12~14の雨量 : 117mm/3day ピーク流入量 : 約300m3/s (1996 年~2006年の融雪期においては最 大) ※豊平峡ダム流域面積:134km2 下流の定山渓温泉街の状況 (2000/5/13) 背景と目的 積雪寒冷地のダムでは,利水需要に備えて,融 雪期の貯水位は高く維持される. 同時に洪水に対するリスクが高い. 2000年5月には,大規模な融雪出水が発生. 一方,積雪期や融雪期における大雨増加,渇水 も懸念. 今後,更に厳しい気象条件下での水資源管理と 洪水管理が要請されことが予想される. 降雨・融雪に伴う出水量を的確に予測することが 重要. ⇒実用的な融雪流出モデルの開発. 融雪流出過程とモデル “融雪水の山腹における積雪内の流下時間”と“山腹地 中の流下時間”は,ほぼ同じ(小林,1970) ⇒ 積雪内 の流下時間の重要性を指摘. 提案されている手法は,融雪量の推定(融雪モデル)と流 出モデルを組み合わせたものがほとんど.⇒ 積雪内の 流下時間を考慮したモデルは非常に少ない. 水の積雪内の流下を考慮した流出モデル: 秀島・星(1993),中津川・星(2001) 現場において,実用化された報告例はない. ⇒ 積雪内の流下を考慮した,実用的なモデル開発. 対象流域 気象観測項目 流域 豊平峡 ダム 定山渓ダム流域 (流域面積:104km2) :チェッキングエリア 豊平峡ダム流域 (流域面積:134km2) :トレーニング エリア ●:ダム管理所 ▲:雨量テレメータ □:積雪深テレメータ 定山渓 ダム ダム管理所 テレメータ 気温 湿度 風速 降水量 積雪深 気圧 気温 湿度 風速 降水量 積雪深 気圧 日射量 日照時間 雨量 積雪深 雨量 積雪深 融雪流出モデルの全体構成 約1km×1kmメッシュ 降水 流域 雪面 積雪層 河川 融雪 浸透 地表 土壌供給水量 (流域平均値) 土壌供給水量 融雪モデル 積雪浸透モデル 融雪観測の結 果で検討 流出モデル (2段タンク型貯留関数モデル) 表面・中間流出量 地下浸透 地下流出量 河川流出量 メッシュ:(財)北海道河川防災研究センター 編集・ 発行(1998):石狩川ランドスケープ情報,CD-ROM. 融雪モデル(Kondo and Yamazai, 1990) ◆積雪層全体の熱収支: 1 cs ρ s {Z (T0 − Ts ) − Z n (T0 − Tsn )} 2 + W0 ρ s l f ( Z − Z n ) + M 0 Δt = GΔt ◆雪面に関する熱収支: T0 − Tsn ε { f v L ↓ + (1 − f v )σ Tv − σ Tsn } − H − lE + λs =0 Zn 4 4 cs:積雪の比熱(J/kg/K) ,ρs:積雪の密度(kg/m3),lf:雪の融解潜熱(J/kg), T0:0(℃),Ts:雪温(℃),Tsn:時間Δt後の雪温(℃),W0:最大含水率(=0.1), Z:凍結深(m),ε:射出率,Δt:時間間隔(s),G:積雪が受けるエネルギー (W/m2),H:顕熱(W/m2),lE:潜熱(W/m2),M0:融雪熱(W/m2),Zsn:時間 後の凍結深(m). (計算法) 山崎剛(1993):融雪機構のモデリング,モデリング 技術の最近の進歩に関する基礎講座,pp.19-106. 積雪層の水の流下:融雪観測結果 :雪面での融雪量 :土壌供給水量 :積雪深 5 0 4 100 3 200 2 300 1 400 0 500 4/1 4/6 4/11 4/16 4/21 積雪深(cm) 融雪量・土壌供給水量(mm/hr) 1997年4月1日~4月30日,定山渓流木処理場 4/26 日(day) 月/日 ・4月上中旬:雪面の融雪水は,遅れ て土壌に供給されている. ・4月下旬:雪面での融雪量と土壌供 給水量の波形はほぼ一致. ⇒ 遅れは変化している. 雪面 積雪 地表 ←雪面での融雪量 (融雪モデル計算値) 土壌供給水量 (ライシメータによる観測値) 遅れのモデル化(積雪浸透モデル) 1997年4月1日~4月30日,定山渓流木処理場 貯留係数k0 20.0 1価線形貯留関数法 ⎧ s0 = k0 q0 ⎪ ⎨ ds0 ⎪⎩ dt = ( m + r ) − q0 k0=0.158Hs-8.2449 y = 0.158x - 8.2449 0.7898 R2 =2=0.79) (R 15.0 10.0 S0;貯留高,k0;貯留係数,m;融雪量, r;雨量,q0;土壌供給水量 5.0 0.0 0 50 100 150 積雪深Hs(cm) 200 貯留係数k0を積雪深Hsによってパ ラメタライズ 顕著な融雪が観測された日の k0 = 0.16 H s − 8.24 貯留係数k0と積雪深Hsの関係 ↓ 積雪深によって遅れの変化を表す. 