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社会人基礎力育成 グランプリ2010レポート - Kei-Net
Kawaijuku Report ★ ★ ★ ★ ★ 社会人基礎力育成 グランプリ2010 レポート CONTENTS Ⅰ 社会人基礎力育成グランプリの概要………………P20 Ⅱ 決勝大会での講演よりーー NHKディレクター 吉田照幸氏 「アイデアをカタチにする∼『サラリーマンNEO』 ができるまで∼」……………………………………P22 Ⅲ 受賞校の取り組み…………………………………… P24 流通科学大学、山形大学、京都産業大学、阪南大学 Ⅳ 決勝大会審査委員からのコメント…………………P28 2006年に経済産業省が「社会人基礎力」について定義、発表して以来、大学を中心にその取り組みが広がってい る。河合塾では、経済産業省からの委託を受け、2007年度版『社会人基礎力の育成と評価』 (リファレンスブック) の作成、 「社会人基礎力育成のためのファカルティ・ディベロップメント研修会」 、2007年度・2009年度「社会人 基礎力育成グランプリ」の企画等にかかわっている。 今回は、今年3月に行われた「社会人基礎力育成グランプリ2010」について決勝大会の内容を中心に、各大学の 取り組み、企業や社会が求める社会人基礎力についてレポートする。 Ⅰ 社会人基礎力育成グランプリの概要 社会人基礎力を伸ばす教育手法を考える 社会人基礎力育成グランプリ たのが、第1回の「社会人基礎力育成グランプリ」であ まず、経済産業省による、これまでの社会人基礎力に ムが、これまでの活動内容を発表し、自分たちの成長を 関する事業について振り返っておこう。 近年、ビジネス環境が大きく変化する中、社会で活躍 するためには、学校教育で学んできた基礎学力や専門知 識に加え、新しい価値創出に向けた課題の発見、解決に 向けた実行力、異分野と融合するチームワークなどの能 る。モデル大学に指定された7大学を代表する学生チー アピールした。会場観覧者からの投票をもとに審査員に よって審議された結果、山梨学院大に社会人基礎力大賞、 愛知学泉大に準大賞が贈られた。 社会人基礎力の普及とグランプリの拡大 力が一層求められるようになっている。そこで、同省で 産学連携によるPBLは、社会人基礎力育成の有効な手 は、2006年2月に「職場や地域社会で様々な人と共に仕 法ではあるが、それが全てではない。そこで、2008年度 事をしていくために必要な基礎的な力」として「社会人 は「体系的な社会人基礎力育成・評価システム構築事 基礎力」を定義、発表した。(ガイドライン2010年4・5 業」、2009年度には「体系的な社会人基礎力育成のシス 月号参照) テム開発・実証事業」として、産学連携やPBLに限定せ では、この社会人基礎力をどのように育成するのか。 ず、従来からの知識修得型の科目なども含めて、大学教 同省は、まず、大学教育に注目した。2007年度に、「産 育全般において体系的に社会人基礎力を育成・評価する 学連携による社会人基礎力育成・評価事業」として7大 手法の開発が進められた。 学をモデル大学に指定。企業等から与えられた現実の課 また、社会人基礎力の育成に取り組んでいる大学も、 題に対して、大学で学んだ専門知識を活用してチームで モデル事業に指定された大学ばかりではない。社会人基 解 決 し て い く 、 産 学 連 携 型 の PBL( Project Based 礎力の必要性が認知されるのに伴い、多くの大学で社会 Learning:課題解決型学習)を通じて、社会人基礎力 人基礎力育成の取り組みが導入されてきている。 を育成し、その成長を評価する手法の開発に着手した。 そこで、2009年開催の第2回大会では、参加大学をモ その成果は、リファレンスブック「社会人基礎力の育成 デル大学に限定せず、一般の大学からも広く参加を募っ と評価」にまとめられ、社会人基礎力育成を導入するた た。参加大学の増加に伴って予選大会が実施され、予選 めの指針として、教育機関等で活用されている。 参加 40 大学の中から決勝大会に進出したのは9大学。 この事業の締めくくりとして2008年2月に開催され 20 Guideline July・August 2010 その中から、社会人基礎力大賞に大阪工業大、準大賞に Kawaijuku Report ★ 関西学院大と奈良佐保短大が選ばれた。 ★ ★ ★ 通科学大は、会場観覧者からの評価が最も高い大学に贈 そして、第3回にあたる今大会では、予選大会を東日 られる会場特別賞とのダブル受賞である(図表3)。ト 本予選と西日本予選に分割して開催。両予選会場から勝 ロフィーと賞状を授与された流通科学大の学生は、「プ ち上がった8大学が、東京での決勝大会にコマを進める ロジェクトに取り組んでいる時は無我夢中でしたが、こ こととなった(図表1) 。 