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オフロードエンジン向けディーゼルパーティキュレートフィルタレス

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オフロードエンジン向けディーゼルパーティキュレートフィルタレス
オフロードエンジン向けディーゼルパーティキュレートフィルタレス
システムによる PM 低減可能性
野原 徹雄 1)
*
小松 一也 2)
Potential of PM Reduction with Diesel Particulate Filter-less System for Off-Road Engine Applications
Tetsuo Nohara
Kazunari Komatsu
This paper describes that it applies to off-road engine by tandem DOCs system with metal LS-design (Longitudinal Structure
design) substrates which have special shovel on corrugated foil regularly. At first, it confirmed the advantages of DOC with
LS-design substrate (LS-DOC) for the tandem DOCs system. Then, it also confirmed that new PM reduction process
hypothesized by turbulent flow at a gap of between first LS-DOC and second LS-DOC. As a result, for difficulties of
conventional Diesel Particulate Filter system applied to off-road engine applications, it confirmed that the tandem LS-DOCs
system has the advantages compared to conventional other types of substrates in tandem DOCs systems.
KEY WORDS: Heat engine, Post treatment system, Emissions gas, Tandem DOCs, Metal substrate, PM Filter-less system (A1)
1.緒 言
ディーゼルエンジンは様々な優位性により,自動車産業のみ
より,触媒への衝突および排ガスの流れを変化させ,横拡散が
ならず,建設機械,農耕機,発電機,船舶,コージェネレーシ
可能なメタル LS 担体(LS-Design)を使用した DOC を 2 分割した
ョンシステムなどのオフロードアプリケーションでも, 燃料
DPF レスシステムについての検証を報告する.LS 担体を使用
汎用性や高熱効率,ロバスト性,ランニングコストなどから幅
したDOC でのPM 低減やPM 局所堆積防止の可能性を確認し,
広く主力動力源として使用されている.また,オフロードアプ
前段および後段触媒での各効果や隙間で起きるガス乱れも利
リケーションにも日本,欧州,米国を中心とした
用した新たな PM 低減プロセスを推定した.それらより DPF
Stage3B/Tier4Interim といわれる本格的な排ガス規制強化が
レスシステムによる,オフロードアプリケーション用ディーゼ
2011 年から順次導入されており,その他の新興国についても今
ルエンジンから排出される PM 低減の可能性を見出した.
後は同様の規制が導入される予定である.特にディーゼルエン
ジンから排出される PM(Particulate Matter)については,厳し
2.オフロードアプリケーション特有の課題
い排ガス規制が導入されているトラックやバス,乗用車などと
オフロードアプリケーションにおけるディーゼルエンジン
同様に DOC(Diesel Oxidation Catalyst)や DPF(Diesel Particulate
では,泥水の中の作業や屋外放置等の厳しい使用環境,定格点
Filter)の組み合わせによる後処理システムにて対応している.
