...

中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政

by user

on
Category: Documents
3

views

Report

Comments

Transcript

中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政
Kobe University Repository : Kernel
Title
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政
策(2)(Regulating Reform and Competition Policy in the
Chinese Railway Industry (2))
Author(s)
施, 海淵
Citation
六甲台論集. 法学政治学篇,62(1):39-93
Issue date
2015-09
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81009142
Create Date: 2017-03-29
39
中国の鉄道事業分野における
規制改革と競争政策(2)
施 海 淵
初めに
第一章 中国の鉄道事業分野における規制改革について
第一節 中国の鉄道事業分野における現況と規制改革の必要性
第二節 日本の鉄道改革からの示唆
第三節 新たな国務院機構改革計画について
第四節 「国務院機構改革・機能転換計画」と鉄道民営化の動き
第五節 省庁統廃合改革前回改革との共通点と相違点
第二章 中国の鉄道事業分野における規制改革と運賃について
第一節 旧中国鉄道部の解体に伴う問題点について
第二節 鉄道事業分野における規制改革と運賃の検討 (以上前号)
第三章 中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策
第一節 2015 年政府活動の「ルートマップ」における規制改革の動向
第二節 中国の鉄道事業分野における規制改革と上下分離政策の動向
第三節 鉄道事業分野における上下分離政策の原理
第四節 鉄道の上下分離政策と鉄道民営化の必要性
第五節 鉄道事業分野における連絡運輸・共通切符と独占禁止法の関係
第四章 中国の鉄道事業分野における高速鉄道の役割
第一節 中国経済の「新常態」と鉄道事業分野における高速鉄道の位置づけ
第二節 中国の鉄道事業分野における高速鉄道の進展
第五章 中国の「一ベルト、一ロード」戦略と高速鉄道
第一節 中国の「一ベルト、一ロード」戦略のあり方
第二節 中国の「一ベルト、一ロード」戦略における高速鉄道の進出 (以上本号)
40
第 62 卷 第 1 号
第三章 中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策
第一節 2015 年政府活動の「ルートマップ」における規制改革の動向
(1)
2015 年、経済の「新常態」(ニューノーマル)
を迎えた状況下、中国政府はいかなる手を
打っていくのか。第 12 期全国人民代表大会第 3 回会議で提出され審議に付された政府活動報
告はこの疑問に、実務的・全面的でプラスのエネルギーに満ちた回答を出してくれた。約 1
万 8000 字にのぼる報告から中国の 2015 年の政府活動の「ルートマップ」となる 100 の注目
ポイントを抜き出してみた。
全体的計画として、
1、「中高度成長の維持」と「中高レベル水準への前進」という二重の目標を見据え、「政策
の安定と予期の安定」と「改革の促進と構造の調整」という二重の結合を堅持し、「大衆に
(1) 2014 年 12 月 9 日から 11 日にかけて開催された中央経済政策会議において、新常態(ニューノーマ
ル)を認識し、新常態に適応し、新常態を引率することが、現在および今後の一定期間における中
国経済発展の重要な客観的法則(ロジック)であると提起された。会議の閉幕から 2 日後、習近平主
席が江蘇省を視察した際も、再度「経済発展の新常態を能動的に把握し、積極的に適応していかな
ければならない」と強調している。2015 年が、経済発展が新常態に入る重要な一年となるのは間違
いない。中央経済政策会議では、2015 年は、経済の安定成長を維持し、引き続き積極的な財政政策
と穏健な金融政策を実施することが提起されたほか、「積極的な財政政策に力を入れ、金融政策は適
度な緩和と引き締めをより重視する」ことが強調された。
経済発展の「新常態」9 大特徴は次の通りである。
(1)追随型・集中型の消費段階は基本的に終了し、個性化・多様化された消費が徐々に主流となる。
(2)インフラの相互接続と、新技術、新製品、新業界、新ビジネスモデルへの投資の機会が大量に
生まれる。
(3)中国の低コストのメリットに変化が生じ、海外からのハイレベルな導入と大規模な海外進出が
同時に発生する。
(4)新興産業、サービス業、小規模・零細企業の役割が突出。生産の小型化、スマート化、専門化
が産業組織の新たな特徴になる。
(5)高齢化が進み、農業の余剰人口が減り、生産要素の規模の原動力が弱まる。経済成長を、人的
資本の質と技術的進歩に依存するようになる。
(6)市場競争が徐々に質重視・差別化を中心とした競争に転換する。
(7)環境の許容能力が限界に達し、あるいは限界に近づき、グリーン・低炭素の循環型発展という
新モデルを推進する必要がある。
(8)経済リスクは全体的にコントロール可能であるが、ハイレバレッジとバブルを主な特徴とする
各種のリスク解消までには、まだしばらくの時間を必要とする。
(9)過剰生産能力を全面的に解消する一方で、市場メカニズムの役割を発揮することで、未来の産
業発展の方向性を模索する必要がある。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
41
よる起業、大衆による革新」と「公共製品、 公共サービスの増加」という二重の原動力を強
化することとする。
2、GDP(国内総生産)の成長率は 7 %前後とする。
3、消費者物価指数の増加幅は 3 %前後とする。
4、都市の新たな雇用を 1000 万人以上、都市の登録失業率を 4.5 %以内とする。
5、輸出入の成長率を 6 %前後とする。
6、単位 GDP 当たりの生産に必要なエネルギー消費量を 3.1 %以上引き下げる。
7、積極的な財政政策を強化し、効率を高める。今年の財政赤字は 1 兆 6200 億元(1 元は約
19.2 円)が計上され、昨年より 2700 億元増加し、赤字率は昨年の 2.1 %から 2.3 %に高まる。
8、穏健な金融政策を適切に緩和する。広義マネーサプライ(M2)の増加率は 12 %前後とし、
実施の過程では経済発展の必要に応じてこれを上回ることができるものとする。
改革開放について、
9、今年も一連の行政審査・認可事項の撤廃や移譲を進め、非行政許可の審査・認可を撤廃
し、規範的な行政審査・認可の管理制度を構築する。
10、市場参入のネガティブリストを制定し、省級政府の権限リストと責任リストを公表する。
11、全国統一の社会信用コード制度と信用情報共有交換プラットフォームを構築する。
12、政府による投資プロジェクトの審査・認可の範囲を大きく縮小し、審査・認可の権限を
移譲する。 投資プロジェクトの事前審査・認可を大幅に減らし、プロジェクト審査・認可の
オンラインでの一括処理を実施する。民間投資の市場参入を大きく緩和し、社会資本による
株式投資ファンド設立を奨励する。
13、インフラや公共事業などの分野では、政府と社会資本の協力モデルを積極的に推進する。
14、政府が価格を決める種類と項目を大きく減らし、競争の条件を備えた商品やサービスの
価格は原則としてすべて自由とする。
15、ほとんどの薬品の政府による価格決定を取り消し、一連の基本的な公共サービスの費用
徴収の価格決定権を移譲する。
16、法で定められた秘密情報以外は、中央と地方のあらゆる部門の予算・決算は公開とする。
17、社会の監督を全面的に受けるものとする。
18、条件の整った民間資本による中小銀行などの金融機関の法に基づく設立を推進する。
19、成熟したものから順に許可するものとし、限度額は設けない。
20、預金保険制度を打ち出す。
21、人民元レートを合理的でバランスの取れた水準で維持し、人民元レートの双方向の変動
の柔軟性を高める。
22、「深港通」(深セン・香港の株式市場相互乗り入れ)の試行を適時に始動する。
23、株式発行登録制改革を実施する。
42
第 62 卷 第 1 号
24、災害保険と個人税収繰延型商業養老保険を打ち出す。
23、国有資本の投資会社や運用会社の試行を加速し、市場化運用のプラットフォームを構築
し、国有資本の運用効率を高める。
24、輸出還付税の負担制度を整備し、増量部分は中央財政が全額負担し、地方政府と企業を
落ち着かせる。
25、外商投資産業指導目録を修正し、サービス業と一般製造業の開放を重点的に拡大し、外
資の投資制限項目を半減させる。すべてを登録対象とし一部のみを審査・認可対象とする管
理制度を全面的に推進し、奨励項目の審査・認可権を大幅に移譲し、投資前の内国民待遇と
ネガティブリストを合わせた管理モデルを積極的に検討する。
26、登録制を中心とした対外投資管理方式を実行する。
27、シルクロード経済ベルトと 21 世紀海上シルクロードの協力を推進する。「コネクティビ
ティ」「効率的な通関プロセス」「国際物流大通路」などの建設を進める。中国・パキスタン、
バングラデシュ・中国・インド・ミャンマーなどの経済回廊を構築する。
28、中韓と中豪の自由貿易協定を早期に締結し、中日韓自由貿易区の交渉を加速し、湾岸
協力会議やイスラエルなどとの自由貿易区の交渉も推進する。中国 ASEAN 自由貿易協定の
バージョンアップの交渉と地域の全面経済パートナー協定の交渉の妥結に努め、アジア太平
洋自由貿易区を構築する。
成長の安定、構造の調整として、
29、介護・家事・健康消費を促進し、情報消費を拡大し、観光・レジャー消費を引き上げ、
エコ消費を推進し、住宅消費を安定化し、教育・文化・スポーツ消費を拡大する。
30、インターネットを媒介として、オンライン・オフラインが相互に相互に働きかけ合う新
たな消費を大きく発展させる。
31、一連の新たな重大プロジェクトの実施を始動する。
32、今年の中央予算内の投資額は 4776 億元に増やされたが、政府が全てを担うわけではない。
民間の投資活力をさらに引き出し、社会の資本がより多くの分野に流れるよう導く。
33、鉄道投資は 8000 億元以上を維持し、新たな運行距離を 8000km 以上とする。高速道路の
料金を停車せずに払える電子支払いのネットワークを全国に普及させる。発展を引っ張る交
通の役割をさらに発揮させる。
34、建設中の水利プロジェクトの投資規模を 8000 億元以上とする。
35、今年の食糧生産量を 5500 億 kg 以上とする。
36、今年も 6000 万人の農村人口の飲料水の安全問題を解決し、農村の道路 20 万 km を新設・
補修する。西部の辺境山間部の渡り綱を橋にする任務を全面的に完了させる。電気の通じて
いない地域に住む最後の 20 万人余りの電気使用を可能にする。
37、ゴミと汚水を重点として環境対策を強化し、美しく住みやすい都市・農村の建設を進める。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
43
38、どんなに難度が高くても、農村の貧困人口を今年も 1000 万人以上減少させる。
39、土地関連権利の確定の登記・証書発行を進め、農村の土地接収や集団経営建設用地の市
場開放、住宅用地制度、 集団財産権制度などの改革の試行を実施する。
40、今年は、社会保障向けの住宅プロジェクトで新たに 740 万戸を建設する。このうちバラッ
ク密集地の改造は 580 万戸で、昨年から 110 万戸増えた。都市の倒壊危険家屋はバラック密
集地改造政策の対象とする。
41、農村の倒壊危険家屋を、昨年より 100 万戸多い 366 万戸分改造する。農村家屋の耐震改
修も一括で進める。
42、都市で仕事・生活しているがまだ登録をしていない他地方出身者に対しては、居住証に
基づいて基本的な公共サービスを提供し、居住証の発行費徴収を廃止する。
43、財政移転支出と市民化がリンクする仕組みを作り、農民工(出稼ぎ労働者)の市民化の
コストを合理的に分担する。
44、市制導入基準を整備し、特大鎮の権限の拡大・付与の試行を実施し、超大都市の人口規
模を抑制し、地級市や県の中心地、中心鎮の産業と人口収容能力を高め、農民のより近くで
の都市住民化を促す。
45、
「1 ベルト、1 ロード」(シルクロード経済ベルト、21 世紀海上シルクロード)の建設と
地域の開発・開放を結合し、ユーラシア横断鉄道や陸海の通関地の建設を強化する。
46、京津冀(北京・天津・河北)の協同発展を推進し、交通一体化や環境保護、産業のバー
ジョンアップ・移転などの面でまずは実質的な突破をはかる。
47、海洋戦略計画を作成・計画する。
48、
「中国製造 2025」を実施し、
「革新駆動、スマート転換、基礎強化、グリーン発展」を堅持し、
製造大国から製造強国への発展を加速させる。
49、行動計画「インターネット+」を制定し、モバイルインターネットやクラウドコンピュー
ティング、 ビッグデータ、 モノのインターネットなどと近代製造業との結合を推進し、電子
商取引やインダストリアルインターネット、インターネット金融の健全な発展を促進し、IT
企業の国際市場進出を後押しする。
50、サービス業の改革開放を深化し、財政・税制・土地・価格などによる支援政策と有給休
暇などの制度を実現し、観光・健康・介護・クリエイティブデザインなどの生活・生産サー
ビス業の力強い発展をはかる。
51、科学技術成果の使用・処理と収益管理の改革を加速し、株主権と配当による奨励政策の
実施範囲を拡大し、科学技術の成果の移転や職務発明に関する法律制度を整備し、革新人才
が成果の収益を共有できるようにする。
52、誰もが起業できる環境を整え、国家自主革新モデル区を増設し、国家ハイテク区の建設
を進め、革新要素の集合による牽引的役割を発揮させる。中小零細企業も役割は大きく、支
44
第 62 卷 第 1 号
援は欠かせない。「草の根」の革新を大いに盛り立て、各地で花を咲かせるようにする。
53、重大研究インフラと大型研究機器を社会一般に対して全面的に開放する。
国民生活と社会について、
54、今年の大学卒業生は 749 万人で、史上最高の人数に達する。 就職指導と起業教育を強化し、
大学卒業生の就業促進計画を実施し、末端組織での就職を奨励する。大学生の起業指導計画
を実施し、新興産業分野での起業を支援する。
55、企業の退職者の基本年金の給付水準を 10 %高める。 都市・農村の住民基礎年金の標準
は 55 元から 70 元に引き上げる。
56、機関・事業機関の養老保険制度改革措置を実施し、同時に賃金制度も整備し、基層の労
働者を助ける政策を取る。県以下の機関では、公務員の職務と職級の並行制度を設ける。
57、重大な疾病に対する医療救助を強化し、臨時救助制度を全面的に実施する。
58、農民工とともに都市に移り住んだ子どもの現地義務教育への受け入れ政策を実施し、後
続する進学政策についても整備する。
59、一部の地方の大学の応用型への転換を誘導する。
60、1 対 1 の支援などの方式を通じて、中西部の高等教育の発展を支援し、中西部地域と人
口の多い省の大学合格率を引き続き高める。
61、都市・農村住民の基本医療保障を整備し、財政補助基準を一人毎年 320 元から 380 元に
上げ、住民の医療費用の省内での直接決済をほぼ実現し、退職者の医療費用の省をまたいで
の直接決済も着実に進める。
62、都市・農村住民の大病保険制度を全面的に実施する。
63、県級の公立病院の総合改革を全面的に展開し、地級市以上の都市 100 カ所で公立病院改
革の試行を実施する。
64、医療トラブルの予防・調停の仕組みの構築を急ぐ。
65、一人当たりの基本公共衛生サービス経費の補助標準を 35 元から 40 元に上げ、増加分は
すべて村医の基本公共衛生サービスの支払いに使うものとし、数億人の農民が近くで医療
サービスを受けられるようにする。
66、基本公共文化サービスの標準化・均等化を一歩ずつ推進し、公共文化施設の無料開放の
範囲を拡大し、基層総合文化サービスセンターの役割をさらに発揮させる。
67、2022 年冬季五輪大会の招致を行う。
68、産業協会や商会と行政機関との引き離しを進める。
69、大衆組織による法に基づく社会のガバナンスへの参加を支援し、専門的な社会業務やボ
ランティアサービス、慈善事業を発展させる。
70、民間の力による介護施設の発展を奨励し、コミュニティや自宅での介護を発展させる。
71、重大政策決定と社会の安定リスクの評価の仕組みを実現する。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
45
72、
「平安中国」の建設を深化させ、立体的な社会治安防御体系を整備し、暴力テロや売買春、
賭博、麻薬、邪教、密輸などの犯罪行為を法に則って取締り、サイバー空間の発展と規範化
を進め、国家の安全と公共の安全を確保する。
73、今年は、二酸化炭素の単位 GDP 当たりの排出量を 3.1 %以上減らし、化学的酸素要求量
とアンモニア態窒素の輩出を 2 %前後減らし、二酸化硫黄と窒素酸化物の排出量をそれぞれ
3 %前後と 5 %前後減らす。
74、重点地域における石炭消費のゼロ成長を促進する。
75、重点地域の重点都市において国家第 5 段階排ガス基準の自動車用軽油を全面的に供給す
る。2005 年末までに営業登録された排ガス基準を満たない車はすべて淘汰する。
76、水汚染の防止行動計画を実施し、河川・湖水・海水の汚染や水汚染源、農業汚染の対策
を強化し、水源地から蛇口までの全過程の監督管理を実行する。
77、環境汚染の第三者によるガバナンスを進める。
78、環境保護税の立法事業を進める。
79、国土河川総合対策の試行を展開し、流域の上下流での当事者間での補償制度の試行を拡
大し、三江源(長江、黄河、瀾滄江の源流)地域を保護する。
80、天然林の保護範囲を拡大し、天然林の商業用の伐採は適宜に禁止する。今年、耕作をや
めて林地や草地に帰される地域は約 67 万ヘクタール、造林された土地は約 600 万ヘクタール
を増加する。
政府建設について、
81、行政執行責任制を全面的に実施する。
82、基本公共サービスの提供にはできるだけサービス購入方式を採用する。第三者が提供で
きる事務的な管理サービスは市場または民間が担う。
83、政務の公開を全面的に実行し、電子政務とオンライン事務を拡大する。
84、権力のスリム化によってクリーンな政治を目指す。
85、腐敗行為に対しては、指導機関で起こったものも、大衆のそばで起こったものも、すべ
て厳しく罰する。
86、政治実績の審査評価制度を整備し、実績の優れたものは奨励し、仕事ぶりが振るわない
ものは発破をかけ、職務に就いているのに仕事をせずに怠けているものは公にして責任を追
及する。
民族、宗教、華僑事務について、
87、民族地域の自治制度を堅持・整備し、発達していない民族地域への支援を強化し、人口
の少ない民族の発展を後押しし、辺境の発展・振興行動を推進し、少数民族の優秀な伝統文
化と特色のある村を保護し発展させ、各民族の交流と融合を促進する。
88、西蔵(チベット)自治区の設立 50 周年と新疆維吾爾(ウイグル)自治区の設立 60 周年
46
第 62 卷 第 1 号
の祝賀活動を行う。
89、宗教関係の調和を促進し、宗教界の合法的な権益を守り、宗教界の人々と信者の人々に
経済社会発展を促進する積極的な役割を発揮させる。
90、祖国の近代化建設への参加や祖国の平和統一の促進、 中国と外国の交流協力の推進など、
海外の華僑同胞と帰国華僑が持つ独特な役割をさらに発揮させ、国内外の中華の人々の求心
力をさらに高める。
国防について、
91、軍に対する党の絶対的な指導という根本原則を堅持し、各方面・各分野の軍事闘争の準
