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タイ特集(PDF/991KB)
発行 / 国際協力銀行 総務部広報課 TEL03-5218-3101 国際協力銀行ニューズレター 海 外 経 済 協 力 業 務 の 情 報 誌 バンコク市街を走るサムロ(三輪車)のタクシー(タイ) 2 • Features photo: SEKAI BUNKA PHOTO No. 2 2000 ・持続可能な経済をめざして 【対談】タイ大蔵省副事務次官+国際協力銀行バンコク首席駐在員 ・タイ:経済回復への道のり 【インタビュー】世界銀行バンコク事務所 シヴァクマール所長 ・読者からの声 長崎大学経済学部 津曲俊英教授 ODA 民間モニター(タイ班) 岡公子さん 8 • Projects ・有償資金協力調査(SAF)――最近の事例から 12 • Topics ・ソフト・パワーとしての開発援助――「有識者調査」に参加して 青山学院大学経済学部助教授 深川由起子 ・大阪ワン・ワールド・フェスティバル 2000 ・大阪支店の活動概要 16 • Country Report ・ 「ボスニア・ヘルツェゴビナから帰国して」 開発業務部企画課副参事役 森睦也 18 • Overview 20 • Q&A/Information F E A T U R E S 持続可能な経済をめざして ――タイ大蔵省副事務次官 ソンマイ・ファシー氏に聞く 1997 年 7 月初めのタイ・バーツの変動相場制への移行と為替の急落を発端に発生したアジアの 通貨危機。その年の 10 月から大蔵省財政政策局局長に就任したソンマイ・ファシー氏(現 大蔵省 副事務次官)は、最も困難な時期のタイの経済運営に優れた手腕を発揮し、タイ国内のみならず国 際的にも高い評価を受けた。今回、本行バンコク駐在員事務所首席駐在員森本裕二が、危機から の回復の過程と日本からの支援活動について話を聞いた。 1999 年末には、通貨危機からの回復を確信 した。一方、タイの現地通貨であるバーツは 1984 年以 森本 来、実質的に米ドルにペッグさせてきた結果、過大評価さ 最初に、タイが通貨危機に陥った理由をお聞かせ ください。 れ輸出競争力が失われてきていました。特に 1996 年に は、輸出の急激な落ち込みに伴い、経常収支の赤字が大 ソンマイ なぜ、タイが最初に通貨危機に陥ったかという 幅に拡大してきました。こうしてバーツ売り圧力が高まる と、海外から民間資金の積極的な導入を図った結果、過剰 なか、変動相場制へと移行し、バーツが急落してしまった 流動性が発生し、いわゆるバブル経済が進行していたこ のです。その後、この通貨危機はマレーシア、インドネシ とがあげられます。基盤が脆弱な金融機関を通して、時に ア、そして韓国などのアジア諸国に波及しました。 は担保もなく、加熱した投資が不動産を中心に行われま 森本 そうですね、アジア通貨危機はタイから生まれた 手に負えない赤ん坊でしたね。それでは、その通貨危機 からの回復への過程についておうかがいします。 ソンマイ 通貨危機への対策として最初に手をつけなけ ればいけなかったのは、タイ政府による経済運営に対する 信頼を取り戻すことでした。これはタイ国民だけではな く、海外の債権者に対する信頼回復も含まれます。外貨 準備がみるみる減っていくなかで、国際通貨基金(IMF) 、 世界銀行、アジア開発銀行(ADB) 、そして国際協力銀行 からの 40 億ドルの緊急支援を受けたわけです。IMF の 助言を受けて、経済構造改革を推し進めた結果、1999 年 4 月になってはじめて回復の兆しが本物となり、年末 には、米国ドルベースでの貿易収支が 10 カ月連続して 黒字を保ち、経済回復を確信することができました。 農村が失業者の受け皿に 森本 世銀のような国際機関は、通貨危機が金融セクタ ーばかりでなく、社会的弱者に与える影響を非常に懸念 しています。世銀のレポートでは、タイはこの影響に関し タイ大蔵省副事務次官 ソンマイ・ファシー てうまく対処できたと述べられていますが、この件に関 してどのようなご意見をお持ちですか? 2 ディベロップメント & コオペレーション No. 2 ソンマイ タイはもともと農業を経済基盤として発展し てきた国で、農村が緩衝材の役割を果たしたため、通貨 危機による社会的弱者への影響は恐れていたより大きく なかったと思います。バンコクなどの都市部の失業者が 増大したため、都市部から農村部に戻り、職を求める人 が急増しました。たとえば、バンコクで働いていた人々 が、通貨危機の影響で失業し、田舎の親元へ帰って、また 家族と暮らすということが起こったのです。失業中の期 間も農家を手伝いながら、食べるには事欠かないので、 危機の影響をもろに受けることはありませんでした。農 村では魚を取り、米を食べて生活ができるのです。です から、農村部が吸収できる限り、短期的には失業者への 影響は緩和されていたのです。ところが富裕層は値上が りを期待して不動産に積極的に投資をしていましたので、 バブルがはじけて大打撃を受けました。また、金融機関 や大手企業に勤める中間層と言われる人たちのなかに は、早期退職を余儀なくされた人たちも大勢いました。 今後の課題 森本 タイのそのような経済構造が危機のバッファーの 役割を果たしていたのですね。この意味で、農村部の雇 バンコク駐在員事務所首席駐在員 森本裕二 用拡大のため、労働集約的なインフラ整備事業や小規模 他方では淘汰される金融機関も多く出てくるわけで、ま の貸付け事業を実施したのは貧困層への影響を最小化す だ構造改革の手を休めることはできません。さらに、21 ることに役立ったと思います。タイ経済は、韓国に続いて 世紀に向かい、金融機関はこれからはますますグローバ めざましい回復を見せていますが、今後の解決すべき問 ル化が不可欠となっています。しかし、一方でグローバル 題としてはどんなことがあるでしょうか? 化を受け入れながらも、再びアジア通貨危機を味わうよ うなことにならないよう注意を喚起すべきです。これは ソンマイ 金融セクターは、韓国やマレーシアと違って 私の考えばかりではなく、私どもの国王の考えでもあり タイでは同族経営が多く、しかも一つの銀行が複数のファ ます。この持続可能な経済社会の発展に関して、通貨危 イナンスカンパニーを持っていたりしたため、それらが連 機以降、国王自身が 2 度もテレビで国民に向かって話し 鎖して破綻してしまいました。預金者に対しては、破綻し ています。これは先進国のまねをするのではなく、自国 た金融機関の代わりに、金融機関開発基金(Financial の身の丈に合った、階段を一段ずつ登るように地道な成 Institute for Development Fund: FIDF)が肩代わり 長をめざすという考え方です。 して保証をしています。金融機関がこの政府への債務を いかに早く返済できるかは、今後の景気回復の度合いに 森本 大きく左右されます。また、多額の不良債権(non per- ことではありませんか? 国王が一般大衆に話し掛けることはめったにない forming loan)に関しては、政府の支援のもとに資本の 注入、増強を行い、処理を迅速に進めていくことが今後 ソンマイ の大きな課題となってきます。1998 年 8 月に IMF と合 危機発生後に国民に対して国家の進むべき道についての 意した趣意書に基づいて、大蔵省は緊急支援策として 姿勢を明確に示したのです。この国王自身による国民へ 3,000 億バーツを資本増強のために準備しました。この の呼びかけは大変重要な出来事だったと思います。 たしかに非常にめずらしいことですが、通貨 金融機関への資本増強支援は 2000 年 12 月で第一段階 を終了しますので、今年の終わりには、金融機関の財務 社会的弱者への支援拡充を期待 状況が著しく改善されると期待しています。当然ながら 森本 私自身地方へ出かけますと、農民たちがさまざま Development & Cooperation No. 2 3 と思います。労働集約的な基礎インフラ工事などで、雇 用創出と基礎インフラの整備があの危機のなかで可能と なりました。また、 「新宮澤構想」に基づく追加支援で実施 された「経済復興・社会セクター・プログラム」はソーシャ ル・セーフティー・ネット拡充、すなわち貧困層、社会的弱 者への支援を目的としたものであり、今後少なくとも数 年間はこの分野への支援の必要性がますます増えてくる と思います。 森本 最後に、国際協力銀行の果たした役割に対する評 な施設について「これは『新宮澤構想』の支援のおかげで 価をうかがえますでしょうか。本行の支援に対して特に 造ってもらいました」と言うのをよく聞きます。また、こ お気づきになった点はありますか? の支援により、多くの方々が仕事も見つかり喜んでいる という話もうかがっています。このような生の声を聞き、 ソンマイ タイでは、1960 年代から開始された円借款 私どももタイ国民のために、微力ですが役立てたという によって経済成長の基盤となる電力・ガス・道路などのイ 自負もあります。ソンマイさん、この「新宮澤構想」および ンフラストラクチャーの整備が図られました。代表的な 通貨危機における日本からの支援をどのように評価して ものをあげると、バンコク国際空港や高速道路、地下鉄 いらっしゃいますか? 事業などその後の急速な経済成長の基盤となったものば かりです。また、今回のわが国における通貨危機に際し、 経済活性化のための公共部門などへの資金投 日本からの支援活動は諸外国のなかでも際立っており、 入により、雇用機会の創出が図られ社会的影響を最小限 危機を乗り越えるための政策を支援してもらいました。 なものにできたのは特筆すべきことです。ですから、こ 国際協力銀行は世銀や ADB ともうまく協調してすばらし の機会にこのような施策を可能にしてくれた日本の支援 い功績を残してくれたと思います。改めて感謝の意を表 に対して、私個人としても感謝の気持ちを深く表したい したいと思います。 ソンマイ タイ通貨危機への円借款による支援 1997 年 7 月のタイバーツの変動相場制への移行に端を発したアジア通貨危機は、その後、国際 協力銀行の主要援助対象地域である東南アジア諸国に広がり、これらの国々に多大な影響を与え た。タイにおいてはそれまでの高度成長から一転して、97 年に− 1.8%、98 年には− 10.4%の マイナス成長(実質 GDP 成長率)を記録し、未曾有の経済危機にまで発展した。 