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総合農試だより

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総合農試だより
宮 崎 県 総 合 農 業 試 験 場
Miyazaki Agricultural Research Institute
通算:第 170 号
発行:2015 年 3 月
総合農試だより
世界初の残留農薬オンライン分析システム
(NexeraUC:株式会社島津製作所製)
●170号の内容●
○研究速報
・原料の異なる焼酎粕濃縮液の2作連続処理によるメロンつる割れ病抑制効果の検討
・アールス系メロンにおける陽熱消毒と焼酎粕の組み合わせの効果
・宮崎オリジナル新香味茶育成評価方法の検討
・クワシロカイガラムシの節水型散水防除法
○研修報告
・ラナンキュラスに感染する3種のウイルスを同時検出できる Multiplex RT-PCR の開発
○新品種紹介
・とうがらし属:みやざき L1 台木1号
-1-
<研究速報>
宮崎県総合農試だより No.170(2015)
原料の異なる焼酎粕濃縮液の2作連続処理による
メロンつる割病抑制効果の検討
野菜部 野崎 克弘
研究のねらい
これまでの試験において、麦焼酎粕濃縮液(以下、焼酎粕濃縮液)は高温、低温のどちらでもメ
ロンのつる割病に対して同等の抑制効果を発揮することが確認されました。
今回の試験では焼酎粕濃縮液の原料の違い、および 2 作連続施用がつる割病の抑制効果に与える
影響について検討を実施しました。
なお、本研究は 2009~2010 年にかけての結果ですが、特許出願等との関連からこのタイミングで
の発表となりました。
研究の成果
1.初期生育は 1 作目、2 作目とも CP テープ区に比べ各焼酎粕濃縮液処理区が抑制される傾向
があり、無処理区は明らかに生育が劣っていました(データ略)。
2.収穫時の生育は各焼酎粕濃縮液処理区とも CP テープ区とほぼ同等の生育を示しました
(データ略)。
3.処理による果実の大きさや品質に差はありませんでした(データ略)。
4.1作目のつる割病の抑制効果は、CP テープ区に対し芋焼酎粕区が同程度で、次いで蕎麦焼酎
粕区が高く、麦焼酎粕区と麦焼酎粕+堆肥区が最も抑制効果が高くなりました(第 1 表)。
5.2 作目のつる割病の抑制効果は、CP テープ区に対し全ての焼酎粕区が高かったですが、特に、
麦焼酎粕区と麦焼酎粕+堆肥区が最も高くなりました(第 2 表)。
発病指数は 5 段階(0:病徴無,1:維管束の褐変が 1/4 以下,2:維管束の褐変が 1/4~2/4,
3:維管束の褐変が 2/4~3/4 ,4:維管束の褐変が 3/4 以上)
発病度=Σ(階級値×発病株数)÷ (調査株数×(階級値-1))×100
-2-
<研究速報>
宮崎県総合農試だより No.170(2015)
アールス系メロンにおける
陽熱消毒と焼酎粕の組み合わせの効果
野菜部 早日 隆則
研究のねらい
これまでの試験で焼酎粕濃縮液(以下、焼酎粕)には、メロン栽培で問題となるつる割病やネコブ
センチュウといった土壌病害虫の発病を抑制する効果があることが確認されてきました。しかし、
土壌病害の菌密度が高いと考えられる圃場で、土壌消毒を行わずに焼酎粕だけでメロンの栽培を続
けると土壌病害の抑制効果が不安定になり生育不良および果実品質の低下が見られるようになりま
した。そこで今回の試験では土壌病害の抑制効果をより安定させるために、宮崎型太陽熱土壌消毒
(以下、陽熱消毒)と焼酎粕を組み合わせ、更に焼酎粕の施用時期を検討することによりメロンの生
育および果実品質に及ぼす影響を検討しました。
研究の成果
1.生育及び果実品質
陽熱消毒開始前に焼酎粕を施用した区は、初期生育が旺盛であり、つる割病の発病度も最も低
くなりました。また収穫果実も大きく、ネット等の果実外観品質も最も良くなりました(表1、
図2)。
2.焼酎粕濃縮液の処理方法
焼酎粕は、濃縮液を 1t/10a 動力噴霧機等で畦に散布し、灌水チューブで 9t/10a の水を施用して
10 倍に希釈します。この施用により 10a 当たり 20kg の窒素を施用していることになり基肥とし
て使用できます(図1)。また、これまでの流し込み処理と比べて処理時間も大幅に削減できます。
図1 陽熱消毒開始前に焼酎粕を施用する方法(手順)
処理区
果重
果高
果径
糖度
ネット
(g)
(cm)
(cm)
隔壁 中間
陽熱消毒前 焼酎粕
1,008 b
14.3 b
13.0 1.8 c
13.3 12.0
有機質
959 ab 14.1 ab 13.5 1.6 ac 12.5 12.1
陽熱消毒後 焼酎粕
941 ab 13.9 ab 13.6 1.6 ac 13.0 12.3
有機質
1,024 b
14.2 b
13.8 1.7 bc 12.9 12.0
陽熱消毒なし 焼酎粕
953 ab 13.8 ab 13.7 1.2 ab 12.3 10.9
有機質
879 a
13.6 a
13.4 1.1 a
12.1 10.7
各区とも枯死しなかった株のみを測定した平均値。糖度のみ、3個の平均