備を全体として進め、国境防衛や海の防衛、空の防衛の安定を保つ。
92、近代的な後方支援業務の建設を全面的に強化し、国防研究とハイテク武器装備の建設を
強化し、国防工業を発展させる。
93、国防と軍隊の改革を深化させ、国防と軍建設の法治化の水準を高める。
94、近代化された武装警察の建設を強化する。
香港・マカオ・台湾について、
95、香港・澳門(マカオ)特別行政区の行政長官と政府の法に基づく施政を全力で支援し、
経済を発展させ、国民生活を改善し、民主主義を推進し、調和を促進する。
96、
「九二共通認識」の堅持と「台湾独立」の反対という台湾海峡両岸の政治的土台を堅持し、
両岸関係の平和発展という正しい方向を維持する。 両岸の協議や対話の推進や経済の相互利
益・融合の推進、基層と若者の交流の強化に努める。
外交について、
97、国家の主権・安全・発展の利益を断固として守り、中国の国民と法人の海外での合法的
な権益を守り、協力・ウィンウィンを中核とする新型の国際関係の構築を推進する。
98、各大国との戦略対話と実務的な協力を深め、健全で安定した大国関係の枠組みを構築す
る。
99、周辺外交を全面的に推進し、周辺の運命共同体を形成する。発展途上国との団結と協力
を強化し、共同の利益を守る。
100、世界反ファシスト戦争と中国人民抗日戦争勝利 70 周年を記念する関連イベントを行い、
国際社会とともに第 2 次世界大戦の勝利の成果と世界の公平正義を維持する。
以上のように、2015 年政府活動の「ルートマップ」において、9、10、12、13、14、15、
25、26 項目は特に規制改革の方針を打ち出している。
第二節 中国の鉄道事業分野における規制改革と上下分離政策の動向
第 12 期全国人民代表大会第 3 回会議の開幕式が 2015 年 3 月 5 日の午前、人民大会堂で行わ
れた。李克強総理は、政府活動報告の中で 2014 年の活動を振り返り、インフラ建設と地域
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
47
間の調和の取れた発展の推進に関して、「北京・天津・河北の共同発展および、長江経済ベ
ルトの建設は重要な進展を得た。14 年に中国が新たに敷設した鉄道線路は 8427 キロメート
ル、高速鉄道の総営業距離は 1 万 6 千キロメートルに達し、世界全体の 60 %以上を占めた。
高速道路の総延長は 11 万 2 千キロに達し、水路、民間航空、パイプラインの建設も強化され
た。農村部のネットワーク改造工事も着実に進んでおり、ブロードバンドユーザーは 7 億 8
千万世帯を超えた。長年の努力が実を結び、南水北調(南部の水資源を北部に運ぶプロジェ
クト)中央ルート第 1 期工事は給水が始まり、沿線の多くの人々に利益をもたらした」と指
摘した。
中国経済は「新常態」(ニューノーマル)を認識する段階から新常態を誘導する段階への
移行過程にあり、今まさに坂を上り高みに至るための「関所」を通過しつつある。そこでど
のように経済を安定的に運営するかが、各方面が回答を求める問題となっている。国務院の
李克強総理は 2015 年 3 月 5 日に政府活動報告の中で、「中国は消費を拡大し、投資を増やし、
新興産業と新興の業態を支援することなどを着手点として、経済モデルのバージョンアップ
を促進し、慎重に行動して大きな成果を上げていく」と述べた。この力強い報告がさまざま
な関連産業に発展の黄金期をもたらすことは確実である。
中国経済のモデル転換の過程では、消費市場が転換にともなってバージョンアップすると
いうのが業界の共通認識である。政府活動報告の中では、これから必要なことは消費の成長
源を早急に育成することだとしている。大衆の消費を奨励し、「三公消費」(公費による外遊、
公務接待、公用車の購入・使用)を抑制する。これと同時に、介護や家事や健康にまつわる
消費を促進し、情報消費を拡大し、観光やレジャーの消費を引き上げ、グリーン消費を推進
し、住宅関連消費を安定させ、教育・文化・スポーツ消費を拡大することが必要である。そ
れだけではなく、中国は今後、「三網」(通信網、インターネット、有線テレビ網の三大ネッ
トワーク)の融合を全面的に推進し、光ファイバーネットワークの建設を加速させ、ブロー
ドバンドネットワークの速度を大幅に引き上げ、物流・宅配便業務を発展させ、インター
ネットをベクターとし、オンラインとオフラインが連動する新興の消費スタイルを大いに発
展させることが必要である。李総理は、
「消費を拡大するためには小さな流れを集めて大き
な川にすることで、億万人の国民の消費の潜在力を経済成長牽引の力強い動力としなければ
ならない」と強く指摘した。
消費を拡大するだけでなく、投資も政府が成長を効果的に安定させるための主要な手段と
して期待されている。李総理は、「第 12 次五カ年計画(2011-15 年、十二五)の重点建設任
務を確実に達成するために、中国は一連の新たな重要プロジェクトの実施をスタートし、こ
れにはバラック密集地の改造、鉄道、土木工事などへの各種投資を一斉に行い、中部・西部
地域に重点的に配置し、巨大な内需パワーをよりよく発揮させることが含まれる」と述べて
いる。
48
第 62 卷 第 1 号
これについて、これまでインフラ建設投資は主に地方政府が行っていたが、投資が回収さ
れるまでの期間が比較的長いことから政府の債務比率が高止まりしていた。経済ペースの鈍
化にともない、経済を喚起し、民間投資を奨励することが、正に最良の選択肢になる。
先進国や世界の平均水準に比べ、中国国民の消費率は低すぎるのであることから、経済発
展を牽引する『トロイカ』(消費、投資、輸出)の一つである消費を促進することは、中国
人に『使える金があり、その金を使う』ようにさせることにほかならない。消費を奨励する
とは、人々の所得水準を引き上げ、所得分配政策を調整し、社会保障を強化し、消費の成長
源を育成することを意味するのである。全体としてみれば、中国人の消費の潜在力は非常に
高いとの見方が一般的である。
「中国鉄路総公司設立の関連問題に関する国務院の回答」によると、中国鉄路総公司の設
立資本金は 1 兆 360 億元であり、過去の債務問題が解決されるまで、国は同社の国有資産の
収益を徴収しないとされている。また鉄道改革費用を増加しないことが明らかにされたので
ある。
中国鉄路総公司は中国国務院の認可を経て、
「中華人民共和国全民所有制工業企業法」に
基づき設立された、中央政府が管理する国有独資企業である。中国財政部が国務院を代表し
出資者の職責を担い、中国交通運輸部、中国国家鉄路局が法に基づき同社に対して業界監督
管理を行うとされている。
旧鉄道部の関連資産・負債・人員は中国鉄路総公司に編入されることになり、旧鉄道部所
属の 18 の鉄路局(広州鉄路集団公司、青蔵鉄路公司を含む)
、3 社の専門輸送公司、および
その他の企業の権益は、中国鉄路総公司の国有資本とされたのである。
鉄路公益性運輸補助メカニズムの構築が、同返答によって明らかにされた。鉄道が負担す
る学生・負傷した軍人・農産物などの公益性輸送業務、および青藏線や南疆線などの関連す
る公益性鉄道の経営赤字に対しては、鉄道公益性輸送補助メカニズムの構築、財政補助など
の手段を研究し、適度な補助を提供するとされている。
中国鉄路総公司は設立後、国家の旧鉄道部に対する税優遇措置を受けるのであり、国務
院・関連部門・地方政府が鉄道を対象としていた優遇政策も継続され、鉄道建設債券を引き
続き政府支援債券とするのである。企業の設立・再編に関わる各種税金については、国家の
規定に基づき徴収し、鉄道改革費用を増加しないとされている。
「中国鉄道総公司」として新たなスタートを切ったが、2 兆 6 千億元(約 39 億円)の債務
や関連の無形資産、知的財産権などはすべて、同社が引き継いでいる。制度の改正が実施さ
れても公益性は保つとされているが、鉄道チケットは市場の状況に合わせて調整するという
ことになっている。しかし、旧債務と遺産、公益と市場をどのようにしてバランスを取りな
がら維持させていくのか、同社はスタートから難題が山積みである。
中国鉄道総公司も大きな国営企業へと発展し、結局は行政の市場独占状態が続くのであろ
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
49
うか。自主経営権を持つため、鉄道チケットの値上げに踏み切るのであろうか。政府から企
業への変化は、看板を変えるだけというほど簡単な問題ではない。政府が干渉したいという
強い衝動を克服する一方、同社が現代企業としての制度を確立し市場に健全な競争が生まれ
る状況を作り出せるのか、それが真の改革への道である。
これまで鉄道は乗車券が安く、輸送力に限界があったため、経営状況を改善しなくても、
乗車券を手に入れるのに苦労するのが常であった。一人勝ちの独占状態であったと言える。
一方、高速鉄道は輸送力が高く、乗車券価格が高く、基本的には買い手市場に属するもので
あり、供給が需要を上回っている。また高速鉄道には民間航空というライバルもおり、両者
の力量は匹敵していて、経営販売方法が劣っていたりサービス水準が低かったりすれば、
「空
席率」が上昇する可能性がある。特に 2209 億元を投入した京滬高速鉄道は、経営の優劣が
投資回収周期の長短に直結することになる。
このような競争局面に向き合う時、鉄道はハードウエアの投入に頼って発展を求めること
は不可能である。過去の利用者は高速鉄道の大規模建設の時期にあり、鉄道の発展は主に装
備の現代化によるスピードアップに依拠していたが、現在の人々は高速鉄道が運営に大規模
に投入される時期にあり、よい路線、よい列車、よい駅はすでに備わっており、さらに必要
になるのはより細やかな鉄道サービスと運営の市場化の加速なのである。言い換えれば、こ
れまでの発展は建設に頼り、今の発展は改革に頼るということである。ソフトウエアとハー
ドウエアを結びつけなければ、中国鉄道は旅客輸送のペースを上げることができないし、ス
ムーズな交通手段になることもできないし、貨物輸送を増やすこともできないことから、物
流コストを引き下げることもできないであろう。
改革は困難であるが、まったく手がかりがないわけではない。その答は正に乗客の中にあ
る。鉄道旅客輸送市場は結局のところ乗客に帰するものであり、乗客の期待こそが鉄道サー
ビス改革の方向性である。さらにその答は鉄道産業にもある。海外の高速鉄道は長年にわた
る運営の蓄積があり、市場の洗礼を浴びており、緊急対応や賠償などの面で整ったシステム
や基準を備えている。中国がこれを「借用」してはいけないということはない。
実際、鉄道事業分野における規制改革の矢はすでに弓につがえられている。ここ数年来、
中国鉄道の営業距離数は急速に増加し、装備の現代化水準が年々上昇しているのであるが、
だが総合的な輸送システムにおける鉄道の市場シェアは低下を続けている。2010 年の鉄道
の旅客取扱量が市場シェア全体に占める割合は 2000 年比約 5 %低下し、貨物取扱量の割合は
同 11 %低下した。市場意識と競争力を欠くことから、本来は最も低炭素型で経済的な鉄道
輸送は、市場の半分を早々に引き渡してしまい、交通手段の「長男」の地位を奪われること
になった。
今は高速鉄道が大規模に市場に投入される時代になっている。これは、鉄道事業分野に
とってみれば、改革の攻めの時期であり、歴史的なチャンスの時期でもある。鉄道事業分野
50
第 62 卷 第 1 号
は高速鉄道を突破口として、改革を深化させ、サービスをグレードアップすれば、交通輸送
システムにおける市場シェアを引き上げることができると期待できよう。その時こそ鉄道は
「親方鉄道」から頼りになる交通界の「兄貴」へと変身することが必要である。
1980 年前後から世界の交通が規制緩和時代を迎えた後でも、鉄道に対する規制緩和は大
幅に遅れた。独占時代から競争時代にいたる交通政策の変換過程は、それがかなり長期間を
要したことからも想像されるように、決して滑らかなものではなかった。鉄道政策は競争化
現象への対応を迫られる一方で、「鉄道問題」――先進諸国の国鉄の経営難・財政難――の
深刻化現象への対処を迫られたからである。
各国の国鉄の経営難・財政難の原因の 1 つである鉄道線路の維持管理費用の節減や不採算
路線の切り捨てに関しては、その是非をめぐる激しい議論を伴うのが普通である。経営難の
鉄道企業では設備の維持管理費用を節減しようとするが、安全輸送の確保が重要な鉄道にお
いては、鉄道線路の維持管理を費用削減の対象とすることには反対意見が多い。また、不採
算路線の維持に関してもそれを求める政治的・社会的圧力が強い。
これらの制約の下での鉄道政策の転換は、「鉄道改革」と呼ばれるものであるが、それは
鉄道の上下分離(列車運行事業と鉄道インフラ事業の分離)、国鉄民営化、規制緩和などか
らなる。特に前 2 者は、鉄道の運営方法や経営形態の変化を伴う鉄道事業改革の代表的手段
を表している。
中国の鉄道事業分野において、地方に権限を移譲することで、地方の鉄路局の鉄道管理・
鉄道建設などの積極性を高め、安定的な操業度を維持できる。社会に開放することで、より
多くの資金源を獲得し、中国鉄路総公司の負債圧力を一定程度緩和できる。
中国政府網が 2013 年 8 月 19 日に発表した「鉄道投融資体制の改革による鉄道建設推進の
加速に関する国務院の意見」(以下、同意見)は、鉄道投融資体制の改革を推進し、さまざ
まな方式・ルートから建設資金を調達することを提起した。
同意見は、「統一計画・多元的投資・市場運営・政策補助の基本思想に基づき、鉄道発展
計画を制定し、全面的に鉄道建設市場を開放し、新たに建設される鉄道に対して分類投資建
設を実施する。地方政府と社会資本に対して、都市間鉄道・市内(郊外)鉄道・資源開発型
鉄道・鉄道支線の所有権・経営権を移譲し、社会資本の鉄道建設への投資を促す」とした。
中国国務院常務会議は 2013 年 5 月 6 日に「鉄道投融資体制改革プランを制定し、社会資本
の既存の幹線鉄道などに対する投資を促す」と提案した。上述した同意見は、5 月の会議の
内容を詳細化したものである。
中国経済の発展には、依然として鉄道の建設が欠かせない。鉄道がなければ、中国の製鉄・
石炭産業の発展に影響し、客観的に見て西部地区の高度発展を阻害するのである。
同意見は、鉄道投融資体制の改革と鉄道建設推進の加速は、「工業化・都市化の進展の加
速、関連産業の発展のけん引、投資の合理的な増加、交通輸送構造の改善、社会の物流コス
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
51
トの削減、人々の安全な外出にとって、かけがえのない重要な働きを持つ」と明確に指摘した。
これは鉄道市場のさらなる市場化に向けた、象徴的な出来事である。地方に権限を移譲す
ることで、地方の鉄路局の鉄道管理・鉄道建設などの積極性を高め、安定的な操業度を維持
できる。社会に開放することで、より多くの資金源を獲得し、中国鉄路総公司の負債圧力(2)
をある程度緩和できることになる。
第三節 鉄道事業分野における上下分離政策の原理
上下分離は鉄道改革の一環として登場してきたものであるが、それは長い鉄道政策の試行
錯誤の結果として生まれたものである。日本を含む諸外国の鉄道政策の変遷を概観すれば、
上下分離が登場するまでの経緯が理解できる。具体的には、競争政策の観点から、年代順に、
北米(1970 年代)、日本(1980 年代)、欧州(1990 年代)および中国(2010 年代)の順に鉄
道改革が進展してきた。
1960 年代の米国では、鉄道輸送はすでに都市間旅客交通の小さな部分を担うにすぎなく
なっていたものの、米国政府は、鉄道に対する本格的な規制緩和政策(1980 年スタガーズ
鉄道法)を実施する前に、鉄道問題に対する政策的決着をはかる必要に直面した。こうして、
旅客部門と貨物部門の分離と鉄道線路部分の所有の見直しが行われた。
1970 年代に、鉄道会社から旅客輸送部門を切り離し、全国一元的に都市間鉄道旅客輸
送事業を営む企業として、Amtrak 社(National Railroad Passenger Corporation:Amtrak)、
V1A 社(VIA Rail Canada Inc。)が設立された。Amtrak 社と VIA 社は貨物鉄道会社の線路
を借りて輸送事業を営む形の上下分離を採用している。Amtrak 社は「鉄道の上下分離」を
大規模に実施した最初の事例としても注目される。また、1970 年代初頭に設立された、も
う 1 つの鉄道輸送公社である Conrail 社は、米国北東部を中心とする鉄道貨物輸送を極度の
運営難から立ち直らせ、業務の縮小合理化を通して再民営化を実現するべく設立された事業
体である。
1980 年代後半に実施された日本の国鉄改革では、旅客輸送については旧国鉄が上下一体
のまま地域別に 6 分割された。分割後の各社の経営状況は需要の多寡、市場条件によって大
きく異なり、東京、大阪、名古屋など大都市圏を有する本州 3 社の経営は安定し、上下一体
での自立採算が可能となっている。一方、市場に恵まれない 3 島会社の経営は、経営安定基
金からの運用益を得ても、なおその経営は厳しい状況にある。経営安定基金は外部補助の一
種であり、運用益による営業損失の補填によって経営基盤の確立を図ることを目的としてい
(2) 旧鉄道部の財務報告によると、2012 年第 3 四半期の旧鉄道部の総資産は 4 兆 3000 億元、負債総額は
2 兆 6600 万元(中国の GDP の約 5 %)に達した。
52
第 62 卷 第 1 号
るが、上下分離的な機能もある。貨物輸送については北米型の上下分離を採用し、客貨間の
内部補助を排除した。
規制緩和(あるいは規制撤廃)という時代的背景の下で、鉄道政策もまた競争指向のスタ
ンスを取らざるをえず、需要規模の縮小と平均費用逓減との狭間で生じる市場の失敗現象に
対してはその補整策を講じることの必要性が高まる。EU 諸国で実施された鉄道の上下分離
政策の多くは、このような文脈のなかに位置付けられる。換言すれば、競争的市場の下で、
鉄道を維持、再生していくために登場した方式が鉄道の上下分離である。交通サービスの上
下分離を経済学的に正当化する論拠にはいくつかのタイプがある。
第 1 に、交通サービス供給の責任を公共部門から民間部門に移管するとき、サービスの供
給を「建設・保有」(下部)と「運転・マーケティング」(上部)という 2 つの側面に分け、
公民、あるいは民間企業同士の適材適所の考えから機能分担を行うというものがある。この
場合、民間セクター、あるいは特定の形態の企業がもつ費用効率改善能力が期待できれば、
それらの程度や範囲に応じて、効率改善能力をいかせる形態の上下分離政策がケースバイ
ケースで正当化される。
第 2 に、コンテスタブルな交通市場創造のためのものがある。サービス供給において固定
的で特殊な資産を使わざるをえないことが多い交通サービスにおいて、下部構造の保有は、
供給者に埋没費用を発生させる。このような場合でも、下部を分離すれば固定費を変動費と
して扱うことができ、費用リスクを軽減できる。このことを通じて、参入障壁を低めるこ
とができる。そして、競争促進を通じて、上部主体の運営効率を一層高められる。もちろん、
このようにイコールアクセスを保証したとしても、実際の競争は一部に限られる可能性があ
る。しかし、潜在的競争が機能する状況を作り出せる。
第 3 に、規制者としての公共セクターも、自然独占が生じる部分を下部構造として分離で
きれば、その他の部分に責任をもつ主体、つまり上部主体に対しては規制を行わなくてすむ。
少なくとも初期には、上部主体が下部構造にアクセスする際のアクセスチャージなどの条件
や、鉄道のダイヤ調整に代表されるような複数の上部主体間で平等な競争を実現するための
条件は、複雑な問題とは考えられていなかった。このため、規制コスト面からも上下分離の
メリットが強調された。
第 4 に、上下一体の交通機関で上下分離を行い、下部の費用負担(通路費負担)における
恣意性をなくすという考え方がある。この場合、下部構造を保有する交通機関と保有しない
