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情報伝達の迅速化と住民への伝達方法の工夫について

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情報伝達の迅速化と住民への伝達方法の工夫について
情報伝達の迅速化と住民への伝達方法の工夫について
富山河川国道事務所調査第一課
調査第一課長
須賀正志
○水防調整係長
中西
済
1.はじめに
近年、想定を上回る豪雨により水害が多発している中で、ますます行政間の情報伝達の
迅速化、情報の共有化が重要となってきている。それは水防活動や避難勧告等に重大な意
味 を 持 つ が 、 し か し 最 終 的 な 目 的 で あ る 住 民 の 避 難 と い う 点 に お い て は 、「 河 川 の 水 位 と
そ の 時 取 る べ き 行 動 」に つ い て 、行 政 ・ 住 民 間 で 共 通 認 識 を 持 つ こ と が 非 常 に 重 要 と な る 。
富 山 河 川 国 道 事 務 所 ( 以 下 「 当 事 務 所 」 と い う 。) に お け る 従 来 の 伝 達 シ ス テ ム は 、 最
近 の 情 報 技 術 の 進 展 を 用 い れ ば 更 な る 迅 速 化 が 可 能 で あ り 、 ま た 、「 河 川 の 水 位 と そ の 時
取るべき行動」の認識についても、工夫によってより多くの人に認識してもらうことが可
能と考えられる。本稿は、それらの問題に対して行った改善手法の紹介である。
2.情報伝達の迅速化
2.1
伝達方式の変更
平成18年度末時点において、水防情報の鍵となる「水防警
本 局
(河 川情報 管理室)
報 」「 洪 水 予 警 報 」 は 、 上 位 機 関 か ら 下 位 機 関 へ の 「 FAX を 用
南 部出張 所
高 岡消防 署
牧 野出張 所
高岡出 張所
高 岡方面 団
( 19箇分 団)
小矢部出 張所
い た リ レ ー 伝 達 方 式 」 を 用 い て お り 、 FAX を 送 信 し た 後 に 電 話
高 岡市
消 防本部
通信 指令課
高岡市
消 防本部
警防課
庄 川左岸 水害予
防組 合
(高岡市 建設部 土
木維 持課)
河川情 報センタ ー
( FRI CS ) 新
潟 セン ター
国土 交通省
富 山河川 国道事務 所
高 岡市
総務部 総務課
危機 管理室
で内容を確認しあうものであった。当事務所では、1河川につ
伏 木消防 署
伏 木方面 団
( 6 箇分団)
戸 出消防 署
南 部方面 団
( 8 箇分団)
福 岡消防 署
福 岡方面 団
( 7 箇分団)
高 岡土木 セン ター
射 水消防 署
警防課
新 湊消防 署
東 部出張 所
い て 最 低 5 回 以 上 の FAX 転 送 ・ 電 話 で の 内 容 確 認 が 行 わ れ て お
庄 川右岸 水害予
防組 合
(射 水市道 路・河
川管 理課)
射 水市
総 務課
防 災係
射水市
消 防本部
( 通信 指令課 )
射 水消防 署
大 門出張 所
南 部方面 団
( 16箇分 団)
新 湊消防 署
警防課
り、その結果、最終組織に到着するまでに1時間以上を要した
南砺市 土木課
北 部方面 団
( 11箇分 団)
富山県河 川課
砺 波土木 セン ター
南 砺市総 務課
り、文字が不鮮明で判読できないという問題が発生していた。
福 野消防 署
砺波 広域圏
消防 本部
( 通信指 令室)
福 光消防 署
城 端消防 署
この問題を解決するため、まず当事務所が消防本部までの全
時間内
小 矢部川 中流水
害予防 組合
(小矢 部市建 設
課)
津 沢出張 所
小矢 部市
消防 本部
( 通信指 令課)
小矢部
土 木事務所
1 8分 団
時間外
同上(小 矢部市 企
画政 策課)
機関に対して一斉に情報を送信し、その後に内容確認の電話の
図-1 伝達方式の変更
み を リ レ ー 伝 達 方 式 で 行 う こ と と し た 。( 図 - 1 )
伝達方式の変更により、国(赤)の配信範囲は
この伝達方式の変更によって、当事務所が情報を送信する機