経済危機に対して、円借款や国際金融等業務によるアジアへの融資総額は 52,502 億円(2000 年 3 月末時点)にのぼる。うち、通貨危機後アジア支援策として、タイ向けに供与された円借款は 4,053 億円(2000 年 3 月末時点)であり、そのカバーする範囲はマクロ経済の安定や経済危機下 の社会的弱者への支援、雇用創出など幅広い。以下にその特徴、重点分野、今後の課題を概観する。 ■タイ通貨危機への対応の特徴 が、98 年 7 月の緊急借款(498 億 2,500 万円)に続き、 今回のタイ支援では、前例のない経済危機に対して取ら 98 年 9 月に 23 次借款(通常分、677 億 3,700 万円) 、 れた以下の対応策が大きな特徴となっている。 9 9 年 3 月に は 新 宮 澤 構 想 に 基 づくタイ 支 援 第 1 号 ① 機動的・弾力的な対応 円借款は通常、当該国に対し年 1 回しか供与されない 4 ディベロップメント & コオペレーション No. 2 (300 億円) と 98 年度中に 3 回の円借款供与があった。 また、99 年度にも新宮澤構想に基づくタイ支援第 2 号 • Features (360 億円)と 24 次借款(1,157 億 9,000 万円)の供 もに、新規案件では即効性の高いものや既往案件の効果 与が行われ、それぞれ年間の円借款供与額が 1,475 億 との相乗化を目的とする支援を優先して実施。 6,200 万円、1,517 億 9,000 万円と史上最高を記録 ② 人材育成/産業構造転換 した。 「産業人材育成センター建設事業」など、労働集約的産 ② 雇用創出に重点 緊急借款は、失業問題に対して雇用創出につながる 「社 業から資本・技術集約型産業への転換、人材育成、および 労働生産性の向上に寄与する事業への支援を実施。また、 会投資事業(地域開発・観光基盤整備、小規模灌漑施設修 工業製品の品質向上において不可欠な国際標準に対応し 復・改良) 」 、および「既往案件内貨融資」からなる。このう た国家計量標準システムの確立に向けた「国家計量基盤 ち地域開発・観光基盤整備、 小規模灌漑施設修復・改良は、 整備事業」を実施。 それまでの経験から雇用創出効果の高い内容にデザイン ③ 環境保全 されたものであり、また後者は、経済危機による財政難か 「地域医療施設汚水処理事業」などにより、大気汚染・水 ら進捗が遅れていた事業に内貨(バーツ)で融資すること 質汚濁対策、廃棄物処理など、経済危機で手が回らなくな により、早期の効果発現と雇用創出を図ったものである。 る可能性のある、環境問題の解決に向けた事業を支援。 ③ 初めてのプログラム借款 ④ 農業/地方・農村開発 タイに対しては従来、プロジェクト借款の供与しか行わ 「社会投資事業」などにより、地域間格差や所得格差な れていなかったが、新宮澤構想のもとで、国際収支支援 どの社会的ゆがみの是正を支援するとともに、 「農業セク や財政支援によるマクロ経済の安定化や経済危機におか ター・ローン」などにより、農業の効率化と農民の生活水 れた社会的弱者に対するソーシャル・セーフティー・ネッ 準の向上を支援。 トの拡充および雇用創出などを目的に、初めてプログラ ム借款(「経済復興・社会セクター・プログラムローン」お ■今後の課題 よび「農業セクター・ローン」 )が供与された。 タイ経済には不良債権問題など解決すべき課題も残され ④ 他ドナーとの協調 ているが、今後は危機対応から中長期的課題に重点がシ 社会投資事業は、世界銀行、国連開発計画(UNDP)な フトしていく。このため、従来からの支援の中心であった どとの協調融資であり、経済復興・社会セクター・プログ 経済基盤の整備に加え、今後は経済構造調整下における ラムローンは、国際通貨基金(IMF)による緊縮経済政策 ソーシャル・セーフティー・ネットの拡充や雇用創出などの から、公共投資拡大への政策転換を世銀と協調して支援 社会セクター支援をはじめ、人材育成、環境保全、農業/ するもの。また、農業セクター・ローンは、アジア開発銀 地方・農村開発が重要性を増すことが考えられる。したが 行(ADB) との協調融資により、都市部からの帰農者の急 って、国際協力事業団(JICA)や国際機関との連携を深め 増や出稼ぎなどの農外所得の減少など、経済危機の影響 ながら、有効性の高い案件の形成にさらに力を傾けてい を大きく受けている農業セクターの生産力・輸出力を向 く必要がある。また、第 2 メコン国際橋のような地域間プ 上させるための構造改革を支援するものである。 ロジェクトにも積極的に取り組んでいく予定である。 最後に、事業実施上の課題として、今回行ったような既 ■支援の重点項目―― 危機対応から中長期的目標の支援へ 往案件の実施促進による早期の事業効果に加え、案件の 発掘・形成体制の一層の強化、および特別円借款などを タイにおける今回の経済危機の原因は、不動産バブルの 通じたわが国の経験・知見を活かした「顔の見える援助」 発生など金融政策上の問題とともに、80 年代後半から の実現にも取り組んでいく予定である。 90 年代半ばまでの高度経済成長期に、産業構造の転換 が十分に行われていなかったことに求められる。したが って、本行は先に述べた危機対応に加えて、円借款を通 じて以下のような中長期的観点からの支援も実施した。 ① 民間投資の基盤整備 民間資金を導入するための投資環境整備、特にインフ ラ整備については、 「バンコク地下鉄建設事業」など既往 案件の完成による早期の経済効果と雇用創出を図るとと Development & Cooperation No. 2 5 タイ:経済回復への道のり 世界銀行バンコク事務所 ジャヤサンカール・シヴァクマール所長 (世界銀行タイ・カントリーダイレクター) 当初公約を上回る緊急融資を実行 ンフォーマル・ソーシャル・セーフティー・ネット」というもの 世界銀行グループは、タイに対し 1950 年から支援を開始、 が存在していたことである。タイの農村部では古くから村単 現在までに約 130 のプロジェクトに対し総額約 80 億ドルの 位で非政府組織としての共同体組織が存在しており、この共 融資を行ってきている。1997 年 7 月にタイで通貨危機が 同体組織が農村部の人々を助けていた。従来、余裕のある村 発生して以来、世銀はこれまで約 21 億ドルの融資を承諾し の人々がこの組織に相当額の寄付を行い、困っている人々を た。21 億ドルの大部分を占める 17.5 億ドルは構造調整借 援助していたわけである。たとえば、この地方組織を通じて 款であり、その内訳は金融機関再建ローン(3.5 億ドル) 、経 エイズ患者の病院へ行くための交通費とか貧しい家庭の子 済・金融調整ローン(4 億ドル)、第 2 次経済・金融調整ロー 供の教科書代を支援している。通貨危機の時には、寄付金が ン(6 億ドル) 、公共セクター改革ローン(4 億ドル)の 4 ロー 減り、他方では困窮している人々が増え、このシステムでの ンである。この構造調整借款の金額は、IMF を中心に世銀や 資金不足が生じた。そこで、世銀では NGO の協力のもと、 アジア開発銀行(ADB)および日本など主要国が参加する国 この地域組織へ資金提供を行うこととし、困窮した人々に直 際的な支援の枠組みのなかで当初世銀がタイ向けの緊急支 接資金が回るようにした。これはタイ政府自身も望んだ支援 援として公約した 15 億ドルを上回るものであった。構造調 形態であり、私たちのやり方は非常に有効であったと確信し 整借款は受入国の政策改革の進展に応じて供与されるもの ている。タイにおいては公的社会保障はこのインフォーマ であるが、タイ政府はわれわれが考えていたよりも迅速かつ ル・ソーシャル・セーフティー・ネットを補完・強化する形で整 効率的に政策改革を行ったと言える。世界銀行はこれらの 備されるべきものと考えている。 支援を通じて、銀行、企業セクター改革、および通貨危機の タイ政府としての今後の課題としては、特に中小企業を含 社会的弱者への影響の緩和などに深く関与してきた。また、 む企業セクターの改革を図ることが最も喫緊と思われる。 国際協力銀行との協調融資で実施した社会投資プロジェクト 過剰生産能力、過剰借入に対しては、抜本的な改革が必要と は小規模インフラ事業の実施による雇用拡大を実現し、タイ 言える。銀行セクターについては資本増強により健全化を における危機の社会的影響緩和に多大なる寄与があったと 図り、再び危機前と同様に貸付け業務が行えるようにする必 自負している。 要がある。また、タイ企業が技術力をつけ競争優位に立てる 構造にしなければならない。最後に社会的側面への配慮で 回復の道筋 ある。この観点から地方部の開発を促進する必要がある。 タイ経済は最悪期をすでに脱したと言えよう。予想以上に早 い回復を見せた理由としてまず挙げられるのは、タイ政府に ベストパートナーとしての国際協力銀行への期待 は、優秀なエコノミストや官僚、テクノクラートがそろい、支 今回の通貨危機に際して日本政府が「新宮澤構想」を進める 援側の助言を充分にかみくだき、消化して、自国の実態に即 なかで、世銀としては国際協力銀行という非常にすばらしい したものにしてきたことである。また、タイでは絶大な影響 パートナーを得たことを喜んでいる。日本は今までにタイへ 力を持つ国王が、助け合いと倹約を国民に強く呼びかけた の援助で最も実績があり、国際協力銀行との協力関係は世銀 ことも特筆される。しかしながら、政府は現状に甘んじては にとっても非常に心強かった。協調を進めるなかで特に人と いけない。企業、銀行改革は今後も一層進める必要があり、 人とのつながり、信頼関係が極めて重要であると痛感した。 また、社会的側面を見れば失業率も高いままである。これか 事業実施面に強い国際協力銀行と特に政策面を重視する世 らも引き続きタイ政府は経済刺激策を講ずる必要があるだ 銀は互いに最適なパートナーとなったと言える。今後、タイ ろう。今後、年率 4 ∼ 5%の高いペースで成長を続けたとし に限らず世界中で、このような良好な関係を築けることを切 ても、消費が通貨危機以前まで回復するには 2002 年まで に願っている。 かかると予測されている。国内経済を活性化させる施策を 取ると同時に、雇用創出を図ることが望まれる。 