のグランプリを通して活動を振り返ってみて、自分が成 流通科学大が社会人基礎力大賞 会場特別賞をダブル受賞 長したことを実感できました。多くの人に支えられてこ 2010年3月15日、決勝大会の会場である有楽町のよ びを語った。 みうりホールに朝早くから集まった観覧者は約500名。 こに立つことができました。すごく嬉しいです」と、喜 (図表2)決勝大会 プログラム 観覧者の内訳は、31%が企業関係者、25%が大学生、 16%が大学教員である。社会人基礎力に対する企業関係 者の関心の高さが表れている。 10:30 開会式 10:40 各大学からの発表(第Ⅰ部) ①愛知学泉大学 管理栄養士に必要なコンピテンシーは社会人基礎力を発 揮して『健康弁当開発』から学べ ②関西学院大学 『明日に架ける橋』PROJECT ③跡見学園女子大学 凛とした仕事の出来る素敵な女性の育成 ∼ゼミにおける年間プロジェクトを通した社会人基礎力育成 ④京都産業大学 万葉集による山城地域の観光振興 12:20 昼休憩 13:50 特別講演・現場で活きる社会人基礎力 「アイデアをカタチにする∼『サラリーマンNEO』ができるまで∼」 講師:NHK 制作局第2制作センター ディレクター 吉田 照幸 氏 15:00 各大学からの発表(第Ⅱ部) ⑤石川県立看護大学 看護大生が行う健康づくりを通じた仲間づくりの再生 ⑥阪南大学 新今宮観光インフォメーションセンターの運営と 国際ゲストハウス地域づくりに向けた社会的実践 ⑦山形大学 学生の学生による学生のための就活支援出版社『プロ ステップ』 ⑧流通科学大学 創立120周年の会社に新しい風を吹き込め! 産学連携弁当開発を通した社会人基礎力の学び 16:50 OBトークセッション「社会人基礎力フル活用!活躍する卒業生」 午前10:30にスタートし、午前、午後それぞれ4大学か ら発表があった(図表2)。各大学の発表は、最初に担 当教員が活動の趣旨やスケジュールなどの概要を説明し た後、学生による活動発表という構成である。これまで 何度もリハーサルを積み重ねてきたであろう各大学の発 表は、持ち時間をしっかり使い切る、完成度の高いもの であった。 大学の発表の間には、NHKの人気深夜番組『サラリ ーマンNEO』のディレクターである吉田照幸氏による 特別講演を実施(次ページ参照)。また、過去の社会人 基礎力育成グランプリに出場し、現在社会人1年生とな った卒業生によるトークセッションでは、学生時代の経 験が、現在どのように生かされているかが紹介され、後 輩たちへのエールが送られた。 審査の結果、社会人基礎力大賞に流通科学大、準大賞 に山形大、京都産業大、阪南大の3大学が選ばれた。流 (図表1)予選大会参加大学(下線は、決勝大会進出大学) 東日本予選大会(2009年12月22日開催) 17:30 グランプリ表彰式 北海道大、山形大、電気通信大、岐阜大、豊橋技術科学大、宮城 大、石川県立看護大、共愛学園前橋国際大、跡見学園女子大、城 西大、千葉工業大、慶應義塾大、多摩美術大、デジタルハリウッド 大、東海大、東京家政学院大、東京富士大、東洋大、明治大、長岡 大、新潟工科大、新潟産業大、金沢工業大、山梨学院大、愛知学 泉大、中京大、名古屋産業大、名古屋商科大 (計28大学) (図表3)決勝大会 審査結果 社会人基礎力 大賞 流通科学大 社会人基礎力 準大賞 山形大、京都産業大、阪南大 会場特別賞 西日本予選大会(2009年12月25日開催) 大阪大、奈良教育大、山口大、香川大、高知大、尾道大、高知工科 愛知学泉大 家政学部 安藤明美 教授 優秀指導賞 大、仁愛大、京都光華女子大、京都産業大、大阪工業大、大阪産 際大、松山大、 日本文理大 (計25大学) 京都産業大 文化学部 小林一彦 教授 阪南大 国際コミュニケーション学部 松村嘉久 教授 業大、大阪商業大、大阪女学院大、関西大、摂南大、相愛大、羽衣 国際大、阪南大、関西学院大、流通科学大、広島経済大、広島国 流通科学大 アクション賞 跡見学園女子大 特別奨励賞 チームワーク賞 関西学院大 アカデミック賞 石川県立看護大 愛知学泉大 Guideline July・August 2010 21 ★ 社会人基礎力育成グランプリ2010レポート 決勝大会での講演より Ⅱ「アイデアをカタチにする∼『サラリーマンNEO』ができるまで∼」 NHKディレクター吉田照幸氏 NHK深夜の人気コント番組「サラリーマンNEO」。そ の生みの親であり、現在も企画・演出を手がける吉田照 幸氏より、番組制作にあたってどうやってアイデアを見 つけ、実践的にカタチにしていくかを、番組制作の経緯 と具体例を交えてお話しいただきました。 自分を基準に考えるのではなく 相手を基準に考える 私は1993年にNHKに入社しました。もともと報道志望 でしたが、エンターテインメント番組の担当になりました。 いました。