および荷待や待機等のアイドルでの極端な高低負荷長時間使
しかし,オフロードアプリケーションでは乗用車やトラック
用,作業時の安全性確保のための空間的な制約,長い稼動年数
等とは使用環境が大きく異なり,高負荷および低負荷での連続
に対する高い耐久性や信頼性,異なる地域による燃料性状の違
長時間使用による PM や Ash(灰分)の堆積,搭載条件の制約,
い,車体メーカーからの搭載エンジンに対するスペースやコス
予期しない不適切燃料の使用,メンテナンス不可状況での長期
ト制約等の特有の問題がある.そのため,一部のオフロード用
間使用,エンジンコスト等などの問題もあり,全てのアプリケ
ディーゼルエンジンでは,下記の問題点が挙げられる:
ーションに DPF システムが適用出来ない場合もある.
 エンジンオイル消費量が多く,DPF 内の Ash 等の過堆積
本論文では,DPF システムだけでは対応が厳しいオフロード
 低負荷使用による PM や Ash 等の DOC や DPF 端面詰まり
アプリケーションに対応するために,これまでオフロードエン
 適正な使用条件でも Ash 等の端面過剰堆積
ジン向けに報告(1)した担体内のチャンネル内部にある切欠きに
 Ash その他の堆積による DPF 内清掃メンテナンスの回数過多
*2013 年 10 月 24 日受理.
 エンジン制御やデバイスも含めた後処理システムの搭載制約
2013 年 10 月 24 日自動車技術会秋季学術講演会において発表.
 多様な使用条件による DPF 内 PM 過剰堆積時の溶損可能性
1)・2)エミテック・ジャパン(株) (108-0023 東京都港区芝浦
特にオフロード用小型ディーゼルエンジンでは,DPF システム
3-13-16 シーダ芝浦 4 階)
搭載が乗用車やトラック等に比べ,困難になる場合がある.
ケーションでは,ガス流量が高くなり,SV(Space Velocity)が
3.オフロードエンジン向け DPF レスシステム
前述したように,オフロードアプリケーション用ディーゼル
大きくなるため,触媒上での吸着や拡散を繰り返すのが難しい.
エンジンにも PM の大幅低減が求められているが,従来の DPF
また図 2 にあるようなエンジンオイル由来の微小油滴や SOF
システムでは対応が厳しい一部の農耕機等ではエンジン制御
などの固液成分は,気体での触媒反応のような短かい時間での
のみ,単独 DOC のみや SCR システム等の DPF レスシステム
完全酸化反応が実際には難しい.
そのため,
それらの PM 内 SOF
も採用されている.本論文では,新たに DOC を複数使用した
および HC の低減率を DOC にて向上するには,
タンデム DOCs システムによる PM 低減の可能性を検討した.
 触媒容量を出来るだけ大きく(=SV を小さく)する
3.1. オフロードディーゼルエンジンから排出される PM 成分
 貴金属量を多くする,酸化促進可能な触媒を添加する
図 1 にディーゼルエンジンから排出される PM について考え
 セル数を多く,GSA(Geometric Surface Area)を大きくする
られている構成について示す .通常,排ガス中の PM を DOC
 ガスの流れが均一且つ遅くなる箇所に設置する
だけで低減するには,PM を構成している soot に付着している
等が有効であるが,小搭載スペース,コスト制限や厳しい条件
炭化水素も含めた,soot 周りにあるといわれる固液化した SOF
での触媒耐久性確保,定格点圧力損失制限,エンジン OEM と
(Soluble Organic Fraction)等の未燃炭化水素を酸化することが
車両 OEM が異なる,等より,乗用車やトラック以上に上記の
重要である.それらの酸化プロセスとしては,図 2 に示すよう
手法が難しく,新たな性能向上を考える必要がある.
(2)
に触媒コンバーター内チャンネル内での吸着および拡散を繰
り返すことにより,酸化反応が促進すると考えられる(2).
次に,オフロード用小型ディーゼルエンジン(56kW 以下)
の排ガス認証モード(C1 モード)で排出される PM の代表的な構
成について図 3 に示す.オフロードアプリケーションでは連続
定格使用等によるエンジンオイルや燃料消費も多くなり,未燃
のエンジンオイルや燃料由来の SOF が多くなっていると考え
Fig.3 Typical PM composition from off-road diesel engines (<56kW)