土壌供給水量の推定結果 1997年4月1日~4月30日,定山渓流木処理場 0 8 2 6 4 積雪浸透モデル 4 6 8 2 10 0 4/1 4/6 4/11 4/16 4/21 4/26 積雪浸透モデルによって,土壌供給水量が再現できた. しかし,期間中,大雨は観測されてなく,積雪浸透モデル が大雨時にも適用可能かは不明 積雪表面融雪(mm/h) 10 降雨+融雪量(mm/hr) 土壌供給水量(mm/hr) 積雪底面流出(mm/h) 土壌供給水量(計算値) 土壌供給水量(実測値) 降雨+融雪 降雨+融雪 積雪底面流出(ライシメータ) 積雪底面流出(計算) (雪面に与えられる水量) 積雪内における水の流下形態 積雪内における水の流下形態(吉田,1965) 氷粒 水の流れ 流下速度: 2~5×10-3cm/s(藤野,1968) 水路流下 氷粒 氷粒 氷粒 氷粒 多量の水の流下 氷粒 少量の水の流下 積雪浸透モデル 皮膜流下 水の流れ 流下速度: 2~3cm/s (若濱,1968) 大雨時は,水路流下になるのでは?:融雪観測の結果では検証できない. ⇒ 大雨が観測された2000年 : 雨量・融雪量・土壌供給水量(流 域平均値)と流入量との対応を比較 大雨時の流入量と雨量・融雪量,土壌供 給水量の変動 90 60 4 融雪量 30 2 0 6 0 150 5 120 4 過剰に平滑化 流入量 3 60 2 土壌供給水量 (積雪浸透モデルの出力) 1 0 90 30 流入量(m3/s) 流入量 6 流入量(m3/s) 雨量 05/04_13 ⇒雨量は,直接 土壌に達するとし た方が妥当では ないか? 8 05/04_01 ※流域平均値 120 05/03_13 土壌供給水量 10 05/03_01 地表 150 05/02_13 積雪 12 05/02_01 雪面 融雪量 土壌供給水量(mm/h) 雨量 融雪量,雨量(mm/h) 豊平峡ダム,2000年5月2日~5月4日 雨量;79mm/3day 0 月/日_時 積雪浸透モデルの提案 従来法 修正法 降雨 降雨 融雪水 融雪水 雪面 浸透 積雪層 地表 土壌に供給 ↑ 水路流下/皮膜流下を判断する 条件が決められない. ↑ 十分な観測データがない. 浸透 土壌に供給 ↑ 最も簡便な方法 ↑ 大雨:遅れなし,融雪水:遅れあり ⇒流入量の再現性によって,修正法の優位性を検証. 従来法と修正法の優劣の評価 評価方法:従来法と修正法で算出される土壌供給水量を 用いて,融雪期のハイドログラフを再現し,そ の再現性によって評価する. 従来法による 土壌供給水量 修正法による 土壌供給水量 流出モデル定数の同定 流出モデル定数の同定 全融雪期間の ハイドログラフの再現 全融雪期の ハイドログラフの再現 再現性の比較 流出モデル:2段タンク型貯留関数モデル ◆1段目タンク d ⎧ p1 p2 s k q k q = + 1 11 1 12 1 ⎪ dt ⎪ ds1 = qs − q1 − f b ⎨ ⎪ fdt = ( c − 1) q 3 1 ⎪ b ⎩ ⎧⎪ p1 = 0.6, p2 = 0.4648 ⎨ −0.2648 0.24 2 = , = k c A k c k q ( ) ⎪⎩ 11 1 12 2 11 s ( ) ◆2段目タンク s2 = k21q2 + k22 dq2 ds2 , = f b − q2 dt dt 従来法 修正法 qs(土壌供給水量) 1段目タンク (表面・中間流出成分) q1 fb q(河川流量) q2 2段目タンク (地下流出成分) k21 = 0.0617c4 A0.4 , k22 = 0.4k212 s1,s2:1段目,2段目タンクの貯留高(mm),q1,q2:表面・中間流出成分,地下流出成分の流出高(mm/h), qs:土壌供給水量(mm/h),fb:1段目タンクから2段目タンクへの浸透供給量(mm/h),k11,k12,k21,k22:貯留係 数,p1,p2:貯留指数,A:流域面積(km2),qs:土壌供給水量の平均強度(mm/h). 未知定数 : c1,c2,c3,c4 →感度係数を解析的に算定し,NewtonRaphson法によって最適化. 流出モデル定数の同定結果 200 150 最適モデル定数 c1 c2 c3 05/14_19 05/14_13 05/14_07 05/14_01 05/13_19 05/13_13 05/13_07 05/13_01 05/12_19 05/12_13 05/12_07 100 50 0 方法 実測流入量 計算流入量(修正法) 計算流入量(従来法) 300 250 05/12_01 流入量 (m3/s) 350 豊平峡ダム,2000年5月12日~14日(最大出水) 月/日_時 c4 従来法 4.046 0.162 1.334 53.6 修正法 6.388 0.071 1.354 59.6 ⇒モデル定数は異なるが,一つ の事例の再現性は同じ. 従来法・修正法の再現性の比較 -従来法に比べ,修正法を用いたハイドログラフは再現性が良い. ★適切な土壌供給水量が与えられれば,一組のモデル定数で 融雪期全体のハイドログラフが再現できる. 