それから広島局転勤を挟み10年、入局時と何 NHK制作局 第2制作センター (エンターテインメント番組) ディレクター 吉田照幸氏 も変わらないエンターテインメント制作局に嫌気がさして 私自身、NHKの視聴者に対して、番組を通して、与 いました。ちょうどその時、いろいろな制作部のディレク えられるもの、伝えられるものは何かを考える。相手が ターを集めて横断的に番組を制作する「番組開発部」が新 どう感じるかを基準にする。考え方が完全に変わりまし たにできるという話を聞きました。現状を打破するために、 た。当時はクイズ番組が主流でコント番組は「冬の時代」 その部のプロデューサーになる予定の人に直接自分を引き でした。ただ冬になった理由は、放送局側の費用対効果 抜いてくれと売り込み、異動が実現しました。 の問題であり、大学の友人のようにコントを望む視聴者 最初は「のど自慢」を、その後は主に演芸番組を担当して 番組開発部は、企画が通らないと仕事がない部です。 は必ずいると考え、「NHKにはない、NHKでしかでき 最初はなかなか企画が通らず苦しみました。ようやく通 ない」をスローガンに、オリジナリティーあふれるエン った企画は、椅子の番組です。おしゃれな番組が当時好 ターテインメント番組の制作を志しました。その番組が、 きだったので、作りました。試写で部長は「これでいい 「サラリーマンNEO」(以下、NEO)です。 のか」とだけつぶやき、去りました。まあ失敗です。本 NHKの番組の企画書はA4・1枚です。A4・1枚で 来私が希望し所属した部は、「今までにないNHKの番組 自分の考えを人に伝え、納得させるためには、1行で伝 を作る」という役割を担っています。にもかかわらず、 えることが大事です。私は、「個性派俳優がサラリーマ いざ自分好みで番組を作ってしまいました。その後企画 ンを題材にコントをする番組」と書きました。先ほどの が全く通らなくなり、自分はディレクターに向いてない 個性を重んじる人に多いのですが、新しいものを作ろう とまで考えるようになりました。立ち直りのきっかけは、 とすると、そのジャンルそのものを壊そうとする人がい 相談した大学の友人たちの一言です。「NHKには笑いが ます。が、本当に新しい企画は、歌番組、ドラマという ない」元々お笑い番組にそれほど興味はありませんでし ジャンルを壊すのではなく、ジャンルの中でいかに新し たが、その言葉がずっとひっかかっていました。 い企画を作るかということです。 世間では「個性を出す」「オンリーワン」という言葉 初回の番組は深夜に放送されました。「NEO」を見た がよく使われています。私はそういう言葉をあまり好み 人がはじめにとった行動は、チャンネルの確認でした。 ません。こういう人たちの根底には、「自分を知っても 視聴者に新鮮な驚きを与えた結果だと思います。視聴者 らいたい」「自分の能力を示したい」という考えがある の反響は大きかったのですが、社内では、戸惑いという と思います。しかし、見知らぬ人から「私を知ってほし か、あまり評価は良くありませんでした。ここで何もし い」と言われることがどれだけ鬱陶しいか。仕事で求め ないと、リスクをとらない組織ですから、確実に番組は られているのは「私はこれだけのものをあなたに与えら 消えてしまいます。そこでNHKでは初めて、ホームペ れる」と言える人間です。 ージ上で直接感想を募集しました。すると、約300件の 22 Guideline July・August 2010 Kawaijuku Report ★ ★ ★ ★ メールが来ました。中には、「5年間会話の無かった家 食のメニューとともに、そこで働く人自体に関心を呼び 庭に会話が戻りました」というものもあり嬉しかったで ました。番組のタイトルから、パロディーだというスタ す。その感想を全部そのままプリントアウトして、面識 ンスで観始めると、わかりやすい面もあったようです。 もない偉い人に直接手渡しに行きました。 ここで言いたいのは、思いつきとアイデアは違うとい 具体的な言葉は人の心を動かします。読んだ偉い人の うことです。「面白いことを思いついた」と言って人に 何人かが味方になってくれました。これをまとめて報告 話しても、うけないことがあります。その面白さを周り 書にしたら情報となって、それほど深くは伝わらなかっ の人たちにわかるように仕立てて、共有化することがで たでしょう。組織の中で企画を実現させるためには、戦 きていないからです。アイデアの本質は「共有化」です。 うのではなく、どう味方にするかです。これも先ほどお 「どうやって周りの人と共有化できるか」という部分 話しした、人を基準に考えるようになったから、思いつ いた作戦です。 仕事が好きだという気持ちは 従来の決まりごとより優先していい を必死で考えなければいけないのです。 率直に厳しい意見を言ってくれる人は ありがたい存在 「NEO」はエンターテインメント番組のため、エンタ その後、「NEO」をレギュラー番組にするか否かの議 ーテインメントのカメラしか使えないという決まりがあ 論がありました。番組が特殊だっただけに、人のやりく ります。