通貨危機の社会的影響に関してであるが、タイにおいてユ ニークであったのは、公的な社会保障システムではない「イ 1 ディベロップメント & コオペレーション No. 2 • Features 総合的観点からタイへの援助を考える 長崎大学経済学部 津曲俊英教授に聞く 津曲教授の担当する国際協力機構論のゼミでは、毎年、 た タイ で の 3 年生が日本のアジアへの援助の現場を視察する研修旅 見聞から、 行を行っており、平成 11 年度は今年 1 月、8 日間の日程 学生たちも でタイへの研修旅行が実施され、現地のさまざまな機関 「社会全体を やプロジェクトの現場を訪れた。訪問先のなかでも 10 とら え た イ 数名の参加者全員が感動したのが、新宮澤構想に基づく ンフラ整備」 国際協力銀行が供与した「経済復興・社会セクター・プロ ないし「マス グラム・ローン」が適用された村への訪問だったという。 タープラン」 たとえば、あるタイのそば売りのおばあさんは、この「ミ バンコクのバンスサムラン村を訪れた学生たち ヤザワマネー」による村の基金から借り入れて購入した の重要性に 気 づ き 、い 中古の電動製麺機のおかげで 1 日の売上を大きく伸ばし ろいろなタイプの援助の必要性を知ったという。さらに、 ていた。またある人は日用雑貨を売る店を開いたり、経 一国への援助が多くの国や国際機関によって行われてい 済危機によって立ち行かなくなった建設業に変えて、ビ る事実にも目を向けさせるため、UNDP のバンコク事務 ニール袋の再利用のための設備を購入するなど、日本円 所訪問など多国間援助について学ぶ機会も盛り込まれ でそれぞれ 1 ∼ 2 万円ほどの融資が人々の暮らしに大き た。これは教授が、途上国への援助が最大限の効果をあ く役立っていたのである。そのほか、バンコクで建設中 げるには、受入国の調整能力が重要だと考えているため の地下鉄やチャオプラヤ川にかかる 16 の橋の大半が円 でもある。 借款によることを知って、学生たちは日本の貢献を誇り 津曲教授は、今回の研修後、タイが「早く元気になって に思い、 「愛国者になって」帰国した参加者もいたという。 欲しい」と切に願っている。日本の若者たちに対しては、 また教授は、草の根無償支援や技術協力についても研 「何でも、まず自分の目で見ることですね。そして、何の 修に取り入れることで、学生が途上国への援助を「多面的 ためにやるのか考えて行動してほしい」とメッセージを に見て、総合的な観点から考える」よう心がけた。こうし 送った。 タイ援助に携わる日本人の姿に感銘 ODA 民間モニター(タイ班) 岡公子さんに聞く 岡さんは、九州・沖縄地区 8 県からの各 1 名で構成され る」ことを知った。福岡では空港まで地下鉄で行ける便 た「平成 11 年度 ODA 民間モニター(タイ班)」の一員。 利さを知っていることもあり、円借款で建設が進められ 今年 1 月、1 週間の日程で日本のタイ援助の現場を視察 ている地下鉄がより多くの人々に利用され、交通渋滞緩 した。今回が第 1 回目であるこの制度への応募の動機は、 和と環境汚染の改善に寄与することを願っている。また、 仏像などタイにもともと関心が強かったからで、3 年ほ 違う日に訪れたスラムでは、草の根活動など、タイ援助に ど前から民間人によるタイの子供への里親制度に加わ 携わる日本人の姿に大きな感銘を受けた。 り、教育資金などをサポートしているほど。タイへは今回 岡さんにとって印象が強かったのは、NGO による「エ で 2 度目だが、観光で楽しいだけだった前回と違い、貧 イズ患者コミュニティーケア計画」 (草の根無償資金協力) 富の差の大きさなども見えてきた。 「いい意味でショック だった。エイズ・薬物・売春など、日本では身近に感じら の連続で、ものすごく勉強になりました。今後はより広い れなかったが、国の豊かさなどの事情によって現れ方が 視野からものを見られると思う」と述べ、周りの人たちに 違うものの、世界中の人々にとっての問題であることを ODA 民間モニターへの応募を勧めているという。 改めて認識。生死や日々の生活に直接かかわる援助だけ 岡さんは、日系企業が進出しているレムチャバン東部 に鮮烈で、こうした NGO に大使館の判断で決定できる 臨海工業団地で、輸出による外貨獲得や雇用創出によっ ODA からの資金提供など、 「足の早い援助」の実現を願っ て、 「円借款が危機に見舞われたタイ経済を底上げしてい ている。 Development & Cooperation No. 2 7 PROJECTS 有償資金協力促進調査 (Special Assistance Facility: SAF) 国際協力銀行は、プロジェクトサイクル全体のなかで、必要に応じて専門家の雇用・派遣による有 償資金協力促進調査(SAF)を行うことで、円借款の適切かつ効果的・効率的な実施に努めている。 今号ではこの SAF の調査業務に関し、最近の事例を基にその目的と効果について紹介する。 ―有償資金協力促進調査(SAF)それぞれの役割― 援助効果促進調査 SAPS 1 準 備 案件実施支援調査 SAPI 6 完成・事後評価 監理 プロジェクトサイクル 5 実 施 2 要 請 案件形成促進調査 SAPROF 3 検討・審査 交換公文と 借款契約 4 調達実施支援調査 案件形成促進調査(Special Assistance for Project Formation: SAPROF) 援助効果促進調査(Special Assistance for Project Sustainability: SAPS) 開発途上国における開発プロジェクトの形成には、経済、 開発途上国の開発プロジェクトの中には、事業完成後の運 財務、組織開発、環境・社会配慮など、多様な専門能力が必 営・維持管理の段階において何らかの改善措置が必要とな 要であるが、資金や技術などの制約から途上国自身の力で っても、種々の制約から原因の究明やその結果を踏まえた 十分な事業計画の形成作業を行うのが困難なことがある。 対応策が取れない場合がある。SAPS は、このような場合 SAPROF は、そうした場合に開発途上国から円借款の要 に事業効果を持続させ、あるいは一層高めていく上で支障 請または打診があった事業について、円借款対象事業とし となる問題を調査し、具体的な改善・解決策を提案するた て採り上げ可能となるようプロジェクト形成を支援するた めの調査である。 (1986 年度より実施) めの調査である。 (1988 年度より実施) 案件実施支援調査(Special Assistance for Project Implementation: SAPI) 調達実施支援調査(Special Assistance for Procurement Management) 特別円借款が対象とするプロジェクトにおいて、公正・透明 開発途上国での開発プロジェクトの中には、事業の準備段 かつ、迅速な調達手続きの実施を図るため、入札書類の作 階で想定していた前提条件の変化等により当初計画通りに 成 、入 札 評 価 等 を 支 援 する た め に 必 要 な 調 査 で あ る 。 は進捗しないことがある。SAPI は、このような場合に事業 の達成、円滑な実施を図るために、現況を詳細に調査・分 析し、必要な改善・解決策を提案するための調査である。 (1992 年度より実施) 8 ディベロップメント & コオペレーション No. 2 (1999 年度より実施) ケース1 SAPROF チュニジア「地方給水事業」 もう一つの項目は住民の意向を確認し、女性への配慮を行 いながら、最も適切な施設・機材を選定し配置すること。参 加型開発を実現するため、調査団は候補サイトでマッピング 手法を含む PRA(Participatory Rural Appraisal)調査を 事業の存続を左右する住民参加、 WID 配慮をサポート それにかかわる生活について住民に地図を描いてもらいな SAPROF 調査団長/コーエイ総合研究所 がら、住民と上水とのかかわりについて確認し、そのニーズ 取締役プロジェクト部長 田井稔三 を汲み取っていくもの。興味深いことに、男性住民は井戸の 行い、住民の意向を確認した。マッピング手法とは、井戸と 位置さえも正確に地図に示すことができなかったが、日常水 汲みをしている女性住民は極めて細かく描写し、抱えている 調査の目的と概要――安全な飲料水の確保のために チュニジア地方給水事業は、安全な上水道の供給が十分にな されていないチュニジア地方部約 84 カ所で給水を行うため に必要な機材の調達、施設の建設を行うものである。 国際協力銀行はチュニジアで上水供給の案件をすでに何件 問題点を具体的に指摘した。調査団は、こうした住民からの 聞き取りをもとに、各サイトでのニーズをまとめていった。 また、チュニジアはイスラム教の国である。住民への聞き 取り調査も男性と女性が一緒になることはほとんどない。 も支援しており、世銀や仏 AFD、独 KfW なども同様にこの分 仮に男性と一緒になった場合、女性は遠慮して発言を控える 野を支援していることからみても、このセクターの必要性、緊 傾向があった。調査団は、男性と女性とを別々に集めて聞き 急性が高いことを否定する人はいない。 取りをするなど、その文化的な背景に配慮しながら調査を進 しかし、チュニジア側が円借款要請の基礎として作成した める必要があった。 フィージビリティー調査は、円借款対象の候補地の選定基準が あいまいであることに加え、施設が完成した後の維持管理の 根幹である受益者組合(Association d'Intere ^t Collectif: AIC)の形成、料金設定などの情報が不足していた。必要性、 緊急性の高い事業対象地の選定と事業の持続性(サステナビ 東南アジアの経験とサステナビリティー 上水施設の完成後の運営維持管理は受益者組合(AIC)によ ってなされることになっている。チュニジアに完成した上水 リティー)の確認なしには国際協力銀行は審査を進めることは 施設サイトの約 8 割ですでに AIC が組織されている。 しかし、 できない。追加的な調査のため、SAPROF 調査が実施され 調査団は、完成後の案件のなかにおいて、組織はあるものの、 ることとなった。 行政、AIC の責任分担が明確でないために維持管理が十分 田井調査団長は、参加型開発、上水道、財務・会計などの分 野で日本、セネガル、フィリピンの専門家からなる多国籍の調 査団を構成し、現地での調査を開始した。 