交通機関との間の競争関係を平等化し、ゆがみのない競争を実現することを目的とする。こ
の種の理念は、イコールフッティング論と呼ばれてきた。
鉄道事業には不採算ながら社会的に必要な輸送サービスの提供といった公共的な事業領域
とビジネスとして自立採算の達成が可能な企業的な事業領域とが混在する。この 2 つの相反
する事業はこれまで同一事業体の内部補助に依存して営まれてきた。ただし、独占時代には
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
53
内部補助を維持しうるが、競争時代には内部補助は事業体の健全経営を崩す危険がある。
上下分離によって「公」と「私」が混在する複合的な鉄道事業を分割し、市場競争力のあ
る事業領域を抽出することによって、公的責任の領域を明確にすることは、この方式のもつ
メリットである。その結果、性格の相反する事業を整合的に両立させることが可能になる。
上下分離は競争時代にふさわしい鉄道運営方式の 1 つといえる。
このように、上下分離は、一方では市場競争力を発揮できる事業の促進をはかりながら、
一方では市場の失敗に対処する方式といえる。とくに、鉄道インフラの維持管理費用の負担
に耐えられないほど需要の少ない市場環境下で鉄道事業を維持していくための方策として有
効性を認めることができる。つまり、上下分離の目的は、自立可能な分野において健全な経
営を保証し、かつ競争政策とも整合しうる鉄道システムの構築なのである。
鉄道の上下分離では、下部の建設・保有を公民いずれかの部門が行い、上部の運営は民間
事業者が行うのが普通である。
交通市場競争の進展とともに深刻化した鉄道企業(日本の場合、大半は国鉄)の経営難現
象は、自然独占の性質(劣加法性)に基づく市場の失敗に原因がある。すなわち、競争時代
の鉄道産業は独占的地位の喪失により需要規模や需要密度の低下現象に当面せざるをえない
が、産出面での平均費用逓減の性質がはたらく限り、たとえ当該鉄道企業に相当程度の需要
規模が残ったとしても、企業運営自体は不採算に陥るという市場の失敗現象が発生しがちだ
からである。
規制緩和(あるいは規制撤廃)という時代的背景の下で、鉄道政策もまた競争指向のスタ
ンスを取らざるをえず、需要規模の縮小と平均費用逓減との狭間で生じる市場の失敗現象に
対してはその補整策を講じることの必要性が高まる。EU 諸国で実施された鉄道の上下分離
政策の多くは、このような文脈のなかに位置付けられる。換言すれば、競争的市場の下で、
鉄道を維持、再生していくために登場した方式が鉄道の上下分離である。
各国が進める鉄道の上下分離政策は、そのことに関連して各国が掲げる交通政策目的にバ
ラエティがあるように、必ずしも一様でない。上下分離をめぐる内外の差違からも類推され
るように、上下分離政策の当否やその中身を左右するのは各国の鉄道輸送を取り巻く市場条
件である。交通政策史的にみた鉄道の上下分離政策は、前段階である交通調整論の影響を受
けるとともに、その実践に関しては 1970 年代以降の規制緩和論や上記の市場の失敗の補整
要因との直接的な因果関係をもつものとして規定できる。
鉄道事業には不採算ながら社会的に必要な輸送サービスの提供といった公共的な事業領域
とビジネスとして自立採算の達成が可能な企業的な事業領域とが混在する。この 2 つの相反
する事業はこれまで同一事業体の内部補助に依存して営まれてきた。ただし、独占時代には
内部補助を維持しうるが、競争時代には内部補助は事業体の健全経営を崩す危険がある。
なお、上下分離政策は、鉄道ばかりでなく、鉄道とともに伝統的な費用逓減産業の一角を
54
第 62 卷 第 1 号
なしてきた電力や電気通信などの諸産業でも進展中である。サービス事業(産出や供給)と
インフラ事業を分離することにより、前者を伝統的な自然独占規制政策の束縛から解放し、
参入や価格の自由化を通じてこれを競争的産業に育てようとする一連の施策は世界の大きな
流れであるといってよい。
第四節 鉄道の上下分離政策と鉄道民営化の必要性
中国の鉄道固定資産投資額が 2013 年に 6500 億元(約 9 兆 1000 億円)に達するが、これは
合理的なことである。中国は 2008 年以降、国際金融危機に対応するため 4 兆元規模の投資計
画を実施し、その多くが鉄道に投じられた。その頃より、鉄道固定資産投資が増加している。
その後、鉄道運行中の一連の事故により(3)、投資規模がやや減少した。
しかし鉄道建設は長期スパンで見ると、依然として巨大な投資空間を持つ。まず西部大開
(3) 2011 年 7 月 23 日に起きた高速列車の追突・脱線事故は 39 人の死者を出した。経済参考報の記者が
取材したところ、専門家の多くが今回の事故に対する驚きを隠せない様子で、その矛先を設備の品
質と管理に向け、事故は「人災」によるものだと見ていた。
中国鉄道学会安全委員会の李仲剛秘書長は、「現在の鉄道は多くの閉塞区間に分かれており、もし
前の閉塞区間に列車があった場合、軌道回路に赤いランプがつき、後続の列車は赤いランプの時に
は入れず、無理に中に入ろうとすると、車両の自動停車装置が作動し自動停車するようになっている。
従来の自動閉塞装置でも完全に追突を防止できる。高速鉄道の設備はそれに勝る」と説明した。「お
そらく信号システムに問題が生じたのだろう」という李秘書長。雷対策専門家の関象石氏によると、
落雷があれば痕跡が残り、落雷の時刻や場所を確認することができるため、落雷による事故の影響
を調べるのはそう難しいことではないという。中鉄電気化局集団の単聖熊総工程師は、「落雷があっ
たとしても、接触網には電気があったはずである。でなければ D301 号車は運転できない。事故の最
大の原因はおそらく信号システムの故障だろう」 と分析している。
中華鉄道網の于丁 CEO は、「ここ数年の高速鉄道建設は速すぎた。工期が短く、品質面の管理が
難しくなっていた。しかも最低価格で落札しようと、一部の企業は工事費や材料の価格を下回る価
格で入札に参加しようとする。こうした状況が生じれば、材料の品質に問題が出る」と語っている。
ある信号設計総工程師は、事故はいくつかの要因が重なって発生したもので、列車に搭載されてい
る自動保護システムを人工的に切断しない限り、追突は起きないという。人工的に切断したのでな
ければ、おそらく設備が原因だろうと推測した。
北京交通大学の王夢恕教授は、「事故の主な原因は、わが国の鉄道の総合管理水準が鉄道の発展に
追いついていないことによるものだろう。まず、軌道運輸の人材不足。一般的に、高速鉄道列車の
運転士育成には少なくとも 3・5 年かかるが、現状は運転士が極めて不足している。次に、鉄道職員
の待遇があまりよくないため、鉄道部門が質の高い人材を保留できない上、運転士の仕事環境もあ
まり改善されていない。第三に、現在の三級管理体制が管理の質に影響している。鉄道部、鉄道局、
各駅の三級管理体制は管理が過度に集中しており、管理がなかなか行き届かない」と問題点を指摘
した。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
55
発が継続されており、東部地区の産業が中西部地区に移転している。中西部地区の資源・商
品を輸送するためには、鉄道建設を加速する必要がある。鉄道という輸送方式は、道路など
その他の方式よりも省エネであり、コストパフォーマンスが高い。水運はより低コスト・省
エネであるが、輸送時間がかかり交通網を形成できないため、鉄道の比較優位が際立ってい
る。
また地方政府は鉄道建設に対する投資に意欲的である。政府は現在、内需拡大政策を大々
的に推進している。内需には、消費需要と投資需要が含まれる。後者の多くの部分を、鉄道
建設に向ける必要がある。地方投融資プラットフォーム等の重要サイクルを調整した場合、
鉄道建設プロジェクトの投資加速を促すのであろう。
鉄道建設に伴う資金圧力に対して、鉄道システムは単一的な融資方法による資金源の拡大
の打破を試みている。一部の地方政府は現在、鉄道のこれまでの資金調達方法を変えようと
模索している(4)。
産業投資基金は設立後、長期的な融資が可能なプラットフォームとなる。基金の設立は、
鉄道建設が社会資本をより多く導入し、効果的に民間資本を導入することを示すものである。
現在の国際市場を見ると、大量の遊休資本が投資先を模索している。これを背景とし、外資
誘致は一つのチャンスだと言える。民間資本の進出もまた、鉄道建設に活力を注ぎ込むので
あろう。
中国の交通インフラで、高速鉄道、高速道路、地下鉄などの建設は「大躍進」を遂げるが、
融資返済の圧力が大きく、2015 年以降はメンテナンスのピークを迎えるため、巨大な金融
リスクに直面すると見られる。
中国科学院地理科学・資源研究所は、研究報告「2011 年中国の地域発展報告―金融危機
の背景下の地域発展」の中で以下の見解を示した。報告によると、全国で地下鉄建設の動き
が一斉に起き、国務院は数回にわたって地下鉄建設事業の計画をやめるよう呼びかけた。
2008 年の世界金融危機で、GDP 成長率を維持するため、再び多くの地下鉄建設事業が認
可された。現在 33 都市が地下鉄の建設を計画している。2006 年は全国に 10 本しかなかった
地下鉄路線は、2009 年に 37 本に増加し、2015 年には 86 本に増加する見通しである。
研究報告によると、地下鉄の建設コスト、運営コストは高いため、高い運営効果が上げら
れるのは北京など少数の都市だけで、地下鉄を建設した多くの都市で利用者が 2 万人を切っ
(4) 例えば江西省は既存の債券市場融資および私募債融資の他に、海外融資という新ルートの積極開
拓を表明したほか、「江西省鉄道産業投資基金」の設立を示唆した。業界はこの動きを、鉄道融資体
制改革の一つのシグナルであると見ている。江西省の鉄道建設は全国トップクラスの資金源を確保
している。その資金調達ルートには主に、銀行間債券市場融資、私募債融資、海外融資新ルートの
模索、「江西省鉄道産業投資基金」設立模索などが含まれる。
56
第 62 卷 第 1 号
ている。全国各地だけでなく、世界各地の地下鉄の多くが赤字を計上している。
「動車組(新型高速列車)が登場してから、航空券の価格に影響が出た」と、報告作成に
関わった金鳳君氏は話している。報告は、高速鉄道と飛行機の「地空大戦」は今後さらに激
化すると予測している。
鉄道改革と呼ばれる一連の交通政策のなかで、鉄道事業改革に相当するのが、鉄道の上下
分離と国鉄民営化という 2 つの鉄道政策である。鉄道の上下分離政策が世界的にみて一般的
となった最大の要因は、1991 年に EC 委員会(当時)が加盟各国に対して発令した EC 共通
鉄道政策指令(91/440/EEC)である。同指令は加盟各国に対して鉄道(国鉄)の上下分離、
鉄道インフラヘのアクセスの自由、鉄道財政の改善――とくに過去債務からの解放――を指
示したが、国鉄民営化についてはとくに指示しなかった。こうして、EU 加盟国の数を背景に、
鉄道の上下分離政策は、先進国における現代鉄道政策のもっとも重要なキーワードにのし上
がった。
しかしながら、このことは EU の鉄道改革に関する政策ヒエラルキーのなかで、鉄道の上
下分離が鉄道民営化よりも上位の手段として位置付けられていることを意味しない。鉄道輸
送機能の点で日本との共通点が多い EU 諸国が 1990 年代になって鉄道改革への本格的な取り
組みを開始した背景には、日本の国鉄民営化の成功が影響を及ばしている。EU 共通鉄道政
策の特徴として鉄道改革と鉄道の規制緩和が日本以上に密接な関係に立っている点を考えれ
ば、鉄道の上下分離は鉄道改革のべーシックな政策手段として位置付けられ、さらに国鉄民
営化のような高次で政治的な性格を帯びやすい政策手段はむしろ選択的な位置付けを与えら
れているものと考えていいであろう。
鉄道の上下分離といえば、最近でこそ鉄道事業の組織分離を伴う例が多いものの、1991
年・EC 指令がインフラ会計と運営(輸送)会計に分けた区分会計制度の導入でも可とした
ように、組織分離を伴わず、鉄道事業の経理に区分会計制度を導入することで上下分離を実
施した事例も少なからず存在する(ベルギー、オーストリアなど)。区分会計方式は鉄道イ
ンフラの使用権に関する参入自由化の点では難点を有するものの、その一方で伝統的な上下
一体型の鉄道運営が有する安全上の優位性を指摘する声もある。
EU 諸国のなかで、英国、ドイツ、オランダ、イタリアなどでは国鉄民営化が実施された。
これらの国々の国鉄民営化は、EU 共通である鉄道の上下分離をべースに、さらに日本の国
鉄民営化の際に実施した水平分割(客貨分離・地域分割)の要素も加えて実施された。日本
と比較しながら国鉄民営化の中身の違いを概略的に示すと以下のようになる。
①日本:水平分離――客貨分離、地域分割
②英国:上下分離、水平分離――客貨分離、地域分割(旅客輸送のフランチャイズ制 )
③トイツ:上下分離、水平分離――長距離旅客、近距離旅客、貨物
④オランダ:上下分離、水平分離――旅客、貨物、駅
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
57
すなわち、鉄道の上下分離は、鉄道インフラ事業と列車運行事業を分離するという組織分
離のやり方で実施され、英国やドイツの場合は鉄道インフラ事業の完全民営化を前提とする。
スウェーデンの上下分離は「インフラ事業 = 国(鉄道庁)」、「列車運行事業 = 国鉄」とする
変則型であるが、インフラアクセスの点で国鉄の特権が認定されているわけでなく、また輸
送分野別(幹線、内陸線、鉱山線など)に水平分離された鉄道輸送事業のうち地方交通線の
民間売却もかなり進んでいるため、国鉄民営化の 1 類型とみなしてよいかもしれない。
日本と上述 EU3 国の最大の違いは上下分離の有無にあるが、これには 91 年 EC 指令の要
因のほかに、鉄道市場条件の格差というさらに重要な要因が関係しているといえる。先進国
の鉄道輸送のなかで、公的補助金なしで上下一体型の鉄道運営が継続されている例に、日本
の JR 旅客輸送や都市鉄道、北米大陸の大陸横断貨物鉄道、各国の観光鉄道などがあり、い
ずれも鉄道経営にとって有利な大量輸送市場や独占的市場に恵まれた鉄道企業の事例である。
EU 諸国の鉄道輸送においても、一部の都市間(国際)高速旅客輸送や内陸貨物輸送のように、
上下一体型運営の下で自立採算が達成可能な鉄道輸送分野はまだ残されているものと想像さ
れる。
とはいえ、EU 諸国の鉄道改革が鉄道の上下分離を軸に展開し、また EU 以外の先進諸国
においても鉄道の上下分離例が増えている現象は、交通市場競争の進展とともに鉄道輸送市
場が弱体化し、上下一体型の鉄道運営が困難化している状況を物語っている。日本の上下分
離例は大都市圏に集中しているが、これまた市場条件と上下一体型鉄道の自立採算原則との
不整合がもたらした現象である点に変わりはない。
なお、上下分離と国鉄民営化の関係を検討する際に、上下分離による「公」と「私」の責
任分担の明確化に注目する必要がある。国鉄民営化政策は、その前提として鉄道事業を公共
的領域と企業的領域に区分する必要に当面する可能性が高い。上下分離はこの区分を明確に
するひとつの方法を表している。
第五節 鉄道事業分野における連絡運輸・共通切符と独占禁止法の関係
鉄道事業において乗り入れが行われる場合には、運賃の精算等を含む連絡運輸の協定が締
結される。また、バス、タクシー、鉄道などにおいて、種々の共通切符が発行されることが
ある。
中国新聞網が伝えたことによると、2014 年 12 月 28 日に北京市の路線バス・地下鉄の料金
(地下鉄空港線は除く)が、距離に応じた料金に改定される。北京はこれにて、「路線バスは
一律 4 角、地下鉄は一律 2 元」だった時代に別れを告げた。
新料金の具体的内容は以下の通りである:
路線バス:
バス運賃は初乗り 2 元(10 キロ以内)であるが、10 キロを超える場合は、5 キロごとに 1
58
第 62 卷 第 1 号
元加算される。「市域内」路線で北京市の交通系 IC カード「一卡通」を使う場合は半額であ
り、学生用カードなら 75 %引きとなる。
地下鉄:
初乗り 3 元(6 キロ以内)、6-12 キロまで 4 元、12-22 キロまで 5 元、22-32 キロまで 6 元、
32-52 キロまで 7 元、52-72 キロまで 8 元、72-92 キロまで 9 元となる。
「一卡通」を使って地下鉄に乗車する場合、1 カ月の運賃累計額が 100 元を超えればその後
の運賃は 2 割引になる。150 元を越えればその後の運賃が 5 割引になる。400 元を超えたら割
引はなくなる。
ピーク時の乗客の流れを分散するため、北京市は 2015 年の年末までに、地下鉄・都市鉄
道でオフピーク時の料金割引政策を打ち出す計画である。また、1 日乗車券、特定区間で使
える定期乗車券、地上・地下の連携乗車券などの優遇政策についても、公共交通の全体的な
発展と乗客のニーズに基づき打ち出して行くという。そのうち、1 日乗車券や 1 カ月有効の
定期券などは、企業が価格決定権を持つとしている。
また、もう一つの例として、上海、江蘇、浙江、安徽の 4 省市は、長江デルタ高速鉄道ネッ
トワークの強みを活かし、チケット業務のプラットフォームを統一し、「高速鉄道 + 観光地
入場券」、「高速鉄道 + ホテル」などの旅行パッケージ商品を発売、「快適漫遊の旅」を全面
的にアピールする計画である(5)。
上海鉄道局は、京滬(北京―上海)、滬寧(上海―南京)、合蚌高速鉄道(合肥―蚌埠)な
ど計 10 本の高速鉄道を擁し、上海、南京、杭州、合肥などの中心都市を核心とした高速交
通圏を形成している。今後、江蘇、浙江、安徽、上海の高速鉄道ネットワークと停車駅に立
脚し、高速鉄道停車駅の観光案内、集散、サービス関連施設の建設を推し進め、「高速鉄道
+ 観光地入場券」、「高速鉄道 + ホテル」などの高速鉄道快速観光パックツアーや関連観光商
(5) 長江デルタ観光協力第 4 回業務会議がこのほど上海で開催され、上海、江蘇、浙江、安徽 4 省市の
観光部門は、「観光一体化事業を率先して実現するための長江デルタ地域の行動綱領」に調印した。
これにより、同地域における新たな観光協力・発展計画が始動した。
安徽省の花建慧副省長は、「今回の業務提携は、安徽の観光ビジネスと観光産業の発展に対し、科
学技術、資金、先進管理など各方面でのメリットをもたらすものであり、『ウィンウィン』と『マル
チウィン』が実現するだろう」と述べた。
今回の提携を契機として、長江デルタ地域の観光業界には、一連の新業態や新製品が大量に登場
すると予想される。なかでも、同地域における観光資源の統合推進に重要な役割を果たすのが「高
速鉄道」である。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
59
品を発売する計画である(6)。
鉄道事業分野における連絡運輸・共通切符について、以下のように、競争政策の視点から
検討してみよう。
(1)まず、鉄道の連絡運輸は、相手方事業者の線路を利用して新規に直通サービスを提供
するものであり、そこでは、ダイヤのシェアリングをして、相互に支払われた運賃の精算を
行うのが通例である。その場合、一定のダイヤ調整が必要になるが、それが乗り入れに必要
な最少限度の調整で、運転本数や時間帯に関する調整を伴っていなければ、問題にならない。
また、運賃精算は価格に関わる協定の一種であるが、参加者が各々個別的に運賃を設定した
上で、乗車実績にもとづく客観的な精算ルールが設定されていれば、問題にされることはな
い。いずれも競争制限効果自体が微弱だからである。
しかし、その場合でも、他の事業者の当該協定への参加はオープンでなければならず、接
続可能な事業者の参加を拒否することは、客観的な正当化事由がない限り、ボイコットとし
て中国の独占禁止法第 13 条に違反する。また、運賃の精算等の際に、相互にコストや需要
予測などの営業上重要な情報を共有することは、運賃設定の協調行動を誘発する危険がある
から認められない。
(2)一定地域の複数の会社や交通機関にまたがる共通切符が発行されることがある。その