られる.そのため,乗用車やトラックから排出される PM と比
較して,DOC にて低減可能な SOF が半分近くあるケースも多
3.2. タンデム DOCs での PM 低減可能性
い.もしこれを完全に除去可能であれば PM 低減率は少なくと
上述したように,従来の DOC では PM 低減は難しいため,
も 50%は可能になる.しかし,実際の使用条件や認証モードで
排ガスのエネルギーおよびガス流れを利用し,乗用車用ガソリ
も定格点を含む高負荷での使用頻度が多いオフロードアプリ
ンエンジン向けに過去実績(3)がある,担体を複数使用したタン
デムシステムを検討してみる.図 4 にこれまで検討されてきた
ガソリンエンジン向けメタル担体によるタンデム触媒システ
ムについて示す(4)(5).タンデム触媒が開発された当時は米国や
欧州の厳しい排ガス規制に対して,触媒の性能をアシストする
ためにメタル担体を使用した様々なタンデム触媒システムが
開発された.特長としては,二分割することによる熱容量低減
による低温からの素早い触媒活性向上,担体分割により生じた
隙間でのガス乱れを利用した触媒へのガス当たり向上,中心部
(2)
Fig.1 Schematic of diesel Particulates and vapor phase compounds
に偏ったガス流れを隙間から逆流させることによる前段触媒
後部の有効利用,低熱容量のメタル担体を更に分割して,不要
な熱による貴金属劣化防止等が挙げられる.
これらの特長をオフロード用ディーゼルエンジンに適用し
た場合,PM 内の SOF および炭化水素を低減させる上で非常に
有効な手法と考えられる.ここで PM 低減を目的としたタンデ
ム DOCs システムのメリットおよびデメリットを推定してみる.
<メリット>
 触媒との接触面積向上による SOF および HC 低減可能性
 メンテナンスフリーおよびDPF に比べAsh 堆積量の大幅低減
 DOC 分割による隙間での乱流を利用した浄化性能向上
 DPF と比較して,低圧損および低コスト化が可能
(2)
Fig.2 Estimation of PM adsorption / diffusion in catalytic converter
 メタル担体+DOC 分割による貴金属の高負荷での熱劣化防止
る高い熱伝導率にて温度昇温を均一に早くする,等の設計が必
須になる.それらが十分でない場合,従来の DPF システムのよ
うな PM 強制再生制御が無いタンデム DOCs システムでは,
PM
低減率不足や,端面および内部過剰堆積による大きな圧力損失,
最悪のケースでは溶損の可能性も考えられる.
4. タンデム DOCs システム用メタル LS 担体
乗用車用ガソリンエンジンと違い,先述した課題を解決しな
い限り,オフロードディーゼルエンジン用タンデム DOCs シス
テムは成立する事が難しい.そのため,これまで報告(1)してい
る担体内部に加工を施したメタル LS 担体を用いて,
(4) (5)
Fig.4 Several patents of tandem catalyst for gasoline engines
① 端面詰まり防止を考慮した,性能を保持しつつ,出来るだ
け低セル化および薄箔化が可能か
<デメリット>
 PM 全除去は厳しいため,エンジンアウトの PM 低減も必要
② 不均一なガス流れや PM 局所堆積を改善し,PM を含む排
ガスと触媒の接触頻度を向上させ,広範囲にて分散可能か
 固体酸化反応のため,通常の DOC より大きい容量(=GSA)
を検証し,タンデム DOCs システムの課題の解決および PM 浄
 気体より分子運動が小さく,触媒表面への移動方法が必要
化効率向上の可能性について検証した.
 高負荷時オイル消費による Ash 付着が GSA 増加分多くなる
4.1. 担体による触媒性能向上のアシスト手法
 高/低負荷での付着端面増加による PM / Ash 端面詰まり
 マフラ内触媒設置のため,排ガス偏流による PM 局所堆積
 将来的には PN(Particulate Number)への対応の検討
乗用車用ガソリンエンジンと異なり,オフロード用ディーゼ
触媒コンバータの性能に寄与する各パラメータについて,エ
ミッション転換効率計算としては下記の式が報告されている(6).
ln
p
cout
k
  . gas
A
k
cin
N gas R Tgas 1 
(1)