にされていない例も目にした。チュニジア政府に対しては、 他の東南アジアでの経験も例にあげながら、いかに AIC を 生きた組織とするかを提言した。始めは AIC を活用するこ との重要性を認めようとしなかったチュニジア政府の姿勢が 参加型開発と WID 配慮 変わったのも、この調査の効果の一つだと自負している。 調査は大きく二つの項目からなる。最初の項目は候補サイト を選定すること。調査団は、①女性の水汲み労働の厳しいと ころ (井戸とコミュニティーが離れているところ) 、②現在の 上水の質が悪いところなど具体的な選択基準を設け、全国 に分散する候補サイトをまわり、事業候補地を選定した。 他ドナーと相手国との懸け橋 この SAPROF 調査結果に世銀や独 KfW も大いに興味を示 し、意見交換を行った。施設建設費の回収の在り方について は、基本的に住民に 100%負担させるべきとする世銀と、 建設費は政府が負担し維持管理は受益者が行うというチュニ ジア政府との間の溝は大きい。調査団は住民の支払い能力 を独自に計算し、実際には世銀方式とチュニジア方式の中間 に住民の支払い能力はあると進言した。 上水道施設というハードを支援するだけでなく、施設整備 の優先度の決め方、住民の意向の確認方法、女性への配慮の 在り方、料金設定、こうしたソフト面について、調査結果をも とに途上国政府へ具体的にインプットできる SAPROF とい う調査業務は、相手国にとって非常に意義のあるツールであ チュニジアの給水施設 り、今後、これらに対するニーズはますます高まるだろう。 Development & Cooperation No. 2 9 ケース 2 SAPI 中国「環境案件」 手法』 『進捗報告書の作成』 『完了報告書の作成』および『環境 改善効果の検証』について、中国語で手引きを作成し各都市 でのセミナーで配布。どのセミナーにも数十名の関係者が 出席し、具体的な説明と質疑応答が行われた。工程管理手法 環境改善への認識が向上 ――「顔の見える 援助」としての SAPI SAPI 調査団長/日本工営株式会社 コンサルタント国際事業本部環境 技術室室長 小柳清嗣(左) 、 環境専門家/同社担当課長 李健(右) は未導入の事業主体が多く、事業の遅れの原因ともなってい たが、今回の SAPI により多くの事業主体が工程監理の必要 性を認識。また、報告書の書き方などの具体的指導によって、 環境案件のより円滑な進捗を促進することができた。このほ か、環境改善の検証に用いる『環境サマリーシート』の配布な どきめ細かな指導によって、事業主体の環境改善への認識も 高まり、調査団はこれならプロジェクトが流れていくという 調査の目的と概要――環境改善事業の実施を支援 手ごたえを得て帰国した。 国際協力銀行は、地球規模問題(グローバル・イシュー)の一つ 調査を行った各都市の深刻な大気汚染に対し、中国政府は である環境改善案件に対する援助に力を注いでおり、中国に 環境問題に真剣に取り組む姿勢を示しており、排出基準・期 おいても多くの環境案件を支援している。本調査は、1996 ∼ 98 年の 3 年度にわたって中国に供与された円借款の環境 対策事業の実施促進を目的として、各実施機関の案件監理体 制のレビューと環境モニタリングの指導などを行ったもの。 調査対象となったのは、中国各地の 6 都市における計 52 事業で、事業内容は電気、製鉄、ゴム、化学、セメントなどの 限付き対策の指導を守らない小規模な郷鎮企業などは閉鎖 に追い込まれることもある。こうしたなかで、都市ガス供給 事業や熱供給事業により地域全体の大気環境は着実に改善 しており、円借款による環境事業の実施は環境改善に大きな 効果をあげている。 工場からの廃棄物処理、排水・排気処理設備および都市ガス、 熱供給施設の建設・拡充を図るもの。調査は 2 回に分けて行 「顔の見える援助」としての SAPI われ、現況調査のための第 1 次が 98 年 11 ∼ 12 月、現況改 環境改善事業を実施する地方・国有企業等を 52 カ所回って 善のための提言・指導の第 2 次は 99 年 1 ∼ 2 月に実施され みると、中国国内の複雑な手続きのためにこの事業が日本の た。調査団は、プロジェクト監理専門家と、環境汚染対策専門 家で構成。調査対象事業が広大な地域に点在しているため 2 チームに分けて行われ、小柳氏と李氏のチームは蘭州とフフ ホト、包頭の 3 市の調査を担当した。 第 1 次の現地調査は、1 日 1 事業というハードスケジュー 支援によって実施されていると認識していないということも 少なからずあった。今回の SAPI は円借款手続きの理解を高 め、工程監理や環境改善効果検証の必要性を伝えられたと いう点で大きな効果があったといえよう。また私たちが日本 ル。調査を効率的に進めるため、質問票を事前に作成し、事 から来て調査を実施したことによって『顔の見える援助』に 業実施主体(大部分が国有企業)に送付。その質問票をもとに も資することができたと思う。また、中国政府は環境改善に 調査を行った。この調査の重点は、借款手続きなども含めた 意欲的で、新しい技術を貪欲に取り入れようとしており、日 実施機関の案件監理体制や、環境改善およびモニタリングの 本の技術・ノウハウを提供できる余地は大きいであろう。 実施体制にあった。 円借款手続きの円滑な進捗と環境改善への 認識向上を確信 「環境案件」は中国に対する初めての環境円借款のため、実施 機関はその手続きに不慣れであり、ディスバースメント (貸付 実行) も円滑に進んでいなかったが、その背景には、借入れの 最初の窓口となる中央政府から市、さらに各サブプロジェクト の事業主体へ、という国内手続きの流れの複雑さがある。調 査団は、市の窓口や事業主体に問題点を指摘し、助言を行っ た。環境改善対策のモニタリングについては、各事業主体に はその体制がなく、事業主体によっては環境保護局の観測所 のモニタリングを受けているところと無いところがあった。 こうした調査結果を踏まえ、2 回目の訪問では、 『工程管理 10 ディベロップメント & コオペレーション No. 2 蘭州市の都市ガス供給事業の調査 ケース 3 SAPS ベトナム「国道 5 号線改良事業(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ) 」 設面では、子供たちがガードレールをまたいで渡らないため の歩道橋の早急な設置をはじめ、国道の上にかかる横断道 路や村・畑の間をつなぐ道路の整備、交通量およびスピード を測定する装置の充実などを提言した。 交通安全ルールの普及に日本の 知見を活かす SAPS 調査団長/オーバーシーズ・プロジェクト・ マネージメント・コンサルタンツ(OPMAC) 株式会社代表取締役社長 豊岡弘昌 現地では、運輸省・警察などの交通関係当局をはじめ、セ ミナーを受講した子供たちや一般の人々も協力的で、新聞 やテレビが大きく報じるなど、非常に好意的だった。 日本の知見を活かせる SAPS 調査の目的と概要――道路の安全性を確保するために ベトナム「国道 5 号線改良事業」は、首都ハノイからハイフォン 市に至る主要幹線である国道 5 号線を対象に、既存道路の改 修と車線拡幅を行うものであり、1996 年 3 月に着工して以 来 4 年間以上に及ぶ事業が今年の 5 月には完成の予定だ。こ の事業によって、国道 5 号線は片側 2 車線(一部 3 車線)計 4 車線となり、制限速度 80km/h の自動車用道路として高速道 路と同等な性能を備えるようになった。 これまで多くの道路案件にかかわってきたが、交通安全ルー ルの普及を目的とするのは今回が初めてであった。今回の ように交通量、インタビュー、技術面にわたる交通安全を主 眼とした包括的調査は、世銀や ADB などでもあまり類例が ないのではないだろうか。この経験をもとに、今後の類似案 件に活かすための留意事項について、国際協力銀行内でセ ミナーも行った。 今回の調査では、調査団に交通心理学を専門とし、交通安 しかし、ベトナム、特にこの事業の行われたベトナム北部で 全教育に造詣の深い専門家がいたため、日本で蓄積された は、こうした高規格道路は珍しいため、重軽車両の入り交じっ 知見を活かすことで、ベトナムには今までなかったソフトを た交通事情や、交通安全にかかわる認識不足を主な原因とし 提供できた。 て事故が起こっている。1999 年、豊岡団長を始めとする交 現地に版を残してきたパンフレットの利用も含め、交通安全 通計画専門家、交通安全施設専門家、交通安全教育・啓蒙活動 に向けた今回の提言内容が継続的に実施されることを願って の専門家からなる調査団が編成され、国道 5 号線での交通事 やまない。SAPS は必要に応じて、問題に対し短期間で臨機 故の低減に向けて、安全施設や教育・啓蒙活動などソフト面の 応変に対応できる手段であり、その有効な活用が望まれる。 調査が行われた。 交通安全意識の現状と対策 現地では「片側 2 車線」という認識を持たずに、完成当初は 「片側 1 車線の道路が 2 本できた」と勘違いしたドライバー が道路を逆走することもあった。そのほか、 「農村地帯で家 と畑の間を通る国道をトラクターやコンバインが横断する」 「そうした通行のためガードレールや中央分離帯を壊したり、 横断しやすいよう分離帯の端に土嚢を置く」 「ガードレールを またいで国道を渡る」 「 オートバイへの 6 人乗りや横幅の広 い荷物の積載」 「夜間にハイビームで走行する車の多さ」など 危険な実例が目に付いた。このように、交通規則は法律とし て制定されてはいても、一般の人々には十分に知られてお 国道 5 号線の交通安全を主眼とした調査が行われた らず、交通規則への認識が低いというのが現状である。また、 今まで自動車や高速で走れる道路が少なかったため、人々 が感覚的に車のスピードに慣れていないための事故もある。 こうした現状に対して、調査団は 4 種類のわかりやすいベ トナム語のパンフレットを対象者別に作成し、日本の民間進 出企業の協力も得て国道 5 号線沿いの小学校などで開催し た交通安全キャンペーンなどで配布した。キャンペーンはこ れを教材に現地の婦人警官などを講師として行われた。