場合、ゾーンや利用時間などを設定して共通の割引価格を設定すれば、利用者の利便性が向
上し、需要促進を図ることができる。これは、外国の都市圏では、バス・鉄道・地下鉄を一
体化したゾーンチケットやトラベルカードなどとして普及しているものであるが、そこでの
共通の割引価格の設定は、価格カルテルに該当する可能性がある。
ただし、以下の条件を満たせば、割引価格の設定が独禁法に違反する可能性は低いと考
えられる。第一は、参加者が、個別的な運賃設定の自由を保持していることである。第二
は、共通切符の売上げの分配が、実際の利用状況にもとづく客観的な方法・基準によってな
されていることである。これにより、分配ルールを通じて価格の維持や協調を図る可能性が
低下する。第三は、その共通切符への他の事業者の参加がオープンであることである。これ
(6) 浙江省観光局の趙金勇局長は、「今では、高速鉄道列車に乗車すれば、40 分、50 分、せいぜい 1 時
間ちょっとで別の都市に到着してしまう。大変便利で、まるで同一都市内を移動しているようだ」
とコメントした。夏の旅行シーズンの観光客誘致を目的に、多くの旅行業者は今夏、華東エリアへ
の高速鉄道利用パック商品を続々と発売した。旅行社側は、「最もスタンダードなパターンは『華東
5 都市めぐり』という、往復で高速鉄道を利用する 5 日間のツアーである。移動手段に高速鉄道を選
ぶお客様は、やはり多い。移動のための時間が短縮され、観光する時間がより多く確保できるのが、
多くの旅行者が高速鉄道を選ぶ最大の理由だろう」と指摘した。2014 年 7 月 28 日付人民日報が報じ
たものによる。
60
第 62 卷 第 1 号
により、当該切符によって他の事業者が排除される可能性が低下する。第四は、協定に際し
て、協調行動を誘発するコスト・需要予測などの営業上重要な情報の共有がなされないこと
である。第五は、その運賃・料金の設定に、住民や利用者の代表が参加し、算定のデータが
可能な限り公開されることである。これによって、協定による競争制限のインセンティブが
低下するからである。以上の条件を満たせば、共通割引切符による需要増加と価格低減によ
る競争促進効果の発揮により、トータルとしての競争制限効果が減少すると考えられる。運
輸事業における提携・協定は、さまざまな必要性やメリットを有する可能性があるが、それ
は、適用除外に該当しない限り、中国の独占禁止法において特別扱いされることない。ただ
し、それが競争促進効果を有すると判断される場合は、その競争制限効果と総合して、当該
提携・協定が全体として市場支配力を有するか否かが判断される。従って、種々の限定や条
件を付せば、形式的には独禁法に違反するように見えても、問題とならない場合がある。中
国の独占禁止法との抵触・矛盾を解消しながら、提携・協定のメリットをいかす方向が目指
されるべきである。
運賃制度について言えば、総収入が総括原価(能率的な経営の下における適正原価十適正
利潤)を超えることがないことを確認して上限運賃(一般には対キロ区間制の階段状の運
賃)を認可する(下限運賃は原則として設定しない)。事業者は認可された上限運賃の範囲
内であれば、事前届出により自由に運賃を設定・変更することができる。ただし、路線別や
区間別の運賃設定・変更をおこなう場合には、運賃相互間の格差は 2 割以内であることを要
し、これを超えるときは別途認可を要する。
適正原価の算定にあたっては、線路費、電路費、車両費、列車運転費、駅務費の 5 費目に
分けて、各事業者毎に事業内容、事業環壊などの差を適切な指標で反映させて基準コストを
算出し、さらに、基準コストを基に、実績コストが基準コストを上回る場合は基準コストを、
また実績コストが基準コストを下回る場合は(基準コスト十実績コスト)/2 をそれぞれ適正
コストとして適正原価に算入する。なお、基準コストの計算方法・結果は毎年公表する、と
することが望ましい。
事業報酬率については、自己資本につき公社債利回り、全産業平均自己資本利益率、配当
所要率の単純平均とし、他人資本につき借入金等の実績平均レートとする、とすることが望
ましい。一定の範囲で運賃競争が予定されている以上、その範囲においては独占禁止法を適
用する余地があろう。
第四章 中国の鉄道事業分野における高速鉄道の役割
第一節 中国経済の「新常態」と鉄道事業分野における高速鉄道の位置づけ
改革の深化を決意した中国政府は、2015 年の成長目標は 7 %とし、かつ GDP 成長率の小
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
61
数点以下にはこだわらないとしている。安定した成長を保つと同時に改革促進や構造調整を
進めることは、引き続き経済政策運営の重心となる。成長率の速度ではなく質を重視し、発
展方式の転換を通じてより質の高い成長を実現することこそ、改革の全面的深化を進める中
国にとって本当に必要なことだと言える。
このため 2015 年の経済目標がいくらに設定されるとしても、「高速成長から中高速成長へ
の転換」、「経済構造の絶えざる改善とグレードアップ」、「生産要素や投資から革新への成長
駆動力の転換」という中国経済の「新常態」(ニューノーマル)を反映し、これに適応した
ものであるはずである。
高すぎる経済成長目標を設定しないことは、構造調整と改革の効果発揮の余地を高めるこ
とになる。だが目標は低すぎてもならず、最低限の発展と安定の必要性を満たすことを保障
しなければならない。その間を取るための鍵となる変数は、就業状況に対する中央の判断に
ある。
「高速成長から中高速成長への転換」は、中国経済の「新常態」の大きな特徴である。成
長率低下を見かけの特徴とする「新常態」は経済法則に合致しているが、成長が不要という
わけではなく、経済が「ハードランディング」していいということにはならない。中国経済
の「新常態」とは、「ソフトランディング」の態勢で質の高い成長の軌道に入っていくこと
を意味する。
世界的に見れば、中国経済の成長速度はまだ非常に高いレベルにある。さらに重要なのは、
過去 30 年余りとはまったく異なる経済成長の構造が浮かび上がりつつあることである。経
済の中心が消費やサービス業に移り、内需への依存が高くなり、生産効率の向上による動力
がますます重要になっている。
2014 年年初から第 3 四半期までの中国の経済成長に対する最終消費の貢献率は 48.5 %で、
投資を上回った。付加価値額に占めるサービス業の割合は 46.7 %で、引き続き第 2 次産業を
上回った。ハイテク産業と設備製造業の成長率はそれぞれ 12.3 %と 11.1 %で、工業の平均
成長率を明らかに上回った。単位 GDP 当たりのエネルギー消費は 4.6 %下がった。これらの
データは、中国経済の構造に大きな変化が起こっており、質が高まり、構造が改善されてい
ることを示している。
これまでは中国経済の成長率目標への関心が過度に高かったが、これからは『速度』か
ら『質』に注目点を移すべきであり、速度だけを求めすぎた後遺症が徐々に明らかになる中、
2015 年の経済に対する中央の基調設定では「質を求める」ことが強調され、経済構造のさ
らなる改善と発展の質の向上がはかられる可能性がある。
しかし、中国経済は依然として多くの困難と課題に直面している。経済の下方圧力は大き
く、構造調整による「痛み」も表面化しつつある。企業が生産・経営面で抱える困難が増え、
いくつかの経済リスクが顕在化している。
62
第 62 卷 第 1 号
注目すべきなのは、中国政府が、ここ 1 年余り経済下方圧力の中で、大規模な刺激を実施
するのではなく、改革に力を入れ、金融・国有企業・財政・税務などの鍵となる分野での改
革を絶えず推進し、同時に地域間の調整と選択的な調整を結合し、経済の安定した動きを実
現したことである。金利引き下げなどの金融政策の合わせ技の打ち出しは、経済の合理的な
成長に動力を添え、改革の全面的な深化の余地を広げようという意図に基づくもので、改革
の促進の役割を果たさせるためであった。
伝統的な二大経済成長源が徐々に衰退する目下の情勢の中、中国が社会に対する政府の総
合的な調整能力を引き続き改善させ、法制度の効率を高め、金融システムの効率を改善させ
ていくことができるなら、長期的な成長の見通しは相当なものになると期待されるからであ
る。
中国経済の未来の成長源はどこにあるであろうか。中国経済には 3 つの未来の成長源があ
るとみられ、出現する可能性のある順番に並べてみる。
第一の成長源は、国民の生活に関わる、公共消費型のインフラ建設投資である。公共消費
型インフラ建設投資とは、将来の人々の消費に直接つながり、一定の公共財としての性質を
有する基礎的な建設投資である。高速鉄道、地下鉄、都市インフラ、防災能力、農村のゴミ・
下水処理、大気の質の改善、社会保障対策としての住宅建設などが含まれる。このような公
共消費型の投資は一般の固定資産投資とは異なる。というのも、公共消費型の投資は新たな
生産能力を生み出したり、生産能力の過剰をもたらしたりはしないのである。より重要なこ
とは、こうした公共消費型投資は 100 %公共の製品を提供するわけではないということであ
る。たとえば高速鉄道や地下鉄は、利用した人が利益を受けるのであり、一定の排他性があ
り、すべての人々が同時に利益を得られるわけではない。だがこうした製品の性質は自動車
や冷蔵庫、テレビとは異なるのである。公共消費は大勢の人々がともに行うものだからであ
る。たとえば高速鉄道が 1 回走ると、これを消費する人は数千人に上り、一人で高速鉄道を
走らせるということはできない。一方、携帯電話を使用する人は一人である。公共消費財に
は多額の初期投資が必要であり、社会福祉の観点から考えて、公共消費型の投資は商業的な
リターンが少ない可能性はあるが、ひとたびサービス提供能力が形成されれば、徐々に社会
福祉的なリターンをもたらすようになる。
こうした公共消費型のインフラ建設投資が、中国経済の現在そして未来の成長源のトップ
になるのはなぜか。最も根本的な原因は、こうした投資は今の中国国民が最も必要としてい
るものだからであり、人々の未来の幸福感を最も直接的に引き上げることができるものだか
らである。中国の人々、特に都市に暮らす人々と先進国の人々との生活の質の差は、もはや
冷蔵庫の保有台数ではなく、携帯電話の普及レベルや質、自動車の保有台数や質でもない。
その差は大気の質、交通渋滞の程度、公共交通の普及レベルと質、自然災害発生時の対応力
などに現れる。これらは本質的には公共消費水準の範疇に属するものと言える。公共消費の
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
63
水準を引き上げるには、非常に長い投資周期が必要であり、商業的なリターンが少ないこと
が多く、政府が長期間にわたって補助金を出すことが必要になる。しかし、こうした投資は
かなりの程度、経済成長を牽引することが可能で、現在の状況から考えて、中国の固定資産
投資のうち約 25 %がこうした投資に回されており、この割合はまだ上昇する可能性がある。
注目すべきは、こうした投資は生産能力の過剰という問題を深刻化させないだけでなく、か
えってこうした難問を解決する上でプラスになるという点である。
第二の成長源は、生産能力のグリーン化とバージョンアップである。中国の製造業は生産
能力および生産量ではすでに世界トップクラスになっているが、各種の生産設備に高汚染・
高エネルギー消費の場合が多い。こうした生産能力をバージョンアップさせて近代型の効率
の高い生産能力にするには、投資が必要であり、その投資のプロセスは長期にわたり中国の
経済成長を牽引するものとなる。おおまかな予測によると、エネルギー消費 5 大産業(有色
金属、鉄鋼、電力、化学工業、建築材料)が一連の高汚染・高エネルギー消費の生産能力を
刷新するには、10 年の時間がかかり、その間は国内総生産(GDP)成長率を毎年 1 %引き上
げることになる。またこれによってもたらされた低汚染・低エネルギー消費の生産能力は国
民に長らく利益を与えることになる。
第三の成長源は、国民の消費である。2007 年以降、中国国民の消費が GDP に占める割合
が上昇を続けており、試算によれば現在は 45 %前後まで上昇したが、国民の消費が経済成
長の真に重要な成長源になるには、対 GDP 比が 50 %を超える必要がある。それにはまだ 4
∼ 5 年の時間がかかるとみられる。
以上のことをまとめると、中国で最も早く出現し、長期にわたってよりどころとなる最大
の成長源は、公共消費型の投資だといえる。
中国は数年前、鉄道設備では開発途上国であった。当時の列車は遅延が多く、車内も衛生
的ではなかった。21 世紀に入ると、中国各地に新設された巨大な駅が見られるようになった。
高速鉄道は中国人の日常生活を変えている。ある乗客は、「以前は夜行列車を利用するしか
なかったが、今はより距離の長い路線でも必要なくなった。朝出発すれば、午後には到着す
る」と語った。上海―北京の距離は 1300 キロであるが、高速鉄道ならば 5 時間以内で到着で
き、移動時間が半分以下になった。これはハンブルグ―ミュンヘンの高速鉄道の移動時間よ
りも短いほどであり、しかも距離は後者のほぼ 2 倍に達する。中国の高速鉄道は快適で静か
で現代的であり、最も重要なのは高速になったことである。
第二節 中国の鉄道事業分野における高速鉄道の進展
中国は 2007 年に初の高速列車を運行させた。現在、中国の高速鉄道網はすでに世界一と
なり、建設は今後もしばらく続きそうである。中国は 2020 年までに、総延長 1 万 8000 キロ
64
第 62 卷 第 1 号
の高速鉄道を建設するとしている(7)。
高速鉄道の急速な発展は旅行などが便利になるだけでなく、中国の経済勢力図そのものを
大きく変える。高速鉄道を使えば、朝のお茶を広州で飲んで、昼に武漢でラーメンを食べて、
夜に北京で北京ダックを食べることも可能になった。
京広高速鉄道は渤海経済圏、中原経済圏、武漢経済圏、長株潭経済圏、珠三角経済圏をひ
とつにつなぐ。それによって沿線の 6 の省や市にある 26 都市の都市化、工業化、情報化が急
速に進む。また蘭新高速鉄道、貴広高速鉄道、南広高速鉄道によって新疆ウイグル自治区、
青海省、甘粛省、広西チワン族自治区がつながれ、それによって発展の遅れた中西部地区と
東部地区との間のヒトとモノの移動が活発になる。2015 年、中国の高速鉄道の総延長距離
は 1 万 8000 キロに達すると予想され、高速鉄道の開通によって人々の生活はますます大きく
変化していく。
広西自治区の南寧と広州を 4 時間で結ぶ南広高速鉄道は、ビジネスマンや旅行客、学生た
ちの人気の的である。高速鉄道ができる前は 13 時間を必要とした路線である。現在、1 日 18
本のダイヤが組まれている。
南広高速鉄道という、この鉄道大動脈は広西自治区の経済を大きく押し上げる役割を果た
す。鉄道路線の都市がそのまま経済ベルトを形成し、そのネットワーク化は一段と優れたも
のになる。南広、柳南、衝柳、沿海の各高速鉄道が接続されることで、海や国境に接してい
るなどの広西自治区の地理的特性がより生かされ、経済社会発展のための競争力が一段と強
化されることが予想されている。
広州市は、南広高速鉄道の起(終)点でもあり、貴州と広州を結ぶ貴広高速鉄道の起(終)
点でもある。両高速鉄道の開業は、春節の移動問題を緩和したほか、沿線地区の時間と空間
の距離を縮め、さらには沿線都市をつなぐ「回廊経済ベルト」の構築に大きな役割を果たす。
広州市から西へ向かう南広高速鉄道の最初の停車駅は仏山市である。
同高速鉄道の開通によって仏山市など、珠三角経済圏に位置する製造業の盛んな都市が、
広東省西部や広西自治区にまでその経済圏を広げることができるようになる。仏山市のある
アルミニウム加工会社は、このほど広西自治区の田陽県に広さ 4000 ムー(1 ムーは 6.67 アー
ル)の工場を建設中である。同会社の責任者は「高速鉄道を使えば仏山と田陽は 3 時間の距
離でしかない。これは当社だけでなく仏山の多くのメーカーの工場移転にも大きく役立つだ
ろう」と語った。
(7) 北京市の専門家は、「高速鉄道の建設費は 1 キロ当たり 2 億元、約 2400 万ユーロである。中国は毎
年 2000 キロ以上の建設を計画しており、仮に 3000 キロ建設できれば、2020 年までに目標を達成でき
る。政府は毎年、約 700 億ユーロを投資する」と説明した。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
65
河北省張家口市と北京を結ぶ全長約 174 キロメートルの高速鉄道プロジェクトは、すでに
国からプロジェクト立ち上げの認可を受け、年内の着工を予定している。2017 年に開通す
ると、北京から張家口までの所要時間はわずか 40 分に短縮されることになる(8)。
高速鉄道の完成により、張家口の「首都 1 時間以内経済圏」への参入が飛躍的に加速する
見込み。京張高速鉄道は、開通後、旅客輸送が中心となり、旧京張線が引き続き貨物輸送を
受け持つことになる。
2014 年 12 月 26 日、蘭州と新疆をつなぐ蘭新高速鉄道が全線開通した。ウルムチを出発し
て 4 時間で高速列車は広大な新疆ウイグル自治区を出る。早朝、ウルムチを出発した列車は
蘭州を目指して東に走る。途中雪に覆われた景色もトルファンあたりになると、もう見るこ
とができなくなる。乗客の一人は「わずか 1 時間で外の景色がまるで季節が変わったかのよ
うに変わる。まさに春に向かって走る列車だ」と笑顔で話した。高速鉄道で変わるのは季節
だけではない。経済も春に向かって動き出すと期待されている。
これまで区都のウルムチから 200 キロ近く離れたトルファンは、その経済をほとんどウル
ムチに依存していた。毎年約 24 万トンの新鮮な野菜をウルムチに出荷するなど、トルファ
ンはウルムチの重要な副食品の供給基地であった。しかしこれからは、高速鉄道の開通を契
機として、トルファンとウルムチの間に新たなビジネスの関係が生まれる可能性も出始めて
いる。
「トルファンとウルムチの関係はこれまで以上に密接となる。ウルムチの一部の産業をト
ルファンに誘致することも可能だ。トルファンは今まで以上にウルムチ経済の発展を支える
ことになるであろう」と語るのは、トルファンの張文全・地区委員会書記である。ウルムチ
とトルファンの経済の一体化は、ウルムチの物価コントロールや旅行産業の発展に対して重
要な役割を果たし、トルファンもその中からチャンスを見出し、新しい成長力を培っていく
ということが期待される。
甘粛省蘭州市と新疆維吾爾(ウイグル)自治区烏魯木斉市を結ぶ蘭新高速鉄道は 2014 年
10 月 17 日、青海省区間で鉄道車両の速度上昇テストが行われた。信号システムの結合テス
トと運転テストの段階へと順調に進み、年内の全線開通に向けて準備が進められている。
2014 年 6 月 3 日を遡ると、蘭新線第二複線新疆区間の試運転が全面スタートした。これに
より、新疆ウイグル自治区にとって初となる、全長 1776 キロの高速鉄道の正式開通が、い
よいよカウントダウン段階に入った。新疆初の高速鉄道が開通すると、烏魯木斉(ウルムチ)
(8) 張家口市の 2022 年冬季五輪招致を担当する張春生氏は 26 日、「張家口と北京を結ぶ交通手段の便
利さが、五輪招致の強力な武器となる。京蔵(北京―チベット・ラサ)高速道路(G6)、京新(北京
―新疆ウルムチ)高速道路(G7)、国道 110 号線(G110)が、220 キロメートル離れた両都市を結ん
でいる」と話した。
66
第 62 卷 第 1 号
から蘭州までの所要時間は、現在の 16 時間から約 9 時間に短縮され、ウルムチー北京間も従
来の約半分の時間で結ばれ、新疆維吾爾(ウイグル)自治区がも高速鉄道時代の到来を迎え
ることを意味する。
同線は甘粛省の蘭州西駅から出発し、青海省の西寧市、甘粛省の張掖市、酒泉市、新疆の
哈密(ハミ)市、吐魯番(トルファン)市を経て烏魯木斉(ウルムチ)駅に到着する。投資
総額 1435 億元(約 2 兆 3550 億円)、全長 1776 キロメートル、設計最高時速は 250 キロメート