関数は、1河川あたり最大5機関から21機関へと増加した。
2.2
従前の黄色(5箇所)から、黄色+水色
(21箇所)へと変更 (小矢部川の場合)
灰色は消防署・消防団
送信方法の検討
増加した機関に一斉送信する方法として、
FAX
メリット
FAX 回 線 を 増 強 し て 行 う の か 、 メ ー ル を 使
用するのかを、そのメリット・デメリットを
・配信箇所数に速度が左右されない
・印刷する必要がない
・情報量により速度が左右されない
・既存の機器で対応可能
・転送を行っても劣化しない
・常時着信可能
・配信箇所数により速度が遅くなる
踏まえて比較検討した。
メール
・着信が分かりやすい
デメリット ・情報量により速度が遅くなる
表-1に示すとおり、双方のメリットはい
ずれも情報伝達の迅速化・確実性の担保にと
・着信が分かりにくい
・印刷する必要がある
(メモリーパンク)
・メールサーバーに取りに行く必要がある
・転送すると文字が潰れる
(受信間隔によっては、FAXより遅くなる)
・電源が入っていないと着信不可
(パスワード設定されている可能性あり)
って非常に重要なものであるが、デメリット
-1-
表 - 1 F A X ・ メ ー ルの メ リッ ト ・ デ メ リッ ト
については致命的なものが多い。そこで、双方のメリットを生かすとともに、デメリット
を 相 互 で 補 い 合 っ て 確 実 に 伝 達 さ れ る よ う 、 FAX と メ ー ル 両 方 を 送 信 す る こ と と し た 。
2.3
機器の変更と情報の二重化
しかし、両方送ることにより作業も二倍になるのであれば、迅速化からは遠くなる。そ
の 問 題 に つ い て 、 当 事 務 所 で は 従 前 の FAX 機 器 を 使 用 す る こ と を や め 、 パ ソ コ ン に 市 販
の 「 FAX 送 信 ソ フ ト 」 を 入 れ る こ と に よ っ て 解 決 を 図 っ た 。
「 FAX 送 信 ソ フ ト 」 と は パ ソ コ ン 上 か ら FAX を 送 信 す る も の で あ り 、 パ ソ コ ン に 繋 い
だ FAX 回 線 を 通 し て 、 デ ー タ を 直 接 相 手 の FAX に 送 る も の で あ る 。 イ メ ー ジ 的 に は 、 印
刷 を 自 室 の プ リ ン タ ー で は な く 、 相 手 の FAX で 行 う も の と 捉 え て 良 い 。 相 手 方 の 登 録 や
送信先の選択が容易であり、また紙詰まりの問題もないため、送信が非常に迅速となる。
し か し 、こ の ソ フ ト ウ ェ ア を 選 択 し た 最 大 の 理 由 は 、
「 同 じ 作 業 の 中 で FAX と メ ー ル (※ 1 )
が同時に送信できる」という点にある。すなわち、一度の作業で「情報の二重化」を行う
ことが可能なのである。
当 事 務 所 で は こ の ソ フ ト を 中 心 と し て 、 FAX
回 線 の 8 回 線 へ の 増 強 (※
2)、 決 済 印 の あ る 文 書 を
送付するためのスキャナの接続を行い、図-2の
システムを構築した。
( ※ 1 ) メ ー ル は T IF に 変 換 され て 送 信
(※2)A4一枚を16機関 に一 斉送信 した場合、 2分以 内に全機関 へ着信 。ただし 、
一時に送信 を集中 させ たり 、相手 のFAXが使用 中であると、次 第に遅れていく。
図 - 2 シ ス テム の 概 要 図
2.4
効果の検証と問題点
平成20年5月の情報伝達演習において、このシステムを用いて情報の二重化の効果を
検 証 し た 。 FAX と メ ー ル 、 ど ち ら を 使 用 す る か は 各 機 関 の 判 断 に 任 せ 、 事 後 に 調 査 し た
結果が表-2である。
表 - 2 に よ れ ば 、 大 半 の 機 関 が FAX を 選 択 し た こ と が 分 か る 。 し か し 、 こ の 結 果 を も
ってFAXがメールより迅速かつ有効であるとは言えない。各機関がメールを使用しなか
っ た 理 由 の 多 く が 「 メ ー ル は 来 た こ と に 気 付 か な い 」 で あ っ た こ と か ら 、 FAX の 視 認 性