施 Development & Cooperation No. 2 11 T ト ピ ッ ク ス O P 国 際 協 力 銀 行 I C S 有 識 者 調 査 に 参 加 し て ソフト・パワーとしての開発援助 ――ベトナム・中国の現場を見て 青山学院大学経済学部助教授 深川由起子 ■ ベトナムや中国の人々の厳しい生活 ■ ビジュアルを駆使して、政府開発援助 環境 の実態を公開せよ 「ウーン、 あのドブが溢れて広がるねぇ…。 膨大な政府開発援助が本当に役に立っ 厳しい世界だなぁ」。 「こんなんじゃあ、 ているのか、近年、さまざまな角度から やっぱり最初はインフラづくりしかない 議論が行われ、さまざまな制度改善が図 ですよね」。大学の経済開発論の時間、 られるようになってきたことは喜ばしい。 ベトナムや中国の援助現場を撮ったビデ 財政赤字の深刻化や財政投融資の見直 オを見せると、学生たちは素直な反応を し議論のなかで、援助に対する世論の形 見せる。1980 年前後に生まれた彼ら 成はますます重要になって行くといえよ は実感としての「貧しさ」を全く知らない。反面、物心つ う。こうした環境が建設的であるためには、たとえばイン いた頃にはバブルも崩壊し、今や就職難に直面。日本の フラ中心の援助に対する議論・批判が観念的・抽象的に 経済力に対する妙な優越感や傲慢さはなく、環境問題に 行われる以前に、実態に関する具体的で正確な情報が広 は親の世代以上に強い関心を示す。しかもアルバイトで 報されるべきであろう。とりわけ直感的に貧しさというも 簡単に海外旅行に行け、日々インターネットに接する彼 のを理解できない層が増大していることを考慮すると、ビ らにとって世界の出来事は身近だ。茶髪や厚底君たちに ジュアルな情報の提供はますます必要になるといえよう。 とって、今なお途上国の大多数の人々がかくも劣悪な生 成功案件だけの広報はプロパガンダ視され顧みられない 活環境で生活しているという現実は突きつけられればそ 可能性がある。失敗案件についても何故失敗したのか、 れなりに衝撃的なようだ。 その分析と対処措置も公開されるべきであろう。 一方、ビデオを解説している私にとっても久々にベト また、単に物理的に援助の効果が取り沙汰されるので ナムや中国で垣間見た現実は鮮烈なものであった。ここ はなく、ソフトの面も含めた総合的な議論が行われるこ 3 年、仕事と言えば明けても暮れても東アジア通貨金融 とが必要であろう。日本の援助がこれまでも自立や自助 危機への対応であった。しかし、考えてみれば民間資金 努力を強調してきている以上、その「効果」にはそれぞれ の急激な引き上げによって起きた同危機で傷ついたのは の案件が現地の運営能力育成にどれほど貢献したか、が 例外的に成功した途上国である。投資の対象となりにく 問われるべきである。実際にベトナムや中国を回ってみ い国や地域の人々の生活は世界を沸かす IT 革命のなか ると、援助案件の構想・実施までの過程で、地方政府など にあっても殆ど変わっていない。ベトナムのほこりっぽい とのやりとりがかなり多くなされているのがわかる。援 道端にうずくまる病人は学生たちがドブと称した川の氾 助される側には発言しにくいことも依然としてあるので 濫に、砂漠化が進む中国内陸部の農民たちは水の確保に あろう。しかし、政府ばかりではなく、このところ注目さ 相変わらず苦しんでいる。援助による上下水道や治水で れるようになったコミュニティの参加を含めて援助され やっと生存が確保され、橋や道路によって移動の自由が る側の能力強化の成果を納税者に実感させる努力が必要 与えられて何とか生計が成り立っている人々が多いこと であるのも事実だ。中国・北京での上水道処理施設では は厳しい現実なのであった。 その後のメンテナンスにあたり、東京都の水道局技術者 たちが手弁当で来日して協力を続けてきたという。ここ 12 ディベロップメント & コオペレーション No. 2 TOPICS 増大する交通量に対応するため、建設が進むベトナムの国道 5 号線 (1998 年 5 月) 中国・北京の上水道処理施設を見学 では案件の成果ばかりでなく、日本人らしいきまじめさ ■ 途上国への人材派遣は、当該国だけでなく派遣者に や緻密さから多くを学んだとして、人的交流の側面が高 もプラスをもたらす く評価されていたのが印象的であった。 近年では、開発行政や農業・土木、中小企業指導など、途 上国需要の多い分野で中核となって活躍する開発人材の ■ 景観に配慮した文化的・美的な面での援助を待望する 育成が進められている。しかし、途上国需要は実に多様 最後に、文化的・美的な面で印象を残す援助があるので であり、たとえば景観デザイナーといったように、あまり はないかと思われる。ベトナムでの港湾や道路を見た折、 途上国に縁のない人々がいわゆる開発人材以外の視点か 泥色に濁った河の上にかかる銀色の橋はいかにもモダン らアイデアを出し得る場合が存在しよう。他方、日本国 で美しかった。聞けばオーストラリアの援助でできた橋 内の労働市場は急速に流動化しつつあり、若者たちはさ である、と言う。日本国内は長年のインフラ建設で確か まざまな可能性を試すキャリア形成を望み始めている。 に便利にはなったが、現在、われわれが痛感しているよ 残念ながら財政面での制約は強化されつつあるが、人材 うに、ちぐはぐな建設が積み重ねられた結果、街の景観 面での流動化は開発に携わる人材の柔軟な供給という意 は調和を大きく欠いた醜いものとなった。援助の需要は 味ではプラスの材料を持っているともいえよう。さまざ 無限であり、生存経済にある人々にとって、もちろん無駄 まな分野の人々がある一時期ではあっても援助にかかわ な装飾にかまける余裕はないし、機能が重要である。し り、これを自らにプラスであったと認識できるような制 かし、モノが乏しく、殺風景ななかであればこそ、美しい 度・しくみの整備が日本の援助改善にもたらす影響は少 建設物が際だつ面もある。自分の街が美しくあって欲し なくないであろう。こうした多様な人材を揃え、提供でき いという要求は途上国であっても普遍的なものであろ ることが途上国をして一層、日本の豊かさを実感し、ソフ う。無駄なコストをかけなくても、わずかな工夫で機能 ト・パワーとしてのユニークな横顔を記憶してくれること プラス・アルファの付加価値をつけられる可能性がある につながるのではないだろうか。 のであれば、日本は自国で起こした過ちを途上国に持ち 込むことを避けるべきであろう。 Development & Cooperation No. 2 13 国 際 協 力 の 集 い と 交 流 ワン・ワールド・フェスティバル2000 「今、なぜ国際協力が必要なのか」 ―― 2 月 26、27 日大阪国際交流センター 国際協力の集い「ワン・ワールド・フェスティバル 2000」が、2 月 26 日と 27 日の 2 日間、 大阪国際交流センターで開催され、みぞれ交じりの寒空にもかかわらず 2 日間で 1 万人も の人が会場を訪れ、賑わった。 ワン・ワールド・フェスティバルとは? 盛り沢山のイベント 「ワン・ワールド・フェスティバル」は国際協力の大切さを NGO の活動を紹介するブースでは各国の手工芸品やグ 広く認識してもらい、国際協力活動に参加する機会を提 ッズも販売され、多くの人で賑わっていた。アジア・アフ 供しようと、1993 年から毎年開催されているイベント。 リカ・ラテンアメリカのエスニック料理屋台や、外国人留 毎年、主に関西を拠点とした国際協力に携わる NGO、政 学生らによる世界のお茶の試飲など、グルメな来場者の 府機関、自治体、企業などが参加している。昨年までの 舌を満足させるコーナーもあった。また、自分の名前を 主催者は行政の外郭団体や経済団体で構成されていた 世界の文字で書くコーナーでは、いろいろな文字を興味 が、今年からは NGO を中心として新たに実行委員会を 深く眺める子供もおり、世界の文化に目を向けるきっか 結成し、主催と企画運営にあたった。 けとなっていたようだ。この他、ペルー・チベット・フィリ ピンの民族音楽ステージなども行われ、珍しい楽器の音 今年のテーマ「今、なぜ国際協力が必要なのか」 色や独特の舞踊が訪れた人たちを楽しませていた。 21 世紀を目前とした今回のテーマは「今、なぜ国際協力 が必要なのか」 。これまでの日本の国際協力活動を振り返 国際協力銀行の紹介ブースでは… りながら、 国際協力の必要性を再認識させる内容となった。 国際協力銀行は、93 年の最初のフェスティバル以来毎年 21 世紀の国際協力を考えるシンポジウムや、国際協力へ 参加しており、今年も国際協力事業団や国連機関などに の理解を深めるために学校教育で何ができるかを討論し 交じって、政府レベルの国際協力を行う団体として単独 たパネルディスカッション、企業で働きながら国際協力のボ のブースを設けて活動紹介を行った。 ランティアとして活動している人たちのトークなどが行わ れ、聴衆もその議論や体験談に熱心に聞き入っていた。 本行のブースでは展示パネルを使用して、本行のいろ いろな業務や環境保全、社会開発、人材育成などの円借 款の例を紹介。パネルの上に用 意した円借款に関するクイズは 好評で、楽しみながら学べたとの ご感想もいただいた。年次報告 書や各種パンフレット、広報誌な ども自由に手に取れるようになっ ていたので、熱心に読み入る人 や職員に質問をする姿も見受け られた。 来場者でにぎわう国際協力銀行のブース 14 ディベロップメント & コオペレーション No. 2 TOPICS 東京日比谷の国際協力フェスティバルと並び、大阪ワ 振り返る意味で、職員にとっても貴重だ。また、アジア各 ン・ワールド・フェスティバルは本行職員と市民レベルと 国の民族衣装をまとって応待する職員の姿は、訪れられ が直接交流できる数少ない機会だ。学生、主婦、会社員、 た方にとっても本行の「顔の見える」機会になったのでは 留学生といったさまざまな人たちからの声は日常業務を なかろうか? 国 際 協 力 銀 行 の 融 資 ・ 支 援 の ご 案 内 大阪支店の活動概要 国際協力銀行大阪支店は、日本輸出入銀行大阪支店が行ってきた西日本企業の対外貿易・ 海外投資にかかわる融資・支援を継続しております。中堅・中小企業向けの融資割合は最 近拡大しており、98 年度は約 3 割となっています。また、昨年 10 月からは西日本におけ る円借款の窓口として、国際協力銀行の海外経済協力業務に関する広報活動・相談受付を 行っています。お気軽にお問い合わせください。 