しかし出演者は俳優なので、ドラマのカメラの りも問題になりました。NHKでは、通常、週ごとにディ 方に撮影してもらっています。大河ドラマを撮った翌日 レクターが交代して制作します。この方法だと皆が作り にコントを撮っている状況ですから、技術の方々は当初 やすいフォーマットにするため、エッジがとれてしまう。 不満を持っていました。 そこで、「全部自分でやらせてくれ」と頼みました。た ここで「仕事なんだからやれよ」という態度ではなく、 だ一年は無理なので、半年ごとのシーズン制を申し出ま 僕は、「どんなドラマをやってこられたんですか」と彼 した。これまでのNHKにはなかった編成です。 らに関心を示します。すると「1回やってみるか」とな こういったやり方に対して、「わがままだ」等の批判 る。仕事は一人ではできません。スタッフを動かすこと はあります。しかし、仕事をする上で大切なのは、仕事 は、上から目線ではなく、その人の立場を尊重し、同じ が好きだという気持ちです。のめりこんでしまうほど仕 目線で話をすることが本当に大切です。 事が好きだという気持ちは、従来の決まりごとより優先 「NEO」のシーズン2は評判が悪いです。なぜならそ していいと私は思っています。それで失敗したときに の時私は調子にのっており「自分の能力を見せてやろう」 「それみたことか」と周りから言われるのも自分です。 と思っていたからです。収録時に俳優さんから「できな それを怖れてはいけないと思います。 最近の新入社員は、言われたことは完璧にやります。 い。これは面白くない」と言われました。独りよがりな ものがいかに面白くないかとともに、人が気を付けてい しかし、「調べておいて」と言うと、どこに聞けばいい ないと、すぐに自分を中心に考え出す実例です。そこか かを知りたがり、さらに前の担当者にも聞きに行く。つ ら必死で立て直しを図りました。後に制作局長からも まり、どこまで行ってもガイドラインを知りたがります。 直々に「面白くない」という電話がありましたが、すで これでは新しいものを生み出せません。やり方も含めて に対策済みだったので、次の回の視聴率を3%上げ、 自分で考えないと新しいものは生まれません。 アイデアと思いつきの違い 「NEO」には「世界の社食から」というコーナーがあ 「NEO」は以後も続けることができています。率直にも のを言ってくれる存在が近くにいたため、軌道修正でき たことは本当に大きかった。それがなければこの困難を 乗り越えられなかったと思います。 ります。これもただ社員食堂を紹介するだけでは視聴者 最後に、何のために仕事をするかですが、それは、人 の興味は引けないと考えていたある日、テレビから「世 に喜んでもらえるからだと思います。仕事は人のために 界の車窓から」が流れてきました。この番組は車窓から やらないと意味はないです。そして好きな仕事を見つけ 見える風景とともに、地域に生きる人たちの生活を描い てください。本当に幸運な人は、好きな仕事につけた人 ている長寿番組です。実際、「世界の社食から」も、社 だと思います。 Guideline July・August 2010 23 ★ 社会人基礎力育成グランプリ2010レポート Ⅲ 受賞校の取り組み 1 流通科学大学 弁当のコンセプトは「夫婦仲良く!」 新しい弁当の開発を通した 社会人基礎力の育成 れませんでした」と言 う。ゼミ内は完全に分 ず し 流通科学大学は、サービス産業学部・頭師暢秀ゼミの 裂。だが、その状況を 3年生15名による取り組みを発表した。ゼミではサー 見た先生から「このお ビスマーケティングをテーマに、PBL(Project Based 弁当は、ゼミ員全員の Learning)スタイルの授業を実行。2009年度は姫路の もの。よりよいものを 老舗食品会社と連携して弁当開発に取り組んだ。 作るにはみんなのアイ 開発した弁当『夫婦三昧』 プロジェクトは大きく3つの局面に分かれている。ス デアが必要」というアドバイスを受けた。「企業側の目 テップ1(4∼7月)ではチームごとに企画を競い、コ 的は、良い商品を1つ作るということ。与えられている ンテストを実施。ステップ2(7∼10月)では優勝案を 課題の大きさを改めて感じたときに、内輪揉めしていて ゼミ生全員でさらに練り上げ、ステップ3(11∼12月) も仕方ないという気持ちがあふれ、自分にできることを では阪神百貨店での店頭販売を体験した。 何か1つでも手伝えたらと思うようになった」と学生。 開発した弁当『夫婦三昧』は、「夫婦仲良く!」とい 皆の意識がまとまり始め、それぞれの才能を生かして うコンセプトのもと、2個セットで作られた。おかずは、 役割を分担。コンセプトを熟知している学生は議論の指 交換できるよう偶数個に、掛け紙を合わせると赤い糸が 導を、デザインが得意な学生はパッケージデザインを、 つながり、メッセージカードも入れるなど、パッケージ 食文化に興味を持つ学生は追加調査を担当した。