ルエンジンでは高 / 低負荷での Ash や PM の端面,および内部
Cin は触媒コンバータ前排ガス濃度[%],Cout は触媒コンバータ
堆積の問題点がある.従来の DPF システムのような PM 強制再
後排ガス濃度[%]であり,これらより,1-( Cout /Cin)=触媒浄化率
生制御を入れない状態で,オフロードアプリケーションの一部
となる.N はモル質量流量[mol/s],Pgas は排ガス圧力[Pa],R は
を模擬した耐久試験後のメタル担体を使用した DOC の端面結
一般ガス定数[J/molK],Tgas は排ガス温度[K],A は触媒コンバ
果およびその堆積プロセス推測を図 5 に示す.
開口率が大きく,
ータ内幾何学表面積[m2],k は触媒反応速度定数[m/s]とする.
箔厚さが薄いメタル担体を使用したため,かろうじて閉塞して
この式を変換し,最終的な触媒コンバータ用としての物質伝達
いないが,試験条件次第では Ash や PM がかなり堆積してしま
率 β は下記のようになる.
うことがわかる.そのため,担体のセル数やセル厚さを検討し,
ガス流れを出来る限り均一に,熱容量も小さくして,材質によ

V     channel 1 c out
ln
L
A cin
(2)
V は触媒コンバータ容量[m3],L は触媒コンバータ長さ[m],ε
は触媒コンバータ開口率[%],ωchannel はチャンネルの排ガス速
度[m/s]とする.これらの式より,物質伝達率 β を大きく出来れ
ば,低セル化による GSA が減少してもトータルでの PM 浄化
率維持が可能なことがわかる.例えば 1.4Liter の DOC(長さ
5inch, 300cpsi/5mil, GSA3.1m2 / pc., 開口率 72.3%)に排ガスが
16.7m/s で流れている時に 90%の HC(=C3H8 ベース)浄化率と
した場合,物質伝達率 β は式(2)より 0.098m/s となる.しかし計
算上では物質伝達率 β を 0.14m/s まで向上させることが出来れ
ば,GSA は 30%低減しても性能が維持出来ることがわかる.
また,物質伝達率 β は下記の式でも表される.

 

x
D1, 2  f a Rechannel   

 D1, 2

dhchannel




y




(3)
Fig.5 Hypothesis on how ashes and PM deposited on the front surface
D1,2 は排ガス 2 成分系気体での物質拡散係数[m2/s],Rechannel は
by off-road engines (At one of the special conditions)
チャンネルのレイノルズ数,ν は排ガス動粘性係数[m2/s],
dhchannel はチャンネルの水力直径[m],a, x, y は各使用条件に
4.3 ガスリグテスター による HC 浄化効率と Re 数の相関確認
よる関数用定数とする.式(3)により Rechannel の関数および
ガスリグテスターを使用し,上述した Rechannel の各パラメータ
dhchannel が物質伝達率 β へ大きく寄与することがわかる.それら
を変えた条件にて,低セルタイプ(200cpsi)による実際の HC
を担体側でパラメータ変更する場合,チャンネルの排ガス速度
浄化効率を確認した.その結果より低セルタイプ(200cpsi)で
ωchannel を速くするために担体口径をより小さくし,チャンネル
の Re 数との相関を確認し,オフロードエンジン特有の使用条
の水力直径 dhchannel を小さくするために開口率も小さくするの
件である低高温での大きなガス流量での LS 担体を使用した触
がベストである.しかし,それらの手法はオフロード用ディー
媒性能向上の可能性について検証した.
ゼルエンジンの大きな問題点である,高負荷での大きな圧力損
4.3.1. 試験装置,試験方法および試験結果
失上昇,端面詰まりや触媒反応時間の不足,偏ったガス流れに
図 7 にガスリグテスター試験装置概要を示す.試験方法とし
よる Ash や PM 過剰堆積を招いてしまう可能性がある.そのた
ては,まず工場エアをフローメーター にて流量を測定しなが
め,通常の担体を使用したタンデム DOCs システムでは,それ
ら,コンプレッサー にて各ガス流量(5~55kg/h)まで圧送する.
らの問題が更に深刻になるため,成立が困難となってしまう.
その後ヒーター にて各ガス温度(200~400℃)まで昇温した後,
4.2. メタル LS 担体 構造および特性
HC(C3H6)ガスボトル から HC ガス注入し,HC 濃度 250ppm
DOC 用担体として,セラミックおよびメタル担体が広く使
に調整後,φ40mm x L50.8mm(0.064Liter)のメタル標準担体
用されているが,メタル LS 担体は通常のメタル担体の波箔部
200cpsi およびメタル LS 担体 200/400cpsi を使用した触媒コン
を規則的に逆向きに打ち抜くことにより,切り欠き部を持って
バータ(貴金属担持量:Pt1.77g/L)上を通過させる.その触媒
いる .図 6 にメタル LS 担体および内箔詳細(平箔,波箔)
コンバータ前後の HC 濃度を FID(Flame Ionization Detector:水
について示す.この構造により下記事象を可能にする:
素炎イオン化検出器)にて検出し,その差より各担体での HC
①内部セル倍増および切り欠き部へ排ガスを直接衝突させる
浄化効率を測定した.
(1)
②担体各チャンネル内にガス乱れを発生させる
③排ガスを左右のセルにある程度,分割して流す
これらより,チャンネルの排ガス速度 ωchannel を切り欠き部で瞬
間的に速くして Rechannel を大きくし,チャンネルの水力直径
dhchannel も切り欠き部では小さくすることにより,排ガスを触媒
コンバータ内の担持触媒へ接触させる確率である物質伝達率 β
も向上させることが可能になる.また排ガス分散によるガス均
一性も向上させることにより,触媒性能へのアシストをするこ
とにより浄化効率の向上を目的としている。この特殊なメタル
LS 担体を使用することにより,タンデム DOCs システムでの
問題点である,