値。ネットは5(良)~1(不良)の5段階評価。同一アルファベット間に有意差なし
表1 収穫時果実品質
図2 つる割病調査
-3-
<研究速報>
宮崎県総合農試だより No.170(2015)
宮崎オリジナル新香味茶育成評価方法の検討
茶業支場 育種科 宮前 稔
研究のねらい
嗜好の多様化や緑茶消費の減少が進むなか、香味に特徴があり高付加価値化が期待できる茶品種
が求められていることから、現在、茶業支場では宮崎オリジナル新香味茶(烏龍茶)適性品種の育成
を進めています。しかしながら、新香味茶の製造には手間と時間がかかるうえ、品種育成の初期選
抜段階では多数の個体の製茶品質を評価する必要があるため、省力化と効率化が課題となっていま
す。そこで、当支場で開発された小型萎凋機を用いた効率的な新香味茶育成評価方法の検討を行い
ましたので、その概要について報告します。
研究の成果
1.2013 年度に、萎凋機内温度を 20、30℃の2水準、萎凋時間を2、4、6、13 時間の4水準を
組み合わせて処理を行いました(生葉は各区 200g程度ずつネットに入れ萎凋機へ投入)。
その結果、萎凋機内温度を 20℃で 13 時間処理した区が最も優れました。
2.2014 年度に、製茶条件(表1)で既存品種の新香味茶を製茶した結果、品種間差が確認されまし
た(図1)。殺青注1)方法については、蒸熱処理よりも釜炒り処理(100g型)が全体的に審査点数
が高い傾向でありましたが、品種間の優劣は2つの殺青処理で同じ傾向を示しました。
また、蒸熱と釜炒りの殺青処理を1時間当たりで比較すると、蒸熱処理が9倍程度効率的であ
ることが分かりました(表2)。
以上のことから、宮崎オリジナル新香味茶については、表1の条件で製茶し品質審査を実施する
ことで選抜が可能であると考えられました。また、個体数の多い初期選抜段階では蒸熱処理、個体
数が絞られた中期段階では釜炒り処理で選抜することで効率的な育成評価が行えると考えられまし
た。
注 1)殺青:加熱処理により茶葉に含まれる酵素を失活させること。
生葉条件
【摘採時期】
一・三・四番茶
【生葉熟度】
五葉期程度
(出開き)
萎凋条件
【日干萎凋(写真1)】
20~60分程度
⇓
【室内萎凋(写真2,3)】
処理時間:約13時間
(夕方~翌日朝)
処理温度:20℃
撹拌:2時間毎15分間
殺青方法
【釜炒り処理】
又は
【蒸熱処理】
⇓
【乾燥】
棚式乾燥機
2時間程度
(写真4)
処理数/1回 処理時間/1回 処理数/1時間
釜炒り処理
2サンプル
15分
8サンプル
蒸熱処理
6サンプル
5分
72サンプル
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<研究速報>
宮崎県総合農試だより No.170(2015)
クワシロカイガラムシの節水型散水防除法
茶業支場 栽培加工科 伊藤 翔
研究のねらい
難防除害虫であるクワシロカイガラムシの卵は高湿度もしくは湛水状態で死滅することが分かっ
ており、スプリンクラーを用いた時間制御間断散水による防除技術は確立されています。しかし、
この技術では雨天時や高湿度の環境下でも散水するため、無駄な散水や土壌の過湿障害が懸念され
るなどの問題がありました。そこで、枝の濡れ具合を感知するセンサー(以下枝濡れセンサー)と
散水制御装置を用いた、節水型の散水防除法の開発に取り組みました。
研究の成果
1.枝濡れセンサーを用いた散水制御装置の開発
この散水制御装置は、茶業支場と(株)日本計器鹿児島製作所との共同研究で開発し、枝に設置
したセンサーに流れる電流を計測することで、枝の濡れ程度を判断し、散水を制御する装置です。
(写真 1、2)。
2.枝濡れセンサーを用いた節水型散水防除の確立
開発した枝濡れセンサーを用いて、クワシロカイガラムシに対する節水型の散水防除試験を行
った結果、従来の時間制御式(間断散水)より散水量を約 6 割削減でき、防除効果も同等の結果
が得られました(表 1、2)。
以上のことから、枝濡れセンサーを用いた節水型散水制御によって、従来に比べて散水量を減ら
すことのできる効率的な散水防除法を確立することができました。これにより、低コストで環境に
やさしい茶の生産が可能となります。
写真 1 制御部(左)及び枝濡れセンサー部(右)
表 1 防除期間の散水量の比較
区
試験区
(センサー制御)
対照区
(時間制御)
散水量(m3/10a)
全期間
1日当
写真 2 枝濡れセンサーの設置状況
表 2 クワシロカイガラムシの雄繭発生量
指数
79.4
5.0
37
215.4
13.5
100
注1)散水期間は16日間
2)時間制御は 15分散水、20分止水の間断散水
3)時間制御の散水時間は9時~17時
区
試験区
(センサー制御)
対照区
(時間制御)
対照区
(無散水)
雄繭発生株率(%)
注1)散水終了後10日後に調査
2)各試験区 50株の達観調査
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16
16
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<研修報告>