大阪支店の融資実績 年度 承諾額 1996 年度 1997 年度 1998 年度 333 億円 317 億円 1,461 億円 大阪支店所在地 中堅中小企業向割合 (件数ベース) 23% 25% 27% 〒 530-0004 大阪市北区堂島浜 1-4-4 アクア堂島東館 13 階 TEL :06(6346)4770(代表) 70120-579-194(関西地域のみ) FAX:06(6346)4779 大阪支店が開催する相談室等 地下鉄四ツ橋線肥後橋駅より徒歩 5 分 大阪支店では西日本各地の商工会議所・経済団体等と連 地下鉄御堂筋線淀屋橋駅より徒歩 10 分 携しながら、業務に関する相談室、本店研究所研究員等 を講師とした各種セミナー・説明会を開催しています。 〈最近の開催実績〉 年 月 内 容 1999.10 アジア経済の最近の動向 〃 韓国/中国の最近の経済 情勢について 開催地 神戸 備 考 セミナー 北九州 セミナー 1999.11 ASEAN 諸国の最近の経済情勢 広島 セミナー 2000. 1 国際協力銀行の誕生と新世紀 への展望 大阪 総裁講演 今後のわが国とアジア経済の 行方 大阪 セミナー 2000. 2 ワシントンから見た世界経済 〃 大阪 セミナー 〃 ユーロ導入から一年の欧州経済 大阪 セミナー 〃 21 世紀の環境国際協力を語る 北九州 座談会 〃 円借款と西日本コンサルタント の活用について 大阪 2000. 3 EBRD 体制移行報告書セミナー 大阪 〃 国際協力銀行の機能と企業の 海外展開支援について 津 ODA 説明会 セミナー セミナー 〃 国際協力銀行の開発金融 (途上国ツーステップローン の活用) 福岡 相談室 (ODA 説明会) 〃 政権交代後のインドネシア ∼現状と展望 神戸 相談室 〃 在阪アジア総領事等との懇談会 大阪 説明会 Development & Cooperation No. 2 15 C O カ U ン ト N リ ー T レ R ポ ー Y ト 元ボスニア・ヘルツェゴビナ上級代表事務所(OHR)経済政策アドバイザーの帰国報告 「ボスニア・ヘルツェゴビナ から帰国して」 ――開発業務部企画課森睦也副参事役に聞く 「平和な日常生活」と経験の伝えにくさ 森睦也副参事役 リカの情報もリアルタイムで入ってくる。 森氏は、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボへ ただ、セルビア側から追われたムスリム人や、ム 1998 年 12 月に赴任し、今年の 1 月末までの任務 スリム地区を追われたセルビア人は、法的には元の を終えて帰国した。同地では 1995 年まで凄惨な 家に戻る権利を保障されているのだが、 「帰ると何 内戦(ボスニア・ヘルツェゴビナ戦争)が繰り広げら をされるかわからない」恐怖から自分の家に帰るこ れただけに、帰国後会う人たちに厳しい経験をして ともできない。人々はそんな不安を忘れようと、 「せ きたと思われることも多いが、森氏はその経験を めて今この時を穏やかに過ごそうとしている」よう 「決してネガティブにとらえていない」 。ただ、同氏の に見える。 話ぶりからうかがえるのは、氏の貴重な経験を真に この国の主要民族であるムスリム人(イスラム教 理解することが、民族紛争の現実から遠い私たちに 徒)、クロアチア人(カソリック教徒)、セルビア人 は困難なことである。 (セルビア正教徒)は宗教が異なるものの、すべて南 失業率が 40%を超えていると言われ(ブラック スラブの民族として人種的にも言語の点でも大差が マーケットでの労働を除く) 、多くの人々がすること ない。それだけに、凄惨な殺し合いにまで発展した もなく、カフェで何時間もコーヒーを飲みながらお 民族間の対立は、世界中で見られる外国人や移民へ しゃべりしている。すると、知り合いが通りかかって の差別などよりはるかに根深く理解しがたい。 「なぜ おしゃべりに加わる。……このように、一般市民の この戦争が起きたのか十分には理解できない」 とは、 日常生活は、 「一見のんびりしていた」 。また、社会主 現地で 1 年余りを過ごした森氏の言葉だけになおさ 義体制の名残からか治安が良く、深夜でも安心して ら重く響く。 出歩けるし、テレビの衛星放送から西欧諸国やアメ 和平プロセス監視のための国際機関 OHR の活動 森氏は、サラエボに置かれた上級代表事務所 (Office of the High Representative: OHR) に勤務した。 OHR は、国連決議に基づいて、内戦後の「デイトン和 平合意」 ( 95 年 11 月)の民生面での和平プロセス (民族間の差別をなくし、融和を図る) の監視と総合的 な調整を目的に設立。森氏は、国際協力銀行 (当時、 海外経済協力基金) から外務省に出向し、同省から人 的貢献の一環として OHR に派遣された。 森氏は出向前に本行でボスニア・ヘルツェゴビナ 平和を取り戻したサラエボの街で散策を楽しむ市民 (1999 年 8 月、写真提供:毎日新聞社) 16 ディベロップメント & コオペレーション No. 2 を担当していたこともあり、自ら手を挙げた。赴任 R E P O R を希望したのは、 「経済の知識を活用して直接貢献し などさまざまな利益を配分、誘導することで自らの たいという思いからです。また、ふだん国を相手に 影響力を確保している。ボスニア・ヘルツェゴビナ 仕事をしているなか直面するカウンターパートたち にも選挙はあるが、現制度のもとでは政党名でしか の抱える政治的、官僚的困難と制約を、相手の懐に 投票できない。与党への対抗勢力の進出が難しいた 入ることで理解できるのでは」と考えたからという。 め、人々の間にはあきらめムードが漂っている。 旧ユーゴスラビアから分離、独立した「ボスニア・ また、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦の司法制度 ヘルツェゴビナ」は、一つの中央政府のもと、クロア を例に取ると、クロアチア人の支配的な地域では、 チア人とムスリム人による「ボスニア・ヘルツェゴビ ムスリム人は憲法で保障された権利も認められない ナ連邦」と、セルビア人による「スルプスカ共和国」 など、 「on paper( 文書上)」と「implementation という、二つの「エンティティー(政体)」から構成さ (実施)」の間に、大きな落差が厳存している。森氏 れている。これら三者の間には、中央政府と両エン は「このギャップをなくすことがわれわれの仕事で ティティーの対立、両エンティティー間の対立、さら した」と語るが、それが容易でないことは言うまで にエンティティー内での対立に加え、エンティティー もない。 間で税制などの諸制度が一致しないための問題も 和平合意そのものが、各民族が国際社会の圧力に あり、一つの国家として統合的に発展していくこと やむを得ず応じた暫定的性格のものだったという側 は現状では不可能に近い。 面を考えれば、新国家建設とこれをサポートする こうしたなかで、新国家建設に向けて各種の法律 OHR の仕事の困難さも当然だろう。こうした一筋縄 を制定していかねばならないが、すべては OHR、中 では行かない現実のなかで、森氏は多民族国家にお 央政府、両エンティティーの四者間の話し合いによっ いて人々が「新しい国を造る」 という意志を持つこと て決められる。しかし、OHR には戦勝国の総督府の の難しさを学んだ。ボスニア・ヘルツェゴビナの状況 ような絶対的権限がないため、当事者間の交渉は果 は、私たちがふだんあまり意識せずにいる 「国家」や てしなく続けられる……。さまざまな分野の専門知 T 「民族」 について、根本的な問いを投げかけている。 識と忍耐力が不可欠なこの仕事に、20 カ国以上か ら派遣されたインターナショナルスタッフが約 200 名、ローカルスタッフが 100 名ほど携わっている。 在任中のほとんどの期間、森氏はアジア(トルコを 除く)からのただ一人のメンバーであり、 「欧米のス タッフは各国のコミュニティーで情報を交換し合っ ているのに、それがないのがつらかった」という。 森氏はドイツ人、次いでアメリカ人の上司のもと で、 「銀行の民営化」を担当。特に、アメリカ人上司と は途上国の開発のあり方などについて、彼の赴任後 2 週間にわたって激論を交わしたが、誤解が解けた 後は腹を割って話し合え、 「以後は仕事がうまく行き ました」と振り返る。 各国からの同僚とソプラノサックスの 先生との交流 森氏はゴルバチョフの自伝を読んで、人間の権力欲 やさまざまな醜い側面についての描写、洞察に、ボ スニア・ヘルツェゴビナでの見聞と通じるものが多 く、共感するところが大きかったという。しかし、そ の一方で、各国からの同僚と知り合えたことは、厳 しい環境にあっただけにいっそう貴重な財産となっ ており、 「今後も E メールなどを通じて交友、情報交 換を続けていきたい」と語る。また、森氏はクロア チア人のミュージシャンから「五線譜と身振り」だけ を共通語に、初めてソプラノサックスを習った。任 務を終えて帰国する際には「涙の別れ」になるなど、 「民族」とは?「国家」とは? 一般の人々との交友も忘れられない思い出である。 森氏の周りにいた人々は、内戦での殺戮に加わった とは想像もできない人ばかりだったが、経済的権益 を握る権力者たちは、折にふれて民族対立をレトリ ックとして利用し煽り続けているという。 