ルである。国家 1 級の複線電化旅客鉄道線で、1 度に建設されたものとしては世界最長の高
速鉄道となる。そのうち、新疆区間の全長は 710 キロメートル。同自治区内に建設された初
めての高速鉄道である。
同線が開通すれば、新疆、甘粛、青海の 3 省・自治区間に新たな高速鉄道輸送ルートが加
わることになり、ウルムチから大陸部主要都市までの所要時間も現在の半分ほどに短縮され
る。「新疆はもはや辺疆ではない」。新疆のシルクロード経済ベルト中核地域建設に向け、同
線は力強いサポートを提供することになる。
蘭新高速鉄道は総延長 1776 キロメートルであるが、甘粛省、青海省、新疆維吾爾自治区
を通る現代の「鉄のシルクロード」と呼ばれ、西部地域に新しい高速の鉄道輸送ルートが開
通することになり、朝に蘭州を出発して夕方に烏魯木斉に到着することが可能になり、青蔵
高原は高速鉄道がなかった時代に別れを告げることになる。またユーラシア大陸の鉄道ルー
トの輸送能力を大幅に向上させ、甘粛、青海、新疆の 3 省区の経済発展促進において重要な
役割を果たすことになる。
新疆に達する高速鉄道の正式開通までには、まだ半年の期間があり、北京と新疆が高速鉄
道で結ばれるまでには、2017 年を待たなければならないが、高速鉄道に対する人々の期待
は極めて高い。高速鉄道の開通によって、地方と地方の距離がぐんと縮まるだけではなく、
人々の生活が変わり、都市が変わり、新疆そのものが大きく変わる。「朝、ウルムチでナン
とチャイ(ミルク入りお茶)の朝食を摂り、お昼には蘭州でラーメンを食べ、昼食後は兵馬
俑を観光し、夕食は北京の二環路内で北京ダックを堪能する」ということも夢ではない。
鉄道部門によると、高速鉄道列車でウルムチを出発すると、8 時間後に蘭州、11 時間後に
西安、14 時間後に成都、16 時間後に北京、20 時間後に広州、22 時間後に上海にそれぞれ到
着する。よって、新疆に住む人々にとって、これらの内陸部都市は「一日生活圏」の圏内に
入ることになる。新疆の住民が内陸部で買い物や観光をする、あるいは内陸部の観光客が新
疆に旅行する場合、高速鉄道の登場により格段に便利になる。
新疆では、蘭新線第二複線の開業後、高速鉄道でウルムチを出発し、30 分余りで吐魯番(ト
ルファン)に、2 時間あまりで哈密(ハミ)に到着する。これは、トルファンとハミがウル
ムチからの「2 時間生活圏」内に入り、両市の投資や観光業のさらなる発展をけん引し、経済、
社会、文化など各分野における 3 都市の協力交流が展開され、これらすべてが極めて巨大な
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
67
ビジネスチャンスをもたらすことを意味している。今後、高速鉄道が北疆や南疆に延伸すれ
ば、利益を享受する新疆の都市はさらに増えることになる。
更に、ウルムチの高速鉄道沿線地域は、潜在力を持ったエリアとして、早くから不動産業
者が目をつけている。2013 年 11 月の時点で、高速鉄道沿線地域では、31 項目の企業誘致プ
ロジェクトが確定しており、投資総額は約 336 億 7 千万元(約 5510 億 3100 万円)に上る。こ
れらのプロジェクトは、住宅や生活利便施設、企業本社の建設が中心となっている(9)。
この他、内蒙古(モンゴル)自治区初の高速鉄道「呼張旅客専用線」がこのほど、全面的
に建設をスタートした。西の起点は同自治区の呼和浩特(フフホト)で、烏蘭察布市を経由
し、東の起点の河北省張家口市に至る。全長 286.8 キロメートル、同自治区内の区間は 211.3
キロメートル、同省内の区間は 75.5 キロメートルである(10)。
また、江西省で初めての時速 350 キロに達する高速鉄道、滬昆高速鉄道の南昌―長沙区間
が近く営業を開始する。滬昆高速鉄道の南昌―長沙区間は設計時速 350 キロ、区間の長さは
348.85 キロ。2010 年 7 月 1 日に建設が始まり、2013 年 10 月に開通、2014 年 2 月 15 日から試験
調整を開始し、7 月 25 日から試験運行を始め、8 月末には営業開始の条件を整えた。同鉄道
には南昌西、高安、新余北、宜春、萍郷北、醴陵北、長沙南の 7 つの駅が設置される。
中国鉄路総公司によると、京滬(北京―上海)高速鉄道は、2014 年 6 月 30 日で開業 3 周年
を迎えた。3 年間の同高速鉄道の累計乗客数は延べ 2 億 2 千万人に達し、一日当たり平均乗
客数は増加の一途を辿っている。開業以来、京滬高速鉄道の乗客数は毎年増加している。同
高速鉄道全線の一日当たり平均乗客数は、2011 年 6 月 30 日から同年 12 月 31 日までが延べ 13
万 2 千人、2012 年が延べ 17 万 8 千人、2013 年が延べ 23 万人、2014 年上半期が延べ 27 万 2 千
人であった(11)。
また、中国初の時速 160km の CRH6F 型都市間高速列車が 2014 年 6 月 16 日、成昆線(成都
―昆明)で 30 万 km の運行試験を開始した。同列車は中国南車四方股フェン公司が開発した
もので、高い乗客輸送能力、スムーズな発車と停車、スムーズな乗り降り、頻繁な発車と停
車といった技術的な優位性を持ち、都市間鉄道のバス化(高密度運行)の需要を満たせる。
同車両の 30 万 km の運行試験には、10 万 km の無負荷運転、10 万 km の重負荷運転、10 万 km
の乗客を乗せた試運転が含まれる(12)。
それに続いて、160km の CRH6F 型都市間高速列車(公共交通)が 2014 年 7 月 3 日、青島
(9) 2014 年 6 月 6 日付「人民日報」の報じたものによる。
(10) 2014 年 6 月 12 日付「人民日報」の報じたものによる。
(11) 2014 年 6 月 30 日付「人民日報」の報じたものによる。
(12) 2014 年 6 月 17 日付「人民日報」の報じたものによる。
68
第 62 卷 第 1 号
で竣工し、ラインオフした(13)。同列車は多くの乗客を乗せることができ、駅停車のロスタイ
ムが短く、スムーズな乗り降りが可能という技術的優位性を持つ。同列車は中国の新型都市
化建設の需要を満たし、1 時間経済圏の構築のために開発された新型の利便性が高いレール
交通機関である。同列車の 1 人当たりのエネルギー消費量(100km 当たり)は、地下鉄を約
20 %下回り、完成車の国産化率は 97 %以上に達した。
そして、中国初のスマート高速列車の開発に成功している。第 12 次五カ年計画国家科学
技術支援計画プロジェクト「スマート高速列車システム中核技術研究および試作品の開発」
が重大な進展を実現した。中国初のスマート高速列車の試作品が 2014 年 6 月 25 日、南車青
島四方機車車両股フェン有限公司で竣工し、ラインオフした(14)。
中国南車四方股フェン有限公司の呉冬華副チーフエンジニアは、「スマート高速列車は当
社が自主開発した CRH380A 型高速列車の技術プラットフォーム、情報化列車状態感知およ
び動的デジタル化運行環境をベースにし、モノのインターネット技術・センサーネットワー
ク技術を初めて大型交通輸送設備に応用し、モノのインターネット・センサーネットワー
ク・列車制御ネットワーク・車載伝送ネットワークを融合させ、自主検査・自主診断・自主
決定能力を持つスマート高速列車を形成した」と説明した。
スマート高速列車は 2 年半にわたる技術的難関の攻略を経て、開発に成功した。中国南車
四方股フェン有限公司の梁建英副総経理は、スマート高速列車の開発の目的を次のようにま
とめた。(1)複雑で変化の激しい運行環境下で、大規模な高速列車の安全運行の維持を実現
する。(2)リアルタイムで列車の技術的な状態変化を把握し、列車の使用効率とメンテナン
ス効率を引き上げる。(3)サービス品質を改善し、乗客に情報・Wi-Fi・電子チケットなど
の現代化情報サービスを提供する、ということである。
中国科学技術部(省)の国家科学技術支援計画「中国製高速列車の重要技術の研究および
設備の研究・製造」重大プロジェクトの現場検査会が 2014 年 6 月 7 日に青島市で開かれ、検
査結果は合格となった。同プロジェクトを象徴する成果である、時速 350 キロの高速列車
CRH380 シリーズはすでに京滬高速鉄道、京広高速鉄道などの主力設備となっており、その
安全運行距離は 4 億キロ以上(地球 1 万周分)に達する(15)、ということである。
同プロジェクトは、中国科学技術部と中国旧鉄道部が調印し共同実施した「中国高速列車
自主革新連合行動計画」の主要内容である。同プロジェクトには、高速列車とその関連する
けん引・電力供給システム、運行制御システム、輸送組織システムの中心的かつ重要な技術
(13) 2014 年 7 月 3 日付「人民日報海外版」の伝えたものによる。
(14) 2014 年 6 月 25 日付「人民日報」の報じたものによる。
(15) 2014 年 6 月 9 日付「人民日報海外版」の伝えたものによる。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
69
の難関突破、およびシステム・設備の開発といった 10 の課題が設定された。
中国航天科工集団公司第二研究院第 706 研究所が 2014 年 4 月 1 日に発表した情報によると、
同研究所の宇宙ソフト検証センターが担当した「高速列車用ソフト検証プロジェクト」が画
期的な進展を実現した。このソフト検証という「身体検査」を受けた多くの高速列車安全制
御ソフトは、欧州の鉄道基準の最高ランクの認証を取得した。
専門家は、「これは中国の高速列車用ソフトの品質が認められたことを意味し、関連商品
も正式に欧州・国際市場に進出するための通行証を取得した」と語った。
高速列車が安全かつ安定的に運行できるかは、列車の安全制御システム・ソフトの信頼
性や安全性と強く関連している。同センターの民間用品プロジェクト部部長の趙国亮氏は、
「当センターは 2013 年の初め頃、旧中国鉄道部や関連する鉄道設計研究院と合意書を締結し、
高速列車臨時速度制限サーバソフト、顧客輸送路線の列車制御ソフト、シミュレーションソ
フトなどの重要な安全制御システム・ソフトの検証を担当した」と語った。
ソフト検証のサービスの質を保証し、検証済みのソフトが最高級安全認証の「試験」に合
格できるようにするため、同センターは検証対象ソフトに対して多層的・全面的な「身体検
査」を実施し、ソフトに存在する欠陥を出来る限り多く「診断」した。またシステム検証・
システムインテグレーション検証の面で、検証者は一対一の検査を実施した。これにより検
証の対象範囲、検証例の設計方法などが、欧州の最高クラスの安全認証の要求を満たせるよ
うになった(16)。
また、国家鉄路局技術委員会の審査を経て、同局はこのほど鉄道業界基準「高速鉄道設計
規範」を許可・発表し、2015 年 2 月 1 日より施行した。これは中国の高速鉄道の発展と海外
進出に、系統的・規範的・全面的な建設基準のサポートを提供するものである。同規範は安
全優先の原則を徹底し、高速列車の運行だけでも線路の基礎、橋梁、トンネル、バラストレ
ス軌道、駅、けん引・給電、通信・信号など専門的な細分化により、安全保障機能の設計を
強化した。また、人間本位、利便性、快適性、総合交通など、サービスの質を高めるための
設計上の要求を強調した。高速鉄道建設の全プロセスにおける土地節約、省エネ、節水、建
材節約、環境保護のグリーン建設理念を重点的に反映した。中国の国情、経済・社会の発展
水準、輸送の需要、環境的条件などの要素を結びつけ、合理的な速度、関連設備、専門的な
主要設計データを改善し、複雑な送電網の条件下の高速鉄道運行調整システムの設計、高密
(16) 同センターは中国初の高い安全性・信頼性のソフト検証に従事する専門機関として、有人宇宙事
業や月探査を代表とする国家重大科学技術プロジェクトおよび重点武器の、独立したソフト検証に
成功している。同センターは近年、民間用ソフト検証市場を積極的に開拓しており、北京五輪安全
保障プロジェクト、国家電網情報システム、中国公安部情報システムなどにサービスを提供している。
2014 年 4 月 2 日人民日報が報じたものによる。
70
第 62 卷 第 1 号
度乗客輸送サービスシステムの設計を改善した。これにより技術基準を系統性・先進性・成
熟性・経済的合理性の要求に合致させた。
北京で 2012 年 5 月 29 日に行われた高速列車科学技術イノベーション国際フォーラムで明
らかになったところによると、中国は「第 12 次五カ年計画(2011-2015)」期間中、高速列
車技術の「系統化・知能化・エコ化」という目標を段階的に実現していくとしている。この
目標を達成するべく、今フォーラムでは高速列車産業技術イノベーション戦略連盟が設立さ
れ、科技部の万鋼部長が設立式典に出席し、式辞を述べた(17)。
フォーラムでは、高速列車の科学技術イノベーション、高速列車技術の現状、発展のすう
勢、各国の高速列車技術イノベーションモデルなどをめぐり、幅広い交流が行われたほか、
高速鉄道の安全保障・知能化・省エネ・環境保護などのニーズに応える科学技術イノベー
ションの新たな方向性と任務について話し合いが行われ、また新たな情勢に適応するイノ
ベーションモデルおよび、高速列車の開放・提携・イノベーション能力を向上する手段につ
いて検討が行われた。
第 12 次五カ年計画期間(2011 年― 2015 年)
、中国は知的財産権を有する高速列車を系統
化するほか、適応技術を掌握し、異なる運行条件とニーズを満たす高速列車、従来の鉄道の
高速化技術、国際的な適応性を持つ、大規模生産可能な車両を開発し、世界で最も大規模か
つ多様なニーズと複雑な環境を有する中国の高速鉄道ネットワークの持続可能な運営に向け、
科学技術による全面的なサポートを提供していくとしている。また、中国の高速鉄道のキャ
パシティおよびサービスレベルを全面的に向上させるべく、第 12 次五カ年計画期間中に自
主検査・自主診断・自主判断能力を持つ知能化高速列車システムおよびスマート列車のプロ
トタイプを研究開発することとしている。
2013 年高速鉄道 7 路線が一気に開通したが、中でも渝利線は横方向の重要な路線であり、
長江主流という黄金の水路に沿って走り、長江中下流域をより密接に結びつけるものとなる。
また西安と宝鶏は将来の重要な産業ベルトであり、東の起点を西安北駅、西の起点を宝鶏南
駅とする西宝線は「三縦三横」の路線網で最も北に位置する横方向の重要な路線であり、都
市間の距離を短縮させ、広い範囲で距離の長い人口の流動を強化し、都市間の連携も強化す
るものになる。
高速鉄道の建設が進み、移動が便利になるのに伴い、高速鉄道沿岸への人口の流入が多く
なり、特に観光都市や文化都市への流入が多くなって、観光産業や会議・展示会産業などの
発展を促すことになる。
高速鉄道それ自体が極めて大きな発展の可能性のある産業であることは言うまでもない。
(17) 2015 年 5 月 30 日付「科技日報」の報じたものによる。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
71
中国は土地が広い上に、経済性、安全性、環境保護を追求していく上で、高速鉄道には発展
に向けた他にはない独自の優位点がある。これまでに実施された、中国市場と引き換えに海
外技術を導入して中国高速鉄道企業を育成するという戦略は大きな成功を収めた。中国高速
鉄道は今や独自の技術を数多く備え、世界でもトップレベルにある。
実際、「市場と技術を引き換えにする戦略」だけでなく、国内の高速鉄道建設にみられる
政府と企業が手を結ぶモデルも中国高速鉄道の発展をさらに後押しした。高速鉄道の建設を
めぐって、関連の産業やチームなどが生まれ、高速鉄道の安全な走行を保障する車両運行シ
ステム、独自に配置された信号管理コントロール式システム、建設施工チームなどが発足し
た。
また、時間コストや機会コストを考慮すると、南東地域は産業・経済の発展レベルが高い
地域であり、高速鉄道の密度が自然と高くなり、需要も他の地域より切迫したものとなる。南
西地域と北西地域にはそれぞれの計画があるが、土地が広く人口が少なく、産業と都市の分
布が比較的まばらであることを踏まえ、計画はこれから時間をかけて徐々に進めていく必要
がある。新たに開通した短距離高速鉄道 7 路線は、都市化の推進が鉄道建設や高速鉄道建設
と不可分であることを考えると、これからは西部の発展が重要な役割を演じることになる(18)。
複数の高速鉄道が開通したことにより、珠江デルタ地域、海西経済圏、長江デルタ地域の
三大経済圏を結ぶ南東沿海の高速鉄道の大動脈が貫通しただけでなく、「四縦四横」と呼ば
れる国の高速鉄道旅客路線網がさらに充実することになった。
統計によると、これらの路線が開通して、中国鉄道の営業距離数は 10 万キロメートルを
突破した。高速鉄道は 1 万キロメートルを突破して 1 万 2 千キロメートルに達し、中国は高
速鉄道の営業距離数が世界で最も長く、建設規模も世界で最も大きな国になった。
東北三省から長江デルタまでの距離が高速鉄道によって急速に縮まろうとしている。上海
鉄道局公式サイトによると、2013 年 12 月 28 日 0 時より上海虹橋駅からハルビン駅、長春駅、
瀋陽北駅、大連北駅、深セン北駅まで区間で高速鉄道などが運行を開始した。
料金が高い上に度々遅延する飛行機や乗車時間の長い長距離バス以外の選択肢として、中
国の高速鉄道網が長江デルタと東北三省の直結を初めて実現する。また、在来線と比べて乗
車時間が大幅に短縮される。
直結によって長江デルタと東北三省との間で人材、管理、資本などの経済要素の移動が加
速し、産業接続の速度が加速し、両地域の経済が強化されると専門家は指摘する。
(18) 新たに高速鉄道 7 路線が加わった。西安と宝鶏を結ぶ西宝線、廈門(アモイ)と深センを結ぶ廈深
線、重慶と利川を結ぶ渝利線、衡陽と柳州を結ぶ衡柳線、欽州と防城港を結ぶ欽防線、柳州と南寧
旅客輸送専用路線を結ぶ柳南客専用線、南寧と北海を結ぶ。
72
第 62 卷 第 1 号
上海鉄道局の発表によると、上海虹橋駅からハルビン西駅、長春駅、瀋陽北駅、大連北駅
までの区間、寧波駅から瀋陽北駅までの区間、および上海虹橋駅、南京南駅、杭州東駅、温
州南駅から深セン北駅までの区間で直通の高速鉄道などが開通した。北京―上海間、上海―
南京間、上海―杭州間、合肥―南京間、合肥―武漢間、南京―杭州間、杭州―寧波間の高速
鉄道の運行時間、運行区間を調整し、上海―ハルビン間などの旅客列車の等級を高める。
中国鉄道総公司の乗車券購入サイトを見ると、2013 年 12 月 11 日の場合上海から長春まで
は「K」で始まる列車しかなく、時間は最短でも 28 時間 49 分、最長だと 35 時間 37 分もかかる。
上海鉄道局の発表によると、すでに開通した上海虹橋駅からハルビン西駅までの高速鉄道は
蘇州北駅、無錫東駅、常州北駅、南京南駅、徐州東駅、済南西駅、天津駅、瀋陽北駅、長春
西駅を経由し、所要時間は 12 時間 57 分または 13 時間 07 分であり、往復時間は最速の在来線
と比べて 18 時間 36 分または 18 時間 40 分短縮された。
上海鉄道局によると、上海虹橋駅―長春駅間の往復時間は最速の在来線と比べて 17 時間
22 分または 17 時間 31 分短縮し、上海虹橋駅から瀋陽北駅までの高速鉄道は最速 9 時間 21 分
で、最速の在来線と比べて 16 時間 11 分短縮される(19)。
都市間高速鉄道の開通により各都市の一体化が一段と進み、都市間の分業が一段と明確に
なり、都市の位置づけと機能もより合理的なものになる。また、高速鉄道開通の延伸効果の
1 つが、産業構造さらには経済構造の一層の最適化である。すなわち、企業は製品機能を高め、
イノベーション、サービス、管理、集散機能に力を入れることができる。上海のような中心
都市も生産型都市からサービス型都市への転換を推し進めることが可能となる。高速鉄道の