宮崎県総合農試だより No.170(2015)
ラナンキュラスに感染する 3 種のウイルスを
同時検出できる Multiplex RT-PCR の開発
(依頼研究員研修報告) 生物環境部 大坪 早貴
近年、県内のラナンキュラス産地でウイルスによるモザイク(写真 1)やえそ症状が多発し、問題
となっています。特に、ラナンキュラス微斑モザイクウイルス(RanMMV)、トマト黄化えそウイル
ス(TSWV)、キュウリモザイクウイルス(CMV)は感染リスクが高く、感染拡大が懸念されています。
その要因として、塊根の増殖時に親株から感染し、潜在的に蔓延することが示唆されています。
そこで、ウイルスフリー苗の安定供給を実現するために必要なウイルス診断技術の開発を行うた
め、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構花き研究所(茨城県つくば市)の依頼研究員とし
て、2 ヶ月間(7/22~9/22)研修を受講しました。今回は一般的に検出感度が高いとされる診断技術
RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)を用い、さらに、より省力かつ低コストで検
定が出来るよう、RanMMV、TSWV、CMV を同時検出することの出来る Multiplex RT-PCR の開発
を試みました。
その結果、目的のウイルスを特異的に検出することが可能な Multiplex RT-PCR 手法の開発に成功
しました(写真 2)。従来のおよそ 3 分の 1 のコスト・労力で、血清学的診断法よりも高い精度で検
定をすることが可能な点からも、今回開発した技術は親株のウイルス診断法として有効であり、ラ
ナンキュラスの安定生産の一助になることを期待しています。
(写真 1)モザイク症状
M
1
2
3
4
5
6
7
N
(写真 2) 3 種のウイルスを同時検出できる MultiplexRT-PCR
M:マーカー(100bP)、1:CMV、2:RanMMV 、3:TSWV
4:CMV+RanMMV、5:RanMMV+TSWV
6:CMV+TSWV、7:CMV+RanMMV+TSWV、N:健全株
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水
<新品種紹介>
●とうがらし属:みやざき L1 台木 1 号
登録番号:第23813号
品種登録日:平成27年2月4日
宮崎県総合農試だより No.170(2015)
【主な特徴】
①「みやざき L1 台木 1 号」は、青枯病に対して抵抗性を有しています。
また、タバコモザイクウイルス(TMV)やトマトモザイクウイルス(ToMV)など、
トバモウイルス(病原型 P0)に対する抵抗性(L1)を有しています。
②本品種を台木用品種として使用することにより、安定的なピーマン生産が可能となり、
経営の安定化に寄与することが期待されます。
なお、本成果は農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業(2012-2014 年)」
(ピーマン産地の連携による線虫抵抗性選抜システムの開発と土壌病虫害複合抵抗性台木品種の
育成:22064)によって得られたものです。
種苗の入手先:(社)宮崎県バイオテクノロジー種苗増殖センター(TEL: 0985-73-0898)
青枯病菌接種30日後の様子
左:「みやざきL1台木1号」
右:罹病性系統
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<表紙の紹介>
世界初の残留農薬オンライン分析システム(NexeraUC:株式会社島津製作所製)
この分析機器は、宮崎県が有する国内トップクラスにある農産物の残留農薬や栄養・機能性成分
を分析する技術を生かして、大阪大学、島津製作所、神戸大学との共同研究により開発されたもの
です。
これまで複数の分析装置を組み合わせて 430 成分の残留農薬を 2 時間で分析してきたものを、
“NexeraUC”1台で 500 成分を 50 分で分析可能としました。
これにより分析時間の大幅な短縮や、人件費も含めた分析コストの削減などが可能となります。
また、分析技術を応用することによって、農産物の栄養機能性に着目した新しい付加価値の創出
や健康増進、医療面での利用など、多様なフードビジネス推進につなげる可能性を秘めています。
※NexeraUC は、H27.3 に開催されたアメリカの分析機器展示会において金賞を受賞しました。
総合農試だより(No.170 2015.3)
編集・発行:宮崎県総合農業試験場 企画情報室
〒880-0212 宮崎県宮崎市佐土原町下那珂 5805
TEL 0985-73-7063(企画情報室直通) FAX 0985-73-2127
e-mail [email protected]
HP http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/nosei/mae-station/
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