全員が でも工夫を施した。単品価格は630円で、昨年の11月22 課題に携わっているという状況が形成され、週1回の会 日(いい夫婦の日)には2個セット1,122円で販売。メ 議が毎日の会議に変わっていった。 ディアにも取り上げられ、大きな反響を呼んだ。 完成前には連携企業との葛藤も起きた。「私たちは2 課題を一つひとつ解決して弁当を開発 過去最高の売り上げ記録を達成 つで2,200円、2個セットでの販売を考えていたが、『値 ステップ1ではくじ引きにより、5チームが編成された。 ほうがいい』と指摘されました」。当初は、納得できな 段が高くて客層を狭めてしまうし、バラ売りで販売した 授業で習ったブレーンストーミングを実施してみたが、知 かったが、店頭販売体験を経て1個だけを購入する人が 識がないため言葉が出てこない。困った学生たちは本やイ 想像以上に多いことに気付き、自分たちの考えの未熟さ ンターネットで知識を増やし、既存の商品を調べた。流通 を思い知る。通常は「1日30個が売れれば売れ筋」と言 科学入門の講義で学んだSWOT分析やターゲット分析も われるなか、 『夫婦三昧』は320個を売り上げる日もあり、 活用した。社会調査論の講義を思い出して「食品調査の場 阪神百貨店ブース内過去最高の売り上げ記録を出した。 合は定性調査の方がふさわしい」と考え、市場調査も行っ この後、ゼミ生は課題外の「ステップ4」にも挑戦。 た。その結果、何の根拠もなく意見を言い合っていたとき 後輩から「自分たちも何かしたい」と言われ、連携企業 とは異なり、コンセプトやターゲットを明確にする議論が にかけあって、今年1月下旬の西日本一の駅弁大会の商 できるようになった。集まっても沈黙が続くチームでは 品案を請け負った。経験を伝授しながら誕生した弁当 「思ったことはどんなことでも発言しよう」 「どんな意見で 『トライスバーガー』は、『夫婦三昧』にもましてメディ も必ず耳を傾けよう」という約束事を心がけ実行した。企 アに取り上げられ、大きな話題となった。「今年は寅年 画を固めながらプレゼンテーションの練習を行い、中間発 で阪神タイガース75周年であることを意識した。サポ 表を経て、7月の大会に臨んだ。 ートする立場になり、自分たちがこの企画を通していか ステップ2は葛藤から始まった。落選チームの学生は に成長できたかを改めて実感できました」と学生。先生 「悔しいし、どうせ優勝チームがおいしいところを持っ は「弁当を完成させただけでも大成功なのに、自分たち ていくと思っていたから、はじめはサポートする気にな でステップ4まで踏み込んだ」と望外の喜びを語った。 24 Guideline July・August 2010 Kawaijuku Report ★ 2 山形大学 ★ ★ ★ 学生の学生による学生のための 就活支援出版社「プロステップ」 学生の視点による就職支援情報誌を 年4回発行 『就活の風』の特徴と目標 山形大学は、工学部生が作る工学部生のための就職活 動支援情報誌『就活の風』に関する取り組みを発表した。 この取り組みは授業科目「キャリアプランニング」と連 動して行われる「参加型学生活動」の一例で、1単位が 認定される。「キャリアプランニング」では討議ルール や企画立案法、マネジメント法、課題発見法などの基本 手法を学び、「参加型学生活動」と組み合わせることで、 「私は年上の方と話す際には、緊張のあまり頭の中が 職業観の形成と社会人基礎力の育成を目的としている。 真っ白になってしまうことがあり、最初にアポイントメ 『就活の風』の発行は年4回。社会人である卒業生へ ントをとった時には『何が言いたいのかわからない』と の取材や就職活動時の交通費を安く抑える方法など、市 言われたこともありました。しかし、今では、初めての 販の本では得られないきめ細かな情報を提供し、多くの 企業の方でも、緊張こそしますが、怖れることなく意見 学生の支持を得ている。 のやりとりができるようになりました」と学生の1人は 「就職活動のストレス解消法を紹介するページもあり 言う。 ます。記事は、学生がすぐに行動に移せるよう、主に大 制作では学生の目を引くためのアイキャッチを最重 学周辺のお店などを取り上げています。お店の方から 視。文章をかみ砕いてシンプルな言葉で伝えることを心 『学生客が増えた』との声を聞くこともあり、私たちの がけるとともに、表紙のモデルに学内で話題の女子学生 活動がいつの間にか地域貢献にもつながっていました」 と学生。指導した志村先生は「企画、取材、編集はもち を起用するなど、気軽に読める工夫を凝らしている。 メンバー全員に「自分の社会人基礎力がどう伸びたか」 ろん、レイアウトやデザインもすべて学生が行い、印刷 というアンケート調査を行ったところ、当初は「前に踏 会社にはデータを渡すだけという本格的なものを作って み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3項目と いる。