実測流入量 再現流入量(修正法) 再現流入量(従来法) 350 豊平峡ダム,2000年 パラメータ 同定事例 250 200 150 100 月/日_時 05/20_01 05/15_01 05/10_01 05/05_01 04/30_01 0 04/25_01 50 04/20_01 流入量(m3/s) 300 流入量の再現結果(1996年,1997年) 1 土壌供給水量 1996年 200 100 0 300 1997年 0 10 20 30 土壌供給水量 (修正法) (mm/h) 6 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 1 2 0 5 計算流入量 1 0 15 20 25 30 35 3 0 10 200 20 100 30 土壌供給水量 (修正法) (mm/h) 300 実測流入量 200 1000 1996年,豊平峡ダム 300 06/10_01 05/31_01 05/21_01 05/11_01 05/01_01 04/21_01 04/11_01 0 04/01_01 流入量(m3/s) 流入量(m3/s) 豊平峡ダム(134km2) 月/日_時 流入量の再現結果(1998年,1999年) 1 土壌供給水量 300 200 10 1998年 20 100 30 0 300 1999年 10 200 20 100 土壌供給水量 (修正法) (mm/h) 0 0 30 6/10_01 5/31_01 5/21_01 5/11_01 5/01_01 4/21_01 4/11_01 0 4/01_01 流入量(m3/s) 2 0 5 計算流入量 1 0 15 20 25 30 35 3 土壌供給水量 (修正法) (mm/h) 3/s) 流入量(m ( ) 豊平峡ダム(134km2) 300 実測流入量 200 1000 1996年,豊平峡ダム 月/日_時 融雪流出モデルの他流域への適用結果 0 5 10 15 20 25 30 0 5 10 15 20 25 30 06/09_01 05/30_01 05/20_01 05/10_01 04/30_01 2000年 土壌供給水量 土壌供給水量 (修正法) (mm/h) (mm/h) :流入量(計算) 土壌供給水量 (mm/h) (修正法) (mm/h) :流入量(実測) 1997年 04/20_01 180 150 120 90 60 30 0 180 150 120 90 60 30 0 :土壌供給水量 04/10_01 流入量(m3/s) 流入量(m3/s) 定山渓ダム(104km2);1997年,2000年 解析結果 積雪浸透モデル 融雪期間の大雨に対しては,積雪層の浸 透を考慮しない方が合理的であり,その方 が,融雪期ハイドログラフの再現性が良い. 流出モデル モデル定数を固定しても,全融雪期ハイ ドログラフを良好に再現できる. 入手可能な気象予測情報 ※気象協会が配信できる主なもの 要素 メッシュサイズ 更新間隔 時間単位 備考 降水量 1km 1日2回 1時間 気象庁GPVベース・ SYNFOS 気温 〃 〃 〃 〃 降雪量 〃 〃 〃 〃 風向風速 〃 〃 〃 〃 湿度 〃 〃 〃 〃 雲量 〃 〃 〃 〃 日射量 〃 〃 〃 SYNFOS 降水量 〃 毎時 〃 降水短時間予測 ※初期時刻;毎日09時,21時(世界時00時,12時) ※GPV;Grid Point Value ※SYNFOS;気象協会独自モデル ⇒これらのデータによって, 本報告で示した融雪流出モデルを稼動させることが可能. 0 月/日_時 05/22_01 05/21_13 05/21_01 実測流入量 05/20_13 40 05/20_01 05/19_13 20 05/19_01 80 05/18_13 05/18_01 流入量(m3/s) 流入量の予測例1 2006年5月18日~22日:降雨はなく,融雪による出水 5月18日~5月22日の予測 24時間先 60 予測流入量 月/日_時 05/29_15 05/29_15 05/29_13 05/29_13 05/29_11 05/29_11 05/29_09 05/29_09 05/29_07 05/29_07 05/29_05 05/29_05 05/29_03 05/29_03 05/29_01 05/29_01 05/28_23 05/28_23 05/28_21 05/28_21 05/28_19 05/28_19 05/28_17 05/28_17 05/28_15 05/28_15 05/28_13 05/28_13 05/28_11 05/28_11 05/28_09 05/28_09 05/28_07 05/28_07 流入量(m3/s) 流入量の予測例2 2006年5月28日~29日:降雨による出水 5月28日~5月29日の予測 300 250 200 150 100 50 0 終わりに 積雪内の水の流下を加味した融雪流出モデルを 開発した. 融雪期に大雨が発生する場合,降雨を直接流出 モデルに入力することが合理的であることが分 かった. 一組の流出モデル定数に固定しても,融雪ハイド ログラフは良好に再現できることが分かった. ⇒融雪洪水予測においては,流出モデル定数を変 える必要は無い. 今後,他流域での検証,本モデルの実運用を目 指したい. 以上