開通によって、東北三省が長江デルタに行って優れたノウハウを学び、ここ数年やや低迷し
ている経済を後押しする効果も期待されている(20)。
東北三省―長江デルタ間の直通高速鉄道によって、中国の高速鉄道網の建設は一段と完
全なものになる。2008 年の「中長期鉄道網計画」は省都間および大中都市間、環渤海地域、
長江デルタ地域、珠江デルタ地域の三大経済地域間に都市間高速旅客輸送システムを構築し、
(19) 専門家によると、高速鉄道による直結と移動所要時間の短縮は両地域の経済発展にプラスに働く。
条件が整えば、長江デルタの資本は東北三省のプロジェクトをもっと検討対象に入れるようになり、
両地域の人材、技術、管理、土地など各種要素の移動が加速し、東北三省の産業のモデル転換と発
展が促されると予測される。
「経済日報」の報道によると、昨年の武漢―広州高速鉄道の開通によって広東省から湖南・湖北両
省への投資が急増し、遠海産業の内地への移転が加速された。また、高速鉄道両端の武漢、広州両
市は産業移転の促進に関する政策措置を打ち出した。
(20) 専門家は、短期的に見ると、東北三省と長江デルタを結ぶ高速鉄道の開通は、春節連休期間の学
生や労働者の帰郷にもプラスであると指摘した。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
73
旅客輸送専用線 12 万キロ以上を建設するとした。具体的には「四縦四横」である。
現在までに「四縦」のうち「北京・天津から長江デルタ東部遠海経済発展地域までを貫く」
北京―南京―上海旅客輸送専用線、「華北地域と華南地域をつなぐ」北京―武漢―広州―深
セン旅客輸送専用線、「華北地域と東北地域をつなぐ」北京―瀋陽―ハルビン(大連)旅客
輸送専用線、「長江デルタ、珠江デルタ、南東沿海地域をつなぐ」杭州―寧波―福州―深セ
ン旅客輸送専用線はすでに開通した。
2013 年 12 月 9 日夜から 10 日未明にかけて、柳州―南寧高速鉄道、南寧―広州高速鉄道が
南寧駅に順調に到着した。これにより南寧―衡陽間の高速鉄道が全線開通。広西チワン族自
治区の高速鉄道と北京―広州高速鉄道が順調に接続し、中国の高速鉄道は広西チワン族自治
区まで延び、次の段階である中国高速鉄道とベトナム高速鉄道との接続に向けた準備が完了
した。
中国国内の高速鉄道建設は落ち着き、2013-2015 年の鉄道固定資産投資は年約 7000 億とな
り、伸び率は大きくない。しかし、高速鉄道の竣工が相次ぐことに加え、高速鉄道網が完成
して運行密度が高まるため、鉄道設備需要が高い確率で確保され、確実に経済効果をおしあ
げることになろう。
中国鉄道部門によると、2014 年 7 月 1 日、北京と廈門(アモイ)を結ぶ高速鉄道が開通し、
全行程の所要時間は 12 時間 45 分と、北京からその日のうちにアモイに到着することが可能
となった。
2014 年 7 月 1 日午前 0 時、中国鉄道全線で、新ダイヤでの運行がスタートした。今回のダ
イヤ改正では、北京南駅とアモイ北駅を結ぶ高速列車の列車番号「G166/165」が新たに登場
した。北京南駅発アモイ北駅行き高速列車は、同日運転を開始した。列車番号は G165、北
京南を午前 8 時 45 分に出発すれば、同日午後 9 時 30 分にアモイ北駅に到着する。
旅行予約サイト「携程旅行網」によると、北京とアモイを結ぶ列車はこれまで、普通快速
列車 K307 の 1 本のみで、所要時間は 32 時間 8 分であった。今回、新しく高速鉄道が登場し
たことで、鉄道による両都市間の移動時間は約 20 時間短縮された。7 月 1 日以降、北京から
アモイを訪れる観光客は、朝早く北京南駅から高速鉄道列車に乗車すれば、その日の午後 9
時半にアモイに到着可能となり、移動の快適性が大いに高まることになる。
「携程旅行網」の掲載情報では、2014 年 6 月の北京発アモイ行き航空券の価格は、エコノ
ミークラスで 1710 元(約 2 万 8 千円)前後。台海網によると、今回開通した高速鉄道のアモ
イ北駅発北京南駅行きの 2 等席運賃は 829.5 元(約 1 万 3600 円)と、移動費は航空券の半額
以下で抑えられることになる(21)。
(21) 2014 年 7 月 1 日付「人民日報」の報じたものによる。
74
第 62 卷 第 1 号
世界銀行は 2014 年 7 月、中国の高速鉄道の建設費用は世界で 3 番目に低いと評価していた
が、このたび世界で拡張ペースが最速の高速鉄道を再び称賛した。そして、2014 年 12 月 19
日に発表した世界銀行の報告書の中で、中国内陸部の高速鉄道の運行状況について、その将
来性に期待できると表明した。2014 年 12 月 20 日付の香港紙『南華早報』は、「最新の報告
書によると、中国内陸部の高速鉄道の利用者数は昨年延べ 6 億 7200 万人に達し、2008 年の
4 倍に増加した。2007 年 4 月から今年 10 月までに、延べ 29 億人以上が高速鉄道を利用した」
と報じた。
世界銀行は、「中国は世界最大の高速鉄道網を保有し、拡張を続けている。しかし乗車率
を実現できるか否かが、常に議論の焦点になっている。今後 20 年、高速鉄道の利用者数は
急増を続ける」と予想した。更に、世界銀行は、「中国の高速鉄道の利用者の移動距離は、
2013 年に 2140 億キロに達し、全世界のその他の地域の合計を上回り、日本の 2.5 倍、フラン
スの 4 倍となった」と発表した。
また、世界銀行は近年一連の報告書を作成し、中国の高速鉄道の経済に対する影響を評価
している。世界銀行の報告書は、最も利用者の多い線路の一つと、乗車率が低い都市間鉄道
を個別に研究し、高速鉄道事業者の中国鉄路総公司と協力し調査を行ったのである。
世界銀行の交通問題専門家、報告書の著者の一人であるジェラルド・オリビア氏は、「現
段階の成果は喜ばしいものとなっているが、高速鉄道は重大な投資であり、高い乗車率と経
済・財政の論拠の支持を必要とする。同問題を巡り、高速鉄道を保有する都市と緊密に連携
し、駅周辺の開発に取り組むことで、高速鉄道の交通の利便性がもたらすメリットを拡大で
きる」と提案した。
中国は高速鉄道技術の海外輸出に取り組んできたが、同プロジェクトの海外での入札は順
風満帆ではない。メキシコは先月、高速鉄道の落札結果を急遽取り消し、中国企業と締結し
た価値にして 37 億 5000 万ドルの契約を破棄した。2014 年 12 月 20 日付の読売新聞の報道に
よると、中国は「鉄道外交」を展開し、鉄道建設により海外の影響力を拡大しようとしている。
その触覚は、世界に延びている。中国から「運命共同体」と呼ばれた ASEAN、欧州の入口
の中東欧、米国の「裏庭」の中南米から、高い潜在力を秘めるアフリカに届いている。この
戦略は、中国が主導する新たな経済秩序の構築の中で、「先遣隊」の役割を担っている。
第五章 中国の「一ベルト、一ロード」戦略と高速鉄道
第一節 中国の「一ベルト、一ロード」戦略のあり方
2014 年末の時点で、中国高速鉄道の総営業距離は 1 万 6 千キロメートルに達し、2015 年の
年末には 1 万 8 千キロメートルを上回ると予想される。国家幹線鉄道網計画によると、高速
鉄道は今後も急成長を維持する見込みである。都市間鉄道ネットワークの分野では、2014
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
75
年末の時点で、各都市群における都市間鉄道の計画総距離は 2 万キロメートルを上回り、そ
のうち 2016 年から 2020 年に竣工が予定されている距離は 1 万 2 千キロメートルに達すると見
られ、都市間鉄道専用高速鉄道車両に多大な市場ニーズがもたらされる。都市軌道交通シス
テムについては、2014 年末の時点で、全国 37 都市における都市軌道交通システム建設計画
が認可されている。
2015 年 3 月 31 日に国務院からの権限委譲を受て、国家発展改革委員会、外交部(外務省)、
商務部(商務省)は 28 日に共同で、「シルクロード経済ベルトと 21 世紀海上シルクロードの
共同建設推進のビジョンと行動」を発表した。「ビジョンと行動」は次の 8 つの部分で構成
されている。(1)時代背景、(2)共同建設の原則、(3)枠組の構想、(4)協力の重点、(5)
協力メカニズム、(6)中国各地の開放の状況、(7)中国の積極的な行動、(8)美しい未来を
ともに創造する――の 8 部分である。
「ビジョンと行動」はこれらの面から「1 ベルト、1 ロー
ド」の主張と内実を示し、「1 ベルト、1 ロード」の共同建設の方向と任務を打ち出している。
以下ではこの文書から 20 の要点を選び出した。
中央政府は、2014 年 12 月に『一ベルト、一ロード(シルクロード経済ベルト、21 世紀海
上シルクロード)』、『北京・天津・河北の共同発展』、『長江経済ベルト』の 3 大戦略を重点
的に実施すると表明し、2015 年に良いスタートを切ろうとしている。つまり、2015 年以降
の経済成長はおそらく、空間的な配置によってもたらされた新たな成長の極によってけん引
されるということである。
これら 3 大戦略と既存の地域発展全体戦略は、互いに矛盾するわけではない。例えば、長
江経済ベルトは中部・東部・西部をつなぎ、発達した地域が立ち遅れた地域の発展をけん引
するというものである。2014 年 9 月に国務院が発表した「黄金水道に依拠した長江経済ベル
ト発展推進に関する指導意見(ガイドライン)」では、鉄道・道路・航空・パイプラインの
建設を統一的に計画し、総合立体交通回廊を建設すること、および世界クラスの産業クラス
ターと都市群を建設することが提起された。ここからも、地域連動の構想が伺える。
なぜ「1 ベルト、1 ロード」は打ち出されたか
(1)地域協力
開かれた地域協力の精神にのっとり、世界の自由貿易体系と開放型の世界経済を維持する
ことは、国際社会の根本的利益に合致し、人類社会の共同の理想と追求とを示すものであり、
国際協力と世界統治の新たなモデルの積極的な探求であり、世界の平和発展にプラスのエネ
ルギーを加えるものである。
(2)発展戦略のドッキング
コネクティビティプロジェクトは、沿線各国の発展戦略のドッキングと融合を推進し、地
域内市場の潜在力を掘り起こし、投資と消費を促進し、需要と就業を作り出し、沿線各国の
人々の文化交流や文明間の相互参考を高めるものとなる。
76
第 62 卷 第 1 号
(3)中国の世界へのさらなる融合
中国経済と世界経済は現在、緊密に結びついている。中国は、対外開放という基本的国策
をこれまで通り貫き、全方位に開かれた新たな局面を構築し、世界経済体系へとさらに融合
していく。
「1 ベルト、1 ロード」とは何か
(4)「1 ベルト、1 ロード」の協力方向
シルクロード経済ベルトは、中国から中央アジア、ロシアを経て欧州(バルト海)へ、中
国から中央アジア、西アジアを経てペルシャ湾、地中海へ、中国から東南アジア、南アジア、
印度洋への通路を重点として切り開く。21 世紀海上シルクロードの重点方向は、中国沿岸
の港から南中国海、インド洋を経て欧州へ、中国沿岸の港から南中国海を経て南太平洋へと
される。
(5)国際大通路と経済回廊の共同建設
陸上では、国際的な大型ルートを拠り所として、
「新ユーラシアランドブリッジ」や中国・
モンゴル・ロシア、中国・中央アジア・西アジア、中国・インドシナ半島などの国際経済協
力回廊を共同で打ち立てる。海上は、重点港をつなぐ形で、スムーズで安全、効率的な輸送
の大通路を共同建設する。中国・パキスタン、バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー
の 2 つの経済回廊は、「1 ベルト、1 ロード」の建設と密接にかかわっており、協力をさらに
進め、さらなる進展を上げなければならない。
「1 ベルト、1 ロード」をいかに建設するか
(6)政策の意思疎通
沿線各国は、経済発展の戦略と対策について十分な交流と調整を行い、地域協力を推進す
る計画と措置を共同で制定し、協力中の問題の解決を話し合い、実務的な協力と大型プロ
ジェクトの実施に共同で政策支援を提供する必要がある。
(7)施設の相互連結
交通面では、未整備区間を優先的に建設し、滞っている区間の流れを改善し、道路の開通・
到達レベルを上げる。エネルギー面では、国際的な電力・送電ルートをの建設を推進し、地
域送電網のアップグレードや改造での協力を積極的に展開する。通信面では、国際光ケーブ
ルなど通信幹線ネットワークの建設を共同推進し、情報のシルクロードをスムーズ化し、大
陸間海底光ケーブルプロジェクトを計画・建設する。
(8)貿易のスムーズ化
投資・貿易の利便化の問題を解決し、投資と貿易の障壁をなくす。国境通関地の「単一窓
口」(ワンストップサービス)の建設を加速し、通関コストを引き下げ、通関能力を高める。
貿易の新たな成長分野を掘り起こし、貿易の均衡化を促進する。投資の利便化プロセスを加
速し、投資の障壁をなくす。相互投資の分野を拡大し、新興産業の協力を推進する。中国は、
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
77
各国企業が中国に来て投資することを歓迎し、本国企業が沿線国のインフラ建設と産業投資
に参加することを奨励する。
(9)資金の流通
沿線国の二国間の通貨スワップや決済の範囲や規模を拡大する。アジアインフラ投資銀行
や BRICS 新開発銀行の設立を共同推進し、関係各方面は上海協力機構の融資機構の設立に
ついて話し合いを展開する。シルクロード基金の設立・運営を加速する。沿線国の政府と信
用ランクの比較的高い企業、金融機構が中国大陸部で人民元債券を発行することを支援する。
条件に合致した中国大陸部の金融機構と企業は、大陸部外で人民元債券と外貨債券を発行し、
沿線国による調達資金の使用を奨励することができる。
(10)人々の心の意思疎通
教育・文化の分野では、中国は、沿線国に毎年 1 万人分の政府奨学金を提供し、世界文化
遺産を共同申請し、沿線各国の観光客のビザの利便化水準を高め、沿線国による大型国際ス
ポーツ大会の開催を支援する。医療・衛生の分野では、突発的な公共衛生事件を協力処理す
る能力を高め、関連する国に医療援助と緊急医療救助を提供し、伝統医薬の分野での協力を
拡大する。科学技術協力の分野では、連合実験室(研究センター)や国際技術移転センター、
海上協力センターを共同設立し、重大な科学技術の難関突破を共同で展開する。
中国各地はどのような強みを発揮することになるか
(11)西北・東北地域
新疆の独特な地理的優位性と西側に開けた重要な窓口としての役割を発揮し、シルクロー
ド経済ベルトの中核地域を打ち立てる。西安を「内陸型改革開放」の新たな高みへと引き上
げ、蘭州・西寧の開発・開放を加速し、寧夏の「内陸開放型経済試験区」建設を推進する。
ロシアやモンゴルに連なる内蒙古の地理的な優位性を発揮させ、黒竜江のロシア向け鉄道
ルートと地域鉄道網を整備し、黒竜江・吉林・遼寧とロシア極東地域との陸海連携輸送の協
力を促進し、北に向かって開かれた重要な窓口を打ち立てる。
(12)西南地域
ASEAN 諸国と陸と海で隣り合っている広西の独特な強みを発揮し、21 世紀海上シルク
ロードとシルクロード経済ベルトの有機的につながった重要な関所を形成する。雲南の地理
的な強みを発揮し、南アジアや東南アジアへと広がる中心地として建設を進める。西藏(チ
ベット)地域とネパールなどの国との国境貿易や旅行文化協力を推進する。
(13)沿海と香港・マカオ・台湾地域
福建を後押しし、21 世紀海上シルクロードの中核地域を建設する。「広東・香港・マカオ
大湾エリア」を建設する。海外の華僑同胞や香港・マカオ特別行政区の独特な優位性を発揮
させ、「1 ベルト、1 ロード」の建設に積極的に参加する。台湾地区の「1 ベルト、1 ロード」
建設への参加を適切に処置する。
78
第 62 卷 第 1 号
(14)内陸地域
西部の開発・開放の重要な支えとして重慶を建設し、成都・鄭州・武漢・長沙・南昌・合
肥など内陸の開放型の経済的な高台を築く。
「中欧列車」のブランドを樹立し、国内外と東
部・中部・西部の連結の輸送ルートを建設する。
これまでにどのような成果があったか
(15)協力枠組の締結
中国は、一部の国と「1 ベルト、1 ロード」共同建設の協力覚書を締結し、一部の近隣国
と地域協力と国境協力の備忘録、経済貿易協力の中長期発展計画を締結した。
(16)プロジェクト建設の推進
中国は、沿線の関係国との意思疎通・協議を強化し、条件の整った重点協力プロジェクト
を推進した。
(17)政策措置の整備
中国政府は、アジアインフラ投資銀行の設立準備を調整し、シルクロード基金を発足させ、
中国・ユーラシア経済協力基金の投資機能を強化する。銀行カードの決済機構は国際決済業
務を展開し、支払い機構は国境支払い業務を展開する。
さらなる推進に何が必要か
(18)タイムスケジュールとロードマップの制定
中国は沿線国とともに、「1 ベルト、1 ロード」の協力の内容と方式を充実化し、タイムス
ケジュールやロードマップをともに制定し、沿線国の発展と地域の協力計画を積極的にドッ
キングさせる。
(19)理解と賛同の促進
協力研究やフォーラム、展示会、人員研修、交流訪問などの多くの形式を通じて、
「1 ベルト、
1 ロード」の内容・目標・任務などに対する沿線国の理解と賛同を深める。
(20)モデルプロジェクト建設の推進
中国は沿線国とともに、モデルプロジェクトの建設を着実に推進し、二国・多国の利益に
配慮したプロジェクトをともに確定し、各方面が同意し条件が整ったプロジェクトは始動・
実施を急ぎ、できるだけ早い成果の実現をはかる(22)。
「1 ベルト、1 ロード」最大の特徴は「包括性」である。習近平国家主席は 2015 年 3 月 28 日、
ボアオ・アジアフォーラム開幕式での基調講演で大所高所から「1 ベルト、1 ロード」戦略
について詳しく説明したうえで、「1 ベルト、1 ロード」建設のビジョンと行動文書をすでに
まとめたことを発表した。その後、中国側はこの待ち望まれていた文書を対外発表し、「ベ
(22) 2015 年 3 月 31 日付人民日報の報道による。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
79
ルト」はどれほどの幅なのか、
「ロード」はどれほどの長さなのかといった疑問に答えた。
「1
ベルト、1 ロード」はその提唱・推進過程を見ると壮大な戦略、システム工学であり、中国
の特色ある大国外交を構成する一部であり、中国の包括的外交の具体的体現である。「包括
性」は「1 ベルト、1 ロード」戦略の最大の特徴であり、その目的において際立っている。
「1 ベルト、1 ロード」建設は包括的発展を実現し、開放的で、包括的、均衡ある、地域経
済協力メカニズムを共同で築き、国内の沿線民衆が公平な参加機会を共に享受できるだけで
なく、沿線国・地域も発展の成果を共に享受できるようにすることを旨としている。中国側
は中国経済発展の急行列車に各国が乗ることを歓迎し、チャンスと繁栄を共に享受し、協
力・ウィンウィンを実現することを主張している。コネクティビティは発展過程における特
定の国の脱落を防ぐうえで助けとなる。
全体的構想は「包括性」をはっきりと示している。第 1 に「1 ベルト、1 ロード」は推進に
おいて各国の発展戦略と地域協力計画との相互連結を重視する。「1 ベルト、1 ロード」イニ
シアティブは中国の戦略や国力を一方的に波及させ、送り出し、中国の発展の需要への適応
を他国や地域に強いるものでは決してなく、他国や地域の発展戦略と連結して、その発展の
望みと一致するものである。第 2 に「1 ベルト、1 ロード」の推進は共に話し合い、共に建設
し、共に享受する原則を堅持する。
実施計画は「包括性」を強調している。第 1 に協力体制において、現有の二国間または地
域の協力体制・イニシアティブに挑戦し、取って代わろうとするものではなく、現有の地域
協力体制との相互補完を重視している。中国側は二国間共同活動制度の整備と同時に、多国