従って、出版社のマネジメントで必要になる、価 も10段階で3∼4ポイントしかなかったが、11月には 値創造やコスト・納期の管理、組織をいかに機能させる 7∼8ポイントに倍増していた。相手の目を見て話すこ かという課題を乗り越える必要があった」と説明する。 とすらできなかった学生が、半年後には、企画のリーダ 就職に対する不安が消えた 『就活の風』は企画・取材・制作・発行の4つの工程 で作られており、各工程では授業で学んだプロジェクト ーとしてチームをまとめるまで成長したという。 さらに一連の作業を通して、企画力や討議法、論理的 思考力、課題発見・解決法、交渉力、文章力、デザイン ソフトを使いこなすスキルも身に付いた。 マネジメント法が用いられている。企画段階ではコンペ 「これらは年間の研究計画を立てる際や、共同研究先 を開催し、学生のニーズに合っていると認められたもの の企業との打ち合わせでも大いに役立っています。また、 が勝ち残る。「最初の頃は毎週1回8時間にわたる全体 以前の私は自信も誇れるものもなく、このまま社会人に 会議を繰り返し、学生生活に支障が出始めていた」が、 なって大丈夫かという不安を抱えていましたが、今では 講義で学んだ課題発見・解決法を活用して議論した結 どんな職場でもやっていけると確信しています。この活 果、目的ごとに小グループ化し全体会と機能を分けるこ 動を通して、自分には足りない多くの力に気付くことが とで、会議時間を短縮した。取材の前にはさまざまな場 でき、逃げずに立ち向かう覚悟ができたからだと思いま 面を想定したロールプレイングを行い、「話が脱線した す」と学生。『就括の風』は後輩たちの手で今年度も発 ら誰がどう切り返すか」という準備もした。 行する予定だ。 Guideline July・August 2010 25 ★ 社会人基礎力育成グランプリ2010レポート 3 京都産業大学 万葉集による山城地域の観光振興 り組むプロの 正規の授業との関わり 学生の視点でリーフレットを作成 意識を肌で感 京都産業大学は、文化学部・小林一彦先生の3年次ゼ じ取り、甘か ミ生7人(うち1人は中国人留学生)による取り組みで った自分たち ある。日本古典文学を研究するゼミで、昨年は「目に見 の姿勢を反 えない新たな観光資源として古典の価値を発見・発信す 省。そして、 る」をテーマに京都府山城広域振興局と連携し、「万葉 フィールドワ 集による山城地域の観光振興」という課題に取り組んだ。 ークを続ける 山城は京都と奈良を結ぶ広大な地域で、8世紀には恭 中で発見した「珍しいマンホール」や「ここから見る夕 仁京という都が置かれたこともあったが、現在は集客力 日の素晴らしさ」等も地図付きでリーフレットに載せ、 のある観光資源はない。しかし2010年は平城遷都1300 写真もすべて自分たちで撮影した。 年、万葉集1250年の記念の年にあたる。ゼミ生は地域 一番悩んだのは万葉集の解釈である。A2版のリーフ に関係のある万葉集の和歌15首を取り上げながら、歌 レットの一面には地域にゆかりのある万葉集の和歌 15 碑や史跡めぐりを楽しめるリーフレットを作成し、山城 首を載せることになったが、それらをどう現代の言葉で 地域の魅力を自分たちの言葉で発信した。 説明するか。「先生からは『知識のなさに怯えるな。何 小林先生は「正直に言って、今年のゼミ生は人数も少 度も山城に出かけた強みを生かせ』と言われた。山城は なく、消極的でおとなしい印象だった。また、皆が仲良 昔の風景がそのまま残っているし、私たちは歌が詠まれ くなれるようにと毎年行っている5月のゼミ合宿も、新 た場所に何度も出かけていたので、万葉人が見たままの 型インフルエンザの蔓延で大学活動がすべて中止にな 美しい情景が伝わるような解釈を考え抜きました。鴨長 り、チームが打ち解け始める時期も遅くなってしまった。 明の和歌を解釈する『日本文学論A』で徹底的にしごか そのため当初はかなり心配していました」と説明する。 れた経験がここで生きたと思う」と学生。 初めて府庁を訪問した6月の時点では、担当者から 9月にはリーフレット原稿の締め切りが2週間早まる 「学生たちが無反応で困る。せめて3秒以内に意思表示 という予想外の事態も起きたが、なんとか原稿を完成さ してほしい」と苦情が入り、先生は頭を抱えていた。府 せた。10月に完成したリーフレットの反響は大きく、テ 庁でどんな話をしてきたかという報告すら先生に入ら レビや新聞でも続々と取り上げられた。地元の人は「京 ず、「チームで仕事を進めるときは報告と情報共有が何 都産業大学の学生が紹介した万葉集ゆかりの場所」とい よりも大事だ」と学生を指導することになった。 う立て札を現地に立ててくれ、振興局には東京などから 一番悩んだのは、万葉集の解釈 もともと古典を学ぼうとする意欲や観光への興味が高 かった学生たちは反省し、リーフレットの作成のため、 「まとめて数十部送ってほしい」という依頼が入った。 印刷された5千部はすぐになくなり、1万部の増刷が決 定。