「コネ社会 (nepotism)」のなかで、 「 ボス」たちは就職の斡旋 Development & Cooperation No. 2 17 O V E R V I E W 国際協力銀行の海外経済協力業務の概況 借款金額および条件(2000 年 1 月から 3 月の間に承認されたもの) 国名 案件名 金額 (百万円) 金利 (%、年利) 本体 償還期間/据置期間 (年) コンサルティン 本体 グ・サービス インドネシア ソーシャル・セーフティー・ネット 71,928 1.0 調達条件 コンサルティン 本体 コンサルティン グ・サービス ―― 30/10 グ・サービス ―― 一般アンタイド ―― 調整借款 ガーナ 経済改革支援計画 5,991 1.8 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― モロッコ 地方給水事業(Ⅰ) 5,004 1.7 * 1 0.75 * 2 30/10 40/10 一般アンタイド 二国間タイド チュニジア 中国 地方給水事業 3,352 1.7 * 1 0.75 * 2 25/7 40/10 一般アンタイド 二国間タイド 総合植林事業 4,080 0.75 * 2 0.75 * 2 40/10 40/10 二国間タイド 二国間タイド 通信網整備事業(Ⅲ) 8,653 2.2 ―― 25/7 ―― 一般アンタイド ―― 本渓環境汚染対策事業(Ⅲ) 1,160 0.75 * 2 ―― 40/10 ―― 二国間タイド ―― 0.75 * 2 30/10 40/10 一般アンタイド 二国間タイド 梁平−長寿高速道路建設事業 24,000 海南 (東線) 高速道路拡張事業 河南新郷−鄭州高速道路建設事業 5,274 2.2 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― 23,491 2.2 0.75 * 2 30/10 40/10 一般アンタイド 二国間タイド 環境モデル都市事業(貴陽) 6,266 0.75 * 2 ―― 40/10 ―― 二国間タイド ―― 環境モデル都市事業(大連) 5,315 0.75 * 2 ―― 40/10 ―― 二国間タイド ―― 環境モデル都市事業(重慶) 4,412 0.75 * 2 ―― 40/10 ―― 二国間タイド ―― 蘇州市水質環境総合対策事業 6,261 0.75 * 2 ―― 40/10 ―― 二国間タイド ―― 11,256 0.75 * 2 ―― 40/10 ―― 二国間タイド ―― 1.7 * 1 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― 浙江省汚水対策事業 広西壮族自治区都市上水道整備事業 3,641 昆明市上水道整備事業 20,903 1.7 * 1 0.75 * 2 30/10 40/10 一般アンタイド 二国間タイド 成都市上水道整備事業 7,293 1.7 * 1 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― 重慶市上水道整備事業 6,244 1.7 * 1 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― 江西省都市上水道整備事業 4,147 1.7 * 1 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― 湖南省都市洪水対策事業 24,000 0.75 * 2 ―― 40/10 ―― 二国間タイド ―― 湖北省都市洪水対策事業 13,000 0.75 * 2 ―― 40/10 ―― 二国間タイド ―― 江西省都市洪水対策事業 11,000 0.75 * 2 ―― 40/10 ―― 二国間タイド ―― 8,904 2.2 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― 6,070 2.2 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― 12,719 1.8 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― 黄河三角洲農業総合開発事業 ハルビン電力網拡充事業 ベトナム 2.2 国道 10 号線改良事業(Ⅱ) 国道 18 号線改良事業(Ⅱ) 11,586 1.8 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― 紅河橋建設事業(Ⅰ) 10,000 1.8 0.75 * 2 30/10 40/10 一般アンタイド 二国間タイド ベトナムテレビ放送センター 19,548 1.8 0.75 * 2 30/10 40/10 一般アンタイド 二国間タイド 建設事業 南部沿岸無線整備事業 1,866 1.8 ―― 30/10 ―― 一般アンタイド ―― サイゴン東西ハイウェイ建設 4,255 1.8 0.75 * 2 30/10 40/10 一般アンタイド 二国間タイド 2.5 * 1 1.8 * 2 25/7 25/7 一般アンタイド 一般アンタイド 事業(Ⅰ) メキシコ バハ・カリフォルニア州上下水道 22,148 1.8 * 3 整備事業 マレーシア 全国下水処理事業 48,489 0.75 * 2 0.75 * 2 40/10 40/10 一般アンタイド 一般アンタイド クニール水力発電所増設事業 16,994 0.75 * 2 0.75 * 2 40/10 40/10 一般アンタイド 一般アンタイド * 1 通常環境案件金利 * 2 特別環境案件金利 * 3 本体分一部特別環境案件金利(下水道整備部分に対し適用) 特別円借款金額および条件 国名 ベトナム 案件名 金額 (百万円) ビン橋建設事業 ハイフォン港リハビリ事業 金利 (%、年利) 本体 償還期間/据置期間 (年) 調達条件 コンサルティン グ・サービス 監査 本体 コンサルティン グ・サービス 監査 本体 コンサルティン グ・サービス 監査 8,020 1.0 * 1 0.75 * 2 0.75 * 2 40/10 40/10 40/10 タイド 二国間 タイド 一般 アンタイド 13,287 1.0 * 1 0.75 * 2 0.75 * 2 40/10 40/10 40/10 タイド 二国間 タイド 一般 アンタイド 53,764 1.0 * 1 1.0 * 1 ―― 40/10 40/10 ―― 一般 アンタイド (第 2 期) マレーシア ポートディクソン火力 発電所リハビリ事業(Ⅱ) * 1 特別円借款金利 * 2 特別環境案件金利 (各案件の詳細情報をご希望の方は、本行ホームページ(URL: http://www.jbic.go.jp/japanese/release/index.html)をご覧ください) 融資実行、回収、投融資残高 12 月 1月 2月 3月 11 年度累計 (単位:百万円) 融資実行 回収 投融資残高 55,719 66,033 61,996 143,524 789,884 27,313 21,408 38,492 22,747 325,733 10,266,093 10,312,477 10,335,981 10,458,708 − 18 ディベロップメント & コオペレーション No. 2 (注 1)四捨五入により合計額が合わない場合がある (注 2)融資実行、回収については債務救済を除く 一般 アンタイド ―― 有償資金協力促進調査(Special Assistance Facility: SAF) 国際協力銀行は、案件発掘から完成後 のフォローアップまでのあらゆる段階に (1)案件形成促進調査(Special Assistance for Project Formation: SAPROF) (3)援助効果促進調査(Special Assistance for Project Sustainability: SAPS) おける業務を強化するとともに、開発途 SAPROF は、途上国から円借款の要請、ま SAPS は、本行が融資した案件で事業が完 上国からの多様なニーズに応え、円借款 たは要請の打診があった事業に関し、必要性 成したもののうち、事後評価やその他の調査 は認められるものの、実施に至るまでにはさ の結果、事業効果が十分に発現していないと らに事業内容の確認が必要と判断された場合 認められる案件、または今後事業効果を持続 に実施される補完的な調査。 させていく上で何らかの支障が予見される案 事業のより効率的な実施を図るべく有 償資金協力促進調査(SAF)を実施して いる。SAF は、プロジェクトサイクルに 沿って、円借款事業の案件形成、事業実 施支援、完成案件の事業効果の持続もし (2)案件実施支援調査(Special Assistance for Project Implementation: SAPI) SAPI は、本行が融資している案件で、事業 くは一層の発現を目的として本行が専 の達成・円滑な実施等が何らかの事情により 門家を雇用・派遣する調査業務であり、 困難をきたし、その対応措置が必要と判断さ 以下の 4 種類がある。 れた場合に実施される追加的な調査。 件に対し、問題点を明らかにし、具体的な改 善・解決策を提案する調査。 (4)調査実施支援調査(Special Assistance for Procurement Management) 本調査は、特別円借款によるプロジェクト の調査手続きの促進と公平性・透明性の確保 のため、コンサルタントなどを雇用して、必要 な入札書類作成・補助などを実施するもの。 2000 年 1 月中に実施契約した SAF の調査計画 調査 カテゴリー 国名 対象案件名 案件実施 支援調査 (SAPI) スリランカ コロンボ港改善 事業(Ⅰ) (Ⅱ) 調達実施 支援調査 フィリピン LRT1号線増強 事業(Ⅱ) ミンダナオ コンテナ埠頭 建設事業 調査の概要 実施予定期間 本事業は、コロンボ港において、一部雑貨バースとなっていたクイーンエリザベス埠頭を完全コンテナ化し、オ イル埠頭であった北埠頭を雑貨バース化するものである。 本調査は、北埠頭並びにジャヤコンテナターミナルを統括する効率的な新オペレーションを立案し、かつそれに 対応する新コンピューターシステムのフレームワークを検討することにより、事業効果の発現を図らんとするも のである。 本事業は、輸送力の限界に達した LRT1 号線の輸送能力を拡大増強するため、12 編成(48 両)の新車両を調達 し、また運転列車本数の増加に対応するため、信号システム等の改良を行い、既存車両に据え付ける空調設備を 調達するものである。 本調査は、速やかに事業実施を図り、経済の活性化に寄与するという特別円借款の供与趣旨から、上記の空調設 2000 年 1 月 ∼ 2000 年 3 月 備に係る事前資格審査書類および入札書類の作成について実施機関を支援することを目的とするものである。 本事業は、ミンダナオの経済発展を支援するため、タゴロアンに新しいコンテナ埠頭を建設し、必要な施設を調 達するものである。 本調査は、速やかに事業実施を図り、経済の活性化に寄与するという特別円借款の供与趣旨から、コンサルタン トの選定書類および土木工事・機材の調達ロットに係る事前資格審査書類の作成について実施機関を支援する ことを目的とするものである。 