端面詰まり防止用に性能保持しつつ,低セルおよび薄箔化

偏ったガス流れを分散促進し,PM や Ash の局所堆積改善
について検討する.
Fig.7 Gas rig test setup and picture of experimental apparatus
メタル標準担体と LS 担体を使用した触媒コンバータによる
HC 転換効率試験結果を図 8 に示す.これまでの報告(1)でも確
認されたように,200~400℃というオフロードエンジンにて頻
繁に使用される温度域で LS 担体での HC 転換効率の優位差が
認められた.特にオフロードエンジン特有の高負荷域と近似
SV となるガス流量域では,更に差が広がっているのがわかる.
Fig.6 Metal LS-design 200/400cpsi substrate (Flat & corrugated foils)
Fig.8 Results of HC conversion efficiency (200~400℃)
チャンネルのため,担体入口のガス偏流状態が変わらずにガス
出口側まで続いているのがわかる.しかしメタル LS 担体
200/400cpsi ではガス出口側でのガス流速分布が広がっており,
今回の試験条件では 200cpsi ベースの低セル化したメタル LS
担体が標準担体 400psi に比べ面積比率で約 1.7 倍の拡散度合い
が確認された.これによりオフロードエンジン向けタンデム
DOCs システム用担体として,通常担体に比べ,PM や Ash の
局所過剰堆積による圧損上昇や溶損等の回避のための有効な
手法と考えられる.また,ガス拡散が可能になるため,触媒の
有効活用も促進され,チャンネル Rechannel の増加による物質伝
Fig.9 LS Advantage compared to Standard (based on Re)
達率 β の増加と併せて PM 低減へ大きく寄与すると推測される.
(Base cell density=200cpsi, uniformity gas flow condition)
次にこの試験条件でのメタル標準担体との HC 転換効率の差
を各担体入口チャンネル Re 数と比較した結果を図 9 に示す.
各担体入口部のセル数は同一の 200cpsi のため,各担体入口部
でのチャンネル Re は同一となる.図 9 に示すように,LS 担体
での HC 転換効率の優位差とチャンネル Re 数は比例しており,
各担体入口部でのチャンネル Re が大きくなればなる程,LS 担
体を使用した DOC は性能が向上すると考えられる.また,オ
フロードアプリケーションでの代表的な使用条件と合わせた
場合,図 9 に示すようにガス流れが均一な状態では,HC 転換
効率として 10~20%の触媒性能の向上が推測される.
4.4 入口ガス流量の制限によるガス分散効率確認
Fig.10 Image of gas distribution flow velocity test and results
搭載スペースの限られたオフロードエンジンでは,一般的
に触媒コンバータがエンジン上部のマフラー内部に統合され
4.5.LS-DOC による SOF 低減予測
るケースが多い.そのため,排ガスはかなり偏流した状態で触
これまでの結果から,メタル LS 担体を使用した DOC の物質
媒コンバータ内部へ導入され,出口側も曲がり排管による排ガ
伝達率 β を最適化することにより,
排ガス中の HC はもとより,
ス流れの不均一性を増長している.このような場所にタンデム
これまで DOC では浄化が難しいとされていた固液状態である
DOCs システムを設置した場合,更なる PM や Ash の局所過剰
PM 成分中の SOF についても低減が可能と考えられる.図 11
堆積による圧損上昇や溶損等が懸念される.それらの問題点に
に様々な出力(37~75kW)での PM 試験結果と SOF/soot 比率
ついて,メタル LS 担体の特長である,切り欠き部で直接衝突
から計算した,メタル LS 担体を使用した触媒コンバータによ
後の排ガスを左右のセルへ分割し,偏流ガスの分散可能性につ
るオフロード用ディーゼルエンジン SOF 低減率計算結果を示