間協力体制の強化を主張する。第 2 に、協力の重点における「政策面の意思疎通」「施設の
リンク」「貿易の円滑性」「資金の流通」「心のつながり」自体が「包括性」を体現している。
沿線各国は資源環境が異なり、経済的補完性が強く、相互協力の潜在力と空間を「包括性」
の強化によって解き放つ必要がある。第 3 に、協力方法において多様化を重視し、厳格な統
一的参加ルールを定めず、一致性を追い求めず、高度に柔軟で弾力性に富み、多元的で開放
的な協力プロセスである。具体的協力プロジェクトを確定する際には二国間・多国間の利益
に配慮できることに注意し、各国が同意し、条件が整ったものをしっかりと実施することを
強調する。
参加主体は「包括性」を体現している。「1 ベルト、1 ロード」は推進において、イデオロ
ギーで境界を定める「冷戦思考」を捨て、国の親疎遠近による「グループ文化」に染まらな
い。様々な制度、宗教、文明の国がいずれも共同参加できる。「1 ベルト、1 ロード」関係国
は古代シルクロードの範囲を基にするものの、限定はされず、各国、各国際・地域機関いず
れもが参加でき、共同建設の成果はさらに広い地域に波及する。
「1 ベルト、1 ロード」の建設推進は中国の平和発展戦略に合致し、「親・誠・恵・容」の
周辺外交戦略を体現しており、中国が構築を提唱する新型の国際関係の偉大な実践である。
80
第 62 卷 第 1 号
様々な原因、特にユーラシア大陸がかねてから地政学的戦略の「大きな碁盤」と見なされて
きたことから、「1 ベルト、1 ロード」提唱初期に疑問視する声がいくつか上がることは避け
がたい。だが協力・ウィンウィン戦略と包括的外交を堅持するとの中国の姿勢は真摯なもの
であり、排他的利益や勢力範囲は追求せず、自ら衝突を引き起こすこともない。
「1 ベルト、1 ロード」上には様々な試練や危険があり得るが、中国側がそれを恐れて止め
ることはない。いつか「1 ベルト、1 ロード」戦略への理解と支持は広がるであろう。包括
的外交こそが最も生命力ある外交であり、「包括性」が「1 ベルト、1 ロード」戦略を持続可
能な戦略にするからである。
「1 ベルト、1 ロード」戦略はどのように進んでいくのか。概括すれば、それは「復興―あ
まねく広がる―革新」の三部曲であると言える。
まず、シルクロード文明の復興である。古代の陸海のシルクロードは東洋と西方を結ぶ中
国の「国道」であり、中国、インド、ギリシャの 3 つの文明の合流する懸け橋でもあった。人、
文化、社会の交流プラットフォームであるシルクロードにおいて、様々な民族、様々な人種、
様々な宗教、様々な文化が合流し、融合し、長年の交流の過程において各国は「団結・相互
信頼、平等・互恵、あまねく広がる・相互参考、協力・ウィンウィン、異なる人種、異なる
信仰、異なる文化的背景の国々による平和の共同享受、共同発展」というシルクロード精神
を形成した。今や「1 ベルト、1 ロード」がグローバル化時代においてシルクロード精神を
復興しつつある。
次に、グローバル化のさらに「あまねく広がる」方向への発展を後押しする。伝統的なグ
ローバル化は海から始まり、沿海地区、海洋国家が先に発展し始め、陸上国家は後れを取り、
大きな貧富の格差を形成した。伝統的なグローバル化は欧州が切り開き、米国が大いに発揚
し、国際秩序の「西洋中心論」を形成し、東洋が西洋に従属し、農村が都市に従属するといっ
た一連の結果を招いた。今や「1 ベルト、1 ロード」が世界のリバランスを後押ししつつある。
「1 ベルト、1 ロード」は西への開放を奨励し、西部開発および中央アジア諸国、モンゴルな
ど内陸国家の開発を先導し、グローバル化のあまねく広がる発展の理念を国際社会に行き渡
らせる。同時に、「1 ベルト、1 ロード」は自らの質の高い生産能力と比較優位産業を主導的
に西へと広げる中国の戦略であり、沿線国、沿岸国にまず利益をもたらすとともに、中央ア
ジアなどシルクロード沿線地帯が東西貿易、文化交流の通路に過ぎず発展しなかったという
歴史的状況も変える。これは欧州式グローバル化がもたらした貧富の格差、発展の地域間不
均衡を乗り越え、平和が永続し、共同繁栄する世界の構築を後押しするものである。
最後に、人類文明を革新し、協力の新理念を探る。「経済ベルト」という概念自体が地域
経済協力モデルの革新であり、このうち中国・ロシア・モンゴル経済回廊、新ユーラシア大
陸ブリッジ、中国―中央アジア経済ベルト、バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経
済回廊などは、経済成長軸によって周辺に波及し、伝統的な開発経済学の理念を超越するも
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
81
のである。中国は世界最大の貿易国であるが、非同盟政策を遂行し、海洋の覇者である米国
との新型の大国関係の構築を打ち出している。中国は 21 世紀の海洋協力の新理念も打ち出
し、水上運輸、物流、安全協力モデルの革新を主張し、港湾の共同建設・享受などの方法を
通じて、海上と陸上のシルクロードの連結を進めている。「21 世紀の海のシルクロード」の
重要な点は「21 世紀」にある。これは中国が海洋への拡張、衝突、植民地支配というかつ
ての西側列強の道を歩まず、米国の海洋覇権との対抗というよからぬ道も歩まず、伝統的グ
ローバル化のリスクを効果的に回避し、調和的共生、持続可能な発展という新型の海洋文明
を切り開こうとすることを示している。
すなわち、「1 ベルト、1 ロード」は共同建築、共同享受、ウィンウィンの理念を強調し、
開放と「あまねく広がる」の原則を強調するものである。これは沿線国、沿岸国に対して、
地域の既存の協力メカニズムとの共存を要求するだけでなく、露米欧日など域外勢力を排除
するのではなく、互いに受け入れ合うことも要求する。これは「中国の夢は素晴らしい生活
を追い求める世界各国の人々の夢と相通じる」との理念を行動によって実践するものである。
要するに、世界の日増しに増加する需要と後れを取ったグローバル化供給との間の矛盾が、
中国の発展と「1 ベルト、1 ロード」建設の動力である。この理念に従い、シルクロード文
化を広め、シルクロードのストーリーをうまく語り、シルクロード精神を明らかにすること
82
第 62 卷 第 1 号
が、シルクロード・パブリック・ディプロマシーの努力の方向に向かわせるべきである(23)。
第二節 中国の「一ベルト、一ロード」戦略における高速鉄道の進出
「高速鉄道外交」は 2013 年、メディアが中国の外国との経済・貿易協力および対外関係を
紹介する際に、頻繁に使用するキーワードとなった。李克強総理が高速鉄道の「セールス」
に出かけ、中国とタイは「米と高速鉄道を交換」とされる提携意向をまとめた。中国はまた
英国の高速鉄道建設、セルビアとハンガリーを結ぶ高速鉄道の共同建設に加わり、ルーマニ
アと高速鉄道を巡る提携を決定した。
「高速鉄道外交」はメディアの目を引きつけており、
「ピ
ンポン外交」、「パンダ外交」に続く、中国の外交とイメージを示す新たな名刺になった。
この 2 年間、中国がこれまで積み上げてきた大量の技術をもとに、各国の高速鉄道技術の
長所を融合させて作り上げた中国高速鉄道技術や設備は世界でもトップレベルに達し、国際
(23) およそ 600 年前に、世界最大の商業貿易圏がアジア・太平洋地域で形成された。当時、鄭和が「西
洋下り」を成功させたことから、中国はアジア・太平洋地域の各国との間にパートナー関係を積極
的に構築し、自由貿易を促進し、対外交流に従事した。つまり、当時はすでに今日のアジア・太平
洋自由貿易圏が形成されていたということで、しかもこれはコロンブスが新大陸を発見するより 90
年ほど早かった。
2013 年に中国の習近平国家主席が提起した「1 ベルト、1 ロード」の発展戦略には、シルクロー
ド経済ベルトと 21 世紀海上シルクロードが含まれている。この発展戦略は広い範囲での協力発展と
いう「壮大な計画」であり、アジア・太平洋地域と中央アジアをカバーし、ヨーロッパ大陸を貫ぎ、
果ては遙か遠くのアフリカにも達する計画である。
その後、2014 年 11 月には、中国はアジア太平洋経済協力(APEC)の開催国として、北京での
APEC 首脳会議の開催中に、またその後のオーストラリア・ブリスベンでの G20 サミット(主要 20
カ国・地域首脳会合)の席で、
「1 ベルト、1 ロード」構想を披露した。21 世紀海上シルクロードは「鄭
和の西洋下り」の現代版のようである。
アジア・太平洋地域の国と地域には、信仰の違い、民族の違い、経済発展レベルの違いがあり、
協力発展を進めようとしても事はそれほど簡単ではない。こうした背景の下で中国が 21 世紀海上シ
ルクロード建設をうち出したことには歴史的な意義がある。21 世紀海上シルクロードはアジア・太
平洋地域の協力発展に新たな道を提供しており、自由貿易区の延伸計画であるといえる。
中国は協力発展の革新的計画ではまずコネクティビティをうち立てることが必要だと強調した。
言い換えれば、インフラ建設ということである。この一歩を実現するために、中国は率先してアジ
「1 ベルト、1 ロード」がスーパー
アインフラ投資銀行(AIIB)とシルクロード基金を設立した。将来、
レベルの自由貿易区になると想像がつく。
アジア・太平洋自由貿易圏(FTAAP)と同様、「1 ベルト、1 ロード」のルートマップができあが
るまでには、多くの紆余曲折があることは間違いない。「1 ベルト、1 ロード」という自由貿易圏の枠
組は関係するすべての国の基準や条例に合わなければならず、発展のアンバランスがもたらすマイ
ナス要因を克服しなければならず、ハードルを下げた標準的なルールを制定することが必要になる。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
83
舞台での影響力も日増しに強くなっている。そんな中、中国高速鉄道は積極的に世界市場の
開拓を始め、李克強総理も自ら「トップセールス」を手掛けている。また、中国南車集団
と中国北車集団の合併により、中国の高速鉄道や軌道交通装備業は、「メードインチャイナ
(made in China)」から「クリエイテッドインチャイナ(Created in China)」への転換が加速
されたほか、中国高級装備産業のアップグレードが強力に推進されるなど、勢いが加速され
た。
中国の高速鉄道の海外進出と、「高速鉄道外交」が国際舞台に上がったことは、中国経済
の急発展に伴う必然的な結果であると言えよう。2008 年 8 月に中国 1 本目の高速鉄道「京津
都市間鉄道」が開通してから、中国の高速鉄道の運営距離は現在すでに 1 万キロを突破し、
世界最長となっている。中国の高速鉄道はコストパフォーマンスが高い。海外の高速鉄道建
設費は 1 キロ当たり 5000 万ドルに達するが、中国のそれは 3300 万ドルのみである。導入・
消化・吸収・革新を経て、中国の高速鉄道技術は世界先進水準に達している。中国の高速鉄
道はさまざまな条件下で長期的に運行でき、安全で信頼性も高いことから、中国の高速鉄道
技術は世界各国、特に開発途上国にとって魅力的である。高速鉄道の海外進出、中国の「高
速鉄道外交」の展開は、まさに最高のタイミングであった。
発展を求め、インフラを整備し、産業水準を高める。協力を促し、鉄道網の連結を加速
し、地域内の協力を推進する。これはすでに、世界の流れとなっている。中国の高速鉄道の
海外進出と「高速鉄道外交」は、まさに世界の発展の需要に合致していると言える。高速鉄
道は産業チェーンが長く、経済面で幅広い影響力と強いけん引力を持つことから、各国の発
展目標実現の有力な武器になっている。世界各国は近年、高速鉄道の発展計画を相次いで制
定している。高速鉄道市場は近年、発展を続けており、今後の見込みも明るいとされている。
世界の高速鉄道市場は 2013 年の 1023 億ドルから 2014 年には 1120 億ドルに増え、2019 年ま
でに 1334 億ドルに達する見込みであり、世界の高速鉄道市場では、ASEAN 諸国が中国・日
本・フランス・ドイツなどの技術強国が激しい戦いを繰り広げる場所の一つとなっている。
関連機関の予想によると、2020 年までに世界の高速鉄道の運営距離は 3 万キロ以上追加され、
高速鉄道の直接投資額が 1 兆 1000 億ドルに達する。これは各国の経済発展を力強くけん引し、
各国の経済の持続可能な発展の堅固な基礎を築くことになろう。コストパフォーマンスの高
い中国の高速鉄道は、各国の重要な選択肢となっている。
中国は世界最大の高速鉄道網を保有する。この鉄道網は、巨大な国家と共に成長している。
政府はさらに力強い拡張計画を策定し、高速鉄道の海外輸出を目指している。中国が「高速
鉄道外交」を積極的に展開するのは、中国の産業のモデルチェンジ・アップグレード、経済
のさらなる発展の促進の客観的な需要によるものである。中国の高速鉄道の海外進出は、近
年になり豊富な成果を手にしている。中国は 2009 年にロシア・米国と、高速鉄道発展に関
する提携覚書を締結した。中国は 2010 年末までに 50 余りの国・地域と高速鉄道の提携関係
84
第 62 卷 第 1 号
を結んだ。提携意向書に署名した国には、イラン、ラオス、タイ、ブラジルなどが含まれ、
契約金額は 260 億ドルに達している。
中国の高速鉄道の発展は、中国経済の労働集約型から技術集約型への変化の縮図である。
中国が「高速鉄道外交」を積極的に推進し、中国の高速鉄道の海外進出を推進することで、
国内の余剰生産能力を消化し、国内産業のアップグレードを促進できる。中国の対外貿易の
製品構造にも変化が生じ、中国は徐々に「シャツを飛行機と交換」から、「高速鉄道を米と
交換」、「高速鉄道を牛肉と交換」という新時代に移りつつある。
中国の積極的な「高速鉄道外交」の推進は、中国の地域協力促進、ウィンウィンの深化に
向けた重要な措置である。中国の「高速鉄道外交」は各国の関心事に配慮しており、相互補
完を実現し、両国・各国に利益をもたらす。また中国と関連国の各分野の協力と融合を促し、
貿易のアップグレードを実現し、利益の融合を深化する。さらには人の流動を奨励し、文化
交流を促進し、友好の絆を形成することが期待されている。
中国の先端設備製造業を引っ張る高速鉄道産業が全方位的な発展段階に入ったことがわか
る。東に向かっては、中国・ブラジル・ペルーの 3 カ国は大西洋と太平洋をつなげる両洋鉄
道で協力することになっており、3 カ国共同のワークチームを設けることが提案されている。
南に目を向けると、タイの高速鉄道プロジェクトが再開され、タイの軌間が中国との連結に
向けて調整されていることは、中国とタイの高速鉄道の協力が一歩前進したことを示してい
る。またインドの巨大な軌道交通市場への進出も進んでいる。西に向かっては、欧州各国と
軌道交通の改善で共通認識を達成し、中国南車の製造した高速列車ユニットが初めて欧州市
場に進出することになっている。北を見ると、モンゴルとの共同プロジェクト「両山鉄道」
(アルシャン・チョイバルサン)が確定しており、中露ハイレベル会談でも中国の高速鉄道
プロジェクトの発展が推進されている。
中国は今後、他国の高速鉄道建設を支援すると同時に、3 本の戦略的な高速鉄道路線を構
築する計画となっている。ロシアを通じて欧州につながるユーラシア高速鉄道、ウルムチか
ら出発して中央アジアを通りドイツに至る中央アジア高速鉄道、昆明から出発して東南アジ
ア諸国を連結しシンガポールに達する汎アジア鉄道である。
李克強総理は 2014 年 12 月セルビアで中国・中東欧首脳会談に出席した際に、関連諸国と
覚書を調印し、ベオグラードとブタペスト間を結ぶ鉄道を共同建設することになった。中国
はこの鉄道を、中国と欧州を結ぶ高速輸送ルートにしようとしている。李総理は中東欧 16
カ国の首脳と分・秒刻みの会談を行い、会談後に中欧陸海高速ルートを建設し、ハンガリー
とセルビア間を結ぶ鉄道とギリシャのピレウス港を連結させる構想を発表した。鉄道建設は
中国政府の海外インフラ投資の拡大、資源の安定供給の確保、地域の影響力の拡大の「最強
のツール」であり、中国西部・中央アジア・欧州を結ぶ「シルクロード経済ベルト」にとっ
て不可欠である。中国の高速鉄道が海外進出するコア競争力は何か。最も際立つのはコスト
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
85
面での強みである(24)。
また、国務院の李克強総理とロシアのメドベージェフ首相は 2014 年 10 月に第 19 回中国・
ロシア首相定期会合を共同で主催した。会合では、双方が「モスクワ―カザン」高速鉄道発
展協力覚書に調印し、この高速鉄道プロジェクトを発展させ、最終的に北京へ延伸させるこ
とで合意した。この合意により、総延長が 7 千キロメートルを超える高速鉄道が誕生して北
京とモスクワを結ぶことになり、北京から鉄道でモスクワに行く場合、これまで 6 日間ほど
(24) 南車集団(グループ企業)の関係者によると、時速 300km の高速列車ユニットについて言えば、
中国製品の価格は海外製品よりも 30 %前後低い。中国企業は卓越したコスト制御能力を持ち、一方
には労働力の低コスト、もう一方には国内産業チェーンの低コストがある。中国は現在、世界で最
も整った高速列車ユニットの製造産業チェーンを誇り、海外と同質の部品をより低い価格で調達す
ることができる。データによると、高速鉄道の建設コストは国外では 1km 当たり 0.5 億ドルであるの
に対し、中国は 0.33 億ドルにとどまり、その差は 3 分の 1 に達する。工事と車両の 2 つのコストを総
合すると、中国の高速鉄道の建設費用は国外の 2 分の 1 から 3 分の 1 ですむ。納期の優位性も軽視で
きない。アルゼンチンの高速列車ユニットプロジェクトを例に取ると、発注を受けた年中の設計・
納品を実現した。中国の高速鉄道列車企業だけしかできない離れ業である。中国の高速鉄道は製品
ラインナップも最も揃っており、時速は 140km から 380km まで 8 種類の等級の製品がある。中国南
車は現在、次世代の高速列車ユニットに向け、時速 500km の高速試験車両を研究開発している。中
国はさらに、世界の総走行距離の 50 %を占める高速鉄道網を持ち、世界最大の運営データバンクを
誇る。これらすべては、中国の高速鉄道の輸出実現を後押しする要素となっている。
86
第 62 卷 第 1 号
かかっていたのが 2 日間に短縮されることになる(25)。
国務院の李克強総理がロシアの広大な大地へと中国の高速列車を発進させたい考えを示し
(25) メディアの分析によると、この高速鉄道の建設は中国と隣国の関連産業に相当な利益をもたらす
という。また中国の西北内陸エリアの貿易上の地位を向上させ、中国製品を西アジアや欧州で販売
する上での便宜をもたらし、シルクロードの復活にプラスになるという。だが問題点もある。
問題点 1:マイナス 40 度の極寒に耐えられるか
同鉄道のロシア区間は緯度が非常に高い。ほとんどの部分が北温帯に属すとはいえ、鉄道は寒冷
な気候で、冬が長く、亜寒帯気候に属するシベリア地域を通過しなければならず、鉄道建設の技術、
設備、車両には高い要求がつきつけられる。
中国北車株式有限公司の関連部門の責任者は 2014 年 10 月 16 日に取材に答える中で、「単に技術的
な面でいえば、中国には高緯度の寒冷エリアで高速鉄道を建設・修理する能力が完全に備わってお
り、大連から哈爾濱(ハルビン)に至る高速鉄道がそのよい例証である。中国北車は中国国内で唯一、
高緯度・寒冷エリア向け高速鉄道車両を提供する企業であり、製造する高緯度・寒冷エリア向け高
速鉄道の許容最低温度はマイナス 40 度で、防雪密閉性、断熱保温性、空調による暖房、水系統の凍
結防止などに関する技術的要求も満たしている」と話している。
問題点 2:予算は 1 兆 5 千億元
鉄道専門家の大まかな算定によると、北京からモスクワに至る鉄道の総延長は 7 千キロメートルを
超え、この高速鉄道に出資するのがロシアであれ中国であれ、建設には一体どれくらいの資金が必