翌年5月には地元民が集う地域のホールで山城の魅 力を講演した。 まずはエクセルで万葉集のデータベースを作った。春学 「万葉集という古典を使って、社会で役立つ力が身に 期のテストと重なり辛い時期だったが、手分けして山城 付くとは思ってもみなかった。皆で力を合わせて1つの に関係のある100首を打ち込んで分析し、次に山城地域 ものを作り上げ、地域のために働くことが、すがすがし でのフィールドワークを行った。最初は「清水寺も金閣 く楽しいものだということも知りました。どうぞ皆さん 寺もないただの田舎で、どうアピールすればいいのかわ も一度、私たちが恋した山城に足を運んでみてください」 からず、絶望した」が、京都府山城広域振興局の人たち という学生の言葉で発表は締めくくられた。 との合同フィールドワークを経て、地域振興に本気で取 26 Guideline July・August 2010 Kawaijuku Report ★ 4 阪南大学 ★ ★ ★ 新今宮観光インフォメーションセンターの運営と 国際ゲストハウス地域づくりに向けた社会的実践 ドヤ街での学生たちの挑戦 ゼミ生が抱えた課題の1つに、単位認定されないこの ボランティア活動に周囲をいかにして巻き込むか、があ 阪南大学国際観光学部国際観光学科の松村嘉久ゼミ る。「ゼミ生だけでは人数が足りないので、口コミ、大 は、「現場共育」という方針のもと、日本最大のドヤ街 学ホームページでの告知に加えて、1・2年生の観光学 であるあいりん地区を含む大阪・新今宮地域の街づくり の授業でも呼びかけてスタッフを集めました」と学生。 に関わってきた。2005年に設立された「大阪国際ゲスト 松村先生は「厳しい地域やけど、君たちにしかできない ハウス地域創出委員会(OIG) 」と協働し、まずは「外国 ことがあるはずや」とハッパをかけ続けた。 人個人旅行者(foreign individual tourists : FIT)の誘致」 に取り組んだ。この試みは大きな成果をあげ、活動は 「FITの存在を活かした街づくり」の段階に移行した。 最大の課題は継続的な体制作り ゼミ生はさらに「平常授業時は土日しか運営できない」 2008年末、 「観光インフォメーションセンター(tourist という制約を補完するために、新今宮TICを着地型観光(*) information center : TIC)を開設したい」という相談を の拠点と位置づけ、「大阪の『ありふれた日常』を体感 受けた松村ゼミは、2009年1∼2月の試験運営を経て、 する。大阪の『ささやかな非日常』を魅せる」をコンセ 7月より新今宮TICの常設運営をスタート。ホテル中央 プトに、街歩きツアーを企画した。ゼミでは関西圏で大 グループが場所を提供、運営は学生のボランティアで行 阪観光が生き残る道を模索していたことから、「サンダ う民設学営でのスタートだ。ゼミ生たちは試行錯誤しな ル履きで気軽に出かけるコミュニティツーリズム」に着 がら、ハードもソフトもゼロから作り上げてきた。 目し、候補地の下見や参加者の募集、当日の英語による 試験運営時に「関西圏の観光地についての知識のなさ」 案内まですべてを学生たちで手がけ、全6回のツアーを を実感したゼミ生は、4月末に関西圏観光地のフィール 実施。欧米やアジアのFIT計78名が参加した。「当初は ドワークを行い、成果をホームページで公開してTICで 案内の原稿を棒読みするなど反省続きでしたが、回を重 の案内に活用。このフィールドワークでは日本語がわか ねるごとに役割分担など体制が整いました。なかでもだ らない外国人の目線で観光地までの行き方を調べるとと んじり祭りを見学したツアーは、地元の方々からも大歓 もに、各地の観光案内所を訪れ、資料提供などの連携も 迎され、皆の記憶に残る良いものになりました」と学生。 要請した。 今年の2月からは「新今宮地域情報サイト」を立ち上 新今宮TICは、平常授業時は土日のみ、長期休暇中は げる活動が本格的に始まった。最大の課題である「継続 毎日9時から16時までオープンしている。活動内容は、 的に運営できる体制作り」に向けて、2月にはボランテ 大きく、①観光情報の提供と旅の相談、②FIT向け街歩 ィアスタッフ養成講座も開講した。対象は阪南大学1年 きツアーの企画・実施、③国際観光に関する調査研究活 生とゼミ新入生で、2泊3日の合宿を実施し、50名以上 動とまちづくりに関する社会的実践 ――の3つに分かれ の参加者が集まった。 る。2009年はのべ120日間の運営で、1,350件2,347名の 「開設当初にスタッフが毎日入れ替わるシフトを組ん 利用があり だところ、先生から『アホか。毎日新装開店やないか』 (うち8割は と指摘され、コアスタッフを作るという発想が生まれま 50数カ国にわ した。現在は1日6人体制で進めています。