(着信の分かりやすさ)を重視しただけとも言えるからである。特にメールをこまめに確
認する人的余裕のない機関にとっては、大きな問題である。
一方で、メールに頼らざるを得ない機関もある。唯一メールを使用した機関は富山県河
川課であるが、ここには県内河川の全ての情報が集中するた
め FAX が な か な か 届 か ず 、 必 然 的 に メ ー ル に 頼 ら ざ る を 得
ない。このような場合は、いかにメールの確認時間と印刷の
手間を少なくするかが、重要な問題となる。
以上のことから考えると、もしメールに「自動的に添付フ
Q.FAXとメール 原則的にどちらを使用したか
( 回答 28機関)
両方 5
メール 1
FAX 22
ァイルを印刷する機能」が付けば、メールはFAXと同じに
なり、逐一メールを確認する必要も印刷する手間もなくなる
-2-
表 - 2 情 報 伝達 演 習 の 結 果
ため、全機関にとって非常に有効なものとなる。そこで、その機能の検討を行った。
2.5
メール自動印刷ソフトの検討
こ の 機 能 の 導 入 に あ た っ て は 、市 販 の「 メ ー ル 自 動 印 刷 ソ フ ト 」を 利 用 す る こ と と し た 。
「メール自動印刷ソフト」とは、メール受信サーバーとメールソフトとの間に設置するフ
ィ ル タ ー の よ う な も の で あ り 、 メ ー ル の 件 名 に 、 あ ら か じ め 指 定 す る キ ー ワ ー ド (「 水 防
警 報 」「 注 意 報 」 な ど ) が 含 ま れ る 場 合 に の み 、 添 付 フ ァ イ ル を 印 刷 す る も の で あ る 。
当事務所ではそのソフトウェアに対し、着信を確実に伝えるための改良を加えた。改良
されたソフトウェアは、件名に含まれるキーワードにより次の動作を行う。
① 自 動 的 に 添 付 フ ァ イ ル ( PDF 、 TIF 、 エ ク セ ル 、 ワ ー ド 等 ) を プ リ ン ト ア ウ ト
②音声で通知(○○が発令されました)
③パソコン上の画面にて、解除するまでサイレンを鳴らし続ける(気付き忘れ防止)
現 在 、動 作 確 認 が 完 了 し た の で 、今 後 は 関 係 機 関 へ の 導 入 を 進 め て い く 予 定 と し て い る 。
2.6
FAX と メ ー ル の 二 重 化 の 必 要 性
「 メ ー ル 自 動 印 刷 ソ フ ト 」に よ り 、メ ー ル は「 情 報 量 ・ 配 信 箇 所 数 に 左 右 さ れ な い FAX 」
に な る 。 し か し 、 注 意 し な け れ ば な ら な い 点 は 、「 メ ー ル は サ ー バ ー に 読 み 込 み に 行 く ま
では受信されない」という点である。仮に自動的に読み込みに行く間隔(受信間隔)が3
0分であれば、手動で読み込みに行かない限り、最大で30分間メールが届かない可能性
が あ る 。 従 っ て 、「 メ ー ル 自 動 印 刷 ソ フ ト 」 の 機 能 を 最 大 限 生 か す た め に は 、 受 信 間 隔 が
平常時は30分であったとしても、緊急時には2~3分間隔に設定する必要がある。
迅 速 性 と い う 観 点 だ け か ら 見 れ ば 、 メ ー ル の 受 信 間 隔 を 短 く 設 定 す る こ と で FAX は 不
要 と な る 。 し か し 、 確 実 性 と い う 観 点 で は 、 残 念 な が ら メ ー ル は FAX の 代 替 と は な り 得
ない。メールはパソコンの電源が入っていないと稼働しないし、また、担当者不在により
パ ソ コ ン そ の も の を 立 ち 上 げ ら れ な い 可 能 性 も あ る か ら で あ る 。 (パ ス ワ ー ド の 問 題 )
従 っ て 、 FAX と メ ー ル 、 全 く 性 質 の 違 う も の で 双 方 を 補 う こ と が 、 情 報 伝 達 の 迅 速 性 、
情報伝達体制の確立に繋がるものと考える。
3
住民への伝達方法の工夫
3.1