要になるのだろうか。先に発表された研究報告では、高速鉄道の建設コストの計算について次のよ
うな見方が示された。海外での高速鉄道の建設修理をみると、1 キロメートルあたりのコストは 0.5
億ドル(約 53 億円)に達する。中国の高速鉄道技術はコストを抑えることに成功しており、1 キロメー
トルあたりのコストは 0.33 億ドル(約 35 億円)である。7 千キロメートルを上回る新高速鉄道の建設
修理コストをざっと計算すると、中国以外の国が手がける場合は 3500 億ドル(約 37 兆 1525 億円)以
上になるが、中国が手がける場合は 2300 億ドル(約 24 兆 4145 億円)以上、人民元に換算すると 1 兆
5 千億元(1 元は約 17.4 円)以上となる。
問題点 3:技術と資源と引き換え
北京―モスクワ高速鉄道が議事日程に上がっただけでなく、その他の高速鉄道数本も準備が進め
られている。国境を越えた高速鉄道は関係国が多く、沿線各国が建設に出資する、運営に関わると
いった問題が出てくる。このため国境を越えた高速鉄道では協力をめぐる問題の解決が欠かせない。
中国工程院(工学アカデミー)の王夢恕院士は取材に答える中で、「こうした国境を越えた高速鉄
道の建設には原則がある。中国側が資金を出し、技術を出し、設備の建設を出し、完成後は沿線各
国が運営に参加するという原則である。この過程で、中国側は関連各国と話し合いを進め、高速鉄
道の建設修理と引き換えに現地の資源を獲得すこととし、そのために長期的に効果を上げる協力メ
カニズムを構築して、中国が資源を利用できるよう保障する」と述べた。また王院士は、「目下計画
中の国境を越えた高速鉄道数本は、こうした理念に基づいて話し合いと作業が進められている。『技
術と資源との引き換え』という方法により、中国と周辺諸国との連携が進み、各国間の貿易往来が
スムースになるほか、中国は自国に不足する資源の輸入が保障され、石油や天然ガスの輸入ルート
の運営がスムースになる」と述べた。2014 年 10 月 20 日付人民日報の報道による。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
87
ているようである。新華社によると、李総理のロシア訪問中、中国発展改革委員会とロシア
運輸省、中国鉄路総公司、ロシア鉄道の 4 者は、高速鉄道での協力覚書を締結した。北京か
らロシアへのユーラシア高速輸送回廊の構築を推進し、モスクワ・カザン間の高速鉄道プロ
ジェクトを優先的に実施することで両国が一致した。
李総理とともにロシアを訪れている人員の中には、中国南車と中国北車の上層部も含まれ
る。中国の高速鉄道車両のメーカーが総理とともに海外を訪れて高速鉄道を売り込んだのは
今回が初である(26)。ロシアが西側のこれまでになく厳しい経済制裁を受ける中、中国国務院
の李克強総理のロシア訪問には高い期待がかけられた。中露両国は各レベルの戦略協力関係
を深めていく見込みである。2014 年 10 月 13 日、李克強総理とメドベージェフ首相の見守る
中、中国発展改革委員会とロシア運輸省、中国鉄路総公司、ロシア鉄道の 4 者は、高速鉄道
についての協力覚書を締結した。北京からモスクワへのユーラシア高速輸送回廊の構築を目
指し、モスクワからカザンの高速鉄道プロジェクトをまず実施することになっている。新シ
ルクロードの建設プランの一つであるモスクワから北京までの高速鉄道は、全長 7000km を
超えるものと推計され、ロシア・カザフスタン・中国の 3 カ国をまたぐ国際鉄道となる。モ
スクワ・カザン区間の高速鉄道は、中露の首都をつなぐ鉄道交通の先行プロジェクトとなる。
運営開始後は、モスクワとカザンの両地をつなぐ列車の所要時間は 11 時間 30 分から 3 時間
30 分に短縮されることになる。
以上のように、中露間の経済貿易協力で大プロジェクトでの協力に焦点が当たっているの
は、両国がそれぞれ際立った比較優位を誇っているためである。ロシアには非常に豊かなエ
ネルギーと資源があり、これは中国に必要なものであり、一方のロシアは、中国が持つ巨大
な市場と経済の急速発展によって蓄積されてきた技術と資本を必要としている。とりわけ西
側がロシアに経済制裁を加えている中、ロシアは、中国が持つ資本と高速鉄道などのインフ
ラ建設でのハイテクへの重視を強めている。
李総理は 2013 年 10 月には自らの「高速鉄道外交」を始め、タイ、オーストラリア、中欧・
東欧、アフリカ、英国、米国などに中国の高速鉄道をすでに売り込んでおり、国際的な高い
注目と論議を呼んでいた。李総理は、2013 年 10 月のタイ訪問の際には、中国には高速鉄道
の進んだ建設能力と豊富な管理経験があり、両国の鉄道建設の協力強化には大きな潜在能力
があり、中国側は積極的な協力の意向があると呼びかけた。同月には、北京でオーストラリ
アのブライス総督に会い、オーストラリアでは同国初の高速鉄道の建設が検討されている
が、中国にはこの分野に強く、協力の意向を持っていると伝えた。李総理はそのわずか 1 カ
(26) 業界筋は、中国の高速鉄道輸出は戦略的配置だけでなく、戦術的推進の段階にも入っており、国
家レベルの呼びかけにとどまらず、企業の商業参加にも表れ始めていると指摘した。
88
第 62 卷 第 1 号
月後、ルーマニア首相と会談し、ルーマニアでの高速鉄道建設での協力を決定した。さらに
同年 12 月、英キャメロン首相とのロンドンでの年次会談で、中国は原子力発電や高速鉄道
などの分野で安全な技術と高いコストパフォーマンスを誇っており、両国は協力強化で広大
な可能性を持ち、第三の市場を共同開発することもできるとアピールした。2014 年に入っ
てから李総理の「高速鉄道外交」はさらに集中的に行われた。2014 年 5 月にエチオピアを訪
問した際にも中国の高速鉄道を売り込み、アフリカに高速鉄道の研究開発センターを作るこ
とを提案した上、アフリカの道路・鉄道・電信・電力など各事業の建設に積極的に参加した
いとの意向を伝えた。
中国の首脳は昨年より、世界との経済・貿易の交流において、中国の高速鉄道技術を積極
的に PR している。特にシルクロード経済ベルト、21 世紀海上シルクロードの大構想におい
て、中国の高速鉄道は世界との経済・貿易協力における「切り札」として世界に示されている。
中国国務院の李克強総理は 2013 年以来、英国、ルーマニア、タイ、エチオピアの各国を
訪問した際に相次いで高速鉄道プロジェクトに言及している。2014 年の夏には、中国企業
が建設に参加したトルコの首都アンカラとイスタンブールを結ぶ高速鉄道の第 2 期工事が完
成し、中国の高速鉄道が初の海外進出を果たした。
鉄道車両メーカー・中国南車の 2014 年中間報告書によると、同社の上半期の海外業務収
入は前年同期比 125 %増の 45 億 8700 万元(約 800 億円)で、売上高に占める海外収入の割
合も約 15 %に達した。国有鉄道建設会社・中国鉄建は、上半期の新規契約額が前年同期比
72.57 %増の 1291 億 7400 万元(約 2 兆 2860 億円)に達したが、これも主に海外鉄道プロジェ
クトの大幅増によるものである。
中国とタイは 2013 年 10 月、「コメと高速鉄道を交換」と称される協力覚書に調印した。中
国とルーマニアは 2013 年 11 月、高速鉄道建設の協力を宣言した。中国はハンガリーとセル
ビアの首都を結ぶ高速鉄道プロジェクトに参与することになった。
中国南車と欧州のマケドニアは 2014 年 6 月 24 日、6 編成の高速列車の売買契約に調印した。
中国の高速鉄道が、初めて欧州に輸出されたことになる。トルコの首都アンカラと最大の都
市イスタンブールを結ぶ高速鉄道 2 期プロジェクトが開通した。これは中国が海外で建設に
参与した、1 本目の高速鉄道である。また中国の列車製造メーカーと土木工学企業は、南米、
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
89
サウジアラビア、ロシアなどで高速鉄道プロジェクトに参与し、入札参加を計画している(27)。
高速鉄道の輸出は、産業チェーン全体の輸出を意味する。これにはプロジェクト建築、設
備製造、車両、メンテナンスなどの各産業が含まれ、いずれも大きな利益を手にする。国家
経済にとっても間違いなく朗報であると言えよう。
タイから東欧、さらにはアフリカにいたるまで、中国国務院の李克強総理は、外遊すれば
必ず、訪問先国での高速鉄道の売り込みに余念がない。李総理は 2014 年 1 月 5 日、中国が資
金援助を行って建設されたアフリカ聨合会議センターにおいてスピーチを行い、アフリカ諸
国の指導者を前に、「高度な技術」、「万全の運営方式」、「品質はお墨付き」、「高いコストパ
フォーマンス」、「国際市場からの高い評価」という 5 大優位性を列挙、中国高速鉄道の素晴
らしさを大いにアピールした。
国家トップクラスの「高速鉄道セールスマン」の役割を担う李総理の背後には、5 年にわ
たり推進されてきた中国の高速鉄道「海外進出」戦略がある。
中国高速鉄道「海外進出」戦略は、「新疆ウイグル自治区を起点に南側のルートから欧州
に達する大陸間高速鉄道の敷設」、「東北地方を起点に北側のルートから欧州に達する大陸間
高速鉄道の敷設」、「昆明を起点に東南アジア諸国を貫きシンガポールに直接つながる高速道
路の敷設」の三本柱で構成されている。中国政府は、さらなる長期計画として、ロシア、カ
ナダ、米国と協力して、ベーリング海峡を跨いで総距離 1 万キロメートル以上に及ぶ、アジ
ア大陸と北米大陸を結ぶ高速鉄道の敷設を計画している。
国際高速鉄道の建設においては、「中国が資金、技術、設備を投入して建設する。完成後、
経由国が運営に参加する」という大原則がある。このプロセスにおいて、中国は関係国と協
議し、高速鉄道の建設事業と引き換えに現地の資源を獲得する。中央アジアや欧州の石油や
天然ガス、ミャンマーのカリウム鉱などが一例で、これにより長期的な協力体制を確立し、
(27) 統計データによると、中国北車と中国南車の 2014 年上半期の輸出契約額は、45 億ドル以上にのぼっ
た。中投顧問交通業界研究員の蔡建明氏は、
「中国の高速鉄道の海外進出は、高速鉄道の関連メーカー
に大きな発展のチャンスをもたらしている。これは数字によって示されており、関連技術の成熟も
海外進出の重要な要素になっている」と分析した。
中国北車の海外市場担当者は、「海外の鉄道建設市場、車両更新市場、メンテナンスサービス市場
に、大きな成長の空間が残されている。そのうち南米、中欧・東欧、ロシア語圏のレール交通設備
が車両更新のピーク期に入っており、巨大な潜在力を秘めている。アフリカでは機関車、貨物列車、
普通列車の需要が拡大している。この市場はスタート点が低く、上昇の大きな空間が残されている」
と指摘した。
蔡氏は、「高速鉄道産業が巨大な市場の価値を秘めているため、技術開発、設備製造、プロジェク
トの計画、システムの調整、アフターサービス等に多くの企業が集まっている。インド市場を順調
に開拓できれば、中国の設備製造業は新たな爆発的な成長を迎えるだろう」と予想した。
90
第 62 卷 第 1 号
中国の資源確保をより確実なものとする。
現在計画中のいくつかの国際高速鉄道はいずれも、上述のコンセプトに基づいて協議や建
設が進められている。「技術と資源の交換」というやり方によって、中国と周辺諸国との関
係強化が促進され、各国間の貿易往来にさらなる便宜が図られる。また、中国国内の希少資
源の輸入が確約され、よりスムーズに石油や天然ガスが確保できるようになる。
いくつかの国際高速鉄道敷設案が発表されると、ただちに各方面から注目が集まった。し
かし、実際に敷設するとなると、ことはそれほど簡単には運ばない。あるメディアは、欧亜
高速鉄道について詳しく分析した結果、高速鉄道敷設において、中国は次の 3 つの課題に直
面することになると指摘した。
1 巨額の資金調達がかなり難しい。欧亜高速鉄道の敷設には、天文学的数字の費用がか
かり、中国一国だけで全額を賄うことは絶対に不可能である。沿線諸国が資金の一部提供を
申し出たとしても、全額を調達することはほぼ不可能に等しい。
2 鉄道運営にも高い壁が立ちはだかっている。十数カ国を通る欧亜高速鉄道をいかにし
て管理運営するかは大きな問題である。運営方針をめぐり経由国の意見が一致しない場合は、
計画を推し進めることは極めて困難となる。
3 解決困難な技術上の問題がある。世界最大の大陸であるユーラシア大陸を横断する欧
亜高速鉄道の沿線の地質環境は極めて複雑で、高い山や険しい谷があれば、大きな河川や湖
もある。複雑な地質環境下を走行する高速鉄道の敷設は、技術面で数々の難題を抱えている。
中国は現在、東南アジア、メキシコ、米カリフォルニア州など、世界各地で高速鉄道建設
の機会を模索している。さらにはシベリアを跨ぐ高速鉄道についても検討中である。中国鉄
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
91
道車両メーカーの中国南車と中国北車も、すでに合併した(28)。この政府主導の再編は、海外
での競争力の強化を目的としている。 20 数カ国が中国と高速鉄道の提携について協議を進
めている。間もなく誕生する巨大企業は、中国の「鉄道外交」を支えることになる。
中国高速鉄道の海外進出が新たな進展を次々と実現している。中国の王毅外交部長(外相)
はボアオ・アジアフォーラムで 2015 年 3 月 28 日に中国とタイが高速鉄道の協力合意をすで
に締結し、中国とラオスの鉄道も推進されているほか、シンガポール・マレーシア間の高速
(28) 中国の 2 大鉄道車両メーカー、中国南車株式有限公司(CSR)と中国北車株式有限公司(CNR)
は 2014 年 12 月 30 日、「対等合併、未来を見据える、業務の規範化」の原則に基づき、合併契約を締
結したことを発表した。商務部(省)と中国証券監督管理委員会の審査をそれぞれクリアした。両
社は株式取引を停止していたが、2014 年 12 月 7 日から上海市場で A 株の取引を再開する。同 2 社は、
独占禁止法の抵触の有無を見定める審査をクリアしたことを伝える、商務部の関連当局が発行した
「審査决定通知」(商反壟審査函[2015]第 19 号)を、3 日にそれぞれ受け取ったという。
また、同日、中国証券監督管理委員会が設置した買収合併・再編審査委員会による審査が行われ、
同 2 社の合併が、無条件で承認された。
同 2 社は 2014 年末に、中国南車が中国北車を吸収合併する形式で経営統合し、新社名を「中国中
車股份有限公司(中国中車)」とする計画を発表した。2015 年 3 月末に発表された財務報告によると、
2 社の総資産額は約 3000 億元(約 5 兆 7 千億円)、昨年度の総売上高は 2240 億元(約 4 兆 2560 億円)、
利益総額は 108 億元(約 2052 億円)であった。
2015 年 3 月 25 日に開かれた国務院常務会議、2 番目の議題は「中国南車・中国北車再編状況報告の
聴取」であった。国務院の李克強総理は、「引き続き国有企業の国有資産改革を加速させ、市場メカ
ニズムの役割を存分に発揮し、強者連合を促進し、資源配置を合理化し、企業法人のガバナンスを
改善し、コア技術の突破と商業モデルの革新を推進し、国有企業の活力を増強し、世界と十分に戦
えるという新たな強みを作り上げる」よう求めた。
ある関係者は、「今回の経緯から、南車と北車の合併がさらに加速することは明らかである。国有
資産監督管理委員会(国資委)は、両社のトップ層との面談を終えた。月末までには、合併後誕生
する新会社『中車股份公司』の新人事が発表される可能性が高い」と明かした。
南車と北車の公告によると、今回の合併では、中国南車が中国北車を吸収・合併するという形式
をとる。合併後の新会社「中国中車股份有限公司(中車)」には、全く新しい企業コードおよび株式
略称・株式コードが割り当てられる。また、中国南車と中国北車のあらゆる資産、負債、業務、従
業員、契約、資格、その他の全権利・義務が新会社に継承される。
両社合併後に誕生する中車の資産総額は 3 千億元(約 5 兆 7 千億円)を上回り、来年の年間営業収
入は 3 千億元前後に達する見通しである。これは、「『高速鉄道の海外進出』は大局の赴くところであ
る。南車と北車の合併は、中国高速鉄道の海外進出に多大な利益をもたらすことになり、世界中に
中国をアピールする『名刺代わり』と言っても差し支えないと言えよう。
92
第 62 卷 第 1 号
鉄道の入札に中国が参加する計画であることを明らかにした(29)。
建設が予定されている中国・タイ鉄道はタイ北部のノンカイと南部の港マプタプットをつ
なぐもので、総延長は 800km 余りに達し、タイ最初の標準軌鉄道となる。すべて中国の技
術や標準、装備を使用し、時速は 160km から 180km に達するものである。
東南アジア地域では、中国・タイ鉄道協力プロジェクトのほか、中国・ラオスの鉄道協力
も積極的に進められている。すでに公表された計画によると、中国・ラオス高速鉄道は総延
長 420km、時速 200km 以内で、建設予算は約 72 億ドルを計上している。完成後、昆明から
ビエンチャンまではわずか 2 時間半となる。計画ではこの鉄道はタイまで伸ばされ、アジア
横断鉄道ネットワークの重要な一部となる。
このほかシンガポール・マレーシア高速鉄道も現在、各国が落札を競う重点プロジェク
トの一つとなっている。2014 年 2 月、マレーシアのナジブ・ラザク首相とシンガポールの
リー・シェンロン首相が会談した際、高速鉄道の共同建設についての合意が達成された。マ
レーシア財務省は、鉄道建設の担当業者をまもなく公開入札の形で選択すると明らかに
し、総延長 300km 余りの同鉄道は、投資額 120 億ドルが予定され、列車の時速は 350km から
450km に達することとし、鉄道完成後、自動車で 6 時間のシンガポールとクアラルンプール
の所要時間を約 90 分に短縮するということである。現在、中国鉄建や鉄三院(鉄道第三勘
察設計院集団)、南車青島四方によって組織された財団が入札参加の意向をすでに明らかに
している。
中国はなぜ東南アジアの鉄道建設への参加を希望しているのか。中国は ASEAN 各国と 21
世紀海上シルクロードを共同建設しているが、東南アジアは『1 ベルト、1 ロード』(シルク
ロード経済ベルト、21 世紀海上シルクロード)の起点であり、必ず通らなければならない
場所となっている。ユーラシア大陸を連結する軌道交通ネットワークの建設を強化すること
は、地域経済のコネクティビティを後押しするだけでなく、地域の幅広い協力の地縁環境に
も有利に働くからである。
これらのプロジェクト以外にも、中国はこれまでも、鉄道関連企業の海外進出を奨励し、
周辺諸国に中国の高速鉄道技術を積極的にアピールしてきた。2015 年 3 月 28 日、ボアオ・
アジアフォーラムに参加していたスリランカのマイトリーパーラ・シリセーナ大統領は習近
平国家主席の提案を受け、高速鉄道に乗って博鰲(ボアオ)から三亜に移動した。シリセー
ナ大統領は中国の高速鉄道の速度と快適さを高く評価した。また李克強総理は 2015 年 3 月
(29) タイのアーコム・トゥームピッタヤーパイシット運輸大臣によると、鉄道の運営は両国の共同出
資の形で行われる。資金源は、タイの財政支出、国内融資、中国側の融資からなる。機関車や鉄道
信号系統、電力系統などはいずれも中国側の技術を採用する。中国とタイは今後、中国側の融資金
利や融資期限、債務期限について交渉をつめていく。
中国の鉄道事業分野における規制改革と競争政策(2)
93
27 日、中国を訪れたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領と会談した際、「インドネシア
が制定した今後 5 年のインフラ建設計画は壮大なものである。中国政府は、中国企業がイン
ドネシアに赴いて高速鉄道やライトレール、臨港産業パークなどのプロジェクトの建設に参
加することを支援する」と述べている。
Fly UP