養成講座の たる外国人)、 成功で、継続的な体制作りに希望の光が差しました」 関わった学生 利用するFITも、地域のゲストハウスや商店も喜び、 ボランティア ボランティア学生も充実感と実践的な学びが得られる新 は 100 名にの 今宮TICの活動は、持続的な産学連携の理想モデルの1 ぼった。 つだと言える。 (※)着地型観光―目的地でツアーが組まれ、目的地で参加者を募り集める観光の形。その目的地をよく知る者がプロデュースすることが多いため,地元な らではの企画が盛り込まれ,地元住民とのふれあいを楽しめることもある。 Guideline July・August 2010 27 ★ 社会人基礎力育成グランプリ2010レポート Ⅳ 決勝大会審査委員からのコメント 決勝大会の審査は、一般観覧者によ る投票と、10名の審査委員によって行 われた。審査委員は、企業等の代表や 人事担当者である。 今回は、2名の審査委員に、グラン プリ決勝大会への参加、審査を終えて の感想に加えて、企業の現場から見た 大学における社会人基礎力の育成につ いて伺った。 社会人基礎力育成グランプリ2010決勝大会審査委員 氏名 所属 諏訪 康雄 氏(審査委員長) 法政大学大学院 政策創造研究科教授 羽根 拓也 氏 (株) アクティブラーニング 代表取締役社長 吉田 照幸 氏 NHK 制作局第2制作センター ディレクター 今村 久美 氏 特定非営利活動法人NPOカタリバ 代表理事 森辺 一樹 氏 ストラテジック・デシジョン・イニシアティブ (株)代表取締役 津加 宏 氏 住友金属工業(株)人事労政部次長 中島 啓介 氏 全日本空輸(株)人事部担当部長兼ANA人財大学事務局長 畑野 吉雄 氏 (株)中央電機計器製作所 代表取締役社長 守田 正樹 氏 (株) 日本経済新聞社 特別企画室担当室次長 小本 洋 氏 パナソニック (株)グループ採用センター所長 (社名五十音順、 所属・役職はグランプリ決勝大会当時のもの) 学生たちが機会を与えられることで こんなにも成長できるのかと感動 今回初めて社会人基礎力育成グランプリに審査員とし 株式会社 中央電機計器製作所 代表取締役 畑野 吉雄 氏 が当日は緊張していたかもしれません。 て参加、また予選大会で講演もさせていただき、日頃大 今回グランプリに参加している大学生たちは素晴らし 学生を教える立場と雇用する立場で関わっていた時とは い視点で物事を捉える経験をし、この中から社会との関 全く違う視点で大学生を見ることができ、非常に勉強に わり、協同、自己発信、ネットワーク等多くを学んでい なりました。 ることに感心しました。学生たちが機会を与えられるこ 6大学の客員講師で、大学生とはよく向き合っていま とでこんなにも成長できるのかと、改めて今の大学生も すが、「こんな大学生たちでいいのだろうか」「社会人教 なかなか捨てたものではないと感動し、これからの日本 育をもっとしなければ」と思うところが多かったのです。 を背負う若者の存在を身近に感じ、安心もしました。こ 今の大学生は社会常識がないとか、人との関わりが非常 んな機会は今後もどんどん重ねていただきたいもので に下手だとか思っていましたから、「大学生のプレゼン す。全国の大学が参加され、大いに社会に役立つ大学生 テーションに審査員としてどんな評価ができるか」「他 を輩出していただくことを願ってやみません。 の審査員との間で極端な差が出ないか」など、私のほう 試練を体験させてくれる大学、 先生の存在が強く求められている 株式会社 日本経済新聞社 特別企画室次長 守田 正樹 氏 「入社してきた学生が戦力になるまで時間がかかって それらを乗り越え、参加した学生の社会人基礎力が大き …」企業の幹部がこぼすのを何度も聞いたことがありま く伸びたことは、会場からの割れんばかりの拍手と、学生 す。例えば、仕事で予期せぬ問題にぶち当たったとき。 や先生方の笑顔と涙が証明しています。 あるいは、立場や能力が違う人たちと、ひとつの目標に 行く先を指し示す海図もなく、苦労と喜びをともにす 向かうことになったとき。思考や行動をぴたっと止めて、 る仲間もいなければ、航海はさぞつらいものになるでし 誰かの指図を待ちはじめる人が多いのだといいます。 ょう。もしかしたら、学生たちの多くはそんな気持ちの しかし、東西の予選大会、決勝大会で各大学の発表を聞 まま就職活動を終え、社会に出ていっているのかもしれ いた今、こうした幹部には「日本の学生も変わりはじめま ません。だからこそ、学生のうちに試練を体験させてく したよ」と伝えたいと思います。取り組んだテーマは千差 れる大学、乗り越え方を示してくれる先生の存在が強く 万別ですが、どのチームにもドラマが訪れます。計画の立 求められているのではないでしょうか。そしてそうした 案がまとまらなかったり、地域や企業のサポートを得られ 大学を高校生のうちに、一人ひとりが見つけ出すことが なかったり、チームの人間関係がうまくいかなかったり…。 できるなら……日本の未来はきっとばら色だと信じます。 28 Guideline July・August 2010