2000 年 1 月 ∼ 2000 年 3 月 2000 年 1 月 ∼ 2000 年 3 月 2000 年 2 月中に実施契約した SAF の調査計画 調査 カテゴリー 国名 対象案件名 実施予定期間 本事業は、バングラデシュ南西部 5 県(ファリドプール県、ラジバリ県、マダリプール県、ゴバルガンジ県、シャリ アトプール県)において、農道、橋・カルバート、道路脇の植樹、および村落市場等の農村インフラの整備を通し て、当該地域経済の発展を図るものである。 本調査内容は、F/S レビュー、モニタリングおよび事後評価の内容・体制の検討、事業実施体制のレビュー、村落 市場の効率的運営方法と機能の検討、ジェンダー配慮方策の検討、他ドナーの経験の活用方法の検討、NGO と の連携方策の提言、実施機関の実施能力向上のための施策の検討、今後の優先プロジェクトの提言などである。 本調査の実施に先立ち、我が国の NGO であるシャプラニール(市民による海外協力の会)に委嘱し、事業対象地 域における現地 NGO の活動状況を把握するとともに、NGO との連携方策を検討するための調査を行った。 案件形成 ペルー 地方都市上下水道 本事業は、ペルー共和国イキトスの下水道施設整備およびタクナの上下水道施設整備を行うことにより、地方都 促進調査 整備事業 市開発および衛生状態の改善に資するものである。 (SAPROF) 本調査は、同事業の案件形成を図るため、F/S のレビュー、コスト積算の見直し、経済財務分析等を行う。また、 今後円借款の要請が見込まれる他の地方 4 都市(ワンカヨ、タルマ、ハウハ、フリアカ)の優先度の高い上下水道 事業についても、実施機関の経営財務状況の確認や F/S のレビュー等を行うことにより、将来の要請に対し、迅 速・適切に対応することを目的としている。 案件実施 インド ヤムナ川流域 ヤムナ川流域に位置するデリー、ハリヤナ、ウッタルプラデシュの 3 州における 15 都市の下水道施設および非 支援調査 諸都市下水道等 下水道施設の整備等により、ヤムナ川の水質保全を図るもの。 (SAPI) 整備事業 本調査は、本事業の事業効果の発現を目的として、非下水道施設についての住民意識調査等を行うとともに、広 報活動実施体制への提言を行うもの。 案件実施 ボリビア/ 南米案件監理 ボリビア:内陸国ボリビアの太平洋へのアクセス道路を整備するため、パタカマヤ∼リオ・デサグアデーロ間 支援調査 エクアドル (ボリビア:パタカ 56km の道路改良等を行うもの。 (SAPI) マヤ・タンボケマド エクアドル:キト市、グアヤキル市およびその他地方都市の電話需要に応えるため、デジタル交換機調達・伝送 間道路改良事業、 設備整備等電話網の拡充・近代化を図るもの。 エクアドル:電気通 本調査は、本事業の事業効果の発現を目的として、事業実施体制のレビューおよび体制強化についての提言等 信網拡充事業) を行うとともに (ボリビア) 、借入人変更に係る事務手続きの補助等を行うもの(エクアドル) 。 案件実施 ベトナム ハノイ水環境改善 本事業は、ハノイ市内の排水路・河川の改修、調整池・ポンプ場の建設により、洪水による被害を軽減するととも 支援調査 事業(Ⅰ・Ⅱ) に、下水処理施設の整備による水質の改善を図るものである。 (SAPI) 本調査は、事業実施機関および関係諸機関の組織・運営面の現状把握および問題点の分析、円借款事業の案件 監理強化のための提言・指導を行い、また事業対象地の住民移転の現状把握とその問題点解決のための提言を 行うことを目的とするもの。 援助効果 インド 海上捜索救難通信 インドネシアの海上における人命の安全、および財産の損失の軽減を目的とした捜索救援活動(SAR:Search 促進調査 ネシア 網建設事業 and Rescue)を効率的に実施するために必要となる通信網の整備を行ったもの。 (SAPS) 本調査は、当該事業の現状を調査し、実施機関が直面する問題点を分析したうえで、改善策の提言を行うことに より、事業の保全の促進、事業効果の発現および持続を図ることを目的とするもの。 援助効果 タイ 円借款施設(コンク 本調査は、完成後十数年を経過し、経年劣化が懸念されるタイの道路・橋梁事業の維持管理体制を調査し、問題 促進調査 リート・鉄材構造 点の抽出および改善案を提案することを目的とするものである。 (SAPS) 物)維持管理体制 具体的には道路案件 1 件、橋梁案件 3 件、計 4 件の維持管理状況(体制、方法、結果)のレビュー、経年劣化への 対応策を含む現状の維持管理体制の評価を行い、適切な維持管理が長期にわたり持続的に実施されるよう維持 管理能力向上のための方策を検討するもの。 案件形成 促進調査 (SAPROF) バングラ デシュ 大ファリドプール 農村インフラ整備 事業 調査の概要 2000 年 2 月 ∼ 2000 年 3 月 2000 年 2 月 ∼ 2000 年 3 月 2000 年 2 月 ∼ 2000 年 3 月 2000 年 2 月 ∼ 2000 年 3 月 2000 年 2 月 ∼ 2000 年 6 月 2000 年 2 月 ∼ 2000 年 3 月 2000 年 2 月 ∼ 2000 年 3 月 Development & Cooperation No. 2 19 Q& A (社)国際建設技術協会 Q : SAF (有償資金協力促進調査)の実施にかかわる コンサルタントの選定方法はどうなっていますか? (社)建設コンサルタンツ協会 (社)海外運輸コンサルタンツ協会 A 原則としてプロポーザル方式によって選定しています。具 体的には、①対象案件の公示、②関心表明の受け付け、③ プロポーザル招聘のための説明会開催、④プロポーザル提出、⑤ プロポーザル評価、⑥契約交渉・締結、という手順になっています。 (社)海外農業開発コンサルタンツ協会 (社) 日本技術士会 (社) 日本コンサルティング・エンジニア協会 (社)海外水産コンサルタンツ協会) Q : 公示の時期と方法はどうなっていますか? Q : 関心表明の方法はどうなっていますか? A 現在のところ以下のとおりです。 (1)時期:毎月第 1 および第 3 月曜日の正午(当該日が 休日の場合は翌営業日)に公示 (2)公示方法: ①国際協力銀行本店 1 階ロビーに掲示 提供(自社ファックスにて公示情報を引き出すことが可能です) ③コンサルタント関係 8 団体に対する FAX による通知 類似調査の経験概要を記した関心表明書 * をご提出いた だきます。公示の際に案件ごとの締め切り日を明示して おりますが、およそ公示日後 7 ∼ 10 日間でご提出いただくこと となっています。 *様式の定めがありますので、詳しくはプロジェクト開発部までお問い合 わせください。 ②NTT / F ネット(ファクシミリ通信網サービス)注による情報の *詳しくはプロジェクト開発部にお問い合わせください。 A 注:NTT / F ネット、関心表明書のほか、SAF に関するご質問、お問い合わ せについては、プロジェクト開発部企画班 三竹、大野(SAPROF 担当 TEL:03-5218-9590)、または開発事業評価室監理班 森、尾崎 (SAPI、SAPS 担当 TEL:03-5218-9630) までお願いいたします。 (8 団体: (社)海外コンサルティング企業協会 I N 【刊行物のご案内】 国際協力銀行では、このたび以下の刊行 物を作成しました。 「開発途上国の経済・社会の発展に向けて ――日本の ODA・円借款プロジェクト」 本冊子は ODA・円借款の仕組みを簡潔に わかりやすく説明したポケットサイズのリ ーフレットです。内容 は「なぜ、開発援助が 必要か? 」 「日本の ODA は今」 「円借款の 概要」 「円借款のプロ セス」 「円借款プロジ ェクトの貢献事例」の 全 5 章の構成となっ ており、別紙で現行円 借款貸付条件や特別 円借款の概要を掲載 しています。 F O R M A T I いは研究者などと共同で行う調査研究の 報告などを掲載しております。毎号、国 内・国外の官公庁、各大学、研究機関、企 業などに配布するとともに、希望者にも 無 償 で 配 布 して おります。本所報 に 関 する お 問 い 合 わ せ は 、開 発 金融研究所総務 課( T E L : 0 3 5218-9720) までお願いいた します。 O N 【開発教育】 国際協力銀行では学生の方向けの勉強会 やスタディーツアーへの協力を随時行っ ております。最近の実施例は以下のとお りです。 勉強会 2/21 山口県立大学 国際文化学部 松井ゼミ 2/24 慶應義塾大学 経済学部 山口ゼミ スタディーツアー 1/4 ∼ 1/11 長崎大学 経済学部 津曲ゼミ(タイ) 2/15 ∼ 2/22 秀明大学 国際協力学部 森園ゼミ(タイ) 「JBIC リサーチペーパー」 開発金融研究所では、各テーマにおける研究成果をリサーチペーパーとして不定期に発行 しております。これまでに発行されたものは以下のとおりです。本ペーパーに関するお問い 合わせは、開発金融研究所総務課 (TEL:03-5218-9720) までお願いいたします。 1 東アジア4 カ国からみた経済成長のための課題 和・英 ―タイ、インドネシア、フィリピン、中国のエコノミストの 「開発金融研究所報」 「開発金融研究所報」は本行の開発金融研 究所における調査研究の成果を内外に紹 介するために刊行する季刊論文集です。 本所報は、 「海外直接投資」 「国際金融」 「開 発」の 3 分野を中心に所内の調査研究成 果、並びに本研究所が外部研究機関ある 提言と企業アンケートを中心として― 2 途上国実施機関の組織能力分析 和・英 ―バングラデシュ、タイ、インドネシアの事例研究― 3 ベトナム都市開発・住宅セクターの現状と課題 英(和文版は要約のみ) 4 ベトナム都市公共交通機関の改善方策 英(和文版は要約のみ) 5 インドネシア コメ流通の現状と課題 和(英文版は要約のみ) 6 中国・日本 2010 年のエネルギーバランスシミュレーション 和・英 *なお、No.1、2 の和文版については OECF 開発援助研究所リサーチペーパーとして発行しました。 〒100-8144 No.2 2000 年 4 月 20 日発行 東京都千代田区大手町 1 丁目 4 番 1 号 Tel: 03-5218-3101 総務部広報課 URL: http://www.jbic.go.jp 国際協力銀行では、本誌と国際金融等業務の情報誌 「GLOBAL EYE」 を隔月で発行しています。 本誌は再生紙を使用しています。