LS 担体によるガス流れ
す.これらの結果より,PM 内の SOF をほぼ完全に低減する
分布改善についてはガス均一指数 UI(Uniformity Index)の改善
には,SOF 低減に有効な LS 担体を使用した DOC でもエン
率にて確認してきたが,今回はガスの分散性に焦点を当て,ど
ジン排気量とほぼ同様のサイズが必要となることがわかる.
いて確認した.これまでの報告(1)でも
の位ガス分散可能か実験により確認した.
4.4.1. 試験装置,試験方法および試験結果
試験品として,オフロードディーゼルエンジン用で使用され
ている DPF システムとして一般的な DOC のセル数である
400cpsi のメタル標準担体と低セル化の可能性を考えたメタル
LS 担体 200/400cps(共にφ98.4mm x L113mm)を使用した.工
場エアを約 50℃に加熱後,オフロードエンジンの高負荷を想定
し,約 350kg/h 定常にて担体に導入し,ガス流速分布をガス流
センサーにて測定(グリットサイズ 5mm,有効測定ポイント
293 個)した.図 10 にガス分布確認用実験方法のイメージおよ
Fig.11 Calculated SOF reduction rate by LS-DOC based on
び試験結果を示す.メタル標準担体 400cpsi は通常のガス通路
C1&NRTC actual tests
5. タンデム LS-DOCs による SOF および soot 低減可能性
これまでメタル LS 担体を使用した LS-DOC による SOF
低減可能性を検討してきた.最後にその LS-DOC を使用した
タンデム DOCs システム(LS-DOCs)について検討する.こ
れまでの LS-DOCs での PM 低減率試験結果では,図 12 に示
すように SOF が PM 成分内の半分にも拘らず,PM 低減率が
60~70%となるケースが多いことが判明した.オフロードエ
ンジン特有の高負荷を含む使用条件を鑑みた場合,下記のよ
Fig.13 Principle operation of Fuel-Borne Catalyst technology(9)
うな推測および複合内容が考えられる.
6. 結 言
<前提条件>
前段 LS-DOC で SOF を含む固液 HC を衝突・拡散により
本論文では,DPF システムだけでは対応が厳しい,オフロー
触媒への接触頻度を増加,酸化反応により soot 表面を露出.
ドアプリケーション特有な課題に対応するため,触媒コンバー
①SOF を含む HC が燃焼した際に soot 表面温度も上昇,後
タ内部の担体を特殊構造としたメタル LS 担体を使用したタン
段 LS-DOC で衝突・拡散による酸化反応温度に達する
O2+C⇒CO/CO2
(>550℃, w/several PGM >420℃)
デム DOCs システムにて検証した知見を以下に示す.
(1) これまでの試験結果より,LS-DOC での SOF や soot 上に
これらは従来の DPF 内でも起きている現象であり,SOF が
吸着した HC による PM 低減のための条件を明確にし,理
着火剤になった場合は上記温度域にて可能と考える.
論上の PM 浄化手法を提案した.
②前段 LS-DOC で排ガス中の NO を NO2 に酸化,後段
(2) DOC では低減が困難と考えられた soot についても,タン
LS-DOC で衝突・拡散により soot を酸化促進
NO2+C⇒CO/CO2 +NO
デム LS-DOCs システムによる低減プロセスを仮説し,上
(w/ Pt 280~420℃)
(7)
これらはフロースルー型 DPF の報告 にもあるような,励起
述したSOF 低減と併せたトータルPM 低減可能性を示した.
(3) タンデム DOC システムのメリット/デメリットを明確にし,
された NO2 を使用し速い酸化反応の連続再生であれば,内
部切り欠きやガス拡散による滞留時間中に可能と考える.
③触媒内のセリア(Ce)系金属が O2 を吸着,後段 LS-DOC
タンデム LS-DOCs システムによる成立可能性を示した.
今後のタンデム LS-DOCs システムでの課題を下記に示す:

実機エンジンによる,SOF/soot 各低減率の正確な実測確認
で排ガス中の NO が衝突・拡散により吸着した O2 近傍で

NO2 およびコート上 Ce 系触媒による soot 低減の内訳確認
soot を酸化促進(または吸着 O2 のみで soot と酸化反応)

タンデム LS-DOCs システムでの PN 低減確認
2NO+2C+ O2 ⇒2CO2 +N2
(w/ Pt+Ce 280~600℃)
(8)
これらは DPF 用触媒の報告 にもあるような,触媒コート内
参 考 文 献
CeO2 近傍で起きる速い酸化反応であれば,内部切り欠きや
(1) 野原徹雄,小松一也, ピーター ヒルス, ホルガー ストッ
ガス拡散による滞留時間中に可能と考える.
ク:メタル LS 担体のオフロードエンジンへの適用,自動車技術
つまり前段 LS-DOC で SOF が殆ど燃焼し,温度上昇しな
会論文集,Vol.43,No.1,pp. 63-68, (2012).
がら露出した soot が,後段 LS-DOC で衝突・拡散により触
(2) J.Johnson, S.Bagley, L.Gratz, D.Leddy, “A review of diesel
媒表面に一部がナノ粒子レベルで分解付着後,上記①~③の
particulate control technology and emissions effects”, SAE Technical
複合により酸化促進が起きるのではないかと考える.特に③
Paper 940233, (1994)
の Ce 系触媒による酸化反応は,過去に図 13 のような FBC
(3) S.Pelters, F.W.Kaiser, W.Maus, “The Development and
(Fuel-Borne Catalyst)での報告(9)もあるように soot との接触
Application of Metal Supported Catalyst for Porsche’s 911 Carrera4”
頻度が上がるような条件では③の反応は非常に速いため,有
SAE Technical Paper890488, (1989)
効な低減方法と考えられる.
(4)トヨタ自動車,タンデム型メタル担体触媒,特開平 6-99076
(5) 三菱自動車工業,排ガス浄化装置,特開 2008-14271
(6)Hans D. Baehr, Karl Stephan: Heat and mass transfer; 2nd edition,
Springer Lehrbuch,1996, p. 242-246
(7) 大河原誠治, 辻慎二, 井上三樹男, 板津俊郎, 野原徹雄, 小
松一也:フロ-スル-型メタルフィルタにおける煤のトラップお
よび連続酸化,自動車技術会論文集,Vol.37,No.2,pp. 61-96, (2006).
(8)日本セラミックス協会:触媒材料,日刊工業出版, 2007,P62-65
(9) T. Seguelong, Fuel-Borne Catalysts for Diesel Particulate Filter
Fig.12 Hypothesis on how PM reduced in tandem LS-DOCs system
Regeneration, AVECC2001 (2001)
Fly UP