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次世代 VLBI 観測に関する研究(第3年次)

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次世代 VLBI 観測に関する研究(第3年次)
次世代 VLBI 観測に関する研究(第3年次)
実施期間
平成 17 年度~平成 19 年度
測地部宇宙測地課
小門
研亮
町田
守人
栗原
忍
松坂
茂
宮川
康平
岩田
和美
測地基準課
1.はじめに
測地部宇宙測地課では,次世代 VLBI 観測に関する研究の一環として,平成 17 年度から極小型アン
テナを使用した VLBI 観測に関する研究を独立行政法人情報通信研究機構(以下,「NICT」という.)
と共同で行っている.近年,高周波アンプの低雑音化や ADC の広帯域化により,1m級の小型アンテ
ナ局であっても,開口径 30m級の大型アンテナ局を相手局とすることで,高精度な測地 VLBI 観測を
行うことが可能となってきている.
極小型アンテナの VLBI システムの実現により期待されるのが,GPS 長距離比較基線場の VLBI 観測
による改測である.現在 10km の GPS 長距離比較基線場の改測は GPS によってのみ行われているため,
VLBI 観測による改測が実現すると,長さ標準に関するトレーサビリティの高度化につながると期待さ
れている.極小型アンテナの VLBI システムは,この GPS 長距離比較基線場の改測を当面の目的として
開発を進めている.可搬性の利点を生かして,将来的には全国の拠点的な地域への配備による測地網
の規正やアジア太平洋地域の地殻変動監視などの応用へつなげることができる.
2.研究内容
平成 18 年度は,次世代 VLBI システムに関して,必要なアンテナ口径の検討,フロントエンド部(受
信機)の設計,試験観測を実施し具体的な装置設計に道筋をつけることができた.平成 19 年度は,平
成 18 年度の成果を受けて以下のような研究開発を行った.
①受信機の試作,試験観測
平成 18 年度に設計したフロントエンドをもとに極小型アンテナの受信機を試作した.この試作受信
機と極小アンテナの1次放射器に採用する予定のクワッドリッジホーンアンテナ(QRHA)を試験用アン
テナ「CARAVAN2400」に搭載して,試験的な VLBI 観測を行った.
②試作機の設計,製作
極小型アンテナを用いた VLBI システム試作機の設計,製作に着手した.試作機は,GPS 長距離比較
基線場での運用を考慮して,VLBI と GPS の測位基準点間のベクトルを容易に計測することができるよ
うな仕組みや,できるだけ簡易に移動可能な構造を目指した.
③小型周波数標準の検討,試験観測
VLBI 観測を行うためには高安定な周波数標準が不可欠であり,アンテナの小型化とともに周波数標
準の小型化も大きな開発要素である.現在 VLBI 観測に一般的に使用されている水素メーザ周波数標準
器の寸法は測定器のラック1台程度であり,200kg の重量になる.一方,アンリツ株式会社が開発し
た Cs ガスセル発振器は,水素メーザ周波数標準器と比べて安定度が1桁程度劣るものの,寸法と重量
はデスクトップ PC1台程度であり,小型化という観点には十分なじむ.そこで,Cs ガスセル発振器を
周波数標準として VLBI 観測を行い,測地解に及ぼす精度評価をおこなった.
3.得られた成果
①給電アンテナ,受信機の試作,試験観測
CARAVAN2400 はカセグレン形式であったため,副鏡と給電ホーンアンテナを取外し,主鏡の一次焦
点にクワッドリッジホーンアンテナと受信機を取付けた.2007 年 12 月に CARAVAN2400 と NICT 鹿島 34
mアンテナとの間で K5/VSSP を用いてフリンジ検出を目的とした試験観測を実施した.Sバンド,X
バンドの両周波数帯でフリンジ(干渉縞)を検出することに成功した.しかし,Xバンドのフリンジ
の強度は予想されていたものよりも非常に弱く,この原因解明が課題として残っている.Sバンドに
ついては予想していたフリンジ強度と同程度のものが得られた.得られたSバンドのフリンジを図-
1に示す.
②試作機の設計,製作
クワッドリッジホーンアンテナのアンテナパタ
ーン測定を NICT 鹿島宇宙技術センター内の電波
暗室で実施した.その測定結果をもとに開口直径
1.65mのパラボラアンテナの設計をした.また,
アンテナおよび駆動装置は,分割および移動が容
易にできるような構造となるようにアンテナメー
カーと共同で設計した.アンテナおよび駆動装置
は今年度末に完成しており,平成 20 年度上半期に
試作機システム全体が完成する予定である.
図-1
③小型周波数標準の検討,試験観測
試験観測で得られたSバンドのフリンジ
鹿島 34m局と NICT 小金井 11m局の基線(基線長:約 110km)で試験観測を行った.このとき,鹿島
34m局のみ Cs ガスセル発振器を周波数標準と使用して,表-1に示す結果を得た.比較のために同じ
基線,同じ周波数設定で実施された測地 VLBI 実験の結果も表-1に示す.Cs ガスセル発振器を周波
数標準として使用した場合でも,水素メーザを使用した場合と遜色ない精度で基線長を測定できるこ
とが判った.
表-1
実施日
Cs ガスセル発振器による測地 VLBI 実験結果
観測時間
基線長
[hour]
[mm]
周波数標準
鹿島 34m 局
小金井 11m 局
007/ 6/15
24.4
09337424.1 ±1.2
水素メーザ
水素メーザ
007/ 7/19
25.9
09337422.6 ±1.3
Cs ガスセル発振器
水素メーザ
4.結論
極小型アンテナ用受信機を試作して,クワッドリッジホーンアンテナとともに CARAVAN2400 に搭載
しフリンジ検出試験を実施した.Xバンドのフリンジ強度が予測よりも小さかったもののフリンジを
得ることには成功した.また,小型の Cs ガスセル型発振器を周波数標準としての測地 VLBI 実験につ
いても,良好な結果が得られた.このことから,Cs ガスセル型発振器を VLBI 観測の周波数標準とし
て利用できることがわかった.平成 19 年度は試作機の設計製作を進め,アンテナと駆動装置が完成し
た.平成 20 年度はこれらの総合的な性能評価試験を行う予定である.
参考文献
石井敦利,市川隆一,瀧口博士,久保木裕充,関戸衛,小山泰弘,大内裕司(2007):レーザー励起
Cs ガスセル型原子発振器による測地 VLBI 実験,日本測地学会第 108 回講演会 要旨集,157-158.
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