見やすいカラー量水板
「行政間の情報伝達の迅速化」は水防活動や避難勧告等に重要な
意味を持つが、最終的な目的は住民の生命を守ることであり、それ
は極論を言えば円滑な避難により達成される。円滑な避難は行政側
の正確な判断、住民側の自主防災意識によってなされるが、それの
根 幹 を な す も の は 、「 河 川 の 水 位 と そ の 時 取 る べ き 行 動 」 の 認 識 で
あるため、今後はその認識を深く浸透させていく必要がある。
そこで、当事務所と富山県では歩調を合わせ、本省の案をもとに
しながら、平成19年度より「見やすいカラー量水板(以下「カラ
-3-
写真-1 見やすいカラー量水板
(小矢部川 石動水位観測所)
ー 量 水 板 」と い う 。)」の 設 置 を 積 極 的 に 進 め て き た 。( 写 真 - 1 )こ れ は 、色 調 に よ り「 そ
のとき何をすべき状態なのか」を表したものであり、行動を視覚に訴えるものである。出
水 時 に お い て は 、 行 政 、 消 防 団 ( 水 防 団 )、 住 民 は そ れ ぞ れ の 立 場 で 次 に 取 る べ き 行 動 を
認識でき、平常時においては着色が目立つことから、住民の自主防災意識の啓発に期待で
き る 。 平 成 2 0 年 度 末 ま で に 、 当 事 務 所 管 内 1 3 箇 所 ( 現 7 箇 所 )、 富 山 県 管 内 4 6 箇 所
(現17箇所)となる予定である。
3.2
光るカラー量水板
しかし、カラー量水板には、①夜間は見にくい、②近くま
で行かないと見えない、という問題点がある。そこで当事務
所 で は 、「 光 る カ ラ ー 量 水 板 」 の 設 置 を 行 っ た 。( 写 真 - 2 )
これは、カラー量水板と同色のランプを、カラー量水板の水
位に応じて回転もしくは点滅させるものである。現在は水位
観測所の局舎の上に設置し、水位変換器の数値をもってライ
トのオン/オフを判定している。光ることにより、夜間・降
雨時においても遠方から河川の状態が確認でき、水防巡視の
写真-2 光るカラー量水板
(神通川 神通大橋水位観測所)
効率化や住民の自主的避難に寄与することが期待できる。
3.3
今後の展開
現 在 は 、神 通 川 と 小 矢 部 川 の 3 カ 所 の 基 準 観 測 所 に 設 置 さ れ て い る が 、今 後 は 他 の 河 川 、
観測所への設置を行っていく予定である。また、現在は局舎上に設置しているが、今後は
当該河川で一番危険な箇所ピンポイントに設置することを検討していく。なお、オン/オ
フの判定を水位計ではなく、着水を感知するセンサーにて行えば、設置可能箇所も増える
だけでなく、より安価な設置が可能となる。ただし、平常時に自治体の広報誌を活用する
などして、カラーが示す意味などを関係機関、地域住民に伝えていくことが必要である。
4.あとがき
当 事 務 所 が 構 築 し た 情 報 伝 達 シ ス テ ム の 最 大 の 特 色 は 、 一 度 の 作 業 の 中 で FAX. ・ メ ー
ルが同時に送信できるという点であり、全く性質の違うものでの「情報の二重化」という
点である。これは水害だけでなく、地震・土砂災害にも有効であると考える。加えて、当
該システムの構成のほとんどが市販のソフトウェアを元にして行われているため、一から
システムを構築するよりずっと安価であり、かつ時代の変化に対応しやすいという特色も
あ る 。技 術 革 新 の 著 し い 現 在 に お い て は 、安 価 に 最 大 限 の 効 果 を 求 め る こ と が 重 要 で あ る 。
また、これからの水防は、行政・住民一体となって行う必要がある。そのためには「河
川の水位とその時取るべき行動」についての共通認識を持ち、いざという時には迅速に行
動する必要がある。その判断基準となるものがカラー量水板であり、光るカラー量水板で
ある。難しい説明ではなく、五感(特に視覚・聴覚)や想像力に訴えていくことが、状況
の把握、行動の迅速化に繋がるものと考える。
-4-
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