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朝日生命広島的場町ビル空調熱源 改修工事
── 実 施 例 ── 「朝日生命広島的場町ビル空調熱源 改修工事」の概要説明について 清水建設㈱ 広島支店 設備部 檜 佐 直 毅 ■キーワード/省エネルギー・空調 しかし,今回のような「熱源システムの経年劣化」に 1.はじめに ともなう「経年劣化対策および省エネ・CO2削減」を目 本ビルは,1985(昭和60)年,当社施工により朝日生命 的とした設備機器の心臓部である「空調熱源機器」の大 保険相互会社様所有のテナントビルとして完成した建物 規模改修工事は初めてとなる。 である。広島駅南口から徒歩3分の立地を生かし,テ ナントとして「ホテルセンチュリー 21広島」様が入り, 2.建物概要 地域交流に根付くホテルとして,大切なビジネスに,素 建物名称 朝日生命広島的場町ビル 適な思い出づくりの旅行に最適な場所として憩いの場を 所 在 地 広島市南区的場町1丁目 提供している。 建 築 主 朝日生命保険相互会社 設備改修工事については, 完成後から建物保全を含め, 設計監理 清水建設㈱ 広島支店 一級建築士事務所 都度きめ細かに行っている。 建物用途 ホテル 敷地面積 1,513.38㎡ 建築面積 1,348.38㎡ 延床面積 12,053.98㎡+駐車場663.47㎡ 規 模 地下1階,地上12階,塔屋1階 構 造 SRC造 改修工期 2010年10月〜 2011年3月 施 工 清水建設㈱ 広島支店 3.既存設備概要 3-1 既設熱源システムについて 既設の「熱源システム」は,吸収式冷温水発生 機(180RT×2)1号機と2号機の運転により「温 水」と「冷水」の供給を行っている。 空調供給システムは「熱源システム」である「吸 収式冷温水発生機」から取り出した「温水」と「冷 水」を4管式配管によりポンプ圧送し,各階の客 室ファンコイルに「温水と冷水」を供給し空調を 行っている。 《主要機器》 ・吸収式冷温水発生機(180USRT×2台) ・開放型冷却塔 (180USRT×2台) ・冷水一次ポンプ ×2台 ・温水一次ポンプ ×2台 ・冷水二次ポンプ ×3台 ・温水二次ポンプ ×3台 写真-1 建物外観 ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82 ─ 44 ─ ── 実 施 例 ── 冷水出入口温度差 4.0℃ 以上を基に現状機器能力を下記に示す。 冷却塔 180RT ・機器冷房能力(kW) =冷水流量(㎥/h)×冷水出入口温度差⊿T(℃) 温水 1次ポンプ ×1,000 / 860 温水2次ポンプ =90.5(㎥/h)×4.0(℃)×1,000 / 860 1号機 =421(kW) 吸収式冷温水発生機 冷水 1次ポンプ 180RT 吸収式冷温水発生機 温水 180RT 1次ポンプ ※ 燃料ガス消費量定格49.9㎥/hに対し,実測量 46.5㎥/h 421(kW)×(49.9㎥/h÷46.5㎥/h) 冷水2次ポンプ =452(kW) 2号機 ※ 機器スペックの71.4% 冷水 1次ポンプ ② 2号機 機器能力 180USRT(633kW) 180RT 定格値 冷水流量 109㎥/h 実測値 冷水流量 90.0㎥/h(対定格比 82%) 図-1 既設熱源システム概念図 図ー 1 既設熱源システム概念図 冷水出入口温度差 3.8℃ ・機器冷房能力(kW) 4.機器の劣化診断 =冷水流量(㎥/h)×冷水出入口温度差⊿T(℃) 熱源システムの経年劣化を把握するにあたり, 「既存 ×1,000 / 860 熱源機器の劣化診断」を行う。劣化診断では, 「経年運 =90.0(㎥/h)×3.8(℃)×1,000 / 860 転時間にともなう機器の能力低下」と「機器の冷水流量 =398(kW) に基づく機器能力低下」の2つの診断を行った。 ※ 燃料ガス消費量定格49.9㎥/hに対し,実測量 4-1 「既存吸収式冷温水発生機の経年運転時間」に 46.5㎥/h ついて 398(kW)×(49.9㎥/h÷46.5㎥/h) まず, 当ビルのビル管理会社に「熱源機器の運転方式」 =427(kW) のヒアリングを行った。その結果,下記のような運転方 ※ 機器スペックの67.5% 式を行っていることが分かった。 「現状の機器能力」は,上記より「機器スペックの約 ・11月〜5月(7カ月間)→1号機と2号機の交互運転 70%」の運転能力となっていることが分かる。このこと ※ 想定運転時間 13時間/日⇒2,730時間 により,夏季の最盛期において,施設稼働率が高い時期 ・6月〜10月(5カ月間)→1号機と2号機の同時運転 には運営に支障をきたすのではないかと懸念される。 ※ 想定運転時間 16時間/日⇒2,400時間 * 機器スペックは当時の仕様書を参考に算出 ヒアリングをもとにした想定運転時間は「25年間稼働 以上の「熱源機器の劣化診断」により,建物用途が「ホ し,運転時間は94,125時間」となる。 テル・結婚式場・会議会場等」など多岐にわたる用途に 当時のメーカー仕様書にもとづく一般的な吸収式冷温 より累積運転時間が長く,機器が老朽化していると考え 水発生機の耐用年数を「15年および運転時間30,000時間」 られるため,「熱源リニューアルの方針」を提案した。 にもとづき考察すると,当該熱源機器は「機器耐用年で 10年超過および連続運転時間で64,125時間超過」となる。 以上より,熱源機器は経年劣化が懸念され「能力低下 の診断」を行うこととした。 4-2 「機器の冷水流量に基づく機器能力低下」につ いて 既存「吸収式冷温水発生機」の「機器能力の劣化診断」 を,冷水流量ベースをもとに行った。 ① 1号機 機器能力 180USRT(633kW) 定格値 冷水流量 109㎥/h 実測値 冷水流量 90.5㎥/h(対定格比 83%) ─ 45 ─ ヒートポンプとその応用 2011. 10. No.82 ── 実 施 例 ── このことにより「CO2削減に寄与する高効率な熱源シ 5.熱源リニューアルの方針 ステム」を推奨し,上記新規提案システムを提案した。 ◇省エネルギーを考慮した機器提案について 5-2 機械室のスリム化について 5-1 新規提案システムについて 既設機械室内は「熱源機器と付帯配管」にて圧迫され 新規提案システムを下記に示す。 ており,容易には「メンテナンスによる機器部品交換」 ・水熱源モジュールチラー (210USRT)(主)と吸収式冷 および「付帯配管の更新」などが難しい。 そこで, 「機械室内をスリム化」し,今後の「メンテ 温水発生機(130USRT)(補)にて冷房を行う。 ・吸収式冷温水発生機(130USRT)と既設ボイラを利用 ナンス行為(機器の部品交換)」および「付帯配管更新の した蒸気取り出しの熱交換器処理にて暖房を行う。 簡易化」 ,また「熱源機器の将来対応スペース」の確保 空調供給システムは既設同様, 「吸収式冷温水発生機」 を行う。 から取り出した「温水」と「冷水」を4管式配管により ポンプ圧送し, 各階の客室ファンコイルに「温水と冷水」 を供給し空調を行う。 R 1 熱交換器 S T ×2 既設 ボイラ TE2 DTS 冷却塔 180RT 冷水 ポンプ 水冷HP モジュールチラー 210RT 吸収式 冷温水発生機 温水 130RT ポンプ 5 4 3 DTS 温水 ポンプ ELV ホール TE2 温水2次ポンプ PE ボイラ室 吸収式冷温水発生機 1号機・2号機 空冷HP 冷水2次ポンプ モジュールチラー 25RT 図-3 既設機器配置図 冷水 ポンプ 180RT 既設外気処理 空調機 HEX 1 3 R 1 図-2 新規提案システム概念図 図ー2 新規提案システム概念図 《主要機器》 5 4 R 2 動力盤 ・吸収式冷温水発生機 (130USRT×1台) ・水冷モジュールチラー (210USRT×1台) ELV ホール ・空冷モジュールチラー (25USRT×1台) ・開放型冷却塔 (180USRT×2台)(既存利用) ・冷水一次ポンプ ×2台 ・温水一次ポンプ ×2台 ・冷水二次ポンプ ×3台 ・温水二次ポンプ ×3台(既存利用) 吸収式冷温水発生機 水冷モジュールチラー ボイラ室 図-4 新設機器配置図 上記新規提案システムは, 「熱源機器の分散化」をし ており,機器の故障などによる熱源機器が停止した場合 上記のように,「機器をコンパクト化」し,機械室全 の建物への影響を最小限に抑えるシステムとなっている。 体にスペースを持たすことで「将来対応スペース」を確 「新規提案システム」により「一次エネルギー消費量 保した。 4,400GJ/年」および「CO2発生量215t・CO2/年」の削 また熱源機器用の「動力盤」を機器近傍に自立配置を 減となる。 して,機械室内にてメンテナンスを完結できるようにし また,全体的改修後の「省エネ効果率は,既設に対し た。 熱源機器のみで22.60%の削減」となる。 ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82 ─ 46 ─ ── 実 施 例 ── 6.機器の搬入方法について 1F 天井 最大寸法(冷温水発生機(130RT)分割) 機器選定を行う際に「能力」および「搬入方法」を同 H−250×250 3,100 う。 仮設門型鋼材 1,290W×2,890L×1,860H 2,530 基本搬入は建物内の「搬入用エレベータ」を利用し行 マシンハッチ 車路 2,900D×4,560W 1F スラブ 歩道 時検討した上で,コンパクトであるモジュールチラーお その他配管 扉 空調ダクト スプリンクラー配管 よび2分割型の吸収式冷温水発生機で機器選定を行った。 吸収式冷温水発生機のみマシンハッチから搬入を行う 1,580W×2,190H BF 天井 ものとする。(下記搬入計画図参照) 2,400 照明器具 従業員食堂 廊下 B1F スラブ 歩道 トラック・4t平ボディ車 tレッカー ロビー 15 1,580 フロント 作 業 半 径 4 1 車道 図-7 マシンハッチ部搬入計画図 2 5 3 マシンハッチ 2,900D×4,650H 歩道 立駐ターンテーブル 2,190 図-5 搬入計画図-1⎝電車通り搬入計画⎠ プレート式熱交換器 冷温水発生機 水冷モジュールチラー 扉 図-8 搬入経路図⎝機械室搬入口扉寸法⎠ 設置場所 ボイラ室 10 1,800W×2,740H 9 8 扉 1,800W×2,190H 扉 1,800W×2,420H 11 機械室 冷水・温水一次ポンプ 冷却水ポンプ基礎 1,210 ヘッダバルブ 1,350 7 ケーブルラック・照 廊下 1,960 6 コロ台車 E V 従業員食堂 新規冷温水発生機 (130RT) 扉 1,580W×2,190H 図-9 搬入経路図⎝機械室内搬入寸法⎠ 上部マシンハッチ 図-6 搬入計画図-2⎝機械室内搬入経路⎠ 7.おわりに マシンハッチ下部はテナント食堂となっており,工事 本稿においては,「改修前」と「改修後」の総合的な 工程についてテナントと打ち合わせを行い, 「食堂利用 測定比較が,改修直後ということもあり検証できていな の制限」をかけていただいた。 い。しかし今後,今回工事のコンセプトである「CO2削 食堂上部の「天井開口範囲」を最小限に抑えるため, 減と年間電力使用量の削減」を検証しようと考えている。 事前に機器寸法を抑え最小寸法にて搬入を行った。 今回の工事において,ご理解・ご協力を賜った建築主 また,建物内搬入後も細かに「搬入経路図」の作成を をはじめ,関係者の皆さまへ,本誌をお借りし,深くお 行い, 「搬入日・時間」など細部にわたりテナント様と「工 礼を申しあげます。 事に対する共有化」をはかった。(図-7〜9参照) ─ 47 ─ ヒートポンプとその応用 2011. 10. No.82